第1 回 - 石油エネルギー技術センター

JPEC 海外石油情報（ミニレポート）
平成 23 年 3 月 3 日
ミニレポート 2010-034
米国の水素・燃料電池事情（第 1 回）
～フォークリフト等での水素燃料電池の利用～
米国エネルギー省(DOE)は水素エネルギーの導入支援として米国再生・再投資法による助
成をおこなっており、水素燃料電池車(FCV）等に対する長期的な普及目標に加えて、短・
中期的な普及を目指して燃料電池フォークリフトやバックアップ電源等の展開をバックア
ップしている。
このような状況の中で、最近、米国内で工場や物流拠点内で使用されているフォークリ
フト等（注１）に対し、従来の鉛蓄電池に替えて燃料電池を搭載したものを導入する企業が目
立つようになってきた。
フォークリフト等に燃料電池を搭載する主な利点は運転・保守のコスト削減である。例
えば、鉛蓄電池の代わりに水素燃料電池を搭載した場合、DOE からの助成を考慮しなくて
も以下のような利点がある。
① フォークリフト等に搭載した鉛蓄電池を充電済みのものと交換するには 20 分ほど
かかるが、水素燃料電池フォークリフト等の水素の補給は数分ですむ。
② 水素の残量が少なくなっても出力が一定であることから、作業効率が大きく改善さ
れ、運転コストが削減できる。
③ 鉛蓄電池の購入、保管および処分が不要であることから保守コストが削減できる。
特にフォークリフトの場合では運転・保守コストの削減が大きな意味を持つ。
従来のフォークリフトは初期投資は全コストの１～2 割程度で、大部分は運転・保守のコ
ストといわれているが、水素燃料電池システムの搭載、水素供給設備の設置のコストアッ
プ分は運転・保守のコストの削減でかなり相殺されるとして燃料電池フォークリフト等を
大量導入する企業が出てきた。
（注１）
フォークリフト等とは、カウンタバランスフォークリフト、リーチフォークリフトおよびローリフ
トのことである。カウンタバランスフォークリフトはフォーク（ツメ）およびマスト（支柱）を車体前
方に備え、後方にバランスウェイトと運転座席がある最も一般的なフォークリフトである。リーチフォ
ークリフトはフォークを前後に動かせるもので立ち乗りである。ローリフトはパレット単位の荷物を水
平搬送するもので、米国では立ち乗りが一般的のようである。
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参考
http://www.7ms.com/fct/online/2008/01/ati01.shtml
http://www.ltmservices1.com/Publications/Warehouse_Logistics.pdf
現在、
米国で 50 台以上の燃料電池フォークリフト等を導入している事業所は 6 ヵ所であ
り、いずれも食品関連の大型配送センターである。
これに関連して、以下の状況について紹介する。
(1) 燃料電池フォークリフト導入会社、
(2) 燃料電池フォークリフト製造会社、
(3) 水素燃料電池のシステム、及び、燃料電池の製造販売会社
(4) 水素供給会社
（１）燃料電池フォークリフト等を大量導入している企業
食品卸会社 Central Grocers、同 Sysco、食品卸・小売販売会社 United Natural Foods、
食品スーパーWegmans Food Markets および同 Whole Foods Market が、自社の配送セン
ターで水素燃料電池を搭載したフォークリフト等を大量に使用している。
表 1. 米国における水素燃料電池フォークリフト等の大量導入の例
導入開始年
会社名
配送センターの所在
総数
Central Grocers
イリノイ州
219
2009
Sysco Houston*
テキサス州
98
2010
Sysco Food Service of Philadelphia*
ペンシルベニア州
95
2010
United Natural Foods
フロリダ州
65
2010
Wegmans Food Markets*
ペンシルベニア州
136
2009
Whole Foods Market*
メリーランド州
61
2009
＊）米国再生・再投資法に基づき DOE が助成
① Central Grocers
ミシガン湖南岸地域の食料品小売会社 200 社以上が参加する会員制の食料品卸会社
で、イリノイ州ジョリエットを本拠地とする。
② Sysco
レストラン、医療・教育施設など約 40 万の取引先を持つ食料品卸会社で、テキサス
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州ヒューストンを本拠地とする。北米に 180 ヵ所の配送センターがある。
③ United Natural Foods
自然食品、高級食品等の卸会社で、コネチカット州デイビルを本拠地とする。北米
に 28 ヵ所の配送センターがある。
④ Wegmans Food Markets
スーパーマーケットの運営会社で、ニューヨーク州ロチェスターを本拠地とする。
ニューヨーク州、ペンシルベニア州、ニュージャージー州およびバージニア州で約
80 のスーパーマーケットを展開している。
⑤ Whole Foods Market
スーパーマーケットの運営会社で、テキサス州オースチンを本拠地とする。北米お
よび英国で自然食品を販売する約 300 のスーパーマーケットを展開している。米国
に 3 ヵ所の配送センターがある。
DOE から助成を受けている配送センターもあり、上記 6 ヵ所の配送センターうち 4 ヵ
所は、米国再生・再投資法（2009 年 2 月成立）に基づく助成を受けている。なお、Sysco
Philadelphia、Wegmans Food Markets および Whole Foods Market への助成は、サード
パーティー・ロジスティクス（3PL）事業者である Genco Supply Chain Solutions が申
請・受領している。3PL 社は、荷主企業の流通機能全体を一括して請け負うアウトソー
シングサービス会社である。
表 2. 米国再生・再投資法に基づく DOE の助成
会社名
助成額（ドル）
Sysco Houston
1,201,918
Genco Supply Chain Solutions
6,060,416
参考
http://www.forkliftaction.com/news/newsdisplay.aspx?nwid=6934
http://www.hydrogen.energy.gov/pdfs/review10/arrah2010_kliever_2010_o_web.
pdf
http://www.hydrogen.energy.gov/pdfs/review10/arrah2011_klingler_2010_o_web
.pdf
http://www.airproducts.com/PressRoom/CompanyNews/Current/AreaOfInterest/Ma
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rkets/HydrogenEnergy/28Apr2010.htm
（２）フォークリフト等の製造販売会社
上記の 6 ヵ所の配送センターに導入された水素燃料電池フォークリフト等は Crown
Equipment、Raymond および Yale Materials Handling が製造販売したのである。
表 3．水素燃料電池フォークリフト等の製造販売会社
納入先
製造販売会社
Central Grocers
Yale Materials Handling
Sysco Houston
Raymond
Sysco Food Service of Philadelphia
公表されていない
United Natural Foods
Raymond
Wegmans Food Markets
Crown Equipment
Whole Foods Market
Crown Equipment
① Crown Equipment
米国のフォークリフト会社で、オハイオ州ニューブレーメンを本拠地とする。非営
利の研究開発機関 Concurrent Technologies（本拠地：ペンシルベニア州ジョンズ
タウン）が 2008 年から 2 年間、国防総省国防兵站局のプロジェクトとして、ジョー
ジア州にあるロビンス空軍基地の配送施設で同社製のフォークリフトに燃料電池を
搭載して実証試験を行なっている。
② Raymond
豊田自動織機の 100%保有子会社で、ニューヨーク州ニューヨークを本拠地とする。
同社は 2007 年から 2 年間、同州エネルギー研究開発局のプロジェクトとして、ニュ
ーヨーク州の自社工場内で水素燃料電池フォークリフトの実証試験を行なっている。
なお、豊田自動織機は別途、トヨタ自動車と共同で開発した燃料電池システムを搭
載したフォークリフトを開発している。
③ Yale Materials Handling
米国の NACCO Industries（本拠地：オハイオ州クリーブランド）のフォークリフト部
門の子会社 NACCO Materials Handling Group（本拠地：オレゴン州ポートランド）の子
会社。
同社の燃料電池フォークリフトへ取組みはインターネットでは公表されていない。
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参考
http://www.forkliftaction.com/newsletter/archive/0371.htm#n5926
http://www.impomag.com/scripts/ShowPR.asp?RID=9531&CommonCount=0
http://www.toyota-shokki.co.jp/ir/library/annual/2008/tir/full.pdf
（３）燃料電池システムおよび燃料電池の製造販売会社
上記で紹介した 3 社で製造されるフォークリフト等に搭載された燃料電池システムは、
全て Plug Power（本拠地：ニューヨーク州レーサム）製のもので、いずれも Ballard Power
Systems（本拠地：カナダ・ブリティッシュコロンビア州バーナビー）の燃料電池が組み
込まれている。
Ballard Power Systems は 2007 年に Plug Power と、フォークリフト等に使用する燃
料電池を独占供給する契約を締結し、
その後の契約更新によって 2014 年まで同契約を延
長している。
参考
http://www.sustainablebusiness.com/index.cfm/go/news.display/id/12994
http://www.prnewswire.com/news-releases/plug-power-and-ballard-extend-supp
ly-agreement-through-2014-98530349.html
（４）水素供給会社
燃料となる水素については、産業ガス会社 Air Products & Chemicals および Linde
North America が 6 ヵ所の配送センターに水素を供給している。
表 4. 配送センターへの水素の供給
納入先
Central Grocers
Sysco Houston
Sysco Food Service of Philadelphia
United Natural Foods
Wegmans Food Markets
Whole Foods Market
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水素供給会社
Air Products & Chemicals
Air Products & Chemicals
Linde North America
Air Products & Chemicals
Air Products & Chemicals
Linde North America
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① Air Products & Chemicals
2010 年売上高で世界 4 位（北米 2 位（注３）)の産業ガス会社で、ペンシルベニア州アレ
ンタウンを本拠地とする。水素、ヘリウムガス等を販売している。
② Linde North America
売上高で世界 2 位のドイツの産業ガス会社 Linde AG（本拠地：ミュンヘン）の米国子
会社で、ニュージャージー州ニュープロビデンスを本拠地とする。主に水素の製造販
売を行なっている。
（５）まとめ
米国では食品関連の大手企業（Sysco 等）の大型配送センターで、水素燃料電池フォー
クリフト等の本格的な使用が始まっている。
導入された水素燃料電池フォークリフト等は、Crown Equipment、Raymond（豊田自動織
機の子会社）および Yale Materials Handling（NACCO Industries の子会社）が製造販売
したものである。また、このフォークリフト等に搭載された燃料電池システムは全て Plug
Power 製のものであり、同システムに組み込まれた燃料電池は全て Ballard Power Systems
製のものである。水素は Air Products & Chemicals および Linde North America（Linde AG
の子会社）が配送センターに輸送している。
米国の食品関連業界の水素燃料電池フォークリフト等の導入は、必要な量の水素が安定
供給されるとの判断が背後にあると思われる。同国の食品関連の大型配送センターの多く
は 24 時間操業しており水素の供給に少しでも不安があれば水素燃料電池を本格的に導入
することはないからである。
次回のレポートで米国の水素製造供給事業について報告する。
（YY）
本資料は、
（財）石油産業活性化センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析したものです。
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願いします。
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（注３）
売上高世界 1 位はフランスの Air Liquide（本拠地：パリ）
、世界 3 位（北米 1 位）は米国の Praxair
（本拠地：コネチカット州ダンバリー）である。
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