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ミクロな 4 端子プローブによる表面電気伝導の測定 - J

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ミクロな 4 端子プローブによる表面電気伝導の測定 - J
表面科学 Vol. 23, No. 12, pp. 740―752, 2002
解 説
研究紹介
ミクロな 4 端子プローブによる表面電気伝導の測定
長谷川修司・白木一郎・田邊輔仁・保原
金川泰三・谷川雄洋・松田
麗
巌・Christian L. PETERSEN*
Torben M. HANSSEN**・Peter BOGGILD**・Francois GREY**
東京大学大学院理学系研究科物理学教室 ! 113―0033 東京都文京区本郷 7―3―1
*
Capres A/S, DTU Bldg.404 east, DK-2800, Lyngby, Denmark
**
デンマーク工科大学マイクロエレクトロニクスセンター DTU Bldg.345 east, DK-2800, Lyngby, Denmark
(2002 年 3 月 7 日受理)
Measurements of Surface Electrical Conductance by Microscopic Four-Point Probes
Shuji HASEGAWA, Ichiro SHIRAKI, Fuhito TANABE, Rei HOBARA,
Taizo KANAGAWA, Takehiro TANIKAWA, Iwao MATSUDA, Christian L. PETERSEN*
Torben M. HANSSEN**, Peter BOGGILD** and Francois GREY**
Department of Physics, University of Tokyo, 7―3―1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113―0033
*
Capres A/S, DTU Bldg.404 east, DK-2800, Lyngby, Denmark
**
Microelectronics Center, Denmark Technical University, Bldg.345 east, DK-2800, Lyngby, Denmark
(Received March 7, 2002)
For in-situ measurements of local electrical conductivity of well-defined crystal surfaces in ultrahigh vacuum, we
have developed two kinds of microscopic four-point probe methods. One is a ‘four-tip STM prober’, in which independently driven four tips of scanning tunneling microscope(STM)are used for four-point probe conductivity measurements, whose probe spacing can be changed from 0.5 µm to 1 mm. The other one is monolithic micro-four-point
probes, fabricated on silicon chips, whose probe spacing is fixed around several µm. These probes are installed in
scanning-electron-microscopy/electron-diffraction chambers, in which the structures of sample surfaces and probe positions are in situ observed. The probe can be positioned precisely on aimed areas on the sample with aid of piezoactuators. With these machines, the surface sensitivity in conductivity measurements has been greatly enhanced compared with macroscopic four-point probe method. Then surface-state conductivity and influence of atomic steps upon
conductivity can be directly measured.
1.は
じ
め
消されてしまい,あるいは表面原子ステップなどの欠陥
に
によって容易に乱されてしまうため,意味のあるデータ
結晶表面の最上層には内部と異なる電子状態が形成さ
を得るのが難しいためであった。しかし,この最表面の
れており,光電子分光法などによってよく研究されてい
1,2 原子層を通る電気伝導の測定は,原子レベル・ナ
る。しかし,その「表面電子状態」
を通る電気伝導 surface-
ノメータスケール極微構造体における電子輸送現象の研
state conductivity(表面状態伝導)については,あまり
究に極めて重要な意義を持つので,最近急速に注目され
研究が進展していないのが現状である1)。それは,下地
始めている。そこで,そのような研究のために有効なツ
結晶のバルク伝導の方がはるかに大きいので容易にかき
ールとなりうるミクロスコピック 4 端子プローブ法を開
発しているので紹介する2∼5)。
巨視的な間隔をおいて 2 本のリード線を半導体結晶に
E-mail: [email protected]
6
長谷川修司・白木一郎・田邊輔仁・保原 麗・金川泰三・谷川雄洋・松田 巌・Christian L. PETERSEN・Torben M. HANSSEN・Peter BOGGILD・Francois GREY
741
るからである。
つなぎ(たとえば Fig. 1(a)に示す巨視的 4 端子プロ
そこで,プローブ間隔を小さくして,空間電荷層の厚
ーブ法における外側 2 本の端子のように)
,その間に電
圧を印加すると電流 I が試料に流し込まれる。このとき,
さ程度かそれ以下にすれば,Fig. 1(b)に示すように,
Fig. 1(a)の内側 2 本のプローブで電圧降下 V を測定
測定電流のほとんどが試料表面近傍を流れるようになる
すると,4 端子プローブ測定法による抵抗値 R =V/ I が
ので,巨視的な 4 端子法(Fig. 1(a)
)に比べ,このマ
得られる(正確には,これに試料の形状やプローブ配置
イクロ 4 端子プローブ法は表面に対する感度の高い電気
に依存する補正因子を乗ずる)
。この方法では,プロー
抵抗の測定になると考えられる。もちろん,実際の電流
ブと試料との接触がオーミックであるかショットキー接
分布は,Fig. 1 に示すように単純ではないだろ。しかし,
触であるかにかかわらず,その接触抵抗の影響を排除で
Fig. 1 に描いた素朴な期待が定性的には正しいことが,
き,試料だけの電気抵抗を測定できることになる。
これから述べる実験結果によって明らかになってきた。
このとき,Fig. 1 に示すように,試料が半導体結晶の
もちろん,プローブをミクロ化すれば表面感度の向上だ
場合,3 つの電流通路が考えられる6):(1)最上層の表
けでなく,局所的な伝導度の測定も可能となり,種々の
面電子状態(表面超構造が形成されている場合)
,(2)
欠陥を避けて測定したり,逆に故意に欠陥部分の伝導を
表面空間電荷層でのバルク電子バンド(表面直下でバン
測定したりすることも可能となる。また,プローブを表
ドが湾曲している場合,キャリア濃度が結晶内部と異な
面平行に走査し,伝導度の 2 次元マッピングを行うこと
る)
,(3)十分に結晶内部のバルク電子バンド(表面構
もできる7)。ここでは,私たちが最近開発している 2 種
造や表面処理に依らない)
。4 端子プローブ法で測定し
類のミクロな 4 端子プローブ法を紹介する。
た抵抗値には,これら 3 つのチャンネルの寄与がすべて
2.独立駆動 4 ティップ STM プローバ
含まれており,一般には,それぞれの寄与を分離するこ
とは難しい。しかし,たとえば,大気中での測定では,
2. 1
装置
試料表面は汚染されており,表面超構造が形成されてい
Fig. 2 に,独立駆動 4 ティップ STM プローバの 4 探
ない場合が多いので,測定データはバルク結晶の抵抗値
針を駆動しているときの走査電子顕微鏡(SEM)像を
と解釈するのが普通である。しかし,何かの理由でバル
示す4)。(a)ではプローブ間隔が 1 mm 程度だが,それ
ク状態のバンドが表面直下で湾曲してキャリア蓄積層が
ぞれのプローブを近づけて(b)
(
― d)では 1 µm 程度の
できていたり,あるいは,超高真空中で試料結晶上に表
間隔になっている。この装置では,それぞれの探針で独
面超構造が形成されて伝導性の高い表面電子状態が存在
立に STM 動作が可能で,同時にプローブ間隔と配置を
したりすると,表面空間電荷層や表面電子状態の伝導度
任意に変えて,4 端子プローブ法による電気伝導度の測
を無視するわけにはいかない。しかしながら,そのよう
定も可能となっている。4 端子プローブ測定のときもそ
な状況でさえ,表面層の伝導度の寄与は極めて小さいと
れぞれの探針は,トンネル電流によってアプローチ制御
考えられてきた。なぜなら,Fig. 1(a)に模式的に示し
を 4 本同時に行っている。4 本の探針をトンネル状態で
たように,巨視的なプローブ間隔の 4 端子測定法では,
試料表面に接触させた後,さらに既定の距離だけ探針を
測定電流のほとんどがバルク結晶内部を流れることにな
試料表面に向かって前進させ,直接接触状態にして 4 端
Fig. 1
(a) Macro- and (b) micro-four-point probe method to measure electrical
conductance. The distribution of current flowing through a semiconductor specimen is also schematically drawn.
7
表面科学 第 23 巻 第 12 号 (2002)
742
子プローブ測定を行っている。このとき,プリアンプは,
トンネル電流測定モードから 4 端子測定モードにすばや
く切り替えられる。
Fig. 3 に試料まわりのゴニオメータステージの写真
を,Fig. 4 には装置全体の模式図を示す。試料ステージ
上には試料を取り巻くように 4 つの探針およびそれらの
粗動・微動機構が配置されている。このステージは,超
高真空走査電子顕微鏡用ゴニオメータ上に設置されてお
り,このステージ全体を 3 方向への並進および 1 軸回転
させることができる。中心に位置する試料はステージに
対して 360°
の方位角回転が可能である。これらの駆動
機構によって,SEM 電子ビームに対するチルト角と方
位角を任意に設定でき,試料表面の斜入射 SEM 観察だ
けでなく,反射高速電子回折(RHEED)および走査型
反射電子顕微鏡(SREM)観察が可能となっている。こ
れによって,4 本の探針位置・配置だけでなく試料表面
構造も同定でき,さらに試料表面上の所望の位置にプロ
ーブを接触させることができる。それぞれの探針は,試
料表面から 45°
の角度で近づく。探針および試料はトラ
ンスファー機構によって真空を破らずに交換可能となっ
ている。探針の粗動機構には,Omicron 社の MicroSlide
(慣性駆動型のピエゾアクチュエータ)を,微動にはチ
ューブ型ピエゾスキャナーを使用している。ただし,こ
Fig. 2
の装置の探針はスキャナーチューブの軸から外れている
SEM images of four tips of the independently driven
four-tip STM prober.
ので,通常の STM スキャナーと異なり,スキャナーを
S 字型に変形させることで,試料表面に平行に探針を走
査している。各々の探針による STM 像ではまだ原子分
解能を得ていないが,単原子高さのステップは観察可能
Fig. 3
A photograph of a goniometer stage of the independently driven fourtip STM prober.
8
長谷川修司・白木一郎・田邊輔仁・保原 麗・金川泰三・谷川雄洋・松田 巌・Christian L. PETERSEN・Torben M. HANSSEN・Peter BOGGILD・Francois GREY
Fig. 5
Fig. 4
A schematics of the independently driven four-tip
STM prober, installed in an UHV-SEM-RHEED system.
である。この装置の詳細は文献4)に記述されている。
2. 2
743
I-V curves measured at room temperature with the
four-tip STM prober at probe spacing of 5 µm for (a)
Si(111)-7×7 clean and (b) Si(111)-!3 ×!3 -Ag surfaces, respectively. By fitting the curve by a straight
line , the differential resistance is obtained from its
gradient.
針から流し込んだ測定電流(横軸)と内側 2 本の探針で
プローブ間隔依存性
測定した電圧降下(縦軸)が線形に比例してオームの法
Si
(111)結晶上に形成される 2 つの表面構造を例に取
則が成り立っている。この傾きから求めた抵抗値は,7
り上げ,比較しながら実験結果を紹介する。ひとつは,
×7 表面の場合が 31±3 KΩ,!3×!3-Ag 表面が 200±20
超高真空中で結晶を 1250 ℃ 程度に加熱すると得られる
Ω であった(誤差は同一表面上の異なる場所で測定した
7×7 清浄表面であり,もうひとつは,その表面上に 1
結果のばらつきを表す)
。
原子層の Ag 原子を蒸着して 400 ℃ 程度で加熱すると得
厚さ 0.4 mm の Si 結晶の最表面上にわずか 1 原子層の
られる Si
(111)
-!3×!3-Ag 表面である。それらの原子
Ag 原子を吸着させただけで,電気抵抗が 2 桁以上も減
配列構造と電子状態はすでによく研究されている の
少してしまったわけで,読者はこの結果をにわかには信
で8,1),ここでは詳しく述べないが,後者の表面は 2 次
じられないかもしれない。しかし,これはいくつもの試
元自由電子的で金属的な表面電子状態を持つのに対し,
料で再現性を確かめている。プローブ間隔が 10 mm 程
7×7 清浄表面では金属的ではあるが局在した表面電子
度の巨視的な 4 端子プローブ法で測定すると,両者の差
状態(ダングリングボンド状態)を持つことがわかって
はわずか 10 % 程度だったので9),プローブ間隔をミク
いる。このように対照的な特徴を持っているので,この
ロ化することによって,表面構造の差異に起因する電気
2 つを比較しながら研究を進めてきた。
伝導度の違いを極めて敏感に検出していることがわか
る。
Fig. 5(a)(b)は,これら 2 つの表面について,超高
真空中において室温で,探針間隔を 5 µm に設定して行
そこで,この事実をさらに明確に示すため,それぞれ
った 4 端子プローブ法測定したデータである。試料とし
の探針を独立に移動できるというこの装置の特徴を生か
た Si 結晶は,3×15×0.4 mm3 の短冊型の形状で n 型,
して,プローブ間隔を 1 mm から 1 µm までの範囲で変
バルク抵抗率 5―10 Ωcm のウエハである。外側 2 本の探
化させて,同様な 4 端子プローブ測定を行った。その結
9
表面科学 第 23 巻 第 12 号 (2002)
744
果が Fig. 6 である4)。横軸はプローブ間隔 d ,縦軸は Fig.
5∼10 Ωcm)を使って Fig. 6 に描いてみると灰色の帯と
5 と同様な電流電圧直線の傾きから求めた微分抵抗値で
なる。10 µm<d <100 µm では,灰色の帯と測定データ
あり,プローブ間隔や試料形状に依存した幾何補正因子
点がほぼ一致している。つまり,このプローブ間隔では,
を乗じていない生の値である。丸印が 7×7 清浄表面,
Fig. 6 の挿入図(b)に模式的に示したように,測定電
四角印が!3×!3-Ag 表面のデータである。この結果を
見ると,抵抗値のプローブ間隔依存性が 2 つの表面で全
流は主にバルク結晶中を流れるので,測定値はバルクの
く異なることがわかる。7×7 清浄表面では,d を変化
しないので,試料の厚さが無限の一様な抵抗体とみなし
させると特徴的に抵抗値が著しく変化し,特に d <10 µm
た(1)式とよく一致する。
になると急激に増大している。一方,!3×!3-Ag 表面
の抵抗値の変化は,それに比べると極めて緩慢で,しか
100 µm)
,この理論式より大きな抵抗値を示す。これは,
抵抗率で説明できる。また測定電流が試料裏面まで到達
しかし,プローブ間隔がこれより大きくなると(d >
も 7×7 表面と反対に d の減少に伴って抵抗値が減少し
Fig. 6 の挿入図(c)に示すように,測定電流が試料裏
ている。これは,両者で電気伝導の様子・メカニズムが
面まで到達し,その結果電流分布が歪められる影響が現
全く異なることを意味している。また,d ∼1 mm 程度
れ,見かけ上抵抗値が高くなる。
の巨視的 4 端子プローブ法の状態では,両者の表面の抵
他方,プローブ間隔が非常に小さくなった場合でも(d
抗値にそれほど差が無いが,d <10 µm 程度のミクロ 4
<10 µm)
,(1)式で予想される値より高い抵抗値とな
端子プローブ法の状態になると両者の差は 2∼3 桁にも
る。その理由は d >100 µm の場合と全く違う。挿入図
増大する。この結果は,Fig. 1 で概説したように,d が
(a)に示すように,プローブ間隔が小さくなって表面空
小さくなるほど表面敏感な伝導度測定になっていること
間電荷層の厚み(この試料では∼1 µm)に近づくと,
を改めて示すものである。
測定電流は主に表面空間電荷層のみを流れて下地のバル
このデータを定性的に説明してみる。まず,試料の Si
ク状態にはあまり流れなくなると考えられる。7×7 表
結晶を半無限の一様な抵抗体とみなすと,簡単な電磁気
面ではダングリングボンド準位がバルクのバンドギャッ
学の演習問題にあるように,抵抗値 R は
プのちょうど真ん中に存在してフェルミ準位をピン止め
R =ρ /2 π d
していることが知られているので10,11),表面空間電荷層
(1)
と書ける(ρ はバルク結晶の抵抗率[Ωcm]
)
。つまり,
はバルクのフェルミ準位の位置にかかわらず空乏層とな
測定される抵抗値はプローブ間隔 d に逆比例するはず
っている。そのため,測定される抵抗値はバルクの値よ
である。この予想を,使用した試料の Si ウエハの ρ(ρ =
り高くなる。
一方,!3×!3-Ag 表面の電気抵抗は,(1)式には全
く当てはまらない。無限大の 2 次元シートの抵抗体があ
った場合,その電気抵抗を等間隔の 4 端子プローブで測
定すると,これまた簡単な古典電磁気学の演習問題であ
るが,R は d に依存しない一定値を示す;
R =(ln 2/2 π )
・RS
(2)
。Fig. 6 に示した!3×!3ここで,RS はシート抵抗[Ω]
Ag 表面の測定データは,3 次元的な半無限物体を仮定
した(1)式よりむしろこの 2 次元抵抗体の場合に近い。
つまり,この表面の場合,伝導度の高い 2 次元自由電子
的な表面電子バンドを持ち,さらに表面空間電荷層がホ
ール蓄積層になっているので,バルク内部の伝導度に比
べて表面近傍の伝導度の方がはるかに高い12)。次の節で
詳述するように,特に表面電子バンドの寄与が大きいこ
Fig. 6
とが明らかになっている。
Probe-spacing dependence of the resistance of a Si
crystal, measured at room temperature by the independently driven four-tip STM prober, for Si(111)-7
×7 clean surface (●) and Si(111)-!3 ×!3 -Ag surface (■). The insets are schematic illustrations of the
current distribution in the sample for the case of the 7
×7 surface.
このように,プローブ間隔を変えることによって,電
気伝導測定をバルク敏感モードから表面敏感モードに切
り換えることができ,3 次元的な電気伝導か 2 次元的な
電気伝導か,明確に区別することもできる。
10
長谷川修司・白木一郎・田邊輔仁・保原 麗・金川泰三・谷川雄洋・松田 巌・Christian L. PETERSEN・Torben M. HANSSEN・Peter BOGGILD・Francois GREY
2. 3
745
層の領域に入っているが,!3×!3-Ag 表面は弱いホー
表面状態伝導
上述のように,7×7 表面に比べて!3×!3-Ag 表面が
ル蓄積層の領域に入っているので,後者は 7×7 表面よ
きわめて低い抵抗値,つまり非常に高い伝導度を示すこ
り若干高い伝導度を持つはずである。そこで,測定され
とが実証されたわけだが,これは表面空間電荷層に由来
するのか,それとも表面電子状態に由来するのか,とい
Fig. 7
う質問が当然出てくる。この疑問に答えるためにまず,
表面空間電荷層での伝導度を見積もってみよう。バルク
内部でのフェルミ準位の位置は不純物ドーピング濃度か
ら割り出せるので,表面でのフェルミ準位の位置(EFs)
さえわかれば,表面下でのバンド湾曲が見積もれ,結局,
表面空間電荷層での伝導度を計算できる13)。Fig. 7 に示
す曲線は,われわれの試料について,表面空間電荷層で
の伝導度を EFs の関数として計算した結果である。フラ
ットバンド状況での伝導度からの増減として描いてあ
る。空間電荷層が空乏層か(EFs がバンドギャップの中
ほどに位置して伝導度が低い領域)
,キャリア蓄積層か
(EFs がバルク伝導バンド下端 EC に近く伝導度が増大し
ている領域)
,あるいは逆転層か(EFs がバルク価電子バ
ンド上端 EV に近く伝導度が増大している領域)に依存
して伝導度が変化しているのがわかる。
幸い,7×7 および!3×!3-Ag 表面での EFs は光電子
分光法によって測定されており10∼12),バルク価電子バン
ドの上端 EV か ら 測 っ て そ れ ぞ れ 0.63 eV,0.1∼0.2 eV
程度である。この値は,バルク結晶のドーピング量やタ
イプに依存しない。よって,計算曲線からそれぞれの表
面での空間電荷層伝導度を見積れる。7×7 表面は空乏
11
The curve shows conductance through the surface
space-charge layer, calculated as a function of surface
Fermi level position ( EFs ) . The calculation is done
only for EFs within the band gap. The conductance on
the vertical axis is shown with respect to that under
the flat-band condition . To compare this calculated
conductance with the experimental data, one has to
know first the EFs position of each surface, which is
fortunately already measured by photoemission spectroscopy. The EFs’s for the 7×7 and !3×!3-Ag surfaces are 0.63 eV and 0.1∼0.2 eV above the bulk
valence-band maximum EV, respectively.10∼12) Since
the calculated conductance is not absolute values, but
just a change from that under the flat-band condition,
we cannot make straightforward comparison between
the calculated conductance and the experimental data.
Therefore, we next have to assume that the measured
conductance of the 7×7 clean surface is the spacecharge-layer conductance only; no surface-state conductance contributes. Then the data point of the 7×7
surface is right on the calculated curve at EFs =0.63
eV above EV. Since, then, we can obtain the difference in conductance between the 7×7 and !3 ×!3 Ag surfaces from their measured conductance, we can
plot the result at the EFs position of the !3 × !3 -Ag
surface, which is indicated by bold straight line with
black circles . As shown in Fig. 6, the conductance
changes in a wide range depending upon the probe
spacing. As the probe spacing is reduced, the measured conductance significantly deviates upwards
from the calculated curve. Therefore, the high conductance of the !3 ×!3 -Ag surface is not explained
only by the space-charge-layer conductance , rather
the surface-state conductance dominantly governs the
measured value. If the assumption mentioned above
about conductance of the 7×7 surface is not true, that
is, if the surface-state conductance largely contribute
to the measured conductance for the 7×7 surface, its
data point should be located above the calculated
curve. Then the data points for the !3 × !3 -Ag surface also deviate further upwards above the calculated
curve. This means again that the contribution form the
surface-state conductance is further larger. Therefore,
the above assumption does not affect the conclusion
of the surface-state conductance of the !3 × !3 -Ag
surface , rather it makes an underestimation for its
surface-state conductance. Though there are reports
that the surface-state conductance of the 7×7 surface
is 10−6 ∼10−8 Ω−1 19,20), the conductance is lower
than that of the !3 × !3 -Ag surface by 2∼4 orders
of magnitudes, which is negligibly low. In any cases,
the conclusion about the !3 × !3 -Ag surface is not
affected by whether the surface-state conductance
contributes on the 7×7 surface.
746
表面科学 第 23 巻 第 12 号 (2002)
た伝導度(つまり,Fig. 6 から求めた!3×!3-Ag 表面と
7×7 表面の面伝導度の差。詳しくは Fig. 7 の説明を参
ので,測定される R はプローブ間隔に依存しないとい
照)を Fig. 7 のなかにプロットすると,プローブ間隔に
うわけである。Fig. 7 の中のデータ点,あるいは同じこ
依存して黒丸付の黒棒で示した位置となる。つまり,
とだが Fig. 6 の!3×!3-Ag 表面での測定結果は明らか
!3×!3-Ag 表面での実測値は,空間電荷層の伝導度か
ら期待される値よりはるかに高いのである。特に,プロ
にこれに矛盾する。これは何故か?
ーブ間隔が 1 µm 程度になると,表面空間電荷層の伝導
ロな測定とミクロな測定で異なることを意味していると
度より 1 桁以上も高い伝導度を示す。つまり,結論とし
考えられる。たとえば,表面原子ステップを考えてみる。
て,!3×!3-Ag 表面が示す高い伝導度は,表面空間電
荷層では説明できず,表面電子状態の伝導度が支配的に
ステップ端で表面電子状態を流れるキャリアが散乱され
寄与しているといえる。
ころが,ミリメータ程度の巨視的な測定の場合,測定領
域の寸法にかかわらず,シート抵抗 RS は一定値をとる
それは,伝導度を決めている表面欠陥の影響が,マク
るので(次節参照)
,伝導度に甚大な影響を与える。と
この結論は,すでに巨視的な 4 端子プローブ法を用い
域内でのステップの曲がり方の統計的な分布などが効く
て,表面電子状態へのキャリアドーピングによる伝導度
ことが容易に想像できる(同じステップ密度でも直線的
の増大という現象によって導かれていたが14),今回,ミ
なステップが分布している場合と曲がりくねったステッ
クロな 4 端子プローブ法により,伝導度の単純な比較だ
プが表面上に分布している場合では,キャリア散乱の頻
けで確認されたことになる3)。つまり,プローブ間隔が
度は著しく異なるだろう)
。しかし,ステップ間隔と同
空間電荷層の厚みと同程度のミクロな 4 端子プローブ法
程度のミクロなプローブ間隔で測定する場合には,測定
は,表面状態伝導を高感度で測定するのに有効な手法で
領域内ではむしろステップは直線的であるとみなせる。
あるといえる。表面状態伝導は 1970 年代から検出が試
このように測定領域の寸法の違いによって,実効的な RS
みられてきたにもかかわらず,決定的な実験がなされな
の値が異なると考えられる。ミクロな測定ほど intrinsic
いままだったので6),この実験結果の意義は極めて大き
な伝導度を測定できることになる。
さて,1 µm 間隔のプローブが微小だといっても,表
いものと考えている。
ちなみに,Fig. 7 には,プローブ間隔が 10 mm の巨視
面電子状態を流れるキャリアがバルク状態に散乱される
的 4 端子プローブ法での実験結果9)も示されている(白
ことなく 1 µm もの距離を走れるのだろうか,という疑
丸)
。このデータ点は,フェルミ準位の位置の測定や伝
問が次に出てくる。そこで,キャリアの平均自由行程を
導度の測定での誤差を考慮すれば,計算曲線から有意に
見積もってみよう。前にも述べたように,!3×!3-Ag
上方にずれているとはいえない。したがって,巨視的 4
の表面電子状態は 2 次元自由電子的なバンドであるの
端子プローブ法によって 7×7 および!3×!3-Ag 表面で
で,ボルツマン描像によれば表面電子状態による面伝導
測定された伝導度の単純な比較だけでは表面状態伝導度
度 σ ss は
σ ss=SF・e 2L/2 π h
を結論できなかった9)。つまり,繰り返しになるが,マ
(3)
クロ 4 端子法ではバルク結晶の伝導度が支配的に測定さ
と書ける。ここで,SF はフェルミ円盤の周長,L はキャ
れてしまうので,表面状態伝導を正確に測定できていな
リアの平均自由行程,h はプランク定数である。フェル
かったと考えられる。
ミ波数 kF が角度分解光電子分光の測定に よ っ て kF=
しかし,この理屈には疑問が残る。つまり,Fig. 7 か
0.15±0.02 Å−1 と求められているので14,15),SF=2 π kF か
ら,!3×!3-Ag 表面では,表面状態伝導の方が表面空
間電荷層やバルク状態よりけた違いに高い伝導度を持つ
から表面状態伝導度 σ ss=1.5×10−3 Ω−1/□と求められ
ら SF を計算できる。また Fig. 7 での d =1 µm のデータ
ので,巨視的な 4 端子法での測定といえども,伝導度の
るので, 結局, 平均自由行程 L=25±3 nm 程度となる。
圧倒的に高い表面状態伝導が主に測定にかかってくるは
この値は,典型的なドメインサイズやステップ間隔(∼
ずで,さらにプローブ間隔に依存せずに一定値を示すは
100 nm)に比べて 1 桁程度短いので,その他の表面欠
ずだ。上述の理屈はおかしい,という疑問である。単純
陥(点欠陥や過剰吸着原子)やフォノンによる散乱が支
な古典電磁気学のオームの法則によれば,前述したよう
配的に効いて,単一ドメイン内あるいは単一テラス内で
に,無限大の 2 次元シート伝導体をプローブ間隔 d の 4
も diffusive な伝導であることを意味している。しかし,
端子プローブ法で測定すると,上述の(2)式で書け,d
詳しいキャリア散乱の機構の解明には温度依存性を測定
に依存せずに一定値をとるはず。欠陥などのキャリア散
する必要があり,現在,その測定の準備を進めている。
乱中心が一様に分布しており,その間隔がプローブ間隔
ここで注意することは,キャリアが 25 nm 程度の距離
に比べて十分小さければ,プローブ間隔,つまり測定領
を走って何かに散乱されても,必ずしもバルク状態へと
12
長谷川修司・白木一郎・田邊輔仁・保原 麗・金川泰三・谷川雄洋・松田 巌・Christian L. PETERSEN・Torben M. HANSSEN・Peter BOGGILD・Francois GREY
散乱されるとは限らないということである。
747
また様々な物質を蒸発源から試料表面上に蒸着してエピ
次に移動度 µ を見積もってみよう。平均自由行程 L
タキシャル成長膜や吸着表面超構造を作成することがで
はフェルミ速度 VF と緩和時間 τ を使って L=τ VF と書
きることは,前節で述べた 4 ティップ STM プローバ装
け,さらに移動度 µ は
置と同じである。電子線を斜入射させて表面感度を向上
µ =e τ /m
*
(4)
させているため,ここで示す SEM 像は,縦方向に沿っ
と書ける。有効質量 m *は角度分解光電子分光によるバ
て 1/5 程度に寸詰まっている。
ンド分散の測定から m *=(0.29±0.05)
me と求まってお
試料の加熱や蒸着時には直線導入機構を使って試料か
り14,15),また VF=−
hkF/m *から VF も計算できるので,結
らプローブ・チップを遠ざけておき,試料作成が終えた
局,µ =250±50 cm2/V・s となる。この値は,シリコン
あと接近させる。プローブは XYZ の 3 方向に微動可能
のバルク結晶中での伝導電子の移動度 1500 cm2/V・s に
なピエゾアクチュエータ(移動可能距離 5 mm,Omicron
比べ 1 桁程度低く,表面欠陥およびフォノンによるキャ
社製の Microslide)に設置されているので,粗動機構で
リア散乱が激しいことを意味している。しかし,ここで
試料にある程度接近させた後,この微動機構を使って 10
求められた移動度の値は,プローブ間隔が 10 mm 程度
nm 程度の精度で前進・後退,あるいは試料表面上の所
の巨視的な 4 端子プローブ法で測定した値14)より 1 桁以
望の位置にポジショニングし,接触させることができる。
Fig. 8(b)(c)は,試料表面(Si
(111)
-7×7 清浄表面)
上高い。つまり,上述したようにプローブをミクロ化し
たことで,測定領域に含まれる表面欠陥の影響が相対的
とプローブ(プローブ間隔 8 µm)を SEM で観察しなが
に減少した測定になっているので,測定される見かけの
ら接触させているときの像である。この SEM 像では,
移動度が増大したと考えられる。測定される移動度は測
上述の寸詰り効果によってプローブと試料表面が直角に
定領域が小さくなるほど増大するのである。もし,さら
接触しているように見えるが,実際は,Fig. 8(a)挿入
に極微小なプローブを用いて表面欠陥のほとんど無い領
図のような接触の仕方をしている。Fig. 8(c)では,Fig.
域だけを測定できれば,さらに高い移動度が期待できる。
8(b)の位置からプローブを横方向に約 5 µm 移動させ
それでは,キャリアを散乱すると考えられる表面原子
ている。このようにプローブを微動させながらそれぞれ
ステップの影響を,もう一つのタイプのミクロな 4 端子
の地点での局所的な電気抵抗を測定できる。この例から
プローブ法で直接測定した実験を次節で紹介しよう。
わかるように,プローブの移動が極めて容易であり,前
節で紹介した 4 ティップ STM プローバと相補的な特徴
3.monolithic マイクロ 4 端子プローブ
3. 1
を持つ。
デバイスと装置
3. 2
表面ステップの影響
通常のシリコン結晶表面上に存在する原子ステップの
Fig. 8(a)に,シリコン微細加工技術を駆使して作ら
れたマイクロ 4 端子プローブ・チ ッ プ の SEM 像 を 示
間隔は 1 µm 以下であり,それが一様に分布している
す。これは,デンマーク工科大学マイクロエレクトロニ
(regular step 表面)
。したがって,Fig. 8 に示したプロー
クスセンターにおいて,原子間力顕微鏡のカンチレバー
ブ間隔 8 µm のマイクロ 4 端子プローブでステップの影
の作成と同様な手法・プロセスで開発・製作され3),販
響を測定するためには,ステップを束ねて(step bunch-
売されている 。プローブ間隔は 2∼100 µm の様々なも
ing)
,ステップの存在しない領域をプローブ間隔より広
のが用意されており,最近では,数百ナノメータ間隔の
くする必要がある。そうすれば,ステップの無い領域と
プローブも試験的に製作されている。酸化膜に覆われた
ステップが密集しているバンチ領域で抵抗値をそれぞれ
シリコン結晶が土台となり,その上に必要な部分だけ金
測定して比較することによってステップの影響を抽出で
属膜を蒸着して伝導路を形成している。Fig. 8(a)の挿
きる。
16)
入図のように,試料表面から 30°
程度の角度をもって試
幸い,ステップ配列の制御の仕方がすでに考案されて
料とプローブを接触させる。すると,カンチレバー部分
いるのでそれを利用する17)。Fig. 10(a)のように,あ
がたわみ,4 本全部のプローブを容易に試料に接触させ
らかじめシリコン結晶表面に小さな孔の列を作ってお
ることができる。
く。孔の直径・深さとも 1 µm 程度,孔と孔との間隔は
このプローブを超高真空 SEM-RHEED 装置内に装着
20 µm 程度である。この結晶に加熱直流電流を小孔列と
した2)。その装置の模式図を Fig. 9 に示す。冷陰極電界
直角方向に流して超高真空中で 1250 ℃ 程度に加熱する
放射電子銃を備えた UHV-SEM を改造し,RHEED およ
と,表面が清浄化されるのと同時に,Fig. 10(b)(c)
び SREM 観察によって試料結晶の表面構造を同定する
に見られるように,加熱時間とともに徐々に表面ステッ
ことができる。試料表面の清浄化は直接通電加熱で行い,
プが移動し,さらに小孔が消滅していく。これは,Si
13
表面科学 第 23 巻 第 12 号 (2002)
748
Fig. 8
A micro-four-point probe. (a) SEM image of the chip . The inset
shows a side view of the probe contacting a sample surface. (b) (c)
Grazing-incidence SEM images of a micro-four-point probe (probe
spacing being 8 µm), contacting a sample (Si(111)-7×7 clean surface) in UHV during measurement of conductance . The probe is
shifted laterally from (b) to (c) by about 5 µm using piezoactuators
for fine positioning.
原子が表面から昇華していき,ステップが後退するため
となっているので,プローブ間隔より広くすることがで
である。最終的には Fig. 10(d)のように,最初の小孔
きる。この場合,ステップバンチの領域には約 300 本の
列の位置にステップが密集する。このステップバンチと
単原子高さのステップが密集して,いわば「段々畑」状
隣のバンチとの間の領域は,ほとんどステップの存在し
態になっている。Fig. 8(b)(c)での試料の Si 結晶も
ない平坦なテラス領域となる。このテラス領域の幅は,
同様にして作成された表面で,SEM 像中,試料表面上
最初の小孔列の間隔と同じであり,ここでは約 20 µm
にやや明るく見える帯状の領域が斜めに数本走っている
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749
が,これが上述のステップバンチであり,やや暗くて幅
内側 2 本のプローブの間にステップバンチが走ってお
広い領域が平坦なテラス領域である。Fig. 8(b)では,
り,つまり,ステップバンチを跨いで電圧降下を測定し
ているのに対して,Fig. 8(c)ではプローブを微動させ
て,内側 2 本のプローブをステップバンチを跨がずにテ
ラス領域に接触させている。この両者での電気抵抗値を
比較すると,Fig. 8(b)の方がステップの影響を著しく
受けているはずである。このように,プローブを微動さ
せ,SEM で観察しながら測定領域を選択することがで
きる。
Fig. 11 は,このようなステップバンチングを起こし
た Si
(111)
-7×7 清浄表面(Fig. 11(a)
)を 450 ℃ に保っ
て Ag 原子を蒸着していったときの変化を連続的に SEM
観察した結果である8)。はじめ,Fig. 11(b)に示すよう
に白い領域が線状に現れる。これは,蒸着した Ag 原子
が単原子高さのステップ端に捕獲され,ステップに沿っ
て!3×!3-Ag 構造のドメインが形成されるためである。
だから,明るい領域が!3×!3-Ag,暗い領域が 7×7 構
造のドメインである。これを見ると,幅が 10 µm 程度
の平坦なテラス領域は,実は完全にはステップフリーで
はなく,2,3 本の単原子高さのステップが横切ってい
ることがわかる。しかし,ステップバンチ領域には 100
本以上のステップが密集しているので,それに比べれば
桁違いに低いステップ密度である。
Fig. 9
Ag 蒸着量の増加とともに明るい領域の幅が広がって
A schematics of an UHV-SEM-RHEED system, combined with the micro-four-point probe system.
Fig. 10
ゆき(Fig. 11(c)(c’)
)
,同時にステップ端以外の場所
A series of in-situ grazing-incidence UHV-SEM images, showing a process
of step-bunching formation on a Si(111) surface with small-hole arrays patterning. As repeating flash heating up to 1250 ℃, the surface becomes clean
to be the 7×7 structure, and simultaneously atomic steps move back and
pinned at positions of the initial hole arrays.
15
表面科学 第 23 巻 第 12 号 (2002)
750
Fig. 11
A series of in-situ grazing-incidence UHV-SEM images during Ag deposition on a step-bunched Si(111)-7×7
clean surface kept at 450 ℃. As increasing Ag coverage, brighter thin domains (!3 ×!3 -Ag structure) appear at
monatomic step edges and expand, while the darker domains (7×7 clean structure) shrink ((b)-(d)). Finally, the
surface is wholly covered by the brighter domains homogeneously in (e). (c’) and (d’) are magnified images,
showing that narrow terraces within step-bunch regions also change the structure. By comparing (a) with (e), it is
noticed that the whole morphology of the surface does not change during this structure conversion.
からも明るい領域が発生してくる(Fig. 11(d)(d’)
)
。
状態電子の定在波が形成されていることが報告されてい
最終的に 1 原子層の Ag を蒸着すると,Fig. 11(e)のよ
るが18),それはとりも直さず表面状態電子がステップで
うに,ステップバンチ領域もテラス領域も区別なく表面
散乱されることを意味していたからである。しかし,こ
全体が明るい領域,つまり,!3×!3-Ag 構造で覆われ
こでの結果は,表面原子ステップでのキャリア散乱によ
る。しかし,ステップバンチングと幅広いテラスの形状
る電気抵抗の増大を直接検出した最初の例であり,この
は Fig. 11(a)の清浄表面の場合と同じである。
結果から,1 つの単原子高さのステップで生じる抵抗値
Fig. 12(a)(b)は,そ れ ぞ れ,Fig. 11(a)(e)の よ
が求められ,それからステップ端での電子波動関数の透
うな形状をした Si
(111)
-7×7 および!3×!3-Ag 表面上
で,4 端子プローブを表面に沿って直線的に移動させて,
(Fig. 12(a)
)
,前節で述べたように,!3×!3-Ag 表 面
各地点で電気抵抗を測定した結果である。横軸はプロー
に比べて伝導度が 2∼3 桁以上低く19,20),表面状態伝導
ブの移動距離を示し,データ点は 4 本のプローブの中心
が支配的なのか,表面空間電荷層伝導が支配的なのか,
過率(と反射率)などが求められる。7×7 表面の場合
位置にプロットした。グラフ下部には,SEM によって
あるいは両者の寄与が同程度なのか,まだわかっていな
観察された試料表面のステップバンチ・テラス形状を模
い。もし,表面状態伝導が支配的ならば上述の!3×!3-
式的に示した。期待した通り,ステップバンチを跨いだ
Ag 表面の場合と同様に解釈できる。また,もし表面空
ときには(Fig. 8(b)の配置であり,Fig. 12 では濃いシ
間電荷層伝導が支配的だとしても,そこを流れるキャリ
ャドウで示した領域)
,大きな抵抗値を示し,テラス上
アも表面上のステップバンチングの影響を受けることが
では(Fig. 8(c)の配置で,Fig. 12 ではもっとも淡いシ
予 想 さ れ る。と い う の は,古 典 的 な Fuchs-Sondheimer
ャドウで示した領域)
,小さな値となった。7×7 と!3
の表面散乱の考え方を用いれば21,22),Fig. 12(a)の下
×!3-Ag 表面の両方に対して定性的には同様の結果と
部に模式的に描いたように,表面空間電荷層を流れるキ
なったが,変化量は著しく異なる。!3×!3-Ag の場合
(Fig. 12(b)
)
,前節で述べたように,表面状態伝導が支
ャリアが表面散乱されるとき,平坦なテラス領域では
配的に効いているので,この結果は,期待通り,表面状
表面粗さのために diffuse 散乱が起こりやすいと考えら
態伝導がステップによってある程度途切れることを意味
れる。また,ステップ端固有の電子状態に蓄えられた電
している。これは,ある意味では当たり前かもしれない。
荷によって,ステップ端直下でバンド湾曲が乱され,そ
というのは,低温 STM によって,ステップ近傍に表面
れによるキャリア散乱も考えられる。よってステップバ
specular 反射が起こりやすく,ステップバンチ領域では
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長谷川修司・白木一郎・田邊輔仁・保原 麗・金川泰三・谷川雄洋・松田 巌・Christian L. PETERSEN・Torben M. HANSSEN・Peter BOGGILD・Francois GREY
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いだろうが,7×7 清浄表面のように局在性の強い表面
電子状態の場合には透過率は低いことが予想される。よ
って,後者の表面の方が,表面ステップの影響は甚大か
もしれない。実際,Fig. 12(a)を見ると,7×7 表面で
はステップバンチを跨ぐと 2 桁も抵抗値が増大するのに
対して,Fig. 12(b)の!3×!3-Ag 表面の場合には,3∼
4 倍程度の増加にとどまっているのは,このような違い
に起因しているのかもしれない。このような素朴な予想
には理論的な裏付けがもちろん必要だが。
わ
4.お
り
に
ここで紹介した 2 種類のミクロな 4 端子プローブ法
は,今までに無い表面科学の研究ツールとして極めてユ
ニークで,これからますます重要性を増すものと期待し
ている。ここで述べた preliminary な実験結果からもそ
の有用性をご理解いただけたと思う。もちろん,表面状
態伝導の研究だけでなく,微小構造体の電子輸送特性の
研究にも汎用的に活用できよう。また,温度を変えたり,
磁場を印加したり,光を照射したり,様々な条件での実
験にも応用されよう。実際,当研究室では,室温から液
体ヘリウム温度までの範囲でマイクロ 4 端子プローブ測
定を行う装置の開発も進めており,その結果は次の機会
に紹介したい。
謝
辞
本研究は科学研費補助金によって行われた。また,独
Fig. 12
‘Line profiles’ of resistance of ( a ) Si ( 111 ) -7 × 7
clean and (b) Si(111)- !3 × !3 -Ag surfaces, measured by shifting the micro-four-point probes (8 µm
probe spacing) along a line across step bunches on
the surfaces. The surface morphology of sample surface, which is determined by SEM, is schematically
drawn at the bottom of graph. Areas of dark shadow
show a situation that the voltage drop is measured
by the inner pair of probes across a step bunch (like
in Fig. 8 (b)). Areas of light shadow show a situation
that both of the inner probes contact on a single terrace (like in Fig. 8 (c)); no step bunch runs between
the inner probes . Areas of intermediate shadow
show a situation that one of the inner probes is on a
terrace and the other probe is on a step-bunch region.
立駆動型 4 ティップ STM プローバ装置は,科学技術振
興事業団戦略的基礎研究の援助によって完成した。ここ
に記して感謝する。
文
献
1) レ ビ ュ ー と し て,S. Hasegawa, et al.: Prog. Surf. Sci.
60, 89 (1999); J. Phys. C: Cond. Matter 12, R 463 (2000).
2) I. Shiraki, et al.: Surf. Rev. Lett. 7, 533 (2000).
3) C.L. Petersen, et al.: Appl. Phys. Lett. 77, 3782 (2000).
4) I. Shiraki, et al.: Surf. Sci. 493, 633 (2001).
5) 関連する解説として,長谷川修司,白木一郎,田邊
輔仁,F. Grey:応用物理 70, 1165 (2001).
6) M. Henzler: “Surface Physics of Materials I”, ed. by J.M.
Blakely (Academic Press, New York, 1975) p. 241.
7) P. Boggild, et al.: Rev. Sci. Instrum. 71, 2781 (2000);
Adv. Mater. 12, 947 (2000).
8) レビューとして,S. Hasegawa, et al.: Jpn. J. Appl. Phys.
39, 3815 (2000); 長谷川修司,!
暁,中島雄二,
姜 春生,長尾忠昭:表面科学 19, 114, 193 (1998).
9) C.-S. Jiang, S. Hasegawa and S. Ino: Phys. Rev. B 54,
10389 (1996).
10) F.J. Himpsel, G. Hollinger and R.A. Pollak: Phys. Rev B
ンチング領域が高い抵抗値を示すことは自然である。
単原子高さのステップ端で表面電子状態は途切れてい
るはずだが,表面状態キャリアはそこを通り抜けて隣の
テラスの表面電子状態に伝導する。もちろん透過率は
100 % ではないが,ゼロでもない。!3×!3-Ag 構造の
表面電子状態のように拡がった電子状態なら透過率は高
17
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表面科学 第 23 巻 第 12 号 (2002)
28, 7014 (1983).
11) J. Viernow, et al.: Phys. Rev B 57, 2321 (1998).
12) S. Hasegawa, et al.: Surf. Sci. 386, 322 (1997).
13) 半導体表面の基礎については,W. Moench: “Semiconductor Surfaces and Interfaces” (Springer, Berlin, 1995)
を参照。
14) Y. Nakajima, et al.: Phys. Rev. B 56, 6782 (1997); Phys.
Rev. B 54, 14134 (1996).
15)
16)
17)
18)
19)
20)
21)
22)
18
X. Tong, et al.: Phys. Rev. B 57, 9015 (1998).
http://www.capres.com を参照。
T. Ogino: Surf. Sci. 386, 137 (1997).
N. Sato, et al.: Phys. Rev. B 59, 2035 (1999).
Y. Hasegawa, et al.: Surf. Sci. 358, 32 (1996).
S. Heike, et al.: Phys. Rev. Lett. 81, 890 (1998).
E.H. Sondheimer: Adv. Phys. 1, 1 (1952).
K. Fuchs: Proc. Cambridge Philos. Soc. 34, 100 (1938).
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