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15-97 - 福島大学学術機関リポジトリ

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15-97 - 福島大学学術機関リポジトリ
様 式 C−19、F−19、Z−19 (共通)
科学研究費助成事業 研究成果報告書
平成 26 年
6 月
4 日現在
機関番号: 11601
研究種目: 挑戦的萌芽研究
研究期間: 2013 ∼ 2013
課題番号: 25560310
研究課題名(和文)トップアスリートのDNAメチル化の検討
研究課題名(英文)Study of the DNA methylation of the top athletes
研究代表者
川本 和久(KAWMAOTO, Kazuhisa)
福島大学・人間発達文化学類・教授
研究者番号:10169774
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)
2,800,000 円 、(間接経費)
840,000 円
研究成果の概要(和文):日本代表経験のある女子短距離競技者10名、女子長距離競技者10名を対象にDNAメチル化に
ついて検討した。
その結果、短距離競技者と長距離競技者を特異的に2分するメチル化が起きた箇所はクラスター解析では見つからなか
った。ただ、5検体(短距離2、長距離3)については、他と大きく異なるクラスターを形成した。いくつかの遺伝子
にトレーニングや生活環境(栄養など)によるエピジェネティックな変化が起っている可能性がみられた。日本代表ク
ラスの長距離競技者は脱共役タンパク質1(UCP1)がAAの者はいなかった。UCP1遺伝子多型におけるG保有は、長距離
競技者の成功にとっては必要なものと示唆された。
研究成果の概要(英文):We considered DNA methylation for ten woman sprinters and ten woman long distance
athletes who are experienced in the representative of Japan.
As the results, the methylated gene was not divided into a sprinters and long distance athletes. However,
five samples (sprinters 2, long distance athletes 3) formed a greatly different cluster from others. We fo
und out a possibility that the change of epigenetics by training or living environments (nutrition etc.) h
ad taken place to some genes. The long distance athletes did not have the AA genotype of UCP1(uncoupling p
rotein 1).This study suggests that the G genotype of UCP1 is required for a success in a long distance.
研究分野: スポーツ科学
科研費の分科・細目: 挑戦的萌芽研究
キーワード: DNA SNPメチル化 短距離競技者 長距離競技者
様 式 C−19、F−19、Z−19(共通)
1.研究開始当初の背景
2.研究の目的
スポーツ界においては、長距離型の一塩基
多型(SNP)の解析は世界的規模で行われて
いるが、遺伝的要因が大きいと考えられる短
距離型についての解析は始まったばかりで
ある。
申請者は、国内トップレベルの女子短距離
競技者 27 名を対象にスポーツ遺伝子と考え
られるアンギオテンシノーゲン(AGT)
、ミオ
スタチン(GDF8)、脱共役蛋白質1(UCP1)、
α-アクチニン 3(ACTN3)の SNP を測定し、
スプリント種目における各 SNP の機能の検討
を行った(2007)。スピード持久力、筋の振
動周波数対応能力、無酸素性パワー、ミドル
パワーにおける各 SNP の機能について分析し
た結果、ACTN3 と UCP1 の SNP を基に短距離競
技者の適正な走る距離を特定することが出
来た(2009)。この結果を基に競技者ひとり
ずつの SNP に応じたオーダーメイドのトレー
ニングを実施し、多くの日本代表(世界陸上
競技選手権、オリンピック)を育成し、短距
離種目を中心に多数の日本記録を樹立させ
ている。
遺伝情報により規定される「体質」に加え
て、トレーニングや食生活などの環境因子な
どが遺伝子に影響を与えることで、後天的に
遺伝子の構造を変えるエピジェネティクス
という現象に注目が集まっている。エピジェ
ネティクスの一つとして「DNA のメチル化」
が報告されている。これは、DNA メチル化酵
素により、DNA 配列中の塩基の並びが、CG と
なる部位の C にメチル基が付加されてメチル
シトシンができることを指し、DNA の配列に
は変化はないが、DNA の働きを制御し(メチ
ル化により遺伝子が働かなくなる)、体質や
病気の発症などに影響を与えることが明ら
かになってきた。
DNA のメチル化は可逆的な反応であるため、
食事やトレーニングで付加されたメチル基
をはずすことも可能である。例えば、優れた
スポーツ選手には、ある特定の部位がメチル
化されているが、一般の人ではその部分には
あまりメチル化がみられないということが
確認された場合、これはトレーニングや栄養
管理により得られたものである可能性が高
い。運動能力の向上や体質の改善への効果が
期待できるメチル化が確認された場合、トレ
ーニングによりこの部分のメチル化をよい
状態に変化させることが可能であれば、それ
を健康づくりに活かすことも期待できる(右
図参照)
。
本研究は、SNP をスポーツトレーニングに
活用した次のステップとして、トレーニング
によってもたらされるであろう DNA のメチル
化について検討を行うものである。トレーニ
ングによって変化するもの、変化しないもの
を明確にすることができる。無駄なトレーニ
ングを一掃でき、変化しないものをトレーニ
ングする必要がなくなる。また、変化するも
のに限定してトレーニングを行えばよいこ
とになり、トレーニングする内容そのものが
明確になり、飛躍的にパフォーマンスを向上
させることが可能となる。
DNA マイクロアレイチップを使用して 100
万個の SNP の解析を行うことにより、未だ運
動との関連が明らかにされていない新規の
遺伝子マーカーの探索や、より関わりが深い
SNP の同定を行う。また、同様にメチル化解
析チップにより、運動能力と関連のあるメチ
ル化部位の探索を行って、トップアスリート
に特異的な遺伝子情報である SNP および DNA
メチル化を 10∼20 個程度選定することを目
的とする。特に今回は、短距離競技者と長距
離競技者のメチル化に着目して検討を進め
た。
3.研究の方法
遺伝子を検査するためには、PCR 法(ポリ
メラーゼ連鎖反応)が必須となる。PCR 法と
は、微生物から分離された DNA 合成酵素(DNA
ポリメラーゼ)を用いて、微量な DNA の一部
分を酵素反応により増幅する操作である。解
析対象となる遺伝子が増えた場合は何度も
検査を行う必要があり、コストや作業時間が
その分、多くかかることになる。また、同時
にいくつかの遺伝子を増幅する(マルチプレ
ックス PCR 法)試薬も開発されているが、対
象が増えることで、目的以外の遺伝子が増幅
する反応(非特異的反応)が起こったり、正
しく目的の遺伝子が増幅しなかったり(増幅
不良)と精度が落ちる結果となり、問題は多
く残されている。
本研究では、G&Gサイエンス(福島市)
の 協 力 を 得 て え 、 好 熱 性 細 菌 Thermus
aquaticus から分離された DNA 合成酵素 Taq
DNA ポリメラーゼに修飾を加えた新規の DNA
ポリメラーゼ(アプタマーTaq)を使用した。
・ SNP の網羅的解:100 万の SNP を搭載した
マイクロアレイチップ(イルミナ社 Human
1M-Duo)を用いてスクリーニングを行っ
た。
・ メチル化部位の網羅的解析:約 27,000 の
メチル化部位を搭載したマイクロアレイ
チップ(イルミナ社 HumanMethylation27)
用いてスクリーニングを行った。
被験者は、日本代表経験のある女子短距
離競技者 10 名、女子長距離競技者 10 名を
対象にした。
本研究内容は、報告者の所属する機関の倫
理委員会の承認を受けている(福島大学倫理
委員会承認番号 25-05)
。
対象者の背景
N=20 Age=31.3±5.8 歳
オリンピック出場:6 名
世界選手権出場:14 名
日本記録樹立:8 名
4.研究成果
(1)短距離競技者と長距離競技者を特異
的に2分するメチル化が起きた箇所はクラ
スター解析では見つからなかった。ただ、
5検体(短距離2、長距離3)については、
他と大きく異なるクラスターを形成した。
いくつかの遺伝子にトレーニングや生活環境
(栄養など)によるエピジェネティックな変
化が起っている可能性がみられたと考えてよ
い。
(2)メチル化が環境によって遺伝子が修飾
されて機能(遺伝子発現)が制御されるとい
う考え方がある。一方、遺伝子発現の痕跡と
いう考え方がある。つまり、環境の変化によ
るメチル化パターンの変化が遺伝子発現パタ
ーンを変えるのか、環境の変化によって求め
られる遺伝子発現のパターン(量)があり、
それに伴ってメチル化のパターンが変化して
ゆくのか明確になっていない。
本研究では、既に考察がされている遺伝子
多型と種目特性の関係から、体質に応じたト
レーニング・種目選択が適切に行われていた
群(結果的に高い成績を残したと考えられる)
と、体質的に応じたトレーニングや種目の選
択が誤っていた、あるいは、変更が遅れた群
(成績が悪い、あるいは、種目を変更してか
ら成績が上がった)の分類に基づく解析を行
うと、何らかの違いが見られる可能性が示唆
された。ただし、今回は、この細分類を行う
とN数が小さくなるため、統計的な検討を行
う事ができなかった。
(3)日本代表クラスの長距離競技者はUCP1
がAAの者はいなかった。UCP1遺伝子多型にお
けるG保有は、長距離競技者の成功にとっては
必要なものと考えられる。
(4)今後は、サンプル数を増やすと共にサ
ンプル間の差の確認やグループ間のメチル
化レベルの差の比較、遺伝子探索などを付加
して、研究を発展させていきたい。
本研究は、SNP をスポーツトレーニングに
活用した次のステップとして、トレーニング
によってもたらされるであろう DNA のメチル
化について検討を行ったものである。DNA メ
チル化の特定が進めば、トレーニングによっ
て変化するもの、変化しないものを明確にす
ることができる。そうなれば、無駄なトレー
ニングを一掃でき、変化しないものをトレー
ニングする必要がなくなる。また、変化する
ものに限定してトレーニングを行えばよい
ことになり、トレーニングする内容そのもの
が明確になり、飛躍的にパフォーマンスを向
上させることが可能となる。また、遺伝情報
から運動能力を評価するソフトウェアの作
成および、遺伝情報に基づいた運動プログラ
ムの作成へと研究が発展していくと考えら
れる可能性を見いだせた研究であった。
5.主な発表論文等
(研究代表者、研究分担者及び連携研究者に
は下線)
〔雑誌論文〕
(計 0 件)
〔学会発表〕
(計 0 件)
〔図書〕
(計 0 件)
〔産業財産権〕
○出願状況(計 0 件)
○取得状況(計 0 件)
〔その他〕
① 特別講演:川本和久、スポーツ科学で足
を速くする、第 29 回健脚を血管病から守
る公開シンポジウム、2014.4.12、福島
② 講演:川本和久、遺伝子情報をスポーツ
トレーニングに活かす2、二本松市川本
元気塾、2014.2.21、二本松
③ 講演:川本和久、遺伝子情報をスポーツ
トレーニングに活かす1、二本松市川本
元気塾、2014.1.20、二本松
④ 講演:川本和久、遺伝子情報をスポーツ
トレーニングに活かす、JAAF 公認ジュニ
アコーチ養成講習会、2013.9.29、福島
6.研究組織
(1)研究代表者
川本 和久(KAWAMOTO, Kazuhisa)
福島大学人間発達文化学類・教授
研究者番号:10169774
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