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小児在宅ホスピスの果たす役割とグリーフ教育の重要性

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小児在宅ホスピスの果たす役割とグリーフ教育の重要性
小 児 在 宅 ホスピスの果たす役 割 とグリーフ教 育 の重 要 性 :
米 、豪 、英 国 比 較 報 告 と今 後 の課 題
研 究 筆 頭 者 :ホームケアクリニック川 越 研 究 員 岩 本 喜 久 子
所 属 機 関 所 在 地 :東 京 都 墨 田 区 緑 1-14-4両 国 TY ビル3F
提 出 年 月 日 :2008 年 3 月 25 日
序文
日 本 では現 在 、少 子 化 が進 む一 方 で小 児 病 棟 の閉 鎖 や縮 小 など、小 児 ケアの環 境 が不 安
定 になりつつある。そんな状 況 の中 でも年 間 数 千 人 という子 供 があらゆる理 由 で死 を迎 え、その
子 供 たちや家 族 を取 り巻 く環 境 は社 会 的 背 景 の中 で少 なからず影 響 を受 けている。近 年 成 長
を見 せている在 宅 ホスピス・緩 和 医 療 分 野 であっても、小 児 という特 定 の患 者 層 に対 する制 度 ・
サービス内 容 は十 分 であるとは言 えない。また在 宅 ケアという点 では、まだまだ開 発 途 上 といって
も過 言 ではない。諸 外 国 ではすでに小 児 に対 する医 療 教 育 制 度 が存 在 し、成 長 を続 けている
が、日 本 においては超 高 齢 社 会 の影 に隠 れてしまっている感 が否 めない。絶 対 人 口 数 は少 ない
にせよ、小 児 患 者 は存 在 し、現 在 の社 会 では小 児 科 閉 鎖 や小 児 科 医 現 象 によって、医 療 サー
ビス自 体 の減 少 という事 実 があり、ときに小 児 の終 末 期 を迎 える患 者 、家 族 は満 足 できるサービ
スに出 会 えぬまま、小 児 患 者 の死 を迎 えることもある。そこで、小 児 患 者 のための質 も満 足 度 も
高 い在 宅 ホスピス・緩 和 ケアの提 供 の実 現 に向 けて、小 児 ホスピス・緩 和 医 療 制 度 がある諸 外
国 の実 態 を調 査 し、現 在 の社 会 的 状 況 や今 後 の医 療 制 度 の変 化 を考 慮 した、今 後 の日 本 の
小 児 在 宅 医 療 の方 向 性 を提 示 することをこの研 究 の目 的 とした。
学 会 をはじめとするさまざまな国 の現 場 事 情 を考 察 すると、世 界 的 には高 齢 化 という流 れを受
け止 めつつも、今 現 在 の緩 和 ケアは主 に成 人 患 者 が対 象 になっており、中 には小 児 患 者 に対
応 できないサービスも存 在 するという共 通 の問 題 が伺 えた。小 児 というのは成 人 と比 べて薬 の分
量 という医 薬 的 なことだけではなく、その起 こりえる死 が与 える家 族 や周 りの人 たちへの影 響 、そ
して本 人 への対 応 など、多 くの点 で成 人 患 者 と大 きく異 なる。そのことから小 児 という特 定 層 には、
それなりに特 化 したサービスが必 要 であると、米 国 、英 国 そしてオーストラリアの現 存 のプログラム
にかかわるスタッフへの調 査 から明 らかになった。
そうしたことを踏 まえ、この研 究 では主 に諸 外 国 訪 問 によるサービスや制 度 に関 する現 状 調 査 、
および情 報 収 集 のため、2つの国 際 学 会 出 席 、また緩 和 ケア先 進 国 である米 国 と英 国 の数 都
市 を訪 問 し、小 児 対 象 の緩 和 ケアサービス現 場 での臨 床 考 察 を行 った。また、オーストラリアの
ロイヤルチルドレンズホスピタルのディレクターであるキャロル・クゥエール氏 からはオーストラリアの
ホスピスケアプログラムの事 情 と、他 国 でのトレーニングの経 験 を受 け国 際 比 較 に関 する監 修 を
いただいた。
目
次
序文
1. 小 児 緩 和 ケア・ホスピスの位 置 づけ
1
2. 小 児 患 者 に対 する在 宅 ホスピス・緩 和 ケア
5
3. グリーフケアの意 味 と必 要 性
8
4. アンケート結 果
9
5. 諸 外 国 の小 児 緩 和 ケアの実 態 -施 設 訪 問 と学 会 調 査 より- 13
6. 参 考 資 料 一 覧
17
1.小 児 緩 和 ケア・ホスピスの位 置 づけ
WHO では小 児 に対 する緩 和 ケアの定 義 を一 般 の Palliative Care と並 べて述 べている。
Palliative care is an approach that improves the quality of life of patients and their families facing the problem
associated with life-threatening illness, through the prevention and relief of suffering by means of early
identification and impeccable assessment and treatment of pain and other problems, physical, psychosocial
and spiritual.
緩 和 ケアは患 者 およびその家 族 の QOL を高 めるために病 に伴 う痛 みの疼 痛 を痛 みなどの身 体
的 苦 痛 、および心 理 社 会 的 、そして霊 的 な痛 みを取 り除 くために早 期 から介 入 することで提 供
される。
(WHO 定 義 の概 略 )
この定 義 に加 え小 児 患 者 に対 する緩 和 ケア(Pediatric Palliative Care)については以 下 を追 記
している。
•
子 供 に対 する身 体 、精 神 、そして霊 的 なトータルケアおよび家 族 へのケア
Palliative care for children is the active total care of the child's body, mind and spirit, and also involves
giving support to the family.
•
緩 和 ケアは病 気 が診 断 されたときから始 まり、子 供 がその病 気 への直 接 的 な治 療 を受 け
ていなくても継 続 的 に行 われる
It begins when illness is diagnosed, and continues regardless of whether or not a child receives treatment
directed at the disease.
•
医 療 者 は子 供 の身 体 、心 理 、そして社 会 的 な苦 痛 を常 にアセスメントをすること。効 果 的 な
緩 和 ケアは幅 広 いアプローチによって提 供 され、それは家 族 や適 当 な地 域 資 源 を利 用 すること
も含 む。たとえそうした資 源 が限 られていても適 切 な緩 和 ケアは可 能 である。
Health providers must evaluate and alleviate a child's physical, psychological, and social distress. Effective
palliative care requires a broad multidisciplinary approach that includes the family and makes use of available
community resources; it can be successfully implemented even if resources are limited.
•
提 供 場 所 は子 供 がいるいずれの場 所 でも可 能 である
It can be provided in tertiary care facilities, in community health centers and even in children's homes.
(以 上 http://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/ より抜 粋 )
小 児 緩 和 ケア(Pediatric Palliative Care)の定 義 としてこのようにWHOにより定 められてはい
るものの、実 際 どのような患 者 であるか(病 状 や余 命 など)という点 では特 定 されていない。成 人 の
場 合 、成 人 をひとくくりにして緩 和 ケア対 象 者 とすることが多 いが、子 供 の場 合 若 干 成 人 と異 な
るルールが存 在 する。たとえば、小 児 の場 合 、患 者 に対 する余 命 宣 告 (成 人 の場 合 6ヶ月 以 内
に死 が予 想 されるなど)の必 要 は特 になく、余 命 宣 告 が難 しく長 期 的 な緩 和 ケアが必 要 な病 が
多 い。Medicareがホスピス・緩 和 ケアに関 するルールを厳 しく設 定 している米 国 であっても、小 児
-1-
患 者 はこうした規 制 から外 れている(言 い換 えるとMedicareからの医 療 負 担 金 は提 供 されない 1 )
ので、患 者 層 は年 齢 や病 状 においても幅 広 い。そこでここでは、米 国 、英 国 、そして国 際 小 児 ホ
スピスネットワークが掲 げる小 児 ホスピスの定 義 を比 較 する。まず、米 国 シアトルの子 供 病 院
(Seattle Children’s Hospital)での受 け入 れに定 めるルール定 義 である。
Which children are appropriate for palliative care?
- those who are born without an expectation of survival to adulthood (成 人 期 までの成 長 が予
期 できない)
- those who acquire illnesses such as cancer (がんなどの病 に冒 されている)
- those who suffer trauma (トラウマに苦 しむ)
- those vulnerable and susceptible to life-limiting complications (命 を脅 かす複 雑 な健 康 問
題 を抱 える)
次 に英 国 のDepartment of Health (DH)で定 められている小 児 患 者 に対 する緩 和 ケアの定 義
は以 下 のとおりである。( www.dh.gov.uk/publications )
小 児 向 けの緩 和 ケアは命 を脅 かすまたは余 命 が宣 告 されるような状 態 にある子 供 のため
のケアである。それは単 に終 末 期 の状 態 にある子 供 たちのケアではなく、症 状 緩 和 、QOL
の向 上 、そして心 理 、社 会 的 なサポートを患 者 である子 供 そしてその家 族 に提 供 するため
である。
Children’s palliative care is concerned with the treatment of children with life-limiting or life-threatening
conditions.
It is the need to maintain quality of life, not just in the dying stages, but also in the weeks,
months and years before death and is characterized by concern for symptom relief, promotion of general
well-being, and psychological and social comfort for the child and family (Palliative care services for
children and young people in England, p15).
小 児 患 者 に対 する緩 和 ケアの動 きは世 界 中 で活 発 に行 われるようになっており、近 年 では複
数 の団 体 が設 立 された。その中 でも International Children’s Palliative Care Network
(ICPCN)は世 界 の各 国 の団 体 をつなげる団 体 として情 報 発 信 、学 会 開 催 など新 しい役 割 を期
待 されている。
その ICPCN が上 記 に述 べた WHO の定 義 に加 えて論 述 している小 児 患 者 は以 下 である。
グリープ1:病 の進 行 が進 み、治 療 の効 果 が期 待 されない状 態 、または効 果 が見 られない
状 態 にある。現 在 治 療 中 、または案 的 の場 合 は含 まれない。
(例 :がん、臓 器 不 全 )
グループ2:死 が予 期 される病 である。時 に QOL 安 定 のため高 度 治 療 を続 ける場 合 もある。
(例 :嚢 胞 性 肺 繊 維 症 )
1
注 :例 外 はコロラド州 で 2007 年 より小 児 緩 和 ケア対 象 者 に対 して Medicaid(州 管 理 の資 金 )の使 用 可
能
-2-
グループ3:治 療 方 法 が少 ない進 行 性 の病 であるため治 療 が長 いスパンで緩 和 目 的 である。
(例 :ムコ多 糖 症 、バッテン病 、筋 ジストロフィー)
グループ4 :深 刻 な障 害 のために死 が若 年 における死 が予 期 される。
(例 :脳 性 まひ、または脳 や神 経 における障 害 )
(以 上 、 http://www.icpcn.org.uk What is Children’s Palliative Care)
このように小 児 患 者 に対 する定 義 は WHO の定 義 を基 本 にそれぞれの場 所 のニーズに合 わせ
加 えられたり、書 き直 されたりしている。特 に成 人 患 者 のほとんどの症 状 は悪 性 細 胞 によるもので
あるのに対 して小 児 患 者 では約 40%にすぎないからだ。残 りの多 くは先 に述 べた脳 、神 経 障 害 、
進 行 性 の病 など、治 療 方 法 が少 なく、限 られているものが多 い(Royal Children’s Hospital
Palliative Care Program Director, Quayle 氏 とのインタビューより)。しかし共 通 するのは小 児 患
者 をケアする上 で抱 える独 自 の問 題 (例 :兄 弟 や若 い両 親 に対 するケア、子 供 に対 する告 知 、
病 名 の説 明 など)を考 慮 したうえでやはり成 人 とは異 なるサービスの設 定 が必 要 である、という理
念 で行 われているという点 である。現 在 、日 本 では小 児 病 棟 の閉 鎖 や小 児 科 の現 象 などが深 刻
な問 題 になっているが、とはいえ小 児 患 者 にとっての医 療 環 境 を低 下 させることは矛 盾 している。
こうした人 口 比 のためにサービスが運 営 できないことは多 くの国 で共 通 した問 題 であることが、今
回 さまざまな専 門 職 、現 場 スタッフとの対 話 から明 らかになった。
表 1 小 児 患 者 に関 する統 計 比 較
米国
(National Hospice & Palliative
英国
(Department of Health
(参 考 資 料 )
Care Organization HP 及 び
(参 考 資 料 )
HP およびマニュアル本 参
National Center for Health
照,
Statistics’ Multiple Cause of
2007 発 行 )
Death Files, 1989-2003)
小児死亡数
平 均 53,000人 (0~19歳 )
小児死亡数
約 20,000人
ホスピス・
5000-7000人
小 児 死 のなかで緩
約 2000人
緩 和 ケア登 録
和 ケアを必 要 とし
数
た数
死 を迎 えた場
1989-1993 年
1999-2003 年
ケア提 供 &
病 院 (74%)、自 宅 (19%)、
所)
-自 宅 (12.3%)
-自 宅 (17.7%)
死 を迎 えた場 所
ホスピス(4%)
-ケアセンター他
ケアセンター他
(2%)
(2.2%)
-病 院 (85.7%)
-病 院 (80.1%)
表 1 に示 すように、ホスピス先 進 国 の英 国 であっても約 1割 の子 供 しか緩 和 ケアを受 けられてい
ないのが現 実 である。この数 字 は米 国 内 でも同 様 でたとえばコロラド州 やカリフォルニア州 でも平
-3-
均 5-10%の小 児 患 者 しか適 当 であるはずの緩 和 ケアを受 けていないという統 計 がある。また同
様 に、オーストラリアビクトリア州 ではおよそ 2-5%の小 児 患 者 が緩 和 ケアの対 象 であるという。
(Royal Children’s Hospital Paediatric Palliative Care Program Director, Carol Quayle 氏 )。
先 進 国 であっても、子 供 の数 、小 児 科 にかかる患 者 の中 でも緩 和 ケアでなお QOL を高 い生 活
を送 れるはずだと思 われる患 者 は多 いようだ。今 回 学 会 や訪 問 先 病 院 で対 談 を持 った小 児 ホス
ピス・緩 和 ケア専 門 医 のほとんどが小 児 科 という部 門 はとても“Protective”な場 所 である、と語 っ
ていた。このよく使 われた“Protective”という意 味 には、「壁 がある」「敷 居 が高 い」「外 部 者 をなか
なかうけつけない」というメッセージがこめられている。たとえば、病 院 内 でコンサルティング業 務 を
行 っている病 院 でさえも、そうした問 題 は日 常 茶 飯 事 であるという。シンガポール KK 病 院 の
Michelle Tay 医 師 によると、問 題 の多 くは Prolonging Life(延 命 )vs. Symptom Management
(疼 痛 緩 和 )という理 念 を理 解 しながらも、いつ疼 痛 を緩 和 するという方 法 を取 り入 れるかであると
いう。先 に述 べた Protective といわれる理 由 として、緩 和 ケアチームへの紹 介 の遅 れが生 じると
いう。治 療 にかかわる医 師 も、こうした結 果 的 に子 供 に与 える身 体 的 苦 痛 、そしてそれを見 る家
族 への精 神 的 苦 痛 を理 解 し、早 いうちから緩 和 ケアチームと共 同 で取 り組 むという動 きが一 番 理
想 的 であろうという。少 子 化 に伴 いどこの国 でも子 供 の数 は絶 対 数 として成 人 と比 べて少 ないし、
同 時 に医 学 の進 歩 によって治 す治 療 をできる限 り続 けるという医 師 と家 族 の希 望 、しかしそれで
もやはりそれでも子 供 の QOL を考 えてベストな選 択 が痛 みや症 状 の緩 和 であるとき、そのときは
医 療 専 門 職 が最 先 端 の緩 和 ケアを提 供 できる環 境 が必 要 なのではないだろうか?英 国 のデー
タによると自 宅 で死 を迎 える小 児 患 者 は約 全 体 の 19%とあるが、これは増 加 傾 向 にあるという。そ
して何 よりも子 供 たち、そして親 も自 宅 で最 後 を迎 えたいという希 望 が増 えているということだ。サ
ポートがある環 境 であればあるほど在 宅 のケアは可 能 であり、そのためには社 会 資 源 および地 域
社 会 のサポートも必 然 的 に必 要 になってくる。
-4-
2.小 児 患 者 に対 する在 宅 ホスピス・緩 和 ケア
在 宅 ケアの環 境 については、米 国 、英 国 、そして豪 州 においてもほぼ似 たような状 況 である。
共 通 点 としては成 人 の緩 和 ケアを必 要 とする患 者 層 に比 べて、小 児 患 者 は後 回 しになりがちで
あるということだ。社 会 の構 造 から言 って世 界 的 に高 齢 者 の比 重 が高 くなっていることによって、
金 銭 的 な医 療 保 障 が小 児 患 者 の緩 和 ケアという特 別 枠 ではなかなか設 けられないのが現 状 の
ようだ。同 時 に、小 児 高 度 医 療 が発 達 しながらも神 経 難 病 や小 児 における特 殊 な病 など治 療 法
の少 ない病 と向 き合 う患 児 、そしてその家 族 にとって在 宅 において痛 みの緩 和 、症 状 の緩 和 を
中 心 としたケアを受 けられる環 境 に対 するニーズは高 まっているように感 じた。
米 国 の緩 和 ケアの歴 史 は長 いが、小 児 に特 化 したサービスものに関 しては近 年 の動 きのようだ。
今 回 訪 問 したオレゴン州 ・レガシー医 療 グループ在 宅 ホスピスチームでも、オレゴンで初 めて小
児 在 宅 ホスピスチームとして成 立 する事 務 的 な手 続 きを訪 問 時 行 っていた。かつてから小 児 患
者 の受 け入 れはあったものの、成 人 のように Medicare で細 かなルールが決 められていない小 児
のケアに対 してのルール設 定 、小 児 独 自 の問 題 、例 えば臨 床 での注 意 点 などを設 立 された小
児 チームのスタッフが日 々話 し合 いを続 けていた。かつて在 宅 ホスピスはメディケアを保 持 する人
たちだけが受 けられるサービスであったために、自 然 とサービスの対 象 者 は成 人 が中 心 であった。
そのため、多 くの団 体 では寄 付 金 や特 別 基 金 などで小 児 患 者 や若 年 層 の患 者 に対 して補 助 を
行 っていたが、近 年 のホスピス・緩 和 ケア分 野 に対 する社 会 の理 解 から、多 くの一 般 の保 険 (多
くの場 合 家 族 が加 入 するプライベート保 険 )が年 齢 に関 係 なく在 宅 ホスピス・緩 和 ケアをカバー
できるようになった。そうしたことからサービス受 給 層 は小 児 にまで広 げることが可 能 になったのだ。
オレゴンにおいては在 宅 緩 和 ケアサービスの紹 介 元 となる大 学 病 院 小 児 科 が地 域 の在 宅 看 護
団 体 と連 携 を強 化 して、より多 くの子 供 たちが自 宅 に帰 れるようなネットワーク作 りを強 化 している。
ポートランド市 内 にあるオレゴンヘルスサイエンス大 学 病 院 の小 児 科 では小 児 緩 和 ケアコンサル
ティングチームとして Bridge Program を約 5 年 前 に発 足 した。チームメンバーは医 師 、看 護 師 、
ソーシャルワーカーで、退 院 希 望 で在 宅 ケアが可 能 な患 者 を在 宅 に戻 すためのコンサルテーシ
ョンと在 宅 に戻 った後 に在 宅 看 護 団 体 と連 携 し継 続 したケアを提 供 することが主 な役 割 である。
週 に一 度 の会 議 を地 元 の在 宅 看 護 団 体 の小 児 担 当 看 護 師 と合 同 で行 い、在 宅 に帰 れそうな
子 供 たちについて情 報 交 換 を行 っている。小 児 患 者 の在 宅 緩 和 ケアという点 では先 に述 べたよ
うにまだまだ歴 史 が浅 く、認 識 も低 いために、こうしたサービス提 供 元 が強 く連 携 し、お互 いの人
為 的 そして物 理 的 なサービスを合 わせて提 供 していくことがよりよい環 境 を作 ることにつながるた
めに今 後 非 常 に重 要 になると伺 った。(Personal Interview with Legacy Portland Hospice
Maria Opie RN 及 び OHSU Bridge Program, Brian Gish MSW)
NY 州 のセント・メアリー病 院 は歴 史 のある小 児 病 院 であるが、あくまでも目 的 は在 宅 に帰 るこ
とであり、病 院 での生 活 は在 宅 ケアへのトランジションとして位 置 づけしている。そのため、病 院 に
いるのは一 時 的 でまた在 宅 に戻 った後 も、病 院 へのレスパイトが目 的 で入 院 となるのが一 般 的
のようだった。そのためにこの病 院 で最 も重 要 に考 えていることは、子 供 のできる限 りの能 力 でで
きる限 り自 立 した生 活 を送 ることである。子 供 たちは薬 を時 間 通 り飲 むこと、おもちゃを片 付 ける
-5-
ことなど、日 常 生 活 でも役 立 つスキルを学 ぶという目 的 でポイントを稼 ぎ、そのたまったポイントで
好 きな本 や映 画 を見 たりできる。こうしたできる限 りの自 立 を目 標 としていたのにはやはり滞 在 期
間 の限 界 、滞 在 施 設 の不 足 という問 題 、そして家 族 の「自 宅 で子 供 を生 活 させたい」という多 く
の希 望 である。滞 在 中 話 をしていた小 児 在 宅 専 門 看 護 師 によると、小 児 患 者 として生 活 できる
時 間 はある程 度 小 児 病 棟 などへのアクセスがあるが、18歳 以 上 になると長 期 療 養 施 設 はアメリ
カにはほとんどなく、難 病 などの子 供 を抱 える家 族 のためのレスパイト施 設 が必 要 であるというこ
とが、在 宅 で家 族 の支 援 を行 うナースやソーシャルワーカーから多 くの声 が聞 こえた。(Personal
Communication with Daniel Colletti PhD)
米 国 はいわずと知 れたメディケアという制 度 によって医 療 は成 り立 っているが、ホスピス・緩 和
ケアに関 しては 65 歳 以 上 のメディケア患 者 及 びプライベート保 険 に加 入 しているものが対 象 者
である。ゆえに、小 児 患 者 はこれまで緩 和 ケアの対 象 ではなく、そのために必 要 な場 合 にはそれ
ぞれの団 体 で管 理 する寄 付 金 、または小 児 患 者 の家 族 が保 持 するプライベート保 険 によって在
宅 ケアをまかなっているのが現 状 だ。たとえプライベート保 険 でカバーされるといっても、成 人 患
者 と大 きく違 う点 は、成 人 患 者 のような厳 しいルールが設 定 されていないために、小 児 患 者 は長
い間 サービスを受 けることが多 いということだ。また対 象 はがんや慢 性 疾 患 よりも、脳 障 害 、神 経
障 害 のためのターミナル症 状 にある子 供 たちが多 く、また家 族 も在 宅 ホスピスサービスを利 用 す
ることで、在 宅 でケアすることが可 能 になっているということを話 す家 族 が多 かった。Feudtner他
による調 査 によると 2 近 年 在 宅 でホスピス・緩 和 ケアを受 ける患 者 数 は増 加 しているという。表 1の
死 を迎 えた場 所 を参 照 すると、1989-1993 年 の間 と、1999-2003 年 のデータを比 べると病 院 死
が5%減 少 、在 宅 死 が5%増 加 している。このような変 化 が現 れている背 景 について現 場 の専 門
職 たちは次 のように考 察 している:1) 民 間 レベル、それも患 者 の家 族 、中 でも実 際 にケアにかか
わる両 親 のホスピス・緩 和 ケアに対 する理 解 が深 まった、2)以 前 よりも在 宅 ケアの質 が向 上 し、ま
た選 択 肢 も広 がり、ある程 度 高 度 なケアも在 宅 で可 能 になった、さらに、3)在 宅 ホスピス・緩 和 ケ
アスタッフの充 実 から訪 問 回 数 を増 加 した。以 上 のような点 で以 前 よりも増 して終 末 期 の小 児 患
者 に対 して、希 望 に応 えられる在 宅 ケアがより可 能 になったという。こうした傾 向 は、「環 境 が整 っ
ていればできれば在 宅 で」という家 族 や患 者 の希 望 を可 能 にしている。 同 時 に近 年 さらに着 目
されているのは、成 人 前 の子 供 入 居 可 能 の施 設 の設 立 だ。先 に述 べたように小 児 患 者 の病 はと
きに原 因 や治 療 法 が不 明 確 なことが多 く、療 養 期 間 が成 人 の患 者 に比 べて長 期 間 である。その
ために家 族 の負 担 は大 きく、成 人 患 者 の家 族 が利 用 できるレスパイトというサービスがこうした小
児 患 者 を抱 える家 族 にも必 要 なのだ。米 国 の制 度 では成 人 患 者 (主 に 65 歳 以 上 )はメディケア
や個 人 で保 持 するプライベート保 険 によってこうしたレスパイトサービスを利 用 でき、患 者 は地 域
施 設 に入 居 することが可 能 だが(主 に、ナーシングホーム)、小 児 の患 者 にとってこうした施 設 は
2
Shifting Place of Death Among Children With Complex Chronic Conditions in the United States, 1989-2003
Chris Feudtner, MD, PhD, MPH; James A. Feinstein, MD; Marlon Satchell, MPH; Huaqing Zhao, MS; Tammy I.
Kang, MD JAMA. 2007;297:2725-2732.
-6-
限 られている。小 さな子 供 、または多 感 な時 期 の子 供 をナーシングホームのような場 所 に入 れる
ことは家 族 にとってもそして実 際 滞 在 する子 供 にとっても精 神 的 苦 痛 が大 きく、また小 児 ケアを
担 当 できる専 門 職 を確 保 することも難 しい。小 児 といってもやはり 0 歳 から 18 歳 と差 は大 きく、そ
れぞれの発 達 状 況 を理 解 し、適 当 な施 設 があることが望 まれており、こうした施 設 に対 するニー
ズは高 まっているようだ。(Personal Communication with Jeannie S. Winsness RN)
英 国 においては小 児 に対 する在 宅 ケアは歴 史 がある。しかしやはり米 国 同 様 に今 回 訪 問 した
Newcastle 市 の St.Oswald ホスピスでも長 期 化 する入 院 患 者 に対 するケアと援 助 が問 題 となって
いた。現 在 の英 国 の医 療 システムは日 本 同 様 に地 域 によっては小 児 科 が閉 鎖 したり、小 児 科 医
の減 少 が目 立 っている。 病 院 での長 期 療 養 よりも在 宅 ケアでという流 れから近 年 では在 宅 ケア
のニーズそして質 が向 上 し、訪 問 看 護 師 が医 師 の指 示 のもと小 児 患 者 を在 宅 でケアするという
環 境 が整 っているようだ。英 国 の場 合 、医 師 も看 護 師 も小 児 のケアにかかわるためにはそのため
のトレーニングを終 了 していないといけないというルールがあり、たとえ在 宅 ホスピスケア団 体 が小
児 患 者 を紹 介 されても、ケアするナースがそのライセンスを保 持 していないとケアを提 供 すること
はできない。訪 問 した St.Oswald ホスピスが成 人 ホスピス、小 児 ホスピスと 2 棟 に分 かれて運 営 し
ているのもそのためである。そのために専 門 職 はプロ意 識 が高 く、それぞれの専 門 性 を生 かした
サービス構 成 になっている。また、米 国 同 様 に在 宅 でケアしたいという親 の希 望 も高 く、
St.Oswald ホスピスではホスピスに来 る患 者 は短 期 滞 在 、目 的 は主 に疼 痛 緩 和 やレスパイトであ
る。長 期 滞 在 を拒 むわけではないが、こうしたサービスのニーズのほうが高 く、常 にウエィティング
リストがあるという。こうしたサービスへの紹 介 は患 者 のソーシャルワーカー(NHS のサービスを受
ける小 児 患 者 には一 人 に一 人 ソーシャルワーカーが担 当 としており、常 に状 況 を把 握 している)
から行 われ、情 報 は常 に交 換 されており、そのために一 度 ホスピスにかかった患 者 はその後 もも
し連 絡 をとりたければいつでも可 能 でという組 織 的 なシステムも確 立 されている。(Personal
Communication with Janet Jackson social worker/reverent)
オーストラリアでも同 様 にできる限 り在 宅 でケアしたいという希 望 が多 い。オーストラリアの場 合
特 に土 地 柄 が影 響 していて、メルボルンのような都 会 にいる人 口 よりも畑 に囲 まれて病 院 が地 域
にない場 所 に住 む人 口 のほうが多 く、在 宅 ケアはそうした人 たちにとって重 要 な医 療 サービスの
ひとつである。キャロル氏 がディレクターを勤 めるロイヤルチルドレンズホスピタル(RCH)では 24 時
間 体 制 のサポートを地 域 の訪 問 看 護 サービスと連 携 して行 っており、在 宅 ケアを受 ける子 供 たち
が万 が一 緊 急 の訪 問 を必 要 になった場 合 には対 応 できるようになっている。RCH 自 体 は急 性 期
の病 院 であり、緩 和 ケアプログラムはこの病 院 のサービスのひとつとして位 置 づけされている。し
かし、この緩 和 ケアプログラムはオーストラリアでも唯 一 の小 児 対 象 の緩 和 ケアプログラム(近 年
パースにも設 立 されたがまだサービス地 域 が狭 い)であることから RCH のプログラムには病 院 内
からだけではなく、ビクトリア州 全 体 から患 者 の相 談 、紹 介 が来 る。年 に約 220 人 ほどが平 均 だと
いう。メルボルン郊 外 の地 域 によっては最 寄 の訪 問 看 護 師 が自 宅 に到 着 するまでに 1 時 間 以 上
かかる地 域 、悪 しくは場 所 柄 、緊 急 の訪 問 が無 理 なところもあるが、そういう場 合 は地 域 にある病
院 を対 応 先 としている。サービスの一 部 として 24 時 間 体 制 の訪 問 看 護 サービスと連 携 があるの
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もこうした緊 急 対 応 に対 応 できるシステムを患 者 が緩 和 ケアサービスに紹 介 された時 点 で設 定 し
ておくことが何 よりも大 事 だとキャロル氏 は語 る。RCH はまた地 域 のリエゾン的 な役 割 をしており、
先 に述 べたようなそれぞれの地 域 でのサポートネットワーク作 りをはじめ、必 要 なサービスの紹 介
及 び提 供 、患 者 の主 治 医 である小 児 科 医 にとっての相 談 役 であること、そのように患 者 ・家 族 が
すでに持 っているシステムの中 に RCH の緩 和 ケアチームが一 緒 にケア提 供 にかかわることで患
者 ・家 族 にとってはサービスの厚 みを増 すという利 点 があるという。メルボルン市 内 、近 郊 におい
てホスピス病 棟 を希 望 している子 供 たちのために、RCH は子 供 専 用 のホスピス団 体 、Very
Special Kids と連 携 をとっている。ここは100% 寄 付 金 で運 営 している NPO 団 体 で、サービス料
は無 料 である。ここでは長 期 入 院 よりも、どちらかというとレスパイトやショートステイでの利 用 が多
い。それは家 族 の多 く、そして患 児 である子 供 たちの多 くが自 分 の愛 する家 族 の近 くにいたいと
いうのがほとんどのようで、先 に述 べた英 国 やアメリカ同 様 、諸 外 国 においてはこうしたできるだけ
在 宅 でのケアを可 能 にし、いかに家 族 の負 担 を援 助 できる環 境 を作 るか、という点 で小 児 在 宅
緩 和 医 療 の環 境 が発 展 しているようである。(Personal Communication with Carol Quayle MSW,
RN)
3.グリーフケアの意 味 と必 要 性
グリーフケアは緩 和 ケアにおいて欠 かせないものである。WHO の定 義 の中 にも提 供 されるべき
サービスとして記 載 されており、医 療 分 野 において、精 神 的 なケアを提 供 できる環 境 がソーシャ
ルワーカーを中 心 としたアライドヘルスによって整 っている諸 外 国 において、特 に小 児 にかかわる
分 野 においてグリーフケアは日 常 的 に行 われているサービスのひとつである。ホスピス・緩 和 ケア
分 野 においては特 に子 供 に対 しての告 知 は専 門 職 にとって難 しい臨 床 テーマであり、そのため
にグリーフケアというものは欠 かせない。それは単 にいかに事 実 を伝 えるかということだけではなく、
そうした伝 える行 為 は子 供 の発 達 段 階 に応 じた工 夫 が必 要 であったり、成 人 患 者 と異 なり子 供
への対 話 は親 を通 して(あるいは確 認 の後 )しなくてはいけないというケースが多 いなど、複 雑 な
背 景 がある。法 的 には親 の管 轄 であるから、親 に伝 えてその後 は親 に任 せるという現 場 が多 い
一 方 で、現 実 では自 分 の病 気 や治 療 に不 安 を抱 えながら闘 病 生 活 を送 る子 供 も少 なくない。
子 供 の権 利 を主 張 する点 では、子 供 にも知 る権 利 があり、死 ぬという難 しい現 実 も伝 えるべきで
あるが、一 方 でそうした理 想 を実 践 するためには複 雑 な死 生 観 、医 療 者 と家 族 、患 者 との信 頼
性 を考 慮 する、そして何 よりもそうした事 柄 を伝 えられる専 門 職 の育 成 など多 くの壁 が存 在 する。
そうした情 報 があやふやな生 活 の中 で、子 供 は成 人 のように自 分 の問 題 をうまく言 葉 で表 現 でき
るとは限 らず、時 に親 にとっては理 解 しがたい形 で不 安 や悲 しみを表 現 することがあり、それがま
た大 人 に対 してのストレスを引 き起 こすこととなる。また、子 供 を看 護 するということ、さらには亡 く
すということは親 にとっても非 常 に心 労 の重 なることであり、そうしたストレスをうまくコントロールで
きない、適 切 な援 助 を得 られないなど、そうした状 況 から引 き起 こされる悲 しみ(グリーフ)によって
生 活 の崩 壊 をもたらすこともある。そうした精 神 的 な苦 痛 を取 り除 くという意 味 でもグリーフケアは
非 常 に重 要 視 されている理 由 である。
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また、ストレスをうまくコントロールできなかった場 合 、それは医 療 アセスメントにも影 響 すること
がある。ボストンハーバード大 学 病 院 ダナ・ハーバー小 児 緩 和 ケア研 究 所 の研 究 報 告 では、子
供 たちは成 人 に比 べて語 彙 力 や表 現 方 法 が乏 しいことが多 いために自 分 の痛 みや苦 しみをうま
く表 現 できないことが多 い。そうした状 況 では子 供 の代 わりにその苦 痛 を代 弁 する親 、そしてアセ
スメントをする医 療 者 、この 3 つの関 係 は成 人 と比 べてとても複 雑 のようだ。先 に述 べた親 のスト
レス度 合 いによって、子 供 が実 際 感 じている痛 みよりも高 く痛 みを報 告 したり、又 は医 師 側 が子
供 の表 現 からうまく痛 みや苦 痛 をくみとれないということもありえる。小 児 の臨 床 現 場 ではこうした
複 雑 な身 体 と精 神 の関 係 性 、親 を介 してのコミュニケーション、子 供 の発 達 年 齢 による表 現 力 の
違 いなどの複 雑 性 から、患 者 と専 門 職 は痛 みと症 状 をかなり異 なってみているという報 告 がある。
(表 2 参 照 )
表 2 患 者 と医 師 の苦 痛 レポートの差 (参 照 :NEJM, 2000, 342(5), 326)
症状
患 者 による報 告 数
医 師 による報 告 数
だるさ、倦 怠 感
44(48%)
1(1%)
痛み
15(16%)
11(12%)
呼吸困難
19(21%)
10(11%)
食欲減退
33(36%)
1(1%)
便秘
31(34%)
7(8%)
吐 き気 ・嘔 吐
25(27%)
18(20%)
下痢
20(22%)
8(9%)
こうした差 はいかに生 じるのか?先 に述 べたストレスを軽 減 し、いかに患 児 をとりまく大 人 が冷
静 に適 切 な判 断 ができるか、という点 でもストレスマネージメントなど精 神 的 なケアを提 供 するソー
シャルワーカーや、グリーフケアは効 果 的 である。こうした患 者 と医 師 ・看 護 師 との間 にソーシャル
ワーカーという心 理 専 門 職 を入 れることがいかに幅 広 い意 見 、声 を聞 くことに効 果 的 かというのは
近 年 のチーム医 療 、異 業 種 医 療 ということで望 まれている。日 本 では近 年 保 育 士 を小 児 科 に補
充 することがあるが、あくまでも役 割 は保 育 であり、チーム医 療 の一 員 という位 置 づけにはなって
いない。諸 外 国 の例 では専 門 のソーシャルワーカーやカウンセラーが必 ず担 当 としており、こうし
た点 でも異 業 種 の介 入 が望 まれる。(Personal Interview with Sarah Bates RN at St. Oswald
Hospice, UK)
グリーフケアとは単 に患 者 の死 後 に遺 族 に提 供 されるものではなく、継 続 的 に行 われるものと
して諸 外 国 の現 場 では日 常 的 に行 われている。現 場 にいるソーシャルワーカーとの対 談 ではほ
とんどのワーカーが一 番 大 事 にしているケアとして、グリーフケアをあげた。それは患 者 本 人 との
かかわりだけではなく、家 族 そして兄 弟 に及 ぶまでさまざまな適 当 なツールを使 って病 、そして死
と向 き合 う援 助 をするというものである。 そうした継 続 したケアがある場 合 ほど、患 者 ・家 族 の満
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足 度 は高 く、医 療 者 とも高 い信 頼 感 を気 づけるという研 究 報 告 を CHI の会 議 で米 国 テネシーに
あるバンダビルト大 学 緩 和 ケア科 のジョン・モルダー医 師 が発 表 した。
グリーフケアはまた医 療 者 にとっても必 要 なケアである。専 門 職 の中 には小 児 の死 が受 け入
れられない理 由 として、「自 然 の摂 理 に反 する」と回 答 するものがいる。未 来 があると思 われる小
児 が短 い人 生 を終 えていく、それを医 療 者 として介 護 するということ、特 に治 療 法 が見 つからな
い病 に立 ち向 かわなくてはならない場 合 は、やりきれない気 持 ち、敗 北 感 などそうした感 情 がグリ
ーフとして医 療 者 の中 にも現 れることがあるのだ。
そういうことを反 映 してか、グリーフという理 念 は今 回 参 加 した Children's Hospice
International、および Asia Pacific Hospice Network でも研 究 テーマとして医 師 、看 護 師 、カウ
ンセラーさまざまな立 場 の専 門 職 から発 表 された。医 療 専 門 職 自 身 がグリーフという学 術 的 背 景
を理 解 することで、自 分 自 身 の専 門 的 立 場 をよりよく理 解 し、また患 者 ・家 族 のアセスメントも適
切 にできるという報 告 がおおく聞 かれた。また、ソーシャルワーカーのほかにアートセラピストやミュ
ージックセラピストを使 って、年 齢 に合 わせた表 現 方 法 を促 すための工 夫 も顕 著 に見 られた。研
究 指 導 をいただいたクゥエール氏 がディレクターを勤 める Royal Children's Hospital(RCH)で行
われているスタッフ教 育 でも、グリーフに関 する教 育 にはニーズが高 いという。小 児 ホスピス・緩 和
ケアというのは複 雑 な感 情 が入 り乱 れ、ときに患 者 、家 族 、そして医 療 者 それぞれが患 者 の抱 え
る病 、そしておこりえる死 というものを個 人 的 に受 け止 めてしまうことがたたある場 所 であるからだ。
そうした相 手 の痛 みが医 療 者 自 分 のトラウマになることを避 けるため、RCH の Palliative Care マ
ニュアルにはスタッフ自 身 が気 をつけるべきグリーフのリスク要 因 を表 3のように記 載 している。
表3
専門職向け
家族内
とりまく環 境
自 分 の家 族 のことを考 えてしまう
怒 りやうつ
家 族 が医 療 者 ・知 り合 い
過 去 のトラウマやグリーフを回 想
非 協 力 的 な家 族 に対 する怒 り
未 知 、非 明 確 な現 実 を持 ってい
死 や障 害 に対 する恐 怖 心
家 族 に医 療 従 事 者 がいる
る
何 かしないと不 安 でしょうがなく
複 雑 な家 庭 環 境
治 療 方 針 に対 する非 同 意
なる
患 児 の社 会 的 入 院 が継 続 する
こうして比 較 すると、専 門 職 、家 族 、そしてそれぞれの状 況 によって複 雑 な危 険 因 子 が潜 んで
おり、グリーフという考 えを理 解 していないまま精 神 的 なストレスが多 く潜 んでいるホスピス・緩 和 ケ
ア、特 に小 児 の分 野 の医 療 にかかわった場 合 、いかに簡 単 に医 療 者 が精 神 的 に追 い込 まれる
状 況 に陥 ってしまうかが理 解 される。日 本 の医 療 教 育 にはまだグリーフケアの教 育 は入 っていな
いが、それは諸 外 国 でも同 様 であり、だからこそキャロル氏 いわく、多 くの医 療 専 門 職 は実 際 現
場 に入 って実 践 を始 めるようになってからこうした知 識 の必 要 性 に気 づき、トレーニングやワーク
ショップに参 加 することが多 いという。キャロル氏 のプログラムでは病 院 内 に出 張 トレーニングを行
っているが、その中 でも人 気 が高 いのがやはりグリーフケア、そして専 門 職 にとっての境 界 線 とい
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うテーマだという。グリーフケアはまたこうした考 え方 だけではなく、こうした状 況 から以 下 に自 分 を
守 るかというセルフケアという点 での教 育 にも効 果 がある。小 児 という特 殊 な患 者 層 、そしてその
患 者 層 を囲 む大 人 たちへ野 もケアを期 待 される小 児 むけホスピス・緩 和 ケアではやはり専 門 職
のこうした意 識 が成 熟 していないと高 度 なケアは提 供 できないであろう。(Personal
Communication with Carol Quayle RN, MSW)
4.アンケート結 果
この調 査 を行 うに当 たり、現 場 の声 を幅 広 く理 解 すること、そして家 族 の体 験 をいかに今 後 の
よりよい小 児 医 療 環 境 を作 ることに生 かされるかということを目 的 にアンケートを行 った。主 に現
場 の看 護 師 (特 に緩 和 ケアナース)及 び子 供 を病 で亡 くした親 を対 象 として、情 報 を得 ることを
目 的 としたアンケート及 び対 話 を設 けた。対 象 人 数 は緩 和 ケアナース 29 名 (平 均 臨 床 経 験 14
年 )、数 名 の小 児 疾 患 により患 児 を亡 くした家 族 であったが、情 報 収 集 という点 から言 うと非 常 に
質 の高 い情 報 を得 られたと感 じている。
看 護 専 門 職 に対 する質 問 のうち、小 児 患 者 に対 する対 応 についてどう思 うか?という問 いに
対 し、8 割 の回 答 が「難 しく感 じる」というものであった。一 方 、経 験 年 数 に関 係 なく、小 児 患 者 に
緩 和 ケアを提 供 することに対 してどう思 うかという設 問 に関 しては、「想 像 できない」「成 人 と同 じ
意 識 」という回 答 も目 立 った。明 らかに小 児 患 者 に対 する緩 和 ケアを提 供 する機 会 が乏 しいこと
に反 映 するのだが、同 時 に、意 識 の違 いは個 人 的 な意 識 、感 覚 によるものであることが理 解 でき
た。今 回 のアンケート対 象 は主 に成 人 の緩 和 ケアにかかわる病 棟 及 び在 宅 ケアにかかわる専 門
職 であった。そういう背 景 から、今 まで担 当 した小 児 患 者 の件 数 は約 半 数 が 10 件 以 下 の経 験
数 であった。このアンケートで明 らかになったことは、小 児 患 者 に対 する臨 床 の少 なさから、自 分
が小 児 患 者 をケアすることになったらという想 定 のもとでしか答 えられないことが多 々あったという
ことだ。小 児 に対 するホスピス・緩 和 ケアを行 うケースが非 常 に少 ないために、臨 床 経 験 を持 って
いる専 門 職 が少 ないこと、またこうしたニーズの低 さから学 びたいと思 う専 門 職 に対 する学 ぶ環
境 や機 会 も整 っていないといえる。
告 知 や病 状 の説 明 に関 しての医 療 者 側 の回 答 は、立 場 的 な問 題 や役 職 に求 められる責 任
分 担 が浮 き彫 りとなった。例 えば、「それは医 師 の役 割 だから看 護 師 はサポートに回 る」、「そうい
うことをやるとは考 えられない」という声 である。本 人 がどう思 うか、という質 問 であるにもかかわらず、
こうした回 答 があるということは制 度 の限 界 や、その専 門 職 がいる環 境 ではこうした実 践 が行 われ
ないという限 界 を感 じられる。また一 方 では、「内 緒 にするのは悪 いと思 う」「家 族 の意 見 を聞 きな
がら進 めるべきだ」と考 えている専 門 職 の声 も多 く、実 際 やるとすればこうしたい、という希 望 や考
えがあっても、自 分 のいる環 境 においてはなかなか家 族 への介 入 や子 供 への説 明 という臨 床 に
は介 入 できない背 景 が伺 えた。
こうした告 知 に関 して家 族 の意 見 としては、「できればもう少 し看 護 師 やソーシャルワーカーに
介 入 してほしかった」や「医 師 の説 明 ではわかりきれないことがあった」という声 もあった。また、
「医 療 者 には心 を開 きづらかった。そういう話 を聞 いてくれる人 がいたらよかった」という声 から反
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映 されるように、非 医 療 者 という立 場 が患 者 ・家 族 にとっては時 に「話 しやすい人 」であり、医 療
者 に対 する精 神 的 な壁 がときに円 滑 なコミュニケーションを妨 げる原 因 となることが理 解 できた。
ソーシャルワーカーのような役 職 の元 来 の目 的 である、円 滑 なコミュニケーションを可 能 にすると
いう意 味 でも、チーム医 療 という環 境 で異 なる職 種 がかかわり、家 族 にとって話 し相 手 の選 択 肢
が増 える環 境 のほうがサポート環 境 を豊 かにするようだ。
コミュニケーションはやはり家 族 そして患 児 のストレスを軽 減 するものであり、家 族 の体 験 を伺 う
中 で、総 合 的 には満 足 しているものの、医 療 者 との対 話 に関 してはこうしてほしかったという希 望
が多 かった。例 えば、医 師 に対 しては「早 く告 知 をしてくれたほうが家 族 も情 報 収 集 や心 の準 備
ができるので、希 望 を持 ってケアをしてくれるのは理 解 できたが早 く言 ってほしかった」や、「伝 え
る内 容 はつらいことであるだろうが、親 としては早 い時 期 から詳 しい情 報 をしりたい」、や「治 してあ
げたいと思 うばかりで告 知 が最 後 の最 後 になってしまっているように感 じた」という声 からは、医 師
とこうしたつらい内 容 の話 でもできるという信 頼 関 係 の構 築 と専 門 職 のコミュニケーション能 力 の
重 要 性 、を指 摘 していた。特 に、「人 工 呼 吸 器 をつけることがどういうことか説 明 がないまま ICU
に入 り、子 供 はすでに麻 酔 がかけられており、最 後 まで対 話 ができないままの別 れになってしまっ
たことは悔 やまれる」といったような環 境 は避 けられるべきである。医 師 をはじめとする専 門 職 の知
識 ベースの医 療 臨 床 は時 に知 識 の少 ない一 般 の人 に対 しては「説 明 不 足 」と感 じられることが
多 いということがよく聞 かれた。薬 や症 状 の説 明 も、「一 度 の説 明 だけではわからないことが多 か
った」という家 族 が多 いことから、繰 り返 し、そして継 続 的 にこうした会 話 を持 つことが重 要 だと伺
える。 また看 護 師 のアンケート回 答 で目 立 った、「説 明 は医 師 の役 割 である」というような役 割
的 な問 題 から、親 から看 護 師 に子 供 の QOL を高 めるための希 望 を話 しても(例 えば外 泊 や外
出 )、「聞 いてくれはしたけど、ドクターに聞 いたらだめでした」のようなマニュアルどおりのパターン
が多 くて、個 別 に対 応 できるシステムであってほしいと望 む声 も聞 かれた。ある母 親 は、「子 を失
った母 として満 足 はないし、医 師 にはよくやってくれたと思 う反 面 、不 満 も多 くある。でも誠 意 が伝
わってくる方 には不 満 があっても思 いをいただけたと思 うので、医 療 者 にはそういう誠 意 とか気 持
ちをもっと出 してほしい」というコメントを残 した。
専 門 職 そして家 族 側 に共 通 してみられたのが、残 された兄 弟 姉 妹 へのケアである。専 門 職 の
中 では、「気 になってはいても業 務 が優 先 で手 が回 らない」というコメントが多 く、家 族 側 からは、
「悪 いと思 いながらも患 児 に付 きっ切 りになってしまい、兄 弟 (姉 妹 )の話 し相 手 になってやれず
心 苦 しい」というコメントが多 かった。これは先 に述 べたグリーフケアにも関 係 するが、こうした見 え
ないニーズに対 応 できる専 門 職 、特 にソーシャルワーカーの介 入 は先 に述 べたコミュニケーショ
ンの問 題 動 揺 、必 須 に感 じられた。
また、アンケート回 答 の中 で目 立 ったのは特 に在 宅 ケアの有 無 であった。患 児 の QOL という
点 から、患 児 自 身 が本 当 は在 宅 を望 んでいたが、その希 望 をかなえる地 域 資 源 が無 かった、地
方 病 院 と都 市 病 院 の連 携 が難 しく、地 方 在 住 の患 児 を家 に戻 すことは難 しかったことが悔 やま
れるという声 があった。医 療 者 の熱 心 なケアに対 する感 謝 の気 持 ちを述 べる一 方 で、「(子 供 は)
本 当 は自 宅 で家 族 に囲 まれて最 後 を迎 えたかったはず、可 能 ならば在 宅 緩 和 ケアを受 けさせた
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かった」というコメントに象 徴 されるような、家 族 と一 緒 に在 宅 ですごすことを最 後 まで可 能 にした
かったという思 いを持 つ親 が多 いように感 じられた。こうした声 は現 在 高 齢 者 中 心 の介 護 サービ
スが基 本 となっている在 宅 医 療 の今 後 の発 展 という点 で生 かすべき点 だと考 察 する。
5.諸 外 国 の小 児 緩 和 ケアの実 態 -施 設 訪 問 と学 会 調 査 より-
最 後 に、参 加 した 2 つの学 会 で発 表 された中 で、新 しい試 みを紹 介 する。
• 小 児 ホスピス学 会 (Children's Hospice International:CHI World Congress)
• アジアホスピス・緩 和 ネットワーク(Asia Pacific Hospice Palliative Care Network-APHN)
CHI はアメリカワシントン DC に本 部 を持 つ NPO 団 体 で、4 年 に一 度 アメリカ国 外 で国 際 学 会 と
称 してネットワーク会 議 を開 いている。 分 野 として成 長 過 程 にあることから所 属 団 体 は少 なく、
学 会 というよりはネットワークが目 的 の会 議 である。今 回 は開 催 地 シンガポールで先 端 医 療 を提
供 する病 院 として位 置 づけされている KK 病 院 が主 催 であった。KK 病 院 はシンガポール近 辺 各
国 では小 児 医 療 ・緩 和 ホスピス医 療 に関 してキーセンターとなっている病 院 であり、ディレクター
であるオーストラリア人 医 師 を中 心 にシンガポールをはじめ、近 隣 諸 国 に対 するティーチングホス
ピタルとしての立 場 も確 立 されている。また近 年 では、オーストラリアの緩 和 教 育 では歴 史 のある
フリンダース大 学 と連 携 し、アジア途 上 国 を中 心 とした教 育 活 動 にも熱 心 だ。この教 育 プログラム
は APHN を通 し、アジア途 上 国 の医 師 中 心 に奨 学 金 を支 給 しており、フリンダース大 学 と提 携 し
教 育 そして臨 床 研 修 を行 い、修 了 者 には APHN およびフリンダース大 学 からの大 学 院 レベルの
修 了 書 (Certificate)を得 る。このプログラムは Distance-Learning(インターネットを使 った授 業 )
が中 心 で、そのうち 2 週 間 シンガポールにて集 中 講 義 、そして 1 ヶ月 の臨 床 実 習 が課 される。臨
床 実 習 はシンガポールを始 め、各 国 の認 められた緩 和 ケアプログラムで行 われる。希 望 者 には
臨 床 を 3 ヶ月 に伸 ばして行 える選 択 肢 もサポートされ、さらにこのプログラムを終 了 後 に研 究 など
を続 けたい専 門 職 に対 しては、このプログラムで得 た単 位 をそのままフリンダース大 学 の大 学 院
継 続 のために使 うこともできる。
今 回 の学 会 、特 に CHI に関 してはアメリカ国 外 で開 かれたということもあり、世 界 中 から小 児 ホ
スピス・緩 和 ケア従 事 者 が集 まった。アフリカ諸 国 、アジア各 国 そしてオセアニアからも多 くの参
加 者 が集 まり、小 さな集 まりとはいえ、小 児 ホスピス・緩 和 ケアに対 するニーズの高 まりを感 じられ
るものだった。内 容 としてはネットワークが主 で、その他 ケース報 告 、プログラム説 明 、調 査 報 告 な
どが行 われた。APHN においても小 児 ホスピスケアは幅 広 く考 察 、報 告 されており、近 隣 のアジア
各 国 (台 湾 や韓 国 )の動 きも興 味 深 いものであった。印 象 としてはどの国 においても高 齢 化 の波
に押 され、小 児 ケアが後 回 しになりつつあり、なかなか思 い通 りの環 境 が整 えられないようだ。し
かしながらその中 でもやはり小 児 という特 異 な患 者 層 、そしてその家 族 たちが抱 える問 題 は特 別
なものとして取 り上 げられていた。その報 告 のなかからいくつか各 国 の新 しい動 きを報 告 したい。
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①アメリカ・サンディエゴホスピス
サンディエゴホスピスはアメリカサンディエゴにある 1977 年 に設 立 されたカリフォルニア、サン
ディエゴ地 域 を管 轄 するホスピスである。在 宅 ケアのほかに独 立 ホスピスとして病 棟 を持 ちホスピ
スケアに従 事 している。ホスピス病 棟 のほかにも在 宅 訪 問 サービスを提 供 し、サンディエゴ近 隣
全 域 の幅 広 いサービス地 域 を持 つ。サンディエゴホスピスはまた教 育 、指 導 にも熱 心 に取 り組 み、
医 師 、看 護 師 、ソーシャルワーカー、職 種 を超 えたフェローシッププログラム、および研 修 医 修 了
者 対 象 にホスピス専 門 医 を目 指 す医 師 対 象 の養 成 プログラムを持 つ。平 均 800 人 の患 者 数 を
持 ち、日 々サービスを提 供 するサンディエゴホスピスで近 年 始 められたプログラムが 妊 婦 を対 象
にしたホスピスケア だ。妊 娠 中 期 に胎 児 の異 常 が発 見 され、死 産 または命 の保 障 がない胎 児 だ
と診 断 を受 けた妊 婦 が妊 娠 を中 断 せず、継 続 することを決 めた場 合 にこのサービスは提 供 され
るという。
このプログラムの対 象 となる患 者 は産 科 医 、Genealogist などからの紹 介 がほとんどで、現 在 進
行 形 の喪 失 感 (Anticipatory grief)への対 応 にソーシャルワーカーや助 産 師 という専 門 職 も含 ま
れるという。1998 年 の米 国 のデータによると最 も多 い乳 児 の死 亡 原 因 は Congenital
abnormalities, prematurity, trisomy 18, neoplasm だそうである。サンディエゴホスピスに紹 介 さ
れてくる患 者 はすでにそれぞれの産 科 医 やかかりつけ医 から胎 児 の異 常 や死 産 の予 期 を宣 告
されている。しかしそのうちの 20-40%の母 親 はたとえ胎 児 に異 常 が認 められてその胎 児 の命 が
保 障 されていなくても、妊 娠 を継 続 することを望 むという。しかしながら今 の医 療 の中 でこうした母
親 に対 するケアは産 科 や一 般 診 療 科 では多 くの場 合 、母 体 の健 康 を考 慮 して堕 胎 を勧 めたり、
またはそうした母 親 の心 情 までもケアできる環 境 が整 っていない。その結 果 、こうした母 親 の決 断
は時 に孤 独 心 、疎 外 感 を生 み出 し、妊 婦 そしてその家 族 にとってつらい生 活 環 境 を作 り出 して
しまうという。そこで始 められたこのサンディエゴホスピスの新 しい取 り組 みは、Doula(母 子 看 護 )の
考 えに基 づき、人 が亡 くなるときのケアを行 うホスピスで、生 まれてくる、たとえ命 が短 い子 供 に対
してのケアをも行 えるのではないかという理 念 で始 められた。こうした妊 婦 が経 験 する喪 失 感 、そ
していずれ妊 娠 満 期 になったとき、死 産 または短 い時 間 しか持 たないわが子 と対 面 する母 親 、
家 族 がいかにその喪 失 と向 き合 えるかという、これから起 こりえる喪 失 に対 するグリーフケアを取 り
入 れた新 しい緩 和 ケアである。
こうした考 え方 は先 の報 告 にもあったニューヨークのセント・メアリー病 院 でも同 様 の理 念 で、
在 宅 及 び施 設 内 の緩 和 ケア病 棟 では”Doula(寄 り添 うという意 味 )“プログラムを行 っている。こち
らのプログラムではボランティアによって子 供 たちそして家 族 とよりそった精 神 的 なケアを行 ってい
るが、サンディエゴホスピスの理 念 も同 様 に、死 を特 別 視 、または終 わりという考 え方 ではなく、受
け入 れるための援 助 である。当 初 は斬 新 なアイディアに周 辺 の理 解 も得 られなかったが、この数
年 で産 科 や一 般 家 庭 医 との連 携 が強 まり、 より早 く適 切 な時 期 に介 入 することができていると
いう。こうした援 助 が得 られることの利 点 はサービス利 用 者 の増 加 だけではなく、一 般 開 業 産 科 ・
家 庭 医 師 側 にとっても、自 分 たちができないケアをまかなってもらえるという点 で相 乗 効 果 を挙 げ
ているということだ。新 しい緩 和 ケアの考 え方 であり、参 考 になった。
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② コロラド子 供 病 院 Colorado Children's Hospital
Dr. Brian Greffe がディレクターを務 めるコロラド子 供 病 院 の緩 和 ケアプログラムはバタフライプ
ログラムと呼 ばれ、その内 容 は病 棟 と在 宅 、そして通 いの 3 つをもつ。外 来 では 2 人 のソーシャル
ワーカー、牧 師 、そしてグリーフケアワーカー(カウンセラー)が従 事 しています。この外 来 では在
宅 ケア団 体 と連 携 をとり、必 要 なサービスをアレンジすることが狙 いだという。Dr. Greffe は CHI
での発 表 の中 で、
「小 児 の場 合 、ホスピス・緩 和 ケアサービスにやってくるのは”Crisis-driven” 緊 急 の措 置 を必 要
とする場 合 が多 い」と述 べた。そうしたことからゆっくりと患 者 、家 族 との信 頼 関 係 を築 くことがとき
に難 しく、早 いうちから介 入 するためにもバタフライプログラムの外 来 ではソーシャルワーカーのよ
うな話 相 手 、相 談 相 手 という立 場 の専 門 職 を中 心 に置 くことを何 よりも重 視 しているという。そし
て病 棟 においては医 師 、ナースプラクティショナー、2 人 の牧 師 が加 わり、これらの専 門 職 はチー
ムとしてともに業 務 に従 事 する。そして患 者 や家 族 は病 院 にいる間 、先 に述 べたどの専 門 職 とも
好 きなときにカウンセリングをはじめとするサービスを受 けることが可 能 で、いつでもどんな心 配 事
や相 談 事 ができるという。
ナースプラクティショナーのナンシー・キング氏 によると家 族 にとっていつどんな場 所 でもどんな
相 談 ができるということはとても大 事 だという。子 供 の変 化 は身 体 的 そして精 神 的 、心 理 的 、そし
て小 さな兄 弟 がいる場 合 そうした子 供 たちへの社 会 的 援 助 など、独 自 の問 題 に取 り組 む必 要 が
適 時 可 能 になるといい、そうした環 境 が患 者 をはじめ家 族 のストレス軽 減 にもつながるという。例
としてあげたのは、このプログラムでの相 談 内 容 の一 番 にあがる栄 養 導 入 に関 しての問 題 だ。栄
養 チューブをつけている小 児 患 者 に対 してそのチューブ導 入 という行 為 がいかに身 体 的 な影 響
を与 えているか、その栄 養 が体 に必 要 なものか、 または苦 痛 を与 えているものか、そうした難 し
い問 題 であっても、近 くにいてスタッフと家 族 が信 頼 関 係 を築 けている環 境 だからこそ適 切 な指
導 、コンサルテーションができると語 った。やはり栄 養 に関 しては親 が子 を養 うという普 遍 の倫 理
観 から多 くの親 にとって自 分 の子 供 が食 べられなくなったときは親 として最 も苦 しむ問 題 のひとつ
だという。特 に身 体 の低 下 が激 しく、栄 養 チューブが緩 和 よりも苦 痛 を与 えている場 合 、子 供 病
院 では倫 理 会 を開 いてスタッフ同 士 の意 見 交 換 を行 うという。こうした活 動 は子 供 病 院 のサービ
スのひとつとして提 供 されているが、米 国 においては一 般 的 に小 児 に対 する緩 和 ケアには金 銭
的 援 助 はない。(補 足 :65 歳 以 上 のメディケア保 持 者 、またプライベート保 険 保 持 者 は 100%ホス
ピスケアがカバーされる)小 児 患 者 に関 してはほとんどの場 合 医 療 費 はプライベート保 険 (家 族
が加 入 しているもの)、またはメディケイド(家 族 に一 定 の収 入 がないまたは難 病 や障 害 を持 つ障
害 者 と認 定 を受 けている場 合 )による提 供 が多 く、そのために提 供 側 の施 設 では小 児 緩 和 ケア
科 として独 立 して採 算 を取 ることは難 しく、病 院 内 では他 の科 との連 携 、またはコンサルテーショ
ンとしての立 場 を保 っている。こうした金 銭 的 な問 題 はアメリカならではの医 療 制 度 の問 題 であり
コロラドの病 院 に限 らず米 国 では多 く見 られるようだ。
しかしながらコロラドでは近 年 国 への働 きかけを続 け、昨 年 から小 児 で緩 和 ケア・ホスピスケアを
受 ける必 要 があると診 断 を受 けた子 供 はメディケイドの予 算 から100%援 助 を得 られることになり、
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子 供 にかかる金 銭 的 負 担 をなくすことができた。(注 :メディケアは国 の管 轄 、メディケイドは州 の
管 轄 )。コロラド小 児 病 院 のバタフライプログラムでは、病 院 内 そして在 宅 の患 者 にも疼 痛 、症 状
緩 和 、各 種 相 談 業 務 、そして精 神 的 なケアを行 っている。現 在 では 200-300 人 の患 者 が平 均
だったが、ディレクターの Brian Geoff 医 師 はコロラド州 全 体 で 4000 人 ほどの子 供 たちがこの援
助 によってケアされるだろうと予 想 している。今 のところ、こうした政 府 の援 助 を得 ながら小 児 患 者
向 けの緩 和 ケアを行 えているのはコロラド州 のみで、今 後 このプロジェクトからさらに全 米 各 地 で
動 きがあるであろうといわれている。
最後に
今 回 訪 問 したシアトルの子 供 病 院 の緩 和 ケアチーム、ワシントン DC 近 郊 の 3 大 学 病 院 (ジョー
ジタウン・ジョージメイソン・ジョージワシントン)が連 携 して行 っている小 児 ホスピス・緩 和 ケアプロ
ジェクト、ニューヨークの大 学 病 院 、そして先 に述 べたポートランドの大 学 病 院 、いずれも同 じよう
にコンサルタントとしての立 場 をとっている。そしてこうした専 門 職 はサービスの提 供 先 を病 院 の
みにとどまらず、地 域 病 院 そして地 域 の医 師 のための相 談 役 としても役 割 を担 っているのが共 通
に感 じられた。
最 後 に、この学 会 で発 表 をしたバンダビルト病 院 のジョン・モルダー医 師 によると多 くの医 療 専 門
職 は自 分 の分 野 の知 識 を習 得 することだけに集 中 しがちで、本 当 の意 味 の緩 和 ケアを忘 れがち
であるという。特 に小 児 という患 者 層 に対 しては、どこまでやっても終 わりがない、と感 じる医 師 が
多 いという。真 の緩 和 医 療 、特 に子 供 たちへのケアを考 えたときに、どれだけ治 療 できるかという
考 えももちろん大 事 であるが、子 供 だからこそ考 えなくてはいけない QOL(例 えば小 さい兄 弟 姉
妹 の近 くにいれるようにする)を理 解 し、総 合 的 になにがベストか理 解 できる医 療 者 でなくてはい
けないという。在 宅 という環 境 でどれだけ子 供 たちの緩 和 ケアを提 供 できるか、さまざまな国 の動
きを今 後 も興 味 深 く考 察 したい。
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6. 参 考 資 料 一 覧
(ア) 米 国 コロラド州 小 児 終 末 期 患 者 に関 する新 制 度
http://www.chcpf.state.co.us/ACS/Pdf_Bin/B0700240.pdf
コロラド州 の小 児 患 者 に対 するホスピス・緩 和 ケアを無 償 で提 供 するために、
変 更 された新 しい Medicaid 制 度 に関 する内 容 。
(イ) 南 アフリカホスピス・パリアティブケア団 体
http://www.hospicepalliativecaresa.co.za/Paediatric%20palliative%20care.htm
アフリカ地 域 を統 括 する団 体 。教 育 、啓 蒙 、情 報 提 供 、カンファレンス主 催 など
幅 広 い活 動 を行 っている。
(ウ) International Children’s Palliative Care Network(英 国 )
http://www.icpcn.org.uk/
英 国 に母 体 を置 く、小 児 緩 和 ケアに関 する情 報 発 信 を行 う国 際 団 体 。
研 究 や教 育 にも力 を入 れている。
(エ) Association of Children’s Palliative Care (ACT)
http://www.act.org.uk/
英 国 において小 児 ホスピス・緩 和 ケアに関 する情 報 発 信 を行 う NPO.
専 門 職 にとどまらず、介 護 者 、家 族 も参 加 できるトレーニングや会 議 を積 極 的 に
提 供 している。
*この研 究 は財 団 法 人 在 宅 医 療 助 成 勇 美 記 念 財 団 の助 成 により行 われました。
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