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本文を読む - 住宅生産団体連合会

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本文を読む - 住宅生産団体連合会
パネルデスカッション
「住宅の長寿命化と消費税」
(コーディネーター)
野城 智也 氏
東京大学生産技術研究所 教授
(パネリスト)
篠原 二三夫 氏 ニッセイ基礎研 土地住宅政策室長
関 弘典 氏
東急ホーム 技術開発部長
三澤 剛史 氏
全米リアルター協会 日本担当
(前アジア太平洋地区総括責任者)ロス在住
藤井 繁子 氏
リクルート住宅総研 主任研究員
(前「HOUSING」編集長)
住宅の長寿命化について
野城 まず住宅の長寿命化について皆さんのお考えを伺いたい。
藤井 「月間HOUSING」の調査で、家を建てた人に決め手となった理由を聞くと、住
宅性能に関しては、一番に断熱性とか気密性、次は耐震性で、「耐久性」は20%くら
いです。別の調査では、マンション購入者の重視項目で「耐久性、構造」は37.2%。
消費者は、この程度の感覚で耐久性を見ています。(参考資料参照)
一方で、「家族観、住まい観に関する世代別価値観調査」では、家族変化や老朽化
による住み替えの意識は「リフォームしながらでも住み慣れた家に住み続けたい」
「メンテナンスや修繕をしながら家を大切にしたい」が、若い人たちでも「住み替え
たい」より多い。
同様に、家の価値に対する考えでも、「家は古くなると価値が下がる」より、「家
族の思い出が詰まった家は自分にとって何より価値がある」が20歳代、30歳代の人た
ちで多く、古いものを大切にする傾向が見られた。日本の住宅に対する考え方や環境
も変わってくるのではないかと感じています。
篠原 欧米との比較で1950年以前に建てられた住宅を全住宅ストックでの割合をみる
と、アメリカ24.6%、イギリス38%、フランス33%、ドイツ28%に対し日本は4.7%。日本
の古い住宅は少ないといえます。(参考資料;参照)
イギリスの場合、ロンドンだと56%になる。1666年に大火災があり、1967年のロンド
ン再建法で「木造住宅はダメ、石造りに」というお達しが出たことが強く影響してい
ると思います。現地からヒアリングした時も、居住水準も古い住宅の方が面積が広
かったり、平均市場価格が高かったりで、古い住宅に対する抵抗感はあまりないとの
ことです。
アメリカの築年別住宅ストックを見ると空き家率は、どの築年でもあまりばらつき
がなく、いろいろな年代の住宅が利用されているのが分ります。日本の場合、国土交
通省の推計によれば、滅失した住宅の滅失までの期間は30年くらいとみており、イギ
リスやアメリカに比べて大幅に短い。同じ、住宅の滅失までの平均年数は、イギリス
は77年、アメリカは55年です。
寿命が短いと何が問題なのかというと、住宅の価格が20年程度で評価なしになって
しまうことです。住宅の取得者は、35年の住宅ローンを借りて20年しかもたない住宅
の借金を返しているということになります。おかしな状況です。建築に価値がないと
土地への需要が上がるというひずみが出て、社会経済のシステムをゆがめていくと思
います。
関 住宅業界としては、質の高い新築住宅の供給がまだまだ必要だと思います。耐震
性は1981年に新耐震設計基準ができ、2000年には建築基準法改正で他の技術的なもの
も整いました。省エネ性については、1999年に次世代省エネルギー基準(平成11年基
準)ができています。
現在のリフォームは内外装、設備の取り替えなどが中心ですが、断熱、耐震改修を
必要とする1981年以前に建設された建物が全体の40%、1150万戸もあるのも現実です。
住宅業界として何をすべきかを考察してみます。ハード面では、ストック住宅に対
する耐震、断熱改修の手法をきちんと進め、新築住宅向けには高耐久材の開発も必要
です。低価格で済む耐震プラスアルファの技術開発も推進する必要があります。ソフ
ト面では長期アフター保証制度の対応、住宅履歴情報の整備、買い取り保証制度の導
入などが必要となろうと思います。
私が心配しているのは、付加価値を高めた分、住宅価格が上がるのをユーザーが理
解してくれるのかどうか、建物の価値が本当に評価されるのかどうか等々、もう少し
整理が必要と思っています。
野城 三澤さんには日本とアメリカの両方の視点をお持ちの立場からお話しいただき
たい。
三澤 アメリカの住宅不動産市場と税制についてお話しします。既存(再販)住宅の売
却数は2005年に最高を記録、707万戸の取引がありました。新築住宅は同年にやはり
最高を記録、分譲住宅は130万戸売買をしています。これを見ても分かるように、ア
メリカではあくまでも既存住宅市場が中心です。
政府の減税サポート、消費者への税制面での恩恵としては、住宅ローンの利子控除
が恒久的で、30年ローンの利子分はすべて所得控除できます。固定資産税の税率は取
引価格の1.1%から1.5%です。また、持ち家所有者は純資産額を抵当に借り入れが可能
で、その「ホーム・エクイティ・ローン」の利子控除があります。「ホームエクイテ
イローン」とは、住宅の純資産価値(資産価値−住宅ローン残高)を担保として生活資
金等を融資するローンで、使途は限定されていません。アメリカでは広く普及して、
子どもの教育費や住宅のリモデル資金に利用されています。
住宅を売却したときの売却益は1997年に施行されたキャピタルゲイン減税があって、
夫婦だと50万ドル、約6000万円が免税されます。相続税の場合、納税前の控除は2003
年の時点で一人当たり100万ドルと多額です。
アメリカの住宅ローンはノンリコースです(*注)。借主が返済不能になった場合、基
本的に融資をした金融機関が持っていけるのはその担保物件のみです。借主は必要最
低限のものは保障され、再チャレンジができます。そうした社会の仕組みは、社会の
活力を維持していくという意味で、大切なことです。
住宅に関する税制を日米比較すると、アメリカにあるのは固定資産税と不動産譲渡・
取得税です。住宅に消費税はかからない。
アメリカにも地方税で日本の消費税のような小売税があります。サンフランシスコで
3.1%、ロスアンゼルスで8.2%です。生活必需品は非課税で、住宅はもちろん非課税で
す。日本では、住宅には他にもいろいろな税金が課税されているのではないでしょう
か。
(*注;ノンリコースローン(非遡及型ローン)とは、担保となる住宅以外に支払いの責
任が遡及しないローンをいいます)
住宅の長寿命化と既存住宅流通市場
野城 次に、少し論点を絞って、既存住宅の流通についてどうお考えになっているか
を伺いたい。アメリカの事情はどうですか。
三澤 2003年の時点ですが、アメリカの持ち家世帯総数が7300万世帯で、うち住宅
ローンの利子所得控除を受けられている世帯数が3500万世帯、これに対する税金の免
除総額は66億ドル、約70281億円に上ります。これだけ恩恵を受けているのですから
住宅流通は非常に盛んになっています。アメリカでは二軒まで自宅が持て、住宅ロー
ンの利子所得控除の対象になります。これも、アメリカ経済や住生活の豊かさ・ゆと
りを考える場合、効果的な仕組みとなっているのではないかと思います。
篠原 自由民主党の「200年住宅ビジョン」では十二の提言を掲げ、流通に関しては
「住宅履歴書の整備」を強調しています。
イギリスでは「住宅情報パック」(HIP)という制度を導入し、今年の8月から4ベッド
ルーム以上の住宅取引に対し履歴情報を作成して、物件とともに譲渡しなければいけ
ないということを義務付けました。順次小さな住宅も対象になっていく予定です。そ
の中で省エネ性能証書も義務付けています。日本でも住宅の履歴情報を承継していく
には、義務付けできるかどうかが一つのポイントになるだろうと思います。
関 私どもの親会社の東急電鉄では、多摩田園都市沿線を中心に、売った開発会社が
責任を持ってもう一回その時点で省エネ性能の評価をして快適性向上とか、耐震改修、
断熱改修など安全性や快適性向上のために、改善していく仕組みを推進しています。
開発デベロッパーや大手住宅メーカーがイニシアチブを取って良い街並みを整備し、
時代に合った建物を再販していく取り組みに非常に期待しています。
藤井 私は三年前に家を建てましたが、土地も絡んでいたので、中古のリフォームで
もいいと思って戸建て物件を見て回った。そこで感じたのは、リフォームしたとして
も住みたいと思えるイメージを持てない家が多いことです。特にバブルの時期に建て
られたようなものには、とりあえず建てればいいといった感じのデザインのものが多
かった。
住宅業界は、古くても何とか手をかければ住みたいと思えるよう、デザイン面でも
う少し工夫していかなければいけないのではないでしょうか。
住宅の長寿命化と住宅税制
野城 三つ目に、住宅の長寿命化にふさわしい税制の仕組みについては、どう考えら
れるか。
篠原 視点を変えた話をすると、サブプライム問題が出てきた。グローバル化のなか
で住宅市場と住宅金融が世界の投資市場に影響を与えることが現に起きたといえます。
日本の金融当事者も政府関係者も深刻に考えなければいけない問題です。日本も証券
化を進めています。国内の問題が世界中に影響を与えるということだってあり得るわ
けです。
消費税を考えるとき、不動産と金融資産の中立性を考えてほしい。金融資産にか
かっていないのに、不動産になぜかけるのだということです。次に持ち家と賃貸の中
立性。賃貸住宅は減価償却ができて、所得から控除でき、持ち家は何もできなくてい
いのか。三つ目は土地と建物の中立性。土地がますます有利になっていく可能性があ
ります。
三澤 先ほどご説明したキャピタルゲイン減税は簡単にできたものではありません。
実現までに11年かかりました。私ども全米リアルター協会などが草の根的活動で連邦、
州に働きかけ、クリントン前大統領の再選後ようやく実現しました。いま消費者が非
常に恩恵を受けています。
関 住宅は耐久消費財でなく財産という切り口からしても、一括取得時負担の消費税
ではなく、もうちょっと広く、薄く、長く、その財産から的確な額が得られるような
税体系に変えていってほしいと思います。
藤井 消費税が3%から5%に上がった時の調査では、消費税が上がる前の年に家を建て
た人に聞くと、決断したきっかけとして45.9%の人が「消費税が上がる前に」を理由
に挙げています。
いま団塊ジュニアと呼ばれる33歳から36歳くらいの人口ボリュームが多いのですが、
だいたい住宅取得の適齢期となっています。前回1997年消費税引き上げ(税率3%から
5%へ)の時の年齢と比較すると、今44歳から47歳の年齢層になっていますが、団塊
ジュニアの年齢層はその1.25倍となっています。そして、団塊ジュニアは消費生活で
も大きな影響力を有しています。そうした意味でも、消費税の引き上げの影響は大き
いものがあるといえます。消費税が上がるとなると駆け込み需要が増え、その反動減
で、住宅業界にもいろいろ影響が出るだろうと思います。慎重に検討されて然るべき
と思います。
住宅の長寿命化への提言
野城 最後にぜひ提言したいことを一言お願いします。
篠原 住宅という資産に対して消費税をかけることについて、財務省、政府税調の
方々ももっと真剣に議論してほしい。EU(欧州連合)でも付加価値税について、単に徴
税したいだけの観点ではなく、市場に与える影響を真剣に調査して議論していると聞
いています。
関 欧米では自分の住宅を手入れすることは当たり前のようにやっています。日本は
何か不都合があると電話して来てもらう。家族でペンキを塗ったり、直したりするこ
とが生活スタイルになっていくと、住宅をみんなが大切にするのではないかと思いま
す。
三澤 税金はだれのものなのか、果たして消費税が不動産にかかっていいものか、不
動産は耐久消費財ではなくて財産ではないのか、を何かの機会に少しでも考えていた
だければと思います。
藤井 庭に手が入っている住宅は非常に評価が高い。あの庭だからこの家がほしいと
いうようなことがあります。庭、植栽、外構など、緑を含めた何か提案ができるので
はないかと考えています。
野城 皆さんのご発言をお聞きして、確実に家に対する価値観が変わってきていて、
寿命の長い住宅を求め、資産管理していくシーズが出てきていることを確認できまし
た。また、いろいろな住宅を取り巻く制度は見直すべき時期であり、次の世代のため
にも不作為であってはならないと思います。日本の住宅が正当に評価されて、国民の
資産価値向上に結びついていく仕組みを作り上げていく必要があると感じました。あ
りがとうございました。
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