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地方議会 制度改革の方向

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地方議会 制度改革の方向
市町村アカデミー 市町村議会議員特別セミナー ❶
地方議会
制度改革の方向
山梨学院大学法学部教授・博士(政治学) 江藤俊昭
議員研修で講演する時に、私は最初に、
「大変な時
からです。議員定数や報酬は、議会運営と大いに関
に議員になられましたね」と申し上げています。これ
係があります。今日の本題でありますが、議会運営は
には2つの意味があり、1つは議会や議員に向けられ
自治にとってものすごく大事な問題であると考えていま
る批判が多い時代であるということです。定数も報酬
す。
額も知らないまま、
「定数を減らせ」
「報酬額を減らせ」
と言う人たちがいます。もう1つは地方分権時代に
例えば議会基本条例の中に定数を書き込んで住民投
なって、従来とは違った議会の在り方、議員の在り方
票にかけるのであればわかります。あるいは、自治基
が問われている時代になっているという点です。した
本条例の中に議会条項をたくさん入れて、その中に議
がって質・量ともに従来とは違った、その意味で大変
員定数を明記して、それを住民投票にかけるのであれ
ではありますが、やりがいのある時代であると私は常
ばわかります。しかしながら議員定数だけを切り離す
に言っています。
と、そこだけを議論することになり、自治にとっての考
議員定数に関する住民投票を
どう見るか
議員定数に関する住民投票について1つの事例を素
材にしながら考えてみたいと思います。山口県の山陽
小野田市で2013年4月7日に、議員定数に関する住民
投票が、全国で初めて行われました。
え方がわからなくなってしまう。そういう意味で私は自
治の切り売りと言っているのです。
さらにこの山陽小野田市の住民投票について言うと、
住民投票は市長選挙と同じ日に行われました。同日に
すると、別々に行うよりコストは安くなります。
しかし、住民投票は単一争点、1つのテーマでやる
から意味があるのです。一方、市長選挙は、4年間、
これは議員定数を24名から20名以下にすることを問
どういう政策を行うかを競い合う選挙です。同日選挙
う住民投票でした。私も結果を知りたいのですが、わ
にすると、単一争点と、全体として4年間どうするかと
からないのです。これは、投票率が50%に満たなかっ
を混同することになります。結局、市長選挙も単一争
た場合には開票しないことになっているからです。今
点化されてしまうのです。これが、私が自治の切り売
回は投票率が50%に満たなかったので、結果はわかり
りというもう1つの意味です。
ませんでした。
住民投票は大事なのですが、権限上は世論調査と
同じなのです。それを踏まえて議会で住民とともに議
地方行政から
地方政治重視の時代へ
論をして、最終的に議会で決めるのであれば、50%に
さて、ここで確認していただきたいのは、政治がと
達しなくとも開票してよいのではないか、というのが私
ても大事になってきたことです。その中で、議会の役
の立場です。
割がすごく高まってきたことを確認させていただきたい
私は住民投票については好意的な方だと思っていま
すが、今回の山陽小野田市のケースについては、自治
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仮に住民投票にかけるのであれば、定数だけでなく、
と思います。
レジュメには、地方政治の誕生と書いてありますが、
の切り売りではないかと考えています。ただ定数だけ
従来、国の基準や指導が強く、その執行の側面が重
を切り離して住民投票にかけることには、問題がある
視されてきました。地方自治体では、どのように合理
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江藤俊昭(えとう としあき)
略歴
中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学
山梨学院大学法学部専任講師、助教授を経て、現職。
全国町村議会議長会研究会委員、三重県議会/議会改革諮問会議会長、山梨県経
済財政会議委員、第29次・第30次地方制度調査会委員など歴任。現在、北海道栗
山町議会サポーター、同芽室町議会サポーター、地方自治研究機構評議委員など。
主な著書
『自治体議会学』(ぎょうせい)
、
『協働型議会の構想―ローカルガバナンス構築のた
めの一手法』(信山社)
、
『増補版 自治を担う議会改革―協働型議会の実現』(イマ
ジン出版)、『図解 地方議会改革』
(学陽書房)、
『よくわかる世界の地方自治』(共
著、イマジン出版)
、『討議する議会』(公人の友社)
、
『地方議会改革』(学陽書房)
など多数
的、効率的に執行するかが重視されてきました。今日
でも執行、行政の側面はすごく大事です。
しかし、同時に地方分権時代となって、まだまだ課
題はあるものの、地域経営の自由度が高まっています。
地域経営の自由度が高まると、執行の前にさまざまな
けじゃないよと話しているのです。
そしてもう1つの動きは、議会をしっかり位置づける
とともに、住民参加も取り入れながら首長としっかり政
策競争を行いましょうという点です。
レジュメには議会(議事機関)と書いてありますが、
利害を調整してどう執行していくか、統合して方向づ
議事機関は私の言葉ではありません。憲法93条に、議
ける必要が出てきます。これが政治です。
事機関として議会を設置すると明記してあるのです。
分権時代になってくると、これまで以上に政治が重
では事を議するとは、どんな意味でしょうか。英語
要になってきます。同時に今は財政危機の時代ですか
ではdeliberative organ=討議する機関となっています。
ら、北川正恭さんの言葉を借りれば、あれもこれもか
要するに、討議する機関です。議会基本条例を見ると、
ら、あれかこれか選択と集中をしなければいけないこ
議会は決定機関であると書いてあります。確かに決定
とになります。
機関ではありますが、単に決定するだけではないので
今、顕在化している動きがあります。1つは、私は
す。
「水戸黄門主義」と言っていますが、何か困った時に
議事機関は、さまざまなレベルの提言をし議論をし
は首長に頼んでしまおうという発想です。具体的には
て決定し、そしてその執行を評価監視し、さらなる政
名古屋市や大阪市がこの例に入るかもしれません。
策討議につなげていくという、いろいろな意味を含ん
私がいつも言っているのは、それは彼らの特異な
でいます。これが憲法上の議事機関です。
パーソナリティ、カリスマ性があるからできるのではな
一方、首長がいるのは執行機関です。機関と機関
いかということです。もし、その人がいなくなったらど
で、政策競争を行って住民の福祉向上につなげていき
ういう政治システムを考えるかを住民の方々に聞いて
ましょうと考えているわけです。まず、その議会と首
みたいところなのです。
長の関係がどうなのかを考えていきたいと思います。
民意は選挙だけではないのです。私は選挙を否定
や軽視するわけではないのですが、選挙期間である、
議会が付与された大きな権限
なしにかかわらず住民にとって重要な問題はたくさん
あると思うのです。したがって住民参加は常に大事な
ことだと思います。
皆さん中学・高校の時に勉強したと思いますが、日
議会にはとても大きな権限が与えられています。そ
れはなぜかという点についてお話しします。
議会では自治体のルールである条例を制定すること、
本国憲法の中に、近代民主主義のジョン・ロックの考
予算を定めること、決算を認定することなどを行って
え方が入っています。そのロックに対して、ジャン・
います。そして、市町村合併などを議決するわけです。
ジャック・ルソーは、イギリスの牧歌的な人は選挙の
あるいは日本の場合、ご存じのように契約、財産の取
時だけ自由で、あとは奴隷だと言ったのです。
得、処分が入ります。自治法上は、契約や財産の取
私は学生たちにお任せ民主主義ではないことを考え
ていこうと教えています。選挙も大事だけど、選挙だ
得、処分も議会の決議が必要になっています。
そういうことを考えていくと、皆さんが日ごろ議決し
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ていることは自治体の根本的な問題や自治体の命運を
ればなりません。もう少し付け加えますと、政策は1つ
左右するようなことを決めているのです。そして、議
だけではないのです。
会が発揮する効果としては、まず「二十四の瞳効果」
です。多様な人たちが多様な観点から議論して決める
持ったとしても、解決策についてはいくつかの選択肢
ことによる効果です。
が出るはずなのです。財政上の制約はどうか、規制が
そして、
「十二人の怒れる男たち効果」です。これ
どこまでかかっているのかなど、住民やNPOの協力は
はヘンリー・フォンダが主演した12人の陪審員の映画
どうなのか、他の政策が今、動いていることと関連性
ですが、陪審員が事件について議論を重ねていくうち
があるのかどうか、さらにどれを詰めていくのかなどで
に結論が変わっていったという映画ですが、この映画
す。
のように、議会で議論を重ねることで意見が変わる場
合もあるということです。
さらにもう1つは、議会には世論を作り出す効果が
あるという点です。自治体にはさまざまな重要な争点、
問題が出てきた環境や要因を頭に描きながら、政策
としてはベターな選択肢を選択せざるをえないのです。
だから、課題があったとしても答が常に1つということ
はあり得ません。
テーマがあると思います。これを住民の方々がどう理
例えば議案が首長から出たとしても、行政内部では
解し、考えているかという点です。
「私はAという意見
盛んに議論して、その中でベターなものをベストと言っ
を持っている」
「Bという意見を持っている」
「まだわか
て提案しているのです。したがってその提案だけでは
らない」など、さまざまです。市民間で議論すること
なく、その背後でどんな議論をしてきたのかが重要な
も大事ですが、その時に議会が公的な場で公開討議
のです。
するわけです。議会というのは、正統性を持った選挙
説明責任を求められたら、その背後の議論を含めて
で選ばれた議員が集まっています。その議員たちが公
どのように議論していくのか、そして、そのためには、
開の場で討議するのを見て、住民が私の意見はAだ、
議員間討議が必要になるのです。
やはりBだ。あるいはAだったけれどもBという意見も
北海道・栗山町では、論点を明確にする議員間討
良いと、意見を移す場合もあるでしょう。同時にまだよ
議を重視しています。あるいは三重県議会は論点を明
くわからなかった人が、議会での討議を聞きながら、
確にするだけでなく、合意形成を目指していますが、
私はAという意見に近い、Bの意見に近いという自分を
両者は別に矛盾するわけではありません。議員間討議
発見する。これは大事なことです。自治意識の向上と
は問題を抽出しながら、独善性を排除しなければいけ
か醸成と言っている側面なのです。
ないのです。
同じように地方自治体における重要な問題について、
議員の方々は選挙に出る時にそれぞれ熱い思いが
自分の意見を発見する、そういう機会になったり、世
あるはずです。したがってその思いは捨てないでいた
論を作り出す効果が議会にあります。これはすごく大
だきたいのですが、同時にその思いを全体のものにし
事なことです。
ていくために、独善性ではない政策のつくり方が大事
いま3つほど挙げましたが、合議体である議会の特
徴を生かすとは、こういうことなのです。したがって、
その議会には大きな権限が与えられているわけです。
議決は住民への説明責任を
伴う
では、議会はその権限を実際にどう行使していける
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仮に1つの問題が出てきて、その問題に共通認識を
になります。
分権時代には政務調査費、今は政務活動費と言い
ますが、調査はすごく大事なことです。したがって政
務活動費が法律で規定されるようになりました。調査
はすごく大事で、それにはお金がかかります。それを
説明しながら、しっかり調査することが大事だと思い
ます。
のか、行くべきなのかについて考えたいと思います。
それともう1つは、独善性を排除する意味では、住
レジュメではアンダーラインを引いて、
「とんでもない
民の方々とぜひ意見交換をしていただきたいと思いま
権限の自覚を」と書きました。今までも皆さんはしっか
す。山梨県昭和町に萩原馨議長という私の尊敬する
りと自覚していると思いますが、もう一度確認してくだ
議長の一人がおります。彼の言ったことがすごく印象
さい。議決責任を再確認すると、説明責任を伴います。
に残っています。萩原議長は、
「自分は住民の声を
こういう条例が可決されました、こういう条例が否
知っている」と思っていたが、ある時、彼は住民との
決されました、修正されましたというだけでは、説明
意見交換をしていたのですが、そのとき、気づいたこ
責任ではありません。説明責任とは、なぜそれが可決
とがあって、住民から生の声を聞くことはすごく大事
されたのか、なぜ否決されたのかについて説明しなけ
で、刺激を受けると実感したのです。
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例えば、通勤・通学の時間帯に、ある道路の交通
状態が本当に危なくて、このままの状況であれば事故
です。住民がどうかかわっていくかがポイントになりま
す。
が起きそうだとわかりました。そこで、すぐに委員会を
なぜ地方自治体が一院制なのか。住民が参加し
立ち上げて調査に入っているのです。私はそういう感
チェックし、監視するのです。それを保証するために、
覚は、すごく大事だろうと思っています。
リコール制や、条例の制度改廃の直接請求が、日本で
住民とともに歩んでいく、住民の生の声を聞いてい
く、それを踏まえながら、しっかりと議員間討議を行い、
は認められているわけです。
山梨1区の国会議員は1区の代表ではなく、当選し
そういう議会をつくっていく、そしてそれを踏まえて、
たら全国民の代表になります。一方、地方議会の場合
執行機関と政策競争を行っていく、そして最終的には
は、何か変なことをやったらすぐに辞めさせることが
議決する。その議決責任をどれだけ自覚できるか。こ
できる制度設計になっていますし、住民が提案できる
れが住民自治を進める上で、すごく重要なポイントに
のです。国政の場合は、内閣と国会議員しか法律案
なってきます。
は提案できません。そういうことも含めて考えていった
私は今、えらそうなことを言っていますが、これは
時に、二元代表制の中に住民が入るということです。
私が考え出したことではありません。例えば、会津若
それから、3つ目には議会の存在意義として討議と
松市が進めた議会の到達点なのです。彼らの議会改
決定ということがあります。議論をしなさいということ
革はなぜ始まったのかというと、まず議決責任を自覚
です。ただし国会と違い、与党対野党の議論ではあり
したのです。それを本当に達成するにはどういう改革
ません。
が必要かを日々考えた結果、改革できたのです。議決
ポイントとなるのは、住民に開かれた住民参加を促
責任ということを常に顧みていただきたいと思います。
進し、議会の存在意義である議員同士の討議と決議
地方自治の二元代表制は
住民参加が前提
ではどんな議会改革の方向があるのか。これを考え
を重視し、首長とも切磋琢磨する議会であることです。
住民自治を進める
議会基本条例
た時に、重要なことは、地方自治は国政と異なること
議会基本条例を制定する動きは、2006年に北海道
です。1つは、二元代表制であることです。ようやく
の栗山町が議会基本条例を制定した後、当たり前のよ
最近の東京書籍の中学校の公民の教科書で二元代表
うになってきました。議会基本条例を制定している地
制という言葉が入りました。原則は、議院内閣制とは
方自治体は昨年末で500を超えています。今年3月で
異なる点です。国会の議院内閣制とは違います。
は、530ぐらいでしょう。
例えば、国会が首相を指名すると言っても、実際上
単に数が増えただけでなく、住民に開かれた議会に
は国会の多数である与党と内閣が協調関係になってい
して住民と対話していく、請願や陳情を生かして政策
るところが議院内閣制なのです。これに対して地方自
提言にしていく。そして議員間でしっかり討議をして、
治体は、議会が首長を選出しているわけではないです
執行機関と政策競争をする。そういう議会が生まれて
から、与党、野党は最初からあるわけないのです。
きています。
もちろん、政策や理念が近い議員はいますが、その
議会基本条例は、それぞれの自治体の議会が規範
首長により良い仕事をしてもらうようにしっかり提言を
とすべきルールです。それでは議会基本条例がなかっ
するのが、首長に近い人です。
たら、どうなるのでしょうか。まずどういう考え方で議
その一方で首長から遠い人は、もっとよくしていくた
会を運営するのかがわかりません。同時に住民自身も
めにはどういう創造的で建設的な提言ができるかの議
わからないわけです。それから、議会改革の到達点が
論を進めていくべきです。しっかり議決すること、首
わからないのです。
長提案の説明責任や一問一答がそこから出てくるわけ
です。
ただし最近、ちょっと誤解があるのは、次の点とも
絡むのですが、二元代表制というと、議会と首長だけ
そこで、まずは議会基本条例の形をつくってみます。
そうすると、その中に現在の議会改革の到達点がしっ
かりと記述されているケースがほとんどです。改革の
到達点がわかることになります。
の関係と思う方がいるのですが、地方自治体はそうで
さらに議会改革を進めても、次期議会ではどうなる
はありません。地方自治体は一院制で、直接民主主義
かわからない問題があるのですが、議会基本条例で
が導入されています。住民とともに歩む地方自治体な
は、選挙後でも、また最初からではなく到達点を明示
のです。ですから、議会と首長だけの議論ではないの
できるのです。研修で周知徹底させて、その上で、必
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要ならば改正することも可能なのです。
ニフェストが総合計画ではないと申し上げたのは、こ
そして構成要素として、住民参加を含めて今までお
れを基本にして住民の声を聞いて総合計画を練り上げ、
話しした改革を入れていくこと、また条件整備として
議会としても総合計画にかかわっていくということです。
図書室とか、議会事務局の充実だとか、議員報酬、
多治見市議会がすごいのは、当初は基本計画を議
政務活動費の決め方などを議会基本条例の中に入れ
会の議決にしたほうがいいと言われた時に、当初はそ
込んでいくことだと思います。
こまで責任を持てないと主張していたのですが、やは
り勉強する中で地域経営に責任を持つのは議会だと、
議会活動の視点と総合計画
議会改革をどうしたら住民福祉の向上につなげられ
しっかりと基本計画も議会の議決にしていることです。
議会からの政策サイクル
るかについてお話しします。1つは地域を担う議会活
動の視点です。ルールも大事ですが、地域経営の軸
としての総合計画が大事だという点です。もう1点は、
したいと思います。ご存じのように地方自治法が改正
総合計画に責任を持つことは政策に責任を持つことで
されて、基本構想の義務化が廃止(自治法2条4項)
す。したがって、継続性のない議会運営ではだめです。
されました。皆さんのところでは、基本構想、あるい
もう10数年たっていますが、ようやく総合計画が
は基本計画を議会の議決にしている自治体も増えてい
しっかり地方自治体に根付くようになってきました。岐
るのではないかと思います。もう1つの対応策は自治
阜県多治見市に元市長の西寺雅也氏がいます。彼は、
基本条例や議会基本条例に規定するなどの方法があ
市長時代にいろいろな改革を実行していきましたが、
ります。
地域経営の軸として総合計画を実効性あるものにして
いく必要性を主張しました。
多治見市モデルは、すごく有効性があると思います。
そして繰り返しますが、行政や首長がつくった計画
は単なる行政計画です。議会が決議する意味は大きく
2つあります。1つは形式的な話ですが、議会で決議
多治見市では総合計画に記載されていないものは、予
して初めて自治体の計画になります。そしてもう1つ、
算化しないとしたのです。予算化したければ総合計画
議会が決議するとは、公開で議論することなのです。
を改訂すればよいのです。
これはとても大事なことです。
ある程度、融通のきくお金を持っていた方が市長と
この総合計画を意識することによって、新しい政策
しては楽なのです。でも総合計画で縛られると、きち
サイクルを回すことで、住民意見を政策提言につなげ
んと説明しなければいけない。西寺氏が言っていまし
て政策にも責任を持っていきましょうというふうに移っ
たが、つらいけれどもこういう経営が大事です。
てきています。それが、議会からの政策サイクルと言
そしてもう1つは、介護保険計画、地域福祉計画、
われているものです。今では通年議会を行っていると
環境基本計画などを皆さんお持ちだと思いますが、こ
ころも多くなりましたが、基本的には定例4回、閉会中
れらの計画は総合計画の内容と同じであってほしいで
は休みになっています。
す。ともかく内容は同じだと仮定しても、計画期間は
バラバラではないでしょうか。
したがってそれをしっかり計画と連動させるために
は、内容は当然ですが、計画期間も連動させましょう
しかし、執行機関の方はサイクルとして年がら年中
動いているわけです。このため、議案が出てから議論
しても会期は2∼3週間ですから、後手後手となりな
がら可決するケースも多いと思うのです。
という動きになってきます。2012年3月に東京都三鷹
そうではなく、議会をサイクルとして考えていくこと
市は、長期計画の改定を行いました。その時、23本の
が大事だと思います。例えば予算です。予算は、予
個別計画を一緒に連動させて、計画期間も一緒にさせ
算を決めて執行され、それを監査する。こういうシス
ることにしました。
テムになっています。これをサイクルとして考えると、
もう1つのポイントは、計画期間と言った時に、やは
り首長の任期に合わせていくべきではないかということ
予算から決算なのですが、決算を認定することはそれ
をさらに予算につなげていく発想になります。
です。ただし気をつけていただきたいのは、首長のマ
したがって、決算認定をしっかりやることが、次の
ニフェスト、イコール総合計画ではないのです。しか
予算審議に生かせるのです。さらに、決算認定をして
し、その首長の思いが総合計画に生かされるとすれば、
これが自治体にとってどうなのかを考えながら予算展
任期4年×2期(多治見市)や、3期(三鷹市)
、総
望につなげていくことなのです。
合計画を任期に連動させているところがあります。マ
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次に総合計画を軸とした地域経営について、お話し
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それから議員提案条例、あるいは首長から出される
条例もあります。つまり条例は政策提言なのです。で
で4年間どうする、どういうテーマがあるか。こういう
も条例が制定された後は、そのままずっと続いている
ことをしっかり位置付けて、調査研究に入っているわ
ことが多いと思います。これに対して三重県議会は今
けです。
までは検討委員会で個別にやっていたのですが、
「特
少しきれい事ばかり言っているようですが、きれい
別委員会を設置して全部まとめて検証しよう」とした
事ではない話をします。同市に猪苗代湖に面した湊地
のです。もちろん全部ではありませんが、条例提案や
区があります。
政策提言だけではなく、しっかりと監視についても責
任を持つということで実行したのです。
住民との意見交換に入ろうとしたら、住民側から議
会は信用できないと断られた。この湊地区の水道は、
ぜひ行っていただきたいのは、議員提案だけでなく
湧き水であったり沢水であったり、管理者も個人で
首長提案についても例えば5年過ぎたもの、あるいは
あったり共同であったりと、安全な水が飲める状況で
主要なものについてはもう一度、チェックをかけること
はなかったのです。これを何とかしようとずっと言って
です。自分が議員になる前に制定された条例だから責
いるのに、行政も議会もやらないということで、来なく
任がないということではなく、昔の条例についても責
ていいと言われたのです。議会としては、かなりショッ
任を持たなければいけないのです。
クだったようです。
あるいは質問についても、質問しっぱなしで終わり
そこで急遽、検討会を立ち上げて調査研究に入り
ではありません。大間の近くの佐井村では、1年以内
ました。専門家を招いて意見を聞く、行政とも意見交
に質問したことは、通告なしで最初の15分ぐらいで質
換をする。そしてようやく湊地区の区長と意見交換で
問していいことになっています。執行機関側も大変で
きるようになり、それを進める中で住民とも意見交換で
すが、緊張関係にあるわけです。
きるようになりました。最終的には、それらを踏まえて、
山梨県の昭和町では、重要で良い質問について、
議会として5項目の決議を出しています。
その後、どうなったかを追跡調査して議会だよりに掲
議会のみなさんがずっと言っているのは、住民に寄
載しています。こういう連続性を持った発想で政策サ
り添う議会をつくっていかなければいけないという点で
イクルが築けているのは、会津若松市や飯田市です。
す。ただし、注意していただきたいのは、サイクルと
飯田市と会津若松市に見る
政策サイクル
飯田市の場合で言えば、時系列では11月頃に議会
言っても執行機関と同じではないことです。そんなこ
とをしたら息切れしてしまいます。したがって議会の
特性を生かしていただきたいと思います。
まず、住民目線、住民に近いこと、それで評価する
報告会を開き、それを踏まえて翌年5、6月頃に行政
ことが大事です。もう1つは、議会は合議体なのです。
評価の項目を決めます。そして7、8月で委員会ごと
議会は縦割りでない特徴を生かせるわけです。そして、
に行政評価を行います。委員会ごとに所管のところを
そうは言っても、調査研究費も少ないし議会事務局の
中心にして実施します。そして、9月の決算認定の前
体制も大きくない。そこで、総合計画や行政がかかわ
の行政評価の報告を受けて決算認定を行い、予算要
れないすき間、ニッチ、そういう政策視点でかかわる
望へつなげ、さらに翌年3月の議会で審議を行うサイ
など、議会の3つの特性を生かしていただきたい。
クルになっています。
会津若松市の場合も、同じようなことを行っていま
最後に、議会の条件整備として、行政改革と議会
改革の論理は違う点についてお話します。行政改革は、
すが、政策として打ち出しているところに特徴があり
効率性重視です。議会もムダは省いた方がいいので
ます。同市の場合、例えば水道事業の民営化が行政
すが、議会改革はまずもって地域民主主義の実現な
側から出された。でも住民と意見交換したら、まだ不
のです。そのためにどういう改革が必要なのかを第一
安だという意見が出たのです。そこで、専門家を招い
原理にしなければなりません。
て調査研究をして、民営化はまだ早いのではないか、
それと重なりますが、2番目は条件を考えるのは現
慎重な検討が必要ではないかと議会が提言し、結局
在の議員のためだけではないのです。したがって、今
それは止まっています。
いる議員の皆さんが我慢すればいい話ではないのです。
ちなみに私は、通年的な発想でお話ししているので
単に定数を下げる、報酬を下げるではなくて、次の
すが、会津若松市の場合は「通年的」ではなく「通
世代をどうするかが大事です。持続的な民主主義を
任的」発想なんです。どういうことかというと、議会
つくるためにはぜひ、そこを考えていただきたいと思い
は任期が4年です。ですから一般選挙が終わったらす
ます。
ぐに市民との意見交換を実施しているのです。その上
vol.110
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