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MSの教育の重要性と勤務薬剤師の関わり

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MSの教育の重要性と勤務薬剤師の関わり
平成23年度日本医薬品卸勤務薬剤師会「研修会」
講演1
MSの教育の重要性と勤務薬剤師の関わり
木村 仁
クレコンリサーチ&コンサルティング㈱副社長 講演1では、クレコンリサーチ&コンサルティング㈱木村仁副社長に「MSの教育の重要性と勤務薬
剤師の関わり」をテーマにお話しいただいた。
木村氏は、まず医薬品卸業界を取り巻く環境変化について説明し、日本の医薬品卸の基本機能を数
値化してアピールすることの重要性、処方元への影響力を維持できるMS教育の必要性を力説した。そ
の上で、取引・商習慣に関するルールの早急な確立や、今後、卸が生き残る鍵になるソリューションビ
ジネスの導入について提案された。
■日時:平成23年5月20日(金)13:30~14:30/場所:大手町サンケイプラザ301~303号室■
願いいたします。
はじめに
本日は、医薬品卸業界が今後さらに発展するた
めに何が必要か、現場のMSの人数が減る中、発展
まず、今回の未曾有の大震災でお亡くなりに
なった方々のご冥福を祈らせていただきます。そ
を維持するためにはどうすべきかについて皆様と
考えていきたいと思います。
して、被災地の方々の一刻も早い日常への回復を
祈らせていただきます。
医薬品卸業を取り巻く環境の変化
今回の大震災では、医薬品卸並びに薬剤師の皆
様が、地域を越えて助け合い、被災地の医療社会
●環境の変化による5つの課題
の維持に貢献したことを目の当たりにしました。弊
目的について話す前に、医薬品卸業を取り巻く
社なりにいろいろと貢献策を実施したいと考えて
環境の変化について、5つの点から近年起こって
おりますので、引き続きご指導のほどよろしくお
いることをおさらいしてみます。
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まず医薬品卸業界では、引き続き価格競争が行
ば価格情報の共有化が進んでいます。これは必然
われています。物流業は差別化が難しい業界であ
の流れで、他国を見ても、共同購入組織などによ
り、価格競争が起こるのは必然的ですが、医薬品
り価格情報の共有化が進んでいます。
が唯一違うのは、いったん価格を下げると値上げ
例えば、イギリスには処方権を持つ薬剤師がい
がほぼ不可能なことです。商習慣、取引、アロワン
ますが、その協会のホームページを見るとびっくり
スに関して何らかのルールが必要ではないか、こ
します。
「この卸はこのメーカーの薬を何パーセン
れは競争社会の中で1社が取り組んでも難しいと
トディスカウントする」と出ているのです。さす
ころがありますので、業界の団体でルールをつく
がに日本はそこまではいかないでしょうが、情報
る必要があると考えています。この点については、
社会では取引情報はどんどん共有化されますから、
最後に少し話をしようと思います。
医薬品についても共有化が止まるとは考えにくい
次に「サプライヤーパワー」
、つまり、製薬会社、
でしょう。いままでは、調剤薬局市場を見ても 20
供給者側についてです。今回の 2010 年問題で一番
店舗以上のところの価格が厳しかったわけですが、
大きいのは、欧米でブロックバスター薬と呼ばれ
中小の調剤薬局でも価格のプレッシャーはきつく
ていた大型品の保護期間満了です。欧米では保護
なってくるでしょう。
期間が満了するとすぐにジェネリック薬(後発品)
そういった中で、どうやったら選ばれる卸にな
に切り替わっていきます。これにより、決算が急
るのか、何かしら価格に代わるソリューションが
激に落ち込む会社が出てきます。実際は、M&Aに
提供できないかが重要になってくるわけです。ここ
より回避されているようにみえますが、それでも、
が、実は今日挙げる中で一番難しい問題です。答
製薬会社各社の決算発表を見ると、かなり会社に
えというものはありませんが、最後の方で皆様と
よって状況が違っているのがわかると思います。
考えていきたいと思います。
そのような中、いま伸びているのが、病院向け
続いて「制度・規制」です。新薬創出加算制度
のスペシャリティ薬と後発品です。特にスペシャリ
ができて厳しいのが加算品、言い換えると付加価
ティ薬は昨年度1年間で急激に伸び、ある月は前年
値の高い薬ですが、これらに対して卸がどう貢献
同期比 20 %増の勢いです。いま米国ではこのスペ
するかです。また、非常に難しいのが、仕切価と
シャリティ薬の比率が約 20 %、つまり5分の1が、
は何かという問題です。これに関してはメーカー
ユニークな作用機序で、対象患者数が比較的少な
との話になりますが、最後の方で触れたいと思い
く、高価な薬剤になってきているのです。日本で
ます。いずれにせよ、販管費削減への圧力は、今
も、フェーズ3に入っている開発パイプラインを見
後も増してくるということです。
ると、やはり病院向け製品が多く、今後もスペシャ
リティ薬の取扱量は増えてくるということです。
卸では、これまで慢性疾患向け、診療所・調剤
最後に「他業界・異業種」です。いまいろいろ
な業界が医薬品流通業界に興味を持っています。
その中でも小売業界を出発点にした考え方です。
薬局市場向けの新薬や長期収載品が利益の源泉で
なぜセブン-イレブンやイオンなどが非常に強く
したが、病院向けのウエイトが増えると、製薬会
なったのか。それは小売が川下の物流機能を持っ
社からの対価の総額が減少することは間違いない
たからです。ここに運べば、後は運ばなくていい
流れです。そういった中で、医薬品卸が有する付
と。これをやられると、どんどん流通業者へのニー
加価値を、ユーザーの薬局や医療機関のみならず、
ズが低下していきます。
製薬会社にも、エビデンスを提示し、対価体系を再
その点、今回の震災では、医薬品卸の物流機能
定義し、自立する必要があると考えています。こ
の強固さが証明されたわけですが、それをベース
れも後ほど述べたいと思います。
に、
「もう物流は卸に任せてください」と常に言え
もう一方である「バイイングパワー」
、医療機関
側を見ると、共同購入やチェーン化、端的に言え
るような卸売業は必要です。この辺も最後の方で
話したいと思います。
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●本日の3つの目的
以上、5つの課題の中で、本日の目的を3つ挙
げます。
債権管理などは、これまで過小評価されてきまし
たので、エビデンスをつくるように取り組まなけ
ればいけないところです。それに加えて、この医
1つ目が「価格体系のエビデンス構築とメニュー
薬分業時代におけるMSの販促機能、ユーザーの調
表作成」です。要は、医薬品卸が果たしている役
剤薬局、処方元の医師に対してどれほど影響力が
割・機能を分解して、どのくらいの価値があるか、
あるのか。その辺も再評価する必要があります。
海外と比べてどのくらいのことをやっているか、
当然、評価するだけでなく、これが2つ目にな
しかもその機能を使うには大体いくらが妥当か、
りますが、一番大切なのは「現状に合ったMSの教
これらを示していく必要があるということです。
育」
、あるいはそのモチベーションを向上させてい
私は卸が果たしている基本的な価値が正当に評価
くことです。これについては中ほどでお話しした
されていないと感じています。
いと思います。
その第一弾として、昨年 12 月に卸連合会が「医
3つ目が「ソリューションビジネスの確立」で
薬品卸機能の国際比較」を発刊しました。これを
す。医薬品卸には、各地域で培ってきた貴重な資
出発点として、今後は一つひとつの機能について
産があります。これを使って、医療機関から選ば
も、本当はもっと価値があることを示していく必
れる卸になるというソリューションビジネスも然
要があります。卸各社は、各社の状況に合わせ、
りですし、それとは別の副次的な事業、新たな利
メニュー表にするとともに、裏側では顧客のセグ
益の源泉を生み出していかなければならないと考
メント別に、単品でコスト管理をすることが求め
えています。その辺については最後の方で皆様と
られます。現行の一部のアロワンス体系では、原
考えていきたいと思います。
価がわからないという問題がありますが、それが
解消されるまでに、コスト管理体制を粛々と準備
卸機能の価値を数値化
する必要があります。
ところで、MSの仕事はこの 10 年間でかなり変
わってきています。私はときどきMSに同行させて
もらうのですが、医薬分業あるいは卸のフルライ
●米国の卸と日本の卸の違い
それでは1つ目、卸の機能にどのくらい価値が
あるかについて考えます。
ン化が進んできたことで、地域によって、また担
外資系製薬会社、特に外国人とときどき話すの
当によって、仕事の中身がまったく違ってきてい
ですが、
「日本の卸は高い。なぜこんなにお金を払
るのです。分業以前は、訪問先は医師で、そこで
わなければならないのですか」と皆が言います。
売上が立つわけですから、言い方は悪いですが医
これがどこからくるかというと、米国の卸の販管
師に対する御用聞き、つまり信頼関係をベースに
費率は 1.5 %~3%くらいで、日本の卸は現在6%
医師の仕事の役に立ち、それが売上につながると
~7%くらいですから2倍違うと言うのです。当
いう面があったわけですが、いまの分業の状況で
然、外国の方は、日本の卸の機能をよく知らない
は仕事の中身がMSによってまったく違ってきてい
し、処方元に影響力があるとは夢にも思わないわ
て、一概にすべてを「MS」と呼んでいいものか悩
けです。私もいままでは、
「処方元に行っています」
ましいところです。
「毛細血管型です」と、口では機能を説明していた
その一方で、卸の仕事への対価や評価、つまり
わけですが、
「では2倍高い価値は一体どこにある
お金の取り方の部分はあまり変化していません。仕
のか。どこまで仕事をしっかりやっているのか数
事の中身が変化しているのに、お金の取り方の変
値で見せてくれ」という話が多かったのです。
化は非常にゆっくりであるところに、ギャップが
生まれているのです。
そういった意味でも、卸の基本機能である物流・
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一方で、私は日本の卸は守備範囲が明らかに違
う、3%と6%くらいの違いでよく済んでいるな
と、つまり日本の卸は直感的に安いと思っていま
平成23年度日本医薬品卸勤務薬剤師会「研修会」
した。
なぜかというと、米国の卸を見に行ったときに
びっくりしたのですが、彼らは物流センターしか
持っていないのです。勤務薬剤師は大手の卸でもほ
とんどいない状態です。しかも物流センターに物
を運んでくるのは製薬会社が委託した配送業者で、
そこから先はまた委託した配送業者が運ぶだけな
のです。何で儲かるのかというと、医療機関の品
揃え代行業的な部分です。後発品が数量ベースで
6割以上あるため、そのベストな品揃えをしてあ
げる部分が大きいわけです。ですから、言うなれ
ば品揃え代行業です。
一方で日本の卸は、しっかりとMSを持って、しっ
かり相手の顔を見て物を届け、それで終わりでは
MSの使命感についての説明をする木村氏
薬価が違うのです。これは、ジェネリックは入れ
ていません。新薬の話です。
ありませんから、明らかに違うでしょう、という
そこで、代表的な薬効の新薬において、日米欧
ことです。それを何とか数字で表したいと思った
で容量・包装単位で比較可能な 13 品目の薬価を調
のです。
べました。これらは各薬効で平均シェア約 10 %で
日本の場合、まず配送先の数が圧倒的に多い。
す。この 13 品目において、日本の薬価を 100 とす
この小さい国で歯科医を入れてだいたい 22 万軒、
ると、なんと米国は 260 です。これだけ薬価が違う
歯科医を除くと約 16 万軒の得意先に物を届けてい
のに、3%、6%という率だけで見ていいのかと
ます。米国の場合も、一応、公表では16万軒となっ
いうことです。
ていますが、日常的に運んでいる先は7万軒くら
いだと思います。
交渉先の数はもっと差があります。米国の場合、
日本の場合、薬価を 100 としたときの卸の取り分
である粗利益は 6.3 です。米国の場合は、薬価を同
じ 100 としたら、当然、粗利益の 7.2 は3%くらい
ドラッグストアもスーパーマーケットもチェーン
になります。それで、3と 6.3 と比べられて「高い」
化が進んでいますので、交渉先の数が少ないから
と言われていたのですが、これだけ薬価が違うの
です。米国で最も大きい卸のマッケソンの場合、営
です。そのため、1薬品あたりのコストで比べて
業員の数はたったの 400 名弱といわれています。そ
みると、6.3 対 7.2 ですから、そんなに変わりがない
れで全部の顧客と価格交渉ができるということで
か、むしろ安いくらいなのです。だから、
「率で見
す。その価格交渉も、製薬会社の影響力が強いの
ないでください」と言っています。
で、そこまで時間をかける必要がありません。そ
のくらい交渉先の数も違います。
さらに、医師のところまで行くというのは、海
外ではないことで、弊社の医師への調査では、医
師の記憶に残るコール数は、年間約 530 万コールあ
るとわかっています。
日本の 6.3、米国の 7.2、ヨーロッパの 6.2 の粗利
をさらに分解して、粗利から営業利益を引いた営
業費用を機能別に、1薬品あたりの金額で見てみ
ました。
米国、ヨーロッパは、機能イコール部署なので、
コストの内訳が出やすいのですが、日本の場合、
MSという特殊な職種が1人でマルチな機能を担っ
●欧米より割安な日本の卸物流コスト
では実際のところ、日本は高いのか、安いのか。
ていますので、機能別のコストはなかなか見えに
くくなっていました。ヨーロッパの場合は卸にア
米国の販管費率はだいたい3%で、日本は6%で
ンケートで聞いたわけですが、米国は毎年公表し
す。一見日本の方が2倍高く見えます。ところが
ています。日本は、今回は、各卸の協力により、
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後にどう印象が変わったかを調べています。結果
として、だいたい 20 %、MSによって開業医の薬の
印象が上がるということです。強いのはやはり認
知させること、関心を持たせるところです。です
から、これ以外の処方へ結びつける部分、つまり
箱を空けさせることについては、教育が重要だと
いうことです。
あと、驚くべきことに、その薬について医師が
既に処方経験がある場合、MSが訪問すると、20 %
が処方量を増やしたと答えています。
中川先生も講演を聴かれて
両方とも 20 %なので、私は「処方インパクト率
20 %」と言っていますが、これは、業界自身が思っ
卸によってはストップウォッチで計っていただき、
ているよりも高い数字です。ただし、これはあくま
物流、価格交渉と債権管理、日本特有の処方元へ
で全国平均で、実際は地域でかなり差があります。
の訪問など、MSにかかわるコストを日々の仕事の
このMSの力、従来のように、商品をしっかり理
時間で割り振り、実は 15 項目くらいあったのをま
解して医師に情報を伝えているかどうかは、実は
とめて3項目に直しています。
医薬分業率と関連があります。必然と言えば必然
こうして求めたデータから、日本の特徴として
言えるのは、物流センターが増えたとはいっても、
ですが、分業率と院外処方の医師に通う率は反比
例しています。
他国に比べると、物流センターにかかわるコスト
例えば、医薬分業率が高い首都圏では、院外処
は低く、そこから先のコストが相対的に高いこと、
方の医師の中でも訪問率は低い傾向があります。
しかしながら、物流機能全体では格安でやってい
MSはよく「調剤薬局に行かないといけないから、
ることです。これは配送先の数を考慮していませ
忙しくて行けない」と言います。MSの気持ち、理
ん。また価格交渉と債権管理のコストも、一見大
由として、この半分以上は本当だと思います。し
きく見えますが、交渉先の数で割ったら安いです。
かし残りは、先生に普段から会わなくなったため、
つまり、こうした基本機能は非常に安くやってい
何を話していいかわからない、というところがあ
るということです。
り、心理的なバリアで行きにくくなっている部分
もあると思います。
●高い処方元へのインパクト率
一方で、例えば北陸地方を見ると、分業率が低
すると、焦点になるのは、MSの処方元への販促
く、院外処方の医師にもよく通っています。北陸
がどれほど医薬分業時代に効果があるかというこ
のMSを集めてディスカッションをしたことがあり
とです。よくMSが製薬会社の代行で施策として薬
ますが、話す内容が全然違いました。医師のこと
の宣伝をしますが、実際に、開業医及び 99 床以下
をよく考えていて、薬の宣伝は別にして、かなり
の病院の医師約 3000 名に、それがどれくらい影響
医師のコンシェルジュ、御用聞きとしての信頼関
を与えたかを聞いています。当然、ベースには信
係ができていると感じられました。
頼関係があるので、単に薬のプロモーションがす
処方インパクト率を見てみると、院内処方の医
べてというわけではありませんが、製薬会社の視
師は、MSが毎日配送で通うので、関係を築きやす
点で調べています。
く、当然、インパクト率が高いですが、院外処方
調査は全製品、全国平均で四半期ごとに行って
の医師でも、コミュニケーションを取って信頼関
おり、ある薬をあるMSが宣伝したとして、医師は
係をつくれば、しっかりインパクトを与えられて
訪問前にその薬についてどう思っていたか、訪問
いることがわかります。
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平成23年度日本医薬品卸勤務薬剤師会「研修会」
処方インパクト率は、薬効によっても出やすさ
ります。期間については、メーカーの回収期間の
に差があります。この傾向について、反復測定分
方が長いので一概に言えませんが、財務諸表を見
散分析、ANOVAという解析手法により、薬の上市
た医療機関のうち4つは、だいたい2桁のリスク
後3年未満の新製品と、3年以上の既存品、医師
レートを取られる、つまりローンのレートが2桁に
がその薬を処方したことある・ないで分けてみま
なるということです。これをいま、卸は無料で行っ
した。
ています。このあたりも研究を進める必要がある
新製品の場合、やはりMSが通うと採用件数の増
と思います。
加に響くという結果が出ています。一方、上市後3
最後は、処方元への販促です。処方元である医師
年経っても医師が処方していない薬の場合は、MS
が認識する診療所担当MSの1日の平均処方元コー
には学術的説明がないと難しいという状況です。
ル数は、医師へのアンケートでは約3コールです。
また、薬の処方経験がある場合は、競合の多い
それに対して、卸側の自主報告では若干、それよ
製品はMSが効く傾向があります。これは、コール
り多いです。このギャップをしっかり埋めていか
数を増やせば効くということです。一方、競合の
ないと、製薬会社からの信頼に影響を与える可能
少ない製品、ニッチなタイプの製品は、MSが行っ
性があります。ですから、もし既存タイプのMSの
てもしっかりとした説明がないと厳しいようです。
販促機能を重視するのであれば、量より質、そし
このように、MSが効きやすいところ、効きにく
いところがあるということです。
て効率的教育が重要なのです。
先ほどもお話ししたように、品目構成がどんど
卸のMSはどんな製薬会社の薬を宣伝している
ん変わり、製薬会社もだんだんシビアになってき
か、宣伝する薬・製薬会社選びでは何を意識するの
て、しっかり処方元へコールしているところには
かについても調べてみました。全国を見ると、卸
しっかりお金を払う、という傾向になってきます。
の店内シェア、取扱量が多いと、現場のMSもその
もし企業の重要な方向性がそこにあるのであれば、
薬を宣伝する傾向はあります。ただ、MRの働きか
MSのコールの質を上げることに注力するのは大事
けも大事だし、流通担当によるコミュニケーショ
だと思います。
ンも、支店長の意識も大事だという結果でした。
地域で見ると面白いのですが、四国や大阪は、
●処方元への影響力が生き残りの鍵
店内シェア、売上も大事ですが、コミュニケーショ
卸のフルライン化が始まって 10 年、医薬分業が
ンが重要視されています。このように、エリアに
大分進んできて、どこの卸もビジネスモデルとし
よっても特色があります。
ては同じ方向を向いてきました。それが、動きを
見ていると、今後は 10 年間とか5年間というレン
●卸の3つの機能の再評価と対策
ジですが、色が出てくると感じています。
これらをまとめると、まず、物流機能は過小評
これには2つの道があり、1つは、いままでの
価されています。配送先の数は米国の約3倍以上
中立型から、若干、医療機関側に寄って、サプラ
あり、もっと評価されるべきです。震災は、MSの
イチェーンの機能を強化して、購買代理業的にな
使命感とライフラインの強固さを示しました。
ること。どちらかといえばユーザー生産性貢献型
次に、価格交渉を含めた金融機能も過小評価さ
れています。いま、卸は債権管理をしていて、医
と呼んでいます。異業種に対する防波堤となり、
非常に重要です。
療機関によっては債権リスクが高いところもあり
もう1つは、どちらかといえばメーカー代理店
ますが、何もプレミアムをもらわずやっています。
型で、MSの処方元販促機能の強化、あるいはメー
以前、5つの医療機関をピックアップして、こ
カー営業代行業的側面、価格防衛など、フルライ
れらを米国で債権管理するとしたら、どれくらい
のリスクレートを取られるのかを聞いたことがあ
ンではなくショートラインの卸への回帰です。
いずれの方向へ行くにしろ、結局は、処方元に
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強くなければ生き残れません。前者は、人員構成
います。
の観点で、既存のMSを独立採算できるようにしな
その中で、視聴率が 29 %と少ない教材があった
ければなりませんし、後者は当然、従来型対価体
ので見てみると、これだけ教材が 15 分と長かった
系の中で、そこが製薬会社からみた価値になるか
のです。MSは取扱い品目が多いので、時間のかか
らです。だから、MSを処方元に強くなれるように
る長い教材は頭に入りづらく、1分~3分という
教育していくことは、今後この職種が生き残るた
細切れなら、飽きずに、空き時間に勉強しやすい
めに絶対に必要なのです。
ということです。
理想を言えば、しっかり説明してしっかり教育
MS教育のポイント
したいという思いが当然あると思いますが、頭に
入らなかったら意味がありません。このシステム
全国を回ってMSの話を聞くと、だいたい傾向は
は一例ですが、効率的な教育をして、いつ勉強し
一緒です。教育では、時間がない、忙しい、集ま
ているのかバックデータも取って分析することが
れない、製品数が多すぎて覚えられない、宿題が
重要です。
たまる、行動では、売上が大事、施策数が多すぎ
てこなし切れない、先生に会いづらい、形だけに
ソリューションビジネスの導入
なってしまう、などです。
そこで提案したいのが、教育と行動の2段構え
医療機関から選ばれるようになるにはどうした
です。行動の前には必ず教育がある。MS販促を正
らいいか、つまり価格以外で何を差別化にするの
のスパイラルに持っていくために、効率的で、や
か、そして、副次的な収入源は作れるのかという
らされている感がない教育の仕組みの構築です。
模索は永遠の課題です。
例えば、弊社では、卸向けにクローズドのイン
ソリューションビジネスには2つの道しかあり
ターネットの教育・情報伝達サイトを運営していま
ません。1つは、バーター型で「これだけの経済
す。弊社が独自に開発したMS向けクラウド型シス
効果があったので、弊社から医薬品を購入してく
テムで、インターネットサイトにユーチューブと
ださい」
、もう1つは、独立採算型として「Y円で
いう動画を見るサイトがありますが、それとよく
このソリューションをご利用ください」という道
似た画面で、遊び感覚で見られるプログラムです。
です。
管理者は、MSの閲覧履歴や、いつ見たか、どんな
バーター型のソリューションビジネスの場合は、
質問・コメントを返しているか、クイズにどう答
後発品の品揃え代行などが考えられますが、医療
えたかといったことを分析するだけで、より効率
機関に対して、
「これくらいのシステムを入れてい
的な教育ができる形になっています。いつ見てい
ただいて、経済効果があったので、この価格で納
るかというのは重要で、MSの日常業務の中でいつ
入させてください」と。経済効果の試算や提示が
空き時間があるのか、教育ではそういったところ
重要です。現実は簡単ではなく、非常に難しいで
も分析する必要があるのです。
すが模索していく必要があります。
教材は1本につき1分間~3分間程度で、いつで
独立採算型の例として挙げたいのは、地域の医
も、携帯でも、外に出ているときでも見ることが
療機関の連携パスシステムの開発・運用支援です。
できます。教材がアップされると、メールが全MS
これこそ卸ができると思うのです。ITのベンダー
や指定したMSに届き、ご覧の通り、平均で、1日
と組んで、地域で加盟する診療所の募集はMSがで
目で約4割、1週間でほぼ8割から9割、1か月
きますし、システムの運用も卸でできますので、卸
間で 10 割以上、つまり一人が複数回見ています。
は非常に実現に近いところにいると思います。ま
実際にいま運用している例では、卸によっても
違いますが、いろいろな製薬会社の教材が載って
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た、委託MRも独立採算型といえます。
平成23年度日本医薬品卸勤務薬剤師会「研修会」
卸が取り組むべき課題
最後に、いま取り組まなければならないことを
3つ挙げます。これは実は弊社としても業界に貢
献していきたい部分でもあります。しかし、あく
まで個人的な意見であり、想いです。
①取引・商習慣に関する卸業界全体のルールの確立
1つ目は、取引・商習慣に関する、卸業界全体
のルールの確立です。競争社会ではどこか1社が
取り組んでも難しいところがありますから、業界
全体のルールを確立することが必要です。
製品別、施設セグメント別のコスト管理と、コ
資料にメモを書き込んで
す。これは大きな業界外へのアピールになると思
います。
スト以上での販売価格提示に関する卸団体の指針
確立は急ぐ必要があります。
③各社による医師との信頼関係の構築
一方で、メーカーのリベートやアロワンスの基
最後になりますが3つ目は、卸各社による医師
準がわからないと、原価も分らないところがあり
との信頼関係の構築です。やはり最後は、従来型
ます。ただ、いまそれを突き詰めると経営に影響
のMSにしろ、独立採算型の委託MRにしろ、医師
を与える部分があるため、まずは卸業界で何かし
としっかりと信頼関係を構築するという原点に戻
らのルールをつくり、それができた上で、製薬会
る必要があります。MSという職業の再定義・細分
社の団体と仕切価・リベート・アロワンスの基準
化と、薬の視点ではない患者・疾患の視点での現
に関して、額ではなく、リベートとは何か、アロ
場参加型・現場情報共有型の、新たな処方元関係
ワンスとは何か、そして期の前にしっかり基準を
構築戦略をつくっていくのです。
提示する話し合いに入るのがベストだと思います。
治験情報がすべてではありません。治験データ
商習慣ですが、今後発表されるある研究論文の
は厳格にコントロールされた状況で生み出された
中に、商習慣に関する具体的な提案があります。そ
データです。
“チケン”と言っても「知」るに「見」
れを何とかルールとして今後展開していけないか
る情報、医師が使ってみた使用感は非常に重要な
と関係者と考えていければと思っています。
情報です。これを会社の中で共有し、他の得意先
に使っていくことは重要だと思います。これは製薬
②ライフラインとしての国家制度の提案
2つ目は、ライフラインとしての国家制度の提
案です。薬は生命関連商品であり、処方薬は消費
者が備蓄できません。また届けて終わりではなく
使命感による配送で、今回、震災後も機能した唯
会社からみても注目すべきポイントかと思います。
弊社もこのような部分に少しでも貢献できればと
思います。
時間が来ましたので、以上で終わります。ご清
聴ありがとうございました。
一といっていい物流業界です。そうしたライフラ
インとしてのプレミアム、例えば、最低利益還元
制度を卸団体から提案できないかということです。
通るか通らないかは別にして、今後は法案や制度
に関して、製薬業界や医療機関同様、卸業界でも、
卸業界を熟慮した案をつくれないかと考えていま
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Fly UP