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これが欧州の投資促進策だ ~“今回は違う”ことに期待したい

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これが欧州の投資促進策だ ~“今回は違う”ことに期待したい
EU Trends
これが欧州の投資促進策だ
発表日:2014年11月18日(火)
~“今回は違う”ことに期待したい~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ 欧州委員会は来月のEU首脳会議に向け総額3,000億ユーロの投資促進プログラムの策定を進めている。
現時点の案では、官民が出資するSPVが民間の投資案件に資金を供給する。300億ユーロをEU予算
やEIBの資金で賄い、残りを民間投資家からの出資を募る。投資が焦げ付いた場合に公的部門が初
めに損失を穴埋めすることで民間資金を集める計画のようだ。
◇ これは債務危機時に計画されたEFSF/ESMのレバレッジ案に酷似する。ただ、一般に民間の投資
案件への出資は国債購入に比べてリスクが高く、民間投資家の十分な出資が見込めるかは分からない。
また、リスクの高い投資案件にEU資金をつぎ込むことに及び腰となる可能性もあり、投資拡大の起
爆剤となるかは不透明だ。
11月1日に欧州委員会(EUの行政執行機関)の新委員長に就任したルクセンブルクのユンケル前首相
は、景気浮揚と雇用創出を目指し、総額3,000億ユーロの投資プログラムの策定を目指している。16日付け
の英フィナンシャルタイムズ紙に掲載された記事によれば、来月のEU首脳会議(12月18・19日)までに
具体策を取りまとめる方針。最終的なスキームは確定していないが、現時点で有力な案は下記の通り。

官民が合同で出資する特別目的会社(SPV)を創設し、民間の投資案件に資金を供給する。

EU予算または欧州投資銀行(EIB)を通じて、SPVに最大300億ユーロの資金を拠出する。

投資が焦げ付いた際には、まず公的資金の出資分で損失を穴埋めする。

公的部門の出資分で損失を賄い切れなかった場合に、残りを民間の出資分で穴埋めする。

民間部門の出資予定額は公的部門の10倍程度とする(レバレッジ比率が10倍)。

民間出資分は優先的に弁済されるため、高いレバレッジ比率の達成が可能になる。

民間部門のリスクプロファイルに応じて、リスク特性の異なる幾つかのファンドを創設する。

当初、公的部門の原資として、EUの金融安全網である欧州安定メカニズム(ESM)の資金を利用
する案が浮上したが、ESMの創設目標と合致しないため、これにはドイツ政府が反対したとのこと。

この他に、投資プロジェクトの民間投資家への周知を進める技術的な支援、これまで投資拡大を阻害
してきた産業別の規制緩和に向けたロードマップの作成も含まれる。
こうした計画案は欧州債務危機が緊迫化した2011年に、イタリアやスペインなど大国の救済に必要な資
金を確保するため、民間投資家の出資を仰ぎ、時限的な救済基金である欧州金融安定基金(EFSF)や
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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ESMの融資能力や国債購入能力を拡充しようとした試み(EFSF/ESMのレバレッジ案)と酷似して
いる(図表1・2)。ちなみに、当時ユーログループ(ユーロ圏の財務相会合)の議長として、危機対応
の陣頭指揮を採っていたのが欧州委員会のユンケル委員長であった。
フランスのオランド大統領の肝いりで2012年にまとめた総額1,200億ユーロの「成長協定」は、ほとんど
効果らしい効果を発揮できずにいる。同協定ではEIBの資本金拡充やEU予算の利用拡大などを盛り込
んだが、目立った投資拡大には結び付いていない。今回の投資プログラムでは、こうした過去の政策を補
強し、投資拡大につなげることを目指している。だが、一般に国債投資と比べてリスクの高い民間の投資
案件への出資にもかかわらず、計画ではESM(4~5倍)を上回るレバレッジ比率を想定しており、民
間投資家の十分な出資を集めることが出来るかは微妙なところだ。また、SPVがEUから独立した形で
意思決定を行えるかどうかは不明で、損失発生確率が高い投資案件にEU資金をつぎ込むことに及び腰と
なる可能性もある。投資拡大の起爆剤となるかは不透明だ。
(図表1)欧州救済基金のレバレッジ案の概念図(共同投資基金案)
共同投資基金案
①金融支援
を要請
資金調達難
に陥った
ユーロ圏の
構成国
救済基金
(EFSF
/ESM)
②条件を定めた
覚書を締結
④新発債の場合は発行
③出資
⑤購入
新発および
発行済み国
債
出資費用
⑥返済・
損失発生
銀行への公的資金注入に
利用することも可能
(
優
共同投資基
先
金(CI
債
F)
)
劣後部分
③出資
自力再建が
困難な資本
不足の銀行
⑦損失発生
時に劣後
⑦損失発生
時に優先弁済
民間投資家
やIMF
出所:欧州金融安定基金資料より第一生命経済研究所が作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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(図表2)欧州救済基金のレバレッジ案の概念図(部分保証案)
部分保証案
①金融支援
を要請
資金調達難
に陥った
ユーロ圏構
成国
③発行
救済基金
(EFSF
/ESM)
新規発行国
債(保証付
き)
③発行
保証証券
⑤返済・
損失発生
④購入
保証費用
②条件を定めた
覚書を締結
⑧保証費用
の提供
特別目的会
社(SP
V)
⑦保証認定
⑥保証請求
⑨損失発生時に部分保証
(額面の20-30%)
投資家
損失
出所:欧州金融安定基金資料より第一生命経済研究所が作成
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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