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新聞記事における「外国人」表象と排外意識への影響――地域間比較の
民族・エスニシティ(2) 新聞記事における「外国人」表象と排外意識への影響 ──地域間比較の視点から── 東北大学・永吉希久子 1 目的 本報告の目的は,メディアにおける「外国人」表象の地域間の差異,および,排外意識への影響を 明らかにすることにある.2000 年代以降の日本社会においては,外国籍者,特に中国や韓国の出身 者に対する感情の悪化が指摘されている.こうした排外意識の高まりの背景にある要因として,メデ ィアにおける言説の影響があげられる(濱田 2013; 樋口 2014; 李 2009).先行研究では,1990 年 代以降,「外国人」が治安への脅威として表象されるようになったことや,外国人犯罪の記事数が排 外意識を強める効果をもつことが示されており,メディアにおける表象が人々の排外意識に影響して いることが示唆される. しかし,これらの研究においては,2 つの点が十分に明らかにされていない.第一に,朝日新聞な どの全国紙が対象となっており,それ以外の新聞においてどのような表象がされているのかは明らか でない.全国紙のシェアは都市部以外では決して大きいとはいえないため,全国紙のみを対象とした 分析では,「外国人」表象の全体を表しているとはいえない.第二に,既存の研究においては,犯罪 記事などのネガティブな表象以外については,新聞記事における表象が人々の意識と関連するのかに ついて,十分に検証されていない. 2 方法 本研究では,①全国紙と地方紙における「外国人」表象の差に焦点を合わせた,新聞記事における 「外国人」表象の計量テキスト分析,②地域ごとの表象の差が人々の排外意識に与える影響について の計量分析,の 2 つを行う.分析対象の選択においては,まず外国籍人口割合をもとに市区町村を層 化したうえで,24 市区町村(19 都道府県)を無作為抽出した.これらの地域に対して社会意識調査 を郵送調査法で行うとともに,各都道府県でもっとも発行部数の多い新聞を対象として,2010 年か ら 2013 年までの記事の中で、「外国人」などの語が見出しに含まれる記事を抽出した. 3 結果と結論 ①については,計量テキストソフトである KH Coder を用いた分析の結果,大都市圏,外国籍割合 の多い地方部,外国籍割合の低い地方部の三つの地域間で,「外国人」の表象が異なり,大都市圏で は国に対するネガティブな影響が強調される一方,地方においてはローカルな文脈によって表象が異 なることが示された.②については,排外意識の一形態である脅威の認識に対して,外国人を犯罪や 治安と結びつける記事の割合が,正の効果を持つこと,および,経済的な好影響をもたらすという記 事の割合が,負の効果を持つことが示された.これらの効果の強さは,新聞を読んでいるかどうかに よって異ならないことも示された. 以上から,新聞における外国人表象は,地域ごとの文脈に依存すること,また,そうした文脈の差 が,人々の排外意識に影響を与えている可能性が示唆された. 文献 濱田国佑, 2013,「在日ブラジル人の『社会問題』化と排外意識」駒井洋監修『レイシズムと外国人 嫌悪』明石書店, 166-81. 樋口直人, 2014,『日本型排外主義』名古屋大学出版会. 李容玲, 2009, 「日本人と外国人の共生を促す決定要因について」『日本型 General Social Surveys 研究論文集』 8: 121-40. 225