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邸庭園計画
○○邸庭園計画 ○○邸の庭園を計画するにあたり、以下の事を踏まえて計画しました。 ○ 既存の里山的な風景を活かせる材料の選択 周辺環境に自生する植物、可能な限り神奈川県で採取できる材料を用い、より里 山的な風景を引き立たせる。 ○ 人がくつろげて、大勢でも集まれる空間デザイン 庭園にある段差と広い空間を活かして、日常はゆったりとくつろげる空間と大勢 が集まれる広いテラスを創り、それぞれ使い分けができるようにする。 ○ 人と楽しく過ごせる仕組み この庭園で採取された薪を使ってバーベキューを催すなど、共同作業を楽しみな がら伝統的知識を体験できる仕組みを創る。 この計画書では、材料の選択、空間デザイン、仕組みについて説明致します。 1.材料の選択 1.1 植栽計画について 現状の庭園は、シラカシ、アカマツ、ツバキなどその土地に自然に生える樹木が多く、 里山的な風景です。このような空間を残すため既存の樹木はできる限り活用し、新しく 植える樹木は数本に抑えたいと思います。 まずは、植栽をご要望しているシダレザクラ、フジ、ハギについて以下に示します。 1.1.1 ご要望の樹木について シダレザクラ 形態:落葉高木。高さ10~15m、胸高直径1m以上にもなり、枝は細くて下垂し、 個体によっては枝が地に接する。太い枝は横に広がる。3~4月、淡紅白色の 花が葉の出る前に下向きに咲き、ソメイヨシノより先に開く。 特性:陽樹。排水の良い肥沃地を好むが、やや乾燥地でも育ち、生長は早い。 ヤエベニシダレ 形態:落葉小高木。高さ5m程度。4月中旬頃、淡紅色の花が八重咲きし、ソメイヨ シノより少し遅く開く。蕾から花弁が展開するにつれて、花色が濃紅紫色から 淡紅紫色へと変化する。このため、遠目には 5 分咲きから 7 分咲きの頃に紅の 色が最も濃くなり、その後次第に淡い色へと変化するように見える。 1 マメザクラ(フジザクラ) 形態:落葉低木。高さ3~5m。3~4月、葉の出る前、または同時に、白色~微紅 色の花が下を向いて咲く。果実は5~6月に黒紫色に熟し、甘味がある。 特性:陽樹。適潤地を好むが、やや乾燥地でも育つ。生長はやや遅いが、若木のうち から花をつける。比較的病害虫が少なく、小樹形に保てる。 サクラの特性をまとめると以下の通りです。 ○よく日の当たる風通しの良い場所を好む ○土壌は適度に湿気のある水はけの良い場所を好む ○浅根性のため、根元の踏圧など表土の土壌環境は生育に影響する ○剪定に弱い ○連鎖を嫌うため、以前サクラが植えられていた場所へは植栽は避ける 桜を植栽する際は、日当たりがよい場所が適しており、場合によっては日当たりをよ くするために周辺の樹木を剪定することが望ましいです。 浅根性の樹木は、水はけが良く土が固くない場所を好みます。このような土壌環境と するためには、サクラ周辺へ低木や下草を植えることが考えられます。低木や下草には 土壌を良質にする働きがあるからです。そして、園芸種が植わっていると人が安易に踏 み入れない空間ともなります。サクラが生育する周辺の土壌が踏み固められていると根 頭がんしゅ病やネコブセンチュウ病などを誘発しますので、なるべく土を踏み固めない ように配慮して下さい。 フジ(ノダフジ) 形態:落葉つる性植物。幹枝はつる状で著しく長く伸長し、他物に右巻きに巻きつく。 開花は4~6月頃。種子は9~10月成熟。 特性:やや湿気のある肥沃地を好むが、とくに土性は選ばない。 フジは昔、松の木に絡ませて花を観賞していた時代もありま した。自然の森では、フジは樹木に絡まって生育しています。 新緑となった青々しい樹木に絡まって咲くフジの花は、花色を より際立たせ美しさを感じます。 庭園には多くの実生樹が生えているので、フジをそれらに絡 ませて自然風に観賞することも考えられます。ただし、フジは 樹木を絞め殺すことがあるので、フジが広がり過ぎないように 毎年の剪定等維持管理が必要です。そして、巻きつかせる樹木 はネズミモチなどの生育が旺盛な樹種がよいでしょう。 2 マルバハギ 形態:落葉低木。幹はそう生し高さ2~3m。開花は8~9月。豆果は10~11月 に熟する。 特性:陽樹。日当たりのよい肥沃地を好むが、やせた乾燥地でも育つ。耐潮害、公害 はともに中ぐらい。 ヤマハギ 形態:落葉低木。高さ2m内外で、ときに5mぐらいになる。多くの細い枝を分枝し 下垂する。花は7~9月に紅紫色の蝶形花を開く。豆果は平たい楕円形で10 月頃に成熟する。 特性:樹勢は強健。陽樹。やや日陰地でも花数は少なくなるが生育する。腐植質に富 む肥沃地を好む。 ハギの剪定は落葉後に地上部を切り取ります。なぜなら、春に新しい枝を出させると 花付きも良くなるからです。これはハギを育てる上で一番大切な作業で、放任しておく と枯れ枝が目立ち花付きも悪くなってしまいます。剪定以外の手入れはあまり必要あり ません。 1.1.2 麻生区周辺の植物について 地域の植物を知るために、麻生区周辺の緑地を見て回りました。以下がその概要です。 王林寺の樹齢150年と言われるサンシュユ、多摩緑地保全地区のエゴノキ、弘法松 公園のドウダンツツジは自然樹形がとても美しく感じました。 山田土筆美術館では、イチゲ、エビネ、カタクリなどの山野草が保全されており、春 の開花時期はとても美しいと評判です。また、ヤマシャクナゲ、フクジュソウの花も美 しいと評判でした。これらの山野草は一昔前まで多摩丘陵で普通に生えていましたが、 現在では環境の変化とともに見つけることが難しくなっています。 明治大学黒川農場自然生態園に生育しているタマノカンアオイは絶滅危惧種であり、 希少価値は高いです。この山野草は関東地方西南部に特産します。名前の由来は、「多 摩丘陵」で最初に確認されたので「多摩の」となりました。 昔から地域に生育していた美しい山野草がある風景は、より里山的な空間となるでし ょう。そして、 「地域とのつながり」を感じる空間にもなると思います。 なお、山野草は生育環境の条件に適合するかが大切であるため、この庭園での栽培は 難しい種類もあります。園芸種の草花には栽培が容易なものも多くあり、気軽に楽しめ ると思います。 ご参考までに、以下の植物名はこの地域に生育する樹木、山野草です。これらを踏ま えて、植栽する植物は○○様と共に検討していきたいと考えています。 樹 木:エゴノキ、ツリバナ、ヤマコウバシ等 3 山野草:チゴユリ、カタクリ、ニリンソウ、イチリンソウ、ヒトリシズカ、フタリシズ カ、アズマイチゲ、キクザキイチゲ、フッキソウ、フクジュソウ、タチツボス ミレ、ホタルブクロ、ナルコユリ、センニンソウ、ツルニンジン、ツリガネニ ンジン、リュウノウギク、エビネ等 1.2 ウッドチップ舗装のテラス ウッドチップ舗装は木特有の弾力があり、石やコンクリートよりも歩いた感触はとて も柔らかく、歩道やテラスに適しています。 また、この舗装は多層構造で水を瞬時に吸い込み、水たまりができにくいテラスにな ります。そして、蓄えた水を徐々に蒸発させるのでコンクリートのような温度上昇も抑 えられ、熱帯夜の原因とはなりません。 材料は、約1センチメートルのチップ状に細かくした森林の間伐材です。チップ状に したものは、なめても安全な自然素材の凝固剤で固めています。間伐材は国産のヒノキ やスギを使用し、色調整に木の香りが漂う樹皮100%の粉末を使用しています。 耐用年数は、8年間の風化実験で、表面硬度、構造強度において現状維持の状態を保 っており、補修充填が可能ですので使いやすく長もちします。 この舗装は個人邸の庭やマンションの庭、大学のキャンパス等に導入されています。 1.3 ウッドデッキ・ウッドフェンス ウッドデッキやウッドフェンスは以下の事が満たされるように材料を選びました。 ○ 耐用年数が長いこと ○ 土壌に常時接していても腐りにくいこと。 ○ メンテナンスが長期間必要ないこと これらを満たす木材は、イペ、ウリン、セランガンバツ、エコアコールウッドなどが あります。耐用年数や加工形状の豊富さを考慮して、検討していきます。 1.4 石材 石垣の石材は、神奈川県内でとれる本小松石を考えています。外国産や四国等国内産 の石材も検討しましたが、県内で採石される石材を用いることで、その土地の歴史を静 かに物語り、親しみを覚え、地域とのつながりを感じることでしょう。 この本小松石は、江戸城の石垣や明治末期から昭和初期にかけては多くの建造物で使 用されていました。最近では、切り出したままの状態で庭園や公園などにも多く使用さ れています。量産が難しいため、希少価値を高めているという背景もあります。 石質は硬く、耐久性、耐火性に優れています。そして、本小松石は季節の移り変わり や年月の積み重ねで少しずつ石の色や表情が変化していき、その土地に馴染むような “趣き”がでてくるでしょう。時と共に植物と調和していき、落ち着きのある空間とな っていきます。 4 2.空間デザイン 日常ゆったりとくつろげる空間を創るため、ウッドデッキ A とベンチを設けました。 ウッドデッキは雨上がりなどでも庭へ汚れず気軽に行き来でき、ベンチでは日常くつろ ぐこともできます。目隠しには、目の粗いウッドフェンスと低木を組み合わせることを 考えています。生垣で目隠しとすることもできますが、懸念される事として、思ったよ うに枝葉が密にならない、病虫害が発生する、毎年刈込剪定をする必要がある、などが あります。 広いテラスへは、周辺にウッドデッキ B や石垣、枕木の階段を設けました。それら は敷地の高低差を解消する土留めの役割があります。また、自由に座ることができるベ ンチとしても使えるように配慮しました。テラスの中心部はベンチに囲まれ、まるで舞 台と想わせる空間デザインになっています。 3.仕組み 里山では昔、燃料や食料が調達できる「自然を活用する場」として、シイタケ栽培や 薪の採取などが行われていました。この庭園も里山のように自然度が高く、豊富に樹木 が生育している空間です。よって、里山のように活用すること、すなわち薪を燃料とし て利用できるように、薪置き場を創ることを提案します。薪は、バーベキュー、給湯、 発電など「何か」をするためのエネルギー源となるからです。 例えば、大勢の人が集まって薪を活用したバーベキューを行うことは、共同作業を楽 しむことができ、会話も自然とはずむことでしょう。そして、伝統的知識を学ぶ機会、 地産地消のエネルギー活用を体験できる場、また、これらのことを多くの人に発信でき る場ともなります。このような場は、様々な方と共に学び、体験することを通して、人 と人とのつながりを育むことができると考えます。 現代、特に都市部では地域住民との共同作業や自然な空間は少なく、人や地域、自然 とのつながりは希薄化しています。その結果、引きこもりや孤立死、うつ、無縁社会な どが問題視されるようになってきました。人とのつながりが深すぎると“わずらわしさ” を覚えることもありますが、つながりがなさすぎると“生きにくい”社会へと変わって しまったように感じます。 その結果、 「何かとつながっていたい」と思う人が増えている傾向にあります。 「つな がり」は私たちに安心感や親しみをもたらしてくれるからでしょう。つながりができて くると時に“しがらみ”を覚えますが、個々人が許容できる程度の“つながり感”を模 索し、その状態を保ち続けていくことも一つです。この庭園が○○様にとって「人との つながり、地域とのつながり、自然とのつながり」をより感じ取るができ、具合のいい つながりを育める“きっかけ”となれば幸いです。 以上 5 木質バイオマスエネルギーについて 現在石油価格が高騰し、原子力発電所の在り方などエネルギー問題が注目されていま す。そこで今話題となっているのが再生可能エネルギーであり、木質バイオマスの活用 です。その発熱量は、1㎥の木材に対して1バレル(159リットル)の原油とほぼ同じで す。よって、その価値は、原油1バレルが100ドルとすれば、あらゆる種類の木材は 潜在的に1㎥当たり100ドルのエネルギー価値があると言えます。石油価格が高騰す ると木質バイオマスを利用する方が熱供給のコストが安い事例も出てきているほどで す。 薪は近年人気が出てきており、冬は品切れになるほど普及しています。薪を燃料とし た家庭用製品も様々なものが出ておりますので、以下にご紹介します。 ○ 商品名:E-オーブン アウトドアで、バーベキューグリルやオーブン料理、鉄板焼きなどが楽しめます。 ○ 商品名:Bio Stove アウトドアで、ストーブやコンロに使え、携帯も充電できます。 ○ 商品名:ATO ウッドボイラー 給湯や暖房に使用できるボイラーで、生木を乾燥させる必要もなく使えます。 薪は、地域の森林組合や販売業者から購入することができ、庭園を手入れする際に発 生する小枝、太枝、幹などを薪に加工することもできます。ただし、生木を薪として活 用するには、1~2年かけて乾燥させることが必要です。 現時点では木質バイオマスは熱利用が主ですが、今後熱電供給が可能な製品も出てく ることが期待できます。なぜなら、これから電力小売りの自由化、電力会社の送電部門 分社化などの電力システム改革が起こり、地産地消のエネルギーがさらに注目されると 想定できるからです。 エネルギーの創出は今後の重要な課題であり、再生可能エネルギーの活用は、石油や 原子力でない新たなエネルギー革命へつながっていくと考察します。 6