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イ ヌ肥満の定量 丶診断法の確立と新しぃ治療法の試み
博 士 ( 獣 医 学 )石 岡 克 己 学 位 論 文 題 名 イ ヌ肥満 の定量的 診断法の確立と新しい治療法の試み 学位 論文内容の要旨 肥満はイヌやネコで見られる最も一般的な栄養障害であり、臨床現場で大きな問 題となっている。ヒト医学においては遺伝子や細胞レベルでの研究が進展し、肥満 そのものや合併症に対する理解が飛躍的に深まりつっあるが、小動物臨床領域にお いては他の疾患と比べて遅れている。本研究では、ヒトや齧歯類での最新の研究成 果に基づいて、イヌにおける肥満の新しい診断、治療法の確立を試み、以下の知見 を得た。 1)レプチンは脂肪細胞から分泌されるサイトカインであり、摂食量やェネルギ ー消費量を調節するシグナル分子として知られている。最近開発されたイヌレプチ ンの酵素免疫抗体法(Enzyme-Iinked immunosorbentassay,ELISA)を改良レて、 各種条件でイヌ血中レプチンを測定した。血中レプチン濃度はイヌにおいてもイン スリンやデキサメサゾンの投与、食餌摂取によって上昇し、絶食によって低下する ことが確かめられた。また、血中レプチン濃度は実験的に作成した肥満ビーグル犬 において体脂肪率と高い正の相関を示し、様々な犬種、性別、年令の個体から成る 臨症例においても肥満犬で有意に高値を示した。従って、レプチンはイヌにおいて 肥満の定量的な指標として利用可能であると考えられた。 2)イヌの体脂肪・肥満の評価、特に体脂肪の部位別評価にコンピュ一夕ー断層 撮影法(Computed tomography,CT)を利用するための基礎的検討を、ビーグル犬 を用 いて 行なった。CT撮影条件を電圧200 kV、X線量200 mAs、スライス厚5mm とし、検出範囲を-105¥--135HUに設定してレベルデテクションを実施した。得ら れた脂肪面積値と重水希釈法で実測した体脂肪量との相関は、第3腰椎レベルの断 面像を使用した場合に最も良好であった(n=ll,r=0.98)。また、画像上で腹腔内 を関心領域に設定することによって内臓脂肪のみの評価、また、それを総脂肪面積 か ら差 し引くことによって皮下脂肪のみの評価もそれぞれ可能であった。ピーグル 犬 を実 験的に肥満させると、胸∼腰部にかけて脂肪面積はほぼ同様の割合で増加し た が、 皮下脂肪の方がより多く沈着し、内臓脂肪と皮下脂肪の比率は低下していく 傾向を示した。 3) 脱共役 蛋白 質(Uncoupling protein,UCP)は 、ミ トコ ンド リアでの酸化的リ ン 酸化 を脱共役させ、エネルギーを熱に変えることから、肥満治療のターゲット分 子 とし て注 目さ れて いる 。ビ ーグ ル犬の 3種 のUCPアイ ソフ オー ムについて、逆転 写‐ポリメラーゼ連鎖反応( Rever se t rans crip tion -pol ymera se c hainrea ctio n,R TPCR)お よ び c DNA末 端 の 高 速 増 幅 法 (Rapid amplification of cDNA ends, RACE)法 に よ っ て cDNAク ロ ー ニ ン グ を 行 な っ た 。 塩 基 配 列 お よ び 推 定 さ れ るア ミ ノ酸 配列 は、 いず れも 他動 物種 のもの と高 い相 同性 を示 し、 mRNAの臓器発現分 布 も 他 種 と ほ ぽ 同 様 で あ っ た 。 ま た 、 交 感 神経 性の 刺激 によ って 、脂 肪組 織の UCP1が特異的に増加することが確かめられた。 4) 以上の 結果 を踏 まえ て、 あら かじめ肥満させたビーグル犬を魚油添加食で制 限 給餌 してみたところ、牛脂添加対照食よりも減量効果が大きく、CT上では皮下脂 肪 の 減 少 量 が 大 き い 傾 向 が 見 ら れ た 。 ま た 、魚 油給 餌群 の骨 格筋 でUCP3の mRNA が 有意 に増 加し てい るの が確 認さ れた。これらの結果から、魚油はUCPによるエネ ル ギ 一 消 費 量 を 増 加 さ せ 、 体 脂 肪の 減 少 効 果 を 発 揮 し た も の と 考 え ら れ た 。 以上 のように、イヌの肥満について体脂肪率の血中指標としてのレプチンの有用 性 およ びCTによる体脂肪量の部位別評価法が確立された。これらにより、イヌ肥満 の 定量 的か つ型 別診 断が 進み 、病 態解明 や予 防・ 治療 に寄 与す ることが期待され る 。そ の一 環と して 、魚 油を 添加 した食 餌の 処方 食と して の有 効性を検証した。 学 位論文 審査の要旨 主査 副査 副査 副査 教授 教授 教授 助教授 斉藤昌之 橋本 晃 藤永 徹 木村和弘 学 位 論 文 題 名 イヌ 肥満の定 量的診 断法の確立と新しい治療法の試み 肥 満 は 、 イ ヌ や ネ コ で 見 ら れ る 最 も 一 般 的 な 栄 養 障 害 で あ る 。 本 研究 で は 、 ヒ ト や 齧 歯 類 で の 最 新 の 研 究 成 果 に 基 づ い て 、 イ ヌ に お け る 肥 満 の新 し い 診 断 、 治 療 法 の 確 立 を 試 み 、 以 下 の 知 見 を 得 た 。 1. レ プ チ ン は 脂 肪 細 胞 か ら 分 泌 さ れ る サイ ト カ イン で あ り、 満 腹 因子 と し て 知 ら れ て い る 。 ビ ー グ ル 犬 の 血 中 レ プ チ ン 濃 度 を 酵 素 免 疫 抗 体 法 で調 べ た と こ ろ 、 イ ン ス リ ン や デ キ サ メ サ ゾ ン の 投 与 、 食 餌 摂 取 に よ っ て 上昇 し 、 絶 食 に よ っ て 低 下 し た 。 ま た 、 血 中 レ プ チ ン 濃 度 は 実 験 的 に 作 成 した 肥 満 ビ ー グ ル 犬 に お い て 体 脂 肪 率 と 高 い 正 の 相 関 を 示 し 、 様 々 な 犬 種 、性 別 、 年 齢 の 個 体 か ら 成 る 臨 床 例 に お い て も 肥 満 犬 で 有 意 に 高 値 を 示 し た。 従 っ て 、 レ プ チ ン は イ ヌ に お い て 肥 満 の 定 量 的 な 指 標 と し て 利 用 可 能 であ ると考 えられた 。 2. イ ヌ の 体 脂 肪 ・ 肥 満 の 評 価 、 特 に 体 脂 肪 の 部 位 別 評 価 に Computed tomography (CT)を 利 用 す る た め の 基 礎 的 検 討 を 、 ピ ー グ ル 犬 を 用 い て 行 な っ た 。 CT撮 影 条 件 を 電 圧 200 kV、 X線 量 200 mAs、 ス ラ イ ス 厚 5mmと し 、 検 出 範 囲 を ― 105∼ -135 HUに 設 定 し て レ ベ ル デ テ ク シ ョ ン を 実 施 し た 。 得 ら れ た 脂 肪 面 積 値 と 実 際 の 体 脂 肪 量 と の 相 関 は 、 第 3腰 椎 レ ベ ル の 断 面 像 で 最 も 良 好 で あ っ た 。 ビ ー グ ル 犬 を 実 験 的 に 肥 満 さ せ る と 、 皮 下脂 肪 の 方 が よ り 多 く 蓄 積 し 、 内 臓 脂 肪 と 皮 下 脂 肪 の 比 率 は 低 下 し て い く 傾向 を示し た。 3. Uncouplmgprotem( UCP) は 、 ミ ト コ ン ド リ ア で の 酸 化 的 リン 酸 化 を 脱 共 役 さ せ 、 エ ネ ル ギ ー を 熱 に 変 え る こ と か ら 、 肥 満 治 療 の 夕 一 ゲ ッ ト分 子 と し て 注 目 さ れ て い る 。 ピ ー グ ル 犬 の 3種 の UCPア イ ソ フ オ ー ム の cDNAク □ ー ニ ン グ を 行 な っ た と こ ろ 、 塩 基 配 列 お よ び 推 定 さ れ る ア ミ ノ 酸 配 列 は 、 い ず れ も 他 の 動 物 種 の も の と 高 い 相 同 性 を 示 し 、 mRNAの 臓 器 発 現 分 布 も 他 種 と ほ ぼ 同 様 で あ っ た 。 ま た 、 交 感 神 経 性 の 刺 激 に よ っ て、 脂 肪 組 織 の UCP1が 特 異 的 に 増 加 す る こ と が 確 か め ら れ た 。 4. あ ら か じ め 肥 満 さ せ た ビ ー グ ル 犬 を 魚 油 添 加 食 で 制 限 給 餌 し た と こ ろ 、 対 照 の 牛 脂 添 加 食 よ り も 減 量 効 果 が 大 き く 、 血 中 レ プ チ ン 濃 度 も 低下 し た 。 CT上 で は 、 皮 下 脂 肪 の 減 少 量 が 大 き い 傾 向 が 見 ら れ た 。 ま た 、魚 油 添 加 食 群 の 骨 格 筋 で UCP3の mRNAが 有 意 に 増 加 し た こ と か ら 、 魚 油 は UCPによる エネルギ ー消費量 を増加さ せ、体脂肪 の減少効 果を発揮したも のと考 えられた 。 以上の ように、 本論文は 、イヌの肥満に関する研究に初めて分子レベル の知見 を導入し たもので あり、小 動物臨床領域における肥満の診断、治療 法の進 歩に大き く貢献す るもので ある。よって審査員一同は石岡克己氏が 博 士( 獣医 学 )の 学位を受け る資格が充分ある と認めた。