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ビジネスアナリシスを考える
-あらゆる課題や問題解決を実現する効果的なアプローチ-
(第21回)
6.
ビジネスアナリシスのプロセス
6.6
問題を分析、評価し、原因を究明する
・ビジネスアナリシスとは、現在の状態を正しく理解し、これからどうするかを議論、決定しその解
決策を実行するプロセスでもあります。 そのためには捉えた現状を正しく分析、評価した上で理
解し、問題の原因を追究するとともに、今後どのような状態にもっていくかという目標を決めなけ
ればなりません。 可能な限り客観的な現状を捉えた次には、それらの状況を認識し、分析評価
することによって、現状に至った過程や原因を突き止める段階になります。 戦略的な課題解決の
実行においては競争相手との差はどこにあるのか、差別化をするためにはどこを攻めればよいの
か、組織内部の問題点はどこにあってどの程度なのかなどをできるだけ定量的に分析し評価して
ゆきます。 緊急問題においては、その事象が発生した背景を短時間で分析評価しなければなり
ません。このような作業の中で、現在の状態に至った本当の原因が明確になりますので、それら
の分析と評価は今後の解決目標の設定や解決策策定の基礎になります。 ビジネスアナリシス
の具体的活動はここから開始されます。
■現状を分析評価する
・現状を理解するための多くの情報を集めた後にはそれらの情報を分析、評価して正しく理解しな
ければなりません。 そのためには二つの側面からの分析が必要です。 その第一は対象となっ
ている課題や問題の状況についての現状の理解、第二はそれに関係する種々の環境や状況の
理解です。 現実に起こっている現象の正しい情報を集めることと、それらをどう解釈し理解する
かは異なる問題です。 同じ情報から異なる判断は容易に引き出せます。 集めた情報は複数の
視点から分析しなければなりません。 分析に基づく評価も視点が異なると違った評価が生まれ
ます。 異なる分析結果や評価が出た場合には、相違の原因を調べてより論理性や合理性のあ
る判断を選択して最も確かと思われる結論を選択しなければなりません。
・分析評価において注意しなければならないのは先入観です。 予想している要因があるとその
方向へ結論をもっていこうという意識が働きます。 類似の前例がある場合には、同じ結論に導こ
うとする傾向が強いのですが、注意が必要です。 結論が同じであることは当然多いのですが、同
じであることの検証をしなければなりません。 論理的根拠を持った推定と、先入観とは異なりま
す。 誤った分析や評価は情報の相関を見ていくとどこかに矛盾が見つかります。 矛盾のあると
ころには何か間違いがあります。 原因が判明するまで追及することが必要です。 ここで判断を
間違うと、すべての前提条件や実行作業が間違った条件の上に構築されてしまいます。
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・まず、いろいろな情報源やステークホルダーから集めた情報を整理します。 整理の方法はいろ
いろありますがまずは常識的な分類や因果関係の整理などの方法から始めることが基本です。
最も確からしいと想定される現状認識のストーリーを作って、それを中心に整理してみるのが効果
的です。 そのためには、常識的な情報を並べてみます。 例えば、事業業績に関する課題が対
象であれば、まずは一般的な経営指標について、絶対値、時間変化、その傾向、他部門や他組
織との比較などを確認するでしょう。 事業収益についての問題ならば、売上高、損益、原価、在
庫、回転率、人員、などの数値や変化を見ることは基本です。 さらに具体的には、これらの指標
について事業部門別、製品別、地域別、などの詳細を見ることになるでしょう。 売り上げに関する
課題であれば、売上高、市場規模、製品シェア、競合企業の状況、新製品の状況、購買層の変化、
等々の指標があるでしょう。 常時これらの指標を見ているマネジメントならば、何らかの変化に即
座に気付くはずです。 どこかに急激な変化や特異点、あるいは、目立って増加または減少してい
る指標があればそこに何らかの原因が存在するはずです。 いろいろな指標の変化の関係を頭
の中で理解するには高度な経験が必要ですから、共通の時間軸の上にいろいろな指標の変化を
プロットすることにより変化の相関を容易に見ることができます。 このように、まずはマクロにみて、
さらに対象とする問題に応じてミクロに分析していくことは常識的ですが、特異点、変化と比較に
注目することが基本です。 業績のプラスとマイナスとが打ち消しあって、それらを合計したマクロ
では何も見えないことがありますから何かおかしい部分は細部までをきちんと個別に理解すること
が原則です。
■分析評価の視点は対象により異なる
・分析や評価の視点は課題の性質により異なります。 したがって現状確認のための情報収集も
その視点から鍵となる情報を重点的に集める必要があります。
・事業業績に関する課題は最も典型的なものですが、それらは経営指標やその構成要素の詳細
実績、あるいは市場情報を収集分析していくことによりほぼ状況確認ができるはずです。 このよ
うな問題では、異常値の有無、傾向の状態と変化、他との比較などが問題発見の着眼点です。
・量産製品の故障や事故が課題であれば、事故発生の状況、故障や事故の技術的状況、類似現
象の発生、利用経緯などの事故状況に関する状況確認の他、設計、生産記録、部品、材料、供
給者、外注先、製造場所、生産時期、生産ロット、検査記録、の他に生産後の保管状況、流通経
路、販売者、納入後の取り扱い、使用方法の妥当性などの多岐に及びます。 どのような不具合
が起こっているかを鍵として連携して追及してゆきます。 これらも製品分野、例えば電子機器、
機械設備、衣料品、食品、システム製品、車両、化学製品、建築物、等により対象となる情報が異
なります。
・最近頻繁に話題になるソフトウェア製品の不具合に関しては、構成するコンポーネントの個別機
能の不良もありますが、システム上の構成部品として利用されることによる相互連携や干渉、利
用環境上発生する負荷集中、保守に伴う設定値の誤りなど原因が多岐にわたり、現象を複雑に
しています。 再現性のある不具合事象であれば問題の追及は比較的容易ですが、ソフトウエア
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システム製品の場合には、不具合事象の再現性を得るのが困難なことが多く、問題解決を難しく
しています。
・サービス業における問題は、サービスを製品ととらえれば、製造業における問題に共通するとこ
ろが多いのですが、特にサービスの品質レベル、価格、立地、人材、周囲環境における競争など
は特徴的です。 これらは流通業などとの共通点も多く見られます。 ここでの問題の特徴は、サ
ービスの提供側と利用側との価値観の相違や評価視点の相違による不整合が原因になることが
多く、絶対値で評価できない側面が多いことです。
・非営利組織での問題は、サービス業と類似の面が多いのですが、行政などの運営組織の背景
のある組織と、運営体制や資源の問題を常に抱える非営利法人やボランティア団体などでは課
題発生の対象背景が異なる側面も多いと言えます。
・交通、エネルギー、通信、医療、教育機関などは提供側と利用側との関係としてサービス事業に
類似のところがありますが、提供するサービスレベルや品質と運営コストとのバランスの問題が大
きく、ここでも公的機関と私的機関との差もあります。 ただ、公的機関においても昨今では運営
効率の追求は厳しく、営利企業的な問題の追及はテーマの多くを占めるようになっています。 医
療や教育における課題では個人情報に関する機密管理の側面があり、組織を越えた情報の共有
などには特殊な配慮が必要です。 倫理的に可能であるかという問題と技術的に可能であるかと
いうこととの相違が絡みます。
・このように異なる事業分野においては異なる環境があり、それに伴う異なる情報やデータがあり
ますので、それらに適した分析と評価が必要ですが、課題や問題が発生する原点は類似していま
すので、課題や問題の本質的パターンを理解すればどのような対象であっても分析評価の方法
は基本的には同じ手法で対応することができます。 ここで大切なことは、どのような対象であって
も、どのような事業形態であっても、そこに関係する組織と人々の意識が課題や問題の発生と解
決に深くかかわっていることです。
■現象の追跡による原因の追跡
・何か問題が起こった時に、その原因をいきなり考えることは難しい場合があります。 いろいろ調
べていくとだんだんと原因が判明していきますが実際には何をしているかというと、現象を遡って
調べていることなのです。 問題になる現象が発生するとその裏には何らかのその元になってい
る現象が起こっているはずです。 それがわかれば、さらにその裏に他の現象が起こっています。
その追跡を続けていけば一連の現象が発生した最初の現象にたどり着くことになります。
・このプロセスは原因を追究していることと同じです。 現象として現れる範囲では現象の追跡は
原因の追跡と同じだと言えます。 多くの問題ではこの手順により原因の基本部分を追究すること
ができます。 原因は、あるところまで行くと現象としてつかまえることが難しくなり、なぜその現象
が起こるのかという思考の領域すなわち原因追及の分野に到達します。 そこからは本格的な原
因追及の分析が必要になります。 問題によっては可視化できない人間の精神面に至ることも少
なくありません。
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・注意が必要なことは、一つの現象の異常では説明がつかない場合があることと、個々の現象は
問題ではなくても他の現象の異常と同時に発生すると問題を起こすような複合現象があることで
す。 このような現象は頻繁に起こりますので、単一の現象で原因が突き止められない場合には、
同時に起こっている他の現象との複合現象を考えてみることが必要です。 他の現象が異常の発
生を加速したり増幅したりしていることがあります。
■問題の原因を階層構造的に追究する
・問題には必ずその発生原因があります。 それは単純な場合もあり、多数の要因が同時に混在
する場合、またはいくつかの原因が階層的に影響しあってその結果として観測される現象に至っ
ていることもあります。 時間的にも、徐々に蓄積された問題であって、どこかに兆候が現れてい
たのに気付かなかったり、突然発生した問題であったりその現象はまちまちです。 原因を追究す
る場合にはこれらの関係を手繰っていくことが必要ですが、構造的に分解して考えると分析が容
易になります。 また、解決策の構築にも同じ構造が使えます。
・まず、問題が発生した直接原因は何かを考えます。 次にその原因となった間接原因を追究しま
す。 次々に原因を遡っていけば原因の鎖が出来上がります。 これを逆にたどれば、問題の解
決要素になります。 間接原因は一つとは限りませんので、それぞれの間接原因がどのように関
係しているかの相関を理解しなければなりません。 また、二つ目の要素がなければ問題として認
識されない場合もあります。
・例えば、ある製品が急に売れなくなったという場合を考えます。 状況分析より、競合他社から性
能の高い類似品が安価で発売されたことが分かったとします。 この場合、売れなくなったことの
直接原因は、競合製品が出現したことであり、その間接原因は安価であること、さらに高性能であ
ることです。 この場合、安価で且つ高性能という一つの原因にしないで、安価であることと高性能
であることとを二つの並列な原因と考えたほうが、問題解決への対応が明確になりますし、複数
の解決戦略を考えやすくなります。 価格と性能とを別の要素として考えることができるからです。
他社から競合製品が発売されても、高価である場合や、品質が低ければ競争に負けていないか、
競争の形態が異なっていたでしょう。 販売量低下のもう一段遡った原因としては、自社製品の改
善が遅れたこと、さらにその原因は製品動向への注意を怠ったか、製品開発が遅れたことなどが
あげられます。 あるいはもっと広くマーケティング力が弱かったと言えるかもしれません。 さらに
その原因を考えれば、マーケットを考える組織的な体制や意識ができていなかったことになります。
もっとも、組織体制はできていたが当該製品を見落としていたのかもしれません。 そのような場
合には、なぜ見落としたのかという原因追及になります。 あるいは、技術的な基礎能力や意識が
欠けていたかもしれません。 この分析の途中から全く別の原因として市場嗜好が全く変わってし
まったという現象が複合的に起こっていたという場合もあります。 このように、直接原因を構成す
る背後の間接原因を構造的に描いていくと問題解決の構図が見えてきます。
・問題の原因を追究する場面でのこのようなパターンは後刻類似の問題が発生した時の参考にな
ります。 経験した問題をパターン化して蓄積し整理しておくと知識と経験のライブラリーとして役
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立ちますし、問題解決トレーニングの材料としても役立ちます。 このようなパターンは具体的には
無限にあるように思われますが、問題の基本的な視点から分類整理していけば、限られた数しか
ないはずです。 原因追及のパターンはその対象が上記したような市場の問題であっても、システ
ムの不具合であっても、設備の故障であっても、ほとんど同じ追跡方法の適用が可能です。 むし
ろ、本当にそうであったのかという検証や、確認のための再現性が難しいと言えます。
■課題発生の要因や背景を考える
・対象とする課題が、緊急処理性の問題ではなく、検討時間をかけて解決する中期的あるいは基
礎的な戦略的課題である場合には、「問題の原因」よりは「課題発生の要因や背景」という捉え方
をすることになります。 なぜ、そのような課題を考えなければならないのかという要因を掘り下げ
ることです。 当然そのような課題が指摘された過程で多くの議論があったはずです。
・課題テーマの発生点は、トップダウン、経営会議等の幹部議論、事業推進上の課題、改革プロ
ジェクト、企画部門の提案、コンサルタントの指摘、現場からの指摘、パートナーなど外部からの
要求、実務上の不具合、顧客からのクレームなど多岐に及びます。 多くの場合にはこのような課
題は経営方針や事業計画などに盛り込まれますので、その実行案はトップが重点的に認識する
テーマになりますし実行案に関しては多くの議論がされます。
・そのような課題に対してもビジネスアナリシスの視点から段階を追った議論を詰めていくことによ
り課題の取り上げから実行案の策定、実施までを一貫した考えで迅速に構築していくことができま
すので、推進上の後戻りの可能性を避けることができます。
・手法的には、問題の原因を追究する場合より柔軟かつ積極的な改革や戦略的仕掛けを組み込
むことが可能になりますが、経営の周囲環境の認識、必要に応じて社会環境や国内外の政治、
経済環境、あるいは市場動向、技術動向などを幅広く認識していかなければなりません。 その
中で自分たちが置かれている立場、自分たちの強みと弱みを認識してそれらが現在の状態にど
のように影響しているかを理解することが必要であって、その判断はその後の実行において大き
な差として影響します。 そのような積極的な意識をもって、次の目標の設定につながる背景を確
立することが望まれます。
■要求の整理集約と現場ニーズの評価選択
・原因や要因が明確になったならば、問題をどのような形で解決するかという目標を決めなければ
なりませんが、その前に、課題や問題をどのような形に解決するかという議論と要望を纏めなけ
ればなりません。 それにはトップダウンの概念的あるいは戦略的方針が示されることがあります
が、現状分析や評価を実施してきたこれまでの種々の議論や判断は基本的な問題解決の参考目
標になります。 そのほかに、多くの関係者、特にその問題の発生に関連したステークホルダーか
らの問題解決に対する要求や意見の反映を図る必要があります。 特に実行計画が現場と遊離
した状態で決められていないかの確認が必要です。 さらに実行組織における実行能力の確認は
不可欠な問題です。
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・要求は整理しその妥当性を分析して重要性と実現可能性により優先度をつけて採否判定の評
価をしなければなりませんが、立場と視点が変わると相反する提案が見られることも少なくありま
せん。
直接の利害関係者の要求は重要ですが一時的な現状に左右された意見や要望でない
かの判断も必要です。 要求には業務の改革、改善の形態的な内容のほかに、改革推進上のプ
ロセスに関するものや新しいシステムへの移行に関するものもありますので、実現の可能性と容
易性の評価など妥当性の判断も必要です。 また、一時的な要求と恒久的な要求とがありますの
で、その重要性の判断に考慮する必要があります。 このようにして集約された要求は、実行目標
の中に組み込まれなければなりません。
・第三者に委託するシステム開発においては、実務上の現場の要求とそれらを取りまとめる組織、
さらに取りまとめた要求を第三者に構築依頼するための内容伝達という二段階のコミュニケーショ
ンがありその間にギャップが発生する可能性があることに注意しなければなりません。 現場の実
務者が直接システム開発者に開発要求をすることは稀であり、その取り纏め者と現場とのギャッ
プ、取り纏め者とシステム開発者とのギャップの二つが存在することが、その間のトラブル発生の
プ、取り纏め者とシステム開発者とのギャップの二つが存在することが、その間のトラブル発生
要因として指摘されます。
図6-7 問題の分析、評価、原因究明と要求評価
■要求の妥当性評価
・要求は提案した人たちの背景思想が異なると相反する性質のものが出てきますので、その採否
に関しては本来の問題解決との整合性を判断して妥当性を評価しなければなりません。 対象と
する問題の性格にもよりますが、要求の採否は要求が提出されたステークホルダーの当該問題
への関与の重要性と本来の目的からの妥当性から判断されるべきですが、要求の必要レベルや
実現の可能性も妥当性評価の主要な指標になります。 要求には問題解決の本質的機能に関わ
る内容から、運用性や操作性に関するものまでいくつかの段階がありますので、どのレベルまで
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の要求を取り入れるかの判断は重要です。
要求を取り入れるかの判断は重要です。 総ての要求を取り入れた結果システムが複雑になり
すぎて利用に耐えないという失敗もあります。
・要求は機能にしても性能にしても本質的なレベルにとどめるべきであり、特殊な場合を除き、あ
まり細かい要求を条件とすると実現のための無駄が増加することが懸念されます。 要求の妥当
性評価は目標設定にも重要な影響を与えます。
図6-8 要求の妥当性評価
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