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為替予約取引をめぐる会計問題

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為替予約取引をめぐる会計問題
【輪 文 〕
a
弘前大学経済研究第1
2
号
De
c
ember1
9
8
9
為替予約取引をめぐる会計問題
一 一金 融 先 物 時 代 に お け る 外 貨 換 算 会 計 のー 展 開一 一
星
野
優
太
それに よって流動性が高まれば,それだけ投資
I.はじめに
家の インセンティプも増 していくと 考えら れる 。
ところで, 現在,経済におけるリスク負担の
1
9
8
8年 5月に国会での承認に より 証券取引法
構造が,かつてのそれ とは比較できな いほど大
の改正と 金融先物取引法の制定と がお こなわれ,
きく変化してい る
。 しかも金利の自由化
, 配当
いよいよわが国でも 「金融先物時代」を迎えよ
の自由化の進展によ り
, 銀行は内外で激 しい競
うと してい る
。 こ うした新し い金融革命の潮流
争に直面している。高度経済成長期における組
の中で,銀行や証券会社だけでなく, そのほか
織拡散型の リスク負担方式はもはや有効ではな
一般事業会社の経営も大きく揺れており ,その
くなりつつあり ,今日の金融自由化の下では,
流れに乗ってそうした会社が生き残っていく こ
投資家が自分の判断でリス クを負担し ようとす
とは容易なこ とではな い。ま た,こ のと ころ資
る,いわば自己責任型のリスク 負担方式を確立
木自由化に伴って,日本企業に対し外国企業の
しなければならなくなっているのである。 1) そ
投資が活発化している。それは,欧米企業が 日
本のハイ ・テクノロジ ーに魅力を感じて, M &
れ故, リスク 管理の新 しい手法と して 金融先物
fi
n
a
n
c
i
a
lforwardt
ra
n
s
a
c
ti
o
n)が注目
取引 (
A (合併 ・買収〉,レパレ ッジド・パイアウト
されてきた。
(被買収会社の資産を担保として調達した資金
こうして, 企業の国際化戦略や多角化戦略に
による買収〉などを積極的に試みていることか
よって,このところ金融 ・資本市場の利用とそ
らも窺える。わが国企業も ,こ うした金融情勢
の拡大は目覚ま しい ものがある。かかる情況下
の変化に対 して, 会計面で適応 と革新 とを考え
において, とくに会計の立場からみると, 為替
なければならない時期に差 し掛かってい るとい
相場(
exchanger
a
t
e)の変動は会計理論や実務
えよう 。
に大きな影響を及ぼすことが予想される。た と
さて,一般に先物取引がお こなわれるように
えば,長期金銭債権債務の換算替え の問題や,
なった最大の理由は,それがもっリスク ・ヘッ
為替相場の変動に伴う内外金利差から 生ずる為
ジ機能にある。投資家は,現在,保有して いる
現物株の価値が低下す る危険を少しでも小さく
替予約差損益の認識の問題がその好例であろう。
これ らは,当期の財務政策だけでなく ,会計処
したいと 考え ているために,いわ ば 危 険 回 避
理の面でも問題とな ってくる 。周知のように,
(ヘッジ〉の動機から先物取引を利用するので
先物取引は貸借対照表上の資産 ・負債項目に計
ある。 他方,企業の資金調達が金融機関を介 し
上さ れておらず,通常,オフ ・パランス取引 と
た間接金融か ら資本市場を通した直接金融に大
して処理さ れている。財務諸表にこのような重
きくシフトしており,先物取引はこうした資本
要事実が記載 されていないということは会計的
市場〈流通市場〉の多様化を進め,市場の整備
・発展に寄与する手段 ともな っている 。 また,
- 50ー
1
)鍬山昌一「金融先物取引の意義について」 『
企業会計』,
Vol
.4
0,No.6 (
1
9
8
8
年
) , 4- 5頁。
為替予約取引をめ ぐる会計問題
にみて大きな問題であろう。 このこと からわか
してきている。いうまでもなく,わが国の場合,
るように,外貨換算をめぐって解決すべき会計
実需原則の撤廃(後述〉により為替予約は法的
問題は一一ヘッジ目的による先物取引の損益を
な規制を受けることはなくなった半面,為替取
財務諸表に計上することの是非,あるいはオフ
引を処理するに あたり不都合な点が多くなって
・パランスとして処理されている取引実態の開
きたのも事実である 。それに加えて,オプショ
示をどうするか,といったことなど一一決して
ンやスワップなど新しいヘッジの手法が考えだ
少なくないのである。
されており ,こうした新しい取引を直接規制す
そこで,本稿では,金融先物取引のうち重要
べき会計処理の規則やル ールがないのがし、まの
な取引の一つである先物 為 替 予 約 (f
orward
わが国の実情であろう。
exchangec
o
n
t
r
a
c
t
s)について,会計的側面か
ここで為替予約 とは, ある価格の外国為替を
らその理論 と実際上の問題点を探っていくこと
将来の一定期日に一定の為替レ ート で売買する
にしたい。ここでは,まず為替予約をめぐる最
契約のことである。このように「先物為替」に
近の情況およ び実需原則撤廃の背景 とその影響
ついての契約の ことを為替予約といい,こ れに
について述べ,次に為替予約の会計処理に関す
は売予約( s
el
l
i
ngc
o
n
t
r
a
c
t〕と買予約(buying
るわが国 と米国 との基準を比較する形で問題点
3
) 前者は銀行から顧客に
c
o
n
t
r
a
c
t) とがある 。
を抽出し,それについて議論することにしよう。
対しての売りであり, 後者は顧客から の銀行の
買いを意味する。一般に,為替相場の主たる決
I
I
.為替予約取引の意義
定因は,二国間の市場における金利差( i
n
t
e
r
e
s
t
r
a
ted
i
f
f
e
r
e
n
t
i
a
l)にあり , その金利差分だけ
c
1) 為替予約 をめぐる新しい対応
先物為替相場は直物為替相場 より 高くあ るいは
最近,企業財務の多様な展開に伴って, 為替
安くなると いわれてい る
。 しかしながら ,そこ
予約をめぐる新たな局面が現われてきた。たと
えば,まず第 1に為替リ スク (
exchanger
i
s
k)
予約差損益は金利差から生ずる損益だけでなく,
で金利裁定取引がな される とすれば,先物為替
の回避(ヘッジ〉の手段として,為替予約が重
企業の財務戦略による損益 と み る こ と も で き
視されてきたこと,第 2に長期もしくは大口の
る。
の こうした金利裁定のための予約のほかに,
為替予約が登場してきたことがそれである 。
2
)
先物為替予約には,為替リスクのヘッジ のため
企業側からみれば,為替予約はオ フ・ パランス
の予約と投機のための予約とがある。なかでも,
で
, 資金効率を考える必要のないきわめて便利
最近, リスク ・ヘッジのための予約が重視され
で受け入れやすいリスク対策となる。われわれ
てきていることに注目したい。
は,このような局面に遭遇して,会計の立場か
国際取引を頻繁にお こなっている企業では,
ら新しい対応に迫ら れている。それは,会計担
外国為替相場の変動は,それだけで企業の業績
当者の処理如何では企業全体の収支に多大な影
に重大な影響を及ぼす。そこで,企業は様々な
響を及ぼし,そのために企業の会計情報として,
為替リスク のへッ ジ対策を講 じて,企業財務へ
変動する 経済環境に適応 した損益計算,いいか
えれば適正な費用収益の対応を如何に実現すべ
きであるかが問われてくるからである 。
そこで,各国の会計基準設定機関は,その対
応に向けてそれぞれ会計処理基準の制定に努力
2
)白鳥庄之助「外貨換算会計基準ーー為替予約の会計処
理を中心として」 『
企業会計』,Vol
.3
5
,No.
2(
1
9
8
3
年
),
4
7
頁
。
- 51ー
3
)先物為替予約の契約締結自における会計処理は次のと
おりである。
なお,ここ では基本的な処理を示しただけであるから ,
為替予約の差損益,あるいはディスカウン トまたはプレ
ミアムは考慮に入れていない。
(為替売予約の場合の仕訳例)
為替予約未収金 xx× 為替売予約 xxx
(
為替買予約の場合の仕訳例)
為替買予約 ××× 為替予約未払金 X × X
4)原図恒敏「為替予約付外貨建債権債務等の会計処理j
『経理情報』,No.3
7
4(
1
9
8
4年
) .1
5
頁
。
の影響を最小限に止めようとする。つまり,今
く財務的側面にもおよんでおり ,そして 改正外
日
, 変動す る経済環境の下で,企業の適正な財
為法の施行 (
1
9
80
年1
2月〉後, 資本取引をはじ
務政策を実行する には,為替 リスクのヘッジ に
め輸出入貿易取引・外貨取引はこれまで以上の
よる資産の損失を防ぎつつ,さらには高い利益
拡大をみせて いる 。 こうし た状況の下で, 企業
を実現する必要があるからである。他方で,そ
は為替リス ク ・ヘッジをより機動的かつ弾力的
うした経済状況への対応に向けて,各国では各
におこなう必要性に迫られてきたのである。 し
種の会計審議会を通じて会計基準を設定してき
かも,最近の海外市場における 円の取引状況を
ている 。こう した情、
況から考えると ,為替 リス
みてもわかるように,円 の為替取引は世界的に
クにかかわる会計実務の対応について,各国と
活発化する傾向にあり ,わが国ひとり実需原則
も重大な関心をもっていることがわかる。事実,
を維持したと しても,為替相場の乱高下を 防止
会社の財務報告制度に大きな影響を与えると思
することはできなくなってきている。むしろ,
われる会計処理基準が既にいく つか発表されて
実需原則の撤廃に よる為替取引の増加で,外国
おり ,こ れについては次節で詳述する予定であ
為替市場( f
o
re
i
gnexchangemarket)の相場
る
。
企業の国際化に よって外国為替取引もますま
形成力が高まるというメリットが期待できょ
う
。5〕
す多くなってこよう。そこでは,為替リスクを
このよう な背景か ら,実需原則の見直 しゃ廃
管理することが企業活動に とって重要な課題 と
止に対する要望が高ま り,産業界それに行政 当
なってくる。たとえば,先物為替予約によって
局などにおいて検討を重ねてきた結果, 1
9
8
4年
取引リスク( t
r
ansa
c
t
i
o
nr
i
s
k)を へッジし,そ
4月 1日をもって実需原則は撤廃される ことと
x・
れによって会計的リスク(為替換算リスク(e
なった。
changet
r
a
ns
l
a
t
i
o
nr
is
k)を最少限に止めるよ
実需原則撤廃後は,個人も企業も実需の有無
う努力することなどがそれである 。このように
にかかわらず, 自由に先物為替予約を結ぶこと
みてくると ,先物為替予約にかかわる外貨建取
が法的には可能となった。つまり, 実需の裏付
引の会計処理基準は,ある意味で為替リスクへ
けとなる経済取引がなくても予約の締結が可能
の会計的対応の試みであると いうこと ができる。
であり,為替差益だけの追求を 目的 とした カラ
売り ・カラ買いなど投機的な為替予約も法律的
(2) 実需原則の撤廃と為替予約取引への
影響
になんら制約されるものではなくなったのであ
る。そのため,企業は投機的な マネー・ ゲーム
為替予約取引における「実需原則」とは,「
当
に走って膨大な為替差損を生じさせないように
該取引をおこなう場合は貿易等の実体的取引に
注意 しなければならない。 一方で,銀行 などは
基づく需要の裏付けのある ことを要す」とし、う
リスグをめぐって無用のトラブルが生 じないよ
原則であるが,こ れは実需に基づかない投機的
う,
「為替予約は顧客に対する与信行為である」め
取引により為替相場の安定を損なうおそれがあ
との認識を明確に して おく必要がある。
ることから ,昭和 8年以来,採用されてきた制
では,これによ って 実際どのような為替取引
度である。た しかに,この制度はわが国の為替
が可能となるのか,それ らをこ こで簡単に列挙
してみよう。 7)
市場の安定 と秩序維持に果た した役割は大 きい
ものがあり ,わが国企業の先物為替取引から投
機的取引の横行を防止したという 点は高く評価
されてよい。
とこ ろで,わが国企業が グロ ーパル化するな
かにあって,国際的活動は生産 ・販売だけでな
- 52ー
5
)森本学「実需原則の廃止とその影響Jf
手形研究』
,No.
年
) , 5頁
。
3
5
1(
1
9
8
4
6)金融財政事情研究会編『先物為替取引と 財務戦略』金
1
984
年
) ,67
頁
。
融財政事情研究会, (
7
)小早川 l
民生ほか「実需原則の撤廃と実務の対応J『
手
形研究』,No.3
51 (
1
984
年
) '1
かー1
2
頁。
為替予約取引をめぐる会計問題
輸出入成約の前に,為替リスク回避のた
たことになるが,結局のところ,それに一種の
めやファ ーム ・オファ ーを行うための為替
取引の擬制的めな性格を付与したもので,不自
予約……締結時期の自由化
然、さは消えない。
(
乱
)
(
b
) 将来発生する外貨預金, インパクトロー
こうした理論的争点を決着させるには,いま
ン,外貨普通預金の払戻しなど,期日 ・期
一つの問題に答える必要があろう。それは,大
間の確定していない資本取引のための為替
きく分けて二つの立場めがあり,それらを検討
予約…
していくことである。すなわち,一つは「企業
クロス予約の可能性
(
c
) 外貨取引の直接の当事者でない者による
の財務内容の判断に必要なすべての情報の開示
リスク・ヘッジのための為替予約一 回
−
・間接
を強調する考え方」であり , もう 一つは「損益
的業者の予約の可能性
計算上において不確実な換算差額を計上し ない
(
d) 一度,為替予約を締結 したあと, 為替変
とする考え方」である 。 これについてはここで
動に応じて ,再予約を行うこと ・
ー
・既存の
詳しく触れないが,現在,各国の会計基準は前
予約の再予約 ・取消が可能
者の考え方に立つものが多いように思う。
さて,この実需原則の撤廃により ,昭和 5
4年
しかし,いずれにせよ,
「
外貨会計基準」 の
9月に解釈指針として日本公認会計士協会から
前文にある「今日の企業会計においては,損益
提出された「外貨建取引における実務上の個別
計算上不確実な換算差損を計上しないという単
問題について」(以下
, 「個別問題」と略称〉で
純な考え方は採られておらず,むしろ最近では
示された主要な理論的根拠一一すなわち,その
企業内容の開示の観点、から公表財務諸表におい
l
項によれば,個別予約も包括予約もその経済
て企業の財務内容の判断に必要なすべての情報
的効果は同じであるとし ,包括予約といえども
の開示を強調する考え方が高まっている」との
実需に裏付けられており ,合理的な振当方法に
指摘から理解されるように,為替取引を公表財
より個々の取引へ割当てられうるということ
務諸表において開示すべきであるという考え方
ーーが失われた ことになる。そもそ もわが国の
が一般的 となりつつある 。後述するアメリカ財
「外貨建取引等会計処理基準」(以下,「外貨会
務会計基準審議会( FASB)や国際会計基準委員
計基準」と略称〉では,為替予約取引は,予約
会 (IASC〕の基準の考え方も ,つま るところ,
が付されている場合には「円貨額が確定してい
先物為替予約取引を会計上の取引として独立に
る外貨建取引については当該円貨額をもって記
評価し ,これを 開示する立場に依拠している と
録する」 とされている 。個別予約の場合は,原
解される。
取引との結びつきが明確であるの で,会計処理
次節以降では,こうし た立場から , 日米の会
上それほど問題はない。むしろ,実務的にみて
計処理基準を比較 ・検討し , さらに問題点を浮
一般的な形態である 包括予約の方が,原取引と
きぼりにしてみよう。
どう結びつけるかが問題となろう。
I
I
I
. 為替予約の会計処理一ーその日米比較
そこで, 「個別問題」は,包括予約の場合に
は合理的な振当方法によ って対象となる 取引に
さて ,こ れまでに新しい為替取引を規制し ,
割当てられるべきである,との見解を示し,当
該包括予約と原取引とを結びつける途を聞いた。
処理指針とすべき会計基準がいくつか公表され
もちろん,予約と取引との間で振当てについて
てきている。とくに,先物為替予約に対する会
合理的ルールがなしその処理が怒意的になる
と損益操作が生じかねないとし、う問題も生ずる。
いずれに しても , 「
割当て」方式は予約を 決算
に反映させるという点では一つの目 的を果たし
- 53ー
8
)原口博「先物為替予約取引の会計処理上の諸問題」
『会計ジ ャーナノレ』, V
o
l
.
1
7
,No.3 (
1
9
8
5
年 3月
) '2
3
頁
。
9
)木下徳明「実需原則撤廃と為替取引の変化一一外貨建
取引等会計処理基準の見直しの必要性について一一」
『
会計ジャ ーナ/レ』, V
o
l
.
1
7
,No.
3(
1
9
8
5年 3月
) .1
7
頁
。
計処理の基準は,どのよう に設定されているの
c
o
n
t
r
a
c
t
〕との直物レ ート の差に先物予約の外
であろうか。それらの内容について,ここでは
貨額を乗じて算定される。
米国の処理基準 とわが国のそれとを ,比較する
(
b
) 為替予約時に生ずるデ ィスカウ ントない
しプ レミアム
形で簡単に眺めてみることに しよ う
。
米国の会計基準
為替予約取引の会計基準として,まず 1
9
8
1年
こ れは,締結された先物レ ート (fo rw~ ・
d
s
p
o
tr
a
t
e)との
r
a
t
e)と締約日の直物レ ート (
末に公表されたアメリカ財務会計基準審議会 ・
差に先物予約の外貨額を乗じて算定され,先物
基準書( FAS)第5
2号「外貨換算」では,為替
予約期間にわたって損益に計上(期間配分〉す
予約それ自体を独立した外貨建取引(f
o
r
e
i
gn
c
u
r
rencyt
r
a
ns
a
c
t
i
on)と認め,売買目的に応
る。これは,二国聞の金利差によって発生する
直先スプレ y ド
(f
orwards
p
r
e
ad)を,発生主
じてそれを四種類一ーすなわち,一般的外貨建
義によって認識しよう とするもの にほかならな
取引,海外純投資額に対するヘッジ,ある外貨
い。この FA S52
号の方法は,予約差額全部を
建取引契約( コミットメント commitment)の
期間配分の対象とするわが国の「基準」とは異
ヘッジ,投機目的一ーの為替予約に分け,それ
ぞれ会計処理を規定し ている 。
1
0
)
なり,直先スプレッドだけが期間配分とされる
点に特徴がある。
(
2)外貨建の コミットメント をへッジする呂
FA S52号は,為替予約についてそれぞれの
的の為替予約(第2
1項
〉
処理を定めているが,11)ここでは, 海外事業会
社への純投資( n
eti
n
v
e
s
t
m
e
n
ti
naf
o
r
e
i
g
n
ある外貨建のコミッ トメント ーーたとえば,
e
n
t
i
t
y)額をヘッジする目的の為替予約を除く,
将来,設備を購入または売却するといった契約
他の三種類の ものについて述べることにする。
一ーをヘッジするための為替予約ないしその他
(
1
) 外貨建債権債務をヘッジする目的の為替
の外貨建取引から生ずる損益は,会計上独立し
た損益として認識しないでこれを繰延べ,関連
予約(第 1
8
項
〉
F AS52号は,為替予約を一種の外貨建取引
する外貨建取引の測定に含める。ただし,後の
とみており,ヘッジ対象となる外貨建取引や債
期間に損失が生ずると予想される場合には,繰
権債務とは独立に評価する ものと してい る。も
延べてはならない。いずれにせよ, コミ ットメ
ちろん,外貨建取引一般に用いられる会計処理
ントによる外貨建取引は,為替予約された額で、
基準が為替予約に適用されるこ とはい うまでも
取引額を確定し,その後の為替変動の影響を損
ない。そして会計上,次の二つの損益が認識さ
れることになる。 1
2)つまり,
益と して認識しない という のが原則である。
ここで為替予約が外貨建コ ミットメントのヘ
(司直物相場(スポッ ト・レート 〉の変動に
ッジであることの要件として,次のようなもの
が挙げられている。 1
3)すなわち,
よる損益
この種の損益は,決算日( c
l
o
s
i
n
gda
t
e)と先
例外貨建取引が外貨建コミットメソトに対
物約定日( d
a
t
eo
fi
n
ce
p
t
i
o
no
ft
h
eforward
するヘッジであることが明示されているこ
1
0
)F
i
n
a
n
c
i
a
lAccountingStandardsBoard,S
tatement
と
。
ゆ
( ヘッジの対象たる外貨建コミットメント
ofF
i
n
a
n
c
i
a
lAc
c
o
u
nt
i
n
gStandards(
FAS
)No.
5
2
,
ForeignCurrencyT
r
a
n
s
l
a
t
i
o
n
, December1
9
8
1
.
1
1) FAS52
号「外貨換算j を適用するにあたって,企業
の財務戦略および会計処理方針に携わる財務担当者が考
応:すべき問題点については, C
)
;
:の文献を参照されたい。
Ar
thur Young& Company, Fo
何 i
g
nC
u
r
r
e
n
c
y
ρlementation Guid
ef
o
rl
v
f
o
.
n
Tr
a
n
s
l
a
t
i
o
n:AnIm
a
g
e
m
e
n
t
,byArthurYoung& Company, December
1
9
8
1
.
2
,o
p
.ci
t
.
,paragraph1
8
.
1
2
) FASNo.5
が確定していること。
なお,へッジ取引のうち,繰延経理の対象と
なるのは関連コミットメントの金額に限定され
る。しかし ,上記の要件を満たすヘッジ取引が
1
3
)I
b
i
d
.
,p
a
r
a
.2
1
.
- 54ー
為替予約取引をめぐる会計問題
コミ ットメ ン トの金額を超える場合には,税効
た って合理的な方法で配分し各期の損益 として
t
a
xe
f
fe
c
t
s)が認識される場合に限り ,コ
果 (
処理するもの とされているが,予約 日または決
ミットメン トの金額を超え て当該損益を繰延べ
済 日に一括 して 損益と して処理する こと は原則
とし て認められていないのである。 こ うした予
て もよい こと にな っている。
(
3
) 投機目的の為替予約(第四項
〉
約のおこなわれた期から決済日に属する期まで
投機目的の為替予約一ーすなわち,エ グスポ
の期間にわたる毎期間のうちのいずれかに損益
ージャ ー (
expo
sure)をヘッジ す るのでない契
を配分する という方法については, FA S5
2号
約 一ーについては,決算日に契約残存期間に対
IAS)21
号も この方法を採
および国際会計基準 (
応する先物レ ー トと先物締結 日の約定レ ー トと
用している。ただ し
, 重要性が乏 しい場合に限
の差に先物予約の外貨額を乗 じて算定された額
,
り 当該差額を予約日または決済日の属する期
を損益として認識する。 1l
)ここで契約の残存期
の損益と して一括処理することができる。
間に対応する先物レ ー トは,正味回収可能額を
さて,注解 4-2は,「差額」を合理的な方法
表わすために, この時点(決算時〉 で評価しよ
で配分し各期の損益と して処理することを定め
うということであろう 。しか も,こ れは時価で
ている が,実務上,次の点が問題 となろう。 15)
評価し,それを当期の損益に反映させよう とす
(
1
) 配分する合理的な方法とは, どのような
るものである。そして ,二国聞の金利差の変動
方法であろうか
(
2
) 各期に配分された差額を, どのように処
によるキャピタルゲイン ・ロスは投機目的の為
替予約に特有な利得であり,これを積極的に損
理し損益計算書上に表示すべきであろうか
益 として認識していこ うと するのが FAS52
号
(
3
) 次期以降に配分さ れる差額を,どのよう
の立場である。もちろん,為替予約時に生ず る
に処理し貸借対照表上に表示すべきであろ
ディスカウント ・プレミアムは会計上認識さ れ
うか
まず第(
1
)
の点は,為替予約差額は,債権債務
ず,それに伴う償却もお こなわないことになっ
等に係わ る金融上 の収益または費用として認識
ている。
日本の会計基準
されるので, 「
合理的な方法」とは「期間」を
他方,わが国では,昭和 5
4
年 6月に企業会計
基準として各期へ配分することが適当である ,
ということになろう。
審議会から「外貨建取引等会計処理基準」が公
8年 1
2月に「外貨建長期金
表 され, さら に昭和5
次に第(
2)
の点,つまり 各期に配分された差額
銭債権債務等に係わる為替予約について」が注
の処理については,以下の三つの方法が考えら
れる。 16)
解 4-2として追加,公表さ れた。
まず「外貨
会計基準」では,為替予約を独立 した取引と し
(
叫
て認めておらず,ヘッジされる外貨建取引との
(
ゆ その性格を示す科目(たとえば長期為替
関係においてのみ会計上認識しているにすぎな
い
。 保証約款または為替予約が付されている場
合には,確定した円貨額に より会計処理する こ
とになっている。
次に, 注解 4-2によれば, 外貨建長期債権
債務に対して「為替予約」が付された場合の為
替予約差額は,予約日に属する期から決済 日
(
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e)に属する期までの期間にわ
1
4
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b
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9
.
- 55ー
為替差損益に含め て表示する方法
予約損益等〉によって表示する方法
(
c
) 受取利息または支払利息に加減 して 表示
する方法
日本公認会計士協会は,(的の方法を「指針」
15) 日本公認会計士協会監査第一委員会「外貨建長期金銭
債権債務等に係わる為替予約に関する具体的会計処理J
『会計ジ ャーナノ
レ
』
,VoL16
,No.5 (
1
9
8
4
年 5月
) ,44頁。
1
6
)同上, 45
頁
。
1
7)同上, 45
頁
。
なお,為替差損益の表示方法は,「外貨建取引におけ
る実務上の個別問題。司辺問題)について(中間報告) J
の「 V 為替差損益の財務諸表表示Jによることになる。
として採用 している。 17〕その根拠は,予約差額
スクロ ージャ ーの面から問題が生ずる こと にな
の発生原因が主として二国間の金利差であるが,
るので好ま しくないとされた。
その他の要因も考慮 して,広義の為替差損益と
なお,もう一つの先物取引である投機目的の
して処理するというものである。ここでは,損
為替予約については,直接「外貨会計基準」 で
益計算書の営業外損益の一項目 として表示され
規定されていないが実務慣行的に簿外(オフ ・
る。ただし ,取得時または発生時の為替相場と
バランス〉取引として処理され,独立 した外貨
為替予約時の為替相場 との聞に大きな差異があ
建取引として 認められていないのである。 この
ること等により為替予約差額が通常の場合に比
ように,わが国の「基準」では, FA S5
2号と
べて著しく多額になるような場合には,為替予
対照的に,為替予約は独立 した外貨建取引と認
約 日の属する期から決済日の属する期までの各
められておらず,オン ・パランスのヘッジとし
期に配分されるもの以外は特別損益の一項 目と
てだけ会計上認識されるにすぎないのである。
国際会計基準
して表示する。
さらに,国際会計基準委員会は, 1
98
3年 7月
また,(b)の方法は協会指針として採用されな
かった。それは,現在,為替決済損益,為替換
に IAS第2
1号「外国為替レ ー ト変動の影響の
算損益,外貨建短期金銭債権債務等に係わる為
会計処理Jを公表した。 18) IA S2
1
号は, ヘッ
替予約損益は為替差損益 として表示さ れている
ジ目的で先物為替予約が締結された場合,先物
ので,新しい金利的項目を損益計算書に載せて
レー トと当該予約開始 日の直物レ ー トとの差額
いたずら に複雑にする必要はない,との考えか
を,予約期間にわたって損益に計上するよう要
らで‘ある。
求している。ただし,短期外貨建取引の場合に
(口)の方法は,次の場合に認められている 。す
は,先物レートで換算 し報告することができる。
ここでの為替予約の会計処理は,短期の予約取
なわち, ア〉外貨建長期金銭債権債務等の取得
または発生の時に為替予約を付していること,
引にかかわる例外を除いて,主として FA S52
イ)予め当該為替予約から生ずる差損益を当該
号と同様の方法が採られていると解される。 こ
債権債務等に係わる金利と通算して資金の運用
れに対し,短期の外貨建取引が先物レ ー トで換
利回りまたはコストが予定されていること,が
算 される点はわが国の「外貨会計基準」と同 じ
それである。ちなみに,この方法は,予約差額
であるが,長期のそれについては, IA S21号
が,本来,二国聞の金利差により発生する利息
とわが国の 「基準」とでは決算実務の上で取扱
に準ずるものとみなすならば,その配分額はす
いが異なっていることに注意したい。
べて受取利息または支払利,
息に加減算するのが
さて,これまでの議論から,先物為替 予約の
合理的である , との考え方を根拠にしている 。
会計処理方法について各基準をまとめてみる と
,
なお,こ の場合にはその旨を注記することが望
表 1のように整理することができる。
ましい。
I
V
. 若干の論議
最後に,第
( 3)の点についてであるが,こ れは,
為替予約差額のうち次期以降に配分される額は
貸借対照表に記載されるが,資産の部または負
本節の目的は,これまでの議論から解決すべ
債の部にそれぞれ長期前払費用または長期前受
き問題点をいくつか指摘し,それについて考察
収益と して両建で表示する。ただし,決済日が
を加えることにある。 こうし た問題点は,取り
一年以内に到来する場合には,前払費用または
前受収益として表示する。なお純額表示の方法
をとると,貸借対照表上,零またはきわめて少
額 となって実体を正しく 表示しなくなり ,ディ
- 56ー
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為替予約取引をめぐる会計問題
表 1 為替予約の会計処理方法の比較
目
債権債務のヘッジ
短期
長期
外貨会計基準
コミットメントのヘッジ
先物約定時
期間配分
取引時
決済時
投機
独立して認識する
独立して認識する
独立して認識せず
独立して認識する
直物レ ート
直先レ ート差
対象外
先物レ ート
期間配分
期間配分(発生主義〉
取引時
決算時 または決済時
債権債務のへッジ
短期
長期
コミットメントのヘッジ
IA S21号
独立して認識する
独立して認識する
独立して認識せず
先物レ ート
直先レ ー ト差
対象外
期間配分
期間配分
取引時
債権債務のヘッジ
スポット ・レートの変動
テ’イスカウント ・プレミアム
コミットメン トのへッジ
独立して認識せず
独立して認識せず
| 換 算 処 理 ! 損益の計上時期
対象外
対象外
対象外
オフ ・バランス
投機
FAS52号
取引の認識
的
|独立して認識せず
簿外と して認識する
投機
上げ方次第ではその視角が非常に広がってしま
相場を貸借対照表に反映させる余地はない。し
うので,ここでは,それを大きく分けて二つの
かし,先物為替予約が実需取引のヘッジ手段で
観点一一つまり会計処理に固有の問題とその開
ある場合には,一方の実需取引にかかる貸借対
示の問題と ーーに絞って検討したし、と思う。
照表項目の換算相場として当該予約相場をあて
まず第 1は,為替予約は未履行契約(コミッ
トメント〉であるが,それを会計上独立した外
ることにより ,先物予約相場を貸借対照表に反
映させることができる。
貨建取引と認めて,測定し報告してよいのかど
ところで,会計の通説では,履行によ って所
うかという問題である。つまり,為替予約は委
有権の移転または債権・債務が確定しない限り,
託証拠金や手数料支出もない未履行の契約であ
取引は会計上認識されない。しかし,伝統的な
り,それが会計上の取引に該当するのか否かと
会計の通念だけでは今日の金融先物時代にはも
いうことである 。町 これについては, FA S52号
はや対応できないのである。そこで,外貨取引
とわが国の「外貨会計基準」との聞には著しい
は,つねに為替相場の変動等の損失を蒙る危険
相違があると解される。すなわち, FA S52号
にさらされているものの,資産概念としては,
は為替予約を独立した外貨建取引とみなしてい
将来における見積経済便益を決定的な要素とせ
るのに対し,わが国の「基準」では為替予約を
2
0)単に法的契約という意味では,
ざるをえない 。
そのようにみておらず,ヘッジされる外貨建取
スワップのように会計取引として認識するだけ
引との従属的関係においてだけ認識しているに
i
xed
でなく,発生主義に基づいて固定金利( f
すぎない。
interest rate), 変動金利( floating interest
いうまでもなく,先物為替予約は未履行契約
rate
〕を未払計上して記帳することも考えられ
(コミットメント〉であり,本来それ自体が貸
る。ただ,契約などの取引を会計取引と して認
借対照表能力を欠いているために,為替予約の
定すべきか否かについては,今一度,会計公準
1
9)住田笛雄「先物為替予約取引 J
,金融商品等会計問題
2
0
)A
ccounting Standards Committee (ASC),“
Ac-
研究会編『金融商品等会計問題研究会報告書』資本市場
研究会, 1989年 3月
, 209頁.
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ー57 -
の再検討を要しよう。一方で・,負債概念の援用
響はそれほ ど大きく はない」 2
2〕という。 いずれ
から 一歩踏み込んで‘契約会計への拡張を試みる
にして も,先物為替予約取引の経済的実態をで
必要 もあろう。 2
1〕契約による権利と義務をい
っ,
きる限り反映させるように会計処理することが,
どのようにして認識 し測定するかは, 負債の オ
弊害を取除 くこと になろう。
フ ・パ ランス化を防 ぐためにも きわめて重要で
ところで,今日の企業会計では,わ が 国 の
ある。
「
外貨会計基準」でも強調しているように「損
第 2は,先物為替予約について,それが債権
益計算上不確実な換算差損益を計上し ないと い
憤務に対するヘッジ取引であるのか,未履行契
う単純な考え方」よりも, むしろ「企業の財務
約に対するヘッジ取引であるのか,あるいは投
内容の判断に必要なすべての情報の開示を強調
機 目的によるのか,その取引目的の相違によ っ
す る考え方」の方が指向されているといってよ
て期間損益計算は重大な影響を受ける とい う問
い。そこでは,財務諸表上に「為替変動の暫定
題である。すなわち,投機目的の為替予約はそ
的な影響」を認識 ・計上す ることが適切であろ
の決済時点で損益が認識されるのに対し,ヘッ
う。このように,為替取引の会計処理 としては,
ジ目的の為替予約は実取引にかかわらせてその
法形式にこだわらず,より 実態を表わす財務諸
効果が認識されるため,当期の財務諸表に反映
表を作成し,経済的実態を重視する こと が重要
されるものと次期以降の財務諸表に反映される
となって いる。
もの とがあり ,両者は,会計上全く異なった処
第 3は,新 しい金融商品取引をめぐ って生ず
理がなされる。つまり ,その判断如何によって
る,いわゆる取引の総額が資産および負債と し
は,恋意的な経理操作を許す可能性が生じるの
て貸借対照表に表示されない「オフ ・パランス
である。もっとも,ヘッジに関する 基準を適用
取引」問題である。 これ らの取引は, 量的にも
すればヘッジ取引 と非へッジ取引と に明確に分
重要性が高 く,しかもリスク が高いにもかかわ
け られるわけではない。 そのためl
に為替予約
らず,取引が完結する まではいっさい会計帳簿
のうちのどれだけがヘッジのた めのも のである
に載ってこないことが普通である。そのために,
かを決定することが前も って要求されることに
契約に伴う含み損失や支払債務の増加など企業
なる。
に とっ ての リスク が財務諸表に充分表示 されな
わが国の場合は,実需原則の撤廃以降,実需
いとい う問題を生みだしている 。それ故,オフ
の裏付け如何が為替予約の成立に関係しなくな
・バラ ンス取引について もその会計処理 と開示
っており, またヘッジ目的と 決めた為替予約を
一一金融取引を資産 ・負債として認識すべきか
「合理的な振当方法」で実需に対応させたとし
否か,そしてその取引結果をどのように開示す
て も予約が損益操作の手段とみなされかねな
れば理解しやすし 、
かーーの問題を考え ていく必
い。他方, FAS5
2
号も履行済みの外貨建取引
要があろう。
をヘッジするための予約と投機目的の予約とを
まず為替予約のような契約は,多くの場合,
区別する基準が明確でないので,ここ でも同様
取得原価主義や実現主義といった伝統的会計思
の問題が生ずる。ただし , これに関して, 森田
考の観点にお いては,その取引を会計上認識す
教授は 「FA S52
号の基準では予約レ ート の変
ること はな い。また,金融取引を会計認識 しな
動に伴 って(損益が)認識されるの で,…・・・多
い理由と して, 権利と義務の相殺が挙げられ
少の悲、意性が介入しても,期間損益に対す る影
る
。均 つまり,資産と負債を貸借対照表上に両
21
)田中教授は,負債概念から契約会計への論議の高まり
を期待されており ,これについては次稿を参照のこと。
田中建二「オフ ・バランスシート・ファイナンシングと
2
2
)森田智漏「為替予約と債券先物契約の会計一ーその損
益認識基準を中心に して一一j 『
舎計』,第 1
2
9巻第 l号
(
1
9
8
6
年 1月), 7頁
。
負債概念J『
企業会計』, V
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, No.11 (
1
9
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7
年
)
, 7
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頁。
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98
8,p.4
7.
- 58ー
為替予約取引をめぐる会計問題
建て計上し て脹らましておくよりも,相殺表示
とが求められる。
した方がよいとする立場がとられるからである。
第 4は,先物取引をめぐって生じる外貨建の
しかし,会計の通説では,資産と負憤の相殺は
資産 ・負債,予約にかかわる評価益や評価損,
認められていない。むしろ,企業のオフ ・バラ
あるいはオフ ・パランスの予約残高の開示をど
ン ス シ ート・ フ ァ イ ナ ン シ ン グ の 手 法 は , 契 約
うするかという問題である。とくに,先物取引
はその一方が義務を履行するまでは会計上認識
にはへッジ取ヲ !
と投機取引とがあり,それらを
しないという要件を逆に利用しているとさえ言
ある基準により明確に区分することが開示面で
4〕そこで, こうした取引を認識す
われている。 2
号の
も必要である。前述したように, FA S52
るには,伝統的な会計計算思考との翠離をし、か
なかでは先物為替予約の会計処理について ,ヘ
ッジと投機とを明確に区分しており,こうした
に調整するかにあるといってよい。
ところで,取引が開示されている限り,情報
思考はそのほか類似の取引の会計処理にも適用
利用者は自ら修正計算しうると想定できるから,
されている。損益認識は先物取引もおこなう必
財務諸表本体に計上されようと脚注開示されよ
要があるが,それを貸借対照表に計上するとい
うとそれらはそれほど大差はない。それに もか
う点ては議論が分かれよう。先物取引の独自性
かわらず,なぜオフ ・パランス取引が急増し て
号におい ても,貸借対照表
を主張した FA S52
いるのか,またなぜ経営者はオ フ ・パランスシ
上の開示につい ては直接言及していない。それ
ー ト・ファイナンシングの手法切を利用して負
は,為替予約はあくまでコミットメントであり,
債を本体から除外しようとしているのか。それ
貸借対照表能力に問題があるからである。ただ,
は,負債を貸借対照表本体から除外することに
米国の場合は先物取引自体が時価評価されるた
よって,社債の格付けや財務制限条項に有利に
めに,開示にかかわる 問題はわが国の場合に比
働くことが考えられるからである。このように,
べて少ない。
財務諸表本体に計上されるかどうかにより,社
これに対し,わが国の場合をみてみよう。ま
債の格付けや財務制限条項だけでなく ,株価形
ず商法上は,先物為替予約取引について会計方
成など多くの面で会計の社会的影響力が発揮さ
針として触れる必要はないが,重要な資産およ
れる。そのためにも情報利用者の目的に応じ
び負債が外貨建であるものはその旨を注記しな
た会計情報が利用されるよう,充分な開示が必
ければならない,とされている(計算書類規則
要である。
3
条の 2および第3
2条の 2)
。 また,
第2
証取法
反対にまた,金融機関のリスク対策としても,
上は,先物為替予約について「外貨会計基準」
オフ ・パランス取引にかかわる会計制度の見直
に準拠している限り,重要な会計方針として記
しゃ情報の開示の充実について検討していくこ
載する必要はないが,資産,負債のうち「外貨
2
4)田中建二「オフ・パランスシート・ファイナンシング
と会計基準j 『
経営行動』,
(1
9
8
7
年春季号), 37
頁
。
25)近年,企業の海外進出,合併 ・買収,あるいは経営多
角化などによって巨額な資金の借り入れをおこなう企業
が増えており,企業の財務内容はかなり悪化している。
そのために,オフ ・パランスシ ー ト財務をめぐるいろい
ろな手法が考えだされているのであるが,それに対し て
会計はどのように対処していけばよいのか,現在のとこ
ろ暗中模索の状態にある。ところで,金融機関において
も,貸借対照表に表われてこないオフ・パランス取引の
急増が緊急の課題となってきた。そこで,欧米の主要銀
S)による自己資本比率規t
Mの
行は,国際決済銀行(BI
強化に対応するために,貸借対照表に載る債権債務を
圧縮し , 自己資本比率に抵触しないオフ・バランスシ ー
ト取引にカを入れ始めたのである。
- 59ー
建のものは,その旨及び外貨による金額を注記
4条,
しなければならない」(財務諸表規則第 4
5
6条〉と規定している。このように,商法,証
取法ともに,規則上は外貨額だけを記載すれば
よいとされているので,先物為替予約の開示に
関係してこない。ちなみに,
では,
「外貨会計基準」
「外貨建長期金銭債権債務その他これに
準ず る項目については,決算時の為替相場によ
る円換算額を貸借対照表に注記しなければなら
ない」と定められている。
要するに,本質的な問題は,先物為替予約に
か か わ る 取引 の会計処理を貸借対照表本体に表
だせないが,し か し重 要なこと は, そ の判 断如
示 す る か,それと も注記も し くは脚注に表示す
何 によって恋意的な経理操 作 を許 す可 能 性が 生
るかの問題であ ろう 。 このうち ,貸借対照表に
じない ようにす ることであ る。 そ の ためには,
表 示す る方法は, 資 産, 負債を両建て計上 (水
為 替 予 約 取引 の 経 済的実 態 を で きる限 り反映さ
増 し計上〉する こ とになるので好ましくない と
せるよう処理す る こと が, そ うし た 弊 害 を 除 去
されている。町 一方 , 注記の根拠は, 「先物売
する こ とになろう。
第
買 契 約 等 の 現 実 に 発 生 していない債務で,将 来
3は, オフ ・バラ ンス取 引 の是正と そ の 開
において当該事業の負担となる 可 能性のあるも
示をおこなう こと である。つまり ,契約に伴う
の」は,偶発債務と して 「注記」すべきと して
含み損失や支払債務の増 加 な ど 財 務 諸 表 に 充 分
いる こ とに由来する。 FA SBの対応の仕方も ,
表示されない項目があ り
, 企 業 に とってこ の リ
脚注に表示する方式をとって い る。いずれにせ
スクをいかに防ぐのか会計 制度 の 見 直 しが迫ら
よ,貸借対照表には外貨建原債務が計上 されな
れて い る
。 こ うした 取引を認 識す るには, 伝 統
い の で,残 存す る法律上 の債務を偶発債務と し
E離 を いかに調 整す るかにあ
的な会計理論 とのヨf
ろう。 2
7)
て, その内容, 外貨による期末残高の注記をす
第 4は,予 約 に か か わ る 外 貨 建 の 資 産 ・負 債,
ることが妥当であろう。こうして,経済的実態
に基づく算定見積値を注記する ことにより真実
評 価 差 損 益, あるいはオ フ ・パ ランス項目の開
かつ公正な財務報告が期待できる 。
示 をどうするかである。 これ は, 予 約 取引 を,
法的形式よりも経済的実態を重視して会計報告
v.含意 と今後の 課 題
に いかに妥当に反映さ せ るかにあるといっても
2
8
〕この点は, FA SBの対応、にみられる
よい 。
本稿におい て,われわれは為替予約の会計処
理 に 関 して 日米の基準を比較する形で問題点を
提 示し, そ れ を 検 討 してきた。また,ここ では
為 替 予 約 を め ぐ る 日 米 の 新しい 対 応, さらには
わが国の実需原則撤廃から招来する影響につい
こ
。
ても論じ T
さて,これまでの検討の結果,為替予約の会
計処理に関して次のような インプリケ ーション
が得られた。
まず第 1は,先 物 予 約 に ついて, 負債のオ フ
・パランス 化 を防ぐためにも ,会 計上独 立した
外 貨 建 取引と 認めて損益を認識するこ とである 。
しかも ,為替予約については取引が実行されて
いなく とも,す で に 予 約 は 成 立しているので,
その決算期間中に, 予約期間や相場動向に 応じ
て 損 益 を 計上 す るのがよいと思われる。
第
2は, へ y ジ取ヲ |と投 機 取引と をどう区分
け す るのか,そのよい論 拠 はい まのとこ ろみい
2
6)斉藤泰「企業会計はいかに変貌しつつあるか一一新し
い会計原則を模索している一一」『会計ジャ ーナ Jレ』
,
Vol
.
19
,No
.5 (
1
9
87
年 5月)
,2
8
頁。
- 60ー
2
7)小宮山氏は,オフ ・バラ ンス取引に関する会計処理と
開示の問題を再検討するにあたり ,次のようなわが国の
会計制度に特有な事項を考慮する必要があるという。す
なわち,
(
a
)
含み損についてどの時点で評価損を計上するのかが必
ずしも明確でない。
(
b
)
契約債務の開示を行う慣行がない。
(
c)実現主義により来実現利益の計上を認めないという考
えが強いため,先物にかかる利益を認識することを疑
問視しがちである。
匂)利子の概念を取り入れて会計処理を行う慣行がほとん
どない。
(
e)先物の損益は,会計処理が税務上の取扱の影響を強く
受けている。
小宮山氏「オフパランス取引の会計処理と開示の問題
点J『
商事法務』
,No.1
17
1(
1
9
8
9
年 1月
) '1
8
頁
。
2
8
)最近,英国でオフ ・バランスシート・ファイ ナンスの
議論に関してちょっとした論争が巻き起こっている。そ
の論争は,財務諸表の作成および開示に端を発し,オフ
・
パランスシート・ファイナンスの開示問題へと発展し
てきた。その問題の解明にあたって出てきたのが,「財務
諸表は企業の経済的実体を示し得るか」という会計表示
の本質問題に対し,経済的実態と法的形式とどちらを優
先させるべきかについての論争である。現在,これに関
しては経済実態重視の英国勅許会計士協会と法形式重視
の法律協会とが激し
く 対立してお p,新しい会計基準の
設定までにはまだいろいろと粁余曲折があ Pそうだ。
小沢元秀「オフ ・パランスシート・
ファ
イ ナ ンス論
争」『会計ジャ ーナ
ノ
レ
』,Vol
.1
9,No
.7 (
1
9
8
7
年 7月
).
1
6
8
-1
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9
頁を参照。
為替予約取引をめぐる会計問題
ように脚注に表示する方式でもよいであろうし,
も規則によ り統一した ものではなく,そ うした
また貸借対照表本体であってもかまわない。い
基準の聞には著 しい相違点がみられる ことであ
ずれにせよ,会計情報の利用者に不利にならな
ろう。また, わが国における現行の「外貨会計
いように, 真実かつ公正( t
r
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eandf
a
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rview)
基準J
,も しくは商法,証券取引法および税法
な財政状態および経営成績がデ ィス クロ ーズさ
の会計規定ではそうした取引に充分に対応しき
れるよう制度化していくべきであろう。
れていないのが現状である。その会計処理をい
現在, 日本の企業は株高にあおられて 資本市
z
つまでも実務慣行に任せておくことは,わが国
場に対し空前の資金調達に走 っている。その中
の企業が国際化する上で決して好ましいことで
心は,ワラ ント債,転換社債発行など株式関連
はないと思われる 。
の調達(エクイティ ー・ ファイナンス〉である。
こうしたワラント債に人気が高い理由は,社債
部分について長期の為替予約等の措置をとれば,
企業は低金利で資金を集められることにある。
しかし,このワラント債には絶えず不安がつき
まとう。それは,株価が行使価格を下回ったま
ま期限を迎えると,ワラントは紙屑同然になる
危険性も生じるからである。したがって,金融
商品の健全な市場を育成するためにも,投資家
保護を目的としたテ守ィスクロージャ ー制度の充
実と ,金融商品等取引ルールの制定とが必要で
ある。
これを会計的側面に着目してみれば,われわ
れは主として(
1
)ヘッジ目的による 先物取引 の損
益を現物取引の損益 と期間対応さ せて財務諸表
に計上する,いわゆるヘッジ会計の導入の是非,
(
2)ヘッジ目的以外,すなわち投機目的の先物取
引について,市場の為替相場の変動を期末にお
いてその まま損益 として計上することの是非,
および( 3)オフ ・パランスとなって い る取引実態
の開示方法,について議論して L、かなければな
らないであろう。町とくに,金融の証券化( se-
c
u
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i
t
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a
t
i
o
n)への ニー ズが急速に高まっている
今日,これらは真の投資家保護に通ずる改革に
向けて慎重に進められる必要があ る
。
いずれにしても,こんにち直面する問題は,
先物為替予約など新しい取引を直接規制すべき
法律や会計処理規則がない,仮にあったとして
2
9)大蔵大臣の諮問機関である企業会計審議会は,本年度
の審議テーマに先物・オプション取引の会計処理問題を
取り上げている。そこでも,こうした諸点が審議の対象
となっており,重大な問題であることを窺わせる。
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