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5.シャットネラ等による 漁業被害防止、軽減技術開発
5.シャットネラ等による 漁業被害防止、軽減技術開発 5.シャットネラ等による漁業被害防止、軽減技術開発 1)赤潮発生時における緊急出荷・救命技術の開発 水産総合研究センター西海区水産研究所 松山幸彦・永江 彬・栗原健夫 ・橋本和正・長副 聡 佐賀県玄海水産振興センター 河口真弓 長崎県総合水産試験場 高見生男・山砥稔文・平江 想 熊本県水産研究センター 多治見誠亮・吉村直晃・川崎信司 海洋エンジニアリング株式会社 伊藤信夫・小林 1 創・吉永 潔 全体計画 (1)目的 有明海・八代海海域、豊後水道など九州西岸や東岸では、近年、シャットネラ属、カレ ニア属、及びコクロディニウム属による赤潮の発生規模が拡大していること、赤潮の初期 発生海域や時期、発生環境に周期性が少なく、かつ赤潮発生規模が全海域に及ぶことから、 これら予察技術の確立や餌止め、避難の実施による赤潮駆除技術対策は手詰まりとなって いるのが実情である。従来型の対策では、赤潮による漁業被害を抑制できていないことか ら、何らかのブレークスルーが必要である。有明海や八代海海域を中心に赤潮による漁業 被害は未だに増え続けており、魚病とともに魚類・貝類養殖業の主要な阻害要因となって いる。 本課題では、九州海域において頻発するシャットネラ属、カレニア属、及びコクロディ ニウム属による赤潮に伴う漁業被害を必要最小限の費用で軽減し、 「有明海及び八代海の再 生に関する基本方針」でも示されている赤潮の防除、漁場環境の保全に資することを目的 とする。すなわち、シャットネラ属、カレニア属、及びコクロディニウム属を選択的に駆 除可能な防除剤を開発するとともに、魚介類に及ぼす悪影響を物理的または化学的手法で 徹底的に遮断することで、漁場で実施可能な赤潮被害低減策の基礎を確立することが、赤 潮による漁業被害のリスクを低減するうえで妥当な解決策である。 (2)試験等の方法 ① 生簀内部のシャットネラ属等細胞密度の低下手法効果の検証 生簀周辺での細胞密度を低下させるため、昼間シャットネラ属やカレニア属があまり分 布しない海底近くの海水をポンプ等で揚水し、これらの細胞を殺滅する処置を施して生簀 内に投入し、強制的に生簀内部の密度を低下させる手法の効果を検証する。 ② 有害プランクトン細胞への破壊効果を有する装置の開発 生簀周辺のシャットネラ属、カレニア属、コクロディニウム属を殺滅して毒性を減じる ために、キャビテーション装置やサイクロンなどを改良した船舶搭載型で、有害プランク トン細胞への破壊効果を有する装置を開発する。 ③ 赤潮発生中でも活魚出荷を可能とする技術の構築 上記効果を高めるために、魚病における寄生虫の駆除剤として利用されており、魚毒性 の低さについては既に証明されている微量の過酸化水素製剤等を併用することで、生簀内 部あるいは生け間の赤潮プランクトンを、物理的・化学的手法を組み合わせて防除・減毒 化し、赤潮発生中でも活魚での出荷を可能とする技術開発を構築する。 ④ コスト・労力の算出 漁業者でも実施可能なコストや労力を算出する。 3 平成27年度計画及び結果 (1)目的 ① ラボ内での運用試験(有害プランクトン暴露による再試験) 平成 25 年度はキャビテーション及びサイクロンで Chattonella spp. に対するほぼ 100%の破壊効果と魚毒性の防除効果を確認した。平成 26 年度は Chattonella spp. 程で はないものの、Cochlodinium polykrikoides に対する一定の破壊効果を確認した。本年度 は過酸化水素(H2O2)を添加することにより 、C. polykrikoides 細胞破壊の増大効果を確 認する。 ② 実海域での運用試験(試験用生け簀、運搬船生け簀による試験) 平成 27 年度は、八代海における有害プランクトン赤潮は小規模であったことから、実海 域における試験は実施できなかった。しかしながら、試験用処理装置と試験用生け簀を漁 船に積み込み、運用するといった一連の作業手順については確認できた。本年度は漁業被 害を及ぼす Karenia mikimotoi 及び Chattonella spp. の赤潮が発生したため、再度、キ ャビテーションによる実海域での運用試験を実施する。 ③ 試験用生簀の改良(生簀カーテンの補強) 今年度の実海域における魚毒性試験において、試験用生簀の外部のシャットネラ細胞密 度に対し、内部の細胞密度が予測どおりに減少しなかったことから、対策として、生簀カ ーテンを長めにとることを検討する。 (2)試験等の方法 ① ラボ内での運用試験 Cochlodinium polykrikoides (12 月 14 日):破壊効果試験 西海区水産研究所保有の伊万里湾産培養株を用いて試験を実施した。 試験は、C.polykrikoides 培養株を試験用濾過海水(水温 15.6~17.4℃、塩分 31.6) にて希釈し、細胞密度を約 120 cells/mL とした後、試験用処理装置に一回通過させた。対 照区及び処理海水は 10 L ずつ 2 サンプルを精製し、片方のサンプルには 10 L あたり 45% 過酸化水素(H2O2)を 660 μL 添加し、濃度 30 ppm とした。 なお、試験は対照区のほか、2 試験区を設定した。 ・対照区(未処理区) ・キャビテーション単独処理区 ・サイクロン単独処理区 図 5‒1‒1.試験時の装置設置 図 5‒1‒2.処理海水の排水状況 図 5‒1‒3.試験時のサンプル採取状況 ② 実海域での運用試験 ア.Karenia mikimotoi (八代海・鹿児島県東町、8 月 13~14 日) 八代海において Karenia mikimotoi 赤潮が 8 月初旬~中旬にかけて発生したことから、 西海区水産研究所「沿岸海域有害赤潮広域分布情報システム」及び東町漁業協同組合から の情報をもとに、試験用処理装置と共に八代海の東町漁業協同組合に赴いた。その後、速 やかに試験用処理装置と試験用生簀を漁船に積み込み、赤潮海域を探索した。 イ.Chattonella spp. (有明海・長崎県口之津町、9 月 6~7 日) 有明海において Chattonella spp. 赤潮が 8 月中旬~9 月初旬にかけて発生したことから、 西海区水産研究所「沿岸海域有害赤潮広域分布情報システム」及び口之津町有馬屋水産株 式会社からの情報をもとに、試験用処理装置と共に口之津町有馬屋水産株式会社に赴いた。 その後、有馬屋水産株式会社が保有する畜養用生け簀を借用し、試験用処理装置と試験生 簀(2 m 角)を設置した。 まず、対照区として、体重 3.3 kg とブリと 12 g 前後のブリ養魚を1試験区 3 尾及び 5 尾収容して経過を観察した。次に、試験区として、処理海水を試験前1時間と試験中の2 時間半循環させた試験用生簀野中に対照区と同様の供試魚を収容して経過を観察した。処 理技術はキャビテーション処理を実施した。 また、試験魚(ブリ)は、有馬屋水産株式会社が畜養していたブリとし、試験魚(ブリ 幼魚)は、西海区水産研究所五島庁舎で生産された一系群の人工種苗を入手し、実験に供 した。ブリ幼魚は実験開始時まで 1 日 2 回、人工餌料(おとひめ C1 及び C2:日清丸紅社 製)を総尾数の体重の 1~2%になるように給餌飼育したものを使用した。 ③ 試験用生簀の改良(生簀カーテンの補強) 今年度の実海域における試験は、市販ブルーシートを用いて簡易的に作成した生簀カー テンを使用したことから、試験用生簀内にシートの繋ぎ目からの赤潮が侵入し、シャット ネラ細胞密度は試験用生簀の外部で 284~472 cells/mL であったのに対し、試験用生簀の 内部は 198~199 cells/mL と外部の 50%以下に至らなかった。対策として、生簀カーテン を長めにとることを検討した。 (3)結果及び考察 ① ラボ内での運用試験 Cochlodinium polykrikoides (12 月 14 日):破壊効果試験 C. polykrikoides への破壊効果試験結果を表 5‒1‒1、図 5‒1‒4、処理後の C. polykrikoides の細胞状態を図 5‒1‒5 にそれぞれ示した。 処理前の試験海水における C. polykrikoides の正常な細胞密度は 60 cells/mL であったが、 処理後 40 分の細胞密度は未処理区、キャビテーション処理区及びラバルセパレーター区でそ れぞれ 47,40,30 cells/mL、未処理区、キャビテーション処理区及びラバルセパレーター区 に過酸化水素 30 ppm となるよう添加した試験区ではそれぞれ 24,14,25 cells/mL であった。 したがって、未処理区、キャビテーション処理区及びラバルセパレーター区の全ての試 験区で過酸化水素の添加による C. polykrikoides 細胞への破壊効果は増大していることを 確認した。また、過酸化水素 30 ppm では単独でも細胞への破壊効果は大きいことを確認 した。 表 5‒1‒1.C. polykrikoides への破壊効果試験結果 図 5‒1‒4.C. polykrikoides への破壊効果試験結果 ① ② ③ ④ 図 5‒1‒5.C. polykrikoides の破壊状況 ① 正常 8 連鎖細胞 ② 正常 4 連鎖細胞 ③ 1 細胞 ④破壊された細胞 ② 実海域での運用試験 ア.Karenia mikimotoi (八代海・鹿児島県東町、8 月 13~14 日) 8 月 14 日における赤潮海域の探索及び試験場所、8 月 13 日の東町の海域の様子、装置 の艤装状況、試験用生け簀の設置状況及びブリの状況(ブリは斃死せず)を図 5‒1‒6~図 5‒1‒8 にそれぞれ示した。 8 月 13 日、試験用ブリを手配準備するとともに、試験用処理装置(キャビテーション) 及び試験用生簀を船舶に艤装した。 8 月 14 日には、上記船舶にて K.mikimotoi 赤潮の高密度域を探索し、約 3,500cells/mL の海域にて試験を開始したが、試験用ブリは斃死するには至らなかったことから、実海域 での魚毒性試験は実施できなかった。 図 5‒1‒6.8 月 14 日における赤潮海域の探索及び試験場所 図 5‒1‒7.8 月 13 日の東町の海域の様子 図 5‒1‒8.装置の艤装状況 図 5‒1‒9.試験用生け簀の設置状況 図 5‒1‒10.ブリの状況(ブリは斃死せず) イ.Chattonella spp. (有明海・長崎県口之津町、9 月 6~7 日) 9 月 7 日における Chattonella spp. 赤潮の状況及び試験場所を図 5‒1‒11、試験時の水 質(15:20)を表 5‒1‒2、長崎県口之津町における Chattonella spp. の魚毒性試験経過を 表 5‒1‒3、ブリに対する Chattonella spp. の魚毒性試験結果を図 5‒1‒12、試験の実施状 況、処理水の投入状況、狂奔中のブリ(未処理区)及びシャットネラの破砕残滓を図 5‒1‒ 13~図 5-1-16 にそれぞれ示した。 試験時における 0.3m 及び 1.0m 層の水質(15:00)は、それぞれ水温 25.87、25.83℃、塩 分 30.29、30.34、pH 8.33、8.43、溶存酸素量 10.67、10.67 mg/L、クロロフィル 4.42、 5.50 μg/L であり、溶存酸素量はほぼ過飽和であった。 また、Chattonella spp. の細胞密度は 14:00 時点 427 cells/mL、15:45 時点 試験用生 簀内 199 cells/mL、生簀外 478 cells/mL、17:48 時点 試験用生簀内 198 cells/mL、生簀 外 284 cells/mL であった。 人工種苗のブリ稚魚は対照区、試験区ともに全数が生残した。生残した理由として、大 型のブリと小型のブリ養魚では Chattonella spp. 赤潮に対する耐性に差があること、ブリ 稚魚が処理水が流出する表層を中心に遊泳していたことが考えられた。 ブリ(3,3 kg 前後)については、対照区(無処理区)では収容食後から激しい海水の吐 き出し行動、横転、狂奔、体表白化、痙攣後絶命という経過を経て、65、73 及び 80 分後 に 3 尾全てが斃死した。一方、試験区(処理区)では斃死時間が 84 及び 120 分後と遅延 し、1 尾は試験終了時の 2 時間 30 分後まで生残したことから、キャビテーション処理によ る延命効果が確認できた。 なお、本試験によるブリの絶命に至る過程は、過年度におけるブリ稚魚を用いた室内試 験と全く同様の症状であった。 本試験の課題としては、試験用生簀内の Chattonella spp. の細胞密度は 198~199 cells/mL であり、シートの繋ぎ目からの外部の赤潮侵入していたこと、また、ブリは未処 理赤潮が進入しやすい底面ばかりを遊泳していたことから、生簀のカーテンを補強すると ともに長くすることといった改善が必要であることを確認した。 図 5‒1‒11.9 月 7 日における Chattonella spp.赤潮の 状況及び試験場所 表 5‒1‒2.試験時の水質(15:20) 水質 0.3m層 1.0m層 水温(℃) 25.87 25.83 塩分 30.29 30.34 8.33 8.43 10.67 10.67 4.42 5.50 pH DO(mg/L) クロロフィル(μg/L) 表 5‒1‒3.長崎県口之津町における Chattonella spp.の魚毒性試験経過 試験区 対照区 時刻 経過時間 (分) ブリの状況 Chattonella spp. の細胞密度 時刻 経過時間 (分) 14:13 14:00 0 ブリ3尾 モジャコ5尾投入 427細胞/mL 15:18 ブリの状況 Chattonella spp. の細胞密度 キャビテーション開始 0 ブリ3尾 モジャコ5尾投入 14:12 12 NO,1鼻上げ 15:45 27 NO,1鼻上げ 14:33 33 NO.1横転 16:00 42 NO.1横転 14:52 52 NO.1狂奔 16:35 77 NO.2横転 14:53 53 NO.2狂奔 16:42 84 NO.1死亡 15:05 65 NO.1死亡 17:05 107 NO.2狂奔 15:13 73 NO.2死亡 17:18 120 NO.2死亡 15:20 80 NO.3死亡 17:48 150 NO.3正常 生簀内199細胞/mL 生簀外478細胞/mL 生簀内198細胞/mL 生簀外284細胞/mL 図 5‒1‒12.ブリに対する Chattonella spp.の魚毒性試験結果 図 5‒1‒13.試験の実施状況 図 5‒1‒14.処理水の投入状況 図 5‒1‒15.狂奔中のブリ(未処理区) 図 5‒1‒16.シャットネラの破砕残滓 ③ 試験用生簀の改良(生簀カーテンの補強) 今年度の現地実証試験において、生簀カーテンの接合部分からの未処理水の突入、およ びカーテンの丈が生簀底部を覆いきれないことによる底面からの未処理水の流入の問題が 明らかとなった。そこで、生簀カーテンの改良を試みた。 試験用生簀の全体像、上方及び下方の写真を図 5‒1‒17~図 5‒1‒19 にそれぞれ示した。 製作した試験用生簀の赤潮進入防除カーテンの素材は、ブルーシートのポリエチレンから ポリエステルとし、安定性と耐候性を増強させた。また、シート繋ぎ目はチャック方式と し、赤潮の侵入を遮断できる方式とした。さらに、長さを 1.5m から 2.5m へと延長し、底 面からの赤潮の侵入をより遮断できる構造とした。 図 5‒1‒17.試験用生簀(全体像) 図 5‒1‒18.試験用生簀(上方) 図 5‒1‒19.試験用生簀(下方)