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タンザニア視察報告書 タンザニア視察報告書
タンザニア視察報告書 チンパンジー・サンクチュアリ・宇土 チンパンジーをチンパンジーらしく飼育していくためには、野生チンパンジーの行動及びその生息環境を実 際に見ておく必要がある。2008 年 8 月 15 日から 8 月 24 日の日程で、タンザニアのゴンベ・ストリーム国立公園 及びミクミ国立公園を視察し、野生チンパンジーとその他の野生動物の観察を行ったので報告する。 日 程 8 月 15 日(金) 関西空港発(航空機) 8 月 16 日(土) ドバイ経由ダルエスサラーム到着(航空機) 8 月 17 日(日) ダルエスサラーム発(航空機)・キゴマへ キゴマ発(船)・ゴンベへ 8 月 18 日(月) ゴンベ国立公園でチンパンジーの観察 8 月 19 日(火) ゴンベ国立公園でチンパンジーの観察(午前) ゴンベ発(船)・キゴマへ(午後) 8 月 20 日(水) TACARE視察(午前) キゴマ発(航空機)・ダルエスサラームへ(午後) 8 月 21 日(木) ダルエスサラーム発(陸路)・ミクミへ ミクミ国立公園にて野生動物の観察 8 月 22 日(金) ミクミ国立公園にて野生動物の観察(午前) ミクミ発(陸路)・ダルエスサラームへ(午後) 8 月 23 日(土) ダルエスサラーム発(航空機) 8 月 24 日(日) ドバイ経由関西空港到着(航空機) 1.ゴンベ・ストリーム国立公園 1.ゴンベ・ストリーム国立公園 1)公園の概略 ゴンベ・ストリーム国立公園は、タンザニアの西の端タンガニーカ湖のほとりに位置している。面積は 52 平方キロのタンザニア最小の国立公園であり、1964 年に国立公園に指定された。現在、ゴンベ・ストリー ム国立公園には、3 群 100 個体前後のチンパンジーが生息しており、その他にアヌビスヒヒ、アカコロブス、 アカオザル、ブルーモンキーなどが生息している。 ゴンベ・ストリーム国立公園は、1960 年からジェーン・グドール博士がチンパンジーの研究を始めた場所 であり、その後継続的な観察が行われている。この 48 年にも及ぶ継続的観察から、「シロアリ釣り」などの チンパンジー研究の中で重要な行動が数多く発見されている。 2)交通手段 タンザニアのダルエスサラームまでは関西空港からドバイを経由して約 15 時間、ダルエスサラームから キゴマまで航空機で 2.5 時間、キゴマからゴンベ・ストリーム国立公園まではチャーターしたボートでタンガ ニーカ湖を 2.5 時間北上した。これを 8/15、8/16、8/17 の 3 日間をかけ移動した。 3) 野生チンパンジーとその生息環境の観察 ゴンベ・ストリーム国立公園ではエコツアーが盛んに行なわれ、年間数千人の観光客が入るため、厳密 な規則が定められていた。主なものは、午前午後の各トレッキングで、チンパンジーのグループを直接観 察するのは 1~2 時間に限定されていることやチンパンジーから 10m 以上離れることなどであり、疾病及び 安全面から定められていた。また、ゴンベでは子どもがチンパンジーに襲われる事件が起こったため、15 歳以下の子どもは森へ入れず、スタッフの子ども達は宿舎に併設された金網の中で遊んでいた。 今回は、8/18、8/19 で合計 3 回のトレッキングに参加し、野生チンパンジーを観察した。観察の概要は 以下の通りである。 ① 8/18 午前のトレッキング 8:30 ゴンベでヒヒの研究をしているアンソニー氏の案内で、タンガニーカ湖の湖岸を南下し、ミネラル 補給のために湖岸の石を盛んに舐めるアヌビスヒヒを観察した後、ゴンベの森へ入った。 10:00 ゴンベの森には、観察用の山道が幾つも通っていた。険しい山道を登りきり、タンガニーカ湖を 見下ろせる高台に着いた時、チンパンジーがコ ロブスのハンティングに成功したという連絡が入 った。 10:20 現場に到着すると、10m 程の木やその下の藪の 中で獲物を持ったチンパンジーの周囲に 10 数 個体のチンパンジーが集まり、アカコロブスを食 べていた。若い個体がコロブスの骨をしゃぶる 姿、肉を持った個体に獲物をねだる姿、樹上で 獲物をほおばるおとな雄の姿などを観察した。 獲物を持った個体が移動するとその後を他のチ ンパンジーが続いて移動し、時折、獲物の取り 合いからか闘争が起きた。 この騒ぎを聞きつけ、観察している我々の横 を通って、他のチンパンジーが森の奥から集まってきた。最終的には 20 個体弱のチンパンジ ーが集まっていた。 これらの行動を観察しながら、アンソニー氏からハンティングが乾季に多いこと、一度始ま ると数日続くこと、グループメンバーの説明を受けた。 12:00 このグループの観察が 100 分を超えたので、観察を切り上げ、帰路についた。 14:00 宿舎着 2頭のチンパンジーで肉を分け合う 母親に肉を貰おうとする子ども ② 8/18 午後のトレッキング 15:30 今回もアンソニー氏の案内で再びゴンベの森へ入った。 16:00 子どもを含む 6 個体程度のグループと遭遇し、樹上で遊ぶ子ども達の様子を観察した。 16:45 移動して別のチンパンジーの観察を始めた。ここでは、数日前のチンパンジーのベッドも観察し た。 17:20 目の前の木にいるおとな雄(フロド:ゴンベで最も有名なチンパンジーであったフィフィの息子) が、樹上にいるアカコロブスを見上げていた。ハンティングが始まりそうだというので、その観 察を始めると、背後の林からチンパンジーの鋭い声が聞こえてきた。樹上のコロブスたちが別 の木に音を立てながら飛び移り逃げて行った。数分後、目の前の木で、アカコロブスが降りて くる音がし、下にいたチンパンジーが降りて来たアカコロブスに襲い掛かった。しかし、アカコロ ブスが激しく抵抗し、チンパンジーの方が逃げていった。 18:00 宿舎着 樹上を見上げるチンパンジー 襲い掛かるチンパンジー 退散するチンパンジー ③ 8/19 午前のトレッキング 8:30 ジェーン・グドール博士が観察を行った丘やフィールドステーション、チンパンジーが使う滝な どを廻りながら、ゴンベの植生を観察した。ゴンベの森は谷間の常緑樹林帯、その上の落葉 樹林帯、一番上の草原地帯の 3 層からなっていた。 14:00 宿舎着 常緑樹林帯 落葉樹林帯 2.TACARE 視察 TACARE(タカリ)は、ジェーン・グドール・インスティテュ ート(Jane Goodall Institute,JGI)がアフリカ各地で行って い る 森 林 再 生 プ ロ ジ ェ ク ト で 、 the Lake TAnganyika CAtchment Reforestation and Education の略である。 TACARE プロジェクトは、チンパンジーの生息環境の保 全と地域住民の生活水準向上の2つを目的として、1994 年にタンザニアのゴンベ国立公園に隣接する村落でスタ ートした。 ゴンベに行く途中、ボートから見る山は、隣国からの難民流入などにより、木々が伐採され、山全体が草 原地帯となっていた。キゴマから北のタンガニーカ湖畔で森林が残っているのは国立公園に指定されている ゴンベの森だけという状態である。 8/20、アンソニー氏の案内で TACARE がキゴマで行っている植樹のモデル地と環境教育を行っている小 学校を視察した。 TACARE プロジェクトでは、クラリネットの材料となる木など高価に取引される木の植樹を薦め、その育て 方の指導も行なっている。これらの木を植樹することにより、木を切ってもまた住民が植樹を行なうようになる。 モデル林も植樹後 10 年が経過した現在は、林になりかけており、他の場所でも植樹が進んでいる。植樹が 徐々に進んだことで、湖に流れ込む土砂の量が減り、魚の水揚げ量も増加した。 TACARE プロジェクトでは、住民の貧困が森林伐採の一つの要因となっているため、植樹の他に環境教育、 奨学金制度や住民の生活向上の試みを行い、成果をあげている。 3.ミクミ国立公園( 3.ミクミ国立公園(野生動物の観察) ミクミ国立公園(野生動物の観察) ミクミ国立公園は、ダルエスサラームの西に位置し、車を使って 4 時間程度で行くことができる。面積は 3,230 平方キロメートルとあまり大きくはないが、世界最大の猟獣保護区であるセルー猟獣保護区の生態系 につながっている。 1)8/20 午後 16:00 シマウマ、キリン、アンテロープ、カバ、ワニ、ジャッ カルの夕刻の生態を観察した。公園内の広範囲 で、野焼きが行なわれていた。 18:00 宿舎着 2)8/21 午前 7:00 ライオン、ゾウ、シマウマ、キリン、アンテロープ、カバ、 ワニ、ジャッカル、ヒヒ、イボイノシシの朝の生態を 観察した。カバが生息している池は、水飲み場とな っており、多くの動物が入れ替わり現れた。 12:00 宿舎着 4.安全面 4.安全面 ・タンザニアは、コンゴ民主共和国、ブルンジなどの周辺諸国に比べ治安がよく、今回の視察でも危険に 感じる場面はなかった。 ・感染症に対しては、黄熱病、A 型肝炎、破傷風、狂犬病のワクチンを国内で接種してから渡航した。マラ リアに関しては、予防薬を出発の 1 週間前から飲み始め、渡航中も週 1 回の間隔で服用した。蚊に関し ては、忌避薬を携帯し対応した。乾季のためか蚊の数は少なく感じた。また、飲料水に関しては、すべて ミネラルウォーターで対応した。 ・チンパンジーは人に危害を加えるそぶりを見せず、他の野生動物の観察に関しても、危険と思われる状 況はなかった。 5.感想 5.感想 ゴンベ・ストリーム国立公園で、チンパンジーのハンティングとその後の獲物を巡っての争いを観察できた ことは貴重な経験となった。活発に動く多くのチンパンジーの姿は、すばらしく、飼育下でもこのような群れを 作ることの必要性を感じた。また、飼育されているチンパンジーの危険性を分かっていたが、ゴンベでチンパ ンジーに緊張感を持つことなく同じ空間を共有できたことは不思議な経験であった。これは、50 年近くかけて 築き上げたゴンベのチンパンジーとヒトとの絆によるものであろう。このようにうまく共存している姿は、飼育 下でもチンパンジーとヒトの間に、これまで以上の関係が築ける可能性を広げてくれた。 次に、ゴンベのチンパンジーは予想以上に小型だという印象を受けた。野生チンパンジーより大きい 60~ 70kg の飼育下のチンパンジーと比べると、子どもが子どもを抱いている印象を受けた。 生息環境に関しては、20m を越す木が聳え立ち、ツタが絡まった常緑樹林を想像していたが、その多くは 日本の里山を思わせる落葉樹林帯だった。確かに高い木もあるが、飼育下の運動場に日本の木を植えても、 生息域に近い森を再現できることが分かった。また、大きな木々の下に生えている草や木の中を人が移動 するのは大変であるが、チンパンジーが通る低い部分は葉などもなくトンネル状になっている。そこをチンパ ンジーがすばやく移動していた。飼育下でもこれを再現できれば、闘争時の逃げ道または隠れ場所としても 使えるので、今後の飼育に取り入れる価値はある。このように、チンパンジーの生息環境を実際に体感し、 どのように利用しているかを観察できたことは、今後の飼育環境の改善に役立つ経験となった。 ミクミ国立公園では、その他の動物が共存している姿を観察することができた。特に、水飲み場を中心とし て多くの動物が共存している様子を動物園で再現できれば面白い展示となると思われる。 最後に、色々な活動により森林が少しずつ回復してきているが、伐採や野焼きにより予想以上に森林が 破壊されていた。このような状況を実際に視察できたことは、環境問題を考えるきっかけとなっただけではな く、生息域保全の問題は、環境及び人を含めた多面的なものとして捉えることが必要だと感じた。