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2016 年熊本地震に関する報道動向に関する分析
2016 年熊本地震に関する報道動向に関する分析 東北大学災害科学国際研究所 情報管理・社会連携部門 佐藤翔輔 (2016 年 4 月 28 日作成) 2016 年熊本地震の発生から 2 週間の時点において,熊本地震災害に関するウェブ上の報道 傾向を分析しました.現在の傾向は,次のようにまとめられます. 1) 熊本地震に関する「災害のメディア半減期」注 1 は,発災から 7 日目であり,2004 年新潟 県中越地震と同程度である. 2) 現時点で把握できている被害に比べて,西原村,嘉島町,御船町などにおいて相対的に報 道量が少なく,外部からの支援の偏りが発生する懸念がある. 注 1「災害のメディア半減期」 :発生以降, 「1 日の最大記事件数」の半分を下回った経過日数を示 す.社会的関心の時間的継続性を示す一つの基準 1). 今回は,Yahoo!ニュース上に配信された熊本地震に関するニュース記事を分析対象にして います(http://news.yahoo.co.jp/related_newslist/kumamoto_prefecture_earthquake/) . 4 月 14 日 21:26 の地震発生間もない頃は,上記スレッドが存在していなかったために,同ポータル上にある 地震速報のスレッド上に掲載されていたニュース記事を用いてデータを補完しています (http://news.yahoo.co.jp/related_newslist/earthquake_flash/) . 600 最大545件 (4/16) 熊本地震(2016年) 新潟県中越地震(2004年) 500 記事件数 400 熊本半減期(2回目): 7日目 300 最大176件 (10/24) 200 100 熊本半減期(1回目): 4日目 0 1 2 中越半減期:7日目 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 地震発生から経過日数(地震発生日を1日目として) 13 図 1 Yahoo!ニュース記事の時系列的変化(熊本地震と新潟県中越地震) 1 熊本地震の記事件数を時系列したものを図 1 に示しました.図 1 では,参考・比較のため に,同じく直下地震で人的被害の規模が同程度の 2004 年新潟県中越地震の記事件数 2)を併記 しています.中越地震についても,同様に Yahoo!ニュース中で掲載されたものを採用してい ます. 通常の地震災害は,地震発生から 2 日目に記事件数が最大となります(例:図 1 の中越地 震).これは.1 日目は, 「何が起きているか,あまり分からない」状態であったのに対して, 2 日目に徐々に明らかになっていくことが,その背景にあります.一方,熊本地震は最初の地 震発生から 3 日目に記事件数が最大となっています.これは.その後 4 月 16 日に発生した M7.3 震度 7 の地震が影響していると考えられます. 図 1 では,記事件数にもとづく,社会的関心の時間的継続性を示す基準として,発生以降, 「1 日の最大記事件数」の半分を下回った経過日数である「災害のメディア半減期」も示して います.熊本地震は 4 日目に半減期を迎えるも,同様に 4 月 16 日の地震を受けて,記事件数 が再度増加し,改めて 7 日目に半減期をとなりました.4 月 16 日の地震がなかった場合,4 日目の時点で記事件数が単調な減少傾向を示していたことが推察されます.また,2 回目の半 減期となった 7 日目,中越地震時と同様であることが確認されました(図 1) . 既往研究では,被災地外からの支援は,少なからず報道の量に影響されることが知られて います 3) .東日本大震災では,各地域の報道量が人的支援の多少と高い相関を示していまし た,そこで,現時点で報告されている熊本県内の各市町村の被害量と,記事件数(報道量)と の関係を分析しました. 各市町村の記事件数について,図 2 に死者・行方不明者数との関係,図 3 に避難者数(4 月 26 日時点の避難者数,最大避難者数)との関係,図 4 に避難率(4 月 26 日時点の避難率,最 大の避難率)との関係を示しました(次頁).図中の破線(図 2,図 4 のみ)は,回帰直線 (Y=aX+b)であり,その直線より上側(下側)にプロットされた市町村は,被害規模に比べ て相対的に報道量が多い(少ない)地域であることを表しています.図中の R は相関係数を 表します. 図 2~4 では,被害規模に呼応して,熊本市,益城町,南阿蘇村で報道が多いことが分かり ます.一方,図 2 と図 4 を見ると,いずれの結果に共通して,西原村,嘉島町,御船町のプ ロットが回帰直線の下側に位置しており,被害規模に比べて,やや報道量が少ない傾向を示 しています.熊本県内の各市町村に入っている支援の物理的量は,4 月 28 日時点で明らかに なっていませんが,被災地外からの支援が上記の地域で少なくなる懸念があります. 2 1,000 南阿蘇村 益城町 記事件数 熊本市 阿蘇市 y 西原村 八代市 嘉島町 宇土市 R=0.972 御船町 100 1 10 死者・犠牲者数 100 図 2 死者・犠牲者数と記事件数の関係 南阿蘇村 益城町熊本市 阿蘇市 八代市 西原村 宇城市 菊池市 宇土市 大津町 嘉島町 御船町 玉名市 菊陽町 山都町 合志市 100 高森町 美里町 氷川町 甲佐町 山鹿町 小国町 産山村 人吉町 100 玉東町 R=0.677 球麿村 南阿蘇村益城町 熊本市 1,000 記事件数 記事件数 1,000 10 阿蘇市 西原村 八代市 宇城市 菊池市 嘉島町 宇土市 大津町 御船町 玉名市 菊陽町 山都町 合志市 高森町 氷川町 美里町 天草市 甲佐町 和水町 産山村 上天草市 山鹿町 小国町 水俣町 人吉町 南小国町 長洲町 芦北町 荒尾市 玉東町 南関町 多良木町 錦町 球麿村 R=0.614 10 1 100 10,000 避難者数(4/26時点) 100 10,000 最大避難者数 1 1,000,000 図 3 避難者者数と記事件数の関係 1,000 1,000 益城町 益城町 900 南阿蘇村 熊本市 熊本市 800 800 700 700 600 600 記事件数 記事件数 900 500 400 阿蘇市 300 八代市 宇城市 200 菊池市 宇土市 大津町 玉名市 菊陽町 山都町 合志市 高森町 氷川町 美里町 天草市 甲佐町 上天草市 和水町 100南小国町 山鹿町 産山村 小国町 水俣町 人吉町 長洲町 芦北町 荒尾市 あさぎり町 玉東町 南関町 山江村 津奈木町 多良木町 五木村 球麿村 錦町 温前町 水上村 相良村 苓北町 500 400 300 西原村 南阿蘇村 阿蘇市 八代市 西原村 宇城市 菊池市 宇土市 嘉島町 御船町 大津町 玉名市 山都町 合志市 菊陽町 高森町 氷川町 美里町 天草市 甲佐町 和水町 100上天草市 山鹿町 産山村 水俣町 人吉町 長洲町 小国町 南小国町 芦北町 荒尾市 あさぎり町 玉東町 山江村 南関町 津奈木町 多良木町 五木村 球麿村 錦町 温前町 水上村 相良村 苓北町 R=0.619 200 嘉島町 御船町 R=0.569 0 0 0% 10% 20% 避難率(4/26時点) 30% 0% 図 4 避難率と記事件数の関係 3 20% 40% 最大避難率 60% なお,ウェブニュース記事の自動収集においては,株式会社サイエンスクラフト様 (http://scraft.co.jp/)から多大なる技術支援をいただきました. 参考文献 1) 佐藤翔輔,今村文彦,林春男:ウェブニュースから東日本大震災を分析する,東日本大震災を分析する2 震 災と人間・まち記録(平川新,今村文彦,東北大学災害科学国際研究所編) ,明石書店,第 3 部第 7 章,pp.235248, 2013.6. 2) 佐藤翔輔,林春男,牧紀男,井ノ口宗成:TFIDF/TF 指標を用いた危機管理分野における言語資料体からのキ ーワード自動検出手法の開発-2004 年新潟 県中越地震を取り上げたウェブニュースへの適用事例-,地域安 全学会論文集,No. 8,pp. 367-376,2006.11. 3) 佐藤翔輔,今村文彦,林春男:東日本大震災における被災地外からの人的支援量の関連要因に関する分析,地 域安全学会論文集,No. 19, pp. 93-103,2013.3. 4) 熊本県:平成 28 年熊本地震に関する災害対策本部会議資料,https://www.pref.kumamoto.jp/kiji_15459.html 4