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学 位 論 文 要 旨 ネコ生体間腎臓移植のドナー問題と打開法としての

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学 位 論 文 要 旨 ネコ生体間腎臓移植のドナー問題と打開法としての
学 位 論 文 要 旨
ネコ生 体 間 腎 臓 移 植 のドナ ー問 題 と打 開 法 とし てのラッ ト 心 停 止 ( マ ージナル)腎
移 植 モ デルを 用 い た腎 蘇 生 法 の 開 発
T he pr obl ems on cat renal t r ansplant at ion from l i vi ng donor and the
devel opment of r evi tal i zat ion met hods on rat ki dney gr af t i ng f r om car di ac
deat h ( mar gi nal ) donor s as a way out of l i ving donor s
岩井 聡美
SAT OMI IWA I
平 成 25 年 度
2013
慢 性 腎 不 全 ( CK D) によるネコの死 亡 率 は 、13 歳 以 上 のネコで 死 因 の約 50%を
占 める。CK D に陥 ると根 治 は望 め ず、継 続 的 治 療 や投 薬 ストレ ス、 最 終 的 には尿
毒 症 に よ る 痙 攣 発 作 な ど に よ り 死 に 至 る 。 CK D の 根 治 的 治 療 法 の 一 つ と し て 腎
移 植 があるが、 多 く の 外 科 獣 医 師 にとっ て簡 単 に行 え る手 技 で はないため、マ イク
ロサージカル技 術 を習 得 するための適 切 なトレーニングプロトコールが必 要 とされ
ていると考 えられている。また、現 在 の獣 医 療 では実 験 ネコをドナーとした生 体 間
移 植 のみであり倫 理 的 背 景 が大 きな問 題 となっている。この問 題 を克 服 するため、
心 停 止 後 の 患 者 ネ コ を ド ナー と し た腎 移 植 へ 変 遷 し てい く 必 要 があ る 。し か し 、 血
流 停 止 後 時 間 経 過 した極 限 状 態 にある腎 臓 (マージナル腎 )を用 いると、移 植 後
に 深 刻 な 虚 血 / 再 灌 流 傷 害 ( IR I) が 生 じ 、 急 性 拒 絶 反 応 、 機 能 不 全 が 高 率 に 発
生 する。現 在 、冷 保 存 が一 般 的 な移 植 腎 の保 存 法 であるが、マージナル腎 にも
適 しているかは検 討 されていない。また、保 存 液 の電 解 質 組 成 は保 存 中 の腎 臓
の細 胞 浮 腫 に関 与 すること が知 られ ており、移 植 後 の血 液 再 灌 流 時 に引 き起 こさ
れる細 胞 崩 壊 に影 響 を与 えることから、マージナル腎 に適 した保 存 液 の温 度 、電
解 質 組 成 、および、 移 植 後 の IR I による 臓 器 損 傷 の軽 減 方 法 に対 し ても検 討 が
必 要 で ある 。
この研 究 の目 的 は、 ネコにおける 生 体 間 腎 移 植 を 安 全 に行 うとともに、ドナーの
リスク を 検 討 し た。さらに、ネコの マージナル腎 移 植 を 最 終 目 標 とし、ラッ ト腎 移 植
モ デルを 用 い た基 礎 的 研 究 とし て 、心 停 止 後 時 間 経 過 し て 適 用 限 界 を 超 え た マ
ージナル腎 の機 能 を 蘇 生 し うる 最 適 な保 存 条 件 を 検 討 すること、および MSCs 投
与 による マ ージナル腎 の 移 植 後 の機 能 や個 体 生 存 性 への影 響 、または副 作 用 の
発 生 につい て の検 討 である。
Ⅰ . ネコ腎 移 植 のため の ラッ トを 用 いた 練 習 法 の開 発 と実 験 的 ネコ生 体 間 腎 移
植 の検 討
ラッ トの腹 部 大 動 脈 の端 々吻 合 、後 大 静 脈 を 門 脈 へ端 側 吻 合 する方 法 を 用
1
いて、ネコ腎 移 植 のため の練 習 法 を 開 発 し た。
動 脈 練 習 法 は死 亡 例 も なく、速 やかに習 得 で きた。静 脈 練 習 法 では 2匹 の死
亡 を 確 認 し たが、それ以 外 は 肉 眼 的 、病 理 組 織 学 的 に 吻 合 部 の狭 窄 もなく、手
技 を 全 うすること が可 能 で あっ た。
吻 合 練 習 後 にネコを用 い た実 験 的 生 体 間 腎 移 植 を 行 っ たところ、安 全 に遂 行
することが可 能 で あっ た。
よっ て、本 マ イク ロサ ージカルトレーニングプロトコールは、ネコの腎 臓 移 植 のた
めの有 用 な練 習 法 で あること が示 され た。
Ⅱ . ネコ生 体 間 腎 移 植 におけるド ナーリ スクの 検 討
腎 動 脈 が腹 部 大 動 脈 から直 接 2本 分 岐 し たドナーネコの 1症 例 に遭 遇 し た。 腹
部 大 動 脈 自 体 を 切 離 し て腎 臓 を 摘 出 し なけれ ばならず、ドナーの危 険 性 は高 ま
っ た。
また、腎 臓 を提 供 し たネコの長 期 経 過 を 追 った 2例 で は、腎 機 能 の悪 化 が認 め
られ た。
以 上 より、 ネコにおい ても 生 体 ドナー のリスクは存 在 し 、死 体 腎 移 植 など の代 替
を 検 討 する必 要 があると 考 え られ た。
Ⅲ . ラッ トマ ージナ ル腎 移 植 モ デルを 用 い た保 存 方 法 の検 討
生 体 ドナーのリスクを 受 け、ラッ トを 用 いて死 体 腎 移 植 モデルを 作 成 し、基 礎 的
研 究 を 試 みた。
心 停 止 後 1 時 間 、室 温 23℃で 静 置 し たラットから腎 臓 (マージナル腎 ) を 摘 出
し て移 植 され たレシピエント ラッ トは全 て移 植 後 14 日 目 まで 生 存 したが、心 停 止
後 2 時 間 静 置 し た ラットの腎 臓 を 移 植 し た 群 においては 移 植 後 5 日 以 内 に全 て
死 亡 し た。
この結 果 より 、マージナル腎 を 細 胞 外 液 型 組 成 の ET K とラク トリンゲルを 用 いて
4,23,37℃で 保 存 し 、 移 植 まで の時 間 を さらに延 長 することが可 能 か検 討 し たとこ
2
ろ、23℃の ET K で 1 時 間 保 存 し た群 ( ETK 23 ) はその他 の群 と比 較 し て 有 意 に生
存 率 が向 上 し 、マージナル腎 の保 存 には常 温 保 存 が適 し ている可 能 性 が示 唆 さ
れ た。
次 に、細 胞 内 液 型 組 成 の IT K と UW を 用 いて 、同 様 の検 討 を 行 っ た。全 ての
群 におい て、 ETK 23 よりも 生 存 率 が著 名 に短 縮 し た 。よって 、マージナル腎 の 保
存 には細 胞 外 液 型 が適 し てい る 可 能 性 を 示 し た。全 ての群 の移 植 後 腎 機 能 は、
血 中 尿 素 窒 素 、クレ アチニ ンとも に 移 植 後 2 日 目 に最 高 値 を 示 し 、14 日 目 まで に
ほぼ正 常 値 まで 回 復 した。生 存 し た 個 体 における線 維 化 スコア に有 意 差 は認 め
られ なかっ た。 よっ て、マ ージナル腎 の保 存 には細 胞 外 液 型 保 存 液 で 常 温 保 存
することで 保 存 時 間 を延 長 することがで き、移 植 後 の生 存 性 を 改 善 することが示
唆 され た。
また、4,23,37℃ に設 定 し た保 存 液 でマ ージナル腎 を 2 時 間 保 存 し たのち、腎
重 量 を 測 定 し た。 ET K は温 度 依 存 性 に保 存 による組 織 浮 腫 を 軽 減 する ことが明
らかとなっ た。
よっ て、マ ージナル腎 の保 存 には、細 胞 外 液 型 組 成 の ET K 液 を 常 温 で 用 いる
保 存 法 が最 適 で あること が示 され た。
Ⅳ . ラッ ト心 停 止 ドナーか ら摘 出 し た腎 臓 におけるエ ネルギー 活 性 の検 討
保 存 腎 のEner gy Char ge( EC) の解 析 で は、 生 存 し ているラッ トから摘 出 し たフレ
ッ シ ュ な腎 臓 と マ ージナ ル 腎 を 4,23,37℃ の ETK ま た は UWで 保 存 し EC を 算 出 し た。
ECは全 ての群 において 生 存 限 界 以 下 の値 を 示 し、移 植 直 前 の臓 器 のエ ネルギ
ー活 性 はほぼ枯 渇 状 態 で あることがわかっ た。次 に、Lucif er ase 遺 伝 子 を 導 入 し
た Luci f er ase -T r ansgeni c ( Luc -T g) ラ ッ ト の 腎 臓 か ら 作 成 し た 組 織 チッ プを 、 ETK 、
UW、生 理 食 塩 水 で 保 存 し た後 、エ ネルギー活 性 の指 標 となる 蛍 光 強 度 を 測 定
し た。ET K 、UWの蛍 光 強 度 は 生 理 食 塩 液 と比 較 し て有 意 に高 値 を維 持 し たこと
から、保 存 液 を用 い ること にで 移 植 腎 のエネルギー状 態 を より良 好 に維 持 で きる
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可 能 性 を 示 し た。さらに、 Luc -T gラッ トの腎 臓 を wi l d ラッ トに移 植 し 、移 植 腎 の蛍
光 強 度 を IV ISにて 測 定 し た。 移 植 後 生 存 可 能 で あっ た ラッ トの移 植 腎 の蛍 光 強
度 は、移 植 後 1時 間 より上 昇 し始 め、 早 期 にエ ネルギー活 性 が回 復 し た。以 上 よ
り、移 植 腎 が機 能 するため には、 再 灌 流 後 早 期 にエ ネルギー状 態 が回 復 する必
要 があると 考 え られ た。
Ⅴ . マ ージ ナル腎 への 間 葉 系 幹 細 胞 ( MSCs )に よる蘇 生 効 果 の検 討
MSCs を 腎 移 植 後 に全 身 投 与 または移 植 直 前 の腎 動 脈 から局 所 投 与 し たレ
シピ エ ントラッ トの生 存 性 と 腎 機 能 への効 果 、副 作 用 に関 し て 検 討 した。 MSCs 全
身 投 与 法 で は、レシピエ ントラッ トの生 存 性 に影 響 し なかっ た 。し かし、投 与 され た
MSCs は投 与 後 3 日 目 まで肺 に存 在 し 、肺 塞 栓 を 起 こす可 能 性 が示 され た 。一
方 、MSCs の腎 動 脈 局 所 投 与 法 で は、MSCs を 投 与 し た群 (MSC( +)) において、
MSCs 非 投 与 群 ( MSC( -) ) よりも 生 存 性 が向 上 し た。移 植 後 4 日 目 で は、MSC( +)
群 の腎 機 能 は MSC( -) 群 と 比 較 し て有 意 に改 善 し た。 LacZ 染 色 で は、腎 動 脈 か
ら投 与 され た MSCs は移 植 後 24 時 間 目 まで尿 細 管 に存 在 し 、損 傷 を 受 けた部
位 に集 積 する可 能 性 が示 唆 され た。移 植 後 3 ヶ月 目 で は、移 植 腎 やその他 の臓
器 に MSCs 投 与 による奇 形 腫 など は認 められなかっ た。 以 上 より、MSCs の投 与
経 路 は、局 所 投 与 すること で より安 全 に効 果 が得 られ る 可 能 性 が示 唆 され た 。
本 研 究 により、ネコ生 体 間 腎 移 植 を 安 全 に実 施 するために 、ラッ ト練 習 法 は有
効 で あっ た。し かし 、 生 体 腎 臓 移 植 は、生 体 ドナーのリスク が あることが 明 らかとな
っ た。そのため 、死 体 腎 移 植 の基 礎 的 検 討 を 行 っ たところ、マ ージナル腎 の 保 存
には、細 胞 外 液 型 組 成 の保 存 液 を用 いて常 温 保 存 することにより 保 存 時 間 を延
長 すること がで き、移 植 後 の生 存 性 を改 善 することが可 能 で あっ た。また、移 植 前
にMSCs を 腎 動 脈 から局 所 投 与 することにより、 安 全 に腎 機 能 の改 善 効 果 が得 ら
れ る可 能 性 が示 唆 された。
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