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Medicine is an art based on science

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Medicine is an art based on science
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
ファーマコゲノミクス
例えば高血圧症、最近、非常にたくさんの種
類の薬が出てきていますが、単独では決して
100%の有効率には達しないというのが現実で
大阪大学大学院
す。また、この一番上に示されていますが、あ
薬学研究科兼医学系研究科
あずま
東
教授
じゅん
純
る種の抗がん剤ではノンノンレスポンダーが
いち
一
100%という記述があります。こういう薬もあっ
たということですが、薬というものは決して100%
只今、ご紹介頂きました東です。私に与えら
れましたテーマ「ファーマコゲノミクス」につ
き、これから話をさせて頂きます。
の人に効くものではないということです。現在常
用されている薬単独で有効な人、即ちレスポン
ダーはだいたい5人中3、4人であると、大ま
かにいえると思います。
スライド1をご覧下さい。
スライド3をご覧下さい。
ファーマコゲノミクス(PGx)の基本は、
個体差です。これがまさにPGxの原点であろ
うかと考えられます。有名なSir William Osler
の言葉ですが、やはり「If it were not for the
great variability among individuals, medicine might as well be a science and not an
art.」です。
そこで、レスポンダーとノンレスポンダーと
いうものを考えて頂きます。エビデンス・ベー
スト・メディスンという、集団を対象にしてそ
こから抽出されたデータに基づく医療というも
のがあります。しかしながら、繰り返しますが、
すべての人に有効な医薬品は存在しません。
100%の人に有効であるという医薬品はないわ
けで、一方、副作用もみられます。これもすべ
スライド2をご覧下さい。
各種治療薬のノンレスポンダーの頻度、すな
わち薬に対する個人差を示します。左端に疾患
名が書いてあります。いろいろなクラスの薬が
最近、開発されていますが、個々の薬に対する
ての人が副作用を被るというわけではありませ
ん。ごく一部の人です。このような薬物に対す
る応答性の違いの原因の一つに遺伝的素因があ
る、というのがPGxの基本的な考えです。
ノンレスポンダー(効かない人たち)の比率が
スライド4をご覧下さい。
右端に示されています。
スライド1
Medicine is an art based on
science
The Practice of Medicine
If it were not for the great
variability among individuals,
medicine might as well be a
science and not an art”
1849-1919
Sir William Osler
−22−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド2
各種治療薬のノンレスポンダーの頻度
医薬品
疾病
癌・腫瘍
ノンリスポンダー(%)
種々の抗癌剤
70∼ 100
β2アドレナリン受容体刺激薬
LTD4受容体拮抗薬
40∼75
プロトンポンプインヒビター
H2受容体拮抗薬
20∼90
高血圧
サイアザイド系利尿薬
β遮断薬
ACE阻害薬
アンジオテンシンII受容体拮抗薬
50∼70
20∼30
10∼30
10∼30
うつ病
三環系抗うつ薬、SSRIs
MAO阻害薬
25∼50
喘息
十二指腸潰瘍
040104
スライド3
レスポンダーとノンレスポンダー
・ Evidence-based medicine(EBM)とは、 現在ある最
善の根拠に基づいて、かつ患者の希望・好みや価値観をも
考慮して診療を進めていくこと、また、このための技術
・ 全ての人に有効な医薬品は存在しない。
・ いかなる薬物も100%の有効率には達せず、効き
やすい人(レスポンダー)と効きにくい人(ノンレスポ
ンダー)が存在する。
・ 一方、薬物による副作用に遭遇するヒトの頻度は比
較的少ないが、確実に存在する。
・ このような薬物応答性の違いの要因の一つに遺伝
的素因 がある。
スライド4
SNP:single nucleotide polymorphism
ヒトゲノムには30億の塩基対 (bp) がある。
この配列は99.9%が同一で、0.1% に1個の割合で
一塩基多型が存在する。
多型とはある遺伝子座にある対立遺伝子が2種類以上存在し、
頻度が母集団の1%以上である状態。
・ SNPは生存に影響の少ないDNAの変異が世代にわたって
受け継がれ蓄積されたものである。
・ 一塩基の変異で重篤な影響を与えるものは、淘汰されるか
稀な遺伝病となるのでSNPとは言えない。
・ SNPの種類・発現頻度には民族間で違いが認められる
−23−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
皆様ご存じのとおりですが、このPGxの基
って受け継がれ蓄積されたものです。頻度の少
礎となるのは一塩基多型、スニップス(SNP)
ないもの、一塩基の変異で重篤な影響を与える
と呼ばれるものです。主としてこのSNPを対
ものは淘汰されるか稀な遺伝病となるので、当
象として解析が進められます。
然ですが世代にわたって受け継がれないことに
遺伝子の塩基配列は99.9%が同一で、0.1%
に1個の割合でSNPが存在します。この一つの違
なり、不幸にして早く死亡する、また出生して
こられないことになるわけです。
いが個人差を大きく形作ることになるわけで
また、このSNPというのは、その種類が各
す。即ち、このSNPがあるために「遺伝子の
個人で違うのは当然ですが、その頻度には民族
配列は二人として同じものがない」と、先程、
差があるのです。白人・黒人・日本人で、ある
岸本先生がおっしゃいましたように、みんな違
特定のSNPの頻度が違うという特徴がありま
うという原因がここにあるわけです。だから「個
す。薬の応答性に人種間差があるように考えら
人は一人」です。
れていましたが、そうではなくて、個人はどの
人種であっても同じSNPを持てば同じ表現型
また一方で、多型といいますのは、ある遺伝
子が2種類以上存在することで、頻度は母集団
になります。頻度の違いが、集団としての人種
間差となります。
の1%以上であると言われています。SNPは
生存に影響の少ないDNAの変異が世代にわた
スライド5をご覧下さい。
スライド5
ファーマコゲノミクスとは?
(Pharmacogenomics)
What is
Pharmacogenomics ?
薬理遺伝学
(Pharmacogenetics)
薬に対する反応性の個体差を生じる因子ので、
遺伝的要因の関与を研究する学問分野
スライド6
Pharmacogenomics
① 薬物の特性、毒性、または有効性と
遺伝的要因の関連性
② 遺伝子多型に関する研究
③ 薬物動態、薬力学の個人差・民族間差
④ ゲノム科学の臨床的適応(医薬品開発
のターゲット探索、適正与薬)など
right drug/right indication/right dose/right patient
−24−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
そこでファーマコジェネティックスです。こ
れは50年ぐらい前に起こった学問です。薬に対
ライト・ペーシェントpatientという、この四つ
のrightを満たすことがPGxの基本です。
する反応性の個体差を生じる因子の中で遺伝的
スライド7をご覧下さい。
要因の関与を研究する学問である、というよう
に定義されています。では、PGxとは何か、
一方では、この医薬品開発はどのように行わ
これは数年ぐらい前から文献上に現れてきた言
れているかということですが、集団を対象とす
葉です。
るエビデンスの証明、即ち常用量の有効性と安
欧州ではファーマコジェネティックスが使用
全性に関するデータの収集です。しかしながら、
され、ほとんどPGxとはいわれません。とこ
医師が薬物を投与するときには、対象は個人で
ろが、アメリカではPGxというように言われ
す。いわゆる常用量では問題が起こることもよ
ています。アメリカの人たちは、PGxはジェ
く経験されるところです。
そこで、この遺伝子によって個人が分けられ
ネティックスも含むので、PGxと言っている
るのであれば、遺伝子テストをすることは、果
ようで、FDAはPGxを使っています。
たしていいことなのか、有用なのか。また社会
スライド6をご覧下さい。
的な、倫理的な面から許されるのかということ
では、PGxとは何かということですが、薬
が問題になってくるわけです。
物の特性、毒性、又は有効性と遺伝的要因の関
スライド8をご覧下さい。
連性を調べる学問である。遺伝子多型に関する
研究、薬物動態、薬力学、個人差、民族間差を
では、薬の効き方の個体差を作る原因は何か
調べるもので、最終的にはゲノム科学の臨床的
ということですが、勿論、投与量は当然で、環
適用すべてです。そうしますと、薬とゲノムが
境因子もありますが、本日は環境因子の話をす
関係するすべてがPGxになってくるわけで
ると非常に複雑になるので、遺伝子だけに限っ
す。
て話をします。
そこで、個人的には、薬の応答性に関係する
体の中にある薬物の濃度が薬の作用と関係す
ゲノムを「薬効ゲノム」と呼ぼうというように
るであろうと、当然、皆さん考えることです。
提案していまして、薬効ゲノム情報に基づいて
そうしますと、血中濃度、体内の薬の濃度を決
処方するのを「ゲノム与薬」がいいのではない
めるのは、この吸収・分布・代謝・排泄です。
かと思っています。即ち、よく言われますが、
薬を口から飲みますと、吸収され、体中に分布
ライト・ドラッグdrug、ライト・インディケー
されます。また、薬物は異物ですから代謝を受
ションindication、そしてライト・ドースdose、
け、排泄される、この四つ機序にはすべてタン
スライド7
医薬品開発におけるパラドックス
・臨床試験は、患者集団(populations)
における常用量の有効性と安全性に
関するエビデンスを提供する。
・医師が治療する対象は、薬物の最適量
や応答性に大きな個人差がある患者
一人ひとり(individual)である。
Need Gene Test?
−25−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド8
薬効の個体差
4) 生体内因子
薬物標的蛋白
1) 薬剤の物性
薬物動態関連蛋白
処方量
血中濃度
2) 環境因子
3) コンプライアンス
病態を左右する因子
標的臓器
A; 吸収
D; 分布
M; 代謝
E; 排泄
薬効
副作用
遺伝子で説明が可能な個体差が存在する
8
スライド9
Isoniazidの代謝経路
CONHNH2
CONHNHCOCH3
N-acetyltransferase2(NAT2)
N
Isoniazid
(INH)
N
Acetylation
Acetyl
isoniazid
COOH
amidase
Hydrolysis
N
NH2 NH2
Hydrazine
(Hz)
Isonicotinic acid
Acetylhydrazine
(AcHz)
肝毒性
主代謝経路
Diacetylhydrazine
代替代謝経路
(排泄)
パクが関係しており、遺伝子が関係することに
ニアジド(INH)とリファンピシンの併用投
なります。
与がまず基本です。現行治療で、20%弱の方に
また、薬が作用を発揮するには、当然、標的
肝機能異常が起こると言われています。
分子に到達する必要があります。そこもタンパ
このスライドはINHの代謝経路を示します。通
クです。そうしますと、その標的分子、いわゆ
常ですと、主としてNアセチルトランスフェラ
る薬物感受性に関係するような分子、タンパク
ーゼ2(NAT2)と呼ばれる代謝酵素で代謝
も遺伝子に規定されることになり、すべてがP
を受けます。しかし、このNAT2には遺伝的
Gxの対象になるわけです。
に活性の弱い人たちが存在します。それでは、
この活性の強い人と弱い人とで、どちらの方で
スライド9をご覧下さい。
肝機能障害が起こりやすいかということです。
そこで、我々が行いました臨床研究の一端を
もう数十年前、かなり古い薬でいろいろな議論
お話いたしますが、肺結核症の治療です。イソ
があったのですが、なかなか明確ではなかった。
−26−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
今回の解析結果の一部ですが、日本人ではだ
スライド10をご覧下さい。
我々が行いましたのは、このNAT2の遺伝
子解析ですが、一つのエクソン上にSNPが十
いたい10%がSAの遺伝子をホモで持ち、そし
て、RAは40%ぐらいです。
数か所あります。日本人ではピンクで示す3つ
のSNPを調べることによりほぼ100%の活性
スライド13をご覧下さい。
タイピングが予測できます。
この人たちに常用量のINHを含む結核治療を
しました。そうすると、全体で約20%の方が肝
スライド11をご覧下さい。
機能障害を起こしました。このときの試験では、
2本の遺伝子のうち二つとも問題ない人はラ
SAの全員が肝機能障害を起こしていると、判定
ピッドアセチレーター(RA)と呼ばれます。
のクライテリアはいろいろありますが、WHO
一本に変異遺伝子を持つ人はインターメディエ
の基準に従っています。そうしますと、この治
イト(IA)と、2本とも変異遺伝子であれば
療の場合、NAT2の遺伝子判定をすることに
スローアセチレーター(SA)と呼ばれます。
より、肝機能障害の発症の予測が立つというこ
とになります。
では、どのようにさじ加減をするか? 投与量
スライド12をご覧下さい
スライド10
N-acetyltransferase 2 の遺伝子変異
T→C G →A
111 191
A→C
434
G →A
A→C
341
499
759 C →T
803 A→G
845 A→C
* ** * * *** *****
190 282
C →T C →T
481 590 857
C →T G →A G →A
SNPs (一塩基変異)
スライド11
NAT2 の遺伝子遺伝子多型
通常の活性の遺伝子型(野生型):
NAT2*4
活性の低下する遺伝子型(変異型):
NAT2*5
NAT2*6
NAT2*7
変異型遺伝子 0個 →
Rapid acetylator 型
変異型遺伝子 1個 →
Intermediate 型
変異型遺伝子 2個 →
Slow acetylator 型
4種類の遺伝子多型で日本人のフェノタイプを
ほぼ100%を説明できる。
−27−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド12
Frequency of the NAT2 genotypes in patients
Genotype
n
%
NAT2*4 / *4
46
40.3
RA type (40.3%)
NAT2*4
NAT2*4
NAT2*4
NAT2*5
NAT2*5
NAT2*5
NAT2*6
NAT2*6
NAT2*7
4
34
15
3.5
29.8
13.2
IA type (46.5%)
0
2
0
7
4
2
0.0
1.8
0.0
6.1
3.5
1.8
SA type (13.2%)
114
100.0
/
/
/
/
/
/
/
/
/
*5
*6
*7
*5
*6
*7
*6
*7
*7
スライド13
INH+RFP 誘発性肝毒性発症率
とNAT2遺伝子多型
p
<0.001
p
=0.038
対象(肺結核患者):
併用投与開始前の肝・腎機能
検査値が基準範囲内
p
<0.001
Incidence (%)
100
80
投与量: INH 400 mg/day +
RFP 450 mg/day + SM (EB)
60
肝毒性の判定基準:
血清AST and/or ALT > 基準値
上限の1.5倍かつ投与前値の2倍
40
20
0
Total RA-type IA-type SA-type
n=114
n=46
n=53
Normal
Hepatotoxicity
n=15
を設定するか? 単純に考えればSAには用量
か採血して血液を頂けないという状況下で行っ
を減らし、RAには増やすということですが、
たのですが、ピンクがSA、黄色がIA、ブル
それでは科学的ではなく、よくないであろうと
ーがRAです。そうしますと、明らかに血中濃度
いうことで、次の検討をしたわけです。
が違うことがお分かり頂けるかと思います。同
じ投与量で血中濃度が違います。この部分が有
スライド14をご覧下さい
効血中濃度域です。ここはMICと呼ばれると
これは先程の患者さんたち、患者さんですの
ころです。ブルーのRAでは明らかに、この投
で1人の方から1から3、4ポイントぐらいし
与量、いわゆる常用量では有効血中濃度に達し
−28−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
ていません。一方、SAでは中毒作用の範囲内
うにSAの頻度ですが、日本人で10%、コケー
になります。こちらの縦軸は対数目盛りですか
ジャンで50%です。そうしますと、常用量とい
ら、その違いをはっきりとご理解頂けるかと思
うのは大多数の人に合う量でSAの多いヨーロ
います。
ッパで常用量が少ないのは当然です。ここにあ
りますように、400mgでもRAでは血中濃度が
スライド15をご覧下さい
十分な治療域に到達しないということが分かり
先程のデータから、次に何をするのか? ポピ
ます。
ュレーション・ファーマコ・カイネティックス
そこで、こういう研究をしていて、実際に何
という手法を使います。そうして、現在の投与
らかの利益がなければいけない、ベネフィット
量に対して遺伝子型別に投与量を計算します。
の検討が必要かと思います。当然、薬剤感受性、
この有効血中域を維持するにはどうするかとい
肝障害の発症率が低下する、治療効果が上がる、
うことですが、計算した結果がこちらです。R
耐性菌出現の低下、再発率低下は勿論、経済効
Aではほぼ倍量、IAではほぼ現行、SAでは
率は、こういうことを実際に検証する必要があ
半分量と、当然予測はできることですが、一応
るわけです。そこで、現在考えておりますのは、
こういう科学的な証拠がいるので検討したわけ
近畿地域の結核病院を中心に協力頂いて、前向
です。
き臨床試験をやろうと、いわゆる常用量とそれ
ぞれの遺伝子型に合わせた用量のランダム化試
スライド16をご覧下さい
験を、来年早々から開始しようと計画していま
果たして、SAに対するこの現行の投与量は
す。
SA患者さんに適量かということになったわけで
す。この一日400mgが日本人の常用量です。そし
スライド17をご覧下さい
てヨーロッパ人では300mgです。日本人のほうで
また、このNAT、結核治療につきましては
投与量が多いという、珍しい薬ですが、これに
世界的にも非常に興味があるところですので、
は明らかな理由があります。図の下方にあるよ
偶然にもドイツのケルン大学のDr.Uhrから共同
スライド14
Plasma INH concentration-time profile
INH concentration (µg/mL)
Patients (n ):114
10
Sparse plasma (n ):278
(1 – 4 points/person)
1
Dose: INH 200 mg
at steady state
0.1
0.01
0.001
0
同じ投与量で
血中濃度が異なる
RA type
IA type
SA type
Therapeutic range
15
5
10
Time after administration (hr)
−29−
Minimal inhibitory
concentration
(MIC)
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド15
肺結核治療における肝障害とNAT2 遺伝子多型
対象:肺結核患者(治療前肝機能正常)
投与量:INH 400 mg/day + RFP 450 mg/day +α
薬剤性肝障害の評価:WHOの基準に準拠
現在
3.0
Css
max
Total
(n=114)
*
*
(n=53)
SA-type
(n=15)
20
40
60
80 100%
Incidence
Normal
Hepatotoxicity
(mg/mL)
血中 INH 濃度
(n=46)
IA-type
0
min
0.2
RA-type
0
12
24 hr
予測 Css
3.0
max
適正投与法(推定)
RA-type
IA-type
SA-type
500 mg x 2 /day
250 mg x 2 /day
100 mg x 2 /day
min
0.2
0
12
24 hr
スライド16
Trough plasma concentration of INH
in relation to NAT2 genotype
Japan
Europe
& USA
400 mg/day
(8 mg/kg/day)
300 mg/day
(5 mg/kg/day)
Frequency of slow acetylator
(SA-type)
Japanese
Caucasians
10 %
Trough conc. of INH (mg/mL)
Standard dose of INH
10
1
MIC
0.05-0.2 µg/mL
0.1
RA-type
IA-type
IA-type + HT
SA-type + HT
0.01
0.001
0
50 %
n=60
2
4
6
Dose (mg/kg)
8
HT: hepatotoxicity
−30−
*
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド17
Next clinical trial for genotype based therapy
against pulmonary tuberculosis
◆ Multi-center prospective randomized clinical trial
◆ Rationalized dosing of isoniazid based on NAT2
gene polymorphism
◆ Safety, Efficacy, Pharmacoeconomics
Patients with pulmonary tuberculosis
Prof. Dr. med. Uwe Fuhr
Department of Pharmacology
– Clinical Pharmacology Unit NAT2 genotyping
University of Cologne
NAT2
Gene chip
RA-type
IA-type
SA-type
?00 mg
or 400 mg
?00 mg
or 400 mg
?00 mg
or 400 mg
*
スライド18
チトクロームP450(CYP)と薬物代謝
薬物代謝反応の約 %に関与する
脂溶性に富む
基質結合部分
をもつ
脂溶性薬物
S
Fe
肝臓
脂溶性薬物に主に
水酸基(−OH)を
付加して,水溶性
物質に変換して体
外に排泄しやすく
する。
80
チトクロームP450
(CYP)
水溶性薬物
排泄
胆汁・尿
でやろうと提案があり、我々日本とドイツを中
ものがあります。
心とするヨーロッパで、ほぼ同じプロトコール
スライド19をご覧下さい
で試験を始めることになっています。
オメプラゾールというプロトンポンプインヒ
スライド18をご覧下さい
ビターです。これはCYP2C19で代謝されます。
次に、薬物代謝酵素CYP450という非常に有名
そこで遺伝子型別に血中濃度を見ました。これ
な代謝酵素があります。この酵素群は、薬物代
はヘテロミュータント、すなわち遺伝子のうち
謝反応の約80%に関与するといわれるものです。
の1アレルが異常で1アレルが正常な人と、2
その典型的なもので、まずCYP2C19と呼ばれる
アレルとも正常な野生型の人との比較です。赤
−31−
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会報(平成17年3月・第674号)
がヘテロで、ブルーが野生型です。明らかに血
差が出てきます。これは我々のデータではあり
中濃度が違います。AUC、時間濃度下面積で
ませんが、消化性潰瘍のヘリコバクターピロリ
約2倍強の違いがあり、遺伝子型により明らか
除菌において、野生型と変異型とで明らかに同
に血中濃度が違うことがわかります。
じ量の薬を投与した場合には、除菌率が違うと
いうデータが出ています。
スライド20をご覧下さい
スライド21をご覧下さい
血中濃度に2、3倍の差が生じると、効果にも
スライド19
Concentration of Omeprazole
Concentration (ng/mL)
AUC
1,000
0-23h
(ng. hr/mL)
m/w(10):834±392
w/w(9) :301±156
mean±SD(P≒0.001)
健常成人男子
20mg空腹時単回投与
500
効果に2∼3倍の
差が生じる
CYP2C19
CYP3A4
0
4
0
8
12
Time (hr)
スライド20
CYP2C19遺伝子多型と消化性潰瘍治癒率
Duodenal ulcer
Gastric Ulcer
100
H.pylori
Cure rate
(%)
50
0
N=62
N=62
*2/*2 or *2/*3
*1/*2 or *3
*1/*1
CYP2C19 genotype
OMEPRAZOLE (20mg/d 6-8wk)+Amoxycillin (200mg/d 2 wk)
(Furuta
(Furuta et
et al
al,, 1998)
1998)
−32−
20
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド21
コデインの代謝
CH3 O
コデイン
(80%)
O
Codeine 6-glucuronid
(inactive)
N CH 3
CYP2D6
HO
CH3 O
HO
(10%)
モルヒネ
(10%)
O
O
NH
N CH3
(active)
norcodeine
HO
HO
(inactive)
HO
morphine 3- or
6- glucuronide
アンプル入り感冒薬
norcodeine 6- glucuronide
O
normorphine 3 - or
ジヒドロコデイン
6- glucuronide
NH
normorphine
HO
スライド22
Pharmacogenetics of CYP2D6
No. of subjects
120
PM = 5-10 % Cauc Americans
>1 % Japanese
100
80
Extensive
metabolism
60
Intermediate
metabolism
40
20
Ultra-rapid
metabolism
Cutoff
Poor
metabolism
0
0 0.01
0.10
1
10
100
Debrisoquin:4-Hydroxydebrisoquin Metabolic Ratio
22
Adapted from: Bertilsson L et al, Clin Pharmacol Ther 51:388-97,1992
−33−
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド23
Plasma concentration of venlafaxine
主代謝酵素はCYP2D6らしい?
Plasma concentration (ng/ml)
Venlafaxine
200
150
100
50
0
0
10
5
15
20
25
time(hr)
従来のPMの概念では説明できない
次に、コデインというのがあります。これは
鎮咳剤ですが、今は鎮痛剤としても使われます。
で、日本人で頻度の高い一群であることが分か
りました。
これはどうしてかといいますと、CYP2D6で代謝さ
れてモルヒネになります。そうしますと、この
スライド23をご覧下さい
CYP2D6の遺伝子欠損者では鎮痛作用が起こらない
まずはベンラファキシンというもうすぐ市場
ことになるわけです。その例として、モルヒネの
にでてくる抗うつ薬ですが、主としてCYP2D6で
薬理作用である縮瞳を見た報告があります。明ら
代謝されます。これが血中濃度で、健常人を対
かに遺伝子型により縮瞳の程度が違うことが確
象に臨床試験をしましたが、これだけばらつい
認されています。このように、代謝酵素の遺伝
ています。しかしながら、この薬の主代謝酵素
子型により薬物の血中濃度が異なり、薬の効き
はCYP2D6ですが、従来のPMの概念、すなわち
方が違ってくることが分かってきたわけです。
日本人におけるPMの頻度からは説明できないば
らつきです。
スライド22をご覧下さい
スライド24をご覧下さい
また、CYP2D6については、日本人では代謝活
性を持たない人、NAT2だけはスロー・ラピ
そこで調べてみますと、このCYP2D6*10とい
ッドといいますが、他の代謝酵素はすべてエク
う遺伝子型が文献的にはあったわけです。当時
ステンシブ・メタボライザー(EM)又はプア・
はJタイプ又はChタイプといわれていて、ジ
メタボライザー(PM)といいます。EMが正
ャパニーズ、チャイニーズの略で、東洋人に多
常です。そうしますと、日本人ではPMが1%
いタイプです。これは酵素活性が低下するとい
に満たないといわれていました。しかし、ここ
うタイプで、タンパクが非常に不安定になると
をよく見て頂きますと、何かここにグループが
いわれるものですが、我々の解析ではアレル頻
あります。この型のところの人たちはインター
度が40%ぐらいありました。
メディエイト・メタボライザーと呼ばれる多型
−34−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド24
CYP2D6遺伝子の主な遺伝子型
名称
遺伝子構造
活性
CYP2D6*1
CYP2D6*5
Normal
43.0
None
4.5
Complete deletion of CYP2D6
CYP2D6*10
CYP2D6*36
C188T
34Pro→Ser
G4268C
486Ser→Thr
C188T
34Pro→Ser
6 AA changes
野生型
アレル頻度(%)
Decreased *
38.1
Decreased *
1.8
少なくとも一つの変異を含むexon
*Unstable
enzyme
スライド25
CYP2D6*10 and
plasma concentration of venlafaxine
Plasma concentration (ng/ml)
Ve nlafax ine
200
1 *1/*2
2 *10/*10
3 *1/*2
4 *2/*10
5 *5/*10
6 *1/*10
7 *1/*1
8 *1/*10
9 *1/*2
10 *10/*10
11 *2/*10
12*10/*10
*10/*10
*1/*10
150
*1/*1
100
50
0
0
5
10
15
time(hr)
−35−
20
25
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
幸いなことに、この薬物の代謝物も親化合物
スライド25をご覧下さい。
その遺伝子型で分けますと、遺伝子群間で血
と同じ薬効を持ちます。そうしますと、この両
中濃度に差があり明らかに3群に分かれました。
方の血中濃度を足しますと、これが野生型で、
CYP2D6*10が赤で、グリーンが野生型すなわち
これが中間型の人ですが、血中濃度に差がなく
正常な人です。こういうことから、我が国でも、
なり、薬理作用的にも差がないことになります。
特に精神神経科の先生方でCYP2D6*10が研究さ
そうでなければ、まだ発売前の新規医薬品をこ
れるようになってきました。
ういう場でしゃべることを会社は禁止するでし
ょうが、私は宣伝マンのような形でこうして話
をさせて頂けるわけです。
スライド26をご覧下さい。
スライド26
新規抗うつ薬 Venlafaxineの
臨床試験の成績
A) Venlafaxine
B) O-desmethylvenlafaxine
Plasma concentration (ng/mL)
200
250
CH
3
CH
3
CH 2 N
150
CH
3
*10/*5 (n=1)
*10/*10 (n=3)
200
O
*10/*1,*10/*2
OH
(n=4)
(n=4)
*1/*1,*1/*2
150
100
100
50
50
0
0
0
4
8
12
16
20
24
Time(hr)
0
4
8
12
スライド27
遺伝子情報に基づく匙加減が
必要な科学的根拠
z
16
Time(hr)
Top 27 drugs frequently cited in ADR
reports
z 59%
(16/27) metabolized by at least one
enzyme having poor metabolizer (PM)
genotype
z 38% (11/27) metabolized by CYP 2D6
mainly drugs acting on CNS and cardiovascular
systems, including nortriptyline
Phillips et al, JAMA, 286 (18), 2001, 2270-2279
−36−
20
24
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド27をご覧下さい。
CYP2D6が代謝に絡んでいたという報告です。そ
では実際に、代謝酵素の遺伝子多型が問題に
うしますと、今後、医薬品の開発においてCPY2D6
なるかどうかということですが、少し古い報告
単独で代謝される薬は開発が続けられるのか、
ですが、アドバース・ドラッグ・リアクション
また、現在ある薬も今後存続するかどうか、と
が報告された27の医薬品について調べた報告が
いうことになってきます。
あります。そのうちの実に59%の医薬品がPMの
存在する代謝酵素で代謝される薬であったとい
スライド28、29をご覧下さい。
う こ と で す 。 更 に 全 体 の 40 % の 医 薬 品 で は
代謝酵素と副作用についてはいくつかの報告
スライド28
薬物代謝酵素遺伝子多型と有害事象
薬物代謝酵素
ジヒドロピリミジン
ジヒドロゲナーゼ
有害事象等
フルオロウラシル
精神神経症状、
骨髄抑制
スルフォナミド
プロカインアミド、
ヒドラジン、
イソニアジド
過敏症
薬物性ループス
エリテマトーデス
肝傷害
0.1%以下
約20%(SA)
N-アセチル
トランスフェラーゼ
チオプリンメチィル
トランスフェラーゼ
薬物
遺伝子多型の頻度
(我国)
メルカプトプリン、
アザチオプリン
5%以下
(ヘテロ接合体)
骨髄抑制
スライド29
薬物代謝酵素遺伝子多型と有害事象
薬物代謝酵素
薬物
遺伝子多型の頻度(我国)
CYP2C9
約4%(ヘテロ接合体)
0.05%以下(ホモ接合体)
CYP2D6
0.6∼0.7%(PM)
15∼18%(IM)
約0.5%(ホモ接合体)
ワルファリン
トルブタミド
フェニトイン
ロサルタン
抗不整脈薬
抗うつ薬
抗精神病薬
オピオイド
β受容体拮抗薬
CYP2C19
20%弱(PM)
オメプラゾール
ジアゼパム
−37−
有害事象等
出血
低血糖
フェニトイン中毒
降圧効果減少
催不整脈作用、
その他の有害事象
PMでの有害事象、
UMでの有効性低下
遅発性ジスキネジア
コデインの鎮痛作用低下
麻薬作用、薬物依存
β遮断作用増強
クラリスロマイシン併時
の有効率向上
鎮静作用増強
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
があります。特にがんの分野での薬が多いよう
医薬品と代謝酵素について、遺伝子を調べるこ
です。詳細は省略しますが、あとで少し出てき
との意義をひょっとすれば医薬品の表示に記載
ますが、抱合酵素といわれるものとCYPという代
するようになるかも知れないということです。
謝酵素のいずれにおいても遺伝子多型が報告さ
れています。そうしますと、こういう代謝酵素
スライド31をご覧下さい。
の欠損者では、これらの代謝酵素で代謝され医
その一つ、このイリノテカンで問題となるの
薬品というのは、常に問題になる可能性があり
はここにある代謝酵素UGT1A1です。この代謝酵
ます。
素の活性が正常の人と低下している人とで、下
痢とか白血球減少症の発症率が違うことが最近
言われています。
スライド30をご覧下さい。
今、FDAが言っているのは、この三、四の
スライド30
FDA Is Looking at Approved Drugs
Where Genotype is a CoCo- Variate
・ 6-mercaptopurine
– thiopurine methyltransferase (TPMT)
・Azathioprine
– TPMT
・ Warfarin
– CYP 2C9
・ Irinotecan
– UGT 1A1
スライド31
CPT-11 and UGT1A1 gene polymorphism
The patients with UGT1A1*28 are at higher risk for severe toxicity by CPT-11.
Irinotecan
Carboxylesterase
SN-38
CPT-11
UGT1A1
(&1A7)
U
G
T
A
1
1*28
(TA)6→(TA)7
Promoter region
β-Glucuronidase
Intestinal lumen
Bone marrow
SN-38 G
−38−
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド32
Safety Pharmacogenomics of Irinotecan
・Prevalence of grade 4 neutropenia in 59
patients was 9.5%
– 7/7 genotype (6) : 50%
– 6/7 genotype (24) :12.5%
– 6/6 genotype (29) : 0%
・ Should UGT genotyping be used to identify
cancer patients predisposed to severe
toxicity?
Innocenti et al, J Clin Oncology 22:1-7, 2004
スライド33
今までお話したのは代謝酵素です。また、こ
スライド32をご覧下さい。
UGT1A1*28 (7/7 genotype) の人では酵素活性
の薬物の標的分子にも遺伝子多型がありますが、
が野生型(6/6 genotype)より2-4倍低くなり、
あとで出てまいります。そこで遺伝子型を調べ
問題が起こることがわかります。ここに問題が
る対象は、薬物代謝酵素、薬物標的分子、それ
あれば、白血球減少症が50%、そうでなければ
以外にもがん細胞、また、細菌、そういうもの
ゼロというように遺伝子型によりイリノテカン
の遺伝子も問題になってきます。
の副作用の起こり方が違います。
スライド34をご覧下さい。
FDAで最近許可されたのは、肺がん(Non-
スライド33をご覧下さい。
−39−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
Small Cell Lung Cancer)治療において上皮成
(追記)
長因子受容体Epidermal Growth Factor Recept
世界規模のイレッサ臨床試験の中間解析が
or(EGFR)のタンパク発現を調べることに
2004年12月まとまり、イレッサの延命効果が確
より、個別化を図ろうという発想です。がんの
認できなかったため、アストラゼネカは欧州で
増殖にかかわるたんぱく質の働きを妨げる「分
の承認申請を取り下げた。FDAも「患者の延
子標的薬」と呼ばれる新しいタイプの抗がん剤
命効果はない」として、市場からの回収も視野
です。このスライドは、EGFR遺伝子配列変
に入れた規制を行う方針を明らかにした。なお、
異がイレッサの効果と関連があるという、Dr.
日本では世界に先駆けて2002年に承認され、米
LeskoはFDAの長官ですが、その方のスライド
国でも2003年に承認された。
を拝借しています。明らかにこのEGRFの発
現によってイレッサの効果が違います。EGF
スライド36をご覧下さい。
Rの遺伝子変異例に有効例が高かった。だから、
他にも、RA治療におけるインフリキシマブ
このイレッサの使用に際し、EGRF遺伝子を
があります。これはTNF遺伝子を調べること
調べるかどうか?
により、反応する人の違いを予測しうるという
報告です。
スライド35をご覧下さい。
スライド37をご覧下さい。
日本人にイレッサがよく効くとされていまし
たが、この遺伝子に変異がある肺がん患者は、
また最近ですと、HMG CoA還元酵素阻害薬プラ
欧米人よりも、日本人の方がはるかに多いとさ
バスタチンです。メガトライアルがなされ、こ
れています。腺がん、非喫煙者、女性ではよく
こにありますいくつかのものにつき遺伝子解析
効くといわれているものですが、遺伝子によっ
を行っています。
て効果の違いが分かってきています。この欠失
を持つ人はレスポンダーで、ノンレスポンダー
スライド38をご覧下さい。
ではこの欠失を持たない人が多いことが分かっ
そこで、HMG CoA還元酵素SNP12と呼ばれるア
ています。FDAはこのイレッサを投与すると
ミノ酸置換による効果を見ています。このAA
きには遺伝子判定をしなさいという方向を取ろ
の人とATの人とは、少し反応性が違うようで
うとしているようです。
す。この場合いずれも効いていますが、効き方
スライド34
Results of Iressa PGx Study
Specific mutations in EGFR gene (genomic biomarkers) correlated
with clinical response
z deletions
or amino acid substitutions around the
ATP binding site of Iressa
z increased EGFR signaling and susceptibility to
inhibition
These biomarkers identified in 8 of 9 responders
z lung
cancer cells with mutations are 10 times more
responsive than normal cells
z mutations much more common in tumor cells from
Japanese patients (2.5X greater clinical response)
Biomarkers not identified any of 7 non-responders
−40−
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド35
EGFR Mutation & IRESSA Therapy
Response Rate in Phase II trial
27.5 % in Japanese, 10.4 % in Caucasian
Race
Japanese
Caucasian
26 % (15/58) 2 % (1/61)
Response
Responder
Non-responder
100 % (5/5)
0 % (0/4)
L858R 1
in-frame deletion 4
(746-753)
−
Paez Paez JG et al., Science, 304: 1497, 2004
スライド36
TNF SNPs & infliximab
・ RA patients
・ Infliximab treatment for 22 weeks
・ G-to-A polymorphism at position -308 in the
promoter of the tumor necrosis factor (TNF) gene
A/A or A/G
G/G
( N=12)
(N=41)
DAS28
1.24
2.29
DAS28: The Disease Activity Score in 28 joints
P = 0.029
Mugnier B et al, Arthritis Rheumatism, 48: 1849, 2003
スライド37
HMG HMG-CoA Reductase Genotype
・ Pravastatin 40 mg/day for 24 weeks
・1536 patients in US (successfully completed
(successfully completed the protocol)
・white 1362 patients: 88.7 %
・148 SNPs within 10 candidate gene
・ABCG5, APOB, CETP, CYP3A4, HMGCR. LDLR etc.
・HMG-CoA Reductase SNP12
・AA: 93.3 % AT: 6.7 %
Chasman Chasman DI et al, JAMA: 291: 2821, 2004
−41−
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド38
Total Cholesterol (mg/ dL) <%> )
SNP 12
AA (n=1402)
AT (n=101)
Entire study -42.0 <<-18.8> -32.8 <<-14.4>
Whites
-42.2 <<-18.9> -33.1 <<-14.3>
・No relation in Placebo Group
・Total cholesterol was increased by 1.1 mg/ dL(1.2%) in
placebo group in original study
(JAMA, 286: 64, 2004 )
・Both SNP groups have benefits which outweigh
placebo
・Similar result was obtained for SNP 29 (TT or TG)
スライド39
CYP2D6 genotype and steady-state SSRIs concentration
1.6
80
FLV
Concentration (ng/ml)
Dose-adjusted concentration
(ng/ml/mg)
PAR
An obvious
difference was observed in plasma concentrations
of
fluvoxamine
based on the 1.2
CYP2D6 genotypes,
60
but not paroxetine.
CYP1A2
40
0.8
It was unclear whether the steady-state plasma concentrations
of both SSRIs contributed to their clinical response
20
0.4
Adverse
drug reactions were observed more frequently
0
0
or
carriers
in the CYP2D6*10
0
10
20CYP2D6*5
30
30
0 than
10in non-carriers.
20
Time(hr)
Time(hr)
Extensive metabolizer (EM) *1/*1, *1/*2, *2/*2 *1/*10, *2/*10
*10/*10
*5/*10
Intermediate metabolizer (IM)
*1/*5, *2/*5
Plots on paroxetine were shown at 20 mg dose only. Diamonds (◇) indicate smokers: more than
10 cigarettes per day.
が少し違います。そうすると、この遺伝子を医
されるということになるかも知れません。
薬品の表示に記載するかどうかという問題が起
こってくるわけです。そう大きく差がなければ
スライド39をご覧下さい。
いいのですが、ロング・アウトカムがどのよう
次に、我々のデータですが、これSSRI、
になるか、結果によっては表示への記載が要求
抗うつ薬です。パロキセチンとフルボキサミン
−42−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
ですが、どちらも主としてCYP2D6で代謝されま
されている結果です。この治療効果を見るとき
す。フルボキサミンはCYP1A2という代謝酵素で
にどの時点で効果を判断するかが問題になって
も一部代謝されます。ところが、一定期間投与
きます。遺伝子型により、早く効果が認められ
後のsteady状態のときの薬物血中濃度には、遺
る人、効果発現が遅い人という見方もできるわ
伝子型によって血中濃度はほとんど影響を受け
けです。最終的にはどのような結果になるのか、
ないことが分かったわけです。単回投与のとき
まだ今後の転帰は分かりませんが、このような
は明らかに遺伝子多型の影響を受けます。これ
分子の遺伝子型により臨床効果に差があります
には酵素阻害が関係していますが、詳細は省略
と、今後は、薬物代謝酵素だけではなくて、薬
します。
物感受性の方も大切になってきます。
スライド40をご覧下さい。
スライド42をご覧下さい。
そこで分かってきたことですが、血中濃度と
最後に心不全治療の話ですが、現在ではβブ
有効率にはあまり差がないのではないかというこ
ロッカーは心不全の治療になくてはならないも
とです。では有効率を決めるのは何かと。その候
のになり、明らかに死亡率の改善が認められて
補の一つはセロトニントランスポーター(5HTT)
います。
です。ここには44bpの挿入・欠失という二つの遺
伝子型があります。Lというのはこの発現が多
スライド43をご覧下さい。
い、Sというのは発現が少ない人です。
心臓にある交感神経β1受容体には多くの遺
伝子多型が報告されており、アミノ酸置換を伴
スライド41をご覧下さい。
うものも知られています。これが交感神経受容
ここで効果に差があるかどうかですが、まだ
体についてまとめたもので、それぞれのSNP
症例数が少ないのですが、フルボキサミンでは
ではアミノ酸変異があり、機能も変わるという
差がありそうです。これは日本人以外では証明
ことが分かっています。
スライド40
Target Variation – 5HTT
Variation in promoter sequence
z 44bp insertion/deletion (L and S alleles)
z
Long
SLC6A4 expression
(528bp)
Short
SLC6A4 expression
(484 bp)
Short/Short
Long/Long
スライド44をご覧下さい。
−43−
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド41
Effect of serotonin transporter promoter gene-linked polymorphic
region (5HTTLPR ) on HAM-D reduction
100
80
A total of 81 patients
male/female: 45/36;
paroxetine / flvoxamine:
42/39; mean age±SD:
44.8±14.9 years
60
40
l/l(n=1 ∼3)
20
l/s(n=19 ∼25)
s/s(n=37 ∼41)
0
0
1/2
3/4
Time ( Week )
5/6
スライド42
Clinical trials for β-blocker
therapy in chronic heart failure
NYHA
Mortality
US Carvedilol
carvedilol
II∼III
−65%
CIVIS II
bisoprolol
III
−34%
MERIT-HF
metoprolol
II∼III
−34%
COPERNICUS
carvedilol
IV
−35%
−44−
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド43
Adrenergic Receptor Polymorphisms
β1 AR
Codon
Amino acid
change
Function change (in vitro))
49
Ser→Gly
Increased down regulation
389
Arg→
Arg→Gly
Decreased G-protein
coupling
16
Arg→Gly
Increased down regulation
27
Gln→Glu
Decreased down regulation
322322325
deletion
Reduced agonist binding and
decreased G-protein
coupling
β2 AR
α2c AR
スライド44
β1AR Ser49Gly と心不全による死亡率
△ Ser49 homozygotes without b-blockers (n=63)
▲ Gly49 variant without b-blockers (n=28)
☆ Ser49 homozygotes with b-blockers (n=59)
Risk of end-point (%)
60
★ Gly49 variant with b-blockers (n=33)△
p = 0.12
40
Glyアレルを有する患者には
β-blockerが効きやすい
☆
▲
p = 0.016
20
★
0
0
1
2
3
4
5
Follow-up (years)
Eur Heart J 2000;21:1853-8.
スライド44をご覧下さい。
明は省略しますが、グリシン・アレルを有する
一例を示します。少し前の報告で症例数も少
人の方が、これは赤で示していますが、βブロ
ないのですが、β1レセプターのセリンとグリ
ッカーが効きやすいという報告です。
シン置換に関する報告です。データの詳細な説
−45−
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド45
Heart failure and Polymorphism
of α2c AR
α2CDel322-325
Decreased Function in vitro
α2A
α2C
Sympathetic
nerve
α2c AR Del322-325
Allele frequency
Norepinephrine
β1
CHF
healthy
Black
0.62
0.41
White
0.11
0.04
Yellow
???
???
Cardiac-cell
membrane
β3
β2
(2002,10
β1Arg389Gly
Increased
Function in vitro
These two polymorphism
of receptors act
synergistically to increase
the risk
of heart failure in black.
reported)
Japanese ?
N Engl J Med (2002) 347, 1135-42
スライド46
Allelic frequency of adrenergic receptor
polymorphisms in healthy and CHF
0.7
Allele頻度
0.6
Allelic frequency of α2c AR
Del322-325 in healthy
Japanese is 0.14.
CHF (n = 66)
Healthy (n = 119)
0.5
0.4
CHF>Healthy : Black and
White
0.3
0.2
0.1
0
Ser49Gly
Arg389Gly
β1 AR
Arg16Gly
Gln27Glu
β2 AR
−46−
α2c Del
α2c AR
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド47
心不全
β受容体遮断薬の有効性に関する研究
大規模臨床試験による遺伝子多型の意義の解析
臨床試験:
慢性心不全におけるβ遮断薬による治療法確立のための
大規模臨床試験(J-CHF)
対象: NYHA II度もしくは III度、EF<40%、1500例 (300施設)
概要: カルベジロール2.5mg、5mg、20mg/日投与し、
全死亡、心血管事故、心機能を検討する。
サブスタディ: 遺伝子多型解析
委員長: 北畠 顕 (北海道大学大学院医学系研究科)
後援: 日本循環器学会、日本心臓財団
その前に、これは長期メガトライアルですの
スライド45をご覧下さい。
一方では、2年前の報告ですが、プレシナプ
で、まず数十例の患者さんで予備検討しようと
ティクα2C遺伝子の322-325欠失を持つ人、特
いうことになりました。このようにレスポンダ
に黒人では心不全になる確率が極めて高い、有
ーとノンレスポンダーに分けて、狙いをつけて
意差があるというデータが出ました。白人でも
候補遺伝子を取り上げpreliminaryに解析を始
症例数が少ないので検出力が劣っていて、もう
めました。
一つはっきり言えないようですが傾向があると
そこで72の遺伝子、そこから163のSNPを抽出
されています。特にこのβ1レセプターの多型
して、遺伝子判定をすることになりました。現時
と重なると、非常にリスクが高くなります。
点では、46例の患者さんを対象に解析中です。
スライド49をご覧下さい。
スライド46をご覧下さい。
では日本人ではどうかを検討しましたが、全
一部データが出ています。詳細は省略します
く逆の結果が出ました。健常人と比較して、心
が、このように個々の遺伝子型ではレスポンダ
不全の患者さんではこの変異が少ない。そうし
ーとノンレスポンダーであまり差がないようで
ますと、先程のβブロッカーに関するデータは、
す。
日本人に適用できるのかどうかという疑問も起
スライド50をご覧下さい。
こってくるわけです。
先程の図はアドレナリンレセプターだったの
スライド47をご覧下さい。
ですが、ACEとかSODとかeNOS等につ
北大の北畠先生を中心とした日本循環器学会
きましてもこのような結果が出ています。これ
研究グループで臨床試験をやろうという話があ
らを組み合わせると、例えばACEとeNOS
り、そこで遺伝子解析をしようということにな
とのこの組み合わせで、ひょっとすれば違いそ
っています。
うですが、今後データを解析するという楽しみ
が残っている段階です。これらの結果からデー
スライド48をご覧下さい。
タマイニングをやれば、ある傾向が出て、こう
−47−
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会報(平成17年3月・第674号)
スライド48
Individual Difference in β-blocker Effect
Responder ; improvement of
3 % in the fractional shortening
%FS ±3%
%FS
(33例:41.8%)
(41例:51.9%)
(5例:6.3%)
(%) 25
Before
20
21.7
After
19.3
15
14.9
10
15.0
12.2
11.8
79patients
5
0
Responder
Non-responder Bad-responder
For Individualized
Medication
Genotyping
スライド49
レスポンダー、ノンレスポンダーにおける
Βアドレナリン受容体 遺伝子多型のアレル頻度
0.6
Responder (n=31)
アレル頻度
0.5
Arg16
Non-responder (n=15)
0.4
0.3
Gly49
Gly389
0.2
C-47
Glu27
0.1
0
Ser49Gly Arg389Gly
T-47C
Arg16Gly
Β2 AR
Β1 AR
−48−
Gln27Glu
49
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド50
アレル頻度
レスポンダー,ノンレスポンダーにおける
ACE, MnSOD, eNOS遺伝子多型のアレル頻度
0.6
Responder (n=31)
0.5
Non-responder (n=15)
0.4
D allele
Ala16
0.3
Asp289
0.2
0.1
0
MnSOD
Ala16Val
ACE
I /D
eNOS
Glu298Asp
50
いう遺伝子型の組み合わせの人ではノンレスポ
今年中、または来年早々には最終版が出るとい
ンダーになりやすい、また非常によく効くとい
うことは、皆さんご存じのとおりです。そこで
うようなことが言えるようなデータになるので
FDAが強く言っておりますこと、同時に絶対
はと期待しています。
しなければならないことがあります。
それは何かといいますと、遺伝子判定のディ
スライド51をご覧下さい。
バイスです。その遺伝子判定の機器を一緒に開
さて、我々が行おうとしているPGxは、決
発しなければ、そこにバリデーションが取れて
して遺伝病を調べているのではないということ
いなければ、それ以降のデータは信用ならんと
です。例えば、ハンチントン病ですと、遺伝子
いうことで、遺伝子多型判定をする機器のバリ
で100%のフェノタイプが説明される、すなわち
デーションが強く求められるところです。
発病が確定されます。統合失調症でもかなり遺
スライド53をご覧下さい。
伝子の関与があります。ところが、高脂血症で
は環境因子の影響も大きく関与しています。し
ヨーロッパでも同じような動きがあるようでし
かし、このPGxも当然、疾患感受性遺伝子と
て、日本でも今年6月にコメントを求めるよう
の絡みもあるでしょうが、今後、どのような方
な通知が出たことは皆さんご存じかと思いす。
向に行くのかというのは一つの議論の対象にな
ると思われます。PGxは疾患素因やリスク要因を
スライド54をご覧下さい。
調べるのではなく、患者個人はむしろ受益者は
先程の結核に関する臨床試験ですが、四つの
病院で、せっかくやるのであれば臨床試験のシ
であると思っているのですが・・・。
ステム、試験進行を管理する体制を作ろうとい
スライド52をご覧下さい。
うことで、試験管理ソフトを開発し、クローズ
そこでFDAが去年11月に、ガイダンスを出
ドの光ファイバー通信ネットを作っています。
すということでドラフトを出しまして、たぶん
このセキュリティーについては、阪大病院にあ
−49−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド51
我々は遺伝病を調べているのではない…
Heritability: The proportion of the disease that is due
to genetic factors
Huntington 病
統合失調症
遺 伝 子
リウマチ様
関節炎
環 境
高脂血症
0%
50%
100%
51
スライド52
Recent FDA/Industry Workshop
−50−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド53
PG Global Regulatory Developments
Europe
z Position Paper on PGtTerminology [EMEA/CHMP/3070/01,
Nov 2002]
z Concept Paper on PG Briefing Meetings [CHMP/4445/03 23
Jan 2003]
Japan
z Advice on genetic polymorphism testing – ELD Notification No.
796, 1 June 2001 and 813, 4 June 2001
z Invitation of Opinions/Information concerning “Submission of
Information to Regulatory Authorities for Preparation of
Guideline for the Use of Pharmacogenomics in Clinical Studies
(draft) June 2004
RA Salerno, PhD
53
Japanese Society of Clinical Pharmacology and Therapeutics
Shizuoka, Japan。
September 18, 2004
スライド54
ファーマコゲノミクス臨床試験システム
通信インフラを活用した治験情報の迅速な共有化、セキュリティーを
確保、試験の質向上と効率化、医師の負担軽減
大阪大学・臨床薬効解析学分野
イノベーションセンター
内遺伝子解析センター
遺伝子DB
治験D
B
M/C
PKIカード(大阪大学
附属病院)による認証と
暗号化により、不正ア
クセス、盗聴などから
セキュリティーを確保
PKIカード
関西電力グループ通信インフラ
IPIP-VPN(MPLSネット
VPN(MPLSネット
ワーク)
IP網
IP網
M/C
PKIカード
PKIカード
近畿中央胸部
疾患センター
端末から患者
治験情報入力
M/C
M/C
大阪府立呼吸器・
アレルギー医療センター
光ファイバー・高速ブ
ロードバンド閉鎖環境に
よる治験情報共有化、セ
キュリティー確保
M/C
PKIカード
国立病院機構
刀根山病院
−51−
PKIカード
(財)結核予防会
54
大阪府支部大阪病院
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド55
DNA自動検査装置GenelyzerTMの開発
55
55
/
スライド56
Drug Selection
個別化医療
患者A
A遺伝子
薬剤X
レスポンダー
B遺伝子
Class
of Drugs
匙加減 (質・量)
患者B
×
A遺伝子
B遺伝子
治癒
治療法
ゲノム解析
×
治癒
治療法
診断
Rationalize Dosing
薬剤Y
レスポンダー
りますPKIカードというものを利用させて頂
等のグループを作っておりますので、臨床治験
いています。このシステムでは、他から通信網
にも対応しようと思います。あくまでもPGx
に侵入できないので、試験の、当然遺伝子情報
が関与する試験と考えていますが・・・。
を交換しますので、セキュリティーを守れると
スライド55をご覧下さい。
考えています。
一方、この遺伝子判定というものをもっと簡
現在、我々が行っている研究ですが、一応、
大阪大学の生命倫理委員会の審査を受けまして、
単にできないかということで、東芝と一緒に研
心不全、COPD、うつ病などを対象に、主と
究を進行させていまして、ベッドサイドで、全
して大阪府下の医療施設の協力を得てやってい
血から遺伝子判定をするシステムを構築できな
るところです。また、このPGx臨床試験という
いかと考えています。そこで、今、NAT2、CYP2C19、
医薬品開発臨床試験につきましても、呼吸器、
CYP2D6、CYP 2C9判定の遺伝子多型判定装置を開
循環器、アレルギー、皮膚科、耳鼻科、小児科
発中です。
−52−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド56をご覧下さい。
にジェネティックに層別化をするという操作が
今後の医療については、個別化医療というこ
入ってきます。これは今後、社会からどのよう
とですが、一部の薬では選択段階からゲノム解
なコンセンサスが得られるのか。個人的には、
析、薬効ゲノム情報の応用というのがあり得る
PGxは患者さんのためになる情報で問題とは
だろうと思います。そして選択後に、さじ加減、
ならないと考えているのですが、まだ議論の余
用量を決定するという「質と量」についてPGx
地がないわけではないかとも思います。
ではどういう場合にPGxの対象になるかと
の概念が導入されるとようになると考えられま
いうことですが、例えば、安全性、有効性につ
す。
いてもそれを予測するのに、他にこれよりも勝
スライド57をご覧下さい。
る方法があるかどうか、もしあればそちらを使
ここで問題になりますのは、オーファン・ジ
うべきであろうと考えられます。安全性の確保
ェネティック・サブグループを作るという危険
も、遺伝子判定のみにより可能であるのか、こ
性です。これは危険なのかどうか分かりません
れも大きな要素です。また、有効性は特定の遺
が、とにかく疾患及び個人として医薬品選択時
伝子型の保有者に極めて特有なのか、他の要因
スライド57
“Orphan” genetic subgroups
有効性と安全性の予測について他の手法に対
する優位性は?
安全性の確保は遺伝子判定のみにより可能?
安全性の確保は遺伝子判定のみにより可能?
有効性は特定の遺伝子型の保有者に特有?
倫理面での問題点は?
個人への情報の還元は?
Genetic stratification of either patients
or diseases in order to target the
prescribing of medicine.
スライド58
臨床試験とDNA試料の保存
ファーマコゲノミクス用 DNA試料を、臨床試験で収集・保
存し、薬剤に対する反応性(薬効や副作用)を遺伝子型で
差別化することの意義が考えられるときに遡って解析する。
・必ずしも集めた試料の全てを解析しない。
・試料の収集から解析までに時間差が生じうる。
当初から遺伝子型を想定・限定し、試料採取後すぐに薬
物代謝酵素等の遺伝子型判定を行い、試料を廃棄すると、
臨床試験や市販後に薬効や副作用に関して新たな反応
が認められても、遺伝子多型ついての解析はできない。
−53−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド59
個人情報還元システムの構築
遺伝子解析
遺伝子データバンク
公知の情報
薬
遺伝子解析に
基づく
治験・診療
ム
ノ
ゲ ら
効 団か遺伝子情報センター
(個人認証)
集
大学、研究施設からの
新しい研究成果
情報の加工
バイオインフォマティクス
In vivo薬物動態・
薬物作用副作用の予測
In siloco 薬物応答性解析
薬
与
ム めに
ノ
ゲ 人のた 個別化適正与薬
特許取得
患者
(個人認証)
医師
薬剤師
知的資産の創成
血液採取
(個人認証)
創薬の効率化
光ファイバー
個
(与薬設計システム)
薬効ゲノム情報(株)
040324
スライド60
あなたには
この 薬のこの
量が最適です。
この医療、個の医療
がないのか、それを区別する必要があるかどうか
しも集めた試料のすべてを解析しない場合も起
もまた、検討課題であると思います。使用法によ
こってくるかと思います。また、副作用が出た
っては倫理的な問題もあるかも知れません。
場合、将来的に出る場合、そういった場合、試
料保存期間が3ヵ月、半年、1年ですと全く役
スライド58をご覧下さい。
に立たないことになります。こういうDNAバンキ
最後になりますが、医薬品開発臨床試験の場
ングについても、今後保存期間も含めて検討す
合、そのDNA試料をいつ取るかという大きな
るところはあると思われます。
問題が残っています。どの段階で取るか、必ず
−54−
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
スライド59をご覧下さい。
最終的には、こういう遺伝子情報は個人に返
さないと何の役にも立たないわけです。これら
の個人の遺伝子情報は、究極的には、患者さん
の薬の選択に役に立てて頂くことになるべきで
す。個人のDNA解析を更新しつつ、薬効ゲノム情
報を保存し、さらに医療情報とともに個人に還
元するシステムの構築が待たれるところです。
スライド60をご覧下さい。
そこで最後のスライドですが、あなたには「こ
の薬」、いろいろあるうちの「この薬」の「この
なさろうとしているのはその逆の手法を使って
量」がいいのであるという「この医療」という
おられるわけですね。要するにジェノミックス
のが、即ち「個の医療」であるというような結
といいますか、ゲノムの解析のほうからきた手
論で、私の話を終わらせて頂きます。
段をプロテオミクスに持っていく。すなわち、
どうもご静聴有難うございました。
網羅的にすべてを目指して全部プロファイリン
グしていきます。そしてこのタンパクはいった
総合討論
い何をしているのかということをあとで疾患と
か何かと結びつけていこうという、アプローチ
堀先生(座長)
それでは、総合討論に移らせ
だろうと思うのですが、これは海外も含めまし
て頂きます。各演者の先生方と
て、世界的に見てどのあたりまできているとい
フロアの方とのコミュニケー
うふうに考えればよろしいのでしょうか。
ションを図らせて頂こうと思
松尾先生
っております。
会場からの質問は、1問しか
ご指摘のとおり、今おっしゃった点がこれま
来ておりませんので、私のほうからいくつか話
でのタンパク科学とプロテオミクスの大きな違
題を投げかけさせて頂きます。もちろんフロア
いであることは確かです。とにかく網羅的にク
の方から随時お手を挙げて頂けましたら発言し
ロマトグラフィーと、それから質量分析で一応
て頂けますので、よろしくお願いしたいと思い
の分類分けをしてしまおう。疾患とどう関連し
ます。
ているのかは、まず患者と健常人とのスペクト
また、今日はいくつかの側面からご議論頂きま
ルの差を見つけてからというスタンスですね。
これだけでも大変な作業ですが、疾患関連の
したけれども、まず順番に松尾先生からもう一度
たんぱく質を見つけ出すことが、最も困難なス
振り返りながらお話を伺いたいと思います。
もちろんタンパクは機能を持っているわけで、
テップといえるでしょう。それで、現場の臨床
疾患とタンパクの関連というのは極めて深いわ
の先生方の診断に基づいて頂いたティピカルな
けですが、従来のタンパク科学というのは、い
症例について、健常人との比較を行う、そこに
わば疾患とか病態の中からそれに関与するタン
しかよりどころがないといえると思います。
パクを見つけ出してきて、それを抽出して解析
それが一番の問題でして、網羅的ということ
します。逆にいうと、異常な機能がまずあって、
は、ある意味では片っ端からやっていくのだと
何のタンパクがそれをしているのかということ
いうことであって、一つの狙いが非常に定めに
を解析して、それを同定して、その遺伝子解析
くいのです。そこが一番我々も悩んでいるとこ
をしてと、こういう順番でクラッシックなタン
ろです。
パク科学がきていたと思うのですが、今先生が
−55−
現場の先生方の診断に依存することで、非常
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
に有効なフォーカスが当てられるものがあれば、
ば、我々のこれから先の分野として意識しなけ
これは非常にラッキーだと思います。ところが、
ればならないだろうと。このようなことです。
また逆にいえば、非常に判定が難しいケースに
ついては、我々の分析結果が診断に役立つよう
堀先生
に期待されます。そのためには、実験誤差を越
分かりました。もう一つのストラテジーは、
えて確実に違いを決定できる方法を確立せねば
例えば、製薬メーカーから考えると、一番薬に
なりません。今は、その段階だと思います。
なりやすいのはリセプターだと思います。その
それで、世界的なレベルでこれはなかなか情
リセプターがすべて分かっているわけでもない
報が出てきませんが、最新のジャーナルに出て
ので、そういうものからやっていくというやり
いるものでも、例えば、血清中のタンパクの定
方もあるし、それからやっぱり膜タンパクでい
量はできないけれど同定は1,400個まで行った。
こうという考え方、或いは場合によっては核内
そういうデータはあります。
のものを集中的に何かプロファイリングできな
ところが、今度は分離、同定は出来ても、定
量的な結果という段階になると問題も多いので
いかというような、そういうやり方も一つのや
り方としてはあり得るのかなと思います。
す。どのグループも恐らく今ご指摘の問題のと
ころで足踏みをしているのではないかと思われ
松尾先生
この方法はもうフォーカスをしぼったプロテ
ます。
オーム解析としては当然のものです。それで、
まだリガンドのはっきり決まっていないオーフ
堀先生
今、松尾先生がご指摘になりましたお話で、
ァンリセプターがまだ数百は残っているといわ
仮に100万のタンパクがあるとして、今そのうち
れています。そしたら、これで解析をするため
の既知のタンパクというのはごくわずかです。
にも、私どもはペプチドーム的手法を取り入れ
そうすると、むしろほとんど分かっていないも
ることが必要であろうと思います。
のが多くて、それをどう攻めていくかというと
しかし、今正面から狙っている我々のプロジ
きのストラテジーですが、松尾先生は取りあえ
ェクトは、少なくともまず血清で網羅的に進め
ず小さいペプチドを一つの狙いどころにしてい
る基盤をつくっていくのだと。これは世界的に
るということですね。
はまだできていないことですから。
松尾先生
堀先生
いえ、最初のペプチドームのことに時間を費
そういう意味では、血清のプロファイリング
やしすぎたので、それを今のプロジェクトでや
がまだ十分できていないので、これは一番やら
るかのごとくに印象を与えたかも知れません。
なければいけないし、比較的手をつけやすいサ
むしろ今の得体の知れないタンパクが100万種
ンプルがあるということですね。
類あるとします。それをどうやって料理するか
というのが一番の問題です。血清では、高濃度
松尾先生
のたんぱく質と極端に低濃度のたんぱくの混合
そうですね、血清を頂くというと、これだっ
物をどのようにして計測するか、そして疾患に
てプラズマをやるべきか、血清をやるべきかに
特異的なものを選び出すかが一番の問題です。
ついてはいろいろな議論があると思うのです。
それで、ペプチドームの話は、少なくとも分
けれども実際の問題として、血清でいかざるを
子量1万以下のペプチドに関する限り、生体内
得ない。しかも血清のティピカルな症例をナシ
に存在するあるがままの姿のペプタイドを見る
ョナルセンター、府立成人病センター、阪大に
ことができる方法を示していると思います。こ
協力頂いています。そこである程度選んで頂い
れは、まだ動物でしかやっていないとするなら
たものの中できっかけを見つけないといけな
−56−
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会報(平成17年3月・第674号)
い。そうすると単なる網羅ということではなく
成するような、そういうふうな流れをプロジェ
て、最初は必ずフォーカスを当てながらその周
クトとしてお考えというふうに考えてよろしい
辺を解析して、結果的に網羅するような仕組み
でしょうか。
づくりをつくりたいと思います。
松田先生
できましたら、そういう形でいろいろな企業
堀先生
よく分かります。何というか、そのプロセス
とか、或いは各研究機関とか、いろいろなとこ
の中でやっぱり果実も少し得ていかないと、風
ろが持っていますものを疾患モデルとして、情
呂敷を広げているだけではいかんという、そう
報も含めて、個体も含めて何らかの形で集め、デ
いう姿勢でやっていこうということですね。
ータベース化も含めてできればと思っています。
次に、松田先生にお訊ねします。今度疾患動
物モデルということで、これもどこから手をつ
堀先生
けていいかということですが、松田先生は事例
そのときに、ちょっと細かいことになるかも
を最初に挙げられました。ある意味でデータベ
分かりませんが、いわゆる特許の問題などが絡
ース的に疾患モデル動物というものを扱う場合
んでくるような気がするのですが、そのあたり
に、先生が今なさろうとしているスタンスとい
は何か施策といいますか、切り抜ける方法を考
うのは、そういうデータベース的なものをつくっ
えておられますか。
ていって、我々が何か、或いは製薬メーカーがア
プローチしたいときに、ここにこういうものがあ
松田先生
ります。これはいつでもこういう形で使えますよ
今そういう話は推進会議も含めまして、いろ
というようなものを提供して頂けるようなものを
いろ準備会のほうでこれからどういう形でやっ
まず構築しようというお考えでしょうか。
ていくかというのは詰めていかなければならな
い点だと思います。今まで割と私たちのところ
は国立の研究機関の感染研でやっておりました
松田先生
できるだけそういう形でデータベース化して
ので、科学者間の間で分与願いというような形
いって、皆さんがご利用できるような形でと思
でした。実際、感染研の場合ですと、無償分与
っています。私たちが今までやってきたことも
という形だったのですが、そういうのも今度独
ありますし、それからまた時代のニーズに応じ
立行政法人になりますし、そういった特許がら
て収集したり、或いは新しくつくったり、そう
みの問題もきちんと詰めて皆さんが参加して頂
いったもので、どういうものを新しくつくって
けるような形で、共同研究というような形でも
いくかを含めまして、いろいろと皆さんから知
けっこうですし、いろいろと形をつくっていか
恵を拝借したり、或いは共同研究というような
なければならないと思っています。
形で新しいものをつくっていきたいと思ってい
ます。そのときに必要なものをすぐ対応してで
堀先生
何かこの疾患モデルについてフロアの方から
きるような体制も含めて、データベースも含め
ご質問はございませんでしょうか。或いは、今
まして対応していければと思っております。
やっておられることで若干 困 っ て お ら れ る こ
と、或いは基盤研に何か要望したいというよう
堀先生
研究室にそれぞれのモデルをお持ちのところ
な、そういうご意見がありますでしょうか。ま
はずいぶんありますし、また、製薬メーカーさ
た途中でもけっこうですので、ありましたらお
んもそれぞれの薬の開発で、例えば、糖尿病一
伺いしたいと思います。
つ取り上げてもいろいろなモデルをお持ちでや
それではバイオインフォマティクスのことで、
こ
っておられると思うのですが、それを何か集大
れはかなり幅が広くて、バイオインフォマティ
−57−
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会報(平成17年3月・第674号)
クスという言葉がどちらかというと一人歩きし
けですが、欧米の場合には微生物を修士課程ま
ているといいますか、言葉のほうが実態よりも
でやっていて、そのあとバイオインフォマティ
前に行っているような気もすることがあります。
クスに来たとか、極端な場合は経済学者がバイ
いくつかのご指摘にもなりましたが、バイオイ
オインフォマティクスをやっている場合もある
ンフォマティクスの中でそれが狙っているもの、
のですけれども、もう少し分子生物学の人たち
ゴールにしているものはいくつかあると思いま
が入ってきて協力できるような体制が必要だろ
す。それで、もう一度ちょっと整理をして頂き
うなと思います。
たいということと、それと我が国がこれはかな
今のバイオインフォマティクスの課題って何
り大きなプロジェクトといいますか、個人の問
なんだろうといったら、やはり一つの絵で示し
題ではなくて、体制的にそれなりの狙いをつけ
ましたゲノムなり、トランスクリプトームなり、
てやっていかなければいけないような問題だと
プロテオームなり、メタボロームなりのデータ
思うのですが、我が国が得意としていること、
が本当に取れる状況になってきたときに、それ
或いは逆に非常にまずいといいますか、遅れて
らをまとめて階層横断的な形で新しい知識を取
いるのだというようなことがもしあれば教えて
り出すというのが本当に必要だろうなと。トラ
頂きたいと思います。
ンスクリプトームだけで止まっていてもダメで、
プロテオームだけで止まっていてもダメで、ゲ
ノムだけで止まっていてもダメだ。それを横断
江口先生
バイオインフォマティクスは単独で動いてい
的な情報を提供できるような組織というのが必
く学問ではないなと内心思っています。情報処
要だろうなと。恐らくトランスクリプトームの
理というのと生物学がある面でジョイントした、
解析をしている人で、がんの分子診断なんかが
東大の教育ではダブルメジャーという言い方を
論文の中に非常にたくさん出てくるわけですけ
されて教育をやられていますけれども、まさに
れども、やはりそういった中でゲノムの問題な
その生物学の研究者とのアライアンスのもとに
り、プロテオームの問題なりが本当に重層的に
生まれてくるものだろうなと思います。
解析できるような、そういう研究機関というか、
強みは何ですかというと、生物学の先生方は
今恐らく大量のデータで悩まれている。その大
研究グループというのが私は必要だろうなと思
っています。
量のデータの中からどれだけ意味のあるデータ
を取り出すか。そこについては情報なり、数学
堀先生
的な手法が生きます。昔、私の隣の研究室で酵
海外の場合はよく知りませんが、我が国の場
素反応のVmaxとかKm値を求める実験をしていた
合は、まずそういうバイオインフォマティクス
のですが、7点か8点ほどの実験データを取っ
のエキスパートといわれる人たちが非常に少な
てきて、定規で線をパーッと引いて傾きから求
い。多くの場合は、工学部の情報科というよう
めたりしていました。その程度だったらほとん
な方がバイオを少しやってみようということで
ど意味がないのですけれども、今のような大量
参入してこられるというケースです。これも非
のデータが取れるような状況になってきたと
常にウエルカムですが、そういうケースが多く
きには、本当にそこから意味のあるデータを取
て、むしろ私ども医療側は比較的冷たいという
り出すのにはITなり、数学的な知識を持った
か、我々がやることではないよと、だれかやっ
IT技術者は必要ですよと。そういったところ
てくれればいいと思っています。
例えば、セレラのデータベースでも、確かに
が本当にもう少し強調されないといけないなと
解析した人もすごいと思うのですけれども、あ
思います。
日本の場合には、どうしてもITというか情
れをデータベース化して提供するというのはそ
報処理をやっていた人がバイオインフォマティ
んなに単純ではなくて、データベースの構築も
クスに入ってきているという面が非常に多いわ
実はやっぱりプロがすごくやっていると思いま
−58−
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会報(平成17年3月・第674号)
す。そういうことに対して我々はあまりアプリ
てくると思っています。
ー シ エ イ ト し な い で 使 わせて も ら う だけで 、
「これは便利が悪い」とか何とかいって、文句
堀先生
有難うございます。
だけいっているようなと こ ろが ある と 思 いま
す。それをやっぱりバイオインフォマティクス
次に東先生にお訊ねします。先生のお話は
を単にサービス業ではなくて、それもサイエン
我々医療側からすると非常に分かりやすいとい
スとして位置づけるのは、やっぱり我々のやら
いますか、実際のニーズに即して本当にあるお
なければいけない分野ではないかなというよう
薬がこの人に効くのかどうか、レスポンダー、
に感じておりますが、その人材の育成というこ
ノンレスポンダーという言葉で表されますが、
とはどのようにお考えになりますか。何が必要
今その中で皆さんがまず代謝酵素のSNPs、或い
で現状は何が悪いのかということですが。
は機能解析というところから入っておられて、
それはそれでいいと思います。
みんなの頭の中にあるのは「血中濃度=ファ
江口先生
前半のところで一つだけ伝えておかないと誤
ンクションを反映している」という前提がある
解があると思うのですが、セレラなり、国際的
のです。それが、恐らくだいたいは正しいでし
なコンソーシアムがヒトゲノムのシークエンス
ょうが、そんなに簡単かなという気もしまして、
を終わりました。遺伝子は2万なり、その前後
そこの前提が崩れると代謝酵素のスニップスだ
です。あれはバイオインフォマティクスが決め
けですべてが解明できると思うと、ちょっと間
ているのです。一つひとつの遺伝子を本当に遺
違ってしまう可能性もあるなというふうにも思
伝子領域の予測のプログラムなり、ホモロジー
うのですが、どうでしょうか。
サーチなり、大量のデータ処理のもとに提供し、
いったん2万なり3万なりというヒトの遺伝子
東先生
の数を皆さんにお出しします。最終的には一つ
まさに堀先生のおっしゃるとおりだと思いま
ひとつバリデートされる必要はありますが、そ
す。逆な面から見ますと、代謝酵素が学問とし
ういったものを皆さんに提供したというのはバ
ての研究の対象から、完全に臨床応用の時代に
イオインフォマティクスだというところはご理
なったということがまずあるかと思います。
解頂きたい。あの論文を読まれると、本当に遺
血中濃度と薬効との問題ですが、まず、密接
伝子をどうして同定したかというところが大量
な関係があるとの前提の話しをしましたが、同
に書かれています。そこの苦しみ、ぜひそこは
じ血中濃度で効く人と効かない人とがいる。そ
ご理解頂きたいと思います。
れは恐らくレセプターなどの問題でしょうし、
バイオインフォマティクスをどのように教育
また、脳内に取り込むという薬物排出タンパク、
していくかという問題につきましては、今、東
トランスポーターの多型も最近いわれています
大、京大、慶応大、いろいろなところでなされ
ので、少なくとも薬物動態はもう応用の時代で
ています。私自身はあと4、5年はかかると思
あるということです。これからは薬物濃度と合
っています。バイオインフォマティクス教育は、
わない現象を検討していくのがおもしろいので
大学院において出てきております。それは私は
はないかと思っています。医薬品開発では、薬
非常に明るい話題だなと思います。特に、今、
物代謝酵素を含むトランスポーターなどの薬物
日本バイオインフォマティクス学会でバイオイ
動態面もまだ完全には明確になっていないよう
ンフォマティクス事典というのを編纂している
で、医薬品開発でしばらくはこれが中心になる
のですけれども、本当に若い人が数百人ぐらい
だろうと考えられます。
参加してきてくれています。そういった人たち
が本当に強力に皆さんの実験している方々と協
堀先生
力していく。あと4、5年経つと日本も変わっ
−59−
実際今おっしゃったように、リセプターのア
大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
フィニティーも個人によって違うでしょうし、
というのは本当に必要だと思います。そこで必
病態によっても発現が全然違うということをい
要なのが、今までの開発臨床試験では効く人た
ろいろな実験を通して、或いは病態解析を通し
ちが必要であったわけで、効かない人というの
てやっているわけです。そうすると、受け皿の
はどちらかというと無視されたわけです。そこ
ほうはどんどん個体差を持って変わっているの
にある違いというものが、それが個人差そのも
に、血中濃度だけでずっと議論をしていていい
のであると思います。重要な研究といいますか、
のかなというのは平生から感じています。もち
個別化医療への原点であると思いますので、メ
ろん代謝酵素がいちばん大きな要因であろうこ
ガトライアルは必要です。その有効率が9割の
とは間違いないだろうと思います。何か間違っ
薬がいいのか、4割のものが悪いのか、そこは
て理解した前提に乗っかっていると恐いなとい
見極めが重要だと思います。4割のダメな人が
う気もしてちょっとお聞きしたのですが。
おられるわけですから、メガトライアルで、こ
の薬で効く割合、また別な薬で効く割合、そこ
にオーバーラップがあるのかないのか、そうい
東先生
おっしゃるとおりです。実は明日から薬物動
うことを集団としてではなくて、個人個人のデ
態学会があるのですが、そこでそういう議論を
ータとして取り上げていき、調べていく。それ
するのがいいのかという問題提起もあるかと思
こそインフォマティックスですか、そういうい
います。やはり個人が反応するというのは薬物
ろいろな手法を使って、より極め細かに薬効を
動態だけで説明がつくはずがないので、まず基
区別するということが必要ではないかと思いま
本に薬物動態があって、その次にやはり応答分
す。
子の遺伝子多型というものが関わってくると思
いますので、基本は薬物動態であるということ
堀先生
今の点について個人的につけ加えますと、要
はいつまでも変わりはないと思います。
するにコレステロールが下がるか下がらないか
というような、非常に目の前のエンドポイント
堀先生
私もその点は賛成でございます。
でやる場合には個別の判定でいいと思います。
今の東先生のお話に関係して、最適治療への
ところが今メガトライアルでやっているのは、
アプローチで質問が来ております。「EBM、E
そういう治療をしたときに延命効果があるかと
BM」と叫ばれていますけれども、それにはメ
か、或いは心梗塞が起こらないか、脳梗塞が起
ガトライアルの結果を意味しているわけです。
こらないかというような非常に長期のエンドポ
しかしながら、本質的に我々が求めているのは
イントを設定しているものですから個別の評価
個人の最適治療の確立であろうと。それで、今
が非常に難しいです。ですから、ある薬を飲ん
目指しているところが最適治療であるとする
だら血糖が下がるかどうかというのだったら、
と、一方でメガトライアルを中心としたEBM
それはもう極めて個別の評価をすればいいので
というのは目指しているものが違うのではない
あって、別にメガトライアルをする必要は全然
かとの疑問が生じてきます。それで、今後新薬
ないと思います。
の開発において臨床試験、治験のモデルはどの
ように展開していったらいいのでしょうかとい
東先生
うご質問です。これは少し東先生の論点と少し
そこでちょっと話をしたいのは、遺伝子とい
違うかも分かりませんけれども、一番造詣が深
いますか、検体をいつまで保存しておくかとい
いのでお聞きしたいと思います。
うことが非常に問題になってくると思います。
亡くなるまで保存させて頂いていいのか。それを
データとして保存しておいて、10年後、20年後に
東先生
個人的な見解ですけれども、メガトライアル
解析するということが許されるのか。そういう観
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大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
点もこれから議論するべきだと思いますし、そ
堀先生
よく分かりました、有難うございました。
うしますとロングタームのメガトライアルの結
それでは特にご意見もないようでございますの
論もまたそこから出てくるかと思うのです。
で、これで総合討論を終わらせて頂きたいと思いま
す。演者の先生方、どうも有難うございました。
堀先生
そのとおりです。ロングタームのものを見よ
総
うと思えば、それは保存していくのにこしたこ
括
とはないのですが、それを使わせて頂けるかど
うかという、そういう倫理的な問題が別にあり
大阪大学大学院
ます。こういうことであろうかと思います。
医学系研究科長
時間も限られておりますので、本日のプログ
やま
山
ラムはこの創薬基盤研のファンクションを中心
にし
西
こう
弘
いち
一
に、それぞれエキスパートの先生にお話を頂き
ました。こういうふうなものを基盤研として促
大阪大学医学部長の山西です。総括といわれ
進していく一つの原動力といいますか、そうい
ているのですが、私なりに今後どういうふうに
うものとしてご理解を頂ければということで、
していったらいいか、少し考えを述べさせて頂
今日のシンポジウムを企画されたのだろうとい
きます。
私は専門が感染症でありまして、今から200年
うように理解しております。
十分な時間もなくて不消化に終わったことも
ほど前に天然痘のワクチンができました。それ
あろうかと思います。最後に、フロアの方々か
から、第二次大戦終了前にはペニシリンができ
らご質問、或いはコメントがございましたらお
ました。これもすべて経験及び観察から出てき
受けしたいと思いますが、よろしゅうございま
た薬剤だと思っています。現在になりますとそ
すでしょうか。
の経験からできた薬からゲノムが分かって、先
程も言われましたように、3万ぐらいのヒトの
遺伝子が分かり、100万以上のタンパクがまただ
松尾先生
んだんと分かりつつありますので、サイエンス
ちょっと一つだけ。
の時代に入ったということがいえるのではない
か思います。
堀先生
松尾先生には、このタンパクの解析から新し
はい、どうぞ。
い創薬につながるものが見つかるというように
期待を述べて頂いたのですが、ぜひこの機会に
松尾先生
今、堀先生がおっしゃった基盤研が今度新し
くできます。そういうことを視野においての本
何か創薬につながるようなタンパクが見つかれ
ばと思っております。
日のプログラムだと思うのですが、私どものプ
松田先生からは、これはすべてベーシックな
ロテオームプロジェクト、これは5年の時限で
ところで必要だと思いますが、疾患モデルは非
スタートしております。5年でとても終わるよ
常に重要でありまして、先程の質問で、全ての
うな代物ではないと思いますが、5年の間に何
疾患に網羅的なものを集めるのかというような
らかの結果を出したい。ただ、我々は国のプロ
質問がありましたが、これはなかなか難しい問
ジェクトではあるのですが、基盤研の中にプロ
題ですけれども、できる限り皆さんのお役に立
テオームの部門もあるやに聞いております。
つような疾患モデルをそこでコレクションし、
我々のところのデータとがうまくつながってい
また、開発することのお話がありました。ぜひ
って、伸ばして頂ければというようなところで
これからもそのようにお願いしたいと思います
考えております。
し、それを使って薬につながるような話もされ
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大阪医薬品協会
会報(平成17年3月・第674号)
ましたけれども、これも研究としてやって頂け
めていくべきと思っておりますし、是非お願い
たらなと思っております。
したいと思っています。
江口先生からは、基本的な問題が出まして、
最後に、先程ご紹介頂きましたように、私は
バイオインフォマティクスの話をして頂きまし
平成17年4月からこの基盤研を皆さんと一緒に
て、今までの情報処理に、今後エビデンスをど
やっていくことになるのですが、本日のシンポ
んどん積み上げていく必要があると思います。
ジウムでは、基盤研はどんなことをやったらい
残念ながら研究者というのは非常に少なくて、
いかというようなお話をして頂いたと思ってお
これから育成していく必要があるということで
ります。このうちすべてをやるということはな
して、ぜひこれは、私は医学ですが、情報の関係、
かなか難しいことだと思いますが、この基盤研
医学の関係と相まって、育成をしていく必要があ
の成り立ちが大学での基礎研究から企業でやる
るのだろうというように思っております。
応用研究のブリッジをつくるというのを基本構
東先生からは、個体とレスポンダーの話があ
想にしておりますので、大学の先生方との共同
りましたが、いわゆるマスに対する薬から個々
研究、それから企業の方との共同研究をやって、
に対する薬、それからレスポンダー・ノンレス
新しい創薬につながるような研究ができればと
ポンダーの話がありました。今後副作用の問題
思っております。いわゆる産・官・学の連携と
も含めまして重要なお話を非常に興味よく聞か
いうのはこれからますます重要になっておりま
せて頂けたと思っております。
すので、是非今後とも皆さんのご協力でこの基
このような遺伝子だけを調べていく過程で個
盤研を大阪の地に花咲かせていきたいと思って
人情報というのは非常に重要な問題になってき
おります。今後ともご協力をよろしくお願いい
ます。これはすべてに共通しますけれども、個
たします。
人情報をきちんと担保して、これから研究を進
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どうも有難うございました。
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