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0.5MB - 高知工科大学

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0.5MB - 高知工科大学
平成 26 年度
学士学位論文
複数のセンシング情報を用いた
災害時避難誘導システム
Proposal of disaster evacuation guidance system
using multiple sensing information
1150329
冨田 涼太
指導教員
植田 和憲
2015 年 2 月 27 日
高知工科大学 情報学群
要 旨
複数のセンシング情報を用いた
災害時避難誘導システム
冨田 涼太
地下鉄や商業施設など屋内での災害が発生した際はあらかじめ定められた避難経路にした
がって避難誘導を行うことがあるが, 災害状況によっては定められた通路が使用できなくな
るといった問題がある.
現在はセンサネットワークを用いた避難誘導システムが提案されているが, 提案されてい
るシステムの多くは1つのセンシング情報のみに着目し避難誘導を行っている. 避難者を安
全かつ確実に避難させるためには複数のセンシング情報を考慮する必要がある, 本研究では
センサを用いた災害時の避難誘導について複数のセンシング情報を考慮したシステムを提案
した. また提案システムの動作検証として, 仮想の災害を想定し避難経路生成を行った. 結
果として, 炎と煙を回避した避難経路を生成したことを確認した.
キーワード
WSN,避難誘導システム,火災
–i–
Abstract
Proposal of disaster evacuation guidance system
using multiple sensing information
When a disaster occurs at commercial facilities such as subway, we usually take
refuge in predetermined evacuation routes. However, it is difficult to determine evacuation routes in advance, because the evacuation routes depend on disaster situations.
Recently, evacuation systems using a sensor have been proposed, but these systems
have often focused on only one type of sensing information. To indicate safe evacuation
routes, it is necessary to consider multiple sensing information. In this paper, we propose
a disaster evacuation guidance system considering multiple sensing information. As the
operation verification of the proposed system, we generated the evacuation route on a
virtual disaster. As a result, we have confirmed that system generated the evacuation
route that avoids fire and smoke.
key words
WSN, Evacuation system, fire
– ii –
目次
第1章
はじめに
1
第2章
センサネットワーク
2
センサネットワークを構成する要素 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.1.1
センサデバイス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.1.2
ネットワーク . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.1.3
センサデータ処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
2.1
第3章
関連研究
7
3.1
複数のセンシング技術を活用した非接触ユーザインターフェース
. . . . .
7
3.2
自律分散協調による避難誘導システムの開発 . . . . . . . . . . . . . . . .
8
複数センシング情報を用いた避難誘導システム
9
4.1
システム概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
4.2
センサデバイス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
4.3
センシングデータ処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
4.4
避難経路生成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
12
第5章
炎・煙を回避する避難経路生成機能の確認
14
第6章
まとめ
16
第4章
謝辞
17
参考文献
18
– iii –
図目次
2.1
センサネットワークの構成例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
2.2
センサネットワークを構成する要素 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.3
ZigBee のアーキテクチャモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
4.1
システムの概念図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
4.2
標準火災曲線
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
11
4.3
避難経路生成方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
13
5.1
想定する災害状況 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
15
5.2
避難経路生成結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
15
– iv –
表目次
2.1
センサネットワークで用いられる主な無線通信方式 . . . . . . . . . . . . .
4
4.1
一酸化炭素の人体への影響 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
12
–v–
第1章
はじめに
地下鉄や商業施設など屋内での災害が発生した際に, 被災者は急いで建物内から安全な場
所へと避難しようとする. しかし災害状況は時間と共に変化し, 所定の避難経路等が使用で
きなくなるといった問題が発生する [1]. また被災者は災害状況の変化を逐一把握すること
は困難である. 日本における災害, 特に火災での被害件数は平成 24 年で 44,189 件, 25 年で
48,028 件となっており, その内平成 24 年で 25,583 件, 25 年で 25,015 件が建物火災となっ
ている [2]. また 平成 25 年の建物火災における放火自殺等を除く死者は 1131 人にのぼり,
内 625 人が逃げ遅れが原因で亡くなっている. 逃げ遅れが発生する原因としては火災発生の
把握が遅れ避難開始が遅れてしまう, 火災状況の変化により所定の避難経路は使用できなく
なり避難が遅れてしまうことが考えられる. これらの問題を解決する方法としてセンサネッ
トワークを用いた避難誘導システムが提案されている.
センサネットワークとは無線通信機能を搭載した多数のセンサを相互に接続されたネット
ワークのことである. センサネットワークを用いることで人間では気づくことのできない災
害の発生を把握することができ, また避難中の災害状況の変化も逐一把握し柔軟な避難誘導
を行うことが可能となる. しかし現在提案されているシステムの多くは 1 種類のセンシング
情報のみに着目し避難誘導を行っているものが多い. 例えば災害検知には炎と煙を用いてい
るが, 避難誘導時の避難経路生成には炎のみを用いているなどである. 災害時の避難では特
定の要素ではなく複数の要素が同時に避難者に関ってくるため, 避難者に対してより安全な
避難誘導を行うには複数の要素を考慮する必要がある.
本研究ではセンサネットワークを用いた災害時の避難誘導について複数のセンシング情報
を考慮したシステムを提案する.
–1–
第2章
センサネットワーク
近年, 無線技術を応用したセンサネットワーク技術が発展しており, 交通システムや設備
管理, 防犯・防災, 医療・福祉など幅広い範囲での活用が検討されている. 図 2.1 はセンサ
ネットワークの構成例である. センサネットワークとは多数のセンサが相互に接続され, そ
れらが人やモノ, 環境等様々な情報を収集し, 利活用することを可能とするためのシステム,
またはその通信路としてのネットワークを指す. センサネットワークの初期の研究として,
カリフォルニア大学校で 1990 年代後半に研究プロジェクトとして実施されたスマートダス
トプロジェクトがある [3]. 日本でも 2008 年に ユビキタス・センサネットワーク研究専門
委員会が設立されユビキタス・センサネットワークの実現に必要な理論と技術の確立を目指
して様々な研究が行われている [4]. 国内外におけるセンサネットワークの研究動向を比較す
ると, 米国では, 軍事主導で広域向けのアプリケーションが多く, 環境モニタリングや軍事目
的に関係する研究が多く, 欧州では屋内での利用を目的とした比較的狭域向けのアプリケー
ション研究や小規模な個別実験プロジェクトが多い. 日本ではホームセキュリティやビル管
理などのアプリケーション研究が多く, また欧州に比べ要素技術研究が盛んに行われている.
䝅䞁䜽
䝴䞊䝄
䝉䞁䝃䝕䝞䜲䝇
図 2.1
䝃䞊䝞
センサネットワークの構成例
–2–
2.1 センサネットワークを構成する要素
2.1
センサネットワークを構成する要素
センサネットワークを構成する要素技術には, センサデバイス, ネットワーク, センサデー
タ処理がある (図 2.2).
┬㟁ຊ໬
᫬้ྠᮇ䞉఩⨨ྠᐃ
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䝉䞁䝅䞁䜾䝕䞊䝍ฎ⌮
䝕䞊䝍⟶⌮䞉䝬䜲䝙䞁䜾
䝉䞁䝃䝕䝞䜲䝇
䝛䝑䝖䝽䞊䜽
䝕䞊䝍ฎ⌮
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図 2.2 センサネットワークを構成する要素
2.1.1
センサデバイス
センサネットワークで用いられるセンサデバイスはセンシング機能に加え, 無線通信機能,
簡易な演算機能とメモリを備えている. センサデバイスに無線通信機能を備えることで, 敷
設時に配線等が不要になり, 設置コストを抑えると共に設置の制限が軽減され広域センシン
グが必要となる分野に応用することが可能になる. センサデバイスは電源にバッテリー等を
用いて単独で動作させ, 外部からの電源供給を行わないことが多い. そのためセンサデバイ
スは消費電力を出来る限り抑えることでセンサネットワーク全体の動作寿命を伸ばす試みが
されている. 例としては太陽電池や風力発電等を用いたセンサ自身による電力供給, 省電力
通信プロトコルを用いて省電力化などは挙げられる.
2.1.2
ネットワーク
センサネットワークではセンサデバイス間での通信はバケツリレー方式で取得データを転
送するマルチホップ・アドホックネットワークで行われる. センサネットワークに用いられ
–3–
2.1 センサネットワークを構成する要素
る無線通信方式は ZigBee Alliance で規格化された近距離通信方式の ZigBee が用いられる
ことが多い. その他の無線通信方式には図 2.1 がある. ZigBee は大容量のデータ伝送を行
わず, 低消費電力, 低コストを目的に規格化されたものである. そのほかの通信方式と比べ
ると電池寿命が大きく勝っていることが分かる. ZigBee のアーキテクチャモデルは図 2.3
ような構成となっている. 物理層と MAC 層は IEEE802.15.4 によって規格化されており,
ネットワーク層, アプリケーションサポート副層, セキュリティは ZigBee によって規格化さ
れている. IEEE802.15.4 では主に 868 MHz 帯, 915 MHz, 2.4GHz 帯の 3 つの周波数帯域
が用いられる. 868 MHz 帯は欧州で, 915 MHz 帯は 米国で, 2.4 GHz 帯は全世界でそれぞ
れ用いられている.
表 2.1 センサネットワークで用いられる主な無線通信方式
特徴
ZigBee
Bluetooth
IEEE 802.11b
電池寿命
数年
数日
数時間
接続可能デバイス数
64000
7
32
接続遅延時間
30 ms
10 s
3s
通信距離
30 - 100 m
10 m
100 - 300 m
伝送速度
250 kbps
1 Mbps
11 Mbps
䝉䜻䝳䝸
䝔䜱
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䜰䝥䝸䜿䞊䝅䝵䞁
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ŝŐĞĞ
/ϴϬϮ͘ϭϱ͘ϰ
図 2.3 ZigBee のアーキテクチャモデル
–4–
2.1 センサネットワークを構成する要素
2.1.3
センサデータ処理
センサネットワークはさまざまな分野での活用が検討されている. 活用する分野によっ
てセンシングするデータの取得処理は以下の 3 種類を考えることが出来る.
• イベント通報型
• リアルタイム処理型
• バッチ処理型
イベント通報型とは, なんらかのイベントをセンシング対象として捉えるデータ取得であ
る. この方法をとる場合は特定のイベントに対して, なんらかの処理を行うといった形式を
とることが出来る. 例えば, エレベータで ”積載量限界を超えた” というイベントに対し, ”
アラームを鳴らす” という処理を行うなどである. イベント通報型ではイベントデータその
ものに対しての処理は存在しない.
リアルタイム処理型とは, あるセンシングデータに対して, リアルタイムにデータの処理
を行うものである. データの処理には単一のデータを特定の関数に当てはめるものや, 複数
地点のデータから特定の値を計算するもの, あるいは過去のデータを使いデータの変化を予
測する, など様々な処理が考えられる.
バッチ処理型とは, センシングしたデータを一旦, データベースに集約し, データベースか
らデータを読み出し解析処理を行うものである. バッチ処理型は従来のデータ処理をシステ
ム上の構成は変わらない.
これらのデータ取得処理は 1 つのシステム上で排他的な処理ではなく, それぞれの処理を
組み合わせ応用することも出来る.
システムによってはセンシングデータをセンサの位置やセンシング時刻を用いて検索, 活
用する場合がある. そうした場合それらの値で検索を行えるデータベースの構造が必要にな
る. しかしすべてのセンシングデータをデータベースに保持し続けると, データ量が膨大に
なり, 専用の記憶装置等を用いなければ処理の速度などに問題が発生する可能性がある. そ
–5–
2.1 センサネットワークを構成する要素
のため以下のようなデータ処理方式が提案されている.
• ストリームデータ処理
• イベントアクション処理
ストリームデータ処理とは, 取得したセンシングデータに対して, ある時間範囲のデータ
のみを保持して計算, 出力を行う処理方法である. 例えば, 連続するデータの平均値を求め
る, 時間変化率を求める, といった処理がある.
ストリームデータ処理がデータ列に対する処理であるのに対して, イベントアクション
処理は単一のデータ (イベント) に対する処理方法である. イベントアクション処理では, あ
るイベントに対して特定の処理を行う. イベントアクション処理は離散的なデータを扱う場
合に用いることが多い.
–6–
第3章
関連研究
本章では関連研究としてセンサを用いた他のシステムについて説明を行う.
3.1
複数のセンシング技術を活用した非接触ユーザインター
フェース
本節で説明するシステムは皆川らが提案・開発した, ユーザがより自然な形で操作する
ためのユーザインターフェースである [6]. この研究ではユーザインターフェースにおいて,
ジェスチャー認識技術, 視線検出技術, 音声認識術といったセンシング技術を用いてユーザ
をモニタリングし, ユーザの操作意図を理解することで端末を操作する接触型のユーザイン
ターフェースの開発を行っている. この研究では単一のセンシング技術で複数の端末操作を
実現しようとすると, ユーザに不自然な動作を強いてしまう, 負荷の大きい動作をさせてし
まう, また非接触型ユーザーインターフェースでは操作意図のある操作と操作意図のない操
作の判断が困難である, といったことを問題としている. これらの問題を解決するために複
数のセンシング技術を統合的に用いた非接触型ユーザーインターフェースを開発した.
この研究ではジェスチャー認識技術と視線検出技術を統合的に扱い, 画面のスクロール
と拡大縮小を非接触で行うユーザインターフェースを開発した. 開発したユーザインター
フェースでは. メニュー項目の決定や画面のスクロールのような瞬間的な動作が得意なジェ
スチャ情報とカーソルを特定の位置に移動させる, 保持し続けるといったカーソル操作が得
意な視線情報を統合し, 互いに得意な操作を組み合わせることによってユーザにとって自然
な操作を行うことを可能にしている. また視線の時間的推移を用いることでユーザがどの部
–7–
3.2 自律分散協調による避難誘導システムの開発
分を注視しているかを検出し, 注視度の高い部分のジェスチャ操作はユーザが意図的に行っ
ている可能性が高いと判断することで操作意図の有無を可能にしている.
3.2
自律分散協調による避難誘導システムの開発
本節で説明するシステムは滝川らが開発した, 各センサデバイスが自律分散的に動作する
ことで外部にサーバを必要とせずに避難誘導を行うシステムである [7].
この研究では地下街や建物内などの閉空間での災害時の避難誘導システムにおいて, 既存
の研究が避難誘導制御にサーバ類を設置しての集中制御を必要としているため, 小規模店舗
や仮説展示場など規模の小さい閉空間では設置や費用の面から現実的ではないということを
問題としている. これらの問題を解決するため, この研究ではセンサと無線 LAN による送
受信機を組み込んだ安価なセンサユニットを設置し, 各センサユニットが自律分散協調によ
る避難誘導を行うことでサーバを必要としない避難誘導システムを開発した.
この研究で開発されたシステムでは煙センサー, 熱感知センサー, CO センサーの 3 種類
のセンサを用いて各センサのいずれかが異常値を検出すると火災を検知し, 避難誘導を行
う. 各センサによって火災が発生している通路を特定し, その通路を避けるように各センサ
ユニットが自律的に避難誘導を行う. 避難誘導は音声による誘導と LED を用いた光での誘
導を行っている.
–8–
第4章
複数センシング情報を用いた避難誘
導システム
1 章でも述べたように, 屋内での災害時避難誘導の問題として, 災害状況の変化により所
定の避難経路が使用できなくなる, 避難者が災害状況を把握することが困難であることが挙
げられる. これらの問題の問題を解決するための手法としてセンサネットワークを用いた避
難誘導システムが提案されているが, 既存のシステムでは避難経路生成に単一のセンシング
情報のみを用いているため, 避難者が炎や煙など複数の危険に遭遇する場合は必ずしも安全
に避難誘導を行えるとは言えない.
本研究では屋内災害時の避難誘導において複数の危険を回避する避難経路生成を行うこと
を目的とした避難誘導システムを提案する. 本システムはセンサによって炎と煙情報をセン
シングする. センシングした情報からシステムが火災を検知すると, 避難者の現在位置から
出口まで炎と煙の双方を回避する避難経路を生成し避難者に提示する.
4.1
システム概要
本システムは屋内火災を想定した避難誘導システムである. システムの概念図を図 4.1 に
示す. システムは通常時, センサにより温度・一酸化炭素濃度をセンシングする. センシン
グした情報はデータ収集用エージェントが各センサデバイスから収集しサーバへと蓄積す
る. 収集したセンシングデータの値が規定の値を超えていた場合, システムは火災を検知す
る. 火災検知後システムは避難者へ火災が発生したことを報知する. 報知後避難者は自身の
–9–
4.2 センサデバイス
現在位置をサーバへ送信する. サーバが位置情報を受信すると避難者の現在位置と収集した
センシング情報基に避難経路の生成を行い, 生成した避難経路を避難者の携帯端末に表示す
る. 次にシステムの各構成要素について説明する.
図 4.1
4.2
システムの概念図
センサデバイス
今回用いるセンサデバイスはセンシング機能に加え, 無線通信機能, センシングデータを
蓄積しておくメモリを有している. 本システムは今回, 炎と煙情報を用いて避難経路生成を
行う. そのためセンサは温度センサと煙センサを用いる. これらのセンサを用いて温度と一
酸化炭素濃度をセンシングする. センシングデータはセンシングデータ収集用のエージェン
トによって収集されサーバへと蓄積される.
4.3
センシングデータ処理
本システムでは避難経路生成を行うにあたって, 通行不可通路の決定と通行可能な通路の
危険度を求める. これらを求めるためにサーバがセンシングデータの処理を行う.
まず通行不可経路の決定を行う処理について説明を行う. 通行不可通路とは以下の条件を
満たす経路である.
• 火災が発生しているもしくは延焼の可能性がある
• 一酸化炭素濃度が最大値を超えている
– 10 –
4.3 センシングデータ処理
これらの条件を満たす通路は通行不可とし避難経路生成の際の通路として除外する.
まず火災発生・延焼の判断方法について説明する. 火災が発生しているもしくは延焼の可
能性がある通路の判断には温度の時間上昇率を用いる. 標準的に, 火災が発生している空間
の時間経過 t (分) に対する温度 T (℃) は ISO 834 によって以下のように定められている
[8].
T = 345 log 10(8t + 1) + 20
(4.1)
式 4.1 をグラフで表すと図 4.2 のようになる.
ϭϮϬϬ
ϭϬϬϬ
ᗘ΀Υ΁
ϴϬϬ
ϲϬϬ
ϰϬϬ
ϮϬϬ
Ϭ
Ϭ
ϮϬ
ϰϬ
ϲϬ
ϴϬ
ϭϬϬ
ϭϮϬ
ϭϰϬ
ϭϲϬ
ϭϴϬ
᫬㛫΀ศ΁
図 4.2
標準火災曲線
図 4.2 から火災が発生している空間は発火から僅か数分足らずで数百度にまで温度が上昇
することが分かる. この特性を利用して, センシングした温度が急激に上昇した場合は, 火災
が発生している, 延焼の可能性があると判断し通路を通行不可と判断する.
次に一酸化炭素濃度の最大値について説明する. 一酸化炭素濃度による人体への影響は表
4.1 のようになっている [9].
表 4.1 から本システムにおける一酸化炭素濃度の最大値 Cmax を以下のように定める.
Cmax = 1600ppm
(4.2)
センシングした一酸化炭素濃度が Cmax を超えていた場合は通路を通行不可と判断する.
以上の処理で通行不可通路の決定が完了する. システムは次に通行可能な通路の危険度を
– 11 –
4.4 避難経路生成
表 4.1 一酸化炭素の人体への影響
一酸化炭素濃度 (ppm)
人体への影響
200
2-3 時間で前頭葉に軽度の頭痛
400
1-2 時間で前頭痛や吐き気, 2.5-3.5 時間で後頭痛
800
45 分で頭痛・眩暈・吐き気・痙攣, 2 時間で失神
1600
20 分で頭痛・眩暈・吐き気がして 2 時間で死亡
3200
5-10 分で頭痛・眩暈, 15-30 分で死亡
12800
1-3 分で死亡
決定する. 通路の危険度には各通路の一酸化炭素濃度を用いる. 危険度を求めるにあたって
一酸化炭素濃度の最低値を決定する. 表 4.1 から本システムにおける一酸化炭素濃度の最低
値 Cmin を以下のように定める.
Cmin = 200ppm
(4.3)
式 4.2, 4.3 で決定した一酸化炭素濃度の最大値, 最低値から通行可能な通路の危険度 D
を以下のように定める.


0
T =
(煙濃度 < Cmin )
煙濃度 − Cmin


Cmax − Cmin
(4.4)
(otherwise)
以上の処理で通行可能通路の危険度の決定が完了する. システムは通行不可通路, 通行可
能通路の危険度を用いて避難経路の生成を行う.
4.4
避難経路生成
避難経路を生成するにあたってシステムは避難者の避難開始時の現在位置を必要とする.
避難者の現在位置の特定には各センサデバイスの電波強度を利用する. 避難者の付近にある
センサデバイスの中から最も電波強度の強いセンサの位置を避難者の現在地とする.
避難者の現在位置を特定したサーバは, 避難者の現在位置を始点として出口までの避難経
路を生成する. 避難経路の生成方法を図 4.3 に示す. 通路が通行可能かどうか, 通行可能通
– 12 –
4.4 避難経路生成
路の危険度は 4.3 章で述べた方法で決定する. 生成された避難経路が複数ある場合避難経路
中の総危険度が最も少ない経路を選択し避難者に提示する.
⌧ᅾ఩⨨䛛䜙⛣ື䛷䛝䜛
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⛣ືඛ䜢᪂䛯䛺
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㑊㞴⤒㊰⏕ᡂ᏶஢
図 4.3
避難経路生成方法
– 13 –
第5章
炎・煙を回避する避難経路生成機能
の確認
本研究で提案した避難誘導システムの動作確認として, 図 5.1 のような災害が発生したと
想定して, 炎と煙の双方の危険を回避した避難経路が生成されていることを確認した. 確認
する内容は以下の通りである.
• 炎が発生している通路を必ず回避している
• 通行可能な通路のうち危険度の少ない通路を通っている
また想定した災害の前提条件は以下の通りである.
• 各センサデバイスは 50 m 毎に等間隔に配置
• 避難者はセンサ付近に存在
• 避難者は1人
• 避難経路は必ず1つは存在する
以上のような前提のもと避難経路生成を行った結果, 図 5.2 のような避難経路を生成する
ことに成功した. 生成された経路は炎が発生している通路は通っておらず, また通行可能な
通路の中で危険度の少ない通路を通っていることを確認することができた.
今回の結果から, 複数のセンシング情報を考慮することで, 単一のセンシング情報のみで
避難経路生成するよりも安全な避難誘導を行うことが可能になると考える.
– 14 –
džŝƚ
図 5.1
想定する災害状況
図 5.2
避難経路生成結果
džŝƚ
今後の課題としては, 今回は避難者が 1 人であると仮定し避難経路の生成を行ったが, 実
際の避難状況では避難者は複数存在すると考えられるため, 各避難者の位置によっては避難
経路が混雑し避難に時間がかかる場合がある. そのため, 各避難者の位置を考慮して避難者
の分散を行う必要がある. また今回は避難経路が必ず 1 つは存在すると仮定したが, 災害状
況によっては避難者の避難できる経路すべてが通行不能になり, 避難不可能になる場合があ
る. そのような状況になった場合は消防隊などと連携し, 避難不可能な避難者を優先的に救
助するといった方法を考えている.
– 15 –
第6章
まとめ
災害が発生した際の避難誘導の問題として, 災害状況の変化によって定められた通路が使
用できなくなる問題がある. 現在はセンサネットワークを用いた避難誘導が提案されている
が, それらは避難経路生成に当たって 1 つのセンシング情報のみに着目したものが多く適
切な避難誘導が行えるとは言えない. 災害時の避難には特定要素のみならず複数の要素が避
難者に関ってくるため, 避難者が安全な避難誘導を行うためには複数の要素を考慮する必要
がある. 本研究では,センサネットワークを用いた災害時における複数のセンシング情報を
考慮した避難誘導システムを提案した. 提案システムで生成する避難経路が炎と煙の双方の
危険を回避していることの確認として, 仮想の災害上で本システムの避難経路生成を行った
ところ, 避難者の現在位置から出口まで火災が発生している通路を避け, 且つ煙の危険度の
少ない通路を通る避難経路を生成することができた. 今後の課題としては, 複数の避難者を
考慮した避難経路生成を行う, 通行不可能な避難者の発生を考慮するといったことがある.
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謝辞
本研究を行うにあたり, 御指導御鞭撻を頂きました植田和憲講師に心から感謝いたします.
研究に関しての様々な指導, ご指摘などありがとうございました. 本研究の副査を努めてい
ただいた横山和俊教授, 福本昌弘教授にも感謝致します.
本研究で助言を頂きました小柳翔氏, 菅谷和馬氏, 松下和生氏, 柳瀬仁志氏, 入本静哉氏に
感謝致します. 発表練習を手伝っていただいた木村紀夫氏, 小林亘氏, 入福優星氏, 片岡裕貴
氏, 川田圭人氏, 矢野進也氏, 山中俊哉氏に感謝致します.
最後に, 4 年間お世話になりました情報学群の教職員の皆様に御礼を申し上げます.
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参考文献
[1] 安福, 阿部, 吉田, “避難シミュレーションシステムの経路障害発生時への適用”, 日本建
築学会計画系論文集 第 73 巻 第 626 号, 721-727, 2008 年 4 月.
[2] 消 防 庁,
“平 成 25 年(1 月 ∼12 月 )に お け る 火 災 の 概 要( 概 数 ),
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h26/2603/260327_2houdou/
01_houdoushiryou.pdf, 2015.
[3] J. M. Kahn, R. H. Katz (ACM Fellow), K. S. J. Pister, “Next Century Challenges:
Mobile Networking for“ Smart Dust””, Proceedings of the 5th annual ACM/IEEE
international conference on Mobile computing and networking, pp 271-278, 1999.
[4] ユビキタス・センサネットワーク研究会, “当研究会について”, http://www.ieice.
org/~usn/aboutus.php, 2015.
[5] 電子情報通信学会知識ベース, “4 郡 モバイル・無線 5 編 モバイル IP, アドホックネッ
トワーク 3 章 センサネットワーク”, 電子情報通信学会, 2010.
[6] 皆川 明洋, 小田切淳一, 堀田悦伸, 中島 哲, Liu Wei, Fan Wei, “複数のセンシング技術
を活用した非接触インターフェース”, Fujitsu 64(5), pp498-503, 2013-09.
[7] 瀧本, 三浦, 松元, 関原, 組田, 山本, “自律分散強調による避難誘導システムの開発”, 社
会技術研究論文集, Vol.8, pp 82-90, Apr. 2011.
[8] 建材試験センター, “¡建築耐火の基礎講座¿標準火災温度曲線”, 建材試験情報 6’ 10.
[9] 日 本 ガ ス 協 会, “安 心 ガ ス ラ イ フ へ の ア ド バ イ ス”, http://www.gas.or.jp/
gastokurashi/aga.pdf, 2015/2/26.
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