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チャネルキャットフィッシュの県内における生息分布および餌の

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チャネルキャットフィッシュの県内における生息分布および餌の
埼玉農総研研報(11)69-71,2011
«資
料»
チャネルキャットフィッシュの県内における生息分布
および餌の嗜好性
来間明子*・大力圭太郎**・飯野哲也**
Distribution in SAITAMA and Favorites Feed
of Channel Catfish Ictalurus punctatus.
Akiko KURUMA, Keitarou DAIRIKI and Tetuya IINO
チャネルキャットフィッシュは北アメリカ原産の
魚類であり,日本には養殖目的で 1971 年に導入され
た(丸山ら,1987)が,現在では特定外来生物によ
る生態系等に係る被害の防止に関する法律(以下「特
定外来生物法」という)により特定外来生物に指定さ
れている.
茨城県では,漁業や水産資源への本種の被害が報
告されている(半澤,2004.尾崎・宮田,2007).
本県においても 1983 年から本種の生息が確認され
ており(金澤,1991),在来魚等水産資源に与える
影響が懸念されるが,本県におけるチャネルキャッ
トフィッシュの詳しい生息状況は明らかではない.
そこで,本種の生息分布および駆除方法として有
効と考えられる釣漁業(釣り・はえ縄・置き針)の
餌と水温の検討を、特定外来生物法第 5 条の許可を受
け行ったので報告する.
なお.アンケート調査を行うに当たり,釣具店へ
の用紙配布・回収に関して財団法人日本釣振興会埼
玉県支部に協力を頂いた.また,捕獲調査では県漁
連等から捕獲結果の提供,および調査に際しての関
係漁協の協力を頂いた.これら関係機関の協力に感
謝する.
という)にアンケート調査を行った.
遊漁者に対するアンケートは,釣具店店頭に置いた
アンケート用紙に,訪れた客が自由記入する形で行
い,漁業者に対しては各漁協へ用紙を送り,後日回
答用紙を回収し集計した.
(2) 文献調査
過去の文献から,本県においてチャネルキャット
フィッシュが確認された場所を調べた.
(3) 捕獲調査
2008~2010 年までの 3 年間,チャネルキャットフ
ィッシュの捕獲調査を県内主要河川で行った.使用
した漁具・漁法は,刺し網,投網,ふくろ網,はえ
なわ,置き針,つつ,かご網,釣り,電気ショッカ
ーボート,すくい網であった.また,埼玉県漁業協
同組合連合会,埼玉南部漁業協同組合,埼玉東部漁
業協同組合および埼玉中央漁業協同組合(以下,「県
漁連等」という)が 2009~2010 年に本種を捕獲した
結果も用いた.
2 餌の嗜好性および水温と捕食状況の検討
釣漁業の餌およびナマズ類の餌として適すると思
材料および方法
われる7種類の餌を用いて,餌の嗜好性を確認した.
試験池は,20㎡のコンクリート池を使用し,1池に1
1 生息分布
尾のチャネルキャットフィッシュを入れ,同時に7種
(1) アンケート調査
類の餌を付けた延縄を一晩設置し,翌朝捕食状況を
本県におけるチャネルキャットフィッシュの捕獲
確認した.供試魚には,購入した天然魚10尾を用い,
の有無と捕獲場所・捕獲方法について,2008年に遊
平均体長および平均体重は,33cmおよび495gであった.
漁者および漁業協同組合組合員(以下,「漁業者」
使用した餌は,活エビ(テナガエビ),活魚(モツゴ),
*
**
水産研究所(現農林部生産振興課),
水産研究所
埼玉農総研研報(11)69-71,2011
冷凍魚(アユ),ミミズ,豚脂身,レバー,鳥腐肉
1997)で,2004 年に久喜市内の笠原沼用水および葛
とし,確認時に無くなっていた餌を,捕食したもの
西用水(2006 年度都市化地域水環境改善実証調査報
とした.試験は2009年9月27日~10月1日に行い,試
告書)で,チャネルキャットフィッシュの捕獲が確認
験時の池の水深は50cm,水温は21.4~24.0℃であった.
されている(図 1).
次に、水温の違いによる餌の捕食状況を比較した.
(3) 捕獲調査
水温は30℃区,20℃区,10℃区の3区とし,試験は設
2008年に福川(行田市)で,2009年に福川(行田市),
定した水温に池の水温が達した時期に行った.30℃
利根川(羽生市),東京葛西用水路(八潮市),渡良瀬川
区は2010年8月12,16日,20℃区は2010年10月18,21
(加須市(旧北川辺町))で本種を確認した.捕獲した漁
日,10℃区は2010年12月9,13,16日に行った.試験
具漁法は刺し網,投網,置き針,釣りであり、他の
時の水温は30℃区28.8~29.9℃,20℃区18.8~19.9℃,
漁具漁法では捕獲できなかった.このうち昼間に捕
10℃区8.5~9.9℃であった.
獲したのは投網だけであり,他は夜間の捕獲であっ
供試魚には,2009年の試験で用いたものを,当研究
た(図1,2).
所で引き続き飼育して用いた。試験池は2009年と同
じ池を使用し,1池に1尾を入れ,餌を付けた延縄を
一晩設置し,2009年と同様に翌朝捕食状況を確認し
た.供試尾数は各区10尾であり,餌は活魚(モツゴ)
を用いた.試験実施時の供試魚の平均体長および平均
体重は30℃区37cm,786g,20℃区39cm,874g,10℃
区39cm,845gであった.
結果および考察
1 生息分布
(1) アンケート調査
アンケートは,遊漁者104人,漁業者129人から回答
を得た.このうち本種を捕獲した経験のある人は,遊
図 1 チャネルキャットフィッシュの生息分布
漁者13. 5%,漁業者4.7%,全体で8.6%であった.ま
た,本種の名称を知っていた人は遊漁者72.1%,漁業
また,県漁連等の捕獲結果では2009年に入間川(川
者35.7%と遊漁者の方が認知率が高かったが,遊漁者
越市),江戸川(三郷市)で,2010年に福川(行田市),
の場合は,本種を捕獲あるいは知っている人が積極
入間川(川越市),川田谷沼(桶川市)で確認された(図1).
的に回答した可能性があるため,単純には比較でき
ないと考えられる.一方漁業者の結果を見ると,本
種が捕獲された場所を漁場区域とする漁業者の方が,
高い認知率を示す傾向が見られた.
捕獲場所は,江戸川(三郷市,吉川市),中川(越谷
市),荒川(さいたま市(旧浦和市)),利根川(熊谷市(旧
妻沼町),羽生市,加須市(旧加須市・旧大利根町))
であった(図1).
(2) 文献調査
1983 年に三郷市早稲田地先の江戸川(金澤,
1991),1991~1995 年に戸田市地先の荒川,吉川市
地先の中川および白岡町地先の隼人堀川(金澤ら,
図 2 チャネルキャットフィッシュを捕獲した漁
具と昼夜別の比率
来間ら:チャネルキャットフィッシュの生息分布
(1)~(3)の捕獲場所をまとめると,県東北部の利根
水温別試験の結果は,餌を捕食した個体が 30℃区
川水系,東部の江戸川・中川水系及び桶川市以南の荒
で 9 尾,20℃区で 10 尾,10℃区で 2 尾であった.こ
川水系の3区域に大別できる.この結果から,本種の
のことから低水温(10℃)では明らかに捕食行動が低
生息域は県中央部・東部であり,西部にはまだ生息
下することがわかった(図 3).
していないものと推察された.
10
しかし,2000年以前は江戸川,中川,荒川,隼人
堀川の4水域のみで確認されていたのに対して,その
ことから,本種の生息域は拡大していると推察され
8
6
4
尾
)
笠原沼用水・葛西用水・東京葛西用水で確認された
(
後,利根川・福川・渡良瀬川・入間川・川田谷沼・
捕
食
尾
数
2
0
30℃
る.
アンケート調査および捕獲調査結果で,漁具漁法
と捕獲時間が判明している23尾についてまとめた結
20℃
水 温
10℃
図 3 水温別餌の捕食状況比較
供試尾数 10 尾.
餌は活魚(モツゴ)を用いた.
果,65%が夜間の捕獲であり,その内93%が釣り漁
法であった(図2).このことから、本種の駆除に際し
本報告では,本種の捕獲には網漁法等よりも釣り
ては,夜間の釣り漁法を用いるのが効果的と考えら
漁法が適し,夜間に行うことがより効果的と示唆さ
れた.
れた.また,餌の検討結果から活魚や活エビなどの,
生き餌に対する嗜好性が高いことも明らかとなっ
表 1 供試魚ごとの捕食結果
供試魚No. 活エビ
1
○
2
3
4
5
6
7
8
○
9
○
10
○
合計捕食
4
尾数(尾)
活魚
○
た.これらのことから,水温と捕食についての調査
冷凍魚 ミミズ レバー 鳥腐肉
温が 20~30℃である晩春から初秋にかけて行うの
○
○
○
○
結果に基づき,本種の駆除は,捕食活動が活発な水
が適当と考えられる.
○
○
引用文献
○
○
半澤浩美(2004):霞ヶ浦におけるチャネルキャッ
5
2
2
0
0
注)表中の○は捕食あり,空欄は捕食なしを示す
2 餌の嗜好性の検討
トフィッシュの食性,茨城県内水面試験場調査研
究報告第39号,52-58
金澤光(1991)
:埼玉県に生息する魚類の総括的知見.
埼玉県水産試験場研究報告第50号,92-138
本種が捕食した餌は,活エビ,活魚,冷凍魚,ミ
金澤光・田中繁雄・山口光太郎(1997):埼玉県の生
ミズであり,豚脂身,レバー,鳥腐肉は全く捕食し
息魚類の分布について.埼玉県水産試験場研究報告
なかった.また,一晩のうちに 3 種類の餌を捕食し
第55号,92-138
た個体が 1 尾,2 種類の餌を捕食した個体が 2 尾,1
丸山為蔵・藤井一則・城島利通・前田弘也(1987):
種類の餌を捕食した個体が 6 尾,全く捕食をしなか
アメリカナマズ「外国産新魚種の導入経路」水産庁
った個体が 1 尾であった.餌を捕食した尾数は,活
研究部資源課・水産庁養殖研究所,東京,123-125
エビが 4 尾,活魚が 5 尾,冷凍魚とミミズがそれぞ
尾崎真澄・宮田多寿(2007):利根川下流域におけ
れ 2 尾であった(表 1).
このことから,活魚や活エビの嗜好が高く,豚脂
身・レバー・鳥腐肉の獣肉類の嗜好性は低いという
ことが推察された.
るチャネルキャットフィッシュの漁獲実態.千葉
水総研報,No2,33-4
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