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基礎・基本を明確にした高等学校英語科の指導法に関する研究
英文法・語法指導の工夫について 研究の概要 この研究は,英文法・語法指導を通じて,言語や文化への興味・関心を喚起し,自主的・意欲的な 英語学習への取り組みを促すとともに,コミュニケーション能力を高める英文法学習を進めることに より基礎・基本の定着を図ろうとするものである。 キーワード コミュニケーション能力 1 英文法 語法 研究の動機 中学校や高等学校の英語教育において実践的コミュニケーション能力の育成が重視されてきてい る 。「聞くこと 」「話すこと 」「読むこと 」「書くこと」の四つの領域相互の有機的な関連を図り,実 践的なコミュニケーション能力を育成することが求められている。言語の使用場面や言語の働きを例 示し,それらを有機的に組み合わせることによって,実際に言語を使用する幅広い言語活動ができる ように改善されてきた。コミュニケーション能力の育成の一環として,ALT とのティームティーチ ングが導入され,小人数指導等を工夫する中でコミュニケーション能力の向上や積極的にコミュニケ ーションを図ろうとする態度の育成を目指した教育が行われている。それにより生徒の積極的にコミ ュニケーションを図ろうとする意欲や態度は確かに向上してきたと思われる。 コミュニケーションがより実践的で、インターラクティブな活動となるためには,基礎・基本と なる「文法能力」とりわけ「単語力 」「文法力」が重要となる。これらの力がなければ,本当に自分 の言いたいことを伝えることは出来ないし,相手の意図を正確に読みとることも出来ないであろう。 しかし、生徒の語彙力や文法力を含めた英語の基礎学力は年々低下していると言われる。 こうした現状を踏まえ,平成13年度からは「語彙」指導に重点を置いて研究してきた。今年度は 生徒が英語に関心を抱き,積極的に英語学習に取り組むことができるよう,コミュニケーションの視 点に立った「英文法・語法集」を作成しようと考えた。 2 研究の方法および内容 (1)コミュニケーション能力育成のための「コミュニケーションに役立つ英文法・語法集」 の作成 ① 作成の形式 A4 判150ページ ② 内容 ア 扱う文法項目 動詞、助動詞、準動詞、関係代名詞(副詞)、仮定法、受動態 等 イ 各項目毎に ・サンプル対話文 ・文法・語法の解説 ・練習問題 付録として - 113 - ③ ・「コミュニケーションに役立つ20のイディオム」 配布等 3月下旬 各高等学校へ1部 (2)作成例 別紙 「コミュニケーションに役立つ英文法・語法集」から抜粋 3 研究の結果および課題 現在作成中である。網羅的に文法事項を記載、解説するのではなく、コミュニケーション能力育成 の視点で、重要な項目に的を絞り、記述した。今後は現場の実践からも資料を収集し、内容の一層の 充実を図る中で、現場のニーズに応えられるような教材にしていきたいと考える。 参考文献 ・PRACTICAL ENGLISH USAGE (Michael Swan OXFORD) 他 平成15年度 山梨県総合教育センター 執筆者 教育指導部副部長 教育指導部主幹研修主事 外国語指導助手 - 114 - 雨宮 信也 小澤 芳三 ジョシュア コミュニケーション に役立つ 英文法・ 語法集 関係詞(関係代名詞、関係副詞 Dialog 1 A: B: A: B: Who is that man who is sitting by the window? The one who is wearing the red shirt? Yes, I guess I've met him somewhere before. He is Mr. Yamada. He works for X company. (A)窓のところに座っているあの人はだれ? (B)赤いシャツを着た人のこと? - 115 - 英文法・語法集からの 抜粋 (A)うん、以前どこかで会った気がするんだけど。 (B)山田さんといって、X会社に勤めているひとだよ。 Dialog 2 A: B: A: B: A: B: May I help you? Yes, I want a watch which is waterproof. Will this one do, sir? I like it. How much is it? Fifty thousand yen. O.K. I'll get it. (A)いらっしゃいませ。 (B)防水の腕時計が欲しいんだけど。 (A)これなどいかがでしょうか。 (B)いい時計だね。いくら? (A)5万円です。 (B)じゃあ、それください。 1.後置修飾について Mont Blanc(モンブラン)は英語に直すと White Mountain となります。「白い山」という意味で す。修飾関係を見れば、Mont Blanc は Blanc(白い) が後ろから前の Mont (山)を修飾しているの がわかります。一方 Blue Mountain は Blue が後ろの Mountain を限定しています。特に前者の関係を 「後置修飾」と読んでいますが、関係詞(関係代名詞、関係副詞等)を含んだ文章は主として「後置 修飾」 になります。日本語には後から前を修飾するという「後置修飾」がありませんので、関係詞 を学ぶ場合にはまず、この点をしっかり押さえておきましょう。文章には簡潔さという点が肝要です。 日本語の場合、例えば 、「あそこで立ち話をしている、年齢40才位の、白い帽子をかぶった、かっ ぷくの良い男性」のように、修飾語を前に置くことによって、いくらでも冗長な表現が出来上がって しまいます。 - 116 - か っ ぷく の 良 い 白 い 帽 子を か ぶ っ た 年 齢 40 才 ぐら い の あ そ こ で 立 ち 話 を し て いる 男 ︵性︶ これを英語に直すと、 the man (who is) chatting over there ,who seems to be about 40 years old, ( who is) wearing a white cap, and who has a stout build となります。英語ではまず、被修飾語の man が先にきて対象を明らかにするとともに、修飾語が who 以下後に位置し、後置修飾の形をとります。 まず、 「あそこで立ち話をしている男(性)」について考えてみましょう。英語では the man who is chatting over there となりました。 who を関係代名詞と言い、who 以下の節(主語、動詞を含ん だまとまり)が修飾語として、直前の被修飾語(先行詞)man を修飾しています。次の例のように、 1語の形容詞は被修飾語の前にきますが、修飾語が2語以上になれば後置修飾の形をとると理解して よいでしょう。 (例) a young woman (若い女性) (波線部=修飾語、囲み=被修飾語) A bird in the hand is worth two in the bush. (明日の百より今日の五十。) Think of the power that's in the universe. (宇宙の力を思い浮かべてごらん。) 2.関係代名詞の働きは? では関係代名詞とはいったい何でしょう。(関係+代名)詞 =(関係詞)+(代名詞) と分析しましょう。ここの(関係詞)は接続詞の働きと考えます。つまり、関係代名詞は接続詞と代 名詞の働きを兼ねたものと理解できます。 先ほどの表現をもう一度見てみましょう。 the man who is chatting over there ( A) S V (B) who は述語(V)is chatting の主語(S)になっていると同時に、who 以下と man を結びつける働 きをしていることがわかります。一般に主語になるのは、名詞や代名詞であり、(A)と(B)をつ なげる語は接続詞ですから、who は関係代名詞であり、代名詞の働きと接続詞の働きを兼ねたもので あることがわかります。 この who は「だれ(=疑問詞)」という意味ではなく、記号のようなものです。状況に応じてその 形を変えていきます。ここでは被修飾語(先行詞)が「人」であり、主語の働きをしているので - 117 - 被修飾語(先行詞) 人 物 人、物 主格 who which that 関係代名詞 所有格 whose 目的格 who 又は whom which that <表1> <表1>から who が選択されています。 では、 「私が昨日、駅で出会った友人」を英語に直してみましょう。まず、修飾関係を確認します。 『 私が昨日、駅で出会った』が修飾語で、『 友人』が被修飾語(先行詞)になりますから the friend 友人 ← * I met at the station yesterday O S V 私が昨日、駅で出会った とこのような形になるでしょう。さて* には何を入れたらよいでしょうか。ここで 、「私は昨日そ の友人に会った。」という文章を英語に直してみますと、次のようになります。 I met the friend at the station yesterday. S V O 目的語 friend を代名詞に変えると、 I met him(her) at the station yesterday. になります。結局* 部には、the friend とその後の節をつなぐ接続詞、及び met の目的語(O)とし ての代名詞、の働きを兼ねた関係代名詞が入ることがわかります。<表1>から who( m) を選び、 * 部に入れれば正解です。 the friend who(又は whom) I met at the station yesterday 実際には、目的格の関係代名詞はふつう省略されますので、 the friend I met at the station yesterday となります。 ところで、この形は the friend I met at the station yesterday (A) (B) 接続詞がないのに、AとBがぴたっと貼り付いているようにみえますので、(B)を接触節と呼ん だりします。関係代名詞の省略という言い方をしましたが、歴史的には、英語がラテン文法にならっ て、who,which を借入する以前は関係代名詞を使わないこの形が一般的でした。 - 118 - which を使ってもう一度関係代名詞構文の復習をしてみましょう。 「私が昨年購入した家」を英語に直してみましょう。修飾関係を確認すると、 『私が昨年購入した』 が修飾語で、『家』が 被修飾語(先行詞)ですので、 the house 家 ← * I O S bought V last year 私が昨年購入した とこのような形になるでしょう。さて* には何を入れたらよいでしょうか。ここで 、「私は昨年家 を購入した。」という文章を英語に直してみますと、次のようになります。 I bought the house last year. S V O 目的語 house を代名詞に変えると、 I bought it last year. になります。結局* 部には、the house とその後の節をつなぐ接続詞、及び bought の目的語(O)と しての代名詞、の働きを兼ねた関係代名詞が入ればよいでしょう。先行詞が「物」なので、<表1> から which を選び、* 部に入れれば正解です。 the house (which) I bought last year 3.関係代名詞と関係副詞はどう違うのか? 次の2つの日本語を比べてみましょう。 (A)「私が訪れた市(まち)」 (B)「私が生まれた市(まち」 もちろん、この2つの意味は異なっていますが、構造は全く同じに思われます。 まず、(A)から英語に直してみましょう。後置修飾の関係を捉えて、 the city 市 ← * I O S visited V 私が訪れた ここで、*部に何を入れるかを考えます。ここの visit は他動詞で目的語をとるはずです。という のは「私がその市(またはそこを)を訪れた。」という文章を英語に直すと、 I visited the city. S V O (or) I visited it. S V O となるからです。 従って、*部 には接続詞と代名詞の働きを兼ねた関係代名詞の目的格が入ります。先行詞 city が 「人」でなく「もの」なので、<表1>から which を選んで、完成します。 - 119 - the city (which) I visited 次に(B)は、同様にして the city 市 ← * I S was born V 私が生まれた まず、「私はその市で生まれた。」という文章を英語に直すと、 となります。 I was born in the city. 次に、「私はそこで生まれた。」という文章に変えて英語に直すと、 となりました。 I was born there. S V (副詞) そして、*部に何を入れるかを考えます。 今度は*部の働きが接続詞と代名詞ではなく、接続詞と副詞の働きを兼ねたものを入れればよいこ とがわかります。従って、*部には関係副詞が入ります。 先行詞 場所を表す語 時を表す語 理由を表す語 方法を表す語 place time reason way など など など など 関係副詞 where when why how <表2> 先行詞 city が場所を表す語なので、<表2>から関係副詞 where を選んで*部に入れて完成します。 the city where I was born もし、「私はそこで生まれた。」を次のように英語に直したらどうなりますか。 I was born in it. S V (代名詞) この形から、*部に何を入れるかを考えますと、今度は接続詞と代名詞の働きを兼ねた関係代名詞 を入れることになります。代名詞 it が前置詞 in の目的語(前置詞の目的語という。)になっています ので、<表1>から、先行詞が「もの」で、目的格である関係代名詞 which を選びます。前置詞を伴 う場合は「前置詞+関係代名詞」という形をとりますので - 120 - the city in which I was born とするか、目的格なので関係代名詞を 省略して the city I was born in とします。 まとめると、 (A)「私が訪れた市(まち)」の英訳は the city (which) I visited (B)「私が生まれた市(まち」の英訳は (1)関係副詞を用いると、 the city where I was born (2)関係代名詞を用いると、 the city in which I was born または 省略して the city I was born in となります。 4.関係詞を使って英文をつくろう。 関係詞の働きがわかったら、今度は英語の文章を作ってみよう。 【英作文1】 「あそこで新聞を読んでいるのが(私の)父です。」 まず、修飾語の関係を捉えます。 「あそこで新聞を読んでいるのが」を「あそこで新聞を読んでいる人」と言い換えます。この中に 後置修飾の関係を発見できればしめたものです。 (その)人 ←あそこで新聞を読んでいる the person (man) * S is reading a newspaper there V *部 には先行詞が「人」で、接続詞と代名詞の働き(主語になるのは名詞、代名詞等なので)を 兼ねた関係代名詞の主格が入ります。そこで who を入れ、 (A) the person who is reading a newspaper there を仕上げます。 次に、この文章の基本構造を考えましょう。修飾語を取り去ると、 (B) The person is my father. 「(その)人が父である。」 というシンプルな文章になります。 (A)+(B)から、次の英訳が完成します。 The person who is reading a newspaper there is my father. 【英作文2】 「私はあなたに初めて会った日のことを決して忘れないでしょう。」 - 121 - やはりまず、修飾関係を捉えます。 「あなたに初めて会った日」の部分は次のようになります。 (その)日 ←(私が)あなたに初めて会った the day * I met you for the first time. S V O さて、 *部 には何を入れたらよいでしょう。"I met you" の部分は主語(S)も目的語(O)も あり、*部が代名詞の働きを持っているとは思えません。ではどんな働きをしているのでしょうか。 「私はその日に初めてあなたに会った。」を英語に直すと、 I met you for the first time on the day. ですが、下線部は副詞 then で言い換えられます。つまり、*部は接続詞と副詞(then)の働きを兼ね 備えていることが分かります。従って、*部には関係副詞を入れますが、<表2>から、先行詞 day が「時を表す語」なので、when を入れればよいでしょう。 (A) the day when I met you for the first time 次に、この文章の基本構造を考えましょう。修飾語を取り去ると、 (B) I will never forget the day. 「私は(その)日を忘れない。」 というシンプルな文章になります。 (A)+(B)から、次の英訳が完成します。 I will never forget the day when I met you for the first time. 【練習問題1】関係詞を用いて英語に直しなさい。 ①私は今朝買ったボールペンをなくしてしまった。 ②私が今読んでいる小説はとてもおもしろい。 ③この歌を作ったのは、日本の有名な詩人です。 ④昨日、学校を休んだ理由を教えてください。 助動詞 - 122 - A: Dialog 1 Have you finished your English homework, Takahiro? B: No, Kenta, I have not. I may have to hand it in late. A: I talked to Mr. Jones after class, and he said we may ask him if we need help with our homework. B: Oh really? That's a relief. I think I will go talk to him about it at lunch time. (A)たかひろ君、英語の宿題仕上げた? (B)まだなんだ。提出が遅れるかも知れない。 (A)放課後、ジョーンズ先生と話したんだけど、宿題で分からないことがあったら、聞いても いいって言ったよ。 (B)ほんと?助かったよ。昼休みに聞きに行こう。 Dialog 2 A: Have you seen Rebecca? She did not show up for our lesson yesterday. B: Really? She must have been sick. We should give her a call, to see if she needs anything. A: We could just stop by her home and see how she is doing. B: Well, right now I have an appointment, and I mustn't be late. I'll call you later tonight, and we will go to her house together, ok? A: Ok! See you later! (A)レベッカに会った?昨日、授業に出てなかったけど。 (B)本当?きっと具合が悪かったのよ。どんな様子か電話した方がいいかな。 (A)それとも、様子を見に寄ってみようか。 (B)そうね、今は約束があって行かなければならないの。今晩電話するから、一緒に家に行っ てみない? (A)いいよ、じゃ、後で。 1.can, may, must のような助動詞はその助動詞が本来持っている意味で使われる場合と、推量(推 定、推論、可能性)として使われる場合の2つがあります。 ①助動詞 can 固有の意味 <能力、可能> I can swim now. 推量 ぼく、もう泳げるよ。 <可能性> The rumor can't be true. うわさは本当のはずがない。 - 123 - ②助動詞 固有の意味 may <許可> May I go now? 推量 もう帰ってもいいですか。 <可能性> He may have missed the train.. ③助動詞 固有の意味 must <義務> You must stop smoking. 推量 彼は電車に乗り遅れたかも知れない。 禁煙しなさいね。 <推論> He must be sick: he 's not coming today. 彼は病気に違いない。まだ来てないので。 2.同じ「推量」でも、can とmayではどう違うのでしょう。 can には本来「100 %自由」だというニュアンスがあります。だから、なにかをすることが出来る し、なにが起きてもおかしくない訳です。can の表す可能性は「理論的な可能性」であり、実際にな にかが起ころうとしている「現実的な可能性」について言う場合は could, may, might を使います。 (a) One can travel to Hokkaido by train, by boat, or by air. 北海道へは電車でも、船でも、飛行機でも行けます。 (b) I may fly to Hokkaido next week. 来週、北海道へ飛行機で行くかも知れません。 (c) According to the radio, it could snow this evening. ラジオによると、今晩雪になるかも知れません。 (a) は北海道へ行く一般的な交通手段を言っていますが、( b) ,(c)は「来週 」、「今晩」という現実 の状況のなかで考えています。 3.「許可」を表すとき、may, canのどちらを使えばよいのでしょう。 許可を求める場合は、may, can, could, might のいずれも使えます。can が最も一般的で、may はど ちらかというとフォーマルな場面で使われます。could, might には《許可してもらえるかわからない が》という含みがあるので、使うと敬意が込められます。許可を与える場合は、can,may を使います。 (a) Can I borrow the DVD? DVD借りてもいいですか? (b) May I help you? お手伝いしましょうか? (c) Could I ask you something? お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですか? (d) "Could I use your car?" - 124 - "Yes, of course you can." 「車をお借りしてもよろしいでしょうか?」 「もちろん、いいですよ。」 (b) は店で店員がお客に対して使うと、「いらっしゃいませ」の常套句になります。(d)の中では、 許可を求める、丁寧な could と、許可を与える can が使い分けられています。 4.mustとhave toは何か違いがありますか? must も have to も共に《義務や指示・命令》等を表します。一般的に、助動詞を用いると話し手の 意思や感情が込められます。従って特に両者を区別すると、 must は話し手の側からの《義務や指示 ・命令》を表し、have to はそれに対して、外側からの《義務や指示・命令》、つまり慣例や規則等で 「しなければならない」ことを表します。 (a) The exam is coming near. You must work hard. 「ぼつぼつ試験だね。しっかり勉強しなさいね。」 (b) I'm not feeling well these days. I must stop smoking. 「この頃調子がよくないんだ。タバコやめなくては。」 (c) We have to work from 8:30 till 5:15. 「我々の勤務時間は8時半から5時15分です。」 (d) We will have to get there by seven. 「7時までにそこへ着かなければならないだろう。」 (f) I had to get up early to take the train. 「その電車に乗るために早く起きなければならなかった。」 (g) He said that he must ( =had to)see the supervisor. 「彼は監督責任者に是非会いたいと言った。」 must は他の助動詞と重ねて使うことは出来ません。未来の助動詞 will とともに使う場合は(d)のよ うに have to を用います。また、「しなければならなかった」という過去の行為を表わすときに、must は使えませんので、have to の過去形の had to を用います。 must は元々が過去形だったようです。そのためか、(g)のように had to の代わりに must が使われ ることもあります。 5.<助動詞+原形>と<助動詞+have 過去分詞>の違いは何ですか? 推量の助動詞 may を使って、その違いを説明してみます。まず、次の(a)∼(e)の文を読んでみま しょう。 (a) He may come soon. 「彼はすぐ来るかも知れない。」 (b) He may be sick now. 「彼は今病気かも知れない。」 (c) He might be sick now. 「ひょっとして彼は今病気かも知れない。」 (d) He may have been sick at that time. 「彼はあのとき病気だったかも知れない。」 (e) He might have been sick at that time. 「彼はひょっとしてあのとき病気だったかも知れない。」 - 125 - 推量の眼 (may, might) might He may come soon. (過去) 現在時 (未来) He may be sick now. might He may have been sick at that time. might 上の図で、may, might は共に現在時における話し手の推量を表しています。「推量の眼」はそこか ら「現在 」「過去」そして「未来」の時の流れのすべてに向けられています。 might は過去を示すの ではなく、may よりも可能性が低い場合に使われます。助動詞の後の come, be は現在とも過去とも 言えないもの、つまり時制をもたないもの(=不定詞)です。それらがいつ頃の動作や状態を表すか は、助動詞の表す「時(=現在時 」)を基準に判断します。基本的には、助動詞の表す「時」と一致 しているか、若干未来の方向にずれるかのいずれかです。例えば(a)では「現在」はまだ来ていませ んので、やって来るのは「近未来」になります。(b) においては、現在の時点で、彼が「現在」病気 であると推量しています。 (d),(e)は助動詞の後に<have 過去分詞>(=完了不定詞と言います)がきています。この場合は助 動詞の表す「時」との過去に向けての時差を示していると考えてよいでしょう。2文とも、 「現在時」 において「過去」の状態を推量していることになります。 次のような文脈の中ではどうなるでしょう。 He was absent from school yesterday. He is not coming today. He may have been sick. He may have been sick. (過去) 現在時 (未来) 彼が昨日学校を休み、今日もまだ登校していないという事実から、彼が昨日病気になり、その状態 が現在も継続しているのではないだろうかという推量と捉えられます。 6.<should(またはought to)+have 過去分詞>は何を表しますか? should, ought to はともに《義務・助言》を示すときに使います。should はより主観的なコメント、 - 126 - ought to は法や規則に関わって、より客観的なコメントに用いられる傾向があるようですが、意味の 差はないと考えてよいでしょう。 (a) You should (または ought to) go to see the movie. It's terrific. 「その映画を見に行ったらどう。すごくおもしろいよ。」 これらの助動詞の後に< have 過去分詞(完了不定詞)>が来ると、「∼すべきだったのに、実際は しなかった」という非難や後悔を表します。 (b) You should (または ought to) have come yesterday. 「昨日来るべきだったのに。」 《今頃来てももう遅いよ。》 7.can と be able to は同じ意味・用法ですか。 基本的には同じと考えてよいでしょう。概して、 can は自由度が高く 、「∼したいときはいつでも 出来る」《能力》を表します。それに対して、be able to は「一時的な能力」を言う場合によく使われ ます。例えば、水泳部のA君は風を引いて、今日は泳ぐことが出来ませんが、彼はいつでも泳ぎたい ときに泳ぐことの出来る《能力》を備えています。ですから、彼については、いつでも次のように言 うことが出来ます。 (a) He can swim. 「彼は泳げる。」 今日の彼の状況は次のように説明できます。 (b) He can swim, but he is not able to swim today because he has a cold. 「彼は泳げるのだけど、今日は風邪を引いているので泳げない。」 未来表現は助動詞を2つ使うことが出来ませんので、< will be able to >の形になります。 (c) I'm studying hard, so I will be able to speak French soon. 「しっかり勉強してますので、じきにフランス語が話せるようになるでしょう。」 過去表現については、could を使うと can の過去形なので「∼したいときはいつでも出来た」とい うニュアンスが込められます。従って、特定な状況下で「何かをすることが出来た」ことを言う場合 は、could を避け、be able to を用いるか、(f),(g)の表現を使うのがよいでしょう。 (d) He was a genius with languages. He could (または was able to) speak ten languages. 「彼は語学の天才だった。10の言語を話すことが出来た。」 (e) I was able to win the second place in the speech contest held on February 11. 「2月11日のスピーチコンテストで2等賞を獲得することが出来た。」 (f) Fortunately I succeeded in passing the entrance examination. 「運よく入試に合格することが出来た。」 (g) Though the weather was very bad, I managed to get to the destination. 「悪天候にもかかわらず、なんとか目的地にたどり着くことが出来た。」 8.相手への「助言」には You had better 使えばいいのですか? 状況や場面、相手との関係(間柄)、言い方等によりますが、一般的に had better は「助言」 「示唆」 から「命令「脅迫」まで幅広い意味を表します。例えば、相手の具合が悪く、病院に行くことを勧め る場合は、次のように言うことができるでしょう。 (a) You look very sick. You had better go to see a doctor. 「具合が悪そうだよ。医者に診てもらいに行ったらどう?」 should や must を用いると、had better よりも強い助言になります。(b),(c),(d)の順に意味合いが強 くなります。 - 127 - コミュニケーションに役立つ20のイディオム Idiom I: “Bark Worse Than One's Bite” <Dialog> A: Noriko, have you ever had Mr. Sakamoto as a teacher? B: Yes, I had his English class last year. Why do you ask? A: Well, I had my first class with him today. He seems really mean! He said that it will be really difficult, and that most people do not pass his class. He said that this will be the hardest class we'll ever take! B: Hahaha! Yeah, he always says that on the first day of class! Don't worry, his bark is worse than his bite! A: Really? B: Yeah. He's actually one of the nicer teachers. And as long as you study, his class is not that hard. A:のりこさん、坂本先生の授業を受けたことある? B:ええ、あるわよ。去年、英語の授業に出たけど。なに? A:今日、あの先生の授業の初日だったんだけど、ずいぶん意地悪そうだね。授業はうんと難しくて、 大半の生徒が単位をもらえないぞと言うんだ。学校で一番きつい授業だとも言ったんだけど。 B:ははは。それがあの先生の最初の授業の口癖よ。心配しないで!口ではそんなこと言っても、実 際はたいしたことないんだから! A:本当? B:ええ、どっちかと言えばいい先生よ。授業も、ちゃんと勉強すればついていけるわ。 <Commentary> The idiom “bark is worse than one' bite” refers to when a person does not really have the temper that they project. It is used to refer to a person when that person makes themselves appear mean, or strict, or bad-tempered, when in reality, they are quite the opposite of their projected image. The idiom invokes the image of a dog which barks loudly and viciously, but is actually small and harmless. やかましく吠える犬が怖い犬かと言うと、実際はそうでなく、かみついたりしないものです。この イディオムは、ある人が一見怖そうに、あるいは厳しそうに見えても、本当はそのイメージとは逆に、 やさしい人だったりするときによく使われます。 - 128 -