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第9章 小型ロケットTEXUS46号機による液滴列燃焼実験

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第9章 小型ロケットTEXUS46号機による液滴列燃焼実験
平成 22 年度 JAROS 宇宙環境利用の展望
第9章 小型ロケットTEXUS46号機による液滴列燃焼実験
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
ISS科学プロジェクト室
菊池 政雄
Droplet Array Combustion Experiment by Sounding Rocket TEXUS46
Japan Aerospace Exploration Agency
Institute of Space and Astronautical Science
ISS Science Project Office
Masao Kikuchi
ABSTRACT
Microgravity combustion experiment “PHOENIX” was successfully performed by
the flight of TEXUS46, launched on Nov. 22, 2009. The flight experiment had been prepared and
executed as a cooperation project between JAXA and ESA since 2006. The Droplet Array
Combustion Unit (DCU), which was developed by JAXA, was on board in the TEXUS46 to
perform combustion experiment of fuel droplet array. In this paper, overview of the experimental
project is reported.
1. はじめに
2009 年 11 月 22 日午後 0 時 15 分(現地時間),スウェーデン・キルナ郊外のスウェーデン宇宙
公社(SSC)エスレンジ射場から,微小重力実験用小型ロケット TEXUS46 号機が打ち上げられた.
TEXUS46 号機には,JAXA が開発した燃焼実験装置が搭載されており,JAXA と欧州宇宙機関
(ESA)の共同ミッションとして,「高温下における部分予蒸発が液滴列燃焼と窒素酸化物生成に及
ぼす影響に関する研究(PHOENIX)」が実施された.ロケットの飛行は順調に行われ,約 6 分間の
微小重力時間を利用したフライト実験は成功を収めた.
筆者は,日欧研究者チームのコーディネータ兼プロジェクトの取り纏めとして,本プロジェクトの立
ち上げから,実 験 計 画 の作 成 や装 置 開 発 も含 め,数 年 間 にわたり本 実 験 計 画 に関 わってきた.6
分間の微小重力実験時間はあっという間であったが,そこに至るまでの道のりは決して短く平坦で
はなかった.本稿では,本プロジェクトの実現に至る経緯からフライト実験までの道のりについて振り
返る.
2. 経緯
今回の日欧共同の小型ロケット実験計画が実施に向け動き出す契機となったのは,JAXAおよ
びESAの支援を受けそれぞれ活動していた日欧双方の研究者グループ間の協力であった.日本
側では,JAXA宇宙科学研究所長の諮問委員会である宇宙環境利用科学委員会の支援を受け,
噴霧燃焼メカニズムの体系的解明と次世代の噴霧燃焼数値シミュレーション構築を目的とした液
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滴群燃焼ダイナミクス研究班ワーキンググループ(以下,「液滴燃焼WG」)が活動していた.一方,
欧州では,ESAの微小重力応用プログラム(Microgravity Application Programme: MAP)の支援を
受け,ガスタービンなどの噴霧燃焼機器における着火・保炎特性の高精度予測および燃焼排ガス
中の窒素酸化物(NOx)抑制などを目的としたCPS(Combustion Properties of Partially Premixed
Spray Systems)トピカルチーム(以下,「CPSチーム」)が活動中であった.
液滴燃焼WGでは,噴霧燃焼特性に与える液滴の予蒸発効果を調べるため,部分予蒸発した
燃料液滴列の火炎燃え広がり特性に関する研究を主要な研究課題の一つとして行ってきており,
落下塔による微小重力実験や数値シミュレーションによる地上研究を展開してきた 1,2) .それにより,
液滴列の予蒸発は火炎構造,燃え広がり挙動,火炎燃え広がり速度などに大きく影響することが
示されていたが,落下塔による微小重力実験時間では予蒸発が一定程度以下の条件でしか実験
をすることができず,予蒸発がさらに進行した場合の実験データ取得や数値シミュレーション結果と
の比較を行うことはできなかった.このため,より長時間の微小重力実験が可能な小型ロケットによ
る宇宙実験計画の検討をかねてより進めていた.一方,CPSチームにおいても噴霧燃焼に与える液
滴の予蒸発効果が主要な研究課題の一つとなっており,単一液滴を対象とした詳細な数値シミュ
レーションと噴霧を用いた微小重力実験による研究を展開していた 3,4) が,単一液滴と噴霧では系
があまりに異なり,計算結果と実験結果の比較,さらにそれに基づく予蒸発効果の考察が十分でき
ない状況にあった.これらの背景に基づき,双方の協力により互いに不足している視点を補いつつ,
より多くの成果を得ることが可能になるとの共通認識を得て,液滴燃焼WGとCPSチームの研究協
力が始まった。
その後,CPS チームとの協力を前提とした TEXUS ロケット実験の共同実施の提案が 2005 年末
に ESA から JAXA にあった.CPS チームおよび ESA との調整を経てまとめられた実験計画案は,宇
宙環境利用科学委員会での評価(2006 年 4 月),JAXA と ESA 間のレターアグリーメント締結(2006
年 7 月)を経て,実験実施に向けた準備作業が正式にスタートした.
3.プロジェクトの概要
本プロジェクトの実施体制を図 1 に示す.本プロジェクトは,JAXA と ESA が取り交わした協力協
定に基づき,相互の役割を分担して遂行した.JAXA および ESA の主な役割分担は以下の通りで
ある.
① JAXA は,液滴燃焼 WG および CPS チームメンバーから構成される日欧国際研究者チームの
実験要求に基づき,フライト実験計画を作成する.
② JAXA は,実験要求および TEXUS ロケット等とのインタフェースを考慮し,TEXUS ロケットに搭
載する実験装置を開発する.
③ ESA は,JAXA が開発する実験装置を搭載して微小重力実験を行うために TEXUS ロケットによ
る実験機会を提供する.
④ ESA は,実験装置の TEXUS ロケットへのインテグレーション,全体試験,射場におけるミッション
運用を行う.
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また,日欧国際研究者チームのメンバーをTable.1に示す.日欧研究者チームの中で,日本側
は火炎燃え広がり特性の変化に着目する一方,ドイツ・ミュンヘン工科大学の研究者を中心とする
欧州側は燃焼ガス組成,特に窒素酸化物(NOx)濃度が部分予蒸発によりどのように変化するのか
に着目している 5) .
協力に関するAgreement
JAXA ISS科学プロジェクト室
欧州宇宙機関(ESA)
・TEXUSロケット実験機会の提供
TEXUSロケット実験プロジェクトチーム
・プロジェクト取纏め
・実験計画作成
日欧国際研究者チーム
・作業計画整備
・実験装置開発
・宇宙実験実施
日本研究者
欧州研究者
・地上研究
・実験要求詳細化
・地上研究
・実験要求詳細化
・実験試料の準備
・実験結果の解析・評価
・実験結果の解析・評価
契約
契約 (フ ライ トチ ケッ ト、
シス テム イン テグ レー ショ
ン費用等支払い)
契約
㈱IHIエスキューブ
三井物産エアロス
ペース株式会社
・実験装置開発
・支援作業等
契約
EADS Astrium社
・TEM-JCMの一部機器製作・調達
・TEM-JCMのインテグレーション・試験
・TEM-JCM用地上支援装置の製作
・TEXUSロケット全体インテグレーション
・打上げ・回収
・TEXUSロケット運用メーカ
の作業管理等
図1 本プロジェクトの実施体制
表1
日欧国際研究者チームのメンバー
名前
所属
菊池 政雄
JAXA
梅村 章
名古屋大学
三上 真人
山口大学
野村 浩司
日本大学
森上 修
九州大学
Christian Eigenbrod
独・ブレーメン大学
Thomas Sattelmayer
独・ミュンヘン工科大学
Klaus Moesl
独・ミュンヘン工科大学
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4.実験内容について
4.1 実験の目的
本研究(PHOENIX)は,高温空 気中 に曝された燃料液 滴が一部蒸 発した状態(部分予蒸 発 状
態)での燃焼現 象に関 する研究である.直 線上 に複数 個の液滴が等間 隔で配置された液滴 列 を
対象とし,液滴列に沿った火炎の燃え広がり特性および燃焼ガス組成が部分予蒸 発進行度の違
いによりどのように変化するか調べることを目的としている(図 2 参照).部分予蒸発を伴う液体燃料
の燃焼現象は,燃料が全て気化した混合気(ガス)の燃焼と純粋な液滴燃焼の中間的形態に位置
づけられ,予混合燃焼と拡散燃焼が並存する状態での燃焼現象として燃焼学上興味深いとともに,
液体燃料焚きガスタービンやジェットエンジンなどの実用燃焼機器とも大きな関連があり,様々な視
点での研究が行われている.しかし,実用燃焼器に近い形態での噴霧を用いたマクロ的研究は比
較的多いものの,部分予蒸発がどのようなメカニズムにより燃焼特性の変化に影響を及ぼすかにつ
いて詳細に明らかにするための微視的視点に立脚した研究は少ないのが現状である.筆者らの研
究グループは,落下塔による短時間微小重力実験により部分予蒸発液滴列の火炎燃え広がりメカ
ニズムの研究を進めてきた
1)
.自然対流が抑制される微小重力実験では,現象の観察が容易な比
較的直径の大きな液滴を用い,液滴列の中心軸まわりに対称な予蒸発蒸気層の形成および列の
一端で着火した後の燃え広がり挙動の高精度観察が可能となる.
燃料蒸気層
d
S
(a) 予蒸発進行度:小
着火
燃料液滴
燃料蒸気層
d
S
・燃え広がる火炎の構造
・燃え広がり(伝播)速度
・燃焼ガス組成
などにどのような影響?
燃料液滴
(b) 予蒸発進行度:大
図2 研究の目的
これまでの短時間微小重力実験により,部分予蒸発の進行に伴う燃え広がり速度の増大および
火炎構造の変化などが明らかになったが,実験時間の制約により予蒸発の進行度が大きい条件で
の実験を行うことはできなかった.TEXUSロケットを用いる今回のフライト実験では,予蒸発進行度
が大きい条件を中心に部分予蒸発が液滴列の燃焼特性に与える影響を解明することを意図した.
4.2 フライト実験概要
ここで,TEXUS ロケットによるフライト実験の概要を説明する.ロケットが打ち上げ後に微小重力
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環境に移行したら,まず燃料液滴列の生成を行う.液滴列の生成・支持は落下塔実験 4) と同様に,
X 字に交差させた 2 本の SiC ファイバ(直径約 14μm)の交点に,細長く引き伸ばしたガラス管の先
端(直径約 40μm)から燃料を押し出し付着させることにより行われる.SiC ファイバは実験条件であ
る液滴間隔 S = 18 mm で液滴列支持フレームに設置される.初期直径約 1.5mm の燃料液滴列の
生成が完了したら,500K に予熱されている燃焼容器の中に支持フレームごと挿入する.一定の待
ち時間 t w 後,支持フレームの端に設置される着火用電熱線に通電し,端の液滴を着火させる.着
火後の火炎伝播・燃焼挙動は,通常の CCD カメラのほか高速度ビデオカメラにより撮影される.ま
た,予蒸発時の液滴の直径変化を観察するために,バックライトを当てた液滴の拡大画像の撮影も
行う.さらに,欧州側の実験目的である燃焼後の燃焼ガス採取を行う.燃焼ガス採取後,液滴列を
燃焼容器から出して燃焼容器内ガスの真空排気ならびに新たな空気供給を行い,次の燃焼実験
に備える.この操作を繰り返し,約 6 分間の微小重力時間内で 4 回の燃焼実験を行うことを計画し
た.各回の燃焼においては, t w を 5s から 18s までの間で変化させ,着火時における液滴列の予蒸
発の進 行 度 合いを変化 させて実験 データを取 得した.また,採取された燃焼ガスサンプルは装 置
回収後にミュンヘン工科大学に運び,FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)等によるガス組成分
析を行うこととした.
5.TEXUSロケットの概略
今回のフライト実験で使用した TEXUS ロケットについて概略を説明する.欧州で現在運用されて
いる微 小 重 力 実 験 用 の小 型 ロケットとしては,大 型 のものから順 に,MAXUS, MASER, TEXUS,
Mini-TEXUS の 4 種類がある.これらのうち,MASER 以外の 3 つのロケットは,ドイツ・EADS Astrium
社 により商 業 ベースで運 用 が行 われており( MAXUS はスウェーデン宇 宙 公 社 ( SSC) と共 同 ) ,
MASER のみ SSC により運用されている.これらのロケットを用いる微小重力実験は,ほぼ全てが
ESA およびドイツ航空宇宙センター(DLR)によるミッションとなっており,年 2 回程度のペースで定
常的に打ち上げが実施されている.打ち上げ・回収は,スウェーデン北部・キルナ郊外にある SSC
の Esrange 射場で行われる.同射場は,北緯 67 度の北極圏内に位置しており,11 月頃から 5 月
頃にかけては一面雪に覆われる.TEXUS などの微小重力実験用小型ロケットの打上げは,エリア
内に点在する湖が凍りつく冬期に行われる. TEXUS ロケットの歴史は古く,1977 年にまで遡る.当
初 ,スペースシャトル実 験 の予 備 実 験 を行うために開 発され,数 多くの打 上げ実 績を有している.
欧 州 の微 小 重 力 実 験 用 小 型 ロケットでは最 も打 上 げ実 績 が多 く信 頼 性 も高 いロケットといえる.
TEXUS ロケットの概略図を図 3 に示す 6,7) .ペイロード部には,通常 3~4 個の実験モジュールが搭
載される.TEXUS ロケットは,最高高度約 260km まで到達することにより約 6 分間の微小重力環境
を提 供 するものであり,ペイロード部 は大 気 圏 再 突 入 後 にパラシュートを開き地 上 に着 地 する.着
地後,直ちにヘリコプタによりペイロード部の回収作業が始められ,打ち上げ後約 1~2 時間程度で
実験装置は研究者の元に戻ってくる.MAXUS など他のロケットと同じく,打上げ後に地上からのテ
レコマンド送信および地上へのリアルタイム画像ダウンリンクが可能である点が特徴である.
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Recovery System
Scientific Payload
Max 3400
2nd Stage Motor
Max 13000
1st Stage Motor
図3 TEXUSロケットの概略図
6.実験装置
6.1 実験モジュールの概要
今回の実験において TEXUS ロケットに搭載された燃焼実験モジュール(TEM-JCM)の大部分を
占めるのは,JAXA が開発した TEXUS ロケット搭載液滴列燃焼実験装置(DCU)である.DCU を含
む TEM-JCM の概念図を図 4 に、またフライト品の外観を図 5 に示す.TEXUS ロケットペイロ
ー ド 部 の 構 造 体 を 兼 ね る 円 筒 状 の Outer Structure の 内 側 に , 実 験 装 置 を 搭 載 す る た め の
Experiment Deck が設置されており,DCU もその上に固定搭載される.Outer Structure の内部は
そのままでは与圧空間とはならないため,DCU を大気圧状態に保つ目的の与圧カバーをかぶせる
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構 造 となっている.TEM-JCM は全 高 が 1m を超 える大 型 の実 験 モジュールであり,Experiment
Deck 上の固定だけでは構造的に十分でないため,モジュールの上部においても Outer Structure,
与圧カバー,DCU の 3 者を固定した.Experiment Deck の下部には,Astrium 社が製作した DCU
制御部,バッテリ,その他の電子機器類が搭載される.与圧空間内部の DCU 各機器の制御,それ
らからの信号・映像などのやりとりは,Experiment Deck 上に設けられる気密コネクタを通じて行われ
る.また,射点において打ち上げ前に燃焼容器内空気の予熱などを行う際,熱が与圧空間内部に
こもり温度が高くなり過ぎないようにするため,冷却水による冷却を行うための配管が与圧カバー上
部から DCU に出入りしている.さらに与圧カバー上部には,フライト実験中,燃焼後の燃焼ガスを
外部に真空排気するための配管インタフェースも設置されている.DCU を含む TEM-JCM の総重
量は,約 103kg である.
Telemetry data downlink
(via Service Module)
Video downlink
(via TV module)
Outer structure※2
Vacuum protection※2
(Pressurized space)
Air tank
Gas vent line
Droplet Array
Combustion Unit
(DCU)※1
Gas sampling
cylinders
Cooling water line
Combustion
chamber
Experiment deck※2
Control unit,
batteries, etc.※2
※1:Developed by JAXA.
※2:Developed by EADS Astrium.
図4 TEM-JCMの概念図
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全高:約1290 mm
総重量: 約103 kg
与圧カバー無し
与圧カバー有り
外筒内に設置状態
図5 TEM-JCMフライト品外観
6.2 燃焼実験装置の概要
DCU の概略図を図 6 に示す.各サブシステム・コンポーネントは,Experiment Deck を含め計 6
枚の円板状のプレート上に搭載されている.以下に,各サブシステムの概要を説明する。
1) 液滴列生成部
燃料液滴 列を生成するためのガラス管ホルダを,ステッピングモータ駆動の移動機 構により液滴
列支持部方向へ前進・後退させる生成部移動機構と,燃料パックに充填された燃料をマイクロポン
プにより送り出しガラス管ホルダに供給する燃料供給部から構成される.
2) 液滴列支持部
液滴列を構成する 5 個の n-デカン液滴を,X 字に交差させた SiC ファイバ交点上に支持する.
また,液滴列の端の液滴を着火するための電熱線を両端に有している.
3) 液滴列除去部
SiC ファイバ交点に 2 つのノズルから空気を噴射し,燃焼後にスス等の付着物を除去する.また,
液滴列生成部ガラス管先端に気泡が混入したような場合,そのままだと意図した大きさの液滴が生
成されなくなる.この場合,燃料供給部から十分な量の燃料を押し出して SiC ファイバ交点に付着
させることによりガラス管先端まで燃料を満たす必要がある.この操作後,SiC ファイバ交点上の不
要な液滴を吹き飛ばして除去するためにも使用される.
4) 液滴列移動部
モータの回転運動をスライダ-クランク機構により直線運動に変換し,移動部上に結合された液
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滴列支持部の液滴生成位置(第 3 段プレート上)と燃焼位置(第 4 段プレート上)との移動を行うも
のである.
5) 燃焼容器部
液滴列の燃焼を行うための容器である.ヒータおよび断熱材が設置されており,熱電対出力によ
るフィードバック制御により内部空気の昇温・保持が可能である.下面にエアシリンダ駆動の開閉扉
を有し,燃焼実験時には扉が開いて液滴列を挿入する.また,観察用のガラス窓を 2 面に有してい
る.燃焼容器部周囲には,与圧ドーム内部空間の温度上昇を抑制するための冷却水配管が設置
される.
6) 空気供給・排気部
空気供給部は,空気ボンベに充填された高圧空気を所定の圧力まで減圧し,液滴列除去部,開
閉扉駆動機構などに供給する.さらに,大気圧まで減圧のうえ燃焼実験に必要な空気を燃焼容器
部に供給する.また排気部は,燃焼実験後に燃焼容器内部のガスを外部に真空排気する.
7) 観察部
DCU には,液滴生成観察部,燃焼観察部,バックライト観察部,および高速度ビデオカメラ観察
部の計 4 系統の観察機器が搭載されている.液滴生成観察部は,CCD カメラにより液滴列の生成
過程を撮影する.燃焼観察部は,CCD カメラにより燃焼容器内における液滴列の燃焼挙動を撮影
する.バックライト観察部は,CCD カメラ,バックライト用 LED,および撮影画像記録用のデジタルビ
デオ等で構成される.1 個の液滴を拡大してバックライト撮影することにより,液滴直径の算出を行う.
高速度ビデオカメラ観察部は,燃焼容器内における液滴列の火炎伝播挙動を 500 コマ/秒で高
速 度 撮 影 す る.高 速 度 ビデオカメラ部 はバックアップバッテリを有 しており,大 気 圏 再 突 入 前 に
TEM-JCM の主電源供給 OFF となった後も,カメラ内部のメモリ上に撮影データを保持し続ける.
液滴生成観察部および燃焼観察部の CCD カメラ映像は,ダウンリンクにより地上支援機器(GSE)
上で録画される.
8) 計測部
与圧ドーム内部空間の温度,圧力を計測するための測温抵抗体,熱電対,および圧力センサ等
で構成される.
9) 燃焼ガス採取部
フライト実験中の 4 回の燃焼後に燃焼容器内の燃焼ガスを採取し,計 4 個の金属製ガス採取シリ
ンダにそれぞれ保管する.ガス採取は,予め真空引きしておいたガス採取シリンダと燃焼容器内に
設置される金属製のガス採取用チューブの間の電磁弁を開くことにより行う.DCU が回収された後,
4 個のガス採取シリンダは DCU から取り外され,ガス組成分析を行うためミュンヘン工科大学に輸
送される.燃焼ガスと金属表面の反 応により燃焼ガス組成 が変化するのを防ぐため,ガス採取 シリ
ンダ内部および配管内部の全ての金属表面には特殊なコーティングが施されている.
10) 構造部
第 1 段から第 6 段までの円板状プレート,それらを支える支柱などで構成される.
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Air tank
Gas sampling
cylinders (X4)
Combustion
chamber
Droplet array holder
&
Generation device
High-speed video
camera
(a) Front view
(b) Side view
図6 DCU の概略図
7.実験準備
7.1 ドイツでの装置インテグレーション作業
2006 年から開始された DCU の開発では,JAXA と装置開発メーカ(IHI エスキューブ)が協力し
つつ,エンジニアリングモデル(EM)の製作・試験,フライトモデル(FM)の製作・試験と進められた.
日本国内での試験および輸送前審査会(PSR)を経て,DCU FM および関連する支援機器は
2008 年 11 月にドイツ・ブレーメン郊外の Astrium 社 Trauen Center に輸送された.Trauen Center
は,規模は比較的小さいものの Astrium 社の小型ロケット搭載実験装置開発の中心拠点であり,
森の中の秘密基地的な印象の事業 所である.機械系,電気 系,光学系,ソフトウェア,システムな
ど専門分野毎の技術者と,実際に機械工作,電気配線や電子回路の製作などを行う職人を中心
とした小規模のグループがおり,高度な機械加工を行うための工作機械や振動試験装置なども設
置され,非常に効率的に装置開発が進められる環境にある.過去の TEXUS および MAXUS ロケッ
ト搭載実験装置のほとんど全てが Astrium 社のこの小規模なグループにより開発されており,その
経験と実績に裏打ちされた自信と誇りを皆が持っているように感じた.
Trauenでは,Astrium社が製作した制御機器類,電気電子機器類などとDCUを結合し,
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TEM-JCMとして完成させるためのインテグレーション作業と試験が行われた.TrauenにDCUが到
着した時点においては,2008年秋に筑波宇宙センターで行った振動試験において発生した不具
合(燃焼ガス採取系のバルブからの空気漏れ)が未解決であったが,不具合の対策処置も2008年
末には完了した.そして,JAXA,ESA,Astrium社,日欧研究者同席のもと,TEM-JCMとしての受
領試験を2009年3月に行い,各システムが正常に作動し,フライトシーケンスを問題なく実行できる
ことを確認した.また,TEM-JCMとAstrium社の地上支援装置(EGSE)を用いてフライト実験中のテ
レコマンド操作を模擬したフライト実験運用訓練も実施した.
ついに TEM-JCM が完成したものの,我々はここで思わぬ事態に見舞われた.TEXUS のロケット
モータ点火装置の安全性について Astrium 社が SSC に提出していたウェーバー(特例の了承)申
請が,エスレンジ射場の安全評価委員会に却下され,予定されていた 2009 年春に打ち上げること
が極めて困難になったと ESA から突然知らされたのである.聞けば,同様のウェーバー申請は前回
まで問題なく了承されていたとのことで,Astrium 社も ESA も全く予想していなかった事態らしく,彼
らも大変困惑していた.打ち上げがいつ行われるのか決まらない不安を抱えたまま,我々は Trauen
を発ち,帰国の途に就いた.
7.2 日本での実験準備など
TEXUS46号機の打上げが2009年11月に決まったとESAから正式に連絡があったのは,2009年
の夏になってからであった.この間,我々は来るべき射場作業に向けた計画書や手順書の整備を
行ったほか,DCUのEMとJAXAのGSE(DGSE)を用いて簡易的ではあるがフライト実験運用訓練を
日本で行ったりした.FMを用いた訓練はTrauenでみっちり行い,Astrium社のベテラン技術者から
もお墨付きをもらってはいたが,予期しなかった打上げの延期に伴い本番までの時間が空き,練度
の低下が懸念されたためである.フライト運用訓練においては,予定している実験シーケンスが問
題なく流れているケースはもちろんのこと,不具合発生ケースについても適切な対処ができるよう訓
練を行った.
また打上げの延期に伴い,TEM-JCM は想定していなかった長期間に渡り Astrium 社で保管さ
れることになった.当初は,Trauen で実験モジュール単体として完成した後,速やかにミュンヘンの
Astrium 社工場に輸送して他の相乗りペイロードと組み合わせたペイロード部全体としてのシステム
試験を行い,エスレンジ射場に輸送する予定となっていた.モジュール完成から本番のフライト実験
までは長くても 2 ヶ月程度の想定である.それが今回は 8 ヶ月以上の期間に渡ることになった.当然,
その程度の期間では DCU 搭載コンポーネントの寿命期間が終わるものはない.しかし,そのような
長期間に渡り DCU に火を入れず,何もしない状態で保管しておき問題が起きないという保証はどこ
にもなかった.そこで,DCU の機能確認と保全作業を 2009 年 9 月に Trauen を訪れ行うこととした.
機能 確 認の結果,液滴 列生 成 部のガラス管のうち一部から燃料が正常 に吐出されない不具 合 が
発見された.予め用意してあった生成部予 備品 に交換し,不具合 品を日本に持ち帰り,詳しい原
因調査を行った.その結果,ガラス管先端部に粘度の高い物質が詰まっていて,燃料の吐出を塞
いでいることが分かった.この物質は,ガラス管内に残留していた燃料(n-デカン)が,長期保管中
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にそれ自身の変質あるいは他物質との反応により生成されたものと推測された.このような不具合ケ
ースは我々もはじめての経 験であったが,いずれにせよ,試 験で一 度 使 用した生 成 部 からの燃 料
除去,保管前の清浄化工程が不十分であったことが疑われた.この場合,Trauen で DCU に搭載し
てきた予備品についても同じ事象が今後発生する可能性がある.そこで,直ちに液滴生成部の部
品および組み立て工程全般に渡るコンタミ防止対策の強化とともに,残留デカンの除去・清浄化工
程を徹底したうえで,液滴列生成部を新たに数式追加製作した.もちろん,追加製作した予備品に
ついては振動試験も行い,フライト実験に使用可能であることを確認した.
2009 年 10 月,ミュンヘンで行われた TEM-JCM を含むペイロード部のシステム試験が問題なく終
了したとの連絡が Astrium 社からあった.TEM-JCM はいよいよエスレンジ射場に輸送されることとな
った.
7.3 射場作業
射場作業にあたる日本チームは,TEXUS46号機打ち上げ予定日の約2週間前となる2009年11
月上旬,エスレンジ射場に到着した.Astrium社のチームは,数日前に現地入りしている.ちなみに
日本からエスレンジへは実に長い道のりであり,1日で成田からキルナに到着することはできず,途
中ストックホルムで1泊する行程である.TEM-JCMを含む全てのペイロードおよびロケットモータ等
のインテグレーションと試験作業は,管理棟や宿泊施設のあるエリアから約1km離れたところにある
施設で行われる.ペイロードインテグレーションホールと呼ばれる大きな部屋には,TEXUS46号機と
続く47号機のペイロード,地上支援装置(EGSE),TEXUSロケットの支援モジュール(TSM),その
他の機器や工具類が所狭しと並べられていて,Astrium社を中心とする作業チームが実験装置や
ロケット系の準備を進めていた.
射場作業では,DGSEを使用してのDCU機能確認を最初に行った.この際,9月にTrauenで行っ
た保全作業で交換した液滴列生成部を取り外し,顕微鏡でガラス管内部の状態を観察した.その
結果,やはり内部に何らかの残留物が認められたため,追加製作した新しい生成部に再度交換し
た.この不具合は,打ち上げが延期になったおかげで必要な対処策を講じることができたものであり,
不幸中の幸いであった.DCUの機能確認後は,TEM-JCMとしてのコンフィギュレーションで
Astrium社のGSEと組み合わせての機能確認を行った.小さなトラブルはいくつかあったものの作業
は概ね順調に進み,打ち上げ前最後となるフライト実験運用訓練なども実施した.日本でEMを用
いた訓練を行っていたおかげで,特に問題なく対応することができた.打ち上げ予定日4日前には
ベンチテストが行われた(図7参照).ベンチテストは,TEXUSロケットに搭載されるTSM,画像ダウン
リンクを行うためのTVモジュール,GSE,地上通信設備とペイロードを組み合わせ,これら全てが問
題なく動作するかを確認する試験である.TSMからの実験開始(μG)信号の受信,TSMを介した
TEM-JCMテレメトリデータの送信,TVモジュールを介した実験画像の送信,GSEからのテレコマン
ド送信など全て問題なく動作することを確認した.翌日は,TEXUS46号機における我々の相乗りペ
イロードであるESAの電磁浮遊炉(TEM-EML3)とTEM-JCM,さらにTSMなどを結合し,ペイロード
部を完成させるペイロードインテグレーション作業が行われた.また,テレコマンド,テレメトリ等の無
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平成 22 年度 JAROS 宇宙環境利用の展望
線による送受信が衛星,地上設備を経由して干渉なく正常にペイロード部と行えることを確認する
ためのRF Interference Testなども行われた.
図7 TEM-JCMベンチテストの様子
この直後,液滴列支持部で液滴を支持するためのSiCファイバの一
部が,固定用接着剤ごと金属フレームから剥離する不具合が発見され
た.ESAおよびAstrium社とも協議しつつ,原因究明と対策について検
討を行った.接着剤塗布後に熱処理を行う処置の有効性が確認され
たことから,急きょこの処置を施した支持部を搭載し,打ち上げに向け
た残作業を進めることとなった.不具合のためEMLと分離されていた
JCMを再度EMLと結合し,再度試験を行い問題ないことを確認した.
翌日,JCMとEMLから成るペイロード部(図8参照)が射点に運ばれ,
先に設置されていたロケットモータ部と結合された.最初のカウントダウ
ンは11月16日に設定されたが,JCMの不具合処置のため,当初予定
よりも数日遅れるスケジュールとなった.
図8 TEXUS46号機のペイロード部
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8.フライト実験
8.1 打ち上げと実験実施
11 月 16 日,最初のカウントダウンが行われた.JCM の実験運用要員である,筆者を含め 3 名の
日本チームは,打ち上げ予定時刻の 3 時間ほど前(現地時間の午前 7 時ごろ)にブロックハウスに
入室し,Astrium 社と連携しつつ JCM の打ち上げ前準備を行った.途中,HOLD(カウントダウンの
一時中断)を挟みつつ,打ち上げ 20 分前まで作業を進めた時点でこの日の打ち上げ中止がアナ
ウンスされた.後から知ったことだが,かなり早い段階で天候条件不良のためこの日の打ち上げ中
止は決まっていたが,我々を含む要員の訓練のため,ブロックハウスに連絡することなくカウントダウ
ンを継続していたのであった.H-IIA のような大型ロケットの場合,一度打ち上げが延期されると次
のカウントダウンは少なくとも 1 日以上あけることが通常であるが,TEXUS ロケットは翌日も同じ時刻
にカウントダウンが行われた.しかし,この日も悪天候により打ち上げは中止となった.TEXUS ロケッ
トの打ち上 げカウントダウンは,事前 の天 気 予 報 により明らかに打ち上げ困 難な場合 を除き,僅 か
でも打ち上げ可能性のある日は毎日行われた.カウントダウン中,我々はブロックハウスにおいて極
度の緊張状態に置かれる.これが連日,打ち上げ直前まで進行しては中止となり毎日繰り返される
のである.結局,11 月 21 日までの 6 日間で計 5 回のカウントダウンを行ったが,天候条件不良によ
り全て中止となった.打ち上げ条件を満たすには,射点近傍の天気に問題がないことはもちろん,
ロケットの飛行経路上の高層大気の状態,ペイロード着地予想地点の視界,風速条件なども全て
整うことが必 要であった.あいにくこの冬の欧 州は何年に一度 かの悪天 候 であり,なかなか条件の
整う日が訪れなかった.この時期のエスレンジは,日の出が午前 9 時頃,日没が午後 2 時頃と昼が
非常に短くなっており,しかも1日1日と昼の時間が短くなっていく.打ち上げ可能な時間帯も日1日
と急速に短くなっていくのである.毎日繰り返されるカウントダウンの緊張に加え,天候見通しがなか
なか立たない状況に置かれ,我々の疲労も極値に達しつつあった.
11 月 22 日,この日も同じように我々はブロックハウスに午前 7 時頃に入室した(図 9 参照).この
日は,事前の天気予報によれば天候は良く,ペイロード回収用ヘリコプタの飛行も問題ないとのこと
だった.ただ,若干風が強いことが懸念材料であった.カウントダウン中には,射場から天候観測用
の気球が何度も上空に放球される.上昇していくその気球がどのぐらいの速さで横方向に流されて
いくかを 地 上 から 見 て いれば, 風 のだいたいの 状 況 は 見 てとれる. ブ ロックハウスから 外 に 出 て
Astrium や EML チームのメンバーと一緒に気球を見ていると,風の状態は今までで一番良いように
思えた.カウントダウンは比較的順調に進んだものの,打ち上げ 30 分前で HOLD となった.断続的
に HOLD 延長のアナウンスが入り,今日もダメなのか?との不安がよぎる.2 時間近くの HOLD の後,
ついにカウントダウンを再開するアナウンスがあった.Astrium のメンバーに確認したところ,「打ち上
げ GO で決定」とのことだ.時刻は既に正午近くであり,狭い Launch Window のぎりぎりまで待って,
ようやく天候条件が整ったことが誰にも分っていた.我々は,ついに訪れたその瞬間に身震いすると
ともに,集中力を高めた.
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図9 打ち上げ当日のブロックハウス内
午後 0 時 15 分,ついに TEXUS ロケット 46 号機は打ち上げられた(図 10 参照).厚い強化コン
クリートで囲われたブロックハウスの中にいても,ロケットの轟音が振動とともに伝わってくる.打ち上
げから約 60 秒後,ほぼ予定通りの時刻にロケットからのダウンリンク映像とテレメトリデータが EGSE
のモニタ上に映った.事前の訓練どおり,我々3 名のチームは定められた役割・手順に従い,実験
操作を開始した.まず,テレコマンド操作により液滴列生成を行う.5 個の液滴は全て問題なく SiC
ファイバ交点に生成された.これにより,土壇場で問題になったファイバ固定用接着剤の剥離が起
きていないことはほぼ確 実である.とりあえず,最 初の大きな山は越えた.液 滴 列 を燃 焼 容 器 内 に
移 動 後 ,自 動シーケンスで端の液 滴への着 火 が行われた.モニタ上 に液 滴 列 に沿 った火 炎 伝 播
映像が映った(図 11 参照).思わず歓声が上がる.1 回目の実験条件は問題なく終了した.今回の
フライト実験では,4 つの実験条件の優先順位を考慮し,重要度の高い条件から順番に実験を行う
こととしていたため,1 回目の実験が順調に終わった時点で我々はある程度落ち着くことができた.2
回目,3 回目の実験条件も順調に終え,4 回目の実験準備操作に入った頃,突然ダウンリンク映像
とテレメトリデータが途絶し,テレコマンドの応答もなくなり,実験継続ができなくなった.6 分間の微
小重力実 験 時間はまたたく間に終わった.最後の実験条件 で原因不明 のトラブルが起こったもの
の,残る 3 回の条件の成功には確信を持っていたため,実験終了と同時に,我々は互いに,そして
ブロックハウスにいた Astrium のスタッフらと抱き合って喜びを分かち合った.
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図10 TEXUSロケット46号機の打ち上げ(2009年11月22日)
t =0.97sec t =1.038sec 図11 フライト実験で撮影された火炎燃え広がり画像
8.2 回収
フライト実験の興奮がまださめぬうちに,打ち上げから約 1 時間 30 分ほどして,回収用ヘリコプタ
に吊 り下 げられてペイロード部 が我 々のもとへ戻 ってきた.ペイロードは直 ちに分 解 され,我 々は
JCM の外観検査,実験データの回収および燃焼ガス採取容器の取り外し作業を行った(図 12 参
照).JCM には外観上の異常もなく,高度約 250km の宇宙空間に行って戻ってきたなどとは思えな
い程であった.今回のフライト実験では,ダウンリンクで地上にて録画した画像以外に,高速度ビデ
オカメラなど,JCM に搭載した機器でのみ録画した画像データもあったため,これらのデータを確実
に回収するまでは気が抜けない.全てのデータは正常に記録・録画されており,データ回収作業は
問題なく終了した.実験データをクイックに確認したところ,3 回目までの実験は問題なく実施されて
おり,画像を含む全てのデータも正常に取得されていることが確認できた.やはり,4 回目の実験は
実施されていなかったが,実験条件の重要性を鑑みればフライト実験は 9 割がた成功したと言えた.
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平成 22 年度 JAROS 宇宙環境利用の展望
ここに至るまで要した長い年月と多くの関係者による努力,そして射場作業にて発生した不具合と
7 回にも渡る連日のカウントダウンを乗り越えて得られた成果を思い,筆者は目に熱いものがこみ上
げてくるのを抑えることができなかった.
図12 ヘリにより回収された実験ペイロード(左)と TEM-JCM の分解作業(右)
打 ち上 げの 2 日 後 ,実 験 データを受 け取 り,実 験 装 置 類 の梱 包 と撤 収 作 業 を終 えた我 々は
Astrium 社らのチームと別れを告げ,エスレンジを発ち帰国の途に就いた.JCM から回収された燃
焼ガス採取容器は,打ち上げの翌日,ドイツに戻る Astrium 社のスタッフにより,ガス組成分析のた
めミュンヘンへ運ばれた.こうして,約1ヶ月にも渡った我々の射場作業は終わった.
9. おわりに
その後の実験データの解析により,部分予蒸発が液滴間の燃え広がりに与える影響について,
これまでの短時間微小重力実験では確認できなかった知見が明らかになった.また,ミュンヘン工
科大学にて燃焼ガスサンプルの組成分析も順調に実施され,予蒸発進行度の差が燃焼ガス中の
NOx などの化学種濃度に与える影響が明らかにされつつある.また,フライト実験において4回目の
実験が実施できなくなったトラブルの原因は,ESA と Astrium 社による調査の結果,EGSE のタイマ
ーと射場の時間同期に不一致があり,時刻ずれが起こって予定よりも早く JCM への電源供給が断
たれたためと判明した.今後,今回のフライト実験で得られた貴重な実験データを引き続き詳しく解
析するとともに,数値シミュレーション結果との比較なども行いつつ,部分予蒸発液滴の燃焼メカニ
ズム解明に迫っていきたいと考えている.
今回の TEXUS ロケット実験は,JAXA が開発した実験装置を欧州の小型ロケットに搭載して行わ
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平成 22 年度 JAROS 宇宙環境利用の展望
れたはじめての微小重力実験であった.日本の研究者が参加したロケット実験はこれまでにも行わ
れた例があるが,実験計画の作成のみならず実験装置の開発にも責任を負ったという点で今回の
プロジェクトにはこれまでにない困難さがあった.TEXUS や MAXUS ロケットに搭載する実験装置は,
これまでほぼすべてが Astrium 社により製作されてきており,他者が開発した実験装置を搭載した
経験は Astrium 社も十分持ち合わせていなかった.このため,当初は TEXUS ロケットと DCU の機
械的,電気的インタフェースなどを定めるインタフェース仕様書(ICD)ひとつ作成するのも大変な苦
労であった.日独双方にて何度も開催された技術調整会では,互いに噛み合わぬ議論が延々と続
くこともあり,装置の設計やインタフェース仕様を固めていくのに苦労した.また,TEXUS ロケットプロ
グラムでは技術文書の作成,品質や信頼性確保の考え方,試験方法などに日本では標準的と考
えられる方法と異なる部分も多く,そのすり合わせにも労力を要した.研究者の実験要求をどのよう
に実 験計 画 に反 映させるのか,射 場 作 業の進め方なども含め,最後の最 後まで日 欧 双方の文 化
の差を経験したが,学ぶべき点もまた多かった.何より,今回の国際協力で構築された人間関係は
一番の財産である(図 13 参照).
図13 フライト実験後に撮影した関係者の写真
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平成 22 年度 JAROS 宇宙環境利用の展望
筆者にとっては主担当として参画したはじめての宇宙実験であり,力不足により設計の問題点を
事前に十分見抜くことができず,反省すべき点は多い.今回のフライト実験の成功は,装置開発メ
ーカや様々な支援 業者 の担当 者が,単なる契約 関係としてではなくチームとしての目的 達成のた
めに JAXA とともに一丸となり,労を惜しまず働いて頂いたおかげである.また,今回の TEXUS ロケ
ット実験プロジェクトに参画して強く実感したことだが,小型ロケット実験は JAXA 担当者および装置
開発メーカ担当者の技術力と精神力を向上させるために極めて有効と考えられる.小型ロケット実
験は僅か数分間の微小重力実験での実験成功を目指すものである.ISS での実験では,装置にト
ラブルが起こっても時 間をかけた原因 究 明とクルーによる修 理などにより,最 終 的に実 験を成 功 さ
せる余地が残っているが,小型ロケット実験はやり直しが利かず一発勝負の世界であり,担当者に
圧し掛かるプレッシャーは極めて大きい.そのようなプレッシャーを乗り越えて成功を勝ち得た時に,
技術的にも人間的にも大きな成長が達成されるのではないだろうか.我が国においては,約 10 年
前に終了した TR-IA ロケット実験以来,小型ロケットによる微小重力実験プログラムが存在していな
い.小規模でも良いので,継続的な小型ロケット実験プログラム再開の有効性と重要性を強く提唱
したい.もちろん,欧州との小型ロケット実験協力についても継続が期待される.
今 回 実 施 された直 線 上 燃 料 液 滴 列(一 次 元 配 置 )の燃 焼 実 験 を発 展 させた燃 料 液 滴 群 (二 次
元配置)の燃焼実験「Group Combustion(代表研究者:三上 真人 教授(山口大学))」が,国際
宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」で 2013 年頃に実施予定であり,実験計画の詳細化
や実験装置の開発を現在進めている 8) .Group Combustion では,TEXUS ロケット実験において使
用された実験要素技術を採用あるいは改良・発展させ,効率的な実験装置開発を行う予定である.
今回の TEXUS ロケット実験で得られた科学的・技術的知見を最大限活かし,「きぼう」での今後の
実験にも繋げていきたいと考える.
10. 謝辞
今回の TEXUS ロケットによるフライト実験は,JAXA と ESA との協力に基づき実施された.ESA の
Martin Zell, Olivier Minster, Ludwig Winter, Antonio Verga, Fabio Pascale の諸氏には,プロジェ
クト全期間を通し様々な支援・協力を得た.また,TEM-JCM の開発および射場作業においては,
EADS Astrium 社の Andreas Schuette, Helmut Steinau, Burkhard Schmitz などの TEXUS チーム
の多大な支援・協力を得た.日本における DCU の開発においては,㈱IHI エスキューブの久康之,
山本信(現在 JAXA 出向中),菅野亙泰,後藤芳正諸氏に多くの貢献を頂いた.また,㈱AES の福
山誠二郎氏には地上試験と射場作業支援で,また㈱三井物産エアロスペースの松本加奈女史に
は Astrium 社との調整支援で多くの支援を頂いた.
また,今回の TEXUS ロケット実験実施にあたっては,宇宙環境利用科学委員会の依田眞一委
員長をはじめとする各委員の方々にも多くのご助言とご支援を頂いた.これら全ての方々に,この場
を借り改めて深い感謝の意を表します.
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11.参考文献
1) M. Kikuchi, S. Yamamoto, S. Yoda and M. Mikami : J. Jpn. Soc. Microgravity Appl.,
24 (2007) 241.
2) 菊池政雄,菅野亙泰,森上修,三上真人,野村浩司,藤田修,梅村章:第 23 回宇宙利
用シンポジウム講演論文集,2007,p.201.
3) C. Eigenbrod, S. Baessler, T. Sattelmayer and F. Mauss : ESA Publications Division,
Microgravity Application Programme, Vol. SP-1290, Noordwijk, Netherland, 2005,
p.214.
4) S. Baessler, K. G. Moesl and T. Sattelmayer : Proc. ASME Turbo Expo 2006,
Barcelona, Spain, 2006.
5) K. Moesl, T. Sattelmayer, M. Kikuchi and S. Yoda : Proc. ESA Symp. on European Rocket
and Baloon Programmes and Related Research , (2009).
6) スウェーデン宇宙公社(SSC)ホームページ
7) 欧州宇宙機関(ESA)ホームページ
http://www.ssc.se
http://www.spaceflight.esa.int/users
8) 末松孝章,菊池政雄,依田眞一,森上修,野村浩司,梅村章,三上真人: 第 53 回宇宙科学
技術連合講演会論文集,(2009).
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