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放牧牛のための携帯用飼料の開発(H17~19)
放牧牛のための 放牧牛のための携帯用飼料 のための携帯用飼料の 携帯用飼料の開発 え も と し げ き し ま だ よ し こ い と う な お や こ め や こ う じ 惠本茂樹、島田芳子、伊藤直弥、米屋宏志* 要 旨 放牧牛が食べやすく、かつ放牧地へ携帯しやすい形状を持つ固形飼料の開発を行った。 携帯用飼料の材料の嗜好性を示す採食率は、味噌が最も高く87%となり、次いで米ヌカ及び糖蜜が80%とな った。よって味噌、米ヌカ及び糖蜜を主体とし、これらを組み合わせて飼料を作成した。 つなぎ材料の割合を変化させ採食試験を実施した結果、つなぎ材料の割合が50%の場合、採食率は86.7%と 高かったが、採食時の飼料の落下(食いこぼし)が13%程度生じた。センベイ状の飼料では手渡しでの採食が難 しく、地面に置いた場合採食時に時間を要していた。 次に、飼料の形状を円形から三角形及び笹の葉型に変更した結果、採食時の飼料の落下は無くなり、手渡し での採食が可能となった。しかし、地面のようなに平坦な場所に置いた場合、採食にやや時間を要していた。 そこで、形状を立体構造でヒダの付きの半円筒に改良し採食試験を実施した結果、採食率は80%以上と高く、 採食時の飼料の落下(食いこぼし)の発生はなかった。本形状は人が手渡しで給与したり、地面(草地の中)に置 いてもスムーズな採食が可能であった。 立体構造の携帯用飼料の現地試験を試みた結果、管理者による手渡し給与による餌付けが可能であることが 実証された。また、試作した放牧牛の携帯用飼料について、実用新案登録を出願し、平成20年3月31日に受理 された。 Ⅰ 緒言 場合、穀物由来の粉状又は粒状の牛用飼料(フスマや配 平成元年から県内で取り組まれてきた水田放牧は、 合飼料)を飼料袋等で放牧地へ運び込むが、給与しても ソーラー式電牧機の開発により移動放牧が可能となり、 牛が食べにくく、かつこぼしやすいことや、食いこぼ 現場での普及を想定したしくみを作ったことで、山口 した場合は拾いにくいため無駄になり、放牧地を汚す 型放牧として発展してきた。それに伴い多くの肉用牛 ことから、放牧牛が食べやすく、かつ放牧地へ携帯し (黒毛和種繁殖雌牛が主体)が耕作放棄地等に放牧され、 やすい形状を持つ固形飼料の開発を行った。 農地の保全管理を行っている。こうした放牧牛による 農用地の管理は、畜産農家自身の取組から耕種農家が 主体的に取り組めるレンタカウ制度の整備に伴い、肉 Ⅱ 材料及び 材料及び方法 1 用牛の飼養経験のない耕種農家等へと広がりを見せて 試験期間 試験期間は2005年4月から2008年3月。 いる。 放牧を円滑に行うためには、管理者が牛に出来るだ け接近し、健康状態を把握(2日に1回程度)すること や、放牧地を移動または、殺ダニ剤を塗布する(30日間 隔)ため牛を捕獲する必要があり、放牧牛の管理に不慣 2 携帯用飼料作成に用いる材料の嗜好性 携帯用飼料を作成するため放牧牛が最も好む材 料を調査した。 1)材料 れな耕種農家においては、困難を伴うことが多い。こ 圧ペン麦、トウモロコシ、きな粉、フスマ、米 のため、飼養経験のない管理者が、牛を呼び寄せるた ヌカ、塩、味噌、糖蜜、パントテン酸Ca、胆汁末 めの手軽な餌付け手段が必要であった。 を用いた。 一般に牛を呼び寄せるために餌付け飼料を給与する * 現畜産振興課 2)材料の調製方法 (2)試験方法 嗜好性試験は検体となる材料と小麦粉を重量比 採食試験には黒毛和種及び無角和種経産牛の 1:1で混合し、適量の水を加え耳たぶ程度の硬 放牧牛15頭を用いて、採食状況を調査した。 さに練った後、直径5~6cmのセンベイ状に整形 採食のしやすさの指標は表1に示した。 し自然乾燥を行った。 表1 採食しやすさの指数 3:手渡しでも、地面に置いてもスムーズに採食出来る 3)試験方法 2:手渡しで採食するが、地面に置くとやや時間を要する 1:手渡ししにくく、地面に置くとなおさら採食に時間を要する 嗜好性試験には黒毛和種及び無角和種経産牛の 放牧牛15頭を用いた。嗜好性試験はセンベイ状の 試作の固形飼料を1個ずつ放牧牛に給与し、採食 の有無を確認した。採食率は採食頭数を供試頭数 で除して求めた。 4 落下しても採食しやすい形状への改良 平面的な飼料は地面に落下した場合、地面と飼 料の間に空間が無いため採食に難が生ずることか ら、飼料の形状について一層の改良が必要となっ 3 採食しやすい飼料の開発 た。平面構造では採食のしやすさはレベル2まで 放牧牛の嗜好性が高い材料を調査した結果、採 で、スムーズな採食レベル3まで到達しない。そ 食率が80%以上となったのは米ヌカ、味噌及び糖 こで飼料の形態を立体とし、咀嚼時に壊れやすい 蜜の3品であった。その内の米ヌカを用いて成形 硬さをもつ飼料を検討した。 しやすく、噛み砕きやすい硬さの固形飼料を作成 するため、つなぎ材料の割合を検討した。また、 手渡ししやすく、落下しても採食しやすい携帯用 飼料の形状を検討した。 (1)材料及び調製方法 主材料として糖蜜又は味噌と米ヌカ、つなぎ材 料は小麦粉を用いた。材料の配合の重量割合は、 糖蜜又は味噌と米ヌカが各2,小麦粉が1とした。 1)つなぎ材料の割合と採食の状況 これらの材料を混合し、適量の水を加え良く捏ね (1)材料及び調製方法 た後、立体構造の飼料に成形し、自然乾燥を行っ 主材料として米ヌカを用い、つなぎ材料であ た。成形した飼料は半円筒状で、波形のヒダを3 る小麦粉の占める割合を20~50%に変化させ、 つ程度有した構造で写真1に示した。波形のヒダ 材料を良く混合し、適量の水を加え耳たぶ程度 の高さは3~7mmで、ヒダの高さが採食状況に影 に良く捏ねた後、直径5~6cmのセンベイ状の 響を与えるか検討を行った。 飼料を作成し、自然乾燥を行った。 (2)試験方法 採食試験には黒毛和種及び無角和種経産牛の 放牧牛15頭を用いて、採食状況及び咀嚼状況を 調査した。また、飼料作成時に成形のしやすさ を検討した。 2)飼料の形状による採食の状況 (1)材料及び調製方法 主材料として米ヌカを用い、つなぎ材料の小 麦粉と重量比1:1で混合し、適量の水を加え 耳たぶ程度に良く捏ねた後、円形、三角形及び 笹の葉状の扁平な飼料を作成し、自然乾燥を行 った。 写真1 立体構造をもつ携帯用飼料 (2)試験方法 採食試験には黒毛和種及び無角和種経産牛の放 牧牛15頭を用いて、採食状況を調査した。 採食のしやすさの指標は表1に準じた。 射的に吐き出したものと考えられた。しかし、つ 5 放牧牛への給与試験 なぎ材料の割合を低くすると、飼料の表面が粗剛 立体構造を持つ試作品の携帯用飼料を用いて、 になり咀嚼しやすくかつ簡単に砕けるため飼料の 落下が無くなったと推測された。 給与試験を実施した。肉用牛の飼養経験のない耕 種農家が放牧牛に接近する上で有効な手段か、さ らに畜産農家が放牧牛を呼び寄せ場合に有効か検 表3 つなぎ材料の割合別採食試験 :頭、% 証を行った。また牛が口から落としても採食が可 能か併せて観察した。 Ⅲ 結果及び 結果及び考察 1 携帯用飼料作成に用いる材料の嗜好性 携帯用飼料作成に用いる材料の嗜好性試験の結 果を表1に示した。用いた材料の嗜好性を示す採 小麦粉の割合(円形のみ) 項 目 50% 40% 30% 20% 試 験 頭 数 15 15 15 15 採 食 頭 数 13 12 13 12 採 食 率 86.7 80.0 86.7 80.0 飼料落下頭数 2 0 0 0 落 下 率 13.3 0 0 0 採食しやすさ* 1 1 1 1 注)落下:食いこぼし 食率は、味噌が最も高く87%となり、次いで米ヌ カ及び糖蜜が80%となった。また、配合飼料の構 成品であるきな粉や塩が73%、ついでフスマが60 次に飼料の形状による採食の状況を調査した結 %となった。今回、強肝剤として使用されるパン 果を表4に示した。飼料の形状を円形から三角形 トテン酸Caや胆汁末の嗜好性も調査したところ47 及び笹の葉型に変更した結果、採食時の飼料の落 %と不人気であった。これらの結果から携帯用飼 下は無くなり、手渡しでの採食が可能となった。 料を構成する材料は、味噌、米ヌカ及び糖蜜を主 しかし、地面のようなに平坦な場所に置いた場合、 体とし、これらを組み合わせて飼料を作成するこ 採食にやや時間を要していた。 表4 携帯用飼料の形状別採食試験 ととした。 :頭、% 表2 携帯用飼料の材料の嗜好性 ;頭、% 項 目 麦 トウモロ きな粉 フスマ 米ヌカ コシ 塩 味噌 糖蜜 パントテ 胆汁沫 ン酸Ca 供試頭数 15 15 15 15 15 15 15 15 15 15 採食頭数 8 7 11 9 12 11 13 12 7 7 採 食 率 53 47 73 60 80 73 87 80 47 47 2 採食しやすい飼料の開発 項 目 円形 試 験 頭 数 15 採 食 頭 数 13 採 食 率 86.7 飼料落下頭数 2 落 下 率 13.3 採食しやすさ* 1 注)落下:食いこぼし 形状(平面構造) 三角形 笹の葉形 15 15 13 13 86.7 86.7 0 0 0 0 2 2 つなぎ材料の割合別採食試験の結果を表3に示 した。つなぎ材料の小麦粉の割合が50%の場合、 採食率は86.7%と高かったが、採食時の飼料の落 3 落下しても採食しやすい形状への改良 下(食いこぼし)が13%程度生じた。また、小麦粉 立体構造の携帯用飼料を作成し、その採食試験 の割合が40%以下では採食時の落下は観察されな の結果を表5に示した。形状を立体構造でヒダの かった。しかし、センベイ状の飼料では手渡しで 付きの半円筒に改良し採食試験を実施した結果、 の採食が難しく、地面に置いた場合採食時に時間 採食率は80%以上と高く、採食時の飼料の落下(食 を要していた。 いこぼし)の発生はなかった。また、波形のヒダを また、つなぎ50%のセンベイ状の飼料で見られ 小さくした場合、口の端にくわえた時に落下を確 た採食時の落下は、口から溢れるものから反射的 認した。しかし、円形で見られた吐き出しによる に吐き出されるものまであった。つなぎ50%のセ 落下ではなかった。本形状は人が手渡しで給与し ンベイ状の飼料は表面が滑らかなことと、堅いこ たり、地面(草地の中)に置いてもスムーズな採食 とで咀嚼が難しく、丸呑みしそうになったため反 が可能であった。 (3)山口市秋穂二島 表5 立体構造の携帯用飼料の採食試験 :頭、% 耕作放棄田2haに2頭を貸し出し、管理人のN 形状(立体構造) 項 目 半円筒・ヒダ 半円筒・ヒダ小 試 験 頭 数 15 15 採 食 頭 数 13 12 率 86.7 80.0 採 食 飼料落下頭数 0 1 落 率 0 6.7 採食しやすさ* 3 3 下 氏に携帯用飼料の給与を11月より依頼したとこ ろ、嗜好性も高く手渡しで給与しやすいと好評で あった。また、地面に落下しても採食が容易であ った。(写真4) 注)ヒダの高さは約7mm、ヒダ小のヒダの高さは 約3mm 4 放牧牛への給与試験 (1)秋芳町朸田地区 朸田営農組合・M氏による放牧牛への給与を5 月から実施した。8月に放牧牛を交換したが、携 帯用飼料の給与は継続した。その結果、2組4頭 写真4 の放牧牛へ手渡しでの餌付けに成功した。(写真 落下した飼料の採食 2,3) 5 実用新案の申請 今回試作した放牧牛の携帯用飼料について、実 用新案登録を出願し、平成20年3月31日に受理さ れた。 Ⅳ 参考文献 写真2 携帯用飼料用いた放牧牛の呼び寄せ 1)財団法人 奈良の鹿愛護会ホームページ:鹿せん べい(2002) 2)森重祐子・米屋宏志・惠本茂樹:遊休農林地の放 牧による景観向上技術、山口県畜産試験場報告第 20号(2005)、1~6 写真3 携帯用飼料の手渡しによる採食 (2)美祢市豊田前 放牧牛の貸し出し農家であるT氏に7月から携 帯用飼料を捕獲時の使用を依頼した。市内7か所 にある放牧場での牛の捕獲が容易になったと好評 であった。