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本当に子どもを愛するなら - 公益財団法人タカタ財団

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本当に子どもを愛するなら - 公益財団法人タカタ財団
効果の高いチャイルドシート着用促進コンテンツ
「本当に子どもを愛するなら」の
作成・効果評価・社会周知
― 平成 25 年度(中間報告) タカタ財団助成研究論文 ―
ISSN 2185-8950
研究代表者
北村光司
研究実施メンバー
研究代表者
産業技術総合研究所
デジタルヒューマン工学研究センター
主任研究員
北村光司
報告書概要
平成 25 年度チャイルドシート使用状況の全国調査によると,6 歳未満全体の子どものチャ
イルドシートの使用率は 60.2%であり,未だ 40%の子どもの命が危険にさらされてる.チャ
イルドシートの保護者教育には,正しい知識の普及と同時に交通事故の怖さを伝え,チャイ
ルドシート使用に対する心理的バリアを乗り越えさせる必要があるが,未だ,効果的な教育
方法は確立されていない.
本研究では,チャイルドシート着用を促進する効果の高い教育コンテンツを作成し,社会
に普及させることを目的とし,1)2 種類の Web 調査,2)調査結果に基づく教育コンテンツ
の作成,3)子どもの行動観察研究を実施した.その結果,衝突実験映像には,チャイルドシ
ートなしで事故が場合に子どもにおこる傷害の重症度の認知レベルや,保護者のチャイルド
シート使用に対する自己効力感を高める教育効果があること,子どもがチャイルドシートを
嫌がった場合,
「チャイルドシートから降ろす」という行動をとる保護者が多いこと,チャイ
ルドシートに慣れるまでに 54 か月以上を必要とする場合があること,などが明らかになった.
また,Web 調査の結果にもとづき,チャイルドシートなしで衝突事故にあった場合におこる
得る結果を可視化したアニメーションを作成した.子どもの行動観察では,子どもが嫌がっ
ている姿を撮影することに成功した.今後,今回得られた知見を啓発プログラムに反映させ,
社会的周知活動を実施する予定である.
2
目
次
効果の高いチャイルドシート着用促進コンテンツ「本当に子どもを愛するなら」
の作成・効果評価・社会周知
第1章
第2章
はじめに ------------------------------------------------------------------------------------4
1.1
社会背景 -----------------------------------------------------------------------------4
1.2
本研究の目的 ------------------------------------------------------------------------5
保護者の行動・意識の実態調査(Web アンケート 1)----------------------- 5
2.1
本調査の目的 -----------------------------------------------------------------------5
2.2
調査対象 -----------------------------------------------------------------------------5
2.3
調査項目 -----------------------------------------------------------------------------7
2.4
24
自己効力感の調査方法 -------------------------------------------------------------
2.5
調査結果 -----------------------------------------------------------------------------25
2.6 調査結果に関する考察 -----------------------------------------------------------26
2.7 保護者の行動・意識の実態調査に関するまとめ ---------------------------26
第3章
チャイルドシート使用に慣れる時期調査(Web アンケート 2)----------- 26
3.1
本調査の目的 -----------------------------------------------------------------------26
3.2
調査対象 -----------------------------------------------------------------------------26
3.3
31
調査項目 -------------------------------------------------------------------------------
3.4
調査結果 ---------------------------------------------------------------------------- 32
3.5
チャイルドシート使用に慣れる時期調査に関する考察・まとめ -----33
第4章
教育コンテンツの作成 ----------------------------------------------------------------- 33
第5章
子どもの行動観察 -----------------------------------------------------------------------33
第6章
5.1
観察の目的 ------------------------------------------------------------------------- 33
5.2
観察対象 ---------------------------------------------------------------------------- 33
5.3
観察方法 ---------------------------------------------------------------------------- 33
5.4
倫理的配慮 ------------------------------------------------------------------------ 33
5.5
観察結果 ---------------------------------------------------------------------------- 33
5.6
観察結果に関する考察・まとめ --------------------------------------------- 35
本研究の結論と今後の展開 ---------------------------------------------------------- 35
参考文献 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 36
3
第1章
1.1
はじめに
社会背景
平成 23 年度の自動車乗車中・年齢別死傷者数を見てみると,6 歳以下の死傷者数は 11,002
人(死者:21 人,負傷者:10,981 人)であり 1,万が一の衝突事故から子どもを守るために,
チャイルドシートの果たす役割は大きい.一方,現在,道路交通法によって,6 歳未満の子
どもは「チャイルドシートの使用」が義務づけられているにも関わらず,警察庁と一般社団
法人日本自動車連盟(JAF)が,平成 25 年 4 月 20 日から 4 月 30 日に実施したチャイルド
シート使用状況の全国調査の結果によると,6 歳未満全体の子どものチャイルドシートの使
用率は 60.2%であり,未だ 40%の子どもの命が危険にさらされてる 2.現在,チャイルドシ
ート着用を向上させるため,企業や行政が主体となり,啓発運動,取り付けチェック,無料
貸し出し,補助金制度など,さまざまな活動が展開されている.しかしながら,過去 10 年以
上,チャイルドシートの着用率は,ほぼ横ばい状態にあり,子どもの年齢が上がるにつれて
着用率が低くなる傾向も変わっていない.
保護者がチャイルドシートを使用しない理由には,
「かわいそうだから」
,
「赤ちゃんが嫌が
るから」
,
「同乗者が抱いていてくれるから」などが挙げられている 3.また,「チャイルドシ
ートを着用している時と,着用していない時とでは,それほど死亡率は変わらない」
,
「近所
に買い物などでで出かける程度であれば,チャイルドシートを装着しなくてもかまわない」
など,保護者の知識や認識レベルも,チャイルドシート着用率に深く関わっていると言われ
ている 4.日本小児科学会・日本小児科医会が運営する自動車乗車中の子どもの安全推進合同
委員会によると,チャイルドシート使用が普及しない一因として,わが国には,米国のよう
なチャイルドシート着用推進・装着指導の公認インストラクター教育制度がなく,米国と比
べると,保護者がチャイルドシートの重要性を学ぶ機会が尐ないこと,産婦人科・小児科内
にチャイルドシートに対する知識がある医療従事者が非常に尐ないことを指摘している 5.保
護者が,チャイルドシートについて正しい知識を学ぶ機会を増やし,チャイルドシート着用
を促す教育を継続的に展開していくことが重要である.
1.2
本研究の目的
チャイルドシートの保護者教育には,正しい知識の普及と同時に交通事故の怖さを伝え,
「子どもがかわいそう」
,
「面倒だから」などの,チャイルドシート使用に対する心理的バリ
アを乗り越えさせる必要があるが,未だ,効果的な教育方法は確立されていない.本研究の
目的は,チャイルドシート着用を促進する効果の高い教育コンテンツを作成し,社会に普及
させることである.平成 25 年度は,チャイルドシート使用に関する保護者の行動・意識の実
態調査を実施し,チャイルドシートの法律,子どもの身長と着用義務の関係などの知識レベ
ル,交通事故の怖さに対する認識レベル,子どもが泣く,かわいそうに感じる,家族から同
意が得られないといったさまざまな状況下でのチャイルドシート使用に対するに自己効力感
(できる感:Self-efficacy)などを把握する.また,子どもがチャイルドシートに着座してい
る様子をビデオカメラで観察し,保護者の精神的負担を軽減する方策を検討する.
4
第2章
2.1
保護者の行動・意識の実態調査(Web アンケート 1)
本研究の目的
本調査では,チャイルドシートの法律,子どもの身長と着用義務の関係などの知識レベル,
交通事故の怖さに対する認識レベル,子どもが泣く,かわいそうに感じる,家族から同意が
得られないといったさまざまな状況下でのチャイルドシート使用に対するに自己効力感(で
きる感:Self-efficacy)などを調査する.
2.2
調査対象
6 歳未満の子どもを持つ 20-49 歳の保護者(男女不問)で,車に子ども乗せて運転する頻
度が週に 1 回以上の人
2.3
調査項目

チャイルドシートの着用状況

以前は着用していたが,今は着用しなくなった理由

使用しているチャイルドシートのタイプ
-シートベルトでチャイルドシートを固定するタイプを使用している方:
チャイルドシートをしっかり取り付けられている自信があるか

チャイルドシートの入手方法

チャイルドシート着座に対する子どもの抵抗レベル(必ず嫌がる⇔まったく嫌がらない)

子どもが嫌がり始めた時期

子どもが嫌がった時にとる行動の種類

チャイルドシートに関する法律

チャイルドシートの設置場所

チャイルドシートなしで事故が起こった場合に起こる傷害の重症度(認知レベル)

さまざまな状況下でのチャイルドシート使用に対する自己効力感

チャイルドシート未使用によるケガの経験
2.4
自己効力感の調査方法
自己効力感を調査するため,独立行政法人自動車事故対策機構から,2 種類のチャイルド
シート衝突試験映像を提供して頂いた.提供していただいた映像の例を図 1 に示す.
【提供映像 1】
5
【提供映像 2】
図 1:チャイルドシート衝突実験映像
回答者は,無作為に「衝突実験映像を見る群」と「衝突実験映像を見ない群」に振り分け
られる.すべての回答者は,映像を見る・見ないに関わらず,傷害の重症度と自己効力感に
関する同じ質問に回答し,提供いただいた映像の効果を検証した.自己効力感の調査には,
日常生活でおこり得る 8 つのシチュエーションを提示し,各シチュエーションに遭遇した場
合の,チャイルドシート使用に対する自信を 10 段階で評価してもらった(図 2).
図 2:自己効力感の質問例
また,衝突実験映像を見る群の回答者は,映像の前後に,チャイルドシートなしで事故が起
こった場合に,子どもにおこる傷害の重症度の認知に対する質問に回答し,重症度の認知レ
ベルの違いを比較した.
6
2.5 調査結果
回答者数は,男性が 502 名,女性が 506 名の合計 1008 名であった.調査地域と回答者の人
数を表 1 に示す.
表 1:調査地域と回答者数の詳細
地域
人数
地域
人数
地域
人数
北海道
34
中部
218
四国
26
東北
54
近畿
160
九州
75
関東
373
中国
58
沖縄
10
回答者の年齢は,20-24 歳が 1 名,25-29 歳が 39 名,30-34 歳が 241 名,35-39 歳が 368
名,40-44 歳が 284 名,45-49 歳が 75 名であった.チャイルドシートの着用状況に関する質
問では,自動車に乗せる時,チャイルドシートを「必ず着用させる」と回答した人が全体の
69%(698 名)でもっとも多く,次いで「ほとんどいつも着用させる:16%(159 名)」,
「着
用させることもあるが,着用させないことも多い:5%(48 名)」の順になった(図 3)
.
ほとんど
着用しない
全く着用しない
以前は着用してい
28
21
たが、今は着用し
3%
2%
ていない
38
4%
着用することも
あるが、着用しな
いことのほうが多
い
48
5%
ほとんどいつも
着用する
159
16%
2回に1回は
着用する
16
1%
必ず着用する
698
69%
図 3:チャイルドシートの着用状況
チャイルドシートの着用状況に関する質問の回答で,
「以前は着用させていたが,今は着用さ
せていない」理由についてたずねたところ,
「子どもが大きくなって,サイズが合わなくなっ
たから」がもっとも多く,次いで,
「子どもが着用するのを嫌がり始めたから」,
「大人のシー
トベルトを着用し始めたから」となった.
「その他」の回答には,
“一度取り外してしまって
から着用しなくなった”などがみられた.
チャイルドシートのタイプは,車のシートベルトをチャイルドシートの背面に通して固定
するタイプを使用している人が 77%(777 名)
,ISOFIX を使用している人が 10%(105 名)
,
両方を使っている人が 4%(38 名),チャイルドシートを持っていない人が 9%(88 名)とな
った(図 4).
7
チャイルドシートを
持っていない
88
9%
(チャイルドシートを複
数使用している場合)両
方のタイプを使っている
38
4%
ISOFIX
105
10%
車のシートベルトを
チャイルドシートの背
面に通して固定するタ
イプ
777
77%
図 4:使用しているチャイルドシートのタイプ
シートベルトで固定するタイプを使用している人に,正しく,しっかり取り付けられている
自信があるかをたずねた質問では,72%(590 名)が「自信がある」と回答し,残り 28%は,
「しっかり取り付けられているか不安である」と回答した.
チャイルドシートの入手方法は,
「新規購入した」人が全体の 72%(723 名)
,
「親族からも
らった」人が 8%(86 名),「他人からもらった」人が 6%(57 名)
,
「中古を購入した」人が
5%(53 名)になった(図 5).
チャイルドシートを
持っていない
親族から
もらった
86
8%
88
9%
詳細不明
1
0.1%
他人から
もらった
57
6%
中古を購入した
53
5.3%
新規購入した
723
71.7%
図 5:チャイルドシートの入手方法
8
子どもが,チャイルドシートを使用するのを嫌がるかをたずねた質問には,全体の 15%以
上の子どもが「必ず嫌がる」または「よく嫌がる」と回答し,
「たまには嫌がる」が 26%(260
名)で,約 40%以上の子どもが“嫌がり”を経験していることが分かる.
「ほとんど嫌がらな
い」または「まったく嫌がらない」子どもは,全体の半数を占める結果となった(図 6)
.
チャイルドシー
トを持っていな
い
88
8.7%
詳細不明
2
0.2%
チャイルドシー
トを着用してい
ない
16
1.6%
必ず嫌がる
46
4.6%
よく嫌がる
109
10.8%
まったく嫌がら
ない
286
28.4%
たまには嫌がる
260
25.8%
ほとんど嫌がら
ない
201
19.9%
図 6:チャイルドシートの嫌がり状況
「チャイルドシートに座らせて,ベルトをしめずに運転することがありますか?」という
質問に対しては,30%以上の回答者が「時々ある:222 名」もしくは「結構ある:90 名」と
回答し,チャイルドシートを持っていても使用しない場合が多いことが分かった(図 7)
.
結構ある
90
8.9%
時々ある
222
22.0%
絶対ない
(必ずベ
ルトをし
める)
69%
図 7:ベルトをせずにチャイルドシートに座らせる頻度
9
子どもが,チャイルドシートに着座することを嫌がった時に取る行動に一番近いものをた
ずねた質問では,
「いくら泣いても,チャイルドシートに乗せ続ける」が 57%(579 名)でも
っとも多く,次いで,
「尐し様子を見て(10 分程度)
,それでも嫌がったら,チャイルドシー
トから降ろして発車する」が 15%(146 名)
,
「嫌がったら,かわいそうなので,すぐにチャ
イルドシートからおろして発車する(誰かに抱っこしてもらう)
」が 9%(94 名)
,
「泣きやむ
まで発車させない」が 7%(68 名),「いつも嫌がるので,仕方なく,チャイルドシートには
乗せていない」が 5%(54 名)となった.
「その他」の回答には,
“1 歳は必ず着ける,3 歳は
近くならそのまま着けない”,
“DVD をかける”,
“お菓子やおもちゃで関心を引く”
,
「赤ちゃ
んの時は無理やり乗せていたが,今は嫌がったら乗せていない”などがあった(図 8)
.
いつも嫌がるの
で、仕方なく、い
つもチャイルド
シートには乗せて
いない
54
嫌がったら、かわ
5%
いそうなので、す
ぐにチャイルド
シートから降ろし
て発車する(誰か
に抱っこしてもら
う)
94
9%
その他
67
7%
尐し様子をみて
(10分程度)、
それでも嫌がった
ら、チャイルド
シートから降ろし
て発車する
146
15% 泣きやむまで発車
させない
68
7%
いくら泣いても、
いつもチャイルド
シートに乗せ続け
る
579
57%
図 8:チャイルドシートに着座することを嫌がった時に取る行動の種類
次に,チャイルドシート着用に関する法律に関連する質問の調査結果を示す.チャイルド
シートの着用が,法律で定められている年齢についてたずねたところ,
「6 歳未満」と回答し
ている人が全体の 35%でもっとも多く,約 7%の回答者は 3 歳/4 歳/5 歳未満と思っている
ことが分かった.また,
「分らない」と回答している人が 15.6%(157 名)もいることが明ら
かとなった(図 9)
.
10
3歳未満
22
4歳未満
17
5歳未満
32
6歳未満
353
7歳未満
210
8歳未満
14
9歳未満
15
10歳未満
50
11歳未満
17
12歳未満
90
13歳未満
31
分からない
157
0
50
100
150
200
250
300
350
400
件数
図 9:法律で使用が定められている年齢
子どもの年齢が 6 歳に達しても,身長が 140 ㎝になるまでは,チャイルドシートの使用が
推奨されていることを知っていたかをたずねた質問に対し,80%の回答者が「知らなかった」
と答え,チャイルドシート使用と年齢/身長との関係はあまり知られていないことが分かっ
た.
チャイルドシートの設置場所に関する質問には,運転手側の後部座席に設置している人が,
全体の 45%(452 人)
,助手席側の後部座席に設置している人が 40%(400 人)
,助手席に設
置している人が 8%(82 人),後部座席の真ん中に設置している人が 4%(42 人)となった(図
10)
.
後部座席の
真ん中
4%
その他
助手席 32
82
3.2%
8.1%
運転手側の
後部座席
452
44.8%
助手席側の
後部座席
400
39.7%
図 10:チャイルドシートの設置場所
11
ここからは,チャイルドシートなしで事故が起こった場合の傷害の重症度に関する認知とチ
ャイルドシート使用に対する自己効力感を,
「衝突実験映像を見る群」と「衝突実験映像を見
ない群」を比較した結果について述べる.得られたデータは,SPSS (Ver.22)を用いて
Kolmogorov-Smirnov 検定を行い検証する.
「衝突実験映像を見る群」における,実験映像の
前後の重症度認知の違いは,Wilcoxon の符号付き順位検定を用いて検証した.なお,本検証
の有意水準は 5%とする.
まず,
「もし,チャイルドシートなしで,事故が起こった場合におこる傷害の重症度は,ど
の程度になると思いますか?1 が全く問題ない,10 が致命的としてお答ください」という質
問に対する全体的傾向を見るため,実験映像を見る前の,両群の認知レベルを合算した結果
を図 11 に示す.
「10:致命的」と,回答した人が全体の 45%を占めた.しかし,
「1:全く問
題ない」や重症度を 2,3,4,などの低いレベルだと認識している人も見られる.
500
454
400
300
件
数
190
200
117
100
81
71
5
5
1
2
15
40
30
0
3
4
5
6
7
8
9
10
致命的
全く問題ない
重症度の認知
図 11:傷害の重症度の認知レベル(全数)
10 段階評価で,平均認知度は 8.4 であった.また,実験映像を見る前に,
「衝突実験映像を
見る群」と「衝突実験映像を見ない群」で,傷害の重症度の認知に対する違いを比較し,傷
害の重症度の認知レベルに差がないかを確認したところ,2 群間に差はないことが分かった
.
(p=.374)(図 12)
12
250
236
映像を見ない群
218
映像を見る群
200
150
件
数
109
100
81
61
50
43
37 34
25
3
2
0
1
5
0
2
9
6
3
23
56
38
17
5
4
全く問題ない
5
6
7
8
9
10
致命的
重症度の認知
図 12:傷害の重症度の認知レベル比較
実験映像を見た人(504 名)に,図 1 で示した 2 種類の映像を見たことがあったかをたず
ねたところ,ダミーが乗っていて車が衝突する映像(図 1・下)を見たことある人は,504
名中 211 名,大人が赤ちゃんを抱っこして急ブレーキをかけた時の映像(図 1・上)を見た
ことはある人は,504 名中 10 名,両方の映像を見たことがある人は 54 名,どちらの映像も
見たことがない人が 229 名で,全体の 45%の人は,衝突実験映像を見た経験がないことが分
かった(図 13)
.
ダミーがのってい
て車が衝突する映
像はみたことがあ
る
211
41.9%
どちらも見たこと
がない
229
45.4%
両方見
たこと
がある
54
10.7%
大人が赤ちゃんを
抱っこして急ブ
レーキをかけた時
の映像はみたこと
がある
10
2.0%
図 13:見たことのある衝突実験映像の種類
13
「衝突実験映像を見る群」において,映像を見た前後で「傷害の重症度」の認知の違いを
比較したところ,衝突実験の映像を見た後の方が,傷害の重症度を高く認識する傾向があり,
映像の教育効果が認められた(p = .000)
(図 14)
.
300
280
映像を見る前
250
236
映像を見た後
200
件 150
数
100
81
77
63
50
3 2
5 3
9 7
1
2
3
38
34
24
12
19
17 14
56
27
0
全く問題なし
4
5
6
7
8
9
傷害の重症度
10
致命的
図 14:映像の前後による傷害の重症度の認知の違い
次に,日常生活でおこり得る 8 つの状況に対し,各状況下において,チャイルドシート
を使用する自信(自己効力感)がどの程度あるのかについて述べる.
状況 1:近所のスーパーまで買い物へ:子どもの機嫌が悪く,大泣きしています.
「必ずできると思う」と回答している人が,全体の 38.2%(385 名),必ずできるという自
信に近い自信レベル 8,9 を選んだ人が,21%(213 名)で,多くの人は,子どもの機嫌が悪
く大泣きしていても,チャイルドシート使用に対する自己効力感が高いことが分かる.
「衝突
実験映像を見る群」が映像を見た後に,
「映像を見る群」と「映像を見ない群」で自己効力感
の認知の差があるかを確認したところ,2 群間に有意差は見られなかった(p=.176)(図 15)
.
14
450
385
400
350
件
数
300
250
200
128
150
100
50
37
23
63
70
4
5
85
91
6
7
85
41
0
1
2
絶対できないと思う
3
8
自己効力感
9
10
必ずできると思う
250
件
数
207
衝突実験映像あり
衝突実験映像なし
200
178
150
100
67
45
50
20 17
11 12
20 21
29 34
48
37
61
46 45
42 43
25
0
1
絶対できない
と思う
2
3
4
5
6
7
自己効力感
8
9
10
必ずできる
と思う
図 15:自己効力感レベル(状況 1)
状況 2:近所のスーパーまで買い物へ:家族(祖父母,配偶者,親族)が,
「チャイルドシー
トに乗せるのはかわいそう.自分が赤ちゃんを抱いているから」と言っています.
状況 2 では,
「必ずできると思う」と回答している人が全体の 29.9%(301 名)と,状況 1
よりも「必ずできる」と思う人が若干尐なくなる傾向がみられた.また,状況 1 に比べ,自
己効力感レベル 5, 6, 7 を選択している人が多くなった.「衝突実験映像を見る群」と「衝突
実験映像を見ない群」の間に,自己効力感の認知に対して統計的有意差があるかを確認した
ところ,映像を見た群の方が,有意に自己効力感の認知が高いという結果になった(p=.002)
(図 16)
.
15
350
301
300
250
件
数 200
150
100
61
51
50
83
104
116
106
93
58
35
0
1
2
3
絶対できないと思う
4
5
6
7
8
9
10
必ずできると思う
自己効力感
200
180
180
衝突実験映像あり
衝突実験映像なし
160
140
121
件 120
数
100
80
62
60
40
22
36
29
20
25
38
45
63
53
52 54
42
45 48
27 31
25
10
0
1
2
絶対できない
と思う
3
4
5
6
7
自己効力感
8
9
10
必ずできる
と思う
図 16:自己効力感レベル(状況 2)
状況 3:近所のスーパーまで買い物へ:駐車場に来たとき,昨日,チャイルドシートを取
り外したのを思い出した.もう一度,家に戻らなければチャイルドシートはない.
状況 3 では,
「必ずできると思う」と回答している人が 27.9%(281 名)で,自己効力感レ
ベル 5 を選択する人がもっとも多かった(136 名:13.5%)
.また,約 40%の回答者が,自己
効力感レベル 5 以下を選択しており(402 名),状況1,2 に比べて,自己効力感レベルが低
くなること傾向がみられた.「衝突実験映像を見る群」と「衝突実験映像を見ない群」では,
(図 17)
.
自己効力感レベルに有意差を確認した(p=.009)
16
300
281
250
件
数
200
136
150
103
100
88
87
91
77
54
54
37
50
0
1
2
3
4
5
6
7
8
絶対できないと思う
9
10
必ずできると思う
自己効力感
180
160
154
衝突実験映像あり
衝突実験映像なし
140
127
120
件
数
100
76
80
60
40
53
47
40
20
25
28 26
60
57
46
52
39
35
35
42
31
23
12
0
1
絶対できない
と思う
2
3
4
5
6
7
自己効力感
8
9
10
必ずできる
と思う
図 17:自己効力感レベル(状況 3)
状況 4:自分の実家に戻ったとき,親に車で迎えにきてもらった.その車にチャイルドシ
ートがない.あなたは,そのような場合でも,迎えに来てくれた親の車には乗らず,チャイ
ルドシートのある車に乗せて移動することができると思う.
状況 4 では,
「絶対できないと思う」と回答している人が 19.6%(198 名)となり,全体と
して,チャイルドシート使用に対する自己効力感が非常に低くなる傾向がみられた.しかし
ながら,
「衝突実験映像を見る群」の方が,自己効力感の認知が有意に高い傾向が確認できた
(図 18)
.
(p=.006)
17
250
200
198
件 150
数
135
134
109
100
110
91
83
68
45
50
35
0
1
2
3
4
5
6
7
8
絶対できないと思う
9
10
必ずできると思う
自己効力感
120
107
100
衝突実験映像あり
衝突実験映像なし
91
84
80
件
数
71
63
60
53
46
40
63
57
51
47 44
46
37
34 34
27
18
20
22
13
0
1
絶対できない
と思う
2
3
4
5
6
7
自己効力感
8
9
10
必ずできる
と思う
図 18:自己効力感レベル(状況 4)
状況 5:配偶者の実家に帰省した時,義理のお父さん・お母さんに車で迎えにきてもらっ
た.その車には,チャイルドシートがない.あなたは,そのような場合でも,迎えに来てく
れた親の車には乗らず,チャイルドシートのある車に乗せて移動することができると思う.
状況 5 では,
「絶対にできないと思う」と回答している人が 23.5%(237 名)となり,自分
の実家に帰る場合よりも,自己効力感がより低くなる傾向がみられた.また,状況 4 と同様,
「衝突実験映像を見る群」の方が,自己効力感の認知が有意に高い傾向が確認できた(p=.001)
(図 19)
.
18
250
237
200
件
数
150
123
109
96
100
112
101
84
64
47
50
35
0
1
2
3
4
5
6
7
8
絶対できないと思う
9
10
必ずできると思う
自己効力感
140
120
127
衝突実験映像あり
衝突実験映像なし
110
100
件
数
78
80
60
60
58
61
58
51
51
43
40
45
41 43
36
33 31
31
23
16
20
12
0
1
絶対できない
と思う
2
3
4
5
6
7
自己効力感
8
9
10
必ずできる
と思う
図 19:自己効力感レベル(状況 5)
状況 6:友達が車で迎えに来てくれたが,その車には,自分の子ども用のチャイルドシー
トがない.
状況 6 では,
「絶対にできないと思う」と回答している人が 21.5%(217 名)であった.状
況 4,5 と同様に,自己効力感レベル 5 以下を選択する人が全体の 60%以上を占め,状況 4,
5,6 のような環境下でチャイルドシートを使用するのは,かなり困難だとと感じていること
がわかった.状況 6 でも,
「衝突実験映像を見る群」の方が,自己効力感の認知が有意に高い
.
傾向が確認できた(p=.002)(図 20)
19
250
217
200
件
数 150
132
112
90
100
129
100
93
56
51
50
28
0
1
2
絶対できないと思う
3
4
5
6
7
8
自己効力感
9
10
必ずできると思う
140
120
衝突実験映像あり
衝突実験映像なし
120
100
件
数
97
82
80
71
55
60
61
58
61
51
47 46
42
40
35
47
33
23
29
22
20
17
11
0
1
2
絶対できない
と思う
3
4
5
6
7
自己効力感
8
9
10
必ずできる
と思う
図 20:自己効力感レベル(状況 6)
状況 7:チャイルドシートが小さくなったので,チャイルドシートを外した.まだ,新しい
シートは買っていない.あなたは,チャイルドシートを購入するまで,子どもを車にのせな
いで生活することがでいると思う.
状況 7 では,
「絶対できないと思う」と回答した人が 18.2%(183 名)
,
「必ずできると思う」
と回答した人が 17.5%(176 名)で,自己効力感レベルがかなり低い人とかなり高い人と二
極化する傾向があった.
「衝突実験映像を見る群」と「衝突実験映像を見ない群」の間に,統
計的有意差があるかを確認したところ,映像を見た群の方が,有意に自己効力感の認知が高
(図 21)
.
いという結果になった(p=.043)
20
200
183
176
180
160
129
140
件 120
数
101
89
100
77
80
72
71
58
60
52
40
20
0
1
2
絶対できない
3
4
5
6
7
8
9
10
必ずでき
ると思う
自己効力感
120
衝突実験映像なし
85
件
数
101
衝突実験映像あり
98
100
75
80
63 66
55
60
36
40
36
41
46
45 44
39
33
38
33
22
29
23
20
0
1
2
3
絶対できない
と思う
4
5
6
7
自己効力感
8
9
10
必ずできる
と思う
図 21:自己効力感レベル(状況 7)
状況 8:今,子どもの機嫌がとても良いが,あなたは,子どもがチャイルドシートに乗るの
が嫌いなことを知っている.家までは,車で 10 分程度.あなたは,子どもの機嫌が悪くなる
可能性が高い場合でも,子どもをチャイルドシートに乗せて帰宅することができると思う.
状況 8 では,
「必ずできると思う」と回答した人が 38.3%(386 名)で,多くの回答者は,
非常に高い自己効力感を持っていることが分かった.状況 8 では,
「衝突実験映像を見る群」
と「衝突実験映像を見ない群」の間に,自己効力感レベルに関して統計的有意差結果は確認
(図 22)
.
できなかった(p=.334)
21
450
386
400
350
300
件
数 250
200
150
100
97
100
50
30
23
1
2
47
56
3
4
100
97
8
9
72
0
絶対できないと思う
5
6
7
10
必ずできると思う
自己効力感
250
200
件
数
208
衝突実験映像あり
衝突実験映像なし
178
150
100
59
50
17 13
24 23
12 11
22
34
41
47 50
40
49 51
32
44
53
0
1
2
絶対できない
と思う
3
4
5
6
7
8
9
10
必ずできる
と思う
自己効力感
図 22:自己効力感レベル(状況 8)
状況 1 から 8 まで,それぞれの状況に対する自己効力感レベルの平均値と中央値を見てみる
と,状況 5 と状況 6 に対する自己効力感レベルがもっとも低く,状況 1 と状況 8 に対する自
己効力感レベルがもっとも高くなるという結果になった(表 2).
表 2:各状況別平均値と中央値
状況 1
状況 2
状況 3
状況 4
状況 5
状況 6
状況 7
状況 8
平均値
7.53
6.82
6.47
4.81
4.56
4.66
5.37
7.50
中央値
8
7
6
5
4
4
5
8
22
チャイルドシートに乗っていなかったことが原因で,子どもがケガをしたり,ケガをしそう
になったりした経験があるかをたずねたところ,89.5%(902 名)は「経験なし」と回答した
ものの,
「病院を受診したことがある」人が 8 名,
「病院には行かなかったが,ケガをしてし
まったことがある」人が 15 名,ケガはしなかったが,ぶつけてしまったことがある」人が
44 名,
「ケガをしそうになったことがある」人が 50 名と回答しており,病院を受診するほど
の重症なケガを経験したこと人は尐ないものの,多くの人が,軽症のケガやヒヤリ・ハット
の経験があることが分かった(図 23)
.
60
50
50
44
40
件 30
数
20
10
15
8
0
病
院
を
受
あ診
るし
た
こ
と
が
た
こ
と
が
あ
る
が
、
ケ
ガ
を
し
て
し
ま
っ
病
院
に
は
い
か
な
か
っ
た
つ
け
て
し
あま
るっ
た
こ
と
が
ケ
ガ
は
な
か
っ
た
が
、
ぶ
こ
と
が
あ
る
ケ
ガ
を
し
そ
う
に
な
っ
た
図 23:ケガやヒヤリ・ハットの経験
最後に,チャイルドシートなしでおこった場合に,子どもにおこる傷害の重症度の認知を,
チャイルドシートの着用状況の回答によって 2 群に分け比較する.チャイルドシートを「必
ず着用する」と回答した 698 名を「使用群」,それ以外の,
「ほとんどいつも着用する」
,
「2
回に 1 回は着用する」,「着用することもあるが,着用しないことのほうが多い」,「ほとんど
着用しない」
,「全く着用しない」,
「以前は着用していたが,今は着用していない」と回答し
た 310 名を「未使用群」とし,2 群間で,傷害の重症度の認知レベルに違いがあるかを確認
したところ,統計的有意差が認められ,
「使用群」の方が重症度の高く認知していることが明
らかとなった(P =.000)
(図 24)
.
23
0.6
各
群
に
対
す
る
全
体
の
割
合
0.5
必ず使用
0.5
未使用
0.4
0.3
0.3
0.2
0.2
0.2
0.1
0.1
0.0 0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
2
3
4
0.10.1
0.1
0.0
0.1 0.1
0.1
0
1
全く問題ない
5
6
7
8
9
10
致命的
重症度の認知レベル
図 24:傷害の重症度の認知の違い(着用状況別)
2.6
調査結果に関する考察
本調査の回答者は,チャイルドシートを必ず着用すると回答した人が約 70%で,警察庁/
JAF の調査結果と比較すると,若干,着用率が高い傾向にあった.使用しているチャイルド
シートのタイプに関する質問では,ISOFIX 使用者が約 10%と尐なかった.ISOFIX を普及
する活動は,今後,チャイルドシートの固定方法が不十分という課題の解決策として展開が
期待される.本調査では,車のシートベルトをチャイルドシートの背面に通して固定するタ
イプを使用している人のうち,約 72%が,しっかり取り付けられている自信があると回答し
ているが,2013 年の JAF の調査では,63.9%が「ミスユースあり」と報告されており 2,し
っかり取り付けられている自信があっても,実際にはしっかり取り付けられていないことが
多いと思われる.
チャイルドシートに着座するのを嫌がるかをたずねた質問からは,
「必ず嫌がる」
,
「よく嫌
がる」以外の回答者が全体の約 85%いた.チャイルドシートを使用しない理由には,
“かわい
そうだから”
,“子どもが嫌がるから”という理由が挙げられることが多いが,実際には,子
どもの「嫌がる」
,
「泣く」という行動だけでなく,買い替えの時期や,
“抱いているから”と
言われる,といった同乗者の発言や行動など,子どもの行動以外の要因も考慮し,チャイル
ドシート使用に対する自己効力感を高める教育の必要性が示唆される.また,子どもがチャ
イルドシート使用を嫌がった場合に,約 30%の保護者は「チャイルドシートから降ろす」と
いう対応を取っていること,ベルトをしめずにチャイルドシートに座らせて運転する人が
30%以上もいることが明らかとなり,正しく装着する必要性も,保護者教育に含めることが
重要であることが分かった.
「衝突実験映像を見る群」と「衝突実験映像を見ない群」に分け,傷害の重症度の認知,
24
および,さまざまな状況下における自己効力感の認知の違いを比較した結果からは,実験映
像には,状況 1 と状況 8 以外で,保護者の自己効力感を高める効果があることを確認した.
自動車事故対策機構から提供していただいた 2 種類の動画のうち,どちらも見たことがない
と回答している人が,全体の 45%いたことから,衝突実験の映像を活用した教育プログラム
を広く社会に普及させ,人が定期的に映像に触れる機会を作ることによって,チャイルドシ
ートの着用率を高める効果が期待される.
次に,状況 1 から状況 8 を,チャイルドシートがその場にあるかないか,という観点から
判断した環境と“登場人物”との 2 要因で整理し,チャイルドシート使用に対する自己効力
感について検討する(表 3).状況 1 や状況 8 のように,自分と子どもの行動(泣く,機嫌が
悪くなる)が関連する状況下では,チャイルドシート使用に対して自分が持っているバリア
(かわいそう,泣くと面倒,等)を乗り越えやすく,自己効力感が高い人が多い.しかし,
状況 4-7 のように,チャイルドシートがない状況に加え,自分⇔家族/友達という 2 者が複
雑に関連すると,チャイルドシート使用の重要性は分かっていても,その状況にあるバリア
を乗り越えることは容易ではない.
「今日は大丈夫だろう」という楽観バイアスも働きやすく
なると考えられる.衝突実験の映像を活用した教育と同時に,その場にチャイルドシートが
「ない」環境を,
「ある」環境に変えやすい環境づくりが望まれる.
表 3:状況ごとのチャイルドシート環境と登場人物の詳細
状況
1
2
3
4
5
6
7
8
チャイルド
シート環境
近所のスーパーまで買い物へ:子どもの機嫌が悪く,大泣きしています. シート有
近所のスーパーまで買い物へ:家族が「チャイルドシートに乗せるのは
かわいそう.自分が赤ちゃんを抱いているから」と言っています.
近所のスーパーまで買い物へ:駐車場に来たとき,昨日,チャイルドシ
ートを取り外したのを思い出した.もう一度,家に戻らなければチャイ
ルドシートはない.
自分の実家に戻ったとき,親に車で迎えに来てもらった.その車にチャ
イルドシートがない.
配偶者の実家に帰省した時,義理のお父さん・お母さんに車で迎えに来
てもらった.
友達が車で迎えに来てくれたが,その車には,自分の子ども用のチャイ
ルドシートがない.
チャイルドシートが小さくなったので,チャイルドシートを外した.ま
だ,新しいシートは買っていない.
今,子どもの機嫌がとても良いが,あなたは,子どもがチャイルドシー
トに乗るのが嫌いなことを知っている.家までは,車で 10 分程度.
シート有
登場人物
自分⇔子ども
自分⇔家族
自分
シート有
シート無
自分⇔家族
シート無
自分⇔家族
シート無
自分⇔友達
シート無
自分
シート有
自分⇔子ども
2.7 保護者の行動・意識の実態調査に関するまとめ
本調査では,6 歳未満の子どもを持つ保護者 1008 名を対象に,チャイルドシートの法律,
子どもの身長と着用義務の関係などの知識レベル,交通事故の怖さに対する認識レベル,日
常生活でおこり得る 8 つの状況下でのチャイルドシート使用に対するに自己効力感,衝突実
験映像の教育効果などを調査した.本調査で明らかになった保護者の持つ知識レベルや自己
効力感レベルなどを考慮し,効果の高いチャイルドシート着用促進コンテンツの作成を行う.
25
第3章
チャイルドシート使用に慣れる時期調査(Web アンケ
ート 2)
3.1
本研究の目的
警察庁/JAF の調査によると,チャイルドシートの着用率は,1 歳未満で 81.2%,1 歳-4
歳で 62.1%,5 歳で 38.1%となっている.しかし,具体的に何歳何カ月頃から着用率が下が
り始めるのか,子どもがチャイルドシートに慣れるまでの時間は,おおよそ,どのくらい必
要なのかなど,効果的な教育コンテンツに必要なデータは明らかになっていない.本調査の
目的は,チャイルドシートを嫌がり始めた時期とチャイルドシートを慣れるまでに必要な時
間を調査する.また,子どもがチャイルドシートの使用を嫌がる時の,子どもの精神的・身
体的状況や車内の環境状況と,子どもが嫌がったときに保護者がとる行動を調査する.
3.2
調査対象
6 歳未満の子どもを持つ 20-49 歳の保護者(男女不問)で,車に子ども乗せて運転する頻
度が週に 1 回以上の人
3.3
調査項目

チャイルドシートの着用状況

子どもをチャイルドシートに乗せ始めた時期

チャイルドシートを嫌がらなくなった時期

子どもがチャイルドシートを嫌がる場合,子どもや車内環境の特徴

子どもがチャイルドシートを嫌がった場合に,保護者がとる行動
3.4
調査結果
回答者数は,男性が 467 名,女性が 535 名の合計 1002 名であった.調査地域と回答者の
人数を表 4 に示す.
表 4:調査地域と回答者数の詳細
地域
人数
地域
人数
地域
人数
北海道
32
中部
244
四国
35
東北
52
近畿
166
九州
74
関東
318
中国
70
沖縄
11
回答者の年齢は,20-24 歳が 2 名,25-29 歳が 66 名,30-34 歳が 241 名,35-39 歳が 369
名,40-44 歳が 237 名,45-49 歳が 87 名であった.
チャイルドシートの着用状況に関する質問では,自動車に乗せる時,チャイルドシートを
「必ず着用させる」と回答した人が全体の 70.3%(704 名)
,次いで「ほとんどいつも着用さ
せる:14.5%(145 名)
」
,「着用させることもあるが,着用させないことも多い:5.5%(55
26
名)」,「ほとんど着用しない:3.2%(32 名)」の順になった(図 25)
.この質問で,
「以前は
着用していたが,今は着用していない」と回答した人(36 名)に,その理由をたずねたとこ
ろ,
「子どもが大きくなって,サイズが合わなくなったから」が 50%(18 名)
,次いで「大人
のシートベルトを着用し始めたから」が 47.2%(17 名),子どもが着用するのを嫌がり始め
たから」が 41.2%(15 名)となった.
着用することもある
が、着用しないこと
の方が多い
55
5%
全く着用しない
ほとんど
10
着用しない
1%
32
3%
2回に1回は
着用する
15
2%
以前は着用して
いたが、今は着
用していない
36
4%
詳細不明
5
1%
ほとんど
いつも着用する
145
14%
必ず着用する
704
70%
図 25:チャイルドシートの着用状況
チャイルドシート着用状況を年齢別に分析したしたところ,着用する回数が半数以下にな
る割合(「必ず着用する」
・
「ほとんどいつも着用する」以外の回答者)が年齢が上がるごとに
増加していくことが分かる(図 26)
.
30.0%
25.0%
25.1%
24.6%
4歳
5歳
20.0%
割
合
15.0%
15.0%
12.6%
9.0%
10.0%
5.4%
5.0%
0.0%
0歳
1歳
2歳
3歳
年齢
図 26:着用する回数が半数以下の割合
27
現在,子どもがチャイルドシートを着用するのを嫌がるかについてたずねた質問では,
「よく嫌がる」が 10.2%(99 名),
「たまには嫌がる」が 26.3%(255 名)
,
「ほとんど嫌がら
ない」・「まったく嫌がらない」が 57.6%となった(図 27)
必ず嫌がる
56
5.8%
よく嫌がる
99
10.2%
まったく嫌がら
ない
372
38.4%
ほとん
ど嫌が
らない
186
19.2%
たまには嫌がる
255
26.3%
チャイルドシートを
着用していない:34名
図 27:チャイルドシート使用の嫌がり状況
次に,チャイルドシートの使用を「たまには嫌がる」・「ほとんど嫌がらない」・「全く嫌が
らない」と回答した 813 名のうち,
「嫌がらなくなった時期を覚えていない」と回答した 344
名以外で,チャイルドシートを使用開始してから嫌がらなくなるまでの期間を分析してみる
と,多くの子どもは一か月未満で嫌がらなくなるようであるが,中には,嫌がらなくなるま
でに 4 年(48 か月)を必要とした子どもも見られた(図 28)
350
300
250
200
件
数 150
100
50
0
0
2
4
6
8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 31 34 36 39 42 48
嫌がらなくなるまでの期間(ヶ月)
図 28:使用開始から嫌がらなくなるまでの期間
28
嫌がらなくなるまでの期間が 1 か月未満を除いで分析したグラフを図 29 に示す.慣れるま
でに必要な期間が 18 カ月未満の子どもが,若干多い傾向はあるものの,
“使用期間の長さ”
と“慣れ”に相関はないようである.
14
12
10
件
数
8
6
4
2
0
1
3
5
7
9
11 13 15 17 19 21 23 25 27 30 33 35 38 40 44
嫌がらなくなるまでの期間(ヶ月)
図 29:使用開始から嫌がらなくなるまでの期間(1 か月未満を除く)
チャイルドシートを着用するのを「必ず嫌がる」と回答した 56 名のうち,有効回答者 46
名のデータを用いて,チャイルドシートの使用開始から現在の使用期間を分析したところ,
使用開始から 57 か月経っても,チャイルドシートを着用するのを必ず嫌がる子どももいるこ
とが分かった(図 30)
.
件
数
チャイルドシートの使用期間(ヶ月)
図 30:使用を必ず嫌がる子どものチャイルドシート使用期間
29
子どもがチャイルドシートに使用するのを嫌がるのは,どのような場合が多いのかを 10 項
目から選択してもらったところ,
「車に乗る前に,ぐずったり,甘えたがった時」がもっとも
多く,次いで「お腹がすいている時」,
「車が止まっている時」・「後部座席に誰も座っていな
い時」の順になった(図 31)
.「その他」の回答には,“飽きてきた時”
,“他にやりたいこと
がある時”
,
“遊びたい時”,“帰省で 3 時間以上乗っている時”,“体調が悪い時”などがあっ
た.
39.7%
20.6%
18.5%
15.3%
9.3%
6.7%
6.9%
2.2%
2.1%
1.0%
図 31:チャイルドシートを嫌がる状況の種類
最後に,チャイルドシートを使用するのを「必ず嫌がる」
・「よく嫌がる」・「たまには嫌が
る」と回答した人に,子どもが嫌がったとき何をしているかをたずねたところ,
「食べ物をア
与える」人がもっとも多く,次いで「何もせず,乗せつづける」,
「おもちゃを与える」の順
になった.また,子どもが嫌がったとき,23.9%の人が「チャイルドシートから降ろす」とい
う対策をとっていることが明らかになった(図 32)
.
30
38.8%
36.3%
29.8%
21.5%
割
合
23.9%
5.1%
ジ
ュ
ー
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与、
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る物
な
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食
べ
物
(
お
菓
子
、
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ー
ト
か
何
も
せ
けず
、
る乗
せ
つ
づ
そ
の
他
図 32:子どもが嫌がったときの対応の種類
3.5
チャイルドシート使用に慣れる時期調査に関する考察・まとめ
今回の調査により,年齢が上がるごとにチャイルドシート使用する回数が減尐する傾向が
あり,特に 4 歳以上になると,使用頻度が半数以下になる割合が約 25%になることが明らか
となった.チャイルドシートに慣れるまでに要する期間を分析した結果からは,1 か月未満
で慣れると回答した人が多数を占める一方で,週に 1 回以上,子どもを車に乗せていても,
約 2 割の子どもが慣れるまでに 1 年以上かかっていることが分かった.子どもがチャイルド
シートを嫌がるのは,車に乗せる前から,ぐずったり,甘えたがったりした時や,子どもの
お腹がすいている時が多い傾向から,子どもがチャイルドシートを嫌がるのは,チャイルド
シートを使用した場合の窮屈さや座り心地の悪さというよりも,子どもの心理的・身体的要
因の方が大きく影響している可能性が高いことがわかった.また,子どもがチャイルドシー
トの使用を嫌がったときに取る対策として「チャイルドシートから降ろす」人が非常に多く,
チャイルドシートなしで事故にあった場合の事故の怖さを伝えることが重要であることが分
かった.
31
第4章
教育コンテンツの作成
本章では,作成したアニメーションについて述べる.保護者の行動・意識の実態調査(Web
アンケート 1)とチャイルドシート使用に慣れる時期調査(Web アンケート 2)から得られ
た知見をもとにアニメーションを作成した.アニメーションの作成は,それぞれの Web アン
ケートから得られた知見のうち,特に以下の 2 点に着目した.
1.
衝突実験映像には,傷害の重症度に対する認知と,チャイルドシート使用に対する自己
効力感を高める効果がある
2.
子どもがチャイルドシートを嫌がったとき「チャイルドシートから降ろす」という行動
を取る保護者が多く,また,チャイルドシートを持っていても使用しない場合が多い
作成したアニメーションの例を図 33 に示す.
図 33:アニメーションの例
アニメーションは,チャイルドシートを使用しないで事故に遭った場合におこり得るシー
ンを採用した.アニメーションの流れを図 33 にしめした番号に沿って以下に示す.
①母親が子どもを後部座席のチャイルドシートに座らせる
②子どもは,チャイルドシートに着座するのを嫌がる
③母親は,チャイルドシートから降りようとする子どもを,きちんと座らせようとする
④結局,チャイルドシートに座らせないまま発車
⑤父親が,子どもに大人しく座るように注意する
⑥父親が子どもに話しかけている時,母親が信号が赤に変わるのに気づく
⑦信号が赤のまま交差点に進入してしまう
⑧右側から来たトラックを避けようとハンドルをきる
⑨トラックに衝突
32
⑩/⑪チャイルドシートに座っていなかった子どもが,フロントガラスを突き破り飛び出し
てくる.運転席と助手席に座っている両親のエアバックが作動する
⑫母親が,外に投げ出された子どもに駆け寄る
アニメーションを用いることで,
「子どもが嫌がりチャイルドシートから降ろす」という判
断がもたらす結果を分かりやすく伝えることが可能である.
第5章
子どもの行動観察
5.1 本研究の目的
行動観察の目的は,子どもがチャイルドシートを使用している様子を撮影し,どのように嫌
がるのかを観察することである.観察によって収集したデータを活用し,チャイルドシート
使用に対するバリアを軽減するための方法を模索する.
5.2 調査対象
6 歳未満の子どもを持つ保護者(男女不問)
5.3 観察方法
小型カメラを自動車に設置し,普段の生活の中で,子どもを乗せて自動車を運転する場合
に,子どもの様子を撮影する.
5.4 倫理的配慮
産業技術総合研究所人間工学実験委員会に実験計画書を提出し承認を得た(第
10150125-E-20131114-002 号).
5.5 観察結果
図 34 に,撮影した映像のスクリーンショットの例を示す.映像から,子どもの嫌がり方,
泣き方,声の大きさ,嫌がっている時間の長さ,親の取る行動の種類などが分かる.
【例①:1 歳】
33
【例②:0 歳】
・チャイルドシートに寝かせた直後
・出発から数分後
図 34:撮影した映像の例
34
5.6 観察結果に関する考察・まとめ
行動観察研究では,車に小型カメラを設置し,子どもがチャイルドシートに座っている様
子を継続的に撮影し,子どもが実際に嫌がっている様子を撮影することに成功した.嫌がっ
ている姿の写った映像は,保護者に,
“これくらい嫌がるのは普通なんだ”,
“これくらい嫌が
ってもチャイルドシートから降ろすのは間違っている”と納得させる教育効果が期待できる.
今後,収集した映像を活用し,嫌がり方のパターンを明らかにしたり,パターンごとに保護
者の取り得る対策を模索し,教育コンテンツに組み込んでいく.
第6章
本研究の結論と今後の展開
本研究では,
効果的な教育コンテンツを作成するため,
2 種類の Web アンケートを実施し,
チャイルドシート着用に関する知識レベル,交通事故の怖さに対する認識レベル,家族から
同意が得られないといったさまざまな状況下でのチャイルドシート使用に対するに自己効力
感レベル,チャイルドシートに慣れるまでに必要な時間などを調査した.この 2 つの Web ア
ンケートから得られた知見を以下に整理する.
【Web アンケート 1】

ISOFIX を使用している人は,まだ尐ない

JAF の調査結果に反して,車のシートベルト用いて固定するタイプのチャイルドシート
を使用している保護者の 70%以上は,
「しっかり取り付けられている」と感じている

チャイルドシートに座らせて,ベルトをしめずに運転する人が多い

子どもがチャイルドシートを使用するのを嫌がった時,約 1 割の人が,誰かに抱っこし
てもらうなどして,チャイルドシートを使用していない

チャイルドシート使用と年齢/身長との関係などは,あまり知られておらず,チャイル
ドシートに関する法律の正しい知識を普及させる必要がある

衝突実験映像を見たことのない人が多い

衝突実験映像は,傷害の重症度の認知とチャイルドシート使用に対する自己効力感を高
める効果がある
【Web アンケート 2】

着用する回数は半数以下になる割合は,年齢が上がるごとに増加し,特に 4 歳になると,
使用しない頻度が増加する傾向がある

チャイルドシートの使用を開始してから嫌がらなくなるまでに必要な期間は,最長で 54
か月以上

子どもがチャイルドシートを嫌がるのは,車に乗る前にぐずったり,甘えたりしている
ことが多い

子どもが,チャイルドシートを嫌がったとき,約 25%の保護者は「子どもをチャイルド
シートから降ろす」という行動をとっている
また,Web アンケートから得られた知見をもとに,子どもがチャイルドシートなしで衝突
事故に遭った場合におこるシーンを描いたアニメーションを作成した.
35
行動観察実験では,子どもの嫌がっている姿を撮影することに成功した.これらのデータ
は,撮影した映像を保護者に見せた時,どのような教育効果があるのかを検討したり,泣き
声の大きさ,動き方など,どのように嫌がるのかを具体的に把握するために活用する.
平成 26 年度は,今回得られた上述の知見に基づき,チャイルドシート着用のための啓発プ
ログラムと効果検証を行う.ビデオ観察のフィージビリティが確認できたので,今後,チャ
イルドシートに乗せ始めた時期と慣れるまでに必要な時間との関係や,いつもチャイルドシ
ートを嫌がる子どもの特徴などを詳しく調査し,啓発プログラムに反映させる.また,今回
開発した啓発のためのアニメーションの教育効果を検証し,必要な修正を行いながら,チャ
イルドシートキャンペーンなどの社会的周知の活動を実施する予定である.
参考文献
1.
交通事故総合分析センター:交通統計 平成 23 年版(2013)
2.
警察庁/日本自動車連盟(JAF)
:チャイルドシート使用状況全国調査(2013)
3.
Aprica:チャイルドシートに対する意識・実態調査
https://www.aprica.jp/products/childseat/knowledge/
4.
中田恵美,江幡芳枝:乳幼児をもつ母親のチャイルドシートに対する知識・認識と使用
の有無との関連,九州医療福祉大学学会誌 Vol.18, No.1 (2013)
5.
日本小児科学会,日本小児保健協会,日本小児科医会:日本におけるチャイルドシート
普及についての要望書(2010)
36
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