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研究主題「主体的に活動し,気付きを深める生活科の学習」
研究主題「主体的に活動し,気付きを深める生活科の学習」 ―魅力ある単元作りと,支援の在り方を通して― 白石町立有明西小学校 教諭 佐久間 亮 1 主題設定の理由 生活科では,直接体験をより一層重視し,対象とのかかわりを深め,知的な気付きを大切にしていくこ とが求められている。これまでの生活科を振り返ってみると,学校現場においても直接体験を重視した学 習活動が展開され,子どもたちは思いや願いをもって学習する中で地域に目を向け,様々な場で,多様な 人と触れ合う機会が増えてきている。さらに,活動における成功感,成就感を味わい,集団の中での仲間 意識や帰属意識も育ちつつある。 しかし,その反面,画一的な教育活動が見られるとか,単に活動することだけにとどまっていて,自分 と身近な社会や自然,人にかかわる知的な気付きを深めることが十分ではないという指摘もある。自分が 行ってきた実践を振り返ってみても,直接体験は意識して取り入れてきた。しかし,学習活動が多様にな る中で,子どもの気付きを十分に見取ることができずに,一人一人の気付きを深めたり,広げたり,価値 付けたりするまでには至っていなかった。つまり,見取りが一時的,断片的なものになってしまってい た。その結果,子どもと対象のかかわり方や子ども自身の内部に変化が生じていない活動になっていた。 気付きとは学習指導要領解説「生活編」によると, 「児童が生き生きと主体的に活動している限りにおい て,そこには様々な気付きが生じてくる。そうした気付きは,出会う,見る,触れる,遊ぶなどの児童の 自発的・主体的な活動などによって,人,社会,自然のことについて驚いたり,感動したり,不思議に思っ たり,自ら考えたりなどして得られるもの」と示されている。つまり,気付きを生むには,子どもたちの 自発的・主体的な対象とのかかわりが必要条件であると言える。このことからいけば,気付きを深めたり, 広げたりしていくには,子どもたちにとって,魅力ある単元でなくてはいけないし,対象と繰り返しかか わる中で,教師がどこでどのような見取りをしていくのかをはっきりしておかなくては,気付きは深まら ないだろう。以上のことから,気付きを深めるための魅力ある単元作りと,その支援の在り方を探ること に着目して研究を進めることにより,主体的に活動し,気付きを深めていく児童が育成できると考え本主 題を設定した。 2 研究の目標 主体的に活動し,気付きを深める生活科の学習の在り方を探る。 3 研究の仮説 子どもの実態を把握し,考えただけでもわくわくするような単元を構成し,子どもの気付きを大事に取 り上げて,それを子どもに自覚できるように返してやれば,子どもたちは,主体的に活動し,気付きを深 めていくだろう。 4 研究の内容及び方法 (1) 研究の内容 ア 主体的な活動になりうる教材と学習過程の開発 イ 気付きを深めるための支援の在り方 (2) 研究の方法 ア 子どもたちにとって魅力ある単元作り イ 指導案の作成 ウ 検証授業の実践 エ 検証授業の分析及び考察 - 1 - 5 研究の実際 (1) 主体的な活動になり得る単元構成について ア 単元の立ち上げ 単元を立ち上げる際には,子どもの日ごろの様子や実態をよく把握しておかなければいけない。子 どもたちは,どんなことに興味があり,どんなことを好んでやっているのかを観察する中に,単元作 りのヒントが隠されている。実際,身近な材料を使って基地作りをする単元を立ち上げようとしたと きに,どうやって切り出したらよいのかが重要になってくる。それには,子どもたちが基地作りをし たいと言い出すような布石を打っておかなければならない。読み聞かせの時間に,基地を作りたくな るような絵本を読んであげると子どもたちの冒険心を揺さぶることができるだろう。また,実際,簡 単な材料で簡単な基地を作ってみる。教室の机や,いすを自由に組み立て,後は,新聞紙で壁を作る だけの基地ではあるが意外と楽しく簡単にできてしまう。ただし,椅子や机を組み立てるときの安全 面の確保は指導しておく必要がある。このように下地を作り,子どもありきの単元を立ち上げたい。 イ シフトチェンジ 子どもたちの活動には,必ず頭打ちがある。だから,今の自分の活動や,考え方をもう一度振り返 ったり,友達と比べてみたり,より楽しい活動になるようにみんなで話し合ったりして,新たな気付 きを得て,次のステップに生かす活動を「シフトチェンジ」と呼ぶ。また,教師側からは,学習環境, 教材,グルーピングなどに変化をつけ,子どもの意欲を喚起することも行う。 ウ 主体的な活動になりうる学習材 今回,身近な材料を使っての基地作りを単元として組むわけだが,その教材がはたしてよい学習材 なのか,内藤博愛著「気付きを深める生活科授業の創造」(明治図書)に分かりやすい説明がある。 「授 業を料理にたとえてみる。いくら料理の腕がよいコックでも,材料が悪ければおいしい料理を作るこ とは難しい。逆に,よい材料だと,料理の腕が少々悪くても大失敗さえしなければ,そこそこの料理 ができる。生活科はこの材料選びが料理,すなわち学習を成功させるための大きな鍵を握っている。 では,よい教材とは,食べてみたくなるか(子どもたちが興味・関心をもつか)早く食べたい。食べたく て仕方がない。食べてみたらやっぱりおいしくて,また食べてみたくなる。そんな教材がいい。子ど もたちが何度でも何度でもかかわっていきたい。と心から思えるような,そんな魅力ある学習材を子 どもたちに出会わせたい」(1)と述べている。 では,なぜ秘密基地なのか。この単元がもっているよさ及び,付けさせたい力の面から考えてみる。 付けさせたい力 子どもから見たよさ ・ 子どもは狭い空間が 好き。 ・ 秘密基地作りをした 経験がある。 ・ 作る活動が好き。 ・ 冒険もののお話が好 き。 , ・ 秘密が好き。 ・ 想像力が沸いてく る。 ・ 改造するパワーアッ プという言葉が好き。 秘密基地作りの 単元がもってい るよさ及び,付け させたい力 主体的な活動になりうる学習過程の工夫 一人一つのダン ボールを用意し自 分の基地に思いを 深める。 (ダンボー ルは教師側で準 備) ペアをつく り,教え合った り,協力したり して基地作り に取り組む。 ・ 繰り返し対象とかかわり工夫をしていく力。 ・ 自分たちで,意思決定する力。 (誰とペアを組む?どこに基地を作る? 最後はこの基地をどうする?) ・ 身近な材料を工夫して集める力。 (どんな飾りをつけようかな?ターザ ンロープを作りたいから,紐を用意しよう) ・ 身近な材料で創意工夫できる力。 (飾る,つなげる,はる,組み立てる, つり下げる,切る,結ぶ,書くなど) ・ 低学年なりの企画,計画力(どのような基地をどこに,何のために作 るのか) ・ 人間関係調整力(主に友達とのかかわりから,教え合ったり,助け合 ったり,協力したりすることのよさを学ぶとともに,友達のよさや,自 分のよさに気付く) ・ 試行錯誤を繰り返す中で,あきらめず,がんばった自分を実感する力 シフトチェン ジ活動意欲の継 続対象とのかか わり方に変化を もつ。 新たな意識や, 活動場所を野 再構築された考 外に切り替え,今 えをもとに基地 度は,ペアから8 作りに取り組む。 ~10 人のグルー プで活動する。 - 2 - ゴール お家の人を 呼んで自分の 基地を自慢し たり一緒に遊 んだりする。 (2) 気付きを深める支援の在り方 自立への基礎 ア 学習過程における気付きの構造 図1から分かるように,子どもたちは,人や 知的な気付き 自然,社会という対象とかかわったとき,直感 的,表面的に対象のおもしろさを感じ取り,か かわってみたいと関心をもつ。これが,感じる 段階での直感的気付きである。そして,体全体 実感する(価値ある気付き) 開 く 分かる(比較する気付き) 深める 感じる (直感的気付き) 出会う で対象とかかわることで,対象の特徴をつかん だり,これまでの経験や周りのものと比べたり しながら対象を詳しく理解しようとする。これ <対象> 人 社会 自然 が分かる段階での比較する気付きである。更に, 対象と親しみを増すことで,自信をもったり,自分の 図1 学習過程における気付きの構造 生活に生かしたりして自分にとって対象の価値を見出す。これが,実感する段階での価値ある気付き である。これらの段階の気付きを教師が意識して,具体的な活動や体験を行い,子どもたちの気付き をひろいあげ,深め,広げてあげれば,知的な気付きが高まり,自立への基礎につながっていくと考 える。 イ 気付きを深める声掛け 出会う段階・・直感的気付き『問いを生ませる』 (おもしろいね・不思議だね・なぜそうなるの・なぜ違うの) 深める段階・・比較する気付き『試行錯誤を支える』 (どうやってみたの?・~してみたらどうかな・もっと~できないかな・黙って見守る) 開く段階 ・・価値ある気付き『一般化を促す,価値付ける』 (どうしてそう考えたの・そうなるかもう一度やってごらん・~が分かったんだね,~が大切だね) ウ 気付きを深める評価 (ア) 教師による評価・・・・・評価記録簿を基に,見取る視点を考え,活動で子どもの進行状況や気 付きの程度を見取り,次の時間に生かす。 号 第 1 回目基地作り 3・4/19 評価規準による評価 <関心・意欲・態度> 友達と協力して安全に注意し基地を作ろうとする。 <表現・思考> 身近な材料を工夫して使うことができる。 <気付き> 友達のよさや,自分のよさに気付くことができる。 {見取りの視点} ① ダンボールに窓や入り口をつけている。 ② 友達が困っているときに手助けをしている。 ③ 友達の作り方をほめている。 ④ 安全なダンボールカッターの使い方ができている。 ⑤ 自分の基地を作りながら,説明を加えている。 ⑥ ほめほめカードに友達のよいところを書き込む。 1 ①③④ 2 ⑥ 3 ①②③④⑥ 活動の様子,つぶやき,次時の支援 自己評価 ◎ 友達の頑張りをほめている。 窓1つ小さい進行状況。 △ ダンボールカッターをうまく使えないでいた。少し投 げやりなところがある。 ◎ ペアの友達と協力して活動できた。まだ基地を合体す る段階ではないが,本人たちの意思を見守る。 (イ) 子どもたちによる相互評価…「ほめほめカード」を使って,友達のよさ,自分のよさに気付く。 (ウ) 自己評価…「振り返りカード」を使用して,活動の感想,気付き等を書き込む。 - 3 - (3) 授業実践及び実践結果の分析と考察 ア 指導案 第1学年生活科学習指導案 平成 18 年 10 月2日 指導者 佐久間 亮 1 単元 なかよしあそび大作戦 ~秘密基地を作って遊ぼう~ 2 単元の目標 ○ 想像力を膨らませながら基地作りを楽しんだり,遊んだりすることができる。 (関・意・態) ○ 身近な材料や,自然のものを工夫して使い,思い入れのある基地を作ることができる。 (思・表) ○ 友達と一緒に活動する事の楽しさや,頑張った自分や友達のよさに気付く。 (気付き) 3 単元について 子どもの実態 ○ 2学期に入り子どもたちの遊びは,広がり を見せている。ブランコ,虫取りから,クラ スみんなで何かをして遊ぼうという方向へ流 れている。みんなで遊ぶ遊びとして,かくれ んぼ,鬼ごっこ,ドッジボールなどである。 ルールがまちまちで,よくトラブルを起こし ているが,どうすれば仲良く遊べるかみんな で話合いをもって解決をしている。まだまだ 自己中心的なところはあるが,触れ合いの幅 は広がってきている。子どもたちに基地作り をしたことがあるかと聞いてみたところ,8 割の子が何らかの基地遊びを行っていること が分かった。身近な材料を使って物を作った りすることが好きである。しかし,興味が長 く続かず短絡的で,活動に広がりが見えない。 教師の単元観 ○ 子どもたちは,秘密基地が大好きである。自 分たちだけの空間,狭い場所,仲間意識,誰も が1度は経験のあることである。そこには思い 入れが強く働く。本単元は,身近な材料を使っ て秘密基地を作ることで,自分たちで遊び場を 作り出す楽しさを味わうことができ,友達と協 力し触れ合うことにより,友達や自分のよさに 気付くことができる単元である。基地作りでは, 様々な創造や工夫を生み出すことが予測され, 生き生きと自分の思いを表現するだろう。 基地作りの製作過程では,さまざまな問題が 生じると思われる。友達と協力しながら,互い の考えを出し合い認め合いながら互いのよさに 気付き,教え合ったり助け合ったりすることが 必要になってくるだろう。 教師のかかわりと支援 ○ 導入段階では,秋で見付けたものを使って何か楽しい遊びをしたいねと切り出し,みんなが楽しめ るもの,身近な材料で作れるものはと問いかける。2学期に入り,教室で新聞紙を使い基地作りを経 験している子どもたちが,基地を作りたいと言わないはずがない。この導入段階で,しっかり自分た ちがやっていくことをイメージさせたい。また,単元の終わりには,自分たちが作った基地に家族を 招待するという目標を立て,目的意識を常にもたせ,活動意欲を喚起していきたい。 ○ 製作過程では,まず自分の基地を作らせることで,思いや願いを強くもたせたい。自分の基地だか らこそ,こだわりも強く,主体的な活動が期待できる。また,友達とのかかわりも,まずは2人組か らはじめ,相手のよさや一緒に作る楽しさを味わわせたい。自分の基地が大体出来上がったら,今度 は,6~7人のグループを組み,学校の敷地内に自分たちの作る場所を探させ,活動の幅を広げてい きたい。また,個人間,グループ間での情報交換も取り上げ,お互いのよさについて気付きを深める とともに,壁にぶつかった活動をシフトチェンジしていきたい。 (ほめほめカード随時使用) ○ 子どもたちが気付いたことを丁寧に取り上げて,継続させたり,深めたり,価値付けてあげたりす ることで,一人一人の気付きを確かなものにするとともに,日常生活の場で生きて働く力になるよう に評価活動を適宜取り入れ,見取りの視点を各段階で重視していきたい。 深める 4 単元計画(19 時間) カードによる気付きの手立て 出合う 1 導入・・どんなことをしたいか イメージマップ作り 全体で出し合う 2 設計図作り(自分の基地の設計図を書く) 3・4 第 1 回目基地作り(ダンボールカッターを安全に使う) ペアでのほめほめカード 5・6 第 2 回目基地作り(友達のよさを見付け,基地作り) ペアでのほめほめカード 7 友達の秘密基地のよいところを見付けよう 全体でほめほめカード 8・9 第 3 回目基地作り(身近な材料を工夫して基地作りに取り組む) ペアでのほめほめカード 10 学校の敷地内のどこに作るか考える 11~13 4 つのグループで自分たちが,選んだ場所に基地を作る グループでのほめほめカード 14~16 グループ基地作り 2 回目(グループ間評価,修正活動) グループでのほめほめカード 17・18 家族を招待してみんなの基地で遊ぶ ひらく 19 活動を振り返る 振り返りカード - 4 - 5 本時の学習活動 5/19 (1) 本時の目標 ○ ペアの友達と協力し,体全体を使って基地作りを楽しもうとする。 ○ 身近な材料を使って基地遊びを工夫することができる。 ○ 友達のよさに気付くことができる。 (思考・表現) (気付き) 学習活動 出 (関心・意欲・態度) 教師の働きかけと評価(○は働きかけ) (☆は評価) 1 前時を想起させ,めあてを確かめる。 ○ 前時の活動の写真などを使って思い起こさせ, 会 ペアの友達と協力できたこと,誉めてあげたこと う を取り上げ,よさ見つけの視点をとらえさせる。 友達のよいところを見付けながら,基地作りを楽しもう。 2 ペアの友達と基地作りに取り組む。 ○ 基地作りに取り掛かる前に,安全な道具の使い 今日は,飾り付けをがんばる ぞ。 方を指導する。特にダンボールカッターや,ドラ イバーなど。 随時注意を促す。 ○ 前時に活動が滞っていた子や,困ったことがあ 深 った子を中心に声を掛け,励ましたり,賞賛した め ○○ちゃんと協力して,窓を完 る 成させるわ。 り,見通しをもたせたりする。 ○ 自分のイメージ通りに作れない子や,困って助 けを求めている子に,どうしたら問題が解決する 持ってきた材料をどのよう のかヒントを与える。また,それでも無理なとき に使おうかな?友達に相談 は,作業を手助けする。 してみようかな? ○ 持ってきた材料を工夫して取り付けている子を 認め,周りの子に広げる。 ○○ちゃんの窓の飾り付けきれ ☆ 評価 友達と協力しながら意欲的に活動できたか。 いだなー。私もああいうふうに 作りたいな。 (関心・意欲・態度) 身近な材料を使って工夫することができたか。 (思考・表現) 3 ペアの友達のほめほめカードを書き込む。 誉める視点や,自分がされてうれしかったことな ○○くんの基地は窓がたく どを思い起こさせる。 さんあってとてもかっこい ☆ 評価 ペアの友達と協力して活動するなかで,友 いです。 達のよさに気付くことができたか。 (気付き) ○○ちゃんが窓を作るときに手 ひ ○ 友達のよさを発表させることで,友達のよさを 伝ってくれました。ありがとう。 見付けることができた自分も素晴らしいことを伝 ら く ○ 友達のよさを見付けることができていない子に える。 4 みんなのよさを全体で発表して広げる。 ○ 次の基地作りに生かせるように,よかったこと を認めたり,取り上げたり,賞賛したり,価値付 けたりする。 ○ 困ったことがあれば取り上げる。 - 5 - イ 授業実践の分析と考察 子どもの意識の流れと学習活動 教師の働きかけ 身近な材料を使って,みんなで,楽しく作って遊べるものを決めよう。 1/19 ・ やってみたいことのイメージマップ作り ○ あらかじめ,読み聞かせの時間に,基地作りをしたくな るような本を読んであげたり,新聞紙で簡単な基地遊びを 行ったりしておき,本単元に備えておいた。 ・・主体的な 活動になりうる手立て ○ イメージマップを作り,自分たちが作ってみたい基地を 自由に話し合わせた。 ○ 工夫点を発表させ,基地作に対する意欲を喚起させた。 ○ 最終目標は,みんなで作った秘密基地に誰かを招待する ことを話し合わせた。 <考察>単元の立ち上げは,子どもたちと話し合いながら自分たちで進めていくことを確認した。秋の自然で遊 んだことを想起させ,みんなで,なかよく遊べるものはないかと尋ね,基地遊びが出てきたら,すかさず,どん な基地が作りたいか,尋ねて思いを広げていった。とにかく子どもが想像する基地に対する意見に共感し,方向 付けを行った。子どもたちからは,活発な意見が出され,自分たちの基地のイメージが出来上がっていった。ま た,活動のゴールをどうするのかについても話し合い,自分たちで完成させた基地を家族に見てもらうことに決 まった。相手意識,目的意識が出てきたことにより,子どもたちの意欲が喚起されたと考える。 僕は,基地 自分の秘密基地の設計図を作ろう。 2/19 の横に階段を ○ できるだけ自由は発想で絵や文を書かせたい。また,イ 作って,滑り メージが湧かない子には,いくつかの例を見せ,支援して 台を作りたい いった。 な。 ○ 設計図には必要な材料も思いつく分書かせた。どんな材 料が考えられるか話し合い,広めていった。 基地作り 1 回目 安全な道具の使い方をしよう。 3/19,4/19 ) (まずはダンボールカッターの使い方,窓や入り口の切り取り方。 ・ 第 1 回目の基地作りに取り掛かる。(ペア) ○ まず,仲のよいペアを作らせ,協力したり,助け合った カッター使 りしながら活動を進めていくことを知らせた。また,活動 うの上手だ の終わりには,友達のよさを見付け,ほめてあげることを ね。真っすぐ 伝えた。 切れている ○ ダンボールカッターなどの道具の使い方を指導した。 よ。 ○ 実際にダンボールカッターをみんなの前で使って見せ, けがをしないように,安全面の約束事は,強調して意識さ カッターは,注意して使わな いと大変なことになるんだね。 せた。 ○ 安全に道具を使っているか,ペアの友達と協力できてい るか見て回り,支援した。 ○ 活動が停滞している子には, 「こうしてみたら」とか「だ うまくダンボールカッター れだれさんのを見てきてごらん」と示唆を与えた。 が使えないよ。困ったなー。 - 6 - 友達のよいところを見付けながら,基地作りを楽しもう。 5/19,6/19(本時) ○ 前時の活動を視覚的に訴え,友達のよさ見付けの観 ・ 前時の活動を振り返る。 ・ 第 2 回目の基地作りに取り掛かる。(ペア) 力を合わせて 作れているよ。 点を押さえた。 ○ 安全面の指導も,随時行った。 ○ 前時の活動の評価を参考にし,活動が停滞している 子に支援した。 ・・評価記録簿,気付きを深める手立て ○ ほめほめカードが書けない子に,ペアの友達の活動 友達のよいところを たくさんほめるぞ。 を振り返らせた。 評価 この ・ 友達と力を合わせて作っているか ・ 友達のよさを見付けることができたか 友達のよさや, 自分のよさに気 付く「ほめほめ カード」 「ふりか えりカード」 気付きを深める 手立て <考察>ここでは,自分の思いや,願いをもって基地を作るが,ペアで活動するよさを味わわせたいところ でもある。ダンボールカッターは2人に1つしかないので,自ずと協力する場面が出てきた。どんなことが 協力することなのかを,事前に写真を通して確認できていたので,お互いに声を掛け合ってスムーズに活動 ができた。また,友達のよさを見つける手立ての「ほめほめカード」は意欲的に書き込まれ,振り返りカー ドにも,友達から誉めてもらったことが嬉しいという感想が多かった。友達を誉めてあげることの心地よさ や,自分が誉められたことに対する満足感や自信につながったものと考える。 友達の基地のよいところを見付けよう。 7/19(シフトチェンジ 1 回目) ・ 友達の基地のよいところを見付ける。(全体) (1時間の授業の中で子どもたちの気付きをどのよう に深めていくか,教師による声掛けを考える) このドアの形,いい ね。まねしたいな。 ○ 友達の基地を見て回ったり,中に入って遊んでみ たりして友達の基地のよさを見付けさせた。 出会う段階の直感的気付き・・・(おもしろいね・すご いね・不思議だね) ・ 友達のよいところを発表する。 <考察>主体的な活動を促す単元構成にす るためには,意欲を持続させなくてはなら ない。この時間は,今までやってきた自分 の活動を振り返り,友達の基地で遊ぶこと により,友達の基地の創意,工夫点に気付 くことをねらっている。友達の基地で遊び, よさを見付けることで,今までの自分のや り方と比較したり,どうやったらできるの かという問いが生まれたり,子どもたちの 気付きが深まった。休み時間に早速やりた いと申し出る子や,次の基地作りの時間に は,身近にある材料をたくさん集めてくる 子がたくさん出てきた。 ○ 今度,自分の基地を作るときの参考になるように, 作り方の工夫,材料,切り方,はり方などに気付け るように支援していった。 深める段階の比較する気付き・・・(このドアどうやっ て作ったのかな?・この窓の形がいいね) ○ 友達のよかったところを発表させ,全体の中で認 めたり,賞賛したりした。 開く段階の価値ある気付き・・・(こんな材料を使うと 工夫ができるんだね・身近な材料がいろいろな物に 変身するんだね) - 7 - 身近な材料を工夫して基地作りを楽しもう。 8/19,9/19 ○ 友達の基地を見て,いいなと思ったところを思い起 ・ 前時の活動を振り返る。 ・ 第 3 回目の基地作りに取り掛かる。(ペア) ○○ちゃんの飾り付けと てもかわいかったから,私 もまねをしよう。 こさせ,活動に意欲をもたせた。 ○ 友達のよい工夫が表れている基地の写真を掲示して おいた。 ○ 教師が実際に簡単な基地を作り,モデリングをした。 <考察>前時で,友達の基地で遊んだり,よさ見付けをしたりしたことで,子どもたちの活動の質が高まっ た。カッターでダンボールを切るだけの活動から,身近な材料を用意し,基地作りに生かしていく活動へと 発展していった。 グループでどこに基地を作るか考えよう。 10/19(シフトチェンジ2回目) ・グループの基地をどこに作るか話し合う ぼくたちの基地を どこに作ろうか? ○ 今度は,2人組はくずさず,8~10 人グループを作 り,学校の敷地内に自分たちの基地を作ることを知ら せた。 あまり人が来な い とこ ろがい い ○ 校内マップを使わせ自分たちで作る場所を検討させ た。 <考察>この時間は,今までペアで取り組んできた基地作りが,グループになり,活動場所を野外に移すと いう段階である。主体的な活動意欲の維持,活動範囲の広がり(人的,場所的)をねらっている。グループを 組ませて,まず取り組んだことは,学校の敷地内のどこに基地を運ぶのか校内マップを使用して,話し合わ せ,実際に自分たちで探させた。しかし,基地を作るのに適している場所に誘導して行き,教師側からも勧 めた。自分たちでわいわい言いながら場所を決めるという意思決定の場をもつことで,子どもたちのやる気 を喚起できた。活動後のアンケートでも9割の子が自分たちで場所を決めたことが楽しかったと答えてい る。 グループの友達と仲良く,力を合わせよう。 11/19,12/19,13/19 ・ 外に自分たちの基地を作る。(グループ) ぼくが持っていてあげ るから,結んでいいよ。 ○ 仲良く,力を合わせる場面や事柄を具体的に意識さ せて,めあてをもたせた。 ○ 力を合わせる場面を意図的に設定しておき,みんな で協力することのよさを味わわせた。 みんなで,力を 合わせると,重た いものでも運べる ね。 ・ 自分たちの基地を外に運ぶ場面。 ・ 重たい机をみんなで運ばせる場面。 ・ 雨よけのビニールシートを結び付ける場面。 ○ 自分たちの基地を見に来て欲しいという内容の招待 状を書かせておいた。 <考察>今まで室内で活動していたものを外に移す段階である。ここで は,グループで力を合わせることを意図的に仕組み,協力することのよ さを味わわせた。また,藤棚がある中庭だったので,藤の木の実を使っ た遊びや,基地への利用,その他に草を集めてきて基地の中に敷き詰め たり,葉っぱや木の実を拾って基地の飾りにしたり,自然を生かした多 様な遊びが出てきた。活動を広げたり,自然と触れ合わせたりするには 野外での活動は有効であった。 - 8 - お家の人に楽しんでもらえる基地を作ろう。 14/19,15/19,16/19 ○ お家の人を招待するに当たって,自分たちの基地で お父さんにどこを 自慢しようかな? どのように楽しんでもらうか話し合わせた。 ○ 自分たちの基地をセットしたら,みんなで楽しく遊 べるものを作らせた。 <考察>野外(藤棚がある中庭)に自分たちの基地を セットしたら,遊び場つくりに取り組ませた。あま ったダンボールでコリントゲームを作ったり,坂を 利用して滑り台を作ったり,友達とかかわりながら 楽しそうに活動することができた。また,自分の基 地をパワーアップすることにこだわっている子ども もいたが,それはそれで活動を認めてあげた。 その遊び おもしろい ね。ぼくに もさせて。 私たちの秘密基地に家族を招待しよう。 17/19,18/19 ・ 自分の基地を自慢する。 ○ まずは,自分の基地の自慢したいところを決めてお き,お家の人に説明させた。 ・ 一緒に遊ぶ。 ○ お家の人にも,ほめほめカードを渡しておき,子ど お父さん,私の基 地の自慢はね,ドア のところに鍵を付け たところだよ。 もたちが作った基地を評価してもらったり,頑張った ことを誉めてもらったりした。 <考察>子どもたちは,この日のために基地作りを頑張ってきた。やはり,お家の人に自慢したくてたまら なかったようで,熱心に説明をしていた。また,お家の方からも子どもたちの頑張りをしっかり誉めていた だき,子どもたちにとっての満足感,充実感が表情に表れていた。 みんなの秘密基地をどうするか話し合おう。 19/19 ・今後基地をどうするか話し合う。 <考察>この後,基地をどうするか話し 合わせたが,全員一致で壊したくないと の声が上がった。想定内の発言であった ので,ではどうするの?と問いかけたと ころ,2年生から6年生のみんなを招待 したいという意見にまとまった。活動後, 雨が降ることが分かっていたので,生活 科室に入れておいた基地を今度はどのよ うに外に出すかを考えさせた。パワーア ップ設計図を書かせ,その中でみんなの 基地を今度は1つにして迷路を作ってみ てはという意見が出て,みんなで作るこ とにした。校内放送で呼びかけ,遊び場 を増やし,チケットは休み時間などを使 って自分たちで作り出した。目的が新た になり,自分たちで意欲的に動き出した。 昼休みを使って,全校児童に呼びかけた 迷路基地遊びは,たくさんの児童が来て くれて子どもたちも大満足だった。その 後は,潔く基地を壊して片付けに取り掛 かった。 ○ 子どもたち自身に意思決定の場を与えた。 ○ 子どもたちの考えを大まかに予想し,今後どのよう な価値ある活動ができるのか考えておいた。 活動後の振り返りカード 友達と協力するよ さに気付いたカード 上手に作れた満足感 が伝わるカード - 9 - 楽しい 6 研究の成果 N=26 事後の調査で次のようなことが得られた。基地作り における楽しさを場面ごとに聞いてみたが,ほとんど の子がそれぞれの場面で楽しさを感じながら活動でき たことが分かった(図2)。特に,友達とかかわりなが らの活動で,楽しさを感じていることも分かった(図 3)。身近な材料を使っての基地作りは,学習過程を小 楽しい N=26 楽しくない 意欲・関心面から見ても, 主体的な活動を促す単元とし て成立することが分かった。 また,この単元で学んだことを,日常生活の中 で生かしていけることが重要になってくる。図4より 見てみると前に比べて物を作ることが好きになったと 答えた児童が9割を占め,日常生活の中で実際に身近 0 24 21 24 23 17 22 05 5 10 10 15 15 20 25 25 20 3030 図2 基地作りにおける楽しさ 刻みな問題解決の連続で構成することをベースに,友 達とのかかわりを深めていけば, 子どもたちの実態や, 基地作りにおける楽しさ 24 友達の基地で遊んだこと 友達と場所を決めて作ったところ 友達と場所を決めて作ったところ 遊び場を作るところ 遊び場を作るところ 友達と協力して作るところ 友達と協力して作るところ いろいろ工夫するところ いろいろ工夫するところ 飾りをつけるところ 飾りを付けるところ 飾りをつけるところ を切るところ ダンボール ダンボールを切るところ 友達の基地で遊んだこと うれしかった うれしかったこと うれしくない 2020 6 20 材料を分けてもらったこと 材料を分けてもらったこと N=26 24 2 手伝ってもらったこと 24 24 手伝ってもらったこと 24 24 2 上手に作れたこと 24 上手に作れたこと 20 6 友達にほめられたこと 20 20 友達にほめられたこと 0 10 20 30 0 5 10 15 20 25 10 15 20 25 N=26 N=26 N=26 N=26 図3 基地作りでうれしかったこと な材料を使って何か作ってみたという児童が7割いたこ 生活化 生活化 とが分かった。このことによっても主体的な学びが日常 生活に生きて働く力につながりつつある。 保護者のアンケートによる評価からも,家庭で基地作 りのことを積極的に話したり,進んで材料を集めたり, 頼んだりしていることがうかがえる(図5)。 前に比べて物を作ることが好 前に比べて物を作ることが好 きになった きになった 家庭で身近な材料を使って何 家庭で身近な材料を使って か作ってみた 何か作ってみた 00 はい はい いいえ いいえ 気付きを深める手立てとして, ① 支援する声掛け めたり,深めたりする「シフトチェンジの場」 「ほめほめカード」 ④ 評価に用いた評価記録簿 しんだり,友達から励まされた喜びを感じたり,頑張っ 10 10 20 20 何事にも進んでかかわろうとす 何事にも進んでかかわろうとす る態度が前よりもよくなった る態度が前よりもよくなった 材料を自分で探したり頼んだり 材料を自分で探したり頼んだり していた していた 基地作りのことをよく話してい 基地作りのことをよく話していた た 0% 0% 20% 20% 40% 40% 60% 60% 80% 80% 100% 100% 図5 保護者による評価 図5 保護者アンケート た。 7 今後の課題 (1) いろいろな単元での魅力ある教材の開発を行う。 (2) 知的気付きを深めたり広げたりできるような支援の在り方を具体的に探る。 《引用文献》 (1) 内藤 博愛 『気付きを深める生活科授業の創造』 2005 年 明治図書 p.60 《参考文献》 ・ 嶋野 道弘 『生活科の授業をどう創るか』 1999 年 明治図書 『小学校学習指導要領解説―生活科編―』 1999 年 - 10 - 8 30 30 家庭での様子 保護者アンケート 家庭での様子 保護者アンケート た自分に対する気付きを深めていったりすることができ ・ 文部省 18 18 N=26 などにより試行錯誤しながらいろいろな工夫をして楽 22 図4 日常生活の変容 ② 単元の活動と活動の合間に設定した,気付きを広 ③ 友達や自分のよさに気付く手立てとして使用した 24 とても とても まあまあ まあまあ あまり あまり まったく まったく