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早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 - DSpace at Waseda University

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早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 - DSpace at Waseda University
早稲田大学審査学位論文
博士(スポーツ科学)
ハムストリングスの課題依存的機能分化に関する研究
Task-depended Functional Differences
in the Hamstring Muscles
2011年1月
早稲田大学大学院
スポーツ科学研究科
小野 高志
Ono, Takashi
研究指導教員:
福林
徹
教授
‐ 目次 ‐
第 1 章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1-1 骨格筋の構造的・形態的特徴と収縮機構・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1-2 骨格筋の構造的・機能的特性と可塑性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1-3 伸張性筋活動と筋損傷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1-4
1-5
1-6
1-7
筋損傷の修復過程と適応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
生体における骨格筋の形態および機能の測定技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
ハムストリングスの身体における意義およびその構造と機能・・・・・・・・・・・・・・・20
ハムストリングスと肉離れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
1-8 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能・・・・・・・・・・・・・・・37
2-1 研究背景および目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
2-2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
2-3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
2-4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
第 3 章 伸張性の股関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能・・・・・・・・・・・・・・・65
3-1
3-2
3-3
3-4
研究背景および目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69
結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80
第 4 章 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83
第 5 章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93
関連業績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96
参考図書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・106
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107
第1章 序 論
‐ 第 1 章‐
序 論
人間の動的な身体活動の発現は、上位中枢からの指令を受けた骨格筋が収縮し、接続す
る体節に力を伝えることによって可能となる。すなわち、骨格筋は人間が“動物”たるた
めの発現器官であり、その活動によってあらゆる意思を実現したり、表現したりする。そ
のメカニズムを解き明かそうとする生命科学領域の研究は、21 世紀の最も重要な研究分野
として注目され、その成果はついに生物を構成するための“暗号”であるゲノム DNA を解
読できるまでに達している。また、人類の英知の結晶とも言うべき科学技術の発展は、人
間の生活環境をより便利で、快適で、安全なものへと加速度的に変貌させてきた。しかし、
このような科学の発展の一方で、子どもの体力低下や生活習慣病の増加、超高齢化社会の
出現等、人々の「健康」や「生き方」についての課題が次々に突き付けられているという
矛盾も生じている。このような時代において、身体活動の発現を可能にする骨格筋のメカ
ニズムやその振舞いにあらためて目を向けることは、未来に向かって不断の変化を続ける
社会の中で、人間の存在価値について根本的に再考する際の一助となるに違いない。
人間は、古来より生命の維持活動とは区別された、自我を表現するための身体活動を行
なってきた。つまり、自らが持つ力の限界を発露し、他者と競い、または同調させること
で、個人または集団としてのアイデンティティを認識するという行動をとってきた。それ
はやがて一定の規則のもとに体系化され、現代におけるスポーツとして、今もなお発展し
続けている。現代、そしてこれからの未来におけるスポーツは、そこに関わることで心身
をより善い状態に維持しようとするツールの一つとして、重要な意味を持つ。したがって、
人間の身体活動の一つの発展型としてのスポーツ活動において、その基礎となる骨格筋の
構造や機能、そしてその変化の有り様を記述していくことは、これからのスポーツ界の発
1
第1章 序 論
展のみならず、個人の健康や社会全体の発展に大きく貢献する可能性を持つと考えられる。
本論文では、まず序論として、これまでに明らかにされている骨格筋の構造と機能、振
舞い、変容について先行研究の知見を踏まえて概説し、その基盤の上に、続く 3 つの章に
おいて“ハムストリングス”という、人間の身体の中でも特徴的な筋群の振舞いについて
の新たな知見を提示し、より善い身体活動の発現のための示唆を共有することを目的とし
た。また、ハムストリングスは歩く、走る、跳ぶなどの基本的な運動を可能にするための
重要な役割を担う一方で、代表的なスポーツ傷害の一つである“肉離れ”の好発部位でも
あり、その傷害を予防するための知見を得ることは今後のスポーツ医科学研究の重要なテ
ーマの一つとなっている。そこで、本研究では、人体の構造および機能の詳細な分析、そ
れが破綻に至るメカニズムの解明、予防法の確立、という一つの予防医学的スキームを、
ハムストリングスを題材として構築・提示することをさらなる目的とした。
ここにまとめられている成果が、スポーツ傷害のみならず、あらゆる疾病や傷害を未然
に予防することを命題として日夜研究に取り組んでいる多くの研究者に対して、その発展
の一助となることを願いたい。そうして初めて、本研究に研究としての存在意義が与えら
れるのではないかと考える。
2
第1章 序 論
1‐1.骨格筋の
骨格筋の構造的・
構造的・形態的特徴
形態的特徴と
特徴と収縮機構
骨格筋の構造的・形態的な特徴の一つは、筋の収縮方向(筋が力を発生する方向)に細
く長いことである。このような他の細胞には認められない特徴的かつ特殊化した構造と形
態は、その発生と力発揮という機能発現によるものと考えられる。また、骨格筋は力学的
な仕事の負荷に応じて機能的かつ形態的な適応を示す、すなわち可塑性をもつことが知ら
れている。成熟した骨格筋組織には筋衛星細胞(satellite cell)と呼ばれる幹細胞が存在する。
筋衛星細胞は自己増殖が可能であり、トレーニングや損傷などによって生じた各種ストレ
スに応じて増殖し、新たな筋線維を形成したり、すでに存在する筋線維に融合して筋肥大
を引き起こしたりしていると考えられている(Hawke and Garry 2001)。
ヒトの骨格筋線維を構成する筋原線維の基本単位は Z 線に仕切られた筋節(サルコメア)
である。筋節両端の Z 線から中心に向けて球状のアクチン分子からなる細いフィラメント
(アクチンフィラメント、thin filament)が一定間隔で整然と配列し、その間にⅡ型ミオシ
ン分子からなる太いフィラメント(ミオシンフィラメント、thick filament)が位置している。
このミオシン頭部とアクチン分子の間で形成される構造体(クロスブリッジ)が筋収縮と
いう力発生の最小単位である。筋収縮は筋節の中央に向かって左右均等に起こり、Z 線と Z
線との間隔(筋節長)が短くなるような方向に力が発生する。外から加わる力(外力)と
筋線維が発揮する力とのバランスにより、筋節長が変化しない等尺性(isometric)収縮や筋
節長が短くなる短縮性(concentric)収縮、あるいは筋節長が長くなる伸張性(eccentric)収
縮が認められる。
筋自体が持つ弾性は、弾性タンパク質であるタイチンやコネクチンによるものと考えら
れている(Horowits ら 1986)。これらの弾性タンパク質が引き伸ばされることによって筋線
維は受動的張力(passive tension、または静止張力 resting tension)を発生する。コネクチン
分子は遅筋および速筋において分子量やサブユニットの構成などが異なるなど、その組成
に関する基礎的研究は進んでいるが、筋力トレーニングや不活動などによる変化について
3
第1章 序 論
は未だ明らかとなってはいない。この受動的張力は、筋固有の長さ‐張力関係に影響を与
える(Epstein and Herzog 1998)
。一般に、生体から摘出した筋標本を徐々に伸張していった
時に受動的張力が現れる筋の長さを静止長(resting length または slack length、Ls)、筋自体
の収縮による能動的張力が最大になる時の筋の長さを至適長(optimal length、Lo)と呼ぶが、
Ls と Lo は必ずしも一致せず、筋によって様々な関係を示す。羽状筋(筋長に対して筋線維
が一定の角度を持って走行し、筋長に対する筋線維長の割合が小さい筋)としての構造的
特徴が強い筋ほど、受動的張力は短い筋長で発現することが示唆されており、このような
筋は一般に関節伸筋群に多い。一方、紡錘状筋(筋線維が筋の長軸方向に平行に配列する
筋)に近い構造的特徴を持つほど、受動的張力はより伸張位で発現し、このような筋は関
節屈筋群に多い。肘関節屈曲筋群を例にとってみると、実際の生体内においては、肘屈筋
の長さは Lo より短い長さの領域にあることが示唆され、受動的張力は全く発現しないと考
えられることから、屈筋の過度な伸張は筋の受動的張力ではなく、関節の構造によって制
限されていると考えられる(石井 2001)
。一方、関節伸筋はむしろ Lo からより伸張位にか
けての長さ領域にあると考えられ、筋の伸張に伴って受動的張力を発現すると考えられる。
多くの関節伸筋群は重力に逆らって姿勢を維持したり、大きな仕事を発揮したりする働き
を持つことから、こうした構造的特性は極めて合理的であるといえる。
生体内での随意的筋収縮は、大脳皮質運動野の神経細胞の興奮から起こる。最終的に、
筋の収縮力や収縮スピードは運動中枢からの運動指令の入力によって生ずるα運動神経細
胞の活動量やパターンによって決定される。α運動神経細胞の興奮は、運動中枢からの高
速の運動指令(約 0.025~0.03 秒)によってコントロールされるが、行なう運動によって運
動単位(α運動神経とその支配下の筋線維)の動員(recruitment)パターンと頻度の変調(rate
coding)を行なう。
骨格筋の収縮は、筋細胞原形質内カルシウムイオン(Ca2+)濃度の増減によって制御され
ている。Ca2+ 制御機構の発育発達による変化や筋線維タイプによる違いが、筋線維の収縮
4
第1章 序 論
特性を大きく左右する要因のひとつとなっている。しかし、筋肉全体としての力の発生は
ミオシン分子とアクチン分子の集合体として振舞うのではなく、他の関連分子を含めた相
互作用の結果として具現化されるものである。
1‐2.骨格筋の
骨格筋の構造的・
構造的・機能的特性と
機能的特性と可塑性
骨格筋が発現する力は、収縮の指令を伝える運動神経の興奮と、それに支配される筋の
形態に依存する。そして、そのような構造的・機能的な特性は、筋が発揮する力学的な仕
事の負荷に応じた適応を示す、すなわち可塑性を持つことが明らかとなっており、スポー
ツの現場では筋力トレーニングによる効果として見られる現象である。
トレーニングによる筋力増強効果には、収縮様式、動作速度、負荷強度、反復回数、セ
ット数、セット間の休息時間、トレーニング頻度などの運動条件や、運動実施者の初期体
力レベルや年齢が影響する。また、トレーニング効果の発現には特異性が存在し、それに
は運動実施時の関節角度、角速度、収縮様式に依存的な運動単位の活動参加があることが
関係していると考えられる(Hortobágyi ら 1996)。例えば、ゆっくり力を発揮した時と瞬間
的に力を発揮した時とでは、後者において運動単位の動員閾値張力がゼロになることから、
瞬間的に力を発揮する時には、筋が収縮して物理的な力が発生する以前に数多くの運動単
位が動員されることとなる(Yoneda ら 1986)
。したがって、瞬間的な筋収縮においては、
頻度変調による調節よりも数多くの運動単位の同期的な動員による調節が重要となると考
えられる。筋収縮スピードを増し、筋パワーを高めるためのトレーニングにおいては、運
動指令の空間的な量が最大となる負荷強度が効果的であると考えられるが、その負荷強度
は筋の種類によって異なるため、それぞれの筋に適した負荷強度を求める必要性がある
(Kimura 1997)。運動指令の空間的な量が飽和状態に達する負荷強度を調べることは、最大
筋力の増強と平行して、筋収縮スピード増強のための神経系の機能評価として有用である
と考えられる。
5
第1章 序 論
最大随意筋力向上のためのトレーニングの効果は、最大随意興奮レベルと筋の形態的変
化の両者に依存している(Kraemer ら 1991; Phillips ら 1997)
。すなわち、筋力発揮という
指令を出す中枢神経系とその指令を力学的出力に変換する効果器である骨格筋の適応によ
って生じると考えられる。筋興奮レベルの増大は神経興奮性の改善(動員される運動単位
の数や発火頻度の増加、同期化)によるもので、筋力発揮を繰り返すことによる学習効果
と考えられる。一方、筋の形態的変化としての筋肥大は、運動に伴う筋への機械的負荷(力、
仕事量、速度、短縮、伸張など)と内分泌系因子により誘導されると考えられる。筋肥大
は筋線維を構成する既存の筋線維の肥大と筋線維の増殖(筋線維数の増加)によって起こ
ると考えられている。一般に、最大筋力は生理学的横断面積と比例関係にある。羽状筋で
は筋線維の肥大によって羽状角が増加するため、筋線維の肥大とともに生理学的横断面積
の増加が生じる(Aagaard ら 2001)
。羽状筋ではこのような形態的変化がさらに筋力増加を
引き起こす一因として加わる。
以上を踏まえると、筋力増強を目的に行なうトレーニングとしては、さまざまな関節角
度、動作速度のもとに各種の収縮様式を混合させた複合的なレジスタンストレーニングが
理想的であるといえる。なぜなら、ヒトの運動パフォーマンスは関節可動域すべての範囲
内において、筋の短縮や伸張を伴いながら筋力発揮を行なっており、筋線維で産生された
力は腱から骨へと伝達され、関節によって回転トルクに変換され、その関節運動を通して
身体運動を発現しているからである。
1‐3.伸張性筋活動と
伸張性筋活動と筋損傷
筋の活動様式は、等尺性(isometric)、短縮性(concentric)、伸張性(eccentric)に分類で
きる。運動やスポーツの動作の多くには、これら 3 つの活動様式がすべて含まれており、
筋活動に伴う張力発揮(F)よりも大きな負荷(L)で筋が伸張される場合(F < L)には
伸張性筋活動となる。また、手に持った荷物をゆっくりと床に下ろす時(意識的に筋力発
6
第1章 序 論
揮レベルを負荷よりも小さくして筋を伸張する場合)や、走動作において着地時の衝撃を
和らげる時(負荷を吸収するために無意識的に筋を伸張させる場合)など、最大下の伸張
性筋活動は日常生活でも多く見られる。
伸張性筋活動の特徴としては、以下のようなものが挙げられる。
・ 大きな張力発揮が可能である(Armstrong ら 1991)
・ 張力発揮に関与する運動単位が少ない(Armstrong ら 1991)
・ 速筋タイプの運動単位が優先的に動員される(Newham ら 1983)
・ 酸素需要量が少ない(McCully ら 1985)
・ 筋温上昇が大きい(Proske and Morgan 2001)
・ 神経‐筋シグナル伝達機構の改善効果が大きい(Hortobágyi ら 1996)
・ 筋線維の肥大効果が高い(Hather ら 1991)
さらに、等尺性、短縮性筋活動ではその後の筋の組織学的な変化はあまり見られないが、
伸張性筋活動では、単核細胞の浸潤を特徴とする微細な筋組織の損傷が認められる
(McCully ら 1985)
。
一般に、筋の損傷は筋組織が耐えられる限界を超えた負荷(強度、量)を受けた時に発
生する(Best and Hunter 2000)。運動中の負荷が組織に及ぼす影響は、ストレインとストレ
スとして捉えることができる。スポーツやトレーニングにおけるストレインは、外部から
の負荷に対する構造の変形であり、負荷の大きさ、時間、頻度、回数などの因子によって
決定される。一方、ストレス反応は、ストレインに対する内部の抵抗であり、単位負荷量
あたりの物理的張力発揮、および結果的に損傷を受けた組織の炎症反応や変性を引き起こ
す生体防御反応である(Best and Hunter 2000)。
“筋損傷”に含まれる病態は、その程度や部
位の違いによって様々である(Coburn 2000)が、主に 2 種類に大別できる。1 つは、いわ
7
第1章 序 論
ゆる“肉離れ(muscle strain)”と呼ばれる非接触性の自発的な筋収縮に伴う筋断裂や、打撲
や関節の強制伸展など外力による筋断裂などで、血管の損傷を伴うことが大きな特徴であ
る。一方、もう 1 つの“筋損傷”の病態として、自覚的には遅発性筋痛(Delayed Onset Muscle
Soreness, DOMS)を伴う、筋原線維や筋線維周囲の結合組織の微細な損傷(muscle damage)
がある。このような損傷は、特に高強度の伸張性筋活動を伴う運動や伸張性筋活動が繰り
返される長時間運動で生じやすく、肉離れや打撲などとは異なり、血管の損傷を伴わない。
また、組織学的には筋の微細構造の乱れが Z 帯を中心に起こるが、その範囲は筋線維全体
ではなく、筋線維の一部に生じる。DOMS を主徴候とする筋損傷は、よりマクロな筋損傷
の前兆となるとも言われている(Brockett ら 2004)
。Safran ら(1989)は、これらの筋損傷
の病態を以下のように分類している。
TypeⅠ:DOMS を主徴候とする損傷
TypeⅡ:筋線維が数本断裂(1 度)
筋周膜の損傷を伴わない、より多くの筋線維の断裂(2 度)
筋周膜の部分的断裂を伴う、多くの筋線維の断裂(3 度)
筋と筋周膜の完全な断裂(4 度)
TypeⅢ:筋痙攣などの運動中や運動直後に生じる痛みを伴うもの
損傷は、急性のものと慢性のものに分けて考えることができる(Pyne 1994)が、ここで
は本研究に関連する急性の損傷についてのみ言及する。伸張性筋活動に伴って、筋細胞内
膜系(T 管、筋小胞体、筋細胞膜)の損傷(Takekura ら 2001)や、中間径フィラメントな
どの細胞骨格や細胞外マトリクスの異常(Friden and Lieber 2001)、筋原線維の損傷(Friden
and Lieber 2001)が生じることが報告されている。伸張性筋活動後の損傷は、運動直後の時
点では筋原線維レベルの小さな限定された範囲で観察されるのみであるが、運動 48 時間後
8
第1章 序 論
までにこれらの変化が顕著になる(Sjostrom and Friden 1984)
。運動による機械的刺激を主要
因とする損傷を一次的損傷と考えると、損傷した筋線維には急性期の炎症反応が生じ、運
動後数時間経過した時点から好中球やマクロファージをはじめとする単核細胞の浸潤が起
こり、その後の再生に至るまでの炎症反応の過程で二次的損傷が進行する(Clarkson and
Sayers 1999)。この過程で、損傷は筋線維レベルで観察されるようになり、また、筋線維を
取り巻く結合組織の損傷も生じる(Stauber ら 1990)。
伸張性筋活動によって、筋損傷が引き起こされるメカニズムの詳細は明らかになってい
ない。伸張性筋活動の直後に、筋節の損傷と興奮収縮連関システムの損傷が生じているこ
とから、損傷は筋節の過伸展によって引き起こされる可能性と、細胞内膜系を含む興奮収
縮連関のどこかに損傷が生じる可能性が考えられている(Proske and Morgan 2001)。損傷は
運動直後よりも時間が経過するとより顕著になるが、これには伸張性運動負荷の機械的刺
激によって直接、あるいは間接的に引き起こされる筋細胞内カルシウムイオン濃度の恒常
性の破綻が大きく関与していると考えられており、それがトリガーとなって引き起こされ
る炎症反応が損傷を進行させると考えられている(Warren ら 2002)
。伸張性筋活動では等
尺性や短縮性筋活動に比べ、大きな張力発揮を少ない運動単位で行なうことから(Clarkson
and Sayers 1999)
、張力を発揮している筋線維に相対的により大きな負荷がかかることによ
ると考えられている。また、筋が収縮方向と反対方向にストレッチされる際、筋節長の不
均一が生じ、弱い筋節が大きく引き伸ばされ、
「はじける(pop)」ためではないかという「ポ
ッピング筋節説」も提唱されている(Proske and Morgan 2001)。
9
第1章 序 論
図 1‐1.伸張性筋活動に伴う筋損傷・回復過程(参考図書 10 より)
1‐4.筋損傷の
筋損傷の修復過程と
修復過程と適応
筋損傷の原因によらず、損傷に伴う細胞と細胞外マトリクスの反応は共通であると考え
られている。骨格筋損傷後の修復過程は、炎症反応、再生、再構築(リモデリング)に分
類できる(Barlow and Willoughby 1992; MacIntyre ら 1995; Best and Hunter 2000)。
炎症反応
炎症反応は、筋が受けた損傷の種類や、その程度によって多少異なると考えられるが、
伸 張 性 筋 活 動 に 伴 う 筋 線 維 の 損 傷 も 、 一 連 の 炎 症 反 応 を 引 き 起 こ す ( Smith 1991;
Bodine-Fowler 1994; MacIntyre ら 1995)
。炎症反応は、発赤、熱感、腫脹、疼痛および機能
10
第1章 序 論
障害を徴候とする、組織(細胞)の傷害を治癒させるための一連の過程と捉えることがで
きる。発赤、熱感および腫脹は血管反応によりもたらされ、疼痛は傷害の場所と程度を知
らせる警鐘反応である。機能障害は、組織(細胞)の実質的な傷害による機能不全の現れ
である。炎症反応は体液、血漿タンパク質、白血球の損傷・傷害部位への移動を特徴とし、
損傷した組織を除去し、再生に向けての準備をするためのものである(Best and Hunter 2000)
。
炎症反応は急性と慢性に分けられる。急性の炎症反応は、損傷や異物の侵入に対する生
体の一次的な反応であり、急速な血流増加あるいは血管透過性の亢進と、好中球と単球(マ
クロファージ)の遊走が起こる(MacIntyre ら 1995)。急性炎症反応は、末梢での炎症性メ
ディエーターによる作用により、発赤、熱感、腫脹、疼痛を引き起こすとともに、生体シ
ステムとして、さまざまな血漿タンパク質の産生と発熱を促す。急性の 3~4 日後より慢性
の炎症反応が引き続いて起こり、リンパ球と単球(マクロファージ)が主役となり、治癒
に至るまで(一般的には 3~4 週間以内)継続する。
再生メカニズム
再生
メカニズム
筋の再生を制限する因子として、筋衛星細胞(サテライトセル)の数、神経再支配、血
流の回復などが挙げられる(Bodine-Fowler 1994; Best and Hunter 2000)
。筋線維が再生する
には、休止期にある単核の筋芽細胞、あるいは筋前駆細胞が活性化し、増殖、分化、融合
して多核の筋管細胞となった後、さらに分化し、神経支配を受け、成熟することが必要で
ある(Hawke and Garry 2001; Grounds ら 2002; Golding ら 2002)。ラットの場合、筋の挫滅
損傷後から 3~5 日間固定した後には、患部を動かすことによって血流確保が早まり、再生
筋の走行方向が定まり、伸張力も向上し、再生・回復が促進することが知られている(Jarvinen
and Lehto 1993)。これがそのままヒトの筋損傷の場合にも当てはまるかどうかは定かではな
いが、伸張性筋活動に伴う筋損傷 2 日後にさらなる損傷刺激を与えても、新たな損傷は生
じず、回復を遅延しないことが確認されていることから(Nosaka and Newton 2002)、少なく
11
第1章 序 論
とも患部を動かすことによって損傷が悪化することはないと考えられる。
図 1‐2.筋損傷に伴う炎症反応(参考図書 10 より)
12
第1章 序 論
伸張性筋活動に
伸張性筋活動
に伴う適応過程
伸張性負荷によって損傷した筋は、その修復・再生過程を通して元の状態に戻るだけで
なく、
「適応」すると考えられる。その顕著な例として、伸張性筋活動に伴う筋損傷の程度
は初回に比べ 2 回目以降では軽減される、
「繰り返し効果(repeated bout effect)」と呼ばれる
現象がある(Clarkson ら 1992; McHugh ら 1999; Nosaka ら 2001)。例えば、運動後の等尺性
最大筋力の回復は 1 回目に比べて 2 回目で有意に早くなり、血漿 CPK 活性値は 2 回目の運
動後には全く上昇せず、MRI の変化も 2 回目の運動後は 1 回目の運動後に比べて有意に少
ないことが報告されている。このような変化の背景として、どのような身体の適応が生じ
ているかは未だ明らかではないが、神経系、結合組織、筋細胞のそれぞれで適応が生じて
いる可能性が指摘されている(McHugh ら 1999)
。つまり、筋節数の増加や、細胞骨格タン
パク質の再構築、熱ショックタンパク質の発現などが関与している可能性がある(Clarkson
and Sayers 1999; Feasson ら 2002)
。また、伸張性筋活動による損傷‐修復過程において筋衛
星細胞が活性化されることで、既存の筋線維の肥大(hypertrophy)や新たな筋線維の増殖
(hyperplasia)、筋線維を取り巻く結合組織の肥厚などが生じると考えられる。Hortobágyi
ら(1996)は、伸張性トレーニング後には短縮性トレーニングと比較して TypeⅡ線維面積
が 10 倍増加したと報告しており、高負荷の伸張性筋活動では遅筋線維に比べ速筋線維によ
り顕著な適応反応を引き起こすと考えられる。
13
第1章 序 論
図 1‐3.伸張性・短縮性筋活動に伴う筋の適応過程(参考図書 10 より)
14
第1章 序 論
1‐5.生体における
生体における骨格筋
における骨格筋の
骨格筋の形態および
形態および機能
および機能の
機能の測定技術
磁気共鳴画像法(
磁気共鳴画像法
(Magnetic Resonance Imaging: MRI)
近年、磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging: MRI)の発展により、生体内の組織
をより安全(非侵襲的)かつ即時的に、そしてより明瞭に可視化することが可能となり、
骨格筋においても、その形態(Blemker ら 2005; Tate ら 2006)と機能(Pappas ら 2002; Hioki
ら 2003; Blemker ら 2005)を調べる上で有用なツールとなっている。
MRI の原理は、ある外磁場内にスピンする対になっていないプロトン(水素原子核)が
あった場合、これらのプロトンは磁場に対して整列するが、その状態で特異的な周波数(お
よそ 100MHz)の電磁波パルス(ラジオ波 Radio Frequency: RF の帯域に属することから、
RF パルスと呼ばれる)が生体内に到達すると、いくつかのスピンするプロトンが新たな磁
場の影響でその方向を変化させ、その後本来の方向に戻る際に発する信号を MR 信号とし
て計測するというものである。
磁化の増加は指数関数的で、その変化を示す曲線の時定数 T1 は撮像する組織と磁石の強
さによって定まる。磁化は組織中の単位面積当たりのプロトンの数(プロトン密度、N(H)
と表記)にも依存しており、その絶対数だけでなく、十分に可動性のある(外磁場方向に
方向を変え、整列する)プロトンの数は重要である。T1 はスピンを縦(z)軸に沿って再び並
べる時間であり、縦緩和時間と呼ばれる。一方、T2 は横緩和時間と呼ばれ、T2 の減少は
T1 の増加に比べて 5~10 倍速い。2 つのスピンが隣り合っている場合、1 つのプロトンの磁
場はその隣のプロトンに影響し、互いの相互作用によって磁場の不均一性を生み出す。こ
れは“スピン‐スピン相互作用”と呼ばれ、組織によって固有の特性を持ち、T2 によって
計測される。また、外磁場の不均一性も位相の分散をもたらす。
このような原理を利用して空間の情報を得るためには、このプロセスを繰りかえす必要
がある。1 つの 90°パルスを印加した後に別のパルスを印加するが、その時間の間隔を TR
(繰り返し時間)と呼ぶ。また、生体から受信される信号は自由誘導減衰(FID)として受
15
第1章 序 論
信されるが、RF パルス印加直後に受信することは不可能であり、わずかな時間をおいて受
信することになる。この短い時間を TE(エコー時間)と呼ぶ。したがって、TE において受
信される信号 Signal Intensity(SI)は次のように表される。
SI(TE) = M0×exp (-TE / T2)
組織の T2 は、組織中のプロトンのスピンが位相分散する速さによって特徴付けられる。例
えば、水分子ではその構造と希薄さから、水素プロトン間のスピン‐スピン相互作用は非
常に小さく、他の組織に比べて水では位相分散が非常にゆっくりした速度で進行するため、
水の T2 緩和時間は長い。このようにして、組織内の水分量の違いが T2 緩和時間の差異と
して表れ、それを輝度の差異(コントラスト)として画像化したものが MRI となる(参考
図書 1 より)。
MRI を用いた骨格筋の活動に関するいくつかの研究は、横緩和(T2)時間に関連付けら
れており(Fleckenstein ら 1993; Yue ら 1994; Ploutz-Snyder ら 1997; Prior ら 1999; Meyer and
Prior 2000)、得られた画像データから T2 緩和時間について解析することによって、運動中
の筋の活動や反応の相対量を調べることが可能である(Adams ら 1992; Fleckenstein ら 1993;
Foley ら 1999; Prior ら 2001; Akima ら 2004; Kinugasa ら 2006; Larsen ら 2007)。また、これ
まで筋の配置や形態は主に典型的な死体の解剖研究から得られてきた
(Lieber ら 1984; Zajac
1989; Murray ら 2000)が、それによって得られた結果は限定されたものであり、体の大き
さや年齢による筋骨格系の変形や多様性などは明らかではなかった。しかし、MRI 技術の
統合化によって、より個別化された詳細で正確な筋骨格モデルが出現してきた。一般的に、
T1 強調スピンエコー画像などの標準パルス法が生体内の骨格筋や脂肪組織の横断面積や容
量を非侵襲的に同定するために用いられており(Tate ら 2006)、MRI を用いて運動前後の骨
格筋の形態的変化を経時的に追うことも可能である。近年では、羽状角や筋束長などの筋
束の配列やヒト骨格筋の構造と機能の関係を理解するための手法として、拡散テンソル画
像法(DTI)の有用性が示唆されている(Bammer ら 2003; Sinha ら 2006; Zaraiskaya ら 2006;
16
第1章 序 論
Lansdown ら 2007)。
神経‐
筋活動測定技術
神経
‐筋活動測定
技術
筋力はサルコメアのアクチンとミオシンの二つのフィラメントの連結によって産生され
る。この反応には ATP とカルシウムイオンが必要であり、細胞膜の速い消極化によっても
たらされる。この消極化の電位は筋電図(EMG)によって細胞外の領域で計測される。こ
こ 50 年の間に、EMG は筋の電気的な活動の解析方法の 1 つとして発展し、異なる筋間にお
ける動員タイミングの協調性(Dietz ら 1986; Prilutsky ら 1998; Carson ら 2002)や異なる収
縮様式における筋の活動特性(Milner-Brown ら 1973; Duchateau and Hainaut 1987; Macefield
ら 1996)
、運動単位の動員や発火率(Solomonow ら 1990; Van Cutsem ら 1998)などの研究
に広く用いられてきた。神経‐筋活動は、能動的もしくは反射的な活動の結果としての、
運動ニューロンから筋への電気的な伝達を直接的に示すものである。トレーニングやスポ
ーツ医学、リハビリテーションなどの分野においては、EMG は筋活動の意識性の効果判断
に用いられる(Duchateau and Hainaut 1991; Hakkinen ら 2000; Aagaard ら 2002; Gondin ら
2004)。例えば、EMG 信号の振幅の増加は筋量の増加の前に観察され(Hakkinen ら 2000;
Aagaard ら 2002)
、また、不活動は結果として筋の電気的な活動の低下をもたらす(Duchateau
and Hainaut 1991; Gondin ら 2004)。EMG の手法には直接的な方法と間接的な方法があり、
前者は針やワイヤー電極など筋の内部に電極を挿入する方法であり、後者は表面電極を用
いる方法である。
筋内 EMG 法
ワイヤー電極や針電極などの筋内電極は小さく、生体の深部に挿入され、筋の活動を直
接的に、高い空間解像度で検知するために用いられる。ワイヤー電極は、電極の挿入や除
去が容易であるため、動作的な課題(Hoffer 1993; Rowlands ら 1995)や神経生理学的な研
17
第1章 序 論
究(Onishi ら 2000; Onishi ら 2002; Mohamed ら 2002)において多用される。
表面 EMG は電気的ノイズや機械的アーチファクト、筋間のクロストークなどにさらされ
るが、ワイヤー電極は同一の運動単位から電位を計測するため、表面 EMG に見られる主要
な問題点を生じないという利点がある。その一方で、ワイヤー電極は被験者の不快感やワ
イヤーの破損などの難しさを孕んでいるが、これらの問題が発生することは稀であり、被
検者への脅威としては認識されない。挿入電極による筋損傷なども想定されるが、近年の
研究においてはそのような報告は見られていない。
表面 EMG 法
表面 EMG は、皮膚に貼付した電極によって検知された、その皮下にある筋の活動運動単
位による電気的活動の総体を示す。表面 EMG の特徴、すなわち振幅やパワースペクトルな
どは、筋線維を取り巻く形質膜レベルの伝達特性や運動単位の活動電位のタイミングなど
に依存する。
表面 EMG には方法論的な課題がいくつかある。まず、 得られる信号には皮膚組織層の
厚さや筋収縮中の EMG 電極に対する相対的な筋の移動などの非生理学的要素や、運動単位
伝導速度や動員される運動単位の数のばらつきなどの生理学的要素が影響する。非生理学
的な要因については、隣接する筋からのクロストークが多くの研究者たちにとって最も物
議を醸す課題となっている(De Luca and Merletti 1988; Aagaard ら 2000; Dimitrova ら 2002;
Farina ら 2002; Lowery ら 2003; Mogk and Keir 2003)。また、受動的に貼付された表面電極
は電気的な入力の抵抗性をほとんど持たないため、電極を貼付する皮膚表面は皮膚の電気
抵抗を減少させるためにアルコールを用いて洗浄し、研磨剤で磨くなどの準備が必須とな
る。
2000 年代には、表面 EMG は短縮性または伸張性の筋収縮(Pasquet ら 2000; McHugh ら
2002)や歩行(Bird ら 2003; Warren ら 2004)などの動的な筋収縮に対して適用されてきた。
18
第1章 序 論
動的筋収縮課題における表面 EMG の解釈は難解であり、それには次の 3 つの要因が絡んで
いる。それは、信号の不安定性、筋線維に対する相対的な電極の移動、電極と筋線維の間
にある組織の伝導特性の変化である。動的な筋収縮における表面 EMG の解析方法は改善さ
れつつあり、研究や臨床における有用な筋機能の評価手段の 1 つとなっている。
19
第1章 序 論
1‐6.ハムストリングスの
ハムストリングスの身体における
身体における意義
における意義およびその
意義およびその構造
およびその構造と
構造と機能
ハムストリングス(Hamstrings)とは、大腿後面に位置する大腿二頭筋長頭(Biceps Femoris
long head: BFlh)、大腿二頭筋短頭(Biceps Femoris Short head: BFsh)、半腱様筋(Semitendinosus:
ST)、半膜様筋(Semimembranosus: SM)の総称である。Ham とは、本来、膝関節後面の筋や脂
肪を指し、Strings とはその部位の境界となるひも(string)状の腱(上記4筋の遠位腱)を
指しており、その形状から名付けられたと考えられる。また、一説によると、ハムストリ
ングとは「もも肉のひも」という原意であるとされ、これはハムを作るときに豚などのも
も肉をぶらさげるために、これらの筋の腱が使われたことに由来しているとされているが、
その根拠は定かではない。
これらの筋群がハムストリングスとして総称される所以は、その構造および機能を部分
的に共有していることによる。BFlh、ST、SM の 3 筋はともに骨盤後下端に位置する坐骨結
節(ischial tuberosity)に起始し、骨盤と大腿とで成す関節、すなわち股関節の主に矢状面上
の運動(屈曲‐伸展)に作用している。また、股関節は骨盤の寛骨臼に大腿骨頭がはまっ
ている臼状関節で比較的自由な可動域を有しており、ハムストリングスは股関節の回旋(内
旋‐外旋)にも作用する。この起始部の構造は複雑で、BFlh と ST は近位で融合しており、
さらに SM がその下に薄い腱膜となって融合し、総頭となり坐骨結節に付着している。また、
BFlh は BFsh と遠位腱部で融合して腓骨頭に停止しており、ともに膝関節の屈曲および下腿
の外旋に作用する(BFsh は大腿骨粗面の遠位 1/2 に位置する外側顆の稜線に起始)。なお、
BFlh は長腓骨筋の腱と繋がっているため、足関節および足部の動きの影響を受ける(Weinert
ら 1973)。一方、ST は脛骨粗面内側に(薄筋 Gracilis:G、縫工筋 Sartorius とともに鵞足部
を構成)
、SM は脛骨内側顆の後内側にそれぞれ停止し、ともに膝関節の屈曲および内旋に
作用する(参考図書 2 より)。したがって、BFlh、ST、SM の3筋は、股関節と膝関節の運
動に作用する二関節筋である。
20
第1章 序 論
③半腱様筋
①大腿二頭筋
②半膜様筋
BFlh・ST総頭腱
反転
SM近位腱
図 1‐4.ハムストリングスの解剖図(右脚)
21
第1章 序 論
ハムストリングスの第一義的な役割は、身体の移動である。すなわち、立位姿勢から足
部を効果器として力を地面に伝え、膝関節を屈曲、および股関節を伸展させることによっ
て身体を前方へ移動させる、歩行、走行、跳躍などの動作において重要な役割を果たす。
ハムストリングスは、このような比較的速い速度での動作において動員されることから、
速筋である typeⅡ線維の含有率が高く(Garrett ら 1984)
、大きい筋張力の産生が可能な組
成となっている(Garrett ら 1984; Garrett 1990; Noonan and Garrett 1999)。また、その構造上、
立位姿勢では上体(骨盤‐体幹‐頭部および上肢)の前方動揺を支持することから、姿勢
制御や抗重力などにも貢献すると考えられる(Waters ら 1974)
。
ハムストリングスは人間の様々な身体活動において協働して機能すると考えられているが、
近年、個々の筋の構造や機能に関する詳細な検討によって、それぞれの異なる特徴が明ら
かとなってきている(Wickiewicz ら 1983; Friederich and Brand 1990; Woodley and Mercer
2005)
。形態的・構造的な観点からそれぞれについて相対的に比較すると、BFlh および SM
は筋線維長が短く、筋線維数が多く、羽状角を有する羽状筋であり、生理学的横断面積
(PCSA)が大きいため、大きな力の発揮に特化している。一方で、ST および BFsh は筋線
維長が長く、筋束が筋の収縮方向に対して平行に配列し、長い収縮範囲を持つ紡錘状筋で
。さらに ST は筋腹に腱画(tendinous intersection:
ある(Lieber and Bodine-Fowler 1993)
TI)を有し、近位部と遠位部とに隔てられている(Wickiewicz ら 1983; Woodley and Mercer
2005)
。また、神経支配も異なり、BFlh、ST、SM は坐骨神経の脛側部に支配される一方、
BFsh は坐骨神経の腓側部に支配される。また、ST は近位部と遠位部で異なる分枝の支配を
受けていることも明らかとなっている(Woodley and Mercer 2005)
。
22
第1章 序 論
表 1‐1.ハムストリングス各筋の解剖学的構造および筋形態
BFlh
BFsh
ST
SM
起始
坐骨結節、仙結
節 靱 帯 ( ST と 近
位で融合)
大腿骨 粗線 ・下
1/2 の 外 側 顆 稜
線
坐骨結節、仙結
節 靱 帯 ( BFlh と
近位で融合)
坐骨結節
停止
脛骨外 側顆 ・腓
骨頭
脛骨外 側顆 ・腓
骨頭
脛骨粗面内側
(鵞足)
脛骨内側顆後内
側、斜膝窩靱
帯、膝窩筋膜
単/二関節筋
二関節筋
単関節筋
二関節筋
二関節筋
股関節回旋
外旋
-
内旋
内旋
膝関節回旋
外旋
外旋
内旋
内旋
筋線維配列
半羽状筋
紡錘状筋
紡錘状筋
半羽状筋
神経支配
腓骨神経
S1-3
総腓骨神経
L5-S2
総腓骨神経
L5-S2
脛骨神経
L5-S2
Wickiewicz et al. (1983)
128.3
-
76.9
119.4
筋体積 [ml]
[ ]
Friederich and Brand (1990)
138.5
76.0
128.5
211.0
筋長 [cm]
[ ]
Wickiewicz et al. (1983)
Friederich and Brand (1990)
Woodley and Mercer (2005)
Makihara et al. (2006)
Ave.
34.2
27.4
28.1
31.2
30.2
27.1
22.3
25.8
25.0
31.7
28.3
31.6
26.8
29.6
26.2
20.8
26.4
28.5
25.5
Ave.
8.5
9.1
7.3
10.9
7.0
7.3
8.3
13.9
11.8
11.7
12.4
12.4
15.8
6.6
9.0
20.1
9.0
23.8
18.1
6.3
6.6
6.4
8.0
5.0
6.0
6.4
Ave.
25
26
25
23
25
52
52
48
51
50
46
28
89
53
24
27
19
21
23
Ward et al. (2007)
2.4
3.3
2.9
2.6
Alexander and Vernon (1975)
Pierrynowski and Morrison (1985)
Spoor et al. (1989)
White (1989)
Wickiewicz et al. (1983)
Friederich and Brand (1990)
Delp et al. (1990)
Makihara et al. (2006)
Ave.
17.0
15.0
15.0
0.0
0.0
7.0
0.0
28.0
10.3
0.0
0.0
17.0
23.3
15.0
23.0
13.1
0.0
0.0
10.0
15.0
5.0
6.0
5.0
0.0
5.1
16.0
15.0
15.0
0.0
15.0
16.0
31.0
31.0
15.4
Alexander and Vernon (1975)
21.0
5.2
8.5
30.0
Wickiewicz et al. (1983)
Freivalds (1985)
Friederich and Brand (1990)
Woodley and Mercer (2005)
12.8
11.8
9.2
10.1
13.0
6.4
3.0
4.9
5.4
4.3
13.2
8.1
7.9
16.9
13.0
30.2
15.8
21.2
54.5
65.0
66.9
62.1
59.2
66.9
50.0
58.7
57.5
50.0
50.0
52.5
50.8
50.0
50.0
50.3
解剖学的構造
筋形態
筋量 [g]
[ ]
筋線維長 [cm]
[ ]
Wickiewicz et al. (1983)
White (1989)
Friederich and Brand (1990)
Delp et al. (1990)
Woodley and Mercer (2005)
Makihara et al. (2006)
筋線維長/
筋線維長/筋長 [%]
Wickiewicz et al. (1983)
Friederich and Brand (1990)
Woodley and Mercer (2005)
Makihara et al. (2006)
筋節長 [µm]
[ ]
羽状角 [°]
[ ]
2
筋横断面積 [cm
]
[
Ave.
typeⅡ
Ⅱ線維含有率 [%] Garrett et al. (1984)
Pierrynowski and Morrison (1985)
White (1989)
Ave.
23
第1章 序 論
大腿二頭筋長頭(BFlh)
半腱様筋(ST)
大腿二頭筋短頭(BFsh)
半膜様筋(SM)
図 1‐5.ハムストリングス各筋の神経支配(Woodley and Mercer 2005 より改変)
24
第1章 序 論
二関節筋である BFlh、ST、SM は、股関節と膝関節において異なるモーメントアームを
持つことが、屍体標本実測や MRI を用いたモデリング等の研究により報告されている。股
関節の運動においては、
BFlh と ST は SM に比べてやや大きな股関節伸展モーメントを持つ。
BFlh のモーメントアームは股関節の全可動域を通して大きく、股関節が屈曲するに伴い直
線的に大きくなる一方で、ST および SM は股関節 40°屈曲位付近をピークとした逆双曲線
状の変化を示す(Visser ら 1990; Arnold ら 2000)
。また、膝関節の運動においては、ST は
SM および BFlh に比べてやや大きな膝関節屈曲モーメントを持つ(Buford ら 1997)。SM
のモーメントアームは膝が伸展するに伴い大きくなり膝伸展位でピークとなる一方で、
BFlh および ST のモーメントアームは膝伸展位で小さく、ST では膝が屈曲するに伴い大き
くなるが、BFlh では大きな変化は見られない(Herzog and Read 1993)。したがって、BFlh
は股関節伸展運動において、ST は膝関節屈曲運動において、それぞれ他の筋より比較的効
率的に機能すると考えられる。
図 1‐6.BFlh の股関節モーメントアーム(Visser ら 1990 より改変)
.縦軸はモーメントア
ームの大腿長に対する比率を表し、データを得た 5 体 6 肢の大腿長の平均値が約 40cm であ
るとされていることから、モーメントアームはおよそ平均 8-10cm と推定される。
25
第1章 序 論
図 1‐7.ST および SM の股関節モーメントアーム 3 例(Arnold ら 2000 より改変)
.MRI
モーメントアーム (mm)
データからの推定値(黒・実線)と実測値(灰色・点線)が示されている。
膝屈曲/伸展角度(°)
図 1‐8.ハムストリングス各筋の膝関節モーメントアーム(Buford ら 1997 より改変).15
例の平均値(実線)と標準偏差(破線)が示されている。
26
第1章 序 論
ハムストリングス各筋の機能的な差異については、遂行する課題の運動様式や関節角度
(筋の静的伸張度)
、運動速度(筋の収縮速度)や筋に課される負荷の大きさへの応答など
の観点から、主に筋電図(EMG)を用いて数多く検討されている。等速度における短縮性
の膝関節屈曲運動において、浅屈曲位では BFlh が主に動員され、膝深屈曲位になればなる
ほど ST、SM、
BFsh が動員される割合が増加することが明らかとなっている
(Onishi ら 2002)
。
また、股関節から膝関節にまたがる二関節筋であるハムストリングスは、股関節および膝
関節屈曲角度に応じて、すなわち静的伸張度に応じて等尺性膝関節屈曲運動時の個々の筋
活動の度合いが異なり(Mohamed ら 2002; Onishi ら 2002; Makihara ら 2006)、もっとも伸
張された肢位において膝屈曲トルクが最大になる。また、股関節と膝関節、両関節の複合
関節運動においては、それぞれの関節運動トルク(股関節伸展、膝関節屈曲)を同時に産
出する上で筋の活動が最大になる時の作用方向(Preferred Direction: PD)は個々の筋で異なり、
その勾配が中枢神経系(Central Nervous System: CNS)においてコントロールされている可能
性が示唆されている(Nozaki ら 2005)
。それによると、BFlh と BFsh とでは PD が大きく異
なり、さらに ST の PD は BFlh よりもむしろ BFsh に近いということが示唆されている。
生体内の筋において、受動的張力が発現し始める時の筋の長さは筋の構造的特徴(羽状
筋または紡錘状筋)によって異なり、受動的張力と能動的張力との総和として表される筋
固有の長さ‐張力関係に影響を与えることは先に述べた。ハムストリングス各筋の構造
的・機能的特徴から、ハムストリングスは羽状筋(BFlh、SM)と紡錘状筋(BFsh、ST)が
バランスよく配置され、それらが協働することによって股関節伸展筋としての機能と膝関
節屈曲筋としての機能を効率よく果たしていると考えられる。しかしながら、これまでの
ハムストリングスに関する研究の多くは、伏臥位または座位における膝関節屈曲筋群とし
ての機能について検討したものであり、実際の日常生活やスポーツ活動における歩行や走
行など、本来ハムストリングスが“ハムストリングスらしく”振舞うような動作中の機能、
特に股関節伸展筋としての役割については明らかにされていない部分が多い。
27
第1章 序 論
1‐7.ハムストリングスと
ハムストリングスと肉離れ
肉離れ
ハムストリングスの第一義的な役割は身体の移動であり、走動作や跳動作などを含むス
ポーツ活動においてハムストリングスの果たす役割は非常に大きい。ハムストリングスは
大きな、繰り返しの力発揮を要求されるため(Koulouris and Connell 2006)、スポーツ活動に
伴う傷害が頻発し(Kujala ら 1997; Gabbe ら 2002)
、その初回発生や再発の予防、より効果
的な治療・リハビリテーション方法の確立は、現代スポーツ医学における重要な課題の 1
つとなっている。ハムストリングスに発生する急性外傷の代表的なものとして、肉離れが
挙げられる。ハムストリングスの肉離れは、スポーツ活動中に発生する急性外傷の中でも
特に発生率が高く(Bennell and Crossley 1996; Hawkins 2001; Orchard and Seward 2002; Orchard
ら 2002; Meeuwisse 2003; Arnason ら 2004; Woods ら 2004; Brooks ら 2005; Brooks ら 2006)、
また、一旦治癒してスポーツ活動に復帰しても再発するケースが多い(Orchard ら 2002;
Arnason ら 2004; Croisier 2004; Woods ら 2004; Brooks ら 2006)
。故に、その治療やリハビリ
テーションにおいては、選手本人も、医師やトレーナーも慎重にならざるを得ず、復帰ま
でには長い期間を要し、かつ復帰後も心理的な不安が残る場合が多く、選手のパフォーマ
ンスレベルの低下を招くことになる。ハムストリングス肉離れの病態を詳細に明らかにし、
蓄積されたデータから受傷機転や危険因子を抽出し、その発生に関与する身体の構造や機
能を照らし合わせながら傷害発生の予防的アプローチを検討していくことが、受傷率の低
下とスポーツパフォーマンスの向上につながると考えられる。
以下、ハムストリングス肉離れの病態、発生危険因子、受傷メカニズムについて述べる。
病態
Safran ら(1989)の定義によれば、肉離れとは「筋線維の断裂(重度の場合は筋周膜も断
裂)で周囲の血管の損傷を伴うもの」とされるが、これまでの数多くの疫学的研究によっ
28
第1章 序 論
て、特に近年の MRI や超音波画像診断装置(US)などの画像診断技術の発展により、その
病態の詳細が明らかになってきている。ハムストリングスの肉離れは特に BFlh において多
く発生し(De Smet and Best 2000; Woods ら 2004; Brooks ら 2006; 奥脇 2008)
、その受傷部
位は筋線維の断裂というよりはむしろ筋線維が腱または腱膜に接続する筋腱移行部での断
裂であることが報告されている(Garrett 1990; Tidball ら 1993; Garrett 1996; Koulouris and
Connell 2003; 奥脇 2004)
。また、BFlh と ST は近位で融合しているが、その融合部での断
裂も散見され、その構造的な力学的負荷に対する脆弱性も窺える(Hoskins and Pollard 2005)。
De Smet ら(2000)は、MRI 診断したハムストリングス肉離れ症例において、全ての損傷
は筋腱移行部にて起きており、15 例中 6 例(40%)が BFlh の単独損傷で、次いで 5 例(33%)
は近位の BFlh と ST の融合部にて損傷していると報告している。同様に、Gibbs ら(2004)
も BFlh の単独損傷がハムストリングス肉離れ症例全体の 76%を占め、BFlh と ST の近位融
合部の損傷が 29%であったことを報告している。このような BFlh に発生する肉離れの受傷
機転は、ランニング中の接地期の前後における動作であることが多く、非接触性の自発的
な運動の中で起きることは興味深い。一方で、介達外力を受けてハムストリングスが過度
に伸張される、すなわち股関節が過屈曲、もしくは膝関節が過伸展、もしくはその両者が
同時に起きるような状況では、
損傷が ST や SM など他の筋や遠位の筋腱移行部にも見られ、
さらに近位腱が坐骨結節との付着部から裂離する腱断裂を合併するケースなどもあり(奥
脇 2004)、その病態が多岐に渡る。Askling ら(2007)は、短距離選手におけるハムストリ
ングス肉離れ症例を検討した結果、全例が BFlh の損傷であったと報告しているが、その後
の報告において、球技、ダンス競技を含む多数の競技で発生したハムストリングス肉離れ
を検討しており、股関節過屈曲・膝関節過伸展肢位で受傷した症例のうち、83%が SM の近
位筋腱移行部における受傷であると報告している(Askling ら 2008)。
29
第1章 序 論
図 1‐9.大腿二頭筋長頭の肉離れと画像診断された例(矢印部分に高輝度が確認される;
Koulouris and Connell 2005 より改変)
.
発生危険因子
肉離れは、活動中の筋が通常の長さ以上に引き伸ばされたときに発生し、筋活動を伴わ
ない筋の伸張、または、伸張を伴わない筋活動では筋損傷は起こらないとされる(Garrett
1996)
。つまり、強く速い筋収縮と筋への伸張性負荷とが同時に起こることで力学的な緊張
が生じ、肉離れが起こると考えられている。これまでの研究で、肉離れの発生時には強い
筋収縮によって筋線維内の結合力が筋腱移行部の結合力を上回るため、損傷は筋腱移行部、
特に透明層(lamina lucida)で生じることが報告されている(Tidball ら 1993)。このような
筋の断裂が特に自発的な運動中に起こる際の受傷機転、発生メカニズムについては、受傷
場面の動作を客観的に記録することも実験室的に再現することも不可能であるため、あく
まで推測の域を出ない。しかしながら、実際に肉離れが発生した際の受傷者の主観や状況
の記録などから、ハムストリングス肉離れ発生の危険因子として、以下のものが挙げられ
ている(Agre 1985; 蒲田 2000; Hoskins and Pollard 2005; 白木と加藤 2008)。
30
第1章 序 論
<内的因子>
・ 強く、速い筋収縮(上位中枢からの興奮伝達による能動的張力発揮)
・ 過度に筋が伸張するような動作肢位
股関節:屈曲(骨盤の前傾)、内旋(BFlh の伸張)
、外旋(ST、SM の伸張)
膝関節:伸展、
(下腿)内旋(BFlh の伸張)、外旋(ST、SM の伸張)
・ 筋力の低下、拮抗筋との筋力比のアンバランス(Burkett 1970; Heiser ら 1984;
Yamamoto 1993; Croisier 2008)
・ 柔軟性の欠如(筋タイトネスの増加)(Worrell ら 1991; Jonhagen ら 1994; Hartig and
Henderson 1999; Witvrouw ら 2003; Dadebo ら 2004; Alonso ら 2008; Arnason ら 2008)
・ ウォーミングアップの不足(動作への不適応)
(Garrett 1990; Hoskins and Pollard 2005)
・ 疲労の蓄積(円滑な運動機能の破綻)
(Heiser ら 1984; Nummela ら 1994; Mair ら 1996;
Hawkins and Fuller 1999; Pinniger ら 2000; Verrall ら 2003; Dadebo ら 2004; Woods ら
2004)
・ 既往歴(不完全な治癒、受傷しやすい身体の構造的、機能的、動作的特徴)
(Jonhagen
ら 1994; Turl and George 1998; Brockett ら 2001; Brockett ら 2004; Croisier 2004; Lehman
ら 2004; Proske ら 2004)
<外的因子>(白木と加藤 2008)
・ 天候(気温、湿度)
・ サーフェス(接地面の状況)
・ シューズ(スパイクシューズ着用の有無)
これらの因子が複雑に絡み合うことで肉離れが発生すると考えられるが、特により多く
の因子を含むスポーツ動作は、陸上競技やサッカー、ラグビーなどにおける全力疾走動作
31
第1章 序 論
(スプリント動作)である(Garrett 1990; Jonhagen ら 1994; Bennell and Crossley 1996; Woods
ら 2004; Brooks ら 2006)
。したがって、スプリント動作に関与する身体の構造・機能など
の解剖学的・神経生理学的な知見および運動学的知見が、肉離れ発生機転を解明し、予防
策を検討する上で求められている。
受傷メカニズム
ハムストリングス肉離れがスプリント動作中に多く発生することは多くの先行研究によ
って報告されており、特に加速期あるいは最大速度に達する付近の(Sherry and Best 2004;
Woods ら 2004)、股関節屈曲および膝関節伸展が同時に起こる遊脚期後半から接地期にか
けての場面において発生するといわれている(Wood 1987; Montgomery ら 1994; Verrall ら
2001)
。遊脚期後半においてハムストリングは膝関節の伸展を制限・調整するためのブレー
、その際の筋発
キ動作として働き(Garrett 1996; 山本 2000; Petersen and Holmich 2005)
揮張力は動作速度が速いほど大きくなる(Hewett ら 1999)。遊脚期後半から接地期におい
ては、地面への反発力を生み出すための瞬間的な力発揮が要求されるため、筋が収縮して
物理的な力が発生する以前に数多くの運動単位が動員される(Yoneda ら 1986)と同時に、
収縮様式が伸張性収縮から短縮性収縮に転じる。さらに接地期では地面からの反力により
股関節には屈曲モーメントが、膝関節には伸展モーメントが加わるため、ハムストリング
スに強い伸張性の負荷がかかる(山本 2000)。また、スプリント動作においてハムストリ
ングスは膝関節と股関節の力の伝達および股関節伸展にも貢献するが(Jacobs ら 1996)
、接
地時に発生する肉離れには股関節伸展筋である大臀筋の活動が弱いことが影響するという
報告もある(Simonsen ら 1985)
。Hoskins ら(2005)は、スプリント中に大臀筋の活動が抑
制された場合、ハムストリングスは膝関節‐股関節間の力の伝達の役割よりも股関節の伸
展筋として筋張力を発揮するため、このような負荷が筋損傷を誘発すると推測している。
スプリント動作におけるこの一瞬の時間の中で、ハムストリングスを含む股関節伸筋群と
32
第1章 序 論
膝関節屈筋群は協調して活動することが要求され、特に二関節筋であるハムストリングス
は筋自体の高い張力と、筋長と収縮様式の素早い変化に対応しなければならない。したが
って、わずかな接地のタイミングのずれなどの影響によってもハムストリングスへの負荷
が増幅すると言われている(Olsen ら 2005)。
ハムストリングス肉離れ受傷場面のビデオ解析を行った報告(Orchard 2002; Verrall ら
2005)では、最大疾走スピードに近いスプリント動作において、急速な加速によるストラ
イドの増大や疾走速度の維持を意識した体幹の前傾等がハムストリングスに過度の伸張
性負荷を与えるとされており、肉離れの発生リスクを増大させると考えられている。
Orchard(2002)は、スプリント時のハムストリングス肉離れ受傷リスクが高くなる場面は、
最大速度でストライドを広げようとする瞬間で、体幹前傾、股関節屈曲、および膝関節伸
展位が危険肢位であるとしている。また、ハムストリングスが最も伸張されるのは遊脚期
後半、最大負荷がかかるのは接地直後であると報告している。奥脇(2008)は、疾走中の
ハムストリングス肉離れの危険因子として体幹の前傾角度の増大、下肢の振り上げ(大腿
の引き付け)動作による股関節屈曲角度の増大、下腿の前方への振り出し動作による膝関
節伸展角度の増大、ストライド長の増加、さらに骨盤の傾斜および骨盤の回旋角度の増大
を挙げ、同時に肉離れ受傷の症例報告において、ハムストリングス肉離れには股関節と膝
関節の動作連関が強く関与していると報告している。すなわち、接地直前で股関節屈曲角
度が大きいまま膝伸展が急激に行われた場合にはハムストリングスの遠位部に損傷が起
こり、また、接地時に膝関節伸展位で固定された状態で股関節が屈曲するとハムストリン
グス近位部での損傷が起こりやすいと推測している。さらに、これらの動きに股関節およ
び膝関節の回旋が加わることによって、内側あるいは外側のハムストリングスに伸張性収
縮が強制されるとしている。Thelen ら(2005)や Chumanov ら(2007)は、トレッドミル
上でのスプリント動作時の三次元動作解析を用いたシミュレーションから、走速度を変化
(最大速度の 80-100%)させた際のハムストリングス(BFlh、ST、および SM)の筋腱長
33
第1章 序 論
の推定を行っており、彼らは共通して、ハムストリングスの筋腱長は接地前の下腿の振り
出し期に最も伸張し、さらに、筋腱の伸張度は走速度によらず BFlh において最も大きい
と報告している。したがって、スプリント動作においては、ハムストリングスの中でも特
に BFlh に対して伸張性の負荷が大きいことが推測できる。加えて Heiderscheit ら(2005)
は、トレッドミル上のランニング動作で実際に発生した BFlh の肉離れの瞬間を分析・報
告しており、肉離れが接地直前の下腿振り出し期において発生したと推測している。これ
はハムストリングス肉離れ発生の瞬間を詳細に捉えた興味深い報告であり、肉離れが遊脚
期後半の接地直前に起こるという仮説を実証する報告であるとも言える。
図 1‐10.ハムストリングス肉離れの発生危険肢位(参考図書 4 より)
34
第1章 序 論
1‐8.本研究の
本研究の目的
以上をまとめると、ハムストリングスの身体における振舞い、特にスポーツ動作におけ
る役割とそれに付帯する問題点は、以下のように特徴付けられる。
<ハムストリングスの特徴>
膝関節屈曲運動における協働筋として働く
・ 一般に関節屈筋は紡錘筋が多いとされるが、紡錘状筋では生体内において受動的張力
がほとんど発現しないため、過度な伸張は関節の構造によって制限される
・ 紡錘状筋は収縮範囲が長い
→ハムストリングスの場合は ST と BFsh
股関節伸展運動における協働筋として働く
・ 一般に関節伸筋は羽状筋が多いとされるが、羽状筋では受動的張力が短い筋長で発現
する
・ 羽状筋は生理学的横断面積が大きいため、大きな力発揮が可能
→ハムストリングスの場合は BFlh と SM
速筋線維(typeⅡ線維)の含有率が高く、大きく、速い筋張力の発揮に適した組成
・ 身体活動の中で要求される力学的負荷に応じた適応の結果とも考えられる
スポーツ活動、特にスプリント動作において肉離れが多く発生する
・ 伸張性筋活動の結果と考えられるが、その病態は筋線維の損傷というよりはむしろ筋
腱移行部の断裂である
・ 特に BFlh に多く発生する
35
第1章 序 論
ハムストリングスは人間の身体活動を支える重要な役割を担っているが、要求される負
荷が高くなればなるほど、傷害発生のリスクも高くなる。つまり、とりわけ高い筋力発揮
が要求される競技スポーツの現場において、競技力向上を目的とした筋機能の向上と筋傷
害の予防は表裏の関係にあり、骨格筋の構造と機能に関する新たな知見を得ることは、そ
の両者に対して有効な示唆を与えると考えられる。ハムストリングスは膝関節屈曲および
股関節伸展に協働して作用する二関節筋であるが、個々の筋が持つ構造(形態)的・機能
的特徴が明らかにされつつあり、それぞれの運動中の振舞い(運動発現のための活動度)
は遂行される課題に依存して異なることが推察される。このような仮説のもとに、本研究
の目的を以下の 2 点について明らかにすることとした。
1.伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
2.伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
以下、これらに関しての新規の知見を得るために行なった実験的検討について論述し、
包括的視点からハムストリングスが関与するスポーツ動作の改善およびスポーツ傷害の予
防への提言を行なう。
36
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
‐ 第 2 章‐
伸張性の
伸張性の膝関節屈曲運動における
膝関節屈曲運動におけるハムストリングス
におけるハムストリングスの
ハムストリングスの機能
2‐1.研究背景および
研究背景および目的
および目的
膝関節屈曲運動中のハムストリングスの機能については、これまで数多くの研究が行な
われてきた。
Onishi ら(2002)は、伏臥位(股関節 0°)での等速性(角速度 30°/秒)の短縮性膝関
節屈曲運動におけるハムストリングス各筋(BFsh、BFlh、ST、SM)の筋放電量をワイヤー
電極を用いて計測し、同時にハムストリングスが協働して発揮する膝関節屈曲トルクを計
測した。その結果、膝関節屈曲トルクは膝 15‐30°屈曲位の間にピークとなって屈曲角度
が増大するにしたがってトルクは減少した。さらに、ハムストリングス各筋の筋放電量は
屈曲角度の増加に伴って異なる活動パターンを示し、BFlh だけが膝 15‐30°屈曲位の間に
ピークとなる一方で、他の 3 筋は膝 90‐105°屈曲位の間にピークとなったと報告している。
Mohamed ら(2002)は、3 種類の股関節角度(0°、SLR 角度、90°)と 3 種類の膝関節
角度(0°、45°、90°)の組み合わせ、計 9 パターンの肢位(9 パターンの異なるハムス
トリングスの筋長)での等尺性の膝関節屈曲運動における膝関節屈曲トルクおよび膝関節
屈曲に関与する筋群(BFsh、BFlh、ST、SM、縫工筋 sartorius:S、薄筋 gracilis:G)の筋放
電量を計測した。その結果、BFsh を除くハムストリングス 3 筋は、筋長が長くなればなる
ほど放電量は減少するが、協働して発揮するトルクは逆に増加した。筋の伸張に伴う放電
量の低下は、受動的張力の増大に応じて能動的張力が低下することを示したものであり、
特に ST・G・S の 3 筋(ともに鵞足部を形成)は、膝関節屈曲角度が減少する(より伸展位
に近くなる)ほどモーメントアームが小さくなるため、放電量も低下するとしている。ま
た、SM は最も筋長が短くなる肢位(股関節 0°、膝関節 90°)において放電量が著しく低
37
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
下するが、これは SM がハムストリングスの中で最も短い筋長と最も大きい羽状角を持つと
いう形態的特性を反映したものであるとしている。
一方、膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能については、膝前十字靭帯(ACL)
損傷後の再建術に ST・G 腱を用いた場合、ST・G 腱を採取した側の脚において術後の膝関
節屈曲機能に生じる影響について数多くの研究がなされている。Makihara ら(2006)は、
ST・G 腱を用いた ACL 再建術後の患者において、ST・G 腱を採取した側の脚では、健側に
比べて膝関節深屈曲位(90°)における ST の放電量の低下と等尺性の膝関節屈曲トルクの
低下が見られたことから、ST が深屈曲位における膝関節屈曲トルクの発揮に重要な機能を
果たしている可能性を示唆している。また、一般的に G はハムストリングスを構成する筋
には含まれないが、主に股関節内転と膝関節屈曲に働く二関節筋であり、形態的に ST と類
似した紡錘状筋であることから、膝関節屈曲運動において ST に似た機能を果たしていると
推測されているが、ACL 再建術後の形態的・機能的変化については未だ明らかにされてい
ない。
このように、膝関節屈曲運動においてハムストリングス各筋は協働して運動トルクを産
出しつつも、個々の筋固有の形態的・構造的特性を反映した機能的特徴を示すことが明ら
かにされている。しかしながら、これらの研究において用いられている運動様式はいずれ
も等尺性もしくは短縮性の運動であり、伸張性の運動についてはあまり検討されていない。
ハムストリングスに発生するスポーツ傷害として頻発する肉離れは、スプリント動作に
おける加速期あるいは最大速度に達する付近の(Sherry and Best 2004; Woods ら 2004)
、股
関節屈曲および膝関節伸展が同時に起こる遊脚期後半から接地期にかけての場面において
発生するといわれている(Wood 1987; Montgomery ら 1994; Verrall ら 2001)
。また、肉離れ
は、活動中の筋が通常の長さ以上に引き伸ばされたときに発生し、筋活動を伴わない筋の
伸張、または、伸張を伴わない筋活動では筋損傷は起こらないとされる(Garrett 1996)。つ
まり、強く速い筋収縮と筋への伸張性負荷とが同時に起こる状況、すなわち高強度の伸張
38
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
性収縮において力学的な緊張が生じ、肉離れが起こると考えられている。したがって、伸
張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングス各筋の活動動態を明らかにすることは、
肉離れ発生メカニズムの解明に向けた示唆を得ることにつながると考えられる。
また、伸張性筋活動では、単核細胞の浸潤を特徴とする微細な筋組織の損傷が認められ
(McCully ら 1985)
、伸張性負荷によって損傷した筋は、その修復・再生過程において様々
な炎症反応と「適応」としての筋肥大を生じることが数多くの研究によって明らかとなっ
ているが(Clarkson ら 1992; McHugh ら 1999; Nosaka ら 2001)
、それらの多くは伸張性の肘
関節屈曲運動(主働筋:上腕二頭筋、上腕筋)や膝関節伸展運動(主働筋:大腿四頭筋)
における動員筋群の損傷・修復・適応過程を示したものであり、ハムストリングスを対象
とした研究はあまり行なわれていない。したがって、ハムストリングスへの伸張性負荷に
対する生体内の反応を計測し、修復・再生・適応過程を経時的に評価することは、ハムス
トリングス肉離れの発生機序の解明と、より効果的な治療・リハビリテーション、予防ト
レーニング法への示唆を得ることにもつながると考えられる。
以上から、本章では伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングス各筋の活動動態
およびそのような負荷への適応変化を明らかにし、肉離れの発生メカニズム解明および傷
害発生予防のための示唆を得ることを目的とした。
39
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
2‐2.方法
対象
下肢の運動に支障をきたすような外傷、神経系の疾患を有さない健常な男子大学生 7 名
(年齢 24.3 ± 0.8 歳,身長 169.8 ± 1.9 cm,体重 63.7 ± 3.0 kg; 平均 ± 標準誤差)を
対象とした。対象者はすべて、実験初日から過去 1 年の間に下肢に対する高強度の筋力ト
レーニングを行なっていない者とした。研究に際して、早稲田大学スポーツ科学学術院倫
理委員会の承認を受けた(承認番号:06-061)。対象者には研究概要の説明を文章および口
頭にて事前に行い、参加の同意を得た。また、対象者には実験初日の 1 週間前から実験終
了までの間、スポーツ活動やアイシングなどの抗炎症療法を行なうことを禁止した。
運動プロトコル
運動
プロトコル
10‐15 分間のウォーミングアップの後、対象者はウェイトスタック式のウェイトマシン
(Prone Leg Curl, Nautilus Inc., USA)を用いた、伏臥位での片脚膝関節屈曲運動を行なった。
まず始めに、Mayhew ら(1995)の方法に従って 1 RM(Repetition Maximum:最大反復挙上
重量)を左右のそれぞれの脚で推定した。それに続き、対象者は左右それぞれの脚におい
て異なる膝関節屈曲運動を行なった。
図 2‐1.実験に用いたものと同型のウェイトマシン.
40
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
(1) 高強度の伸張性膝関節屈曲運動(intensive eccentric contraction: int ecc)
対象者は、右脚にて 1RM×1.2 の重量での伸張性の膝関節屈曲運動を行なった。運動の形
式は、膝関節 90°屈曲位の位置まで検者が負荷を持ち上げ、その位置から手放された負荷
に対象者が全力で抵抗するというものであった。対象者は膝関節屈曲方向に最大の能動的
張力を発揮しようとするのに対し、負荷が 1RM を超えているために対象者の膝関節は他動
的に伸展され、結果としてハムストリングスには高強度の伸張性負荷が課される。対象者
はこの運動を、連続 10 回を 1 セットとして計 5 セット行なった。セット間には 3 分間の休
息時間を設けた。対象者には運動中、運動速度を一定にするように検者の“1、2、3”とい
う声に合わせて負荷を下ろすように指示し、また、股関節をできるだけ動かさず、下腿を
中間位に保持する(内・外旋しない)ように指示した。なお、この実験で用いた運動負荷
重量および反復回数の決定に際しては Foley ら(1999)、Stupka ら(2001)、Chen ら(2007)の方
法を参考にした。
(2) 低強度の短縮性・伸張性膝関節屈曲運動( moderate concentric (con) & eccentric (ecc)
contraction)
対象者は左脚にて 1RM×0.5 の重量での短縮性および伸張性の膝関節屈曲運動を行なっ
た。運動の形式は、膝関節最大伸展位(0°屈曲位)から 90°屈曲位までの膝関節屈曲(ハ
ムストリングスの短縮性収縮)と 90°屈曲位から最大伸展位までの膝関節伸展(ハムスト
リングスの伸張性収縮)を繰り返し、運動開始から、やがて疲労により屈曲角度が 90°に
達しなくなった時点で運動終了とするまでを 1 セットとして、計 5 セット行なった。セッ
ト間には 3 分間の休息時間を設けた。対象者には運動中、運動速度を一定にするように検
者の“1、2、3、4”という声に合わせて負荷を 2 秒で上げて 2 秒で下ろすように指示し、
また、股関節をできるだけ動かさず、下腿を中間位に保持する(内・外旋しない)ように
指示した。なお、この実験で用いた運動負荷重量および反復回数は日常的なスポーツ動作、
41
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
筋力トレーニングにおける負荷を想定し、検者自身が考案した。
なお、本実験では右脚・左脚のそれぞれに対して推定した 1RM を基準として負荷を決定
しているため、各被検者の利き脚については特に考慮しなかった。また、すべての被検者
に対し、「右脚→左脚」という順番で運動を行なった。
測定項目
および測定方法
測定項
目および
測定方法
2 種類の運動中、それぞれの運動脚において筋電図測定を行なうとともに、運動の直前、
直後(5 分以内)、1 日後、2 日後、3 日後、7 日後に、各種測定を行なった。
筋電図測定および膝関節角度測定
運動中の膝関節屈曲筋群の筋活動を測定した。筋活動は表面筋電計 ME6000(Mega
Electronics Ltd, Finland)を用い、専用の筋電図解析ソフトウェア(MEGAWIN ver. 2.0)にて
サンプリング周波数 1,000 Hz でパーソナルコンピュータに記録した。筋電図信号は大腿二
頭 筋 長 頭 (Biceps Femoris long head: BFlh) 、 半 腱 様 筋 (Semitendinosus: ST) 、 半 膜 様 筋
(Semimembranosus: SM)、および薄筋(Gracilis: G)から直径 10 mm の銀-塩化銀電極(Blue
Sensor M, Anbu, Denmark)を用いて電極間距離 30 mm にて双極導出した。尚、アース電極と
してさらにもう 1 つの電極を 2 つの電極の間に貼付した。電極貼付位置は対象者に被験筋
を軽く収縮させ、筋腹の位置を触診および視診にて確認した上で決定し、電極貼付前に当
該部位を剃毛後、アルコール綿で脱脂し、電極貼付部における皮膚電気抵抗を軽減した。
また、モーションアーチファクトによるノイズの混入を最小限とするために、伸縮性テー
プを用いて電極ケーブルを皮膚上に固定した。また、筋電図測定と同時にデジタルゴニオ
メーターを運動脚の大腿部および下腿部外側に貼付し、膝関節角度データを筋電図信号と
同期して記録した。
42
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
得られた筋電図データおよび膝関節角度データから、各運動における1回毎の反復中の
積分筋電図(integrated EMG: iEMG)を算出し、最大等尺性随意収縮(Maximum Voluntary
Contraction: MVC)時の iEMG で除して正規化した値(normalized iEMG: NiEMG (%MVC))
を求めた。各セット内において安定した NiEMG を示していた連続する 6 回のデータの平均
値を分析対象とした。
図 2‐2.表面筋電図計測における電極貼付位置(左脚背面).
磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging: MRI)撮像
本研究では、先行研究の手法に則り、運動前後における骨格筋の形態的・機能的変化を
評価する目的で、MRI 横断画像の撮像を行なった。
MRI の撮像には、1.5-T whole body imager(Magnetom Symphony; Siemens-Asahi Medical
Technologies Ltd. Tokyo, Japan)を用いた。被検者は、仰臥位・膝関節完全伸展位にて、坐骨
結節より上部の体幹、膝窩部、踵部をマットなどで撮像台面より高くすることで大腿部を
台面から浮いた状態で保持・固定し、撮像中は下肢をできるだけ動かさないように指示し
43
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
た。スピンエコー法にて、大腿骨頭上端から 28 枚の T2 強調横断面画像(repetition time (TR)
= 2000 ms, echo time (TE) = 30, 45, 60, 75 ms, matrix = 256 × 256, field of view = 270 mm, slice
thickness = 10 mm, interslice gap = 12 mm)を body coil で撮像した。得られた MRI データは
Digital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)ファイル形式にてパーソナルコン
ピュータに保存した後、画像処理解析ソフトウェア(OSIRIS, University Hospital of Geneva,
Switzerland)を用いて各被検筋(BFsh、BFlh、ST、SM、G)の信号強度(SI)および断面
積(CSA)を求めた。解析の対象は、大腿長を坐骨結節下端(0%)から膝関節裂隙(100%)
までと定義して、その範囲で各被検筋の筋腹が確認できる 40、50、60%位置のスライスと
した。各スライスにおいて各被検筋の筋束領域を同一検者が同定し、筋膜、腱膜、血管、
脂肪、大腿骨を含まないように慎重に ROI(region of interest)を決定した。すなわち、この
ROI の面積を各筋の横断面積(Cross Sectional Area: CSA)とした。4 つの TE で撮像した MRI
画像からそれぞれ得られた SI を用いて T2 緩和時間を算出した。T2 緩和時間は、TE と SI
の自然対数 Ln(SI)の一次式回帰直線の傾きの逆数を絶対値で示したもので、TE を変化さ
せた際の組織の信号強度の減衰度を表し、組織中のプロトン密度の指標となる。各筋につ
いて、40、50、60%位置のスライスから得られた T2 緩和時間の平均値を各筋の T2 値(ms)
とした。また、各筋について 3 つのスライスの CSA(mm2)の平均値を求めて CSA(mm2)
とし、分析対象とした。
0%
40%
50%
60%
BFsh
G
BFlh
ST SM
100%
図 2‐3.各被検筋の信号強度(SI)および断面積(CSA)の算出範囲(右脚)
.
44
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
血液検査
医師の指示のもと、臨床検査技師が被検者の肘窩部の静脈から 10ml の血液を採取し、検
査機関において血漿 CPK 値(IU/L)、GOT 値(IU/L)、GPT 値(IU/L)を求めた。
筋痛(VAS)
主観的な筋痛の程度を Visual Analog Scale(VAS)を用いて評価した。紙上に引いた 100mm
の直線の一端を“痛みなし”
(0mm)、もう一端を“耐えられない痛み”
(100mm)とし、被
検者は伏臥位安静の状態で各被検筋(BFlh、ST、SM、G)の筋腹に対して 4 kg/cm の圧力
をかけられた時の痛みの程度を VAS の直線上にしるしをつけることで申告し、0mm からし
るしまでの長さ(mm)を痛みの主観的指標とした。筋腹への押圧は同一検者が圧痛計(五
十嵐医科工業社、日本製)を用いて行なった。VAS 法については、先行研究の手法(Chen
ら 2007; Nosaka and Sakamoto 2001)を参考にした。
統計分析
NiEMG(%MVC)、T2 値(ms)、VAS(mm)は、筋毎に全被検者の平均値±標準誤差(standard
error: SE)で示し、試行間(moderate concentric: con、moderate eccentric: ecc、intensive eccentric:
int ecc)および筋間(BFlh、ST、SM、G)の比較には一元配置分散分析を用いた。分散分析
によって筋間に有意差が認められた場合、多重比較検定(Bonferroni’s post hoc test)を行な
った。CSAs(mm2)は、各被検者ごとに運動前からの変化率(運動後の CSAs / 運動前の
CSAs×100-100(%)
)を求めた。また、T2 値、CSAs、血漿 CPK 値(IU/L)、および VAS
は、時間の経過による変化を一元配置分散分析にて比較した。分散分析によって時間によ
る有意な変化が認められた場合、多重比較検定(Bonferroni’s post hoc test)を行なった。有
意水準は P < 0.05 とした。
45
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
2‐3.結果
表面筋電図
2 種類の運動における各筋の筋電図波形、膝屈曲角度の例(1 セット分)を以下に示した。
(μV)
BFlh
ST
SM
G
Angle
(msec)
Time
図 2‐4.高強度の伸張性膝関節屈曲運動における筋電図波形および屈曲角度(例).
46
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
(μV)
BFlh
ST
SM
G
Angle
(msec)
Time
図 2‐5.低強度の短縮性・伸張性膝関節屈曲運動における筋電図波形および屈曲角度(例)
.
47
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
運動中(con、ecc、int ecc)の各筋の活動度を示す NiEMG(%MVC)の値を以下に示し
た。
表 2‐1.各運動中の NiEMG.記号は図 2‐6.に準じる.
con
ecc
int ecc
52.9 ± 2.9
65.4 ± 2.9
BFlh (%)
68.8 ± 1.6
†
ST (%)
65.9 ± 1.9
†
48.4 ± 2.5
73.5 ± 2.8
SM (%)
64.5 ± 1.6
†Φ
52.7 ± 0.7
57.9 ± 2.1
†*, **
48.3 ± 2.9
71.0 ± 2.2†**
G (%)
73.7 ± 1.8
†**
BFlh
*
90
80
†
NiEMG(%MVC)
70
†
**
ST
†
†
†Φ
†
SM
**
G
**
†
†
n. s.
60
50
40
30
20
10
0
con
ecc
int ecc
†
図 2‐6.各運動中の NiEMG.*P < 0.05: vs ST、 **P < 0.01: vs SM、 P < 0.01: vs ecc、
Φ
P < 0.05: vs int ecc.
低強度の短縮性膝関節屈曲運動(con)では薄筋(G)の活動度が半腱様筋(ST)および
半膜様筋(SM)に比して高かったのに対し、低強度の伸張性屈曲運動(ecc)では筋間に有
意な活動度の差異は見られなかった。一方、高強度の伸張性屈曲運動(int ecc)では ST お
よび G の活動度が SM のそれに比して有意に高かった。
BFlh、ST、および G では、ecc での活動度に比して con および int ecc における活動度が
有意に高く、SM では con での活動度が ecc および int ecc でのそれに比して有意に高かった。
48
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
MRI・T2 値
運動の前後に撮像した MRI 画像の典型例を以下に示した。
Pre
BFsh
BFlh
ST
Post
1D
3D
7D
G
SM
2D
図 2‐7.高強度の伸張性運動前後の MRI 画像例.Pre: 運動前、Post: 運動直後、1D: 1 日後、2D:
2 日後、3D: 3 日後、7D: 7 日後.赤矢印部分に高輝度が認められる.
Pre
Post
1D
3D
7D
BFsh
G
SM
2D
ST BFlh
図 2‐8.低強度の短縮性・伸張性運動前後の MRI 画像例.略語は図 2‐7.に準じる.
49
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
高強度の伸張性膝関節屈曲運動前後の T2 値(ms)および運動前の値からの時間の経過に
よる変化を以下に示した。
表 2‐2.高強度の伸張性運動前後の T2 値.
T2(ms)
BFsh
BFlh
ST
SM
G
Pre
Post
1D
2D
3D
7D
40.2 ± 0.8
40.2 ± 0.2
37.4 ± 0.6
38.4 ± 0.5
37.8 ± 0.5
48.7 ± 1.4
44.7 ± 1.3
53.3 ± 2.5
41.0 ± 1.0
53.9 ± 2.3
47.7 ± 5.4
42.7 ± 1.4
49.0 ± 6.8
38.9 ± 0.9
48.7 ± 8.5
52.4 ± 5.3
48.0 ± 4.8
62.9 ± 9.8
41.0 ± 2.5
50.4 ± 7.5
57.5 ± 6.7
49.2 ± 4.6
74.0 ± 7.3
43.5 ± 4.6
53.0 ± 8.4
57.5 ± 6.6
50.0 ± 4.6
80.9 ± 9.9
43.5 ± 4.1
57.1 ± 10.4
ST
G
BFsh
BFlh
SM
160
*
††
T2値 変化率 (%Pre)
140
*
††
120
100
†
80
Φ
60
40
Φ
†
†
**
†† **
††
*
††
20
††
††
0
Post
1D
2D
3D
†
7D
††
図 2‐9.高強度の伸張性運動後の T2 値の時間的変化率. P < 0.05, P < 0.01 vs Pre; ΦP < 0.05 vs
BFlh; *P < 0.05, **P < 0.01 vs SM.
高強度の伸張性膝関節屈曲運動を行なった直後には、すべての筋で運動前より有意に T2
値が上昇し、特に ST および G は BFlh および SM よりも著しい上昇が見られた。その後、1
日後にはすべての筋において有意な T2 値の上昇は見られなかったものの、ST においての
み 2 日後以降、継続した T2 値の有意な上昇が見られた。
50
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
低強度の短縮性・伸張性膝関節屈曲運動前後の T2 値(ms)および運動前の値からの時間
の経過による変化を以下に示した。
表 2‐3.低強度の短縮性・伸張性運動前後の T2 値.
T2(ms)
BFsh
BFlh
ST
SM
G
Pre
Post
1D
2D
3D
7D
38.6 ± 0.4
39.5 ± 0.4
37.0 ± 0.8
38.5 ± 0.5
37.6 ± 0.4
50.8 ± 1.5
47.5 ± 1.3
55.7 ± 1.8
45.5 ± 1.8
56.3 ± 2.4
39.8 ± 0.5
40.2 ± 0.5
39.3 ± 0.6
38.8 ± 0.6
39.0 ± 0.6
40.2 ± 0.9
41.0 ± 1.1
41.0 ± 1.7
39.2 ± 0.8
39.4 ± 1.0
40.7 ± 0.9
42.2 ± 2.2
40.7 ± 1.4
38.9 ± 0.8
38.9 ± 0.8
39.4 ± 0.5
42.2 ± 2.9
40.3 ± 1.3
39.0 ± 0.7
39.4 ± 0.8
160
BFsh
BFlh
ST
SM
G
T2値 変化率 (%Pre)
140
120
100
80
Φ
60
** ††
**
††
40
Φ
††
†
††
20
0
Post
1D
2D
3D
†
7D
††
図 2‐10.低強度の短縮性・伸張性運動後の T2 値の時間的変化率. P < 0.05, P < 0.01 vs Pre;
Φ
P < 0.05 vs BFlh; **P < 0.01 vs SM.
低強度の短縮性・伸張性膝関節屈曲運動を行なった直後には、すべての筋で運動前より
有意に T2 値が上昇し、特に ST および G は BFlh および SM よりも著しい上昇が見られた。
その後は、すべての筋において有意な T2 値の変化は見られなかった。
51
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
CSA
各運動前後の CSA の実測値および時間的変化率(%)を以下に示した。
表 2‐4.高強度の伸張性運動前後の CSA(平均±標準誤差).
Pre
CSA (mm2)
BFsh
360.8 ± 34.8
BFlh
1313.0 ± 67.4
ST
907.2 ± 40.3
SM
910.6 ± 36.8
G
348.6 ± 24.8
Post
1D
2D
3D
7D
465.4 ± 43.6
1327.4 ± 67.6
1051.1 ± 55.7
907.4 ± 34.7
467.2 ± 46.4
1345.1 ± 65.0
1053.3 ± 73.4
959.1 ± 41.0
512.2 ± 53.0
1416.1 ± 73.6
1195.0 ± 82.9
975.8 ± 35.6
519.7 ± 57.5
1404.3 ± 81.4
1285.2 ± 72.2
953.5 ± 50.0
455.1 ± 45.7
1354.9 ± 80.1
1210.4 ± 60.6
975.6 ± 36.7
409.0 ± 25.5
403.8 ± 36.4
426.0 ± 40.8
419.0 ± 37.7
426.1 ± 34.5
BFsh
ST
SM
G
Φ
60
*
††
††
Φ
*
††
50
CSA 変化率 (%Pre)
BFlh
Φ
†
40
ΦΦ
**
Φ
30
*
20
10
0
Post
1D
2D
3D
7D
-10
†
図 2‐11.高強度の伸張性運動後の CSA の時間的変化率. P < 0.05,
ΦΦ
††
P < 0.01 vs Pre; ΦP < 0.05,
P < 0.01 vs BFlh; *P < 0.05, **P < 0.01 vs SM.
高強度の伸張性膝関節屈曲運動を行なった直後には、運動前と比べて有意な CSA の変化
は見られなかったが、G における変化率が BFlh および SM のそれと比べて大きい傾向が見
られた。また、運動 3 日後および 7 日後には、ST において運動前からの有意な CSA の増加
が見られ、その値は BFlh や SM と比べても有意に大きかった。
52
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
表 2‐5.低強度の短縮性・伸張性運動前後の CSA(平均±標準誤差)
.
Pre
Post
1D
2D
3D
7D
413.1 ± 47.9
1375.9 ± 74.9
965.1 ± 51.5
1032.9 ± 39.7
430.5 ± 33.1
347.8 ± 34.2
1326.4 ± 70.5
809.5 ± 40.3
1005.0 ± 42.4
365.6 ± 24.7
326.8 ± 38.5
1317.2 ± 68.9
854.6 ± 50.1
1023.1 ± 51.9
378.9 ± 28.9
333.5 ± 35.6
1352.0 ± 78.6
836.8 ± 48.5
970.9 ± 32.2
369.0 ± 30.3
333.1 ± 37.4
1308.1 ± 74.0
832.9 ± 39.2
1003.8 ± 35.3
373.2 ± 29.6
2
CSA (mm )
BFsh
342.9 ± 37.4
BFlh
1303.9 ± 76.5
ST
784.7 ± 43.7
SM
1009.7 ± 59.9
G
369.1 ± 30.2
60
BFsh
BFlh
ST
SM
G
CSA 変化率 (%Pre)
50
40
Φ
30
*
†
††
††
20
10
0
Post
1D
2D
3D
7D
-10
†
††
図 2‐12.低強度の短縮性・伸張性運動後の CSA の時間的変化率. P < 0.05, P < 0.01 vs Pre; ΦP
< 0.05 vs BFlh; *P < 0.05 vs SM.
低強度の短縮性・伸張性膝関節屈曲運動を行なった直後には、ST および G において運動
前からの有意な CSA の増加が見られ、さらに ST の増加率は BFlh や SM と比べても有意に
大きかった。低強度の運動後ではその後、顕著な CSA の変化は見られなかった。
53
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
血液検査
運動前後の血漿 CPK 値(IU/L)、GOT 値(IU/L)、GPT 値(IU/L)の実測値および時間的
変化を以下に示した。
表 2‐6.運動前後の血液検査実測値(平均±標準誤差).
Pre
Blood data (IU/L)
CPK
511.4 ± 289.5
GOT
23.7 ± 3.0
GPT
14.0 ± 2.3
Post
601.3 ± 337.3
26.4 ± 3.4
13.1 ± 2.4
1D
2D
3D
7D
120.73 ± 8716.6 30770.3 ± 17913.8 46827.9 ± 18412.0
112.3 ± 61.4
343.4 ± 199.8
574.4 ± 249.5
22.3 ± 8.3
54.6 ± 30.2
70.1 ± 41.1
12117.0 ± 2504.1
289.9 ± 75.5
110.9 ± 26.9
CPK (IU/L)
70000
60000
50000
*
40000
30000
20000
10000
0
Post
1D
2D
3D
7D
160
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
140
GPT (IU/L)
GOT (IU/L)
Pre
*
120
*
100
80
60
40
20
0
Pre
Post
1D
2D
3D
7D
Pre
Post
1D
2D
3D
7D
図 2‐13.運動前後の血液検査値の時間的変化.*P < 0.05 vs Pre.
血漿 CPK 値および GOT 値は運動 3 日後に、GPT 値は 7 日後にそれぞれピークとなり、
運動前と比較して有意な差を認めた。
54
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
VAS
各運動前後の VAS(mm)の値を以下に示した。
表 2‐7.高強度の短縮性・伸張性運動前後の VAS 値.
VAS (mm)
BFlh
ST
SM
G
Pre
Post
1D
2D
3D
7D
11.4 ± 5.1
9.6 ± 4.6
10.0 ± 3.6
19.7 ± 5.9
13.9 ± 4.4
11.4 ± 4.4
13.3 ± 4.2
22.3 ± 5.8
24.1 ± 3.4
22.7 ± 5.7
19.6 ± 4.5
30.4 ± 7.5
34.0 ± 5.5*
39.7 ± 8.2**
33.0 ± 7.6
35.4 ± 7.5
23.1 ± 4.4
26.3 ± 5.3
26.7 ± 5.5
21.1 ± 5.2
9.9 ± 4.6
15.3 ± 3.9
17.1 ± 6.5
12.9 ± 3.6
*P < 0.05, **P < 0.01 vs Pre.
表 2‐8.低強度の短縮性・伸張性運動前後の VAS 値.
VAS (mm)
BFlh
ST
SM
G
Pre
Post
1D
2D
3D
7D
12.7 ± 5.4
8.4 ± 4.1
11.7 ± 5.3
20.4 ± 7.6
13.7 ± 4.6
9.9 ± 3.7
11.1 ± 3.7
20.0 ± 5.6
23.3 ± 4.8
19.6 ± 5.1
17.9 ± 4.0
21.4 ± 5.8
18.3 ± 4.4
22.4 ± 5.6
27.6 ± 8.5
21.3 ± 6.1
16.0 ± 3.9
11.3 ± 4.8
14.0 ± 4.6
15.1 ± 5.3
11.4 ± 4.7
11.6 ± 4.6
7.7 ± 3.4
11.7 ± 5.1
n.s.
高強度の伸張性膝関節屈曲運動の 2 日後に、BFlh および ST で運動前と比較して有意な
VAS 値の増加を認めた。
低強度の伸張性膝関節屈曲運動の前後で VAS 値の有意な変化は見られなかった。
55
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
T2 値と CSA および T2 値と CPK 値の相関
運動の前後で特に顕著な変化が見られた右脚 ST の T2 値変化率(%)と右脚 CSA 変化率
(%)の相関関係、および右脚 ST の T2 値(msec)と CPK 値の実測値(IU/L)の相関関係
について以下に示した。
表 2‐9.ST の T2 値変化率(%)と CSA 変化率(%)の相関関係.
T2値 変化率 (%Pre)
Subject
A
B
C
D
E
F
G
Post
28.1
63.7
55.9
27.1
32.7
39.5
50.8
1D
10.2
128.3
7.8
9.3
40.1
3.0
14.7
2D
13.0
193.3
13.6
23.3
82.1
46.5
97.5
3D
78.5
162.7
15.4
88.6
116.2
81.5
139.7
CSA 変化率 (%Pre)
7D
89.0
228.9
15.4
112.4
126.0
82.4
155.9
相関係数
Post
16.0
34.3
17.0
17.1
10.4
5.4
11.2
1D
18.4
74.9
-4.4
15.3
19.2
-4.8
-2.5
2D
18.1
87.4
6.4
19.8
46.8
16.2
25.1
3D
46.6
66.8
3.6
48.7
56.8
32.3
41.4
7D
33.2
62.6
8.6
42.6
42.1
22.1
27.5
0.55
0.94*
0.93*
0.86*
0.87*
相関係数
0.86
0.65
0.86
0.94*
0.88*
0.95*
0.91*
*P < 0.05(両側)
.
各被検者個人間の筋損傷の程度や修復能力等の影響を考慮し、各個人内における ST の
T2 値変化率(%)と CSA 変化率(%)の相関関係を検討した結果、おおよそ有意な正の相
関関係が認められた(上表右端列)
。
また、各変化率への時間的な影響を考慮し、運動後同経過時間(Post、1D、2D、3D、7D)
における ST の T2 値変化率(%)と CSA 変化率(%)の相関関係を検討した結果、運動 1
日後以降で有意な正の相関関係が認められた(上表下端行)
。
56
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
表 2‐10.ST の T2 値(msec)と CPK 値(IU/L)の相関関係.
T2値 (msec)
Subject
A
B
C
D
E
F
G
Pre
34.7
38.4
37.1
36.1
39.3
39.0
37.0
Post
44.4
62.9
57.8
45.9
52.1
54.4
55.7
1D
38.2
87.7
40.0
39.5
55.1
40.2
42.4
2D
39.2
112.7
42.1
44.6
71.6
57.2
73.0
CPK (IU/L)
3D
61.9
101.0
42.8
68.1
85.0
70.8
88.6
7D
65.5
126.4
42.8
76.7
88.8
71.2
94.6
Pre
101
112
2135
132
95
158
847
Post
134
127
2506
165
124
197
956
1D
2D
3D
7D
345
6131 20280 5366
63702 132660 140900 20235
3007
4239 14430 7921
363
1857 20690 7650
9704 19698 28795 12058
324
5792 15400 9189
7068 45015 87300 22400
相関係数 -0.11
0.36
0.98*
0.94*
0.80*
相関係数
0.66
0.55
-0.11
0.75
0.79
0.87*
0.70
0.79*
*P < 0.05(両側)
.
各被検者個人間の筋損傷の程度や修復能力等の影響を考慮し、各個人内における ST の
T2 値(msec)と CPK 値(IU/L)の相関関係を検討した結果、有意な相関関係はほぼ認めら
れなかった(上表右端列)
。
また、各値への時間的な影響を考慮し、運動後同経過時間(Post、1D、2D、3D、7D)に
おける ST の T2 値(msec)と CPK 値(IU/L)の相関関係を検討した結果、運動 1 日後以降
で有意な正の相関関係が認められた(上表下端行)
。
57
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
2‐4.考察
本章では、伸張性膝関節屈曲運動におけるハムストリングス各筋の活動動態を明らかに
するとともに、そのような負荷への各筋の適応変化を追うことを目的とし、2 種類の異なる
負荷を用いた伸張性膝関節屈曲運動におけるハムストリングスおよび薄筋の活動度、並び
に運動に伴う筋の損傷・修復・適応過程について検討を行なった。
NiEMG の結果から、膝関節屈曲運動において動員される各筋の活動度は、運動様式や負
荷の大きさに応じて非一様であると考えられる。低強度(50%1RM)での短縮性(con)お
よび伸張性(ecc)の連続した運動においては、すべての被検筋において、ecc における活動
度に比べて con における活動度が有意に高いという結果となった。これは、伸張性の運動で
は張力発揮に関与する運動単位が少ないとする報告(Armstrong ら 1991; Babault 2001;
Mohamed ら 2002)と一致する結果であり、筋の収縮によって発揮される能動的張力を負荷
よりも減少させることで関節の見かけ上の伸展を発現していることを示すものと考えられ
る。また、ecc では筋間に有意な活動度の差異が見られなかったことから、能動的に張力を
減少させる際の個々の筋の活動度はほぼ一様であり、すべての筋が相補的に負荷に対して
能動的張力を発揮していることが示唆された。その一方で、con では筋間の活動度の差異が
生じ、ST や SM に比べて G の活動度が高かったことが示唆された。G は ST によく似た形
態的特徴(紡錘状筋であること、遠位で鵞足部に停止していること)を有し、生理学的横
断面積は小さいが収縮速度が速く、収縮範囲が長く、股関節の内転や膝関節の内旋にも作
用する。そのような形態的特徴や、本実験で用いたような伏臥位での膝関節完全伸展位か
らの短縮性屈曲運動で、かつ、負荷が下腿遠位部に課されるような課題特性によって、G に
対する大きな張力発揮が要求されていた可能性も考えられる。G のような比較的小さな筋で
は、張力発揮における形態的不利を補うためにより多くの運動単位を動員し、収縮範囲が
長いという利点も生かしながら関節トルクの発揮に貢献しているとも考えられる。
一方、高強度(120%1RM)での伸張性膝関節屈曲運動(int ecc)における各筋の活動度
58
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
は、低強度での伸張性運動時とは大きく異なっており、BFlh、ST、G の活動度が ecc におけ
るそれと比べて有意に増加し、さらに ST と G の活動度は SM に比べて有意に高かった。ecc
ではすべての筋が負荷に対して能動的張力を発揮しながら、ほぼ一様に張力を減少させて
いることが示唆されたが、int ecc では筋が大きな能動的張力を発揮しようとしながらも、そ
れよりもはるかに大きな負荷で他動的に(強制的に)筋が伸張されるという課題であった
ことから、
“伸張性収縮”といえども筋に要求される能動的張力発揮の度合いは大きく異な
っていたと考えられる。そのような、まさに異質(eccentric)な運動においては、筋におけ
る特異的な能動的張力発揮が誘発され、各筋の活動度も con や ecc とは異なる結果となった
と考えられる。特に活動度が高かったのは ST および G である。これらの筋の紡錘状筋とし
ての形態的特徴は序論においてすでに述べた通りであり、中枢神経系の働きによってその
ような形態的特徴が選択的に利用された可能性も示唆される。しかし、BFlh や SM でも筋
の活動は当然起こっているわけで、実際に発揮される総体としての膝関節屈曲トルクに対
する個々の筋の貢献度は明らかではない。とは言え、筋が大きな能動的張力を発揮しなが
らも強制的に筋が伸張されるような高強度の伸張性膝関節屈曲運動において、ST および G
の活動度が著しく上昇するということは、筋損傷の機序を明らかにする上での重要な示唆
を与えるものと考えられる。本来、筋は伸張性の運動において筋紡錘や腱紡錘などのメカ
ノレセプターが働くことで反射的に筋の張力を強める伸張反射の機構が働く(Duchateau and
Enoka 2008)ことから、本実験で行なったような高強度の伸張性運動で筋活動が増大してい
たことは、高強度の伸張性運動の遂行に反射機構が大きく影響していたと考えられる。し
かし、本実験における高強度の伸張性膝関節屈曲運動中の NiEMG は MVC 発揮時の NiEMG
を超えてはいない。これは生体防御機構の面から理に適っており、仮に MVC 発揮時の
NiEMG を超えるような強い筋収縮が起こってしまった場合には、骨格筋の最小収縮単位で
あるモータータンパク質の結合力よりも伸張性の外力に対して構造的に脆弱な筋腱移行部
に許容範囲以上の負荷が生じ、肉離れが生じると考えられる。このような視点から NiEMG
59
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
の結果を考察すると、BFlh や SM に関してはむしろこれら 2 つの筋の活動が抑制されてい
たとも考えられるが、本研究で行なったような高強度の伸張性膝関節屈曲運動において各
筋の活動が各筋レベルで選択的に賦活されていたのか、それとも抑制されていたのか、ま
た、そのような活動度の配分が中枢レベルで制御されていたのかということに関しては、
今後さらなる検討が必要である。さらに、本研究で筋の活動度の指標として用いている
NiEMG は、すべて膝関節が 90°屈曲位から完全伸展位(0°屈曲位)まで角度変化を生じ
る間に計測された放電量の総体として表されているため、膝関節角度変化に伴う放電量の
変化については検討していない。本章の研究背景で述べたように、ハムストリングス各筋
の活動度は膝関節および股関節の屈曲角度、すなわち筋の伸張度によって異なることが明
らかになっており、本研究で行なった伸張性の運動においても、膝関節屈曲角度の変化に
応じて各筋の活動度がどのように変化するのかという点について、より詳細な考察を今後
行なっていく必要があると考えられる。しかしながら、これまで筋損傷を生じさせるよう
な運動負荷を与える実験を行なっている先行研究では EMG を同時に計測している研究は少
なく、本研究で得られた 2 種類の強度での伸張性筋活動中の NiEMG の結果は、筋損傷が比
較的高い筋活動と強制的な外力による伸張性負荷との双方によって生じているものである
ことを裏付ける知見であると考えられる。
MRI の結果から、各運動におけるハムストリングス各筋の動員の度合いとそれに伴う適
応変化が見てとれる。T2 値の結果から、各運動を行なった直後にはすべての筋で T2 値の上
昇が見られたが、特に BFsh、ST および G において著しい上昇が見られた。運動直後の T2
値の上昇は筋活動(EMG)とも相関があり、筋の動員の度合いを示す指標の1つとなると
の報告(Kinugasa ら 2005)があることから、本実験で行なったようなハムストリングスの
随意的収縮を伴う膝関節屈曲運動においては、その強度に関わらず、BFsh、ST および G が
動員される度合いが高いことが示唆された。Baczkowski ら(2006)は、Australian Football
のキック動作を 100 本行なった後に MRI 撮像を行ない、キック動作において下腿のブレー
60
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
キ動作に貢献すると考えられるハムストリングスの中で ST においてのみ著しい信号強度の
増加が見られたと報告しているが、本実験で得た T2 値の結果はこれと一致するものである
と考えられる。BFsh、ST および G において T2 値の持続した上昇が見られた原因として、
それらの筋の活動が高かったことが考えられるが、本来、横断面積が小さく、構造的に筋
節間での損傷が生じやすい紡錘状筋の活動度が増大したことは、それらの構造的に不利な
条件を差し引いても、それ以上に、収縮速度が速く、収縮範囲が長いという機能的利点を
活かそうとする選択的機構が働いていた可能性も考えられる。ただし、T2 値に表される運
動後に筋内で生じる循環・代謝変化の程度には個人差が生じること、表面筋電図計測にお
いては皮脂厚や運動中の筋腹の移動などが影響することから、それぞれの筋機能計測法と
しての特性と限界を考慮し、“骨格筋が運動中にどのように振舞うのか”という問いに対す
るより明確な答えを得るためにはさらなる方法論の検討が必要であると考えられる。
また、高強度の伸張性膝関節屈曲運動の後には、著しい T2 値の上昇とともに CSA の増
加、VAS 値の上昇が見られたことから、DOMS を主徴候とする筋損傷が生じていたことを
裏付けるものと考えられる。各血液検査値の変化には高強度の運動と低強度の運動の両方
の影響が考えられるが、値が著しく上昇していること、低強度の運動を行なった側の脚に
は T2 値、CSA、VAS 値のいずれにも変化が見られなかったことから、各血液検査値の上昇
は主に高強度の伸張性運動に伴う筋損傷の結果を示すものと考えられる。また、それぞれ
のピークは必ずしも一致せず、VAS 値(2 日後、BFlh および ST)
、各血液検査値(3 日後)
および CSA(3 日後、ST)
、T2 値(7 日後、ST)という順番で出現しており、高強度の伸張
性負荷に対する生体の反応、修復、適応の過程が窺える。すなわち、筋の構造的破綻に対
する一次防御反応としての筋痛が生じた後、修復過程の開始に至るまでの間に損傷部位に
おける筋組織内在酵素群の活性が生じ、その後、筋芽細胞あるいは筋前駆細胞の活性化、
増殖、分化、融合が起こり、膜構造の再構築から筋原線維の配列形成へと修復過程が進行
していくと考えられる。このような DOMS を主徴候とする筋損傷に伴う修復・適応のメカ
61
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
ニズムには諸説あるが(Barlow and Willoughby 1992; MacIntyre ら 1995; Best and Hunter 2000)
、
その変化の過程はおおむね先行研究の結果と類似していた。したがって、本実験で高強度
の運動後に特に顕著な変化が見られた ST の T2 値変化率と CSA 変化率の間には個人内でお
おむね正の相関関係が認められたものの、T2 値(msec)と CPK 値の実測値(IU/L)の間に
は個人内で相関関係が認められなかったことを考えると、伸張性筋活動後の筋の修復過程
を客観的に評価する際には各評価指標の経時的変化を詳細に追い、回復速度の個人差も考
慮しながら慎重に判断する必要があると考えられる。
本研究の限界として、まず大腿二頭筋短頭(BFsh)の NiEMG について検討していないこ
とが挙げられる。BFsh はハムストリングスの中でも、膝関節の屈曲および外旋に作用する
唯一の単関節筋であるが、体表面からその位置を確認することが困難であり、表面筋電図
からその活動を評価することが難しいため、本実験では筋活動の計測は行なっていない。
しかし、MRI の結果から T2 値の上昇と CSA の増大が認められたことから、本実験で行な
ったようなハムストリングスの随意的収縮を伴う膝関節屈曲運動においては、ST および G
と類似した機能を果たしている可能性が示唆され、今後はワイヤー電極を用いた筋活動計
測が必要であると考えられる。
次に、運動中の動作解析を行なっていないことが挙げられる。実験に用いた課題は膝関
節のみの単関節運動であったが、ハムストリングス(BFsh を除く)および薄筋は股関節の
伸展や回旋、内転などにも作用する二関節筋であり、二関節筋は身体運動の発現において
特徴的な活動を示すことが明らかとなっている(Prior ら 2001; Nozaki 2009)ことから、股
関節トルクも少なからず発揮されていると推測される。膝関節屈曲運動において股関節の
屈曲‐伸展、内旋‐外旋、内転‐外転や、膝関節の内旋‐外旋がどの程度生じていたかを
詳細に記録することが、ハムストリングスの機能をより正確に評価することにつながると
考えられる。
また、実際のスポーツ動作のような複雑な運動を発現する際のハムストリングスの詳細
62
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
な機能、そして本研究において生じていた筋損傷がそのままハムストリングスの肉離れに
つながるものであるかどうかについては、ここで示した結果だけでは述べることはできな
い。事実、本実験で行なったような伸張性の膝関節屈曲運動では主に ST において筋損傷が
生じていたと考えられるが、実際のスポーツ現場においてハムストリングスに発生する代
表的な傷害である肉離れの発生頻度は BFlh において最も多いとされており、本研究の結果
とは矛盾しているようにも思われる。ハムストリングス肉離れはスプリント動作中の、特
に加速期あるいは最大速度に達する付近で(Sherry and Best 2004; Woods ら 2004)
、股関節
屈曲および膝関節伸展が同時に起こる遊脚期後半から接地期にかけての場面において発生
するといわれており(Wood 1987; Montgomery ら 1994; Verrall ら 2001)
、遊脚期後半におい
てハムストリングスは膝関節の伸展を制限・調整するためのブレーキ動作として働き
( Garrett 1996; 山本 2000)、その際の筋発揮張力は動作速度が速いほど大きくなる
(Hewett ら 1999)とされている。しかし、本研究の結果では、伸張性の膝関節屈曲運動で
は主に ST において筋損傷が生じていたことから、ランニング中の遊脚期後半における膝関
節伸展(ハムストリングスの伸張性収縮)が直接的に BFlh における肉離れを誘発する原因
になるとは考えにくく、そこにさらに股関節の屈曲角度の増加、BFlh がより伸張される股
関節内旋位を強制されるような体幹の回旋、大きな地面反力などの要因が加わることで肉
離れの危険性が高まると考えられる。
最後に、本研究で実施した運動プロトコルには、被検者に対する安全性の面でやや問題
があった。同様の負荷実験を行なっている先行研究(Foley ら 1999、Stupka ら 2001、Chen
ら 2007)を参考にプロトコルを組み立て、事前に同様のプロトコルを用いた実験も行ない
(筆者が 2005 年に行なった修士論文研究)
、安全面には十分留意していたが、本実験実施
後に得られた各血液検査値は基準値(CPK:57~197 IU/L、GOT:10~40 IU/L、GPT:5~
40 IU/L)をはるかに上回るものであった。その原因としては、日常的に高強度の筋力トレ
ーニングを行なっていない者を被検者として選定したことで、被検者各個人に対しての負
63
第 2 章 伸張性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスの機能
荷をそれぞれの 1RM を基準に決定していたものの、不慣れな高強度の負荷に対して対応で
きなかったことが考えられる。実際、様々な急性スポーツ傷害は往々にしてそのような状
況が発生した際に起こるものであるが、生体に対して実験的に与える負荷としては、第一
に被検者の安全性を考慮し、より慎重に決定すべきであったと考える。また、運動後に各
被検者の生体内に生じた反応(T2 値、CSA、血液検査値、VAS 値)も個人差があった。本
実験で明らかにしたかった最大努力下での運動中の筋機能は、各被検者がそれぞれの主観
的最大努力で運動を行なうことが前提となって初めて知ることができるものあったが、そ
の点での被検者への働きかけが十分ではなかったと思われる。本研究の結果を踏まえて、
生体を用いた運動負荷実験を行なう際に留意されるべき点を第 4 章の総合考察にまとめた。
総じて、本実験で行なったようなハムストリングスの伸張性筋活動を伴う膝関節屈曲運
動では、T2 値の結果から特に ST や G、そして BFsh での損傷が大きかったことが窺え、そ
の修復・適応過程において各筋の形態的変化、すなわち筋肥大が誘発される可能性が CSA
の結果から示唆された。このことから、このような運動をハムストリングスの筋力強化ト
レーニングとして行なう際には、その効果が必ずしも個々の筋に一様に生じることはなく、
運動様式や負荷強度、収縮速度などの影響はあるものの、主に ST および G における能動的
張力発揮の改善や筋肥大などの効果が得られる可能性が高いと推察された。
64
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
‐ 第 3 章‐
伸張性の
伸張性の股関節屈曲運動
股関節屈曲運動における
屈曲運動におけるハムストリングス
におけるハムストリングスの
ハムストリングスの機能
3‐1.研究背景および
研究背景および目的
および目的
ハムストリングスは大腿二頭筋長頭(BFlh)、大腿二頭筋短頭(BFsh)、半腱様筋(ST)、
半膜様筋(SM)の 4 筋から構成され、そのうち BFsh を除く 3 筋は股関節の伸展および回
旋と膝関節の屈曲および回旋に作用する二関節筋である。しかしながら、これまでのハム
ストリングスの機能に関する研究の多くは、伏臥位または座位における膝関節屈曲筋群と
しての機能について検討したものであり(Onishi ら 2002; Mohamed ら 2002; Makihara ら
2006)
、実際の日常生活における歩行やスポーツ活動における走行など、本来ハムストリン
グスが“ハムストリングスらしく”振舞うような動作中の機能、特に股関節伸展筋として
の詳細な機能については、未だ明らかにされていない部分が多い。
ハムストリングスの股関節伸展トルク発揮への関与ついては、いくつかの報告がなされ
ている。Waters ら(1974)は、片脚立位における非接地脚の最大等尺性股関節伸展トルクを坐
骨神経ブロック(ハムストリングスの活動抑制)時と通常時とで測定したところ、坐骨神
経ブロック下では股関節伸展トルクが通常時の約半分になり、ハムストリングスが股関節
伸展トルクのおよそ 3 分の 1 を担っていると推定した。また、Geoghegan ら(2007)は、膝
前十字靭帯損傷後の再建術に 4 重束 ST・G 腱を用いた群(4SHS)
と膝蓋腱を用いた群
(BPTB)
とで術後 3 ヶ月時と 12 ヶ月時の等速性(30°/秒)股関節伸展トルクを測定したところ、3
ヵ月後には 4SHS 群において短縮性運動時のピークトルクが BPTB 群より有意に低下してい
たが、12 ヵ月後には有意な差は認められなかったことから、ST・G 腱採取がハムストリン
グスの股関節伸展運動における力発揮に影響を及ぼす可能性については示唆を得ることは
できなかったとしている。一方、Worrell ら(2001)は伏臥位における片脚での等尺性股関
65
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
節伸展運動を様々な股関節角度(0、30、60、90°屈曲位)で行い、運動中の大臀筋および
ハムストリングス(筋は特定されていない)の筋電図および股関節伸展トルクを測定した
ところ、股関節屈曲角度の増大(筋長の増加)に伴って伸展トルクは増加し、大臀筋の活
動量(%MVIC)は約 90‐60%の間で徐々に低下していったが、ハムストリングスの活動量
は約 15%で変化しなかったと報告している。このように、股関節伸展運動においては大臀
筋が主働筋として機能し、ハムストリングスはあくまで副次的に働くという見解に留まっ
ており、基礎的データは非常に数少ない。
序論においてすでに述べたように、ハムストリングスは協働筋と雖も個々に異なる形態
的・機能的特徴を有することが明らかとなっている。人間の身体構造の中でも最も大きく
比較的自由な可動域を有する股関節において、BFlh、ST、SM の 3 筋はともに骨盤後下端に
位置する坐骨結節(ischial tuberosity)に起始して股関節の伸展と回旋に作用し、主に身体の
前方への移動(歩行、走行、跳躍など)において重要な役割を果たしている。さらに起始
部の構造は複雑で、BFlh と ST は近位で融合しており、さらに SM がその下に薄い腱膜とな
って融合し、総頭となり坐骨結節に付着しているため、BFlh と ST は SM に比べてやや大き
。さらに、ST は筋腹に腱画(tendinous
な股関節伸展モーメントを持つ(Arnold ら 2000)
intersection:TI)を有し、近位部と遠位部とに隔てられている(Wickiewicz ら 1983; Woodley
and Mercer 2005)
。このような形態的多様性を鑑みると、股関節の運動におけるハムストリ
ングスの機能は決して一様ではないことは容易に推測できる。
一方で、ハムストリングスに頻発する肉離れの病態の大きな特徴として、それが特に BFlh
において多く発生し、筋線維が腱または腱膜に接続する筋腱移行部や BFlh と ST が近位で
融合している部位での損傷が多く見られることはすでに述べた。そして、BFlh に発生する
肉離れの多くは、全力疾走動作中の股関節屈曲および膝関節伸展が同時に起こる遊脚期後
半から接地期にかけての場面において発生するとされている。スプリント動作においてハ
ムストリングスは膝関節と股関節の力の伝達および股関節伸展にも貢献するが(Jacobs ら
66
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
1996)
、接地時に発生する肉離れには股関節伸展筋である大臀筋の活動が弱いことが影響す
るという報告や(Simonsen ら 1985)、スプリント中に大殿筋の活動が抑制された場合、ハ
ムストリングスは膝関節-股関節間の力の伝達の役割よりも股関節の伸展筋として筋張力
を発揮するため、このような負荷が筋損傷を誘発するとする報告(Hoskins ら 2005)もあ
る。また、奥脇(2008)は、疾走中のハムストリングス肉離れの危険因子として体幹の前
傾角度の増大、下肢の振り上げ(大腿の引き付け)動作による股関節屈曲角度の増大、下
腿の前方への振り出し動作による膝関節伸展角度の増大、ストライド長の増加、さらに骨
盤の傾斜および骨盤の回旋角度の増大を挙げ、同時に肉離れ受傷の症例報告において、ハ
ムストリングス肉離れには股関節と膝関節の動作連関が強く関与していると報告している。
すなわち、接地直前で股関節屈曲角度が大きいまま膝伸展が急激に行われた場合にはハム
ストリングスの遠位部に損傷が起こり、また、接地時に膝関節伸展位で固定された状態で
股関節が屈曲するとハムストリングス近位部での損傷が起こりやすいと推測している。
以上をまとめると、BFlh、ST、SM の 3 筋はともに股関節の伸展と回旋に作用し、主に身
体の前方への移動(歩行、走行、跳躍など)において重要な役割を果たしているが、特に
大きな、繰り返しの力発揮(スプリント動作)を要求されるスポーツ活動においては接地
状態での体幹(骨盤)前傾の制御に貢献していると推察される。そして、スポーツ活動に
伴うハムストリングス損傷の病態と発生機序を考えると、接地に向かって膝関節が伸展し、
股関節が屈曲するにしたがってハムストリングスが伸張され、その状態で接地した際に地
面からの反力によって股関節屈曲モーメントおよび膝関節伸展モーメントが加わる、その
瞬間にハムストリングスに強い伸張性の負荷がかかる(山本 2000)ことが原因となって、
特に近位部での損傷が生じていると考えられる。したがって、本章では、立位(接地
状態)での伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングス各筋の機能を明らかにする
ことを目的とし、さらに、第 2 章において伸張性の膝関節屈曲運動ではハムストリングス
の中でも特に ST および G の活動度が高くなることが示唆されたのと同様に、伸張性の股関
67
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
節伸展運動においても特定の筋が選択的に動員されている可能性があることを視野に入れ
ながら、実験的検討を行なった。また、伸張性の負荷への適応変化を追い、肉離れの発生
メカニズム解明および傷害発生予防のための示唆を得ることを目的とした。
68
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
3‐2.方法
対象
全身の運動に支障をきたすような外傷、神経系の疾患を有さない健常な男子大学生 6 名
(年齢 20.7 ± 0.7 歳,身長 174.3 ± 1.9 cm,体重 64.8 ± 1.6 kg; 平均 ± 標準誤差)を
対象とした。対象者はすべて、実験初日から過去 1 年の間に下肢に対する高強度の筋力ト
レーニングを行なっていない者とした。研究に際して、早稲田大学スポーツ科学学術院倫
理委員会の承認を受けた(申請番号:2009-017)。対象者には研究概要の説明を文章および
口頭にて事前に行い、参加の同意を得た。また、対象者には実験初日の 1 週間前から実験
終了までの間、スポーツ活動やアイシングなどの抗炎症療法を行なうことを禁止した。
運動プロトコル
運動
プロトコル
10‐15 分間のウォーミングアップの後、対象者はフリーウェイトを用いた、
所謂、
“Stiff-leg
deadlift”または“Good morning”と呼ばれる、両脚立位での股関節屈曲‐伸展運動を行なっ
た(図.3‐1 参照)
。まず、対象者は両脚直立位・股関節回旋中間位で脚を肩幅に開き、肩
甲骨内転位で胸を張り、体幹を固定した状態を保持しながら、体重の約 60%のウェイトを
手に持った状態を運動開始肢位とした。その姿勢から、肘を伸ばして手に提げたウェイト
を股関節の屈曲によって体幹が床面と平行になるまで前方に下げ(ハムストリングスの伸
張性収縮: ECC)、再び股関節の伸展によって運動開始肢位まで戻す(ハムストリングスの
短縮性収縮: CON)という運動を繰り返し行なった。運動速度は運動開始から 2 秒で股関節
屈曲、2 秒で股関節伸展(約 45°/秒)とし、電子メトロノームの音とともに検者が“1、2、
3、4”とカウントするのに合わせて行なった。運動は、
「直立位→股関節屈曲位→ 直立位」
までを 1 回として連続 10 回を 1 セットとし、計 5 セット行なった。各セット間には休息の
ための時間を 1 分間設けた。運動中、対象者には常に体幹を直立位(彎曲や回旋、側屈を
しないように)
、かつ、膝関節を完全伸展位に保つように指示し、必ず股関節の屈曲‐伸展
69
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
動作で(できる限りハムストリングスの収縮によって)ウェイトを上下させるように意識
させた。
Eccentric
Concentric
図 3‐1.“Stiff-leg deadlift”.
測定項目および
および測定方法
測定項目
および
測定方法
運動中の筋電図測定を行なうとともに、運動の直前、直後(5 分以内)
、2 日後、7 日後に
各種測定を行なった。
表面筋電図測定
表面筋電図の測定手順、使用機器、測定方法は第 2 章の実験方法に準じた。また、筋電
図測定時にデジタルマーカーを運動開始から 2 秒間隔で手動で入力し、筋電図信号と同期
して記録した。
得られた筋電図データから、ハムストリングスの伸張性筋活動(直立位→最大屈曲位)
および短縮性筋活動(最大屈曲位→直立位)における 1 回の試行毎の積分筋電図(integrated
EMG: iEMG)を算出し、最大等尺性随意収縮(Maximum Voluntary Contraction: MVC)時の
70
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
iEMG で除して正規化した値(normalized iEMG: NiEMG (%MVC))を求めた。各セット内に
おいて安定した NiEMG を示していた連続する 6 回のデータの平均値を分析対象とした。
磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging: MRI)撮像
本研究では、先行研究の手法に則り、運動前後における骨格筋の形態的・機能的変化を
評価する目的で、MRI 横断画像の撮像を行なった。
MRI の撮像には、1.5-T whole body imager(Signa EXCITE XI ver. 11.0; GE Yokogawa Medical
Systems, Japan)を用いた。スピンエコー法にて、大腿骨頭上端から 28 枚の T2 強調横断面
画像(repetition time (TR) = 3000 ms, echo time (TE) = 25, 50, 75, 100 ms, matrix = 160 × 256,
field of view = 260 mm, slice thickness = 10 mm, interslice gap = 10 mm)を body coil で撮像した。
撮像中の被検者の肢位については第 2 章で行なった MRI 撮像法に準じた。得られた MRI デ
ータからの各被検筋(BFsh、BFlh、ST、SM、G)の信号強度(SI)および断面積(CSA)
の算出方法は第 2 章で用いた方法に準じた。
血液検査
第 2 章で行なった方法に準じた。
筋痛(VAS)
第 2 章で行なった方法に準じた。
統計分析
NiEMG(%MVC)、T2 値(ms)、VAS(mm)は、筋毎に全被検者の平均値±標準誤差(standard
error: SE)で示し、試行間(ECC、CON)および筋間(BFlh、ST、SM、G)の比較には一
元配置分散分析を用いた。分散分析によって筋間に有意差が認められた場合、多重比較検
71
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
定(Bonferroni’s post hoc test)を行なった。CSA(mm2)は、各被検者ごとに運動前からの
変化率(運動後の CSA / 運動前の CSA×100-100(%)
)を求めた。また、T2 値、CSA、
血漿 CPK 値(IU/L)、および VAS は、時間の経過による変化を一元配置分散分析にて比較
した。分散分析によって時間による有意な変化が認められた場合、多重比較検定
(Bonferroni’s post hoc test)を行なった。有意水準は P < 0.05 とした。
72
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
3‐3.結果
表面筋電図
股関節伸展運動(伸張性・短縮性)における各筋の筋電図波形の典型例を以下に示した。
図 3‐2.伸張性および短縮性股関節伸展運動における筋電図波形(例)
.
73
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
運動中(ECC、CON)の各筋の活動度を示す NiEMG(%MVC)の値を以下に示した。
表 3‐1.運動中(ECC、CON)の NiEMG.記号は図 3‐3 に準じる.
ECC
23.1 ± 0.8*
17.1 ± 0.6
28.6 ± 1.2Φ
19.4 ± 0.7
BFlh (%)
ST (%)
SM (%)
G (%)
50
45
BFlh
ST
SM
G
CON
††
43.3 ± 1.2 *
††
33.0 ± 1.4
††
42.9 ± 1.5 **
††
35.1 ± 1.5
*
**
††
††
NiEMG (%MVC)
40
††
35
Φ
30
25
††
*
20
15
10
5
0
ECC
CON
††
図 3‐3.各運動中の NiEMG. P < 0.01: vs ECC、 *P < 0.05, **P < 0.01: vs ST and G、ΦP < 0.05: vs
all other muscles.
すべての筋において、ECC での活動度に比して CON における活動度が有意に高かった。
短縮性の股関節伸展運動(CON)では大腿二頭筋長頭(BFlh)および半膜様筋(SM)の
活動度が半腱様筋(ST)および薄筋(G)に比して高かったのに対し、伸張性運動(ECC)
では BFlh の活動度が ST および G に比して、さらに SM の活動度が他のすべての筋に比し
て有意に高かった。
74
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
MRI・T2 値
運動の前後に撮像した MRI 画像の典型例を以下に示した。
Pre
Post
G
BFsh
BFlh
ST
2D
SM
7D
図 3‐4.運動前後の MRI 画像例.Pre: 運動前、Post: 運動直後、1D: 1 日後、2D: 2 日後、3D: 3
日後、7D: 7 日後.赤矢印部分に高輝度が認められる.
75
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
運動前後の T2 値(ms)および運動前の値からの時間の経過による変化を以下に示した。
表 3‐2.運動前後の T2 値.
T2 (ms)
BFsh
BFlh
ST
SM
G
Pre
Post
2D
7D
31.9 ± 0.4
31.2 ± 0.9
29.9 ± 0.4
30.8 ± 0.7
30.4 ± 0.9
32.2 ± 0.4
33.7 ± 1.0
31.5 ± 0.7
34.7 ± 1.3
31.4 ± 1.6
31.7 ± 0.4
31.2 ± 1.0
30.1 ± 0.6
31.6 ± 0.8
30.8 ± 1.2
32.2 ± 0.3
31.6 ± 0.9
30.1 ± 0.7
32.3 ± 0.9
30.5 ± 1.0
BFsh
16
BFlh
ST
SM
G
†
14
T2値 変化率 (%Pre)
12
10
8
6
4
2
0
-2
POST
2D
7D
†
図 3‐5.運動後の T2 値の時間的変化率. P < 0.05 vs Pre.
運動を行なった直後には、SM においてのみ運動前に比して有意な T2 値の上昇が見られ
た。その後は、すべての筋において有意な T2 値の変化は見られなかった。
76
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
CSA
運動前後の CSA の実測値および時間的変化率(%)を以下に示した。
表 3‐3.運動前後の CSA の実測値.
Pre
Post
2D
7D
319.6 ± 31.7
1255.6 ± 106.2
1004.4 ± 24.4
856.0 ± 88.1
400.6 ± 19.9
328.4 ± 29.2
1255.2 ± 76.3
1016.6 ± 21.3
1012.3 ± 89.0
402.5 ± 18.1
336.9 ± 29.5
1227.1 ± 51.5
1004.2 ± 28.3
1060.6 ± 94.3
416.7 ± 19.0
336.0 ± 28.7
1275.4 ± 87.5
1010.1 ± 21.9
1085.7 ± 79.4
415.5 ± 14.5
2
CSA 変化率 (%Pre)
CSA (mm )
BFsh
BFlh
ST
SM
G
BFsh
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
BFlh
ST
SM
G
*
Post
2D
7D
図 3‐6.運動後の CSA の時間的変化率.*P < 0.05 vs all other muscles.
運動直後には、すべての筋において運動前からの有意な CSA の変化は見られなかった。
運動 2 日後および 7 日後において、筋間に有意な CSA 変化率の差が見られ、SM のみが
他のすべての筋に比して有意な CSA 変化率の上昇を示した。
77
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
血液検査
運動前後の血液検査データの実測値および時間的変化を以下に示した。
表 3‐4.運動前後の血液検査データの実測値.
Pre
Blood data (IU/L)
CPK
134.1 ± 11.9
GOT
19.3 ± 1.2
GPT
13.4 ± 1.6
2D
7D
189.9 ± 19.7
20.6 ± 1.5
14.7 ± 1.7
123.1 ± 22.0
20.0 ± 2.1
15.1 ± 2.0
250
CPK (IU/L)
200
150
100
50
0
Pre
2D
7D
25
GPT (IU/L)
GOT (IU/L)
20
15
10
5
0
Pre
2D
7D
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
Pre
2D
7D
図 3‐7.運動前後の血液検査データの時間的変化.
運動前後で各血液検査値の有意な変化は認められなかった。
78
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
VAS
運動前後の VAS(mm)の値を表に示した。
表 3‐5.運動前後の VAS 値.
VAS (mm)
BFlh
ST
SM
G
Pre
Post
3.0 ± 1.9
10.1 ± 4.7
6.3 ± 2.8
7.1 ± 2.6
4.7 ± 2.4
9.1 ± 4.7
6.7 ± 2.5
7.7 ± 4.4
2D
22.4 ± 6.7††
15.0 ± 4.9
28.6 ± 7.7†
13.6 ± 4.1
7D
2.1 ± 1.2
5.3 ± 2.2
6.7 ± 3.9
1.7 ± 0.6
運動から 2 日後に、BFlh および SM において有意な VAS 値の増加を認めた。
79
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
3‐4.考察
本章では伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングス各筋の活動動態を明らかに
するとともに、そのような負荷への適応変化を追うことを目的とし、両脚立位での股関節
屈曲‐伸展運動におけるハムストリングスの活動度、並びに運動に伴う筋の損傷・修復・
適応過程について検討を行なった。
NiEMG の結果から、股関節伸展運動において動員される各筋の活動度は、伸張性と短縮
性の両活動において非一様であると考えられる。すべての筋において、短縮性収縮時(CON)
の活動度が伸張性収縮時(ECC)の活動度と比べて有意に高かった。これは第 2 章の膝関節
屈曲運動における結果や、先行研究の結果(Armstrong ら 1991; Babault 2001; Mohamed ら
2002)と一致するものである。しかし、それぞれの運動様式において筋間の活動度には有
意な差異が見られ、CON・ECC ともに大腿二頭筋長頭(BFlh)および半膜様筋(SM)の活
動度が半腱様筋(ST)および薄筋(G)に比して有意に高く、さらに ECC では SM の活動
度が BFlh よりも有意に高いという結果となった。BFlh と SM に共通する点は、両者がハム
ストリングスの中でも羽状筋という形態的特徴を持つことである。羽状筋は生理学的横断
面積(PCSA)が大きいため、大きな力の発揮に特化している。一般に、羽状筋としての構
造的特徴が強い筋ほど、受動的張力は短い筋長で発現することが示唆されており、このよ
うな筋は一般に関節伸筋群に多いと言われている(石井 2001)。生体内において、関節伸
筋は至適長よりも伸張位にかけての長さ領域にあると考えられ、筋の伸張に伴って受動的
張力を発現すると考えられる。こうした構造的特性を利用しながら、多くの関節伸筋群は
重力に逆らって姿勢を維持したり、大きな仕事を発揮したりする働きを極めて合理的に遂
行していると考えられる。本実験の結果から、立位での股関節屈曲‐伸展動作、すなわち
体幹(骨盤)の前傾と重力に逆らうような運動においては、ハムストリングスの中でも特
に大きな力発揮を行なうことが可能な BFlh と SM が選択的に動員されることによって、大
腿部後面の外側(BFlh)と内側(SM)からバランスよく骨盤を支持している可能性が考え
80
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
られる。
さらに、本研究の結果において特徴的だったのは、伸張性の運動において SM が最も高い
活動度を示していたことである。半膜様筋(SM)は、ハムストリングスの中でも特殊な構
造的特徴を持つ。起始部では BFlh と ST の共同腱の下に薄い腱膜となって融合し、BFlh と
。そこから
ST に比べてやや小さな股関節伸展モーメントアームを持つ(Arnold ら 2000)
ST の筋腹と幅広い腱膜で接し、内側から ST を包み込む“膜”のようにして筋が走行し、
遠位端でも幅広い腱膜となって鵞足部ではなく脛骨内側顆の後内側に停止する。そのため、
膝関節における SM のモーメントアームは膝が伸展するに伴い大きくなり、膝伸展位でピー
クとなる(Herzog and Read 1993)。本研究で行なったような立位(膝関節完全伸展位)にお
ける股関節の伸張性運動においては、このような SM の構造的特徴が中枢神経系の働きによ
って選択的に利用された可能性も考えられる。また、本研究で行なった両脚立位での股関
節屈曲‐伸展運動は、股関節の回旋角度(骨盤に対する下肢の内・外旋角度)を中間位に
保持した状態で実施したが、股関節の内・外旋角度によってハムストリングス各筋の伸張
度は変化するため、中間位という肢位が特に SM の動員を促すような肢位であった可能性も
考えられる。したがって、股関節の内・外旋角度を変化させた際の各筋の活動度の変化に
ついても今後検討していく必要があると考えられる。
さらに、MRI の結果から本実験で行なったような運動におけるハムストリングス各筋の
活動度の違いが裏付けられる。運動を行なった直後の T2 値は SM においてのみ有意な上昇
が見られ、さらに運動後の形態的変化の指標である CSAs 変化率も、SM は他のすべての筋
と比較して有意に高い値を示していた。さらに、運動後には血漿 CPK 値の変化は見られな
かったものの、筋痛の度合いを示す VAS 値が BFlh および SM において有意に増加していた
ことも合わせて考えると、SM が特に伸張性の運動において動員され、それに伴い DOMS
を主徴候とする筋損傷が生じていたことが示唆された。しかし、T2 値の上昇が運動直後に
起こった後、2 日後や 7 日後に著しい変化が見られなかったことから、損傷の程度は低かっ
81
第 3 章 伸張性の股関節伸展運動におけるハムストリングスの機能
たと考えられる。Askling ら(2007)は、短距離選手におけるハムストリングス肉離れ症例
を検討した結果、全例が BFlh の損傷であったと報告しているが、その後の報告において、
球技、ダンス競技を含む多数の競技で発生したハムストリングス肉離れを検討しており、
股関節過屈曲・膝関節過伸展肢位で受傷した症例のうち、83%が SM の近位筋腱移行部にお
ける受傷であると報告している(Askling ら 2008)
。本実験の結果から、そのような肉離れ
の受傷肢位では SM の強い収縮が生じていることが推測される。
本実験で行なったような、立位での股関節屈曲‐伸展運動は、“Stiff-leg deadlift”または
“Good morning”と呼ばれ、背筋群から臀筋群、ハムストリングスなどの体背面の筋力強化
トレーニングとして一般的に行なわれている。股関節の伸展には臀筋群が主働筋として働
くという報告(Worrell ら 2001)もあるように、股関節伸展運動へのハムストリングスの貢
献度はそれほど高くはないとは言え、同報告において股関節が屈曲位になればなるほどハ
ムストリングスが貢献する比率が高くなることが示唆されることから、このような運動は
ハムストリングスの中でも特に SM や BFlh の能動的張力発揮の改善や筋肥大、ならびに臀
筋群や背筋群との協調性の改善などの効果が得られる可能性が考えられる。
本研究の限界として、ハムストリングスへの負荷が明確ではないことが挙げられる。バ
ーベルを手に持ち体幹を前傾させるという運動形態では、上肢や背筋群、臀筋群の関与は
避けられず、この程度が被検者間で異なっていた可能性も考えられる。また、負荷は体重
の 60%としたが、バーベルを手に持って行なうという運動形態ではこれ以上の負荷をかけ
ることは不可能であり、仮に負荷重量を上げたとしても、ハムストリングスが動員される
以前に上肢や背筋、臀筋群などが優先して動員されることも予想される。したがって、ハ
ムストリングスの股関節伸展機能の向上を目的としたトレーニング方法としても、ある程
度の負荷に適応した後ではそれ以上のトレーニング効果を得ることは難しいと考えられる。
また、本実験では運動速度の変化や関節角度(すなわち筋長)の変化による筋活動動態
への影響については明らかにしておらず、今後さらなる検討が必要であると考えられる。
82
第 4 章 総合考察
‐ 第 4 章‐
総合考察
総合考察
ハムストリングスは膝関節屈曲および股関節伸展に協働して作用する二関節筋であり、
身体の移動を基本とするあらゆる身体動作、そしてより速く、大きな力発揮が要求される
スポーツ活動において重要な役割を果たす反面、スポーツ活動中に自発的な筋損傷である
肉離れが頻発し、再発率も高く、その発生メカニズムの解明や予防法の確立の必要性が今
日に至るまで叫ばれ続けている。そのような状況の中で、近年、個々の筋が持つ構造(形
態)的・機能的特徴が明らかにされつつあり、それぞれの運動中の振舞い(運動発現のた
めの活動度)が遂行される課題に依存して異なる可能性が示唆されており、特に肉離れの
発生機序の 1 つと考えられる伸張性の運動における筋活動については、未だその詳細は明
らかにされていない。そこで、本研究では伸張性の膝関節屈曲運動(第 2 章)および伸張
性の股関節伸展運動(第 3 章)におけるハムストリングス各筋の活動動態を明らかにする
とともに、それに付随して生じる遅発性筋痛(DOMS)を主徴候とする筋損傷の程度および
修復・適応過程を追い、ハムストリングス肉離れ発生メカニズムの解明および予防トレー
ニング法への示唆を得ることを目的として実験的検討を行なった。
第 2 章では、2 種類の異なる負荷(低強度: 50%1RM、高強度: 120%1RM)を用いた伸張
性の膝関節屈曲運動におけるハムストリングスおよび薄筋の活動度、並びに運動に伴う筋
の損傷・修復・適応過程について検討を行なった。その結果、低強度の伸張性運動におけ
る個々の筋の活動度はほぼ一様であり、すべての筋が負荷に対して能動的張力を発揮して
いることが示唆された。また、その一方で、低強度の短縮性運動では筋間の活動度の差異
が生じ、半腱様筋(ST)や半膜様筋(SM)に比べて薄筋(G)がより大きな能動的張力を
発揮していることが示唆され、G の形態的・構造的特徴(紡錘状筋であり、股関節内転や膝
83
第 4 章 総合考察
関節内旋にも作用する)が、膝関節屈曲トルクの発揮に活かされていたと推測された。ま
た、高強度の伸張性運動における各筋の活動度は、低強度の伸張性運動時とは大きく異な
り、特に ST と G の活動度が高かったことから、これらの筋の形態的特徴、すなわち、収縮
速度が速く、収縮範囲が長いという機能的利点が中枢神経系の働きによって選択的に利用
されていた可能性が示唆された。さらに、MRI の結果から、伸張性の膝関節屈曲運動に伴
う筋損傷の程度(T2 値)や形態的変化(CSA)が個々の筋において一様ではなく、運動様
式や負荷強度、収縮速度などの影響はあるものの、主に ST および G に大きな変化を生じる
ことが明らかとなり、伸張性膝関節屈曲運動をハムストリングスの筋力強化トレーニング
として行なった場合には、特に ST および G における能動的張力発揮の改善や筋肥大などの
効果が得られる可能性が高いと推察された。
第 3 章では、立位での伸張性および短縮性の股関節伸展運動におけるハムストリングス
および薄筋の活動度、並びに運動に伴う筋の損傷・修復・適応過程について検討を行なっ
た。その結果、伸張性運動と短縮性運動のどちらにおいても BFlh および SM の活動度が ST
および G の活動度に比べて高く、さらに伸張性運動では SM の活動度が BFlh よりも高かっ
たことから、立位での股関節屈曲‐伸展動作、すなわち体幹(骨盤)の前傾と重力に逆ら
うような運動においては、ハムストリングスの中でも特に大きな力発揮を行なうことが可
能な BFlh と SM が選択的に動員されることによって、大腿部後面の外側(BFlh)と内側(SM)
からバランスよく骨盤を支持している可能性が示唆された。さらに、MRI の結果から、股
関節屈曲‐伸展運動に伴う筋損傷の程度(T2 値)や形態的変化(CSA)が個々の筋におい
て一様ではなく、主に BFlh および SM に大きな変化を生じることが明らかとなり、このよ
うな運動を筋力トレーニングとして行なった際の効果は特に BFlh や SM に対して生じるこ
とが推測された。
84
第 4 章 総合考察
本研究で行なった 2 つの実験の結果、
およびこれまで明らかにされている知見を総合し、
身体活動におけるハムストリングスの振舞いと、その構造的・機能的破綻である肉離れの
発生メカニズムおよび予防法の確立への示唆を包括的な視点から考察してみたい。
まず、これまで協働筋として扱われることが多かったハムストリングスは、個々の筋に
おいて多様な構造的(形態的)
・機能的特徴を有し、遂行しようとする課題の特性、すなわ
ち、作用する関節(股関節、膝関節、またはその両者)
、運動様式(等尺性、短縮性、伸張
性)、負荷強度、収縮速度などの要素の無数の組み合わせに対して、個々の筋の特徴を選択
的に利用している可能性が示唆された。本研究では、ハムストリングスが作用する膝関節
および股関節の両関節に対して、一方の関節を固定した状態でもう一方の関節の単関節運
動を行ない、収縮様式を変化させた場合の各筋の振舞いについて考察した。その結果、膝
関節の短縮性運動では G が、伸張性運動では ST および G が、股関節の短縮性運動では BFlh
および SM が、伸張性運動では SM が、それぞれ他の筋よりも高い活動度を示し、その背景
として膝関節の運動(股関節 0°)では ST や G が有する、収縮速度が速く、収縮範囲が長
いという紡錘状筋としての形態的特徴が、また股関節の運動(膝関節 0°)では BFlh や SM
が有する、横断面積が大きく、より大きな力発揮が可能であるという羽状筋としての形態
的特徴が、それぞれ選択的に高い比率で利用されていたことが考えられた。負荷強度や運
動速度の影響はあるにせよ、ハムストリングスのような協働する二関節筋群において、紡
錘状筋と羽状筋がそれぞれ異なる関節運動に対して特異的に作用している可能性が示唆さ
れたことは興味深い。ただし、これが中枢神経系による必然的な生体制御機構であるかど
うかについては今後更なる検討の必要性があり、生体における他の四肢の関節(肩、肘、
足関節など)においても同様に存在するかどうかについても興味を駆り立てるものである。
また、二関節筋については 2 つの関節の運動が同時に起きる際の制御機構はより複雑とな
り、しかし、実際の人間の身体活動は複合関節運動によって実現されるものがほとんどで
あることから、今後は二関節筋の複合関節運動における制御機構、ハムストリングスの場
85
第 4 章 総合考察
合には股関節と膝関節の複合運動における機能について検討する必要があると考えられる。
このような協働筋であるハムストリングスの課題特性に応じた“機能分化”とも言うべ
き振舞いは、ハムストリングス肉離れの発生機序および予防法を考える上で有益な示唆を
与えてくれる。一般に、筋の損傷は筋組織が耐えられる限界を超えた負荷(強度、量)を
受けた時に発生する(Best and Hunter 2000)
。言い換えれば、筋の発揮張力と負荷との力の
釣り合いが維持可能な範囲を超えた場合に、筋の構造的・機能的破綻が生じる。したがっ
て、肉離れをはじめとする筋損傷の発生機序となり得るのは、その両者の均衡を維持して
いる因子、すなわち、筋自体の構造・形態・機能(力発揮能力)などの内的因子と、遂行
しようとする課題の内容(強度、量、速度、範囲)および環境などの外的因子のうち、ど
れかが単独もしくは複合的に異常となる場合であると考えられる。そして、傷害発生を予
防するためにはこれらの因子が異常事態に達しないための働きかけをし、均衡を維持でき
る範囲を広げることが重要である。序論ではハムストリングス肉離れの発生危険因子につ
いて触れたが、内的因子の中でも、特に柔軟性(筋や腱の長さや弾性、骨格、軟部組織な
どによって総合的に決定される関節可動範囲)、筋力(筋が発揮し得る能動的・受動的張力
の総体)、ウォーミングアップや疲労(筋がより円滑に力を発生できるような状態)、既往
歴(傷害発生の危険に曝されやすい状態)などは、個人の身体における構造的、機能的、
動作的特徴を適切に評価することで改善策を立案し、対応することが可能となる。また、
外的因子についても起こりうるリスクを事前にできる限り抽出し、そのような環境に身を
置かないことが重要であり、場合によっては運動を中止することが最善の対応方法となる。
そして、本研究において主眼を置いた、損傷が自発的な動作的要因に起因する場合、先に
述べた筋の発揮張力と負荷との均衡を維持できるのは運動実施者本人の中枢神経系による
身体活動制御機構であり、特にスポーツ活動においてはより高いパフォーマンスの発現と
の関係の中で、それと両立したより安全な動作の学習、習慣化、適応が、傷害発生を予防
するために必要であると考えられる。
86
第 4 章 総合考察
スポーツ活動中、特に自発的な動作の中で発生するハムストリングス肉離れの受傷メカ
ニズムに関する数々の報告から、より危険な動作はハムストリングスが伸張されながら(股
関節屈曲、膝関節伸展)同時に強く収縮する伸張性筋活動が生じる動作であるとされてい
る(Garrett 1996)。そして肉離れが特に多く発生するとされているスプリント動作では、遊
脚期後半に股関節が屈曲、かつ膝関節が伸展する時の大腿および下腿のブレーキング
、そして接地期初期に地面反力に
(Garrett 1996; 山本 2000; Petersen and Holmich 2005)
よって股関節屈曲モーメントおよび膝関節伸展モーメントが生じながら前方推進のために
股関節が伸展しようとする瞬間(山本 2000)においてハムストリングスに伸張性収縮が
生じていると考えられている。本研究の結果から、伸張性の膝関節屈曲運動においては ST
および G の活動度が他の筋に比べて高くなることが示唆されたが、これは遊脚期後半に膝
関節が伸展していく際の下腿のブレーキ動作に近似した運動であり、仮に実際のスプリン
ト動作中に下腿が過剰に前方に振り出された際には、ST および G において肉離れが発生す
る危険性が高まると推察される。また、立位(接地状態)での伸張性の股関節伸展運動に
おいては BFlh および SM の活動度が他の筋と比べて高くなることが示唆されたが、これは
接地期初期に地面反力に抵抗しつつ身体を前方に推進させようとする動作に近似した運動
であり、仮に実際のスプリント動作中に地面に対して過剰に抵抗する、もしくはより前方
に推進力を産生しようとする場合には BFlh および SM において肉離れ発生の危険性が高ま
ると推察される。加えて、地面への反発力を生み出すための瞬間的な力発揮が要求される
ような、まさに“スプリング(ばね)”のように振舞う運動においては、筋が収縮して地面
に対して物理的な力を発生する以前に数多くの運動単位の動員が開始されることが明らか
となっている(Yoneda ら 1986)
。また、肉離れが多く発生する陸上競技、サッカー、ラグ
ビーなどでは地面との摩擦力を高めるためにスパイクシューズを着用しているが、これも
ハムストリングスへの負荷を高めている 1 つの要因として考えられる。以上の推察、およ
びスプリント動作中のハムストリングスの肉離れは特に BFlh において多く発生するという
87
第 4 章 総合考察
ハムストリングスの病態に関する疫学的研究(De Smet and Best 2000; Woods ら 2004; Brooks
ら 2006; 奥脇 2008)の結果も合わせて考えると、スプリント動作におけるハムストリング
ス、特に BFlh の肉離れは、膝関節伸展(遠位でのハムストリングスの伸張)位で接地した
際の地面反力による股関節屈曲モーメント、並びに前方への推進力を生み出す随意的な股
関節伸展動作がより大きな危険因子となって誘発されると推察される。さらに、筋の伸張
度の観点から考えると、股関節屈曲角度の過度な増加と BFlh がより伸張される股関節内旋
位を強制されるような体幹の回旋が、特に BFlh における肉離れを誘発する要因として考え
られる。したがって、肉離れがこのような機序で発生すると仮定するならば、その予防の
ためには、遊脚期後半の脚の過剰な前方への振り出し、体幹の屈曲・内旋と、接地時の過
剰な地面への抵抗を避けることが重要であると考えられる。
また、序論において述べたように、ハムストリングス肉離れのほとんどは BFlh(De Smet
and Best 2000; Woods ら 2004; Brooks ら 2006; 奥脇 2008)および SM(Askling ら 2008)
の筋腱移行部で生じており、Safran ら(1989)が分類している筋損傷の病態とは異質の傷害
であることが明らかとなっている。そして、BFlh および SM に共通する特徴は、両者とも
に羽状筋の構造を有することである。一般に、羽状筋としての構造的特徴が強い筋ほど短
い筋長で受動的張力が発現し、関節伸展に作用するとされている(Epstein and Herzog 1998)。
これらを総合して考えると、肉離れが主に羽状筋の筋腱移行部において発生する機序とし
て、生体内において至適長からより伸張位にかけての長さ領域にある羽状筋はそれ自体が
関節伸展運動の遂行のために発揮する張力を主に受動的張力によって発現しているが、よ
り大きな張力発揮を要求されるような場面においてさらに筋の強い能動的収縮を行なった
場合には、筋節内でのモータータンパク質の結合力が筋腱移行部での構造的張力を上回る
ことによって力学的に脆弱な筋腱移行部での構造的破綻が生じる可能性が考えられる。し
かしこれはあくまで推論の域を出ず、今後、生体内筋腱組織の各部位で生じる張力と構造
的強度の関係性という観点からの詳細な考察が必要であると考えられる。
88
第 4 章 総合考察
このような肉離れ発生機序を想定した上で、その予防トレーニング法への示唆について
考察する。一般に、スポーツ現場におけるハムストリングスの筋力強化トレーニングは、
第 2 章で用いた伏臥位での膝関節屈曲運動である“レッグカール”(短縮性、伸張性)
、膝
立ちの状態で下腿に抵抗をかけ、ハムストリングスを収縮させながら上体を前方に傾斜さ
せていく“ノルディックハムストリング”(伸張性)、 背臥位で膝を屈曲し、踵を接地した
状態で臀部を地面から離すように股関節を伸展する“ヒップリフト”(短縮性、伸張性)、
第 3 章で用いた立位での股関節屈曲‐伸展運動である“デッドリフト(グッドモーニング)
”
(短縮性、伸張性)など様々な形で行なわれているが、それらの効果はハムストリングス
全体の強化という程度にしか認識されていないのが現状である。したがって、まずこれら
の運動をハムストリングスの強化トレーニングとして行なう場合には、個々の筋に対して
どのような効果をもたらすかというレベルにまで突き詰めた効果検証が必要であると考え
られる。
本研究では“デッドリフト(グッドモーニング)
”のような運動が BFlh や SM の筋肥大を
もたらし、スプリント動作中に発生したハムストリングスの肉離れの予防やリハビリテー
ションにおけるトレーニングとして有用であるかのようにも考えられるが、バーベルを手
に持って行なうという運動形態の性質上、負荷重量を上げるには上肢・体幹の筋力を向上
させることが同時に必要であり、純粋に“ハムストリングスへの負荷値”を段階的に上げ
ていくことは難しいと考えられる。しかし、
「スプリント動作を想定した立位での股関節伸
展運動によるハムストリングスの強化トレーニング」として、この運動形態以外に思い当
たるものは少ない。この点が、スポーツ現場においてハムストリングスの肉離れが未だに
頻発し、再発率が依然として高いことの一員となっている可能性も考えられる。従来実践
されてきたハムストリングス強化トレーニングとしての運動の多くが単関節運動であると
いう点で、実際のスポーツ活動における競技力向上および傷害発生予防のためのトレーニ
ングとしてはすでに限界がある。実際のスポーツ活動における傷害発生の予防、受傷後か
89
第 4 章 総合考察
ら競技復帰に向けたより効果的なリハビリテーション、再発防止を目指していく上で、そ
れらの筋力強化トレーニングをあくまで基礎筋力向上のための手段の 1 つとして捉えて有
効に利用しながらも、徐々に実際のスポーツ動作に近い動きを取り入れながらリスクファ
クターとなるような動作を改善し、目的とするスポーツ動作の発現に向けて身体を適応さ
せていくことが最も重要であると考えられる。ハムストリングスの機能分化を念頭に置き
つつ、より実践に即したトレーニング法の検討が今後望まれる。
最後に、本研究全体を通して用いた生体に対する運動負荷実験の手法およびその結果を
踏まえて、今後同様の手法を用いて骨格筋の活動を評価する研究が行なわれる場合に留意
すべき点を、指針として以下に提言しておきたい。本研究で用いたような高強度の伸張性
筋活動を被検者に対して求める場合には、たとえ局所的に与えられる負荷であったとして
も、筋損傷を生じさせるという侵襲的な実験であり、被検者の健康を害するようなことは
決してあってはならない。第 2 章では高強度の伸張性膝関節屈曲運動後に MRI・T2 値と各
血液検査値の著しい上昇が確認された。これまでの整形外科学分野での症例報告などから、
重度の筋損傷が生じた場合にはその修復過程における筋線維の骨化などの非可逆的変化が
生じる場合もある(参考図書 4)
。また、筋損傷によって生じる筋由来酵素群の血中への高
濃度での流出は、その異化・排せつの過程において肝臓や腎臓などの臓器に負担を強いる
ことになり、各臓器の機能障害を生じさせ、身体全体に甚大な影響を及ぼす危険性もある。
したがって、被検者に対する安全性を第一とする倫理的な観点から、被検者への運動負荷
実験を行なう場合、その反応としての生理学的変化の度合いは以下に示すレベルまでに抑
えられる必要があると考えられる。
90
第 4 章 総合考察
<生体に対する運動負荷実験を行なう際の安全性の基準値および留意点>
・ 運動負荷を強いた骨格筋の局所的 MRI・T2 値 → 40~
~70 msec 以内
・ 全身性の反応としての血漿 CPK 値 → 5000~
~10000 IU/L 以内
・ 全身的異常のチェックのため、T2 値が一定以上の上昇を示すような実験では、実験
後の尿検査、血液検査は必ず担保しておく
・ 腎・肝機能障害のリスクを考慮し、運動の前後には十分な水分摂取を行う
・ 運動後はアイシング等の適切な抗炎症処置を行なう
また、近年、骨格筋の活動の前後における MRI・T2 緩和時間の変化を解析することによ
って、運動中の筋の活動や反応の相対量を調べることが可能となり(Adams ら 1992;
Fleckenstein ら 1993; Foley ら 1999; Prior ら 2001; Akima ら 2004; Kinugasa ら 2006; Larsen
ら 2007)、活動動態測定の空間的分解能や生体内の変化を可視的に評価できる手法という
点で、これまでの筋電図計測法と比較しても格段に有用性が高く、多用される傾向にある。
しかし、MRI 撮像自体が強い磁場の中に被検者を拘束するもので、その環境に高頻度で曝
露される危険性については十分に留意されるべきである。撮像に際しては、禁忌(金属製
の装飾品を身に付けたまま MRI 装置に近づかない、刺青のある人は撮像しない、など)に
ついて事前に口頭で説明をし、除外されるべき条件に該当しないかを明確にするチェック
シートを記入してもらうなどの確認を十分に行なうように注意すべきである。
91
第 4 章 総合考察
総じて、本研究では、代表的なスポーツ外傷の一つである肉離れが頻発し、その再発率
も高いハムストリングスの機能について、各構成筋が作用する関節運動の違いによって特
異的な振舞いを示す可能性を明らかにした。今後、スポーツ傷害の発生を予防し、競技力
の更なる向上を目指していくためには、スポーツ医科学分野に携わる医師や研究者と、ス
ポーツ現場に携わるコーチ・トレーナー、そして競技者とが互いの知識と経験を提供しな
がら歩み寄り、改善のための方法を模索し続けていく必要がある。本研究で得られた知見
が、より善い身体活動の発現とこれからの医療やスポーツの発展に向けた一助となること
を願い、本研究論文の結語とする。
92
第 5 章 結論
‐ 第 5 章‐
結論
本研究では、人間の身体活動において重要な役割を果たすと考えられるハムストリング
スの機能を詳細に検討し、ハムストリングスに頻発する肉離れの発生メカニズムの解明お
よび予防法に向けた示唆を得ることを目的として、2 つの実験的検討を行なった。その結果、
膝関節屈曲運動においては特に収縮速度が速く、収縮範囲が長い紡錘状筋である半腱様筋
および薄筋の活動度が、股関節伸展運動においては生理学的横断面積が大きく、大きな力
発揮が可能な大腿二頭筋長頭および半膜様筋の活動度が、それぞれ他の筋と比較して高く
なることが示唆され、特に大腿二頭筋長頭において多発するとされるスプリント動作中の
肉離れは、遊脚期後半から接地期前半における膝関節伸展位での随意的な股関節伸展動作
が大きな危険因子となっている可能性が考えられた。したがって、ハムストリングスの肉
離れを予防するための方法論として、まず個々の筋が有する構造的・機能的特徴を十分に
理解し、従来のハムストリングスに対するストレッチング法や筋力強化トレーニング法が
個々の筋に及ぼす効果をより詳細に検討した上で、特に立位での股関節屈曲‐伸展動作を
あらゆる運動様式で行なうことを方法の 1 つとして取り入れながら、目的とするスポーツ
動作の発現に向けて身体を適応させていくことが重要であると考えられた。
93
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謝辞
本論文の作成にあたり、ご多忙の中、常に厳しくも温かいご指導をいただきました福林
徹教授に心より厚く御礼申し上げます。
また、副査をご快諾いただき、真摯なご指導をいただきました川上泰雄教授、金岡恒治
准教授に心より感謝申し上げます。
そして、実験の計画段階から一貫して常に温かくご指導、ご協力いただきました国立ス
ポーツ科学センターの奥脇透先生、並びに俵紀行さん、岩原康こさんに深く感謝申し上げ
ます。
また、本研究を行うにあたり MRI 撮像をご担当いただき、投稿論文についてもご指導下
さった柳沢修先生、共同研究者としてあらゆる力を注いで下さった永野綾子さん、快く実
験の検者等にご協力いただきました橘内基純さんをはじめとするスポーツ外科学研究室の
皆様、被験者等でご協力いただいた早稲田大学ア式蹴球部の皆様にもこの場をお借りして
御礼申し上げます。
最後に、12 年間の大学生生活をいつも温かく見守り、支援してくれた家族に心から感謝
の意を述べさせていただき、本論文の謝辞といたします。
本当に、ありがとうございました。
2011 年 1 月
小野 高志
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