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ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1)

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ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1)
東京外国語大学論集第 79 号(2009)
201
ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1)
鈴木 美弥子
はじめに
1. 販売業者の責任と義務の関係
1.1. 製造物責任法による責任
1.2. 契約責任
1.3. 不法行為責任
2. 販売業者の義務
2.1. 明らかに不適切な製品を引き渡さない義務
2.2. 製品の適性についての助言義務
はじめに
製品を最終購買者(消費者)が入手するに至るには、原材料提供者、部品製造者、完成品製
造者、販売業者など、様々な者が関与する製造、販売の過程を経るのが一般的であり、また、
消費者が完成品製造者から直接的に製品を入手するほうが稀である。製品の欠陥により損害が
発生する場合、販売業者も、上記の過程に関与し、製品の流通を通じて危険を生じさせたとし
て、その責任が問題となりうる。
そもそも、製品が消費者に至るまでの各関与者の役割や態様は様々であり、それに応じて、
消費者の各関与者に寄せる製品の危険回避の期待も異なる。例えば、製品に欠陥がある場合、
製造者は、製造により直接的に欠陥を創出したのに対し、販売業者は、一般的なケースでは、
欠陥を自ら創出し、自己の意思を持って市場に供給したとはいえない 1)。また、販売業者は、
製造者と異なり、通常、製品の危険を認識し、危険な製品を排除するために必要な知識も設備
も持たず、さらに、広範な品目の商品を扱うことから、場合によっては、有意義な品質検査が
最初から不可能であり、したがって、消費者は、販売業者ではなく、製造者に危険な商品を抑
止することに配慮することを期待している 2)。それゆえ、製造者と販売業者では、その責任は
区別されるべきであり、製品に関連して負う義務の内容も異なるといえる 3)。
後述するように、ドイツでも日本でも、欠陥を責任要件とする無過失の製造物責任法によれ
ば、販売業者は、一部のケースを除けば責任主体とはされておらず(製造物責任法 2 条 3 項 3
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ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1):鈴木
美弥子
号、ドイツ製造物責任法 4 条 3 項)、責任追及ができないが、民法の過失による不法行為責任、
契約責任で賠償責任を追及することは可能である(製造物責任法 6 条、ドイツ製造物責任法 15
条 2 項)。本稿では、製品に関して販売業者の契約責任、不法行為責任が追及されたドイツの諸
判決をとりあげ、そこから販売業者の義務を抽出し、検討していきたい。
1. 販売業者の責任と義務の関係
販売業者の義務を抽出するにあたり、そもそも、販売業者に対していかに責任追及がなしう
るか概観し 4)、また、その際、いかに販売業者の義務が係わるか見ていきたい。
1.1. 製造物責任法による責任
欠陥を責任要件とする製造物責任法によれば、製造物の製造または加工を通じて欠陥の創出
に直接寄与した製造業者については、当然に責任主体となる(製造物責任法 2 条 3 項 1 号、ドイ
ツ製造物責任法 4 条 1 項 1 文)。また、欠陥ある製造物を市場に供給し、危険を持ち込んだとし
て輸入業者も、製造業者と同様に責任主体に含まれる(製造物責任法 2 条 3 項 1 号、ドイツ製造
物責任法 4 条 2 項)。さらに、実際には製造物の製造・加工または輸入に携わっていなくとも、
氏名・称号等の表記によって製造業者または輸入業者として表示を行っている者(表示製造者)
も、その表示を通じ、消費者に製造物に対する信頼を与えていることから、責任主体として認
められている(日本では、誤認ケースも含む 製造物責任法 2 条 3 項 2 号、ドイツ製造物責任法
4 条 1 項 2 文)。
販売業者については、日本において、当該製造物の製造・加工・輸入・販売に係る形態その
他の事情からみて実質的な製造業者として認めることができる氏名等を表示した者(実質的製
造者)に該当する場合(製造物責任法 2 条 3 項 3 号)5)、ドイツにおいて、製造物の製造者を特定
できない場合には、供給者が製造者として責任主体となるとされている(ドイツ製造物責任法 4
条 3 項)。上記の場合に該当しない限り、販売業者は、欠陥を創出し自己の意思を持って市場に
供給したとはいえず、製造者と同様の責任を負わせることは適当ではなく、製造物責任法にお
いては責任主体とはされていない。しかし、製造物責任法が適用されない場合でも、民法の過
失による不法行為責任・契約責任で賠償責任を追及することは可能である(製造物責任法 6 条 6)、
ドイツ製造物責任法 15 条 2 項 7))。
そもそも、製造物責任法は、そもそも、欠陥を責任要件とし、義務の違反を要素とする過失
を問うものでなく、販売業者の義務を端的扱うものとしては、民法の規定による場合となる。
以下、契約責任と不法行為責任に分け、ドイツ民法における責任をみていく 8)。
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1.2. 契約責任
当事者間に契約が存在する場合には契約責任による追及が可能であるが、ドイツでは 2002
年の債務法現代化法により民法典の改正がなされた。改正の前後に分け、その責任の追及をみ
ていく(1.2.1.で挙げる条文は改正前のものである 9))。
1.2.1. 債務法現代化法による改正前の契約責任
債務法現代化法による改正前、売買の目的物の瑕疵に基づく瑕疵担保責任については、目的
物が特定物と不特定物の場合に分けて規定されていた。特定物については、459 条で、
「価値又
は通常の使用又は契約上予定された使用に対する有用性を消滅又は減少させる」欠陥
(Fehler)(1 項)、および保証された性質の欠如(2 項)を瑕疵とした。保証については、契約上示
される、すなわち契約の要素となること、さらに、表示したことに対し責任を負うという売主
の義務負担の意思が明らかにされねばならないとされる 10)。
危険移転時に存在する瑕疵について、買主が売買締結時に瑕疵につき悪意、または欠陥の不
知につき重過失があり売主が悪意の黙秘の場合を除き(460 条)、瑕疵担保責任が成立し(459 条 1
項・2 項)、買主は、売買の解除、または代金減額の請求ができる(462 条)。
保証された性質を欠如する場合、または売主が欠陥を知りながら黙秘した場合は、解除また
は減額に代え、不履行に基づく損害賠償を請求できる(463 条)。これは、売主の悪意の黙秘の
ケースを除けば、無過失責任であり 11)、また、不履行による損害賠償として、積極的利益の賠
償がなされる 12)。
保証の場合、判例は、463 条による賠償を、純粋な不履行損害に限定し、不履行による損害
賠償は、目的物の減価、修理費といった(直接的な)瑕疵損害のみを含み、瑕疵ある契約目的物
により健康や財産のような他の法益に相当因果関係をもって生じた損害である瑕疵結果損害
(Mangelfolgenschaden)13)を含まないとの裁判例もみられるが 14)、保証が、買主の目的物の支障
のない利用を得さしめることを超え、瑕疵結果損害まで防ぐことを目的とする場合には、463
条により瑕疵結果損害の賠償が認められている 15)。
また、売主の悪意の黙秘の場合、瑕疵結果損害は、常に本条の賠償請求権に含まれ 16)、過失
による黙秘の場合でも、積極的債権侵害により責任を負う 17)。
買主の解除または減額の請求、保証された性質の欠如による損害賠償請求権は、売主が瑕疵
を知りながら告げなかった場合を除き、
動産については引渡しから 6 ヶ月、
不動産については、
明渡しから1年で消滅時効にかかる(477 条 1 項)。
種類物については、解除または減額に代えて、瑕疵のない物の給付を請求することができ、
その際は、特定物の瑕疵担保責任による解除に関する諸規定が準用される(480 条 1 項)。また、
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463 条と同様に、危険が買主に移転する時に、物が保証された性質を欠くとき、または売主が
瑕疵を知りながら告げなかったときは、買主は、解除、減額または瑕疵のない物の給付に代え
て、不履行に基づく損害賠償を請求することができる(同条 2 項)。
しかし、上記のような解除・減額・追履行請求では、実際には救済として十分とはいえず、
また、保証された性質の欠如の場合は、損害賠償が認められるものの、保証が認められ、さら
に、保証が瑕疵結果損害の保護まで認める趣旨を含まない限り、瑕疵結果損害は賠償対象に含
まれない。そこで、瑕疵結果損害の賠償を認めるべく、積極的債権侵害(積極的契約侵害)の理
論が用いられる。
積極的債権侵害については、欠陥ある物の給付という不完全給付による場合と、付随義務違
反による場合が存在する 18)。
不完全給付、すなわち、欠陥ある物の給付により、買主が物の減価を超える損害を、売主の
健康や他の法益に受ける場合に、売主が必要な予見と注意を欠き、故意または過失によりこれ
らの損害をもたらしたのであれば、売主はこの瑕疵結果損害について積極的債権侵害により賠
償義務を負う。ただし、瑕疵損害の賠償は含まれず、463 条による。また、これは、276 条にも
とづく有責な行為による義務違反であり、過失とは無関係な担保責任の規定には含まれず、瑕
疵担保責任の規定により排除されない 19)。
このほか、占有・所有権を取得させるという主たる義務以外に債権関係から認められる付随
義務の違反による場合があり 20)、例えば、販売した製品の危険性、取扱い方法などの情報を買
い主に提供するなど、買主の財産・健康に損害を与えないよう配慮すべき保護義務の違反から
損害が生ずる場合にも積極的債権侵害とされる 21)。
積極的債権侵害による損害については、原則として、30 年の消滅時効にかかるが(195 条)、
判例は、損害が物の瑕疵と関係する場合、すなわち、損害が欠陥のある目的物を有責に給付し
たことの効果である、あるいは、損害が売主の売買契約の付随義務違反により有責にもたらさ
れた瑕疵の効果といえる場合には、477 条の短期の消滅時効を適用する
。また、判例は、売
22)
買目的物に欠陥がなく、損害が売買の目的物の性質に関する不十分な説明、または誤った助言
から生ずる場合にも 477 条の短期の消滅時効を適用する 23)。瑕疵結果損害が、477 条の短期の
消滅時効の期間の経過後に明らかになるケースも多く、時効の起算点を瑕疵結果損害の発生が
認識可能になった時にすべきとも考えられるが、判例・通説は否定している 24)。
1.2.2. 債権法現代化法による改正後の契約責任
債権法現代化法による改正により 25)、売主に対し物の瑕疵及び権利の瑕疵のない物を買主に
取得させる義務が規定され(433 条 1 項 2 文)、この義務の前提として、物の瑕疵(434 条)、権利
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の瑕疵(435 条)に関する定義規定が置かれる。
物の瑕疵について規定する 434 条は、旧 459 条における欠陥(1 項 1 文)と保証された性質の
欠如(2 項)の区別をなくした。そして、物の瑕疵がないとは、まず、物の危険移転時に合意し
た性状を有することとし(434 条 1 項 1 文)、性状の合意がない場合には、物が契約において前
提とした使用に適する場合(1 項 2 文 1 号)、あるいは物が通常の使用に適し、かつ同種の物に
おいて普通とされ、買主がその種類の物から期待できる性質を有する場合(同 2 号)には瑕疵が
ないものとされる。また、売主が異種物を引き渡したとき、または過少の数量を引き渡したと
きも物に瑕疵があるとした(3 項)。そして、物に瑕疵がある場合、特段の定めのない限り、買
主は、
瑕疵の除去または瑕疵のない物の引渡しを内容とする追完請求(437 条 1 号、
439 条 1 項)、
解除または減額請求(437 条 2 号)、損害賠償請求(437 条 3 号)が認められる。
買主が選択した追完の種類が過分な費用がかかる場合は、売主はそれを拒絶することができ
る(439 条 3 項)。代金減額は、解除に代えて可能なものであり(441 条 1 項 1 文)、具体的には、
売買代金は、契約締結時における瑕疵のない状態の物の価値と実際の価値を比較して減額され
る(441 条 3 項)。
280 条 1 項は、債務者が債権関係から生ずる義務に違反し、それにつき帰責事由がある場合
に、損害賠償の請求を認める。売主が買主に瑕疵ある物を引き渡した場合、売主は、物の瑕疵
及び権利の瑕疵のない物を買主に取得させる義務(433 条 1 項 2 文)の違反が認められ、それに
つき帰責事由がある場合には、280 条 1 項に基づく損害賠償が認められる。追完がなされる場
合には、281 条 1 項は、追完のために相当の期間を定め、その期間が経過したときに、給付に
代わる損害賠償を請求でき(1 文)、義務違反が重大な場合に限り、債権者は、全部の給付に代
わる損害賠償(物の受取を拒否・受け取った物を拒否したうえでの損害賠償)できるとする(3 文)。
ただし、債権者が給付を真摯かつ決定的に拒絶する場合は、追完の期間の設定は不要である(281
条 2 項)。また、給付が債務者またはすべての者にとって不能である(275 条 1 項)、債務関係の
内容および信義誠実の原則の考慮のもと、給付することが債権者の給付利益と比較して著しく
不均衡な費用を必要とする(275 条 2 項)、あるいは債務者が自ら給付をなさねばならず、かつ
給付が債務者にとって、その給付と対立する障害と債権者の給付利益の衡量のもと期待しえな
い場合(275 条 3 項)には、給付に代わる損害賠償を請求できる(283 条)。また、債務者について
275 条により給付義務が排除され、契約締結時にすでに給付障害が存在している場合、債務者
が契約締結の際に給付障害を知らず、その不知に帰責事由もない場合を除き、債権者は、その
選択に従い、給付に代わる損害賠償または 284 条が定める範囲の費用の賠償を請求できる(311a
条)。
具体的には例えば、代物の調達あるいは修理の費用、および、修理の後に残る減価といった
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瑕疵損害は、281 条、および 283 条により賠償されることになる 26)。また、瑕疵により買主が
売買目的物以外の法益へ被る瑕疵結果損害にあたるものとして、修理の間の利用の喪失、逸失
利益などがあるが、これらは、280 条 1 項により賠償される 27)。瑕疵損害が問題となるのは、
給付の代わりになされる賠償請求であり、瑕疵結果損害については、追完の期間設定をするこ
となく、賠償請求できる。
買主が契約に適った瑕疵のない物を遅滞なく受け取れなかったことにより生ずる遅滞損害は、
280 条 2 項に基づき、債務者が弁済期到来後なされる債権者の催告に基づいて給付しない場合
(286 条)に賠償が認められる。
また、買主が給付をうけることを信じて出費し、かつそれが正当な場合には、買主は給付に
代わる損害賠償に代えて、その費用の賠償を請求できる(437 条 3 号、284 条)。
瑕疵に基づく請求権の消滅時効は、追完請求権、損害賠償請求権、費用の賠償請求権につい
ては、第三者が売買目的物の返還を請求できる物権的権利を有するとき、土地登記簿にその権
利が登記されているときは 30 年(438 条 1 項 1 号)、土地工作物に瑕疵があるとき、物をその通
常の使用方法に従って土地工作物に使用してその欠陥を生じさせたときは 5 年(同条 1 項 2 号)、
その他の場合は 2 年である(同条 1 項 3 号)。消滅時効の起算点は、土地の場合には、引渡しの
時から、その他の場合は、物を交付した時である(同条 2 項)。ただし、売主が瑕疵を知りなが
ら告げなかったときは、195 条により 3 年とされる通常の消滅時効期間に服する(3 項)28)。
このほか、売主または第三者が物の性質または耐用性の保証を引き受けた場合、買主は損害
担保の表示および広告に表示された条件に基づく権利を主張でき(443 条 1 項)、これは無過失
責任である。
積極的債権侵害については、債権関係の各当事者に相手方の権利、法益および利益に対し配
慮する義務があることが明文化され(241 条 2 項)、その違反により 280 条 1 項による損害賠償
が認められる 29)。動産の給付による瑕疵結果損害については、437 条 3 号、280 条 1 項による
瑕疵による損害賠償請求が問題となり、438 条 1 項 3 号、2 項により、損害発生の時期、あるい
は買主側のそれについての認識や認識すべきことについて問題とならず、物の引渡しから 2 年
で消滅時効にかかる。これに対し、買主の誤った指示や目的物の不適切な包装のような瑕疵と
は無関係な義務違反は、437 条に拠らず、直接 280 条 1 項に基づく、改正により 3 年に短縮さ
れた 195 条の通常の消滅時効にかかる損害賠償請求権の対象となる。438 条は、物または権利
の瑕疵に帰しうる損害を前提とする 437 条で挙げられている請求権に関する規定であるため、
この場合には、適用しえない 30)。
以上、契約により責任追及する場合を概観した 31)。このうち、売主の義務の違反を必要とす
る責任は、改正前においては、損害賠償に関し、瑕疵結果損害について、不完全給付の場合、
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および付随義務違反の場合からなる有責な積極的債権侵害に拠る場合である。改正後において
は、売主が買主に瑕疵ある物を引き渡した場合、売主は、物の瑕疵及び権利の瑕疵のない物を
買主に取得させる義務(433 条 1 項 2 文)の違反とされ、それにつき帰責事由がある場合には、
損害賠償義務が認められる(280 条 1 項)。そして、その結果、適用が少なくなった積極的債権
侵害の場合とともに、損害賠償について、その成立にあたり、義務の違反が要件とされている。
したがってこれらの責任に関する判決を分析することで、売主(販売業者)の義務を抽出して
いく。
1.3. 不法行為責任
判例・通説では、契約および契約類似の関係に基づく請求権と不法行為に基づく請求権は、
原則として競合し、互いに独立し、契約法が不法行為法を排除することなく、両者の並存が認
められている。このため、たとえ、当事者に契約関係が存在する場合でも、不法行為による追
及も可能である 32)。不法行為責任として、権利侵害による 823 条 1 項、保護法規違反による 823
条 2 項、および良俗違反による 826 条があるが、不法行為責任としての製造物責任は、社会生
活上の義務(Verkehrspflicht)に基づき形成され、賠償責任を問う際には、判例上、主として、故
意または過失により他人の生命、身体、健康、自由、所有権、またはその他の権利を違法に侵
害した者は、その他人に対し損害賠償義務を負うと規定する 823 条 1 項に拠る 33)。社会生活上
の義務の違反は、過失の外的注意の違反として問われ、社会生活上の義務の有責な違反のもと
823 条 1 項に挙げられた法益を侵害することにより賠償責任を負う 34)。そして、販売者につい
ては、欠陥のある製品を流通に置くことを防止する措置をとるべきとの社会生活上の義務が課
され、その違反が問われる 35)。したがって、販売業者の義務について、判決において社会生活
上の義務としてあらわれたものを中心に見ていく。
不法行為によって生じた損害の賠償請求権は、852 条 1 項により、被害者が損害および賠償
義務者を知った時から 3 年で、
これを知ったか否かを問わず行為のときから 30 年で消滅時効に
かかるとされてきたが、債務法現代化法による改正後は、特別な規定や 202 条で無効とされな
い時効の合意がない限り適用され、通常の時効期間を定める 195 条は、その期間を 30 年から 3
年に短縮し、不法行為による損害賠償請求権もこれに服することとなった。通常の消滅時効の
起算点は、請求権が発生し、および債権者が請求権を基礎づける事情および債務者を知りまた
は重大な過失なく知るべきであったとされる年の終了時とされる (199 条 1 項)。ただし、最長
期間として生命、身体、健康または自由の侵害を理由とする損害賠償請求権は、その発生、及
びそれにつき認識または重過失による不知を問わず、行為、義務違反または損害を発生させた
その他の出来事が発生した時から 30 年の消滅時効にかかり(同条 2 項)、その他の損害賠償請求
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権は、その認識または重過失による不知を問わず、その発生の時から 10 年、その発生および認
識または重過失による不知を問わず、行為、義務違反または損害を発生させたその他の出来事
が発生した時から 30 年の消滅時効かかり、早く到来した期間が基準となる(同条 3 項)。
2. 販売業者の義務
販売業者の義務については、契約責任、不法行為責任に基づき販売業者の責任を追及する判
決において見ることができる。その義務については、販売行為に係わる義務と、販売する製品
の欠陥に対する義務(典型的には、販売する製品を販売業者が検査する義務の有無・範囲など)
に分けることができる。本稿では、前者の義務について、判決をとりあげつつ、検討していく。
2.1. 明らかに不適切な製品を引き渡さない義務
販売業者も消費者が製品を入手する過程に関与し、危険な製品を流通させたという点では、
製造業者と並んで責任を負うことが考えられる。しかし、製品の危険を直接作出した製造業者
とは、製品の危険への関与が異なり、その負う義務についても異なるといえる。
他の者が製造した製品を販売する販売業者は、販売契約に基づき、一般には、明らかに不適
格な、あるいは、危険な製造物を引き渡さないという義務を負う。このことは、不法行為責任
においても妥当するとされる。というのは、販売業者は、製品との関与が強いとはいえず、商
品の適性の限界を特定の場合にしか確実に判断しえないからである 35)。
販売業者が専門化し、販売業者が製品や、その使用目的を正確に知るほど、製品が不適切で
ある危険性を認識することになる。そのような危険性の認識の端緒が存在するなら、製品を購
入者に引き渡してはならない。ただし、これは、買主が注文する商品について、その性質や使
用目的を条件付けて詳細に述べるときにはじめて妥当することである 36)。しかし、原料の混同
のような出荷ミスは、製品の態様や名称によって誤用が排除されない場合には、回避されねば
ならない 37)。
このような例外があるとはいえ、販売業者には、特定の目的のために商品の性質に配慮する
義務を一般的に認めることはできない。特に、規定に従った使用の枠内に明らかにない取付け
の可能性を確認することは、第一に、商品の購入者の問題である。原則として、販売業者は、
購入者の使用の意図を配慮する必要はなく、購入者が自ら選択した商品の性質について配慮し
なければならない 38)。
2.2. 製品の適性についての助言義務
販売業者が購入者に製品の適性とリスクを助言するのであれば、販売業者の指示は正しく完
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全でなければならない。販売業者が、購入者に、製品の使用に関する適性について不正確な説
明をなし、それ通じて、購入者に目的の使用の際に危険となるような製品を購入させるに至ら
せたのであれば、そのような製品の使用によって生じた結果損害について、積極的債権侵害に
よっても、823 条 1 項によっても、責任が認められる。
[電動草刈り機事件]39)
被告である機械工長 A は、以前、被告であった B が日本から輸入し、その名前で販売した草
刈り機 X を販売した。
原告は、馬牧場の草を刈るために、その機械に興味を持ち、機械工長 F の仲介により、1979
年 10 月 12 日 18 時頃に A から草刈り機 X を牧場で見せられた。いわゆる茂み用の刃も使用し
ての実演の際に、A は、ゴーグルをせず、F にも原告にもゴーグルなしで、草刈りをさせた。
原告がその後購入し、操作説明書とともに A から供給された機械のうえに、
「注意! 運転の前
には絶対に操作説明書を読むこと」という 52×33 ミリの大きさのステッカーがあった。また、
操作説明書の 1 頁目には、
「自分のため、特に、10 頁の事故防止の指示を守ること。すでに草
刈り機の操作に習熟していても、注意深くこの指示を読むこと」と書かれていた。操作説明書
の 10 頁には、事故防止の見出しのもと、さらなるポイントとともに、草刈りの際にゴーグルあ
るいは顔面保護付きのヘルメットをすることが指示されていた。しかし、操作説明書に含まれ
る写真と B のカタログには、草刈りをする者がゴーグルやヘルメットなして写っていた。
原告は、その草刈り機を、事前に操作説明書を読まずに初めて使用し、ゴーグルもヘルメッ
トも付けなかった。茂み用の刃による草刈りの際に、原告の右目に約2cm の長さの細い針金
の破片が入り込み、眼球に穴が開く損傷を受けた。針金は手術で取り除かれたが、中間の眼筋
の端が緩む後遺症が残り、このため、損害賠償、慰謝料、および将来の損害に対する責任の確
認を求めた。
‹判旨›
独立した販売業者は、販売した製品に対して、同様に、不法行為責任を負わねばならず、販
売業者が危険に商品あるいは機具を流通におくならば、社会生活上の義務に違反したことにな
る。たとえ販売業者が、販売したにすぎない製品についてその危険な性質に関して調査する義
務を例外的な場合にのみ負うとしても(コンデンサー事件判決
40)
)、販売業者には、売買契約の
付随義務とは無関係に、顧客への製品の情報提供の枠内において特別の不法行為上の安全義務
も認められる。
製品使用の際に、財産被害のみならず、健康被害、身体への傷害のおそれがある場合は、判
例は、説明義務について特に厳格な要求をなし、利用に関する危険の全範囲についての強く、
明瞭な指示を要求する。そのような義務は、第一に、製造者にあるが、しかし、いずれにして
210
ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1):鈴木
美弥子
も、買主に対し危険な機具を自ら実演し、買主にその操作を信頼させた場合には、独立した販
売業者にもある。
この情報提供義務を、この場合、A は遵守していなかった。しかし、A は、該当する指示に
ついてまさに特に義務づけられていた。というのは、A 自身は、機具の実演の際に、保護規程
を遵守しておらず、専門知識のある信頼される者として、ゴーグルの着用が不要である印象を
生じさせたためである。
このような事情の下、
「機具に危険がないわけではない」
、
「原告にもう一度操作説明書を見て
もらいたい」という A の指示は、事故防止規程に関する十分な指示とはいえない。非常に高速
で回転する鋭い刃の機具が危険ではないといえないことは、明らかである。この指示は、眼が
特別な危険にさらされることについて、何も述べていない。この危険は直ちに認識可能ではな
かった。
多くの機具の利用者も、F もまた、原則として、ゴーグルを着用しなかったことは事実であ
ろう。しかし、このことにより、A が事故防止規程に基づく指示から解放されるとはいえない。
なぜなら、広まった不注意や悪習は考慮されなくてよいからである。たしかに、社会生活上の
義務は、確かに考えられるあらゆる損害の可能性について事前に配慮しなくともよい。あらゆ
る事故を排除する安全措置は達成できるものではない。
しかし、この場合、まったくおぼろげな危険ではなく、具体的な危険が問題であり、そのよ
うな具体的危険は、高速回転する刃の輪を持つ機具について考慮されねばならず、A が適当な
注意をもって、特に、安全ヘルメットより 3.5 センチ程度長い茂み用の刃の使用の際に、その
講習と認識している操作説明書に基づいて、考慮しなければならない。過失は、取引上必要な
注意の緊張の際に、被告が注意義務の根拠と契機を認識し、その認識により行為を決定する能
力を前提とする。他の者を損害から守るため、思慮分別のある、慎重な、誠実な当該職業グル
ープに属する者が必要とみなす安全措置がなされるべきであるという判例の原則を基準とみな
すなら、この事情の下では、用心深く慎重な売主であれば、すでに機具の最初の使用開始の際
に、操作説明書に含まれる眼についての保護規程に注意し、伝えたといえるので、この場合、
安全確保義務の違反がある。
販売した製品の危険についての説明は、第一次的には、製造者にあるとしつつも、本件のよ
うに、専門家として、みずから機器を実演し、操作を信頼させた場合には、販売業者にも、情
報提供義務が認められ、さらに、具体的な危険が問題とされることから、被告 A のなした指示
では、義務を尽くしたといえないとされたのである。
[動物ワクチン事件] 41)
原告は、1959 年 2 月 24 日に、彼のメリノ羊群に、獣医である A により、肝蛭(肝臓の寄生虫)
東京外国語大学論集第 79 号(2009)
211
に対するワクチン E を接種させた。その後、群れに健康被害が発生した。E を製造した被告 X
社は、自身のパンフレットで薬剤について、
「E は獣医学上、肝蛭の寄生に対する皮下に注射可
能な、安全で副作用のない初の羊用の薬剤である。したがって、それはなによりも、大量の処
置に適している。その作用物質の特別の純度は、それに含まれる安定剤と結びついて、局所的
にも、一般的にも優れた負荷の少なさをもたらす。従来の経験によれば、特別な食事療法(濃厚
飼料が使用されない場合)は不要である。
」と述べている。
A 獣医は、獣医の薬剤についての卸売業を営み、ごくわずかな範囲で単純な薬剤を製造する
第二被告 Y 社から薬剤を購入した。1959 年 2 月 20 日の電話による注文の際に、薬剤を使用し
たことがなかった A 獣医は、販売員である M と、E について会話をなした。
1959 年 2 月以前に、数個のメリノ羊群に E を接種後、被害が発生した。このことは、X 社は
認識していた。C 教授・D 教授は、これについて、E が接種された、臓器が壊死した、あるい
は死亡に至ったメリノ羊を研究していた。D 教授は、1959 年 12 月 12 日の書面で、被害は E に
起因すると X 社に伝えた。C 教授は、X 社に、1959 年 1 月 20 日の鑑定意見で、E は羊の瘤胃(第
一胃)の粘膜と筋肉に損傷的作用を生じさせる可能性があるという結果に至ったことを報告し
た。一時的に、D 教授の研究に、その間に死亡した、ハノーバー獣医大学の教授の一員だった
毒理学者の E 教授が参加した。さらに E 教授は、当時、雇用関係のもと、毒理学者として、Y
社の実験室を指導していた。これらのことについて、M は A 獣医に報告しなかった。
‹判旨›
X 社・Y 社の両被告は、823 条 1 項、840 条 1 項(共同不法行為)、249 条により、連帯債務者
として、原告がこの事件で主張する損害について責任を負う。この損害は、今日の獣医学の科
学水準によれば、E により、いまだ知られていない素因的要素と共働して惹起された。X 社は、
他のメリノ羊群においての同様の損害事件と、E がメリノ羊に致死的な瘤胃の変化をもたらし
うるという C・D 教授の見解を報告されていたが、メリノ羊の群れに E を接種する前に警告し
なかったことから、損害について責任を負う。Y 社の役員は、メリノ羊が E の接種の後に死亡
したことを知っていたが、Y 社は、善意の従業員 M に、A 獣医に原告の羊群に接種するための
E の注文の際の質問に対し、E について、従来、苦情はないと言わせたので、損害について責
任を負う。
X 社は、今や、2 人の科学者が、詳細な研究に基づき、E がメリノ羊を死亡にいたる損害を
惹起しうるという確信を得たということを知った。それゆえ、X 社は、E を肝蛭に対する副作
用のない薬剤として販売させてはならず、薬剤の使用の熟達を他の専門家に検査させることに
限定すべきである。X 社は、むしろ、メリノ羊に E を注射しようとする獣医あるいは羊の所有
者に、この種の羊への E の接種後に、科学書により薬剤に起因するとされた死亡被害が生じた
212
ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1):鈴木
美弥子
ことを報告する事前措置をとらねばならなかった。X 社は、羊用の E の広範な販売をやめると
決定しなくとも、獣医、あるいは羊の所有者に、メリノ羊への薬剤の接種は危険であると考え
ねばならないことを報告しなければならなかった。
Y 社は、1959 年 2 月 20 日に原告の群れの接種のための E の注文の際に、善意の従業員 M に
より、獣医 A の一般的な質問に対して、E には従来、苦情はないと、客観的に不正確な回答を
させた。この回答は誤っていた。1959 年 9 月2日以来、すでに多数の営農家の羊の群れにおい
て E の接種後、損害が発生した。獣医 A は、従業員 M の誤った情報により、E を注文する気
になった。
E についての情報提供によって製造者の措置を発動させる危険を、Y 社が、そのような情報
を与えないことにより回避しえた。しかし、Y 社が情報を与えた場合、この危険は実現するは
ずであった。
本判決では、X 社は製造業者であり、Y 社は卸売業者である。Y 社は、例えば、製造領域で
生じた製造物監視の欠陥について帰責されるわけではなく、Y 社の役員が、ワクチンの問題性
を知っていたが、従業員にそれに関する情報提供を行わなかったことが帰責の根拠となる。つ
まり、Y 社の責任は、販売業者としてワクチンの安全性について疑念があることを認識してい
たにもかかわらず、従業員にも、したがって、(従業員通じて)顧客にも情報提供せぬまま、広
範に販売していたことにある 42)。
[スキービンディン事件] 43)
原告は、1974 年に被告 X のスポーツ洋品店で皮のスキー靴を購入し、その際、靴のビンディ
ングを調整した。ビンディングの調整の前に、原告の頸骨の上部の強度を測り、領収証に書き
とめた。1975 年に、原告はスキー靴を被告 X のところで新しいプラスチックの靴に交換し、追
加払いをし、その際、スキー靴は、被告 X の従業員である被告 Y により、あらたに取り付けら
れ、最も低い解除値に調整された。頸骨の上部の測定値がその際にも使用できた。原告はスキ
ー休暇の間にスキー事故に遭った。原告は、その際、ビンディングが解除されなかったため、
右のふくらはぎとすねを複雑骨折した。
‹判旨›
技術検査協会の鑑定意見における書面による説明と、鑑定人 K の再三の口頭による説明によ
れば、取り付けられたプラスチックの靴と結びついた検査されたビンディングは、ラント裁判
所の見解に反して、靴とともに原告が購入した対のビンディングと同一であり、最小の解除値
に相変わらず調整されたにもかかわらず、高い解除値を示し、ビンディングは、原告の体重と
ともに、証人 H の証言により、第二のビンディングの組立ての際に書面上自由に使用できた頸
骨の上部の測定に基づき必要な解除値を大きく上回っていた。このことは、特に、鑑定人 K が
東京外国語大学論集第 79 号(2009)
213
説明した ESS 調整検査器具による調整検査により明らかとなった。それゆえ、鑑定人 K のこの
説得力のある説明から、原告が購入したビンディングの組合せは、足の骨折の危険があること
から使用不可能であったことが導かれる。
このビンディングの使用不可能性は、X が自由に使用できる ESS 検査器具により確認できた
ことから、X の明らかな売買契約上の付随義務は、原告に少なくともビンディングの調整につ
いての信頼しうる検査可能性を示し、原告にこの安全検査を勧めることであった。しかし、X
は、自身が認めるように、これを行わなかった。6 マルクの追加費用を示すことにより、この
義務違反の不作為は免責されえない。というのは、原告は、人生経験に基づく確信によれば、
このわずかな追加費用によっては、
「安全ビンディング」の名前にふさわしい、信頼できるビン
ディングの組合せを確保することを思いとどまらなかったからである。それゆえ、ビンディン
グの明白な強く命ぜられる安全性検査についての X の瑕疵のある説明は、ビンディングが原告
について使用不可能であると認識されなかった原因である。原告が命ぜられた検査によりこの
使用不可能なビンディングの組合せを購入せず、被告にとって認識可能な骨折の危険にさらさ
れなかったことは明らかであり、生じた損害に対する被告の義務違反の原因を根拠づける。
X の契約上の命ぜられる説明義務と指示義務は、276 条の積極的債権侵害となり、しかし、
また、原告に財産的損害と非財産的損害を賠償する義務を被告に負わせる 823 条 1 項の不法行
為となる。
被告 Y については、原告との間に契約関係はなく、823 条 1 項の不法行為責任も認められな
い。被告がなした作業自体は損害発生の原因ではなく、ESS 検査器具の使用に関する瑕疵ある
説明とビンディングの安全機能の検査にこの器具を使用しなかったことについて、Y が X の従
業員として、X の指示を信頼してもよく、検査器具の説明に関しても、その使用についても独
自の決定権がないことから、Y を非難することはできず、その責任を認めることはできない。
スキー板の購入では、助言のミス、あるいは調整のミスが問題となるのは珍しくない。スキ
ーは、今日では、ビンディング技術により、相対的に危険ではないといえる。しかし、スキー
ヤーの転倒の際に、ビンディングがはずれなければ、重傷のおそれがある。したがって、スキ
ー板の販売者業者とその従業員に寄せる期待は大きい。スキーの販売業者は。顧客に対し包括
的な助言義務、特に、スキーのビンディングの調整に関する今日における一般的な手順につい
ての情報提供の義務があり、また、この手順を注意深く行う義務がある 44)。
[沈殿剤事件]45)
被告は、土壌凝固作業を行う会社で、大規模な基礎溝の凝固をまかされていたため、1967 年
の 11 月の初めに、土壌を凝固させる薬剤を製造・販売する原告の有限会社に問い合わせ、その
業務と相談が推奨されていた広告に基づき、供給を求めた。1967 年 11 月 7 日の相談の際に、
214
ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1):鈴木
美弥子
原告のところで働いている工学士 U は、水と水ガラスと原告に特許がある沈殿剤の混合からな
る F の使用を助言した。1967 年 11 月 14 日に、原告は被告に沈殿剤のサンプルを送った。原告
は、1967 年 11 月 15 日のテレックスで、J の値段を土壌立方メーターあたり 180 マルク、凝固
剤の値段を土壌立方メーターあたり 96 マルクと被告に伝えた。1967 年 11 月 21 日に、基礎溝
の凝固についての固定価格を合意した被告は、アメリカにある原告の親会社に、親会社は原告
に、適切な凝固剤を適正な価格で提供させるよう書面で知らせた。その後、親会社は、原告に
J の見積りを再検討するように求めた。
1967 月 11 月 11 日の相談の際に、両当事者は、原告が沈殿剤を立方メーターあたり 80 マル
クで供給することを合意した。被告は、以前の相談と同様に、この相談で、500 から 1000 立方
メートルの沈殿剤が必要であることを出発点とした。それに対し、工学士 U は、1967 年 11 月
7 日の相談によれば、約 2 倍の量が必要であろうとの見解であった。U はこれを原告の会社の
支配人に伝えたが、被告には知らせなかった。原告の主張によれば、被告への報告がなされな
かったのは、被告が土壌の凝固方法を変え、U は被告が計画していた方法の詳細を知らなかっ
たからであるとする。
被告は 1967 年 12 月 27 日に 500 リットルの沈殿剤の供給の申込みを確認
し、600 から 1000 立法メートルの凝固剤の全必要量を示し、原告に凝固、ゲルの水溶性、濃度
の調整の保証を求めた。原告は、1967 年 12 月 28 日に、その書面を完全には受け入れることは
できず、いかなる形で、さらに、誰により、様々な濃度についての土壌の状態の適性が確認さ
れるべきか、明らかにする必要があると返答した。被告は、その書面には返答しなかった。
原告に派遣された作業員が沈殿剤を工事現場で混ぜた注入作業の開始後、J が石灰を含有す
る建設現場の土壌に適しているか疑念が生じた。いずれにしても、土壌に石灰が含まれている
ことで、J のより多くの使用が必要となり、それにより方法の経済性について問題となった。
原告の薦めにより、被告は、注入前の作業の第 2 段階で純粋な沈殿剤を入れた。そのほか、被
告は土壌の凝固のため他の薬剤を使用した。
被告は購入価格の請求に対し少額の一部払いのみしかなさなかったので、原告はオープン価
格の 148280 マルクと利子の支払いを求めた。原告は被告に誤った助言をし、特に目的に適いか
つ経済的な方法を提案せず、
原告から受け取った沈殿剤の量では十分でなかったことを告げず、
それにより著しい損害が発生したので、被告は支払いの義務がないと主張した。
‹判旨›
なるほど、信頼される者とされ、専門家でない買主に助言者かつ専門家としてみなされる売
主の助言が売買契約の付随義務を表すことは、一般的な見解や判例に合致する。
しかし、このことは、本件にはあてはまらない。見込まれる協力を考慮して J の価格を再検
討し、適当な薬剤を適正な価格で提供することについての原告の親会社に向けられた被告の依
東京外国語大学論集第 79 号(2009)
215
頼から、被告が認識可能に、いかに基礎溝が最も経済的に凝固されうるかの相談を求めたこと
は導かれない。
土壌を凝固させるための最も適切で経済的な薬剤の推奨の依頼が相談を根拠づけるかは、そ
もそも問題である。最も適切で特に買得な薬剤を求められた会社が、それに基づき薬剤を推奨
し、それに適正な価格を示したのであれば、直ちに契約上の義務を引き受けたといえる。しか
し、原告が J の計算を再検討する親会社の要求を受け取ったにすぎなければ、被告が助言を期
待したことは、原告にとって認識不可能であった。
さらに、控訴裁判所の認定によれば、被告は原告を通じて助言を求めていなかったことが示
される。
もっとも、
原告が売買契約の付随義務として、
被告に助言する義務を有していないとしても、
原告が、その見積りを不適切な評価に基づかせることを報告しなければならない場合には、原
告には契約締結にあたり有責性があったといえる。
契約の締結についての交渉の際に、その認識が決定にとって重要である、被告が知らない、
あるいは十分に知らない、あるいは十分に知りえない事実と事情について他方の当事者に説明
する義務がある。このことは、契約当事者の下に緊密な人的な信頼関係が存在し、あるいは、
基礎づけられるべき場合に特に妥当する。しかし、いずれにしても、契約当事者が関係する事
実の伝達を社会生活上の見解により期待してもよいことが前提である。したがって、説明が義
務となる境界は流動的であり、契約一方当事者の対立する利益について、要求が過大になって
はならない。
被告は、信義則や社会生活上の見解により、原告が、見積りの疑念について問われることが
ないまま、被告に説明することを期待してはならない。被告は、国最大の土壌凝固事業者に属
し、原告は、そのような種類の最大の業者ではまったくない。いまや被告は、原告のライバル
である。被告は、土壌凝固の領域で、知識と経験を使用することができる。被告は契約締結前
にその効力を検査しうる凝固剤のサンプルを受け取ったため、いかなる量の沈殿剤が基礎溝の
凝固にとって必要か確認することは、被告には可能であった。原告は被告によるこのサンプル
の適切な検査から出発してよい。原告は被告に、その見積りの正しさについての疑念を問われ
ることなく説明する必要はなかった。
被告に対して説明する原告の義務が信義則や社会生活上の見解から認められるのは、原告が
被告の見積りの正しさに疑問をもっただけでなく、その不正確さを知った場合である。
購入者に対する助言義務について当事者で明確に取り決めていない限り、助言義務は、売買
契約の副次的義務、あるいは、社会生活上の義務として、特別の事情のもとでのみ認められ、
本判決にあるように、
「説明が義務となる境界は流動的であり、契約一方当事者の対立する利益
216
ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1):鈴木
美弥子
について、要求が過大になってはならない」のである。売買の付随義務として助言義務が認め
られるのは、例えば、販売業者が信頼できる人間として自称し、自らは専門知識がない購入者
によって、助言者かつ専門家として見なされる場合であるが 46)、本件では被告に認識可能な原
告の助言の請求は認められないとし、否定されている。また、本判決では、購入者である被告
はいわば専門家であり、販売業者である原告からサンプルも入手し、自ら検査・判断すること
が可能であったことから、被告に対して、説明する原告の義務が信義則や社会生活上の見解か
ら認められるのは、原告が被告の見積りの正しさに疑問をもった、あるいは、その不正確さを
知った場合に限るとされた。
[股関節プロテーゼ事件]47)
原告は、他社が製造した製造物に自己の会社名をつけて販売した被告に対し、販売した股関
節プロテーゼの破損による損害賠償を求めた。
‹判旨›
被告は、原告に対し、当事者間に契約関係を欠く場合の請求根拠とされる 823 条 1 項、847
条 1 項(慰謝料請求権)による責任を負わない
被告は移植されたプロテーゼの製造者ではなく、製造物責任の意味における製造者とも同列
に置くことはできない。
ラント裁判所の見解と異なり、製造者の性質は、被告が発行したパンフレットからもすでに
生じない。それは、3 頁目で、股関節プロテーゼが、それどころか、B にある D 社で製造され
ていることの明確な指示を含む。なるほど、被告は、その名前を、前述のパンフレットの写真
が示すように、他社が製造したプロテーゼのシャフトに刻印した。しかし、このことによって
は、一般には、危険防除義務は根拠づけられない。危険防除義務が考慮されるのは、事業者が、
利用者がその名前に寄せた信頼を考慮して、さもなければとっていたであろう予防措置をやめ
ることを考慮しなければならない場合のみである。準製造者の外観が存在するが、いかなる意
義もない。
製造物責任を広く拡張せず、販売会社の製造者との関係に決定的に注目する最高裁判所の判
決の傾向は、すでに連邦通常裁判所の判決からも明らかである。この判決によれば、商品が外
部調達された際に、販売会社の独自の商標あるいは商品の名称をつけて販売を行っている場合
に、製造物責任の余地はないとする
。純粋な販売会社の責任への広範すぎる拡張は、823 条
48)
による一般的な社会生活上の義務の違反によってはもはや根拠づけられないということで判決
は一致している。被告が、これら関して、適切に指摘しているのは、商品製造と販売に関与す
るいずれの者も、その個々人の行為義務と有責性が要求される不法行為責任が専ら問題になる
ことである。しかし、被告は、第三者に対する一般的な不法行為の危険防除義務に違反してい
東京外国語大学論集第 79 号(2009)
217
ないといえる。
原告は、不当にも、被告が説明・説示義務に違反したと非難した。
原告に有利に、プロテーゼの破損について、弛緩により惹起された疲労破損が問題であるこ
とから出発する。
いつ問題のない原材料についても疲労破損に至るかは、時間の問題にすぎない。原告もその
控訴理由において認めている被告の申立てによれば、すでに、たとえ、プロテーゼが特別な負
荷にさらされない場合でさえも、絶対的な破損の安全性の保証をなすことができる製造者は存
在しない。
被告には、プロテーゼの製造者ではないこととは無関係に、その購入者に対して、存在する
破損の危険を特に指示する義務はない。社会生活安全確保義務の観点からは、購入者への義務
は、製品の特殊性と、平均的な利用者について前提とされる知識に基づいて、特定の具体的な
危険が存在しうることを予想できる限りでのみ存在する。その際、ここで特に重要なのは、プ
ロテーゼは患者に直接に供給されるのではなく、手術を行い、そこで患者に対して危険の説明
をしなければならない専門医に供給されることである。専門医は、内部プロテーゼの使用可能
性と使用領域を、その専門知識により十分認識していた。専門医はまた、専門家の間で、かな
り以前から知られていた、予想より早い疲労破損の問題性を、たとえその原因の科学的研究が
ようやく近年開始されたとしても、認識している。その問題性は、専門家会議と専門的文献に
おいて何年も前から、また、すでに 1975 年の原告の手術時には議論されていた。したがって、
ラント産業協会の鑑定意見では、専門医がインプラントの弛緩の危険とシャフトの破損の危険
を認識していたこと、さらに、専門的な文献が、後発的な合併症・悪化についての統計的な調
査と記述をもって、それに関し繰り返し情報提供していることが特に示されている。主任医で
ある U は、当時すでに、ラント裁判所での尋問で確認したように、疲労破損の問題性を認識し
ていた。U は、もっぱら、破損がすでに 2 年半後に生じ、そのような破損は彼の経験によれば、
ようやく 5 年から 6 年までの間に見られることについて不審を表したが、そこから、控訴では
法的見解について決定的なことは何も導き出されていない。弛緩破損は、言及された鑑定意見
からも同様に読み取れるように、いかなる時期についても確実に排除されない。それは、とり
わけ、インプラントの弛緩の時期に拠り、すでに手術後短期間で生じ、たとえ、これが稀にし
か生じないとしても、好ましくない要素が重なった際に、5 年から 6 年までの間ではなく、早
期に破損に至りうる。
被告がパンフレットにおいて、広範に手術方法を詳細に書き、そのモデルの製造、検査、コ
ントロール方法とその卓越した組織適合性と耐食性を提示したという事実のみから、控訴とは
異なり、同様に、例外的な場合に除去されえない早すぎる被告の破損の危険を指示する被告の
ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1):鈴木
218
美弥子
義務を導きだすことはできない。特に宣伝にも役立つパンフレットを注意深く読む専門医は、
まさに、疲労破損の問題性についての記述が全くないことから、他のあらゆるプロテーゼ製造
者のモデルと同様、このモデルも絶対的な破損の安全性を提供しえないという結論を導き出す
であろう。その他の点では、原告は争わなかったが、実際、被告のモデルは無条件に科学技術
水準に合致する。
いわゆる Estil 判決 49)を原告が示すことも妥当ではない。その判決では、麻酔薬の製造者が、
医師へのパンフレットと箱の添付説明書において、この薬剤の動脈への絶対的な不適合を強調
して警告せず、
静脈内にのみ注射してよいことを指示したことが非難された。
本件とは異なり、
Estil 判決は薬品の誤使用の危険に関するものである。その判決での認定によれば、使用する医
師が他の静脈に注射する薬剤と異なり、特別な指示がなければ予想しなかった特別な危険が薬
剤から生じた。この薬剤は、外来の診療所、すなわち麻酔学の分野について特別な専門知識の
ない医師に対する製造者の広告により、問題になった。これらすべての点で、本件は、引用さ
れた事件と異なる。本件で問題なのは、欠陥のない製品の規程に従った使用の際にも例外的な
場合に生じうるプロテーゼの破損である。特別な危険源が問題とされるのではなく、流通して
いるプロテーゼのすべてのモデルについて例外的な場合に排除されえない破損の危険が専ら問
題とされる。プロテーゼは、専門医によってのみ使用され、専門医は特別な刊行物を読む習慣
がある。
販売業者の助言義務や警告義務は、製造業者の義務を決して超えるものではない。したがって、
販売業者は、対象となる購入者の範囲で、しかも、平均的な購入者に知られている、製品の危険
を認識していることを信頼してよい。そもそも、プロテーゼの直接の購入者は患者ではなく専門
医であり、専門医が手術を行い、プロテーゼの危険については専門医が患者に説明をなす。専門
医は、専門的文献などを通じて、弛緩と素材疲労による予想より早い破損の危険を認識していた
といえることから、販売業者はそれについて指示する必要はないとされたのである。
注
1)
通商産業省産業政策局消費経済課編『製造物責任法の解説』105 頁以下(通商産業調査会 1994 年)
、経済
企画庁国民生活局消費行政第一課編『逐条解説 製造物責任法』81、87 頁以下(商事法務研究会 1994 年)
。
2)
Friedrich Graf von Westphalen,Produkthaftungshandbuch Band1 2.Auflage, 1997, §26 Rz. 2.
3)
Walter Rolland, Produkthaftungsrecht, 1990, TeilⅡ Rn.77; v. Westphalen,a.a.O.[Fn.2],§26 Rz.2; Horst Kossman,
Der Handel im System der Produkthaftpflicht, NJW 1984, 1664,1664 f.; Uwe Diederichsen, Wohin treibt die
Produzentenhaftung?, NJW 1978, 1281, 1282.
4)
販売業者の責任根拠については、鈴木美弥子「ドイツにおける製品に対する販売業者の責任根拠について」
東京外国語大学論集第 77 号 209 頁以下(2008 年)において、詳しく検討したので、本稿では、販売業者の義
務の検討の前提として、責任の枠組みを記すにとどめる。
5)
実質的製造者について、通商産業省編注 1)117 頁以下、経済企画庁編注 1)83 頁以下。
東京外国語大学論集第 79 号(2009)
6)
7)
219
通商産業省編前出注 1)173 頁以下、経済企画庁編前出注 1)126 頁以下。
Rolland,a.a.O., TeilⅠ§15 Rn.71 f.; Friedrich Graf von Westphalen, Produkthaftungshandbuch Band2 2Auflage,
1999,§82 Rz.12.
8)
v. Westphalen,a.a.O.[Fn.2], §1 Rz.1ff.; §26 Rz.1ff.; Hans Claudius Taschner / Edwin Frietsch,
Produkthaftungsgesetz und EG-Produkthaftungsrechtlinie: Kommentar, 1990, Einführung Rn.14 ff.; Kossman,
a.a.O., 1664; Karl Larenz, Lehrbuch des Schuldrechts Bd.Ⅱ/1 Besonderer Teil 13.Auflage, 1986, S.80ff.
9) 改正前の条文については、椿寿夫・右近健男編『ドイツ債権法総論』(松岳社 1988 年)を参照のこと。
10) Staudinger, Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen Zweites Buch.
Recht der Schuldverhältnisse §§433-534, 1995, §459 Rn.124.
11) Staudinger, a.a.O. [Fn.10], §463 Rn.2.
12) Staudinger, a.a.O. [Fn.10], §463 Rn.47; Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.60.
13) 瑕疵損害と瑕疵結果損害の区別について、Staudinger, a.a.O. [Fn.10], §463 Rn.48; Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.60.
14) Staudinger, a.a.O. [Fn.10], §463 Rn.48; Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.61 f.
15) Staudinger, a.a.O. [Fn.10], §463 Rn.49 ff.; Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.62.
16) Staudinger, a.a.O. [Fn.10], §463 Rn.55; Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.62.
17) Staudinger, a.a.O. [Fn.10], §463 Rn.55; Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.62 f.
18) Palandt, Bürgerliches Gesetzbuch 54.Auflage, 1994, §276 Rn.109 ff.; Staudinger, Kommentar zum Bürgerlichen
Gesetzbuch mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen Zweites Buch. Recht der Schuldverhältnisse §§255-314, 2001,
Vorbem zu §275-283 Rn.33 ff.; Dieter Medicus, SchuldrechtⅠAllgemeiner Teil 7.Auflage, 1993, S.191 ff.
19) Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.70.
20) Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.26; Palandt, a.a.O.[Fn.18], §433 Rn.16 ff., §276 Rn.113ff.
21) Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.26; Palandt, a.a.O.[Fn.18], §433 Rn.17, §276 Rn.116, 118.
22) Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.70 f.; Staudinger, a.a.O. [Fn.10], §477 Rn.13 ff.; BGHZ 77,215 = NJW 1980, 1950;
BGHZ 87,88.
23) BGHZ 88,130 = JZ 1984,36.
24) Staudinger, a.a.O. [Fn.10], §477 Rn.44 ff.; Palandt, a.a.O. [Fn.18], §477 Rn.11.
25) Gesetz zur Modernisierung des Schuldrechts vom 26. 11. 2001, BGBl Ⅰ, 3138. ドイツ債務法現代化法による
改正を概観するものとして、Harm Peter Westermann, Das Neue Kaufrecht, NJW 2002, 241ff. ; Dieter Medicus,
Die Leistungsstörungen im neuen Schuldrecht, Jus 2003, 521 ff. また、代表的な日本における文献として、岡
孝編『契約法における現代化の課題』(法政大学出版局 2002 年)、半田吉信『ドイツ債務法現代化法概説』
(信山社 2003 年)、渡辺達徳「ドイツ民法における売主の瑕疵責任」法律時報 80 巻 8 号 30 頁以下(2008 年)
参照。
26) Palandt, Gesetz zur Modernisierung des Schuldrechts Ergänzungsband zu Palandt, BGB 61.Auflage, 2002, §457
Rn.34, 39.
27) Palandt, a.a.O.[Fn.26], §457 Rn.35, 40.
28) 通常の消滅時効については、本稿 1.3.
29) Palandt, a.a.O.[Fn.26], §241 Rn.6 ff., §280 Rn.5.
30) Stephan Lorenz/Thomas Riehm, Lehrbuch zum neuen Schuldrecht, 2002, Rn.360.
31) 改正により、上記のほか、消費者動産売買に関する規定が、EU の消費者動産売買指令の内容に基づき導入
され、事業者から動産を購入するときは(消費者動産売買)
、規定と異なる合意がなされた場合(475 条 1 項)、
消滅時効期間に関する合意がなされた場合(475 条 2 項)、損害賭償請求権の排除または制限 (475 条 3 項)、
瑕疵の推定(476 条)などの規定が、補充的に適用される(474 条 1 項 1 文)。
32) Staudinger, Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen Zweites Buch.
Recht der Schuldverhältnisse §§823-825 , 1999, Vorbem zu §§823 Rn.38; Palandt, a.a.O. [Fn.18], Einf v §
823 Rn.4.
33) Karl Larenz/ Claus-Willhelm Canaris, Lehrbuch des Schuldrechts Bd.Ⅱ/2 Besonderer Teil 13.Auflage, 1994,
S.405 f.,412 ; Larenz, a.a.O. [Fn.8], S.80 ff.; Taschner/ Frietsch , a.a.O., Einführung Rn.55; Erwin Deutsche,
ドイツにおける製品に関する販売業者の義務 (1):鈴木
220
美弥子
Allgemeines Haftungsrecht, 2., völlig neugestaltete und erweiterte Auflage, 1996, S.70 f.
34) Deutsche, a.a.O., S.71f., 238; Taschner/ Frietsch, a.a.O., Einführung Rn.55.
35) Diederichsen, a.a.O., NJW 1978, 1281, 1286; v. Westphalen,a.a.O.[Fn.2], §26 Rz.1.
35) v. Westphalen,a.a.O.[Fn.2], §26 Rz.4. 販売業者は、部品の供給者と(物を供給する点で)類似の状況にあるが、
部品の供給者と比べ、製品とは「近い」とはいえず、製品使用(組立て、加工)から生ずる危険について評価
することははるかに困難である。
36) v. Westphalen,a.a.O.[Fn.2], §26 Rz.5.
37) v. Westphalen,a.a.O.[Fn.2], §26 Rz.5. 発送ミスによる原料の取違えの事件として、染料原料事件(BGH JZ
1967,321)がある。
この事件は、供給された商品が、例えば、注文した商品に対して低価値であるというのではなく、被告の契
約違反の行為によって供給された商品(金鉱石と鋭錐鉱を混同し、取り決められた商品と異なる物が供給さ
れた)を使用して商品を製造し、その結果、商品が意図された目的には使用できず、その使用により消費者
が損害を蒙り、その賠償を消費者が原告に求めたことから、被告に損害賠償請求をなしたものである。
本件は、買主に積極的債権侵害による請求権が認められる、売主の有責な誤った、あるいは悪しき給付によ
り、直接的に不履行により生じたといえない財産的損害が買主に生じた場合、すなわち、損害が売買の目的
物それ自体においてすでに根拠づけられるのではなく、買主の他の法益に生ずる財産的損害が生ずる場合で
あり、売主から供給された欠陥ある物を加工し、それにより欠陥のある製品を製造した買主がさらされたこ
の間接的な損害について損害賠償請求権が認められるとした。
この積極的債権侵害による請求権を排除するにあたり、売買が双方的商行為である場合に関する商法 378 条
の適用が問題にされる。商法 378 条を反対解釈すれば、約定されたものと異なる商品が供給された場合に、
売主が買主の承認を得ることができないことが認められない程、著しく注文に相違することが明らかなとき
は、商法 377 条は適用されず、商品を遅滞なく検査し、商品に瑕疵がある場合に遅滞なく通知しなくとも、
商品を認容したことにはならず、売主に対して責任追及ができることになる。これを売主側からみるならば、
本件のように、販売された物が、約定した物と全く異なる種類ものであった場合には、購入者には、検査義
務・通知義務もなく、その怠りを根拠として、販売業者は責任を免れることはできない。
しかし、今回の民法改正により、約定と異なる商品または数量の引渡しについて、民法 434 条 3 項に組み入
れられ、他の欠陥と同様、商法 377 条に拠ることになったため(商法 378 条は削除された)、このような場合
にも、買主の検査・通知義務がある Münchener Kommentar zum Handelsgesetzbuch Band6 Viertes Buch.
Handelsgeschäfte Zweiter Abschnitt. Handelskauf Dritter Abchnitt. Kommissionsgeschäft §§373-406, CISG, 2004,
§377 Rn.49.
38) v. Westphalen,a.a.O.[Fn.2], §26 Rz.6.
39) OLG Karlsruhe VersR 1986.46.
40) BGH VersR 1960, 855. 本件は、蒸気洗浄装置を有する原告の会社が、加熱設備の改造に際して被告からコン
デンサーを購入し、取り付け、その 3 ヵ月後コンデンサーの容器が壊れ、鋳鉄製カバーの破片が飛び出し、
噴出した蒸気と熱湯により、機械のすべり弁の操作をしていた原告が重症を負った事件である。
判決は、他の者が製造した機器の販売業を営む企業が、売却する対象物について危険をもたらす欠陥を伴っ
ていないかその時々に検査しなかった場合に、有責非難を受けるのかは自明ではなく、製造者により製造さ
れた部分が危険のない性質であることを検査することは、第一には製造者の問題であり、製造の結果、他の
者に危険をもたらしうる部品を製造所から出してはならないことに対して十分な注意によるコントロール
を通じて配慮しない場合には、通常は過失が認められるとする。そして、他人の製造物を販売するにすぎな
い者は、特別な根拠によりそのような検査の契機が存在する、あるいは、事件の事情により少なくとも検査
が考えられる場合に限り、販売の前にその部品が欠陥なき性質であることを検査しないことを理由に、契約
によらない過失の非難を通常受けうるとする。
41) OLG Braunschweig, Urt. v. 16. 3. 1967, Joachim Schmidt-Salzer, Entscheidungssammlung Produkthaftung Band
Ⅲ,Ⅱ69, S.401 ff.
42) 従業員は動物ワクチンの問題性を知らなかったので、従業員の行為には有責性がない。したがって、Y 社は、
使用者責任(831 条)を負うことはなく、組織過失に基づいて責任を負う。
東京外国語大学論集第 79 号(2009)
221
43) OLG München NJW1980, 2587.
44) v. Westphalen,a.a.O.[Fn.2], §26 Rz.10.
45) BGH WM 1972, 854.
46) v. Westphalen,a.a.O.[Fn.2], §26 Rz.11.
47) OLG München VersR 1980,1052.
48) BGHZ 67, 359=VersR 77,358(浮きスイッチ事件)これに対し、製造物責任法であれば、他人の製造物に自
己の名称・商標をつけて流通に置いた者は表示製造者として責任を負う(ドイツ製造物責任法 4 条 1 項 2 文、
製造物責任法 2 条 3 項 2 号)。
49) BGH NJW 1972, 2217. ESTIL 事件では、原告は病院で手術の準備のため、被告 R 社が製造した即効性の麻酔
薬 ESTIL を左腕の肘窩に注射されたが、その際、静脈に注射されるべき薬剤が、動脈に誤って注射された。
これにより、激しい血管反応が生じ、後に上腕部の切断が必要になり、原告は被告に対して、損害賠償を請
求した。添付の説明書には、太字で強調して、
「禁忌」のところで、パンフレットにも含まれていた文、す
なわち、
「動脈内への注射は必ず避けること」と書いてあった。
判決では被告は、添付の説明書とパンフレットにおいて認識していた ESTIL の絶対的な不適合性をあから
さまに指示しなかったことにより、薬品製造者として、社会生活上の義務(説明義務)に違反しているとさ
れた。さらに、解剖学的な事情の特殊性により、誤って注射がなされる危険が高まるので、周知のように診
療所において一般に行われている ESTIL の肘窩への注射は行ってはならないとの指摘と結びつけて、薬剤
から生じうる危険の説明については、特に高い要求がなされ、使用される薬剤の十分な説明として、動脈へ
の注射の際に生じうる危険(手足全体のほとんど確実な喪失)を明確に挙げることが要求されるとした。
参考文献
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Larenz, Karl / Canaris, Claus-Willhelm, Lehrbuch des Schuldrechts Bd.Ⅱ/2 Besonderer Teil 13.Auflage, 1994.
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経済企画庁国民生活局消費行政第一課編『逐条解説 製造物責任法』
(商事法務研究会 1994 年)
通商産業省産業政策局消費経済課編『製造物責任法の解説』
(通商産業調査会 1994 年)
椿寿夫・右近健男編『ドイツ債権法総論』(松岳社 1988 年)
半田吉信『ドイツ債務法現代化法概説』(信山社 2003 年)
渡辺達徳「ドイツ民法における売主の瑕疵責任」法律時報 80 巻 8 号 30 頁以下(2008 年)
東京外国語大学論集第 79 号(2009)
223
Die Pflichten des Händlers für Produkte im deutschen Recht(1)
SUZUKI Miyako
Der Zweck dises Aufsatzes ist , die Arten und Umfänge von der Pflichten des Händlers für
Produkte im deutschen Recht zu untersuchen.
Nach dem Produkthaftungsgesetz ist der Händler nicht grundsätzlich haftpflichtig sowohl in
Deutschland als in Japan. Ersatzansprüche gegen den Händler aufgrund sonstiger Rechte
bleiben vom Produkthaftungsgesetz vollständig unberührt. Dies betrifft sowohl vertragliche als
deliktische Ansprüche.
Verschulden in Vertragshaftung und Delikthaftung setzt sich aus der Verletzung
Pflichten zusammen. Daher sind die Rechtsprechungen bezüglich
der
Vertraghaftung und
Delikthaftung des Händlers zu untersuchen, und aus ihnen die Pflichten des Händlers für
Produkte zu herausziehen.
Die Pflichten des Händelers bestehen aus zwei Typen. Hier sind die für Vertrieb zu
behandeln.
Der Hersteller und der Händler haben eigene Phlichten in ihrer Aufgabenbereichen. Anders
als der Hersteller schafft der Händler nicht unmittelbar Fehler der Produkten. Deshalb gehen die
Pflichten des Händlers keineswegs weiter als die des Herstellers.
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