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保健体育科研究論文 - 広島県立安芸高等学校ホームページ

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保健体育科研究論文 - 広島県立安芸高等学校ホームページ
健康教育と体育授業から「学力向上」を目指す取り組み
小栁 洸,三木仁司,大川いづみ,垰木 嶺(広島県立安芸高等学校)
1 取り組みの背景と目的
近年,社会環境や家庭環境の変化により子
どもの生活習慣の乱れてきていることが指摘
され,子どもの体力,学習意欲の低下が問題
視されている。その原因として生活習慣の乱
れが影響していることが考えられる 1)。特に
高校生の生活習慣は看過できないまでに悪化
しており,学校現場では授業に集中できない
生徒や体調不良を訴える生徒が増加している。
本校においても,内科を原因とした保健室利
用が 4 月から 12 月にかけて 738 件と,健康
面に課題を抱える生徒が多い。
生活習慣と健康問題との関わりを持つと考
図 1 男子の血中ヘモグロビン値の度数分布
えられる原因の一つに貧血があげられるが,
傾眠傾向,易疲労性に加え 2),言うもでもな
く集中力の欠如や体調不良などの症状は貧血
の主症状であり,貧血が子どもたちの体力,
学習意欲の低下を引き起こしていることが考
えられる。本校においてもどこか元気がなく,
授業中に居眠りをしたり,集中できず学習面
において伸び悩む生徒が多いと教職員からも
声が上がるのが現状である。
図 2 女子の血中ヘモグロビン値の度数分布
基準値未満
小栁らの調査によると,全国の高校生で
貧血傾向にある生徒の割合は,男子生徒で
約 15%,女子生徒では約 25%と,女子生徒
の約 4 人に 1 人は貧血傾向にあった(図 1・
2)
。また,学校間で貧血の有無を比較して
みると,学校間で貧血の有無の割合に格差
が見られる(図 3・4)3)。さらに,阿部ら
0%
の調査結果から,血中ヘモグロビン値が高
い学校ほど,学力偏差値が高い傾向にある
など(図 5)4) ,貧血と「学力」には様々
な研究から関係性が示されている。
これらのことから,本校において保健室
利用者数を減らし,授業に集中するための
健康面の改善が「学力向上」のひとつの足
ががかりになるのでは考えられる。
基準値以上
p<0.01
A高校
B高校
C高校
D高校
E高校
F高校
G高校
H高校
I高校
J高校
K高校
L高校
M高校
N高校
O高校
P高校
Q高校
R高校
S高校
T高校
U高校
20%
40%
60%
80%
100%
図 3 学校別の血中ヘモグロビン値の基準値
以上・未満の割合の比較(男子)
基準値未満
基準値以上
p<0.01
A高校
F高校
B高校
E高校
D高校
C高校
N高校
K高校
I高校
O高校
P高校
R高校
J高校
H高校
L高校
M高校
Q高校
S高校
U高校
T高校
0%
20%
40%
60%
80%
図 4 学校別の血中ヘモグロビン値の基準値
以上・未満の割合の比較(女子)
100%
図7
図 5 血中ヘモグロビン値の平均値と学力偏差値の比較
平成 20 年度福井県小学校 5 年生体力テ
スト結果
また,体力と学力の関係性においてもこ
れまでに様々な調査・研究が行われ,関連
2 保健体育科の取り組み
性が主張されている。特に全国的に体力・学
保健体育科での取り組みとして①本校在
力ともに上位を示す秋田県や福井県において
籍生徒の貧血の実態の把握と②体育授業に
は,顕著にこの関連性が示されている(図 6)
おける種目「持久走」の授業の工夫による
5) 6)
持久力の向上に焦点を当て着手した。
。そこで,体力も高く学力も高い福井県
の新体力テストの結果に注目した。すると,
(1)貧血の実態調査について
とりわけ 20m シャトルラン(持久力項目)に
①調査対象・調査時期・調査方法につい
おいて全国平均値を大きく上回る結果を示し
て調査対象:1 年次生男子 49 名 女子 81 名
た(図 7)5)6) 。これらのことから,体力要素
合計 130 名,2 年次生男子 41 名 女子 88
において特に持久力が学力と関連があるので
名 合計 129 名を対象とした。
はないかと着目した。
調査時期:1 年次生 2015 年 1 月 21 日(体
育授業時)
,
2 年次生 2015 年 1 月 15 日(体
育授業時)に実施した。
調査方法:SYSMEX 社製のアストリム SU
を使用した。測定は 2 回以上行い,近似し
た値を測定値とした。なお,血中ヘモグロ
ビン値の基準値には世界保健機構(WHO)
が制定する値を採用し,男子 13.0g/dl,女
子 12.0g/dl とした。測定後は測定値をフ持
久走カードに記入し,その場で返却したな
お,貧血の基準値には WHO のガイドライ
図6
2009 年度中学 2 年生 47 都道府県別国体力
テスト(得点)と学力調査(正答率)の関係
ンを参考にし,男子 13.0g/dl,女子 12.0g/dl
とした。
(2)体育授業(持久走)における取組に
ついて
3 取り組みの結果
(1)貧血の実態調査について
①実施対象・授業期間・工夫内容について
調査結果から 1 年次生においては,男子
実施対象:1 年次生男子 58 名 女子 88 名 合
平均 12.8g/dl,女子平均 10.9 g/dl を示し,
計 146 名,2 年次生男子 49 名 女子 98 名 合
男子の基準値未満の割合が 48.9%(25 人
計 147 名を対象とした。
/49 人)
・女子の基準値未満の割合が 71.6%
授業期間:1 年次生は 2014 年 12 月 15 日
(58 人/81 人)を示した(図 9)
。2 年次に
から 2015 年 2 月 6 日,2 年次生 は 2014
おいては男子平均 13.1g/dl,女子平均 11.9
年 12 月 16 日から 2015 年 2 月 5 日の期間
g/dl を示し,男子の基準値未満の割合が
に実施した。
46.3%(19 人/41 人)
・女子の基準値未満の
工夫内容:科学的な根拠のもと,距離走・
割合が 45.4%(40 人/88 人)を示した(図
時間走・野外走・駅伝・刺激走など様々な
10)
。
走り方によって持久力の向上目指した(図
8)
。距離走では決められたペースで指定の
距離を走り,時間走では決められた時間で
ペースを崩さず走った。野外走ではアップ
ダウンの激しいコースを走り,駅伝ではタ
イムトライアルのタイムを参考にチーム分
けをして,トラックと坂が含まれるコース
で襷をつなぐ駅伝形式で競争を行った。ま
た,効果の検証として 2014 年度実施の新体
図9
1 年次の血中ヘモグロビン値測定の結果
力テスト「持久走」のタイムと本授業内で
1000m・1500m のタイムトライアルのタイ
ムの比較を行った。
安芸高持久走カード【平成26年度】
年 組 番 氏 名
1年3・4組用
距離走
回 月 日 曜
時間走
① トライアル(男1500m・女1000m)
② トラック走(男3000m・女2000m)
③ 野外走・駅伝試走・駅伝
種
距離
タイム
① 12 15 月
m
② 12 17 水 ①
1500 m
③ 12 19 金
m
④ フリーJogg
⑤ トラック走
⑥ 体育館走
種
時間
分 秒 ④
分 秒
分 秒 ④
刺激走
距離・周
⑦ 快調走
⑧ ペース走
⑨ 坂ダッシュ
種
距離
確認
値
㊞
本数
15 分
m・周 ⑦ 60 m
4
分
m・周 ⑦ 60 m
4
15 分
m・周 ⑨ 100 m 2・3
④ 12 22 月 ②
3000 m
分 秒
分
m・周 ⑧ 250 m
1
9 金 ③
2700 m
分 秒
分
m・周 ⑦ 60 m
2~4
⑤ 1
⑥ 1 14 水
m
分 秒 ⑤
15 分
m・周 ⑨ 100 m 2・3
⑦ 1 16 金 ②
3000 m
分 秒
分
m・周 ⑧ 500 m
1
⑧ 1 19 月 ③
2700 m
分 秒
分
m・周 ⑦ 60 m
2~4
分 秒 ⑤ 15 分
m・周 ⑨ 100 m
2・3
分 秒
分
m・周 ⑦ 60 m
2~4
⑨ 1 21 水
m
⑩ 1 26 月 ③
2700 m
15 分
m・周 ⑧ 500 m
1
⑫ 1 30 金 ①
1500 m
分 秒
分
m・周 ⑦ 60 m
4
⑬ 1
2 月 ③
1000 m
分 秒
分
m・周 ⑦ 60 m
4
⑭ 2
6 金 ③
1000 m
分 秒
分
m・周 ⑦ 60 m
4
⑪ 1 28 水
集計
m
終了回数
分 秒 ④
/15
不足回数
図 10
(2)貧血の実態調査を踏まえた取り組み
これらの調査結果を踏まえた上で,啓発活
解消時間
/15
不足回数×20分
図 8 「持久走」授業に用いた学習カード
2 年次の血中ヘモグロビン値測定の結果
分
動の一環として血中ヘモグロビン値の測定
結果をグラフやイラストなどで分かりやす
くまとめたものを記載した「安芸高校ヘモ
男子においては平成 25 年度高校 3 年生男子
グロビン通信」を作成し,各年次に配布し
の全国平均値よりも 18 秒,2 年次女子にお
た(図 11)
。
いては平成 25 年度高校 3 年生女子の全国平
均値よりも 26 秒速いタイムとなった。
4 考察
(1)貧血の実態調査から
今回の実態調査では,約半数以上の生徒
が基準値を下回る結果となった。思春期の
貧血の最も大きな原因は,鉄不足から起き
る鉄欠乏性貧血であり,思春期は体重や身
長が増し,それとともに血液量も増加する
が,血液の成分であるヘモグロビンの生産
には鉄が必要不可欠であることが提言さて
おり 7),鉄の必要量が増加する場合は食事
からの摂取量が増加しない限り,ほかに鉄
の増加を図るすべはない 6) 。さらに女子生
徒において生活習慣の中でも朝食が貧血に
与える影響が小栁ら 6)によって報告されて
いることからも,生徒の食事の現状の把握,
図 11 「安芸高校ヘモグロビン通信」
改善が急務であることが考えられる。
これらの現状を踏まえて,検査結果をま
(3)体育授業(持久走)における取組の
とめた「安芸高校ヘモグロビン通信」をは
結果について
じめとする啓発活動を積極的に行い,生徒
表 1 新体力テストの持久走のタイムと「持
の生活習慣と健康状態の改善のための積
久走」授業後の持久走のタイムの比較
極的な取り組みを行っていく必要がある。
(2)体育授業(持久走)における取組に
2014 年 4 月(秒) 2015 年 1 月(秒)
比較(秒)
ついて
1 年次男子
409.08
376.25
-32
授業の工夫により持久走のタイムが大幅
2 年次男子
374.12
353.74
-20
に向上した。科学的な根拠に基づき生徒の
1 年次女子
335.68
303.44
-32
やる気を喚起し,限界までチャレンジさせ
2 年次女子
308.00
286.88
-21
ることの成果が出たと考えられる。今回の
上記表(表 1)の通りすべてのグループに
取り組みを「持久走」授業のひとつのモデ
おいて大幅なタイムの向上が見られた。な
ルとして今後の授業に生かしていき,さら
お,1 年次女子においては平成 25 年度高校
なるタイムの向上,粘り強い気質の生徒の
2 年生女子の全国平均値よりも 6 秒,2 年次
育成のもと,学力向上につなげていきたい
と考える。
5 今後の取り組みについて
今回の結果や課題を踏まえたうえでさら
なる改善活動に着手していく必要性がある。
改善活動の取り組みの枠組みは以下の図の
通りである(図 12)
。安芸ノート(生活習
慣を記入し自己管理能力を高めるための本
校独自の冊子)を軸に個人での生活習慣の
管理,担任による点検・指導を行う。特に
今年度の新しい記載事項として朝食喫食状
況や通信機器の利用時間などにおいて毎日
の点検を行い規則正しい生活習慣の確立を
図る。
また,保健体育科においては,科学的根
拠に基づき生徒のやる気の喚起させ,運動
量の向上による体力向上を目指していく。
さらに,持久力のみならず,他の新体力テ
図 14 ヘモグロビンポスター例
ストの種目の向上を目指すために,
「記録向
上のコツ」の資料を測定時に掲示,担当教
員には冊子を配布し,生徒のやる気を喚起
させる取り組みを行っていく予定である
(図 13)
。健康教育においては啓発活動の
一環としてポスター(図 14)の掲示や再度
血中ヘモグロビン値の測定などを行い生徒
の健康意識を高めていきたい。
これらの活動を行うことによって健康で
「元気のよい安芸高生」,
「粘り強い安芸高
生」を育み学力向上につなげていきたい。
図 12 改善活動の取り組みの枠組み
図 13「記録向上のコツ」の資料
参考引用文献
1) 小林秀紹ほか(2006) ;児童の体格・体力と生活状況との関連,北海道教育大釧路校研
究紀要-第 38 号
2) 浦部晶男(2011);貧血と血液の病気,インターメディカ
3) 小栁洸(2011);高校生の生活習慣と生活充実度・血中ヘモグロビン値との関連と,教員
の意識における一考察,東海大学大学院 2011 修士論文
4) 阿部将茂(2010);高校生の生活習慣と血中ヘモグロビン値との関連についての一考察,
東海大学大学院 2010 修士論文
5) 朝日新聞(2009);体力テスト結果
6) 学力調査結果(2009);文部科学省初等中等教育局学力調査室
7) 貧血検査(2009);東京都予防医学協会年報 2009 年度版第 38 号
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