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2006年7月山陰道豪雨災害 (調査・仮復旧)
2006年7月山陰道豪雨災害 (調査・仮復旧) 土木設計室 松 浦 聰 1. はじめに 2006 年 7 月 17 日の未明から降り始めた、梅 雨前線の停滞による 200mm を超える降雨により、 翌 18 日 19 時 46 分ごろ、山陰道下り線:玉造温 泉橋東側の切土法面が崩壊し、路面の隆起と 上り線への土砂の崩落が生じた。さらに翌 19 日 には、上り線:玉造温泉橋西側で、盛土のすべ りによる路面クラックの拡大が発生した。 弊社は、災害直後より調査・計測を、筆者も当 時は盛土部仮復旧および舗装の復旧工事の現 場代理人として、直接現場に携わってきた。 本文は、災害発生から 11 月 18 日の本復旧ま での、124 日間の戦いの概要である。 位 置 図 2.降雨状況 7 月 15 日以降、九州から東日本南岸に延びる 梅雨前線が活発化し、特に山陰、北陸、長野県 では、15 日から 21 日までの 7 日間の降水量が、 7 月の月間平均の 2 倍を超える大雨となり、気象 庁は「平成 18 年 7 月豪雨」と命名した。 今回の豪雨は、山陰道が開通した平成 13 年 以降に経験する最大のもので、切土崩壊時は、 降り始めから 70 時間の累積総雨量が 283mm、 17 日には 42mm/h(5:00~6:00)の時間最大雨量 を記録し、18 日 19 時 46 分(通行車輌の被災確 認時間)頃に斜面崩壊が発生した。盛土部地滑 り時には、87 時間の累積総雨量が 349.5mm を 記録した。 雨量記録 3.災害状況と経緯 3-1 切土法面崩壊 : 山陰道下り(KP336.7) 崩壊状況(上:宍道方向、下:松江方向) 下り 上り SAランプ 下り 崩壊直後の状況(乗用車・大型トラックが隆起部で緊急停止) 上り 3-2 盛土法面崩壊 : 山陰道上り(KP337.3) 路面縦クラック 路肩・側溝の陥没・盛土のすべり のり面のすべり全景 3-3 災害発生前後の時系列 月日 時刻 7月18日 (火) 14:45 17:00 19:46 19:55 20:00 21:05 7月19日 (水) 8:28 7月20日 (木) 7月21日 (金) 12:05 14:05 14:35 16:00 7月22日 (土) 14:50 7月26日 8月 8日 8月10日 10月24日 11月13日 11月18日 11月25日 (水) (火) (木) (火) (月) (土) (土) 6:00 6:00 15:00 状 況 松江玉造IC~三刀屋木次IC : 大雨による通行止め 通行止め解除 県警高速隊より宍道湖SA付近崩壊の一報(KP336.75 下り切土法面) 交通管理隊現場着(大型保冷車、乗用車が路面隆起部で停車を確認) 松江玉造IC~三刀屋木次IC : 災害による通行止め 被災車輌の乗員2名を市民病院に搬送 点検開始 崩壊土砂内の被災者確認依頼:消防(崩壊土砂排除他⇒被災者なしを確認) 国土交通省現地調査・検討会(土木研究所) 上り線路面縦クラック拡大を確認(KP337.3) 隣接斐川IC~出雲IC建設現場から資機材手配(切土部:鹿島建設、盛土部:大成建設) 盛土法面内クラック確認 盛土法面内クラックの進行を確認 盛土のり尻近接の住民2所帯9名に自主避難要請(Nexco) 盛土下流の4所帯10名に追加自主避難要請(Nexco) 松江市による避難勧告 盛土下流6所帯19名 松江市による追加避難勧告 盛土下流の住宅10戸、アパート20所帯 災害調査検討委員会 第1回委員会(現地調査、応急復旧方法・調査指示) 災害調査検討委員会 第2回委員会(崩壊原因解析、応急復旧・恒久対策検討) 応急復旧完了、迂回路設置 : 交通止め解除 災害調査検討委員会 第3回委員会(恒久対策確認) 13日~18日未明 夜間通行止め (本舗装施工) 本復旧完了 : 本線交通開放 宍道IC~斐川IC開通 3-4 山陰自動車道松江市玉湯地区災害調査検討委員会 委員会のメンバーは、以下の通りである。 氏 名 委員長 奥 園 誠 之 委 員 亀 井 健 史 委 員 吉 松 弘 行 委 員 大 窪 克 己 協力者 委託者 オブザーバー 春 口 孝 之 オブザーバー 藤 井 俊 逸 オブザーバー 佐々木 誠 司 事務局 所属機関および役職名 九州産業大学 工学部 都市基盤デザイン工学科 教授 島根大学 総合理工学部 地球資源環境学科 助教授 (財)砂防・地すべりセンター 理事兼砂防技術研究所長 中日本高速道路㈱ 中央研究所 道路研究部 土工研究室長 西日本高速道路㈱ 本社 西日本高速道路㈱ 中国支社 ㈱ダイヤコンサルタント 四国支社 技術部 部長 ㈱藤井基礎設計事務所 技術部 部長 島津コンサルタント㈱ 調査二課 課長 ㈱ハーディア (現:西日本高速道路エンジニアリング㈱) 備考 関係者 他3名 4.地すべり崩壊の要因とメカニズム 4-1 切土部 4-1-1 崩壊要因 要因-1 「平成 18 年 7 月豪雨」は、記録的な豪雨であった。(2.降雨状況参照) 要因-2 当地の後背部は、基岩の安山岩を境界とする第 3 期中新世・大森層から成り、層理面が北(宍 道湖方向)に傾斜する流れ盤構造にある。 要因-3 当地の降雨浸透水とともに、当地以外からの集水域の被圧水が断層を経由し流入した可能性 が高く、地下水圧の上昇が地すべりの要因となった。 4-1-2 崩壊メカニズム ① 建設時に、本線切土による荷重除去で岩 盤すべりが発生し、アンカーによる法面保 護を追加施工した。建設時点の計測結果で は、切土のり肩付近を頭部とするもので、後 背地への波及はなかった。(図-1) ② 集中豪雨により地下水位が上昇し、山体が 図-1 不安定化し建設時の地すべり面が後背地 を巻き込む地すべりとなり、鞍部に亀裂が生 じた。(図-2) ③ ②の変位により、更に後背地が不安定化し、 ほぼ同時にすべり面が追随して後退し、背 図-2 後の鞍部箇所に至る大規模地すべり崩壊と なった。(図-3) 4-1-3 現地状況判断 ① 路面が隆起するすべり(松江側)は、アンカ ー定着部付近がすべり面と想定され、アン カーで止まらず路面下にもぐり込んだ可能 図-3 性がある。 中央部から右(宍道側)のすべりは路面から上で、中央部はアンカー効果でのり面中腹部がせり出し、 右側はアンカーが効いていた可能性が高く破断している。 ② 崩壊部左側(松江側)から沢沿いに水抜きしたボーリング 2 本から、180 /min、と 250 /min の湧水があ った。流域的に異常な湧水量であり、切土奥の鞍部リニアメント等を経由して、周辺から大量の被圧水 後背地崩壊状況 雲 松 地質断面・のり面スペクトル 等の供給があったと推察される。 ③ 崩壊現象として 2 箇所の鞍部が亀裂開口している。一般的な亀裂の現象として、前側が先に動くと前 が陥没し、後側が先に動くと前傾しトップリング現象が生じる。今回は、大きく開口亀裂陥没している前 部が先に動き、後部がその後ついて来たと推察される。 4-2 盛土部 4-2-1 崩壊要因 要因-1 降り始めから盛土崩壊までの 6 日間の総雨量 374.5mm は、記録的な豪雨であり、長時間に大量 の浸透水が流入し、地下水位の上昇が崩壊の大きな要因となった。 要因-2 大森層が北に緩く傾斜し、断層の存在も認められ、かつて地すべりが推定される地形にあった。 (図-4) 4-2-2 崩壊メカニズム 図-4 ① 当地は、北へ緩やかに傾斜する緩傾斜面 を形成する地形にあった。(図-4) ② 地滑りにより河道を北に移動し、斜面下方 に凸状に押し出した地すべり地形が形成 された。(図-5) ③この斜面に山陰道盛土が構築されたが、集 図-5 中豪雨による水位上昇で古い地すべりの 一部が滑動し、盛土を含む基礎地盤からの 地すべりを生じた。集中豪雨による急激な 地下水位の上昇が誘引となり、停止してい た地すべりが再活動した。(図-6) 4-2-3 現地状況判断 図-6 ① 豪雨ピークから路面亀裂までに 30 時間の 時間差があり、広範囲の背後斜面からの 水の供給があったと推察される。 ② 隣接市道(西側側道のり面)のアンカー施工 箇所の水抜きボーリングからの湧水が多 いことから、地山に多くの水が含まれてい ると推察される。 ③小さなすべりが集まって群発的に移動している現象がある。 4-2-4 変状の経緯と動態観測対応 ・7月 21 日(金) ① 路面クラックの進行を確認。動態観測開始。 ・7 月 22 日(土) ① 伸縮計が約 10mm/h 変位し、その後計測不能。再設置。 ・7 月 23 日(日) ① 頭部排土、すべり端部に大型土のう堰堤設置。伸縮計約 6mm/h。 ② STA37+50 路肩クラック:深さ 3m、幅 60cm。第1小段より上の変位が顕著。下方 のせり出しを確認。 ・7 月24日(月) ① 未明からの雨により大型土のう作業中止。松江側のり面上部が崩落:連続雨量 54mm。 ② 伸縮計 60mm/h(10:00~) ① 水抜きボーリング実施。 ・7 月 25 日(火) 5.応急復旧対策 5-1 切土部 5-1-1 施工内容 松江玉造~宍道区間は、土工バランス上は残土が発生するため 2 車切土 4 車盛土が基本であるが、幸 いにも崩壊部は切土が短区間のために、将来施工を考慮し 4 車断面で切土が行われていた。このため、2 車分を応急復旧車線として利用し、崩壊部は押え盛土により安定を確保し復旧工事を行う方法が選択され た。応急復旧路線の車線確保のため、押え盛土は H 杭による土留工とした。施工断面を次図に示す。 また、被圧水の可能性を排除するために、水抜きボーリングを実施した。掘進直後の勇水量は、H1-1 で 180 /min、H1-2 で 250 /min と想定の域を超えた水量が観測された。 有孔管 φ=300 落石防護柵 シート養生 アンカー L=400 天端繋ぎ H150×150×7×10 1,500 木製矢板 t=30 親杭 N=75本 H350×350×12×19 木製矢板 t=60 根がらみ H300×300×10×15 築堤盛土撤去 1,000 排水用砕石 t=300 トラロープ 6,500 250 /min 5,500 180 /min シート養生 6,000 盛土(真砂土) 17,645 押え盛土 応急迂回車線2@3,250 水抜きボーリング H1-2 L=100m 上向き2° H1-1 排水状況 大型土のう (緊急対策施工635袋) 砕石 t=300 5,500 水抜きボーリング H1-1 L=100m 上向き2° 根巻きコンクリート φ550 応急復旧断面図 5-1-2 応急復旧の安定解析 応急復旧断面の安定解析は以下の手順に従った。 1) すべり面 : 頭部はクラックが発生した位置とし、既存のボーリングで確認されたすべり面を通り、末端 の押し出し位置に抜ける形状とした。 2) 水 位 : 降雨時に 5m程度の水位上昇が確認されたことから、最高水位+5mと設定した。 3) 土質定数: 1) 地すべり時の現況安全率を、Fs=0.98 と設定 2) 粘着力を地すべり層厚約 15mから、C=15kN/㎡と設定 3) Fs=0.98 となる内部摩擦角φを逆算で求め、φ=12.5°と設定 上記の仮定条件から、応急対策工の安全率として、Fs=1.06 を確保した。 応急復旧・押え盛土施工状況 (左:応急大型土のう設置、 中:土留 H 杭打設、 右:土留工・抑え盛土・迂回路設置完了) 5-2 盛土部 5-2-1 施工内容 当崩壊部は、ゆずり車線を含む 3 車運用区間 であり、ゆずり車線を含む下り車線を応急復旧 車線とし、すべり頭部が存在する上り車線を含 む排土と水抜きボーリングおよび、すべり端部の 押え盛土による対策が選択された。さらに、崩壊 した土塊が降雨により泥流化して流出するのを 防止するため、大型土のう堰堤を設置した。 大型土のう堰堤 押え盛土 B側線 A側線 100m C側線 上り→ 排土工 ←下り 水抜きボーリング 100m 90m 50m 100m 5-2-2 応急復旧の安定解析 切土部と同様に、現況安全率を Fs=0.98 とし、層圧より粘着力 C を求め、内部摩擦角φを逆算で求め た。安定解析結果は以下のとおりである A 側線 B 側線 応急復旧断面図 押え盛土 排土工 大型土のう堰堤 1300袋 6. 迂回路による通行止め解除 通行止め解除は、お盆の帰省交通が増える前に行うべく、時間との戦いのなかで、すべての作業で正規 の手順より、まずは可能な行動を優先した結果、手戻りも多くならざるを得なかった。 迂回路の設計においても、現地の基準点でなく、元の道路詳細設計の座標値をもとに机上での設計が なされた結果、迂回路設計の道路線形を現地に再現しても余裕幅を犯し、現道のセンターラインにすり付 かない状況が発生した。このため、コントロールとなるポイントの幅員を現地に落とし、綿ロープで線形を設 定するという古典的な、“土方カーブ”の手法により線形を決定していった。切土部迂回路の線形は、県警 交通企画課と協議を重ね、暫定迂回路であり一般道と同じ取扱いとして、規制速度 30km/h、防護柵は C-Type の運用を行うことで了解を得た。貴重な時間の中、路面の工事を止めての Nexco および県警との 度重なる立会いと、可能な限りの安全対策を講じた迂回路運用計画により、通行止めから 23 日目の 8 月 10 日、お盆の帰省混雑前に通行止めを解除した。 迂回路交通運用・安全対策図 6-1 仮復旧横断構成 盛土部 50Km/h区間 標準断面図 切土部 30Km/h区間 標準断面図 8000 9000 500 3500 3500 500 500 3250 1500 250 500 400 400 車線分離標 路面標示(白)20cm Gr-C-2B(H鋼仮設Type) Gr-Cm-4E 路面標示(白)15cm 路面標示(黄)15cm 500 250 250 250 Gr-C-2B(H鋼仮設Type) Gr-A-4E 3250 路面標示(白)20cm 路面標示(黄)15cm 6-2 仮復旧完成報道 《参考文献・引用文献》 山陰自動車道松江市玉湯町地区災害調査検討報告書 山陰自動車道平成18・7月豪雨災害復旧工事 平成19年 2月 平成19年11月 西日本高速道路㈱・㈱ハーディア 西日本高速道路㈱松江高速道路事務所