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日ロオオワシ野生復帰プロジェクト - CLAIR(クレア)一般財団法人自治体

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日ロオオワシ野生復帰プロジェクト - CLAIR(クレア)一般財団法人自治体
平成21年度自治体国際協力促進事業(モデル事業)
日ロオオワシ野生復帰プロジェクト
札幌市
平成21年度「自治体国際協力促進事業(モデル事業)」報告書 -札幌市-
1
はじめに
夏季にロシア東部(サハリン北部、カムチャツカ半島など)で繁殖し、冬季に北海道に
渡ってくるオオワシは、ワシントン条約でⅡ類、日本では1970年に天然記念物に、1
993年に種の保存法施行に伴い国内希少野生動植物に指定されている。環境省レッドリ
ストでは絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されている。
現在、生息地であるロシアにおける急速な開発等により生息環境が悪化しており、個体
数の減少が危惧されているところである。
このような状況の中、北海道札幌市において飼育下で繁殖した個体を野生復帰させる技
術を確立することで、日本とロシアの国際協力に基づく希少猛禽類の保護及び増殖に貢献
できると考え、事業を進めている。
2
事業実施に至る経緯
円山動物園は 1951 年に開園されているが、開園時
の飼育動物はエゾシカ1頭、エゾヒグマの仔2頭、オ
オワシ1羽であった。この時から飼育されていたオオ
ワシ、通称「バーサン」は開園以来 2002 年に推定 52
歳で亡くなるまで 51 年間の長きに亘り当動物園の歴
史と人々を見つめ続け、世界最長の飼育記録を樹立し
ており、今なお勇壮な剥製となって私たちを見守って
いる。
また、1993 年には日本国内の動物園では
初めて、オオワシの飼育下での自然繁殖に成
功している。
このような状況の中、近年の一般市民の娯
楽の多様化などにより、当動物園の入園者数
はここ20年の間に減少の一途をたどって
いたことから、この事態の打破を目的に平成
19年3月にこれからの動物園の役割、基本
在りし日のオオワシの「バーサン」
理念、行動指針を示す円山動物園基本構想を
策定して再出発を図っており、当動物園の
「再生・復帰」と野生動物の保護、環境保全に関する象徴的な動物として当動物園ではオ
オワシを掲げていた。
そして再生事業の一環として、周辺環境である円山原始林、円山川、円山公園なども含
めた円山エリア全体の環境保護・生物多様性の確保を行い、市内全域・北海道全体の自然
環境についてのメッセージを世界に発信することを目的に「北海道の野生動物復元プロジ
ェクト」に挑戦することとした。
このプロジェクトの一環として「オオワシ・プログラム」を策定し、北海道及びロシア
に生息する希少動物であるオオワシを、他の動物園や研究機関等との連携の基に、動物園
で繁殖した個体について自然復帰させるための技術の確立を図ることとした。
3
事業内容
(1) 生息地の調査事前調査
オオワシは渡り鳥であり、基本的にはロシア東部において繁殖をおこない、越冬
のため日本へ渡ってくる鳥である。このため、日本の動物園の飼育下で繁殖した個
体を単純に国内で放鳥しても、そのまま日本に留まりロシアへは渡らない可能性が
ある。このため、ロシア側で環境的に放鳥にふさわしい場所として推奨されていた
サハリン州の「ポロナイスク自然保護区」について、
「オオワシ野生復帰に係る第2
回会議」の開催に先立ち、当動物園担当者を派遣して環境等の事前調査を行った。
○ 日時
平成21年7月12日(日)~17日(金)
○ 視察地
ロシアユジノサハリンスク州ポロナイスク
○ 内容
候補地の条件として以下の項目を検討し、前載の地図上にある3か所を候補地とし
て選定した。
・餌となるカラフトマスが遡上する場所であること
・電気(発電機使用でも可)が確保できること
・管理する人及び管理小屋が確保できること
・オオワシの営巣地が周辺にあり、なおかつ適度な距離があること
・放鳥ケージが建てられる場所であること(資材運搬可能な道路など)
・ヒグマが少ない比較的安全な場所であること
○ 成果
日本で繁殖した個体を放鳥予定地に持ち込む際、ロシア当局と鳥類の輸入に関する
手続きや放鳥する個体に装着する予定である電波発信機の使用許可申請を行うには、
当動物園単独では困難であるため、ロシア国内の関係団体の協力が不可欠と思われる。
この件について、サハリン州立動物園から協力が得られることとなったが、放鳥予
定地であるポロナイスク自然保護地区からは、視察時点では経済情勢の悪化により、
当該事業のために人員や経費を振り向けることが困難であり、環境馴化期間中の飼養
要員としてレンジャーを雇用するなど、別途経済負担について契約が必要との見解で
あった。
また、現地での管理事務所の設置が必要と思われたが、この件についてもロシア当
局との調整が必要となった。
(2)オオワシ野生復帰に係る第2回会議開催
札幌市にて 2008 年に開催された第1回会議を基に、次のような内容の会議を開催し
た。
○ 日時
平成21年10月2日(金)現地時間10時~15時
○ 開催地
ロシアユジノサハリンスク州ユジノサハリンスク市立図書館会議場
○ 出席関係機関
ロシア連邦天然資源省サハリン森林特別保護自然地域局、ロシア連邦天然資源省サ
ハリン天然資源監督局、ロシア連邦天然資源省ポロナイスク国立自然保護区、サハリ
ン州立動物園、サハリン州文化局、モスクワ大学、モスクワ動物園、猛禽類医学研究
所(日本)
、円山動物園
○ 協議事項
・決定された事項の確認と今後の役割分担
・オオワシのロシア国内での放鳥候補地の決定
・事業に関する具体的作業行程と経費負担の確認
○ 会議の成果
会議の結果、次の項目ついて合意及び今後の検討課題が確認された。
・
オオワシ野生復帰の方法
人工巣立ち法(円山動物園で繁殖した巣立ち前のヒナをポロナイスクに移送し、
人工巣で一定期間育てて野生復帰させる。
)
、リハビリテーション法(円山動物園で
繁殖した幼鳥に対して、園内のリハビリテーションケージにおいて飛翔及び採餌訓
練を施した後、ポロナイスクに移送し野生復帰させる。)
、自然界の巣にロシアで繁
殖したヒナを入れる方法の3通りの方法を検討して行くこととした。
・
実務的な課題整理と役割分担について
両国民に対し啓蒙活動を展開するため円山動物園が原案を作成し、円山動物園と
サハリン州立動物園でリーフレットによる啓発を行うことや、オオワシの現地まで
の具体的な輸送方法、オオワシ個体の所有権はサハリン州立動物園に移転すること、
ロシア国内での許可関係についてはサハリン州立動物園が行うこと、放鳥地の選定
は専門家の意見を踏まえて決定することなどが確認されたが、費用負担については
今後の検討となった。
(3) 野生復帰計画の立案
当該プロジェクトの策定について当初から助言を頂いている「獣医療研究機関
猛
禽類医学研究所」に対し、ロシア関係部局との調整を含めた復帰計画の立案を依頼
し、以下の概要のような計画案を策定した。
野生復帰計画の概略
4
今後の展開方法と課題
(1) 今後の展開
当該プロジェクトは日本及びロシア間の緊密な協力が必要である他、野生復帰に係
る技術的・学術的助言を得るための大学及び研究機関、得られた知見の普及や共有の
ための日本国内の他の動物園、国際的なプロジェクトとなるため環境省や外務省等の
国の関係省庁との連携及び協力体制確立が不可欠と思われる。
また、当該プロジェクトが一自治体の施策の範疇を超えた国家間及び他の関係機関
を含めた横断的な事業となっている。
このため、国内関係機関及びロシア関係当局を含めた第三者組織を設立し、野生復
帰の方法を含め、今後当該組織内でプロジェクトの内容について検討を行っていく予
定となっている。
(2) 今後の課題
放鳥対象となる鳥については、当初当動物園で繁殖した個体に飛行訓練をし、巣立ち
直前にロシアへ持ち込み、現地で1カ月程度環境に馴化させた後、放鳥することとして
いた。
しかし、当動物園で繁殖に失敗した場合に他の動物園で繁殖した個体を使う必要があ
る他、得られた知見を普及する上でも他の動物園の協調が必要不可欠である。しかしな
がら北海道内の他の動物園関係者と事前の打ち合わせをした際に、巣立ち直前の個体を
使うことについて、北海道内に留鳥として留まる可能性が示唆される等、野生復帰の方
法論について様々な意見が出されている。また、ロシア当局との協議においてもロシア
国内で発生する費用負担について合意形成がなされてはおらず、今後、上述にある第三
者組織を結成し、方法論を含めた抜本的な計画の検討が必要となっている。
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