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情報システム部門“再生” - Nomura Research Institute
第2章 今、経営に求められるもの ─現状打破の切り札として─ 情報システム部門“再生” 日経BP社 コンピュータ局次長 古沢美行 の低迷が続くと、情報システム部門をリスト 経営の思い込み 現代は「IT(情報技術)の時代」と言わ れる。コンピュータやそれを結ぶネットワー ラしたり、アウトソーシングする企業が相次 いだ。 クは、企業活動はもちろん社会生活の隅々に それでいったい何が起こったのか。一言で まで浸透している。コンピュータなしでは一 言えば、情報システム部門の人材は質と量の 日たりとて暮らせないことは、小学生でも知 両面で極端に弱体化してしまったのである。 っている。 その結果、情報システム部門は社内外への影 にもかかわらず、企業の中でこの“魔法の 響力をますます失って行くことになる。影響 杖”を繰る人々の仕事が、重要視されている 力を失うと、「企業全体の情報システムの整 とは言い難い。多くの経営者は「情報システ 合性を維持できない」、「一般事業部門の要求 ムの活用が企業経営にとって極めて重要」と にあったシステムを企画・設計できない」、 異口同音に言う。しかし社内の情報システム 「ITベンダーに発注したシステム構築を管理 部門を強化しようという経営者はめったにい できない」といった深刻な問題が次々に顕在 ない。むしろ言葉とは裏腹に、システム子会 化し始めた。 社の売却や、アウトソーシングによる要員削 減を進めている。そうした発想の根底には、 情報システム部門に対する経営者や社内の 風当たりは、従来にも増して厳しさを増して 「情報システム部門は費用のかかるコストセ 行った。極端な例では、「ともかく金をかけ ンター」という昔ながらの思い込みがある。 ずに、現状のシステムの“お守り”をしてい ればいい」という消極姿勢を全面に押し出す 陥る“負のスパイラル” 格好となった。そうした扱いが情報システム いったいなぜこんなことになってしまった 部門のモラルをますます低下させた。多くの のだろうか。これについて考えるには、情報 現場は新しい技術への関心や経営への貢献を システム部門が置かれてきた歴史を振り返ら 忘れ、「言われたことをしていればいい」と ねばなるまい。 新システムへの取り組み意欲を喪失してしま 1980年代の後半以降、大企業の多くは情報 システム部門の子会社化を進めた。「情報シ った。つまり、情報システム部門は“負のス パイラル”に陥ってしまったのである。 ステム部門の仕事や、そこで必要な人材は一 1990年代半ばになって、企業情報システム 般の事業部門とは異なる」というのが大きな は大きな変革期を迎えることになる。そのト 理由であった。90年代に入るとこうした動き リガーになったのはもちろんインターネット が一段と加速する。バブル崩壊後に企業収益 だ。インターネットこそが企業情報システム 18 ─ システム・マンスリー2002年1月臨時増刊号 ─ レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2002 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 組織を変える のみならず、企業の経営スタイルを根本から ではどうすればよいのか。既におわかりの 変えてしまうだけの可能性を秘めていること ように、情報システム部門を“再生”する以 が時間の経過とともにわかってきた。 外に選択肢はない。この結論に達したいくつ この時代に注目を集めたのが、インターネ ットの活用に長けたネットベンチャーである。 かの企業は、情報システム部門を再生する取 り組みに着手している。 ところが企業がインターネットで実際のビジ ただし再生といっても、減らしたシステム ネスに取り組む段階になると、話しが変わっ 部員を再び増やすような単純な話しではない。 てきた。会計システムや物流システムなどと 日経コンピュータが独自に取材した再生への の連携が一筋縄ではいかないことがわかって 取り組みを整理すると、「情報システム部門 きたのだ。 の組織体制を抜本的に改革する」、「経営実態 に合わせて情報システム部門の役割を定義し 選択肢のない改革への道 これはインターネットへの取り組みに限ら ない。新しい業務スタイルの導入、抜本的な 直す」、「情報システム部門の地位を向上させ るための具体策を打ち出す」というアプロー チがあった。 業務改革に乗りだそうとすれば、その企業固 いずれも驚くような取り組みではない。と 有の慣例や慣行が染みついている「現場の業 ころがいざ実現するとなると、社内外の“抵 務手順」を知り尽くした上で見直しに着手し 抗勢力”も多くてなかなか難しい。経営者が なければ成功はおぼつかない。“旧来”の基 情報システム部門の将来を明確に定義して、 幹系システムとの連携ももちろん必要になっ 強力にバックアップすることが不可欠だろう。 てくる。そのあたりの実績や難しさについて、 一番よく理解しているのが情報システム部門 である。 期待される役割 “生まれ変わった”情報システム部門が、 このように抜本的な業務改革に取り組むと 「情報化戦略の立案」、「情報化予算とコスト なると、社内を見渡しても情報システム部門 の管理」、「全社情報システム・アーキテクチ ほど、現状の問題点について熟知している部 ャーの構築」といった全社横断的な仕事と、 署はないのは明らかである。ところが前述の 「情報システムの開発と運用」や「セキュリ 通り、多くの企業で情報システム部門は弱体 ティの管理」といった専門領域の仕事の両方 化している。仮にそうでなかったとしても、 を、いずれも高いレベルで成し遂げてこそ、 企業改革におけるリーダーシップを発揮出来 企業が置かれた厳しい現状を乗り切るための るような情報システム部門はほとんどない。 展望が開けることになる。 ─ システム・マンスリー2002年1月臨時増刊号 ─ ■ 19 レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2002 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.