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「紙型」と「鉛版」

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「紙型」と「鉛版」
は、フィルマン・ディドー
(Firmin Didot)
に
をとるというものでした。この紙型に鉛を
ることに初めて成功しました。彼は、ス
よって1794年に考えられた言葉です。彼
流し込むことで鉛版を得ることができま
イスの印刷業者でしたが、その後パリで
文字を印刷するための活字は、1文字ずつバラバラでつくられ
は、ギリシャ語の2つの単語でこの言葉
す。1839年、イギリスでも同じく紙型法の
ジュヌーの紙型法を学びます。そしてロ
たものを組み、版を作成します。活字は金属でできているので
をつくりました。stereoとは、
「固い・固形
特許がプール(Moses Poole)
によってと
ンドンにステレオタイプの工房を出しまし
耐久性がありそうですが、数千枚が限界で、数万部単位で発行
の」
という意味を持ち、typosとは「版」の
られていますが、フランスに10年先を越
た。彼の店は繁盛し、ロンドンで最大の
される新聞や雑誌の使用には耐えられません。大量部数を印
意味を持ちます。すなわち、ステレオタイ
されていたことになります。
新聞社タイムズから版の製作を請け負っ
For mass production
丸鉛版
刷するには、組版をいくつもつくる必要がありますが、とても労
力がかかりますし、誤植が出る可能性もあります。活字はバラ
バラであることで、何度も使用できるというメリットがありますが、
その反面、何度も使用するためにはばらして組み直すという作
ていたのです。彼によって1860年、タイム
プ印刷とは、バラバラのいわゆる「活字」
ではなく、固定された差し替え不可能な
四角い活字を円くする
ズ紙は輪転機に円い鉛版を備え付け、
実用することができたのでした。そして、
版を押し当てる印刷技法であると述べ
業が必要になるのです。再版時の手間を省くことができる活版
ています。ディドー家はフランスでも有名
紙型はこの後、重い鉛の活字組版を
1863年には後にまで長く使われることに
の複製は印刷者たちの課題でした。
な活字鋳造者であり印刷者で、フィルマ
とっておく必要がなくなっただけでなく、
なる半円形の鉛版製造法が完成し、新
ンもゲドなどと同様に石膏型による鉛版
ちょうどこのころから普及しだした輪転機
聞印刷版のスピード問題は解決されるこ
製作を行い、普及させました。
には必要不可欠なものとして普及してい
とになります。これ以降、紙型鉛版法は、
きます。
大量印刷の中心的な技法として100年以
紙で型をとる
輪転機へ取り付ける版は円くなくては
上も使われることになります。
なりませんが、最初期の輪転機は、これ
「 紙 型 」と「 鉛 版 」
スタンホープによる鉛版製作は「石膏
まで通りバラバラの活字のままでくさびで
型による」鉛版製作の完成形であったと
固定するなど非常に苦労して円くしてい
いえるでしょう。しかし、本当に鉛版製
たのです。頻繁に活字が抜け、版がくず
れ落ちたといわれています。
欠け、普及するには至りませんでしたが、
(Andrew Wilson)
という印刷者の助け
造方法が完成するには、1829年まで待
印刷需要の拡大とともに、ヨーロッパ各地
を借り、1803年には鉛版製作と印刷のた
たねばなりません。フランス人ジュヌー
輪転機で刷られていたのは新聞でし
記録では17世紀末頃になると活字から
で鉛版の研究が行われはじめます。ゲド
めの工房を設立しています。1806年、自
(Claude Genoux)
によって考え出された
た。新聞は当時最大のメディアであり、
粘土で鋳型をとり、銅を流し込んで版を
と同じような石膏型をとる方法は、1780
身の論文を、鉛版を製作し、そしてスタン
紙型―― 鉛版の鋳型を紙からつくるこの
飛躍的に部数を伸ばしているところでし
つくる試みなどがなされましたが、1727年
年代にはティロッホ
(Alexander Tilloch)
ホーププレスを使って印刷しました。
方法は、軽い紙による型をとっておきさえ
た。印刷もその需要に応えるべく新しい
ゲド
(William Ged)
によって考えられた、
とファウリス
(Andrew Foulis)
によるもの
すれば、再版に備えることができ、非常
技術が必要とされていたのです。
石膏で型をとって鋳込む方法が基となっ
が特許として登録されており、後にスタン
て発達していくことになります。活字を組
ホーププレスの開発者であるチャールズ・
んだ版から石膏型をとり、それを鋳型に
スタンホープ
(Charles Stanhope)へと売
して鉛を流しこみ、一枚の鉛の版を製作
する方法です。ゲドの鉛版はシャープさに
石膏で型をとる
ステレオタイプ
に画期的なものでした。1829年に特許
となったこの方法は、濡らした紙をベー
鉛版は日本ではステロ版と訳されて使
スにして、粘土と紙で層をつくり、それを
られ、彼によって研究がなされています。
われてきましたが、英語ではステレオタイプ
活字組版の上にのせ、紙型たたきブラシ
スタンホープはアンドリュー・ウイルソン
(stereotype)
と呼ばれます。stereotype
でたたき、その後圧搾することで紙の型
1857年デラガーナ
(James Dellagana)
はタイムズ紙の紙型から円い鉛版をつく
文・本多真紀子(印刷博物館学芸員)
参考文献
Geo. A. Kubler, A short history of stereotyping,
Certified Dry Mat Corporation, 1927
George A. Kubler, The era of Charles Mahon third
Earl of Stanhope Stereotyper 1750-1825, New York,
1938
Geoffrey Ashall Glaister, Encyclopedia of the Book
Second Edition, Oak Knoll Press & The British
Library, 1996
Jean Martin Hermann Hammann, Des arts
` a multiplier par l'impression:
graphiques destines
` ` sous le double point de vue historique
consideres
et pratique, J. Cherbuliez, 1857
Georges Dangon, "Sur les Genoux et sur le flan ou
`
les debuts
du clichage au papier", Le Courrier
graphique. Revue des arts graphiques et des
industries qui s'y rattache No. 60, 1952
紙型
スタンホーププレス
紙型たたきブラシ
ゲド印刷、サルスティウス著『カティリナ及びユグルタ戦記』
5
スタンホープ印刷、スタンホープ著『調律の科学原理』
4
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