第26号 [PDFファイル／420KB]

2010 DRUG･CLEAN･KANAGAWA
薬物クリーンかながわ
No.２６
＜演題＞「薬物依存との壮絶な死闘を乗り越えて」
～家族の愛が俺を変えた～
＜講師＞ 川崎タツキ氏（元プロボクサー）
平成 22 年度 薬物乱用防止講演会内容を抜粋
（※インタビュー形式で開催）
川崎タツキ氏プロフィール
小学生の時に母親を亡くし、厳格な父と
の確執により暴力団構成員となる。
２０歳の頃大麻、覚せい剤などの薬物に
手を染め、自殺未遂に走り、精神科病院に
入院。
２４歳の時に沖縄ダルクに入所し薬物
を断ち切る。その後、ボクシングのプロデ
ビューを果たしスーパーウェルター級日
本ランキング１位、東洋太平洋１位まで昇
りつめる。
３６歳で現役引退し、現在はボクシング
ジムのコーチとして若手を指導する。
２才の娘と妻と共に暮らしている。
＜暴力団に入ったきっかけ＞
Ｑ 暴力団に入ったきっかけを教えてください。
Ａ 僕は中学生の頃から暴れん坊で、地元では有名
＜薬物乱用のきっかけ＞
人だったんですが、同級生から僕のこと「やくざが
Ｑ 薬物を始められたきっかけを教えて下さい。
呼んでる。
」って聞いて頭にきてしまって、
「よし、
じゃあ行ってぶっ飛ばしてやろう。
」
と思ってやくざ
Ａ 僕がやくざをやっていた頃、ある日、知り合い
の事務所に行ったんです。そしたら、若いお兄さん
の人から、
「何か薬は手に入らないか。
」って聞かれ
たちが大勢いたんですけど、トランプとかして遊ん
たんですね。やくざの世界も薬物って禁止だったん
でもらって、それがすごく楽しくて、それから事務
ですが、
「薬も手に入らないのも、格好悪いな。
」っ
所に入り浸っちゃって、学校も事務所から通うよう
て思って安請け合いしてしまったのです。たまたま
になったんです。
1 人だけ聞ける人がいたので電話をかけたら、
「いく
らでもあるよ。
」と言われたので、その時は覚せい剤
＜初めての覚せい剤使用＞
だったんですが、頼まれた分よりも、とっさに多く
Ｑ 覚せい剤を一番最初に使った時は、どんな感じ
頼んでしまいまして、多く頼んだ分は上着のポケッ
でしたか。
トの中に入れて隠しておいたんですけど、それが始
まりで、
「どうやってやるんだろう。
」と思って、手
Ａ 一番最初は、ただ苦しいだけで、おもしろいこ
を出しちゃったのが一番最初のきっかけなんです。
とは一つもなかったんです。僕その頃やくざの親分
の運転手をしていたんですが、夜中に覚せい剤をや
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薬物クリーンかながわ
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って気がついたら朝になっていて、親分を迎えに行
ぞ。
」って、心の中で思ってたんです。
かなくてはいけない時間になっていたんで、迎えに
僕が心の中で思ったことは、みんなに知られてい
行ったんです。その日は運転をしながら、
「親分にば
ると思ってたんで、包丁をお腹の中に入れて、右手
れてないかな。
」
とか、
そんなこと一日中考えていて、
で掴んだまま表へ出たんです。それで、まだ薄暗い
すごく辛かったですね。
朝方の川の横を歩いてたら、前から犬の散歩をして
だからその時は、
「もう絶対やらない。
」って思っ
くる人がいたんで、
「来たな。
」
と思ったんですよね。
て家に帰ってきたはずなのに、帰ってきたら考えが
僕は、その時に、
「周りにきっと狙撃する人がいっぱ
変わってしまったんです。
「やり方が間違えてたんじ
い隠れていて、僕がその人を包丁でやる前にきっと
ゃないかな、もう一回やってみよう。
」って思ってし
狙撃されるんだろう。それで狙撃されたら、その時
まって、気がついたらもう覚せい剤どころか、手当
に、俺が死ぬっていうことで終わるんだな。
」という
たり次第に手に入る薬物をやっていたんです。
ことを考えていたんです。僕はそれで前から来たお
散歩のおじさんに、
「すいません、火貸してもらえま
＜覚せい剤の妄想＞
すか。
」と言ったら、その人が、
「ご免ね、俺煙草吸
Ｑ 覚せい剤の妄想などの症状について教えてく
わないから。
」って言われて、
「おかしいな、こんな
ださい。
時どうしたらいいんだっけな。
」
って思ったんですけ
ど、でもしょうがないから、
「じゃあいいです。
」っ
Ａ 僕の場合ですけど、芸術家になった気分になっ
て言ったんです。
て、僕が住んでたマンションの３つの部屋の床や壁
その時、もしその人が煙草吸う人で、ライター持
や天井に、全部絵を書いちゃいまして、床は剥して
ってて火貸してくれていたら、きっとその時、
「持っ
石引いたり、壁は蛍光色に変えてしまって、家の明
てた包丁で刺しちゃったんだろうな。
」って思うと、
かりという明かりを全部ブラックライトにして、気
怖くて怖くて、今みたいに大勢の人の前で話してい
がついたら、もう 3 日ぐらい表に出てなかったりし
ると、何か泣きたくなってきちゃうんです。やっぱ
ていたんです。そんなことをしているうちに、ばた
りその時にもし僕がぐさっとやっちゃってたら、今
んと気絶しちゃってたんですね。次に起きると、10
の僕はいなくて、元気な娘だって生れてなかったん
時間以上経ってて、家の中のゴミの中で、ペンキが
ですよね。だから、娘が元気に遊んでる姿とかを見
ついた筆を持ったまま倒れているとか、そんな状態
ると、僕はいつも、
「生きててよかった、あの時あん
だったんです。
なことをしなくて、本当によかったな。
」って思うん
です。
＜その他幻覚や妄想＞
＜事件、入院、ダルクについて＞
Ｑ 幻覚や妄想はありましたか。
川崎さんは、その後、何度もビルから飛び降りよ
Ａ 頭が別世界に行っちゃってたんで、
「僕は世界
うとしたり、また、手を切って浴槽の中に入れてい
中の研究者から、宇宙の人工衛星で見張られてる、
た川崎さんを見たお姉さんが、びっくりして救急車
世界の破滅を防ぐためのヒントを僕から見つけてる
を呼んだりする事件を起こしています。その事件が
んだ。
」という変な妄想に襲われてました。僕は街で
きっかけで病院に入院をされたのですが、その後入
すれ違う人とかも全て、国で雇われているエキスト
院先の病院の医師の紹介で沖縄のダルクに入所して
ラの人だと思ってたんです。それで、突然つかみか
います。沖縄ではミーティングをしたり、その他イ
かったり、
「今日これから表へ出て、一番最初に会う
ベントで沖縄の太鼓をたたいたりして過ごしていま
人に、煙草の火を貸してくれって言って、その人が
した。
僕の煙草に火をつけてくれたら、その瞬間に殺す
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Ａ 沖縄から帰ってきた時は、
98 キロになっていた
体重が、ボクシングを始めたころには、10 キロ減っ
て 88 キロになったんです。その時、ボクシングを
誘ってくれた友人と半年間一緒に走って、75 キロに
落ちたんですけれども、薬で体を痛めつけていて苦
しかったんですが、負けず嫌いな性格だからすごく
無理して走ったんです。そうしたら、体重もどんど
＜ダルクから東京へ戻るきっかけ＞
ん落ちたんですけど、やっぱり毎日朝起きるのが辛
Ｑ その後、東京へ戻るきっかけになったことを教
くて、頭の中が苦しくて割れそうで、いやだなって
えてください。
思ってたんです。
でも、
一緒に走る仲間がいたから、
がんばれたんだと思います。
Ａ 沖縄でのリハビリ生活は、1 年ぐらいになった
ので、そろそろ沖縄で自立をしようというふうに勧
＜感謝の気持ち＞
められたんですね。それで沖縄に残ることを姉に相
Ｑ 周囲、友達に対しての感謝の気持ちを教えてく
談しようと思って、電話したんですけど、その時、
ださい。
「優花が待ってる。
」って聞いたんです。優花ってい
うのは、僕の今の奥さんなんですけども、僕が以前
Ａ 僕がボクシングを始めて、背中の入れ墨があっ
から付き合ってた彼女なんです。そうしたらもう、
たんで、事務の会長から、
「手術して消さないとだめ
すぐ帰りたくなって、半分無理矢理帰ってきちゃい
だ。
」という話しがあったんですね。僕の地元の人た
ました。
ちが 200 人ぐらい集まって、みんなでお金を少しず
つ集めて出してくれて、そのお金で、警察病院に行
＜ボクシングの再開＞
って、レーザー手術して、背中の入れ墨が完全では
その後、東京に戻られ、自動販売機のジュースの
ないんですがちょっと消えた感じになったんです。
充填作業などの仕事をされましていましたが、小さ
それで会長が「試合に出る時はファンデーションを
い頃ボクシングをされていた川崎さんは、友人にも
背中に塗れば出場を許可しますよ。
」
って言ってくれ
う一度やらないかと誘われたことがきっかけで、ボ
たんです。
クシングを再開されました。
その後プロのリングに立つことができたんですけ
ど、応援してくれた地元の人達に感謝をしていて、
「本当にありがとうございます。
」
という気持ちです。
＜指導者として大切にしていること＞
Ｑ 現在ボクシングジムの指導者をしていらっし
ゃいますが、指導する上で大切にしていることを教
えてください。
Ａ 僕は、格闘技のジムで指導しているんですが、
子供たちに対していつも思うのは、家族の気持ちで
＜プロボクサーになるための苦労＞
接したいということです。ジムの中は和気藹々とし
Ｑ プロボクサーになるまでの苦労を教えてくだ
て、家族的な雰囲気なんですね。
「やっぱりそういう
さい。
ことが一番いいな。
」と思っています。
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薬物クリーンかながわ
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う方がたいへん多い中、川崎さんは自分の努力や周
囲の方の支えにより、這い上がってきた方です。こ
のように、
世間から認められる方になるというのは、
たいへんな努力があったと思います。また、川崎さ
んの人生は、周囲の方の支えによって立ち直ること
ができるということも証明しています。県内では、
たいへん多くの方が薬物乱用で苦しんでいらっしゃ
ると思うのですが、そういった方も、周りの方に相
談したり、相談機関に相談したり、病院での治療を
＜両親について＞
行うなどにより是非立ち直り、更生していただくこ
川崎さんは小さい頃にお母様が病気でお亡くなり
とを、望んでおります。
になり、その後、お父様に厳しく育てられましたの
最後に、川崎さんから、皆様に対してメッセージ
で、お父様との確執の中で少年時代を過ごされまし
をお願いできますか。
た。
そのお父様も、川崎さんがボクシングでプロデビ
Ａ 僕は本当に、今、生きてきたことに対してすご
ューした１試合目終了後に病気のためお亡くなりに
く感謝しているんです。
なっています。
僕なんか、変な悪さとかしてきたので、余計思うん
ですけれど、毎日生きてて、友達や、兄弟や親とか
＜両親に対する思い＞
と話したりしているちょっとした瞬間とかも、嬉し
Ｑ お父様、お母様に対する川崎さんの現在の思い
いなって思えたり、幸せだなって思えることがすご
を教えてください。
くたくさんあるんです。
だから、生きてることに感謝して、仲よく楽しく、
Ａ お父さんとお母さんが生れてなかったら、僕が
みんなと僕は生きていきたいと思っています。
生れてないし、僕が生れてなかったら、娘も生れて
ない。そう考えると、お父さんとはものすごく喧嘩
をしたり、いっぱいぶつかりましたけれども、お父
麻薬・覚せい剤乱用防止運動実施中
さんやお母さんに対して今は「本当にありがとう。
」
10 月１日から 11 月 30 日まで「麻薬・覚せい剤乱
という気持ちでいっぱいです。
用防止運動」を実施しています。
沖縄から帰ってきた時に、羽田空港にお姉ちゃん
麻薬、覚せい剤、大麻などの乱用は、幻覚、妄想
と、今の僕の奥さんが迎えに来てくれたんですが、
状態を引き起こし、肝臓・心臓などに障害をもたら
その時お姉ちゃんから、
「お父さん末期がんで、もう
します。
1 年も持たないんだよ。
」っていうことを聞いたんで
また、薬物乱用は、家庭崩壊や犯罪の原因にもな
す。その時、本当に初めて、
「もう悪いことをしない
り、大きな社会問題となっています。地域・家庭か
でちゃんと働いてお父さんを安心させなくては。
」
と
ら麻薬・覚せい剤などの乱用を根絶しましょう。
思ったんです。
薬物クリーンかながわ No２６
発行日 2010 年 10 月 1 日
発行者 会長 加藤 昇一
編 集 薬物クリーンかながわ推進会議 広報委員会
事務局 神奈川県保健福祉局生活衛生部薬務課内
〒231－8588 横浜市中区日本大通１
電話：045－210－4972
＜講演会参加者に対するメッセージ＞
Ｑ 川崎さんは、これまで何度も自分の命を断とう
としたり、
人をあやめようとしたこともありました。
薬物に溺れた方というのは、自らの命を落とすとい
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