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第 22 回 全国カトリック学校 校長・教頭合同研修会 実施報告
第 22 回 全国カトリック学校 校長・教頭合同研修会 実施報告 カトリック布池教会(名古屋教区司教座) 聖ペトロ・聖パウロ司教座大聖堂 開催日程:2013 年 6 月 27 日(木)~28 日(金) 研修会場:名鉄グランドホテル ミサ会場:カトリック布池教会(名古屋教区司教座) 研修テーマ:『現代日本社会におけるカトリック学校のミッション』 第 22 回(2013 年度)全国カトリック学校 校長・教頭合同研修会 実施要項 研修日程 6 月 27 日(木) 12:30~ 受 付 13:30~14:00 開会式 司 会:聖マリア女学院中学・高等学校 校長 Sr.玉腰久美子 お 祈 り:光ヶ丘女子高等学校 校長 Sr.中山紀美子 地区挨拶:中部地区カトリック学校連盟会長 Fr.リチャード・ジップル 開会挨拶:日本カトリック小中高連盟委員長 髙橋 博 14:00~14:50 講演 1 中高教育における宗教教育とミッション 南山高等学校・中学校 校長 Fr.西 15:10~16:00 講演 2 経一 現代日本におけるミッション・スクールの運営 仁川学院高等学校・中学校 校長 Fr.田端 16:20~17:10 講演 3 孝之 現代日本におけるミッション・スクールの危機管理 海星高等学校・中学校 校長 西田 秀樹 < 会 場 準 備 > 17:30~ 情報交換会(懇親会) 6 月 28 日(金) 9:00~9:10 会場集合 司 会:セントヨゼフ女子学園中学・高等学校 校長 Sr.斎藤 翠 お祈り:メリノール女子学院中学・高等学校 理事長 Sr.戸田 和子 9:15~10:15 講演 4 ミッション・スクールとは 南山大学 学長 Fr.ミカエル・カルマノ < 会場準備 > 10:30~12:00 分科会 フリートーク 12:10~ 昼食後、ミサ開祭場所[カトリック布池教会]へ各自移動 昼 食 13:30~14:30 感謝のミサ ミサ司式:担当地区カトリック名古屋教区 司教 野村 純一 担当地区司教挨拶:カトリック京都教区 司教 大塚 喜直 閉会式 閉会挨拶:日本カトリック小中高連盟委員長 髙橋 博 地区代表謝辞:中部地区カトリック学校連盟会長 Fr.リチャード・ジップル 次回当番地区挨拶:関東地区 栄光学園 校長 金子好光 2 1 日目 6 月 27 日(木) 開会式 司 会:聖マリア女学院中学・高等学校 校長 Sr.玉腰久美子 お 祈 り:光ヶ丘女子高等学校 校長 Sr.中山紀美子 地区挨拶:中部地区カトリック学校連盟会長 Fr.リチャード・ジップル 2013 年度の当研修会実施当番地区代表として、中部カトリ ック学校連盟会長、リチャード・ジップル師(南山国際高等学 校・中学校校長、南山大学教授)より、開会に当たっての挨拶 がなされた。 日本全国、遠方から 118 名に及ぶ参加者への御礼を述べ伝 えられ、有意義な研修になることを願って、挨拶とされた。 開会挨拶:日本カトリック小中高連盟委員長 髙橋 博(聖パウロ学園高等学校校長) 開会挨拶を、高橋博連盟委員長(聖パウロ学園高等学校校長) よりいただいた。本年度研修会のテーマは「現代日本社会に おけるカトリック学校のミッション」であるが、カトリック 学校に限らず、私学の存在意義として、益々進展する globalization への対応をミッションとすることができるの ではないか。今の子供たちが社会人になった時、一般化して いるであろう International Baccalaureate などの検討も進 められている。その際、カトリック学校が元々有している国 際性を活かすことが、広い意味でのミッションとしてカトリ ック学校に問われるのではないか、との示唆があった。 3 講演 1 中高教育における宗教教育とミッション 講師:南山高等学校・中学校 校長 Fr.西 経一 小学校から大学・大学院までを有する南山学園全体のキリ スト教教育センター長として、現代日本の若者に向けた宗教 教育の課題に取組む現状を示す。 西校長は、ご専門の聖書研究の立場から講演を始められた。 マルコ 1:9「あなたはわたしの愛する子、わたしはあなたを喜びとする」という神の宣言は、神 の愛の無条件性を示すものであり、マタイ、ルカを含めて、福音書が全ての人に述べ伝えるメッセー ジである。この“無条件に故なく告げられる” (功績の故でなく)神の愛としての存在肯定は、 “母な るもの” (一般的母性)において発せられる「よしよし、いい子」という言葉にも反映されている(旧 約の世界創造における、神の被造物に対する「よし」という存在肯定を、存在論上は根拠を置く)。 ところが、この存在肯定は(ヘレニズムの哲学において観られているような)自然必然によるもので はなく、 “自由意志にもとづく”ものである。従って、ミッション・スクールの教育は、まずはこの 神の愛、存在肯定を“推して知る能力の涵養” (意識喚起)をめざし、ここで生まれる肯定感を自己、 さらに他者の存在へと敷衍し、そうした存在の源に対する感謝へと導くことが大切である。 こうした序の言葉に続き、 「1.生活と生命維持」、 「2.ひらかれてあること」というタイトルの 下に講演を続けられ、本講演内容の立場から校長として生徒たちに対して贈られた言葉を、「中学一 年生のみなさんへ(新入生対象) 」 、 「卒業の日に(卒業生対象)」、 「ケースバイケース(保護者・教職 員対象) 」の 3 篇を紹介された。 <講演資料> 別添1 講演 2 現代日本におけるミッション・スクールの運営 講師:仁川学院高等学校・中学校 校長 Fr.田端 孝之 少子化、公立高校無償化等、現代日本におけるミッション・スクールが置かれた社会状況の様々な 変化の中で、各学校がその教育理念と運営方針を如何に整合させるか。 4 仁川学院高等学校では、カトリック学校の素晴らしさを入試説明会などで伝え、生徒募集にいかに それをつなげることができるか、ということを検討し、その上で実践的に取り組みをしてきている。 田端校長は、その取り組みを校内の推進役として実践されている古山雅己副校長をご紹介くださった。 田端校長は本講演の総括に、現代日本社会の価値観多様化が進んだ中にあっても、キリスト教カトリ ックの価値観、そしてそれを基に運営されるカトリック学校の価値は、人が生きる社会にとって価値 ある人材を輩出する役割を担っているということの内にも見出されるとされた。そして、各カトリッ ク学校においてもその前提の上で、各校の強み、特質を、自身よく把握し社会と共有することが重要 であると、お教えくださった。 講演の本編で、プロジェクターを使っての説明をしてくださった古山副校長は、 「仁川学院募集計 画H2~H25」と題名を付けられたパワーポイントの資料を作成してくださり、仁川学院の略歴から 披露された。その歴史の流れの中で、少子化、リーマンショック、公立高校無償化などの社会状況の 変化により受験者数減少の問題が生じたが、それに向けた学校運営上の対応策を、ご教示くださった。 当校では校内において、教育システムの改革やミッション・スクールとしての社会的役割などを、 教員研修により学校全体で意識共有を図った。それに加え、校外の学習塾からの生徒募集のヒントを 受け取り、生徒募集改革を実行した。改革前の塾での当校に対する反応は、 「保護者に説明できない」 「難しくはないが受けにくい」といったものであり、総じて、学校選択ための資料公開と説明が不充 分であることが認識された。 ここから、全校の取り組みとして、 “募集意識の共有”、“全員が説明する” 、“学校を公開する”と いった対応策を展開することとした。そのために、学校の特質を自らいっそう認識し、「どういう学 校か」ということを、学校選択を方向付ける広報活動の場で、明確に伝えられるようにしてきている。 カトリック・ミッション・スクールとして仁川学院の教育に求められる教育についても、その不変性 と変化を適確に見極め、実践へと導いている。その一つには、創立の理念を肌で感受するアッシジへ の訪問企画もあれば、家庭の宗旨は仏教が多いため、宗教性をより身近な体験から喚起することを企 画し、比叡山延暦寺での座禅も取り入れている。 <講演資料> 別添 2 講演 3 現代日本におけるミッション・スクールの危機管理 講師:海星高等学校・中学校 校長 西田 秀樹 現在の日本の教育環境において生じる危機的問題の 管理を、カトリック学校としての立場で如何に対応する かを考える。 5 西田校長は、下記の「危機管理について」と題した講演資料を作成してくださり、それをもとにお 教えくださった。一般社会において非常に必要になっている危機管理は、学校運営においても同様に 極めて重要である。この対応次第では、伝統のある大手企業などでも存続の危機に陥るのが、現代社 会の状況である(雪印の例、赤福の例を参考にされた)。学校という、製造業等以上に社会的責任を 重く担う機関では、危機発生からその被害を最小限に抑える危険予知(K-Y)にも留意していなけ ればならない。このような示唆に始まり、海星高等学校・中学校で実際に生じた事件の各局TVニュ ース録画も参考とし、報道機関や各方面への対応方法を、具体的な仕方で説明してくださった。 学校運営上の危機管理問題について、現実の事象を例にした具体的対処を説明された最後に、問題 を生じさせた過失に対する責任追及において、カトリック学校としての社会へのメッセージをおくる ことにも言及された。 「反省(心改め)に対しては、赦す心をもって欲しいと望みます。」 <講演資料> 危機管理について 1. 危機管理が何故必要か 不祥事などの発生は完全に防止することは不可能であるが対応を誤ると「信用の失墜」、「組織の崩 壊」、「世間からの抹殺」、 「心ない輩の攻撃」 、「賠償請求」、「訴訟」などを招く。 学校などは入学生徒の激減などで存続の危機を招くことになる。 2. 平素の危機管理 平素より危機に陥るリスクの芽を造らない、芽が出ても早期に摘み取るのが重要である。 ①不祥事の原因の撲滅 大きな不祥事を防ぐためには小さなリスクを丁寧に摘み取ることが大事である。 特に「異常」とも呼べない「変化」について観察をしておく事が大事である。 職員、生徒の生活態度の変化などは「何故か」と原因、理由を把握し対応が必要あれば処置をしてお く。 (例)職員が急に高級外車で出勤してきた:購入資金などのヒアリングを自然に行う。 ②苦情(クレーム)対応 保護者、地域、取引相手などからのクレームはキチンと対応をして置く。 特にクレームは危険信号と認識し、丁寧に対応して改善を行う。 何故其のクレームが発生したか原因追求と分析を惜しまない習慣をつけることが重要である。 「クレーム」は改善、進歩の教師と意識を持つべきである。 ③地域との交流と人脈の構築 学校、学園周辺地域との交流は普段から綿密にする必要がある。 ・自治会費の支払い、清掃活動の参加、お祭りなどへの寄付:応分負担 ・学校行事の事前案内、工事などの事前連絡:工事車両の往来、騒音苦情などの撲滅 ・地元への経済還元をする:近隣でのお店で可能な範囲で資材を購入する。 (例)運動会の弁当、飲料製品の地元購入、植木の剪定を地元シルバー人材センターの起用など 敵対意識の一掃が目的で近隣住民に「愛される○○○」 「我らが○○○」に仕上げる。また、彼ら によって情報が入ってくると言うことも大事である。 ④マスコミとの交流 6 平素よりトップと広報担当者がマスコミとの人脈造りを実行する。 ・年末、年始の挨拶 ・学校行事の案内送付、ニュースの提供:掲載されなくても根気良く提供する。 ・学校見学会の開催;地元記者クラブのメンバーを招待する。 ⑤官公庁との関係強化 ・警察、消防、児童相談所などには定期的な表敬訪問、担当者の紹介、年末年始の挨拶を 実施する。また、生徒や職員に対する防犯、安全講話や救命指導など実施して交流を図る。 ⑥保護者との対応 学校と保護者は「子弟の教育」と言う共通の目的を持っている 同志として交流することを根本にすべきである。 モンスターと呼ばれる保護者も避けることなく時間を掛けて対応することが危機の防止となる。モ ンスターを味方に引き入れ強い支援者に変身させる。不祥事対応には保護者の協力が一番力になる。 ⑦職員の遵法意識向上 職員倫理基準などベースになる行動基準を示すことも1つの策である。 古い組織では個人個人の解釈で倫理基準がバラツキを生じている場合があり、改めて全員同じ意識 を持たせる必要もあります。 例えば接待や贈答品の授受などがある。特に此の程度は大丈夫と言う基準が世間の常識を逸脱して いる場合があり、現在運用されている他の例を参考にして設定することが必要である。 そして組織のトップが規範意識を持って行動することが職員の意識向上になる。 ⑧緊急対応体制の常設 緊急時の体制を確立し、役割も明確にしておく。関係先へも案内しておくと良い。特に各責任者不 在に場合の代理人の指定もして於き、責任者不在状態を作らないようにすべきである。 代理人には必要な権限は移譲しておくことも大事である。 海星の場合 校長→教頭→副教頭→危機管理室長→総務室長→中等部長・・・・ と言う具合に決められており、役割も定義している。 優先順位上位者が到着したら報告し、交代する形式を取っている。 ⑨秘密の堅守 場合によっては公表することにより、致命的危機が発生する場合は責任者は関係者を増やさず誤解 を承知の上秘密を堅守する場合もある。 <まとめ> 危機管理の第一は危険予知であり、行事、活動、工事、処置などを実施する前にリスクの有無を検 証して、実施前に処置をしてリスクを除去するか、発生したらどういう処置をするか検証すること が大事である。 但し、危険を予知して臆病になり、行動しなくなるのは別の問題が発生する。 危機管理について(不祥事発生時) 1.心構え ・自身がパニックにならないために事実を整理すること。 関係者から事実のみの情報を集めること、憶測は排除すること。 (憶測を入れると第 2 の混乱を招く) 7 ・トップは何れの場合でも事案発生責任を負う腹積もりを建て辞任の覚悟をして置くと良い。 ・事実は出来る限り隠さない。 (人権、人道に反することが無い限り) ・終結までのシナリオを描く (例)当日 朝 職員会議で説明(会議で議論せず、事実と当面の対応を指示する) 生徒への説明と当面行動を指示する。 マスコミ会見(慌ててやる必要なし、時間を伝え待たせる) 関係部署への連絡を同時に開始させる(代理のもの{事務長}にリストを提供) 保護者会の日程を連絡、 (メールや郵便利用:口伝えや生徒経由は避ける) 翌日以降の日程、保護者会、次回記者会見、処分などの会議、処分発表、処分会議のメン バーなどの説明、当事者の日程など、関係部署への説明 これらを記者会見では具体的な日時を説明できるように関係者の日程も調整して置く事が大事 である。 2.初動作業 対策本部を設置し、最低限のスタッフを集める。役割分担を即刻決める。 ①情報収集 現時点で明白なものを纏める対策本部に 1 名貼り付けにする。全ての情報を 纏める。本部室の壁にメモを貼り付ける。(場所で分類すると良い) ②関係者や関係官庁への報告 学園本部、県庁、警察など ③文書作成 会見を延ばさないために学校概要は概要、沿革を纏めておくと良い。事案に ついての内容も解っている内容を人権に留意して用意する。マスコミ用、保 護者用、官庁用、職員用などを作成し、正確な情報を伝える。 ④電話担当(複数) 混乱が始まる場合は一本のみとし、回線を遮断する(通話状態にする) 携帯電話での連絡に変更する。 ⑤マスコミ対応 窓口を 1 名にし、情報の伝達を 1 本化する(複数が別々に対応することは危 険)スタンスとしてマスコミの勢いに屈服しない人材の起用が不可欠。 3.方針徹底 生徒説明、保護者会、記者会見など1つ 1 つの工程を始める前に対応を事前にスタッフに説明をし て,瑕疵の無いように配慮する。特に弱者(生徒や職員)の保護は徹底する。 (マスコミは人権上、 人道上という言葉には確実に反応する) 例えば:生徒のへの取材は人権上お断りすると明言すると殆ど守ってくれる。 4.保護者対応 保護者は敵味方に分かれる場合が多いが子供を守ることと学校を守ることが同レベルとの意識を 持たせる説明を始めにしておくと学校側に付くものが増える。 責任追及には素直に謝罪する意向を見せると良い。 5.マスコミ対応(記者会見時) 記者会見は可能な限り、立った儘がよい。お詫びが必要なときは詫びるべき対象者に対しとし、マ スコミや世間一般には詫びる必要は無い。 事実は明確に説明する。 服装や頭髪に注意しておく。 (赤いネクタイは不適当) 挨拶の取り直しなどは素直に応じて好感をもたれることも大事である。 記者会見は相手が午前のワイドショー、昼のニュース、夕刊の締め切り、朝刊の締め切りなどの限 8 りがあるが時間設定は当方で決めてコントロールをすると良い。 司会を当方で用意して記者会見の進行をコントロールすることに努めることが大事であるが、満足 の行くまで打ち切らないことも大事である。 マスコミは後日談など取材が継続する場合が多いので紳士的な対応を我慢して行い、最終的には味 方につける努力をする。出来れば反撃(失地回復)の応援に利用することも考慮する。 6.事後処理 ・官庁など関係部署には時間や労力を惜しまず説明に赴くことが大事である。 ・記録を残す:人の噂も75日と言いますが忘れた頃に関連したことで問い合わせなどや揺り返し があるので記録を保管しておく。 以上 1日目 情報交換会 司 会:海星高等学校・中学校 校長 西田 秀樹 情報交換会挨拶:中部地区カトリック学校連盟会長 Fr.リチャード・ジップル 乾杯の言葉:カトリック名古屋教区 司教 野村 純一 会場ではランダムに着席し、西田校長の司会の下に名刺交換と挨拶を含め、初対面となる各地区の 参加者とも、情報交換が行なわれた。各学校の紹介からはじまり、そこでの教育や運営上抱えている 問題の新しい認識、更には共通意識化などの有意義な時間がもたれた。 また、各地区の初参加者からは、壇上での挨拶をいただいた。 9 2 日目 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 会場集合 司 会:セントヨゼフ女子学園中学・高等学校 校長 Sr.斎藤 翠 お祈り:メリノール女子学院中学・高等学校 理事長 Sr.戸田 和子 講演 4 ミッション・スクールとは 講師:南山大学 学長 Fr.ミカエル・カルマノ カトリック教育学会理事でもあるカルマノ南山大学学長が、その専門研究分野である上記テーマに ついて、講演された。 カルマノ学長は、南山大学や多くのカトリック・ミッション・スクールで実施されているクリスマ ス行事等、年間を通した宗教行事は単なる儀式に過ぎないのかとの問いかけにはじまり、まずはそう した伝統行事を実施することで想い起こされるミッション・スクールであること、そしてその宗教教 育の目的について、受講者の問いを喚起された。それは「ミッション・スクールとは」という問いに 一律の答を与えることはできないからであり、例えばそれは地域によっても異なる側面を有している からである。 ドイツ連邦共和国の憲法の前文は、冒頭から「神と人間に対する・・・」という言葉ではじまり、 第7条の学校制度の3項には、 「宗教教育は公立学校においては、非宗教的学校を除き、正規の教科 目とする」とされている。政教分離を謳う日本では、このような宗教教育の位置づけを、適用させる ことは非現実的であろう。 とはいえ、一律の答が導き出せないとしても、何らかの一般的な宗教教育の方法論を探求すること 10 ができないだろうか。宗教教育が「神学+教育学=宗教教育」というような単純な分析で、その方法 論の探求ができないとしても、一般的教育学からのアプローチは有効性を持っていないであろうか。 アメリカで次のような調査がなされた。小学校での算数基礎学力の形成が、社会的・経済的地位取得 達成に、いかに影響するかということを、推測できるようにしたものである。それによると、7才の 時点で算数学力を高く有する者は、50 才で高年収になっているという。さらに、その小学校での算 数学力を高めるため、幼稚園で空間認識のスキル訓練をしておくことで効果が上がるという。この調 査に加え、データという点では、宗教を信じるアメリカ人は信じない人よりも 7 年長生きである、と いうのであるから、 「算数を学び宗教を信じれば、高収入で長生き」というウィットのような、単な る事実だけは示すことができる。 日本ではOECDの学力テストなどの結果が各国との比較で下がり、文部科学省は数学の授業時間 を増加するといった対策をしている。では、宗教教育はどのようにミッション・スクールにおけるそ の目的を位置づけし、教育方法を導けばよいのか。 アメリカの Le Moyne College での取組みは、その問いに対する貴重なヒントとなるであろう。カ ルマノ学長自身もその大学で行われたワークショップに参加されたとの由。そこでは、宗教教育担当 教員だけでは学生に浸透させられない「価値教育」を、大学で教える一般、専門の各教育に携わる教 員を含めて、全学体制で展開するというものであった。この実践のために、教員全員の価値観を共通 化するのではなく、多様な価値観やそれを互いに尊重しあうといった一層高い価値意識を持った上で、 批判と対話を通じた価値教育を目指すのである。カルマノ学長は、冒頭で述べられたように、受講者 にもこの価値意識を喚起する問いを投げ与えられた。 ドイツでは、学校は時代を担う人材育成のために国が管理する機関として位置づけられ、そこに必 修科目として宗教教育も組入れられるが、国だけの視点で教育を展開するのではなく、多様な観点か らの社会の現状に対する反省・批判も必要であり、教会がそのような立場から問い直すという役割も 担っている。日本でも学習指導要領に「生きる力」の育成が掲げられたが、その中で問われている「道 徳」とミッション・スクールの「宗教」との関係を探ることなどが、方法論的にその目的を遂行する ことになるのではないか。 「宗教」という科目にある意味で“躓きの石”としての役割を持たせるなどし、その基礎・基盤が、 若い年代にも伝統や既成社会について考えさせる機会を与えることになる。 「家を建てる者が捨てた 石、これが親石となって・・・・」という聖書の言葉のように、固定観念に囚われることなく、多様 な観点から物事を眺め、そこから自発的に活動できるように導くことが、ひとつのミッションであり、 目的であるといえよう。 こうした内容の理解を容易にするためカルマノ学長は、南山大学での教育に使用している、映画に なった『炎のランナー』の例や、猫に襲われそうになった金魚が犬の声で吠えたらというビデオ映像 を見せられた。そして最後に、聖心女子大学キリスト教文化研究所が 2013 年 3 月に編集、出版した 『宗教なしで教育はできるのか』 (春秋社)を紹介されて、講演を終えられた。 <講演者自著序文> 各都道府県の教育委員会の監督下、そして文部科学省の学習指導要領に沿ってカリキュラムを編成 するミッション・スクールは他の学校との違いはどこにあるのか。端的に言えば「宗教教育」の有無 だが、ここで二つの課題がある。 一つは(学内で)カリキュラム全体および学校行事における宗教教育の位置づけだ。宗教の授業や 11 年間の宗教行事を担当してきた聖職者が少なくなっているなかで、どのようにして学校教育の宗教的 側面を維持できるかは課題となってきた。 もう一つは現代の日本社会に対して宗教の役割・位置づけをどのように表明するかという課題だ。 伝統や文化を支える儀礼・教えの(良い意味での)保守的な役割は大事だが、ここでは社会的常識とな っている考え方・慣習に疑問を投げかける「躓きの石」というミッションを強調したい。 <講演資料> 別添 3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 日目 分科会 (グループA~L;12 グループ×1 グループ 10 名程度) 進行:各グループ席に入った中部地区の参加者が、進行役と記録を取った。 トーク・テーマ (参加者には、フリートークで積極的な発言をいただいた。 ) 1)本年度の研修会(講演1~4)への感想・意見 2)今後の本研修会で実施するべきテーマ 3)その他(上記以外の自由な発言) 上記のトーク・テーマで各グループが自由に話し合った。そこで出た意見を、以下に記す。 1)本年度の研修会について ・カトリック校の理念、生徒募集、危機管理と、内容のバランスがよく、参加者の関心に適合した。 ・宗教教育の問題だけでなく、教育者としてカトリック学校らしい連携が必要だと思う。 ・カトリック校として宗教性の提示の仕方を、如何に校内組織全員で取り組むか? ・広報でカトリック校の特質、差別化を図る場合、ビジネスライクにならず、キリストの心で。 ・多くの学校が、生徒募集に困っているのが実情である。 ・各地域での研修会も開催されているが、各カトリック学校の色合いが共通していないか。 ・各地域で各校がライバル関係になるのか、連携を図れるのか。 ・リーダー的学校を立てて、カトリック校のキャンペーンを企画できるとよい。 ・上智大や南山大等、地域の大学の下で連携する。例)上智大でカトリック・フェアがある。 ・各校の創立者の理念をアッピールし、地域のカトリック校の中で各校の独自性を出す。 ・建学の精神をもった人材を社会に如何に送り出せるか、ということを意識化する。 ・キリスト教精神を教区や修道会の協力の下で、社会に伝える中で広報を実施する。 ・他のカトリック校との区別に限らず、小中高と併設される場合、教育の色合いに変化をつける。 ・各校の歴史を示す。 「何故、ここにこの学校があるか」という認識をもち、伝えていく。 ・共学ブームの中、女子校(男子校)としての意義、魅力を如何にアッピールするか。 ・危機管理は、安心して教育を受けてもらうために、各校で重要課題となる。 ・ミッションを受け継ぐために、定期的にミサを開祭する。 12 2)今後の本研修会で実施すべきテーマ ・カトリック学校における授業の在り方:授業改革について。 ・カトリック校が見定めるべき、将来に対するヴィジョンについて。 ・カトリック校の生徒募集のありかたについて。 ・3.11 震災などに学ぶ、学校危機管理のありかたについて。 ・各地域での各カトリック校の共存共栄の方途を、如何に探るか。 ・カトリック校としての統一でなく、多様性をアッピールする。 以上のように、総じて本年度扱われた公演内容、テーマを発展させた内容、特に生徒募集とカトリ ック学校のあり方を、如何に関連させ、各校の独自性、特色を示していくか、ということに関心が収 斂していた。また、そのためのアイデアも既に幾つか、上記で示されていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第 22 回 全国カトリック学校 校長・教頭合同研修会 記念ミサ カトリック布池教会(名古屋教区司教座) 聖ペトロ・聖パウロ司教座大聖堂 にて 6 月 28 日(金) 聖イレネオ司教殉教者 記念日 感謝のミサ ミサ司式:担当地区カトリック名古屋教区 司教 野村 純一 担当地区司教挨拶:カトリック京都教区 司教 大塚 喜直 共同祈願 北海道地区代表: 北見藤女子高等学校 大坪 昌広 教頭 東北地区代表: 桜の聖母学院中学校・高等学校 落合 茂幸 教頭 関東地区代表: 目黒星美学園中学・高等学校 Sr.滝口 ひとみ 校長 中部地区代表: 南山大学附属小学校 松浦 典文 教頭 近畿地区代表: 大阪信愛女学院小学校 Sr.岩熊 美奈子 校長 中国・四国地区代表: 広島学院中学校・高等学校 三好 彰 校長 九州地区代表: 鹿児島純心女子中学・高等学校 Sr.長谷崎 富子 校長 ミサ説教の中で野村司教は、近年カトリック学校との表現が主流になり、ミッション・スクールと いう表現が少なくなってきたが、本研修会のテーマであるミッションを再確認し、社会に示し実践し ていく必要性を示された。 また、担当地区司教として挨拶をいただいた大塚司教は、昨年度に連続して担当地区の司教という ことになったが、カトリック学校の社会における使命を果たすべく、全国のカトリック校がこうした 研修会を開催し、共同体としての連携をとっていくことに教区としても協力したい、と述べられた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 閉会式 :以下の挨拶を以って、無事に本年度の研修会は終了した。 カトリック布池教会(名古屋教区司教座) 聖ペトロ・聖パウロ司教座大聖堂 にて 閉会挨拶:日本カトリック小中高連盟委員長 髙橋 博 地区代表謝辞:中部地区カトリック学校連盟会長 Fr.リチャード・ジップル 次回当番地区挨拶:関東地区 栄光学園 校長 金子好光 13 報告書まとめ 本年度の研修会のテーマは、『現代日本社会におけるカトリック学校のミッション』であったが、各 講演の中では、講演者がそれぞれの講演テーマに沿ったカトリック学校のミッションについて、ご教 示くださった。 研修会を通じて喚起を促されたことは、キリストの言葉と行いに従い、その模倣を通して担うべき カトリック・ミッション・スクールの全てに共通、普遍的なミッションもあれば、そうしたミッショ ンを基盤にしてミッション・スクールのそれぞれが固有にもつミッションもある。さらにはこの固有 性は、それぞれの学校のミッションの多様性を示すに留まらず、多くの学校で教師として、生徒とし て、保護者として、様々に関係する社会構成員として有する多様なミッションをも包み込むものであ るということである。 こうした理解の下に、各校の理念、教育方針、生徒募集、学校運営、危機管理等における具体的な ミッションの実践が展開されることになろう。この前提に立って、高橋連盟委員長の本研修会開会挨 拶の内容を受取るならば、その言葉の内にあった「広い意味のミッション」も、日本におけるカトリ ック学校の重要なミッションとすることができると思われた。『現代日本社会におけるカトリック学 校のミッション』として「日本の真の国際化」に取り組むことは、時宜にも適っており、各報道にも 取上げられている、高校での IB(インターナショナル・バカロレア)取得を目指す教育も、大学の 国際化を推進する文部科学省の対策も、今、日本の教育において求められていることである。 嘗ての日本社会において、急速な国際化が進められた時期を概観した時、幕末から明治にかけて、 また、第二次世界大戦後には、強い使命感を持って活躍した人材やそれを育てた教育の場があったの は、周知のごとくである。本年度の NHK 大河ドラマ『八重の桜』の一シーンに山本覚馬が、患った眼 病をおして会津藩のために、ドイツの武器商人カール・レーマンに横文字(外国語)の手紙文をした ためるところが描かれていたが、ここでの一つの象徴的イメージとして見ることもできよう。当時の 藩校での学びも佐久間象山の塾での学びも、彼にとっては、藩のため国のため、そこに暮らす人のた めという、強い使命感に突き動かされてのことである。新島襄と共に同志社の設立に尽力したことも、 キリスト教信仰と結びついたその使命感によるものであろう。日本初(明治 5 年)の内国勧業博覧会 を開催し、その英文案内冊子も日本初であるとされる。これらは、当時の日本の社会に生じたミッシ ョンの下にあり、更に有名な多くの活躍をなした日本人が、様々な場面・立場で国際化を急速に進め たのである。 こうしたミッションとそれを自らに受けた使命感を、現代の日本社会の真の国際化(グローバリゼ ーション)を推進していくモチベーションとする教育を、日本のカトリック学校、即ち、日本のミッ ション・スクール(野村司教様がミサ説教において述べられた意味で)が、嘗ての日本社会で受けた 使命と同様に、推進していくということも重要なミッションであろう。 14