Comments
Description
Transcript
第20号 (H22.4.20発行)
第 20 号 平成 22 年 4 月 20 日発行 Health Care Center newsletter 福島大学保健管理センター 〒960-1296 福島市金谷川1番地 Tel 024-548-8068, Fax 024-549-5015 [email protected] http://www.ipc.fukushima-u.ac.jp/hcc/index.html 予測した新型インフルエンザに対する対応と現実 ―福島大学における対策と実際― 保健管理センター 背景;新型インフルエンザは 2009 年 4 月にメキ シコで発生が確認された後、世界中に拡大し、 2009 年 12 月には、南半球においては、新型イン フルエンザはほぼすべてが季節性インフルエン ザにとって替わったと考えられている。 日本では、2009 年 5 月 9 日に成田空港検疫で 新型インフルエンザの患者が始めて検知され、そ の後 5 月 16 日に神戸市、ついで 5 月 17 日に大阪 府内で確定例の確認があり、兵庫県内、大阪府内 の高校生を中心に集団感染が明らかになった。地 域での学校閉鎖や濃厚接触者に自宅待機を要請 するなどの対策がとられ、同地域での拡大はかな り押さえられたが 6 月中旬ごろから日本各地で 発生が続いた。同時に海外から入ってくる新型イ ンフルエンザ感染者を水際で感知するため空港 に到着した航空機内で検疫を実施する機内検疫 は 2009 年 4 月 28 日以降、メキシコ、米国、カナ ダからの便に対して実施され、6 月まで続いた。 全数が 5000 例を超えた 7 月末より、国への報告 は全数の報告ではなく全国約 5000 ヶ所(小児科 3000、内科 2000)のインフルエンザ定点から臨床 診断に基づいて報告される「インフルエンザ様疾 患:influenza like illness;ILI」に切り替えら 目 内科 渡辺英綱 れた。2009 年 11 月において日本の ILI 患者発生 状況は、季節性インフルエンザの 1 月頃とほぼ同 数でサンプリングによるウイルス検査では、11 月末ではその 99%が新型インフルエンザとなって いる。 厚生労働省は新型インフルエンザについて現 時点では沈静化しているとして第一波が事実上 終息したとの見解を示した。 目的; 2008 年末にほけかんニューズレターで報 告した新型インフルエンザ対策と 2010 年 1 月ま での新型インフルエンザ流行時の対応を比較検 討し、2 年前に予想されていた新型インフルエン ザへの対策と今回実際に流行した新型インフル エンザ(A/H1N1)の現状とその対応を比較し、今 後流行する可能性を否定できない高病原性鳥イ ンフルエンザ(H5N1)の鳥から人への感染流行時 の対応を検討する。 方法; 2008 年末までに報告された新型インフル エンザの感染率、感染拡大の経過を福島大学にあ てはめ同年末にほけかんニューズレターにおい て報告した予測と、厚生労働省で作成されている 「事業者・職場における新型インフルエンザ対策 ガイドライン」(改定案 2008 年 7 月 30 日)をも 次 ・予測した新型インフルエンザに対する対応と現実---------------------渡辺英綱-------- 1 ・生理(月経)の話----------------------------------------------- 川上敦子-------・ある禁煙日記(その1)----------------------------------------- 渡辺千秋-------・「お酒の知識」再確認-------------------------------------------- 渡辺 厚-------- とに考えた福島大学の新型インフルエンザ対策 に対して、実際 2009 年に流行した新型インフル エンザの福島大学での流行状況とその実際の対 策について比較検討する。さらに保健管理センタ ーを感冒症状および ILI 症状で受診した患者の 状況を分析し、ILI 症状で受診した患者に関して はインフルエンザ迅速検査結果、福島大学学生支 援グループで集計した福島大学学生のインフル エンザ罹患状況と保健管理センターへの受診状 況に関して報告する。 結果; 当初、日本政府は 2008 年度において人口 の約1/4の人が感染し、医療機関を受診する患 者数は最大で 2500 万人と仮定した。 今回 2009 年 53 週までに累積推定患者数は 1816 万人と報告 され、予測患者数の 73%は感染し、およそ人口の 15%が感染したことになる。 今後発生するかも知れない新型インフルエン ザが、どの程度の感染力や病原性を持つかどうか は不明であった 2008 年末に、過去に流行したア ジアインフルエンザやスペインインフルエンザ のデータに基づき推計すると、入院患者は 53 万 人~200 万人、死亡者は 17 万人~64 万人と推定 された。2010 年 1 月 14 日時点で新型インフルエ ンザ感染者の入院は、累計で 1 万 5615 人であり、 新型インフルエンザ感染者の死亡は、疑い例も含 めて累計で 155 人となった。当初予測された入院 患者数の 1%-3%、死亡者は 0.25%-1%にとどまっ た。 2008 年の新型インフルエンザ流行予測を福島 大学に当てはめれば、5000 名の学生のうち 1000 名以上が感染し医療機関を受診し、20-80 名が入 院し、7-25 名が死亡する可能性があった。実際 には福島大学では 2010 年 1 月までに約 400 名が 感染したが、入院等重症化した学生の報告はなか った。 2008 年末において、新型インフルエンザはヒ ト-ヒト感染が認められないフェーズ 3 の状態 で、大学全体で準備対策として、備品の購入備蓄 を検討ないし、開始しておく時期であった。備品 としては、感染リスクに応じた予防策・保護具マ スクとして、医療用として:サージカルマスク、 N95 マスク、手袋、フェイスシールド、ガウン、 ヘッドカバー、エプロン、職員用として:サージ カルマスク、手指用消毒薬があり、必要数を備蓄 開始した。感染予防、治療目的にタミフルの備蓄 に関しては、2008 年末においてこれまでの購入 経路からは備蓄用の販売は出来ないとの回答を 得て、断念した。実際、N95 マスクは準備したが、 新型インフルエンザが大学内で発生し、その診療 の際にはサージカルマスクの着用と迅速検査時 の手袋着用、ガウンの着用のみでフェイスシール ド、ヘッドカバーは使用しなかった。大学全体と して教職員および学生に対してサージカルマス ク、および消毒液の備蓄分は国内発生時、学内発 生時に各所に配置し、備蓄量が不十分であったた め、追加購入したが、国内流行期には入手が困難 となり今後備蓄量に関して再検討が必要である。 特に消毒液に関しては、各講義室、事務室入り口 など複数個所に配置し、使用頻度により数日でな くなる箇所もあった。 2008 年度末においては、フェーズ4A(国内非 発生)後の政府の新型インフルエンザ対策行動計 画における第 1 段階;海外発生期において、福島 大学として、留学生の受け入れ、海外研修渡航先 での発生、海外研修渡航先から帰国後の対応とし て、入国後自宅待機期間の必要性の有無、渡航前 であれば、渡航を見合わせるかいなかの判断が必 要で、WHO の渡航注意の勧告を基に判断可能と予 測された。また、渡航中、渡航予定の職員の把握、 留学生の状況確認作業が必要と予測され、国内発 生時に備え、フェーズ4B 段階への準備をすすめ る予定であった。実際 2009 年において 5 月に国 内で感染が確認されるまでの 1 ヶ月間程度であ り、福島大学では 2009 年 8 月末に行なわれるク ィーンズランド大学短期語学研修に関して、この 時期南半球は冬となりインフルエンザの流行シ ーズンにはいり、新型インフルエンザが拡大して いるとの情報の中、短期語学研修が無事行なえる か、現地コーディネーターと協議検討した。WHO は、北米以外で流行も確認され警戒レベル6に引 き上げることを 6 月に発表し、既に感染が世界的 に拡大していることより、感染国への渡航制限の 必要はないと判断していること、さらに海外研修 渡航時において、現地情報を収集し十分注意して 渡航の是非を検討した結果、予定通り短期語学研 修をおこなった。渡航先から帰宅時の自宅待機は 当初 1 週間を予定したが、既に 6 月には国内発生 の現状から 7 日間は体温測定および体調管理に 努めることで自宅待機の必要性はなくなった。 2008 年度末においては、フェーズ4B(国内発 生)、第2段階:国内発生早期において、不特定 多数のものが集まる機会を提供している事業者 に対して、感染拡大の観点から事業の自粛が要請 され、福島大学としても、大学休講・大学閉鎖を 検討し始めなくてはならない時期である。学生・ 職員に対し注意喚起(38 度以上の発熱等インフ ルエンザ症状時に大学に来ないこと、不要不急の 外出の自粛、不特定多数が集まる場所や人混みに 近づかない、手洗い等)を行い、保健管理センタ ーとしては二次感染予防のための臨時診察室(発 熱外来)の設置、発熱外来開設時、感染予防具の 着用、近隣の医療施設、県立医大附属病院、福島 北保健所等との連携が必要となり、発熱に関する 電話相談対応が開始されると予測された。 同時期にあたるのは 2009 年 5 月末より県内で 流行が始まる 7 月までの期間で、神戸、大阪にて 局地的に流行が広がる中、県内では 7 月末まで 24 時間体制で発熱相談センターを設置した。福 島大学内でも新型インフルエンザ感染者の第一 例が発生する可能性に対して非常時の土日の緊 急連絡先として携帯電話をセンター医師 2 人が 携帯したが、幸いにして一度も連絡が入らなかっ た。またセンター内に発熱外来を設置し従来のイ ンフルエンザ迅速検査キットを準備した。国内流 行が広がる中、手指の消毒薬の各所へ配置し、要 望があればマスクを提供できるように準備し、体 調がよくない参加者は保健管理センターで診察 する事とし、2009 年 8 月 9 日オープンキャンパ スを実施したが特に問題を認めなかった。 2008 年度末においては、フェーズ4B+(東北 地方、福島市内発生):第3段階;感染拡大期の 状況では、大学内で職員もしくは学生から発症者 が出た場合の対応が必要と予測された。同時に保 健所等に設置される発熱相談センターに連絡し、 発症した日付と現在の状況を伝え、今後の搬送先 や搬送方法について指示を受ける必要があった。 実際、2009 年の 7 月末よりこの段階に入り、県 内では、7 月には学生の感染を受けて、いわきで 大学が休講になり、8 月に入ると市内の近隣大学 でも感染者が出現、夏休み中であり登校自粛の措 置をとった。福島大学でも 8 月に入ると大学内で 新型インフルエンザ感染症例が出現し、全国的に 他大学では既に累積で 100 名を越える感染者を 出しており、およそ 1 ヶ月遅れで第 1 例目を確認 したことになる。7 月末より、全国で 1 週間に 1500 例もの感染報告がなされ、個別の事例の把握して も感染対策の意味はないとして、全数把握よりク ラスター(集団発生)サーベイランスが始まった。 学校では同一集団(原則として同一学級または部 活動単位)で 7 日以内にインフルエンザ様症状に よる 2 名以上の欠席者(教員を含む)が発生した 場合、迅速に、保健所に連絡し、PCR 検査を行う 体制となった。同時期、国内の感染 5000 人を突 破し、新型インフルエンザ感染の疑いがある患者 を診察するため医療機関に設けた発熱外来も休 止し、原則すべての医療機関で診察する体制に改 められた。2008 年度末においては、福島市内の 感染拡大の状況により、入院隔離の勧告(初期段 階;患者の感染経路が追跡できる段階)から自宅 養療(入院の必要性が無い状態のとき)まで治療 方針は刻々と変化するので、発症者を確認するた びに指示を受けることが望ましいと予測された が、感染拡大を受け、7 月末に全数把握を中止し た時点で、発熱外来休止となり、原則すべての医 療機関で診察となり、重症化の恐れがなければ自 宅安静加療が主体となった。感染拡大の初期段階 では、濃厚接触の可能性が高いと判断される場合 は、自宅待機の要請が予測された。また学校や、 幼稚園および保育所などが休業となり、大学休 講・大学閉鎖が実施されると予測した。 福島大学内で第 1 例目が報告された際には、濃 厚接触者の有無や体調管理の連絡、1 週間以内に 同一集団内での 2 名以上の欠席者が出ないか、自 宅待機可能か、自宅へ帰る方法(公共交通機関は 使用しない)等の説明連絡に多くの労力が使われ た。更に 1 ヵ月後の 8 月 27 日改訂(新型インフル エンザに関する対応について(第 12 報)があり、 同一集団(原則として同一学級または部活動単 位)で 7 日以内にインフルエンザ様症状による 2 名以上の欠席者を確認した場合、保健所へ届出を するが、PCR 検査は必須ではなくなった。8 月末、 市の教育委員会より、学級閉鎖の基準として在籍 数の約 10%以上の欠席者を認めるときとの対応 が示された。各大学でも休校の基準に関して検討 がなされ一日あたりの欠席者数が在籍数の 10-15%を超える場合に基準をおく例が見られた。 10 月 12 日、文部科学省高等教育局より新型イ ンフルエンザに関する対応について(第 15 報) 「学校における新型インフルエンザ・クラスター サーベイランスの流れ」について廃止される連絡 があり、福島大学では、10 月 12 日までに累計 13 名の感染者が確認され、サークル内で集団感染が 疑われたが管轄保健所と相談し確定できず経過 観察し、その後、学校でのクラスターサーベイラ ンスが廃止になっている。福島県内では図 1 に示 すように 41 週目の 10 月上旬より感染者数が増加 し始め、当大学で本格的な新型インフルエンザ流 行が見られたのは 10 月末の学祭準備期間中であ る 1 週間に 10 名以上の感染者が 2 週継続した後 に学祭終了後には週 60 名を超える感染者が 3 週 間継続した(図 1)。この期間、まだ保健管理セン ターには抗インフルエンザ薬は常備していなか ったが、増加する新型インフルエンザ患者に対応 するため、急遽抗インフルエンザ薬の購入に踏み 切った。12 月に入り再度週間 20 名以上の感染者 を出したが、冬季休業期間に入り感染者数は急速 に減少した。冬季休業終了後に再度感染者は増加 したが 3 週目以降は減少した。 これまで感冒症状の毎月の受診者は、4、5 月 にピークがあり、11 月にもピークを認め、外来 受診 717 名中、38 度以上の発熱を示す割合は全 体の 4%(年間 33 名)であった。インフルエン ザのシーズンである 12 月以降に新型インフルエ ンザも流行するとすれば月 50 名程度の感冒様症 状受診者の中に 38 度以上の発熱者が 100 名受診 するのは異常な事態であると予想された。実際、 11 月に入り保健管理センター受診者は月 120 名 以上となり、50 名以上が ILI を疑える症例であ った(図 2)。 考案;米国では、国土が広大でもあり地域差があ り、国全体では 10 月下旬にピークに達したとさ れるが、1 月には局地的な発生が続く地域もある。 また米国は多人種国家であるために発症率や疾 患の重症度に人種差が見られている。ミュンヘン などの一地域を単位として観察すると 2-3 週間 以内に発生し、ピークに達してその後 1-2 週間で 終息すると報告され、国単位ではその期間が長く なるとされている。当初新型インフルエンザの致 死率は、アジアかぜと香港かぜの間程度で 0.1-0.5%程度を予測していたが、ドイツでは患者 10,000 人あたりの致死率は 2 人(致死率 0.02%) と推測しており、日本の致死率は患者 100,000 人 あたり 1 人未満(致死率 0.001%未満)と世界で最 も低い状況である。この理由として、日本が小児 について医療費が全面的にカバーされているこ とや、医療施設が近くにあり夜間の対応体制も整 っていて、医療へのアクセスが非常によいという ことが考えられる。日本国内では発症率は、年齢 で言えば、青少年小児に高く、高齢者では低いの が特徴で、代わりに致死率は高齢者で高くなって いる。福島県内の流行は、図 1 より全国の流行に 比べれば 2 週間遅れており、県内の流行とほぼ同 時に福島大学での流行も始まっていることが見 て取れる。また、感染者の背景を調べると大学祭 準備の段階で流行が始まっており、保健管理セン ター受診時には、体調不良を自覚しながら大学祭 の準備をしている学生を多く見かけた。また学祭 準備のためほぼ 24 時間態勢で友人たちと作業す る学生も多く、流行のきっかけになったものと思 われる。他大学でも同様の報告が見られ、大学祭 終了後に 1 週間の休講を進言した大学もあった が認められなかったと聞いている。その一方で、 感染経路が不明な発病者も 11 月には多く占め、 活動範囲の大きい学生において、学内以外の感染 経路が含まれるようになった。2 年前から当セン ターでインフルエンザ迅速検査を開始し、結果を 学生に直接伝えることで、以前はインフルエンザ の疑いがあると説明しても近医受診を拒否し、自 宅にて安静にもしなかった学生が、医療機関を受 診し自宅安静を尊守するようになった事は、新型 インフルエンザの流行阻止に役立った可能性が 高い。保健管理センターでは、インフルエンザ迅 速検査を ILI 症例に施行し、5 割に A 型陽性反応 を認めた(図 3)。A 型陰性例には、発症から 24 時 間経過しないと陽性結果が得られないこと、解熱 しなければ再検査が必要である旨説明し、再検査 要請であれば保健管理センターに電話連絡を求 めた。陰性結果であった 63 名中 14 名(22%)に A 型陽性反応が後日認められた。当初既存の迅速診 断キットの検出感度は 40-69%1)と報告され、2009 年 5 月の、神戸・大阪での調査では 54-77%と発 表され、迅速検査が陰性でも新型インフルエンザ を否定できないとされた事から、接触歴や症状か ら強く疑われた場合、近医紹介による投薬お願い や当センターで投薬可能となった後は、検査陰性 であっても本人の同意後に処方した。 今後第 2 波がやってくる可能性に関して、否定 する意見は少ない。一般的に第一波は小児を中心 とした非常に若い年齢層に多く、ここにきて年齢 層が上がってきており、感染症として定着する可 能性がある。新型インフルエンザワクチンは 1 回 接種で効果がある(13 歳未満の小児を除いて) とされている。米国疾病予防管理センター(CDC) の報告では、65 歳以上の高齢者では 3 分の 1 に H1N1 に対する免疫があるとしているが、その理 由として 1957 年以前に流行した H1N1 型ウイルス によるものと理解されている。 今回の新型インフルエンザウイルスは当初予 測したよりも病原性は低く、今後より病原性の高 い H5N1 鳥インフルエンザの人感染例は散発的に 継続しており動向は、引き続き注視し続ける必要 がある。2003 年からこれまで 471 件の人感染例 が認められうち志望者は 282 人で致死率は 59.9% となっている。全体的な傾向として 2006 年の 115 人をピークに、2007 年は 88 人、2008 年は 44 人 と減少化傾向にあったが 2009 年は 72 人と増加に 転じている。致死率に関してはエジプトでの低下 が目立ち、その理由として治療体制の整備を反映 したものと言える。しかし、軽症例の増加がある ことから、今後もウイルス自体の変化を注視する 必要がある。 参考文献 1)MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2009: 58: 826-829 2010/4/9 図1;インフルエンザ流行状況 定 点 当 た り 届 出 数 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 40 図2;インフルエンザ流行状況 (2008年度と比較) 福島大学 センター受診者 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 1 2 3 4 5 2009年 2010年 全国 国 福島県 20 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 1 3 5 週 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 福島大学 09センター受診者 08センター受診者 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 1 2 3 4 5 2009年 2010年 図3:センター受診者のインフルエンザ迅速 検査A型陽性例 100% 80% 60% FluA(-), Fl A( ) 63, 49% FluA(+), 66, 51% 40% 20% 0% FluA(+) FluA(-) 1 生理(月経)の話 保健管理センター 生理とは、毎月起きる子宮からの正常な出血の 事ですが、女性は初潮から閉経までの長い間生理 と付き合うことになります。大抵の女性にとって 生理は煩わしいことですが、妊娠、出産の為には なくてはならないものです。生理を正しく理解し、 出来るだけ快適に過ごすためにどのようにすれ ば良いか書いてみたいと思います。 <正常な生理のめやす> 月経周期とは通常、生理が始まってから、次の 生理が始まるまでをいいます。周期は 25~38 日 間。ずれても予定日の前後 2~5 日程度なら正常 です。精神的なストレスで 1 週間ぐらいずれるこ ともあります。生理の期間は 3~7 日間。量は 50 ~250mL。生理痛はいつもの日常生活が送れ、市 販の鎮痛薬でやわらぐ程度なら心配はありませ ん。 <異常な生理について> 頻発月経 1 カ月に 2 回、 3 回と生理がある状態。 まず基礎体温をつけ排卵があるかを調べましょ う。いずれもホルモン治療が必要ですが、頻発月 経は ホルモンバランスのくずれる更年期に近い 女性に多く、生理ではなく不正出血の場合もあり ます。早めに婦人科を受診しましょう。 ・排卵がない(無排卵性頻発月経) ・排卵はあるが卵胞期(低温期)が短く、生理から 排卵までの期間が短い(卵胞期短縮頻発月経) ・排卵後から次の生理開始までの高温期が短い (黄体機能不全型頻発月経) 希発月経 成熟期の女性で周期が 39 日以上と 長過ぎる生理。排卵があればそれほど問題はあり ませんが、ない場合は不妊症や無月経の原因にも なることがあり、ホルモン療法の必要があります。 過多月経 生理の期間が 8 日間以上続いたり、 眠るのが怖いほどの量やレバー状の大きなかた まりが出たりします。ホルモンバランスの崩れや 子宮内膜症、子宮筋腫などの可能性もあります。 過少月経 出血して 3 日以内で月経が終わっ たり、2 日目でナプキンの交換が必要ないほどの 少量の月経。無月経の前兆症状の場合もあります。 ホルモン療法の必要がある事が多いので、身体に 不調がなくても婦人科を受診しましょう。 <生理痛について> 病気による生理痛 子宮筋腫や子宮内膜症が あると出血も多く痛みも激しく、子宮内膜症は年 川上 敦子 齢がすすむにつれて痛みも激しくなりますが、出 産する事で症状が軽くなる場合があります。 出血困難による生理痛 生理が始まったばか りの人、出産を経験していない人は子宮頸管が細 い為、子宮の中で厚くなった内膜を体外に排出し ようとする時にかなりの痛みを伴います。生理痛 の薬は体に悪いと思い、痛みに耐えている人がい ますが、毎月数日の事ですから、我慢はせずに上 手に使って快適に過ごす事が大切です。痛みはか らだの中に痛みの物質が出来る事で感じます、鎮 痛剤はこの痛みの物質が出来ないように作用す るものなので、痛みを我慢できなくなって服用す るのでは、効き目も半減し効果が出るまでの時間 がかかりますので、ある程度痛みを感じた時点で の服用が効果的です。毎月、生理痛がある人は、 自分がどのタイミングで痛みが出るのかが解っ ていると思いますので、いつでも使えるように、 薬を化粧ポーチ等に入れておくと良いと思いま す。薬が効かなくなったという人は、我慢できな い位の痛みになってから服用しているからかも 知れません。もうひとつ、冷えも生理痛の大きな 原因になります、お腹や腰をホッカイロ等で温め る、暖かい下着を身に着ける、温湿布、入浴など も効果的です。また、痛みに集中してしまうと、 より強く痛みを感じるので、何か他に集中出来る ものがあると良いと思います。 <月経前緊張症 PMS(Premenstrual Syndrome) > 排卵後~月経開始前(黄体期)に日常生活に影 響を及ぼすほどの情緒障害、身体的、行動的症状 を周期的に繰り返す状態を言います。身体症状と しては、下腹痛・腰痛・乳房の張り・腹部膨満感・ 頭痛・頭重感・眠気・むくみ・便秘・下痢・めま いなど。精神症状としては、いらいら・怒り易く なる・情緒不安・抑うつ・涙もろい・判断力低下・ 対人関係の不和・不眠など。これらの症状の種 類・出現時期が一定している事が原則で、月経の ある女性の3~5%に認められます。治療として 食事療法、運動療法、薬物療法などがありますが、 食事療法としてはアルコール、カフェイン、塩分、 脂肪を出来るだけ控え、ビタミン、カルシウムを 含む食品を多く摂る。運動療法としては種類と強 さは特に選ばず、自分なりに毎日少しずつでも規 則正しく定期的に行えるものを見つけることが 大切です。薬物療法には対症療法と排卵抑制法が あります、むくみに利尿剤など各症状別の薬、不 安抑うつに抗不安剤・SSRI(選択的セロトニ ン再吸収阻害剤)などを用います。排卵抑制法と しては、低用量ピルを用いて、排卵を抑制しホル モン量を低下させることにより症状が軽減する ようです。 <生理とダイエット> 日頃無理をして、ダイエットすることが生理不 順の原因となっているケースが多いと言われて います。ダイエットはストレスを伴う為に、ホル モンバランスが崩れ生理不順を引き起こします。 また、ダイエットにより栄養バランスが崩れる事 も原因になります。最近では脂肪がホルモンバラ ンスに影響している事が解ってきました。脂肪が ダイエットにより、過度に失われる事で生理不順 を引き起こしているという説です。生理不順、無 月経が続くと卵巣の機能が衰え、妊娠出産が出来 なくなる恐れがあります。 以上、生理に関する事を書きましたが、本学の 女子学生さんの中にも生理痛でトイレ、講義棟な どで動けなくなってしまう人や、痛みがひどく救 急車で病院に搬送されるような人もいます。その ようにならない為に自分に当てはまること、心配 なことがあれば早めに婦人科を受診して下さい。 保健管理センターでは毎月1回、女性の相談日 として、西口クリニック婦人科の野口まゆみ先生 に来て頂いていますので、気軽にご相談ください。 相談日の日時はS棟保健管理センター掲示板、電 光掲示板、保健管理センターHPをご覧下さい。 --------------------------------------------------ある禁煙日記(その1) 保健管理センター 大学構内に入ると最初に目にするのが『キャン パス内全面禁煙』の標識です。福島大学も1月か ら構内全面禁煙となり、ようやく世の中の流れに 乗ったというかんじがします。全面禁煙までに喫 煙の有害性、喫煙の易依存性、受動喫煙の危険性、 禁煙サポートのノウハウ等々、聞いたことがない という人はいないと思います。それにもかかわら ず、なかなか禁煙できずに肩身の狭い中で喫煙し ている人がいるのも事実かと思います。わかって はいるけど、なかなかやめられないというのも喫 煙事情の特徴でしょう。今回はかたい話はなしに して私事ではあるのですが、絶対に禁煙などする はずがない、できるはずがないと、家族全員が確 信を持っていた人が、なんとか禁煙ができた。と いうことを体験する機会があったので、ここで話 してみようと思います。 このストーリーの主人公になるのは、同居して いる 77 歳の義父にあたる人物です。義父は職業 柄仕方なく(?)たばこを吸い始めたそうです。 職業は、団体職員で残業、会議、接待が多く、本 人いわく、タバコなしでは勤まらないという状況 だったそうです。団体の幹部になってからは、会 議、はんこ押しが勤務時間の大半を占めることが 渡辺 千秋 しばしばあり、くわえたばこでなくては両手が空 かないので、仕事にならないという状況だと、豪 語していました。くわえたばこで仕事をするなん て私たちの常識ではありえない、それだけで絶句 してしまいます。その感覚の人ですから、本数も けたちがいです。絶好調の時には、口からタバコ を離さないので、就寝時と食事以外はたばこを吸 っているというようなときもありました。喫煙が 人体に与える影響は、過去から現在までの喫煙量 と関係しています。その総量を割り出す指標とし て、1日当たりの平均喫煙量(本数)と喫煙年数 を掛け合わせた喫煙指数(ブリンクマン指数)が よく用いられています。400 以上で肺癌が発生し やすい状況になり、600 以上の人は肺癌の高度危 険群といわれています。また、1200 以上で喉頭 癌の危険性が極めて高くなるといわれています。 義父は、そのブリンクマン指数が 2000 を超えて います。喫煙年数も長いのですが、1日当たりの 平均喫煙本数も多い時では、2箱(40 本)をゆ うに超えていました。どう考えてもこのままでは 何か病気にかかってしまう、そんな周囲の忠告に 耳をかすこともなく、健康診断も異常なく、経過 してしまっていました。 50 歳頃から、血圧がやや高めとなり、痰も多 くなり、75 歳ころから動脈血酸素飽和度(正常 値 97~100%)は 95%前後と呼吸機能もやや低下 傾向が見られ、自覚的には変化がなさそうでも禁 煙が必要であることは明らかとなってきました。 そこで、区切りのいいところから禁煙プロジェク トをやろうと、看護師をしている義理の姉と当時 看護学生だった長女と3人で、何回も何回も説明 をして、もちろん義父本人も(しぶしぶ)やるし かないと思ったようでした。ここ3,4年は1月 1日になると、今年こそはということで喫煙本数 を減らす試みはしていました。1月1日15本、 1月2日10本、1月3日5本というようなとこ ろまでいくのですが、いつのまにか30本になり、 もとどおりになっているような有様でした。ニコ チンの量が少ないほうがいいのだからと≪ター ル1㎎≫というようなものを吸ったこともあり ました。しかし、それでは軽すぎてよけい本数が 増え、不経済であるという理由で≪タール3mg ≫というもので本数を減らせばいいんだといい、 はじめは一箱くらいでも、徐々に2箱目に手が伸 びてしまうということもありました。絵にかいた ような3日坊主です。こんな調子なので、本当に 禁煙できるのだろうかと、私自身も不安というか、 あきらめたような気分で始めてみました。 昨年(平成21年)1月 5 日、本格的禁煙プロ ジェクトを開始としました。その日は、義父から 見れば長男の誕生日でした。長男はタバコが大嫌 いなので、その件では二人はかなり険悪でした。 長男の『どうせやめられないと思うよ、100 万円 かけてもいいな。』というような嫌みともとれる 言葉の中で、第 1 回目の禁煙がスタートしました。 早速、お年玉の代わりに、ニコチネルパッチをプ レゼントしました(総額 22050 円) 。義父は、『そ んなものなくてもいつだってやめられるんだ。』 とうそぶいていました。前日の入浴後にニコチネ ルパッチを貼り、それを家族が確認し、就寝しま した。明朝起床後、早速起きがけの 1 本を吸って いたのでびっくりしてやめさせた、ということか ら 1 日目が始まりました。ニコチネルパッチを貼 っているということは、経皮的にニコチンをとり こんでいるということ、すなわち常時たばこを吸 っているという状況を意図的に作り出している わけです。そこにさらに喫煙をするということは、 ニコチンの過量接取による急性ニコチン中毒を 引き起こす恐れがあり、非常に危険なわけです。 そのことは何回も説明をしました。しかし、何回 も何回も説明をしたのにもかかわらず、1 本も吸 ってはいけないということが初めから守ること ができませんでした。義父は『初めから完全には やめられないから徐々に減らしていくんだ』と悪 びれる様子もありません。悪いことに、ニコチネ ルパッチを貼ったうえで喫煙しているのにもか かわらず、自覚的には何の変化もなく元気なので す。『このテープを貼っているということは、タ バコを 20 本すでに吸っていることになるんだか らもう吸わなくてもいいんだよ。吸っちゃだめな の。』というと、『いままで 30 本は吸っていたん だから、じゃ、あと 10 本は吸えるな。』といった 具合です。これで禁煙に行きつけるのか、全く不 透明な状況でした。とりあえずは家族も目を光ら せ、タバコの吸い殻の本数を数え、少しの間はな りゆきを見守ることにしました。≪ニコチネルパ ッチ 20≫を 6 週間貼り続け1ステップが終了に なります。そのころは、ニコチネルパッチを貼り ながら 1 日当たり 5 本程度の喫煙に減ってはいま した。その後は、≪ニコチネルパッチ 10≫を2 週間貼り、プログラムは終了の予定となります。 プログラム終了の頃も、相変わらずニコチネルパ ッチを貼りながら 5 本程度喫煙していたので、以 前よりは体内のニコチン量は減少していること にはなったのですが、禁煙はできませんでした。 しかも時期を同じくして、以前から予定していた 10 日間ほどの旅行にでかけました。家族の監視 もゆるんだからかどうかはなんともいえません が、旅行から帰った時には、ほぼ元通りに戻って いました。『あれ、旅行中にやめるって言って出 掛けたんだよね。』というと『一箱(20 本入り) は吸ってないから、上出来だ。』というような答 えが返ってきました。『これまでどこも悪くなっ てないんだから、これからも大丈夫だと思うよ。 たばこなんて吸っても、何でもない人は、なんで もないんだな。』こうして 1 回目の禁煙プロジェ クトは玉砕されました。しかし、このあと、とん でもないことが起こってしまいました。 (つづく) ----------------------------------------------------------------------------- 「お酒の知識」再確認 -急性アルコール中毒で命を落とさないために- 保健管理センター 1.はじめに 今年も、桜の季節を迎え、新入生歓迎会、お花 見などでお酒に親しむ季節が巡ってきました。友 と語らう楽しいお酒はいいのですが、イッキ飲み など間違った飲み方をしての事故が心配される ところです。毎年、「イッキ飲み防止連絡協議会」 をはじめとしたイッキ飲み防止のキャンペーン が張られていますが、急性アルコール中毒で亡く なる学生や若者が後を絶ちません。先月(3 月) も佐賀大学の 1 年生が亡くなっています。なぜこ んな悲しいことが繰り返されるのでしょう。本学 においても、死亡事故こそありませんが、毎年、 先輩に飲まされたといって体調を悪くして保健 管理センターを受診する新入生がいます。話を聞 くと、いつ事故が起こってもおかしくない状況で す。大学としては折に触れイッキ飲みしないよう に注意喚起しているところですが、安易な気持ち で飲んだり、飲ませたりしてしまうようです。お 酒の知識、怖さを再確認しましょう。 2.本来、お酒は楽しむもの 日本の飲酒文化は、昔、日頃の楽しみがほとん ど無い時代にあって、五穀豊穣を願ったり祝った りする「ハレ」の日(日常とは違う特別の日)の ために酒を仕込んで皆が待ちに待っていたもの でした。「ハレ」の日になると、神様の前に酒が 備えられ、神様と人とがともに酒を酌み交わすと いう名目で、神事や祭りに参加した者すべてが酒 にありつきました。現在のように、お酒がいつで も手に入る時代にあっても、歓迎会や送別会、ク ラブの打ち上げ等、現代の「ハレ」の日には人間 関係の潤滑油としてのお酒を楽しみたいもので す。 3.お酒の功罪 1)適量飲酒 「酒は百薬の長」といわれ、適量飲酒は長生き をするといわれています。実際、まったく飲まな い人よりも、少し飲む人のほうが、心疾患にかか る割合が少なく、長生きをするというデータがあ ります。多量に飲めば、もちろん死亡率は高くな ります。これをグラフで表すと、J の字を描くの で「J カーブ」とよばれています。また、適量飲 酒はストレスを解消し、一日の疲れを癒し、スト レスによって起こる病気の予防にもなります。大 渡辺 厚 学生の場合は、習慣的に飲むわけではないので、 人間関係の潤滑油として使いましょう。お酒は飲 むためのものではなく、人付き合いに際に必要な 道具として上手に使いましょう。 2)過量飲酒 飲み過ぎはもちろん心身に害を及ぼします。 「酒は万病の元」「過ぎたるは及ばざるがごと し」といわれる所以です。 ⅰ.臓器への影響:内臓への害としては、胃炎、 肝障害、膵炎、心疾患、神経障害、脳障害などが あります。ウィスキーなどのアルコール度の高い お酒をそのまま飲むと、デリケートな胃粘膜はす ぐに傷害されて小さな点状出血を起こします。こ れはすぐに修復されますが、繰り返し飲んでいる と胃炎などの病気になってしまいます。お酒は薄 めて飲みましょう。胃腸から吸収されたアルコー ルは肝臓に運ばれて代謝されるので、肝臓には大 きな負担がかかります。負担が持続すると、肝臓 の機能が傷害されて脂肪肝や肝硬変という病気 になってしまいます。脂肪肝は快復しますが、肝 硬変になるともはや回復不能です。また、膵臓が 侵されると、膵液が周囲の組織を溶かし急死のお それのある重大な事態を引き起こします。その他、 心臓や脳・神経系などにもアルコールの害は知ら れています。 ⅱ.女性の飲酒問題:女性の飲酒の影響について は、女性は男性よりもアルコールの害を受けやす く、短期間で肝障害を引き起こしたり、アルコー ル依存症を発病したりしやすく、治療後の経過も 思わしくありません。その理由は、女性は男性に 比べて肝臓が小さく代謝能力が小さいことや、女 性ホルモンがアルコールの分解を抑制するため 血中濃度が高くなりやすいためといわれていま す。また、妊娠している女性が飲酒をすると胎児 に影響します。摂取したアルコールが胎盤を通っ て直接胎児に運ばれるからです。妊娠中の飲酒は、 場合によっては「FAS」(Fetal Alcohol Syndrome 胎児性アルコール症候群)を引き起こすこともあ ります。FAS の赤ちゃんには、発育障害、知能障 害、顔貌異常などの障害がみられます。 ⅲ.未成年者の飲酒:未成年者の飲酒は法律で禁 止されていますが、これにはもちろん根拠があり ます。主に次のような理由からです。一つは、ア ルコールが成長を阻害するからです。脳が未完成 の未成年者では脳の萎縮を来すおそれがありま すし、性腺が萎縮して、インポテンツ、月経不順 になる可能性があります。2つ目には、未成年者 はアルコールを分解する仕組みが未熟であり、ま た、心が未発達なため適度な飲酒をするという判 断力もなく、自己規制がききません。そのため、 急性アルコール中毒になる危険性が高いし、アル コール依存症になりやすくなります。3 つめとし て、飲酒の快感だけに耽ってしまい、他の楽しみ 方を学ぶ意欲をなくして人生の幅を狭めてしま います。 ⅳ.アルコール依存症:長期大量にお酒を飲んで いると、心も体もお酒がない状態でいられなくな ります。心の面では、酔うことの快感や、酔った ときにいやなことから開放される不快感の消失 からお酒をやめられなくなります(精神的依存) 。 体の方では、お酒が切れてくると、手が震えたり、 幻覚が起こったりする不快な体験が起こり(離脱 症状)、再飲酒するとこれらが消えるためにお酒 がやめられなくなります(身体的依存)。一日中、 お酒のことにとらわれてしまい、仕事も手につか ず、社会から脱落し、家庭崩壊に至ることもあり ます。 4.危険性なイッキ飲み お酒を飲むと、アルコールは胃から 20%、小 腸から 80%が吸収されます。そして、門脈を通 って肝臓に運ばれ、そこで代謝されます。しかし アルコールを処理できる量はだいたい決まって います。体重 60 キロの人で、1時間で、日本酒 0.4 合(コップ半分弱)くらいです。これを越え て飲んだ分は、肝臓で代謝を受けないでそのまま 血液中に入り全身を回ります。脳に行った分が酔 いを起こします。酔うとは、アルコールによる麻 酔作用ですが、少量では、大脳新皮質が適度に麻 酔されて、心の抑制がとれて人との交流がスムー ズになります。これが、お酒の効用になりますが、 大量に飲むと脳の奥深いところにある脳幹の呼 吸中枢が麻酔されて死に至ります。また、そこま でいかなくても、吐いたものをのどに詰まらせた り、交通事故にあったり、おぼれたり、外で寝込 んでしまって凍死したりで死に至ることがあり ます。イッキ飲みをすると、アルコール血中濃度 が一気に上がってしまいコントロ-ル不能とな って大変危険です。 5.急性アルコール中毒またはその疑いで死亡し た人たちの例 平成 3 年、中央大学理工学部1年加久聡君は、 運動部の集まりに参加し、先輩に勧められるまま に、日本酒 4-5 杯、ストーレートのウィスキー4-5 杯をイッキのみしました。1 時間で腰が抜け、便 所でもどし、 「つぶれた学生の部屋」に寝かされ ました。翌朝、様子がおかしいことに気づかれ車 で病院へつれて行かれましたが死亡しました。聡 君のお父さんが「イッキ飲み防止連絡協議会」を 平成 4 年 10 月に組織し、ポスターなどを作成し キャンペーンを始めました。しかし、その後も、 事故は続き、平成 6 年 5 月には同志社大のテニス サークルの学生が酔って鴨川に入りおぼれて死 亡、同年 6 月には専修大学 1 年の学生が焼酎をス トレートで約 5 合を飲み急性アルコール中毒で 死亡、同年 9 月には、北海道大学の2年生が日本 酒一升を飲み、やはり急性アルコール中毒で死亡 など、注意喚起によっても死亡者が後を絶ちませ んでした。平成 11 年 6 月、熊本大医学部漕艇部 の新入生歓迎会で一人が亡くなったときには、会 に参加した教授、OB 医師、学生達が両親から告 訴され、保護責任者遺棄致死、傷害致死などの容 疑で熊本地検に書類送検されました。起訴には至 らず事件にはなりませんでしたが、民事訴訟では 損害賠償請求が認められています。 「イッキ飲み防止連絡協議会」を始めとしたイ ッキ飲み防止活動の成果もあり、平成 13 年頃か らは死亡事故が減り、死亡者が 0 の年もありまし たが、平成 20 年には 5 人と再び急増しました(「イ ッキ飲み防止連絡協議会」のデータより)。最近 の事例をいくつか新聞記事から拾ってみました。 ・平成 20 年 4 月 27 日午前 7 時ごろ、一橋大学 小平国際キャンパスの学生寮の部屋で、同大 1 年 の男子学生がぐったりしているのを友人が見つ けた。学生は病院に運ばれたが、約 2 時間後に死 亡が確認された。男子学生は 26 日午後 8 時ごろ から寮内で、1、2 年生 11 人とビールや焼酎など を飲んでいたが、27 日午前 3 時ごろに体調が悪 くなり、自室に戻って寝ていた。この日は寮生の 一部が集まり、新入生を歓迎するコンパをしてい たという。(平成 20 年 4 月 28 日時事通信) ・平成 20 年 10 月 23 日、明大相撲部の合宿所 で、同大応援団吹奏楽部に所属する商学部 2 年の 男子学生が大量に酒を飲んで死亡。明大によると、 22 日夜、合宿所で相撲部と吹奏楽部の懇親会が 開かれ、ちゃんこ鍋を食べながら酒を飲んだとい う。死亡した男子学生は途中から寝ていたが、ほ かの学生が容体がおかしいことに気付き、午後 10 時 40 分ごろ、消防に通報。病院に運ばれたが、 翌 23 日朝に死亡したという。(平成 20 年 10 月 24 日産経新聞) ・平成 21 年 3 月 5 日、愛知学泉大学の合宿所 で、同大家政学部1年の男子学生が死んでいるの を友人が見つけた。県警岡崎署は、男子学生は 4 日夜から飲酒し、吐いた物で呼吸できなくなった 窒息死や急性アルコール中毒の可能性もあると みて、司法解剖して死因を調べる。同署によると、 男子学生はバスケットボール同好会に所属し、4 日午後7時ごろから、卒業生の追い出しコンパの ため、約 25 人で飲酒していた。男子学生は酔い つぶれたらしく、5 日午前 3 時ごろ、友人が介抱 し、布団に寝かせた。布団には吐いた跡があり、 男子学生の口からのどにかけて吐いた物が詰ま っていた。(平成 21 年 3 月 5 日毎日新聞) ・平成 22 年年 3 月 15 日、佐賀大(佐賀市)は 13 日夜に開かれた同大ラグビー部の「卒業生を 送る会」に出席して酒を飲んだ理工学部1年の男 子部員(19)が、14 日になって死亡したと発表し た。急性アルコール中毒の疑いがあるという。男 子部員は1次会でビールや日本酒の一気飲みな どをしたが、飲酒の強要はなかったという。佐賀 県警佐賀署が司法解剖をして死因などを調べて いる。(平成 22 年 3 月 16 日毎日新聞) 6.命を救う4回のチャンス 急性アルコール中毒またはその疑いで死亡し た例では、大量に飲酒した(させた)後、周囲の 人が介抱せずに目を離したり、イッキのみが表沙 汰になることを恐れて救急車を呼ぶことをため らったりしたことが大きな要因になっています。 こうならないように「イッキ飲み防止連絡協議 会」では、「命を救う4回のチャンス」として次 のことを勧めています。 ○その1 イッキはさせない 短時間に大量のアルコールを摂取すると、体内 でのアルコールの処理が間に合わなくなり、急性 アルコール中毒になってしまう。イッキのみ、イ ッキのませは命にかかわる。はやすだけでも殺人 行為になりかねない。一人一人の飲むペースを尊 重しよう。 ○その2 酔いつぶれた人を絶対一人にしない 窒息、転落、水死、凍死、交通事故など、泥酔 した人を一人にすると何が起きるかわからない。 「息苦しそう」「全身が冷たい」「大いびきをか いている」「つねっても反応しない」などの危険 信号を見逃さないためにも、しらふの人が側にい てあげよう。 ○その3 横向きで自然に吐かせる 酔いつぶれた人を、抱き起こして無理に吐かせ るのはとても危険である。吐いたものが逆流して 喉に詰まり、窒息することもある。窒息が原因で 死亡する人は意外と多い。寝かせるときは、仰向 けではなく、横向きに! ○その4 おかしいと思ったらためらわず救急 車を 耳元で名前を呼んだり、つねったり体をゆすっ たりしても反応がなかったら昏睡状態である。そ の人は今“死”と紙一重のところにいる。「こと を大きくしたくない」などの対面を気にしている 場合ではない。わずかなためらいで助かる命も助 からなくなってしまう。すぐに救急車を呼ぼう。 7.終わりに うららかな春の日、花の下で友と楽しく語らう のは至極の喜びです。お酒は、この喜びを増すた めの道具の一つとして傍らに置き上手に使いま しょう。人間関係の潤滑油としての適正量は日本 酒で 1 合ないし 2 合程度です。決してお酒に飲ま れることの無いように節度を持って楽しみまし ょう。 参考文献およびホームページ 1.「お酒の健康科学」、 「アルコールと健康」研 究会編、金芳堂 2.「イッキ飲み防止連絡協議会」ホームページ、 http://www.ask.or.jp/ikkialhara.html 3.「人とお酒のイイ関係」冊子、アサヒビール 株式会社企画・制作