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法的リスクに備えた 意識改革を
弁護士 中村隆夫 Takao Nakamura 鳥飼重和 Shigekazu Torikai 撮影/黒田雄一 う 基 本 法 の 中 に 入 っ て く る 点 や、 ﹁一般の人が普通に読んでもわか る法律にする﹂という基本的な考 え方などが特に大きく効いてくる いった作業はあるでしょうね。労 鳥飼 特に金融業界ですと、これ までの約款・契約書等の見直しと で引上げられるところは、やはり 保護の概念が民法と同じレベルま 今まで特別法の中に押し込めら れていた契約関係における消費者 のではないかと思います。 働法等との兼ね合いからも、この 大きな改正ポイントでしょう。 とが考えられます。 経営サイドでは、改正内容を理 解するのと同時に、担当者へしっ かりと指示をして、理解・考え方 を徹底させることで社内体制を固 正となれば、これまでとは比べも 現在審議されているような方向 で 民 法︵ 債 権 関 係 ︶が 全 面 的 に 改 きる社会を作っていく必要がある 費者が満足して、安心して活動で 事足りるということではなく、消 めておかないといけません。 のにならないくらい経営リスクが ということは、近年の社会の全体 現在進められている債権法の改 正論議については、どのような感 想をお持ちですか。 中村﹁過失責任主義﹂の扱いなど をはじめ、アカデミックな部分の 議 論 は 数 多 く あ る と 思 い ま す が、 実務的なインパクトとしては﹁消 費者契約法﹂で規定されていた思 企業経営へも大きな影響が予想さ れる債権法改正。法務の現場だけ でなく、経営者サイドや組織全体 としての対応も必要となりそうだ。 求められる企業の意識改革につい てプロに聞いた。 債権法が改正されることで、企 業にはどのような影響が出てくる のでしょうか。 鳥飼 大企業だけでなく、中堅・ 中小企業にも影響が大きいでしょ うね。 全体の流れとも 平 仄が合っている な改正が企図されることは、社会 ので、このタイミングでこのよう 的な流れでもあるように思います なされるかにもよりますが、その どの程度まで具体的な論点整理が 手続に付される予定とのことです。 クコメント︵以下﹁パブコメ﹂ ︶の 見が本格的に出されてくることに での民法であっても何とかなって す る か も し れ ま せ ん。 ﹁別に今ま は、さまざまな立法・行政分野な という感もありましたが、最近で 論点整理以後も注目されますね。 中村 パブコメというと以前はあ る 種 の﹁ ガ ス 抜 き ﹂の よ う な 手 続 なると思います。 いるじゃないか﹂という意見もあ どにおいてパブコメで得られた意 平成二三年春には中間的な論点整 れてきてはいないように思います。 いて、あまり本格的に採り入れら 今 回 の 改 正 の 動 き に 関 し て は、 実務側・産業側の意見・視点につ 吟味していく必要性が高いでしょ パブコメで得られた意見を十分に への影響が大きい内容については、 権法のような産業界や経済界全体 も出てきているようです。特に債 があるだろうと思います。 から準備を進めていくことに意味 の基本的な流れに目を配って、今 経営者としては、現在の改正議論 止められないものと思いますので、 ただ、 先ほど申しあげたとおり、 消費者保護を重視していく流れは むのか疑問もありますね。 したがって、中間的な論点整理 の後も、トントン拍子で改正が進 う。 理が行われて、いわゆるパブリッ 見が相当程度反映させられる流れ るでしょう。 中村 企業側から見ると、このタ イミングでの改正は唐突な感じが 企業側としては、いかがでしょ う。 段階からは各界からさまざまな意 部統制への対応のように、経営に 現場だけの対応になると、金融 商品取引法︵以下﹁金商法﹂︶の内 な対応ができませんから。 そうでないと、経営問題への適切 考え方を改めなくてはなりません。 担当者のみの対応では難しいと。 鳥飼 債権法の改正問題は、経営 問題ですから、経営トップ自らが ﹁法律問題﹂が ﹁経営問題﹂に があります。 営問題となることを理解する必要 改正に関心を持ち、法律問題が経 の経営者・経営幹部も、債権法の となれば、大企業の経営者・実 務担当者のほか、中堅・中小企業 大きな影響が出てくると思います。 規模や業種に限定されることなく、 で 進 め ら れ て い ま す。そ の た め、 この改正は、消費者をより手厚 く保護していこうという流れの中 「法的リスクに備えた 意識改革を」 のではないかと思います。 債権法改正と企業経営 パブコメの反映により 中間的な論点整理の後も トントン拍子で改正が進むか 疑問もあります。 拡大することは明らかです。 消費者保護の観点は重要ですね。 中村 経済社会の健全な発展のた めに、生産者側だけを保護すれば ﹁生産者側だけの保護﹂ では事足りない ままの契約状況では難しくなるこ でしょうか? 実務面で言うと、どういった作 業が発生してくる可能性があるの まうからです。 プラスにならない対応になってし and 想や概念が民法ないし債権法とい 8 会社法務A2Z 2011.1 会社法務A2Z 2011.1 9 弁護士 特集 企業マネジメントと 債権法改正 被害を最小限に防ぐ コンプライアンス ら改正法が施行されている。 今回の同法改正は﹁事業者間の公正な 競争の確保の観点から、事業者が保有す る営業秘密の一層の保護を図るため、営 業秘密の刑事的保護について、その対象 範囲の拡大等の措置を講ずる﹂ことを主 目的としている。以前より日本企業から 外国企業への営業秘密の流出が問題とな っており、これまで幾度かの不正競争防 止法の改正を経て営業秘密の保護強化が 図られてきたが、実際にはその保護は不 十分なものであった。 ﹁産業構造審議会知的財産政策部会技術 情報の保護等の在り方に関する小委員会﹂ で、平 成 二 〇 年 一 二 月 に﹁ 営 業 秘 密 に 係 ⑵ 原則として「使用・開示」行為を処罰の対象としている営業秘密侵害罪の行為態様を 改め、営業秘密の管理に係る任務を負う者がその任務に背いて営業秘密を記録した媒体 等を横領する行為、無断で複製する行為等について、処罰の対象とする。 はじめに 不正競争防止法の分野が知的財産実務 で重要性・存在感を増してきている。 一つには、商標・意匠などの産業財産 権ならびに著作権で十分に保護されない 場合に、不正競争防止法が実務で補足的 ・補充的に活用されることが多くなって きている。今回の法改正で保護が強化さ れた営業秘密も産業財産権ならびに著作 権では保護されないが、不正競争防止法 で補足的に保護を受けることができる。 他方では、特許侵害訴訟が提起される 場合に、相手方やその取引先へ警告書を 送付することが考えられるが、 これらは、 もし後日根拠となっている特許が無効と された場合には、相手方やその取引先の 営業上の信用を害する虚偽の事実を告知 する不正競争行為に当たるとされる。 そこで本稿では、まず不正競争防止法 の改正の背景・ポイントを説明し、次に 不正競争防止法の最新重要判例を紹介し、 これらの実務上の指針を示すこととした い。 不正競争防止法の改正の 背景およびポイント 出典:経済産業省ウェブサイト「改正不正競争防止法の概要」 牧野和夫 (上) 目的要件 不正競争防止法の一部を改正する法律 ︵ 平 成 二 一 年 法 律 第 三 〇 号 ︶が 平 成 二 一 図利加害目的 (現行不正競争防止法 2条参照) 不正の競争の目的 行為様態 弁護士・弁理士・米国弁護士 大宮法科大学院大学客員教授 〈営業秘密の管理に係る任務を負う者の処罰対象範囲〉 改正ポイントと 最新重要判例・ 実務上の指針 ⑴ 営業秘密侵害罪における現行の目的要件である「不正の競争の目的」を改め、 「不正の 利益を得る目的」または「保有者に損害を与える目的」とする。 年四月に成立し、平成二二年七月一日か 領得 使用・開示 る刑事的措置の見直しの方向性について ︵ 案 ︶﹂を 公 表 し て お り、そ の 中 で、平 成 一八∼二〇年に経済産業省が実施したヒ アリング調査を基に以下の問題事例を作 成 し て い る︵ 以 下、経 済 産 業 省 ウ ェ ブ サ イトより引用︶。 ︿革新的技術の試作品の不正流出と 立件における問題点﹀ ある企業が約一〇〇億円の研究開発費 をかけて開発した革新的な製品の製造方 法に関する設計図面とその試作品が持ち の3つの視点から、以下の改正を行うものである。 1 改正後 正当な目的 不正競争防止法 ① 企業の競争力の源泉である無形の技術・ノウハウ等の保護強化 ② IT化・ネットワーク化の進展への対応 ③ オープン・イノベーションの促進 30 会社法務A2Z 2011.1 会社法務A2Z 2011.1 31 出された。 同企業は、刑事事件として警察に捜査 を依頼したが、技術情報の価値は評価さ 主な改正後の内容