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不正競争防止法(1)> さて、次に、レジュメ5ページから

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不正競争防止法(1)> さて、次に、レジュメ5ページから
不正競争防止法
<不正競争防止法(1)>
さて、次に、レジュメ5ページからということで知的財産法の条文に入っていきます。
1 番最初に、1 番簡単な法律からいきましょうということで、デッド・コピー規制をやり
ます。条文は不正競争防止法の2条1項3号。ちょっと括弧書きが多くて読みにくい条文
ですが、カッコを飛ばして読むとすっきりしています。「他人の商品の形態を模倣した商品
を譲渡云々」と書いてありますが、要するに、他人の商品の形態を模倣した商品を取引に
置く行為が禁止されています。ここでいう「模倣」とは、いろいろな議論はありましたが、
デッド・コピーのことだというのが、一般的解釈です。これは 1993 年に初めてできた条文
です。1993 年は不正競争防止法の全面改正があった年なのですが、そのときに新設された
条文です。
この条文の趣旨をお話しするにあたって、まず、模倣と書いてありますが、いろいろな
理由で、模倣全般をだめだといっている条文ではないというのが、ほぼ異論のない解釈で
すので、これはデッド・コピーのことだというふうに読み替えてください。逆にいうと、
模倣全部が禁止されているわけではなくて、デッド・コピーだけが禁止されている。その
理由を申し上げます。レジュメの5ページに行く前に、まずおさらいです。他人の商品の
模倣行為がすべて禁止されているわけではありません。これについては既にお話ししまし
たが、もう少し詳しくお話しします。
いくつかのタイプがあります。1つは、そもそも知的財産権の保護の対象になっていな
い創作的な商品があります。たとえばタイプ・フェイスです。タイプ・フェイスというの
は難しい言葉ですが、文字の書体のことです。これはワープロの文字なのですけれども、
明朝体、ゴシック体、行書体などいくつにも種類が分かれていて同じ明朝体の中でもさら
に種類が分かれています。そして、その開発には大変な費用がかかっています。欧文です
と 26 文字にちょこちょこ記号を加えるだけですぐできるのですが、欧文と違って日本語の
場合は、あるいは中国語でも同じですけれども、漢字があるので、8,000 字とか、1万字、
2万字とか作らなきゃいけない。それを統一感を持ったデザインにしなければいけないの
で、タイプ・フェイスの作成には相当なコストがかかっているのです。ところが、タイプ・
フェイスをちゃんと守る法律はないのです。そのような法律は待望されてはいるのですが、
ありません。ですから、現時点でタイプ・フェイスは知的財産権の保護の対象になりませ
ん。
それから、新種の雑誌、新しい種類の雑誌、
『ヤングジャンプ』という概念、アイディア
をまねすること自体には知的財産権の保護が及んでいません。そういう商品が世の中には
あります。
それから、知的財産権はあるのだけれども、それがうまく機能していない場合もありま
す。レジュメの5ページに、「工業所有権」と書いてしまいましたので、工業所有権とは何
か、ここで説明しておきます。知的財産法というと不正競争防止法まで入りますが、不正
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不正競争防止法
競争防止法以外の権利と名がつくようになっているものを知的財産権と呼びます。ここら
辺は細かな言葉遣いで、重要ではありません。工業所有権というのは出願して初めて権利
になるものを指します。特許権、実用新案権、意匠権、それから商標権も工業所有権です。
これらは特許庁に出願する必要があります。同じように、特許庁ではないのだけれども、
やはり出願して権利になるものとして、半導体回路配置権であるとか、育成者権も工業所
有権と呼ばれます。だから、レジュメ4ページの図の下段から著作権を除いた部分と上段
の商標権を入れた部分が工業所有権と呼ばれます。著作権は、著作物を創作すると同時に
権利が生まれて、出願などは必要ないですから、工業所有権からは外れます。この工業所
有権、最近では産業財産権と呼ぼうという風潮が出てきていて、もう少しすると産業財産
権というほうがとおりがよくなると思いますが、今はまだ、工業所有権と呼んでいること
が多いです。
さて、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの工業所有権ですが、これらは特許庁
等に出願しなければいけない。そうすると、出願した後、実用新案権は別ですが、意匠権
とか、特許権ですと、審査があります。出願後、登録の要件が備わっているかどうか審査
をしてから権利になる。その間に時間が流れます。1年半であるとか、2年半であるとか
の時間が流れます。そうすると、例えばデザインの権利として意匠権というのがちゃんと
あるのですけれども、2年間とか、1 年半とか商品のライフ・サイクルがすごく短い商品、
流行に左右されやすい商品・・・衣服のデザインなどがそうですが、そういう商品のデザ
インは意匠出願してもばかばかしいのです。出願して権利になるころにはもう商品生命が
終わっている。出願料が無駄、あるいは弁理士さんにお金を払って出願すれば、その分も
無駄になるということで、あまり意味がない。そういう意味では、知的財産権制度はある
けれども、あまり利用されておらず模倣行為が自由な分野があります。
それから、そもそも、知的財産権を取得できる、立派な保護が与えられるのだけれども、
面倒くさいとか、よく知らないとか、あるいは費用がかかるという理由で、特に出願系の
産業財産権、工業所有権制度を利用していない商品もたくさんあります。
こういう商品がなぜ開発されるのか、なぜ、自由に模倣されてしまうのに、ファースト・
ランナーになろうとするのかというと、既にご説明した話ですから簡単に言いますが、市
場先行の利益があるからです。市場先行の利益があるからこそ、レジュメ5ページの真ん
中辺りに書きましたA時点、つまりファースト・ランナーが新商品を開発して販売した時
点から、B時点、つまりセカンド・ランナーが模倣を始める時点までのタイム・ラグの間
は市場を独占できるし、またこのタイム・ラグ中につかんだ顧客であるとか、つくった販
路を利用して、タイム・ラグ以降も有利に競争できる。それから、最後にもう1つ、タイ
ム・ラグ中に培った評判、信用を生かすこともできるということで、ファースト・ランナ
ーになるのもそんなに悪くないな、セカンド・ランナーもいいかもしれないけれども、フ
ァースト・ランナーもそんなに悪くないなということで、模倣が自由であるにもかかわら
ず、これらのタイプの商品、営業が開発されるわけです。
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ところが、基本的に模倣は自由でも良いのですが、デッド・コピーまで許されてしまう
と、この市場先行の利益が半ば失われてしまう。[デッド・コピーによる模倣の場合]とい
うことでレジュメ5ページの下にほうに図を書きましたが、デッド・コピーの場合、タイ
ム・ラグがすごく短くなってしまう。なぜかというと、開発がより簡単だからです。その
うえ、独自の開発がほとんどいらないので、デッド・コピーは普通の模倣行為よりも労力、
費用が節約出来て、とても安く競争できる。セカンド・ランナーが非常に有利になります。
それから、やはり既に説明しましたが、レジュメ6ページの最初に書いてあるように、
模倣者はビジネス・リスクを負わないので、より有利だということもあります。従って、
デッド・コピーまで含めて模倣を全部自由にしてしまいますと、セカンド・ランナーのほ
うがファースト・ランナーより非常に有利となってしまい、市場先行による利益とインセ
ンティヴが失われてしまうため、新商品の開発が著しく減退するという問題があります。
そういうことで、1993 年改正で、新しくデッド・コピー禁止の条文ができたわけです。
改正までは、デッド・コピーが違法かどうかわからなかったのですが、1991 年の木目化粧
紙の事件のように、デッド・コピーについて不法行為を認める判決も出た。何かしようと
いうことで、1993 年に不正競争防止法の改正がされたのです。その際にいろいろな議論が
ありました。私自身も条文の起草に携わっていましたので、非常に鮮明に覚えているので
すが、1 番最初に、やはりせっかく改正をするのだから、当時は通産省なのですが、今の経
産省です、この通産省が主導して改正するのだから目玉が欲しいということになりました。
単に新しい条文を作りましたではなくて、目玉が欲しいということで、商品の模倣行為を
なんとか規制しようというふうに思ったのです。最初そういうふうに打ち出したら、やは
り産業界から、なんだ、それ、模倣って何だ、模倣は全部アウトなのか、どんな模倣がア
ウトになるかわからないじゃないか、といろいろな反対があった。そういう中で落ち着き
先として見つけたのが、デッド・コピーを禁止するのでいいのではないか、産業界もそれ
だったらいいだろうということで、まとまったわけです。どうしてまとまったのか、ある
いはどうしてこんな条文になったのかというお話をします。
趣旨は今までお話ししたことです。商品のデッド・コピー行為を禁止して、市場先行の
利益とインセンティヴを保障する。それによって商品化のためにファースト・ランナーが
かけた労力、時間、費用の回収を困難にしないようにするということです。これが趣旨で
す。
要件については、最初はいろいろな意見がありました。一般的に 1 番多かった、あまり
アンケートもとっていませんけれども、たぶん、もし学者さん達に聞くとしたら、たぶん 1
番多く出たのはこんなようなタイプの条文だろうというのは、
「創作的価値のある商品を不
正競争の目的を持って模倣する行為」というような一般的な条文です。当時、多数決でや
ると、こんな感じになったでしょう。でも、これだとたぶん産業界の反対はものすごく強
かったと思います。創作的価値というのは何だろうとか、不正競争の目的というのは何だ
ろう、模倣というのは何だろうという問題があります。
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それに対する当時の考えの基礎というのは、違法、公序良俗に反する、ビジネスの倫理
に反するような行為を不正競争行為として禁止しようというような、わりと漠とした議論
だったのです。そうすると、どうやったって一般的な条項になりがちです。もっと明確に
趣旨を決めて、要件をきっかり決めようというのが私の提案でした。市場先行の利益を守
るという趣旨に合わせて要件をきちんと組み立てるべきだという、そういう考え方です。
私が打ち出したのは3原則です。
3原則の1つは、規制行為は、模倣行為などと広く言わずにデッド・コピーだけにしよ
う。そっくりそのままと言っても、価値判断がありますから、それは多少の幅はあります。
あとでお話しするように多少の幅はあります。ただ、基本的にはそっくりそのままの模倣
行為だけをアウトにしよう。なぜかというと、市場先行の利益を必ず失わせる、典型的に
失わせる行為だからです。逆に、もっと広く保護したい、不正競争目的とかなんとかで絞
るのでしょうけれども、とにかくもっと広くアイディア模倣行為なども防ぎたいというの
であれば、それはむしろせっかくそのために存在する特許庁に働いてもらうべきじゃない
のか。より広く独占を認めてもよいアイディアというのは確かにあります。でも、そうい
った創作的価値の問題を含むような場合は、権利とするために出願させて、それを審査す
る機関として特許庁が用意されているのですから、そちらでやればよい。逆に言うと、そ
ういった広範にアイディアを保護をするような条文を、不正防止法に作ってしまうと、特
許庁に出願するのがばかばかしくなってしまいますね。そういう意味で特許庁への出願の
インセンティヴがなくなりかねない。何のために特許制度を設けているのか分からなくな
りますから、住み分けを図ろうということで規制行為は狭く限定する。
そのかわり、対象ですが、対象商品の創作的価値は問わない、これが大変な議論を巻き
起こして、その後で大変な騒ぎになってしまったのですが、創作的価値は問わない、全部
禁止してしまえということです。自分で作った商品であるという程度は必要だけれども、
それ以上に立派な商品かどうかなどということは問わない。それは、創作的価値の判断と
いうのは大変微妙な場合があって、特許庁と違って裁判所ですから、裁判所で判断するの
になじまないのではないか。そう言うと裁判官はたぶん怒ると思いますけれども、なじま
ないのではないかというのが私の考えです。
それから、保護なのですが、実は後で申し上げますが、保護期間は3年に過ぎません。
そんなに長い期間ではないのだから、大したものでなくても保護してもよいのではないか
と。それから、ついでに、もっとも重要なことは、わざわざデッド・コピーするわけです
から、模倣者はそれなりに価値を認めているのだと言えるでしょう。そういう行為を規制
したところで、模倣者にとって予測不可能なことをしているわけではない。模倣者は十分
覚悟しているのではないか。もし我々の目から見て、創作的価値がなさそうな商品がある
としても、模倣者はわざわざまねしているわけですから、たいていは何か価値があるとい
うことができるだろうと。だったら、もう創作的価値の有無の判断は省略してしまってい
いのではないかという考え方です。
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不正競争防止法
それから、最後、行為態様ですが、デッド・コピーであればもうそれだけでいい、それ
だけで禁止してしまう。それ以上に不正競争の目的などは不要だろう、という考えです。
なぜかというと、理論的にはどういうのを不正競争の目的というべきかよくわからないと
ころはありますが、基本的に競争というのは相手を追い落とす行為なので、デッド・コピー
をするときは何か倫理的にけしからんような目的を心の中に思っていることは多いとは思
います。でも、心の中で不正競争目的を持っていようが持っていまいが、どっちにしても
客観的には市場先行の利益は失われているわけです。だったら、市場先行の利益を補完し
ようという趣旨から考えると、そういう不正競争の目的も不要だろうと思ったわけです。
こういった3原則を考えると、一応、不正競争防止法で規制することは決まっていまし
たが、やはり理論としてなぜ不正競争防止法でやるのかしっかり押さえる必要がある。ち
ゃんと考える必要がある。それは単に公序良俗に反する、市場倫理の法だからという、漠
とした話ではないのだということです。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(2)>
デッド・コピー規制をなぜ不正競争防止法でやるのかという、積極的理由のほうです。
積極的理由は、特許庁に出願するタイプの工業所有権の枠を越えて、別に出願しなくても
保護を与える、出願とは関係なく広く保護を与える、新商品にインセンティヴを与えるこ
とがデッド・コピーを禁止する理由です。そういうときにわざわざ、例えば特許法などの
法律に入れて、工業所有権の手続き、特許庁に出願せよとか、審査登録せよという、そう
いう手続きを必要とすることは制度の自殺行為です。それらの工業所有権と無関係に、広
く、世の中に存在するインセンティヴを保障するという趣旨なので、工業所有権の法律に
はいかない。そうすると、目をつけるのが不正競争防止法だということになります。別に
不正競争防止法である必要はないのだけれども、大事なことは特許庁へ出願するタイプの
権利にしてはいけない。そうすると、今までだと不正競争防止法にそれは入ってくるとい
うことです。
消極的理由で、不正競争防止法にこのような制度を採用しても、特許庁への出願をして
権利を得ることができる工業所有権法のインセンティヴが失われることはありません。不
都合がないというタイプです。なぜかというと、先ほど申し上げたことですが、今回のは
デッド・コピーだけを規制するというのが目玉です。デッド・コピー以上に広い保護を得
たいというのであれば、特許庁への出願が必要になる。それから、ついでにいうと、保護
の期間も3年と短いですから、より長期の保護を得たいのであれば出願が必要になるとい
うことであります。
それから、もう1つ、不正競争防止法にいくということはもう1つの意味がある。同じ
ことなのですけれども、特許庁への出願が必要でないということなのですが、プラスして、
要するに特許庁で審査するのではなくて、裁判所で審査するということです。特許庁で審
査してくれませんから、いきなり裁判所で要件、これは本当に保護に値するのかなとか、
保護の範囲とかを調べなければいけない。けれども、そういう制度設計をしても別におか
しくないだろうということです。なぜかというと、デッド・コピーだけを禁止します。そ
れだけで商品の創作的価値を問わないで、模倣を禁止する制度です。わざわざ出願審査の
登録などをしなくても、裁判官が「これはすごく似ている」というだけで保護してよいと
いっているのですから、裁判官にとって大変な作業にはならないだろうと。ならないので
あれば、あえてコストをかけてまで特許庁での出願登録制度を用意することはないだろう
ということでもあります。
ということで、世の中には不当な模倣行為一般に対して保護を与えなければ意味がない
というご批判もございますが、こうやってデッド・コピーに限定することで非常に不正競
争防止法保護に適した要件が明確化して、不正競争防止法の保護に適した制度になってい
るということは、やはり留意しなければならないと思います。改正のときには、こんな一
般条項ではなくて、より個別の模倣者の害とか、こういったものに応じて成果の方向を禁
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不正競争防止法
止するとか、いろいろな話があったのですけれども、それらすべて、民法 709 条というの
があるのですから、あるいは個別の知的財産権法というのもあるのですから、そういう立
法を個別にしていく必要があります。いちいちちゃんと保護の必要があるところがたくさ
んあるではないか、その保護に適した制度を、というのですが、だったらそれは保護に適
した制度を作ればいいので、不競法で一般的にやる必要はまったくないわけです。むしろ
そういったものについては、民法 709 条にいけばよいということになりますが、民法 709
条には大きな問題があって、これは民法理論のほうですが、差止めができないのです。民
法 709 条は救済損害賠償に限られている問題があります。そういう意味では、不正競争防
止法でよりデッド・コピーに限らず、広い保護、先ほどお話ししたようないくつかの民法
709 条を使った判決のような形での不正競争防止法を設ける必要があるかもしれない。でも、
それはデッド・コピー規制ではなくて、むしろ差止請求権を競争型の不法行為に付そうと
いうことですから、そういう一般条項を導入するかどうかの問題として議論すべきで、そ
れを導入したからといって、今回のようなデッド・コピーについてだけ、パシッと必ず違
法になるという条文が不要になるわけはないと思っています。
より具体的な要件論にいきます。立法趣旨、あるいは起草過程から、こういった形で、
模倣の意味はデッド・コピーだということになっているのです。これはもともと違う言葉
にしたかったのです。だから、最初、私は「酷似的模倣」というのはどうかというふうに
提案したのですが、「酷似的模倣」という言葉は評価概念が入っているので、一種の幻想で
すけれども、でも大事なことだと思いますが、評価概念が入っていて、条文を見るとすぐ
わかるわけではない、酷似的とは何だという議論を起こす。それよりは条文というのは機
械的に適用できるような要件がある必要があるのだということで、そういう評価的な概念
は入れないのだそうで、「酷似的模倣」はだめで、「複写的模造」と言ったのだけれども、
こなれていないということで全部だめになりまして、残ったのが「模倣」、これは半導体集
積回路配置の保護法で先例があるのです。半導体チップ保護法でデッド・コピーを禁止す
るつもりで、もう「模倣」という条文があるので、これでいきましょうということで、あ
とは趣旨解釈でやってくれということで、条文ではちょっと広くなってしまったというこ
とです。
広くなってしまったのですが、そういう起草過程を抜きにしても、条文の構造から、こ
の意味はデッド・コピーだというふうに導けるのではないかと思っています。なぜかとい
うと、もしこの模倣が言葉どおり、日常用語のように広く模倣一般を指すといたしますと、
商品形態の酷似性を問わないといたしますと、本法による記述は広く商品のアイディアの
保護を意味することになります。そうすると、ここに言っていることはこういうことです。
だいたいいつもこの話をするときは、私はポッキーの例を出すのですが、ポッキー。ポッ
キーはグリコですか。グリコのポッキーだとすると、ここを持つタイプの似たようなコン
セプトでスティック状のチョコレート菓子が実際市場にいくつか出ました。ここをあけて
おくというのは1つのアイディアだと思うのですが、そうしたら、結構、こういうアイデ
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不正競争防止法
ィアの商品がいくつもあるのです。はっきり言いませんが、だいたい体積比でこのくらい
の商品も十何年前には大々的に大手が売ったりしていました。
大事なこと、なぜこんな話をするかというと、ほかにもデッド・コピーみたいなものが
あるのです、こういう、そっくりそのままの。大事なことは、この「模倣」という言葉が
広い意味で、酷似的な模倣を問わないと、Cはもちろんデッド・コピーだから悪いと思い
ますけれども、このDも販売してはだめということになります、2条1項3号で。そうす
ると、どういうことになるかというと、結局、スティック状のチョコレート菓子というの
はどんな形状をしていても、だいたいアイディアが似ていると、模倣だということでアウ
トになってしまうということであると、スティック状のチョコレート菓子というアイディ
アの独占となります。模倣の範囲が広いということは、なかなか迂回できないということ
は、こういうスティック状のチョコレート菓子を事実上Aが独占するということになりま
す。それは別にあってもいいのですが、でも、そのためには普通は特許法だと、このAと
いうアイディアが大変新規なものであって、かつ斬新。進歩性といいますか、新規かつ進
歩的なものである必要があると特許法で決まっているのです、そういうアイディアの独占
をするには。それを2条1項3号でさくっと押さえるということになってしまうと、創作
的価値を問わないことにしていますから、特許法と齟齬をきたす。特許法と矛盾してしま
うので、創作的価値を問わないという条文から見て、そして特許法と比較すると、ここに
いう模倣というのは、これはもうアイディア、コンセプトにつながらないような形の保護
範囲の狭い、形態の酷似性を問う模倣なのだということがわかるはずです。
具体的な例でいいますと、教科書、田村善之『知的財産法』28 ページで、これは、自動
車の接地具だそうで、アースさせるのです。自動車でドアなどにふれてビリビリとくるこ
とがあるでしょ。静電気を逃す、放電させるための接地具なのです。接地具についての実
用新案なのです。図面1が原告の実用新案権者の製品なのですが、ちょっと見ていただく
と、単に接地具というだけではなくて、89 と書いてありますが、図面1というのは 1 番左
上です。1 番左上の第1図を見てくれると、89 というのがありますが、これは反射板です。
要するに、後ろのほうに垂らすと反射するのです、後ろに。この反射板をうまくおもりと
して使って、長さを調整することで走行しているときは宙に浮いて、音がしないようにす
るけれども、止まると同時に接地して、アースするように、そういう重しの役目もします。
取り付け位置をうまく調節可能なように、図面1の第2図を見ていただくとわかると思い
ますが、11 というところにナットがあって、ここを緩めて上下に動かしていきます。これ
が原告の製品です。
それに対して、被告は2から6までを販売したのです。だんだん遠ざかっていくのです
けれども、2から3、2、3、4、5、6と順に遠ざかっていったのです。被告も同じ接
地具です。2、3、4、5とだんだん離れていくのがおわかりになるかと思いますが、矢
印から三角に、三角から四角にと。ただ、2、3、4、5、全部に共通しているのは取り
付け位置の調節が 11 のところで可能な点です。最後、6です。6は固定してしまいました。
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11 がきちっと固定しています、ねじで。11 だと動きません。ここの位置だけです。
それで、これは実用新案権が取れていたのです。ただ、ちょっと事情があります。最初
は原告が欲張りまして、自動車の接地具で、接地具は実用新案権をとても取れないのです
けれども、反射板をつけた自動車接地具というアイディアで実用新案を取りにいったので
す。出願をしたのです。今、実用新案制度は実は無審査です。この後、制度が変わりまし
た。無審査になりました。けれども、当時は審査主義をとっていた、特許と同じです。特
許庁はこれではだめだと拒絶をしたのです。なぜだめかというと、あまりにも簡単だ、一
般的すぎるということで拒絶されたので、出願した実用新案権の出願者のほうは補正をい
たしまして、これはただの反射板ではないのだと、取り付け位置が調節可能なところが新
しいですよといって、ようやく実用新案権を認めてもらったのです。
ただ、私から見ると、こんなのは無効だと思います。だけど、ともかく実用新案権はそ
れで認められたのです。でも、本当に最後まで、あとで無効として取り消されてしまうか
もしれない程度の実用新案のような気がしますが、ともかくそれで権利をもらっている。
ということで、この事件は実はデッド・コピーの事件ではありません。実用新案権侵害
の事件で、2から5までが侵害だということになったのです。6はセーフだと。取り付け
位置が調節可能ではないから。それが実用新案権の要件に入りましたから、6はセーフに
なった。ここでこの例を出したのは、もしこれが実用新案権を取れてなかったときに、2
条1項3号でどこまで保護するかという問題を出したかったからです。これで、自動車接
地具だ、取り付け位置調節可能だ、なんていうアイディアだと。2、3、4、5まで似て
いるではないかということで、全部デッド・コピー、違法だとしてよいかという問題です。
私は、それはすべきではないということです。もっと形状が酷似している、もう図面2で
もちょっと足らないぐらいですか、図面2くらいから微妙ですけれども、図面2よりもも
うちょっと似てほしいような気もしますが、図面2でもいいかもしれない。でも、3、4、
5は絶対セーフだろうと思うのです。そこまで広げると、図面1と図面3くらいの距離で
侵害になる、図面1と図面5くらいで侵害になるというのでは、どう迂回していいのかわ
からないです。反射板を丸くしてもだめかもしれないし、大きくするのかな。もともと反
射板で取り付け位置が調節可能という意味がなくなります。ですので、2はわからないけ
れども、3、4、5は絶対セーフだろうと思っているわけです。
しかし、これは実用新案を取れているではないかと、こういう判断もあるかもしれない。
裁判所のほうでこれが立派な実用新案かどうかわからないけれども、立派な保護に値する
アイディアかどうか調べて、自動車接地具で取り付け位置調節可能だというのが保護に値
するということだったら、そこで裁判所がそういうふうに判断したら、3、4、5まで保
護を及ぼしていいのではないか、そういう考え方もあり得るかもしれません。創作的価値
をちょっとにらんだ上で、模倣の範囲を広げるという考え方はあるかもしれない。ですが、
それは実用新案権の仕事だろうというのが、私の言っていることなのです。まさにそうい
うために実用新案の制度が用意されている。そちらできちんと要件を吟味しているのです。
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もし、これを勝手に2条1項3号のほうで保護してしまう、そのあとで実用新案と2条1
項3号の両方の保護が重なっている、あるいは逆に裁判官としては、どうせこれは実用新
案で保護されているのだから、2条1項3号でも保護してもいいと思うかもしれない。そ
ういうことをしてよいのか。そういうことをしてしまうと、あとから、先ほどちょっと申
し上げたように、実用新案というのは実は無効審判という制度があります。無効になる可
能性があります。裁判所のほうが安心して、実用新案があるから、2条1項3号も保護し
てしまえとやってしまうと、実用新案が無効になったときにどうするのか、何のために無
効にするのかわからない。だとしたら、権利があったところでそういう問題があるのだか
ら、実用新案権がなかった場合でも、当然保護の範囲は広がってはいけない。アイディア
保護につながってはいけない。アイディア保護の仕事は特許とか、実用新案の世界だろう
と思っているわけです。
それで、好例として 28 ページを出してみました。実際の裁判例だと、いくつか判決が分
かれています。〔ドラゴン・ソード〕事件を見て下さい。原告が左側、被告が右側です。す
ごく似ているように思うかもしれません。たぶんカラー写真だと違うのかもしれないけれ
ども、でも、被告のほうが大きさが倍くらいあるのです。それと、被告は、実は見にくい
ですけれども、双頭です。尻尾のほうにも頭があります。原告はない。だけど、ほかは似
ている。
私は、これは双頭とはいえ、これは侵害にしていいだろうと、キーホルダーなどはいく
らでも形状があるのだから、こんなのは侵害にしていいだろう、違法にしていいだろうと
思っているのです。そこに書きましたけれども、東京地裁は私と同じような考え方で、デ
ッド・コピーを肯定したのですが、東京高裁は逆にデッド・コピーを否定しています。大
きさが違うし、双頭の竜で形状も違うだろうということです。私は、デッド・コピーをそ
んなに狭くしなくてもいいのではないかと思っています。
じゃ、いつも狭いのかというと、そうでもなくて、大阪の事件ですが、ちょっと広すぎ
る例もあります。それが隣の「熊ちゃんタオルセット事件」とか呼ばれている事件なので
すが、図3が原告で、図4が被告です。熊は原告が作ったものではそもそもない。だから、
熊が似ていることはこの際無視すべきだと思うのです。これはもう昔からある熊ですから。
この商品が似ているところは、熊に何か物を持たせる、上は杖を持っている、でも何のた
めに杖を使うかわからないですね。ハンカチが巻かれているのかな。下は、バッグみたい
な物を持っているけれども、これがハンカチか何かになるのでしょうか。タオルが横につ
ながっている。熊ちゃんのタオルセットだと。それで、私は、これはセーフでいいのでは
ないかと思います。熊ちゃんタオルセットというコンセプトで、熊が似ていることを無視
するとすれば、要するに、ぬいぐるみ付きのタオルセットなのです。こういうのはアイデ
ィア保護になるので、これはセーフだろうと思っているのですが、大阪地裁ではアウトに
なったのです。
だけれども、こういうのも事案をよく見なければいけないということがありまして、き
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不正競争防止法
ょうは1枚だけしか紹介していませんけれども、実はこれは6つタイプがあるのです。タ
オルか何かの組み合わせ方で横にしたり、縦にしたり、よくこんなに考えつくなというぐ
らい、6つぐらいタイプがあるのです、原告も。それで、すべて左右対称を逆にして、被
告も6つ、商品を並べているのです。だから、そういう意味で、主観的対応が悪いです。
明らかにただ乗りするような目的がある。そういうのが裁判官に影響を与えているのでは
ないかなと思うのです。ただ、私はこう思っています。これはむしろ、そういう6つも同
じようなタイプの並べ方があって、6つ並んでいると、「この前、誰々ちゃんが持っていた
商品だ」と思って、被告の商品を原告の商品と勘違いして買う人が出てくるでしょう。そ
ういう問題ではないか。そういう問題だったら、実はそれは法律が違うのです。それは、
後で話す、商品等主体混同行為で規制すればよい。そのためには、ちゃんと混同のおそれ
等を証明しなければいけないのです。そっちでいけばよかったので、これはお門違いでは
ないか。これはデッド・コピーとしてはセーフにして、そちらで押さえればよかったので
はないかなと思っています。
ということで、基本的にデッド・コピーはそんなに広くはないけれども、[ドラゴン・ソ
ード]くらいに狭くしてはいけない。だから、この両判決の中間ぐらいにあるのではないか
なと思っています。
ただし、ということで、デッド・コピー以外はセーフなのですが、デッド・コピー以外
であっても、
まったく別個の観点から民法 709 条の不法行為が成立することはあります。[チ
ェストロン]事件という、これも大変大事な事件です。デッド・コピーではないけれども、
709 条でアウトになった例です。これはこういう事情があったのです。これはどんな事件か
というと、電子楽器の事件です。電子楽器で、プリント基板、今ではそんなものは使いま
せんけれども、ICチップでいきますけれども、当時はプリント基板というのがありまし
て、プリント基板で小型化した電子オルガンを原告が作ったのです。被告はわりと大手の
楽器製造メーカーです。原告は町の発明家ですから、自分で商品を作った。町の発明家な
ので、別に特許も、実用新案も持っていない。で、被告にこんな商品ありますよと言って、
売り込んだのです。作りませんかと。大量生産の商品のラインに乗せませんかと売り込ん
だ。
問題は、被告のほうが最初それを見て、いただいて、商品の分析を始めた事です。どう
いうプリント基板を使っているのか。1年くらいかかったかな。その間、被告の大手メー
カーのほうは原告と契約するつもりはなかったのだけれども、それを隠して1年間ずっと
開発をして、自分のところでも商品開発ができたということで、自分でできた時点で、お
断りをしたのです。「熟慮いたしましたけれども、あなたとは契約いたしません」とお断り
して、形状も全然違う、でもコンセプトだけは似ている。デッド・コピーでもないです。
でも、コンセプトは似ている商品を売りに出した。裁判所は違法だと言ったのです。どこ
が違法かというと、これは模倣したから違法というのではないです。対応が悪い。どう対
応が悪いかというと、だましたのです。原告をだまして、最初から断って、商品開発をす
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不正競争防止法
ればたぶん違法にはならなかったのです。もし、そうして断ってくれれば、原告は違うメ
ーカーにいけたでしょう。違うメーカーに売り込んでいる。そういう違うメーカーに開発
してほしくないから、それを自分のところに来させておいて、もう他のところに行かない
ようにしておいて、契約の可能性があるかのようなふりをしておいて、結局断っている。
そこが違法だとされたのです。詐欺的だということで、違法だということになったのです。
こういう事情があるときは、違法になり得るということです。
でも、これも考えようで、1年も放っておいた原告もゆったりしているというところも
ないわけではないですが、どっちもどっちというか、特に被告のほうが悪いと思いますか
ら、この判決でよいだろうと。
だから、事案で、どうやっても無理なものは無理です。模倣行為を違法にしたいときに
は、こういった形で別の要素を持ってくる。1つは、さっきのデータベースがそうですが、
まったく知的財産権法で保護されていない、知的財産権法が予定していないから、それに
709 条を与えても、知的財産権法の趣旨が害されない場合があります。それから、もう1個、
こういう形で、知的財産の開発という以外の要素で、これはその後のむしろ契約交渉過程
の問題です。契約の交渉過程で、信義誠実義務みたいな問題だと思いますが、そういった
形で、知的財産創作以外の要素を見つけて、違法だという人がいる。逆に言うと、そうい
う要素が見当たらない事件はどうやったってセーフだと思ったほうがよいと思います。
次にいきます。適用除外。条文の要件なのですが、2条1項3号、大変読みにくい条文
ですが、括弧書きで適用除外がいくつかあります。2番目の括弧なのですが、二重括弧に
なっていますが、二重括弧は読まないでいきます。「当該他人の商品と同種の商品が通常有
する形態を除く」とあります。どういう意味か。「同種の商品が通常有する形態を除く」と
はどういう意味か。2つの意味があるのではないかと思います。
1つはデッド・コピーでない場合にセーフにしよう、そういう確認的な意味があります。
どういうことかというと、同種の商品、コーヒーカップで同種の商品であれば、通常、半
球型の椀に把手がついています。だから、あるコーヒーカップがこういうコーヒーカップ
で、別のコーヒーカップが違う形です。こんなコーヒーカップになっているときに、2つ
の商品は通常有する形態が似ています。椀の形をしていて把手が付いているという形状は
似ています。抽象的に言えば。でも、そういう同種の商品が通常有するところが、似てい
るからといって、デッド・コピーではない、要するに、商品の持つアイディア、通常商品
が持っている普通の特徴、そういうところが似ているだけではデッド・コピーとはいわな
いという確認的な意味が1つあるのだろうと思います。
もっと重要なことは、確認的ではない場合、形態がまったく同じでもセーフになるとき
もある。それが競争上不可避的形態の問題です。例えばVHSテープの形態。VHSテー
プでしたら、全部同じ形をしています。これは、この条文がないとデッド・コピーです。
逆にいうと、この条文があるから同質の商品が全部同じ形をしている、この条文があるか
らセーフになる、そういう意味ではここは確認的ではなくて、通常有する形態の除外規定
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不正競争防止法
が創設的に機能しています。なぜこういうのをセーフにするか。VHSテープとか、こう
いう互換性のある商品、この場合だったら、ビデオテープレコーダーがあって、それに挟
み込むという形で、ハードがあって、そのハードにいろいろなテープを互換性がある商品
で装着していくのです。こういう互換性がある商品のときに、ハードとソフトでつながっ
ている商品で、ソフトに互換性がある場合に、このソフトの形状、つながるところ、接続
口のところについて、形状が似ているからと違法としてしまうとどういうことになるかと
いうと、ソフトの競争がなくなってしまうのです。1番最初にVHSテープを出した人が
ずっとその競争を2条1項3号で押さえることができることになってしまうと、ソフトの
競争ができなくなる。
これはほかの商品と違うのです。ほかの商品だったら、別に互換性の問題がないので、
コーヒーカップのときはいろいろなタイプで競争できる。だからこそ、このコーヒーカッ
プだったら、まったく形状が原告のものとデッド・コピーのところだけ違法にしておく、
ここだけ違法だということにしていても、ほかの形状をいくらでもとり得るから、2条1
項3号が競争を過度に禁止することはないわけです。
ところが、こういうタイプの互換性を確保するために、ある形状をとらざるを得ないと
いうタイプの商品ですと、いろいろな形状をとるわけにいかない。違う形状だったら、テ
ープレコーダーに入らないわけですから、違うテープレコーダーを作るしかないです。で
も、その違うテープレコーダーがもう市場に参入する余地はほとんどありません。VHS
テープで売り出すためにはその形状をしなければいけないのです。そういう意味で、ほか
の選択肢がないというところが、通常のほかの商品と違うのです。こういった場合、同種
の商品は通常有する形態は全部同じ形態をしていますから、デッド・コピーでも適用除外
になるわけです。それでよいだろうと。ソフトの競争を完全に排するということは、これ
は実はアイディア保護だろうと。そのためにはやはり特許庁に出願して、判断すべき問題
ではないかなというふうに考えるからです。
次の問題は、ただし、ということで、裁判例では、今はなくなったと思いますが、一時
期、「通常有する形態」を別の意味に使う裁判例がいくつかありました。それは、また教科
書になりますが、30 ページで、これは仮処分です。図1が債権者、バーコードのリーダー
です。図1が債権者、図2が債務者の商品です。この図1の右下側のこの窓の部分、ここ
でバーコードを読み取るのです。いろいろなバーコードリーダーといっても、これは医療
品か何かのバーコードリーダーです。いろいろなタイプの形状があって、ここまで似てい
るものはほかにないのです。大きさといい、何といい。債権者と債務者がすごくよく似て
いる。不必要に似ています。ビスの取り付け穴の位置などがほとんど一緒なのです。それ
から、色、これは暗い灰色に窓が赤なのですが、そこも似ているということで、非常によ
く似ていた。債権者と債務者の商品がよく似ています。
ところが、この判決はセーフだといったのです。どうしてかというと、教科書のほうが
いいと思うので、教科書でそのままご紹介しますが、30 ページの中ごろからですが、この
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不正競争防止法
東京地決は、この2つはよく似ている、実質的に同一だ、デッド・コピーだといったので
す。けれども、デッド・コピーであるけれども、この債権者の製品は筐体、箱が直方体で
あり、バーコードを読み取るための窓、コードを備えていることは、固定式バーコードリ
ーダーが通常有するありふれた形態だ、とか、取り付け穴の位置や個数は自ずから制約さ
れている、コードが底面から出ていることも特段特徴づけるものとは思えない、窓に着色
するとしても単色であって、赤い色であることは従前製品にもある、だから、この商品の
有するありふれた形態を脱しえていない。通常有する形態だといって、その保護を否定し
たわけです。
でも、これはちょっと厳しすぎるのではないかと思うのです。31 ページにも書きました
けれども、こういう風に原告の製品の形態だけをにらんで、原告製品の形態について、こ
ういう特徴は、こんな特徴をしているけれども、というふうに並べていって、それがあり
ふれているかどうかを見ていくと、どうやったってこういう文章です。バーコードリーダ
ーというのは、こんな文章でしか書けないですから。直方体で、読み取るための窓、コー
ドを備えていて、ビス・アプリケーションの位置はともかくとして、コードが底面から出
ている、などということはごく普通に、確かにありきたりです。けれども、こんなことを
言っていると、すべての商品がこういう風に書けますから、こういったことにすごい特徴
がなければいけないと、この決定は言っているのですけれども、そうすると、すごい突拍
子もない、相当立派な、何か違う要素がないといけないということなのでしょう。でも、
こういった発想はデッド・コピーになじまないのではないかと、具体的にはこういうこと
なのです。
この裁判所の発想は、実は特許型の発想です。そういう意味では不正競争防止法2条1
項3号にあまり慣れていないというか、不正競争防止法になじまない。特許型の発想とい
うのはこうです。Xの商品とYの商品があるときに、Yの商品を見ずにXの商品と従前の
技術水準、これまでもたくさん商品がある、そのこれまでのたくさんの商品と、Xの商品
との距離、ここを見ているのです。ここを見た上で保護するかどうか決める。これは実は
特許型なのです。特許というのはこうするのです。特許というのは、被告の商品が出てく
る前に、自分の発明ができると特許庁に自分の発明を出願するわけです。その発明につい
て要件が整っているかどうかを審査する。そのときには、従前の技術水準に比べて新しい
か、進歩的かどうかを見るのです。保護に値しないともう出願を拒絶してしまいます。こ
の距離が十分ないと、一切保護しないのです。それが特許なのです。
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不正競争防止法
イメージ図
X
Y
X
Y
従前の技術
特許イメージ
裁判所イメージ
それに対して、私は、これは特許だとそうだけれども、不正競争防止法2条1項3号の
私のイメージはこんなものではないのです。どう書いていいのかわからないけれども、同
じ図でもよかったのだけれども。不正競争防止法の発想は着目点が違うと思います。着目
点は、ここではなくて、こっち、XとY、ここの距離を見るのが2条1項3号だ、デッド・
コピーかどうか。逆に、この距離が十分近ければ、ここがそんなに遠く離れてなくてもい
い。この距離が十分近ければ、そんなに大きな保護につながらない。ごく狭い保護範囲な
のだから、ここはそんなに離れていなくてもよい、そういう発想で条文は組み立てていま
す。
それに対して、特許は、ここは一応アイディアの保護なので多少広い。でも、その分、
ここは十分広い必要がある、そういう発想を取っている。そのように思っているのです。
この判決は、本当はこうすべきなのを、こっちでやっている。なぜ本当にこうすべきなの
かというと、これは実は裁判所と特許庁のそれぞれの判断機関に応じた役割分担を仕組ん
である。そのつもりで私が提案したものですから、どういうことかというと、非常にこれ
は裁判所になじみます。裁判所だと、裁判所に出てくるのはXとYだけです。従前の技術
などは裁判所は持っていません。XとYが出てくる。だから、その裁判所でXとYが似て
いるかどうかを審査する。これに非常に裁判所は長けています。そのときに多少考慮する
けれども、ここがものすごく近ければ意味がないけれども、この従来の技術との距離に比
してここが十分近ければ、それだけで保護を認めてよい、そういう相対的な問題だろう、
そのかわり保護期間は短い、保護範囲は狭いということです。
それに対して、こちらは特許庁に非常になじむのです。なぜかというと、まだ出願した
段階では、特許庁にYなどは出てきません。特許庁にはXしかいないのです。そのかわり、
特許庁には従前の特許出願とか、いろいろな雑誌とか、そういう各種の公知技術の資料が
たまっています。裁判所にないものがたまっています。それで、これを比べる作業をして
いるわけです。こっちは特許庁になじむ、これは特許庁がやるべきだろう、そういう形で
すごく役割分担をしているのです。
それに対して、この判決のように、通常有する形態という文言を手がかりにして、特許
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不正競争防止法
型の運用を入れてしまう。デッド・コピーであるというのにもかかわらず、それ以上に通
常有する形態かどうかのところで特許型の運用をする。で、それなりの特徴が認められな
いとだめだとしてしまいますと、デッド・コピーの保護がほとんどされなくなる恐れがあ
ります。ということで、この決定には反対です。
ただ、この事件は実は裁判所でそういう認定をしていませんので、はっきりわからない
のですけれども、もしかすると互換性の問題があったかもしれない事件です。これは実は
医療機器の内部でのバーコードリーダーなのです。なので、その医療機器が売られている
ときに、原告のバーコードリーダーが使われている、そこに参入するときに、医療機器を
販売しないメーカーが参入するときには、「取り替えてください」と言うためには、この形
をする必要があったかもしれない。それにしても、色まで一緒にする必要はないです。ビ
スの位置も一緒にする必要はないけれども、少なくともこの形状と、窓の読み取りなどは
同じ形状である必要があったかもしれない。でも、だったらそう言ってセーフにすればよ
かったのです。この決定は、そのように言っていないところに大きな問題があると思いま
す。
ほかは2つだけやってしまいましょう。いくつか適用除外の条文があります。まずは 12
条1項5号、適用除外。適用除外の条文は第3条から第8条まで云々の規定は、次の各号
に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為について適用しないという形です。
柱書きで3条とか、8条までというのは、これは実は差止請求とか、損害賠償とかそうい
う請求権の条文なのです。それが適用しないといっているのです。だから、12 条1項5号
を見ていただくと、2条1項3号に掲げる不正競争については、同号に規定する他人の商
品の形態を模倣した商品を譲り受けた者、その譲り受けたときにその商品が他人の商品の
形態を模倣した商品であることを知らず、かつ知らないことにつき重大な過失がないもの
に限るが、その商品を譲渡し、貸し渡し云々、取引の行為については、2条1項3号にあ
たっても、これらの行為については差止め・損害賠償を適用しないといっているのですか
ら、結局、まったく請求権は発生しない、そういう意味で適用除外と呼んでいます。
条文では不正競争行為にあたるけれども、差止め・損害賠償がないという条文構造にな
っていますが、別に不正競争行為ではないといっても同じことです。言葉の問題、要件の
技術的なテクニックの問題です。
12 条1項5号は、転得者を保護する規定です。XとYがいて、このYの手元を離れて商
品が転々流通する。そのとき、Zが商品の取得時に善意無重過失だというときには、その
Zを保護しようということです。デッド・コピーの場合は特許と違いまして、特に登録で
公示しているわけではない、権利があるかどうか不明確ですから、転々流通すると、全然
知らない人が出てくるかもしれない。このときに「これはデッド・コピーですよ」と止め
られたのでは、Zの予測可能性を害するかもしれないので、登録がない分、権利を弱めに
善意無重過失であることを必要としたということです。
それから、次が最後になりますけれども、2条1項3号の括弧書き、1番最初、他人の
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不正競争防止法
商品のところに、最初に販売された日から起算して3年経過したものを除くとあります。
最初に販売してから3年間経過すると、保護がなくなるのです。これは先ほどから申し上
げたとおり、不必要に保護範囲を強くしないためですが、考えるときには、比較が必要で
す。意匠権は今でも 15 年です。15 年よりは短くしなければいけないだろう。でも、逆に、
意匠の審査期間は2年くらいであるようですが、1年だと意味がない。意匠の審査期間を
オーバーして、アパレル商品などでも意味があるような保護をしなければいけないから、
その穴埋めをしなければいけないから、だいたい2年よりは超えよう。ほかに、当時は実
用新案権が無審査になったばかりで、保護期間が6年だったのです。だから、無審査だと
はいえ、出願して登録が必要な実用新案が6年なのに、不正競争防止法2条1項3号のほ
うが5年というのはちょっときついかなと。もうちょっと差がついたほうがいいのではな
いかと。制度発足時ということで、やや短いかなという気もありますが、3年ということ
になりました。ただ、3年はちょっと短いですね。仮処分でだいたい終わってしまいます。
3年はちょっと短いと思います。現在、これは改正するかもしれない。今年、実用新案が
改正されて 10 年に存続期間は延びていますので、こちらも少し長くしようという要望がや
はりあるので、来年に改正されるかもしれません。わからないです。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(3)>
それでは、続いて、営業秘密に入りたいと思います。
営業秘密の保護はトレード・シークレットとか、ノウハウと呼ぶこともあります。ただ、
ノウハウという言葉は how の know ですから、もうちょっと秘密にしていないものも含めて
使うことがあります。技術上のコツとか、営業上のコツみたいなことを指してノウハウと
いうこともあるので、ノウハウのほうがちょっと広いかもしれません。
これは 1993 年ではなくて、1990 年改正で不正競争防止法に導入されました。趣旨は、前
に述べました。企業の開発成果の中には、市場に出ている商品を分析してもその内容を知
ることが困難であるために、とりあえず秘密にさえしておけばわざわざ産業財産権、工業
所有権を取得しなくても、模倣からから免れることができる成果があります。こういった
成果、香水とか、コカ・コーラは本当に模倣を防ぐことができるので、逆に出願してしま
ったほうが模倣されてしまうのです。出願すると、特許権はいただけるかもしれませんけ
れども、存続期間は出願後 20 年で区切られています。もしかしたら未来永劫 100 年間、200
年間真似されなかったかもしれないところを、秘密にしておけば、特許にすると出願して
20 年保護される代わりに、さらに出願公開といって、出願から1年半たつと自動的に出願
の内容が世の中に公開されるのです。ですから、特許してしまったほうが不利です。
逆に、こういったもう1つの問題があって、それでも 20 年間独占権を与えられるではな
いかというのですが、逆に、見つけてもわからないということは、侵害されているかどう
かだって、正確にはわからないのです。本当に侵害されているかどうかということも、要
するに被告の製造工程はわかりませんから、正確にはわからないかもしれないので、その
意味でも 20 年の独占権期間中も、そういう法的にしか守ってくれないし、侵害かどうかも
わからないようなこともある。侵害だとわかったところで、いちいち特許権侵害を訴えな
ければいけないとするよりは、秘密にして守ったほうが物理的に誰もまねしませんので、
まねできませんので、そっちのほうが良い。こういった分野では、秘密管理できること、
秘密として管理して他社の模倣を防ぐことができることがインセンティヴになっているの
です。わざわざコストをかけても引き合うのです。
それから、世の中の企業開発によるいろいろな知的財産というか、成果の中には、そも
そも産業財産権の保護と無関係のものがあります。例えば、顧客名簿でありますとか、接
客マニュアルとか、こういったときにはこういう風に接客しましょうとか、事故があった
ときはこういう風に対応しましょうというのが接客マニュアルですが、顧客マニュアルと
いうのはもっと重要で、この商品にどのくらいの興味を示しているかということです。単
なる住所、氏名、年齢も大事ですけれども、それ以上に、こういった商品に反応する、例
えば、事件になった例ですと、1回ダイレクトメールを出して返事が来た者、あるいは興
味を示した者、それが3回送れば 1 回来る人、5回送れば1回来る人という形でランク分
けをする。10 回送っても来ない人。これはすごく財産的価値がある。それはなぜかという
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不正競争防止法
と、例えば、1 番最初にダイレクトメールを 10 万通出すとすると、10 万通で 80 円かかる
と 800 万円くらいかかります。でも、そのうちで 80%くらいがほとんど無反応だとわかっ
ていたら、2回目からはその 80%を省いて送ることができます。それだけで 640 万円の節
約になる情報がある。1番最初にコストをかけて 800 万で情報をつかんだ分、2回目から
は 160 万円の郵送料で済むわけです。そういった形で財産的価値があります。これを秘密
にしておかないと、他社は、その最初の初期投資の 800 万円をかけないで済む、640 万円を
最初から節約できますから、これは秘密にしておこうということになります。
こういったものは別に特許にされるわけでもなく、著作権になるわけでもない、もう秘
密として管理する以外に道はありません。そういったものもある。このときも秘密管理で
きることがインセンティヴになっています。
ところが、それだけで終われば知的財産法は登場しないのです。ライバル企業からのス
パイ行為から完全に秘密を守ることは不可能です。買収もあれば、盗取されることもある
ということです。そこで秘密管理というインセンティヴを完全なものにするためには、そ
の開発者が努力をした秘密管理体制を無理に突破しようという行為を禁止する必要があり
ます。
これでいつも例に話すのが、この営業秘密の守秘を考える上で1番参考になるのが、ア
メリカでのずいぶん前の、戦前の例ですけれども、デュポンの工場のトレード・シークレ
ットのケースがあります。これが典型的です。どういう例かというと、デュポンの工場は
塀がすごく高く立っていて、それでこの工場内にいろいろなプラントの設備が並んでいる。
パイプでつないだりして、いろいろと工場内で薬品とか、化学物質をつくる。そのときに、
どこでどういうものを製造して、どこに持ってきて、それでどこでトラックを走らせて、
どこから材料を入れて、どこで商品を搬出するかと、そういうラインを組んだのです。こ
のラインを営業秘密にしたのです。これはすごく長年の試行錯誤で決まったので、高い塀
を立てて、外から見えないようにしているということで秘密管理。従業員にも守秘義務を
課して秘密管理をしている。そういう例です。
ところが、ライバル企業は何をしたかというと、上に飛行機を飛ばしたのです。それで、
上から航空写真を撮った。航空写真を撮ると、内部の構造がもろにばれて、ここにこれが
あって、こういうふうにつないでいて、ここにトラックが入るのだというのが全部わかっ
たのです。これについてトレード・シークレットで秘密として管理している。ただし、当
時の技術では物理的に無理なこの上の覆い、ここのところが抜けているのです。ここまで
は十分できる、物理的に。でも、これ以上は無理というときに、ここを法的に応援してあ
げたと。その意味で、非常に営業秘密の保護法の趣旨がよくわかる、応援タイプの、でき
るところまでやってもらう、無理なところを法で覆ってあげる、そういうタイプの法律だ
ということになります。
ただ、これも現在ではたぶん営業秘密にならないと思います。当時は航空写真が世の中
にばらまかれていなかった。今では衛星写真などはネットで取り寄せることもできるので、
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不正競争防止法
こんな上から見た工場などは皆が知っています。従って、こんなものはそもそも秘密とし
て管理に値しない。要するに、昔の、上からのぞかれるということがなかった時代の法律
だと。今では多分このようににならないと思いますが、ただ、大事なことは、むしろこの
応援タイプだということが大事だということです。
それで、1990 年改正で初めて入ったと申し上げました。では、それまでどうだったか、
まったく法がなかったかというと、そうではありません。いくつか可能性がありました。
1つは、株式会社の取締役に対する法定の競業避止義務等のように、そもそも従業員に競
業させない。これも営業秘密の利用行為はおろか、もう広く競業を禁止してしまいますか
ら、営業秘密が従業員に漏れた場合に、その従業員に対する規制になるということで、こ
の競業避止義務というのは営業秘密を守るためにも使うことができます。
それから、そういった法定の競業避止義務がすごく少ないので、普通は従業者やノウハ
ウのライセンシーなどとの間で秘密保持契約を結びます。あるいは競業避止契約を結びま
す。けれども、まず1つが、法定の競業避止義務は数が少ない、それから契約による保護、
これは何かというと、契約の相手方に関しては契約の保護はあるのですけれども、その相
手方から秘密情報を取得した第三者の不正行為に対してまで契約の効果を及ぼすことはで
きないのではないのではないかという問題があります。
これはどんな問題かというと、皆さんがなじみの問題でいうと、第三者の債権侵害の問
題です。Xがいて、XがYとの間で秘密保持契約を結んでいる。それに対してZが、この
YがXとの間で結んでいる秘密保持契約を破るようにそそのかして情報を入手する、こう
いった行為なので、こういうのを第三者の債権侵害の1つの例として必ずいいます。
このときの問題は、そもそも不法行為が成立するかです。最近は類型論で考えます。こ
この吉田邦彦先生が助手論文で言い出したことで、今はたぶん多数説で、有力説だと思い
ますが、類型的に考えていこうということで、いろいろと場面によって変える。この場面
ではたぶん、多少の主観的要件の下、不法行為が成立するでしょう。ただ、そもそも契約
の保護ではない。大きな問題は、不法行為が成立するというのが最近の解釈だからいいの
だけれども、不法行為だと、先ほど申し上げたとおりで、民法の原則は金銭賠償が原則で
す。損害賠償だけで差止めが無理だという問題がありますので、やはり効果としては万全
ではない。
ちなみに、これはよく間違えるので大変注意していただきたいのですけれども、契約の
保護はどうか、差止めは認められるのか。皆さんは不法行為の保護は金銭賠償だとよく知
っています。それから、皆さんはたぶんよく知っていると思うのだけれども、債務不履行
も同じ条文ですから、不法行為のほうが準用しているだけですから、債務不履行に対する
救済も損害賠償だけです。だとしたら、私はさっきずっと、Zについて不法行為の効果し
か及ばないからXが請求しても不法行為だけだから差止めが及ばない、そこが問題だと言
っている。でも、そもそもYについてどうなのか。債務不履行責任というのは損害賠償責
任だったのではないのか、差止めはやはり無理なのではないかと思うかもしれません。た
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不正競争防止法
ぶん、今、アンケートをとると、そう思った人が6∼7割いるのではないかな。ちゃんと
答えることができたらえらいと思います。
でも、実はこれは違うのです。債務不履行責任を追及するのではないのです。Yに対し
ては債務の履行を請求できます。債務不履行責任ではないです。履行不能にはなってない
ですから。そもそも債務の履行、ちゃんと秘密を守れと、まずそもそも守りなさいと。1
回漏知したならば、次からは漏知しないようにしなさいという形で債務の履行、秘密保持
の履行を求めることができる。だから、債務不履行責任ではなくて、債務の履行請求とし
て差止請求ができます。これはよく勘違いされることがあるので、気をつけてください。
基本的に契約責任として差止めの義務があるときには、別に債務不履行責任にいく必要は
ありません。債務の履行を求めればよいということになります。
そうはいっても、非代替的な債務ですから、債務の履行を求めるのが間接強制中心にな
ると思いますが、基本的に差止めができないということではないので、それは差止請求で
も同じことなので、これは本当に間違える人が多いので気をつけましょう。
ということで、Yに対しては別に不正競争防止法がなくても、債務の履行を求めること
で差止めを求めることができます。けれども、第三者に対してはあくまで不法行為責任を
追及する以上、契約の保護の項、第三者項があるわけではありませんので、不法行為でい
く以上は、伝統的な理解に従う限りは差止請求ができないという問題があるということで
す。
そこで、不正競争防止法で差止め規定を新設したということになります。それが 1990 年
です。だいたい、今、知財立国ということで、日本は地財の保護が厚い国になろうとして
頑張っているのですが、実はこれは最近のことです。1990 年あたりが境目なのです。それ
まではどちらかというと、模倣を中心に、模倣して発展する、技術の先進国に対して、模
倣して発展するという国でだいたい、知的財産法の整備もすごく遅れていたのです。これ
がちょうどこの 1990 年くらいから世界の潮流で、世界的に知的財産を保護しようという動
きがあって、日本はトレード・シークレットの保護規定もないのに、アメリカと同じ立場
で発展途上国に向けて知的財産を保護しなさいとは言えないから、すぐ作りましょうとい
うことで、急いでどんどん法律をつくって、その1番最初のはしりがこの 1990 年のトレー
ド・シークレットの改正です。
不正競争防止法というのは、法務省がどうも所管らしいけれども、どこが省庁かわから
なかった。今でこそ、15 条くらいまでありますけれども、当時旧法は6条くらいしかなか
ったのです。所轄官庁すら明らかではなかったのが、この改正のときに通産省の中に知的
財産制作室というのができて、そこでいろいろな知的財産のことを考えるようになって、
以降、どんどん日本の知的財産政策が態勢を整えた、そういうターニング・ポイントにな
った条文でもあります。
次にいきましょう。要件なのですが、営業秘密、これは条文は2条の4項ですけれども、
「この法律において『営業秘密』とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法、
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不正競争防止法
その他の事業活動に有用な技術上、または営業上の情報であって、公然と知られていない
ものをいう。
」とあります。一般には、このうちから例示を抜いていって、3つの要件を抽
出します。まずは「秘密として管理されている」ということなので、秘密管理性が要件で
す。それから、「生産法、販売法、その他の」というのは、「有用な技術上、また営業上の
情報」とすごく長いのだけれども、要するに、これは有用な情報という意味ですから、あ
とは例示ですから、有用性の要件といいます。それから3つ目が、「公然と知られていない
こと」ということで、これを非公知性の要件。ちょっと説明の順番上、非公知性を先に言
いますが、秘密管理性、非公知性、有用性という3つの要件があるというのがこの条文か
らわかるということになります。
それで、まず秘密管理の趣旨。なぜ秘密管理が必要なのか。トレード・シークレットの
保護法をつくるときには、一部の方からは、別に秘密管理の要件はいらないのではないか、
管理しなくても秘密で、非公知であって、有用な情報であれば、それは保護していいので
はないかという意味で、秘密管理の要件は不要だという方もいらっしゃったのです。でも、
これはむしろ私の目から見ると、営業秘密保護法の根幹をなす規定だと思います。どうし
てかというと、そもそも秘密として管理されていない情報は保護に値しないのではないか。
秘密として管理されていない、従業員が自由に閲覧して、自由にしゃべれる情報なんてい
うのは、今、たまたま秘密であったとしても、遅かれ早かれ、皆が知ることになります。
そうすると、企業の優位性が失われる。そんな情報について、わざわざ裁判でコストをか
けてまで保護する必要はないのではないか。企業自身が保護しようとしていない情報をあ
えてコストをかけて、裁判制度を利用させるということはコストですから、そういうコス
トをかける必要はないだろうということです。
それから、そういう保護を与えたときには、不都合も多いのではないか。管理されてい
ない情報は自由に流通します。諸々の情報が混入します。いろいろな人がいろいろな情報
を入れますから、その出所の源が不明となる。そうすると、請求権をやたらと認めてしま
うと、第三者の予測可能性を害するかもしれない。そもそもということで、もともとこの
営業秘密は独立して秘密だから保護するというよりは、企業が秘密管理で頑張っている、
秘密管理できることで、だからこそ成果を開発できる、そういう状況にあるところを、そ
の秘密管理が十分に最後の最後まで完全に覆しえない、そこを補完するという趣旨なのだ
ということですから、基本的には自助努力を促したい。その上で、保護されるべき情報を、
そうでない情報と区別して、法的保護を欲していることを明示する。秘密管理としなけれ
ば従業員は自分の使っている情報が秘密かどうかよくわからない。たまたま使うと、急に
アウトだという。「おまえ、どうせよくうちの会社を知っているから重過失だ」と言われか
ねない。そんな状況よりは、単に秘密だから保護するのではなくて、秘密管理して初めて
保護ということにしておくと、マル秘と書いてあるからこれは人に言ってはいけないのだ
と、よくわかるようになります。そういった意味で、第三者の利用のためにも秘密管理性
を要件にしたほうがいいということです。
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不正競争防止法
いくつか裁判例も集積しています。1990 年の改正のときには、いろいろな企業が秘密管
理マニュアルを作ったのです、営業秘密の要件を満たさなければいけないということで。
いくつか注意点がありますが、まず常識的ですが、コンピューターに書いてある情報は基
本的にパスワードで管理する必要がある。プリントアウトも制限する必要があると言われ
ていますし、実際にそのようになっています。
他方で、机上に置かれていて社員が自由に閲覧しうるファイルというのは、これは、た
とえ秘密があって財産的価値があっても保護はしない、秘密管理はされていないというこ
とです。まだ裁判例がしっかりあるわけではないのですが、重要なことは、これは相対的
な概念です。泥棒に対してと従業員に対して、たぶん違うだろうと。いきなり窓から侵入
してくる人たちに対しては、たぶん従業員の机の中にあるものでも、窓から入ってくるよ
うな泥棒にとってはそういうのを見てはいけないのだとわかる。そもそも入ってはいけな
いのです、その部屋に。だから、その情報を使ってはいけないとよくわかるので、そうい
ったものに対しては秘密管理を満たしてよい。
そういうタイプの不正取得行為については、秘密管理はマル秘としていなくても十分な
ときがある。けれども、従業員に対しては、マル秘としておかないと、やはり従業員は出
入りしていますから、どれが秘密かわからないでしょうから、従業員に対してはより徹底
した秘密管理が望まれるだろうと私は思います。ただ、ほとんどの営業秘密の事案が実際
は従業員が漏知する事案なのです。なかなか産業スパイ事件などといって、007の私企
業みたいな形で侵入者が乗り込んでくるような例は裁判例にならない。たいていは従業員
が盗んでしまっている情報がほとんどです。
それから、これもよくいわれることですけれども、ではマル秘と押せばいいのかという
と、そうではなくて、1 番笑い話の例は、すべての書類にマル秘が押してあったらだめだと
いわれています。それは従業員が本気にしないからです。別に営業秘密の保護のためにや
っているのではないですけれども、弁護士さんのメールというのはたいてい入っています。
皆さんは受け取ったことがあまりないかもしれませんけれども、定型的に入るようになっ
ています。「この情報はコンフィデンシャルマターに基づく…」これはアメリカのディスカ
バリーという、アメリカの証拠開示手続きがあって、非常に強固なのですけれども、弁護
士依頼者特権というのが認められていて、当該事件に関する弁護士さんと依頼者さんのこ
とはアメリカの怖いディスカバリーでも証拠として出さなくていいのです。なので、全部
もう書いてある。私についてまでも常に入っていますから、定型で。
弁護士さんのことはいいのでしょうけれども、企業のときにすべてのメールにたぶんマ
ル秘が入るような仕組みにしておいたところで、たぶん秘密管理をしているとは言われな
い可能性がある。もっと従業員が本気にするような、ちゃんと区別しなければいけないと
いうことは気をつけろとは言われています。
非公知性は読んで字のごとくです。非公知は当たり前です。公知となった情報について
は守る理由がないです。秘密として管理されていて、従業員に守秘義務を課している。そ
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不正競争防止法
の従業員が転職した。けれども、本人は守秘義務がかかっているのだけれども、公知なの
で皆が使っている。そういうことになると、転職した従業員だけが不利になりますから、
そういうのはおかしいだろう。保護に値しない情報だろうということです。
最後に、有用性、この要件は脱税の情報とか、贈賄の情報、経営者のスキャンダラスな
情報など、企業が秘密として管理している情報の中には、全然知的財産の開発とか、成果
の開発とかと関係ない情報があります。こういうスキャンダルになる情報こそ隠していま
す。これは別にこの情報を生み出したからといって、世の中が豊かになったということで
はないですので、こういった情報については営業秘密の保護はしない。逆にいうと、こう
いった情報を買収とか、引き抜き等とかで盗んできて、それを公にしても構わないという
ことです。むしろ最近では、内部告発の保護をしようという形で、こういった情報のむし
ろ漏洩を奨励すべきだという、そういうような風潮もないわけではない。むしろ、そうし
ないと、なかなか企業の不正行為は見つからないです。
ということで、こういったものについては有用性がないということで保護しない、秘密
管理をいくらしていても保護をしないということです。けれども、大事なのは、そういう
定型的に、カテゴリカルに保護に値しない情報をはねるだけで、有用性といってもそんな
にうるさくは言わないということです。改正のときに一番議論になって、議論にはなった
けれども、皆が有用だと言ったのがネガティブ・インフォメーションというものです。先
ほどお話しした、2回目から無駄にしないで済む 640 万円分の、要するに全然無反応の人
たちというのもネガティブ・インフォメーションの1つですが、よく議論になるのは新薬
の開発過程において効能がないとか、副作用があるということで、医薬品でないことがわ
かった情報、こういった情報は実は積極的には2度と使わないのです。逆にいうと、そこ
を使ってはいけないことが情報ですから。その意味でネガティブ・インフォメーション、
そこを利用するなと、そういう意味では正確には情報を利用しているのだけれども、積極
的な意味では使わない。その情報というのは、使ってはいけない、活用してはだめだと、
そういうネガティブ・インフォメーション、これなども経済的価値はかなり高いです。
ということで、こういった情報については有用性の要件を満足すると考えるべきだろう
と。経済的価値も高いだろうと。逆に、こういったものこそフリー・ライドの的になりや
すいということです。以上が客体の要件です。営業秘密について重要なことは、違法性が
客体だけで決まらないということです。今言った3つの要件を満たしたすべての営業秘密
のすべての利用行為が禁止されるというわけではありません。
具体的にまず図を見ましょう。次頁の図ですが、これは見方が独特です。
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不正競争防止法
保有者Xがいて、使う人がYだとすると、ここに書いてあることは、Yにも2つのタイプ
がいるだろうということです。不正に取得するYと、正当に取得するYと2ついるだろう
と。不正取得者というのは、例えば産業スパイが典型ですが、窓から侵入して盗んでいく
のが典型ですが、そうでなくても、従業員の中でも自分は営業秘密を知らされていないけ
れども、その秘密がある場所を知っていて、そこにパスワードか何かで管理されている部
屋に不法にハッキングして入ったりして、情報を盗んできてしまう。あるいはコンピュー
ターをハックして、情報を盗んできてしまう。そういった行為も不正取得です。
正当取得というのはそうではなくて、情報の取得自体は正当になされている。例えばラ
イセンシーであるとか、あるいは従業員で、かつ営業秘密を知る権限がある人たち。
その2つに分かれるだろうと。上のほう、不正取得者のY自身が使用したり、開示した
りする、こういう行為がある。だから、Yの周りに3つありますが、取得と使用と開示が
Yの行為です、という趣旨です。このうち、マル4と付してあるところが2条1項4号で
禁止されています。
次、開示のあるところ、受け手がいます。2条1項4号で不正取得と、その不正取得者
自身が使用、開示する行為が禁止されているのですが、そこからさらに不正取得、開示行
為があったことを知って、あるいはあったことについて知らないことに重過失があって、
そういう情報を取得したZというのがいるはずです。Zの中には善意無重過失で取得する
人もいるでしょうということで2つに分けている。悪意重過失取得者であるZ自身が取得
したり、使用したり、開示したりする行為は2条1項5号で禁止されます。
それから、善意無重過失取得のZは、善意無重過失取得自体は不正競争行為ではありま
せんので、条文の番号は付されていない。
その善意無重過失取得者のZが悪意重過失になって、最初は善意無重過失だったけれど
も、警告を受けるとか、新聞報道で知るなどで、あとから悪意重過失になって使用したり、
開示したりする行為が2条1項6号で禁止されています。
同じようなことが下にもいえます。正当に取得すること自体は特に違法ではありません
が、その正当に取得したYが図利加害目的で使用する、ライセンス契約で秘密情報を入手
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不正競争防止法
したYが、ライセンス契約に違反して使用する、営業秘密を知らされた従業員が図利加害
目的、自分で自己の利益を図るとか、害を加える目的で使用する、あるいは開示する、こ
ういった行為がアウトになっています。
それから、この開示を受けた反対側には取得者がいるはずで、その悪意重過失者自身が
使用、開示する行為が8号で禁止されています。善意無重過失取得自体はセーフですが、
その後、自己的に悪意重過失で使用、開示するとアウトになる、こういう条文の構造にな
っているということであります。
条文をたぶんいきなり見てもわからないと思いますが、こういうことが書いてあります。
趣旨を言っておきましょう。営業秘密の利用行為がすべて禁止されるというわけではな
いです。なぜ、こう限定されているかというと、秘密管理というインセンティヴを保障す
る、そういう趣旨から考えると、簡単に言えば、秘密管理体制を突破する行為か、もしく
はその突破行為を利用する行為だけを禁圧すれば足りるだろうということです。それが細
かく規定されているところです。逆にいうと、同じ情報を独自に取得した者、自分で作っ
たりした者、独自作成者などには権利は及ばない、規律は及ばない。
あと、それから、秘密の管理体制を突破する行為、利用する行為であっても、情報の自
由な流通を妨げてはいけないので、善意無重過失者は保護しようということです。無重過
失で取得したものを保護しようということになっています。
それから、図の見方で注意する点は、YとZが直接の開示、取得関係にあるような図を
書いていますが、これは中に人が介在してもいいのです。中に別の方が何人か介在しても、
当該情報が最終的にZのところに流れ着いたときには、Zについてこれを見るということ
になります。
続いて、不正取得者の不正利用行為について。議論があるのは、営業秘密を利用して製
造された市販の製品を分析する、壊して、破壊して、組み立てなおして、こういう構造を
しているのだ、例えばルービックキューブなどを1回ばらすと中がわかりますので、ばら
して考える、内部の構造を見る、こういったものをリバース・エンジニアリングといいま
すが、こういう形で営業秘密を探知する行為は不正取得行為にあたらないだろうといわれ
ています。それはむしろ技術の発展を促すので、そういった形で市販の製品を解体、分析
する手段は不正取得行為ではないというのが通常の理解です。
正当取得者の不正利用行為のほうは、さっきから言っている話ばかりなのですが、大事
な事として「従業者が在職中に自ら開発したノウハウとか、自ら収拾した顧客情報」とい
うものがあります。例えば、私のところにも生命保険の生保のレディが商品を販売しにき
ます。実は、私はどういう商品に興味があるかというノウハウがあるのです。例えば、私
は別に結婚もしていないので、全然自分の死後のことは何とも思っていないので、死んで
から後の多額の保険金、そういうのは一切興味を示さない。何に興味があるか。1人身な
ので年金にすごく興味があるとか、そういう情報があります。あと、落とし方とかもあっ
て、基本的に部屋にたくさん行くと、かえってうるさがる。時々行く。時々行って、あま
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不正競争防止法
りうるさく言わないで、逆にちょっと困ったふりをして同情を誘うというのが1番いいの
ですが、そういった情報ももしかしたらたまっているかもしれない。そういった情報は営
業のセールスレディさん、セールスマンさんたちが自分たちでつかんでくる情報です。そ
ういった顧客情報、あるいは私の家族構成などもそうですが、そういった情報はこの条文
からいくと、自分で開発している情報なのです。
ですから、2条1項7号、正当取得者の条文はどうなっているかというと、そこにあた
らないのです。2条1項7号を見ていただくと、正当取得者の条文は、「営業秘密を保有す
る事業者からその営業秘密を示された場合において、その者が不正の競業その他不正の利
益を得る目的」、これが図利加害目的ですが、「またはその保有者に損害を加える目的」、こ
れが加害目的ですが、図利加害目的で営業秘密を使用し、開示する行為が違法だと書いて
あるのですが、これは示された情報が禁止されている。だから、今の例だと、自分で私の
ところに最初に来たセールスレディが得た情報は、そのセールスレディにとっては自分で
得た情報なので2条1項7号にあたりません。どういう場合があたるかというと、そのセ
ールスレディが1回生命保険会社に情報をあげます。それで2番目に来る人にとっては企
業から示された情報なので、2番目に来る人にとっては2条1項7号にあたるので、その
人が図利加害目的で使うと2条1項7号の規制が及びます。1番最初に取得した人に及ば
ない。では、セーフなのか。そういうことはないです。そうではなくて、このような情報
についても、2条1項7号は及びませんが、普通は企業と従業者の間の契約で従業者の秘
密利用行為に制限を付すはずです。その契約違反があったら、先ほど言ったように、契約
責任が追求できる。契約責任は差止めまで含みますから、契約責任で十分果たせる。
大事なのは、示された情報だと、契約がなくても2条1項7号が及んでくるのです。け
れども、示された情報ではなくて、従業員が開発した情報は契約をいちいち結んでおくと
責任追及されるということで、これは合理的です。自分で開発したものについては企業に
帰属するか、それとも自分でせっかく努力したのだから自分のものなのかというのはよく
わからないところがある、そういったものは明示の契約が必要だ、黙示でもいいのですけ
れども、契約が必要だと。
それに対して、企業から示されたものは全然自分で努力していないわけで、それはやは
り営業秘密であれば、図利加害目的で使ってはいけないだろうということです。ただ企業
から示された情報にはいろいろなものがあって、中には3つの要件を満たなさないものが
多数ありますから、秘密管理してもいない、非公知でもない、有用性もない、ああいう3
つの要件のどれかを欠く情報については示されたということで使っていいのです。そうい
ったものについて、もし禁止があるのであれば、公序良俗に違反しないで契約が結ばれて
いれば、それに従うだけです。
続いて、悪意重過失転得者。悪意重過失転得者というのは、先ほどの図の5号と8号、
不正取得の系列だと5号で、正当取得の系列だと8号です。ここで大事なのは、実は、と
いうことで、8号の括弧書きを見ていただきたいのですが、2条1項8号の条文のもう1
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不正競争防止法
つのキーですが、「その営業秘密について不正開示行為・・・括弧を飛ばして・・・である
こと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大
な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しく
は開示する行為」。不正開示行為というのは、「前号に規定する場合において同号に規定す
る目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘
密を開示する行為をいう。以下同じ」とあるのですが、これはさっきの図でいくと、前号
というのは7号ですから、前号の開示というのはこの図でいくと、7号のYの図利加害目
的開示のことをいいます。こういったYの図利加害目的開示がどこかに介在している、直
接の自分で開示した人でなくてもいいのです、転々流出の過程のどこかでそれに介在して
いることについて知ってか、もしくは重大な過失を知らないで、重過失で取得したZが、
その取得したり、あるいはその取得した情報を使用、開示する行為が8号で違法になって
いるのですが、ここで重要なのは、括弧書きで7号にプラスして、「または」とあったほう
です。「前号に規定する場合において云々、開示する行為または」のあとが重要で、または
秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為」とあります。わざわざ、
この法律上の義務というのが入っているので、これは一般的な法律のほかに、通説的な解
釈は契約上の保護も含むのだ、法律上の保護だというのが通常の解釈です。
具体的にどういうことかというと、もう1回表を見ていただくと、Yは営業秘密を示さ
れた場合にだけ2条1項7号は及ぶと先ほど申し上げました。だから、Yが企業から示さ
れたわけではなくて、自ら情報を開発したり、自ら情報を取得した場合には、そのYの使
用、開示行為については2条1項7号が及ばないので、そこについては契約で規制するの
だというお話をしました。
それとの関係なのですが、この場合、「又は」のところがない、法的義務違反開示と呼び
ますが、ここがなくて7号だけだとすると、第三者に対して、図で、元に戻りますが、企
業から示した情報であればいいのです。示した情報だったらYに対して2条1項7号でい
くし、このYから悪意重過失取得したZに対しては2条1項8号で責めることができます。
これがまさに不正競争防止法がなければ、不法行為で損害賠償に止まったのを差止めを認
める意味があります。問題は、示した情報ではない、例えばYが開発した情報であるため
に、契約でしか守られていない情報です。これについて規定を欠いておくと、この契約だ
けで守られた情報について第三者が悪意重過失で介入してきて、それを取得して使用、開
示するする行為に対して、Xは契約でしか守られていないので不法行為責任しか追及でき
ない、差止めはできないことになります。まさにそれを解消するために作ったのが、この
2条1項8号の、突出した、「又は」のところなのです。これが入っているおかげで、ちょ
っといびつなのですが、Y自身については示してないので、Y自身については不正競争防
止法の適用はありません。けれども、Zについてはあるわけです。Yについては契約で保
護です。でも、Zについては、「又は」があって、その法律上の義務の中には契約も入って
いますから、Zについては2条1項8号が適用されます。Zに対して不正競争防止法に基
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不正競争防止法
づいて差止めを請求することができるということになります。これは条文の読み方の問題
です。
次、今度は事後的悪意重過失者の不正利用行為です。最後に残ったのが、事後的の悪意
重過失だから、6号です。9号の場合、取得時には善意無重過失だったけれども事後的に
悪意重過失になった、その場合どうするか。これは読み方がちょっと難しいのです。この
条文を読んだだけでは趣旨がわからないので、12 条1項6号と合わせて読むと理解ができ
ます。12 条1項6号は何の条文かというと、適用除外の条文ですが、
「取引によって営業秘
密を取得した者(その取得した時にその営業秘密について不正開示行為であること又はそ
の営業秘密について不正取得行為若しくは不正開示行為が介在したことを知らず、かつ、
知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)」要するに、善意無重過失取得者がその
取引によって取得した権限の範囲内においてその営業秘密を使用し、開示する行為には適
用除外だと。何を言っているか。
レジュメに戻ります。保有者Aがいて、不正取得者Bがいて、そういう意味で不正取得
行為が介在しています。そのBが自分は不正取得だということを隠してCにライセンス契
約をした。こういう情報を使いませんか、いくらか払ってくださいと、Cに渡した。この
場合のCは 12 条の1項6号でいきますと、取引によって取得した権限の範囲内において営
業秘密を使用、開示することができるので、例えばBC間の契約で3年間使用してよいと
いうライセンス契約が締結されていたとしますと、これはAとは何の関係もない契約なの
だけれども、善意無重過失で取得したCを保護するために、この3年間の間は取引の権限
内の範囲の行為としてセーフになる、適用除外になる。Aは差止めができません。損害賠
償はもちろんできない。これは善意無重過失取得者のCを保護する規定です。では、未来
永劫、保護されるかというと、そうではなくて、取引の権限の範囲内なので、Cがこの3
年を越えて使用するとか、あるいは3年以内であっても使用のライセンス契約しか受けて
いないのに、開示したりする、そういう行為は取引の権限を越えていますから、その時点
でCが悪意重過失であれば 12 条1項6号を適用されないので、原則どおり2条1項6号で
事後的悪意重過失開示ということで禁止されるということです。だから、2条1項6号と
か、2条1項9号の事後的な悪意重過失の使用、開示を違法としていますが、その趣旨は、
取引の権限内だったらどうせセーフになるのです。取引の権限を越えたときに違法とする
趣旨です。もともとイショウセキの関係で、まずは違法行為、悪意重過失とか原告が言う。
それに対して被告のほうが、「いや、自分は取引の権限はないですよ」とそういう抗弁を出
す、そういう構造にするために、原則として違法だと書いておいて適用除外を書いている
のです。だから、言いたいことは、善意無重過失でも、事後的に悪意重過失ならもう使っ
てはいけないということではなくて、取引の権限内だったらその限度で保護してあげると
いうことです。B自身はAについて権限を持っていないのですけれども、予測可能性、取
引の安全を考慮して、公知がない権利だ、特許と違うということを考慮して、前取得者を
保護したということになります。重要なことは、BC間で無期限のライセンス契約だった
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不正競争防止法
ら、無期限になるのです。それから、もっとすごいのは、BC間で開示も自由となると、
開示までできる。これが立法論としていろいろな問題がある。使用する分には構わないけ
れども、開示までされると、そもそも非公知ではなくなって、営業秘密自体が壊れてしま
うかもしれない、そこまで許すのかということもありますが、それはすべて立法論です。
続いて、8条、消滅時効の規定になります。これも大変難しい条文です。8条の条文は、
「2条1項4号から9号まで掲げる不正競争のうち、営業秘密を使用する行為に対する
云々、予防を請求する権利は、その行為を行う者がその行為を継続する場合において、そ
の行為により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある保有者がその事実及
びその行為を行うものを知ったときから3年間行わないときは、時効によって消滅する。
その行為の開始のときから 10 年を経過したときも、同様とする」、これは大変難しい規定
ですけれども、これは何を言っているのかというと、図をかきました。大事なことは、使
用開始から 10 年か、もしくは請求権者、営業秘密を管理している者だと思いますが、請求
権者がその使用の事実と加害者を知ってから3年間放っておくと、だから 10 年かもしくは
3年かということです、放っておくと時効消滅するということですが、基本をいうと、こ
の条文がないと差止請求で時効にかからないというのが普通の理解です。
不正取得行為とか、特に不正使用行為について、不正使用行為というのは日々ずっと不
正使用している。そうすると、普通の考え方は、日々新たに差止請求権が発生しているの
です。ので、時効にかからない。差止請求権というのは時効にかからない。使用が継続し
ている限りは、永遠に請求できる、この条文がないと。20 年経とうが、30 年経とうが、毎
日新しい侵害行為が行われていれば、それを理由に消滅時効にかかることなく請求できる
というのが普通の考え方です。例えば、商標権侵害を 30 年間行っている、30 年たったけれ
ども、30 年後起こすことはできるのです。
ただし、ということで、差止請求は日々発生するので、日々できる。でも、それと違っ
て、損害賠償請求は時効にかかるのです。これがややこしいのだけれども、損害賠償請求
というのも日々発生しているわけです。差止請求については、過去の侵害行為を今になっ
て止めてくれということはいわないです。差止めというのは、常に最新の時点での、今の
侵害行為を止めてくれ、日々発生している侵害行為を今止めてくれ、現時点、そして将来
止めてくれという、そういう請求です。そうすると、差止請求権というのは、常に最新の
行為がある限りは時効にかからないです。全然時効期間が進行していませんから。
それに対して、損害賠償はそうではなくて、日々、例えば平成8年の1月1日の損害賠
償、あるいは平成9年の1月1日の損害賠償、こういう過去の行為によって生じた損害と
いうのがあります。これの賠償を求めていくものですので、差止請求、例えば、今、平成
16 年の1月1日だとして、差止請求は平成 16 年1月1日およびそれ以降の侵害行為を請求
するので、差止請求は時効にかかっていません。けれども、この時点で、昔の行為、平成
8年から平成9年の、このときに私が受けた損害賠償を請求しますということになると、
これは時効があり得るのです。どういう時効にかかるかというと、普通、不法行為債権と
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不正競争防止法
して民法の 724 条の時効にかかります。民法 724 条とはどういうことなのかというと、何
も知らないときは 20 年、損害および加害の事実を知ったときから3年間で時効にかかりま
す。だから、このへんで知ったときには3年で切れる。もし何も知らなければ、まだ 20 年
たっていないので請求できるという形で、損害賠償については時効にかかります。そうい
う違いがある。原則はこれです。これを押さえてください。
その上で、営業秘密だけについては、差止めについて特則があります。どういう特則か
というと、これが原則なのだけれども、でもずっと使用していて、営業秘密などというの
は公示もない権利なので、ずっと使用している、そうすると使用状態をある程度保護する
必要があるのではないかということで、一定地点で切ってしまうのです。あと、もう1つ
は、やはり特許制度の関連なども重要で、特許だと出願をして、世の中に裨益する行為を
している、それにもかかわらず 20 年で切ってしまう。営業秘密は未来永劫というわけにも
いかないではないかということで、結局、使用を開始してから 10 年で差止請求権が消滅す
る。さらに請求権者が損害および加害の事実を知ったときは、そのときから3年という、
もっと短くなるかもしれないということになっています。
それから、損害賠償請求権についてです。この 10 年の時点で差止請求権が消滅する。損
害賠償についてはどうかというと、個別のこうやって生じた損害について民法 724 条の通
常の時効がかかります。だから、例えば、この時点、平成 16 年1月何日かわかりませんが、
10 年たった後に請求すると、差止請求は棄却されるけれども、過去の行為についてはまだ
20 年たっていないので、過去の行為について損害賠償請求だけはできる、そういう状況も
あります。複雑です。
さらに複雑になります。では、今、差止請求権の時効についてだけ話しました。それで
わかったことは、10 年で切れるという事です。だから、10 年以降はもう差止めに服しませ
ん。でも、その場合でも、もし公知されれば服さなければいけなかった過去の期間につい
ては損害賠償請求権が発生していて、それについては別途、民法 724 条で時効が進行して
いると話しました。抜けているところがあります。それは何か。ここの 10 年で差止請求が
切れた後の時点での損害賠償請求はどうなるのかということです。条文では常識的に規定
されています。それが4条の但し書きです。但し書きの前は、「損害を賠償する責めに任ず
る。ただし、第8条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用
する行為によって生じた損害については、この限りではない」と書いてあるので、ここに
ついては、結局、4条の但し書きで損害賠償請求がとれなくなる。常識的です。だから、
10 年で差止請求権が切れると、あるいは加害および損害の事実を知ったとき3年で差止請
求が切れると、それ以降については差止めもできなくなれば、損害賠償もできなくなる。
だけど、その場合でも、過去の行為によって、まだ違法だった時代の行為によって生じた
損害については別途、民法 724 条の消滅時効に服さなければ請求できる、そういう状態は
続くことになります。ここは、もう条文にそう書いてあるので、あとは読み方の問題です。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(4)>
特許制度との関係について説明します。これはすごく議論がありました。わざわざ特許
制度のほかに営業秘密の保護制度を設ける趣旨は何だと。議論の多くはやはり、特許制度
に比べて営業秘密は自分のことしか考えてないのではないかというものです。会社はそう
ですね。特許権者だって自分のことしか考えていないのですけれども、特許権を得るため
に出願をして、世の中に技術を公開しています。その分世の中のために一応努力をしてい
る、というか、させられているわけです。それに対して、営業秘密の場合は秘密にだけし
ていて、情報を独り占めにしているので、全然世の中のためになっていない。そんなもの
を保護する必要があるのかと、そういう議論がありました。
ということで、まず 1 つ目は、特許制度に抵触するかしないかですが、少なくとも特許
制度の邪魔にはあまりならないのではないか。あっても悪くはない。悪くはないというか、
ひどいことはない。そういう意味では消極的理由。不都合はそんなにない。なぜかという
と、営業秘密の保護というのは独占権を付与するものではないから。先ほどから見ている
ように、秘密管理体制を突破する行為だけがアウトになっている。主観的要件もかなり課
されています。これに対して、特許の方は強いです。特許は独自開発に対しても原則とし
て権利を及ぼすことができます。出願前に相手が事業を準備しているとか、そういう例外
的な場合を除けば、特許権は独自開発にも及ぶのです。
それから、営業秘密の保護は情報が秘密でなくなった場合には及ばないので、一般には
特許のほうが有利です。普通の情報であれば、特許権を得ておいたほうが有利なので、営
業秘密の保護があることによって、
「特許権はばかばかしい」などと特許出願のインセンテ
ィヴが失われることはありません。そういう意味で不都合はあまりない。では、不都合が
ないだけではなくて、積極的に保護する理由はあるか。たぶんあります。それは、1 番最初
に戻りますが、特許の要件を満足しないとか、あるいは極めて模倣が容易なために、特許
出願したくない、技術を公開したくない、という場合。秘密として管理せざるを得ないよ
うな場合があるのです。そういった場合には、特許制度があっても、十分なインセンティ
ヴになっていないわけです。特許がインセンティヴに機能していない。秘密にしておかな
いといけないのに、特許出願すると公開されて、模倣されてしまう。それでいて、それに
対する保護が万全ではない場合。見つけにくいので、あるいは模倣が容易なために保護が
万全ではない場合。こういう場合には特許がごほうびになっていないです。
それから、特許を受ける要件を満足しないものとしては、顧客情報などのように、営業
の質の改善、ひいては効率化に伴って最終的にはもしかすると価格が下がることによって
需要者が恩恵にあずかれるかもしれない、そういった類のものもあります。こういったも
のについては特許制度が機能していないわけですから、秘密管理というのは特許によるイ
ンセンティヴ計算が十分に機能しない場面で、技術開発等のインセンティヴになっている。
ということで、特許制度とは別に情報の秘密管理者を保護する必要があるのではないかと
32/110
不正競争防止法
いうことで、意味があるのだろうということです。
その他の問題はちょっとややこしい話ですけれども、実は最終的には憲法論にいくので
すが、ちょっと条文を見ていただくと、6 条というのがあります。不正競争防止法 6 条です。
不正競争防止法違反行為全部にかかわる条文ですが、不正競争の訴訟では、当事者に対し
て、侵害行為について立証するためであるとか、侵害行為による損害の計算をするために
必要な書類の提出を命ずることがある。これは民訴の条文も今ではこのような形で一般的
義務になっていますが、昔からこういうタイプが知的財産法に多いです。一般的に文書を
出さなければいけないですよ、と書いてあるわけです。ただし、正当な理由があるときは
この限りではないと書いてある。だから、一応、文書をたくさん出さなければいけないの
だけれども、正当な理由、何が正当な理由なのかよくわからないところがありますが、営
業秘密があるというだけでは足りなくて、もうちょっと立証の必要性とか、侵害行為の蓋
然性とか、総合的な考慮をするなどと言われていますが、ともかく営業秘密があることは
正当な理由の重要な要素になるでしょうという形で、6条では文書の提出命令が一般的に
なりますが、自分が、営業秘密があって出したくないというときには一部、守られている
のです。まずそれが基本です。
ところが、これが営業秘密の侵害訴訟で訴える方にとってはまったく役に立たないので
す。どうして役に立たないかというと、6 条では、出さない自由もあるのです。正当な理由
として、営業秘密であることが大きく斟酌されるでしょう。出さない自由もある。けれど
も、侵害訴訟で自分が原告になっているときは、営業秘密を証明したいのです。営業秘密
を証明して、自分はこの3つの要件を満たしています、不正取得行為が介在しています、
だから被告を止めてくださいと言いたいわけです。ですので、この規定はまったく保護に
役立たない。要件を証明しようとする場合には役立たないという話です。積極的に営業秘
密を開示せざるを得ないです。
それで、どういうふうに考えるかということになるのですけれども、営業秘密を証明し
ようとする場合、難点が 2 つあります。1 つは、相手方に知られること。これに対しては、
相手方が営業秘密を取得しているから訴えているのであって、それはあまり被害にならな
いではないかとも考えられるかもしれません。でも、そうでもないのです。自分が秘密管
理している情報の文書、相手方はそのごく一部しか知らないかもしれない。一部知って使
っているから不正取得行為と不正利用行為は存在しているのだけれども、自分では相手方
がどこを使っているのかよくわからない。ともかく自分はこういう情報を管理しています
と言って、データをボンと出して、これで有用性を満たしますね、などと裁判所に見せる
と、「ふむふむ」などと相手方にバレてしまうわけです。そういう問題がまずある。
それからもっとひどい話で、憲法 82 条 1 項というのがあって、裁判は公開しないといけ
ないと書いてある。営業秘密侵害事件も公開法定にさらされることになります。すると、
ライバル企業が皆、見に行って、そこで有用性の要件をとうとうと弁論すると、皆が知っ
てしまう。秘密でなくなってしまう。そうすると、1 番最悪の場合は、秘密ではなくなった
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不正競争防止法
ので、非公知性の要件を満たさないということで、請求が棄却されるなどという、笑い話
のようなことも理論的にあり得るわけです。そういう問題があります。
従来はどうやっていたかというと、なるべく口で言わなかったのです。別紙目録記載の
とおりの顧客情報があり、などというと、傍聴していてもさっぱりわからない。そういう
形でなんとか便法を使って訴訟で秘密が漏れないようにしていたのですが、それにしても
やっぱり限度があります。どうしたかというと、いろいろな時代を経ました。
まず 1 つ目は、実は役立たない話で、さっきの話に関係するのですが、インカメラ手続
というのがあります。今の問題からちょっと前に戻りますが、営業秘密が含まれている場
合は正当な理由を肯定する方向に斟酌される、そういう意味では出さない自由があると言
いました。けれども、自分が、営業秘密があるよというだけではやはり正当な理由を証明
できないので、裁判所に言わなければいけない。そのときに、相手方が聞いていると、自
分の秘密が相手方にバレてしまいます。文書の提示をしたくないから正当な理由があると
言っているので、そういうときには裁判所の中だけで判断してほしいという、裁判所限り
で判断してほしいと、そういう要請があるはずです。ということで、これは昔からある条
文なのですが、裁判所だけで自分の正当な理由を斟酌してくれ、営業秘密だと認めてくれ、
営業秘密だと認めてくれる場合には、相手方に渡さないでくれ、と。こういうのをインカ
メラ手続、カメラというのは裁判所の法廷の中のことですが、インカメラ手続といいます。
それが 6 条 2 項で、
「裁判所は前項ただし書きに規定する正当な理由があるかどうかの判断
をするために必要があると認めるときは、書類の所持者にその提示をさせることができる。
この場合においては、何人もその提示された書類の開示を求めることができない」と規定
されています。
ただ、これは逆に相手方にとっては不都合があるといわれています。裁判所だけで判断
してしまって、それが本当に営業秘密だったのかどうかということについて、相手方に、
自分で意見を申し立てる機会がないのです。それについて、今回の 2004 年改正で、6 条 3
項というのができて、訴訟代理人については、弁護士の守秘義務で相手方に言わないとい
うことで、訴訟代理人限りでインカメラ手続に出された書類を見て、本当の営業秘密かど
うかを見ることができるという手続が導入されました。
こちらはあまり営業秘密の侵害で訴える方に役立たない話だけれども、手続的に改善し
たという話です。2004 年改正についてはもっと大事なことがありまして、裁判の公開問題
についてメスを入れました。1 つは、自分の方で証明する話です。自分の方で証明するとき
には、どういうことになるかと言いますと、まず相手方当事者には開示しなければいけな
いわけです。どうやったって相手方の手続保障を考えると、営業秘密の侵害訴訟の被告に
なっているのに、原告から示された営業秘密について、自分でそれを見ることができない
というのでは手続保障に欠ける。だから、相手方は見てよいと言わざるを得ないのですけ
れども、その場合に秘密保持命令というのを裁判所が出せる。だから、当事者の代表者と
か、幹部くらいまでは見ていいけれども、それ以上の従業員に見せてはだめだとか、使っ
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不正競争防止法
てはだめだとか、あるいは訴訟代理人は見ていいけれども、それ以上は見せてはだめとか、
そういう形で、秘密保持命令を裁判所が出すことができるということが決まりました。こ
れに違反すると刑事罰がかかる。
それから、もう 1 つ、こちらのほうがすごいですが、当事者尋問あるいは訴訟代理人の
尋問とか、尋問については、これも裁判の 1 つなのですが、公開を停止することができる。
これは憲法 82 条 2 項で、「公の秩序または善良の風俗を害するおそれ」にあたるときには
非公開でいいと書いてある。なかなかこの条文で営業秘密の侵害の訴訟で営業秘密を提示
すると秘密性が失われることが、「公の秩序または善良の風俗を害するおそれ」にあたるの
かといろいろと問題があったのです。文言上の疑問があった。でも、日本では硬性憲法で、
まさかこんなところで 1 番最初の改正が行われたら、知的財産法学者は憲法学者に恨まれ
てしまうのでなかなかできなかったのですが、今回は憲法学者の応援も得て、財産秩序と
いう公の秩序に反するのではないかということで多少きついですが、この 82 条 2 項を読み
込んで、これを根拠に当事者尋問の公開の停止が可能になったということであります。大
変思い切った改正があったのです。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(5)>
「商品等主体混同行為」
、条文でいうと不正競争防止法 2 条 1 項 1 号について説明します。
ちょっと条文を見てください。不正競争防止法 2 条 1 項 1 号、「他人の商品等表示……と
して需要者の間に広く認識されているもの」とあります。この「需要者の間に広く認識さ
れているもの」という要件のことを「周知性」と呼びます。さらに読み進めます。「他人の
商品等表示……として需要者の間に広く認識されているもの」、例えば SONY、「と同一若し
くは類似の商品等表示を使用し」とある。
「同一若しくは類似」と丁寧に書いてありますが、
要するに類似の範囲内で使用するということですから、ここの要件のことを「類似性」と
呼びます。
「他人の商品等表示として……需要者の間に広く認識されているものと同一若し
くは類似の商品等表示」
、例えば SONY とか、似たようなもの「を使用し、又はその商品等
表示を使用した商品を譲渡し……」
、最終的に「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行
為」、これが不正競争防止法 2 条 1 項 1 号に規定されている行為になります。最後の「混同
を生じさせる行為」という要件のことを「混同のおそれ」というふうに呼びます。周知で、
類似で、混同のおそれある行為を禁止しているということになります。
制度の趣旨ですけれども、表示に化体した信用というのがあるというのは、先にお話し
しました。その信用にフリー・ライドして顧客を奪う行為を禁止しようというものであり
ます。どうしてかというと、もし他人のマークを勝手に使って混同を生じさせる行為を許
してしまいますと、せっかく SONY という名のもとに、あるいは WALKMAN という名のもとに
信用を付着させようとして、商品ないし営業の質を改善させる、そして日々努力する、信
用を維持する、信用を化体する努力をする、そのインセンティヴが多少失われかねない。
せっかく営々と築き上げてきたブランドイメージに他人がただ乗りする、それだけでも困
りますが、さらにもっとひどいときには、他人がその同じブランドでより粗悪な商品を供
給する。それで、消費者は混同したままだということになりますと、自分の方のブランド
イメージが積極的に増えないだけではなくて棄損すると、そういう問題があります。これ
はやはり信用というものが世の中の商品や営業を改善する方向につながっている、商品や
営業の質を維持・改善するインセンティヴを働かせていることに鑑みると、あまりよろし
くない帰結だということであります。
それからもう 1 つ、ほかの知的財産にあまりない、マーク独自の特徴なのですが、より
一層公益的な問題もあります。それは、もし皆がめったやたらに類似の表示を使える、め
ったやたらに混同行為をなしてよいということになりますと、SONY とか WALKMAN という表
示を見ても、特定の人の商品、特定の人の営業だと分からないということになってしまい
ます。みんながみんな自由に名前を勝手にまねできるということになりますと、商品や営
業が誰のものだか分からなくなる。ある名称のもとで同じ営業なのか、よく分からないと
いう問題が生じまして、取引秩序の維持を図ることができなくなります。これは基本的に
は直接消費者の保護の問題だということになります。
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不正競争防止法
この 2 つの趣旨と同じような趣旨で類似のマークの使用を規制する法律としては、ほか
に登録商標制度というのがあります。皆さんご存知だと思いますが、例えば商品名の横に
Ⓡ、あるいは最近は TM といったものもはやっていますが、こういったマークが付いている
のを見たことがあるかもしれません。これは別に法的な意味はありませんけれども、前者
は「レジスタード」という意味で、例えば Disneyland とか WALKMAN の横にこういうのが付
いていたら、このマークは登録していますよと、そういう意味です。後者は「トレードマ
ーク」という意味で、
「登録商標」を英語にしたものですが、こちらも登録していますよと、
そういうことを示しています。
この登録商標制度というのは特許と同じで、こういう商標を使用したい、権利を得たい
ということで、特許庁に出願して、商標登録を得るということになっています。その制度
と、要するにダブルトラック、2本方式なのです。登録商標制度でのマークの保護と、こ
の不正競争防止法での保護というのが、二本立てで並行して存在しています。
どういう関係になるのかということですが、登録商標というのは特許庁に出願しないと
登録していただけません。だけれども、世の中のすべての営業者が商標登録をしてもらっ
ているわけではないですね。特に皆さんが日々食べに行くような、チェーン店でない町の
食堂屋さんなんかは、登録料が高くてばかばかしいので、ほとんど商標登録していないと
思います。ほかにもいろいろな商品がありますけれども、むしろ商標登録していないもの
の方が多いはずです。そういった場合でも、商標登録がないからといって、登録していな
い人が悪いのだということで、模倣自由だということにしてしまいますと、先ほどお話し
しました 2 つ目の公益的側面、需要者の混同が放置されるという問題があります。
だから、マークの保護の 2 つ目の趣旨からいくと、権利者の方が努力して商標登録を持
っているのか、それともあまり努力せずに持っていないのかということと無関係に保護す
る必要があるというのがまず 1 点。商標登録がなくても不正競争防止法の保護を及ぼす必
要があるということです。
それからもう 1 つ、最初の方のマークの保護の趣旨、インセンティヴ問題からいっても、
次のように言えるかもしれません。商標登録の制度というのは、基本的に日本全国に権利
が及ぶというところに特徴があります。けれども、全国で手広くやるつもりはない、うち
は北海道の北大の近くで、そこら辺の 1 キロ四方のお客さんだけ相手にしていればよいの
だ、それで充分なのだというようなお店屋さんが非常に多いわけです。そういう人に、わ
ざわざ全国的な権利である、その分特許庁にもご迷惑をお掛けしますし、それなりにお金
も払わなければいけない、出願手続が複雑だ、面倒くさいということであれば弁理士にも
頼まなければいけない、そういうことを強制すべきか。本当は商標登録を受けなくてもい
いような小規模の営業者を保護する必要がやはりあるのではないか。小さい範囲ではある
かもしれないけれども、そこで日々、商品、営業の質を改善している、そういう人を、大
きな権利を取るということをしなくても、保護する必要があるのではないかということで
す。その小さな範囲では、同じようなインセンティヴ問題が起きているはずだということ
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不正競争防止法
です。
それから、登録商標制度というのは、日本の場合は先に手を挙げれば商標登録できるの
です。まず使用して、それなりに信用が化体してから、「私、こんないいマークを使ってい
ます、こんなふうに努力していますから、特許庁さん商標登録をしてください」と言う必
要がない。これから WALKMAN を使おうかなとかいう形で、サッと出願をして登録すること
ができる。それだけ迅速に保護を受けることができるのです。しかし、逆に言うと、自分
がすごく使いたいと思っているものが、あまり使われていないにもかかわらずぽこぽこと
商標登録を取られたりしていることが結構あるのです。そこで、登録商標制度と不正競争
防止法の調整問題が起きるのですが、ちょっと難しい問題は置いておくことにして、他人
に取られているせいで自分が類似の範囲で商標登録できないという場合であっても、具体
的な混同は起きます。需要者の保護は問題となります。さらに、もしかしたら小さくなく
て、より大きく手広く商売をしていて、本当は商標登録を得たいということなのかもしれ
ないけれども、他人に権利を取られているから登録を得ていないということがあるのです
が、そういった営業者を保護する必要があるだろうということです。
以上が、2 つとも積極的理由です。最初の方が需要者の観点から見た積極的理由で、2 つ
目の方は請求権者になる人から見た積極的理由です。
次は、消極的理由です。不都合はあまりないのではないか。この後、より具体的にお話
ししますが、不正競争防止法 2 条 1 項 1 号による保護というのは、一定地域で、周知とな
っている範囲内だけで保護する制度なのです。その範囲で保護するにすぎないから、例え
ば北大の前でやっている人が、九州で営業をしている人を止めるとか、そういう形の権利
ではないのです。だから、あえて商標登録をして、公示させる必要はないだろうというこ
とになります。特に登録を要求する意味はないのではないか、要求しなくてもよいのでは
ないか、と。
これがむしろ本当に周知でもなんでもない地域においても何か保護する制度だったら、
やはり第三者の予測可能性を保障するために登録が必要となるでしょう。だけれども、そ
うではない。周知の範囲内、つまり競業者だったらたいてい知っているだろうという範囲
でしか保護しませんから、あえて登録を要求する必要はない。これが消極的理由というこ
とになります。
以上が趣旨です。次に要件の説明に入ります。
まず、周知性の要件。中でも周知性の範囲ということになりますが、まずは地域的範囲。
現行法の条文は 1993 年に改正がありまして、単に「需要者の間に広く認識されている」と
いう文言になっています。1993 年に改正されるまでの旧法では、昭和 9 年にできた法律で
すから、古めかしい言葉なのだけれども、「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル」と
書かれていました。「本法施行ノ地域内」というのは、台湾を入れるとか、現在の日本国内
に限らず広く施行するつもりだったので、こういう言葉遣いになっているわけです。
今の言葉遣いで言ったら、「日本国内において広く認識されている」と書いてあるのと同
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不正競争防止法
じことですから、旧不正競争防止法下では、日本全国である程度知られている必要がある
のではないか、といった解釈もまったくなかったわけではないのです、昔は。
そんな中でいろいろな判決が出てきて、現行法につながっていくのですが、結構有名な
判決があります。それが東京地裁の昭和 51 年の勝れつ庵事件です。原告は横浜市にあると
んかつ料理のチェーン店「勝烈庵」
。これはあの有名な棟方志功の版画を使うなどして、結
構大々的に宣伝していたりしている、老舗のとんかつ屋さんです。私は入ったことがない
のですけれども。
ちなみに、私は子どものころからずっと横浜市にずっと住んでおりましたけれども、勝
烈庵なんか食べに行けるような家庭ではなかったので、全然知りませんでした。北海道だ
とたぶん全然知らない人が多いのではないかと思うのですけれども、この中で勝烈庵を知
っている人は……3 人しかいないですよね。今教室の中に 100 人ぐらいいて、知っているの
がそのうちの 3 人ということになると、さすがに周知とは言わないですね、北海道では。
これが、横浜では比較的知られているということです。たぶん横浜国大なんかだと、だ
ーっと、ほとんど手が挙がるということになるのだと思います。そういう意味で、横浜市
だけでとは言いませんが、横浜では大変有名な勝烈庵というチェーン店。それに対して被
告は、横浜ではなくて横須賀市。
だいたいどういう事件でもそうなのだけれども、どうせ違法なのだからそのまま使えば
いいのに、微妙に変えるのです。この場合も一部を平仮名にしてみたりとか。悪あがきを
するというか、面白い道徳心がありますよね。もっと堂々とやればいいのに、ちょっとず
らすとセーフになるかなんて、そんなに甘くはありません。「勝れつ庵」という営業表示を
使用したのです。
日本全国で広く知られている必要があるという解釈をとると、これは請求を認めること
ができないですよね、周知ではないから。これに対して、裁判所は「勝烈庵」という原告
の表示は横浜市を中心とするその近傍地域において周知だといいました。
横須賀は横浜の南東方面にありますので、横浜とその近傍地域には横須賀も含まれるこ
とになります。その辺で周知であるということで、その周知の範囲内被告「勝れつ庵」が
営業することは、当時の条文だと 1 条 1 項 2 号ですが、細かいことは別として今後は現行
法の条文でお話ししますが、2 条 1 項 1 号に当たるとしたのです。この判決は全国的に周知
である必要はない、ではどのくらいの地域かというのはよく分からないけれども、少なく
とも横浜とその近傍地域であれば周知性要件を満たすと言った判決です。
その外で営業しているのはどうなるか。勝烈庵は大変まねされることが多くて、もう 1
個事件があります。それが横浜地裁の昭和 58 年の事件です。原告は同じで、被告がさっき
と別です。また皆さん、微妙に変えてくるのです。まず鎌倉市大船の「かつれつ庵」、さら
に、静岡県富士市の「かつれつあん」は全部平仮名にしたということであります。この大
船と富士市はまったく関係がありませんが、共同で訴えられたということです。
それで、原告が差止請求をした。判決は厳しくて、鎌倉市大船においては原告の表示は
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不正競争防止法
周知だということで請求を認容したのですが、静岡県富士市では周知ではないということ
で、請求が棄却されています。鎌倉市はやはり横浜市に隣接していますから、結局この 2
つの判決、裁判所は違いますけれども、同じような認定、横浜市周辺では保護されるけれ
ども、そこから離れた静岡県までは保護が及んでいないということになったので、被告の
うち富士市の「かつれつあん」は使えるようになった。これは別にひらがなにする必要も
なくて、「勝列庵」そのままでもいいのです。そのままの漢字でも何でも、富士市ではセー
フだということです。不競法では止めることができないので、これを止めるには商標登録
が必要だということになります。
ということで、周知性というのは一定の地域で足りる。この 2 つの判決で分かったこと
は、最初の判決で、周知性は一定の地域で足りるぞということ。どのくらいの広さがある
必要があるかは分からないけれども、一定地域で足りるぞ、全国で知られている必要はな
いぞということです。
2 つ目の判決で分かったことは、周知性が一定の地域で足りるときに、条文の要件を満た
しているから全国的に保護されるというふうに読めなくもないのだけれども、そうは読ま
ないということ。一定地域での周知で足りるけれども、その保護の範囲は周知の地域だけ
だということを言ったのが 2 番目の判決だということになります。
それで、これを見ていると、こんな話なのかなというふうに思えるわけです。つまり、
周知性要件は一定の地域において知られていれば満たされる。その保護の範囲は周知であ
る範囲にのみ及ぶに止まるということになると。訴訟で請求権者、周知性を立証する人は
どこにおける周知を立証する必要があるのかなというと、これは相手方の営業地域での周
知を立証する必要があるということになります。
なぜかというと、自分はどこで周知だと言っても別に全然構わない。訴訟では普通言い
ますけれども。でも本当に大事なのは、例えば被告が富士市でやっているのだったら、富
士市で周知かどうかなのです。被告が富士市で営業しているときに、横浜での周知性を言
ってみたり、あるいは札幌での周知性をいくら主張立証しても、まったく関係ないのです。
逆に、もう机上の設例になりますが、あり得ないと思いますけれども、横浜では全然有名
ではない、でも何か富士市でだけやたら有名だというときには、富士市の被告に対する請
求は認められるわけです。これがもし、被告が鎌倉だったら、富士市での周知を立証して
もしょうがない。そのときに問題となるのは、鎌倉で周知かどうかです。その場合に、横
浜で周知かどうかというのは、実は関係ないのです。鎌倉まで周知が及んでいるかどうか
の方が大事です。
だから、これまでは比較的 2 段階に考えていて、最初に原告がどこで周知か、次に被告
がその周知地域に入っているか、という順番でものを考えていました。まあ、実際、今で
もそうですが。ものの考え方としてはそういうふうに考えるのですが、周知性要件の実像
はそうではなくて、最終的に類似表示の使用者、普通は被告ですね、類似表示の使用者の
営業地域で周知かどうかが問題だということになります。
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不正競争防止法
以上は地域的範囲の話でしたが、もう 1 つ同じような話で、顧客層という問題もありま
す。どのような人間の範囲で広く知られている必要があるのか。例えば、先の判決で分か
ったことは、横浜市だけでも足りるのだけれども、その横浜市内の全員に知られている必
要があるのか、大人だけでいいのか、あるいは男性だけでいいのか、30 歳以上でいいのか
と、そういう問題です。これも改正までは結構議論があって、取引者だけで足りるのか、
一般消費者まで必要かなどという形で、議論がなされていたのです。
幾つか判決を見てみましょう。まず、ユアサ事件というものがあります。これは、総合
商社である場合。原告・被告両方とも商社のときに、取引者において広く認識されている
ということだけ認定して、請求を認容した。この判決は、とりあえず取引者で周知である
必要があると思っているらしい。でも、ほかで周知である必要はないと思っているらしい。
それに対して、東京地裁のアマンド事件。「アマンド」というのは結構東京ではよく見る
洋菓子店や喫茶店ですよね。一番有名なのは六本木交差点にあるので、よくテレビにも出
てきます。あのアマンドがまねされたという事件です。それから、僕は実はあまり知らな
いのですけれども、「札幌ラーメンどさん子」というのがわりと東京でチェーン店なんかい
ろいろとやっていたようで、とにかく、その札幌ラーメンどさん子というお店の類似表示
が争われた事件があります。
この 2 つの事件では、判決は、取引者における周知なんかではなくて、一般消費者にお
いて周知だということを認定して請求を認容しているのです。ここから、裁判例は取引者
で周知を認定するものと、一般消費者において周知で認定するものと分かれているなんて
いうふうに思った方も結構いたみたいですけれども、はたしてどうか。これは別に判断が
分かれているわけではないのではないか。単にさっきの横浜と富士市の問題が顧客層とい
う場面で出てきているだけだということです。
だいたい、ユアサ事件で問題となっているのは総合商社なのですが、商社というのは直
接消費者に物を売らないのですよね。会社から会社へというように、取引者と取引者の間
を媒介しているわけです。直接商社が矢面に立つ、消費者と相対するわけではなくて、取
引者を相手に商売をしているわけです。そういう企業同士の争いで、まったくユアサ側と
取引していないような、まったくユアサと無関係の一般消費者における周知性を認定して
もあまり意味がないでしょう。顧客層というものがあったとして、その一部に取引者とい
うのがいて、その他によりたくさんの一般消費者がいるとしますよね(図)。学説では取引
者または消費者全部で周知である必要があるなんていう説がまったくなかったわけではな
いのですけれども、そういう説に立ってしまうと、取引者(図の A の部分)においては周
知なのに、そして、この取引者のところでユアサが争っているときに、一般消費者(図の B
の部分)で周知ではないではないか、顧客層全体からすれば大したパーセンテージを占め
ていないではないかということで請求を棄却してしまうと、取引者の間では充分混同が起
きているのに、一般消費者の間で何も起きていないということを理由に請求を棄却するこ
とになりますよね。だけれども、この場合、一般消費者というのは一切関係ないじゃない
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不正競争防止法
ですか、取引していないのだから。
ということで、取引者を相手にする企業同士の争いにおいて、消費者における周知を要
求すると、取引者における混同が放置されておかしいだろう。だったら、取引者で周知で
あれば足りるだろう。逆も同じで、アマンドとか札幌ラーメンどさん子というのは消費者
を直接相手にしているわけです。そうしたら、やはり消費者における混同が問題になって
いますから、消費者で周知かどうかで見るべきだろうということであります。
今はすごく大ざっぱに取引者か消費者かという話をしましたけれども、もっと狭い顧客
層の範囲が問題になる場合もあります。
例えば、コンピュータランド北海道事件というのがあります。これは昔の事件だという
ことを思ってください。今だとパソコンなんていうのはみんな持っていますが、この事件
の当時はまだまだ一部の人しか持っていない、高価品だった時代です。この時代に被告が
パソコン等の小売り販売をしている場合に、一般消費者ではなくてパソコンを購入しよう
とする者の間で「コンピュータランド」という名前が広く認識されているよということを
認定するだけで請求を認容している。だから、この場合はさらに狭いですよね。一般消費
者ではなくて、当該商品の消費者。だから、例えば当時はよく分からないけれども、10 代
の若者は関係ないだろう、大学生も当時は関係なかったかもしれない。逆に 40、50 だと、
あまりパソコンに興味を示さないかもしれない。その間のある特定のパソコンを購入しよ
うとする者の間で知られているかどうかを見たのです。
同じような話で、中部機械商事事件というのもあります。これはもっと狭いのです。被
告がモノフィラメント製造装置の製造販売をしている。すごく狭いですね。モノフィラメ
ントというのはプラスチックの一種なのですが、このときに、単なる取引者ではなくて、
機械の取引に関与する商社や、機械を使用するプラスチック加工業者の間で広く認識され
ているということを理由に請求を認容している。これも取引者の中でも狭い範囲で見たと
いうことですね。
それから最後、松前屋事件。これは逆に請求が認められなかった例で、松前屋というの
は京都市内で高級昆布の製造販売を営んでいるお店です。一部の好事家を除いて、被告の
顧客である一般大衆に広く認識されていない。これはかたや京都市内、かたや大阪市内と
いう事件で、被告は大阪市の方で同じく昆布の販売を営んでいるのですけれども、被告の
方はわりと低廉な大衆商品だということで、したがって被告の顧客の方がすごく層が厚い
わけです。ずいぶん古い事件ですから、当時の京都と大阪の距離というのも考えなければ
いけないのでしょう。今だったら分かりませんが、当時だと、大阪の被告のお店に訪れる
中で原告を知っている者はまだごく一部だということで、請求が棄却されているわけです。
こういった例もあります。
ということで、周知性の及ぶ顧客層という問題においても、結局は周知性を認定する必
要があるのはどこかというと、類似表示の使用者の顧客です。松前屋事件は、原告・被告
ともに昆布の例だったけれども、例えば原告が昆布ではなくて味噌で、被告が昆布だとい
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不正競争防止法
うときに、どの顧客における周知を認定する必要があるかというと、原告が商売している
味噌の方ではなくて、被告が商売している昆布の方の顧客だということになります。昆布
を買うお客の中、原告がどのくらい有名かが問題となるのです。原告が商売している味噌
を買うお客の方で周知性を認定しても、被告が商売している昆布を買うお客の方だとまっ
たく誰も知らないのだったら、混同は起きていないではないですか。大事なのは、原告が
相手にしているのはどうでもよくって、むしろ被告が相手にしているところでかなりの混
同が起きているかどうかというのを見るための要件だということです。被告のところで周
知かどうかで見るのです。
そうはいっても原告の味噌の方で有名だから、味噌と昆布はわりと似た商品だから、味
噌で有名な人はだいたい昆布でも有名だろうという形で、普通は二段階に認定しますよ。
だけれども、最終的に目標にしているのは被告の顧客における周知だということが大事で
す。それはちょうど先に説明した地域的範囲の場合と同じです。
ということで、周知性という要件は、類似表示使用者の商品または営業の需要者の間で
原告の表示が知られていることという要件だということになります。この需要者という言
葉は地域的に区切られたものでもあれば、顧客層として区切られたものでもあるのです。
類似表示使用者が相手にしている地域の需要者、類似表示使用者が相手にしている層の需
要者の間で広く原告の表示が知られていることという要件なのだということが分かります。
私がこのように裁判例を分析して申し上げた結果、現在の条文になったので、現在の条
文は「本法施行の地域内において広く認識されている」などという誤解を生むような表現
は省きまして、「需要者の間に」というだけになっています。その趣旨は、もっとしっかり
書けばと私は言ったのだけれども、まあ分かるでしょうということで、とっただけなので
すけれども、ここにいう需要者という意味は、今申し上げたように類似表示使用者の方の
需要者だということになります。
松前屋事件を逆に例にとって、顧客層が保護の範囲を広げる方向に働く場合があるとい
うことをお話しします。
原告の商品は高級昆布でした。お店は京都にあります。被告が大阪ではなく北海道で、
やはり同じように一般消費者を相手に低廉な昆布を販売しているのだったら、たぶん周知
性は認められないでしょう。だけれども、たとえ北海道でも、原告と同じように高級昆布
を被告が売っているとすると、高級昆布だけを買う顧客層というのはごく限られているわ
けですよね。そういう人だとすごく各地域の昆布に興味を持っているから、京都の松前屋
を知っているかもしれない。だから、被告が手広くやっていると周知性がないけれども、
すごく狭く高級昆布だけをやっていると、北海道でも周知だということもあり得る。そう
いった形で、いろいろと柔軟に使うことができる要件なのです。
以上が、周知性の範囲の話でした。
これまでずっと、どの範囲で周知性を認定する必要があるかというお話をしてきました。
そして、範囲は分かった。ではその中で何人に知られたら周知といえるのか。先ほど教室
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不正競争防止法
の皆さんに手を挙げてもらって、100 人中 3 人では駄目だろうといいました。一応皆さんと
んかつ屋に行く人だということが前提ですよ。皆さんの中でもう絶対とんかつを食わない
人がいるとしたら、その人たちは省いて考えなければいけません。
どう考えるかというと、判決として東京地裁の平成 12 年 6 月 28 日、判例時報 1713 号 115
頁のリーバイス事件というのがあります。
それで、知的財産法の判例の調べ方についてちょっとここで申し上げておきますが、知
的財産法の裁判例は、全部とは言いませんが、そのほとんどが、最高裁のサイトに載りま
す。最高裁判所のサイトに行くと、知的財産権裁判例集というコーナーがあります。検索
もできます。リーバイス事件も、判例時報で調べてもいいのですけれども、平成 12 年 6 月
28 日で検索すると出てきます。ただ、そういうサービスが始まったのが 1999 年、平成 11
年 7 月からなので、ちょっとややこしいのだけれども、平成 11 年 7 月以降の判決であれば
だいたい載っている。例外が幾つかあって、仮処分はあまり載らない。あと、札幌は載っ
たり載らなかったりとか、いろいろとあるのだけれども、基本的にはだいたい載っていま
す。
それで、平成 11 年 6 月以前はどうかというと、知的財産権関係民事・行政裁判例集、そ
れ以前は無体財産権関係民事・行政裁判例集、覚えなくてもいいけれども、略して知裁集・
無体集という公式の立派な判例集があるのだけれども、その知裁集・無体集という判例集
に載ったものだけが載っている。だから、すごくややこしいのだけれども、将来実務とか
へ行ったときに使うとすると、裁判例の調べ方として、平成 11 年 7 月以降はほぼ載ってい
るから大丈夫、平成 11 年 6 月以前は重要なものが載っているということをちょっと理解し
ながら、最高裁のサイトを利用するといいと思います。
それから、今、下級審と申し上げましたけれども、知的財産権裁判例集のコーナーには
下級審判決しか載っていません。では、知的財産権関係の最高裁判決はどうやって調べる
のといったら、同じく最高裁のサイトの最高裁判所判例集というコーナーに行きます。で
も、そこは民集に載ったものしか載っていないから、すごく重要なのしかない。なので、
空白地帯があるわけです。最高裁判決で判例時報なんかには載っているけれども、民集に
は載らなかった判決というのは最高裁に行ってものぞけない、とちょっとややこしいので
す。
そういうのはもう、例えば今ロースクールの方だったら、判例体系か何か引けると思い
ますから、今は全然問題ないですよね。だけれども、将来そういうのが利用できない環境
に行ったときに、最高裁のサイトを使うときには、ちょっと今話したような落とし穴があ
るということを覚えておいた方がいいと思います。
さて、リーバイス事件。僕はジーンズなんていうのは、もうはいたことがない。大学生
時代にはいたことがあるかもしれないけれども、20 年近くはいたことがないので、全くの
素人なのですけれども、リーバイスの名前くらいは知っています。
問題はリーバイスではなくて、それは有名だからいいのですけれども、「501」という表
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不正競争防止法
示。僕には、さっぱり何のことだか。教室でこれを知っている人は……5 割ぐらいですね。
そう、これはリーバイスのジーンズの商品名なのです。今みたいに 5 割くらいくらいだっ
たらもう限界線上の事例ではないので、周知だ、あるいは著名だと言ってもいいかもしれ
ません。この事件では、501 が知られているかどうか、周知性を調べるためにアンケート調
査が行われました。そうしたら、501 という表示を示されてリーバイスと言った者が 16.6%
だったということです。今よりも数値が下がっているのは、たぶん教室の皆さんの方が特
にジーンズに関心のある世代だからなのでしょうね。別に大学生だけ調査したわけではあ
りませんので、もう少し広くとってしまうと、私みたいなのがいますから、どっと下がる
ということなのだと思います。
この 16.6%という調査結果、6 人に 1 人ということだから、少ないのですよね。それでも
判決は周知性を肯定しました。これはアンケート調査結果に基づいて周知性を認めた判決
のなかで、一番低い数字で周知性を認めている判決です。
どう考えるかということですけれども、私はこのくらいでいいと思うのです。もう 10%
を超えていたら周知と言っていいのではないかと僕は思っているのです。例えば、札幌の
有名なラーメン店が 20 店ぐらい掲げてあるリストを示して、これを知っている人、知って
いる人とやっていく。そうすると、
「すみれ」とか言うと、みんな「はい」とか言って、
「て
つや」と言うと、みんな「はい」でしょう。「五丈原」も「はい」だよね。でも、だいたい
10 番目とかくらいになってくると、だんだん手が挙がらなくなってきて、知っている人が
10%くらいになるのです。最初はもう 8 割、7 割とかで、上の方、だいたい 5 つぐらいまで
はいいのだけれども、6 つ目、7 つ目になると、どどどっと下がるのです。それで、例えば
30%必要だとか、あるいは 50%ないと周知とは言えないねなんていう学説がないわけではな
いのですけれども、もしそういう説を採ってしまうと、札幌で保護されるラーメン店は 5
店とかになってしまうのです。でも、頑張ってやっているお店はいくらでもあるわけで、
結構それにはそれなりの、少ないとはいえファンが付いているわけじゃない。その同じ名
前の店が、例えばススキノでやっているあのお店が北大の前に出たというときに、ああ同
じ店かと思ってつい入ってしまう人がやはりいるわけです。そういうことを考えると、あ
まり高めにする必要はないのだろうということで、勝手に 10%だと私は言っています。
たぶんこのリーバイスの事件なんかも、そういう意味では 1 個しかない判決ですけれど
も、いい線いっているのではないかなという気がしています。ただ、今びっくりしたけれ
ども、もっと有名なのね、これ。全然知りませんでした。
最後になりますが、周知性要件の機能についてお話しします。
特に旧法の時代、周知性の要件はすごく評判が悪かった。この要件は何だ、とすごく評
判が悪くて、学会なんかでも、例えばあるガソリンスタンドがあって、次の日に隣に同じ
名前のガソリンスタンドができた。でも、このガソリンスタンドはまだ日もたっていない
ので、あまり有名ではない。そういうときに隣で商売をやっている、みんな混同するのだ。
それにもかかわらず、まだ周知ではないということで、請求が棄却されるだろう。それは
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不正競争防止法
ひどいのではないか、この周知性要件は削除すべきだ、とすごく言われていたのです。
だけれども、今お話ししたような立場で考えると、そうではないんじゃないのというこ
とになります。周知性の要件を削除するという前に、周知性の要件の中身を考えた方がい
いのではないかなというのが私が思っている例です。
零細な大衆食堂の例。北大の南にある、銀星食堂。北大の学生さんにはまあまあ知られ
ているはずです。
問題は、結構知られている、たぶんすごく限られた地域でしか知られていない。北大の
教養部の人は知らないかもしれない。理系でも、医学部の人は知らないかもしれない。で
も、法学部くらいだと、南の方へよく出てきて知っているかもしれない。その程度のお店
なのですけれども、例えばそのすぐ近くで、別のまったく無関係の、同じ名前の銀星食堂
さんが営業を始めたとします。そのときに保護されないのかという問題なのです。学会で
は、こういう場合は保護されないだろうと言っているのだけれども、そんなことはないの
ではないか。確かに、判決ではあまり狭い例がない。こういう事件が起こっても、町内会
とかで解決したりするのか、あるいは訴える気力がないのかよく分かりませんけれども、
あまりこういう狭い例というのは出てこない。狭く認めたといっても、せいぜい横浜市だ
とか、あとは東京都中央区だとか、佐世保市内だとか、そのくらいの広さの判決しかない
のですけれども、別に同じように考えていいんじゃないのと思うのです。銀星食堂さんの
周知の範囲、例えば半径 250 メートル圏。実のところはよく分かりませんよ。もうちょっ
と広いかもしれませんけど、まあこのくらい。例えば銀星食堂さん、この範囲内だったら
例えば 10%の人が知っている。そうすると、この範囲内で営業しているわけですよね。だっ
たら、保護を認めていいのではないかと思うわけです。確かに商標登録もありません。す
ごく広く知られているわけでもありません。だから、特に旧法の条文のように、
「本法施行
の地域内において広く認識されている」なんて、たぶん銀星食堂のおじさん、おばさんは、
その条文を見た途端に「ああ、無理だわ、うち」と思うよね。だけれども、趣旨で考えた
ら、いいじゃない、認めても。銀星食堂さんの営業が及んでいる範囲内でなら。現行法の
条文は「需要者の間に広く」だけれども、私が言っている通り、需要者というのはこのラ
イバルの銀星食堂が相手にしている人のことだから、ライバルもたぶん手広く相手にして
いるわけではないですから、原告の銀星食堂さんと似たような範囲で商売をしているので
しょうから、先に言った範囲内で保護されることになるだろう。類似表示使用者の間で周
知であればよいという要件なのだから、原告の銀星食堂さんが、被告の銀星食堂が相手に
している地域的範囲、相手にしている需要者層の間で周知であれば保護を認めていいだろ
うと思うのです。別に保護を否定する理由はどこにもないのではないか。混同が起きる可
能性があるわけですから。その範囲では周知なのだから、その限りで保護を認めてよいだ
ろうと思っているのです。ということで、周知性の要件は、そんなに削除しろと騒ぐほど
のものではない。
では、まったく意味がない要件なのか。さっき要件は、周知で、類似で、混同のおそれ
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不正競争防止法
という 3 つがあるというふうにお話ししました。今ではほとんど聞きませんけれども、昔
はそのうちの周知性の要件を削除して、混同のおそれだけで考えようという説があったの
です。でも、僕はそう思わない。なぜかというと、周知性要件には、保護されるべき混同
の可能性を判別する場をあらかじめ設定しておくという機能があるのではないかと思うか
らです。先ほど出てきた勝烈庵、札幌では 3 人しか知らなくて、これでは無理だと言った。
そこで、もう混同のおそれなんか認定せずに、すぐに請求を棄却してしまうわけですよね。
これが混同のおそれ要件 1 本だと、だいたいどのくらいの範囲で混同のおそれがあると保
護されるのかどうかというのはちょっとわかりにくい。混同のおそれの判断に行く前に周
知性という要件で見ておくと、ああこの範囲で保護されるのだ、他では無理だとよく分か
る。そういう機能があるのではないかと。ちょうど刑法で、順番に構成要件該当性、違法
性、責任阻却と見ていくように、順番にゆっくり考えていく、その最初の手掛かりになっ
ているのではないかと思っています。
だから、銀星食堂の例だって、周知性という議論をするから、先に言った範囲で保護さ
れますよとすぐ明確に出るのです。これが、山口は言い過ぎだとしても、ススキノなんか
でも、たぶん保護は及ばないと思います。そういった形で、保護の範囲をあらかじめ明確
化するという意味があるのではないかと思っている次第であります。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(6)>
2 つ目の要件、類似性の要件について説明します。
周知性の要件の次が類似性の要件です。幾つか例を挙げます
ちょっと古い例だけれども、「ORIGINS」と「ORIGISON」というのは類似とされた。それ
から、「フシマン株式会社」と「K.K.Fushiman VALVE」というのも。これもさすがに類似だ
よね。「株式会社中部化学機械製作所」と「中部機械商事株式会社」も類似。
それから、「マクドナルド」と「マックバーガー」、これは類似だろうと。これは、天下
のマルシンフーズがマックバーガーを販売した事件。マクドナルドがこれから日本に来る
ぞ、ファーストフードという、新しい形態の、何かよく分からないものが来るぞというこ
とで、そういう大衆向けのハンバーグを売っているところがあせったかどうか知りません
けれども、先駆けてマックバーガーを販売したり、マックバーガーを商標登録したりと、
いろいろな事件を巻き起こしたうちの 1 つです。類似だ、駄目だとされました。
それから、だんだんお笑い調になってくるのだけれども、「ASAHI BEMBERG」と「Asoni
Banbarq」。次がすごい。
「NESCAFE INSTANT COFFEE」と「NEW CASTLE INSTANT COFFEE」。間
違えないじゃないかと思うかもしれませんけれども、文字だけではなくて、図案がよく似
ていたのです。
類似性の判断基準についてお話しします。最高裁判決があります。原告は「マンパワー・
ジャパン株式会社」、これはかなり有名な会社ですよね。人材派遣業で結構有名なので皆さ
ん知っているのではないかと思います。それに対して被告の方は「日本ウーマン・パワー
株式会社」。よく似ているわけです。これを類似だと言ったのです。まあ、それでいいのだ
けれども、最高裁はせっかくだからということで、類似性の判断基準を縷々述べたのです。
「取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく
印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否か」。
何かこう難しいことを言っていますが、この後も難しかったのです。
「マンパワー」と「日
本ウーマン・パワー」だと、ちょっと取り違える人はいないのではないかと思うのです。
「マ
ンパワー」という言葉はあまりこなれていないし、「ウーマン・パワー」はすごく特定のイ
メージがありますから、パロディーには感じるかもしれないけれども、両者を取り違える
ことはほとんどないのではないかという気がします。そういう意味では、「マクドナルド」
と「マックバーガー」とは違うような気がするのです。
ところが、最高裁はこう言ったのです。「マン」という英語は人をも意味する。そう言わ
れればそうですね。「ウーマン」を包摂する語として知られている。こんなことを言って、
今だったら何か怒られそうですね。なので、需要者層においては、「マンパワー」と「ウー
マン・パワー」はいずれも人の能力、知力を連想させ、観念において類似のものとして受
け取られるおそれがあるものというべきである、と。何かすごく難しいことを言ったので
す。でも、こんなに難しいことを言う必要があるのか。最高裁は「マン」というのは非常
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不正競争防止法
に広い概念で、「ウーマン」をも含んでいる。それで、ぼーっと考えた人は、「マンパワー」
と思ったときに、何か人の知力というものを思い浮かべる。しばらく後に、またぼーっと
しながら「ウーマン・パワー」を眺めると、あっ、前に見た表示かなと思う、とそういう
ことを言っているのですけれども、ちょっと無理があるのではないかなと思うのです。
けれども、最高裁が判示したものだから、こういう抽象論をもとに、みんな努力して、
似ているか似ていないかとやるのですけれども、そういう話ではないのではないかなと思
うのです。むしろ、表示自体の区別はつくとしても、
「マンパワー」と「ウーマン・パワー」
は区別はつくとしても、同一の出所からのシリーズ商品ではないかなとか、関連会社では
ないかなと誤認するような表示、そういったものも類似の範囲に含めてよいのではないか
という話なのではないかと思うのです。類似というのはあくまで法的な概念ですから、両
表示がとても似ていることではなくて、両表示がある程度似ている結果、混同のおそれが
起きるということが大事なのです。最終的には類似表示を罰しようという法律ではないの
ですから。混同のおそれを防ごうという法律なのだから、混同のおそれが生じるような似
方というのがあるはずです。
例えば「マンパワー」と「ウーマン・パワー」だと、それ自体は間違えないかもしれな
い。パロディーだと思う人が多いと思いますが、中にはマンパワーの女性部門ができたの
かなと思う人がいないわけではない。それはなぜかというと、そういう似たような構図を
とっているから。「マンパワー」のところが共通しているから。だから類似だ、混同のおそ
れを引き起こすほど似ている、ということでいいのではないかということです。
ほかにも「玉盛シンセン」、「タマモリシンセン」と読むのかな、精力剤ですよね。これ
に対して「強力シンセン」、これも全然違う、イメージとして違うかもしれないけれども、
新しい商品かなと思うかもしれない。あるいは「明治屋」対「池袋明治屋」。池袋に明治屋
さんができたのかと思うかもしれない。阪急はいろいろな被害に遭っていますけれども、
「新阪急ホテル」と「東阪急ホテル」だと、何か阪急ホテルの東にできたのかなと思うか
もしれない。間違えるかもしれない、区別はつくかもしれない。区別はついても、関連会
社ではないかなと思うような混同が起きるほどの手掛かりがあるのであれば、不正競争防
止法上は類似と言ってよいだろう。だから、最高裁のように無理する必要はなかったので
はないかと思っていますが、最高裁判決が出ている以上、皆さんは、実務的にはこの最高
裁のように言わなければいけません。でも、本当はみんな心の中で舌を出しながら、最高
裁のように言っているのではないかなと思っているわけであります。
今言ったように類似性の要件は、私は、基本的には混同のおそれの要件にほとんど解消
されている、独自の意味がないように思っているのです。では、まったく意味がないのか
というと、そうではない。さすがに要件がある以上、意味があります。具体例でいきまし
ょう。
「潮見温泉旅館」と「潮見観光ホテル」、似ていますよね。でも、これは非類似というこ
とで、請求棄却になりました。「火の国観光ホテル」と「ニュー火の国ホテル」、すごくよ
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不正競争防止法
く似ている。火の国ということは、熊本ですね。これも請求棄却です。非類似とされまし
た。「日本印相学会」と「日本印相協会」、けんかの匂いがします。これも非類似、請求棄
却。
次はみんな知っているんじゃないでしょうか。「ニッポン放送」と「ラジオ日本」。ラジ
オ日本の方が後発ですね。皆さんはご存知ないかもしれませんけれども、昔は「ラジオ関
東」と言っていたのです。巨人戦の中継で頑張っていた。それが全国ネットを組んで、「関
東」から「日本」に昇格したのです。そのときにニッポン放送が文句を言ったのです。そ
れで、不正競争防止法に基づいて訴えたという事件です。裁判ではいろいろな例が出され
ました。実際の混同の例なんかも出されまして、代表的なのが、小学校の運動会か何かで、
ニッポン放送の朝 6 時の天気予報で雨だったら中止ですと。それで、当然いるのですが、
ラジオ日本を聞いてしまう人。どこで聞いても同じ天気予報で問題ないのではないかと僕
は思うのですけれども、そういう証拠も出てきました。だから、混同のおそれもある。け
れども非類似、請求棄却。
次は、「柏皮膚科」対「柏東口皮膚科・内科」。新しい方、まねしている方が、だいたい
語数が多いですよね。「東口」に「内科」まで付けてくれた。間違えそうですけれども、こ
れも非類似。
これらをどう考えるか。僕は、妥当だと思うのです。火の国で、あるいは熊本でホテル
をやる。あるいは札幌の定山渓でホテルをやるといったら、それは「火の国」、
「熊本」、
「定
山渓」の名前を使いたいでしょう。みんな。定山渓でホテルなんだから、やはり「定山渓
ホテル」の名前を使いたいわけです。そうしたら、そういう名前は、基本的には本来 1 人
の人に独占させるべきではないのではないか。みんな使いたがるし、それは決してわがま
まではなくて、地名が付いていれば、もう一発でどこのホテルか分かるから、われわれに
とっても便利です。そういうところは、もうごくささいなところで区別してもらうしかな
い。僕は定山渓のホテルにはあまり詳しくないけれども、確か定山渓ビューホテルという
のがあったと思いますし、定山渓グランドホテルだってあったのではないかな。その中に
は「ニュー」が付いたり、付かなかったりするのもあるのですよね。そういうささいなと
ころで区別していくしかないのではないか。
印相学会の例も、印相を扱うんだったら、印相を名乗るしかないですよね。柏なんてい
うのもそうですよね。柏でお医者さんをやっているのだから。まねされるのが嫌だったら、
自分の名前を使うなどして、「田村皮膚科」とかすればよかったわけで、そういう名前を付
けている方もそれなりに覚悟しなければいけない。日本で放送してニッポン放送って、そ
もそもこの局が独占してはいけないのですよ。そういった判断があるのではないかという
ことです。
同じような判断は、別の箇所でも見ることができます。不正競争防止法 12 条 1 項 1 号で、
適用除外の規定ですけれども、いろいろと書いてありますが、商品もしくは営業の普通名
称であれば、それを利用しても不正競争にならない。正確に言うと、条文上は不正競争に
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不正競争防止法
なるけれども、差止損害賠償請求権が発生しない。面倒くさいので「不正競争にならない」
と言いますが、商品もしくは営業の普通名称を使ってもセーフという条文があります。こ
れは例えばリンゴジュースを販売するのだったら、「リンゴジュース」という名称が誰かの
商品名としてすごく有名になったとしても、ほかの人も「リンゴジュース」を使えるよ、
とそういう話です。普通名称はみんなが使えるという話です。
これと同じようなことが類似性のところでも考慮されているのではないかということで
す。ただ、大事なことは、普通名称の場合には、まったく同じ名称を被告も使うことがで
きるのです。これに対して、類似性に関する話は、恐らくまったく同じ名称を被告が使用
することは許さないという話なのです。「潮見温泉旅館」に対して「潮見温泉旅館」だった
らアウトだと思うのです。ささいであれ違うからセーフ。「火の国観光ホテル」に対して、
「火の国観光ホテル」そのままか、
「ニュー火の国観光ホテル」だったら、たぶんアウトで
す。だけれども、
「ニュー火の国ホテル」なのでセーフ。普通名称に当たるとしてしまうと、
保護がゼロになるのだけれども、そうするのではなくて、類似性の範囲で勝負するときに
は、識別力が弱いといいますか、誰もが使いたがるような表示については、表示全体を要
部とする。保護の範囲がピンポイント、すごく狭くなる。類似している範囲をほとんど切
り取って、類似ではないとする。類似の範囲をぐっと狭くすることで保護範囲を限定する。
その代わりゼロにはしない。そういう折衷的な保護を実現するために、裁判所はこの類似
性要件に飛び付いたのではないかと思います。
先に挙げた例のような識別力の弱い表示が問題となる場合には、混同のおそれがあって
も非類似とされて、請求が棄却される。その意味で、類似性要件には独自の意味があるだ
ろうということです。それに対して、識別力が弱くない表示が問題となる場合には、類似
性要件が独自に機能することはないと思います。
次に、3 つ目の要件、混同のおそれについて説明します。
混同といってもいろいろな意味があるので、どういう意味なのかなということが、まず
問題となります。これは学説や裁判例においてどんどん発展していったのです。私が学問
を始めたときには、既に固まっていました。理論的に、順番に考えていくと、まず表示の
混同があります。他人の表示と自己の表示を間違えてしまうという意味での混同。その次
に、もうちょっと広いものとして、商品ないし営業の混同。例えば、
「明治屋」と「池袋明
治屋」のように、表示自体の区別はつくけれども、同じところの営業ではないか、あるい
は、名前は違うけど同じ商品だな、と思う場合。そういった意味での商品ないし営業の混
同というのがあります。
次に、出所の混同。商品・営業の混同と出所の混同はほとんど区別がつきませんが、出
所の混同の方が、もうちょっと広い。商品や営業それ自体は混同されない、例えば新商品
かな、などと思うという意味では混同しない。まったく別個の商品だなと思うのだけれど
も、それでも同じ会社が出している商品だなと思う場合。例えば WALKMAN というのがあっ
て、今までラジカセだったのが、WALKMAN の CD タイプが出た、あるいは DVD タイプが出た
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不正競争防止法
なんていうときには、違う商品だと分かるけれども、WALKMAN と付いていると、ああ、SONY
だなと思いますよね。そういう意味で出所が同じではないかと混同する。それを出所の混
同と言います。
最後。ここまで含まれると言われています。別個の出所だけれども、関連するところが
出ているのではないか、関連会社ではないかと思う場合。広義の混同といいます。これは
どういうことかというと、例えば、ソニー・ミュージックエンタテインメントという表示
を見ると、あの電器の SONY そのものではないなと分かりますね。「ミュージック∼」と付
いているから。だけれども、ソニーという言葉が付いているから、出資 100%の、50%か 60%
くらいかも知れないけど、子会社、関連会社ではないかなと思いますよね。まったく別の
SONY と無関係のところが、ソニービデオという名前で売ると、皆さん、今度は SONY さんが
ビデオの関連会社をつくったなと思うでしょう。こういうのを広義の混同といいます。出
所自体の区別はついているけれども、関連会社ではないかなと思う。そういうのを広義の
混同といいます。
広義の混同も信用にフリー・ライドしていることには変わりはないし、需要者が「SONY
の関連会社ならば安心だ」と言って買うという意味では、需要者をだましていることにも
変わりはありませんので、広義の混同も不正競争防止法 2 条 1 項 1 号にいう「混同」に含
まれるというふうに言われています。
判決として有名なのは、もう古くなってしまいましたけれども、東京地裁のヤシカ事件
というのが大変有名です。ヤシカというのは、もう今や倒産してしまいましたので、皆さ
んは知らないかもしれません。けれども、昔は大衆向けのカメラで大変有名な会社だった
のです。それに対して被告の方は、
「ヤシカ化粧品」というところでした。裁判所はこう言
いました。まず、ヤシカは非常に有名、著名である。単に周知というよりもすごく著名だ
と。そして、経営が多角化している。大きな会社だと、いろいろなことをやっているだろ
うと思われていると。そうすると、
「ヤシカ化粧品」なんて名前が付いていると、カメラの
ヤシカと違うことは分かるのだけれども、関連会社ではないか、系列会社ではないかとい
う印象を与える。こういうふうに、広義の混同を認定して、請求を認容したのです。
「ウーマン・パワー」も、類似性要件のところではちょっと無理をしましたけれども、
混同のところでは、関連会社ではないか、子会社ではないかという混同が起きるというこ
とで、請求を認容しております。
それから、フットボール・シンボルマーク事件というのもあります。これは、ナショナ
ルフットボールリーグ(NFL)のヘルメットをデフォルメしたマークに関して商品化事業が
展開されていたという事例です。マークの利用関係を管理しているナショナルフットボー
ルリーグの関連会社と、日本における商品化事業についてこの関連会社と提携している
SONY の関連会社が商品化事業を展開していて、例えば下敷きについて、ここだったらマー
クを付けて販売してもらってもうちの信用が棄損されることはないというのを選んで、下
敷についてはその会社だけに販売するライセンスをする。ライセンス料をもらうかわりに
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不正競争防止法
マークを付けていいよというのです。一商品種について一企業に限定されたそういうライ
センスが数多くなされていて、全体が 1 つの商品化事業のグループみたいな感じでキャラ
クター(マーク)の展開、マーチャンダイジングがなされているのです。そういった関係
があるときに、被告がライセンスを受けずにマークを付したロッカーを販売したという事
件です。
ロッカーは、原告の商品化事業の中にはまだ入っていなかったという事件で、これは今
までの中では一番広いタイプの混同ですね。まったく系列関係はないのだけれども、被告
がこのマークをロッカーに付すと、ある 1 つのマークについて商品化事業を展開している
グループの一員ではないかと勘違いされる。そういったものも広義の混同に入るのだと言
いました。この判決が、今のところ一番広い広義の混同まで認めたものです。
この判決があるので、例えばディズニーランドがミッキーマウスのキャラクターをいろ
いろなところで許諾している。あるいは、例えば「くまのプーさん」なんかも、最近、読
売新聞なんかが使っていますよね。そういうときに、まったく許諾を得ないで「くまのプ
ーさん」を使うと、著作権侵害の問題もありますが、不正競争防止法にも引っ掛かるとい
うことになります。
以上は混同の意味の話でしたけれども、次は広義の混同の範囲がどのくらいまで広がる
のかということをお話しします。最高裁の平成 10 年のスナックシャネル事件というのが非
常に衝撃的な判決としてあります。これはそのまま読んで字のごとくでありまして、千葉
県は松戸市、その松戸の駅前で、これは判決の認定ですが、小さな飲食店が密集する一角
にある古びた建物の 2 階の 9.8 坪のスナック。何かイメージがわきますね。そこでスナッ
クシャネルという名前のお店を、ちょっとやってみちゃったのですよ。ありそうではない
ですか、笑って許してよという感じで。ほかにも歌謡スナックシャネル事件という、まっ
たく別の店が問題になったこともあるのですが、店に入る方だってシャネルの系列店とは
思わないですよ。アンケート調査とかをやっても絶対思わないという答えが並ぶと思いま
す。
で、東京高裁で判断が分かれたのです。スナックシャネル事件の方は混同のおそれが否
定されたのですけれども、歌謡スナックシャネル事件の方は混同が肯定されて、判断が分
かれていたのですが、この平成 10 年 9 月 10 日の最高裁判決で、スナックシャネル事件の
方も、混同のおそれが肯定されて、判断が統一されました。
これには歴史的背景があります。もともと 2 条 1 項 1 号だと、こういう笑って許せよ系
がおさえられなくて、非常に困っていたのです。スナックシャネルはまだ笑って許せなの
ですけれども、ポルノランドディズニー事件とか、いろいろな事件があるのです。詳しい
ことは後でお話ししますが、今では不正競争防止法 2 条 1 項 2 号というのがあって、1993
年改正で加えられたのですけれども、自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と
同一もしくは類似のものを使用する行為がアウトになっているので、スナックシャネル事
件なんかも、普通はこっちでおさえることができるのです。
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不正競争防止法
ところが、これには経過措置があって、この 1993 年改正法の施行日、1994 年 5 月 1 日よ
り前から継続している行為には及ばないとされている。そうですよね。それ以前は 2 条 1
項 1 号型しかなくて、混同のおそれが必要だった。その前提のもとで混同のおそれがない
ところで営業していた人を保護しないといけない。そこで、2 条 1 項 2 号が施行される前か
ら営業していた人はそのまま営業を継続できるという経過措置が設けられたのです。付則
の 3 条 1 号です。
それで、スナックシャネルも改正法の施行前からやっていたので、2 条 1 項 2 号ではおさ
えられないのです。このときに、1 つの見識としては、2 条 1 項 2 号ができているのだから、
それでいけばいいので、もうセーフにしてしまおうとするということも考えられます。け
れども、最高裁はそういう価値判断には一切ふれずに、混同するといいました。このスナ
ックシャネル事件判決があるおかげで、経過措置はありますけれども、2 条 1 項 1 号でも広
く混同の範囲が認められるということに、今ではなっています。
いろいろな意見があるかもしれませんけれども、少なくともこの最高裁判決を前提とし
て、現在の日本の裁判例では、混同の範囲がかなり広く認められています。本当の意味で
混同するというのではなくて、要するに周知で、識別力があって、類似の範囲がちゃんと
あるものについては、使っては駄目だという法理が出来つつあるのだという気がします。
されに例をあげて説明しますと、スナックシャネル事件の最高裁判決よりもちょっと前
なのですけれども、高知東急事件というのがあります。これも芸能報道なんかで結構みん
な知っているのではないかと思いますが、高知東急、「東急」と書いて「ノボル」と読むの
だそうですけれども、東急グループが彼を訴えたのです。高知さんの言い分は、これは高
知から東に急いで上るという意味だと。ご本人が東に急いでいるというつもりで付けたの
で悪い意図はないのだと言ったのですけれども、判決が出まして、東急グループの中には
劇場などが入っている複合文化施設「Bunkamura」もあるから、高知東急というのを見ると、
東急という名前の文字を見てしまうと、この東急グループ所属のタレントと誤解するとい
うことで、請求が認容されています。大変きつい判決ですね。サンプラザ中野さんはどう
するのだろう。グッチ裕三さんはどこに行くのだろう。
ほとんど請求の認容例ばかりなのですけれども、限界があるということで、否定例も申
し上げますと、泉岳寺事件というのがございます。お寺が、都営線の駅名に泉岳寺という
名前を使うなと言って、都を訴えたのです。この場合、判決は混同しないといってセーフ
にしているのだけれども、理由としては都営の地下鉄だと分かっているからというもので、
かえって判決は傍論で、マンションなんかに泉岳寺を使った場合は別だよと言っているの
です。でも、きついですよね。泉岳寺東とか泉岳寺西とかありそうですものね。マンショ
ンだと私益的なものですが、都営線の駅名とかだと、名所の名前を付すというのはよくあ
る。それで、われわれもすごく便利ですよね。泉岳寺の近くにあるということが分かるか
ら。そういう意味で公益的な理由があるのです。だから、総合すると、たぶん現在の判例
というのは、言ってくれませんから本当のところは分かりませんけれども、どうも周知で、
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不正競争防止法
識別力がちゃんとある、そういう意味ではちゃんとしたマークで識別力も強いマークだと、
周知で、類似が肯定されると、あまり混同のおそれをうるさく言わない。だけれども、泉
岳寺の話とか、あるいは類似のところで問題となりますが、柏東口皮膚科のように識別力
が弱かったり、あるいはもっと別の公益的な理由があるときには要件をいじっていく、と
そのような状況になっているのではないかという気がします。皆さんが実務に入ったとき
に、混同のおそれという要件があるのだ、では混同しない例をたくさん証明しよう、と思
われるとすると、実は裁判例はそうは動いていないかもしれないということであります。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(7)>
次に、適用除外にいきましょう。12 条各号です。不正競争防止法 12 条というのは、適用
除外の規定条文です。説明はもう何度もしたのでしませんが、そのうちの 12 条1項1号は
普通名称に関する適用除外です。具体的な例としては、
「トイレットクレンザー」とか、
「つ
ゆの素」なんていうのは裁判例ではあります。注意しなければいけないのは、最初固有の
商品名だったのに、みんなが同種の商品を使いだすと、普通名称になってしまう例がある
のです。例えば「アスピリン」なんていうのは、恐らく今、普通名称になっているのでは
ないかと思います。特定の企業名と結び付いていないとなると、普通名称になってしまう。
例えば「征露丸」とかも危ないといえば危ない。征露丸も、ロシアを征服する丸、征服の
ロシアの丸だと、「征露丸」と書くと、たぶん普通名称ではないかなと思うのです。今の有
名なあの正露丸は、正しいだよね。もともと日露戦争のときに使ったらしいですけれども、
ずいぶん古いですね。それで、例えば XEROX なんかはすごく心配しまして、日本の人にと
っては XEROX というと、別に普通の複写機器のメーカーだとすぐ分かるのですけれども、
アメリカで最初 XEROX がどーんと複写機器で売れたときに、どうも XEROXEN という形で動
詞化したり、複写という普通名称に使われるところがあったので、このままいくと商標が
なくなってしまう、商標権ではなくなってしまうということで、XEROX は XEROX 社の登録商
標ですという形で広告をどんどん打ったりしていました。
日本でも実は WALKMAN が、すぐには危なくないかもしれないけれども、このままだと危
ないと言って、SONYは頑張ったのです。どういうことかというと、お店に行くと WALKMAN
コーナーって、あまりにも一番最初の商品ですよね、携帯ラジカセの。1978 年か 79 年のと
きにいきなり出て、すごくヒットしたのですけれども、それでみんなは WALKMAN、WALKMAN
と、またとても言い得て妙な言葉だったので、みんな携帯ラジカセのことを WALKMAN と。
例えば東芝製のものでも WALKMAN なんてみんな呼んでしまう。東芝がうそをついているわ
けではない。東芝は別の名前でちゃんとやっているのだけれども、われわれはつい、東芝
の WALKMAN を買ってきてねで、それで通じてしまうのです。そうすると、お店なんかに行
くと WALKMAN コーナーなんていうのがあると、そこにSONYのだけではなくて、東芝社
製が並んでいたりするのです。
例えばあと、僕は実際に聞いたことはないのですが、SONYの人の話だと、電車の車
内放送か何かで WALKMAN はご遠慮くださいという形で、一般名称で使っているときがある。
このままでは危ないと言って、そういうアナウンスをしているところには文句を言い、そ
れから販売店なんかには WALKMAN の表示のもとにはSONYしか置かないようにしてくだ
さいという形で営業努力を今でもずっとしているということです。
次、適用除外の趣旨へいきますが、1つの説明として、こういう説明をすることがあり
ます。普通名称というのは、リンゴジュースとかウーロン茶とか、そういう言葉はもうみ
んな使っているから周知性を取得することはない。だから、リンゴジュースとか、あるい
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不正競争防止法
はウーロン茶と見ただけでは混同もしない。サントリーのウーロン茶とか、そういうとこ
ろで固有名詞が付かないと、ただのウーロン茶では混同も起きないのだ、ウーロン茶とい
うのに周知性はないのだという説明があります。
そうだとすると、しかしそれならば別に周知性や混同のおそれを問題にすれば足りるの
であって、12 条で普通名称の適用除外の規定を設ける意味はほとんどないだろう。確認規
定だということになるのでしょう。だけれども、恐らく普通名称をわざわざ適用除外とし
ているのは、たとえ周知であり、混同のおそれがあるとしても、特定人に使用の独占を認
めるべきでない場合があるのではないかと思うからです。
例えばということで、前回てり焼きバーガーの話を出しましたが、これはモスバーガー
が開発した商品です。それで、モスバーガーとしてはてり焼きモスバーガー、モスてり焼
きバーガーかな、という形ではなくて、てり焼きバーガーで自分は登録商標を取りたい、
独占権を取りたいということだったのですが、結局、結果的に、モスとかあるいはてり焼
きマックバーガーという形で何か付かないと商標登録しない、できない、権利の独占を認
めないという形で今解決しています。
このときに最初にてり焼きバーガーが出たときにはモスバーガーしかなかったので、今
は違いますけれども、当時はてり焼きバーガーというとモスバーガーだと分かったのです、
私も最初は。ですが、あれはてり焼きのバーガーだと、なんだかそのままなのです。大学
の生協さんが一応モスに配慮して、同じコンセプトの商品なのだけれども、マヨネーズバ
ーガーとかしたりするのですけれども、てり焼きバーガー、とても言い得て妙過ぎるので
すが、そういうふうに、もしてり焼きバーガーについて違う言葉をみんなが選ばなければ
いけない、モスの独占だということになると、それぞれ商品名は普通名称が決まらないで
すよね。そういう問題がありそうですので、普通名称かどうか問題だけれども、こういう
言語の構成上、その商品を指し示す言葉については、たとえ1社独占で周知であり、混同
のおそれが起きるとしても、権利の独占を認めないという意味で、普通名称というのは周
知と混同のおそれ以外の要素があるのではないかというふうに私は思っています。
それは既に私の前からそのような判決がありまして、有名な判決として、黒酢という事
件があります。これは今でも時々テレビで広告をしていますね、黒酢。もともと江戸時代
からある商品のようで、天然の米酢のようです。米からとる酢。これは、天然だと色は黒
いというか、ウーロン茶みたいな色です。茶色をしているのです。酢は普通もっと澄んだ
色だから、茶色だと大まかに言って黒酢というふうに、黒いということになるのだと思い
ますが、今まで別に特に名前を言わずに天然の米酢という形で売っていたのですけれども、
名前をちょっと付けてみて、昭和 50 年当時にブームになってきた健康食品として売り出そ
うということで、ある会社が黒酢という名前を付けたのです。これ自体はその会社が初め
て付けた名前なのです、黒酢という言葉。この成分とか効能を研究していた大学の先生が
ふと思い付いた言葉だったかもしれません。確かそうだと思いますが、名前自体はこの原
告が作った名前です。「坂本のくろず」とか「薩摩黒酢」という商品名で、仮処分なので原
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不正競争防止法
告ではなく、申請人会社が販売していたということです。これが大変売れた。非常に大ヒ
ット商品になったので、6∼7年後から競争会社が参入してきまして、その競争会社が「本
黒酢」。だいたいまねする方は「本」とかを付けたがるのです。「本黒酢」とか、あるいは
「九州玄米くろ酢」等々の名前で、同じように米を原料とする、天然ではないものもある
ようですけれども、天然のも含めたそういう酢を製造販売する会社がたくさん出てきたと
いうことで、黒酢というのはもともとうちの作った名称で、うちだけがやっているのだか
らということで、現在でいえば2条1項1号に基づいて申請人会社が訴えたという事件が
ありました。
裁判所は言語構成上、性状、品質、機能を説明的に表現するものは、誰が最初にそれを
使用し始めたかを問わず、普通名称と認めるべきだと。これも黒系統の色の酢を指し示す
普通名称だということで、黒酢については普通名称だということで適用除外を認めて、請
求を棄却したという判決があります。これなどは、先ほど言った普通名称というのに独自
の意味を持たせている判決だということになります。
一般的には普通名称であるか否かについては不正競争防止法よりも、商標登録できるか
どうかというところで、むしろ争われることが多いです。てり焼きバーガーもそうでした。
それから、「ドライビール」なんかも結構、「スーパードライ」はともかくとして、
「ドライ
ビール」だとどうかという問題があったり、あるいは「はちみつレモン」というのも、は
ちみつにレモンジュースではないかということで、基本的には登録が認められないという
ことになっているようであります。
次にいきます。自己氏名の使用。これは 12 条 2 号です。自己の氏名を不正の目的でなく
使用し、もしくは使用した商品を取引に置く行為について、適用除外になっているという
ことです。これは簡単でして、例えば「スーパーのイケダ」というのがあるのかないか知
りませんけれども、すごく有名で、スーパーのイケダが世の中にチェーン店でざーっと並
んでいるときに、例えば池田さんという方が「池田八百屋店」とやるのは自由だよと、そ
ういう趣旨です。
適用除外の趣旨は、1つは取引の便宜で、自分の名前を付すのは悪くないだろうと。そ
れから、もう1つは自然な人格権です。自分の氏名の人格権の中に人格権の発露みたいな
ところがあるので、そういうのは許容しようと、そういう趣旨であります。
レジュメ 18 ページ。法人の名称。何の話かというと、法人だって自分の氏名があるわけ
です。氏名とは言わないけれども、自分の名称はあるわけです。具体的には会社でなくて
もいいですけれども、会社ですと商号を持っていますよね。商人であれば商号を持ってい
る。それが必ず会社の場合は登記されていますよね。設立のときに登記されています。例
えば株式会社SONYなのか、SONY株式会社なのかどっちか知りませんけれども、た
ぶんSONY株式会社と、そういう形で正式名称を持っています。自己の氏名だから入ら
ないとも言えますし、そうはいっても氏名のうちの1つで、法人といえども自己だし、氏
名のうちの名の方として入るとも言えるかもしれない。文言として入るか入らないかとい
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不正競争防止法
うのは、どっちかというと入らなさそうだけれども、入るかもしれないという問題があり
ますが、一般には会社の名称は 12 条 1 項 2 号の適用除外を受けられないと解されています。
その理由はレジュメに書きましたけれども、まず1つは、法人の名称は生来のものでは
なくて、自ら選択して決定することができる。変えればいいではないか、不都合があるの
だったら。逆に、生来のものではないだけに、乱用の危険性が大きいですよね。
「私はSO
NYです」と言って、名前を勝手に変えてしまって、それで「SONYなのだからSON
Yと名乗ります」と言ったら、全部セーフになりかねない問題があります。
中にはちょっと条文を読むと、単に自己の氏名だからセーフとは書いていないのです。
「自己の氏名を不正の目的なく使用し」がセーフになっているのだから、法人が 12 条 1 項
2 号に当たると解しても、今私が挙げたような例は不正の目的があるということで、どうせ
適用除外を受けられないのだからいいではないかという説があるかもしれません。でも、
それはちょっとおかしいというか、あまり妥当ではないのではないか。どうしてかという
と、だいたい不正競争防止法 2 条 1 項 1 号というのは、法人対法人の事件が大半なわけで
す。会社対会社の事件が多いわけですね。そうすると、片方の会社で、被告が特に会社だ
と、商品名とかだと自己の氏名問題は起きませんけれども、営業の名称だと、多くの場合、
自分の名称を営業に使っているわけですから、登記の名称を、そうすると、そういった場
合に常に 2 条 1 項 2 号で典型的によく起こる営業表示対営業表示の事件で、その大半が、
私の名前ですから 12 条の適用除外を受けることができます。ひいては、私が不正の目的が
ないことが争点になるということになりますよね。
ところが、普通、2 条 1 項 1 号の条文上は、周知で、類似で、混同のおそれがあれば、不
正の目的を問うことなく不正競争行為なのです。それが、すべてとは言いませんが、多く
の事件で、結局自分の名称だということで、不正の目的の有無によって請求が認容された
り棄却されたりするのは、法律の最初の立て方からするとずいぶんずれた話になるだろう
ということです。
何かすごく難しく言ってしまったかもしれないけれども、レジュメに書いてあります。
「いずれにせよ、不正の目的があると認定することにより妥当な解決を図ることができる
という反論はあり得るけれども、そうすると企業同士の争いで常に不正の目的が」。常には
言い過ぎですね。「企業同士の、営業表示の争いで常に不正の目的の認定が必要となってし
まいかねず、主観的要件を問うことなく不正競争行為と認めることにした 2 条 1 項 1 号の
趣旨がどうやら潜脱されるだろう。
」ということで、会社名は当たらない。
ただしということで、ここからがちょっと頭の体操です。事件から話した方がいいです
ね。今言った話ですが、ちょっと適用には気を付けなければいけないことがあります。レ
ジュメの例ですと、仮に、では今みたいに法人が当たらないといったときにどうなるかと
いうことですが、例えばスーパーのイケダが有名になったという今の例を考えると、次に
池田さんという人が個人で経営している。そのときに、池田八百屋店というのが例えば有
限会社になった。ありそうですよね。特に昔は、別に有限会社といわず、株式会社だって
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35 万円あればすぐ設立できたので、町の八百屋店が株式会社化するなんてしょっちゅうあ
ったわけです。そういった形で、会社の法人名にすると言いますが、個人で経営している
けれども、ちょっといろいろな対策で、税金対策であるとか、見栄えの問題であるとか、
いろいろな理由で法人化した場合に、
「おまえ、法人の名前ですね、それは」ということで、
いきなり適用除外を受けることができなくなるのかという問題がありそうです。
これについては、静岡地裁の山葉楽器事件という事件があります。ヤマハは大変有名で
す。今ではヤマハ株式会社と確か名乗っているのだと思いますが、昔は正式名称は日本楽
器製造株式会社でした。ですが、最初の創業者の方が山葉寅楠さんという方なのです。こ
の方の名字をとって、ヤマハと呼んでいるわけです。静岡の町おこしということで、たぶ
ん静岡では名士だと思います。被告の方はどういう方かというと、この大変功績のある創
業者の長男なのです。詳しいことはよく分からないのですけれども、創業者の一族である
にもかかわらず、恐らく日本楽器の中で社長さんになれるとか、そういうコースからたぶ
ん外れたのだと思うのです。外されたのではないか。経緯はよく分かりません。ともかく
創業者の長男でありますが、ヤマハを出ることになったのです。そのヤマハを出ることに
なった山葉良雄さんが社長になって、山葉楽器製造株式会社というのをつくったわけです。
原告は日本楽器で、愛称みたいに使っている営業名ヤマハは片仮名です。それに対してこ
ちらの方は、漢字で山葉楽器製造株式会社というのをつくった。内紛も絡んでいますので、
これは許すまじということで、原告ヤマハの方が訴えたという事件がありました。
判決は請求を認容しています。山葉良雄さんの方は、要するに私は山葉ですと、私の山
葉が山葉楽器製造と名乗って何が悪いということで、適用除外を主張したのですが、判決
は、自然人等である山葉良雄さんと法人である山葉楽器製造株式会社というのは別個のも
のだと。まあ、そうですね。だから、山葉楽器製造株式会社が山葉という名称を使用する
ことは自然人である山葉良雄の氏名権の行使とは言えないということで、適用除外に当た
らないと言って、請求を認容しているわけです。
私自身はこの結論はともかくとして、判旨の論法には反対です。自然人と法人が別個の
人格だというのはよく分かります。まったく別個だけれども、でもこれは別に自然人と法
人というのは、権利義務の帰属主体を決めるときに別個にするのですよね。ある財産がど
ちらのものかとか、そういったときに別個のものにしますが、今ここで問題にしている氏
名権の行使かどうか、適用除外を受けることができるかどうかというので、むしろこれは
誰が自分のものとして名前を使っているかという事実が問題ではないのかなと。だから、
こういうふうに別個だけれども、この人がこれを氏名権の行使として使っていることがあ
るのではないかなと。
山葉楽器製造株式会社の事件はよく分かりませんが、例えば池田さん個人で経営してい
る池田八百屋店がたまたま法人だったとしても、財産がどっちに帰属するかなんていうの
は法人と自然人は別個ですけれども、事実の問題としては、池田さんがお店を構えている
ところに池田八百屋店とあるのだから、自分の氏名を営業として掲げているのだというこ
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不正競争防止法
とになるのではないかと思うのです。だから、私自身は、これは氏名権の行使に当たるの
だろうと思うわけです。
これはまったく池田さんが個人経営だというのが大事なのですよ。これは池田さんが単
に会社の社長さんだというだけで池田八百屋店を名乗れるなんていうことにはいっていな
いわけで、そういうわけではなくて、池田さんが個人として経営していて、それがたまた
まほかの人がいない、あるいは池田一族が経営している。従業員も池田さんぐらいしかい
なくて、ほかの人がいない。財産の帰属の問題とか税金の問題で、たまたま法人格が別個
に池田八百屋店があったとしても、それはまさに財産の帰属であるとか、有体の上の財産
帰属とか、その問題のために別の法人があるだけで、不正競争防止法が問題にしているよ
うな、実際誰が営業活動をやっているのという点では、池田さんが自分で営業活動をやっ
ているのとかわらないときがあるのではないかということです。
そうすると、この山葉楽器事件ももうちょっと詳しく見る必要があって、山葉さんが代
表取締役に就任しているというだけで氏名権の行使だと言われたのでは、例えば豊田さん
を連れてきて自動車会社をやってよいのかということになりますから、そこまでは言わな
いけれども、山葉さんがもうほとんど個人経営だということであれば、これは別に山葉良
雄が自分で法人格を取得することなく、自分で商人として山葉楽器製造株式会社をやろう
が、たまたま法人格を取って山葉楽器製造株式……、法人格を取らなければ山葉楽器です
ね。山葉楽器製造という形で株式会社を名乗れませんけれども、それでやろうが、たまた
ま 35 万円か何か出して山葉楽器製造株式会社をつくろうが、それは法人格という問題はあ
るかもしれないけれども、実際の営業活動の実態は変わらないのだから、同じく氏名権の
行使と考えて、あとは不正の目的があるかどうかで判断すべきだろうと。
あとはよく分かりません。不正の目的があったかどうかは、事実認定をもうちょっと見
てみないと分からない。例えばこの山葉ということについて、よりヤマハの片仮名みたい
なものを営業で対応しているとか、そういった事情があれば不正の目的はあるでしょうし、
そうではなくて、もう純粋に山葉良雄の山葉楽器ですといった形で漢字だけで通している
のであれば、もうこれは普通の山葉さんが楽器製造をやる以上、しょうがないと言えるか
もしれないと思います。
では、これがだんだん会社が大きくなってくるとそうも言っていられないので、最初は
山葉良雄の個人経営だったけれども、だんだん大きくなってくると、ある特定の時点から、
もう自然人の氏名権の行使と離れた別個の企業体がそこにありますねと認定されたら、そ
こでおしまいです。だから、法人なりにして大きくしようと思っているのだったら、自分
の氏名といえども他人の名称と類似しているものは、後から使えなくなる危険性があるか
ら使わない方がいいですけれども、そうではないときに、ずっと細々とやっていくのなら、
法人格がたまたまあっても構わないのではないかと私は思っている。
私はそのようなことを本に書いてありますが、ただ不正競争防止法の世界なんかだと、
こういう細かな論点になってくると、何が多数説か分からないです。この論点だと、私が
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不正競争防止法
「はい」と言ったのですよね。誰も反応してくれない。今、1−0説です。もしかしたら
多数説かもしれない。でも、これはすぐひっくり返されるのです。誰かもう1人書くと、
1対1で有力説になって、もう1人で2対1になってきたりするので、今、状況がよく分
かりません。この論点について、本当にどう考えているか分からないところがある。まだ
判決が出ていないので、次がどのように動くかはちょっとまだ分からないところがありま
す。
それから、次へいきましょう。12 条 2 項というのがありまして、適用除外があるときに、
では大手を振るって自由に使えるのかというと、実はそうでもなくて、1個こういうのが
あります。前項 2 号または 3 号に掲げる行為によって営業上の利益を侵害されるおそれが
ある者は、請求権者の方は当該各号に定める者に対して、自分の商品または営業との混同
を防ぐのに適当な表示を付すべきことをすることができる。長々と条文を書いてあります
けれども、例えばスーパーのイケダが有名で、池田八百屋店を訴えた。そうしたら、池田
八百屋店の方が、「池田でございますので自己の氏名です。適用除外です。不正の目的もあ
りません」と言ったときに、敗者復活みたいな形で、「よく分かりました。では、もう池田
八百屋店を使うのは仕方がありませんが、混同防止表示は付してくださいね」という請求
をスーパーのイケダができるというのが 12 条 2 項です。
これは判決が1つもないので、何が混同防止表示かは全然分かりません。
「池田八百屋店」
をまったく使えないのかといったら、池田八百屋店、でもスーパーのイケダではないとい
うことが分かるような表示ということなのでしょうけれども、そんなの例えば池田八百屋
店に何かすごい付記を必ず付けなければいけない、スーパーのイケダとは無関係ですなん
ていうのを長々と付けなければいけないとなると、要するにそれは非類似になりますから、
請求を認容したのとほとんど変わらないですよね。そこまで要求しないのだろう。だから、
これもよく分からないのです。すべての場合に表示を付す必要はないのではないかと。広
告をしたときに小さく付記表示をするくらいとか、店の看板の横に何か付記表示をするく
らいでじゅうぶんではないかという気がしていますが、何せまだ判決がないので議論もさ
れていない、なかなか分からないところがあります。
というか、みんな全然注目しないので、自己氏名使用だとか、あるいは次の先使用もそ
うなのですけれども、先使用だと言われると、何かすごすごとみんなやめてしまうのです、
事件を。気にしないというか、知らなかったり忘れてしまったりするのでしょうね。だか
ら、ぜひ原告の立場に立つときには、適用除外をつぶすのが一番ですけれども、適用除外
がもし入れられたときのことをおもんばかって、混同防止措置も一応言っておくと。それ
で、訳の分からない状態に持ち込んでおいて、和解に持ち込むとか、いろいろな手があり
ますから、一応忘れずにやった方がいいのではないかと私は思います。
次、先使用、12 条 1 項 3 号。他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前から、
その商品等表示と同一もしくは類似の商品等表示を使用する者が、その商品等表示を不正
の目的なく使用し、またはその商品等表示を不正の目的でなく使用した商品を取引に置く
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不正競争防止法
行為はセーフだよと書いてあります。先に使っていればよいということなのですが、条文
からいくと、他人が周知になる前から不正の目的なく表示を使用していればセーフだよと
いうことが条文上書いてあるわけです。意味としては、適用除外の趣旨としてはそんなに
難しいことはなくて、周知になる前から使っているのですから、その類似表示使用者の予
測可能性を確保しようと。後から周知になったのに負けてはかわいそうということですよ
ね。例えば銀星食堂さんが今やっている。その後で銀星なんていう全国的なチェーン店が
出てきて、札幌でも進出してきた。そっちの方がすごく大々的にやって有名になったとし
ても、今まで細々とやっていた、そんなのが来るとは思わなかったという銀星食堂さんを
保護しようと、そういうことになります。
それからもう1つは、類似表示使用者の商品営業の需要者の混乱を防ぐということです
が、今は銀星食堂さんの側から見ましたけれども、この銀星食堂さんが周りの需要者にと
ってもそれなりのちょっとした意味でしかありません。それなりに意味があって、今まで
銀星食堂にわれわれは食事に行っていたわけですから、その名前が変わると、最初のうち、
あれ、営業主体が変わってしまったのかな、お店が違う人に売ってしまったのかなと、つ
い思ってしまいますよね。しばらく行って、違わないと分かるのかもしれませんが、そう
いう意味で多少の混乱はどうしても起こる。そういった混乱を防ぐ必要があるのではない
のかという程度の話です。むしろ予測可能性の確保の方が重要だと思います。
問題は、先の使用の意味です。これは地域的周知の関係で問題があります。もう事件に
いきましょう。少林寺拳法の事件です。昭和 22 年より原告が香川県の多度津市で拳法指南
事業に「少林寺拳法」を用いてきました。香川県、未知の世界ですね。多度津市。昔、授
業中に香川の人がいて教えてくれましたけれども、とても有名だそうです、ここの少林寺
拳法は。そこの世界では大変有名なもののようです。これが映画やテレビに取り入れられ
たという結果、僕は全然その映画やテレビは分かりませんけれども、ちょうど赤胴鈴之助
なんかがはやった時代だから、白黒か何かでチャンチャンバラバラやるようなのがあるの
でしょう。少なくとも日本で最初に少林寺拳法を名乗ったのは、この原告の方のようです。
これに対して、被告 Y は昭和 27 年ごろから。大阪で「不動尊少林寺拳法」と。何か怪し
げですね。何か付けたところが怪しいのですか、そうは認定されていません。昭和 27 年ご
ろから、この不動尊少林寺拳法の表示を用いています。
何が問題になったかというと、原告 X が昭和 22 年に香川で始めているので、昭和 22 年
当時は香川では有名だったのでしょう。ところが、全国的に有名になったのは昭和 31 年末
だと言われているわけです。今では周知ですよ、全国的に原告の方が。被告は別にそんな
に有名ではない。大阪では有名かもしれませんけれども、全国的なものではありません。
その被告の方は昭和 27 年ですから、香川で原告が始めたより後、たぶん香川で原告が有名
になったよりは後なのです、後使用。だけれども、全国的に原告が有名になる。つまり、
たぶん大阪で原告が有名になる昭和 31 年よりは前なのです。こういうのを先使用と言うか
どうかということが問題になったのですが、裁判所は、これは先使用だと。原告の表示が
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不正競争防止法
被告のところで周知になるより前にやっている。実際それでいいのです。周知性というの
は被告の表示地域で周知になるかどうかの問題だと先ほど申し上げましたから、そこで周
知になるより前からやっていればセーフなのだ、適用除外を受ける可能性があるのだと。
なぜかというと、香川で周知かどうかではなく、大阪で周知になるより前であれば、その
時点では 2 条 1 項 1 号の請求は立ちませんから、違法ではなかったのですから、その予測
可能性を確保する必要があるだろうということになります。
あとは不正の目的があるかどうかです。単なる悪意というか、認識だけでは足りないで
しょう。どこかで有名なのがあると言っても、こっちに進出してくることさえ知らなけれ
ば、別に大手を振るって使っていいわけですから、たぶんこれはどこかにそういう表示が
あって、それが進出してくる意図がある、このまま自分が営業を始めてしまうと混同が起
きるおそれがある、だったら不正の目的があるということになるのだと思います。
ちなみにこの不動尊少林寺拳法の事件では、確か私の記憶だと、被告の方は戦時中に山
奥で不動尊関係の僧に会って、そこで指南を受けたと言っている。すごい戦時中下のお守
りみたいな古いのが証拠に出てきていて、一応それで原告とは別個に始めたということが
認定されているということであります。ということで、これは適用除外を認められたとい
うことです。
問題。僕が北海道へ来て一番びっくりしたのは丸井今井です。あれも最初見たときに、
新宿の丸井の北海道版で、北海道では何かいろいろな理由で今井さんというところと組ん
だのかなと思ったのです。全然関係ないのですね、あれ。丸井今井さんが北海道で営業し
ていると。周知ですよね。それに対して、東京の丸井さんは新宿で、東京で営業している。
こういう状況です。このときに、最初に営業を始めたときにはお互いに独立になっている。
申し訳ないですが、北海道の丸井今井さんは東京ではたぶん周知ではないですが、北海道
では東京の丸井さんも周知です。そのときに、この丸井今井さんが北海道で表示の使用を
できるかどうか。今も東京の丸井が北海道でも有名です。北海道でも丸井今井さんだって
有名です。そのときに、丸井今井さんが北海道で表示の使用をできるのかどうかという問
題があります。これは勘違いしないでください。法律の請求権の立て方に慣れている人は
すぐもうぱっと分かっていると思いますが、慣れていない方、あるいは結構学者の方でも、
昔は、全然慣れていない方は、どっちが有名かで決まると思っていた人がいるのです。北
海道でどっちが有名かで決まるのではないかと。素人的にはいい感覚ですよね。どっちが
有名か。丸井今井の方が、やはり若干有名ではないか。でも、結構丸井も有名だぞ。どっ
ちが有名かと、有名な方に手を挙げさせよう、勝たせようと思われるかもしれない。でも、
不正競争防止法の条文はそう書いていないのです。不正競争防止法上の請求権はそう書い
ていない。どう書いてあるかというと、周知で、類似で、混同のおそれがあれば、基本的
には使ってはいけないと書いてある。だけれども、不正の目的なく先使用していればセー
フと書いてあるので、その要件に従って考えるのです。これは大事です。無理に勝手に素
人感覚を持っていくのではなくて、きちんと条文に立てて、法律の請求に引き直して考え
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不正競争防止法
ればよい。
そうするとどういうことになるかというと、大事なことの2点目は、丸井今井が北海道
で使えるかどうかというのは、丸井今井の周知性が問題ではないのです。丸井今井は北海
道で有名かどうかは、実は無関係です。丸井今井は北海道で使えるかどうかを調べるとき、
まったく関係がありません。何が関係あるかというと、そうではなくて、丸井今井が使え
るかどうかということを法律上表現するときには、丸井今井に対して東京の丸井が不正競
争防止法上の請求権を持っているか、立てるかどうか、この請求が立つかどうかで決まる
のです。この請求が立たない、この請求が棄却されるというのであれば使えるでしょう。
請求が認容されるのだったら、使えないですよね。丸井今井が何のかんのではなくて、東
京の丸井の請求が立つか立たないかで決まるのです。これは大事です。
そうすると、あとは要件に従って考えていけばいいです。周知、あります。類似、知っ
ています、たぶん。「今井」は入っているけれども、関連会社でないかと思うぐらい混同し
ます。それから、関連会社だろうということで、広義の混同もあります。これは全部ある。
請求原因は立っています。そうしたら、適用除外があるか。実はあります。先使用です。
先使用でかつ不正の目的はなさそうですね。よく分かりませんが、たぶんないでしょう。
古い話なので、私はよく知らない。事件になっているわけでもなさそうですので、公開し
た裁判例が出ていませんので、私ははっきりは知りません。でも、たぶん不正の目的はな
いのでしょう。そうすると、周知で、類似で、混同のおそれはあったけれども、丸井今井
さんは、東京の丸井が北海道で有名になるより前からたぶん使っているだろう、不正の目
的もなかっただろうということで、適用除外を受けることができればセーフです。
ここで大事なことは、1回も丸井今井が有名だったかどうかは、この話で出てきていな
いのです。東京の丸井の有名な話は出てきた。丸井今井が有名かどうかではなくていいの
です。先に使っていて、不正の目的がなければいいだけの話です。それで決めます。とい
うことで、この例だったら丸井今井は表示の使用をすることができるということが分かり
ます。大事なのはどっちが有名かとかという話ではない。適用除外を受けることができる
かどうかで決まるのです。抗弁が立てば、別に請求原因が立つかどうか吟味する必要はあ
りません。
逆に丸井さんが東京で使えるかどうかは、東京で丸井が有名かどうかで決めるのではな
いのです。自分が有名なのかどうかは関係ないのです。向こうから請求が立つかどうか、
もしくは適用除外が受けられるかどうかで決めるのです。
この場合はどうかというと、ものすごく簡単に退けられそうです。東京で丸井今井はど
うも周知ではないと思います。昔東京へ行ったときに丸井今井を知っていた人はたぶんい
ないと思うので、周知ではないと思います。そうすると、丸井今井さんは東京で周知では
ないので、もうその時点でセーフです。それ以上調べる必要はないですけれども、ついで
に言うと先使用も、成り立っています。不正の目的はなかなか起こりようがないというこ
とで、まず先使用の抗弁をいきなり立ててもいいですけれども、普通は周知ではないと言
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不正競争防止法
っておしまいです。先使用を言うためには、周知より前と言わなければいけないから、そ
うすると周知はいつあった、周知はそもそもないではないかと言って、すぐ終わりです。
ということで、大事なことは、このときもすごく素人的には丸井がいかに有名かという
ことを証明したいのですけれども、そうではなくて請求が立つかどうかで決める。請求が
立たなければセーフだということで決めるのです。これは大事です。
この基本が分かっていると応用もできるようになります。例えばどっちも使っていない
東北、仙台で、丸井さんと丸井今井さんとどちらが使えるかという問題を立てましょう。
これは難しいですよね、結構。どっちで周知なのかなと決めるのではどうもなさそうだと
いうのは分かりましたよね。ではどうやって決めるのだろう。これは請求が立つかどうか
で決めればいいのです。どういうことかというと、仙台で同じことをやりましょう。仙台
で立つかどうかは、どっちが有名か、仙台でどっちが先に有名になったかとかではなくて、
この不正競争防止法の請求が立つかどうかで決めるのです。そうしたら、まず丸井今井の
方からの請求へいきましょう。だから、まず丸井今井が使えるかどうかを見ましょう。丸
井今井が使えるかどうかを見るときは、大事なのは、東京の丸井からの請求が立つかどう
かで決めるのです。そうすると、丸井今井が使えるかどうかを見るときは、こちらの請求
が立つかな。どうでしょう、立つでしょうか。立ちます、実は。認容されます。どうして
か。周知は認容されますね。類似も認容される。混同のおそれも認容されるというか、肯
定されます。では、仙台で先使用を満たすか。今から使おうとしていますから、まだ仙台
に丸井今井は進出していません。今から使おうというのですから、先使用ではなくて、仙
台で周知になったより後ですよね。なので、適用除外を受けることができないから、請求
を認容される。ということは、丸井今井は使えません。
逆。丸井の方を使えるか。それは丸井今井からの請求が立つかどうかで見ます。仙台で
も駄目でしょうね。分かりません。周知なしで切られるのではないでしょうか、仙台でも。
そうすると請求が立ちませんから、使える。結局、結果的に、仙台では丸井さんは使える
けれども、丸井今井さんは使えないということになります。
ちなみに、よく知らないのだけれども、仙台に丸井はないか。では、今から使えるとい
うことですね。なるほど。ということになります。大事なことは、これは別に、今の例だ
と、東京の丸井さんは仙台に進出していないみたいですね。でも、進出しているかどうか
で決まるのではないのです。今みたいにまだ進出していない、どっちも手を付けていない
けれども、この例だったら丸井さんだけが使える。それはなぜかというと、丸井さんだけ
が周知性を仙台で満たしているから。
だから、次、同じことがどこでも言えるので、例えば九州でどうするかといったら、よ
く分からない。でも、北海道でこれだけ新宿の丸井が有名なら、九州でも丸井は周知かも
ね。九州でもたぶん丸井が全国的に周知でしょうから、九州でも周知だとしたら、仙台と
同じですから、使えるのは東京の丸井だけになります。だけれども、分からない。九州だ
違うかもしれない。もし丸井さんが周知でなかったとしますよね。そうしたら、ちょっと
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不正競争防止法
周知でない例で考えてみましょう、でないと面白くないから。
丸井さんが周知でないとどうなるかというと、次、九州の話をします。そうするとどう
いうことになるかというと、簡単です。東京の丸井さんも使っていませんし、まだ周知で
ないという前提ですと、請求が立ちませんから、周知性のところで崩れます。請求が立た
ないので、丸井今井を使うことができます。逆も同じです。逆はさっきから同じです。周
知性はつぶれます。ということで、今、九州ではどちらも使えるのです。ということは、
使った者勝ちです。そこで使って周知になれば、次から来る人は後使用になりますから。
同じ時期に始めたら、両方ともずっと使っていられる。そういうことになりますので、こ
こはもう別に条文の解釈で全部趣旨も当たっていますので、こういう問題がもし出てきた
ら、こんなのは別に実社会では誰かに聞けばすぐ分かるから出ないでしょうけれども、試
験問題にいかにも出そうな感じの問題なので、こういうのが出てきたら、ちゃんと順を追
って、今みたいに請求を立てていけばいいですよ。
それから、大事なのは、もう4年生とか、あるいはロースクールの人とか、大学院生は
分かっているのだけれども、3年生はこれからで分かっていないかもしれませんけれども、
法律のときは、こういう問題が出たときに答えだけを書いても駄目ですからね。条文と答
えの当てはめができるような必要があるけれども、それに条文を当てはめて答えだけ書い
ては駄目で、プラスしてどうしてそうなったか、趣旨も書いておくのですよ。それで、い
や、まだここでは混同が起きるおそれがないとか、こっちではもう混同が起きるおそれが
あるではないかと、そんな形で説明していけばいいということになります。
以上が先使用のお話でした。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(8)>
19 ページの効果のところはごく簡単にいきます。
不正競争防止法の条文上は何度か出てきていますけれども、2条1項の各号の不正競争
行為に当たると、3条で差止請求権が発生する、4条で損害賠償請求が発生する、そうい
う条文になっています。5条に損害額の督促があります。逸失利益額を損害額と推定する
規定というのが5条1項にできています。この5条は3つ、4項までありますけれども、
これについては特許法 102 条と同じ構造をしています。
それから、刑事罰も重要です。刑事罰は 14 条にあります。刑事罰に罰則があります。不
正競争防止法2条1項1号の場合は 14 条1項1号で、ここで大事なのは、周知で、類似で、
混同のおそれがあるというだけでは刑事罰はいかないで、さらに不正の目的があることが
必要とされています。とはいえ、周知で、類似で、混同のおそれがある行為をしておきな
がら不正の目的がないというのは、ちょっと考えにくいですね。あまりないだろう。あり
得るとしたら、ライセンス契約が続いているものと誤解したとか、代理権があると思って
ライセンス契約を締結したのだけれども、実は代理権がなかったとか、そういった形で何
か正当な理由がある、誤信したような場合があると思いますが、そういった例以外はなか
なか考えにくいのではないかなという気がいたします。ともあれ、そういうことになって
います。
この場合、3年以下の懲役または 300 万円以下の罰金ですが、15 条で法人重課といいま
して、罰則をもってなした行為者については今言ったように 300 万円以下、もしくは3年
以下の懲役なのですが、その使用者である法人については3億円以下ということで、罰金
額が違います。法人重課、両罰規定であるとともに法人が重課されている。
今は結構たくさんあるのですか。これは証券取引法が最初で、次は独禁法で、次は不競
法だったかな。3番目の法人重課規定ですが、要するに法人にとっては、そもそも3年以
下の懲役なんか法人に課すことはできませんから、およそ懲役というのは無理です。どう
やったって無理ですから、牢屋に入れるわけにはいかない。
それから、300 万円以下の罰金ではすぐ払ってしまいますよね、大きい法人だと。そうす
ると、やはり抑止力としては自然人が被る3年以下の懲役、これは大ごとです。この自然
人が被る3年以下の懲役に匹敵するような罰金刑となると、やはり最大で3億は、もうち
ょっとあってもいいくらいですけれども、3億ぐらいはないとよくないだろうということ
で3億ということになっています。それが 15 条です。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(9)>
20 ページの最後、請求権者のところです。
これはもう1回、不正競争防止法の条文を見ていただきたいと思います。請求権者のと
ころですが、3条で差止請求権についての規定があって、不正競争によって営業上の利益
を侵害され、または侵害されるおそれがある者は、この営業上の利益を侵害するまたは侵
害するおそれがある者に対して、侵害の停止または予防を請求することができるとありま
すし、また4条で、故意または過失により不正競争をもって他人の営業上の利益を侵害し
た者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずるとあります。この2つの条文と
も、請求権者が営業上の利益を侵害される者であることを前提としているということが条
文上分かります。
そうはいっても、では営業上の利益を侵害される者はだれかということが論点になるわ
けです。例えばということで、例を出してみましたけれども、SONYと松下と日立の小
売店が競争していると、架空の例で出しましょう、考えましょう。そうすると、そのとき
にSONYの看板を掲げた不正競争行為者、混同行為者が現れたとしたときに、誰が訴え
ることができるかというのが論点です。間違われたSONYが訴えることはできそうだ。
一番切実ですから、それは当然だと思うのですが、それ以外にどうか。経済的な因果関係
からいうと、こういうことが言えます。もし、SONYの看板を掲げている、これが本当
に需要者を引き付ける、需要者が間違えているとすると、松下と日立だって、まったく利
害関係がないわけではないですよね。このSONYという看板を掲げたお店がもう1つ増
えたことによって、もちろんSONYの売り上げはある程度ダウンするでしょうけれども、
当たり前ですけれども、SONYが2店目を構えたのと同じことですから、SONYが2
店目を構えれば、SONYだけがお客を食い合うわけではなくて、松下だって日立だって、
それぞれライバル企業が増えている分、その売り上げが落ちる。しかも、それがただのS
ONYの看板を掲げなければ余り売り上げは落ちなかったけれども、この人がSONYと
いう看板を掲げて信用を奪取したばかりに、これはもうかなりダウンするかもしれません
が、日立も松下もSONYという看板が掲げられなかったことに比べれば、掲げられてし
まったことによって経済的な不利益は被っているはずです。
では、それを理由に、松下とか日立とかがSONYを訴えることができるのかというの
がここでの論点です。結論から申し上げますと、これは訴えることができないと解釈する
のが普通の考え方だろうと思います。どうしてかというと、結局これはSONYにライセ
ンスの権限を与えよう、SONYは不正競争行為者に対して表示を使用させてもよく、さ
せなくてもよいと考えるべきではないか。信用形成のインセンティヴとして保護すべきは、
やはり基本的にはSONYなのだということです。自分の培った信用を利用してどういう
人に表示を使わせるか、あるいは使わせるべきではないかというのはSONYに決定する
権限を認めてもよいだろう、というかむしろ認めるべきだろう、そういう形で培った信用
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不正競争防止法
を活用することを認めるべきだろうと。そうすると、SONYはライセンスするのか、し
ないのか、それとも放ってしばらく様子を見るのか、そういう自由があるはずなので、逆
に松下、日立について言うと、SONYが許諾をしてしまえばもうそれまで、その程度の
ことしか言えないだろうと。そうだとすると、松下とか日立の経済的な不利益は仮にある
としても、それはSONYの一存で決められることですから、法的な保護に値するとはち
ょっと言えないのではないか、というか言うべきではないだろうと。SONYの一存で決
めさせるべきだろうということであります。
その次。では、同じマークで混同されている主体であるSONYが訴えることはできそ
うだというか、まさにそうしようということですが、そのときにそのSONYについて営
業上の利益、どういう利益を害されている必要があるのか、ちょっとしたもので足りるの
か、大きなものである必要があるのかということがあります。論点2ということですが、
今度はそのSONYの枠内の問題です。誤認・混同される対象である必要があるかという
論点について、その必要はあるだろうと。論点2、誤認・混同される対象が被る不利益は
どの程度のものである必要があるのかと。一番大きそうなのは、混同により顧客を奪われ
るおそれというのがありそうです。
でも、これは常にすべての場合で肯定されるわけではなさそうです。競業関係がない場
合、例えばさっきのロッカーの例なんかですと、ロッカーを販売している事業者は原告の
グループにいなかった。そうすると、ロッカーが売れたからといって、原告の方の売り上
げが直ちに落ちるという関係にはありません。そうすると、混同されることにより顧客を
奪われるおそれが必要だということですと、そういう人たちが入ってこない。でも、そう
いう競業関係がない場合でも、何か損害が起きそうだ。たとえば、ロッカーの商品が粗悪
だったとします。レジュメ 16 ページの[フットボールシンボルマーク]事件はNFLのシ
ンボルマークを付したロッカーですが、それが粗悪だったとすると、ロッカーは売ってい
ないけれども、粗悪だったために、NFLのマークが付いていても大したことはない、逆
にひどいというようなことになりますと、ほかの文具、下敷きとかの売り上げが多少影響
するかもしれない、落ちるかもしれない。
でも、そういうことがない場合もあり得ますよね。ロッカーはちゃんとまともだと。新
会社の商品・役務は粗悪ではない場合もあります。そういうときにはなかなか損害という
ものを観念するのは困難です。競業関係もないし、新会社の商品はわりとまっとうだとい
うときには、なかなか損害はないのではないかということが問題になるのです。
これは昔、実際、日本では、最終的な判決まではいかなかったのですが、SONYチョ
コレート事件というのが昭和 30 年代か何かにありまして、そのときにSONYチョコレー
ト、別に何の被害もないのではないかと。混同は起きるかもしれない。広義の混同ぐらい
は、お菓子分野でももしかしたらあるかもしれない。だけれども、SONYに被害がある
の、不正競争防止法の営業上の利益を害されるおそれがあると言えるのということが問題
になったのです。そのときに使われた理論が外国から持ってきた理論なのですが、こうい
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不正競争防止法
った不利益があるだろうといって主張されたのが次のような理屈です。それが dilution、
稀釈化法理、稀釈化理論、あるいは dilution と呼ばれる被害があるのではないかという理
屈であります。
これは何かというと、かなり微々たる不利益なのですが、稀釈化というのは商品と表示
の1対1対応が崩れる。これは何を言っているかというと、SONYというマークは今ま
でSONYの家電商品だけを、家電だけをやっているとすると、SONYを見れば家電の
SONYを思い浮かべた、そういう関係にあります。ところが、新たにSONYチョコレ
ートというのが出たとします。そうすると、競業関係もない、それほど粗悪でもないとい
うときでも、どういう不利益が生じるかというと、稀釈化が生じる、1対1対応が崩れる
というのはこういうことです。私たち需要者がいたとすると、SONYのマークを見ると、
今までひとえに本体のSONYのことだけ思い浮かべていた。ところが、SONYチョコ
レートというのが出てくると、SONYというマークを見ても、ほんの一部かもしれませ
んが、こっちを思い浮かべる需要者が出てくるだろうと。そうすると、1対1対応が崩れ
るとどんな不利益があるか。
そこに「宣伝広告力、顧客吸引力が幾分かは減殺される」とあります。何を言っている
のかというとこういうことです。1対1対応が崩れる。そうすると、例えばSONYとい
う名前を売り出すとして、ちょっとCMをしようと思って、CMに例えば今まで大物タレ
ントなんかを起用して1億円をSONYにかけた。そうすると、今まで1対1対応でした
から、その1億円はそのままSONYに効果があって、例えば1億 1,000 万円くらいの効
果があった。今までは1対1対応なので、1億円をかけると、1億 1,000 万円ぐらいの効
果がそのままストレートにこうやってすぐ出てきて、いい効果があったとします。ところ
が、SONYチョコレートというのが出てくると、ほんのちょっとかもしれませんが、幾
分かはこちらも広告されます。よく分からない。幾分かこっちを思い浮かべてしまう人が
ちょびちょびっと出てくる。そうすると、これが例えば1億 1,000 万円そのものではなく
て、今までの効果が、よく分かりませんけれども、1億 980 万円くらいになるかもしれな
い。ほんのちょっとくらい下がるかもしれない。そういう不利益が、机上の説例、空論の
ような気もしますが、理論的にはあり得ないわけではないですね。その分、逆にSONY
チョコレートの方はぼろもうけです。SONYチョコレートのもうけは 20 万円で止まらな
いです。SONYチョコレートは何もSONYという名前を付けないよりも、SONYと
いう名前を付けたことによって一挙に人の目を引いていますから、たぶんよく分かりませ
んが、2,000 万円ぐらいとか広告費を節約するくらい。というか、2,000 万円ぐらいの広告
をかけたくらいの効果は、たぶんSONYという名前を付けるだけであるでしょう。
ということで、こういうときに比較してみると、SONYの方は本当に微々たる不利益
かもしれない。でも、何か理屈からいくと、営業上の利益を害されるおそれがまったくな
いわけではない。それに対して、SONYチョコレートはただもうけているだけではない
か。だったら、営業上の利益を肯定してよいのではないかと、そういうような話になって
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不正競争防止法
くるわけです。
これは微々たる不利益だけれども、この dilution 理論を支持している方はこういうふう
に言うのです。微々たる不利益かもしれない。でも、これはダムに空いた小さな穴みたい
なもので、この行為が許されるとすると、何だ、SONYチョコレートは大丈夫なんだと
いうと、SONY化粧品だとか、SONY何とかと、みんな参入してくるだろう。そうす
ると、最初は微々たるものかもしれないけれども、それがセーフということになると、ど
んどんまねされてしまう。だから、まったく無視はできないのだというふうにおっしゃる
わけです。
実際、日本に紹介されたこの理屈を、先ほどちょっと紹介したヤシカ化粧品も採用して
います。さらには最高裁のプロ・フットボール事件の判決もどのように言ったかというと、
これは教科書の 74 ページの後ろから6行目。最高裁もはっきり dilution とは言っており
ませんが、商品の出所識別機能を、品質保証機能を、及び顧客吸引力を害されるおそれの
あるものが含まれると言っています。このうち、出所識別機能が害されるというのは、た
ぶん1対1対応という稀釈化も含むでしょうが、混同されるということには不利益も含ん
でいる。両方含んでいるのでしょう。それから、品質保証機能というのは、たぶん粗悪な
商品が出回ってくることによって、SONYというブランドだって、あるいはNFLのマ
ークが付いたらこれぐらいの品質はありますよという、そういう機能がなくなるというこ
とでしょう。それから、顧客吸引力。これは端的には、端的は2つあると思いますが、1
つは混同により競業関係の客が奪われることもあれば、やはり1対1対応が崩れることに
よって幾分か減殺される、そういうことも含めているのではないかなと。少なくとも本件、
この事案はロッカーで競争していないという事案でしたから、ここで言っている出所識別
機能とか、顧客吸引力の中には恐らく dilution が含まれているだろうというふうに理解さ
れています。
さて、私がどう考えるかということですが、多少はっきり言って眉唾な不利益のような
気がしないでもありませんが、一応ダムの中に空いた小さな穴という理論は多少説得力が
あるかなと。そして、何よりも大事なことは、混同のおそれがある限りはこれを放置すべ
きではないのではないかということです。周知で、類似で、混同のおそれもある、適用除
外もないというときに、ただせっかく訴えているご本人があまり不利益を被っていないの
ではないかということを理由に放置するとなると、ご本人ばかりではなくて、需要者も被
害を受けるわけです。
レジュメには書いてありませんけれども、被告の方はただもうけているだけで、特に使
わせる意味もないわけです。だから、周知で、類似で、混同のおそれが混同されて適用除
外がないわけですから、だとすればこういう微々たる不利益でも、やはり背後に需要者の
利益があるということを考えると、稀釈化理論でも足りると、稀釈化という程度の不利益
でもよいのではないかということになります。
結論から言うと、ほとんどの場合、次にお話しする請求権者がどうなるかという地位の
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不正競争防止法
移転みたいな問題を除くと、従来の裁判例で混同のおそれがあるにもかかわらず、この要
件がネックとなって請求が棄却されたことはないです。そういう意味で、この要件はもう
ほとんど通過する。ただ、裁判例には出てきていないけれども、論点1のようなタイプ、
誤認混同された主体ではない人が訴えてきたときに関してはまた別だと思うけれども、こ
れについては裁判例が、ちょっとはあるのですけれども、たくさんはないし、はっきりあ
るわけではないということはありますが、論点1を通過すれば、誤認混同される対象であ
る限りは、論点2のところはもうすっと、ほとんど要件として機能していないのではない
か。一応説明としては、稀釈化という不利益があるよというふうにして説明しているとい
うのが現状ですし、それで構わないと思います。
次にいきましょう。問題はということで、論点1のタイプだと思いますが、ちょっと問
題になることがある。論点1が実際顕在化している判決例があると申し上げましたが、そ
れがバター飴容器事件です。不正競争防止法上の差止請求をなす地位を移転できるかとい
う論点であります。
どういう論点かというと、これは札幌のバター飴が問題となった事件です。札幌高裁の
昭和 56 年判決ですが、周知の商品表示である容器を使用してバター飴を販売していた北誉
というところがあったのです。北誉がバター飴。別にもう北誉は破産しているし、持って
いないのですけれども、今は違うところが出していますが、もしかしたらこんな感じのバ
ター飴の容器だったようです(写真参照)。
私は父親も北大だし、母方の祖父も北大だし、おじも北大だし、そのせいで北海道の親
せきがいるので、わりと子どものころから北海道へ来ていましたけれども、来るたびに、
行くたびにバター飴をもらっていたので、すごく覚えているのです。ただ、容器はあまり
覚えがなかったのですけれども、この容器をこの事件をきっかけに買ってみましたけれど
も、ごらんになった方が多いかもしれませんが、これは牛の乳を搾って入れる容器をかた
どっているのです。タンクみたいなこんな感じです。この中に3年ぐらいバター飴がずっ
と入りっ放しでしたが、ちょっと怖いからと思ってつい捨ててしまいまして、今は何も入
っていませんが、バター飴が入っているのです。
これを原告というか仮処分か、債権者そのものではありませんが、こんな形をしていた
のです、北誉。それが破産したのです。そのときにこの「意匠」を「譲り受け」という、
レジュメが「」書きになっているのは、別に意匠が登録されているわけでもないというこ
とです。その譲り受けとは何だろうということで、ご本人たちがそういうふうな形で話し
合ったということでありますが、「意匠」を譲り受けて、その同様の容器を使用してバター
飴を販売しているロマンス製菓と浜塚製菓というのが原告になりました。被告はナシオと
言って北海道ではわりと大きなお菓子屋さんではないかと思いますが、今でもこのバター
飴容器で販売しています。ナシオのバター飴はこちらです。ナシオがバター飴を販売して
いる、それを止めにかかったわけです。ナシオの容器もほとんどそっくりです。でも、ナ
シオの容器は、これは事件当時の容器と同じ形状、この容器だったようですが、ちょっと
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不正競争防止法
改良が加えられていて、どういう改良がというと、灰皿になる。バター飴と灰皿は、取り
合わせとしてはあまりよく分からないのですが、ともかく灰皿になるのだというところが
いいようであります。
ですから、事案をもう1回やると、北誉というところが倒産して、それまで実はロマン
ス製菓というところと浜塚製菓、これはお菓子の製造業者なので、実は今までバター飴を
作って北誉に納入していて、北誉が一般消費者に販売していた。北誉自身は飴を作ってい
るわけではないですが、ロマンスと浜塚が作ったバター飴を、北誉がこの容器に入れて販
売していた。その北誉が倒産してしまったのです。その倒産したときに、北誉からこの「意
匠」を譲り受けたと主張しているロマンス、浜塚が訴えた。訴えた相手は、北誉の倒産の
直後から、そういう意味ではすごく不競法に詳しいのかもしれませんが、灰皿形態なので
多少形状は違うわけですが、似たような灰皿形態のものに。バター飴自体は侵害行為では
ありません。バター飴を入れて売っているナシオというところです。今でも売っているか
7∼8年前に買ったから今は分からない。
札幌高裁判決はどう言ったかというと、仮処分の申請を却下してしまった。今では申請、
仮処分だと決定しか出ませんが、当時は判決も、口頭弁論を経て、判決も出ることがあっ
たので、判決手続ではありますが、これは仮処分事件です。
この仮処分事件でどういうふうに言ったかというと、申請を却下した理由は、この容器
が申請人、浜塚とロマンス製菓の商品であると広く認識されていないのだと。そうかもし
れません。倒産直後ですので、今から製造販売を開始しましたけれども、もう倒産直後な
ので、みんなロマンスと浜塚のことはよく知らないかもしれないという意味です。という
ことで、申請を却下したということであります。
この事件では、当事者間では、北誉とロマンス、浜塚の間では合意があるわけです。契
約がある。この「意匠」を譲り受けて、いろいろと言っているけれども、要するにこれに
関する権利を一切差し上げますよと言っているわけだから、合意があるわけです。この判
決を契機に論点になったのが、そういう合意で、契約で、不正競争防止法上の請求をでき
る地位を移転することができるのかどうか、そういうことが問題になったわけです。
この判決は駄目だと言ったのですが、これが今でも先例として機能していますが、ただ
しということで、当事者間の意思による承継を認めたかのように見える事件もあります。
例えば個人企業が法人になったときに、そういう意味では別個の権利義務帰属主体ですが、
そのときに個人企業自体の周知性でもって、その法人の周知性を認めた場合。あるいは別
主体、まったく別人格だけれども、ここからここに営業も譲渡されている。前の人からこ
ちらの人に営業、営業というのは工場とか働いている人とか、そういう一切合切をマーク
とともに譲り渡したとき、そういうときには昔の譲り渡した、今では使っていない、譲り
渡し人のところでの周知性、周知になってきたことを理由にして、譲り受け人のところで
も周知だということで、請求を認める判決があります。
学説では、こういう例外的なときに「周知性表示の承継」と呼んでいますが、承継とい
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不正競争防止法
うもの認めるだけではなくて、もっと一般的にも契約に移ることができるのだという見解
もあります。これも有力です。この説自体は都立大、今は早稲田の渋谷先生という方が唱
えたのですが、最近では東京地裁の裁判官の高部さんもこの説にくみしています。多数と
は決して言えませんが、わりとこの説に関してシンパシーを感じる方も多い。それに対し
て、こっちの方が多数だと思いますが、東京大の中山先生であるとか、私もくみしていま
すが、などはどう考えているかというと、承継は認めないということであります。
どうしてかというと、これは中山さんの説明ですが、不正競争防止法上は特に対抗要件
なんかの法規制がないではないかと。普通こういう譲渡だけで物件的な地位を移転できる
ということであれば、恐らく登記とか登録とか、何か移転登記、移転登録なんかのような
形の対抗要件の法規制があるのではないかと。それなのに、このように単なる契約で不競
法上の保護を受ける地位というものの移転を認めると、二重譲渡をどうするのだと、そう
いうような意見があります。
これはちょっとからめ手から責め過ぎだと思います。不正競争防止法の中にはなかった
けれども、実は商標法というのがあるではないかと。そこでは誤認混同されている信用と
別個に、さっと契約だけで権利を移転したい人のために商標制度というのがあって、そこ
では登録制度があるのです。だから、たまたま不競法ではないからちょっと見えにくかっ
たけれども、同じマークの保護できちんと登録制度があって、そちらでは契約だけで移す
ことができる。ただ、そのときの効力要件が移転登録することだとなっているわけです。
そうすると、どうも法律は後ろの方、ちゃんと移転したい、契約だけで移転したいという
のであれば、ちゃんと公示機能も果たしてもらわなければ困るということで、二重譲渡だ
けの問題ではなくて、やはり第三者のことも考えなければいけませんよね。私はどなたか
から契約で譲り受けましたなんて訴えられても困る。そういうのに対してきちんと商標法
があれば、商標法制度にのっとってくれれば、移転登録を受けましたということですぐ分
かるということです。そういった形で誤認混同された信用の移転とは別個に、さっと契約
だけで、合意だけで権利を移転したい方のためには商標法が用意されていますので、こち
らを利用していただきたいというのが法の筋だろうということです。
ということで、このバター飴容器事件の場合でも、もしこういう形で譲り渡したいので
あれば商標登録をするか。当時は立体商標というのは登録できなかった。当時は立体のも
のは商標登録できなかったのです。ちょっとそういうかわいそうなときでありますが、当
時でも意匠登録という可能性はあったかもしれない。それから、今では立体商標の登録が
できますから、そういう形で立体商標の登録をすればよかったのではないかということに
なります。
では、この山形屋事件とか、花ころも事件はどうなのかということです。この山形屋と
か花ころも事件はバター飴の例外かのように見えるかもしれないし、さっきから私が言っ
ている説の例外のように見えるかもしれません。でも、これは実は論理的な帰結なのです。
ちょっと難しいかもしれませんが、どうも営業譲渡があると、ついわれわれは営業が譲渡
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不正競争防止法
された、だから営業譲渡に伴ってマークの承継、マークの移転も認められるかどうか、渋
谷説は正しいかどうか、適用だけなのか、周知表示の承継は営業譲渡に伴って認められる
かどうかという問題設定をしがちです。
ところが、実は違うのです。そうではなくてこういうことなのです。周知性を認定する
ときに、501 というマークを見てリーバイスのものと答える必要はありません。それと関係
しているのですけれども、501 で周知性が満たされるということは、501 の背後にはっきり
名前は分からないけれども特定の企業がいるのだ、私は知っている。何か忘れたけれども、
その商品を見たことがある。たくさんの企業が使っていたわけではないけれども、何か企
業が使っていたよね。そういう人が 100 分の 16 くらいいる、それで周知性が満たされると
いうことです。そうすると大事なことは、背後にこういうグループか、1つの主体か分か
りませんが、いるということが大事なのであって、これが3人なのか、4人なのか、複数
なのか、入れ替わっているのかということは、実はあまり重要ではないのです。
例えばこの 501 でいくと、501 を作っている工場みたいなものがあって、そこで熟練の工
員さんたちがいるとします。はっきりこういうふうにイメージするわけではないですけれ
ども、要するに 501 という名称で信用が化体しているのは、この 501 の表示のもと、今ま
でリーバイスの名を汚さないように働いてきた工場や工員たちのこういったグループがあ
るからです。別の人が 501 と勝手に使うと、はっきりどこの工場が作ったか分からないし、
リーバイスと分からなくても、別の人が 501 を使うと、周知の範囲内では、本当は別の人
なのに一部の人がこっちを思い浮かべてしまう。うわさのあの商品だ、あるいはおれが前
買ったことがあるあの商品かと思って、こっちを思い浮かべてしまう。これが混同なので
す。
では、営業譲渡のときはどうかというと、ついつい先ほど申し上げたようにわれわれは、
これをXさんが持っていたとして、これが別の人に営業が譲渡されたときに 501 の表示が
動いたかと、こんなふうに見がちなのですが、今みたいな問題設定、需要者の目から見て
どう見えるのかと問題設定を課すと、こういうことになるのです。需要者の目から見た問
題設定、501 という表示を見ると、動いていないのです。X1がこの工場についてたまたま
権利を持っていただけで、それが営業譲渡によってX2にかわっただけです。それで、不
競法上の周知性の関係のときには、この営業について正式には誰が持っているのか、権限
は誰が、正式名称は何なのか、そういうことは気にしないでいいのだ。だから、吸収合併
はあるかもしれないし、営業は譲渡されるかもしれないけれども、とにかく同じ信用のも
とにいる限りはわれわれが、前はここのX1のものだったかもしれないけれども、こうい
う工場で作られている商品のことを思い浮かべたと。それが今はX2になったかもしれな
いけれども、同じ商品ですよね。ということは、この商品、X1かX2か正式な権利のと
ころはよく分からないけれども、この 501 という表示は営業譲渡の前後を通じて、この工
場、工員が作っている商品を指し示す表示として周知であるという事実にはかわりないの
です。だから、不競法が着目している周知性という要件から見ればかわらないのです。そ
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不正競争防止法
れが営業譲渡の例。
同じことは個人企業の法人でも同じです。ということで、例外ではない。むしろ周知表
示の誤認混同される主体を請求権者として考えるということも、ただそのままの論理的帰
結にすぎないというのがこの件に対する私の説明です。
このように私が考えますと、実はこういうふうに説明を随分前、10 何年ぐらい前にした
ときに、第1期のゼミ生でしたけれども、そういう意味では 1991 年ぐらいか、ゼミでやっ
たときに、そのゼミ生の日本航空に行った滝君というのですけれども、彼がこういうこと
を言ったのです。なるほどと思いましたけれども、だったらこの例、バター飴容器事件で
は申請を却下すべきではなかったのではないかと。営業譲渡はない例なのだけれども、バ
ター飴容器事件は申請を却下すべきではなかったのではないかというのが滝君の意見で、
私もなるほどと思ったので、それに今はくみしています。
それはどうしてかというと、バター飴容器事件で大変重要なことは、今までは北誉倒産
前はこの容器のもとでロマンス、浜塚が作っていたバター飴が売られていたのです。とい
うことは、この容器はロマンス、浜塚が作って、北誉が販売しているのですが、北誉が販
売しているこのバター飴を示す表示として周知でした。今どうかというと、北誉はつぶれ
ました。だけれども、作っているのは相変わらずロマンス、浜塚なのです。同じバター飴
を作っているわけです。では、ロマンス、浜塚の方から見て、ロマンス、浜塚の今作って
いるバター飴を示す表示とわれわれが思っていると思っているのです。以前の北誉が販売
していたバター飴を私が買ったとします。そのとき私が買ったバター飴の味があるとしま
す。もう1回この容器を私が見せると、あのとき買ったやつだなと。それが間違えている、
今違っているというのだったら、周知ではないですよね。ところが、まったく同じバター
飴なのです。ということは、主体は動いたかもしれないけれども、このバター飴を指し示
すものとして、今でも周知なのです。だから、申請は認容すべきだと。
これはとてもすごい例です。今まで営業譲渡があるというのは、北誉が工場、製造まで
やっていて、その北誉がつぶれたときに、それを引き受けて、ロマンス、浜塚というのが
営業譲渡を受けたとします。そうすると、今までの裁判例ですと、そのときには申請を認
容しているわけです。もっとすごいではないですか、今度の例は。そもそも譲渡すべき営
業がないわけです、最初から作っていたのですから。要するに中間を飛ばして売っている
だけですよね。だったら、営業譲渡のときに申請を認めるのであれば、この場合も本来は
認めるべきだったというふうに思っています。
ということで、滝・田村連合軍がこう言っているのですが、相変わらずで反応がないの
で、これをどういうふうに考えているのかはよく分からないところがありますが、たぶん
間違いはないと思います。
さて、次にいきます。ライセンス契約について。
ということで、不正競争防止法違反行為を訴える権利の移転は移転することができませ
ん。ちょっと混乱するかもしれないけれども、これは今、差止請求権について言っている
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不正競争防止法
のです。損害賠償請求権は譲渡できますよ。これから発生する損害賠償請求権でもいいの
だけれども、既に金銭的に、こういう北誉の例ではなくて、まったく別の例として、Xが
Yに対して差止請求できる地位ではなくて、Yに対して不法行為を受けてしまった。不正
競争行為、混同行為を受けた。それで、Xに 100 万円の損害賠償請求権が発生している。
そうしたら、この 100 万円の金銭債権、これを譲渡することはできます。
今話しているのはそういう話ではなくて、昔の話ではなくて今後、今、Yの行為を止め
ることできるか。あるいは今、X2のモシテて、今この時点で、過去のXが被害を受けた
行為ではなくて、今これからX2の被害、損害賠償をYに請求することができるかという
ことは駄目だという話です。ちょっと寄り道。
もとに戻りますが、不正競争防止法違反行為を訴える権利の移転は、今のような意味で
無理です。
次の問題。これも何か話をややこしくしているのですけれども、それでは不正競争防止
法違反行為を訴えないという契約をすることはできるか。これはできる。周知表示の承継
ができないというふうに中山先生はおっしゃって、私がくみしていたときに、他方である
学者の方は、周知表示の承継ができないのだから、不正競争防止法上の訴権、請求権をラ
イセンスすることはできないのだというふうにおっしゃった方がいらっしゃいます。実際
に論文でおっしゃった方もいらっしゃいますし、口頭では結構そういうふうに思っていた
方が少なくいらっしゃったようでありますが、おかしいということです。
Xが第三者Zを訴えることができるという権利がある。そのときに、勝手にそれを、私
は周知なのだけれども、営業譲渡もすることなく、Yという人にそういう訴える権利を譲
渡することはできません。それは今ずっと話したことですね。そういうことはできないの
だけれども、だからZを訴えるという権利をYに付与することはできませんが、これはで
きる。Yを訴えない、あなたは表示を使っていいよと言うことはできるのです。それはで
きますよね、XYだけの話だから。Zを訴えるという第三者もかかわる問題を、勝手にX
とYの間で取り決めることはできません。不競法はそんなことを認めていません。そうい
うことをしたければ、商標登録制度を利用しなさい。そうではなくて、当面の間、Zもい
いですよ、Zに対してあなたを訴えませんよ、あなたを訴えるのをやめますよ、あるいは
Yに対してYを訴えるのをやめますよと、これはできます。そんな難しいことを考えなく
ても、XとY間で訴訟になって、周知表示の主体と模倣者とが争うでしょう。訴訟になっ
て和解したと思えばいいではないですか。和解できるでしょう。和解した上に 100 万円払
うけれども、ちょっと使わせてくださいよ、まあいいよ、100 万円払ってくれるならばと、
そういうような和解はじゅうぶんあり得る。それは別に公序良俗に反するわけでも何でも
ない。もし和解ができると皆さんがすぐ思うのだったら、さっとすぐ、まあいいやつだか
らライセンスってすぐできるし、そもそも紛争になる前に普通ライセンス、例えば商品化
事業の先ほど言ったNFLのフットボールなんていうのはちょっとよく分かりませんが、
商標登録していないということにしましょう。そうすると、X1みたいなのがいて、X2
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不正競争防止法
が、NFLがいて、その傘下に商品化事業の会社がいて、傘下の会社たちはいろいろなと
ころに事業をさせていましたけれども、例えば文具等について事業をさせていましたけれ
ども、個々のこのライセンス契約、これは何か。法律的に当事者は、これは絶対ライセン
ス契約としか言わないのです。契約書で不正競争防止法上の請求権を行使しないことを誓
約するとか、そんな文言は見たことがありませんし、書かない方がいいと思います。だけ
れども、もしも、表示のライセンス、ライセンスと書いてあります。それは商標と関係な
くライセンス契約はよくやります。その実体は何なのかというと、実は不競法上の、まっ
たく関係なくただ口約束で、全部口約束だけれども、ただ単に法律の文言と関係なく、法
律の問題と関係なくライセンスと言っている可能性はないわけではないですけれども、も
っとちゃんと考えると、不競法上の請求権を持っているわけですよね。それをあなたに対
しては行使しませんよと、そういう契約だということになります。これ自体は相手方に対
して請求権を行使しないというだけの約束ですので、契約自由の原則で自由にできる、ラ
イセンスできるということになります。ということで、不正競争防止法上の違反行為を訴
えないという契約をすることは、当事者間の問題で契約自由の原則で大丈夫です。
一般にこれは表示のライセンス契約というのは、こういう請求権の不行使契約だという
ことになります。ほとんどがこれです。フランチャイズ契約なんかもそうです。商標登録
がある場合が多いですが、商標登録がある場合は商標登録に関するライセンスだと通常使
用権と言いますが、商標登録に関するライセンスだということになるでしょうけれども、
その場合だって、有名であれば不競法上の請求権も一緒に持っているはずなので、不競法
上の請求権の方に関しては当事者は意識していないかもしれませんが、黙示的なライセン
ス、不行使契約があるはずです。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(10)>
図1
X1
フランチャイザー
X2
A
B
C
フランチャイジー
レジュメの 21 ページ左側の後ろから6行目くらいで、営業を開始したフランチャイジー
というのは、これをフランチャイズ契約とすると、このようなフランチャイジーAもこの
NFLというマークの傘下で商品化事業をしている一員になりますから、Aは今までの周
知性をもとに訴えることができます。それから、X1、X2もただ貸しているわけではな
くて、一応商品コントロールをしているので、この主体に参加している一員として訴える
ことができます。というのが、普通の今までの裁判例ということになります。
それで、21ページ、後ろから3行目。ただしということで、ちょっとややこしい話なの
ですが、ここら辺になると解釈の問題になります。特に定説があるわけではないのですが、
私自身はこう思っているところです。今みたいな例で、例えば福岡、九州地区でX2とい
うようにやって、東京とか全国を統括している本部がX1だとします。そのときに、被告
Yが九州で同じ表示を使ったというときに誰が訴えることができるかというと、今言った
話で、Yの需要者がいる九州地区ではこのマーク、例えばケンタッキー、こういうマーク
は九州地区の需要者にとってはX2の販売している、しかもかつX1が品質コントロール
しているケンタッキーフライドチキンを指すのです。だから、そこでそういうことは周知
なので、Yが同じケンタッキーというマークを使うと、その九州地区のフライドチキンと
勘違いするだろうということで、その九州地区の営業主体であるX2と、それを品質コン
トロールしているX1の両方が訴えることができるということになります。ここまではっ
きり判決が論理構成しているわけではないけれども、そうなるということで結論は同じで
す。
問題はこの事案で、北海道でZという人がケンタッキーフライドチキンの名のもとにフ
ライドチキンを販売している。北海道は北海道で別のX3という人が原告の方の商品化事
業の一員、フランチャイジーだとします。そのときには北海道のZに対して北海道のX3
が訴えることができるのは当然として、X2が北海道のZも訴えることができるのかとい
う問題があります。これは私は否定しています。それはどういうことかというと、ケンタ
ッキーの場合は品質管理統制がすごく厳しいので、ほとんど誰がやっても同じ味はします
が、一応観念的にはこう言うことができる。北海道地区にとってのケンタッキーフライド
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不正競争防止法
チキンは、北海道地区のX3がX1の統括のもとに販売しているフライドチキンですね。
味がもしかしたら違うかもしれないですよ、北海道と九州では。北海道地区で同じケンタ
ッキーという名のもとでZという新会社が出てきたときに、その表示を見て、われわれが
勘違いする商品はX3の商品であって、X2の商品ではないので、北海道では訴えること
ができるのはX3であってX2ではありません。では、X1はどうか。X1は全国的に統
括しているので、この場合はこの北海道で間違える商品の主体の一部ですから、X1も訴
えることができます。こういう形でまあ穏当な線に収まるかなと。競争しているフランチ
ャイジーと本部が訴えることができるというのが、私の理解です。それが 21 ページの一番
下から、22 ページの5行目まで書きました。
1つの細かな問題ですが、こういう形で、私ですと、同じ競争地域であるとはいえ、フ
ランチャイジーも訴権を有すると思うわけです。そうすると、今度はフランチャイジーが
何かフランチャイザーと仲たがいして、ライセンス契約が解除になったとする。そのとき
に、フランチャイジーの方がそれでも請求権を持っているから、そのフランチャイジー自
身がその系列店を内紛で訴えるということができるかという問題があります。従来こうい
う問題が何となくあると、時々書かれたりしていて、水面下だったために、やはりフラン
チャイジーは訴権を有するべきではないのではないかとか、みんながいろいろと考えたの
ですけれども、私はこう思っています。こういうときに訴権がへこむなどと考える必要は
ない。訴権はある、請求権はあるのだ。不競法上の請求権は立つ。だけれども、これは不
正競争防止法の解釈ではなくて、そもそもライセンス契約の解釈として、普通ライセンス
契約というのは当事者の意識としては、契約期間中はあなたには訴えない、その代わりあ
なたも仮に不競法上の請求権があるとしても訴えないでねと。契約が終わったときには「表
示を返す」とかいう何か原始的な言葉遣いをしますけれども、表示を返すとか、契約が終
わったときには表示を使用しないものとするとか書いてあるその裏には、契約が終わった
ときにはフランチャイジーが仮に不競法上の請求権を持っているとしても、フランチャイ
ザー及びその系列店を訴えることができないと、そういう契約が、「契約の余後効」といい
ますが、あるはずだということで、契約の解釈として請求権自体へこませなくても、契約
の解釈として請求できないと処理すれば足りるだろうと思います。
最後。以上のように、基本的に不正競争防止法上の訴権はライセンスできるというお話
をしてきました。そうすると、信用の形成者に限られているということですね、そうする
と、彼が違反行為者、不正競争行為者にライセンスするとか、あるいはライセンスしない
までもずっと放置しておく、違反行為はもういいや、放っておこうとすると、混同が解消
しないという問題があります。
2条1項1号の趣旨には2つあって、ここでその趣旨2つが矛盾するのです。2条1項
1号の趣旨というのは、1つは信用形成者の保護でした。もう1つは何かというと、混同
する需要者の保護です。ここでは対立してしまうわけです。信用形成者はもうそれでよい
と思っている、放っておこうと。そのときに、ところが需要者の方は混同が放置されると
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不正競争防止法
いう問題があります。これは商標権にもある問題ですけれども、ただこれは大変難しい問
題なのだけれども、一応自分としてはこういうふうに説明する。答えは見えているので、
こういうふうに説明するしかない。条文上はどういうふうになっているかというと、請求
権者は営業上の利益を害されるおそれとしか書いてありませんので、一般消費者が訴える
ことができないのはもう明々白々なのです。さっき松下とか日立ができるかできないかと
いう話をしましたが、それ以前の問題として、消費者はそもそもできませんので、説明を
するとこういうことになると思います。要するに信用形成者の保護の方がここでは優先さ
れているのだということです。投下資本回収の手段である表示のライセンスというのを否
定するわけにいかない以上は、訴権者をむやみに拡大できない。ご本人が、信用形成者で
あるSONYならSONYが自由を持つべきだということです。
これで普通は終わるのです。私もここから先、自信があるわけではありませんが、論理
として完結していないことは認めざるを得ないので、一応こういう押さえを本には書いて
あります。どういうことかというと、そうは言っても趣旨である以上、まったく無視する
わけにはいかないのだから、単なる混同ではなくて、混同の結果、何かSONYの WALKMAN
というのがずっと一定の品質がある。例えば××という機能がある、そういう期待が消費
者に生じている。違反行為者のものを放置した結果、それが WALKMAN という表示のもとに
違う品質のものがあって、ただ混同したというだけではなくて、その品質について××機
能がないではないか、オート何とか機能とかいうのがないではないかということで、消費
者が被害を被ったときには、私は次のように考えています。
それは不競法の2条1項 13 号で、これは知的財産法にはないのですが、どっちかという
と景表法のたぐいですけれども、民事規定ですけれども、長いので少し省略しますが、品
質誤認表示、商品とか役務の質の誤認表示に関する規制です。だから、品質誤認表示違反
だということで処理すべきではないかなというふうに思っています。
この品質誤認表示だったときにはどうなるかというと、これは不競法の問題点の1つな
のですが、諸外国だと、こういう消費者が被害を被るタイプのときは訴権者に消費者が含
まれている。あるいは、消費者は乱訴になってしまうから行き過ぎだとしても、消費者団
体が含まれているのですが、日本の不競法はまだ含まれていません。これは全然改善して
いただけないのです。消費者訴権あるいは消費者団体訴権がないので、止めることができ
ないということにかわりはないのですが、ただそれでも、ここでは3条と4条、同じよう
な営業上の利益を害される者なのですが、この場合では競業者を含むと。業界全体の表示
の信用が揺らいでいるということで、競業者が訴えることができるということになってい
ますので、その意味で2条1項 13 号に当たるとすることで、競業者も松下、日立も訴える
ことができるということで、一応の説明はする。だけれども、問題は、そもそもこのマー
ク自体が2条1項 13 号の品質誤認表示になるのかと、こういうことを言っているのは私1
人でありますし、これについてはほかの説と違ってまったく自信がないというか、たぶん
裁判所はとらないだろうと思っています。
82/110
不正競争防止法
それから、もう1つの問題は、この解釈をとったとしても、消費者団体訴権がない以上、
あまり実効的なことはないと。そういう意味で、ここでは2つ、不正競争防止法2条1項
1号の趣旨はあると言いましたが、一方だけがどうしても優先されているということにな
ります。
次にいきます。今までも少し出てきましたけれども、不正競争防止法2条1項1号の保
護される対象には、実はただのマークと呼ばれているもの以外のものがあります。このバ
ター飴容器もそうでしたね。この容器自体が表示になっているような例ですけれども、条
文を見ると、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、まだ言うのですが、商品の容器若
しくは包装その他の商品又は営業を表示するものが保護の対象なのです。
容器はこういうのもありますよね。だから、こういう立体的なものでもいい。例えば、
これは不二家だからすぐ思い浮かべてしまうけれども、ナシオの方ですけれども、こうい
うのを見ると、子どもなんかは、別に「ナシオ」なんて小さく書いてある方は思い出さな
いかもしれないです。このマークよりもこの容器の方が印象付けられることがあるでしょ
う。この容器の商品。そうすると、この容器自体がSONYとか WALKMAN とかと同じよう
に周知表示になっているのです。そういうときには、こういうマーク以外に、容器なんか
も周知表示で保護の対象になるということが、条文からも見てとれるのです。
それだけではなくて、その論理的な帰結として、容器だけではなくて商品の形状、これ
も商品の言ってみれば形状みたいなものですが、こういう商品の形状も、これではとても
周知にならないですね、特徴がないから。でも、例えば特徴があって、ルービックキュー
ブの形状とかですと、あの形状を見るとツクダオリジナルが販売していると、そこまでは
みんなすぐ分からないかもしれないけれども、何か売れている、どこかの会社がやってヒ
ットしている商品だなと分かる。あるいは、たまごっちの形状を見ると、バンダイとはっ
きり分からなくても、特定のイメージを持つとなると、商品の形状自体が出所表示になっ
ています。周知表示にもなり得ます。
もうちょっと詳しく書いた方がいいね。ただ、今みたいなのはちょっと例外的で、この
例を出しましたけれども、普通は商品の形状というのはわりにありふれた形状とかが多い
ので、こういうのは例外的で、普通はこういった感じで、むしろこの不二家のペコちゃん
とか、不二家のマーク、こういったところに目を奪われる。こういったところで商品の出
所を識別するので、商品の形状が出所表示識別機能として保護されるのは大変特異な場合
です。形状が特異であって、それが強力に宣伝広告された場合に限られるだろうと思いま
す。ルービックキューブなんかはその典型例です。
これで終わっていいのかというのが次の話で、実は商品の形状が極めて特異で、それが
宣伝広告される、例えばルービックキューブのようになった場合でも、だからといってい
つも保護してよいのかという問題があります。それが次にお話しする技術的形態除外説と
調整不要説の話ということになります。
問題の所在を言います。詳しくはあさっての途中くらいからと思いますが、特許のとこ
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不正競争防止法
ろで話しますが、特許権とか実用新案権とか、そういう工業所有権、産業財産権との関係
が問題になります。特許権というのは出願・審査・登録が保護に必要で、新規性と進歩性
が必要で、存続期間は出願から 20 年です。こういうふうに決まっているのです。実用新案
権も次のように決まっています。新しい改正で、まだ施行されていませんが、今年の改正
で存続期間が 10 年になっています。商品の形状については意匠権というのもあります。出
願・審査・登録が必要で、新規性・非容易創作性を要求します。存続期間は設定登録から
15 年です。
問題はどういう問題か。商品の形状というのは意匠権を取ることができます。それから、
商品の形状がある技術的な形態、単に形状というだけではなくて、何かの課題を解決する
ような技術と結び付いているような場合ですね。何かよく分かりませんけれども、こうい
う構造をしているととてもよく冷えるとか、そういった場合、あるいはこれも効率的に何
かつまむことができるとか、そういう形状自体が技術を反映しているときには、実用新案
とか特許の実施品だということもできると思います。そういうときには、意匠権だったら
設定登録から 15 年で保護は消える。それ以降はパブリックドメインといって、みんなで利
用できるように決めている。保護されるためには、新規性であるとか、非容易創作性が必
要とされている。特許等もそうです。そういう方向性が片方にあるのに、商品の形状が特
異で、宣伝広告されたということで、不競法の保護を受けられるということになってしま
うと、存続期間を区切った意味がなくなるのではないか、新規かつ非容易創作性を要求し
た意味がなくなるのではないかというのが問題になるのです。不競法の保護というのは、
周知で混同のおそれがある限り永続しますから。
具体的に判決でいくと、組立式押入タンスセット事件、東京地裁昭和 41 年の判決です。
図はここにあります。これは確か原告だと思いますけれども、当時はデッド・コピーを違
法とする法律はないので、そっちの法律の問題になっていませんが、デッド・コピーの事
案ですので、原告と被告の商品を2つ並べる意味がない事件です。これは確か原告の商品
と思いますが、まったく同じです。
見ていただきたいのは日曜大工用品です。押し入れの中にタンスセットを作るというこ
とですが、だいたい日本間は同じ大きさをしているので、これを買ってきてトントンと組
み立てると、押し入れの中に簡単に入れることができるタンスがすぐできると、そういう
セットです。見ていただけばすぐ分かる通り、取っ手があったり、間仕切りの板があった
り、前面の戸があったりして、これを全部使うとタンスができそうだなというのがよく分
かります。
被告も同じヒット商品だったのです。すごくこれはヒットしたので、全然私にはこんな
記憶はありません。分かりませんが、どうもヒット商品だったようです。被告の方はまっ
たく同じ商品、デッド・コピー品を作ったのです。当時は2条1項3号なんていう法律は
ありません。これについて実用新案権なんかを取っているわけでもありません。意匠権も
持っていません。この状況で原告は、自分の方の商品はヒット商品だと。こういうセット
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不正競争防止法
の組み合わせを見ると、消費者は私を思い浮かべる、今まで私しか売っていなかったから。
被告はこの形状を売っている。そうすると、ああ、あのヒットしている商品かということ
で、間違えて買われるだろうと。だから、このセットの配置が周知の表示であって、それ
と類似というか同一で、混同のおそれを起こしているのだということで、不正競争防止法
2条1項1号、当時でいえば1条1項1号で被告を訴えたという事件であります。
裁判所は技術的形態除外説というのを採用いたしまして、保護を否定しました。技術は
万人共有の財産だと。そのうち新規独創的なものに限って特許や実用新案権が付与されて、
特定の人に存続期間を限って独占を許すことがあるにすぎないと。もし、技術的機能に由
来する商品の形態を商品表示として不競法の保護を与えると、この技術を特許権以上の一
種の永久権として特定の人に独占を許す不合理な結果を招来する。本件のセットの形態は、
商品本来の技術的な機能から必然的に由来した結果にほかならない。そうでしょうね。大
きさはもう限られているし、間仕切りの数なんか、多少工夫の余地はあると思いますが、
まあだいたいこんなものだと言うと、だいたいこんな形状にならざるを得ない。ここまで
一緒にする必要はないかもしれませんが、ならざるを得ないということで、こういったも
のを独占したければ特許・実用新案を取ってこいと、取っていないのだから保護しないと。
不競法でその特許・実用新案の制度の趣旨を潜脱するような形で、からめ手から保護する
ことはしませんよといった判決であります。
幾つか数はあるのですが、もう1つ有名なのが、伝票会計用伝票という事件があります。
今ではパソコンでいくのでほとんど使わないですが、これはすごく売れた、何十億円とい
う売り上げがあった一大ヒット商品です。どういうものかというと、実は私もよく分かっ
ていません。説明を受けたのだけれども、分からない。たぶんこういうものだったようで
すけれども、伝票会計用伝票というもの、これがすごいのは、従来だとどうも伝票で発注
を受けて、納入して、領収証を頂いて、そういう書類がたくさんあって、その書類を見て
帳簿に書き写して、きょう何月何日に発注を受けまして納入をしました、金額を書いてと
いう形で、それぞれ別に帳簿を作っていたのです。それが、これはやはりすごいアイデア
商品なのですけれども、これがすごいのは、それぞれが伝票、例えばここが何かちょっと
よく分からないのですが、在庫管理表付とかと言っていますが、右側の一番上はどうやら
納品書ですね、納品申し上げますと。その下が物品受領書です。それから、第3葉が請求
書です。だから、納品書は、製品を作って向こうへ出掛けていったときに納品しますとい
うのですね。受領書は向こうからとってくるもので、請求書はそれから出すものですよね。
そういったものが3つ並んでいるのですが、これのすごいのは、3連複写式か何かになっ
ていて、カーボン紙か何かを敷いてあって、一番上に書くと、自動的に下に必要な事項が
全部転写される、一回数値を書くと。それはそれで楽しい、いいことですよね。だから、
伝票とかをばらばらに書いていたのが、1回に短縮できる。さらにすごいのは、会計につ
ながるのです。それは、受領書か何かよく分かりませんが、この3枚のうちのどれか1枚
を取ってきて、それをこのルーズリーフみたいな穴が開いていますが、ぺたぺたと張って
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不正競争防止法
いくと、ちょうど必要な金額と月日と商品名、ついでに在庫管理表も付いていますから、
入庫しているかとか、必要な在庫管理表と会計表を一遍にできるということになりますが、
その必要な情報が1列1行について書かれているわけですから、そのところだけ、この下
の会計には不用な受領印とか、請求書の印とか、納品書の印とか、納品者の名前とか、そ
ういうところを全部抜きにして、何月何日××商品1つ売れる、在庫が幾つ減ったとか、
そんな情報だけ。実際それがどういうところへ売れたか見たければめくればいいのですけ
れども、そういうのがちょうど何枚かをこういう形で、そういう必要なところだけ出して、
連続して、2行だったら2行、3行だったら3行という形でとじていくと、自動的に会計
帳簿ができると。あとは最後、縦のところを全部合算すればいいということで、そういう
すごいアイデア商品で、ものすごい売り上げを示したようです。
原告は、これについて実用新案権を持っていました。実用新案権も、本当にちょびちょ
びっと変えては存続期間を延ばしていたのですが、あるときとうとう年貢の納めどきが来
まして、実用新案がもう切れるときが来たのです。実用新案権が切れた。さあ切れたと言
って喜んで、これは大ヒット商品ですから、被告の方がほとんど同じもの、これもコピー
していませんけれども、もうまったく形状が同じで、ただ所々、例えば第1葉の上の方の
「品名」というところが左側に載っていますが、これが「品○○名」みたいな形で、こう
いうどうでもいいところが違うだけで、大きさとか穴の配置とか、全部同じ伝票を作って
販売したのです。これは何で大きさも同じにする必要があるかというと、互換性の問題が
あるからです。年度の最後で、ちょうどよく原告の伝票がなくなるということはないでし
ょう。どこかで切れますよね。被告としてはその切れた瞬間に食い込みたいわけです。そ
の瞬間はうちの方が安いですよ、同じ伝票ではないですかと言って、次からはもうまった
く支障なく使えますからという形で、むしろ同じである必要があるわけです。これがもし、
これ、とじるルーズリーフみたいなのがあるのですけれども、被告の方も独自のルーズリ
ーフで勝負してもいいのだけれども、それをやっているとルーズリーフ代がばかばかしい
し、年度途中で9月 16 日までは原告、17 日からは被告になってしまう、面倒くさいやとか、
それから毎年同じ伝票で切っていたから慣れもありますから、そういった問題もあるので、
たぶん乗り換えてくれないと。ここでぜひ競争するには、同じ形状で、ある特定の日から、
次から使ってもらいたいので、まったく同じ形状で被告は売っているのです。残念ながら、
原告にはもうそれを止める実用新案権はないと、そういう問題がありました。
そういうときに注目するのが不正競争防止法です。この伝票が長らくもう大ヒット商品
で、原告のものを示していた。この伝票を見れば、皆さん一般消費者ではなくて、業者さ
んは、あるいは会計担当の方は原告を思い浮かべると、そういう状況にあったわけです。
ということで、レジュメでは省略していますが、組立式押入タンスセット事件とまった
くというか、ほとんど変わらない説示をとって、やはり伝票会計用伝票事件の第1審は保
護を否定しました。だいたい学説も、まあいいんじゃないのなんていう話をしていたので
すが、大変衝撃的な判決がその後に出ることになります。それが東京高裁の昭和 58 年の判
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不正競争防止法
決です。
伝票会計用伝票の控訴審、調整不要説というのをとったわけです。両者の競合を排除す
る規定がない。確かに、組立式押入タンスセット事件とかが勝手に調整しているけれども、
規定はないではないの。それから、特許の保護法益は技術的思想の創作だ、それに対して
不競法の保護法益は、営業活動における企業の信頼性とか商品の需要吸引力だと。まった
く保護の対象が違うではないか。保護の対象が違うときに要件効果が違うなんて当たり前
のことではないかと。しかも、永久権、永久権と言うけれども、周知でなければいけない
のだから、技術的思想に関する永久権設定とは言えないと、非常に説得的な議論を展開し
て、技術的形態除外説を葬り去ったということになります。これが高裁レベルの判決でし
たので、またこの裁判官の方はデッド・コピーの判決、木目化粧紙の判決も出した大変有
名な優秀な方ですが、優秀なんて言うのは失礼ですけれども、有名な竹田判事だったので、
非常に影響力があったということであります。
さて、どう考えるかということですが、技術的形態除外説にはやはり欠点があったと思
います。伝票会計用伝票事件の控訴審の言うことはもっともだろうと。どういう欠点かと
いうと、調整すると言っているのですが、なぜなのか。これは調整すると言っておきなが
ら、調整も何もしていないのです。一方的に工業所有権保護の趣旨を勝たせているのです。
なぜかというと、技術的形態除外説の行き着くところは、周知で、類似で、混同のおそれ
があるわけですけれども、技術的形態だから、保護を否定するということは、結局、周知
で、類似で、混同のおそれを放置するわけですよね。その代わり守ったものは何かという
と、特許権の存続期間は 20 年と区切られているではないか、あるいはそもそも新規で、か
つ進歩性のあるものに限っているではないか、そういう工業所有権の趣旨の方を守ったわ
けです。そこでは一方的に工業所有権の勝ちと決めているのですが、2つの法律で調整規
定も何もない。こっちが勝ちという法律もないのに、なぜ勝たせるのかという理由付けは、
実はなかったのです。もし理由付けがないとすれば、やはり調整不要説の言うところはし
ょうがないのではないかと。
それから、さらにもう1つ根本的な問題で、技術的形態除外説の方はこの特許とか実用
新案の心配ばかりなさるのですけれども、よく考えると意匠というのも大事ではないか。
商品の形状で常に意匠権は取れるのです。常にというか、抽象的には取れる。その代わり、
新規でかつ非容易創作性を満たす必要があるけれども、観念的には取れたはずです。でも
それが取れなかったのは、出願しなかったからか、新規ではなかったか、非容易創作性を
逃したか、あるいは存続期間の 15 年が切れたか、何か理由があります。
ともあれ、そういうことで、調整が必要だということであれば、意匠権等の関係でいく
と、商品の形状は本来意匠でいくべきなのですから、意匠を取っていない以上、保護を否
定するというのが建前のはずです。建前からの帰結のはずです。ということで、商品の形
状はおよそ不競法上の保護が与えられないと考えるべきだと思うのですが、そうは言わな
い。ここはちょっと口を濁すのです。難しい問題がある、よく分からないということで、
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不正競争防止法
調整不要説の方が妥当だというふうに言わざるを得ないと思います。
24 ページ。ですが、ここから先は私の説だということになりますが、そうはいってもと
いうことで、調整不要説なのですが、結論としては技術的形態除外説と同じような結論を
とることができるのではないかと私は思っています。
それはどういうことかというと、題材的に工業所有権等の制度との調整を理由にして調
整するのではないのだけれども。ただ、不競法の枠内で考えてみようと。不競法の枠内だ
けで考えてみてもということでいくと、どうもこの不競法2条1項1号というのは条文の
構造を見ると、周知で、類似で、混同のおそれがあるのを禁止している。ということは、
複数の出所があることを前提に、要するに商品の販売自体が駄目だと言っているわけでは
なくて、商品間で競争が行われていることを前提に、それに付す表示であるとか、あるい
はその容器であるとか、包装であるとか、そういう例示が挙がっているわけです。そうい
う商品本体ではないところで商品の競争があることを前提にして、その商品に付すものの
ところで混同が起きるのを防いでいるような条文の構造になっているのです。どうも商品
間の競争が行われることを前提にしている。そもそも競争が行われないのであれば、混同
も何もあったものではないだろうと。
そういうふうに考えると、技術的制約か何か、よく理由は分かりませんが、ともかく商
品として通用するためにはそうならざるを得ない形状というのがあるはずなのです。VH
Sというテープの形状がもう典型例ですけれども、ともかくそういう形状をとらざるを得
ない。コーヒーのカップなんかもそうですね。そういうところについては、商品なのだ、
そういうふうになるという、そういうところについてまで差止めを認めてしまうと、差止
めをした人以外はその商品を販売できなくなります。そうすると、これは商品の出所識別
表示の保護ではなくて、商品自体の保護になりますよね。それは2条1項1号の内在的な
制約を超えているのではないかというのが私の見解です。
だから、この見解に立つと、工業所有権との調整とか、外の方を見なくてもいい。2条
1項1号の中だけ見ていっても、商品として通用するために競争上似ざるを得ない形状等
については、形状でなくてもいいですが、商品表示たり得ないという帰結になるはずだと
思うわけであります。
具体的には市場において商品として通用するためには同様の形状をとらざるを得ない場
合。例えば MAGIC CUBE について、ルービックキューブでもいいのですが、ルービックキュ
ーブで回転するとか、ああいう色を付すとか、あれはもうルービックキューブたるために
はああならざるを得ないと思います。それから、コイル状マットというのはいわく説明し
難い。現物を持ってこなければいけないのだけれども、泥砂防止用マットで、家や企業の
玄関とかに置いておくのですけれども、プラスチックをある適当な温度でばーっと冷却す
ると、ちょうどよいぎざぎざになるのです。後で持ってきますが。そのぎざぎざについて
特許か実用新案がかかっていたのだけれども、切れたと同時に、スリーエムが原告ですけ
れども、ライセンシーの名前、リスダンか何か、旧ライセンシーがわーっと自分で独自に
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不正競争防止法
販売してしまった。2条1項1号に基づいて訴えたのだけれども、競争上似ざるを得ない
ということで保護が否定されているのですが、そういった判決が幾つかあります。
ほかにもこういうふうに考えると、工業所有権の保護と関係ないところでも同じような
例はあるだろう。それがit
sシリーズの事件です。it
sシリーズの事件というの
は、皆さんご存知でしょうか、SANYOが、例えば大学生とか向けですが、単身者用に
濃紺色、非常に濃い紺の色で、だいたい 3,000 円とか、4,000 円ぐらいの扇風機とか、電子
レンジとか、冷蔵庫とか、だいたいちょっと丸みを帯びた感じで売っているit
sシリ
ーズを知っている人はいますか?濃紺色のシリーズ商品です。被告の方はmiとかいうシ
リーズ名で、同じようにほとんど濃紺色で売り出したのです。個々の商品の形状は違うの
です、コンセプトは似ているけれども。被告の狙っているのは明らかで、そのSANYO
のit
sシリーズをたくさんそろえている人がいると。同じ色ですからと言って、もち
ろん違いますけれども、その上でちょっとお安いのではないですかという感じで、そのi
t
sのファンに買ってもらいたいのですよね。だから、色が似ている。その色自体が、
この濃紺色を見るとうちを思い出すということで、SANYOが訴えたのです、2条1項
1号で。これは今まで幾つかで挙げましたが、これはほとんどが今では私の説を採用して、
競争上、商品の、だから東京高裁の縛りがあるので、そこはもう技術的形態除外説はとれ
ないけれども、この新しい内在的制約説をとって、商品として通用するための形状だとい
うことで、似ざるを得ないからということで、保護を否定するという判決を今出していて、
ついにこの間、MAGIC CUBE の事件ですが、コイルマットの事件はちょっと折衷的だったの
ですが、東京高裁の平成 13 年の判決で MAGIC CUBE の事件で、東京高等裁判所も現在では
競争上似ざるを得ない形態説をとっているということになります。
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<不正競争防止法(11)>
不競法の保護の話をすると、やはり商法との関係が重要です。ただ、今から申し上げる
ように、実務的にはほとんど意味のない条文だということになります。
商法の方をお開きになってください。商法の 19、20、21 条あたりです。
商法に関しては商号の規定です。商号というのは何かというと、商人の名称です。商人
の名称のことを商号といいます。会社の商号の場合は、何とか株式会社と、株式会社名を
入れなければいけません。条文は 19 条で、まず「他人が登記したる商号は同市町村内に於
て同一の営業のために之を登記することを得ず」ということなので、同一市町村内である
と、また 100 万都市だと同一区内ということになるのだと思いますが、その区内だと、他
人が先に登記した商号については同じ営業のために別の人が登記してはいけないという条
文があります。これは重複登記を禁止する規定です。
これについては、商業登記法 27 条では、判然区別し難いというふうにして同一の意味を
ちょっと明確にしていますが、ともかくこれは重複登記を禁止する規定です。この重複登
記に関して登記機関が気付かずに重複登記してしまったときに、その抹消を求める権限が
先登記者にあるかどうかについては争いがあります。しかし、どっちにしろ、この条文に
しては不競法とそれほど強い関連性はない。要するに重複登記をしてはいけないと言って
いるだけで、このダブルに重複登記をした相手方が使用できるかどうかとか、そういうこ
とは一切関係を書いていないということでは、あまり関係がありません。これは純粋にむ
しろ商法の問題です。
20 条、こちらは重要です。
「商号の登記を為したる者は不正の競争の目的を以て同一又は
類似の商号を使用する者に対して其の使用を止むべきことを請求することを得」というこ
とであります。これを見ると、商号だから商人の名称なので、WALKMAN は関係ないですね。
だけれども、SONYだったら商号でもあります。その商号の登記をなしている、SON
Yもどこかで設立していますから、登記しているのでしょう。しているときは、不正の競
争の目的をもって、同一または類似の商号を使用する者を止めることができるよ、損害賠
償も請求できるよと書いてあるのです。すごく不競法と錯綜するのです。これは大変ごち
ゃごちゃする。
このごちゃごちゃしたパズルを解いたのが、先ほども名前が出てきた中山先生だという
ことになります。「鈴木竹雄古稀」に書かれた論文が有名です。どういうことをおっしゃっ
たかというと、商法 20 条1項、これは立派な条文なのですが、実は存在意義がないだろう
というのが中山論文の帰結です。なぜか。レジュメに要件をちょっと並べてみました。商
法 20 条1項については登記が必要です。だけれども、周知性は要りません。類似であるこ
とが必要です。混同は要らないです。でも、その代わりに不正競争の目的が必要です。営
業上の利益を害するおそれは要りません。それに対して、不競法2条1項1号は今までず
っとやってきました。登記は要らないです。でも、周知性は必要です。類似性も必要です。
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不正競争防止法
混同も必要です。不正競争の目的は要りません。営業上の利益は必要です。何か日本シリ
ーズみたいですよね。何勝何敗かということで、すごくばらばらしている。これを見ると
きに大事なのは、商法 20 条1項も不競法2条1項1号も、こと商号に関する限りは重なっ
ているわけですよね。ただ、大事なことは、商法 20 条1項はその保護のためには登記が必
要です。その分、保護が厚くなければ意味がないですよね、登記する意味がありませんか
ら。何か意味があるのだろうと。意味があるということは、登記を必要とする分、不競法
で必要とされる要件が幾つかないといいのです。まあ、そうですよね。不競法と同じ要件
プラス不競法にない要件まで加わったら、登記した方が保護は薄くなりますから。登記以
外、要件が少なければ少ないほど存在意義があります。
そういう目で見ていくと、確かに登記を必要とする代わりに周知性は要らないです。こ
こは有利になっていそうだ。類似性は同じだと、引き分けだと。混同も確かに不要になっ
ている。ここら辺までは、登記した結果、周知性とか混同のおそれを必要とすることなく、
相手方の類似商号を止めることができるという存在意味がありそうです。次が問題です。
不正競争の目的が必要とされているのです。これは不競法2条1項1号で要らなかったの
です。ここでもうすべては無になっているのではないかというのが中山説で、なぜかとい
うと、そこは中山論文なのですけれども、不正競争の目的と書いてあるけれども、通常で
いけば不正競争の目的というのは、周知で、類似で、混同のおそれがある場合ではないの
と。周知でもない、混同のおそれもないところで不正競争の目的があるというのは考えに
くいというのが中山説です。そうすると、その中山説に乗っかると、かなりの程度真実を
突いていると思いますが、この不正競争の目的というのが必要とされているおかげで、結
果的に周知性と混同というのが不要になっているのですが、不正競争の目的がある結果、
不要であるけれども実質的に必要になっているのではないかと、隠れた要件として。不正
競争の目的を満たすためには、周知であり、混同のおそれがある必要があるのが通常だろ
うという中山説ですが、そうすると周知と混同のおそれは不要のように見えて、結局不正
競争の目的で必要とされているのではないかと。そうすると、先ほど、登記したうまみで
周知と混同のおそれがなくても保護を受けることができると一瞬思ったけれども、実質的
には必要だったということになると、意味がないですね。
最後。営業上の利益を害するおそれは要りませんが、逆に今度の問題は、不競法2条1
項1号の方では、営業上の利益を害するおそれは、先ほど、ほとんど混同される主体が訴
えるときにはスルーパスというか、通過してしまう、要件として機能していないと申し上
げました。そうすると、こっちは要らない。そうすると、今までの整理をして、中山説の
命題、不正競争の目的は周知で混同のおそれがある場合に通常は限られるだろうという命
題を是としますと、結論として商法 20 条1項は登記が必要ですが、保護は厚くなっていな
い、同じ要件が必要だからということで、登記が必要にもかかわらず、保護が変わらない
条文だということで意味がない。商号登記がある人は多いですから、普通は会社の場合は
商号登記がありますから、商法 20 条1項に基づいて訴えても構いませんが、意味がない。
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不正競争防止法
意味がないどころか、よく分からないことがあります。不正競争の目的にどれが必要なの
かな、周知で、類似で、混同のおそれがあれば常に肯定されるのだったら同じだし、でも
もっと必要、何がなければいけないといったら、もっと商法 20 条1項の方が大変だという
ことになります。
そのようなわけで、実務では使われません。商法 20 条1項を、ちょっと不競法を知らな
い弁護士さんか何かがうっかり使ったりすることはないわけではない。しかも、旧訴訟物
理論ですから、その場合は訴訟物をたがえますから、裁判所もなかなか不競法だと色付け
るわけにもいかない。ということで、たまに商号の 20 条1項を使ったのがありますけれど
も、不競法ができる前の昔は別ですけれども、最近では、特に戦後はもうその1件くらい
で、普通は不競法を使います。まったく意味がないということです。
ただ、あえて揚げ足をとるのであれば、周知であっても混同のおそれがない分野でも、
例えば何か妨害目的があるとか、それからポルノランドディズニーとかいうような形で、
不正競争目的が混同のおそれの枠外である場合もたまにはあるかもしれません。でも、そ
っちは逆に、むしろ2条1項2号の問題ではないかということもありまして、例外的だし、
あまり揚げ足をとってもしょうがないのですが、多少商法 20 条1項の方が有利になりそう
に見えないことはないのですけれども、ただそうすると最大の問題点は、何で登記すると
保護が強くなるのかよく分からないということです。
レジュメを見ると、○を付けてちょっと下に「商号の登記は、登記官が商登法 27 条違反
を形式的に審査するに過ぎないのでこれでよい」と書いてありますけれども、商号の登記
は商標登録と違って実質要件を審査しないのです。商業登記法 27 条違反、商法 19 条違反
だけを見る。というのは、同一市町村内で判然区別し難い商号があるかどうかだけしか見
ません。逆に言うと、いくら有名なSONYであっても、同じSONYの登記が例えば札
幌にない可能性がありますよね。SONYはたぶん東京で登記しているでしょうから、た
ぶんないでしょう。そうしたら登記してしまうのです。それで構わない。なぜかというと、
だいたいおかしなこともあるのだけれども、中にはSONYの子会社かもしれませんよね。
だったら登記しても構わない。そういったものをいちいち審査しない。あとはもう不競法
でやってくれ、商法の枠内、商法 20 条でやってくれと、お忙しいので野放しなので、そん
なのでちょっと登記したくらいで、何か混同のおそれを超えた保護なんていうのはやはり
おかしいので、やはり2条1項1号とか2条1項2号の要件を満たしてくれる必要がある
と思いますので、なし崩しの解釈でいいだろうと思います。というか、なくてもいい規定
なのです。だから、商法 20 条1項は、もう条文からなくなっても全然構わない規定だと思
います。
ただ、一応論理的にはということで、ためにする議論ですが、商法 20 条2項の限度では
意味があるのではないかなと言われています。それはどういう意味かというと、大した意
味ではないですが、
「同市町村内に於て同一の営業の為に他人の登記したる商号を使用する
者は不正の競争の目的を以て之を使用するものと推定す」とありますので、同市町村内で
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不正競争防止法
登記があって、その同市町村内で同一営業のために他人が商号を使用していると不正競争
の目的が推定されるということは、結局さっきの両者を比べたところで、上の不正競争の
目的のところ、これが実質隠れた要件、周知性プラス混同のおそれなのですが、と書き換
えることができるというのが中山説ですが、その周知性プラス混同のおそれの要件のとこ
ろが推定される。だから、被告の方が不正競争の目的がないこと、具体的には周知でなく
て、混同のおそれがないことを中山説では言わなければいけなくなるという限度で意味は
あるだろうと、立証責任の転換の限度で意味があるだろうというだけの規定だと言われて
います。どっちにしろ使われません。だいたい同一市町村内は狭過ぎますよね。100 万都市
だと区内読み替え規定がありますので、大変狭いということになります。
なお、以上に対しまして商法 21 条は意味がある規定です。逆にこれはお忘れにならない
方がいい規定だと思いますが、21 条は「何人と雖も不正の目的を以て他人の営業なりと誤
認せしむべき商号を使用することを得ず」。これは何かといいますと、実はこれは大変大事
な規定でございまして、すごい例は、私の名前で「田村善之知財専門事務所」。まあ、何で
もいいのだけれども、そういう形で一私人の名前を使って営業する。そのときに私人の方
は営業上の利益を害されるおそれがないということですね。そのときには不競法上の請求
を立てることができません。私の営業上の利益を害されるおそれがない。私は北大の公務
員でございますので、兼業禁止がかかっていますので営業できませんので、営業上の利益
を害されるおそれがありません。そのとき、不競法で訴えることができないときには 21 条
を使うということになります。その限度で意味がある。そういう意味がありますので、21
条は意味がある規定です。
ただ、これは「他人の営業なりと誤認せしむべき商号を使用することを得ず」で、類似
表示使用者の方は商号であるという問題がありますし、単なる営業表示とか商品名につい
ては 21 条で野放しになっているという問題がありますが、それとはまた別の問題として、
他人の営業なりと誤認せしめればすべていいので、他人の中には一私人も含みますが、中
には会社の商号とか、未登記商号とか、あるいは周知表示とか、一切合切含んでいるので
す、21 条には実は。だから、まったく同じような問題でして、21 条を使って、商号登記を
していない場合であるとか、あるいは何でもいいのですが、普通の商品名とか営業表示な
んかについて誤認があるではないか、不正の目的があるではないかと言って訴えることが
できるかという問題があります。条文上訴えることができると言わざるを得ませんが、や
はり不正競争防止法 2 条1項1号や2条1項2号の要件を無にしないためには、ここでい
う不正の目的というのはすべてそれらに合わせるべきだろうと。だから、実際は意味がな
い。
これはほとんど使われませんので裁判例はほとんどありませんが、普通に考えれば2条
1項1号とか2条1項2号の保護をここで突出することはないでしょうから、あまり意味
がない規定だということになると思います。意味があるとすれば、不競法上の訴権を持た
ない私人が訴えるときだということになります。
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不正競争防止法
ただ、私人が訴えるときは 21 条を使った方がいいですから、ただここも最近はパブリシ
ティ権というのを使う場合が多くなっているので、きのう、競走馬のパブリシティで物の
パブリシティもいけるかというお話をしましたが、パブリシティ権とか、普通の氏名権と
いうのを使うことも多いので、21 条を使わなかったからといって別に失敗しないかもしれ
ないということがあります。
さて、次、不競法に戻ります。不競法の2条1項2号、周知で、類似で、混同のおそれ
の商品等主体混同の行為にはようやくおさらば、さようならということになります。だい
たい3号から始めて、4号から9号までやって、1号をやって2号をやると、これで不競
法上の全部とは言いませんが、知的財産関係の法律はだいたい見ることができますが、2
条1項2号は一度読みました。他人の著名表示と類似の表示を使用する行為が不正競争行
為になるという条文です。
趣旨、レジュメの 25 ページ。著名表示に対するフリー・ライドには2つのタイプがある
と思います。1つは他人の著名表示を使用することで、その他人の商品や営業であるか、
その関連企業の商品や営業であるかのごとく誤認させる広義の混同を生じさせる行為です。
こういうフリー・ライド形態があります。これについては2条1項1号で押さえています。
押さえていないものがあります。もう1つのただ乗り形態は、他人だとまでは言わない
けれども、人の目を引き付ける。間違いはしないけれども、それを使うことで人の目を引
き付ける行為というのがあります。それはフリー・ライドです。これを違法とすべきかど
うかはこれから考えますが、ともかくフリー・ライドであることは間違いない。例えばS
ONYチョコレートは混同するということになったが、後から出ますけれども、ポルノラ
ンドディズニー事件なんてありますね。恐らくほとんどの人はディズニーランドがポルノ
業界に進出したとは思わない。思わないから①のタイプのフリー・ライドではありません
が、②のタイプの、おかしいぜ、何かミッキーマウスの変なものを売っていそうだとか言
って、そういう形で人の目を引き付ける行為ではあると思います。
さて、旧法下の裁判例、2条1項1号型の条文しかなかった時代、旧法は1条1項1号
が商品表示の混同行為の規制で、1条1項2号が営業表示の混同行為の規制で、2つ条文
があるのですが、どっちも今の2条1項1号でまとめられた条文でしかありませんでした。
現在の2条1項2号はありませんでした。だから、その旧法下では常に混同のおそれを認
定する必要があったのですが、今ではもう先例として通用していないと思いますが、ヤン
坊マー坊のディーゼル機械で有名なヤンマーが、ヤンマーラーメンを訴えたという事件で
混同のおそれを否定した判決が古くはありましたが、これはもう過去の話でして、どんど
ん混同のおそれが広げられていきました。著名なファッション雑誌名「VOGUE」があ
る。その「VOGUE」がベルトに使われたというのであれば、広義の混同のおそれを認
定してもいいでしょうし、次はちょっと危ないかもしれませんけれども、
「HAIG」と「Johnnie
Walker」のウイスキーの著名商標がガラスの鏡について使用されると、もしかしたらそん
なこともあるかなということで、関連会社かなと思われることがあるかもしれないので、
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不正競争防止法
こういう広義の混同を認めたのはまあぎりぎりいいでしょう。
しかし、もっと無理なものがあると思う。まず、パチンコ屋ディズニー事件という大変
有名な事件があります。パチンコ店で「ディズニー」という表示が使われた。でも、ただ
のパチンコ店だったら苦しかったかもしれないですが、高級感のあるパチンコ店。何かよ
く分かりませんが、ホテルのようなバブリーなパチンコ屋で、ローラースケートか何かで
店員が迎えに来るという何か怪しげなパチンコ屋だったようで、ほとんど間違いないだろ
うけれども、中にはこういうパチンコ店がもしかしたらと思う人がいるかもしれないとか
いう説示を福岡の裁判官は言いまして、混同のおそれがあると言った判決です。
ヨドバシポルノというのもすごい事件ですよね。ヨドバシカメラの 300mだか 200mだか、
その近くで新宿駅のかいわいで、ヨドバシポルノという大人のおもちゃ屋をやっていた。
判決も大変苦労いたしまして、ヨドバシカメラはカレンダー的な時計でヌード写真も売っ
ている、大衆向けの低廉な商品を売っていると。怒りそうな、原告だからいいのですけれ
ども。だから、こちらに進出したかと思うかもしれない。思わないでしょう。近くでやっ
ている。間違わないよね。近くでやっているからこそ間違わないのだと私は思います。で
も、そんなことを言ってアウトにしたのです。
こういうのはすべて、やはり間違わないと裁判官だってみんな分かっているのです。だ
けれども、単にただの稀釈化ではなくて、何かわい雑なイメージをくっつけていますよね。
もしこれがセーフだということになると、世の中にポルノランドディズニーが、この場合
はヨドバシポルノですが、だーっとあふれてしまうかもしれない。そうすると、みんなデ
ィズニーランドへ来るとにやにやとしてしまうという、そういうのを禁止したいというこ
とになると思いますが、これだけでも大変だったのですが、これは絶対裁判官がかわいそ
うだから改正しなければいけないということになった衝撃的な判決が、恥ずかしいので引
用もしていませんが、せっかくだからお話しすることにいたしますと、そういう判決があ
りました。
それは、さっきからちょっと出ているポルノランド、実はティスニー事件なのですが、
東京地判の昭和 59 年1月 18 日。ポルノランドティスニー事件。これは経緯は細かくは忘
れてしまったけれども、最初は「ポルノランドディズニー」でやっていたのだけれども、
ディズニーが駄目だとかで、仮処分を受けたか、警告を受けたか何かで、濁点をとって「テ
ィスニー」にしたのです。欠席判決です。欠席したのです。欠席でも大事なことは、事実
については擬制自白が成立するのです。民訴をやった人は分かると思うのですが、事実に
ついては擬制自白が成立します。でも、擬制自白というのは事実についてだけなのです、
請求を認諾したわけではありませんから。その自白した事実に基づいて、裁判所は法的判
断をしなければいけない。だから、欠席したけれども、原告の主張自体失当で、主張自体
成り立っていないと、これは欠席しても負けることはあるのです、論理的には原告は。こ
れだって、いないので、原告の言いたいことは自白したことになりますけれども、事実認
定はしなければいけないし、それに対して2条1項1号、当時の1条1項2号を当てはめ
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不正競争防止法
なければいけないのです。
大変でした。弁護士さんも考えました。なぜ混同するか。ポルノランドディズニー、ポ
ルノランドティスニーとなぜ混同するか。こう言いました。原告のディズニーランドは子
どもに夢を売っている。もう分かった方がいるかもしれませんが、被告の大人のおもちゃ
屋は大人に夢を売っている。夢という観念が共通しているから、混同するのだ。世に言う
「大人の夢判決」という大変有名な判決ではないです、弁護士さんが言ったのです。ここ
からもすごい。普通訴訟でそういう擬制自白があると、事実認定は擬制自白したこととみ
なす。次に法の適用という感じで、これこれこういう事実を認めるのでこうこうこうだと
思うというふうに裁判所は書くのです。裁判官は自分で書かない。わざわざ括弧書きで、
今の「大人の夢」のところをわざわざ抜いてきて、
「と原告は主張し、被告は欠席している。
擬制自白が成立している。よって、混同のおそれがあるから請求を認容する」と書いたの
です。だから、裁判官も自分の言葉ではないよと言って逃げているのだけれども、一応裁
判所の判決の方に、この「大人の夢」が載ったのです。これは不幸だと。もうちょっと、
もうこれはやはり法の欠缺(けんけつ)と言わずして何だと。何とかし直さなければ、不
競法を直しましょうということになったのです。これが不正競争防止法に一般条項みたい
なものがあって、例えばドイツなんかは一般条項があるのです。不正の競争の目的をもっ
て、公序良俗に反する行為をした場合は違法とするとか、そういう一般条項があります。
そういう国だったら一般条項で解決できるのですが、日本はいろいろな理由で予測可能性
がないとか言って、非常に財界が反対しますので、不正競争防止法の中に一般条項はまだ
ありません。それだから条文が必要です。民法 709 条の不法行為は認めることができると
思います。だけれども、差止めを認めるためには、やはり条文が必要です。ということで、
2条1項2号がつくられたのです。
ところが、ちょっと拙速だったと。私も反対したのですけれども、もうちょっと何とか
保護を弱くと言ったのですけれども、ちょっと拙速につくり過ぎたのです、この条文。保
護が強過ぎます。2条1項2号の体裁は、表示の著名性のみを利用する行為を禁止するの
です。趣旨からいくとこういうことだと思います。企業努力のインセンティヴが損なわれ
ないようにしよう。だから、混同のおそれの範囲外だって dilution というのは起こるし、
さらには tarnishment と英語では言うようですが、汚染化。ヨドバシポルノ事件とか、ポ
ルノランドディズニー事件とか、こういうふうに風俗産業に限らず、例えばアメリカでは
Budweiser について、あの Bud という言葉自体が、何か「日常生活のあるところ常に Bud あ
り」とかいうスローガンが Budweiser であるそうですけれども、その Bud をもじって、日
常生活のあるところ必ずハエがいるとかいって、殺虫剤の広告に使ったのがあって、それ
は駄目だと言ったことがあるのです。そういう形で、あまりにも懸け離れた商品に使われ
ると、標章の汚染というのがあり得るのです。
これは dilution にかこつけて、日本語では、最近ではもう私もあきらめて言っています
けれども、ダイリューションとポリューション(pollution)というふうに言います。だけ
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不正競争防止法
れども、これは単なる、誰も取り上げてくれないトリビアの泉ですけれども、英語では
pollution と 言 い ま せ ん 。 と 言 っ て も 、 全 然 み ん な 驚 か な い と 思 い ま す け れ ど も 、
tarnishment と英語では言います。
そういった行為から不利益から保護することを目的としていますが、しかし表示が著名
であれば、直ちにそれだけで一律に保護するという条文になっているのはきつ過ぎます。
立法のときにいい例を思い付かなかったのです。こういう例、例えば Victor は有名です。
Victor が有名なときに、スキーの廉売店の Victoria、使えなくなっていいのか。これは、
今では2条1項2号の新法施行の前の、さっき読んだ附則で経過措置がありますから、全
部 1994年より前に営業していますから、全部セーフですけれども、ただこれが新法施行後
だとしても、本当におさえていいの。あるいは、スキーの Victoria は有名です。そして、
ステーキの Victoria、結構有名ですよね、北海道でも。止められていいの。表示にはすご
く強い表示もあれば、ストロングマークと呼んでいますが、こういう Victor みたいなちょ
っと弱い、みんなが使うような表示もあるではないか。ちょっと保護が強過ぎるのではな
いかなということであります。
ということで、表示の保護範囲を拡大するということは、逆に他人の商品等表示選定の
自由を害することを意味するわけですから、比較衡量して、
本当はこれが Victor と Victoria
で業種が似ていて混同するというのであれば、公的な不利益、需要者の混同が生じている
から、ぼんと禁止していいのですが、ここでは2条1項2号、適用場面、混同がない場面
ですから、もし混同するというのだったら、2条1項2号の保護を否定したら2条1項1
号でいけばいい。ここでは実際真に問題にしなければいけないのは、混同のないもの。そ
うしたらもう Victor という私の不利益だけで保護を肯定する以上は、その人の不利益とも
う1つの類似表示使用者の方の使えなくなったときの不利益を、混同がない分、比較衡量
する必要があるだろうと。そういうことを比較衡量する必要があるのだけれども、要件が
ないのでどうするかなということが、我々に課せられた課題だということになります。
幾つかバーを設けてあります。1つが著名性のところで考える。著名性については、ま
ず認識度合いということがあると思います。読んで字のごとく認識度の高いものが必要だ。
どのくらい高い必要があるか。混同を要することなく保護を与える以上は、2条1項1号
の周知性の要件が無意味な規定にならない必要があると。周知性と同じか、それよりも低
いもので2条1項2号の保護が肯定されてしまうと、2条1項1号が何たるかが分からな
くなる。ということは、2条1項1号の周知性要件よりは高い必要がある。一般には8割
とか言われていますが、5割とか6割とか7割は必要でしょう。
積極的に言うと、さらに、先ほどの私のような位置付けだと、ほかの人を使っては駄目
というくらい保護に価する不利益が原告の上に生じなければいけない。dilution や
pollution から保護される利益が強いものがなければいけない。ということは、それだけ強
い識別力がなければいけないだろうという意味でも、やはり5割、6割、7割、8割の認
識度が必要になるということになります。
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不正競争防止法
ここで終わってもいいのですが、さらにもう1個、私だけではなくいろいろな方が、こ
の条文が強過ぎるということで苦労なさっているのですが、私もそういうふうに思ってい
ますが、もう少し著名性に、ちょっと言葉の意味から離れるかもしれないけれども、特別
顕著であることという商標法3条2項、吉田先生がやりますが、そういう特別顕著である
という意味、具体的に「独占適応性」とか呼んでいますが、そういう意味を込めてもいい
のではないか。
ちょっと分かりにくいと思うのですが、具体的には例えば宝の焼酎「純」はすごく有名
です。でも、宝の焼酎「純」がいくら著名だからといって、チョコレートに「純」と使う
のを禁止してよいのか。家具に「純」と使うのを禁止してよいのか。よくないだろう。
「純」
という言葉はすごく識別力が弱いというか、一般人が一般に使いたがる、そういう説明的
な用語です。こういったものについては、表示がただ認知されているだけではなくて、独
占に適するものであることが必要ではないか。説明的な表示については、ちょっと言葉で
は読みにくいけれども、特別顕著ではないとかいう形で保護を否定すべきではないかと思
っています。
具体的には例えば「純」、あるいは「WORLD(ワールド)」なんていう言葉も結構使いたが
りますね。裁判例では、神戸発祥のファッションのワールドがローンのワールドを訴えた
事件があります。むしろ東京かいわいではローンのワールドの方が有名ではないかとかい
う気もするのですが、訴えて、広義の混同が認められている事件がありました。事実認定
の問題なのであまり強くは言いませんけれども、仮にその事件で広義の混同があるのは仕
方がない。でも、ないとすると、2条1項2号の問題になりますが、2条1項2号の方で
は保護を否定すべきだろうと思っているわけです。その判断に対しては、商品や役務の普
通名称のほか、産地、販売地等について商標権侵害にならないという適用除外を決めてい
る商標法 26 条1項2号、3号が参酌に値することになるだろうと思います。
次、需要者の範囲。一般的に普通の人は7割、8割有名である必要があるとして、どの
需要者の範囲で有名になる必要があるかということについては争いがあります。多数説は、
通説かな、全国著名が必要だと、全国的に有名でなければいけませんよと言います。ちょ
っと飛ばして、しかし私は全国著名は不要説です。それは、ちょっといい例ではなくなっ
てしまいましたよね。1994 年にこの旧版を出したころはいい例だったのですが、1995 年に
ヨドバシカメラが札幌の駅前にできました。それまでなかったのです。そのころ、ヨドバ
シカメラを知っている人と言うと、さっきの新宿の丸井よりも手を挙げる人が少なくて、
2割とか3割ぐらいだった。そういう状況下で、要するに北海道で周知だけれども、北海
道で著名とは言えない。ヨドバシポルノ事件、もうずいぶん古い事件です。2条1項2号
では保護されないのではないの、ということになるでしょう、全国著名が必要だと。同じ
新宿区の近くで争っているのに、何か北海道の、そういうところで有名である必要がある
のかと思います。そこで、私は、全国著名は不要だ、個別の事案ごとに考えればいいと。
具体的には、周知性のある被告の使用地域で著名かどうかで判断すればいいだろうと思い
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不正競争防止法
ます。決して1人説ではなくて、8対3とか9対3くらいで少数説ではありますが、私以
外にも説はあります。
ちょっと頭の体操で、反対説というのがあります。もっと実質的な理由を言ってくる説
です。関東地方のみを営業エリアとする家電量販店があると。他方、大阪府吹田市でのみ
著名な豆腐屋がある。田村説だと、吹田市でだけ著名であっても2条1項2号の保護は及
ぶのですから、この田村説だと、関東の同じ名前の家電量販店が全国展開を図る場合に、
吹田に出店する場合だけは別の名前を選ばなければならない。おかしいのではないか。こ
のような場合には著名性を認めるべきではないだろう。あとははっきり書いてないのです
が、要するに、でもこれは混同があったらしょうがないですよね。2条1項1号であると
きにはしょうがないのだけれども、混同がないところでは吹田の豆腐屋を保護する必要は
ないのではないか。全国展開の利を、そういう便利、全国では同じ名前を使いたいですよ
ね。そちらの利益を重んずるべきではないかなと。私はおっしゃっていることに何の問題
も感じません。結論はその通りだと思います。だけれども、それを理由に全国著名を要件
にするのは、この問題、指摘自体はいいのだけれども、解決する方策を誤っていると思う。
この問題を解決するために全国著名が必要だと言っているのです。これは積極的理由の1
つに使うのでしょうけれども、消極的理由に対する対応がなっていないですよね。なぜか
というと、全国著名を必要だとすると、ヨドバシカメラみたいな事件で、あなたは保護を
放置するのということに対する答えを言ってくれない。この分野では、こういう論文はか
なり多いのです。これはちゃんと議論してくれているから、かなりまともな方です。だけ
れども、全然1つのところしか突いていない。いろいろなところで私は言っているのです
けれども、きちんと全面的には返してくれていないです。
これに対する応答は、僕は全国著名必要説ではない、吹田だけでも著名を満たすと言い
つつ、後で述べます「営業上の利益を害されるおそれ」というところで調整すればいいだ
ろうと。これを理由に全国著名は必要だというふうには考えていません。
次、類似性の要件。2条1項2号の著名表示不正使用行為の規律は混同のおそれと無関
係なので、混同のおそれを引き起こすほど似ていることというふうには言えません。2条
1項1号と違います。だけれども、dilution や pollution を引き起こすほど似ているとい
うことだと言わざるを得ないです。要するに、簡単に著名表示を想起するほど似ているか
どうかということです。あまり結論は変わらないと思います。
この要件が意味を持つのは、両表示の共通部分が識別力を持たない部分に止まる場合。
さっき柏駅東口内科なんていろいろ出しましたけれども、この場面ではもっと大切です。
この要件にはもっとたくさん働いてもらわなければいけません。例えば「朝日(アサヒ、
あさひ)」、いろいろなところが使っている。朝日新聞、アサヒビール、靴のアサヒ、字が
違うけれども旭硝子等々、同じ朝日でもいろいろなのに使われている。大正とか日清とか
明治とか昭和とか。
こういった場合に、そこのところが似ているからといって保護を肯定するわけにいかな
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不正競争防止法
いだろう。こういうところは類似のところで切ってしまおう。識別力を持たない部分だけ
似ている場合には類似のところで切ろう。ちょうど2条1項 1 号と同じような形で切る。
だから、朝日のみが共通するだけでは特定企業を容易に連想するわけにいかないから、駄
目だと。「Asahi」というアサヒビール特有のロゴがまねされたり、朝日新聞、アサヒビー
ルまでまねされて初めて類似性の要件が満足すると考えるべきだろうと思います。
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不正競争防止法
<不正競争防止法(12)>
2条1項1号は、周知で、類似で、混同のおそれがなければいけないと。それに対して、
2条1項2号は、著名で、類似で、ところが混同のおそれは要らない。それから、4つ目。
1号だったらあまり機能しなかったもう1つの要件、営業上の利益を害されるおそれ。こ
の要件は2条1項2号にもあります。具体的には立法者が狙ったことはこういうことです。
著名を要求する分、混同がなくても保護しましょうというのが2条1項2号です。だから、
立法者が狙ったことは「大人の夢判決」はかわいそうだと、ポルノランドディズニー事件
のようなときに混同のおそれを無理に認定するのではなくて、ディズニーランドが著名で
あれば混同のおそれを認定することなく保護しましょうと、そういう趣旨です。一応基本
はそれだけでいい。
ここから先がごちゃごちゃするところで、ところがということで、すごく接近していま
す。どういうふうに接近しているかというと。今は基本が大事だよ、ここから少し工夫す
るから。1つ接近しています。この混同のおそれはどういう要件だったか。スナックシャ
ネル事件というのがありましたね。2条1項2号ができた後、しばらく裁判所も動きまし
て、無理な認定をやめる事件もありました。スナックシャネルの東京高裁判決は混同のお
それを否定したのです。でも、歌謡スナックシャネルの東京高裁判決は違う部でしたけれ
ども、混同のおそれを肯定、と分かれていたのが、最高裁が肯定したので、少なくともス
ナックシャネルみたいなタイプだと2条1項1号の保護が今でも及ぶのです。その意味で
は、こっちの2条1項2号を使う意味があまりないかもしれない。でも、どうして、では
何か意味があるかというと、たぶんまだ分からないのが、ポルノランドディズニー事件が
まだ出てきていないですね。よく分からないけれども、いくら何でも「大人の夢判決」は
書けないだろう。いや、知らないよ。でもスナックシャネルで混同するのだったら、ポル
ノランドディズニーで混同したっていいか。似たようなものか。そうだよね。なので、ま
だよく分からない。だから、もしかしたら風俗店なんかでは規制できないのは2号でいく
のかもしれない。その意味なのかもしれない。とにかくちょっとこの要件が相対化してい
るので、少し接近してきています。
それからもう1つ、次の問題として、逆に今度「営業上の利益を害されるおそれ」の話。
ただ、そうはいってもということですが、一応条文上要件があって、もし仮に混同のおそ
れがないということ、すごく接近しているのだけれども少しそれは置いておいて、僕自身
はそもそも2条1項1号が広がることも反対ですし、ともかく風俗店か何かでよく分かり
ませんけれども、あるいは泉岳寺事件があったように。完全に混同のおそれがまったくな
い要件としてではなくて、一応要件としてあります。そのときにどう考えるかということ
ですけれども、今からお話しする、さっきからお話ししている話ですけれども、一応混同
しない場所が仮にあるとして、そういう混同しない場所で2条1項2号の保護を常に肯定
することになっているのはどう考えるかというのが私の課題です。
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不正競争防止法
一番最初にお話ししましたけれども、Victor と Victoria の事件とか、Victoria と
Victoria の事件をちょっと例に出しました。こういった例でもし、恐らくわりとこれもあ
まりはっきりと判決に書かない、といっても時々書くよな。時々は書くのですけれども、
理論的になかなか認めがたいのですけれども、被告が結構まっとうな商売、ちゃんと大手
で、別に不正競争の意図もなく、まっとうに商売しているようなとき、Victoria とか、ス
テーキの Victoria、だいたいそういうときは裁判官は、混同のおそれのところを急に圧縮
するので、セーフになる可能性も高いです、スナックシャネル事件の判決のもとでも。こ
ういうふうにまっとうだし、あとマークも弱いから、2条1項1号とかの保護は及ばない
かもしれない。そういったときに、2条1項2号の保護が及んでよいかという問題がある
というお話をしました。
1つは、先ほどから申し上げたように、2条1項1号の保護は混同のところで調整する。
それで、家電業界で有名な Victor とスキーの Victoria では業種も違う、どちらもそれな
りに有名だから混同しないとする判決が出るかもしれない。そのときに2条1項2号の保
護を Victor に及ぼしてよいのかというのがここでの問題です。立法者は及ぼしてもよいと
思っているのですけれども、それでよいのかと。私自身はこういうのは特別顕著な問題と
してとか、あるいは類似性のところでけろうというお話をしています。
でも、問題は Victoria と Victoria で、そのまま同一だと類似性のところでけれないと
いう問題も出てきそうです。それで、どう考えるかということなのです。
それから、あと先ほどちょっと申し上げました地域著名の話。ここは通説は、周知性の
ところは1地域で足りる、でも著名性は全国的に著名である必要があると、そういうふう
に通説で言っているのです。だけれども、私は先ほど言ったような理由で、ヨドバシポル
ノを放置してはいけないということで、通説と違いまして、2号も地域著名で足りると考
えている。でも、その代わり私には副作用がありました。私に対する反論、批判があって、
こういう吹田のお店の話です。吹田だけで豆腐店があって、吹田だけで著名である。全国
的に大手の家電量販店が出ていくときに、吹田のところだけ名前を変えなければいけない
のか、それはおかしいのではないかというお話です。それはそうでしょう。全国紙で広告
するときに、吹田のところだけ広告効果がないのはきついですものね。
何かちょっといい例が、何か具体的に例があるのでしょうけれども、例えばどんな例な
のだろうな。カメラのドイなんていうのが有名ですけれども、ドイ豆腐店なんていうのが
すごく吹田で有名だと。カメラのドイが全国展開するけれども、大阪の吹田市のところだ
けはドイ豆腐店が有名で、2条1項2号の保護は田村説だと及びかねない、地域著名で足
りるから。そうすると、その大阪の吹田で、カメラのドイはドイではない名前を付けなけ
ればいけないということになると、カメラのドイだって不都合ですよね。全国カメラ誌か
何かで広告を打つときも、吹田のところでは吹田店を書けないわけですよね。吹田店だけ
は別に広告をしなければいけない。それはそれで大変不都合です。ということで、また東
京のカメラのドイが来たのだとか、そういうこともみんなに思わせることができないので
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不正競争防止法
不都合です。
どう考えるかということです。私自身の考え方を申し上げます。それがレジュメの 28 ペ
ージです。特別顕著性とか類似性とかのところで調整しようというお話をしましたが、最
終兵器、営業上の利益を害されるおそれで勝負しましょうというのが、私の現在の立場で
す。どうしてか。ほかの方はここになかなか目を向けないのですが、それはなぜかという
と、2条1項1号をここで書きました。2条1項1号の営業上の利益を害されるおそれと
いうのは形骸化していますよね。商品等主体として混同される主体が訴えるときは形骸化
している。そうではない主体が訴えるときには機能するのですよ。だけれども、混同され
る主体自身が訴えるときは機能しない。もうそこはすぐ通過してしまう。営業上の利益を
害されるおそれも dilution で肯定されるのだというお話をしました。でも、それと同じ条
文の同じ文言を使っているのだから、2条1項2号だって同じではないかと思われるかも
しれない。でも、私は構造的に違うと思います。なぜか。2条1項1号の場合は、混同の
おそれという公的な不利益があるからこそ、ご本人はどの程度不利益を被っているか分か
らないけれども、わざわざ訴えてきているのだったら、公的な不利益を解消するために、
混同のおそれを解消するために dilution 程度の不利益でも請求権を認めてあげましょうと
いう話だったのです。2条1項1号はそうでした。
では、2条1項2号はどうか。混同のおそれは要件になっていないので、2条1項2号
ではもっぱら私対私の利益だけが問題、著名表示の主体の不利益だけが問題になります。
そうだとすると、公の利益が抜け落ちている分、常にいつでもちょっとした dilution みた
いな微々たる不利益で保護を認めてよいかとは言えないのではないか。今までだったらシ
ーソーで、2条1項1号だったら、Xさんの被る不利益というのがある。表示の使用が認
められない、そういう類似表示が使えなくなるYの不利益がある。だけれども、このシー
ソーのときにもどーんとこっち(X)に大きなおもしで、公衆というか、需要者の混同す
る不利益というのがあったから、Xの方が要保護性が強いだろうということになったので
す。それでも所々、柏東口内科事件とか、ニュー火の国観光ホテル事件のように、そうは
いってもやはり独占を認めるべきではないという例は一応あったのです。あったけれども、
それはごく例外的で、一般的には最後の営業上の利益を害するおそれのところはほとんど
通過してしまう。ところが、2条1項2号の場面では混同のおそれがないので、純粋にこ
のXとYの利益を比較衡量すべきです。さあ、その要件として機能するのは、この営業上
の利益を害されるおそれではないかと私は思っています。
それで、具体的な衡量をしましょうと。ここでは、要するに第三者に表示を使用される
ことにより、著名表示の形成者Xが被る不利益の状況と、逆に表示の使用を認められなか
った場合に生じる第三者Yの商品等表示選定の自由の制限の度合いを比較衡量しましょう
と。では、どういうふうな比較衡量があるかというと、ただ比較衡量しましょう、裁判例
の集積を待ちましょうでは寂しいので、ちょっと類型化してみました。
X側の不利益としては、著名表示の方のこういう人が被る不利益としては幾つか考えら
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不正競争防止法
れますが、一番困る不利益は、競業関係がある場合は一番不利益を被ります、顧客を奪取
される場合です。それから、潜在的な、まだ競業関係にないけれども将来競業関係になり
そうだなというときも、それなりの不利益はありそうです。その次くらいかな。もう1つ
ありそうですけれども、その次くらいだと、こういう競業関係もないと、マークの問題だ
けですから dilution という不利益があり得ますけれども、これはずいぶん弱い不利益です
よね。こういうふうに、大ざっぱに見ると3つくらい不利益の段階があります。
それから、今度、では被告の方の被る不利益というのは、もし類似表示が使えなかった
ときに被る不利益。これを考えるときに大事なのは、ストロングマークとウイークマーク
の区別です。ストロングマークとウイークマークではえらい違いです。どういうことかと
いうと、ストロングマークというのは造語標章が典型例です。例えばサンリオ。サンリオ
というのは山梨出身の方が社長だったので、山梨の男ということで山梨男(サンリオ)と
付けたのです。これはもう別に独占に値しますよね、もう別にサンリオと付ける必然性は
誰にもないのだから。それから、ブリヂストンなんかもすごいですよね。たぶん知ってい
る方は多いと思いますけれども、創業者の方が石橋さんだったと。それで、ブリッジスト
ーンでブリヂストンと。われわれが子供のころから知っているブリヂストンって、その程
度の意味なのです。ほかにもいろいろとあるけれども、例えば Victor なんていうのはアメ
リカではJVCと言っているのだよね。これはたぶん Victor なんて言うと何か印象が悪い
からでしょうね。日本企業が Victor なんて勝ち誇ってはいけないということで。あと、ど
うしても変えなければいけなかったのは National。今は National なんて言わないでしょう
けれども、日本でもあまり言わなくなっていますけれども、若い世代では Panasonic の方
が通用しますけれども、アメリカで Panasonic を使う必要があったのは、アメリカで
National と言ったら品質誤認表示ですから。あれは要するに国産ですよと。日本も作りま
した、ちょっと心配はあるかもしれないけれども、国産を作ったのです、買いましょうと
いうイメージのこもった言葉ですよね。Panasonic というのはそういう古いのではなくて、
もうちょっと世界的に通用するブランドにしようということで、松下電器がもう1個の顔
を見せているわけです、Panasonic と。違う企業だと思っている方もいるかもしれませんが、
それは松下の戦略が成功しているのです。
Panasonic も強いマークだな。National はどうだろう、よく分かりませんが、Victor は
弱い方のマークでしょう。WORLD なんかはすごく弱い。そういうことです。
強いマーク、サンリオとかブリヂストンとかですと独占に非常になじみますから、独占
させてよい。逆に言うと、サンリオが使えなかったからといって、あまり他社は困らない。
だけれども、WORLD とか Victor とかを使えなくなると、他社はやや困る度合いが増えてく
るだろう。だから、強いマークとウイークマーク、造語標章でないものの区別はした方が
いいだろうと。
これはすごく難しくて、業態にもよるのです。例えばコンピューターで Apple といった
ら、それは使う必要はないのでストロングマークでしょう。だから、保護を強くしてもい
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不正競争防止法
いかもしれないけれども、でもレストラン業界で Apple というと、やはり少し弱いのでは
ないのと、そういう気がしたり、場所によって変わるでしょうということです。場面によ
って変わるだろうと思います。
時々勘違いなさって、これは知的財産の保護、知的創作物の保護なのだと。強いマーク
は創作したから保護が強いのだと言う方がいるけれども、そうではないということです。
別にデザイナーである必要はないし、自分で作る必要もない。あるいは造語でもなくて、
Apple でもコンピューターに付ければ強くなるとかいう形で、大事なのはこっちの方の利益
が強い、弱いという問題ではないのです。類似表示使用者の方がほかに選択肢がどのくら
いあるかの問題なのです。ストロングマークだったら、類似表示使用者は使えなくても困
らない。それに対してウイークマークだったら、そういうのがぼんぼん保護されてしまっ
たらちょっと使いにくいなということで、表示選定の自由を害されるだろうということで
あります。
それで、pollution は後からお話ししますが、ここまでで考えるとだいたいこんな感じか
なと。競業関係という強い不利益があるときは、競業関係で強いマークでも、競業関係で
弱いマークでも、あるいは潜在的でもいいですけれども、この場合はどっちであっても保
護を認めてよいだろうと思います、不利益が強いから。ただし、ほとんどの場合は2条1
項1号で拾われてしまいます、競業関係があるから混同のおそれが肯定されるから。この
場合は2条1項2号の議論をする実益はほとんどありません。ないけれども、もし2条1
項2号できたとすれば保護を認めてよいと思います。
では、潜在的競業関係もない dilution 程度の不利益はどうか。私はこう思っています。
たぶんこれはみんな共通するのではないかと思いますが、dilution という程度の不利益だ
ったらストロングである必要があるだろうと。サンリオだったらいいです。ディズニーラ
ンドでもいいです。ポルノランドディズニー、止めていいです。ポルノランドサンリオ、
ぜひ止めてください。ピューロランドと間違える人がいるかもしれない。不幸です、行っ
てみたら違ったとかいって。止めていいと思います。だけれども、ディズニーワールドな
んていうこともありますけれども、WORLD なんていう言葉ですと、そうめったやたらに
dilution 程度で保護を認めてはよくないと思うわけです。なので、dilution は強いマーク
のときは保護を認めるけれども、弱いマークのときは保護しない。ただし、被告の方が。
ちょっと意地でも pollution と書けないですけれども、tarnishment 類型、まあ pollution
でいいですけれども、ウイークマークであっても tarnishment が生じるようなとき、要す
るに風俗産業が典型ですけれども、そういうときにはちょっと原告の不利益の方を重んじ
た方がいいのではないかな。だから、ウイークであっても、tarnishment のときは2条1項
2号の保護を及ぼしていいのではないかなと私は思っています。ただ、私の考え方は、風
俗産業だけなぜそんなに悪く言うのだとか、一応言い訳として風俗産業に限りませんよと、
Budweiser の例なんかを言うのですけれども、特定産業に対してだけちょっと不利を言うと
いう説だと思われるかもしれません。こういったもろもろのことを、営業上の利益を害さ
105/110
不正競争防止法
れるおそれというところで考えて比較衡量すべきではないかなというのが私の意見であり
ます。
裁判例も、ちょっとこの方向に、私の方の意見に使っているのではないかなと読めない
こともない。教科書の 90 ページに少し書いておきましたけれども、別にそこまでやる必要
はなかったのですけれども、90 ページの6行目くらいからですけれども、2条1項1号で
はそういう表題を立てることはないですが、わざわざ裁判例でも差止めの適否とかいう標
題をわざわざ立てて、被告の主張するそういう、ドメイン名もちょっと絡んでいますけれ
ども、商品等表示採用の理由に説得力がなくて、何かいろいろと悪い目的を持っていると
いうことを斟酌して、営業上の利益の侵害のおそれがあるぞということを肯定して差止め
を認めるべきという話をしている判決がある。あるいは、差止めの必要性のあるところで
大人の玩具の販売広告が掲載されていることなどを斟酌する判決もあるということで、全
部肯定例で、しかもよく、まあ保護を認めるべきだろうと思う例ばかりなので、あまり効
いているかどうか分からないけれども、とにかく2条1項1号で今までやらなかったよう
なことをやりだしている判決が幾つか出ているということです。
最後、レジュメの 28 ページの「商品等表示としての使用」というところです。
条文上は、著名で、類似で、営業上の利益の害されるおそれがあれば不正競争行為だと
いうことになっているのですが、もう1個実は要件がありまして、それはどういう要件か
というと、条文を見ていただくと、
「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と類
似のものを使用し」ということが要件になっています。これは2条1項1号でもあるのだ
けれども、でも2条1項1号のときは自己の商品等表示として使用しているということは
混同のおそれがあるということなので、ここを独立して論じる意味がないのだけれども、
著名表示の場合はあるのです。意味が出てきます。
具体的にどういう場合かというと、比較広告です。自分の商品等表示で使うのではなく
て、例えばうちの商品は××商品、例えば WALKMAN と同性能とか、そういう形で自分の商
品等表示名はちゃんと出しているわけです。だけれども、WALKMAN と同性能ですよという形
で比較をする。あるいはコカ・コーラがペプシと同じ味しますよと。自分の商品名として
ペプシと言ったら、著名表示不正利用行為ですよね。比較で他人の商品の示す表示をちゃ
んと使っているわけです。そのときは、2条1項2号で規制しないという趣旨で、「自己の
商品等表示として」というのがわざわざ頭書きに書いてあるのです。
裁判例があります。まず、ちょっとドイツの話をすると、ドイツでとても面白い事件が
あるのです。さっきの教科書の 90 ページの下から5行目ぐらいですけれども、これは議論
はあるのです。そういった行為でも禁止すべきではないか。例えばということで、ドイツ
の一般条項で不正競争行為だとされた例があります。それは、雑誌のウイスキーの広告で、
自己のウイスキーの瓶とグラスの背景に意味もなくロールスロイスを配した。だから、別
にロールスロイスと間違えてくれと言っているのではないですよね。自分のこのウイスキ
ーというのは、ロールスロイスを持っている人にふさわしいくらい高級だ、いいのだ、そ
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ういう形でイメージにフリー・ライドしているわけです。でも、別に自分の商品等表示で
使っているわけではないのです。そういう行為が違法ではないかということが議論になっ
て、違法になったという事件があります。
では、日本でどう考えるか。日本は幸い2条1項2号しかありません。自分の商品等表
示として使っていませんから、不正競争防止法違反行為にならないことは明らかです。で
も、価値判断の問題としてそれでよいのかという議論をする実益はありますし、また一応
民法 709 条の保護を与えられるかどうかを考える意味はありそうです。
日本の裁判例では有名なこういう例があります。香りのタイプ事件と呼ばれているもの
です。これはスイート・ラバーとかいう無名の香水を訪問販売する際に、ミス・ディオー
ルと同じタイプの香りがしますよ、シャネル No.5 と同じタイプの香りがしますよという形
で、同じ香りがする、そのタイプの香りがするという宣伝広告をしたのです。これは旧法
下の事件なので、2条1項1号の問題として混同するかどうかの以前に、そもそも一応混
同するおそれがないでもいいのですけれども、というか混同させていないですものね、同
じ商品だと言っているわけではないですから。それ以前に、一応2条1項1号にもある自
己の商品等表示として使用することという要件を満たしていないことでセーフに全部なっ
ているのです。ここから先は立法府としてどう考えるか。いろいろな意見が分かれるので
す。大半の人はセーフと言うと思いますが、でもドイツではこういうタイプのものでアウ
トになっているものがなくはないので、どう考えるかということです。
私はこのように思っています。まず大事なことは、品質が本当に異なる場合、本当では
ない、要するにミス・ディオールの香りがしますよとか言って、全然似ても似つかない香
水だという可能性はあるわけですよね。裁判官はちょっとズルをして、同じだとまでは言
っていない、タイプとしか言っていないとか言って、それ以上調べていない。それで、セ
ーフだとしたのだけれども、タイプということは一応同じ範疇に属するということだから、
やはりぜひにおいをかいでいただきたかったのですけれども、においをかかずにセーフに
したという事件ですが、これがもし品質が異なるというか、日常用語的な意味でのタイプ
ではない香りがしたとすれば、これは2条1項 13 号の品質誤認表示ということで禁止すべ
きだ。逆に言うと、ここで議論すべきは、香りが本当に同じタイプだったということを前
提にしましょう。
次。品質が同じときにはちょっと考えなければならない。何か営業秘密が盗まれている
のではないか。香水にはないと思いますが、特許権を侵害しているのではないか。そうい
う事情があればそっちで違法にすればいい。逆に言うと、特許権を侵害してもいない、営
業秘密を不正利用してもいないという場合には、同じ香水を製造販売することは自由です。
そうだとすると、香りのタイプも同じで、営業秘密の不正利用行為もない、特許権侵害も
ないということになると、問題設定は要するにただ1点、これはミス・ディオールの著名
性にただ乗りしている。そういうことで宣伝広告費を節約することを禁止すべきか。これ
はミス・ディオールタイプだと言わなければ、全然売れないでしょう。ミス・ディオール
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タイプだと言ったことによって、ああそうかなと思って、私は香りを付けないから分から
ないけれども、皆さんの中で本当に同じだったら、これはお安いですから、半額くらいだ
から、付けてみて、自分ではディオールタイプなんて言わない。でも、まさか、私きょう
はディオールよなんて言うのは嫌なやつですから、たぶん私なんかは、まったくいろいろ
な方が香水を付けていてもさっぱり何の香水だか分からないのですけれども、その筋の偉
い方には、きょうは彼女は何々を付けているなとかいってお分かりになる方はいるのでし
ょう。ともあれ同じタイプと言っていることで、非常に売れるわけです。
どう考えるか。これはフリー・ライドしているのですが、それを禁止すべきなのかとい
うことですが、私自身はむしろ同じタイプだというのだったら、品質の特性なのですから、
それの宣伝をどんどんちゃんとさせて、同じタイプの香りができましたよということで競
争させるべきではないかと思うわけです。これが、競争になりませんものね、同じタイプ
だと言えないと禁止されてしまったら。でなくて、同じタイプの商品をうちは作りました、
半額でやっていますと言ったら、それで勝負すればいいではないか。そうすることによっ
て、半額のようですけれども、同じタイプの香水が本当に半額で作ることができるのであ
れば、それで価格も安くなっていければ、消費者の方はハッピーではないかと思うわけで
す。
同じタイプの商品を低廉な価格で販売できるのに、ではなぜ原告の商品が高いかという
と、要するにそれは、原告が多大な宣伝広告費を掛けて、高い女優さんなんかを使いなが
ら、ブランドをつくっている。そのブランドのイメージで、皆さん何かこう、幻惑されて
いるということになります。
そのようなブランドイメージは保護に値しないのではないかと。むしろ消費者は踊らさ
れているだけだと思っているわけです。宣伝広告というのは、むしろ単に商品の内容を宣
伝するための広告なんていうのはちゃんと保護すべきだと思いますが、それ以上のための
ブランドイメージの保護の広告まで保護する必要があるのかというのが私の疑問です。
ただ、ということで、まだ時間的にあと5分ぐらい余裕がありますからちょっと付け加
えておきますが、私のような意見に対してはこういう意見もあるのです。図で書かないで
口で説明した方が分かりやすいと思うので、口で説明しますけれども、私は商品が安くな
るからみんなハッピーになるのではないかというふうに申し上げました。でも、実はそう
ではないという議論もあり得るのです。なぜかというと、ディオールの香水の香りがいい
から付けているというのではなくて、高いから、みんながなかなか付けることができない
から付けているという人が必ず世の中にはいるのです。そういった人たちのことをどう考
えるかという問題です。
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価格
価格
図1
図2
10万
10万
5万
消費者余剰
1万
量
量
価格
図3
10万
5万
量
どういうことかというと、ちょっと難しいことを言いますが、そんなに難しくはありま
せん。図1∼3を見てください。縦軸が価格を表します。皆さんが悩んで、やはり法学部
に行こうと思った需要供給曲線というのがありますね。横軸が量を表します。図1∼3は
需要曲線ですけれども、だいたいこういうことです。図1で説明します。価格が意味して
いるのは、縦軸「10 万円」の位置が例えば 10 万円だとすると、10 万円でもその商品を買
うという人が横軸量でいうと3万人くらいいる、これはそういう意味です。5万円だと7
万人いるとか、2万円だと 12 万人くらい、数値はちょっといいかげんに書いたけれども、
そういう数字です。こういうふうな状況のときには、いつも光GENJIのコンサートを
しゃべっているのですけれども、そんなのもうないわというので、何がいいのだろう、モ
ーニング娘。だなと思ったら、モーニング娘。もあまり最近は人気がないらしくて、何に
していいか分かりませんが、ひとまずモーニング娘。で我慢していただくと、世の中にモ
ーニング娘。のコンサートだったら、ヤフオクなんかを見ていると 20 万払ってもいい。そ
ういう人にとっては 20 万で入ってもいいという人が、ぽんと5万円くらいで、あるいは1
万円くらいでそのコンサートへ行けたとすると、本当は例えば 10 万円払ってもいいと思っ
ている3万人が世の中にいるのです。そういう人たちが1万円で定価販売して、それを買
えたとすると、もう超ハッピーというのです。9万円の喜びがあるのです。だから、図1
の「1 万円」という実際の価格よりも上の方の、青く着色した部分の面積は人々の喜びを表
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しています。これのことを難しい言葉で「消費者余剰」とか言うのですけれども、喜びを
表しているのです。
さっき私が話した話は簡単で、価格がこんな5万円の……、ちょっと面倒なので 10 万に
しよう、10 万は超してないと思うけれども。10 万円だとすると、喜ぶ人の数も少ないし、
図 1 の着色した部分でいうと、上部三角形の範囲内程度しかみんな人類は喜ばない。だけ
れども、もし競争で低下して、5万円で香水が売れてくるのだったらば、喜ぶ人と喜ぶ量
がこんなに増えるではないか。だから、ハッピーだからいいよというお話をしたのです。
それに対して、ちょっとそうではないよというお話をするとどういうことを言っているか
というと、価格が高いから喜んでいる人たちなのだと。価格がこんなに安くなってきたと
きにはこういうふうに増えない。価格が 10 万のときにはこういう需要曲線になるかもしれ
ないけれども、価格が5万の商品だったら、一挙にみんな買う気がなくなって、こんなふ
うに変わるのではないか。そうすると、実際に比較すべきは図2の赤い三角形の面積と太
線三角形の範囲内の面積ではなくて、図3の青い三角と黄色の三角なのです。勝負は分か
らないぞと、そういう話になるわけです。
どう考えるかということですけれども、結局、どうもこうなってくると経済合理性とか
効率性の話ではなくて、もうちょっと図は、本当は複雑に書くべきだと思いますが、私の
能力ではこの程度が限度ですけれども、この問題はむしろ消費者主権とか、ブランドで宣
伝広告費で踊らされて、さらに高い商品を買っているということについて、世の中はほと
んどブランドイメージで動いていますので、それは別に構わないのだけれども、わざわざ
法的に保護するのという、そういう問題ではないかと私は思っているので、わりと自由主
義的な発想をとる私としては、消費者の自由みたいなものを考えると、別にやることは構
いませんけれども、それにおぼれるのも構いませんが、こんなことまでして保護する必要
はないのではないかと思っているので、こういったことから立法論として2条1項2号を
もっと広げようというタイプの議論があまりありませんが、ドイツではこうやって実際あ
るわけですけれども、もしあるとしても反対したいと思っているわけで、この要件は維持
しようと、比較広告は自由にやるべきだ、タイプ広告も自由にやるべきだと思っていると
ころであります。
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