...

太陽熱(ソーラーシステム)業界における取組と課題について

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

太陽熱(ソーラーシステム)業界における取組と課題について
資料3
H12.7.14
(新エネルギー部会資料)
(社)ソーラーシステム振興協会
企画委員長 中津川 昭一
太陽熱(ソーラーシステム)業界における取組と課題について
Ⅰ.はじめに
太陽熱利用機器は構造(システム)が簡単且つ高効率で、収集したエネルギーは貯蔵が容易であ
り、利用のための特別なインフラや制度の整備を必要としない利便性の高い個別分散型の代替エ
ネルギーである。
特に一般家庭のエネルギー負荷の大半が給湯、暖房用の熱負荷であることからも住宅への導入促
進は代替エネルギー効果が大きく、また高効率の太陽熱利用(ソーラーシステム)は地球温暖化
の主たる原因であるCO2排出量の削減にも効果があり、2010年の新エネルギー導入目標も
450万klと他の自然エネルギーに比べ期待が大きい。然しながら太陽熱利用機器の販売・技
術開発は第2次石油危機後の1980年代をピークに減少しつづけ、この間多くのメーカーが撤
退し、市場に踏み留まっているメーカーも縮小する市場に対し、技術開発やコストダウンのため
の設備更新もままならず販売量の確保に苦慮している。
ソーラーシステムは石油危機後の代替エネルギー機器とのイメージが強く評価も経済性のみでさ
れることが多い、太陽光発電や風力発電と比べ「太陽熱は古い」といった感覚があり助成措置を
設け、住民に対し積極的に導入を勧めている地方自治体は極めて少ない。一般住宅の場合6㎡程
度の設置面積で給湯の殆どを給湯暖房用の場合はその半分程度を賄うことができる。
生活や産業において必要なエネルギーは電気だけではなく、熱も必要であり、これらをバランス
よく取り入れることが重要で、太陽熱利用についてより一層のご理解をいただくため現況と課題
について記述する。
Ⅱ.経緯
(1)我国は古くから夏の午後の行水や冬の縁側の日だまりなど太陽熱をエネルギー源として生
活の中に採り入れてきた。太陽熱温水器は1911(明44)年に「日光熱温水風呂」と
して特許が認められるなど早くから利用されていたが、普及の初期段階では農家が農作業
から帰りすぐに風呂に入ることができるという利便性が買われ1950年代の初め頃から
ブリキの円筒に黒色塗装をしたものやプラスチックの袋や筒を用いた太陽熱温水器が農村
を中心に普及していった。その後1973(昭48)年の第一次石油危機によるエネルギ
ー価格の大幅な上昇により太陽熱温水器はそれ以前の利便性から省エネルギー(経済性)
を目的として都市部でも利用されるようになった。更に1979(昭54)年の第二次石
油危機では、近い将来石油を中心とした化石エネルギーが枯渇し価格が高騰するとの予測
のもと、温水器に加えソーラーシステムが商品化されると共に高効率で経済性の高い商品
やシステムが開発され、用途も給湯、暖房、冷房、乾燥など多様化し家庭用から業務用、
産業用、農林水産業など広範な分野で利用されるようになった。
(2)我国の太陽熱利用は第一次石油危機以前は一部の大学や企業の研究機関が欧米にならって
ソーラーシステムやソーラーハウスの研究を行っていたが、石油代替エネルギー技術研究
開発を目的に1974(昭49)年通産省工業技術院のサンシャイン計画がスタートし太
- 1-
陽光発電と共に太陽熱利用システムが取り上げられ、これに併せて1975(昭50)年
に日本太陽エネルギー学会、1978(昭53)年に(社)ソーラーシステム振興協会、
1980(昭55)年にNEDO(新エネルギー総合開発機構)が設立され官学産が一体
となった技術開発体制が整った。
サンシャイン計画、ムーンライト計画はニューサンシャイン計画として引き継がれる一方
で文部省、農林水産省、建設省、科学技術庁などでも基礎研究や応用技術開発が行われ、
1974年にスタートした米国のエネルギー自立計画(Project Independence)と共に IEA
(国際エネルギー機関)のR&D活動を初めとした世界の太陽熱利用技術開発をリードし
1980年代後半までに大きな成果を納めた。
(3)太陽熱利用は2度の石油危機以降石油代替、省エネルギーを目的に普及してきたためこれ
らの機器の生産・販売はエネルギー(原油)価格との連動性が極めて高く、第二次石油危
機の影響で原油価格の高騰が続いた1979(昭54)年∼1985(昭60)年に集中
的に販売されたが、その後エネルギー価格の低下で販売量も減少し最近では太陽熱温水器
10万台/年、ソーラーシステム2万台/年程度でピーク時の1/4以下にまで減少しピ
ーク時は80社近くの集熱器、太陽熱温水器メーカーも10数社にまで減少している。
(図
2、3及び12)
(4)1980(昭55)年10月に石油代替エネルギーとして効果の高いソーラーシステムを
個人住宅等に普及させるため、「ソーラーシステム普及促進融資制度」が創設された。これ
は、国の補助金と民間の拠出金をもって基金を設け、個人住宅におけるソーラーシステム
設置のための資金を低利融資する制度(利子補給)で、一部変更を伴いながら、1996
(平8)年度まで16年間余りに亘り継続され、ソーラーシステムの普及促進に大きく貢
献した。
同制度による融資件数は、累計27万4千件に及び、同期間のソーラーシステム導入者の
約56%に当る人が活用し、融資総額は累計 1,752 億円(利子補給額 147 億円)に達して
おり、ソーラーシステム普及促進の基盤的役割を果した。
(5)太陽熱利用は他の自然エネルギー利用システムに比べても変換効率が50%(システム効
率40%)程度と高く、石油代替エネルギーとしての期待度も大きい。1998(平10)
年6月に改訂された「長期エネルギー需給見通し」によれば2010年度目標は原油換算
450万 kl(改訂前550万 kl)としているが、第二次石油危機後の石油をはじめとする
エネルギーコストが高騰した1980(昭60)年をピークにその後減少し続け、ピーク
時の機器が既に設置後20年を経過し、機器の劣化、建物の建替や改築による撤去等によ
りストック量は減少し、現在の石油代替量は100万 kl 弱と推計されている。
(6)近年地球規模での環境保護が求められ、中でも温暖化への対応は1997(平9)年の京
都会議(COP3)を契機に国民の関心も高まり、環境負荷の低減や省エネルギーを目的
として新エネルギーの導入を促進するための法律や閣議決定による政策目標がかかげられ
ているが、必ずしも太陽熱利用の増加につながっていない。
Ⅲ.太陽熱利用システムの特徴
(1)高効率である。
太陽熱温水器やソーラーシステムの集熱効率(エネルギー変換効率)は約50%、システ
- 2-
ム効率約40%と他のシステムと比べ効率が高く、このため設置面積も少なくて済む。
(図4)
(2)代替効果(省エネルギー性)が大きい。
例えば集熱面積1㎡当りのエネルギー節約量は年間約 605kw(2,180MJ)に相当し6㎡
のソーラーシステムの場合、家庭で消費する給湯用エネルギーの殆どを賄うことができ給
湯、暖房の場合はそのエネルギーの約40%を賄うことができる。
(3)自立分散型のエネルギー
集熱した太陽エネルギーは貯蔵が容易であるため間欠、希薄な太陽エネルギーをエネルギ
ー需要の多い夜間に使用することが可能であり、このための特別な社会的インフラや制度
の整備を必要としない。自立分散型の再生可能な自然エネルギーである。
(4)環境負荷が少ない
太陽熱利用機器はエネルギー変換効率が高いためCO2削減効果も大きく6㎡のソーラー
システムの場合244kg-C(灯油換算)の削減効果があり一世帯当りの排出量940kgC/世帯/年:
(
(財)省エネルギーセンター発行家庭用エネルギーハンドブック)の約1/4
を削減できる。
(図8,9参照)
(5) 費用対効果(経済性)における優位性
既存エネルギーとの価格比較では、第2回新エネルギー部会資料2によればソーラーシス
テム(太陽熱温水器)は
エネルギー価格
年間集熱量
太陽熱温水器
・ 集熱面積3㎡
・ 設備コスト
300,000 円
ソーラーシステム
・ 集熱面積6㎡
・ 設備コスト
900,000 円
燃料種別価格(円/Mcal)各燃料比
LP ガス
都市ガス
灯油
17 円/Mcal
(1560Mcal)
27.1 円/Mcal
(0.63 倍)
13.4 円/Mcal
(1.27 倍)
5.9 円/Mcal
(2.88 倍)
26 円/Mcal
(3120Mcal)
27.1 円/Mcal
(0.96 倍)
13.4 円/Mcal
(1.94 倍)
5.9 円/Mcal
(4.41 倍)
同資料による太陽光発電の約3∼6倍、風力発電の約0.8∼1.2倍と比べても遜色が
なくまた第4回新エネルギー部会資料4(民生部門におけるエネルギー需要について、中
上英俊委員)P.8図4.2新エネルギーの投資回収率によれば太陽熱温水器8.8%/
年ソーラーシステム、7.6%/年と投資効果も大きい。
Ⅳ.今後の課題
第一次石油危機を契機に代替エネルギーとしての太陽熱利用を官、学、民が一体となって普及に
努め一時期大きな成果を上げたが、石油等のエネルギー価格の低位安定により出荷台数は最盛期
の約1/4以下に減少している。政府は1994年(平6)年12月「新エネルギー導入大網」
を制定し、太陽熱や太陽光発電などの新エネルギー導入の具体的な目標を明示し、その後199
7(平9)年に「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」(略称:新エネルギー導入促進
法)が制定され、2010年の新エネルギー導入目標を加速的に達成させるための基本的な方策
や措置を定め、更に同法に基き「新エネルギー利用等の促進に関する基本方針」
(平成9年9月閣
- 3-
議決定)を策定するなど新エネルギー導入の環境作りに努めている。1998(平10)年に2
010年における新エネルギーの導入目標値を見直し、太陽熱利用については450万 kl と下方
修正を行ったが、依然として新エネルギーの中では廃棄物熱利用(34.7%)
、黒液廃材等のそ
の他(31.0%)に次いで多く、再生可能な自然エネルギーの中では最も期待が大きく(23.
6%)環境負荷が少ないなどの利点を持つため、今後も新エネルギー供給の重要な一翼を担って
いくべきものと確信している。
ソーラーシステムは、他の自然エネルギーに比べ、システムの有用性が高いことから、政府も従
来からその導入促進を図ってきた。しかしながら、
・ソーラーシステムは国民に馴染みが薄いこと。
・イニシャルコストが高いことから、エネルギー価格が低位安定している昨今の状況の下では資
本回収に長期間を要すること。
・販売・メンテナンス体制が未整備であること。
等の理由のため、普及が円滑に進んでいるとは言いがたく、今後の発展のためには事業者による
コスト低減等の取組みが不可欠であるが、家庭部門のみならず業務用・産業部門や農業等への太
陽熱利用の拡大に資する研究開発や施策を官、学の支援や協力を得て推進し需要の拡大を図りつ
つ、業界の自立を目指し、次の課題を解決していくことが必要である。
(1)ソーラーシステムに対する理解を深める。
当協会は設立以来国の支援を受け、供給体制の整備強化や普及広報活動を積極的に行って
きたが近年脚光を浴びている太陽光発電と混同され、広く一般に理解されているとは言い
難い、特に太陽光発電は設置費用の一部が補助され、更に国の補助制度に倣って補助金制
度を導入する地方自治体が増えていることや余剰電力の電力会社による買取り制度なども
あり、新聞、テレビ、雑誌などで取り上げられることが多く、ソーラーシステム.イコール.
太陽光発電と理解されるケースが多い。
我々の生活においては電気も熱も必要であり、それぞれの特長を生かしてエネルギーを上
手に使うことが重要であり、このためにはエネルギーベストミックスの考え方を広く理解
してもらうため、一層の努力が必要と考えている。
家庭用以外の中規模以上のソーラーシステムは建築や設備設計を伴うが設計技術者が充分
理解していない場合が多く、今後は省エネルギー、環境の両面についてデーター、設計基
準やマニュアル等の整備を行い公共施設をはじめとして業務用や産業用への太陽熱利用の
拡大を図る。
(2)コストダウン
ソーラーシステムは既存エネルギーに対し割高(都市ガスの約2倍)であり、イニシャル
コストの低減は太陽熱利用の導入促進と自立化にとって最も重要な課題となっている。
当協会の調査によれば消費者がソーラーシステム購入の値ゴロ感と考えている価格は、太
陽熱温水器20万円、ソーラーシステム50万円程度であり業界としても、この価格を目
標値としコストダウンに努めているが、コスト低減には需要の創出、拡大が最も効果的で
ある。
(図11参照)
需要の拡大はコストダウンは勿論のこと、業界の活性化、新技術開発などを促し自立化に
繋がるものであり、また2010年の導入目標を達成するためには短期集中的な需要の拡
大が必要で、国の支援と地方自治体等による公共施設への積極的な導入を期待する。
市場拡大は多くの企業が参入し企業間競争によって販売体制やメンテナンス体制も整備さ
れ、また機器や施工の品質レベルも向上し、アフターケアも充実する。
- 4-
(3)用途開発
市場の拡大に伴い、新技術の開発や用途開発が促進され、家庭用中心の給湯システムから
業務用や産業用は勿論のこと様々な用途への利用が提案され実現化していく。また従来は
専ら太平洋側の温暖な地域で使用されている(図13)が寒冷地や降雪地での新しい利用
法の開発など地域平準化を図る一方で、既に多くの実績をもつ空気集熱による住宅の暖房、
給湯システムやハウスメーカーによるソーラーシステムの組込みなど太陽熱利用の新しい
動きも見えはじめているので、新分野開拓にも関連業界との連携により積極的に進めてい
く。
(4)技術開発
太陽熱利用の技術開発は市場規模と相関をもち特許出願件数は1980∼81年をピーク
にその後減少している(図12)が、今後の普及に当っては標準化、規格化による建材一
体化や屋根材としての集熱器、多機能化による暖房や冷房への利用、太陽光発電とのハイ
ブリット化などが期待されている。
また、市場の活性化は関連技術の研究開発にも波及し大学や公的研究機関での研究者やテ
ーマの増加が新技術開発、新分野への応用と好循環につながっていく。
市場規模の拡大は業界の自立は勿論、学術研究から新事業に至るまで波及効果は大きく、このこ
とは第2次石油危機後の活性化で経験済みであり、2010年目標である450万 kl 相当の導入
を達成するには短期集中的な需要拡大が不可欠であり、適切な国の導入支援を受け関連業界各社
がこれらの課題を解決していくことが重要である。
以上
- 5-
Fly UP