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中工場2系灰溶融炉火災事故調査報告書

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中工場2系灰溶融炉火災事故調査報告書
中工場2系灰溶融炉火災事故調査報告書
平
成
2 3
年
1
1
広
島
環
境
局
市
月
はじめに
平成23年4月17日
(日)
、
中工場において2系灰溶融炉の底部に穴が開き、高温(約1,300℃)
の溶融物が炉外に流出し、周辺の配線や配管等の一部を焼損する事故が発生した。
事故原因の究明及びその対応策については、メーカーである三菱重工環境・化学エンジニアリング
㈱(以下「三菱重工環境・化学」という。)が行い、その調査の内容・方法・結果・対策を審査・評
価し、妥当性を確認するため、第三者機関である財団法人日本環境衛生センター(以下「日環センタ
ー」という。
)に事故原因調査検証業務を委託し、専門的知見を得た上で本報告をとりまとめたもの
である。
目 次
1 事故の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 頁
(1)事故発生状況
(2)事故発生時の経緯
(3)被害の状況
2 事故原因の調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4 頁
(1)調査項目
(2)現地調査
(3)運転状況の調査
(4)整備実績の調査
(5)焼却灰等の性状調査
3 事故発生の経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 頁
4 事故原因の推定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 頁
(1)溶融物流出と火災の発生原因
(2)炉床レンガの消失及びアーチ構造崩壊の原因
(3)溶融物流出までに至った原因
(4)まとめ
5 再発防止に向けて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 頁
(1)運転操作要領書の整備
(2)運転状態の監視強化
(3)保全方式の見直し
(4)情報共有・連携の強化
1
1 事故の概要
(1)事故発生状況
平成23年4月17日(日)12時21分頃、ごみを焼却した後に出る灰を高温で溶融し、ガ
ラス質の固まり(溶融スラグ)にする設備「灰溶融設備」の溶融炉(2系)の炉底に穴が開き、
高温(約1,300℃)の溶融物が炉外に流出し、周辺の配線や配管等の一部を焼損した(焼損
面積約74㎡)
。
(2)事故発生時の経緯
溶融物流出から火災発生、鎮火に至るまでの事故発生時の経緯をプラント運転管理業務受託者
である重環オペレーション㈱(以下「重環オペレーション」という。
)からの報告等に基づいて
整理した。
12:15 2系溶融炉がプラズマ失火により溶融停止。
12:19 重環オペレーションの運転員が、プラズマ失火により停止した溶融炉の状況確
認のため溶融炉室に入り、炉底が赤くなっていることを確認。
12:21 運転員から報告を受けた運転班長が確認を行うため溶融炉室に到着。
12:22 溶融炉底部から溶融物が流出。
(消防に通報するまでの間に、流出した溶融物と水が反応し水蒸気爆発が2回発
生)
12:25 運転班長が中央制御室から消防に通報するとともに、研修室利用者・見学者の避
難誘導を指示。
12:35 消防隊到着、消火活動開始。
12:40 放水開始後5分程度で火は消えたが、溶融物冷却のために放水を継続。
ごみの搬入停止。
13:34 鎮圧
14:00 鎮火
(3)被害の状況
ア
人的被害
工場内には、工場運転従事者11名(市職員(ごみ搬入指導及び計量業務)
:3名、重環オ
ペレーションの運転員:8名(ごみ焼却関係4名、灰溶融関係4名)
)及び研修室利用者15
名のほか、エコリアム見学者数名がいたが、人的被害は無かった。
イ 物的被害
2系溶融炉本体の損傷(炉底ケーシングに6か所の穴)及び周辺の配線・配管などの焼損
ウ
環境影響
灰溶融炉から流出した溶融物は、高温で熱処理されているためダイオキシン類は熱分解され
ており、また、鉛などの重金属は溶融物内に封じ込められていることから、周辺の環境への影
響は無かった。
2
溶融炉の構造
溶融炉投入前の焼却灰等
溶融炉から出て冷却したスラグ
3
2 事故原因の調査
(1)調査項目
今回の事故は、炉内にあるべき灰の溶融物が流出したものであることから、何らかの要因により、
溶融炉内の耐火物の機能が失われたものと推定した。このため、耐火物の機能が失われるに至った
経過やその兆候の発生時期などを詳細に調査するため、下記の項目について調査を行った。
◆ 現地調査
炉内に残った耐火物を把握し、消失した部分を特定しスラグ流出のメカニズム等を推定
◆ 運転データの調査
従来運転からの変化(灰の投入量、プラズマ電圧、スラグ層の厚さ、炉底ケーシング温度等)
を洗い出し、変化要因と事故への影響を推定
◆ 整備実績の調査
整備履歴の確認及び定期整備における耐火物侵食状況から、運転継続を可能と判断した根拠
を確認し、事故への影響を推定
◆ 焼却灰等の性状調査
焼却灰や排出メタル、スラグ等の成分分析(塩基度ほか)により耐火物侵食速度への影響を確
認
(2)現地調査
5月31日に、溶融炉の主電極・内蓋・外蓋を取外し、炉内耐火物を含む内部目視調査を行っ
た後、炉内の耐火物を撤去し、6月8日から溶融炉内部の調査を行った。
ア 炉内耐火物撤去前内部調査[写真1参照] [図1、2参照]
(ア)スラグラインより下側の溶融炉底部の耐火物が崩壊し、炉底部全体に散乱していた。
(イ)炉底電極の頂部(炉内側)が折れ、出滓口側に移動していた。なお、炉底電極周囲のキャス
タブル(不定形耐火物:セメントのように形を自由に形成できる耐火物)は形状が残存して
いた。
写真1 炉内耐火物撤去前
点検口側
折れて移動した炉底電極頂部
出滓口側
灰投入口側
炉底電極
4
図1 通常時耐火物状況
図2 天蓋開放後耐火物状況
5
イ 炉内耐火物撤去後内部調査 [写真2、3参照] [図3、4参照]
(ア) 炉内に残存している耐火物は、側壁耐火物、出滓口側の炉底レンガ及び炉底電極周囲の
キャスタブルであった。
(イ) 底部ケーシングの破孔部が現われており、破孔箇所は灰投入側に同心円上に分布してい
る。破孔部は全6箇所であった。
(ウ) 炉内から取り出した耐火物を含む残存物は、炉底レンガ、キャスタブル、スラグ・メタ
ル等であり、重量は約1.8トンであった。
写真2 炉内耐火物撤去後
灰投入口側
炉底電極
点検口側
炉底レンガ崩壊範囲
(赤色破線部内)
出滓口側
炉底レンガ残存範囲
(黄色破線部内)
写真3 炉底ケーシング破孔状況
灰投入口側
破孔箇所
破孔箇所
銀色の箇所はケーシン
グ厚計測のため磨いた
部分)
6
図3 耐火物撤去後
図4 炉底ケーシング破孔状況
(3)運転状況の調査
ア
通常時の運転データの調査
中工場は平成15年12月から稼働しており、溶融炉も同時期から運転を行ってきた。これ
までに故障や異常停止、事故の発生は無かったが、今回の事故発生につながる兆候が無かった
かどうかを把握するため、平成19年7月から平成23年4月までの期間について運転データ
(プラズマ電圧、スラグ温度、炉内温度、灰投入量、飛灰混合率等)を調査した。
7
イ
事故直前の運転データの調査
事故が発生した4月17日直前の運転データを把握・整理したところ、運転を行う上で留意
すべき異常値が発生し、事故の前兆が見落とされていることがわかった。[下表及び図5参照]
表
月
事故直前の運転状況
日
時間
運転
(灰投入・傾
動他)
(注)異常値はゴシック体で表示
炉底
ケーシ
ング
温度
スラグ
層厚*2
(mm)
耐火物
温度*3
(℃)
124
568
-
*4
(℃)
4月 14 日
(木)
13:00
13:40
傾動*1開始
-
572
-
15:25
傾動 8 度終了
-
560
-
15:40
灰投入開始
-
560
-
21:45
灰投入停止
-
505
-
357
525
-
-
507
-
-
600
-
-
610
-
370
613
-
-
562
-
-
558
-
-
558
-
23:00
4 月 15 日
(金)
0:40
4 月 16 日
(土)
2:00
2:10
灰投入開始
灰投入停止
2:40
6:00
灰投入開始
計 算
スラグ温度*5
(℃)
上段:日平均
中段:日最大
下段:日最小
プラズマ
電圧*6
(V)
上段:日平均
中段:日最大
下段:日最小
1,581
2,000
927(保温時)
340
435
191(保温時)
1,734
1,989
1520
417
471
301
(警報発報)
6:35
7:16
14:10
灰投入停止
-
553
-
14:34
電極継足
-
553
-
421
538
-
-
538
-
-
551
283
-
514
-
-
501
342
10:50
480
498
-
12:15
-
493
-
-
493
-
16:40
17:00
灰投入開始
22:00
4 月 17 日
(日)
12:21
*1
1,614
1,926
927(保温時)
371
446
213(保温時)
6:35
9:52
灰投入停止
その他現象
1,559
1,852
1,083(保温時)
418
481
253(保温時)
サイド電流電圧ヒュ
ーズ断、プラズマ
失火
プラズマ失火
サイド電流電圧ヒュ
ーズ断、プラズマ
失火
プラズマ失火
溶融物流出、水
蒸気爆発・火災
傾動:焼却灰の溶融により溶融炉内スラグ層の下部に溜まった溶融メタルを、溶融炉本体を傾
けて定期的(4~5日に1回)に出滓口より排出する作業
*2
通常のスラグ層厚さ:通常100~250㎜
*3
耐火物温度:管理値600℃未満
*4
炉底ケーシング温度:管理値300℃未満
*5
計算スラグ温度:通常運転時1500~1600℃
*6
プラズマ電圧:通常運転時300~400V
8
図5 運転データ
炉内温度
スラグ 計算温度
スラグ温度 二色温度計
炉壁 耐火物 温度
スラグ層厚さ
灰投入量
プラズマ コント ローラ 電圧
3000
12
灰投入開始
耐火物温度600℃超
灰投入停止(610℃)
傾動8度終了
2500
スラグ層:421mm
灰投入開始
灰投入開始
耐火物:562℃
灰投入開始
灰投入停止
スラグ層:370mm
炉底温度:342℃
灰投入停止
サイド電流電圧ヒューズ断
プラズマ失火
10
スラグ層:480mm
炉底温度:283℃
.
スラグ層:357mm
プラズマ失火
2000
温度 [℃] , スラグ層厚さ [mm]
サイド電流電圧ヒューズ断
プラズマ失火
.
傾動開始
プラズマ失火
灰投入停止・電極継ぎ足し
8
溶融物流出事故
12:21
1500
6
1000
4
500
2
0
0
灰投入量 [t/h] , プラズマ電圧 [×100V]
スラグ層:124mm
日時
ウ
運転管理方法の調査
運転管理を受託している重環オペレーションは、溶融炉を設計施工した三菱重工業㈱(現在
は三菱重工環境・化学が承継)が当初作成した「運転操作要領書」に則って運転管理してきた。
しかしながら、三菱重工環境・化学は、これまでに管理値をいくつか変更しており、この変
更が重環オペレーションで運用している「運転操作要領書」に反映されていないことが判明し
た。事故時においては下表のとおり相違があった。
管
監視項目
理
値
スラグ厚
三菱重工環境
・化学管理値
300mm 未満
運転操作要領書
に記載の内容
管理値なし
炉底ケーシン
グ温度
300℃:保温
330℃:停止
プラズマ電圧
400V 未満
300℃:重環オペレーショ
ン責任者へ連絡
350℃:保温、保温 4 時間
経過後 350℃超:停止
管理値なし
重環オペレーション
事故当時の対応
・283℃(4 月 16日)責
任者へ連絡。
・342℃(4 月 17 日)保
温運転へ移行
(4)整備実績の調査
溶融炉は、毎年 1~2回定期的な点検、整備を三菱重工環境・化学に委託し、耐火物の侵食状
況や炉底電極の点検及び補機類の点検整備を行うともに、この定期点検の結果を踏まえて、炉内
の耐火物の更新を行ってきた。
9
ア 2系溶融炉定期点検実績
平成22年度
平成23年 2月23日~平成23年 3月18日
平成22年 8月 4日~平成22年11月 4日
平成22年 4月 5日~平成22年 4月28日
平成21年度
平成21年 4月17日~平成21年 7月21日
平成20年度
平成20年11月20日~平成21年 1月15日
平成19年度
平成20年 1月10日~平成20年 3月27日
平成19年 4月 2日~平成19年 6月30日
平成18年度
平成18年 8月17日~平成18年10月30日
平成17年度
平成18年 2月13日~平成18年 3月31日
平成17年 7月26日~平成17年10月18日
平成16年度
平成17年 2月10日~平成17年 3月31日
平成16年 7月 5日~平成16年 9月12日
※ 平成23年2月から3月に実施した点検は、1系溶融炉のトラブルにより、2系溶融炉
の運転期間を当初予定の平成22年11月から平成23年1月(約2カ月間)までを、平
成22年11月から平成23年6月(約7カ月間)までに変更する必要が生じたため、急
遽平成23年2月に2系溶融炉を約1か月停止し点検を行った。
イ
2系溶融炉整備実績(炉床レンガ更新)
項
目
第1回更新
第2回更新
第3回更新
第4回更新
137
106.8
313.9
258.7
(時間)
(3,288.0)
(2,563.1)
(7,536.0)
(6,210.5)
更新年月
16 年 8 月
17 年 2 月
19 年6月
更新時の運転日数
第5回更新予定
299.9(事故発生)
21 年7月
(7,197.4)
23 年 6 月(予定)
なお、炉床レンガ・炉底電極の材料、寸法、施工方法は竣工当初から変更されていない。
また、炉床レンガについては、メーカーの工場にて仮組にて検査をするとともに、竣工後にお
いても寸法検査をしており、設計寸法を逸脱するといった施工不良は認められない。
ウ
炉床レンガの点検結果からの運転可能日数算定 [図6参照]
下表のとおり、炉床レンガ侵食量の計測結果とこれまでの経験値を加味して三菱重工環境・
化学が運転可能日数を算定し、本市へ提案していた。
点検日
更新後からの運転日数
点検ポイント数
侵食量の
計測結果
最大侵食部
侵食量
侵食速度
残 50mm 迄までの運転可
能日数
18 年 8 月 28 日
20 年 5 月 29 日
22 年 9 月 13 日
23 年 2 月 28 日
242 日
136 日
170 日
274 日
126
144
144
1
灰投入側
出滓口側
出滓口側
-
155mm
110mm
92mm
-
0.64mm/d
0.81mm/d
0.54mm/d
-
281 日
223 日
333 日
(368 日)
※ 平成23年2月28日に実施した点検は、前回調査(平成22年9月13日)の点検結果
から最大侵食部1か所のみを抽出し点検を行い、過去の実績より経験値を加味し、368日
運転可能日数と判断している。
10
図6 炉床レンガ侵食量計測結果
1系溶融炉
平成 18 年
7 月計測
平成 20 年
8 月計測
2系溶融炉
平成 18 年
8 月計測
平成 19 年
10 月計測
平成 21 年
10 月計測
平成 20 年
5 月計測
平成 22 年
11 月計測
平成 22 年
9 月計測
11
平成 19 年
5 月計測
平成 21 年
5 月計測
事故発生
平成 23 年 4 月 17 日
エ
炉底電極の耐久性調査
平成23年2月28日において探傷試験を実施した。
試験方法
超音波探傷
試験
抵抗測定
判断基準
1,160mm(新品時長さ)
から侵食量を引き測定
結果と比較した値
2mΩ(ミリオーム)以下
(炉内メタルとケーブ
ル間)
測定結果
1,045mm(判断基準値とほ
ぼ同じであり、亀裂等は無
い)
炉内メタルとケーブル
間:0.5mΩ(問題なし)
反給電側とクランプ 3mΩ
(冷却能力低下の注意要)
備考
音波にて電極の
長さを測定
低抵抗計による
抵抗測定
2月28日の点検調査では電極には問題が無かったと報告されている。
(5)焼却灰等の性状調査
処理物(主灰及び飛灰)や溶融スラグ、溶融メタルの性状について事故当時と過去の保管試料
を分析した結果、性状に大きな差異は無く、事故への直接的な影響は認められなかった。
試料
処理物
細粒灰
分析項目
分析値
過去分
事故当時
二酸化ケイ素
34.0%
33.1%
酸化カルシウム
27.3%
24.4%
0.8
0.7
二酸化ケイ素
17.3%
13.8%
酸化カルシウム
24.9%
24.9%
1.4
1.8
二酸化ケイ素
33.1%
-
酸化カルシウム
24.7%
-
0.7
-
塩基度
飛灰
塩基度
混合灰
塩基度
溶融スラグ
過去分:H21.10 採取
過去分:H21.10 採取
過去分:H21.10 採取
二酸化ケイ素
45.4%
41.5%
45.5%
過去分(1 回目):H21.7 採取
酸化カルシウム
28.0%
29.8%
29.2%
過去分(2 回目):H22.1 採取
0.6
0.7
0.6
塩基度
溶融メタル
備考
鉄
57%
58.2%
銅
13%
17.5%
ケイ素
17%
11.2%
過去分:H17.1 採取
3 事故発生の経緯
事故は次の経過をたどり発生したと推定される。[図7参照]
(1)複数の要因が重なり炉床レンガの一部が消失し、傾動に伴ってアーチ構造が崩壊したものと
推定される。
4月14日の傾動後に灰投入を開始し約7時間処理後にスラグ層の厚さを測定したところ、
通常は100mm から250mm のところ、357mm と深い状況であった。この値はスラグライ
ンの設計数値398mm からすれば、十分に注意すべき数値である。
運転管理を行っている重環オペレーションでは、スラグ層の厚さが357mm に増加した原因
を溶融スラグの出滓口が閉塞し出滓しにくくなっているものと判断し、運転を継続した。
12
この間、溶融炉内では、炉床レンガのアーチ構造の崩壊が進み、これにより炉底方向へ溶融
物が移動しスラグ層の厚さが深くなったものと推定される。
【スラグ層の計測方法】
溶融炉が保温状態のとき、主電極を下げていくと、主電極先端がメタル層に触れた時点
でプラズマ電圧が0Vとなる。この時に主電極の位置を計測し、再度、主電極を上げて行
きスラグ層から電極が現われた位置を炉内カメラで確認し計測する。このスラグ層から電
極が現われた位置と、プラズマ電圧が0Vとなった位置の差がスラグ層の厚さとなる。
(2)炉床レンガが浮遊するとともに、炉底レンガの目地へ溶融メタルの差し込みが加速したと推
定される。
(3)溶融メタルの差し込みにより接着力を失った炉底レンガが浮き上がったと推定される。
(4)炉底レンガの崩壊が進行し、炉底ケーシングに達した溶融メタルが炉底ケーシングを溶損さ
せ流出に至ったと推定される。
図7 溶融物漏洩発生メカニズム
通常運転
時
炉底電極
① 炉床レンガのアーチ構造の崩壊
複数の要因が重なり炉床レンガの一部が
消失し、傾動に伴ってアーチ構造が崩壊
13
② 炉底レンガ目地への溶融メタルの差し込
みが加速
炉床レンガが浮遊するとともに、炉底レン
ガの目地への溶融メタル差し込みが加速
③ 炉底レンガの浮き上がり
溶融メタル差し込みにより接着力を失っ
た炉底レンガが浮き上がり
④ 溶融メタルが炉底ケーシングを溶損させ
流出
炉底レンガの崩壊が進行し、炉底ケーシ
ングに達した溶融メタルが炉底ケーシング
を溶損させ流出
14
4 事故原因の推定
(1)溶融物流出と火災の発生原因
溶融炉内の炉床レンガの一部が消失し、傾動に伴ってアーチ構造に崩れが始まり、炉底レンガ
及び目地の損傷後、炉底ケーシングが破孔して、流出した溶融物により火災が発生した。
(2)炉床レンガの消失及びアーチ構造崩壊の原因
炉床レンガの消失及びアーチ構造崩壊の原因については、炉底レンガ構造は一部を残して
ほとんどが崩壊し、炉床レンガは侵食・消失されて形状を維持したものが残っていないこと
から、炉底レンガ及び炉床レンガの残存物から原因を推定することは困難である。
炉床レンガの運転使用日数は、前回の更新から約300日が経過しており、運転により侵
食はされていたものの、平成22年9月の炉床レンガ残厚計測及び平成23年3月の点検結
果、さらには、これまでの残厚計測の結果から得られる予測値からすれば、炉床レンガの経
年劣化のみを原因とすることは、科学的な根拠を欠いている。
炉内調査において、炉底電極の折損を確認したため、この折損とアーチ構造崩壊の関係に
ついて調査・検討した。折損した炉底電極は、平成23年2月28日に探傷試験を実施して
おり、その結果異常は認められなかった。また、炉底電極が最初に折損したため、アーチ構
造が崩壊したのか、アーチ構造の崩壊後に折損したのかを推定することは調査技術的に困難
である。
また、施工されている耐火物の材質や稼働状況(処理率、傾動頻度、飛灰混合率)の基本
的な事項についても、特に事故の原因につながる問題は認められなかった。
なお、処理物(主灰及び飛灰)や溶融スラグ、溶融メタルの性状について、事故当時と過
去の試料を分析した結果、性状に大きな差異はなく事故への直接的な影響は認められない。
ただし、飛灰混合率の変化(低下)に伴って運転方法が変化したことが侵食につながった可
能性はあると考えられる。
以上のことから、炉床レンガは経年の使用により劣化していたものの、これによりアーチ
構造が崩壊したものと推定するには至らず、炉底電極の折損、飛灰混合率の変化に伴う運転
方法の変化による侵食、経年的な侵食などの複数の要因が重なり、炉床レンガの一部が消失
し、溶融炉の傾動に伴って炉床レンガのアーチ構造に崩れが始まったと推定される。
(3)溶融物流出までに至った原因
溶融物流出に至った原因については、炉床レンガが消失・崩壊したと推定される4月14
日から流出事故が起きた4月17日までの間に、スラグ層の厚さやプラズマ電圧、炉底ケー
シング温度が通常より高くなるなどの異常な兆候が複数発生していたが、重環オペレーショ
ンは溶融炉内の異常事態と判断せず運転を継続したため、炉床レンガの消失・アーチ構造の
崩壊後に、炉底レンガの浮き上がりが進み、溶融物がケーシング(鉄製の外殻)を破孔し、
流出事故に至った。
三菱重工環境・化学は、スラグ層の厚さ、炉底ケーシング温度及びプラズマ電圧についてそれ
ぞれ管理値を設定していたが、重環オペレーションは、運用している運転操作要領書において、
スラグ層の厚さ及びプラズマ電圧についての管理値は示さず、また、炉底ケーシング温度につい
ては三菱重工環境・化学が設定していたものとは異なる管理値を示していた。
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そのため、三菱重工環境・化学が設定していた管理値が遵守されることなく、炉床レンガのア
ーチ構造崩壊という異常事態の発見や適切な対応が遅れ、溶融物の流出に至ったと考えられる。
(4)まとめ
今回の事故原因をまとめると次のように考えられる。
炉底電極の折損、飛灰混合率の変化に伴う運転方法の変化による侵食、経年的な侵食など
の複数の要因が重なり、炉床レンガの一部が消失し、溶融メタルを出滓するための溶融炉の
傾動に伴って炉床レンガのアーチ構造に崩れが始まったと推定される。
その後、時間経過とともに、炉底レンガ目地への溶融メタル差し込みが加速、炉底レンガ
が浮き上がり、炉底ケーシングの破孔に至ったと推定される。
傾動後の約7時間半後に計測したスラグ層厚が、これまでの運転実績からすれば、異常と
考えられる数値を示していた。この計測から流出事故発生までの約60時間の間、スラグ層
の厚さ、プラズマ電圧、炉底ケーシング温度等、各種の運転データに異常サインが現れてお
り、重環オペレーションがこの間に溶融を停止し適切な対応を行っていれば、炉底ケーシン
グの破孔・溶融物の流出事故は免れたと推定される。
5 再発防止に向けて
灰溶融を含む廃棄物の溶融技術は基礎的な部分は確立しているものの、ごみ焼却技術のように長
期に亘る経験の蓄積と改善に基づいて完成された技術ではないため、現時点では全国的にもトラブ
ルの発生とその改善策を踏まえながら完成度を高めつつある技術といえる。
このような状況を前提としたうえで他施設における同型灰溶融炉における事例や対策内容も踏
まえて、運転管理を行うことが必要である。
(1)運転操作要領書の整備
溶融炉の監視項目や計測目的、及び事故の原因のひとつである管理値を再確認し、管理値に基
づく制御方法を整理することが必要である。
スラグ層の厚さ、プラズマ電圧、炉底ケーシング温度等の管理値とこれを超える異常時の判断
基準を明確にし、異常事態発生時の対応方法をより具体的に明記することは基本であり、適宜こ
れを更新することが必要である。
(2)運転状態の監視強化
溶融炉の運転状態を把握する項目は灰投入量、プラズマ電力、炉内カメラ、各部温度(炉内、
スラグ、耐火物、冷却水)等であり、計測点は各1点程度である。運転状態をより正確に把握す
るため、対応可能な項目については計測点を増やすと共に、炉底ケーシング温度の自動計測及び
スラグ層厚の半自動計測を行い、溶融炉の状態変化をより詳細かつ迅速に把握し、これらの計測
結果をもとに自動的に最適な運転状態に調整できる安全なシステムとすることが必要である。
(3)保全方式の見直し
現在の溶融炉の保全方式は侵食量の計測結果や補修履歴に基づく方式であるが、更なる安全性
確保のため、現在の保全方式に加えて、特に重要な箇所は運転時間を基準とした保全方式との組
み合わせの実施や炉底電極の点検方法等を見直すことが必要である。
また、現行の炉床レンガ侵食予想手法は、炉床全体の侵食速度の変化や分布を把握しにくいこ
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とから、炉床レンガ全数または定点による侵食量計測を追加して実施し、炉床の部位毎に侵食状
況を正確に把握し、運転計画及び補修計画に反映することが必要である。
(4)情報共有・連携の強化
メーカー(三菱重工環境・化学)
、プラント運転管理業務受託者(重環オペレーション)及び
広島市において、運転計画や技術情報の交換を定期的に実施し、施設の保全計画を踏まえたPD
CAサイクルにより本施設の運転面・設備面双方を適切に管理することが必要である。
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