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家畜伝染病予防のための 待ち受け消毒用着色粒状散布剤
家畜伝染病予防のための 待ち受け消毒用着色粒状散布剤 室蘭工業大学大学院工学研究科 環境創生工学系専攻 准教授 徳樂 清孝 1 研究開発の背景および目的 平成22年、宮崎県で発生した口蹄疫では約30 万頭の牛・豚が殺処分され、立ち入りや移動制限 により観光や物産、流通などにも深刻なダメージ を与えた。その被害総額は宮崎県経済全体で推 計2,350億円と試算されているが、全国和牛共進 会第一位となった「安平」を含む優良な種牛約50 頭を失うなど、その影響は日本の畜産業界全体 に金額だけでは表せない禍根も残した。 2 研究開発の背景および目的 北海道は生乳生産量が全国の51%、肉用牛頭 数が20%など、全国一の酪農畜産王国である。同 時に、北海道における1年間の総観光消費額は約 1兆3000億円と(北海道経済部環境局まとめ、平 成23年)、全国一の観光王国でもある。このような 中、ひとたび宮崎県で発生したような口蹄疫が北 海道で発生すれば、道の畜産、農業のみならず観 光産業にまで広く影響を及ぼし、道の経済に甚大 なダメージを及ぼすことが容易に予想される。 3 研究開発の背景および目的 口蹄疫の発生は、発生した都道府県に多大な被 害を与えるだけでなく、日本国全体の輸出にも大 きく影響する。宮崎県で発生した口蹄疫では、日 本全体が「非清浄国」と認定され、「清浄国」復帰 まで約1年を要し、和牛の輸出に打撃を与えた。 また、家畜伝染病は口蹄疫だけでなく、高病原 性鳥インフルエンザなど、人に伝染するものもある。 このように家畜伝染病の発症は国内外に多大な 影響を与えることから、その予防は重要な課題と なっている。 4 研究開発の背景および目的 これまで、家畜伝染病を予防するための様々な種 類の液体消毒剤が開発され、現在これらを用いた 消毒が実施されている。液体消毒剤による消毒は 強力な消毒効果を発揮するが、消毒槽の設置や 噴霧による継続的な作業が必要であるため、広範 囲なエリアでの継続的な消毒には向かない。そこ で、液体消毒剤を用いた消毒に加え、消石灰粉末 を農場の出入り口や畜舎周辺に広く散布する、い わゆる「待ち受け消毒」による二重の予防対策が 推奨されている。 5 消石灰による待ち受け消毒の特徴 消石灰による待ち受け消毒の特徴 利点 安価である(1 kg 数十円) 踏み込み槽が不要 消石灰散布帯(=衛生管理区域)を可視化できる 時間が経てば炭酸カルシウム(食品添加物でもあ る)となり無害になる 欠点 強アルカリ性である(人体や家畜に有害) 効果が無くなっても見た目では分からない(Ca(OH)2 もCaCO3も白色) 効果を発揮するためには水が必要? 6 消石灰の抗ウィ 消石灰の抗ウィル 抗ウィルス活性の根 ス活性の根拠 性の根拠 口蹄疫ウイルスはpH9で死滅し始め、 pH11で完全に消滅する 口蹄疫ウイルスはpH6で完全に消滅する 7 消石灰の抗ウィ 消石灰の抗ウィル 抗ウィルス活性の根 ス活性の根拠 性の根拠 抗ウイルス活性の目安:アルカリ性であれば、pH10以上程度 8 従来技術とその 従来技術とその問 とその問題点 消石灰粉末の飛散による人・家畜への悪影響 家畜衛生保健所入り口 散布時の服装 畜舎内への消石灰の散布 消毒効力低下の判断が難しい 新鮮な消石灰(水酸化カルシウム)と、 消毒抗力が低下した消石灰(炭酸カ ルシウム)は見分けがつかない。 粉末消石灰 ある牧場で採取した消石灰 (ほぼ炭酸カルシウムだった) 9 新技術の 新技術の概要 粒状化により飛散を防止し、消毒効力を色の変 化で判断する待ち受け消毒用着色粒状散布剤を 開発した。 pH 12 pH 7 10 新技術の 新技術の特徴・ 特徴・従来技術との 従来技術との比較 との比較 • 消石灰、スラグ、ゼオライト3成分混合による の硬さ、大きさ、pHの調整 • バインダーを用いない造粒技術 • 消毒効力の低下を色の変化で判断 11 使用する粉体 粉末消石灰(980 円/20 kg) pH 12.5 粉末高炉水砕スラグ(750 円/20 kg) pH 11.5 鉄鉱石の鉄以外の岩石成分(主に二酸化ケイ素)と副原料の石灰石成分 銑鉄1トン当たり300kg生成(日本の銑鉄生産量は年間1億トンなので、毎 年3千万トンのスラグが副産物として生成) pHは消石灰より低いが、口蹄疫ウイルスを消滅させるのに十分なアルカリ 性を維持 消石灰より安くて安全(pHが低い)か? 粉末ゼオライト(864 円/20 kg) pH 9.5 粒状ゼオライトは吸着剤(汚水処理剤、原子力排水処理剤、消臭剤、調 湿剤)、土壌改良資材、滑り止め、融雪剤として利用 粉末ゼオライトは粒状ゼオライトを製造する時の副産物 飼料に加えることで排泄物のにおいを低減(安全) 口蹄疫ウイルスを消滅させるには不十分なpH 着色剤の吸着、消石灰のアルカリ性の長期保持に使える? 12 粉末消石灰、スラグのpH変化(屋外) 散布量:1.0 kg/㎡ 土の上 橋の入り口 草の上 牛舎入口 (トラクターの出入りが頻繁) 平成23年10月1日 発行農林水産大臣 公表「口蹄疫病に関 する特定家畜伝染 病防疫指針」 1㎡あたり0.5〜1.0 kgの粉末消石灰を2 週間に1回程度散布 協力:北海道伊達市の牧場 13 14 14 13 13 12 12 11 11 pH pH 粉末消石灰、スラグのpH変化(屋外) 10 10 9 9 8 8 7 7 0 10 20 30 40 50 0 10 20 pH 10を切るまでの日数 日数 消石灰 pH変 変化(土の上) 30 40 日数 スラグ 50 消石灰 スラグ pH変 変化(草の上) 粉末消石灰 : 30 ± 10 (一ヶ月程度) 粉末スラグ : 1 ± 2 (数日程度) 14 14 13 13 12 pH pH 12 11 11 10 10 9 9 8 8 7 7 0 0 10 20 30 日数 50 消石灰 スラグ 10 20 30 日数 pH変 変化( 牛 pH変 変化(橋の入り口) 40 40 50 消石灰 舎前) 14 粉末消石灰、スラグのpH変化(屋内) 14 pH 13 12 消石灰(水あり) 11 消石灰(水なし) 10 スラグ(水あり) 9 スラグ(水なし) 8 7 0 10 20 30 日数 pH変 変化(室内) 40 pH 10を切るまでの日数 粉末消石灰 : 30 日程度 粉末スラグ : 数日程度 屋外試験とほぼ同じ結果であり、各 点のばらつきも小さいので、以後、 この屋内試験法で評価する。 15 大量造粒技術の確立 パン型造粒装置 16 大量造粒技術の確立 混合型造粒装置 17 造粒、着色技術の確立 粒径、硬度、pH値、pH持続性、色の制御が可能 ※未公開特許情報を含むため、詳細な情報は 当日のプレゼンで説明します。 18 想定される用途 想定される用途 • 農場入り口への散布 • 衛生管理区域への散布 • 畜舎内への散布 ウシ、豚、鶏をはじめとし、あらゆる畜舎に適用 粒径や硬度を制御することで、目的に応じた消毒に対応 (タイヤ、靴底、野生動物、糞など) 19 実用化 実用化に向けた課題 • 造粒技術、着色技術については開発済み。しか し、実際の使用条件下での試験が不十分。 • 今後、実際に農場のあらゆる場面で実証試験を 実施し、実用化に向けた条件設定を行う。 • これまで、畜産試験場、家畜衛生保健所、民間 牧場での聞き取り調査を行ってきた。実用化に 向け、さらなる実地調査を行い、使用する立場、 またそれを監督する立場双方の要望を満たすも のを作る。 20 企業への期待 • 実際に消石灰を消毒用散布剤として使用して いる農業法人、会社法人、または大学や公的 試験機関等との共同研究(実証試験)を希望。 • 消毒用散布剤自体は重量と比較して安価な製 品となるため、コストに占める輸送料の割合が 高い。地産地消が重要な鍵となるため、造粒 技術を持つ全国企業との共同生産を希望。 21 本技術に 技術に関する知 する知的財産権 • 発明の名称 :消毒剤 • 出願番号 :特願2015-047017 • 出願人 :株式会社阿部産業、 室蘭工業大学 • 発明者 :阿部萬千雄、徳楽清孝、 山中真也、上井幸司、 中野博人 22 産学連携の経 学連携の経歴 の経歴 • • • • • • 2005年 2010年-2011年 2014年-2015年 2014年-2015年 2015年2015年-2016年 都城市元気づくり21事業費補助金に採択 九州北清株式会社と共同研究実施 株式会社阿部産業と共同研究実施 JST、A-STEP【FS】探索タイプに採択 北海道白糠町と包括連携協定の締結 ノーステック財団、イノベーション創出研究 支援事業に採択 23 お問い合わせ先 わせ先 コーディネーター 室蘭工業大学 知的財産本部 統括マネージャー 宮澤 邦夫 TEL:0143-46 - 5863 FAX:0143-46 - 5879 e-mail:[email protected] 24