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視覚障がい者の安全な歩行のための白杖
視覚障がい者の安全な歩行のための白杖 エーピーアイ株式会社 病気や事故などで目が 用されている方が多くい 見えなくなってしまい, ますが,外の環境には白 つらい思いをしている方 杖や盲導犬では気づくこ がいます。現在,国内に とができない障害物がた は歩行時に白杖や盲導犬, く さ ん あ り ま す。 そ れ 介助等が必要な重度の視 は,私たちの正面や上方 覚障がいを持っている方 の 障 害 物, 例 え ば ト が約 22 万人いるといわ ラックからはみ出た積荷 れ て お り ま す( 平 成 25 や,看板,木の枝などで 年都道府県データより)。 す。視覚障がい者の方に このような人が外出の時に使う杖を「白 とって,こういった正面・上方の障害物を事 杖」といいます。視覚障がい者の方は,杖で 前に確認し,避けて歩行することは難しく, 足元をさぐることによって,障害物がないか 外出先で起こる怪我のほとんどが,空間にあ を確かめます。また,杖を白くすることに る突起物などの障害物と接触してしまうこと よって,周りの人も,それを持つ人が視覚障 だそうです。 がいであることを知り,あらかじめ気をつけ ておくことができます。 そこで私達は,視覚障がい者の方の事故や ケガを防止し,安全・安心な生活のための技 たとえ杖があったとしても,視覚障がい者 術を創造しました。それが,白杖にセンサを の方にとって,「介助なしで 1 人で自由に外 取り付けることにより高機能化した「スマー 出する」のはたいへん難しいことです。1 人 ト電子白杖」です。秋田精工株式会社×秋田 で自由に外出するために,白杖や盲導犬を利 県立大学の共同開発によるスマート電子白杖 教科研究理科 No.199 教科研究理科199.indd 17 17 14/09/30 15:47 は,足元の障害物だけでなく,正面・上方の 障害物も知ることができます。 を検知し,振動子 b を振動させます。 振動子 a はリストバンドを手首に巻いた時 スマート電子白杖に内蔵された超音波発信 に手首に直接触れる位置に取り付けられてい 子(センサ)は,超音波を発信し,障害物に て,振動子 b は白杖のグリップを握った時 ぶつかり反射してきた超音波を受信します。 に親指が触れる位置に取り付けられています。 そして,発信から受信までの時間を計測する 白杖を使っている人は,手を通して,自分の ことで障害物との距離を割り出すことができ 上に障害物があるか,前に障害物があるかが ます。 わかるのです。 これは,コウモリやイルカが超音波を発し, このように,スマート電子白杖は,視覚障 物体から反射してきた超音波を受け取ること がい者の方の周囲にある障害物を検出し,そ で,物体の位置が分かることと似ています。 の情報を視覚障がい者に伝えることができる からだの内部を調べる超音波診断機や,海中 ので,障害物に接触する前に事前に回避がで の魚の群れを調べる魚群探知機も同じような き,怪我などを未然に防ぐことができる白杖 しくみを利用しています。 です。 さて,スマート電子白杖にもどりましょう。 ここでは 2 個のセンサを内蔵したスマート電 子白杖をもとに原理を説明します。センサ a は,水平からの角度が 45°で上方約 2m,約 40°の範囲内に障害物があるかを検知します。 そして検知されると振動子 a を振動させます。 同じように,センサ b は水平向きで 0°で正 面約 2m,約 40°の範囲内に障害物があるか ■スマート電子白杖のつくり■ ■スマート電子白杖のしくみ■ スマート電子白 杖には 1 個センサ付と 2 個センサ付があります。2 個センサ付は正面・上部の障害物を感知し,障害物 を感知するとグリップに添えた指先と手首に巻いた リストバンドに振動でお知らせします。1 個センサ 付は上部の障害物を感知し,指先のみ振動でお知ら せします。重量は世界最軽量で 270g(直杖タイプ 1 センサ付の重量)で,持ち運びが可能な折りたた みタイプもあります。 18 教科研究理科199.indd 18 14/09/30 15:47 視覚障がい者の方は,怪我や事故が怖いた め,1 人で自由に外出することができない場 合も多いと聞いています。スマート電子白杖 は,障害物による怪我の発生率を下げ,多く の視覚障がい者の方に 1 人で自由に外出でき る勇気をあたえます。健常者と同じように屋 外で安心して歩行する事を可能とし,行動範 囲が広がる事による社会的価値を生み出すこ とができます。 今後の展開 現在,スマート電子白杖を実際に使ってい る視覚障がい者の方からたくさんのご意見・ ご要望をいただいています。次なる展開を具 体的に話すことができませんが,障害物との ■実証試験■ 障害物を想定して,視覚障がい者の方 に実際に製品を使っていただき,改善に役立てます。 距離を感知するだけではなく,今以上に歩行 しやすくするための機能,重さを感じさせな いウェアラブルなデザイン,海外での使用を 可能とした規格対応などを検討しています。 こうした努力を重ねて,視覚障がい者の方の 期待にこたえていきます。 世界中で歩行時に白杖や盲導犬を必要とす る視覚障がい者数は 3,900 万人ともいわれま す(平成 22 年ライオンズクラブデータより)。 私達は,スマート電子白杖によって,世界中 の視覚障がい者の方に安全と安心を提供し, 自立を手助けできることを願っています。 ■イミュニティ試験(電波妨害試験)■ 日常生活 の中にはさまざまな電波があります。このような電 波のもとでもスマート電子白杖が正常に動作するか 試験します。 ■スマート電子白杖の仕様■ 寸 法 全体寸法:全長変更可能(スタンダードは 1200mm) 筐体寸法:全長 333mm ×幅 34mm ×高さ 43mm 石 突 樹脂製(交換可能) 検 出 器 超音波センサ 操作スイッチ 押しボタン電源スイッチ 筐体カラー アイボリー 電 源 リチウムイオン電池(CR123A) 重 量 センサ 1 ヶタイプ:270g センサ 2 ヶタイプ:320g 検出距離 2m 以内 指向性範囲 正面(仰角 0°)用,上方(仰角 45° )用,それぞれ約 40° の範囲で検出 報知方法 バイブレータによる振動 付 属 品 リチウムイオン電池(CR123A) 1 個 電池寿命 1 日に 1 時間使用した場合:約 3 ヶ月 1 日に 3 時間使用した場合:約 1 ヶ月 教科研究理科 No.199 教科研究理科199.indd 19 19 14/09/30 15:47