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ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニアの政治経済概況
情報報告 ウイーン ●ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニアの政治経済概況 2007年6月に在オーストリア日本国大使館及びジェトロ・ウィーンセンターと共同で「中東欧・ 南東欧セミナー」が開催された。今回は、最新政治経済状況がテーマであり、各国から報告が行 われた。今回の報告として、普段情報を得にくいボスニア・ヘルツェゴヴィナとマケドニアにつ いて取り上げる。なお、本レポート中の図および表は脚注のない限りセミナーでの配布資料から 抜粋したものである。 1.ボスニア・ヘルツェゴヴィナの政治および経済状況 1 ボスニア・ヘルツェゴヴィナは、人口は推定383万人と言われ、面積は5万1,000km2(ほぼ日本 の中国、四国地方の合計)であり、山岳地域が多い。一部海岸線があるものの実質的には内陸国 である。主要民族は人口の44%を占めるムスリム、同33%のセルビア人、同17%のクロアチア人 で構成され、それぞれ言語、宗教が異なる。旧ユーゴ連邦を構成した共和国の1つで、1992年4 月同国の独立を巡り民族間で紛争が勃発、3年半に渡り戦後欧州最悪の紛争となった。1995年に デイトン和平合意の成立により戦争は終息した。 2 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ地図 政治体制は、主要民族のバランスに配慮してムスリム系およびクロアチア系住民が中心の「ボ スニア・ヘルツェゴヴィナ連邦」とセルビア系が中心の「スルプスカ共和国」と2つの主体から 構成されている。それらの取りまとめる3民族からなる閣僚評議会の議長が首相に当たり、主要 民族の代表からなる大統領評議会の議長が元首にあたる。また、2つの構成体だけでなく10ある カントン(地方自治体)にも大統領が存在し、同国には13人の大統領が存在するなど、外部から 見ると非常に複雑な政治体系となっている。和平履行体制については、平和維持面をEU部隊であ る ボスニア・ヘルツェゴヴィナEU部隊(EUFOR :EU Force in Bosnia and Herzegovina)が担当 し、民生面では和平履行評議会(PIC: Peace Implementation Council)の執行機関である上級代 表事務所が担っており、その代表である上級代表はボスニア・ヘルツェゴヴィナの各機関に対し 1 2 同項は、外務省ホームページも参考にしている。 出典:外務省ホームページ -28- 情報報告 ウイーン 和平合意を監視・監督している。ボスニア・ヘルツェゴヴィナの政治体制について下図に示す。 図 ボスニア・ヘルツェゴヴィナの政治体制 経済概況は、ボスニア紛争によって道路や電力、 水道といったインフラが影響を受けたものの、 現在は復興事業を続けた結果戦前の状況に戻った。添付資料にジェトロが発行している「中・東 欧政治経済概要」から抜粋した各諸国との経済指標比較一覧を示す。 これを見ると、GDPは91億ユーロで、一人当たりGDPも2,368ユーロと他国と比較しても下 位に位置している。また、失業率が30%台と高いが、実際には失業は形だけで商売している場合 もあり、実際にはもっと低い値であるという意見もあり一概に言えない。消費者物価上昇率も 7.4%とやや高いが、これは付加価値税課税の影響であり、通常は1~2%台で推移している。 貿易については、2005年の輸出額が25億8,000万ドル、輸入額が75億3,000万ドルで、主要相手 国はクロアチア、ドイツ、セルビア、モンテネグロ、イタリア、スロベニアである。残念ながら 日本との貿易関係は非常に小さい(2003年時の対日輸出額:6,700万円、同対日輸入額:9,300万 円)。 産業については、木材業、鉱業、繊維等が挙げられる。 今後は、難民・避難民帰還対策、民族間対立、地雷・不発弾撤去といった復興事業の継続と共 に持続可能な発展に向けて取り組み、現在の最大の目標はEU、NATOといった欧州大西洋機 構への統合である。ただ、それには課題も残っており、政情の安定化や前述した複雑な政治体制 の改善、投資拡大を目指したビジネス環境の整備等が必要である。 最後に、講演者から寄せられた意見を記す。 ¾ 近年海外投資残高も急激に増えており、街中のモノの種類が増えてきている。政治不安定は 懸念事項であるが、経済に多大な影響を及ぼすことはないのではないか。 ¾ 元々先進国であるために、政治が安定すれば投資の可能性が膨らむのではないか。 ¾ 首都サラエボの治安は、特に問題ない。 2.マケドニアの政治および経済状況 3 マケドニアは、人口約202万人といわれ、面積は2万5,713km2(日本国土の7%弱)でありであ 3 同項は、ジェトロ通商広報(2007.3.6)も参考にしている。 -29- 情報報告 ウイーン る。国の名称については、ギリシャと協議中であり、わが国は暫定的にマケドニア旧ユーゴスラ ビア共和国(The Former Yugoslav Republic of Macedonia)として承認している。主要民族は、 マケドニア(スラヴ系)が65%、アルバニア系(ムスリム系)が25%、その他トルコ系やロマ系、 セルビア系から構成されている。旧ユーゴ連邦を構成した共和国の1つで、1991年に唯一平和的 に独立した国である。その後1998~1999年にかけてコソヴォ紛争によって大量のアルバニア系難 民が流入し国内が不安定化した。2001年にはアルバニア系武装組織との紛争が勃発したものの、 国際社会の仲介で停戦合意した。その後内治安情勢は安定している。マケドニアの目標もまたE UおよびNATOの加盟であり、加盟プロセスが認められて2005年12月にはEU加盟候補国とな っている。 4 マケドニア地図 経済概況については、旧ユーゴ共和国から独立後、国連の対ユーゴ制裁(1992~1995年)およ びギリシャの経済封鎖(1994~1995年)で急落した。2001年の紛争後は、IMFおよび世界銀行 の支援を受けながら、周辺国と比較するとペースは遅いものの、GDPはプラス成長を続けてい る。現在も、2006年の一人当たりGDPが2,432ユーロであり中南東欧諸国の中でも最も低いレベ ルである。失業率も36.0%と最も高い(添付資料参照)。現政権は、経済発展を最優先課題として 位置づけており法人税を2006年の15%から段階的に引き下げ、2008年1月より10%にする予定で ある。また、自由経済特別区への投資については法人税を10年間免税とし、原材料輸入にかかわ る付加価値税を免除するなど税制上のインセンティブを設けて投資誘致を行っている。 貿易については、2005年で輸出額が20億4,000万ドル、輸入額が30億9,000万ドルで、主要貿易 相手国はセルビア・モンテネグロ(当時)、ドイツ、ギリシャ、ロシアである。対日貿易について は、輸入額が2,696万ドル、輸出額が123万ドルとなっている。 主要産業は、農業(たばこ、ワイン)、繊維、布製品、鉱業(鉄等)が挙げられる。 今後は、上記にも示したようにEUとNATO加盟であり、そのための法整備が進められてい る。小国であるマケドニアは欧州諸国との強調なしでは経済発展もありえないとの考えから、E U加盟に向けた動きが変わることはないだろう。 不安定要素としては、コソヴォ問題がある。まず、コソヴォとの境界線が確定していない箇所 があるため、その取り決め問題が挙げられる。さらに、マケドニアのコソヴォに近い地域、アル 4 出典:外務省ホームページ -30- 情報報告 ウイーン バニアに近い地域にはアルバニア系住民が多く住んでおり、もしコソヴォ独立が認められた場合 には、マケドニア内アルバニア系住民がマケドニアから独立を求める可能性もあるため、懸念事 項となっている。 -31- 情報報告 ウイーン -32- -33- 情報報告 ウイーン