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3.その他の神経皮膚症候群

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3.その他の神経皮膚症候群
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日皮会誌:118(5)
,911―917,2008(平20)
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3.その他の神経皮膚症候群
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大塚 藤男(筑波大)
神経皮膚症候群は皮膚と中枢神経,末梢神経系に病
る.10 万人に 1 人の頻度である.
変を持つ疾患群であり,多くの母斑症,あるいは代謝
異常症のフェニルケトン尿症,感染症のハンセン病も
神経皮膚症候群の範疇に入る.母斑症は先天性の奇形
や異常が皮膚や神経系だけでなく他の種々の器官に生
じ,ひとつのまとまった病像を呈する疾患群であり,
神経皮膚症候群の中核を形成している.神経皮膚症候
群・母斑症には遺伝性疾患も多く,近年その責任遺伝
子が発見されて,病態が解明されつつある.しかし,
治療法は多く対症療法に留まり,またその対症療法に
3)治療,予後
予後は予断を許さない.多発する聴神経腫瘍,脳脊
髄神経腫瘍を切除する.
2.神経皮膚黒色症 mélanose neurocutanées,
neurocutaneous melanosis
皮膚および中枢神経系に色素細胞が増殖する非遺伝
性の稀な母斑症である.
もしばしば苦慮する.既に記述された神経線維腫症 I
型
(von Recklinghausen 病)
,結節性硬化症が神経皮膚
1)臨床症状
症候群・母斑症の代表的疾患であるが,ここでは両疾
有毛性の巨大な色素斑
(獣皮様母斑,bathing trunks
患以外の神経皮膚症候群について母斑症を中心に,神
nevus)
が背部から臀部に好発する.他に大小の色素斑
経線維腫症 II 型,神経皮膚黒色症,色素失調症,多発
が全身性に播種する.色素斑から悪性黒色腫を生じる
性基底細胞腫症候群,色素血管母斑症,Sturge-Weber
ことがある(図 1)
.脳軟膜に増殖した色素細胞が髄液
症候群などを,併せて神経症状を来たすことのあまり
循環を障害して脳圧亢進症状や他に巣症状や痙攣発
な い 母 斑 症 の 一 部,McCune-Albright 症 候 群 や
作,知能障害を示す.この軟脳膜病変から悪性黒色腫
Kilppel-Weber 症候群などについても略述したい(表
を生ずることがあるという.
中枢神経系の色素細胞増殖は従来外科的手術,剖検
1)
.
1.神経線維腫症 II 型 neurofibromatosis type II,
NF II
両側性の聴神経腫瘍と多発性の脳脊髄腫瘍が特徴の
母斑症である.
時に確認されていたが,近年は CT や MRI で診断でき
るようになっている1).
2)治 療
皮膚の巨大色素性母斑は悪性化予防と整容的見地か
ら外科的に切除,植皮術を行う.中枢神経症状に対し
1)症 状
ては対症療法以外に一般に良い治療法はない.脳圧亢
両側性の聴神経腫瘍(前庭神経の神経鞘腫)が主徴
進時には水頭症に準じてシャント形成術など.
で,10∼20 歳代に聴力障害,めまい,平衡感覚障害な
どを症状として発症する.脳脊髄に神経鞘腫や髄膜腫
などが多発することが多い.NFI と比して皮膚病変の
頻度は低く,少数の皮膚神経鞘腫やカフェオレ斑様の
色素斑が出現する.
2)病因,病態
22q12 に座位する NF2 遺伝子が変異する.遺伝子産
物は細胞骨格蛋白と相同性があり,merlin(moesinezrin-radixin like protein)
と呼ばれ,癌抑制機能を有す
3.汎発性黒子症候群 lentiginosis profusa,LEOPARD
( Lentigines , Electrocardiographic abnormalities , Ocular hypertelorism , Pulmonary stenosis , Abnormalities of genitalia , Retardation of
growth,Deafness)症候群
皮膚に多発する黒子とともに種々の合併症状を有す
る遺伝性疾患.
912
皮膚科セミナリウム
第 36 回
神経皮膚症候群
表 1 神経皮膚症候群(母斑症)
(結節性硬化症 Bour
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図 2 多発する黒子(汎発性黒子症候群)
などを伴う.
図 1 巨大色素性母斑(神経皮膚黒色症)
2)病因・病態
常染色体優性遺伝と考えられているが,弧発例が多
い.黒子の病理組織像は表皮基底層の色素細胞とメラ
ニン色素の増加である.
1)症 状
出生時より全身に小豆大の黒子が多発し,思春期ま
で次第に増数する(図 2)
.カフェオレ斑,脱色素斑な
どを伴うこともある.心電図異常
(伝導障害,異常 Q・
S 波など)
,両眼隔離,肺動脈狭窄,性器異常(停留睾
丸,尿道下劣,生殖器低形成)
,成長発達遅延
(低身長,
精神発達遅滞など)
,感音性難聴,脳波異常,骨格異常
3)治 療
各種の対症療法.色素斑にはレーザー照射の試みな
ど.
4.Cole-Engman 症候群 Zinnser-Cole-Engman
syndrome,dyskeratosis congenita
3.その他の神経皮膚症候群
913
図 3 線状に配列する水疱(色素失調症)
網状色素沈着,爪甲形成不全,舌白板症を主徴とす
る.
図 4 疣贅状皮疹(色素失調症)
1)症 状
幼児期から思春期に発する.男に多い.顔,頸,前
胸などの網目状色素沈着,萎縮菲薄して指趾尖に達し
水疱,膿疱が線状,渦巻き状に配列,あるいは集簇す
ない爪形成不全,口腔内,ときに外陰部,肛囲の白板
る(図 3)
.水疱,膿疱には多数の好酸球が含まれ,末
症.白板症が癌化することがある.
梢血中にも好酸球が増加する.数週から数カ月.
他に掌蹠の多汗,涙管閉塞,歯牙異常,再生不良性
貧血,精神発達遅滞などを伴う.
第 2 期(疣状・苔癬期)
:水疱,膿疱が結痂した後苔
癬状角化性丘疹を生ずる(図 4)
.
第3期
(色素沈着期)
:1,2 期の皮疹部に線状,渦巻
2)病因・病態
き状の特異な色素沈着を来たす.組織像は基底層メラ
伴性劣性遺伝で大部分が男性例.Dyskerin をコード
ニンと真皮メラノファージの増加である.生後 3∼4
する DKC1 遺伝子に異常.DKC1 の変異はテロメラー
ゼ機能やリボソームの RNA プロセッシングに影響し
4)
て症状形成に関与する .
常染色体劣性遺伝の症例もあ
カ月で始まることが多い.
第 4 期(色素消退期)
:4∼5 歳ごろから色素斑は消
退し始め,思春期ころには完全に消退する.
り,これはテロメラーゼの RNA コンポネーントの
TERC 遺伝子に変異がある2).
2)その他の病変
網膜剝離,白内障などの眼病変,歯牙欠損,骨格異
3)治 療
常,痙攣,痙性麻痺,精神発達遅延などの神経症状を
白板症の癌化への対応が重要,また再生不良性貧血
みることがある.
が予後悪化因子である.他にそれぞれに対症療法.
5.色素失調症 incontinentia pigmenti,
Bloch-Sulzberger 症候群
X 染色体優性遺伝で女児が大多数を占める.X 染色
体上のNEMO
(NF-κB essential modulator)
!
IKKγ(IκB
kinase γ)遺伝子異常による3).
1)皮膚症状
第 1 期(炎症期)
:出生時∼2 週以内に体幹,四肢に
3)治 療
皮膚病変は自然消退するので特に必要ない.合併奇
形の発見と矯正.眼病変(網膜剝離)の早期発見が重
要で,網膜光凝固治療を要することがある.
6.基底細胞母斑症候群 basal cell nevus syndrome,
Gorlin syndrome
常染色体優性の遺伝性疾患で,癌抑制遺伝子の一つ
である patched(PTCH)
遺伝子の異常が原因で生ずる4).
914
皮膚科セミナリウム
第 36 回
神経皮膚症候群
図 6 手掌の点状陥凹(基底細胞母斑症候群)
図 5 基底細胞母斑(基底細胞母斑症候群)
幼児期より全身に小丘疹状の基底細胞母斑(思春期
1 年以内に起こることが多い.
以降に基底細胞癌と同様に破壊性に進行する)が多発
し(図 5)
,多発性顎骨囊胞,手掌・足蹠の点状陥凹
2)検査と診断
(図 6)を主徴に,二分肋骨などの骨異常,種々の眼病
頭部 X 線像に特有な頭蓋内石灰化像(tramline calci-
変(斜視,眼振,白内障,緑内障,先天性盲など)
,中
fication)
みる.CT,MRI により早期に血管腫像を捉え
枢神経系病変(硬膜石灰化,トルコ鞍 平化,白痴,
ることが可能.
脳波異常)を伴うことがある.顎骨囊胞を契機に診断
されることが多い.
3)治療と対応
7.色素血管母斑症 phacomatosis pigmentovascularis
顔面の血管腫に痙攣発作を伴う場合には本症を疑う
必要があり,眼科的検索を含めた精査を要する.痙攣
色素細胞の母斑と単純性血管腫が広範囲に合併する
発作や眼圧のコントロールが重要である.顔面の血管
もので,4 型に分ける.各々,皮膚に限局するのを a
腫にはレーザー治療,外科的対応,カバーマークによ
5)
型,皮膚以外の臓器病変を有するのを b 型と呼ぶ .
Sturge-Weber 症候群,Klippel-Weber 症候群,緑内障,
精神発達遅滞などを伴うこともある.
I 型:疣状色素性母斑と単純性血管腫
II 型:蒙古斑様青色色素斑と単純性血管腫(最も頻
る遮蔽などを考慮する.
9.von Hippel-Lindau 症候群
多くの臓器に主に血管腫を,あるいは囊腫や腺腫を
生ずる常染色体優性の遺伝性疾患.癌抑制遺伝子の一
つである VHL 遺伝子に変異.皮膚では顔面,頭頸部の
度が高い)
III 型: 平母斑と単純性血管腫
単純性血管腫(5% 程度と低頻度)
,小脳,脊髄の血管
IV 型:青色斑と 平母斑に単純性血管腫
芽腫,網膜血管腫(緑内障を生ずる)
,腎細胞癌,腎囊
8.Sturge-Weber 症候群
単純性血管腫,眼症状,痙攣発作が 3 主徴.非遺伝
性である.
腫,褐色細胞腫などを生ずる.
10.先天性血管拡張性大理石様皮斑 cutis marmorata
telangiectatica congenita
出生時より片側性ないし全身に大理石様皮斑を生
1)症 状
じ,細小血管拡張,皮膚欠損,皮静脈怒張,皮疹部の
出生時より三叉神経第 1 枝または第 2 枝領域の顔面
陥凹萎縮を伴う
(図 7)
.加齢とともにやや軽快するが,
に片側性に単純性血管腫を生じ,同側の眼脈絡膜血管
患肢側はしばしば細くなる.
腫によって眼圧上昇,緑内障,牛眼を来たす.痙攣発
眼(先天性緑内障,眼底血管奇形)
,中枢神経系(精
作,片麻痺,知能低下などの中枢神経系症状も皮膚と
神発達遅延)
,骨格や筋の異常,心・血管系の奇形など
同側の脳軟膜の血管腫により生ずる.痙攣発作は生後
を合併する.
3.その他の神経皮膚症候群
図 7 陥凹萎縮する大理石様皮斑
(先天性大理石様皮斑)
915
図 8 手指の血管拡張性病変(Osl
er病)
多くは弧発例であるが,時に家族内発症.
11.青色ゴム乳首様母斑症候群 blue rubber-bleb
nevus syndrome
1)症 状
皮膚に青くゴムの乳首の感触がある血管腫が多発す
る.数 mm∼5cm の大きさが多いが,数百個に及ぶこ
とがある.
消化管に血管腫が多発する.出血により貧血をきた
すことがある.中枢神経系を含めてその他の臓器にも
血管腫を生じうる.
図 9 舌の血管拡張性病変(Osl
er病)
2)病因,病態
血管腫の病理組織像の多くは海綿状血管腫.常染色
体優性遺伝の可能性もあるが,不明.
12.Osler 病 morbus Rendu-Osler 遺伝 性 出 血 性 毛 細
血 管 拡 張 症 hereditary hemorrhagic telangiectasia
1)症 状
くも状血管腫様の血管拡張性病変が顔面,耳朶,口
唇,手指(爪下)に散在する.これは出生時にはなく
思春期より顕著となる(図 8)
.
鼻出血のほか,口腔粘膜(図 9)
, 桃,肺,膀胱,
胃,腸からの反復性出血.進行性であるが,予後はよ
い.
動静脈瘻を合併して肺(呼吸困難,チアノーゼ,バ
チ指)
・肝(硬変,腫大)症状の強い場合がある.
2)病 因
常染色体優性遺伝で家族内発生例が多い.原因遺伝
子により 2 型 に 分 け る.HHT1 型 は endoglin 遺 伝 子
(TGF-β の受容体遺伝子)が原因で肺動静脈瘻の合併
頻度が高い6).HHT2 型は ALK1(activin receptor-like
kinase 1)が原因遺伝子6).
916
皮膚科セミナリウム
第 36 回
神経皮膚症候群
図 11 下肢静脈の怒張(Kl
i
ppel
Weber症候群)
図 10 下肢の血管腫と脚長差
(Kl
i
ppel
Weber
症候群)
13.Maffucci 症候群
幼児期に体幹,四肢,口唇に小血管腫(海綿状血管
腫)が多発する.軟骨形成不全,多発性内軟骨腫で長
管骨の変形や骨折,色素異常,発汗異常,爪や毛髪異
常などを合併する.軟骨肉腫などの悪性腫瘍がときに
図 12 口唇の色素斑(Peut
z
Jegher
s症候群)
出現する.
非遺伝性といわれている.
14.Klippel-Weber 症候群
Gsα(α subunit of stimulatory G protein)活性が低下
しており,これをコードする GNAS1(guanine nucleo-
出生時より四肢片側の広範囲に単純性血管腫があ
tide binding protein-stimulating activity polypep-
り,成長とともに静脈が拡張し,静脈瘤を伴って,患
tide)の変異が報告されている7).Gsα 低下により副甲
肢が肥大・延長する.動静脈吻合(皮膚温上昇,拍動
状腺の反応性が低下すると考えられている.
触知,コマ音)を来たしていることもある.脚長差を
生じて跛行を起こすこともある(図 10,
図 11)
.
遺伝性は否定的.
15.Albright 症候群 McCune-Albright 症候群,
Albright hereditary osteodystrophy
長管骨線維性異形成(骨痛,病的骨折)
,性的早熟
16.Peutz-Jeghers 症候群
口唇・口腔の色素斑,手掌足底の色素斑,消化管の
多発性過誤腫制ポリープが特徴の常染色体性優性遺伝
性疾患である.
1)病態生理
(特に女子で)とともに辺縁鋸歯状のカフェオレ斑類似
原因遺伝子は 19 番染色体短腕(19p13.3)にある ser-
の色素斑が特徴.色素斑は出生時から 2 年以内に発す
ine threonine kinase をコードする STK11!
LKB1 で,
ることが多く,体幹,大腿等に非対称性に生ずる.偽
癌抑制遺伝子の 1 つと考えられている8).色素斑の病理
性副甲状腺機能低下症や偽性偽性副甲状腺機能低下症
組織像は表皮基底層のメラニン色素の増加であり,色
に伴う低身長,肥満,円形顔貌,手指・足趾の短縮,
素細胞は増えていない.
皮下の骨化・石灰化を起こす.
3.その他の神経皮膚症候群
917
いう.
このような特異的色素斑をみた場合,適宜内視鏡,
2)臨床症状
乳児期より口唇,口腔粘膜,手指掌,足蹠に点状∼
X 線造影などにより消化管を精査する.
米粒大の褐色斑が散在,多発する
(図 12)
.掌蹠の色素
3)治 療
は皮丘で濃く,皮溝で薄いのが特徴である.ポリープ
色素斑は液体窒素凍結療法,レーザー照射など,ポ
は胃,小腸,大腸などの消化管に多発するが,特に小
腸に好発する.無症候性のことが多いが時に腸重積や
リープには内視鏡的ポリペクトミーを試みる.
出血を起こす.30 歳以降消化管癌発生の頻度が高いと
文
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