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金融政策の進化の歴史
金融政策の進化の歴史 あるいは中央銀行の苦闘の歴史 公定歩合からイールドカーブ・コントロールまで 日本銀行函館支店 本銀行函館支店 2016年11月 今 今日のお話 お話 ❏ 日本銀行の仕事 ❏ 金融政策の進化の歴史 ❏ 政策効果の総括的な検証(9月公表) ❏ 新しい挑戦:長期金利もターゲットに 長 1 日本銀行は何をしているか? z 発券銀行 ❏ お札(日本銀行券)を発行、流通 お札(日本銀行券)を発行 流通 z 銀行の銀行 ❏ 銀行などが日銀に口座を開設し、その間で資金 のやり取りをおこなう ❏ その口座を用いて現金の引出し、預入れを行う 座を 金 れを行う z 政府の銀行 ❏ 政府が口座を持っている ❏ 国の組織・機能に国庫金の受払に関する銀行 サービスを提供する 例:年金の支払い(政府の口座⇒銀行の口座⇒各銀行の 個人の口座) ❏ 国債発行などの事務を担う 2 日本銀行はどこにある? z 本店は東京日本橋 z 支店は全国32か所、事務所14か所 z 函館支店は市役所の隣 ❏ 現地採用してます ❏ カルチャーナイトや見学会イベント時に入れます カルチャ ナイトや見学会イベント時に入れます ❏ ホームページもあります z 電算センター、発券センター z 海外事務所 ❏ ニューヨーク、ロンドン、フランクフルト、パリ、香港、 北京、ワシントン 北京、ワシントンDC 3 新聞やテレビで見かける日本銀行のイメージ z 金融政策の担い手 ⇒ 金融政策が一番取り上げられやすい ❏ 金融政策の目標は、「物価の安定」 金融政策の目標は 「物価の安定」 ❏ 物価の安定を図ることを通じて国民経済の 健全な発展に貢献する ❏ 「金融システムの安定」も政策目標 z 日本銀行総裁 ❏ 金融政策決定会合の後の記者会見 金融政策決定会合 後 者会 ❏ 国際会議や国会、政府会合へ参加・出席し ている場面の報道 4 今日の本題 金融政策の進化の歴史 5 昔の金融政策 政策手段は「短期金利」の上げ下げだ た 政策手段は「短期金利」の上げ下げだった • 1995年までは公定歩合(日銀が金融機関に貸す 金利) 9 金利は規制、公定歩合に連動して変更 9 1980年代後半から金利の自由化が開始 • 1995年以降、無担保コールレート翌日物(金融機 年 降 無担保 翌 物(金融機 関どうしの貸し借り金利)が操作対象に 1990年代後半は、不良債権・金融危機との戦い これと同時進行で進んでいたのが、、、 6 低成長 低インフレ 低成長、低インフレ 操作対象の政策金利がゼロに近付いてきた • 1999年ゼロ金利政策の導入 年 金利政策の導入 • 加えて、デフレ懸念が払しょくされるまで続け ると ミ ト(約束) るとコミット(約束) ⇒ 短期だけでなく中長期金利も下がった 今の一年物金利 X 一年後の一年物金利 ≒ 今の二年物金利 (一年後も低いと予想) いわゆる「フォワードガイダンス」で中長期金利への影響力 いわゆる「フ ワ ドガイダンス で中長期金利 の影響力 7 も高めた インフレ率は景気の体温計 景気 体 ノイズも多いが基本的には経済成長力の低下を反映 エネルギー価格変動、安価な 輸入品の増加、消費税引上げ 消費者物価上昇率(年率、生鮮食品除く) 点線は何? 年 (注)消費税引き上げの影響を調整していない。日銀の公表資料では調整済み計数を利用することが多い。 8 経済成長率が低下した原因 供給面(下図):資本ストック、就業者・労働時間、生産性 需要面:国内需要減、海外市場での競争激化 9 金利はゼ の下限 金利はゼロの下限へ もう金融緩和の余地はない? 1999 10 閑話休題 クイズ 公定歩合は今もあるでしょうか? 11 答え 2006年央から 公定歩合という名称は使わなくなりましたが 公定歩合という名称は使わなくなりましたが、 日銀が民間銀行に貸し出す金利(基準貸付利率) として残っています ただし金利は高く設定 (金融機関の申し出に応じ て貸し出す「補完貸付」、2001年導入) いざというときは流動性(資金)を補完する ただし割高な金利で 12 本題にもどります 金利のゼロ下限制約に対して 新たな緩和手段を採用! 13 量的緩和政策の導入 2001年 • 操作対象を金利から日銀当座預金残高に変更 • より明確なコミットメント 「インフレ率が安定的に ゼロ%以上となるまで継続」 以降、緩和は「量を増やすこと」に ⇒ 何度も緩和、国債買入額が増加 評価:金融システム不安が強かった時期に、金融市 場の安定や緩和的な金融環境を維持し、経済 活動の収縮回避に大きな効果 14 確かにゼロインフレには戻った 戻 消費者物価の上昇率(年率 生鮮食品除く) 消費者物価の上昇率(年率、生鮮食品除く) 年 (注)消費税引き上げの影響を調整していない。日銀の公表資料では調整済み計数を利用することが多い。 15 景気 景気もしっかり回復してきた 復 短観 (全国短期経済観測調査) 16 緩和解除、そ 緩和解除、そこにグローバル金融危機 グ 融危機 2006年 • 世界的好況、日本も上向き • 量的緩和解除(当座預金残高は所要準備額に向けて削 減)、ゼロ金利も解除・僅かに引き上げ 2008年 年 • リーマンショック、米欧金融危機、海外経済の急減速 • 政策金利引き下げ(ほぼゼロ) 2010年 • 景気の緩やかな回復が足踏み • 包括的緩和政策の導入: CP、社債、指数連動型上場投資 信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)を購入 9 同時に政策金利も引き下げ 17 緩和解除 早すぎ 緩和解除は早すぎたのか? 景気は回復していた、物価下落も止まっていた でも早すぎたのかもしれない(後知恵的には) ぎ 金融政策はバックミラーを見ながら 車を 転す 車を運転するようなもの うなも 18 ところで、量的緩和の対象となった 日銀当座預金って何? • 指定金融機関 指定金融機関は日銀に預金の一部を預けねばなら 銀 預金 部を預 ねばな ない(法定準備預金として法律で義務付け) 9 法定準備(所要準備額)以上に預金してもよい 9 準備預金率は総預金の規模や預金の種類ごとに異なる • 金融機関は当座預金から現金を引き出したり預け入 れしている • 金融機関の間で当座預金口座を使って決済する 9 皆さんが自分の銀行から他の銀行の誰かの口座に振り込んだお金 は、銀行の間で他の莫大なお金の流れと合算されて、当座預金で決 済される(ただし 1億円以上の大口は合算せずに一件づつ決済) 済される(ただし、1億円以上の大口は合算せずに 件づつ決済) 19 再緩和後もデフレが続く 年 ところで、デフレはなぜ悪いのか?物価が下がると嬉しいのでは? 「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」 物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」 日本銀行法 物価の安定とは何か、家計や企業は実質値(インフレを加味した名目価格)だけで ものを考えるのか、デフレだから景気が悪いのか(逆?両方?) 20 量的 質的緩和政策 量的・質的緩和政策 2013年 異次元緩和 • 国債購入の大幅な増額(量) • 長期国債のウエイト増、ETFやREITも増額(質) 長期国債のウエイト増 ETFやREITも増額(質) • 2%のインフレ率目標、2年で実現、言いきった! 狙いと効果 期待が大事だから • マネーを増やせば、やがてはインフレになる • インフレ期待を変える(できるのか?) • しつこいデフレ(企業の価格・賃金設定、家計の消費行動・選好)に 対する 種のショック療法 対する一種のショック療法 • まず株価や為替が反応し、株高と円安が企業収益増、賃金も上昇、 景気回復をサポート • 企業の価格・賃金設定や消費にも変化が、インフレ期待も上昇 21 しかし、その後、、、 消費者物価上昇率 GDP需給ギャップ (注)消費税引き上げの影響を調整したもの 22 予想物価上昇率も低下 企業・家計・エコノミストの合成予想物価上昇率 23 マイナス金利付き量的 質的緩和 マイナス金利付き量的・質的緩和 2016年1月 マイナス金利を導入 • 銀行が日銀に持つ当座預金のうちの極く一部分に適用(後述) • 銀行への預金金利をマイナスにする政策ではない • 預金金利は下がった(例:普通預金0.02%→ 0.001%)が、住宅 ロ ン金利や企業の借入金利はもっと大きく下がった ローン金利や企業の借入金利はもっと大きく下がった • ただし、銀行は収益面で厳しくなった(貸出金利のほか国債な ど有価証券の利回りも低下) • 保険や年金の運用利回り低下にも影響、MMFも運用が中止 された • 当座預金の極く一部分に適用した割には影響が大きかった 24 政策金利体系 策 体系 無担保コール翌日物の 2008年導入 0.1%を継続 上限:日銀から銀行への補完貸付(基準貸付利率) 下限:当座預金の超過準備分への付利(補完当座預金金利) マイナス金利政策以降は、当座預金のごく一部に対して ▲0.1%を適用、大部分に対しては0.1%を継続適用(次頁) を適 大部分 対 は を継続適 (次頁) かつての政策金利誘導ゾーン* いわゆるコリドー(回廊) *)2013年3月までは金融調節方針として無担コールONの誘導水準を指示 25 マイナス金利の適用対象 象 当座預金残高 約80兆円/年の ペースで増加 10~30兆円 ‐0.1% マクロ加算残高引上げにより 過大にならないよう配慮 政策金利残高 導入時の 当座預金残高 0% 適 適用対象残高 象 高 マクロ加算残高 導入時40兆円 + 四半期毎に約20兆円 2015年の 当座預金残高 所要準備分(導入期 9兆円)は0%適用 厳密には所要準備は導入期以降 変動し続けているが直線で表記 基礎残高 導入時点 210兆円 兆円 +0.1% (導入期の超過準備) 将来 26 評価: 9月に公表「総括的な検証」 評価 月 公表 総括的な検証」 • 量的・質的緩和は金利を押し下げた。予想物価上昇率は 上昇し 実質金利は低下した 上昇し、実質金利は低下した。 • その結果、経済物価の好転をもたらし、デフレではなく なった この政策がなければ景気も物価ももっと悪かった なった。この政策がなければ景気も物価ももっと悪かった。 • でも、2%の物価目標は達成できなかった。原油価格の 下落や、消費税引き上げ後の景気の弱さ、新興国経済の 減速などが影響。 • せっかく上がってきていたインフレ期待もしぼんだ • マイナス金利導入によって、長期・超長期の金利を中心 に更に金利が低下した • しかし、下がり過ぎた長期金利は、金融機能の持続性に 対する不安感をもたらし、マインド面を通じて経済活動に 悪影響 かねな 悪影響しかねない、、、 そ そこで 27 政策手段の転換 この9月 • ターゲットを量から、金利と量に 9 量をターゲットにし、マイナス金利も追加したら長期・超長期金利 が下がり過ぎた 9 経済、物価情勢だけでなく、金融情勢にも配慮 • 短期金利だけでなく、長期金利も政策金利に含める(10 年金利をゼロ%程度に) 9 金融政策の常識とは異なる 9 できるのか心配する声もあったが、マイナス金利+量的質的緩和 の経験である程度できることが判った。実際、長期金利は非常に 安定して推移 (指値で買う新型オペ手段も追加) • 金利をタ 金利をターゲットにしたので量は増減しうる ゲットにしたので量は増減しうる 9 すでに国債を買う量の微調整を開始 • ただし、年間で国債を買う量の目安は現状程度を維持 ただし 年間で国債を買う量の目安は現状程度を維持 28 もうひとつのポイント オーバーシュート型のコミットメント インフレ率が安定的に2%を超えるまで量の拡大を続ける 9 インフレ率には様々な要因が影響する 率 様 な要因 影響す 9 後手に回ってインフレが加速するとは考えにくい マネ を増やせば、やがてはインフレになる」は、 9 「マネーを増やせば、やがてはインフレになる」は、 少なくとも短期的な関係は明快でない(手段と結果の関 係に不確実性がある) 係 不確実性 あ ) ← インフレ率変動の説明には景気(需給ギャップ)が効く 気 新しい試みは始まったばかり 「成長戦略が大事」 その通りだが、強力な金融緩和も 続ける 29 まとめ:年表で振り返る 1990 1990 1995 2000 2005 2010 2015 1995 2000 2005 2010 2015 01 98 公定歩合 短期 市場 金利 量的緩和 無担 無担ON 99 08 10 06 解除 再 緩 和 13 包括的緩和 16 量的質的 緩和 金利付き 短期間解除 ゼロ金利 フォワード ガイダンス 01 補完貸付 (誘導上限) 08 16 超過準備付利 当座預金の大半 (誘導下限) マイナス金利 当座預金の一部 13 16 国債買入年限 の長期化 長期金利 30