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エストニア語の動詞 jõudma「できる;至る」の多義性
松村一登編 (2009)『電子化された言語資料と個別言語研究』, pp.91-102 エストニア語の動詞 jõudma「できる;至る」の多義性(*) 松村 一登 東京大学大学院人文社会系研究科 [email protected] 1. 辞書における記述 エストニア語の国語辞典『エストニア語文語詳解辞典』(Eesti kirjakeele seletussõnaraamat; 以下『詳解辞典』と略す)では,動詞 jõudma の語義・用法は, 次のように整理されている。用例は,辞書のものから1つずつ選んで示す。この 辞書の用例には [EKS] 【注1】を付す。 1. できる,力がある (jaksama, suutma, võimeline olema) a. 体力,身体的能力 (kehaliselt). b. 気力,精神力 (vaimselt, moraalselt). c. 経済力 (majanduslikult). d. 時間的余裕 (ajaliselt, aja poolest). 2. 着く,到る (tulema, saabuma) a. 時間的 (ajaliselt). b. 場所 (kuhugi, kuskilt). c. 状態 (seisundisse, olekusse, olukorda). d. 行為 (tegevusse, midagi tegema). (1a) Koduhaned goose.pl.NOM ei jõua lennata. [EKS] NEG CAN fly.INF 「ガチョウは飛ぶことができない」 91 (1b) Jõuan ise enese eest seista. CAN.1sg self.NOM self.GEN for [EKS] stand.INF 「私は自分で自分を擁護できる」 (1c) Ei oma lapsi jõudnud NEG CAN.NUD gümnaasiumis koolitada. [EKS] own child.pl.PAR gymnasium.INE educate.INF 「自分の子どもたちを中等学校に通わせるのは経済的に無理だった」 (1d) Jõudsin lõunavaheajal poes CAN.PAST.1sg lunch_break.ADE ära store.INE PTKL käia. [EKS] go.INF 「昼休みに店に行ってくることができた」 (2a) Päike loojub, õhtu jõuab. sun.NOM set.3sg evening.NOM [EKS] arrive.3sg 「日が沈んで,夕方になる」 (2b) Buss jõuab Tartust Tallinna bus.NOM reach.3sg Tartu.ELA Tallinn.ILL 3 tunniga. [EKS] 3 hour.COM 「バスはタルトからタリンに3時間で着く」 (2c) Mees on jõudnud man.NOM be.3sg reach.NUD keskikka. [EKS] middle_age.ILL 「男は中年になった」 (2d) Jõudsime arrive.PAST.1pl niitma alles keskhommikul. mow.INF only mid_morning.ADE [EKS] 「草刈りに出たのは,ようやく午前中も半分過ぎた頃だった」 2. 研究に用いた言語資料 この研究では,エストニアの日刊紙 Postimees (インターネット版)の 1999 年 の全記事(タルト大学コンピュータ言語学グループ編纂;約 636 万語) から得た データを解析の対象とする。この言語資料には,エストニア語の形態素解析プ ログラム Estmorf (タルト大学コンピュータ言語学グループ作成)により形態解析 を施してある。このコーパス(以下『新聞記事コーパス』)の用例には,出典として [PM] を付す。 92 補足的な言語資料として,エストニア憲法制定会議議事録 (Asutawa Kogu protokollid, 1919-1920) の電子版(発表者が作成;約 193 万語)のデータも解析した (4.1.節)。この言語資料は,成立年代から明らかなように,現代エストニア語で はなく,形態素解析プログラム Estomorf による形態解析が有効でないため, plain text のままである。このコーパスの用例には,出典として [AK] を付す。 3. データ 3.1. データの抽出 『新聞記事コーパス』から,自作の Perl プログラムにより動詞 jõudma の活用形 を含む文をすべて抽出し,抽出した用例からさらに,否定小詞 ei, 否定接続詞 ega, 否定動詞 pole の活用形のいずれかを含むものを抜き出した。次いで,抜き 出した用例からは,否定要素が動詞 jõudma 以外の語と結びついている文【注2】 を除外し,除外した文は,否定要素を含まない例文と一緒にした。以上の方法 で,動詞 jõudma の用例(総数 6675)を否定的文脈に現れるもの(966 例)とそれ以 外(5709 例,便宜的に「肯定的文脈」に現れるものと呼ぶことにする)の2つのグルー プに分けた(図1)。 図1 肯定的文脈 _____________________________________________________ 5709 (85.55%) 否定的文脈 _________ 966 (14.45%) 3.2. 否定的文脈に現れる jõudma ┌─────────┬─────┬─────┬─────┐ │ 否定要素 │ 語義1 │ 語義2 │ 合 計 │ ├─────────┼─────┼─────┼─────┤ │ei │ 397 │ 406 │ 803 │ ├─────────┼─────┼─────┼─────┤ │pole,polnud,poleks│ 49 │ 69 │ 118 │【注3】 表1├─────────┼─────┼─────┼─────┤ │ega │ 8 │ 15 │ 23 │【注4】 ├─────────┼─────┼─────┼─────┤ │その他 │ 0 │ 22 │ 22 │【注5】 ├─────────┼─────┼─────┼─────┤ │ 合計 │ 454 │ 512 │ 966 │ └─────────┴─────┴─────┴─────┘ 93 表1は,『新聞記事コーパス』において否定的文脈に現れる jõudma の全用例を 語義1と語義2に分類したものである。否定的文脈では,否定小詞 ei との共起 に関する限り,語義1と語義2の頻度は,統計的に等しい(有意確率 0.78)と見 なすことができる。否定的文脈全体では,動詞 jõudma の語義1と語義2が同じ 頻度で用いられるとみなせる統計的な有意確率は 0.06 で,語義2の頻度の方が やや高いとみたほうがいいであろう。 3.3. 肯定的文脈に現れる jõudma 『新聞記事コーパス』において肯定的文脈に現れる用例は多いので,すべての 用例を個別に当たる代わりに,Perl 言語の乱数関数を使い,肯定的文脈の全用 例数 5709 のほぼ 10%にあたる 568 例を抽出し,語義1と語義2に分類したとこ ろ,それぞれ 74 例,494 例という結果が得られた。この結果から,肯定的文脈 では,語義1と語義2の頻度を,それぞれ 13.03% (74/568), 86.97% (494/568)と 推定した。総用例数に換算すると,肯定的文脈では,語義1が 744 例,語義2が 4965 例という推定値が得られる(表2)。テクスト中における,動詞 jõudma の2 つの語義の現れ方には,明らかな偏りが観察される。 ┌─────┬──────┬──────┬──────┐ │ │ 肯定的文脈 │ 否定的文脈 │ 合計 │ ├─────┼──────┼──────┼──────┤ │ 語義1 │ 744 * │ 454 │ 1198 │ 表2├─────┼──────┼──────┼──────┤ │ 語義2 │ 4965 * │ 512 │ 5477 │ ├─────┼──────┼──────┼──────┤ │ 合 計 │ 5709 │ 966 │ 6675 │ └─────┴──────┴──────┴──────┘ (17.95%) (82.05%) (* は推定値) 4. 考察 3.3 節における推定が妥当であるならば,『新聞記事コーパス』において,動 詞 jõudma の語義1と語義2の使用頻度の比率は,ほぼ 1:4 (17.95% [1198/ 6675],82.05% [5477/6675]) となる。『新聞記事コーパス』においては,動詞 jõudma は,語義 2 での使用頻度が圧倒的に高い。 また,動詞 jõudma の語義1の使用例の4割弱 (37.90% [454/1198]),語義2の 94 使用例の1割弱 (9.35% [512/5477]) が否定的文脈に現れていることになる(図2)。 語義 1 の否定的文脈での使用頻度がとくに高いことが注目される。 図2-1 語義1 肯定的文脈 ________ 744 否定的文脈 _____ 454 図2-2 語義2 肯定的文脈 _________________________________________________________ 4965 否定的文脈 _____ 512 4.1. 動詞 jõudma の語義1と語義2は,どちらがより基本的か エストニア語の対訳辞書は,『エストニア語・フィンランド語辞典』(Kokla et al. 2007) を例外として,1 節で引用した『詳解辞典』と同じく,使用頻度が低い 語義1「できる」の方を,使用頻度が非常に高い語義2より先に挙げている。こ れは,この動詞と同語根と考えられる名詞 jõud「力,体力」との関係を考えれば, 語義1「できる」の方が,より基本的な意味であり,語義2はそれから派生した 可能性が高いと考えられることから,より基本的な意味をまず挙げ,次いで派 生的意味を挙げるという,辞書編纂上の1つの原理に従った可能性がある。他 方,辞書編纂における1つの原則に従ったわけではなく,エストニア語の最初 の本格的な辞書,Wiedemann の『エストニア語・ドイツ語辞典』(Wiedemann 1973; 初版 1869 年) における動詞 jõudma の語義の扱いの順番を,単にそのまま 踏襲しているだけかもしれない。なお,『エストニア語・フィンランド語辞典』 における扱いは,少数派というだけで,頻度がより高いと考えられる用法から まず挙げるという原則にもまた合理性がある。 エストニア語のこの動詞と起源を同じくするフィンランド語の動詞には, joutaa「無為に過ごす」と joutua「[(場所・状態)に]至る」がある。joutaa は,形態的 にはエストニア語の動詞 jõudma に対応するが,意味的には,動詞 jõudma の語 義1とは正反対の感があり,さらに,その派生名詞 jouto「無為」も,エストニア 語の名詞 jõud との意味的隔たりがはなはだしい。一方,joutua は動詞 jõudma の 95 語義2にかなりうまく対応している。 Wiedemann の辞書は,動詞 jõudma の語義1の用例の中に,da 不定詞をとっ ている例を載せていない。これは,現代エストニア語の辞書『詳解辞典』の動詞 jõudma の語義1の用例のほとんどが da 不定詞を補語としてとっている【注6】こ とと際だった対照を見せる。しかし,20 世紀初頭のエストニア語の姿を伝えて いると考えられる憲法制定会議議事録では,現代語の『新聞記事コーパス』と同 じく,語義1では,da 不定詞をとる用法【注7】が圧倒的に多い。語義1における この用法が最近になって一般化したものとは考えにくい。 憲法制定会議議事録における動詞 jõudma の用例数を,表2に対応させて整理 してみると表3のようになる。 ┌─────┬──────┬──────┬──────┐ │ │ 肯定的文脈 │ 否定的文脈 │ 合計 │ ├─────┼──────┼──────┼──────┤ │ 語義1 │ 133 │ 192 │ 325 │ 表3├─────┼──────┼──────┼──────┤ │ 語義2 │ 620 │ 75 │ 695 │ ├─────┼──────┼──────┼──────┤ │ 合 計 │ 753 │ 267 │ 1020 │ └─────┴──────┴──────┴──────┘ (31.86%) (68.14%) 表3を表2と比較すると,20 世紀初頭のエストニア語では,語義1の用例が 現代語と比べて相対的に多いだけでなく,否定的文脈において,語義2の用例 を圧倒していることが注目される。これが,言語資料の性質の違い(会議の議事 録と新聞記事)に由来するものなのか,エストニア語に起こった言語変化を反 映しているものなのか,興味深いが,必要な言語資料が十分に得られない現段 階では,どちらとも判断できない。 4.2. 動詞 jõudma は否定的文脈に現れる傾向がある エストニア語には,日本語の「できる」に相当する意味・用法をもつ動詞が, jõudma のほかにもある。その中から jaksama, oskama, suutma を選び,比較のため に,この3つの動詞とは「意味的な距離」が比較的大きい動詞 kirjutama「書く」, sõitma「(車で)行く,運転する」,saabuma「到着する」用例を新聞記事コーパス 96 において検索した。これら6つの動詞の否定小詞 ei との共起関係と,動詞 jõudma の否定小詞 ei との共起関係とを,2つの語の共起関係の強さを示す指標 とされる相互情報量(MI スコア),2つの語の共起関係の統計的有意性を計る指 標とされる t スコアによって【注8】比較すると,表4のようになる。 ┌─────┬────┬─────┬────┬────┐ │動詞 │出現度数│ei と共起 │MI score│t score │ ├─────┼────┼─────┼────┼────┤ 表4-1│jõudma(1) │ 1198 │ 397 │ 4.86 │ 19.24 │ ├─────┼────┼─────┼────┼────┤ │jõudma(2) │ 5477 │ 406 │ 2.70 │ 17.06 │ └─────┴────┴─────┴────┴────┘ ┌─────┬────┬─────┬────┬────┐ │jaksama │ 260 │ 120 │ 5.34 │ 10.68 │ ├─────┼────┼─────┼────┼────┤ 表4-2│oskama │ 2819 │ 1647 │ 5.68 │ 39.79 │ ├─────┼────┼─────┼────┼────┤ │suutma │ 5157 │ 1799 │ 4.94 │ 41.03 │ └─────┴────┴─────┴────┴────┘ ┌─────┬────┬─────┬────┬────┐ │kirjutama │ 4033 │ 86 │ 0.91 │ 4.33 │ ├─────┼────┼─────┼────┼────┤ 表4-3│sõitma │ 4451 │ 100 │ 0.98 │ 4.94 │ ├─────┼────┼─────┼────┼────┤ │saabuma │ 1432 │ 23 │ 0.50 │ 1.40 │ └─────┴────┴─────┴────┴────┘ 表4-1の(1)と表4-2を比べると,『新聞記事コーパス』において,動詞 jõudma の語義1が,同じような意味を持つ動詞 jaksama, oskama, suutma と同じ く,否定小詞 ei と共起する相対頻度が非常に高いことがわかる。また,表4- 1の(2)と表4-3を比べると,語義2も,『詳解辞典』が同義語の1つとして いる動詞 saabuma をはじめとする表4-3の動詞より,否定小詞 ei と共起する 相対頻度が非常に高いことがわかる。 表4では,『新聞記事コーパス』におけるそれぞれの動詞と否定小詞 ei の共起 のみを比較しているが,否定的文脈として,表1にあげた否定小詞 ei 以外の要 素が現れる用例も加えて集計し,全用例に対する否定的文脈の割合を計算する と表5のようになる。動詞 jõudma は,語義1「できる」だけでなく,語義2でも, 一般の動詞(表5-3)と比べ,否定的文脈で用いられる傾向が比較的高いこと は,この表からも明らかである。 97 ┌─────┬────┬─────┬────┐ │動詞 │出現度数│否定的文脈│ % │ ├─────┼────┼─────┼────┤ 表5-1│jõudma(1) │ 1198 │ 454 │ 37.90 │ ├─────┼────┼─────┼────┤ │jõudma(2) │ 5477 │ 512 │ 9.35 │ └─────┴────┴─────┴────┘ ┌─────┬────┬─────┬────┐ │jaksama │ 260 │ 124 │ 47.69 │ ├─────┼────┼─────┼────┤ 表5-2│oskama │ 2819 │ 1708 │ 60.59 │ ├─────┼────┼─────┼────┤ │suutma │ 5157 │ 2040 │ 39.56 │ └─────┴────┴─────┴────┘ ┌─────┬────┬─────┬────┐ │kirjutama │ 4033 │ 110 │ 2.7 │ ├─────┼────┼─────┼────┤ 表5-3│sõitma │ 4451 │ 103 │ 2.3 │ ├─────┼────┼─────┼────┤ │saabuma │ 1432 │ 32 │ 2.2 │ └─────┴────┴─────┴────┘ 5. まとめと展望 『詳解辞典』の動詞 jõudma の語義の記述においては,この動詞が否定的文脈で 用いられる傾向があることに明示的に触れていない。語義1「できる」の場合, 同じ傾向のある jaksama と suutma が同意語として明記されているものの,語義 2「至る」では,ほぼ同義のように見えるが,否定的文脈に関して振る舞い方に 違いのある動詞 saabuma「到着する」を同意語として挙げているのは,現代エス トニア語の動詞 jõudma の意味の記述としては,不十分であり,辞書として改善 の余地がある。 『詳解辞典』では,動詞 jõudma の語義1,語義2の双方について,さらに意味 の下位分類がされている。これらの下位分類の間の関係は,認知意味論的な説 明が可能であろうと予測されるが,それぞれの下位的意味の頻度の違いととも に,将来の研究が期待されるところである。 エストニア語の文法研究という観点から注目されるのは,「できる」を意味す る動詞の否定的文脈で用いられる頻度の高さである(表5-2)。これは,エスト ニア語についてのみなりたつ言語事実なのか,それとも通言語的に見られる現 象なのか,きわめて興味深いが,これも将来の研究の課題となるであろう。 98 この研究は,『新聞記事コーパス』という限定されたジャンルの言語資料を解 析の対象としたものである。異なったジャンルの言語資料を解析した場合にど のような結果が得られるか,興味深いが,それはすでにこの研究の守備範囲を 超えるものである。 注 *本稿は,第34回日本ウラル学会研究大会(2008 年7月5日,於名古屋大学)における研究 発表で配布した資料を改稿したものである。 【1】 本稿で引用したエストニア語の用例において用いている略号は以下の通りである。 《用例の出典》 AK エストニア憲法制定会議議事録 (Asutawa Kogu protokollid) EKS エストニア語文語詳解辞典 (Eesti kirjakeele seletussõnaraamat) PM 日刊紙 Postimees 記事 《文法概念》 ADE 接格 (adessive) CAN 可能動詞 COM 共格 (comitative) DEM 指示代名詞 (demonstrative) DES des 副動詞 (verbal adverb) ELA 出格 (elative) EMPH 強調の小詞 GEN 属格 (genitive) ILL 入格 (illative) INDEF 不定人称 (indefinite person) INE 内格 (inessive) INF 不定詞 (infinitive) NEG 否定を表す要素 NOM 主格 (nominative) NUD nud 分詞 (participle) PAR 分格 (partitive) PAST 過去時制 PTKL 句動詞 (phrasal verb) を作る小詞 TER 到格 (terminative) TUD tud 分詞 (participle) pl 複数 1sg 1人称単数 1pl 1人称複数 3sg 3人称単数 【2】 文が否定文であっても,たとえば次の例のように,動詞 jõudma 自体に否定要素の影響が 及んでいない場合は,否定的文脈における用例とはみなすことはできない。「肯定文」「否 99 定文」ではなく,「肯定的文脈」「否定的文脈」という二分法をとるのは,このような用例があ るためである。 Tagasi jõudes olümpiavõitja oma lemmiklumelaudu back reach.DES Olympics_winner.NOM own favorite_ski.pl.PAR ei NEG leidnud. [PM] find.NUD 「戻ってきたとき,オリンピック優勝選手は自分愛用のスキーが見つからなかった」 【3】 否定要素が pole の用例を 1 例ずつあげる。 Tormikahjustusi pole veel hinnata ... storm_damage.pl.PAR be.NEG CAN.TUD yet jõutud [PM] estimate.INF 「暴風雨の被害の程度は今もって明らかでない」 Jõulude ajal alustasin, lõpuni Christmas.GEN at begin.PAST.1sg end.TER be.NEG yet pole veel jõudnud. [PM] reach.NUD 「クリスマスの頃始めたが,まだ終わるに至っていない」 【4】 否定要素が ega の用例を1つずつあげる。 ... aga but ega ma NEG 1sg.NOM jõua neid ka kogu aeg CAN 3pl.PAR also all jälgida ... [PM] time.NOM follow.INF 「しかし,私はそれらを常時監視できるわけではない」 ... raamat ... kohe hävitati ega jõudnudki book.NOM soon destroy.INDEF.PAST NEG reach.NUD.EMPH lugejani. [PM] reader.pl.TER 「その本は,すぐに廃棄され,読者に届くことはなかった」 【5】 その他の用例は語義2のもののみであり,1 例だけ挙げる。この例では,否定小詞 ei は 動詞 suutma「~できる」 と結びつき,その補語として動詞 jõudma が da-不定詞の形で現れ ている。この種の否定文も,動詞 jõudma が否定的文脈に現れているケースと見なす。 100 Valitsusliit ei suuda government_coalition.NOM NEG CAN jõuda kokkuleppele, ... reach.INF agreement.TER [PM] 「与党連合は合意に至ることができない」 【6】 『詳解辞典』における動詞 jõudma の語義1の用例約 60 のうち,da 不定詞を補語としてとっ ていないケースはわずか2例である。他方,Wiedemann の辞書の語義1に対する唯一の用 例は,da 不定詞を補語としていない次の文である。 jumal jõuab kõik god.NOM CAN.3sg all.NOM [Wiedemann] 「神はあらゆることを成し遂げることができる (Gott vermag Alles)」 【7】 憲法制定会議議事録における動詞 jõudma の語義1の用例から,補語が不定詞でない例 と不定詞である例を1つずつ挙げる。 Weerandtunniga ei jõua seda. [AK] quarter_hour.COM NEG CAN DEM.PAR 「15 分間ではそれはできない」 Majahoidja ei jõudnud nii house_keeper.NOM NEG CAN.NUD so ruttu ... uksi awada. [AK] quickly door.pl.PAR open.INF 「建物の管理人はそんなに早く(いくつもの)ドアを開けることはできなかった」 【8】 共起関係に関する統計的指標の計算方法,および各指標の言語学的解釈については, 齋藤他(2005), McEnery et al. (2006), 石川 (2008) を参照した。中心語頻度を X,共起語 頻度を Y,X と Y の共起頻度を Z,コーパス総語数を V で表せば,相互情報量(MI スコア), t スコアは次の式で計算される。本稿では,中心語をそれぞれの動詞,共起語を否定小詞 ei として,計算式を成立させた。 相互情報量: log₂{(Z×V) / (X×Y)} t スコア: {Z-(X×Y)/V} / √Z 101 参考文献 Eesti kirjakeele seletussõnaraamat I. Tallinn, Estonia: Valgus, 1988. [略号 EKS] Kokla, Paul et al. 2007. Eesti-soome sõnaraamat. 4. trükk. Tallinn, Estonia: Valgus. [1972; 1993] Mägiste, Julius 2000. Estnisches etymologisches Wörterbuch I. Helsinki, Finland: SuomalaisUgrilainen Seura. McEnery, Tony, Xia, Richard and Tono, Yukio 2006. Corpus-Based Language Studies. Routledge. Suomen kielen etymologinen sanakirja I. Helsinki, Finland: Suomalais-Ugrilainen Seura, 1987. Suomen sanojen alkuperä. Etymologinen sanakirja. 1: A-K. Helsinki, Finland: Suomalaisen Kirjallisuuden Seura & Kotimaisten kielten tutkimuskeskus, 1992. Wiedemann, Ferdinand Johann 1973. Estnisch-deutsches Wörterbuch. 4. Druck. Tallinn, Estonia: Valgus. [1869¹; 1893², 1923³] 石川慎一郎 2008『英語コーパスと言語教育』大修館書店 齋藤俊雄,中村純作,赤野一郎 (編) 2005『英語コーパス言語学』改訂新版,研究社 102