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地図から国際軍事情勢を理解する 地図から国際軍事情勢を理解する

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地図から国際軍事情勢を理解する 地図から国際軍事情勢を理解する
「現代社会」で地図を活用する
こで冷戦の説明を簡単にしておく。ここでは冷戦
について深入りはしない。また国連の常任理事国
地図から国際軍事情勢を理解する
がいずれも核戦力の保有国であることも指摘して
おく。
−世界の軍事情勢と日本−
この図はフランスの核戦力を1として計算した
ものだが、
「リトルボーイとピースキーパー」の図
神奈川県立新城高等学校
を見せる。広島に落とした原爆が12∼16KTで10
小山田隆文
万人の生命を即奪ったことを指摘し、現在のアメ
リカのICBM「ピースキーパー」は300∼400倍の
破壊力があるが、現在の世界の核戦力の破壊力は
はじめに
45回
210回
世界の軍事情勢
フランス
現在イラク、北朝鮮の問題が世界で大きな問題
イギリス
イギリ
となっている。国際軍事情勢、世界の軍事情勢の
スペイン
なかでこれを考えてみたい(とくに日本からの視
ドイツ
点は欠かすことはできないと思われる)
。前者で
アルジェリア
サハラ
は日本の貢献、世界経済の混乱、日本へのテロな
(フランス)
どの問題が生じ、後者からは懸案の拉致問題、日
ベラルーシ
イタリア
ウクライナ
リビア
中東
本への攻撃などの問題が生じている。今日生徒た
シリア
カザフス
イラク
ちにこの問題の背景を理解させ、考えさせるのは
イラン
極めて重要な課題となっている。そこで次のよう
チャガイ
な手順で授業を展開してみたい。
(パキスタン)
カシ
パキスタン ポカラン(インド)
蠢で世界の核戦力について理解させ、蠡・蠱で
2回
世界の国々の通常戦力について理解させる。つま
3回
インド
り軍備の分布や兵器の輸出入の動きを理解させて、
南アフリカ共和国
アメリカの圧倒的な軍事力の存在、さらにアメリ
カの世界戦略から生じるさまざまな摩擦、すなわ
ディエゴガルシア島
ち具体的にはイラク、北朝鮮の問題を生徒たちに
理解させる。また蠶で、地勢、民族、宗教、イデオ
62億人の世界人口を優に何回も殺せることを指摘
ロギーなどが戦争に与える多大な影響を指摘する。
する。
【蠡】世界の通常戦力(1)
【蠢】世界の核戦力
ここでは世界の核戦力について学習する。
「世界
「アメリカ合衆国の武器の輸出と武器のおもな
の軍事情勢」
(右図)の地図を見せる。それを見て
輸出国」のなかの「おもな武器の輸出国」の図を
どんな感想を抱いたか聞く。
「アメリカとロシアの
見せ(16ページに掲載)
、その感想を聞く。
「アメ
突出した核戦力」と生徒たちは答えるだろう。そ
リカが断然トップ」とか、「国連安保理の常任理
̶ 14 ̶
事国と全く一致する」とかの感想が予想される。
張がある地域の国が買う」
などと答えるだろう
(も
作業1 世界の国々の白地図を1枚ずつ配
し答えが不十分なら指摘する)
。世界でずば抜け
布し、上記の「アメリカ合衆国の武器輸出と武器
た武器輸出国のアメリカの相手国は実はかなりか
のおもな輸出国」の「アメリカ合衆国の武器の輸
たよっていることをこの作業で生徒たちは実感・
出」を赤とかピンクとかのはっきりした1つの色
確認するだろう。
武器輸出は、
冷戦のなごりであっ
で塗らせる。作業終了後に生徒たちに感想を聞く。
たり、対立・緊張のあるところに売りつけるとい
「日本などの東アジア」
、
「イスラム教国の西アジ
うことは事実であるが、アメリカの世界戦略のも
ア」
、
「ヨーロッパ」などと答えるので、それから
とに実行されている。東アジアでは北朝鮮の存在、
どういうことが考えられるか質問する。
「産油国」
、
西アジアではイスラエルと対立するイスラム諸国
「ヨーロッパ」
、
「金がある国が買う」
、
「対立・緊
の存在が大きく関わっている。イラクの軍備はア
NATO
(北大西洋条約機構)
ス
ノーフォーク
シ
タンパ
ノヴァヤゼムリャ
グアンタナモ
(キューバ)
(ソ連)
アメリカ合衆国
1030回
715回
ロシア連邦
ネヴァダ
スタン
ブラジル
(アメリカ)
セミパラティンスク
(ソ連)
(
洋
シミール
45回
中華人民
共和国
ソウル
朝鮮半島
TO 構)
NA 条約機
朝鮮民主主義人民共和国
西
大
北
ロプノール
(中国)
ハワイ諸島
日本
横田
アルゼンチン
台湾
ジョンストン島
(アメリカ)
キリティマティ島
ビキニ島
グアム島
(アメリカ)
エニウェトク島
(イギリス)
ファンガタウファ環礁
(フランス)
(アメリカ)
シンガ
ポール
ムルロア環礁(フランス)
核兵器保有国
オーストラリア
核兵器保有疑惑国
過去に核兵器開発計画のあった国、
および、現在保有疑惑国
核兵器廃棄国
オーストラリア
核兵器非保有国
45回
その国の核実験回数(1998年)
核実験場(現在廃止も含む)
(国名は実験を行った当時の国)
とくに緊張状態にある地域
カシミール
おもなアメリカ軍基地
核兵器保有国の核戦力
(フランスを1としたときの相対量)
(インド・パキスタンは不明)
〔平成14年版防衛白書, ほか〕
̶ 15 ̶
と同様である。生徒たちに以下の作業をさ
せる。
作業2 先に配布した白地図を再び
使って、下の表の戦闘機の保有数をそれぞ
オランダ
東アジア
れの国に入れさせる(戦争になると制空権
日本
イギリス
タイ
台湾
ヨーロッパ
ドイツ
を戦闘機が中心となって制する)
。100を▲
スペイン
1つとして表し、10の単位は四捨五入する
(従って日本は▲が3、アメリカは▲が39、
トルコ
イスラエル
サウジアラビア
エジプト
クウェート
西アジア
北朝鮮は▲が6、イラクは▲が3というこ
オセアニア
オーストラリア
ア
合メ
衆リ
国カ
イ
ギ
リ
ス
フ
ラ
ン
ス
ロ
シ
ア
中
国
とになる)
。
おもな国の通常戦力
火砲・ミサイル 空母
日本
メリカが売ったり援助したりして育てたという事
実は広く知られているが、今度は最新鋭の武器を
爆撃機
戦闘機
880
0
0
297
ロシア
23,352
1
206
1,538
中国
17,000
0
150
2,900
駆使してイラクを攻撃しようとしているのは皮肉
アメリカ
5,836
12
208
3,939
なことであり、問題の大量破壊兵器もアメリカの
イスラエル
1,573
0
0
446
企業が最も熱心に売り込んだとされている。
北朝鮮
10,400
0
0
621
ドイツ
2,073
0
0
434
要するに武器の量、性能、販売、研究などすべ
イラク
2,250
0
6
316
ての面でアメリカが断然トップであることを生徒
韓国
4,666
0
0
555
たちに理解させる。
エジプト
1,603
0
0
580
フランス
794
1
0
473
イギリス
475
3v
0
427
タイ
560
1v
0
153
408
0
0
348
1,240
0
0
482
【蠱】世界の通常戦力(2)
ここでは世界のおもな国の装備について学習す
サウジアラビア
る。下の表を配布して生徒たちに、感想を聞く。
台湾
「火砲・ミサイルではアメリカが意外に少ない」
注)vは垂直離着陸機用空母、または軽空母を示す。
(『軍事データで読む日本と世界の安全保障』上田愛彦ほか編著 草思社)
という感想が出るかもしれないが、アメリカは古
い型は持たないのに比べ、ロシア、北朝鮮、中国
この作業により生徒たちは、アメリカの戦闘機
では旧式のものも持っていることを指摘する。な
保有数がずば抜けて多いことを実感する。
ぜ空母は限られた国しか持っていないのか生徒た
火砲・ミサイル、空母、爆撃機の保有数など陸
ちは疑問に思うだろう。空母は攻撃型の艦船で1
海空の面で他国を圧倒し、軍備全体としてアメリ
隻でも巨額の費用が必要で維持にも相当な経費を
カの軍事力が世界でダントツの存在であることを
必要とするのでよほどのことがないと持たないこ
理解させる。また旧式になった武器は持たないの
とも説明する。爆撃機はロシア、中国、アメリカ
で性能面でも極めてすぐれている。それ故アメリ
の3国しか持たず、これも攻撃型のものである。
カはイラク、北朝鮮の二正面作戦も可能と主張す
戦闘機もやはりロシア、中国、アメリカの3国の
るのである(アフガニスタンを含め三正面作戦で
み1000機以上保有しており、事情は空母や爆撃機
はないかという見解もあるほどである)
。
̶ 16 ̶
次にイラクを同じ地図でさがさせる。この地域
【蠶】地勢、民族、宗教、イデオロギーなどの
の特徴を質問すると、
「山岳」
、
「砂漠」と答える
戦争への影響 だろう(西部と南西部に砂漠が多く、北部に山岳
自然環境があらわされている地図で、アフガニ
地帯が多い)
。従ってアメリカがイラクに戦争を
スタンをさがさせる。次にアフガニスタンの国土
しかけると地勢的にも難しいものがあることにな
の特徴について質問する。多分「山が多い」
、
「高
る。しかしイラクの場合には地勢よりもイスラム
い山脈がかなり占めている」と生徒は答えるだろ
教という宗教的な要素の方が影響を持つことを説
う。昨年のアフガニスタンでの戦闘はアメリカの
明する。イスラエルとアラブ諸国の対立があり、
圧倒的な勝利と見られているが、しかし依然とし
アラブの側にイスラム原理主義が台頭し、イスラ
てタリバーンは一定の勢力を残し、各勢力がしの
エルを支援するアメリカとの対立も激化している
ぎを削るといった情勢で中央政府の力は地方には
ことなどを説明する。こうして宗教対立の面もあ
及んでいないことを指摘する。そしてそれはなぜ
ることを指摘しておく。
かと質問する。アメリカは基本的に空爆と少数の
以上のように、生徒たちは地勢や宗教が戦争に
特殊部隊の投入ですませ、北部同盟などの反タリ
大きく関係していることを理解することになる。
バーン勢力(民族対立)を利用して勝利したので
おわりに
あり、多数の陸上兵力を送り本格的に占領したの
ではない。国土の大半が4000m以上で、6000m以
冷戦が終了し、現代の国際軍事情勢はアメリカ
上もかなりある険しい山岳地帯であることがアメ
が圧倒的な軍事力を保持し、ロシア、中国などは
リカにとっての大きな障害となっていることを指
経済的な力を蓄えることに力を注ぎ、アメリカと
摘する。山岳用の特殊な装備、特殊な訓練をして
はなるべく対立しない方針をとっている。まさに
いる特殊部隊しか投入できないことを生徒たちは
アメリカの一極支配である。しかし、EUは必ず
理解するだろう。このように土地のありかた・地
しもアメリカのいいなりにはならないし、ロシア、
勢が戦争に非常に大きな意味を持たせることに気
中国も本心から従っているわけではない。そこに
づかせる。
イスラムをめぐっての激烈な対立がイスラエルに
そして同じ地図でベトナムをさがさせる。この
からんで存在している。イラク、イラン、リビア
地域の地勢はどうか質問する。
「緑だから熱帯かそ
などの動きがアメリカにとっては神経を逆なです
れに近い気候で雨が多く、ジャングルが多い」と
るものであり、9.11テロ以来アメリカはイラク
いう答えが多いのではないか。そこでかつてのベ
などを何をするかわからない国家だと見ている。
トナム戦争では、世界最強であるはずのアメリカ
何をするかわからない国家という意味では北朝鮮
軍は、ジャングルに逃げ込んで襲撃してくるゲリ
も同じであり、アメリカはこれらの国の大量破壊
ラに苦しめられ、ベトナムのジャングル自体をな
兵器を何としても破棄させようとして、国連安保
くしてしまおうとしたと説明する。そしてついに
理の決議さえ必ずしも必要としないという態度を
アメリカはベトナムから撤退、つまり敗北したこ
とっている。これは強大な軍事力を持つアメリカ
とも説明する。社会主義イデオロギーの勝利とい
の横暴なのか、それとも正当なる義務観から出た
うより、ベトナム民族が地勢を上手に使って勝利
ものなのか。それを生徒たちとともに見ていきた
したと見ることもできる。
い。
̶ 17 ̶
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