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2章 現状と課題
2章 1 現状と課題 相模湾沿岸地域の特徴 相模湾沿岸地域は、良好な居住地と魅力的なレクリエーションゾーンという両面を 兼ね備えている。その自然や歴史文化、景観はかけがえのない地域資源であるが、1960 年代以降の開発等により失われ、また、変化を余儀なくされたものが多い。しかし、 時代の変化とともに、この地域資源が改めて見直されており、今まで以上にその良さ を守り育てていくことが求められている。 相模湾沿岸地域の特徴について、 「地域資源の保全、活用と発信」の観点から整理す ると次の3点をあげることができる。 豊かな地域資源 の集積と良好な 住環境・レクリ エーションゾーン 首都圏の人々に 親しまれる海 活発な市民活動 湘南海岸(江の島) (1) 豊かな地域資源の集積と良好な住環境・レクリエーションゾーン 相模湾沿岸地域は、温暖な気候と豊かな自然環境に恵ま れている。また、東京に近いという立地条件や、古都鎌倉、 城下町小田原、東海道の歴史文化に加えて、明治時代から 文化人や富裕層の生活の場、保養の場として発展してきた ことが、この地域独特の文化的な色彩を顕著にした。 明治時代以降、この地域は我が国の近代化の過程におい て、鉄道や道路などが先行的に整備され、戦後には都市化 相模湾沿岸地域の別荘建築 (旧前田侯爵家の鎌倉別邸、現在鎌 倉文学館) が急速に進んだ。 こうした中で、別荘・保養地や観光・レクリエーション ゾーンとして海に近く、文化的でしゃれた地域イメージが、 人々の中に受け継がれてきた。 このように相模湾沿岸地域では、多彩な地域資源の集積 と継承が行われ、全国的にみても恵まれた特徴を有する良 好な住環境・レクリエーションゾーンのイメージを持つ地 域となっている。 5 (2) 首都圏の人々に親しまれる海 首都圏の住民にとって、交通の利便性が高い相模湾の海 は親しみがあり、海水浴や釣り、サーフィン、ヨットなど を楽しむレクリエーションゾーンである。その意味で、相 模湾は首都圏の内海のような身近な存在である。 また、「太陽族」や「湘南サウンド」などに代表される 「湘南文化」は、この海で遊んだ記憶と一体となり、相模 湾の海に対する親しみをより深いものにしている。 一方、相模湾沿岸地域に生活する人にとって海は生活に 身近な存在であり、漁業や観光の場であるだけではなく、 別荘や保養所が多数建てられてきた歴史が示すように良 好な住環境のイメージを構成する重要な要因である。海を 感じて生活することが、この地域で生活する人にとってか けがえのない魅力となっている。 湘南でのサーフィン (3) 活発な市民活動 相模湾沿岸地域では海、みどり、歴史文化、景観などに 関心を持つ人が多く住み、市民活動が活発である。鎌倉を はじめ各地で多くの市民活動が地域資源の保全に重要な 役割を果たしてきており、これによって魅力が向上した地 域資源も数多く見られる。 身近な地域資源の存在を快適と感じるライフスタイル を持つ人々にとって、このような市民活動が活発であるこ 市民活動団体による旧別荘を巡るま ち歩き とも、相模湾沿岸地域の魅力を形成する一つであると考え られる。 市民活動の活発化はある程度全国で見られる傾向であ る。しかし、特に相模湾沿岸地域で地域資源に関する活動 が活発な背景としては、恵まれた自然環境や東京に近い立 地条件、鎌倉や小田原に代表される中世からの都市文化、 さらに明治時代以降の別荘地の文化などを通して育まれ た地域性が無視できない。 豊かな自然環境を利用した環境学習 6 地域資源 の種類 ① 自然系地域資源:地域の魅力をつくる自然とその景観 ② 歴史文化系地域資源:地域の魅力をつくる歴史文化とその景観 ③ その他の景観的地域資源:地域の魅力をつくる眺望やまちなみ ④ 特徴ある観光資源:自然、歴史文化、景観をテーマにした観光資源 ⑤ 特徴ある観光施設:それ自体が地域の魅力となる観光施設 三浦半島沿岸ゾーン 自 湘南沿岸ゾーン 西湘沿岸ゾーン 然 荒崎の岩浜 砂浜が続く湘南の海岸 県立真鶴半島自然公園 鎌倉大仏 旧モーガン邸*1 復元された小田原城 湘南国際村からの富士山の 眺望 旧南湖院からの富士山の眺 望*2 曽我梅林からの富士山の眺 望 油壺マリーナ 片瀬西浜海水浴場*3 真鶴半島の遊覧船*4 歴史文化 景 観 観 光 出典(本頁の写真) *1 写真提供:財団法人日本ナショナルトラスト *2 写真提供:まち景まち観フォーラム・茅ヶ崎 *3 写真提供:財団法人神奈川県公園協会 *4 「真鶴半島遊覧船」パンフレット 7 地域資源の分類体系 ① 自然系 地域資源 (自然と景観) 自然公園 国立・国定 ③ その他の 景観的 地域資源 県立 自然環境保全地域 景勝地 眺望地点 特徴あるまちなみ景観 歴史系 (眺望やまちなみ) 近郊緑地保全区域 自然海岸・河川 景勝地 砂浜 現代系 特徴ある展望 礫浜 岩浜 ④ 特徴ある 観光資源 河川 山 自然的名所 ホタル生息地 温泉(温泉地) 都市公園 主要都市公園 釣場(海/川) 干潟・藻場 干潟 名産 すぐれた自然・地形 花の名所 工芸品 藻場 郷土料理 哺乳類 特産品:味覚 鳥類 は虫類 ⑤ 特徴ある 観光施設 両生類 特徴ある観光施設 朝市/直売所 淡水魚 遊園地 昆虫類 漁港/港湾 特定植物群落 特徴ある交通施設 地形・地質 湖沼・滝 池 美林・名木 美林 海水浴場 特徴ある レクリエーション施設 マリーナ等 名木 ボードウォーク 探鳥地 体験観光 観光農園等 名水・湧水 地引網 香りの風景 ② 歴史文化系 地域資源 電車(江ノ電) 遊覧船/渡し 船 滝 自然的スポット 展示観覧施設 ウォーキングコース ハイキングコース 歴史的風土保存区域 史跡・名勝 (歴史文化と景観) 史跡 名勝 天然記念物 その他史跡等 歴史的建造物等 建築物 工作物 近代建造物 主な灯台 古道・旧街道 ※地域資源の分類体系は、「相 旧街道 模湾沿岸地域保全等構想の策 古道 民俗 学芸 定に係わる地域資源調査報告 有形 無形 書 文学 2 地域資 る。なお、「資料編-□ 史話 神奈川県 2005.3」によ 源と市民活動の特徴」に概要 昔話 を記載した。 うた 8 2 これまでの取組み 相模湾沿岸地域では地域資源の保全と活用について、歴史的風土保存区域や風致地 区、近郊緑地保全区域、自然公園など、施策的な取組みが積み重ねられてきた。その 中から、本構想の策定にあたって踏まえるべき施策を整理すると次の3点が重要であ る。 沿岸地域に おけるこれ までの主な 計画・施策 湘南なぎさプラン 海・浜の秩序ある利用計画 「サーフ’90」の開催 サーフ’90 (1) 相模湾パトロール隊 湘南なぎさプラン 1960 年代以降、都市化の進展に伴うみどりの減少、国道 134 号 の慢性的な交通渋滞、海水浴場の水質汚濁など湘南海岸のイメー ジを著しく傷つける事態が深刻化してきた。湘南海岸地域が直面 している様々な課題を解決し、新しい時代に向けて自然と対話で きる地域環境を創造するため、藤沢から大磯までの約 19kmの地 域を対象として、1985 年に湘南なぎさプランが策定された。 湘南なぎさプランは、相模湾沿岸地域のくらしにおける海との かかわりの回復を意図する計画であり、自然環境の保全と居住環 境・既存公共施設等のレベルアップを目的として施策を位置づけ ている。特に国道 134 号と公園の整備が進められた。 策定にあたっては、各種の県民参加が促進されたこともあって、 海や海岸の環境自体とともに、その利用調整が課題として位置づ けられた。 (2) 海・浜の秩序ある利用計画 経 済 成長 によ っ て生 活に ゆ とり が生 じ 、海 岸で の 多様 なレ ジャーが活発化し、その結果、プレジャーボートと漁業者との調 整などの新たな秩序形成が求められることとなった。そこで、1988 年に「海・浜の秩序ある利用計画」 (対象範囲:横須賀市観音崎∼ 湯河原町千歳川河口部)が策定された。 この計画は、相模湾沿岸域の様々な利用を調整し、将来の海洋 利用ニーズに対応するための、海面と海浜の新たな利用秩序の創 造を目的とする総合利用調整指針である。 9 この中で、漁業関連施設や海洋レクリエーション施設(マリー ナ)の整備が進められ、海岸の自然環境・景観の保全等の施策が 明確に位置づけられた。特に、相模湾沿岸の各地域ごとに、利用 調整の整備(システムの構築と付帯施設の整備)が位置づけされ、 海の総合的イベントの開催が提案されている。 (3) 「サーフ’90」の開催 「サーフ’90」は、「相模湾アーバンリゾートフェスティバル 1990」の略称で、1990 年4月から 10 月まで相模湾沿岸の 13 市町 を舞台に開催された海の総合イベントである。このイベントは地 域の課題を解決するための糸口、きっかけをつくるために、イベ ントという方式を使って、人と海とが共生していくために 21 世紀 に向けてこの相模湾で何をすべきか、何ができるのかを追求する 目的で開催された。 「サーフ’90」でイベントを主催し、あるいは参加した団体や 市民の多くは、それを契機に活動を活発化したり、体制づくりを 行った。このイベントや翌年設立された(社)サーフ 90 交流協会 の活動を通じて、平塚のビーチセンターや茅ヶ崎のボードウォー クの整備、ライフセービング活動の普及、海・浜の利用調整ルー ルづくりなど多様な成果のほか、(財)かながわ海岸美化財団も生 まれている。イベント支援事業においては、ボランティア清掃を はじめとして現在の市民活動のきっかけとなったものも多い。 また、これを契機として、同年8月、本県は、相模湾沿岸 13 市 町とともに、オーストラリア・ゴールドコースト市と友好提携を 締結し、様々な分野での交流を行っている。 広報誌:「THE SURF」 (社)サーフ 90 交流協会によるイベント支援事業 出典(9,10 頁の写真):「潮路」(社)サーフ 90 交流協会、1999.3 10 3 社会環境の変化 相模湾沿岸地域を取り巻く社会環境の変化は、1990 年代になって顕著になったが、 そのうち本構想策定において特に重要であると認識したものは次の3点である。 社会環境の 変化 価値観の多様化と環境に配慮する意識の定着 社会資本整備のあり方と意識の変化 市民活動の活発化と定着 (1) 価値観の多様化と環境に配慮する意識の定着 「湘南なぎさプラン」から「サーフ’90」に至る時代は、バブ ル経済の高揚とその終焉、そして、現在の成熟社会へ転換する時 期にあたる。 「湘南なぎさプラン」から「サーフ’90」までの計画 もまた、いわゆる量から質へ、さらには多様な質が求められる時 代へと社会の価値観が移行する中で立案推進された。そして、各 種の事業が生活環境としての海や海岸に着眼し、その環境の質(快 適性)をテーマにして、様々な市民参加を試みながら実施されて いる。 この社会の構造的な変化は、1990 年代後半になると顕著になり、 特に環境問題は社会の存続と持続的発展にかかわる必要不可欠な 今後の生活の力点の推移(全国) % 40 レジャー・余暇生活 レジャー・余暇生活が 住生活を逆転(83年) 食生活が住生活 を逆転(01年) 30 食生活 20 住生活 10 耐久消費財 衣生活 0 73 75 80 85 90 95 96 97 99 01 02 03 04 05 年 出典:「国民生活に関する世論調査」内閣府、1973∼2005 を加筆修正 11 課題として認識されるようになった。そして、身近な自然や歴史 的な景観、まちなみに対する関心が急速に高まってきた。 また、成熟社会の進行に伴い、価値観の多様化、あるいは、個 人を大切にする傾向が強くなり、それとともにボランティア活動 などの社会への参加の幅が拡大した。公共事業の実施においても 地域の合意形成が大きな課題になり、市民参加が重要な施策とし て位置づけられるようになった。 (2) 社会資本整備のあり方と意識の変化 成長社会から成熟社会へと時代の大きな転換期を迎え、 「物の豊 かさ」から「心の豊かさ」が求められる時代になった。成長社会 では、社会資本をはじめ、あらゆる分野のモノやサービスを量的 心の豊かさ・物の豊かさの推移(全国) % 60 心の豊かさ 40 物の豊かさ 20 どちらともいえない 0 73 75 80 85 90 95 96 97 99 02 年 出典:「国民生活に関する世論調査」内閣府、2004.6 を加筆修正 に確保していく必要があったが、それらが一定の水準に達した成 熟社会では「個性・多様性・価値観」を大切にした質が強く意識 されるようになり、まちづくりにあたっても、効率性や利便性だ けでなく、美しさやうるおい、やすらぎ、さらには地域の個性や、 先人から受け継いだ歴史や文化を伝える景観などに配慮すること が、これまで以上に強く求められるようになった。 相模湾沿岸地域には、旧別荘などの歴史的な近代建造物が多く、 それらが地域資源の重要な一分野を占めている。歴史的価値の高 い邸宅や庭園は、まちのシンボル、身近なみどりの拠点として、 地域の魅力や良好な景観の形成に大きな役割を果たしている。 このようなことから、歴史的価値のある近代建造物等を相模湾 沿岸地域の共有財産として、いわば、 「公共財」として位置づけな おし、保全を進めるという新たな考え方も打ち出されている。 12 (3) 市民活動の活発化と定着 市民活動が活発になると、その活動の過程で人とのつながりを 深めることがある。特に、地域資源を対象にした活動は居住地域 に近いこともあり、ちょうど、昔の地域社会において道普請で皆 がともに汗を流すことで共同性が形成されたように、地域資源に かかわることを通して、その地域における一体感を生み出すこと がある。 したがって、地域資源を対象とした市民活動の活発化は、この ような共同性を認識することで、地域の再生・新生をめざした新 しいタイプの地域コミュニティ形成に役立つと考えられる。この コミュニティは従来型の地縁的なものと多くの点が異なり、新し い時代に応じた人のつながりとなると考えられる。 こうしたことから、市民活動を活発化することは、新しい社会・ 人間関係を再構築する効果があり、それはこれからの地域づくり に大いに資すると考えられる。 活動への参加のきっかけ(全国、2002 年) NPO法人の認証数 (累計)の推移 0% 19,963 20,000 (全国) 14,657 15,000 9,329 10,000 5,625 5,000 3,156 1,176 0 99 00 01 02 03 04年 ボランティア・NPO・市民活動 団体 540 500 30歳 代 204 15.2 23.8 31.9 54.5 17.0 27.3 18.2 66.7 20歳 代 14.3 20歳 代 メンバーに 勧誘されて 59.2 68.8 12.0 28.0 73.5 16.1 34.5 60歳 代 6.1 慣習・ルール として 12.5 14.5 40歳 代 27.3 26.5 18.8 30歳 代 6.7 30.2 51.1 40歳 代 18.1 30.3 46.0 50歳 代 100% 33.3 54.5 60歳 代 50歳 代 351 80% 28.6 自身の関心や 必要性による 地縁的な活動 858 60% 60.0 70歳 代 1,186 (神奈川県) 40% 53.3 全体 団体 1,000 20% 55.9 20.4 45.1 78 70歳 代 0 99 00 01 02 03 04年 出典:内閣府及び神奈 川県県民部調べ 41.7 25.3 全体 0% 27.8 17.8 20% 30.6 56.9 40% 60% 80% 100% 出典:「国民生活白書」内閣府、2004 を加筆修正 13 4 解決すべき課題 相模湾沿岸地域の特徴や近年の社会環境の変化についての認識に基づいて、沿岸地 域において「地域資源の保全、活用と発信」を図るために解決すべき課題を整理した。 ・地域資源を大切にする意識の共有 ・自然の地域資源の課題 例:海岸侵食 海岸や川の美化 水辺・浜辺のみどりの保全 ・歴史文化の地域資源の課題 例:身近な資源や文化の再発見 旧別荘などの近代建造物 と庭園の保全 ・景観にかかわる地域資源の課題 例:景勝地や眺望 沿岸地域らしい景観の保 全 (1) 地域資源の 保全と継承 地域資源の 活用と まちづくり 市民・事業者と協働・連携 するための方策 ・観光や産業の展開による地域 資源の魅力向上 例:地産地消 地域資源を生かしたま ちづくり ・地域づくりにおける市民活動 と連携した事業の展開 例:市民活動の交流・連携 地域資源の保全と継承 地域資源を大切にする 意識の共有 相模湾沿岸地域は、豊かな自然環境、貴重な歴史文化、特筆す べき景観に恵まれ、首都圏において独特な地域特性を有し発展し てきた地域である。 しかし、主に戦後の経済成長期には、都市化が進んだ反面、多 くの自然環境や歴史文化などの地域資源が失われ、地域の景観も 大きく変化した。 その後の社会環境の変化の中で、環境に質を求める時代に入っ た現在は、今残る自然環境や歴史文化などの地域資源を、県民共 有の財産として守り、生活や産業の中で生かしていくことが重要 である。また、今ある地域資源を再評価し、県民や事業者の間で 認識を共有し、その価値を向上させることにより、開発等にあたっ て、自然や歴史文化、景観などの地域資源への配慮を確保するプ ロセスが重要である。 自然の地域資源の課題 自然の地域資源については、海や海岸、川やみどりの保全が重 要であり、自然の保全、再生には、状態を観察し変化を測定する ことが基本となる。 海岸では砂浜の減少、海岸の美化、自然生態系の保全、水質改 善などへの対応が必要となっており、市民の関心も高い。川やみ どりについては、水辺・浜辺のみどりの保全、小動物の生息環境と なる里山のみどりの保全・再生が課題となっている。海と川は連 続した環境を形成していることから、連携した対策が必要である。 また、相模湾は、江戸時代から定置網漁業が盛んで、漁業資源 が豊富な海であるが、近年資源が減少しておりその回復が課題と なっている。 14 こうした課題への対処の実施によりどのような効果が現れるか については、どのような手法を選択するかや自然の条件によって 大きく左右される。また、現在の科学的知見では将来の自然環境 に及ぼす影響を正確に把握することには限界がある。そのため、 対処の実施と並行して、実施に伴う自然環境の状況を把握しなが ら実施事業の評価・見直しを行う必要がある。 このため、相模湾沿岸地域全体の自然環境の保全、再生を行う ためには、実施事業の評価・見直しを行い、行政だけでなく県民、 事業者などと協働・連携して推進することが求められている。 海岸侵食への対応 相模湾沿岸地域を特徴づける海岸においては、侵食対策が重要 な課題となっている。これまでも様々な対策を講じてきたが抜本 的な解決には至っておらず、2004 年5月には相模灘沿岸海岸保全 基本計画を策定し、海岸の防護、環境、利用の調和のとれた総合 的な対策を進めている。 歴史文化の地域資源の 課題 史跡、歴史的建造物、民俗などの歴史文化の地域資源について は、その資源や文化を保全、活用し、継承することが重要であり、 資源のリストアップやその価値を顕彰し、特徴的な資源を活用し た地域づくりが基本となる。 そのため、市民参加等により具体的に保全する方策を検討する 必要がある。例えば英国のナショナルトラストのようなしくみや 米国における利用権の買い上げ、運営における市民パワーや民間 活力の導入などを参考にしながら、旧別荘などの近代建造物と庭 園を相模湾沿岸地域の公共財として改めて位置づけ直し、その保 全のあり方について検討していくことが求められている。 景観にかかわる地域資源 の課題 相模湾沿岸地域の景勝地や眺望の保全、まちなみのまとまり形 成、市街地や海岸等におけるゴミ、放置艇、落書きや屋外広告物 等の問題は重要であり、景観形成にとって課題となっている。 景観は、主たる対象だけ良くすれば全体が良くなるというもの でなく、景観を良くするためには、広域的な調整を行うことが課 題となり、多くの人がその内容を理解できる方策や、保全のため の活動をサポートするしくみが重要である。 (2) 地域資源の活用とまちづくり 観光や産業の展開による 地域資源の魅力向上 相模湾沿岸地域は良好な住環境イメージを持つ一方で、その利 便性により首都圏の住民をはじめ多くの人々が訪れる全国でも有 数なレクリエーションゾーンである。 15 海洋レクリエーションの拠点としての海、ハイキングコースと もなる山、歴史文化を感じる寺社など様々な観光資源がある。ま た、水産業、農業、特産品など相模湾沿岸地域の自然、歴史文化 を生かした産業もある。こうした資源、産業については、地域の 生活環境との調和を図りながら、それにかかわる漁業者や事業者 等と協働・連携して活用、振興することが期待される。これらの 取組みが、その価値を広く人々に伝えることとなり、その魅力を 高め、地域資源の保全、活用につながると考えられる。 また、温暖な気候や東京に近い立地条件に加えて、多彩な資源 を持つこの地域の良さを全国に向け、さらに発信していく必要が ある。 (3) 市民・事業者と協働・連携するための方策 地域づくりの方向 社会環境の変化は、地域づくりのあり方に変化をもたらし、現 在は、その渦中にある。 既存施設を保全・利活用し、それを軸として地域社会の形成を 図る方策へ比重を移していくことが必要となる。そのために民間 活力の導入、民との協働・連携を進めていくことが重要である。 地域づくりにおける 市民活動と連携した 事業の展開 市民活動の過程や成果は、市民が生きがいをもって地域でくら すことに寄与する面が大きい。また、市民活動の活発化は、新し いコミュニティの形成にも役立つ可能性が高い。このように、市 民活動は、地域社会の基盤形成に寄与するものであり、地域づく りにおける市民活動の役割を明確に位置づけることが重要である。 市民活動の交流・連携 海岸、川、みどり、旧別荘などの近代建造物は市町域を超える 相模湾沿岸地域を特徴づける資源であり、そうした資源を対象と した活動を結びつける場の提供が求められる。 また、地域資源を対象とした市民活動の活発化にあわせて、多 くの県民が活動に参画できるような情報提供のしくみをつくる必 要がある。 多様なライフスタイルの 提案 相模湾沿岸地域には、自然、歴史文化、景観など多彩な資源が あり、レクリエーションゾーンとして多様な場を提供している。 また、市民活動も、歴史的遺産や旧別荘などの近代建造物を活用 したイベントの開催、海岸・道路・河川の美化活動、里山の保全、 景観やまちづくりに関するフォーラムや学習会の開催など、種類 が多様なだけではなく、量的にも大変活発に行われている。 16