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鋳物産業を取り巻く経営環境変化への対応に関 する調査

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鋳物産業を取り巻く経営環境変化への対応に関 する調査
鋳物産業を取り巻く経営環境変化への対応に関
する調査研究
平成 18 年 3 月
財団法人
委託先
産業研究所
みずほ情報総研株式会社
要
1.
鋳造産業の現状
1.1
鋳造技術の特徴
約
鋳造技術は、幅広い技術的知見といわゆる「暗黙知」を必要とすることが多い。このた
め、従業員が技術を身につけ「一人前になる」まで長い年数を必要とする。
1.2
鋳造産業の概要
鋳造産業は、我が国基幹産業への部材の供給産業として重要な役割を担っている。産業
構造としては比較的事業所規模が大きい業種も見られるものの、総じて中小企業性が強い。
最大のユーザーは輸送機械であり、全需要の 6 割以上を占める。
2.
鋳物ユーザー産業の動向とニーズの変化
2.1
活況を呈する国内生産
輸送機械の付加価値生産額は 2000 年以降堅調に伸び続けている。一般機械、電気機械
の付加価値生産額は 2001 年に大幅に減少したものの、2002 年以降急速に伸び続けている。
2.2
進展する生産のグローバル化
ユーザー産業の生産のグローバル化はさらなる進展を見せている。1980 年には売上高ベ
ースで 5%程度に過ぎなかった輸送機械、一般機械、電気機械の海外生産比率は、2003 年
には輸送機械が 30%強、一般機械が 10%強、電気機械は 25%弱に達している。
2.3
取引関係の変化
企業間の取引関係のネットワークは、垂直的なものから、メッシュ構造ともいうべき状
況になりつつある。このため、事業者間の技術シーズとニーズに関する情報の非対称性が
顕在化し、必要以上に事業活動に伴うリスクが高まっている可能性も指摘されている。
2.4
ユーザー産業の鋳物に対するニーズの変化
ユーザー産業の国内での生産は近年活況を呈していることから、鋳物需要も伸びている。
また、ユーザー産業の生産のグローバル化はさらなる進展を見せており、鋳物についても
グローバル調達のニーズが高まっている。さらに、ユーザー産業は製品の付加価値向上を
図るため、軽量化、複雑形状化など鋳造技術のさらなる向上を鋳造メーカーに求めている。
3.
鋳物生産及び経営の現状
3.1
生産量等の推移
世界主要国の鋳物生産量の推移を見ると、中国の急激な伸びが目立つ。一方、我が国鋳
造産業は、出荷額、事業所数、従業者数のいずれも減少傾向が続いている。
3.2
経営状況
鋳造産業の利益率、製品単価は、ここ数年のユーザー産業の活況に伴う受注量の増加を
受けて、上昇傾向にある。しかし、長期的なデータの推移を見ると、鋳造産業の景気回復
はいまだ途上である。
3.3
海外展開の状況
我が国鋳物メーカーの海外展開状況を見ると、1990 年代後半にアジアを中心に現地法人
の設立が集中している。ただし、その半数は大企業によるものであり、業界の中核をなす
中小企業の海外展開の事例は限られているのが現状である。
4.
技術開発及び人材確保・育成の現状
4.1
我が国鋳物産業の国際競争力
我が国の鋳造産業は品質、納期に強みがあり、米国、欧州、アジアに比して競争力が高
いとされている。
4.2
技術開発の現状
鋳造産業は資本集約型産業であり、設備投資負担が大きい技術開発への取り組みは容易
ではない。しかし、技術開発の流れに対応していくためには、もはや従来のような優秀な
熟練技能に依存した方法では限界があり、設備投資と優秀なエンジニアの確保が不可欠な
要素となりつつある。
4.3
人材確保・育成の現状
深刻な人材確保難と高齢化問題が多くの鋳物メーカーから指摘されている。若者の確保
が困難である要因の1つとして、粉塵や騒音・振動など厳しい作業環境が挙げられる。さ
らに、エンジニア人材の確保難の背景として、金属に関する講座を設けている大学が大幅
に減少している点が指摘されている。
5. 鋳物の取引慣行に係る課題
5.1
単価の決定方式
鋳物の取引においては、製品の重量を基準として価格が決められることが少なくない。
重量取引慣行は、鋳物メーカーの技術高度化のインセンティブを減じさせるだけでなく、
経営体力を弱めるものであり、長期的にはユーザーにとっても大きなマイナス要因となる
ものである。両者の発展のためにも、この商習慣の早期見直しが図られることが望ましい。
5.2
模型の保管コスト
鋳造に用いる模型は、当該製品の生産が終了してもなお、鋳造メーカーはユーザーから
の要請によって長期間保管を求められることが多い。しかも、保管料が鋳造メーカーに支
払われる例は少なく、保管管理コストは鋳造メーカーにとって大きな負担となっている。
5.3
東アジアにおける取引慣行(参考)
東アジアにおいては、「我が国よりも全般的に支払条件はいい」、「対等のパートナーと
しての正当な評価を得られる」との回答が多く見られるなど、国内よりもむしろ取引条件
が良好であることがうかがえる。
6.
鋳物産業を取り巻く経営環境変化への対応に向けた今後の対応
6.1
さらなる技術開発と提案型営業の展開
我が国鋳造産業が今後も高い国際競争力を維持していくためには、新たな技術開発を進
め、ユーザーからの信頼感を高めていくことが重要である。我が国鋳造産業は中国と同じ
土俵で勝負し続けるのではなく、鋳造工程における暗黙知を解明し、革新的な鋳物づくり
を目指していくことが望まれる。
また、従来のような受身型の営業と開発では、ユーザーが求めるスペック、納期を実現
することは難しくなっている。今後、鋳物産業は、ユーザーの開発段階から参加し、積極
的に提案しながら、頻繁にユーザーニーズと自社の技術の摺り合わせを重ねることによっ
て、ユーザーニーズを実現するとともに自社の生産性向上を実現する、ベストな鋳物づく
りを実現していくことが望まれる。こうした提案型の営業と開発を進めていく上で IT は重
要なツールであり、今後さらなる普及が望まれる。
6.2
取引慣行の改善
商慣行の改善については、鋳物メーカーが個別に解決することは容易ではないため、業
界団体がユーザー産業に対して積極的に働きかけていくことが重要である。
その一方で、鋳造メーカーとしても改めるべきことは少なくない。商慣行見直しのため
には、鋳造メーカーが提供している付加価値を定量的にユーザーに示すための努力が望ま
れている。また、鋳造業界の「古い体質」について改め、不良率の低減や、マーケティン
グ能力の強化に注力していくことが求められる。
6.3
海外で儲ける仕組みの検討
我が国のものづくりのあり方が、従来のフルセット型産業構造から東アジア諸国との分
業構造に移行しつつある中、鋳造産業としても「海外で儲ける仕組み」について真剣に策
を講じなければならない段階に来ている。国内にとどまる場合であっても、自己の能力を
適正に評価するために情報を収集する、または低付加価値品の外注先として活用するなど、
何らかの形で関係を有することが必要である。
6.4
これからの成長産業への供給
環境、リサイクル、医療、福祉といった様々な分野で日本経済の発展をリードする新た
な産業の登場が期待されている。この新市場の中で、鋳物の備えている様々な特性をアピ
ールし、新たな需要創成につなげていく取り組みが求められる。
6.5
人材の確保と育成
人材確保だけでなく生産性の向上のためにも、工場のクリーン化を推進していくことが
望まれる。人材育成については、大学等との連携を前提とした製造中核人材育成プロジェ
クトの活用を活発化させていくほか、IT の活用が重要である。
6.6
鋳造産業の社会的地位の向上
鋳造産業に係る課題の多くは、産業の社会的認知度が十分に高くないことが遠因である。
産業とその職業としての魅力や重要性とダイナミズムを的確に社会に伝えるための研究や
各種メディアを通じたイベント等を行うことが一つの対応策であるが、鋳造産業自身が常
に解決のために取り組み続けることが基本である。
6.7
業界団体の活動強化
業界団体に求められる役割はますます重要となっている。業界団体の活動を強化してい
く上では、将来のあるべき姿を明確に描き、これを達成するための計画の策定、既存事業
の評価、見直しを含めた全体事業のプライオリティ付けなどを行い、業界団体自身が会員
に対して活動への理解と積極的な参加を求めていくことが必要である。
6.8
政府の役割
政府は、鋳造関連の教育・研究機関へのてこ入れや、税制面での配慮を行うことに加え、
取引に際してのガイドラインや望ましいベストプラクティスを示すなど、商慣行の改善を
促していくことが求められる。こうした施策を展開していく上では、今後、政府と、鋳造
業界・ユーザー業界との間で双方向性のある情報交換が持続的に行われていくことが期待
される。
はしがき
我が国の鋳物産業は、自動車産業や機械産業などの基幹産業が使用する部材
の供給事業者として、高品質で低コスト製品の安定供給に努めながら、これら
の産業の国際競争力の維持に大きく貢献してきた。
しかしながら、鋳物産業は、このように重要な役割を担いながらも、その殆
どが中小企業で構成されており、経営基盤は極めて弱い構造となっている。こ
うした中で、鋳物産業は、一昨年からの鋳物の原材料であるコークス、銑鉄及
びスクラップの不足や高騰の影響を受けるとともに、販売製品価格の転嫁の困
難化やユーザー産業の鋳物製品の内製化の動きもあり、鋳物産業を取り巻く環
境は、急激に変化してきている。
原材料問題については、(財)産業研究所の 16 年度調査研究「鋳物用原材料
問題に関する調査研究」において、コークス、銑鉄等についての安定供給策の
検討及びコークスに代替する溶解技術の可能性の検討が行われたところである。
このように、鋳物産業の川上に係る課題(原材料問題)については、ある程
度の整理がなされた一方で、川下との関係での課題(ユーザー産業の動向予測、
取引環境の改善など)については未だ整理されていない。
本調査研究は、こうした状況を踏まえ、鋳物用原材料調査の次のフェーズと
して(1)ユーザー産業の動向、(2)我が国鋳物産業の国際競争力、(3)改
善すべき鋳物の取引慣行等について調査・検討を行うことにより、我が国の鋳
物産業の安定発展に資することを目的に実施した。
調査・検討を進めるにあたっては、鋳造業界、ユーザー業界の関係者、及び
有識者からなる委員会(委員長:渡辺幸男
慶應義塾大学経済学部教授)より
ご指導ご鞭撻を賜ったほか、技術ワーキンググループ(座長:中江秀雄
早稲
田大学理工学部教授)を設置し、経営問題を踏まえた上での技術開発の方向性
についてもご意見を賜った。さらに、中国、ベトナムにおける鋳物メーカーの
商慣行の状況等についてヒアリングを実施し、我が国との比較材料を収集した。
本報告書が、些かなりとも関係各位のご参考に寄与すれば幸いである。
平成 18 年 5 月
みずほ情報総研株式会社
代表取締役社長 小原 之夫
鋳物産業を取り巻く経営環境変化への対応に関する
調査研究委員会
委員名簿
委員長
渡辺幸男
慶應義塾大学
経済学部
岩田芳彦
ヤマザキマザック株式会社
大亀右問
株式会社大亀製作所
兼村智也
松本大学
国兼寿章
日産自動車株式会社
教授
資材部
国際購買課
代表取締役社長
総合経営学部
助教授
生産技術本部パワートレイン生産技術部
須崎耕二
株式会社須崎鋳工所
高橋
株式会社アーレスティ
新
長坂悦敬
甲南大学
経営学部
中道雅忠
アイシン高丘株式会社
次長
部長
代表取締役社長
代表取締役社長
教授
常務取締役
生技開発部
ものづくり研修センター担当
西岡弘雄
自動車鋳物株式会社
堀江尚男
株式会社岡本
渡邉博美
株式会社小松製作所
執行役員
鋳造技術部長
常務取締役
購買本部
鋼材・足廻り調達部
鋼材・素形材担当部長
(敬称略・五十音順)
技術ワーキンググループ
委員名簿
委員長
中江秀雄
早稲田大学理工学部
明石
社団法人日本非鉄金属鋳物協会会長
巌
教授
(株式会社明石合銅会長)
菅野利猛
株式会社木村鋳造所
開発部
部長
酒井英行
株式会社キャスト代表取締役
長沢聖一
東海精機株式会社取締役社長
西
直美
社団法人日本ダイカスト協会技術部部長
林
壮一
トヨタ自動車株式会社
第2材料技術部
富貴原信
新東工業株式会社
鋳機営業部
三輪謙治
独立行政法人産業技術総合研究所
金属材料室
営業担当部長
サステナブルマテリアル研究部門
総括研究員
(敬称略・五十音順)
目 次
1. 鋳造産業の現状............................................................................................................. 1
1.1 鋳造技術の特徴....................................................................................................... 1
1.2 鋳造産業の概要....................................................................................................... 4
2. 鋳物ユーザー産業の動向とニーズの変化...................................................................... 8
2.1 活況を呈する国内生産 ............................................................................................ 8
2.2 進展する生産のグローバル化 ................................................................................. 9
2.3 取引関係の変化......................................................................................................12
2.4 ユーザー産業の鋳物に対するニーズの変化 ...........................................................13
3. 鋳物生産及び経営の現状..............................................................................................19
3.1 生産量等の推移......................................................................................................19
3.2 経営状況 ................................................................................................................22
3.3 海外展開の状況......................................................................................................26
4. 技術開発及び人材確保・育成の現状............................................................................28
4.1 我が国鋳物産業の国際競争力 ................................................................................28
4.2 技術開発の現状......................................................................................................30
4.3 人材確保・育成の現状 ...........................................................................................31
5. 鋳物の取引慣行に係る課題 ..........................................................................................34
5.1 単価の決定方式......................................................................................................34
5.2 模型の保管コスト ..................................................................................................40
5.3 東アジアにおける取引慣行(参考)......................................................................45
6. 鋳物産業を取り巻く経営環境変化への対応に向けた今後の対応 .................................47
6.1 さらなる技術開発と提案型営業の展開 ..................................................................47
6.2 取引慣行の改善......................................................................................................49
6.3 海外で儲ける仕組みの検討 ....................................................................................51
6.4 これからの成長産業への供給 ................................................................................52
6.5 人材の確保と育成 ..................................................................................................53
6.6 鋳造産業の社会的地位の向上 ................................................................................54
6.7 業界団体の活動強化...............................................................................................54
6.8 政府の役割.............................................................................................................55
1. 鋳造産業の現状
1.1 鋳造技術の特徴
鋳造とは、砂、耐火物あるいは金属などを用いて、耐熱性に優れた砂や金属などで作ら
れた鋳型の空洞に溶融した金属を流し込み、凝固させることで形を得る金属加工法を言い、
鋳造により成形された品物を鋳物という。その技術の歴史は古く、遠く 5,000 年以前に遡
るといわれる。技術的には、溶融金属を鋳込む鋳型の種類によって、砂型鋳造法、金型鋳
造法、特殊鋳造法に大きく 3 種類に分けられるが、鋳造方法によって様々に分類され、そ
の材質によって鋳物はさらに細かく分類される(表 1)。
金属加工法の中でも鋳造の最大の特徴は、液体金属を用いることであり、いかなる複雑
な形状の品物でも一体で成形することができる点にある。この特徴が自動車のエンジンの
ような複雑な製品が鋳物で製造されている主たる理由である。また、使用する原材料も鋼
屑などのリサイクル地金を使用することが多く、リサイクル性に優れた金属加工法として
も位置づけられる。
表 1
各種鋳造法の鋳型による分類とその適用範囲
鋳型の種類
砂型鋳造法
特殊鋳型
鋳造方法
生 型
熱硬化性
ガス硬化性
常温自硬性
金型鋳造法
金属
特殊鋳造法
砂、金属、石膏、黒鉛、耐火物
重力鋳造法
重力鋳造法
低圧鋳造法
高圧鋳造法
重力鋳造法
低圧鋳造法
高圧鋳造法*
層流充填加圧鋳造法*
精密鋳造法
遠心鋳造法
消失模型鋳造法
Vプロセス
適用材質
鉄系
非鉄系
◎
◎
◎
◎
△
○
×
×
○
◎
△
◎
△
◎
△
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
注:◎:一般に用いられる ○:使用例がある △:ほとんど使用されない ×:全く使用されていない
*:これらを総称してダイカストと呼んでいる。
出所:財団法人素形材センター「ものづくりの原点 素形材技術」(日刊工業新聞社)
なお、溶融金属を鋳型に鋳込むという工程は、鋳物の生産工程の一部に過ぎない。表 2
に銑鉄鋳物の生産工程の例を示すが、鋳込みの前後における多岐にわたる工程は鋳物の品
質や生産性を大きく左右する。このため、幅広い技術的知見を必要とする。
しかも型の内部での溶融金属(湯)の流れ、凝固といったプロセスにおける、様々な物
理的・化学的変化は計測が難しい。加えて、いかなる複雑な形状の品物でも成形できるこ
とから、鋳物の形状や肉厚は多種多様であるため、どのような場合にでも通用する共通の
1
欠陥防止策は存在しない。このような難しさから、いわゆる「暗黙知」を必要とする場面
が多く、他の金属加工技術に比べて不良率が高くならざるをえないという点も、鋳造の特
徴として指摘できる。そして、以上のような鋳造の特徴から、従業員が技術を身につけ「一
人前になる」まで長い年数を必要とする例が少なくない(図 1)。
さらに、砂型鋳造法について特に顕著な問題であるが、鋳型に鋳込んだ溶融金属のうち
製品にならない部分が多い、という材料歩留まりの低さも問題点として指摘される。砂型
鋳造法で製品にならない部分としては、
「受口」、
「湯口」、
「湯道」、
「せき」、
「押湯」等があ
り、鉄系鋳物の場合、これらが製品と同じ程度の重量を占めることがある。このように高
い不良率と低い材料歩留まりは、鋳造業界の中核をなす銑鉄鋳物メーカーが慢性的に抱え
ている問題となっている。
表 2
銑鉄鋳物の製造工程の概略
鋳物をどのようにして、どこから溶金をどの位の速さで、何個ずつどのような方法
で鋳込むかということなどを決定する。
2.模型の製作
目的の鋳物図面に忠実に、しかも仕上げ代、寸法許容差、溶金の凝固収縮などを考
慮に入れて、木材、金属、樹脂などでモデルを作る。
3.鋳物砂の調整
鋳型を作るのに最も適した配合で、砂粒に適当な粘結剤や添加剤を加えて混練機中
でよく混練する。
4.鋳型の製作
模型を用い、機械や人力により、目的の形状寸法の空隙部を持つ鋳型を作る。必要
(造型と中子製作) に応じて主型に中子を組み合わせて鋳型を作る。
5.溶解
地金材料を適当に配合して、溶解炉で燃料、電力を用いて溶解し、高温度の溶金を
作る。
6.鋳込み
とりべや湯汲みを用いて、適当な速さで、鋳型の湯口から溶金を注入する。鋳込み
後は適当な速さで冷却する。
7.ばらしと堰折り
凝固後適当な温度で鋳物を取り出し、湯口を除去して、機械や人力で砂落しする。
8.鋳仕上げ
鋳物表面の不必要な部分を研削したり工具で除去して仕上げる。
9.検査と試験
鋳物の外観、寸法、組織や材質などが図面指定に忠実に作られているかを、試験・
検査機械器具を用いて調べる。鋳物に欠陥や不良がないか検査する。
10.熱処理
必要に応じて、鋳物の内応力の除去や材質向上のための焼き鈍しや熱処理を行う。
出所:財団法人中小企業情報化促進協会「技術教育読本シリーズ 銑鉄鋳物」
1.鋳造方案の決定
2
49.0
製品検査
29.3
44.7
電子・電気組立
36.0
31.7
機械組立・仕上
15.9
5.8
4.2
15.1
36.7
25.0
6.7
5.3
65.8
半田付け
20.8
ダイキャスト
37.5
プラスチック成型
41.7
40.8
切削
37.9
22.0
27.8
45.5
35.6
25.3
メッキ
10.0
鍛造
29.9
30.5
36.0
20.0
鋳造
0%
10%
30%
3年未満
図 1
27.6
39.4
20%
16.7
40%
3~5年未満
50%
5.3
23.2
60%
5~10年未満
70%
80%
4.6
90%
100%
10年以上
一人前になるのに要する時間
出所:「ものづくり人材育成調査研究事業報告書」平成 14 年 12 月
図 2
2.5
15.2
42.4
32.9
製缶・溶接
8.4
8.0
41.9
24.7
板金
19.8
30.0
40.4
2.0
8.0
46.0
33.3
プレス
6.2
16.8
36.8
41.2
熱処理
2.9
18.4
44.0
塗装
1.8
27.0
製品にならない部分(銑鉄鋳物)
出所:日本鋳造協会
3
㈱三菱総合研究所
図 3
鋳物メーカーが慢性的に抱えている問題(自動車部品鋳物の例)
出所:日本鋳造協会
1.2 鋳造産業の概要
鋳物の製造を行う鋳造産業も、材質や鋳造法によりその分類は多様である。日本標準産
業分類上では、
「2351
造業」、「2353
銑鉄鋳物製造業(鋳鉄管, 可鍛鋳鉄を除く)」、
「2352
鋳鋼製造業」、「2393
イカストを除く)」、
「2452
「2453
鋳鉄管製造業」、「2451
可鍛鋳鉄製
銅・同合金鋳物製造業(ダ
非鉄金属鋳物製造業(銅・同合金鋳物及びダイカストを除く)」、
アルミニウム・同合金ダイカスト製造業」、
「2454
非鉄金属ダイカスト製造業(ア
ルミニウム・同合金ダイカストを除く)」、の計 8 業種が鋳造産業として分類されている(表
3)。8 業種をあわせた産業の規模としては、2003 年において事業所数 2,514、従業者数約 7
万 5 千人、製造品出荷額等 1 兆 7 千億円となっている(表 4)。
また、産業構造としては鋳鉄管や鋳鋼のように比較的事業所規模が大きい業種も見られ
るものの、鋳造業界で最大の出荷額を占める銑鉄鋳物製造業は 30 人以下の事業所が 7 割以
上を占めるなど、総じて中小企業性が強い(表 5)。
4
表 3
鋳造産業の日本標準産業分類上の位置づけ
大分類 F 製造業
23 鉄鋼業
235 鉄素形材製造業
2351 銑鉄鋳物製造業(鋳鉄管, 可鍛鋳鉄を除く)
2352 可鍛鋳鉄製造業
2353 鋳鋼製造業
2354 鍛工品製造業
2355 鍛鋼製造業
239 その他の鉄鋼業
2391 鉄鋼シャースリット業
2392 鉄スクラップ加工処理業
2393 鋳鉄管製造業
2399 他に分類されない鉄鋼業
24 非鉄金属製造業
245 非鉄金属素形材製造業
2451 銅・同合金鋳物製造業(ダイカストを除く)
2452 非鉄金属鋳物製造業(銅・同合金鋳物及びダイカストを除く)
2453 アルミニウム・同合金ダイカスト製造業
2454 非鉄金属ダイカスト製造業(アルミニウム・同合金ダイカストを除く)
2455 非鉄金属鍛造品製造業
出所:日本標準産業分類
表 4
鋳造産業の規模(2003 年)
産業分類
事業所数 従業者数(人)
銑鉄鋳物製造業(鋳鉄管,可鍛鋳鉄を除
く)
製造品出荷額等
(百万円)
834
25,305
564,909
可鍛鋳鉄製造業
78
4,164
111,214
鋳鋼製造業
84
6,535
133,171
鋳鉄管製造業
58
4,007
139,855
銅・同合金鋳物製造業(ダイカストを除く)
255
4,340
67,307
非鉄金属鋳物製造業(銅・同合金鋳物及
びダイカストを除く)
449
8,255
167,073
アルミニウム・同合金ダイカスト製造業
554
18,603
478,598
非鉄金属ダイカスト製造業(アルミニウム・
同合金ダイカストを除く)
202
4,039
53,142
2,514
75,248
1,715,269
計
出所:工業統計表
5
表 5
従業員規模別工場数及び構成比(2003 年)
銑鉄鋳物製造業 可鍛鋳鉄製造業
計
4~ 9人
10~19人
20~29人
30~49人
50~99人
100~199人
200~299人
300~499人
500~999人
1000人以上
834 (100.0)
287 (34.4)
216 (25.9)
140 (16.8)
80
(9.6)
76
(9.1)
24
(2.9)
5
(0.6)
3
(0.4)
2
(0.2)
1
(0.1)
78 (100.0)
36 (46.2)
17 (21.8)
4
(5.1)
4
(5.1)
8 (10.3)
2
(2.6)
3
(3.8)
3
(3.8)
1
(1.3)
(0.0)
鋳鋼製造業
84 (100.0)
5
(6.0)
1
(1.2)
19 (22.6)
15 (17.9)
23 (27.4)
16 (19.0)
4
(4.8)
(0.0)
1
(1.2)
(0.0)
非鉄金属鋳物製
アルミニウム・同
銅・同合金鋳物
造業(銅・同合金
鋳鉄管製造業 製造業(ダイカス
合金ダイカスト
鋳物及びダイカ
トを除く)
製造業
ストを除く)
58 (100.0)
255 (100.0)
449 (100.0)
554 (100.0)
12 (20.7)
160 (62.7)
251 (55.9)
249 (44.9)
5
(8.6)
48 (18.8)
104 (23.2)
118 (21.3)
10 (17.2)
29 (11.4)
32
(7.1)
72 (13.0)
9 (15.5)
8
(3.1)
29
(6.5)
33
(6.0)
12 (20.7)
5
(2.0)
19
(4.2)
41
(7.4)
5
(8.6)
3
(1.2)
10
(2.2)
29
(5.2)
3
(5.2)
(0.0)
4
(0.9)
3
(0.5)
(0.0)
1
(0.4)
(0.0)
7
(1.3)
2
(3.4)
1
(0.4)
(0.0)
(0.0)
0
0
0
2
(0.4)
出所:経済産業省「工業統計表
産業編」
そして、鋳造産業の最大のユーザーは輸送機械であり、全需要の 6 割以上を占める(表 6)。
鋳物が用いられている部位としては、自動車を例に挙げると、シリンダーブロック、マニ
ホールドなど機関系部品、ブレーキディスクロータ、ブレーキドラムなど制動系部品、オ
イルポンプカバーなど駆動系部品、そしてサスペンションメンバーなど車体系部品、と多
岐にわたる。いずれも自動車の基本性能を支える重要な部位であり、鋳物なしに自動車産
業は成り立たないことがわかる(図 4)。また、輸送機械に次ぐ主要ユーザーである一般機
械について見ると、工作機械や射出成形機の主要構造材は鋳物であり、パワーシャベルお
よびブルドーザーなどの建設機械でも鋳物が多用されている。
以上のように、鋳造産業は、我が国基幹産業への部材の供給産業として重要な役割を担
っている。鋳造産業が高品質かつ低コストの鋳物製品をユーザーに供給しているからこそ、
世界で高い評価を得ている自動車、工作機械などが生み出されているといってよい。
表 6
一般機械
電気機械
輸送機械
その他
生産合計
主要機械工業鋳造品需要構造(2003 年)
銑鉄鋳物
可鍛鋳鉄
(含鋳鉄管)
1,040.6
(23.7)
31.4
(0.7)
2,547.2
10.4
(58.0)
(12.8)
773.0
70.8
(17.6)
(87.2)
4,392.2
81.2
(100.0)
(100.0)
鋳鋼品
113.3
(48.1)
11.3
(4.8)
59.4
(25.2)
51.3
(21.8)
235.4
(100.0)
銅合金鋳物
70.3
(69.9)
1.6
(1.6)
16.9
(16.8)
11.8
(11.7)
100.6
(100.0)
(単位:千トン)
アルミニウ
ダイカスト 精密鋳造品 鋳造品計
ム鋳物
10.8
53.1
2.5
1,290.6
(2.6)
(5.9)
(38.5)
(21.1)
3.0
28.9
76.3
(0.7)
(3.2)
(1.2)
390.4
754.0
2.8
3,781.1
(94.3)
(84.3)
(43.1)
(61.7)
9.9
58.1
1.2
976.0
(2.4)
(6.5)
(18.5)
(15.9)
414.1
894.0
6.5
6,124.0
(100.0)
(100.0)
(100.0)
(100.0)
出所:経済産業省「機械統計年報」、「鉄鋼統計年報」、「鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計月報」
6
図 4
自動車で用いられている鋳物製品
出所:加藤 喜久雄「日本の鋳物産業の現状を踏まえたこれからの日本鋳造協会の取組みについて」
(日本
鋳造協会設立総会(2005/7/12)講演資料)
ただし、鋳物の主要ユーザーである自動車、一般機械について見ると、鋳物づくりのあ
り方は両者の間で大きな違いが見られる。
大量生産である自動車向け鋳物については、自動造型機や自動注湯機を生産ラインに導
入するなど、ものづくりを機械に大きく依存し効率的に生産することが可能である。また、
将来の需要をある程度予測することができるため、設備投資も計画的に行いやすく、設備
投資によって一気に生産量を増やすことも可能である。これに対して工作機械をはじめと
する一般機械向け鋳物は、完全に多品種少量生産の世界であり、生産品目が変わるたびに、
全く異なる数量、形状、寸法精度の鋳物作りに対応できる柔軟性が求められる。このため
経済効率的にものづくりを機械化することが難しく、造型も「手込め造型」によって行わ
れるなど人手に頼る要素が大きい。また、企業規模も一般的に自動車向けに比して小さく、
経営体力の面でも問題点が少なくない。
このように、自動車向けと一般機械向けとでは、生産を担う鋳物メーカーの性格は大き
く異なる。そして、後述する人材や供給能力の問題は、主に後者についてより色濃く見る
ことができる。
7
2. 鋳物ユーザー産業の動向とニーズの変化
2.1 活況を呈する国内生産
ここでは主な鋳物ユーザー産業として輸送機械、一般機械、電気機械を取り上げ、ま
ずは国内での生産動向を見てみたい。
まず経済産業省「鉱工業生産・出荷・在庫指数」をもとに付加価値額生産の推移を見
ると、輸送機械の付加価値生産額は 2000 年以降堅調に伸び続けており、2005 年第 4 四
半期には 2000 年時点に比して 20 ポイントの増加となっている。一般機械、電気機械の
付加価値生産額は 2001 年に大幅に減少したものの、2002 年以降急速に伸び続け、2005
年第 4 四半期には 2000 年時点に比して 10 ポイント近い増加を示している。
こうした付加価値生産額の伸びに伴い、輸送機械、一般機械は稼働率も 2000 年時点に
比して急上昇している。ただし、電気機械は付加価値生産額の伸びにもかかわらず、稼
働率は 2000 年時点を下回り続けている。電気機械の場合、多くの量産ラインが海外に移
転し、国内は高付加価値製品の生産に大幅にシフトした結果、工場の設備に余裕が生じ
ていることを、この数字が示しているものと考えられる。
130
120
(2000年基準 季節調整済み指数)
製造工業
一般機械工業
電気機械工業
輸送機械工業(除.鋼船・鉄道車両)
110
100
90
80
19
98
Q
19 1
98
Q
19 2
98
Q
19 3
98
Q
19 4
99
Q
19 1
99
Q
19 2
99
Q
19 3
99
Q
20 4
00
Q
20 1
00
Q
20 2
00
Q
20 3
00
Q
20 4
01
Q
20 1
01
Q
20 2
01
Q
20 3
01
Q
20 4
02
Q
20 1
02
Q
20 2
02
Q
20 3
02
Q
20 4
03
Q
20 1
03
Q
20 2
03
Q
20 3
03
Q
20 4
04
Q
20 1
04
Q
20 2
04
Q
20 3
04
Q
20 4
05
Q
20 1
05
Q
20 2
05
Q
20 3
05
Q
4
70
図 5
総合季節調整済指数【四半期】付加価値額生産(2000 年=100.0)
出所:経済産業省「鉱工業生産・出荷・在庫指数」
8
130
(2000年基準 季節調整済み指数)
120
製造工業
一般機械工業
電気機械工業
輸送機械工業
110
100
90
80
19
98
1 9 Q1
98
1 9 Q2
98
1 9 Q3
98
1 9 Q4
99
1 9 Q1
99
1 9 Q2
99
1 9 Q3
99
2 0 Q4
00
2 0 Q1
00
2 0 Q2
00
2 0 Q3
00
2 0 Q4
01
2 0 Q1
01
2 0 Q2
01
2 0 Q3
01
2 0 Q4
02
2 0 Q1
02
2 0 Q2
02
2 0 Q3
02
2 0 Q4
03
2 0 Q1
03
2 0 Q2
03
2 0 Q3
03
2 0 Q4
04
2 0 Q1
04
2 0 Q2
04
2 0 Q3
04
2 0 Q4
05
2 0 Q1
05
2 0 Q2
05
2 0 Q3
05
Q4
70
図 6
総合季節調整済指数【四半期】稼働率(平成 12 年=100.0)
出所:経済産業省「鉱工業生産・出荷・在庫指数」
2.2 進展する生産のグローバル化
以上のように、ユーザー産業の国内での生産は近年活況を呈しているものの、生産のグ
ローバル化はさらなる進展を見せている。経済産業省「我が国企業の海外事業活動」によ
ると、1980 年には売上高ベースで 5%程度に過ぎなかった輸送機械、一般機械、電気機械
の海外生産比率は、2003 年には輸送機械が 30%強、一般機械が 10%強、電気機械は 25%
弱に達している。少子高齢化などの要因から国内市場は大きな伸びが期待できない中、こ
れらユーザー産業の海外生産比率は今後もさらに上昇し続けるものと見られる。
売上高ではなく生産台数をベースに見ると、ユーザー産業の海外生産比率はさらに高い
ものとなる。
特に顕著であるのが、電気機械の中に分類されるコンシューマー・エレクトロニクス製
品群である。社団法人電子情報技術産業協会のデータによると、カーナビゲーション、PDA
のようにほとんどを国内で生産している機器は例外的な存在であり、カラーテレビ、録画
再生機、カーオーディオなどの製品は、国内で生産している台数は総数の 10%にも満たず、
その多くがアジア諸国で生産されている。
9
35
(%)
一般機械
電気機械
輸送機械
30
25
20
15
10
5
図 7
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
1984
1982
1980
0
海外生産比率の推移(売上高ベース)
出所:経済産業省「我が国企業の海外事業活動」
注:海外生産比率は 94 年を前後に算出方法が変更されており、データの連続性が断絶している。
表 7
日本
中国
アジア
北米
欧州
南米
合計
日本メーカーの主要エレクトロニクス製品の地域別生産比率(2004 年、台数ベース)
カラーテレ 録画再生 カーオー カーナビ デジタルス
パーソナル
携帯電話
機
ビ
ディオ
ゲーション チルカメラ
コンピュー
8.3
6.2
8.9
100.0
52.5
53.9
44.2
10.3
47.6
23.9
0.0
27.8
19.3
13.7
44.7
38.3
50.7
0.0
19.7
15.3
33.5
22.0
0.0
10.2
0.0
0.0
8.5
1.0
11.3
7.6
4.9
0.0
0.0
3.0
7.5
3.3
0.2
1.3
0.0
0.0
0.0
0.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
PDA
94.5
3.1
2.4
0.0
0.0
0.0
100.0
HDD
2.9
11.6
85.5
0.0
0.0
0.0
100.0
DVD-ROM
ドライブ
17.3
27.4
55.4
0.0
0.0
0.0
100.0
出所:JEITA(社団法人電子情報技術産業協会)「主要電子機器の世界生産状況」
最大の鋳物ユーザーである自動車産業も、海外生産台数は 1998 年以降急増しており、
2003 年を境に海外生産台数が国内生産台数を上回っている(図 8)。自動車部品メーカー
の海外展開も活発化しており、自動車部品工業会の会員企業の海外生産会社数は 2003 年度
には 1,300 社を超えている。
一般機械については海外生産台数に係る統計は見出せないが、90 年代後半以降は中国で
の工作機械メーカー各社の生産拠点の設置が相次いでいる。日本の工作機械メーカーにと
って今や中国は大きな市場であるが、ローエンドモデルを中心に現地の需要の多くが現地
生産でまかなわれているものと考えられる。
10
1000
(万台)
980
900
862
849
800
806
国内生産
786
761
872
861
848
836
812
810
765
700
海外生産
668
629
600
556
578
599
578
537
500
400
1995
図 8
表 8
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
日本自動車メーカーの国内・海外生産台数推移
出所:日本自動車工業会
自動車部品工業会会員メーカーの海外事業の展開状況
99年度
00年度
01年度
02年度
03年度
03/02
生産事業
1,075
1,142
1,182
1,237
1,323
107.0%
販売事業
253
248
229
243
263
108.2%
技術供与
645
630
592
559
523
93.6%
その他(*)
90
105
109
115
127
110.4%
合計
2,063
2,125
2,112
2,154
2,236
103.8%
*「現地統括管理会社」、「研究開発会社」等
出所:日本自動車部品工業会「海外事業概要調査報告書」
表 9
生産開始
1969
1971
1973
1974
1975
1978
1980
1981
1982
1985
1987
1987
1987
1987
1987
1989
1990
工作機械メーカーの海外生産拠点の設置状況
企業名
大日金属
滝沢鉄工
岡本工作
ヤマザキマザック
豊田工機
ファナック
牧野フライス
牧野フライス
牧野フライス
ヤマザキマザック
不二越
ミヤノ
オークマ
豊田工機
岡本工作
ミヤノ
ソディック
進出先
韓国
台湾
シンガポール
アメリカ
ブラジル
韓国
ドイツ
シンガポール
アメリカ
イギリス
アメリカ
アメリカ
アメリカ
アメリカ
タイ
フィリピン
タイ
生産開始
1991
1992
1992
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1999
2000
2003
2003
2004
2005
2005
企業名
日立精機
ヤマザキマザック
シチズン時計
スター精密
日立精機
光洋機械
ソディック
日平トヤマ
オークマ
三菱電機
ヤマザキマザック
ツガミ
スター精密
オークマ
高松機械工業
OKK
出所:報道記事などより作成
11
進出先
アメリカ
シンガポール
ドイツ
ドイツ
ドイツ
中国
中国
中国
台湾
中国
中国
中国
中国
中国
中国
中国
2.3 取引関係の変化
我が国の製造業では、部品メーカーは完成品メーカーと長期的な取引関係を維持する、
いわゆる垂直連携ネットワークが広く見られた。このような取引関係は、部品メーカーが、
比較的少数の完成品メーカーを相手に、長期的に継続される取引関係の中で、特定のユー
ザーニーズに特化した設備や技術の蓄積を行い、完成品メーカーも、部品メーカーを生産
能力を補うための存在としてとらえる一方で、長期的取引関係の中で蓄積された専門的な
技術や製造設備を活用するための存在ととらえる、という関係を基に形成されてきた1。
しかし、昨今ではグローバル化の進展などにより、垂直連携ネットワークは変容しつつ
ある。完成品メーカーはコストダウンのためにより広い選択肢からサプライヤーを求める
ようになり、部品メーカーも従来の取引先にこだわらずに納入先を求めるようになってい
る。また、経営資源の乏しい中小企業においては、不足する経営資源を水平的な連携で補
う動きも進展している。このように、企業間の取引関係のネットワークは、垂直的なもの
から、メッシュ構造ともいうべき状況になりつつある。
川下(最終セット品)
川上(原材料)
図 9
取引関係のメッシュ構造化イメージ
出所:中小企業庁「サポーティング・インダストリーの振興」平成 17 年
垂直連携ネットワークの典型例として取り上げられることが多かった自動車産業も、90
年代半ば以降、部品メーカーとの関係を変化させている。自動車メーカー各社は世界的競
争に勝ち残るために、海外自動車メーカーと資本参加、技術提携など様々な提携関係を結
1
中小企業庁「中小企業白書」2003 年版
12
ぶほか、部品の最適調達を進める上で従来の系列にとらわれない取引を拡大させている。
日本自動車部品工業会加盟会員 1 社あたりの取引自動車メーカー数の推移をみても、年々
取引先数は増加傾向にある。
メッシュ構造化の進展は、取引相手を選定するために膨大な情報処理をする必要があり、
取引コストを増大させるというような面も無視できない。一部においては、事業者間の技
術シーズとニーズに関する情報の非対称性が顕在化し、技術力の高い川上の中小企業がマ
ーケットに近い川下企業が求めている技術開発の方向性やその要求に関する情報を十分に
把握できない、必要以上に事業活動に伴うリスクが高まっている可能性も指摘されている2。
表 10
日本自動車部品工業会会員 1 社当たりの取引自動車メーカー数
96年度 97年度 98年度 99年度 00年度 01年度 02年度 03年度
5.49社 5.54社 5.71社 5.64社 5.85社 5.91社 5.97社 6.05社
+0.05
+0.17
+0.07
+0.21
+0.06
+0.06
+0.08
上段:取引者数、下段:前年度差
出所:日本自動車部品工業会
2.4 ユーザー産業の鋳物に対するニーズの変化
前項に見たように、ユーザー産業の国内での生産は近年活況を呈していることから、鋳
物需要も伸びている。また、ユーザー産業の生産のグローバル化はさらなる進展を見せて
おり、鋳物についてもグローバル調達のニーズが高まっている。この流れに対応した形で、
海外で調達する鋳物については国内品質と同等またはそれ以上の品質の確保が、国内調達
する鋳物については価格競争力の確保が、それぞれ一層重要な課題となっている。
さらに、ユーザー産業は製品の付加価値向上を図るため、軽量化、複雑形状化など鋳造
技術のさらなる向上を鋳造メーカーに求めている。以下、自動車、工作機械をはじめとす
る主なユーザー産業について、鋳物に対するニーズの変化について述べる。
2.4.1
自動車
自動車産業は環境問題、安全問題への対応から、車体の軽量化を進めている(図 10)。
このため、①材料の高強度化、②鋳造技術改善による薄肉化、③鋳鉄からアルミ、アルミ
からマグネ、樹脂への材料置換、④構造の見直しによる部品一体化(複雑一体部品の鋳造
技術、品質の確保)が進展している(図 11、図 12、表 15、表 16)。
2
中小企業庁「サポーティング・インダストリーの振興」平成 17 年
13
ハイブリッド
新動力
EV
FCEV(燃料電池電気自動車)
CO2低減
エンジン燃焼改善
単体効率の向上
摩擦損失低減
伝達効率の向上
燃費向上
軽量化
走行抵抗の低減
空気抵抗低減
ころがり抵抗低減
図 10
自動車走行時の CO2 低減技術
出所:鈴木正実(トヨタ自動車㈱第二材料技術部金属材料室)
「自動車を取り巻く環境と構成材料の動向」
図 11
鋳鉄製エンジンブロックの排気量当たり重量(指数)
<1991 年=100>
出所:豊田自動織機
社会環境報告書(1999 年)
46.9
1968年
(1020kg)
14.3
44.1
1978年
(1114kg)
20.2
42.5
1988年
(1300kg)
13.8
11.4
20.8
35.9
23.7
10.2
2000年
(1371kg)
36.6
23.9
8.2
10%
( )内は自動車の重量
図 12
20%
鋼板
30%
鋼材
40%
鋳鉄
50%
非鉄
樹脂
60%
ゴム
3.6 5
7.8
10.4
1996年
(1313kg)
0%
6
7.2
10.4
10.6
70%
80%
ガラス
その他
3
5
7.1
7.4
5.6 2.4 3.4
3.9 2.6 5.4
9.2
4.1 2.9 3.6
9
5.1 2.6 4.1
90%
100%
乗用車(トヨタマークⅡ)に使われる素材重量の変遷
出所:素形材センター「ものづくりの原点
14
素形材技術」
表 11
自動車1台当たりのアルミ使用量
表 12
自動車1台当たりのマグネシウム使用量
(kg)
2000年 2005年 2008年 2010年
北米
3.5
4.6
4.9
5.6
欧州
2.5
4.1
5.3
6.2
アジア
0.6
1.2
1.7
2.1
出所:小原久「マグネシウムの自動車への適用」
(kg)
1990年 2000年 2010年
北米
75
117
144
欧州
51
89
122
日本
61
96
119
出所:(社)日本アルミニウム協会
(「素形材」2004.11 所収)
鋳造技術に求められる自動車産業のニーズは軽量化にとどまらない。軽量化ニーズの高
まりにより、エンジンブロックはアルミ製が主流となっているが、ピストンが直接アルミ
のシリンダーに触れるとアルミが磨耗してしまう。それを防ぐために、シリンダーの内側
に装着される、耐磨耗性・耐焼付き性に優れた鋳物製のシリンダーライナーの重要性が高
まっている。また、燃焼効率向上による排気ガスの高温化に伴い、エンジン燃焼ガスを集
合させマフラー側へ導く、鋳物製のエキゾーストマニホールドにはさらなる高耐熱性が求
められている。さらに、高級自動車においては特に NV(ノイズ、バイブレーション)の
低減が求められており、その発生源の一つとなるブレーキディスクについては、熱伝導率
向上や減衰能向上などを狙った鋳鉄ローターの開発が進んでいる。
さらに、昨今では、複数の部品を設計段階から見直し、1つのシステムとして機能を向
上させることによってコスト低減を図る、モジュール化への取り組みが自動車業界で進め
られている。このことにより、鋳物製品についても複雑形状部品の一体化ニーズが高まっ
ている。
完全
モジュール
日本自動車メーカー
付加価値
大規模
アッセンブリ型
モジュール
機能統合
モジュール
小規模
アッセンブリ型
モジュール
部品
欧米自動車メーカー
部品統合
図 13
自動車部品モジュールの展開
出所:㈱矢野経済研究所
15
2.4.2
工作機械
マザーマシンである工作機械は、長年にわたって曲げ、せん断、ねじりの外力に耐えな
がら、高い精度を実現し続けることが求められる。このためその構造体には、優れた剛性、
振動減衰性、耐摩耗性、温度、湿度による寸法・形状変化の少なさが要求される。コラム、
ベース、ベッドなどを鋼板溶接構造で製作した工作機械も見られるが、上記の特性を有す
るほか、切削加工が容易であり、加えて製作コストも安い銑鉄鋳物が工作機械の構造体と
して多用されている。
工作機械用鋳物については、自動車部品のような軽量化に向けた技術開発に対する要求
は少ない。また、代替材料としてセメントコンクリートなどの試作研究が行われたことも
あるが、実用化にはまだ時間を要するものと見られており、当面は工作機械の構造体とし
ての銑鉄鋳物の地位が揺らぐことはないものと思われる3。ただし、国内の工作機械メーカ
ーは、高速、重切削を実現するハイエンドモデルの生産が中心となりつつあり、鋳物につ
いては熱処理を必要とする難易度の高い製品に対するニーズが高まっている。また、構造
も複雑化しており、鋳造に使用する中子も増加している4。
しかし、より深刻な問題として、鋳物メーカーの供給能力に対する工作機械メーカーの
不安感が指摘される。前に指摘したように、工作機械向け鋳物は多品種少量生産であるた
め、人手に頼る手込め造型による生産が中心である。しかも、自動車部品をてがける鋳物
メーカーに比して中小企業が多く、バブル崩壊後の不況期に倒産、廃業、経営統廃合した
ケースも多く、鋳物業界全体の生産能力はかつてに比べ低下している。こうした状況の中
で工作機械業界は今回の好況を迎えたため、各社の鋳物調達はタイトなものとなっており、
工作機械メーカーの間では鋳物の内製化を図るほか、海外からの調達を進める動きも見ら
れる(表 13)。
3
4
社団法人日本工作機械工業会「工作機械産業の生産能力と下請構造」平成 2 年
委員会での指摘より
16
表 13
企業
報道内容
出所
鋼材や部品、鋳物などの購入価格が大きく上昇し、今期は年間で20億― 日本経済新聞
25億円程度の減益要因になる見通し
2005/6/21
材料の鋳物・板金価格は二―四割上昇する見通し、一部を製品価格に転 日本経済新聞
嫁
2005/5/17
「鋳物値上げに伴う原価率上昇より、鋳物業者から期日通りに入るかの 日刊工業新聞
ほうが心配だ。多少高くても良いからきちんと確保していきたい。」
2005/4/22
「鋳造品の調達に無理がきかなくなっている。これが生産スピードに影 日刊工業新聞
響を与えつつある。
2005/3/29
「新鋳物工場が完成し、近く一部稼働させる。月200トンの素形材を生 日刊工業新聞
産、能力は50%向上する。」
2005/3/17
渡部製鋼所(月産能力1000トン)に資本参加。需給ひっ迫による調達難 日刊工業新聞
が続いている鋳物の安定調達を確保が目的。
2005/2/28
ベトナムに5億円弱を投じて鋳物工場を建設、タイと日本で鋳物加工を 日刊工業新聞
施す。鋳物は中国・大連と韓国からも調達を開始。
2005/2/24
鋼材不足で鋳物や外注部品などが納期通りに入ってこないため、鉱山用 2005/1/24
大型トラックを増産できない。
日本経済新聞
伊賀事業所(三重県伊賀町)内に生産設備と焼き入れ用の熱処理施設を
新設。試作品用の鋳物製造を行う。
タイ工場の鋳物生産を月産100トン増やし同800トンに増産済み。それで
も不足するため同1200トンに引き上げ。
タイ工場での放電加工機の生産能力拡大に合わせ、中国工場の鋳物製造
能力を拡充。
国内のほか、中国から鋳物を調達することも決め安定確保済み。
日刊工業新聞
中国から一部鋳物の調達を実施。
2004/12/2
中国からの鋳物調達を始め、性能試験中
今夏、鋳物など部品メーカーからの調達が遅れ、納期を守れないケース 2004/9/27
が発生。
日経産業新聞
不二越
森精機
碌々産業
シギヤ精機
ホーコス
森精機
シチズン精機
コマツ
森精機
岡本工作機械
ソディック
ツガミ
牧野フライス
日精樹脂工業
ダイキン工業
2.4.3
鋳物不足に関する報道記事(過去 2 年間)
家電
家電業界における鋳物のニーズの多くはダイカストであり、近年では表 14 の用途で用
いられている。例えばマグネシウム合金によるノートパソコンの液晶バックパネルは、肉
厚が 0.6mm、内部の隅部には液晶やヒンジを支えるための微細構造(リブ)を有するなど、
塑性加工では成形が困難な微細加工が鋳造によって実現されている。
表 14
ダイカストの種類
アルミニウム合金
亜鉛合金
マグネシウム合金
家電業界におけるダイカスト製品の主な用途
家電における主な用途
プラズマディスプレーのシャーシや、ヒートシンク、DVD プレ
ーヤ筐体などの薄肉製品
カメラ用部品やギヤ、レバー類などの小物部品
ノートパソコンや携帯電話、プロジェクターなどの薄肉・軽量
の筐体関連
しかし、前にも見たように、電気機械向けのダイカストの生産量は年々減少している。
その背景としては、①電気・通信業界が海外生産(特に中国)にシフトしており、ダイカ
ストも現地調達が増加している、②国内では、高級品の量産及び試作レベルのため少量で
の引き合いが増加している、③樹脂品やプレス品などの低コスト品に移管している、など
が指摘されている。
17
こうした中、家電向けのダイカストについては、ますます①開発期間及び納期の短縮、
②コストのグローバル化、③海外の競合会社では難しい技術課題へのチャレンジ、④更な
る軽量化、薄肉化、などのニーズが高まっている。このため、国内ダイカストメーカー各
社は、これらのニーズに対応するため、更なる薄肉化技術の開発、放熱特性に優れた合金
の開発など、海外ダイカストメーカーとの技術的差別化を図るほか、一層 QCD のレベル
を向上させていくことが求められている。
2.4.4
その他
建設機械については生産は海外需要を中心にここ数年急増しており、これまで慎重だっ
た生産能力増強に乗り出すところが相次いでいる。鋳物の海外現地調達も進展しているが、
油圧ポンプなどキーパーツに用いられる摺動特性の良いダクタイル鋳鉄については日本製
に頼らざるを得ない状況にある。
航空機業界における材料開発では、日本の技術は世界的にも高い地位を占めている。航
空機エンジン部品への鋳物の利用は、超合金製のタービン動翼(精密鋳造)に加え、複雑
な形状をしたケース部品、静止部品あるいは機体部品にも多い。大型部品については従来
板金溶接構造であったが、鋳造技術の進歩により一体成形が可能なものとなりつつある。
また、製造業の現場では、効率的な生産、高品質な生産、高精度な生産等のために、
ロボットは必須のツールとなっているが、昨今では第1次産業、第3次産業において
も導入が進展しつつある。ロボットは今後ますますあらゆる場面で活用されることが
期待されているが、そこに用いる材料は軽量性、運動性が特性要因となり、精密性の点か
ら剛性も要求される。さらに、サーボ機構等でその動作が制御されるため、材料には被制
御性も要求される。これらを充足する機能性を付与するためには、高度な鋳造技術に対し
て大きな期待がかけられている。鋳物の適用によって、複雑形状部品への対応、部品点
数の削減が期待されるほか、薄肉化、軽量金属化による部品の軽量化によって動作速
度、位置決め精度の向上が期待される。
さらに、建材分野においても、鋳鉄の振動吸収性という特色を生かすことが期待されて
いる。
18
3. 鋳物生産及び経営の現状
3.1 生産量等の推移
世界主要国の鋳物生産量の推移を見ると、中国の急激な伸びが目立つ。製造業を中心に
目覚しい経済成長を遂げている中国は、1999 年から 2004 年にかけて、銑鉄鋳物、非鉄鋳
物ともに 2 倍以上も生産量を拡大している。中国メーカーについては、技術面では総じて
我が国に比べ相当に遅れているものと見なされているが、近年では日本産と遜色の無い鋳
物を製造するメーカーも登場し始めている。一方我が国は、2004 年時点で銑鉄鋳物は世界
第 4 位、非鉄鋳物は第 3 位の鋳物生産大国であり、ここ数年はユーザー産業の活況を背景
に生産量は増加し続けているものの、長期的に見ると他の主要国に比べて伸びは鈍い。
(千トン)
18,000
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
4,979
6,187
4,555
アメリカ
EU5
中国
ロシア
日本
インド
ブラジル
2,000
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
0
図 14
世界主要国の銑鉄鋳物生産量の推移
出所:素形材センター「素形材年鑑」各年版より作成
(注)EU5:ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペインの合計
3,000
(千トン)
2,500
2,000
1,489
1,500
1,251
1,000
アメリカ
EU5
中国
ロシア
日本
インド
ブラジル
500
0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
図 15
世界主要国の非鉄鋳物生産量の推移
出所:素形材センター「素形材年鑑」各年版より作成
(注)ダイカストを含まず。
19
このような位置づけにある我が国鋳造産業は、出荷額、事業所数、従業者数のいずれも
減少傾向が続いている。
まず出荷額の推移について 1981 年を 100 とした指数で見てみると、業種によって若干
パターンに違いはあるものの、出荷額はバブル景気の 91 年をピークに減少を続け、2002
年から回復の兆しを見せている。しかし、2003 年で 81 年の水準を上回っているのは非鉄
金属ダイカストのみであり、他はすべて下回っている。中でも、鋳鋼は 81 年に比して約 6
割と大幅に減少している。
同じく、事業所数、従業者数について見ると、減少傾向は出荷額よりも著しい。事業所
数については、6 割減の銑鉄鋳物を筆頭に、可鍛鋳鉄、非鉄鋳物が 5 割減、鋳鉄管が 4 割
減、鋳鋼が 3 割減、非鉄金属ダイカストが 2 割減となっている。そして、従業者数につい
ては、非鉄金属ダイカストは例外的に 81 年の水準をほぼ保っているが、他はみな減少して
おり、鋳鋼が 6 割減、銑鉄鋳物、可鍛鋳鉄、鋳鉄管が 5 割減、非鉄金属鋳物が 4 割減とな
っている。
従業者数の推移
出荷額の推移
1981年=100
1981年=100
180.0
120.0
160.0
140.0
123.5
120.0
89.8
84.4
74.0
100.0
80.0
71.1
57.7
60.0
40.0
80.0
62.3
54.9
52.6 52.8
60.0
40.0
41.7
20.0
20.0
0.0
事業所数の推移
1981年=100
120.0
82.2
72.4
64.4
80.0
60.0
51.7
50.4
40.0
42.1
20.0
03
20
01
20
99
19
97
19
95
19
93
19
91
19
89
19
87
19
85
19
83
19
19
81
0.0
( 年)
銑鉄鋳 物製造 業(鋳鉄 管,可 鍛鋳鉄 を除く)
可鍛鋳 鉄製造 業
鋳鋼製 造業
鋳鉄管 製造業
非鉄金 属鋳物 製造業( ダイカ ストを 除く)
非鉄金 属ダイ カスト製 造業
図 16
出荷額、事業所数、従業者数の推移(1981 年=100)
出所:経済産業省「工業統計表
20
産業編」
01
99
97
03
20
20
19
95
93
91
89
銑鉄鋳 物製造 業(鋳鉄 管,可 鍛鋳鉄 を除く)
可鍛鋳 鉄製造 業
鋳鋼製 造業
鋳鉄管 製造業
非鉄金 属鋳物 製造業( ダイカ ストを 除く)
非鉄金 属ダイ カスト製 造業
銑 鉄鋳物製 造業( 鋳鉄管 ,可鍛鋳 鉄を除 く)
可 鍛鋳鉄製 造業
鋳 鋼製造業
鋳 鉄管製造 業
非 鉄金属鋳 物製造 業(ダ イカスト を除く )
非 鉄金属ダ イカス ト製造業
100.0
19
19
19
19
85
83
87
19
19
19
81
19
( 年)
19
20
03
20
01
19
99
19
97
19
95
19
93
19
91
19
89
19
87
19
85
0.0
19
83
19
81
97.6
100.0
(年)
ただし、生産量の推移について 1981 年を 100 とした指数で見ると、2005 年における生
産量は、ダイカストは約 2.5 倍、球状黒鉛鋳鉄は約 2 倍、軽合金鋳物は約 1.5 倍と、大幅
な増加を示している。特にダイカスト、球状黒鉛鋳鉄は 2002 年以降の伸びが顕著である。
これらの鋳物については、事業所数、従業者数が大幅に減少する中、これだけ生産量が伸
びていることを考慮すると、メーカーは相当に繁忙を極めているものと思われる。
これに対し、銅合金鋳物は上下を繰り返しながらほぼ横ばいに推移しており、ねずみ鋳
鉄は 1981 年に比して約 2 割、鋳鉄管、鋳鋼品は約 5 割、可鍛鋳鉄は約 8 割の減少となって
いる(図 17)。
250
1981年=100
237
196
200
149
150
103
100
80
51
41
50
22
ねずみ鋳鉄
鋳鋼品
図 17
鋳鉄管
軽合金鋳物
05
04
20
03
20
02
20
01
20
00
20
99
20
98
19
97
19
96
19
95
19
94
球状黒鉛鋳鉄
銅合金鋳物
19
93
19
92
19
91
19
90
19
89
19
88
19
87
19
86
19
85
19
84
19
83
19
82
19
19
19
81
0
可鍛鋳鉄
ダイカスト
鋳物の品目別生産量の推移(1981 年=100 とした指数)
出所:素形材センター「素形材年鑑」
また、鋳物の中でも生産規模の大きい、銑鉄鋳物、ダイカストについて生産量の推移を
需要別に見ると、両者共に 2000 年以降に輸送機械向けが高い伸びを示している。特にダイ
カストについてはバブル崩壊後もほぼ一貫して生産量を伸ばしており、83 年から 04 年に
かけて 2.7 倍という急成長を遂げている。これに対して電気機械向けは銑鉄鋳物、ダイカ
ストともに 90 年代後半以降減少が続いている(図 18)。
21
銑鉄鋳物(含鋳鉄管)
(1983年=100)
180
160
140
137
120
115
一般機械
電気機械
輸送機械
その他
100
80
60
42
40
31
20
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
1984
1983
0
(年)
ダイカスト
(1983年=100)
300
268
250
199
200
一般機械
電気機械
輸送機械
その他
150
150
100
82
50
図 18
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
1984
1983
0
(年)
銑鉄鋳物、ダイカストの需要別生産量の推移(1983 年=100 とした指数)
出所:素形材センター「素形材年鑑」
3.2 経営状況
鋳造産業の利益率、製品単価は、ここ数年のユーザー産業の活況に伴う受注量の増加を
受けて、上昇傾向にある。TKC 全国会「TKC 経営指標」によると、2003 年から 2004 年に
かけて、可鍛鋳鉄は 4.6%から 3.7%に低下したが、銑鉄鋳物の対売上高経常利益率は 2.6%
から 4.6%へ、ダイカストは 4.9%から 5.4%へ、それぞれ上昇している。
製品単価も 2002 年から 2005 年にかけて、アルミニウム合金鋳物は 0.7%低下したもの
の、ねずみ鋳鉄は 8.4%、球状黒鉛鋳鉄は 3.7%、可鍛鋳鉄は 6.9%、銅・銅合金鋳物は 7.8%、
アルミニウムダイカストは 3.3%、それぞれ上昇している。2005 年 6 月における全国中小
企業団体中央会の調査結果をみても、鋳物、ダイカストについては、景況感の好転が報告
されている(
表 15)。
22
表 15
景
況
感
業 界
下請中小企業の最近の動向
受
注
量
受
取
条
件
単
価
資
金
繰
り
採
算
銀
行
取
引
受
注
残
①②③ ①②③ ①②③ ①②③ ①②③ ①②③ ①②③ ①②③
○○△ ○○△ △○△ △△△ △△△ △△△ △△△ ○○△
△△△ △△△ △●● △△△ △△△ △△△ △△△ △△△
△●△ △●△ ●●△ ●●△ ●△● ●△● △△△ △●△
○○△ ○○△ △△△ △△△ △△△ △△△ △△○ ○○△
○○△ ○○△ △●△ △△△ △△△ △△△ △△△ ○○△
△△△ △△△ △●△ △△△ △△△ △△△ △△△ △△△
△△△ △△● ●△△ △△△ △●△ △△△ △△△ △●●
○○△ ○○△ ○○△ △△△ ●○△ ●○△ △△△ ○○△
●●● ●●● ●●● △●● ●●● △●● △△△ ●●●
(注)○…好転・増加・上昇・改善 ①…前回(16年12月)
△…横這い・不変
②…今回(17年6月)
●…悪化・減少・下落
③…見通し(3ヶ月後)
出所:全国中小企業団体中央会「下請中小企業の最近の動向-主要下請業種団体へのヒアリング等調査結
果-」平成 17 年 7 月
ダ イ カ ス ト
金 属 プ レ ス
メ
ッ
キ
産 業 用 機 械
輸 送 用 機 械
電気部品(家電)
金
型
鋳
物
ビルメンテナンス
しかし、経常利益率、製品単価ともに、長期的なデータの推移を見ると、鋳造産業の景
気回復はいまだ途上であることがわかる。
経常利益率について見ると、非鉄金属ダイカストは上昇と下降を伴いながらも傾向とし
ては上向いているが、銑鉄鋳物の 2004 年の利益率は 1993 年に比して約 2.6 ポイント、可
鍛鋳鉄製造業は約 3.7 ポイント、それぞれ下回っている(図 19)。また、業界を代表する
企業を取り上げて、鋳造産業から見た川上産業(鉄鋼)、川下産業(自動車、輸送用機器、
電機、機械)で 2003 年の営業利益率を比較すると、鋳物企業は川上産業、川下産業と比べ
大幅に低い水準となっている(図 20)。
(%)
16.0
銑鉄鋳物製造業(鋳鉄管、
可鍛鋳鉄を除く)
14.0
可鍛鋳鉄製造業
12.0
10.0
10.2
10.1
9.18
鍛工品製造業
非鉄金属ダイカスト製造業
8.0 7.37
6.0
5.81
7.14
5.35
4.57
4.79
4.37
4.0
4.18
3.64
2.0
金属プレス製品製造業
粉末や金製品製造業
3.71
金属熱処理業
20
04
20
03
20
02
20
01
20
00
19
99
19
98
19
97
19
96
19
95
19
94
19
93
0.0
(年)
図 19
素形材産業の対売上高経常利益率の推移
出所:TKC 全国会「TKC 経営指標」
23
7.1
6.4
5.9
5.3
4.1
1.8
機械
電機
輸送用機器
自動車
鉄鋼
図 20
(%)
鋳物
8
7
6
5
4
3
2
1
0
代表的な鋳物メーカー及び上流、下流産業の営業利益率(2003 年度)
出所:会社四季報(上場企業)より社団法人日本鋳造協会
そして、製品単価については、可鍛鋳鉄を除いていずれも 2005 年の製品単価は 1985 年
時点に比して低く、アルミニウムダイカストは 25 ポイントの大幅減、以下、アルミニウム
合金鋳物 21 ポイント減、球状黒鉛鋳鉄 13 ポイント減、ねずみ鋳鉄 8 ポイント減、銅・銅
合金鋳物 0.1 ポイント減となっている(図 21)。しかも、昨今では製品価格は上向いてい
るとはいえ、原材料価格に比して、製品価格の上昇率は低いと指摘せざるを得ない(図 22、
図 23)
。
(1985年=100)
120
115.2
110
107.3
99.9
100
ねずみ鋳鉄
92.2
92.0
90
84.3
87.3
84.1
球状黒鉛鋳鉄
可鍛鋳鉄
銅・銅合金鋳物
アルミニウム合金鋳物
アルミニウムダイカスト
78.8
80
79.3
75.2
72.7
70
60
1985
1990
図 21
1995
2000
2005
鋳造製品の価格動向(1985=100 とした指数)
出所:素形材センター「素形材年鑑」
24
1994年=100
250
217.6
217.6
155.0
155.0
鋳物製品価格指数
200
鋳物用コークス価格指数
鋳物用銑鉄価格指数
150
鋳物用スクラップ価格指数
104.8
100.0
111.2
100
90.2
91.3
2Q
3Q
50
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
1Q
(資料)1.鋳物製品価格指数:経済産業省「鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計」より作成
2.鋳物用コークス価格指数:社団法人日本鋳物工業会資料より作成
3.鋳物用銑鉄価格指数:鋳物用銑鉄メーカー問屋事務局調査より作成
4.鋳物用スクラップ価格指数:社団法人日本鋳物工業会「鋳物ダイジェスト」銑屑スクラップ川口地区価格より作成
図 22
鋳物製品価格と鋳物原材料価格の推移(指数
1994 年=100)
150
製品価格
地金価格
指数
125
100
75
50
1995
図 23
1997
1999
2001
西暦
2003
2005
ダイカスト製品価格とアルミニウム地金価格の推移(指数
出所:経済産業省 「機械統計年報」
25
1995 年=100)
3.3 海外展開の状況
ユーザー産業の生産がますますグローバル化が進展し、鋳物需要の重心が海外市場にシ
フトする中、鋳物の現地生産、現地調達、部品のグローバル調達のニーズが高まっている。
我が国鋳物メーカーの海外展開状況を見ると、1990 年代後半にアジアを中心に現地法人
の設立が集中している。ただし、その半数は大企業によるものであり、業界の中核をなす
中小企業の海外展開の事例は限られているのが現状である。所属団体別にみると、日本ダ
イカスト協会が 56 法人、全国ダイカスト協同組合連合会が 15 法人と、ダイカストが鋳造
業界の中では海外進出で先んじていることがわかる。
(件)
18
16
中国
14
タイ
12
インドネシア
10
その他アジア
8
北米
6
欧州
4
南米
2
図 24
国別
20
04
20
02
19
99
19
97
19
95
19
93
19
91
19
89
19
87
19
85
19
78
19
76
19
67
19
60
0
(年)
海外現地法人設立状況
出所:素形材センター「素形材産業の海外における法人等設立状況調査」(2005 年 3 月調査)
(件)
18
16
全国ダイカスト工
業協同組合連合
会
(社)日本ダイカス
ト協会
14
12
10
(社)日本非鉄金
属鋳物協会
8
(社)日本強靭鋳
鉄協会
6
4
(社)日本鋳物工
業会
2
図 25
組合・団体別
20
04
20
02
19
99
19
97
19
95
19
93
19
91
19
89
19
87
19
85
19
78
19
76
19
67
19
60
0
(年)
海外現地法人設立状況
出所:素形材センター「素形材産業の海外における法人等設立状況調査」(2005 年 3 月調査)
26
表 16
我が国鋳物メーカーの海外現地法人数
所属団体
中国
インドネ その他
シア
アジア
タイ
北米
欧州
南米
6
(0)
(社)日本強靭鋳鉄協会
7
8
5
2
6
(2)
(6)
(2)
(2)
(6)
(社)日本非鉄金属鋳物協会
6
4
(0)
(0)
(社)日本ダイカスト協会
10
12
3
14
10
5
2
(8)
(8)
(2)
(7)
(8)
(4)
(2)
全国ダイカスト協同組合連合会
3
5
3
4
(0)
(0)
(0)
(0)
合計
32
25
8
23
20
5
2
(10)
(14)
(4)
(9)
(14)
(4)
(2)
出所:素形材センター「素形材産業の海外における法人等設立状況調査」(2005 年 3 月調査)
(注)カッコ内は本社が大企業の現地法人数
(社)日本鋳物工業会
合計
6
(0)
28
(18)
10
(0)
56
(39)
15
(0)
115
(57)
このように、鋳物生産についてもグローバル化が進む中、我が国鋳物メーカーは世界一
の鋳物生産国である中国を中心とする海外製鋳物との厳しい競争に直面しており、ベンチ
マークとして安価な中国製鋳物の単価を要請される場面が増えていることが指摘されてい
る。また、我が国の市場にも海外からの輸入鋳物の流入が近年増加している。鋳物製品の
輸出入状況を見ると、かつて大幅に輸入を上回っていた我が国の鋳物製品の輸出は、ここ
10 年間は減少傾向にあり、昨今では大幅な輸入超過の状況となっている。
350.0
(千トン)
300.0
250.0
200.0
輸出
輸入
150.0
100.0
50.0
図 26
2003
2004
2001
2002
1999
2000
1997
1998
1995
1996
1993
1994
1991
1992
1989
1990
1987
1988
1985
1986
0.0
鋳物製品の輸出入の状況
出所:素形材センター「素形材年鑑」各年版より作成
27
4. 技術開発及び人材確保・育成の現状
4.1 我が国鋳物産業の国際競争力
素形材技術戦略策定会議「素形材技術戦略」(平成 12 年 3 月)によると、我が国の鋳造
産業は品質、納期に強みがあり、米国、欧州、アジアに比して競争力が高いとされている。
このほか、
「ユーザーである自動車、工作機械、家電等、機械産業の高い国際競争力」、
「高
いモラルと技術・技能を有する良質な人材の存在」、「ユーザーの計画変更への柔軟な生産
対応」などが我が国の鋳造産業の強みとして指摘されている。
一方、弱みとしては、
「コスト競争力が弱い」、
「質の高い技術者・技能者が不足」、
「大学
等での鋳造分野研究者と講座の減少」などが挙げられている。特にコスト競争力について
はユーザーからも厳しい評価を受けている。若干データは古いが、銑鉄鋳物のユーザー産
業を対象としたアンケート調査(平成 7 年実施)をみても、海外メーカーと比較した、我
が国鋳物産業の品質、納期、サービス・ニーズ対応力は高く評価されているが、価格につ
いては海外メーカーと比して評価は低いものとなっている。
表 17
鋳造
鍛造
金属プレス
粉末冶金
型技術
熱技術(工業
炉/熱処理)
新材料加工
各素形材分野の国際競争力
日 本
米 国
◎(品質、納期に ○(Al、Mg、大型
強み)
精密は◎)
◎
○(一部企業は
◎)
◎(熟練技術に ○(情報技術に
強み)
より台頭)
◎
◎(需要多い)
◎
◎/○
○~◎
欧 州
○(非鉄ダイカス
トは◎)
◎独 ○独以外
ア ジ ア
△→○
△
○
○台湾、韓国
△その他
◎独 ○独以外 ○台湾、韓国
△その他
△→○(情報技 ○独 △独以外 △→○(最近追
術により台頭)
上げ)
○/◎(軍需・航 ◎/◎(独・仏) △/△(韓・台追
空宇宙突出)
上げ)
○~◎
◎独、英 ○そ ×~△(最近追
れ以外
上げ)
出所:素形材技術戦略策定会議「素形材技術戦略」(平成 12 年 3 月)
28
表 18
強み
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
弱み
鋳造産業の強みと弱み
ユーザーである自動車、工作機械、家電等、機械産業の高い国際競争力
高品質鋳造品の製造・提供
高いモラルと技術・技能を有する良質な人材の存在
高い生産管理能力による堪能木
ユーザーの計画変更への柔軟な生産対応
学会や業界の盛んな研究開発、技術改善活動
TQM や TPM による活発な小集団現場改善活動
技能労働者等の経験、技能に裏打ちされた高い加工能力
高い関連周辺技術の存在
製鉄産業を中心とした良質な原材料・副資材の安定供給
コスト競争力が弱い(高い人件費・エネルギー費)
質の高い技術者・技能者が不足
大学等での鋳造分野研究者と講座の減少
システム的技術開発力が弱い
独自技術開発力が弱い
海外展開能力が弱い、英語力が弱い
鋳造メーカーと設備メーカーの協力体制が弱い
国際的視点での経営力が弱い
出所:素形材技術戦略策定会議「素形材技術戦略」(平成 12 年 3 月)
品質
40
納期
(%)
35
(%)
31.5
34.8
35
30
30
26.1
25
25
21.7
25
25
22.8
22.8
20
17.4
17.4
20
15.2
10.9
1210.9
10
7.6
10
7.4
6.5
5
2.2
4.3
7.6
3.3
2.2
5
1.1
0
2.2
3.3
2.2
2.2
0
0点
1点
2点
3点
4点
5点
海外企業
6点
7点
8点
9点
10点
0点
1点
2点
3点
国内企業
45
33.7
35
25
20.7
9点
10点
(%)
40.2
25
25
17.4
20
15
16.3
15
10
7.6
1.1
8点
30
20.7
3.3
7点
35
25
20
1.12.2
6点
国内企業
40
28.3
30
5
5点
サービス・ニーズ対応力
(%)
25
4点
海外企業
価格
40
15.2
14.1
15
15
10.9
10
3.3
1.1
5
2.2
0
3.3
13
6.5
5.4
1.1
18.5
14.1
10.9
9.8
2.2
1.1
3点
4点
3.3
3.3
5点
6点
1.1
1.1
0
0点
1点
2点
3点
4点
5点
海外企業
図 27
6点
7点
8点
9点
10点
0点
国内企業
1点
2点
海外企業
7点
8点
9点
10点
国内企業
銑鉄鋳物企業に対するユーザーの評価(国内企業 vs 海外企業)
出所:
(社)日本鋳物工業会「銑鉄鋳物ユーザーから見た銑鉄鋳物製造業会に関するアンケート調査」
(平成 7 年実施)
29
4.2 技術開発の現状
経営資源が限られた中小鋳物メーカーにとって、技術開発への取り組みは昔から弱かっ
た部分であり、材料メーカーや鋳造機械メーカーにその多くを依存するほか、優秀な熟練
技能で補ってきた。しかし、熟練技能については、ベテラン従業員の多くが定年を迎えよ
うとしており、いわゆる 2007 年問題が深刻な影響を及ぼすことが危惧される。
そもそも、鋳造産業は資本集約型産業であり、設備投資負担が大きい技術開発への取り
組みは容易でないのが実情であり、まして業界の主流を成す中小企業での取り組みには限
界がある。平成 6 年度の調査によると、銑鉄鋳物業界で技術開発を行っていると回答した
企業は 3 割弱に過ぎず、しかも開発投資は平均で 598 万円/年と少なく、最大の課題とし
て「技術者の不足」が挙げられている(表 19)。やや古いデータではあるが、おそらく状
況は現在でもさほど変わっていないものと思われる。
表 19
銑鉄鋳物メーカーの技術開発の状況
技術開発を
行っている
行っていない
n=396
27.8
72.2
技術開発の体制
自社技術による開発
ユーザーとの共同開発
材料メーカーとの共同開発
その他
n=108
66.7
32.4
17.6
21.3
技術開発の重点
不良低減等の品質向上関連技術
消費者ニーズに直結した新製品
省力化・省人化等の関連技術
新素材の技術開発
資源リサイクルのための技術
省エネ・公害防止関連技術
その他
n=108
47.2
46.3
32.4
24.1
13.0
11.1
2.8
企業人規模別の技術開発平均投資額
従業員規模(人)
1~9
10~19
平均投資額(万円/年)
400
n=110
技術開発資金の調達
自己資金のみ
自己資金+民間金融機関からの借り入れ
自己資金+地方自治体の補助金
自己資金+政府系金融機関
自己資金+国の補助金+地方自治体補助金
自己資金+国の補助金
その他
n=109
64.2
13.8
11.0
8.3
7.3
4.6
2.8
技術開発を行う上での問題点
技術者の不足
強力な開発リーダー不在
技術開発設備の不備
技術開発資金の調達
自社技術蓄積の不備
指導機関不足
技術情報入手難
市場情報入手難
n=303
70.0
37.3
32.3
31.0
30.4
13.9
10.6
10.6
20~49
607
50~99
781
100~199
2,287
200~
4,489
計
598
出所:全国銑鉄鋳物工業組合連合会「銑鉄鋳物製造業の経営戦略化ビジョン」(平成 6 年 11 月)
また、かつて中小鋳物メーカーにとって良き相談相手であった公設試験場でも、鋳物関
連の設備、人員は大幅に減少している。かつて川口には、埼玉県鋳物機械工業試験場が存
在したが、現在では埼玉県産業技術総合センターとして統一され、鋳造に従事する研究者
はわずかに一人となっている。鋳物研究に定評のあった名古屋工業試験所は産業技術総合
研究所となり、鋳造分野の研究者は大幅に減少している。さらに、鋳造エンジニアの供給
源である大学工学部においても、国が援助する基礎研究の分野が金属からナノマテリアル、
新素材へと変わりつつある中、金属関係の学科数は減少の一途を辿っており、現在では金
30
属工学を名乗る学科は全く存在しなくなっている。このままでは鋳造工学を教えるべき人
材もわが国には存在しなくなることが危惧されている5。
しかし、前に述べたユーザーニーズの変化に伴い、鋳造メーカーはより高度な技術開発
を求められている。現在鋳造分野において進展している技術革新としては、①複雑形状・
一体化、②薄肉・軽量化、③高品質化、④シミュレーション、⑤CAD/CAM と IT による電
子情報化、⑥ラピッドプロトタイピングの活用、⑦機能美の追求、が挙げられるが、こう
した技術開発の流れに対応していくためには、もはや従来のような優秀な熟練技能に依存
した方法では限界があり、設備投資と優秀なエンジニアの確保が不可欠な要素となりつつ
ある。
4.3 人材確保・育成の現状
鋳造産業の技術開発の問題点として、従業員の高齢化による技能の断絶が危惧されてい
る点を前項にて指摘した。しかしながら、厚生労働省「賃金構造等基本統計調査」をもと
に「鋳物工」の年齢階層構造を見ると、現場労働者の若返りが進展していることが認めら
れる。年齢階層構造としては、1985 年においては 50 歳代前半が最も多かったが、2004 年
には 20 代後半から 30 代前半が最も多い年齢階層となっている(図 28)。平均年齢の推移
を見ても、1985 年時点では生産労働者平均を「鋳物工」は 4 歳以上上回っていたが、年を
経るごとに乖離は狭まり、2003 年にはその差はわずか 0.3 歳にまで狭まっている(図 29)。
全生産労働者(男)
1985年
2004年
20.0%
18.0%
16.0%
14.0%
12.0%
10.0%
8.0%
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
鋳物工(男)
図 28
18
~
~
17
歳
18
~
19
20
~
2
25 4
~
2
30 9
~
3
35 4
~
3
40 9
~
4
45 4
~
4
50 9
~
54
55
~
5
60 9
~
6
65 4
歳
~
17
歳
~
1
20 9
~
24
25
~
2
30 9
~
3
35 4
~
3
40 9
~
44
45
~
4
50 9
~
5
55 4
~
5
60 9
~
6
65 4
歳
~
20.0%
18.0%
16.0%
14.0%
12.0%
10.0%
8.0%
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
全生産労働者と鋳物工の年齢階層構造(1981 年/2004 年)
出所:厚生労働省「賃金構造等基本統計調査」
5
中江秀雄「大学等における基礎研究と技術者教育」(平成 18 年 3 月)
31
1985年
2004年
45.0
(歳)
44.0
43.0
42.0
42.6
41.0
40.5
40.0
40.2
生産労働者
鋳物工
39.0
38.0
38.5
37.0
36.0
19
85
19
86
19
87
19
88
19
89
19
90
19
91
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
35.0
図 29
全生産労働者と鋳物工の平均年齢の推移
出所:厚生労働省「賃金構造等基本統計調査」
(注)いずれも男子のデータ
この結果については、職種別に収集したデータであるため、自動車メーカーの内製工場
など、大企業の従業員が含まれている可能性があり、必ずしも鋳造業界全体の実情を反映
したものではない。鋳物専業メーカーを対象としたヒアリングによると、深刻な人材確保
難と高齢化問題が指摘されている。
鋳造技術は多分野の技術の集合体であるため、人材の育成には長い時間を要する。この
ため、団塊世代が退職を迎えようとする中、若者世代への技術・技能の伝承は喫緊の課題
となっており、熟練技能のデジタル化を急ぐ鋳造企業も見られる。
若者の確保が困難である要因の1つとして、鋳造産業の製造現場では避けがたい、粉塵
や騒音・振動など厳しい作業環境が挙げられる。とりわけ機械化が難しい非量産鋳物は、
砂まみれになって作業することが多いため、若年者から職業として敬遠される傾向は依然
として強い。また、現在でも重筋労働が多く、腰痛や白蝋病など多くの問題も指摘されて
いる。
表 20
若者の確保に係る鋳物専業メーカーの意見
・ 経営課題の一つとして「労働力の確保」等が挙げられる。
・ 数年前に正社員のリストラを行って非正規社員(とくに派遣社員)化を進めたが、最
近の 2007 年問題とも相まって、技能の途絶が懸念され始めた。これに対応するため、
非正規社員の比率を抑えるとともに、正社員の新規採用を積極化している。
・ ベテラン作業員がいなくなると難しい鋳物を作ることができなくなる。しかしベテラ
ンが持っている熟練技能を継承する若者がいない。
・ 社内にベテランの熟練技能を継承する若者がいないため、やむをえず中国工場の若者
に熟練技能を継承させている。
・ 若い人がいないのは3Kに問題がある。クリーン化すれば若者は入ってくる。若者で
も難しい鋳物を手がけられる。経営者の頭の中にある、鋳物は職人芸、という考え方
は捨て去るべき。
出所:企業ヒアリング調査より
32
粉塵
85.7
騒音・振動
67.7
51.6
空調(気温調整)
安全対策
42.9
重筋作業
37.3
35.5
照明
臭気
29
無回答
2.3
1.4
その他
(n=217)
図 30
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
(%)
職場環境面において改善が必要と思われるもの(銑鉄鋳物製造業)
出所:(社)日本鋳物工業会「銑鉄鋳物製造業の雇用管理の状況及び経営者意識についてのアンケート
調査」(平成 7 年実施)
さらに、エンジニア人材の確保難の背景として、大学で鋳物を学んでいる学生が少ない、
そもそも金属に関する講座を設けている大学が大幅に減少している点が指摘されている。
かつて平成 10 年までは全国大学金属関係教室協議会という団体が存在したが、金属関
係の学科数の減少に伴い、名称は全国大学材料関係教室協議会と変更している。同団体に
は全国で 50 近くの学科が加盟しているが、現在では金属工学を名乗る学科は全く存在しな
いという状況にある。このため、鋳造技術を教えるべき人材もわが国には存在しなくなる
ことも危惧されている6。
6
中江秀雄「大学等における基礎研究と技術者教育」
33
5. 鋳物の取引慣行に係る課題
これまで見てきたように、利益率、製品単価がここ数年上向いていることもあり、昨今
では景況感は好転している。しかしながら、利益率は本格的には回復したとは言い難く、
製品単価も昨今の原材料価格の高騰にもかかわらず一部業種を除きバブル景気前の水準に
は達していない。また、ユーザーのニーズは高度化しており、さらなる技術開発が求めら
れているものの、若者の確保が難しい中で技術・技能の伝承に苦慮している状況にある。
以上の状況から、多くの鋳物メーカーは経営面では厳しさが続いているものと考えられ
るが、状況を一層厳しくしている要因として、重量を基準とした単価決定方式と、型の保
管を鋳物メーカーが請け負うという、ユーザー産業との間の旧来からの商慣行の存在が指
摘できる。ただし、重量単価方式については、量産鋳物と手込め造型鋳物とでは、メーカ
ーの間に意見の相違が見られる。
5.1 単価の決定方式
鋳物の取引においては、製品の重量を基準として価格が決められることが少なくない
(図 31)。この重量単価方式で問題なのは、技術的な方法や困難さが全く考慮されない点
にある。技術開発によって鋳物を軽量・薄肉化すると重量が減った分だけ売上高が減少し
てしまい、何のための技術開発なのか、と嘆く鋳物メーカーの意見も見られる(表 21)。
その他
4.2%
自社の製品コスト
を基準に決定
9.6%
鋳物部品メーカー
の生産コストを勘
案して決定
10.6%
国際価格を参考に
して決定
1.9%
図 31
無回答
6.1%
重量を基準に決定
35.9%
形状、複雑さ、ロッ
トなどを勘案して
決定
31.7%
(n=312)
現在の鋳物部品の価格決定方式
出所:
(社)日本鋳物工業会「銑鉄鋳物ユーザーから見た銑鉄鋳物製造業会に関するアンケート調査」
(平
成 7 年実施)
34
表 21
鋳物製品価格の課題(自動車部品鋳物メーカー・某社の事例)
1.問題点
鋳物製品を技術改良(軽量・薄肉化)しても、その成果は製品価格に反映出来ず、かえって自社の生産性
の減少や売上高の縮小をもたらしている。
2.自動車用足回り鋳物製品のケース
製品重量
(kg/個)
部品A
旧モデル
新モデル
部品B
旧モデル
新モデル
売価
(円/個)
(指数)
100
67
5.8
4.1
(71%)
6.3
4.1
(65%)
100
65
kg単価 1枠当たり売価
(円/kg)
(円/枠)
(指数)
(指数)
100
100
95
67
100
99
100
65
【コメント】
・ 鋳物製品を旧モデルより 30%近く軽量・薄肉化を実現したが、当然技術的には従来より数段と難易
度は増している。
・ 製品形状や大きさはほとんど同じである為に、1枠当たりの鋳物張り付け数はまったく変えられな
い。その為、生産性(重量)はそのまま約 30%低下してしまう。
・ しかし、重量単価はほぼ同額で、軽量化した分1個単価は低減している。技術改良(軽量・薄肉化)
の結果は、かえって売上高は従来より 30%近い減収になり、生産性の低下で利益率も減少となる。
出所:(財)産業研究所「鋳物用原材料問題への対応に関する調査研究」平成 17 年 4 月)
5.1.1
銑鉄鋳物
(1) 量産鋳物
量産鋳物の代表である自動車用鋳物の場合、造型ラインが機械化されており原価を把握
しやすい、という技術的な特徴に加え、自動車メーカーが鋳物を内製する例が多く、自社
内でもコストダウンに関する技術を研究して外注先の鋳物メーカーの原価を厳しくチェッ
クしている、という事情から、重量単価方式が採用される例は比較的少ない。
しかしながら、表 22 に見るように、実際には自動車メーカー側の鋳造技術に対する理
解が十分でないことなどから、重量取引の商慣行も生き残っている。このため薄肉化・複
雑化することで鋳造メーカーの利益減少の例もあることは、表 21 に示した通りである。
また、海外に鋳物調達先をシフトしたものの、品質等の理由から国内調達に戻した自動車
メーカーが、海外進出先でベンチマークしていた価格を国内鋳物メーカーに押し付ける、
という事例も報告されている。
以上のように、この重量取引慣行は、鋳物メーカーの技術高度化のインセンティブを減
じさせるだけでなく、経営体力を弱めるものであり、長期的には自動車メーカーにとって
も大きなマイナス要因となるものである。両者の発展のためにも、この商習慣の早期見直
しが図られることが望ましい。
35
表 22
重量単価方式の現状と問題点(自動車用鋳物)
【銑鉄鋳物】
・ 新製品を開発しても、前の似たようなモデルを参考に価格決定されるので、結局重量
取引が踏襲されてしまう。したがって、新製品を開発した時点で技術的な優位点を説
明する努力が重要で、当社では営業部隊がこれを担当している。
・ 以前からの「モデルチェンジ」についてはユーザーが当社の付加価値を評価してくれ
て重量取引とはならない場合が多いが、一方で「新しく開発した製品(モデルチェン
ジではない製品)」についてはユーザー側としても付加価値を評価するのが難しく(新
しい技術の評価は難しい)、キロ当たりいくらという重量取引に陥ることが多々ある。
・ 重量取引についてはユーザーが鋳物産業の技術の価値に対して認識が不足しているの
が問題である。
出所:各社ヒアリング調査より
(2) 手込め造型鋳物
一方、工作機械用をはじめとする手込造型鋳物の場合、重量取引が広く行われているこ
とが認められる。こうした価格決定方式が商慣行として存続している背景としては、特に
手込造型の場合、下請け性が強いことに加え、生産形態の多様性、複雑性から、製造のた
めに消費した物量や時間を把握することが困難であることがまず指摘される。
表 23
業種
機械加工メーカー
組立メーカー
鋳物メーカー
(機械造型)
鋳物メーカー
(手込め造型)
製造原価の算出に係る一般機械鋳物の問題
製造原価の算出に係る問題等
加工前の素材の形状と加工後の製品の形状とが明確に認識可能であるた
め、材料費は素材の単価と消費量の積で把握可能
加工費は加工工程の加工原単位と加工時間の積で把握可能
作業対象を部品やアッセンブリーユニットといった要素に限定可能
これら要素ごとの重量や寸法を因子として作業時間が規定されるため、
組立工程の組立原単位と組立作業時間との積で原価の算出可能
造型機のタイプのいかんを問わずピッチタイムを捉えやすい。
注湯工程までがライン化されている場合、注湯のタクトタイムが定まっ
ており、中子の供給もこのタクトタイムに合わせる必要があるため、各
工程の工数は比較的把握しやすく、原価も捉えやすい。
繰り返し生産であり、工数データの蓄積がなされている。
使用する枠サイズ、相込めの有無、使用する硬化剤や硬化方法など、工
数に影響を及ぼす因子が多く、工数把握が困難。
現場の作業者の経験に依存する度合いが高いため、作業の指示も曖昧で
作業の標準化がなされていない場合が多い。
出所:社団法人日本強靭鋳鉄協会「銑鉄鋳物の価格体系に関する調査研究報告書」(昭和 62 年 3 月)
また、一般機械メーカーは現在ほとんど鋳物を内製していないが、このため調達担当者
の鋳造技術に対する理解が乏しく付加価値を評価しにくい。こうした調達側の事情も、重
量単価方式の存続の背景となっている。ただし、手込造型の鋳物メーカーの中には、
「個別
36
に原価計算を行うと経費がかさんでしまう」、「原材料、副資材など重量単価で購入してい
るものが多いので重量単価で考えるほうが早い」、といった理由から、重量取引慣行をむし
ろ選好するところも少なくない。ユーザー側からは、鋳物メーカーが個別の原価見積を出
すことを嫌がっている、との指摘も見られる。また、鋳物メーカー側からは、かつて社団
法人日本鋳物工業会(現・社団法人日本鋳造協会)で手込め鋳物の原価計算方式を定めた
ものの、これに基づいて原価計算するとユーザーが求める価格にならず、結局利用しなく
なった、という経緯も指摘されている。
表 24
重量単価方式の現状と問題点(手込め造型鋳物)
【鋳物メーカー】
・ 重量取引についてはひとつの良い方法だと考えている。
・ 重量単価でよい。重量単価が安いものを手がける鋳物メーカーの方が儲かっている。
重量単価が安いものは概して重量があり工数が少ない。逆に重量単価が高いものは中
子が多かったり、薄肉だったり手がかかる。客は安くやってくれていると思い、鋳物
メーカーは儲かるものが一番良い。
【一般機械メーカー】
・ 鋳物の価格決定方式は重量単価である。相場を見て妥当な価格を決めている。
・ 重量単価が基本としてあり、品物によっては業者によっては難易度と歩留まり率を考
慮した価格決定をしている。
・ 鋳物メーカーから出てくる見積もりは、重量単価によるもので、原価の内容が当方に
は全く見えない。それでも鋳物を確保して納期に間に合わせる方が重要であるので、
相手を信頼してその価格で調達せざるを得ない。重量単価方式は長年の商慣行であっ
たが、見直すべきだと考えている。
・ 鋳物製造に係るコストを明確化してほしい。当社の設計に関わる技術者は鋳物を如何
に軽くするかという点に専念しているため、結果的に製造しにくい図面ができあがる。
重量取引の慣行があるために軽量化した図面の鋳物の方がより安く調達できると勘違
いしてしまうことすらある。こうした点をあらため、軽量化を行った場合は、その分
の付加価値を価格に上乗せできるようにしていきたい。
・ 木型製作のコストが不明瞭な点が不満である。根拠が曖昧な見積(明細がないもの)
を提示することが多々ある。
・ 当社の工作機械用鋳物は複雑な形状であるものが多く、鋳物メーカーから忌避されが
ちである。当社の製品が忌避されるのは、重量取引という商慣行が背景にある。
・ 鋳物メーカーは競合他社が安い単価を出してくると、皆その単価に飛びつく傾向があ
る。
・ 多くの鋳物メーカーは、不況時には極端にへりくだり、相手の方から重量単価を下げ
て、仕事をください、と言ってくる。そして今のような好況時には態度が大きくなり、
重量単価を上げてくる。
出所:各社ヒアリング調査より
そして重量取引慣行が一般的となっている現状については、むしろユーザー側が不満を
抱いている。
「鋳物製造に係るコストを明確化してほしい」「
、原価の内容が全く見えないが、
37
相手を信頼してその価格で調達せざるを得ない」など、重量取引慣行に対する見直しを求
める意見がユーザー側に多く見られる。受注生産である一般機械の場合、鋳物の見込み発
注が難しいため、国内工場では短納期が可能な国内メーカーを中心に発注せざるを得ない。
一般機械についてはこうした事情があるため、現在の好況下においては、鋳物メーカーは
一般機械メーカーに対して細かい原価を見せずに、価格交渉においてある程度強気な態度
で臨む、ということが可能となっているものと考えられる。
表 25
重量単価方式の背景(手込め造型鋳物)
【鋳物メーカー】
・ 大規模な量をすべて見積りして値段を決定するのはコストアップ要因でしかなく、非
常に効率が悪い。
・ 原材料、副資材など重量単価で購入しているものが多いので重量単価で考えるほうが
早い。
・ かつて日本鋳物工業会で手込め鋳物の原価計算方式を定め、原価算定ソフトも開発さ
れたものの、これに基づいて原価計算するとユーザーが求める価格にならず、結局利
用しなくなったという経緯がある。
【一般機械メーカー】
・ 当社の技術者にとって鋳物製品を製造する知識(木型の製造法など)には限界がある
ため、キロ単位いくらというような重量取引に陥りがちである。通常の機械加工では
「材料費」、「加工時間」等が見積の中に明示的に反映されているが、鋳物メーカーは
教えてくれないことが多い。これが重量取引につながる一因である。
・ 大半の鋳造メーカーは工程に応じ、重量チャージ・工数チャージ・直接費・管理費・
運送費・利益等を合計して算出しているはず。しかし、鋳物メーカーは詳細内容を提
示して中身を知られるのを嫌がり、「材質、重量、価格、円/KG」のみの見積書になっ
ていると思う。
・ 鋳物を知らない人にとっては、重量単価方式は楽であろう。購買担当者の教育が必要
である。重量単価方式だと、実際には軽く出来るのに、わざわざ重く作ってくる鋳物
メーカーもある。
出所:各社ヒアリング調査より
38
表 26
手込め造型鋳物の見積原価計算ソフトの概要
【概要】
・ 日本鋳物工業会「銑鉄鋳物製品の標準価格」(昭和 59 年)及び「銑鉄鋳物製品の標準
価格算出の基礎」(同)に準拠して作成
・ 表計算ソフトの LOTUS1-2-3 で作動
【入力データと表示される原価計算シート】
データ入力表
NO
項目
1 得意先コード
2 得意先名
3 品名コード
4 品名
5 ロット
6 材質
7 鋳込重量
8 製品重量
9 造型難易度コード
10 造型の難易度
11 形状コード
12 形状
13 ケレン等特別費
14 塗装費
15 熱処理費
16 機械加工費
17 不良率
18 手形割合
19 手形期間
20 運賃
21 模型搬出入時間
22 金型搬出入時間
原価計算シート
費目
溶湯費
砂処理費
造型費
鋳仕上費
特別費
後加工費
小計
製造間接費
製造原価
管理費
運賃
総原価A
手形割引料
総原価B
付加利益
価格
現在価格
損益
参照表
コード
造型の難易度
1 ごく簡単(中子時間<5%)
2 簡単 (中子時間<20%)
3 普通 (中子時間<40%)
4 高度 (中子時間<60%)
データ
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
1個あたり
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
コード
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
形状
ブロック型
カップリング型
車型
円筒型
リング型
板状
箱型
カバー型
管類
マニホールド
ベット類
枠状
羽根状
バルブ・コック
kgあたり
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
****
出所:社団法人日本鋳物工業会「銑鉄鋳物見積原価計算システムの概要」
しかし、重量取引慣行は、好況期はともかく不況期においては、鋳物メーカーにとって
不利に働くことが容易に想像できる。実際、
「不況期においては他社が安い重量単価を提示
してくると、皆が一斉にその価格に飛びついてくる」、という一般機械メーカーの指摘が見
られる。下請性が強いため、鋳物メーカーとしてはやむをえない企業行動であるのかもし
39
れないが、こうしたやや節操の無い企業行動が調達側から不信感を抱かれる要因となって
いることも、鋳物メーカーは理解すべきであるものと思われる。
また、一般機械メーカーが「鋳物をいかに軽くするか」、を重視するあまり、鋳造メー
カーにとって製造しにくい設計になってしまう可能性も指摘されている。さらに、一般機
械メーカーも、海外の生産拠点の生産能力を拡充するとともに現地での鋳物生産に取り組
み、その鋳物を日本に持ち込もうとする動きも見られる。自動車用鋳物同様に、鋳物メー
カー、一般機械メーカー双方の発展のためには、重量取引慣行を見直していくことが望ま
しい。ただし、自動車用鋳物とは異なり、原価見積が煩雑であり、かつて開発された原価
算定ソフトが有用性に乏しかったということも事実であるため、ソフトの見直しも併せて
行うことが望まれる。
5.1.2
ダイカスト
大量生産されるダイカストについては、自動車用の銑鉄鋳物と同様の理由から、重量単
価方式が採用される例は少ない。かつて現在重量単価は目安として存続しているものの、
製品の大きさや形状の複雑さなどが考慮された単価決定方式となっている。
表 27
単価の決定方式の現状(ダイカスト)
【ダイカスト】
・ 価格は製品の大きさや複雑さ等の生産性を規定する項目によって決定される。
・ 重量取引という発想は経験した事がない。
・ 重量単価方式ではなく、原則として一品ごとに原価見積を行っている。
・ 製品ごとに原価計算を行って見積を作成しているが、目安として重量単価は業界内に
存続している。業界紙には重量単価が掲載してあるのがその証左である。
出所:各社ヒアリング調査より
5.2 模型の保管コスト
冒頭に述べたように、鋳造とは鋳型の空洞に溶融した金属を流し込み、凝固させること
で形を得る金属加工法であり、製造に際して鋳型の存在は不可欠なものである。そして、
鋳型として最も多用されている砂型は、一般的には製品と同じ形をした木や金属などで作
った模型を砂に埋め、それを取り出すことによって作られる。
この木製、金属製の模型(木型、金型)は、いわば個別の製品のために特化した工具の
一種といえるが、当該製品の生産が終了してもなお、鋳造メーカーはユーザーからの要請
によって長期間保管を求められることが多い。しかも、保管料が鋳造メーカーに支払われ
40
る例は少ない。模型を保管することは、ユーザーとの長期継続的な取引が約束されること
を意味することから、鋳造メーカーにとって有利な面もなくはないが、保管管理コストは
鋳造メーカーにとって大きな負担となっている。
5.2.1
銑鉄鋳物
主に工作機械用の手込め造型鋳物、自動車用の量産型鋳物、のいずれも模型の保管は一
般的な商習慣となっている。
大型の製品が多い手込め造型の場合、概して模型も大きく、保管に苦慮するところが少
なくない。特に都市部に立地する中小零細の手込め鋳物工場では、模型は作業場にあふれ
ており、作業場か模型置き場かわからないような状態にあり、生産性も大きく阻害されて
いる。顧客にすべて返却しているという鋳造メーカーもあるが、これは例外的な存在であ
ると考えてよいであろう。自動車用鋳物の場合、保管している模型のうち現在使用してい
るものは全体の半数以下に過ぎず、残りの模型については付加価値を生み出すことも無く
倉庫に眠っている状況にある。
表 28
型保管の現状と問題点(1)
【銑鉄鋳物(一般機械)】
・ 中小零細の特に都市型の鋳物工場は木型倉庫が狭く、木型は作業場にあふれている。
作業場か木型置き場かわからないくらいである。新規受注は嬉しいが木型が入ってく
ることは頭が痛い問題。生産を大きく伸ばすには木型受入れが出来なければ難しい。
・ 手込めの木型は保管に面積を要し、コスト負担は大きい。
・ 地価が上昇する中、木型の保管コストに対する負担感は増している。トラック一杯分
にもなる巨大な木型を中小企業が適切に保管することは不可能に近い。生産終了後の
型はすべて顧客に返却している。それで他社に仕事が回ってしまっても構わないと考
えている。
【銑鉄鋳物(自動車)】
・ 当社では常時 1,000~2,000 型程度の金型を使用・保管している。うち、使用している
のは 500 型程度で、残りはほとんど使用されていない金型である。
・ 現在の預かり型の数は 2,000~3,000 型程度である。そのうち量産部品の生産用として
稼動しているのは数百型と半数以下しかない。ユーザーとの取り決めでサービスパー
ツ用に 15 年程度は預からなければならず、当社では預かり型専用のテント倉庫を 2 棟
建設してそこで保管している。
・ 他社と同じようにユーザーの型を保存している(型で保存するものと、パーツ・製品
をいくつか作って保存するものの2種類がある)。
・ 最近ではモデルチェンジも早くなっており、多品種少量化が進んでいるため、保管す
る木型も急増している。
出所:各社ヒアリング調査より
41
5.2.2
ダイカスト
模型の保管事情は、ダイカストメーカーにおいて問題はより深刻である。冷却装置や複
雑な機構を組み込んでダイカスト用金型は製作コストが一般的に高額であり、ユーザーか
ら廃却が認められにくい。またサイズも大型のものが多く、一部を除く大半のダイカスト
メーカーが保管コストに悩んでいる(表 31)。なお、2002 年における日本ダイカスト協会
の調査によると、ダイカストメーカーで保管されている金型のうち、保管期間が 10 年~15
年に及ぶものは 19%、15~20 年は 8%、20 年以上は 7%となっており、ダイカストメーカ
ーの負担は相当に大きいことが容易に想像される(表 30)。
表 29
型保管の現状と問題点(2)
【ダイカスト】
・ 当社は基本的に型を買い取りにしている。廃棄等の判断ができる為メリットがある。
・ ユーザーから最終製品の生産打ち切り後 13 年~15 年程度は型の保管を要請される。保
管期間をより短くしてもらいたい。型廃棄の打ち切り基準を明確にしてもらいたい。
・ 当社では 3,000 アイテムを製造しているが、うち毎年コンスタントに流れているアイ
テムは 400 程度、年 1 回出るものは 1,400~1,500 程度である。残りは 2~3 年に 1 回
出るか出ないものであり、10 年間で 1 度も出ないものもある。こうしたアイテムの金
型は廃却をユーザーに要請しているが、なかなか承認を得ることができない。10 型申
請して承認が得られるのは 2~3 型程度に過ぎない。
・ 当社でも保管コストに苦慮しており、こうした状況は他のダイカストメーカーも同様
であるものと思われる。保管料金をユーザーからもらっているダイカストメーカーも
あるが、これは例外的な存在である。当社に所有権がある金型であっても、勝手に廃
却することはできない。ユーザーから「その金型には当社の使用権がある」と主張さ
れ、トラブルになることがあるからである。
・ 近年ではユーザーのメイン製品の生産が中国に移管され、国内に残っているのは多品
種少量生産品となっている。これではますます金型の保管コストの負担感は増す。
出所:各社ヒアリング調査より
42
表 30
ダイカスト金型の保管状況(使用していない金型数、用途別及び期間別)
使用してい
ない期間計
一般機械
4,054(12)
1~5 年
5~10 年
10~15 年
15~20 年
1,541(38)
1,220(30)
770(19)
360(9)
158(4)
電気機械
5,750(18)
1,806 (31) 1,829(32)
1,000(17)
454(8)
667(12)
自動車
15,622(48)
6,468 (41) 4,171(27)
2,828(18)
1,172(8)
1,000(6)
二輪車
2,708 (8)
1,430 (53)
609(23)
474(18)
22(1)
173(7)
その他
4,393(14)
1,542 (35)
949(22)
1,032(24)
501(11)
373(9)
8,778(27)
6,104(19)
2,509(8)
2,374(7)
計
32,527(100
12,787(39)
20 年以上
注 1.調査総数 150 社
回答社数 64 社
回答率 43%
2.保管形態 自社の資産型 33%
客先からの預かり型 67%
3.金型の保有状況
総型数
72,626
現在使用中
35,473
現在使用していない 37,153(1年以内のものを含む)
出所:2002 年日本ダイカスト協会調査
5.2.3
模型の保管に係る鋳造メーカー、ユーザーの意見
以上のように、銑鉄鋳物、ダイカストという鋳造法の違い、自動車用、一般機械用とい
うユーザーの違いに関係なく、模型の保管は鋳造メーカーにとって大きな負担となってい
る。ユーザーが模型の保管を鋳物メーカーに負担させる商慣行については、
「昔からの慣習」
なのかもしれないが、生産終了から相当の年月が経過してしまっている製品の模型保管の
ために、鋳造メーカーの手間・コストを費やさせることは、サプライチェーンの効率化と
いう観点から見てもユーザーにとっても必ずしも望ましいことではなかろう。
模型保管に関するユーザーに対する鋳造メーカーの意見をまとめると、保管にコストが
かかっている以上「保管料」が欲しい、せめて明確な保管期間を決めて期限に達すれば廃
却を認めて欲しい、の2つにまとめることができる。
表 31
型保管に関する銑鉄鋳物、ダイカストメーカーの意見
【鋳物メーカー】
①銑鉄鋳物・自動車部品
・ 型の保存の問題は国内で放置するのは問題である。そのためには、型の保存に関して
海外の商慣行を調べて、
「世界に比べたら日本が異常だ」という認識を持つことから始
まる。契約の条件では保存期間を予め取り決めるほかはない。さらに重要なのは、こ
うした契約を日本に定着させることである。ユーザーは補給品がいつ発生するかを予
測できないため、型の保存期限に関して判断できないのだろう。
・ 製造現場は実際に型を保管しているコストがかかっているために廃棄を行いたいが、
顧客と交渉しても拒否されてしまうことも多く、断念するケースが多い。現に管理コ
ストが発生している以上、「保管料」を取るのが筋である(がもらっていない)。
②銑鉄鋳物・一般機械
・ 手込めの木型は保管に面積を要し、コスト負担は大きい。しかし他社に仕事が流れる
43
ことが怖いので、顧客には不要木型を返却するとは言えない。
③ダイカスト
・ ダイカスト業界として保管料の要請を行った時期もあったが、認めてもらえなかった。
なぜならばユーザーにとって、ダイカスト業だけ保管料を認めてしまったら、他のプ
レス金型や樹脂金型等まですべての業界で保管料を認めなければならず、深刻なコス
トアップにつながるからだろう。
・ ユーザー企業における購買担当者も型廃棄の判断には「責任」が伴うので、できれば
判断したくないのではないか。これまでの当社の経験から、腹を括っている購買担当
者は思い切った判断をしてくれるが、保守的な担当者はなかなか認めてくれない。そ
こで、ユーザー企業においても金型廃棄に関して明確な「社内ルール」を作れば、購
買担当者も安心して廃棄の判断を下せるだろう。
・ 金型の廃却をめぐってダイカストメーカーとユーザーで裁判沙汰になってしまったこ
とがある。この件があったことから、以後ユーザーの担当者レベルではなかなか金型
の廃却を認めてもらえなくなってしまった。
出所:各社ヒアリング調査より
前者の「保管料」については、きちんと型を保管してくれるのであれば払っても良い、
と言う工作機械メーカーも見られる。しかし、このメーカーは、取引先の鋳造メーカーに
ついて、
「古い木型を野ざらしにしている」、
「木型が倉庫の奥に入っているため、出すのが
面倒だ、と言われる」といったように、模型保管のあり方について苦言を呈している。ま
た、中小の鋳造メーカーに製造の一部を外注している、ある大手鋳造メーカーは、
「中小の
鋳物メーカーは管理が甘いために、サービスパーツが発生しても型を失くしてしまってい
ることすらある。」と指摘しており、ユーザーから見ると鋳造メーカーの模型保管のあり方
には見直すべき点が少なくない。
表 32
型保管に関するユーザー産業の意見
【ユーザー産業】
・ 流れなくなった製品の木型について、廃棄したいという要請が鋳物メーカーからあれ
ば、当社は廃棄を検討している。1~3 個しか作らないという少量品については、鋳物
メーカーにはなるべく木型を使わせず、発泡スチロール型を使うよう依頼している。
・ 当社としてはきちんと型を管理してくれるのであれば、保管代を支払っても良い、と
考えている。しかし、廃棄してもよいだろうか、とお伺いをしてくる鋳物メーカーは
ない。何も言ってこないので、きちんと保管しているかというと、そんなことはない。
彼らは古い木型を野ざらしにしている。
「木型が倉庫の奥に入っているため、出すのが
面倒だ。発泡型でお願いできないか。」と言われることもある。そんないい加減な保管
をしている鋳物メーカーにはとても保管料を支払う気はない。
・ 当社では調達先に木型を貸して、生産終了後も預けていることが多い。これは、工作
機械業界は最低でも 15~20 年間という長期に渡ってサービス保証義務があるためであ
る。保管料の支払い要望もあるが、当社としては認めがたいのが現状である。
・ 「生産要求が無くなってから 10~15 年経った部品の金型は廃棄してよい」という一定
のルールがあるものの、ダラダラと続くケースも多い。
出所:各社ヒアリング調査より
44
5.3 東アジアにおける取引慣行(参考)
以上のような単価の決定方式、模型の保管に関する商慣行については、果たして国際的
にも共通した慣行なのだろうか。
財団法人産業研究所「中堅中小部材産業の競争力に関する調査研究」(平成 18 年 3 月)
によると、日系鋳物メーカーの一個単価での取引の割合は、国内向け販売の場合は平均
48%であるのに対し、海外事業所(主に中国)での取引は同 77.0%となっている。海外事
業所のサンプル数が少ないため、この設問の結果の有意性についてはやや弱いものの、本
調査では「素形材メーカーにとって、我が国より中国・タイのユーザー企業の方が全般的
に支払条件はいい」との評価や、
「対等のパートナーとしての正当な評価を得られる」との
回答が多く見られるなど、鋳造、金型メーカーにとって、国内よりも中国、タイの方がむ
しろ取引条件が良好であることがうかがえる。
中国におけるローカル系鋳造メーカーを対象としたヒアリング調査では、国内同様に単
価の決定方式について重量取引を採用している例や、模型の保管に悩む例も見られたが、
重量取引のみという例は無く、模型の保管についても無料でいつまでもユーザーから請け
負っているという例は無い。国際的には、こうした商慣行は日本独自のものであって、日
系鋳造メーカーにとって国内よりもむしろ海外の方が取引慣行に恵まれている、という、
実に皮肉な結果となっている。
90~100%
80~90%未満
70~80%未満
60~70%未満
50~60%未満
40~50%未満
30~40%未満
20~30%未満
海外事業所での取引(N=10)
10~20%未満
国内向け販売(N=124)
0~10%未満
0.0
図 32
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
全取引額に占める一個取引の割合(鋳物メーカー対象)
出所:財団法人産業研究所「中堅中小部材産業の競争力に関する調査研究」(平成 18 年 3
月)
45
対等なパートナーとしての正当な評価・対応
37.6
35.5
安定的・継続的受注確保
22.6
チャレンジ精神の触発
海外企業と取引していることで、新規の他取引において信用を得た
19.4
受注単価の高さ
16.1
8.6
契約の確かさ
14.0
その他
0.0
図 33
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
40.0
海外取引におけるメリット(鋳物、金型)
資料:((財)産業研究所「中堅中小部材産業の競争力に関する調査研究」2006 年 3 月)
表 33
中国鋳造メーカーにおける単価の決定方式
・ 鋳物の価格は重量だけでなく形状の複雑性などを加味して見積もっている。(銑鉄鋳
物、輸送機器向け)
・ 単価は炭素鋼でトン当たりおよそ 6,500 人民元、マンガン鋼で 7,800~10,000 人民元で
あり、これに形状によって価格がプラスαされる。(鋳鋼、船舶部品など)
・ 重量単価ではない。(鋳鋼、鉄道車両部品)
・ 単価決定は重量単価方式でも、個別見積もりでも、どちらでも構わない。(精密鋳造、
二輪車部品など)
・ 単価は基本的には材質、製品の種類、重量で決定している。
(銑鉄鋳物、工作機械など)
出所:中国ローカル系鋳造メーカーを対象としたヒアリング調査より
表 34
中国鋳造メーカーにおける模型の保管状況
・ 型は 10 年以上保管している。ユーザーからの指示がない限り廃却しない。型制作のコ
ストは 100%ユーザーから前払いいただく。(銑鉄鋳物、輸送機器向け)
・ 型は原則として顧客に返却する。顧客から保管の要請があったときは当社で保管する。
1 年以上の保管の場合、顧客から保管料をいただいている。しかし保管料は非常に安く、
1日1人民元程度に過ぎない。当社は市街地に近いため保管スペースが足りず、型保
管には苦慮している。(鋳鋼、船舶部品など)
・ 型保管については、契約で 8 年間保管することになっている。期間が過ぎた型は当方
にて廃却する。(鋳鋼、鉄道車両部品)
・ 金型についてはユーザーの要求で返却することがある。創業して間もないため、金型
保管コストに悩むということはない。(精密鋳造、二輪車部品など)
・ 型保管については保管料をいただいている。保管料は保管期間により異なり、いつ製
造を中止するか不明であるものは高い保管料をいただいている。保管期間は 3 年間と
いうものが多い。保管期間は契約書に明記している。(銑鉄鋳物、工作機械など)
出所:中国ローカル系鋳造メーカーを対象としたヒアリング調査より
46
6. 鋳物産業を取り巻く経営環境変化への対応に向けた今後の対応
6.1 さらなる技術開発と提案型営業の展開
6.1.1
技術開発
中国を始めとする東アジア諸国の技術面でのキャッチアップが進展している中、我が国
鋳造産業が今後も高い国際競争力を維持していくためには、新たな技術開発を進め、ユー
ザーからの信頼感を高めていくことが重要である。
鋳物づくりでは、「押し湯」のように製品にならない部分を併せて作らなければならな
いため、材料歩留まりは低く、銑鉄鋳物については鋳型に鋳込んだ溶融金属のうち平均的
には 50%しか製品にならないといわれる。また、いわゆる「暗黙知」が少なくないため他
の金属加工技術に比べて不良率が高くならざるをえない。こうした鋳物づくりの難しさ・
宿命に対し、いかにして不良率を下げ、材料歩留まりを高めていくのかについては、今後
も鋳造メーカーは追求し続けていくことが求められる。
その際に有望な技術が IT である。湯流れや凝固のプロセスなど、鋳造方案の作成に当た
って従来はカンやコツに依存していた要因についても、シミュレーションソフトを用いて
容易に視覚化できるようになっており、解析結果を活用することにより歩留まりや不良率
を大幅に低減することが可能となっている。しかしながら、鋳造技術というものは奥が深
く、依然として最新の科学技術でも解明できていない、
「何か」が様々な工程にあり、それ
が品質や生産性の差として現われるのも事実である。世界の鋳物生産は、中国が群を抜い
て多く、その生産量の伸びは驚異的であるが、我が国鋳造産業は彼らと同じ土俵で勝負し
続けるのではなく、鋳造工程における暗黙知を解明し、革新的な鋳物づくりを目指してい
くことが望まれよう。
ただし、業界の太宗を占める中小企業にとっては、各社個別での研究開発には限界があ
る。またそうした中小企業にとって良い相談相手であった公設試験場では鋳物関連の設備、
人員は大幅に減少しており、エンジニアとなる人材の供給源である大学工学部でも鋳造関
連の鋳造工学研究室も大幅に減少している。こうした中、日本鋳造工学会では平成 15 年に
会員の多くの賛同と寄付によって「若手研究者基金による支援制度」を設け、若手鋳造研
究者の育成・支援に力を入れ始めているほか、近畿大学と岩手大学を中心とする産学官連
携による「鋳造現場の中核人材育成事業」が平成 17 年度からスタートしており、今後の鋳
造業界における技術開発が活発化することが期待される。
47
図 34
鋳造現場の中核人材育成事業の概要
出所:日本鋳造協会
6.1.2
提案型営業の展開
2.4 で述べたようなユーザーニーズの変化について、これまで鋳造業界はユーザーとの
懇談会や、異業種交流会への参加などを通じて情報を収集し、技術開発を進めてきた。
しかし、根本的な問題として、鋳物メーカーは概して製品がどのような機能部品になっ
ていくのか関心が低く、ユーザーサイドに立ったニーズの取り込みなど、マーケティング
が欠けていることが指摘されている。
従来、鋳物メーカーの営業は受身型であり、顧客から注文を受けてから、顧客の図面を
眺めながら「この製品をどうやって作ろうか」と考え、長年の経験に基づくカンやコツを
駆使しながら、トライ&エラーを繰り返しながら鋳物を生産してきた。わが国製造業の生
産のグローバル化が進展する中、ユーザーは複数の部品を設計段階から見直し、1つのシ
ステムとして機能を向上させることによってコスト低減を図る、モジュール化への取り組
みを進めている。また、リードタイムの短縮化への要求も一層進展している。こうした中、
従来のような受身型の営業と開発では、ユーザーが求めるスペック、納期を実現すること
は難しくなっている。今後、鋳物産業は、ユーザーの開発段階から参加し、
「こうすれば複
数の部品を一体化できるので、コストダウンが可能だ」といったように積極的に提案しな
がら、頻繁にユーザーニーズと自社の技術の摺り合わせを重ねることによって、ユーザー
ニーズを実現するとともに自社の生産性向上を実現する、ベストな鋳物づくりを実現して
いくことが望まれる。
そこで活躍するツールが IT である。IT については、前に述べたように単に鋳造メーカ
48
ーでの不良率の低下と材料歩留まりの向上に資するだけでなく、顧客に対する早期の提案
と鋳物メーカーでの対策を講ずる上でも有効である。そして、IT によって試作回数とリー
ドタイムの大幅な低減も可能となり、鋳造メーカーのビジネスチャンスの拡大につながる
ことも期待できる。提案型の営業と開発を進めていく上でも IT は重要なツールであり、鋳
造業界の経営革新を進めていくために今後さらなる普及が望まれる。
図 35
IT の活用による収益性の向上
出所:日本鋳造協会
6.2 取引慣行の改善
6.2.1
改善に向けた業界団体からの働きかけ
重量取引慣行については、手込め造型(工数が把握しづらい、作業者の経験に依存する
部分が多い)での生産が中心の工作機械向け鋳物で多く事例を見ることが出来る。見積に
要するコストなどから、むしろ鋳物メーカーも重量取引を選好する例も少なくない。しか
し、重量取引慣行では、技能・技術の格差が評価されること無くベンチマークとして中国
製鋳物の単価を要請される可能性が指摘されており、技能・技術が適正に評価されるため
の方策が求められる。
また、型保管については、①木型、金型は鋳造メーカーがほとんど無料で保管、②しか
も保管期間は長期間に及び、鋳造メーカーが廃却を交渉してもなかなか認められない、と
いうものである。この点については、大量生産の自動車部品、多品種少量生産の工作機械
49
部品、共通の問題となっている。
これらの適切とは言えない商慣行の背景には、大企業中心のユーザー産業と、中小企業
中心の鋳物産業、という力関係が大きく影響していることは否定できない。しかも、5.で
紹介した中国の事例に見るように、これらの商慣行は、東アジアにおいてはあまり見られ
ないものである。財団法人素形材センターの調査7によると、アジアにおける日系メーカー
から「海外の方が支払条件が良い」、
「対等なパートナーとして評価される」、との指摘が見
られるが、これは国内の商慣行がいかに不合理であるかという証左であろう。
以上の問題については、鋳物メーカーが個別に解決することは容易ではないため、業界
団体がユーザー産業に対して、型の保管については期限・費用のルールを提案するなど、
積極的に働きかけていくことが重要である。
6.2.2
鋳造メーカーの「見える化」に向けた努力
その一方で、鋳造メーカーとしても改めるべきことは少なくない。商慣行見直しのため
には、(1)開発段階から VA/VE 提案を行う中で、付加価値の「見える化」を図った上で
の原価計算の実施、
(2)型保管によって大きな付加価値を鋳物メーカーが提供しているこ
との「見える化」、など、鋳造メーカーが提供している付加価値を定量的にユーザーに示す
ための努力が望まれている。開発段階から VA(Value Analysis)/VE(Value Engineering)
提案を行うには、製品がエンドユーザーでどのような使われ方をするのか研究することが
必要であり、鋳物メーカーによる型保管の付加価値をアピールするには、当然のことなが
ら適切な保管体制の整備が必要である。
しかしながら、型保管についても屋外に放置するなどユーザーにとって容認しがたい杜
撰な方法を取っている例も多い。また、ユーザーから見ると、鋳物メーカーに品質管理が
出来ているところは少なく、
「巣や不具合が混じって当たり前」という発想が根強い、と鋳
造メーカーに対して不満をぶつける意見も見られる8。このため、商慣行の見直しをユーザ
ーに求めていく上では、鋳造メーカーはユーザーからの信頼感を高め、
「下請け」ではなく
「パートナー」として認められるために、こうした「古い体質」について改め、前項でも
述べたように、不良率の低減や、マーケティング能力の強化に注力していくことが、まず
求められる。また、保管すべき型についてはその管理能力を向上させる一方、廃却や返却
が必要と判断される場合は、その必要性を客観的なデータに基づいて示すため、原価管理
等の能力を向上させることも必要である。
7
8
「鋳造・金型産業の取引慣行の国際比較(中国/タイ/日本)」(平成 18 年 3 月)
全国銑鉄鋳物工業組合連合会「銑鉄鋳物製造業の経営戦略ビジョン」(平成 16 年 2 月)
50
6.3 海外で儲ける仕組みの検討
ユーザー産業の海外生産シフトが進み、中国を始めとする東アジア諸国の製造業が、生
産能力を急速に拡大させると共に技術的にも実力を付け始めている中、我が国のものづく
りのあり方も、従来のフルセット型産業構造から東アジア諸国との分業構造に移行しつつ
ある。こうした動きは労働集約的な単純な加工組立等のみならず、鋳造を始めとする素形
材産業の分野でも見られるようになっており、我が国鋳造産業としても「海外で儲ける仕
組み」について真剣に策を講じなければならない段階に来ていると言える。
ただし、「海外に生産工場を立ち上げる」ことが即ち「海外で儲ける」ことではない。
鋳造業界の太宗を占める中小企業にとって、海外での工場立ち上げは多大なリスクを伴う
ものである。ましてアパレル縫製などとは異なり、多額の設備投資を必要とする「重装備
型産業」である鋳造産業は、海外進出については慎重にならざるを得ない。このため、国
内にとどまることを選択する鋳造メーカーがほとんどであるものと思われるが、その場合
であっても、海外、なかでも中国を始めとする東アジアについては、自己の能力を適正に
評価するために情報を収集する、または低付加価値品の外注先として活用するなど、何ら
かの形で関係を有することが必要であるものと思われる。
6.3.1
アジアの実力を知る
ユーザー産業の海外生産が進展しているとはいえ、たとえば工作機械のように国内生産
に今後とも重心を置き続けることが予想される製品は少なくない。しかしながら、ユーザ
ー産業の購買戦略がグローバル化する中、本来は品質や納期で競合しないような低品質の
アジア製品の価格並みで供給を求められる例が国内での取引で増えているとの指摘が見ら
れる。
こうした要求を出してくるユーザーとの交渉力を高めていく上で、主なライバルである
東アジアの実力を知り、自己の能力を適正に評価しておくことは重要である。東アジアの
ライバルの品質・納期・コストを把握することにより、ユーザーと価格交渉をする際に、
「自社の製品は東アジアの製品よりもこういう点で優れているので、これくらいの取引価
格が妥当」という主張が可能となろう。優れた品質、コスト、納期をアピールするなど日
本製鋳物のブランド化戦略を講じていくことも重要であるが、そのためには東アジアの実
力を把握することが求められる。
6.3.2
アジアにパートナーを求める
我が国鋳造産業は、後継者不足などにより事業所数がかつてに比べ大幅に減少しており、
全体の生産能力が低下している中、昨今の景気回復により受注増の状況を迎え、生産能力
51
が大幅にタイトなものとなっている。こうした中、限られた生産能力をより高付加価値な
製品の生産に振り向け、低付加価値品については東アジアの協力企業に外注し、品質保証
を行った上でユーザーに供給するという、東アジアとの分業体制を構築することも鋳造メ
ーカーの経営にとって有効であるものと考えられる。
6.3.3
アジアで生産する
ユーザー産業の海外生産シフトが進展する中、彼らからは日本製品と同等の素形材の現
地調達が強く求められている。製品分野によっては現地のローカルメーカーからは調達が
難しく、未だに日本からの輸入品である例も多い。このため、日本の鋳造メーカーの海外
進出が期待されているところであり、実際東アジアを中心に海外進出が増加している。
鋳造メーカーの海外展開は、主体的に行われるよりは、ユーザー企業からの要請を受け
て行われることが多いが、進出に際しては「現地での市場の動向」、「現地のローカル素形
材メーカーの実力」、「現地での法規制・労働慣行」など様々な要因について、主体的に情
報を収集して判断すべきであることは言うまでも無い。中小企業中心の鋳造業界では、こ
うした情報を自力で収集できない例も少なくないため、政府や業界団体が情報収集面で積
極的な支援を行うことが求められる。
また、海外工場に人材を割かれることは中小企業にとって経営上負担が大きい。そもそ
も人件費の高い日本人社員を現地に多く駐在させると、製品のコストアップは避けられな
い。このため、早い段階で技術・技能を現地の従業員に習得させ、日本本社にとって指導
の負担を減らしていくことが望まれる。しかしながら、退職した従業員を通じてローカル
メーカーにノウハウを盗まれるという、意図せざる技術流出のリスクも伴う。
こうした事態を避けるためには、企業としてなんらかの防衛策を講じることも重要であ
るが、政府としても国内で守るもの(技術流出防止)と、海外に出すもの(海外展開で収
益確保)とを整理し、各種の施策ツール(研究開発補助金、人材育成事業、連携ツール、
中小企業支援事業、技術協力事業等)の活用を促していくことが求められる。
6.4 これからの成長産業への供給
環境、リサイクル、医療、福祉といった様々な分野で日本経済の発展をリードする新た
な産業の登場が期待されている。この新市場の中で、鋳物需要がどれだけ期待できるかは
明確ではないが、鋳物の備えている様々な特性をアピールし、新たな需要創成につなげて
いく取り組みが求められる。
たとえば、製造業の現場では、効率的な生産、高品質な生産、高精度な生産等のた
めに、ロボットは必須のツールとなっているが、昨今では第1次産業、第3次産業に
52
おいても導入が進展しつつある。ロボットは今後ますますあらゆる場面で活用される
ことが期待されているが、そこに用いる材料は軽量性、運動性が特性要因となり、精密
性の点から剛性も要求される。さらに、サーボ機構等でその動作が制御されるため、材料
には被制御性も要求される。これらを充足する機能性を付与するためには、高度な鋳造技
複雑形状部品への対応、
術に対して大きな期待がかけられている。鋳物の適用によって、
部品点数の削減が期待されるほか、薄肉化、軽量金属化による部品の軽量化によって
動作速度、位置決め精度の向上が期待される。
6.5 人材の確保と育成
以上に述べたような経営革新を実現するためには、優秀な人材を確保・育成することが
不可欠であることは言うまでもない。しかし、鋳造業界は、若者の確保に悩む一方、いわ
ゆる「2007 年問題」に直面しており、ベテランの持つ固有技術・ノウハウなどの断絶も危
惧されている。
このため、若手へのノウハウの伝承、少人数で可能とする生産体制づくり、工場・作業
環境を改善し若手を迎え入れる、ということが重要な課題となっている。
人材確保を難しいものにしている大きな要因として指摘されているのが、粉塵や暑熱、
重筋労働といった厳しい作業環境である。工場のクリーン化を推進し、作業環境を改善す
ることは、人材確保だけでなく生産性の向上にもつながるものであり、鋳造メーカー各社
の積極的な取り組みが望まれる。また、就労年齢の上昇が考えられる中、重筋労働の解決
に向けて、制御工学やロボット工学を応用したパワーアシスト技術の導入についても検討
を進めていくことも今後の課題となろう。
人材育成については、前出の大学等との連携を前提とした製造中核人材育成プロジェク
トが進められているところである。鋳造メーカーが本プロジェクトの活用を活発化させて
いくことにより、鋳造産業全体で自立化した事業としていくことが望まれる。
さらに、人材育成への IT の活用が期待されている。鋳造技術は多分野の技術の集合体で
あることから、現行ではその習得に長期にわたる努力と忍耐を必要とする。しかし、鋳造
に係る技術やノウハウをデジタル化し社内の人材育成システムに活用することができれば、
若手の人材育成の期間を大幅に短縮できるだけでなく、彼らの鋳造に対する自信と愛着を
増すことが可能となる。IT については生産・技術・事務・情報管理の補助技術のみならず、
人材育成面での活用も重要となっていくものと思われる。
53
6.6 鋳造産業の社会的地位の向上
鋳造産業については、素形材技術を教える教育機関の減少、若手人材の確保の困難、ユ
ーザー側の素形材への理解の低下、などの課題が多く指摘された。これは、残念ながら「素
形材産業に対する社会的認知度」が十分に高くないことが遠因であると考えられる。
鋳造産業の社会的地位認知度を高め、その地位を向上させていくためには、鋳造産業と
その職業としての魅力や重要性とダイナミズムを的確に社会に伝えるための研究や各種メ
ディアを通じたイベント等を行うことが一つの対応策になると考えられるが、こうしたイ
ベントが表面的なものに留まっている限りは十分な効果が出ない。個々の企業・団体を繋
いで、持続的な大きな動きにするためには、これまで指摘されている課題について、鋳造
産業自身が常に解決のために取り組み続けることが基本となる。
また、鋳造産業は「公害産業」とみなされることが多く、この点が社会的地位の向上を
図る上での妨げとなっている点は否めない。このため、6.6 でも述べたように、工場のク
リーン化と作業環境の改善を進めることが望まれるが、加えて、環境問題への対応を積極
的に進めていくことも求められる。
CO2 排出量の削減をはじめ持続的発展の可能な社会の実現に向けた環境保全の取り組
みは、今日における企業の重要な責務となっており、資源、エネルギーを多用する鋳造産
業は、環境対策に向けた一層の改善努力が求められる。しかし、鋳造産業は、使用する原
材料も鋼屑などのリサイクル地金を使用することが多く、もともとリサイクル性に優れた
産業であるといえる。さらに、多くの鋳造メーカーで、溶解、造型、加工などの各製造段
階における省資源・省エネ化および工場廃棄物のリサイクルに向けた取り組みが進められ
ている。こうした鋳造産業の特徴と取り組みは、社会的にはあまり知られておらず、産業
のイメージ向上のためにも積極的な情報発信が望まれる。
6.7 業界団体の活動強化
ユーザーニーズが高度化・複雑化する中、鋳造業界はますますユーザー産業の技術ニー
ズに対する理解を深めると共に、生産のグローバル展開などユーザー産業の動向について
いち早く情報を入手することが求められる。中小企業の多い鋳造業が、このようなユーザ
ーの様々なニーズに応える新製品や製法、新材質の開発等、ものづくり基盤技術の高度化
を図ることは一企業では不可能である。
重量単価・型保管等の取引慣行などについても、ユーザーとの共存共栄を目標とし、ユ
ーザーとのパートナーとして連携を強化し、商慣行の見直しをはじめとする経営課題の解
決に向けてユーザー産業との協議を深めていくためには、個々の鋳造メーカーが一体とな
った取り組みが必須である。このほか業界団体には、国内外に向けた情報発信の強化、デ
54
ータの共有化、鋳造工学会や関連団体との連携強化など様々な活動が求められている。
このように、業界団体に求められる取り組みは、会員の鋳造技術の向上にとどまらない
が、いずれの業界団体も会員企業減で、事業予算・事務局人員が縮小し、新規事業を実施
する体制の構築が困難な状況にある。今後、業界団体の活動を強化していく上では、平成
18 年度に政府が策定した「素形材産業ビジョン」の方針に基づいて、我が国鋳造業界とし
ての将来のあるべき姿を明確に描き、これを達成するための計画の策定、既存事業の評価、
見直しを含めた全体事業のプライオリティ付けなどを行い、業界団体自身が会員に対して
活動への理解と積極的な参加を求めていくことが必要である。
6.8 政府の役割
鋳造産業支援への政策的支援については、「市場原理に介入すべきではない」という批
判も見られる。しかし、鋳造産業については、重量取引慣行など「自然な競争を通じて、
良い物が安い値段で供給される」という市場原理が有効に機能しない場面は少なくない。
この結果、鋳造メーカーの創意工夫の意欲が削がれ、多くの廃業という事態につながるこ
とが危惧される。そして、経済学的には、
「個々の企業の退出は、需要量に対する供給量を
減少させるので、新規企業の参入や既存企業の事業拡大を促す」のかもしれないが、設備
投資コストが大きく、人材の確保と育成も容易ではない鋳造産業の場合、こうした産業の
ダイナミズムは期待できない。
政府は、縮小しつつある鋳造関連の教育・研究機関へのてこ入れや、鋳造産業のよう
に設備投資規模が大きく中小企業性の強い製造業への税制面での配慮を行うことが求めら
れる。また、民間企業間での改善が難しい取引慣行で、鋳造メーカーの創意工夫の意欲が
削がれるような効果をもたらすものについては、取引に際してのガイドラインや望ましい
ベストプラクティスを示すなど、改善を促していくことが求められる。なお、こうした施
策を展開していく上では、政府が鋳造産業の現状を正しく認識する一方、鋳造業界及びそ
のユーザー業界に対して政府の考え方を情報発信していくことが重要であり、今後、政府
と、鋳造業界・ユーザー業界との間で双方向性のある情報交換が持続的に行われていくこ
とが期待される。
55
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