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若手研究者インターナショナル・トレーニング
若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラム(ITP) 平成 25 年度事後評価(平成 20 年度採択事業) 評価結果 領域・分科(細目) 社会科学・政治学(国際関係論) 実施機関名 北海道大学 専攻等名 スラブ研究センター 事業名 博士号取得後のスラブ・ユーラシア研究者の能力高度化プロ (主担当教員) グラム:跨境的アプローチと比較分析 (松里 公孝) Ⅰ これまでの事業実施により得られた成果 (1) 申請時の目的に対する達成状況についての評価。 評 価 ■ 4.十分達成している。 □ 3.概ね達成している。 □ 2.ある程度達成している。 □ 1.ほとんど達成していない。 コメント (申請時に提出した事業の目的及び将来構想は達成しているか。また、事業実施経費は 効率的・効果的に使用されているか。) 従来の若手研究者は高度な内容の博士論文を書き上げても、外国の有力学会誌に投稿 することが少なく、外国での学会で成果を発表する機会もほとんどなかった。この問題 意識に立って、本事業は若手研究者の英語能力を向上させ、英語圏の一流学会誌に投稿 できる若手研究者を育成することを目的としており、 「研究成果発表状況」に見られると おり本事業の目的はかなり達成できているものと評価する。 国際学会での報告件数は 154 件、論文は国際的な学会誌に 57 本掲載と、英語での発信 が不得意であるという日本人研究者の自意識・評判を大きく改めた。英文の査読雑誌へ の掲載がやや少ないが、英語での研究報告や討論を意識することで、若手研究者が比較 の視座や理論的考察への関心を深めたことが、企画名や研究報告の題目からうかがえる。 また、単なる報告者ではなく、パネル組織の責任者となることで若手研究者の存在感 を示すことが出来たのは、画期的なことではないだろうか。その結果、スラブ・ユーラシ ア研究においては日本の文系研究者が英語で活躍できることが認知され、その評判を高 めることによって、本事業の目標達成が明確になった。 事業期間の 5 年間に本事業に参加した若手研究者は約 60 名(派遣者 16 名、その他 44 名)に達している。本事業による派遣経験者のなかで、テニュア職を得た者を輩出した ことも、目標達成の指標となるものである。 さらに、ハーヴァード大学やオックスフォード大学などの世界トップクラスの研究・ 教育組織との間に研究協力体制を構築し、このような大規模な若手研究者育成プログラ ムは単にスラブ研究領域だけではなく、その他の地域研究における若手育成方法も触発 することは間違いない。 事業実施経費の支出については、概ね妥当であると考えられる。若手研究者の旅費に 支出総額の 50 パーセント以上が充てられており、全体的に効率的に使用されている。 1 (2)若手研究者養成のための組織的な取組状況についての評価。 評 価 ■ 4.非常に高く評価できる。 □ 3.概ね高く評価できる。 □ 2.ある程度高く評価できる。 □ 1.ほとんど高く評価できない。 コメント (若手研究者養成のための組織的な枠組み、及び実施機関全体としての支援体制が整備 されたか。また、派遣人数、派遣期間は妥当か。) スラブ研究センターの教員 4 名と、スキルを備えた職員 2 名による支援体制を整備し ている。そのうち 3 名の専任教員は、各人が担当する著名な大学(ハーヴァード大学、 オックスフォード大学、ジョージ・ワシントン大学)を定め、若手研究者の教育環境等 について関係調整を確立し、同時に先方の大学が若手研究者の研究活動をどのように評 価しているかについて追跡調査も実施した。 また、海外の一流研究機関との協力関係構築が成功したことが注目されよう。オック スフォード大学セント・アントニー校との提携については、旭川大学から担当教員が派 遣され、提携強化が図られた。必要に応じて、提携関係の補強・拡充が行われたことは評 価に値する。 派遣人数は毎年、4 名から 7 名であり、派遣期間については概ね半年間であり、妥当で あった。事前の日本での訓練と、現地への支援やモニタリング、派遣先の海外パートナ ー機関との交渉・調整を実効的に行うことを考えると、支援体制に見合った人数・期間 であると考える。 (海外パートナー機関との連携体制が確立し、機動性・継続性があるものになっている か。 ) 若手研究者が海外パートナー機関で単に英語で研究成果を発表したり、英文で国際的 な雑誌に投稿するために鍛錬を積むだけではなく、国際的な企画を立てることを義務づ けるといった画期的な課題にまで踏み込んだ。その企画にスラブ研究センターが協力す る関係が構築され、海外パートナー機関から歓迎されたようである。これは通常の留学 だけでは達成できない成果と言える。その内容は、大きな企画というよりも中規模なも のに終始し、この点で機動性も確保され、将来への継続性も期待できる。 本事業は、それ自体としては派遣やパネル組織などのための出費が避けられないもの の、派遣者が海外パートナー機関から受益するだけでなく、派遣者による企画の提案・ 組織によって海外パートナー機関の実績向上に貢献しており、国際的な連携を深化させ るモデルとして高く評価することができる。 2 (3)本事業による取り組み成果の国内外に対する情報発信の状況についての評価。 評 価 □ 4.非常に高く評価できる。 ■ 3.概ね高く評価できる。 □ 2.ある程度高く評価できる。 □ 1.ほとんど高く評価できない。 コメント (本事業の取り組み成果の国内外への積極的な情報発信に取り組んでいるか。) 国際学会における発表数、雑誌への投稿数は顕著に増大しており、154 件の国際学会で の研究報告、いくつかのパネルの組織、そして 57 本の国際的査読雑誌への掲載は、十分 な達成である。 国内向けにはホームページを開設し、本事業の成果を他の若手研究者と共有できる場 を提供している。ホームページは、英語キャンプ、英語論文執筆講習会などに参加した 研究者自身が経験を語ることによって、大いに活用されたと思われる。本事業への参加 を検討する若手研究者にとって、派遣経験者の感想や助言へのアクセスが容易になった 点に意義があると思われる。こうした経験が、スラブ研究以外の領域の地域研究者に対 しても波及効果を生じており、これが今後の成果となることが期待される。 また、あえて欧文ホームページではなく日本語ホームページを立ち上げた点に見られ るとおり日本の若手研究者の国際的競争力の向上に貢献する方向で行われている。全般 にホームページに大きな力を割いているとはいえないが、本事業にとってホームページ による宣伝が重要であるとは思えず、他のより重要な項目に資源を投下したのは適切と いうべきである。 3 Ⅱ 今後の展望 評 価 □ 4.非常に高く評価できる。 ■ 3.概ね高く評価できる。 □ 2.ある程度高く評価できる。 □ 1.ほとんど高く評価できない。 コメント (国際的な視野に富む有能な若手研究者を養成するためのプログラムとして、大学全体 の国際戦略の一環として継続される見込みがあるか。また、若手研究者の研鑽並びに人 材育成のモデルとして他大学等への波及効果が期待できるか。 ) スラブ研究センターがこれまで通り様々な形で若手研究者の国際的な研究・発信を支 援することが期待されると共に、その際には本事業の経験が示唆を与えるであろう。 なお、本事業の他大学等に対する波及効果を高めるためには、学会ニューズレター、 広報誌等で積極的・機動的に国内の広報活動を行い、テニュア職の獲得等の成果の実態 を示す必要があろう。国際学会での発表数、雑誌への投稿数の増加をデータで示し、各 種メディアに対して公開することも検討いただきたい。他大学等への波及効果は、今後、 派遣者が英語の成果物をどの程度発表し、国際的な評価を勝ち取るかに左右されると思 われる。 本事業が大学全体の国際戦略の一環として、今後、さらなる発展を見ることは充分に 予想されるところである。本事業の成果について日本国内の地域研究者から反響があっ たようであり、ほかの大学と連携する形で本事業の今後の発展を望みたい。 4 総合的評価 評 価 ■ 4.非常に高く評価できる。 □ 3.概ね高く評価できる。 □ 2.ある程度高く評価できる。 □ 1.ほとんど高く評価できない。 コメント 事業開始に当たって指摘された現状、つまり博士論文提出後の若手研究者が国際学会 の経験に乏しく、研究自体は良心的であっても概念化の能力が不足している、という現 状は地域研究のみならず日本の社会科学全体について言えることではないだろうか。こ の現状を直視し、その弱点の克服に向けた具体的プログラムを立ち上げた点は高く評価 される。 単なる留学に終わる事なく、国際学会におけるパネル組織、査読誌への投稿などにつ いて実践的トレーニングを行ったことが成果に結実した。こうしたトレーニングの経験 をホームページで公開したことは貢献度が高い。 若手研究者が外国の著名な大学で学術成果を発表したことや、一流の学会誌に英文で 投稿した件数が急増した成果を高く評価したい。日本におけるロシア・ソ連研究は欧米 諸国の研究と比較して高いレベルにあることは知られているが、その流れを受け継ぐ若 手研究者を養成する本事業の成果は他の地域研究者にとっても有益だったに違いない。 また、いたずらに海外パートナー機関や派遣者の数を増やすのではなく、互恵的な関 係を促進し、優れた若手研究者を育成した点を高く評価する。 なお、海外パートナー機関の要求と派遣する側の不一致、つまり現状分析ないし 20 世 紀以降の研究を求める海外パートナー機関と、歴史系研究者が多い日本側の実態との乖 離は研究者養成の方法を含む構造的な問題である。日本側の研究者養成方法、具体的に は地域研究を含む社会科学系の大学院カリキュラム編成について、現状を充分に分析し、 その再構築を図る必要があるのではないだろうか。この点を含め今回の事業には多くの 教訓があり、これが広く共有されることが期待される。 外部資金はどこまでもスタート資金の位置づけであり、本事業の終了後は公的資金に 依存するのには限界がある。この点をしっかり自覚したうえで、本事業の終了後に自立 する工夫がしっかり確立されていなかったのは残念である。 5