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水球競技における水平姿勢での巻き足動作時に発揮される足

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水球競技における水平姿勢での巻き足動作時に発揮される足
水球競技における水平姿勢での巻き足動作時に発揮される足部流体力に関する研究
淡路 佳太(201211783,水泳競技方法論)
指導教員:高木 英樹,仙石 泰雄
キーワード:巻き足,流体力,牽引力
【目的】
巻き足とは,水球のプレー全般に関与する極めて
重要な身体の浮揚技術である.しかしながら,その
技術改善の指針となる流体力学的研究は少なく,多
くが垂直姿勢での巻き足に着目したものである.
水球は,様々なプレーや局面に応じて水平姿勢(仰
臥位,腹臥位)での巻き足と垂直姿勢での巻き足をそ
れぞれ使い分ける必要がある.そのため,水平姿勢
での巻き足に関する流体力学的研究を行うことも技
術を向上させる上で非常に重要であると考えられる.
そこで本研究では,水平姿勢での巻き足に着目し,
巻き足動作中に発揮される流体力の特徴を明らかに
することを目的とした.
【方法】
1. 対象者
本研究の対象者は,大学 1 部リーグのチームに所
属する現役の男性水球選手 8 名であった.
2. 実験設定およびデータ分析
実験は,側面に観察用窓を有する実験用回流水槽
(五十嵐工業)にて行った.試技は,水平方向への 5
秒間の全力巻き足運動とし,それを仰臥位と腹臥位
の 2 つの姿勢で計 3 セットずつ行った.試技中,対
象者は両腕を胸の前で組んだ状態を保持した.
対象者の腰部にはワイヤーロープの一端を装着し,
もう 1 端を抵抗測定器(RTD-200-S,西日本流体技研)
に接続することによって,巻き足によって生じる張
力(牽引力)を計測した.計測は,サンプリング周波
数 100 Hz にて行った.また,対象者の足部(利き足)
に 4 対の小型圧力センサー(PS-05KC,共和電業)を装
着し,試技中の圧力分布をサンプリング周波数 200
Hz にて計測した.そして,角川ら 1)の先行研究と同
様の方法を用いて分析を行い,足部に働く流体力の
最大値と平均値を算出した.また,本研究では,腹
臥位と仰臥位での 3 試技において最も流体力の値が
高かったものを対象者のデータとして採用した.
【結果と考察】
巻き足中の足部に働く流体力は,腹臥位(平均値:
116.5±18.5 N)よりも仰臥位(平均値:124.9±17.3
N)の方が有意に高い値を示した(P=0.05)(図 1).また,
巻き足による牽引力も,腹臥位(平均値:141.9±24.6
N)より仰臥位(平均値:149.5±23.3 N)の方が有意に
高い値を示した(P=0.025)(図 2).
しかしながら,腹臥位よりも仰臥位の方が巻き足
中の流体力と牽引力の値が高い理由については,今
回の実験からは明らかにすることができなかった.
今後より詳細に水平姿勢での巻き足を分析するため
には,圧力分布計測と同時に 3 次元動作分析を行う
必要があると考えられる.
図 1 足部に働く流体力の平均値 (N=8)
図 2 牽引力の平均値 (N=8)
【文献】
1)角川隆明,川合英介,仙石泰雄,椿本昇三,高木
英樹.水球選手の巻き足中に発揮される流体力の推
定.日本水泳・水中運動学会 2014 年次大会論文集.
114−117,2014.
一かき一けりにおけるバタフライキックのタイミングが 14m 通過時間に及ぼす影響
氏 名 川合 慧卓(201211825、水泳競技方法論研究室)
指導教員:椿本 昇三、仙石 泰雄
キーワード:画像分析、平泳ぎ、グライド期
【背景】
競泳スタートの水中動作であるグライド期は、ス
タートパフォーマンスに貢献する主要な局面であり、
グライド期は重要であると考えられる。平泳ぎのグ
ライド期では、他の種目と異なり一かき一けりが用
いられている。一かき一けりについて 2014 年にルー
ル改正が行われ、一かき一けり中の下方へのバタフ
ライキックのタイミングが任意のものとなり、バタ
フライキックを打つタイミングが大きく広がった。
このことから、新ルールに対応する最も効果的なバ
タフライキックのタイミングを明らかにすることで、
パフォーマンスが向上するのではないかと考えた。
そこで本研究では、一かき一けりにおけるバタフラ
イキックの効果的なタイミングを明らかにすること
を目的とした。
【方法】
1.対象者
大学水泳部競泳に所属する男子選手 6 名(年齢:
21±1.6 歳、身長:1.72±0.05 m、体重:68.2±5.2 kg)
であった。
2.実験試技
ストリームライン姿勢で、蹴り下げ動作を終えて
からストローク動作を始める「SK」、ストローク動
作を始めてからフィニッシュまでの間に蹴り下げ動
作を行う「MK」
、ストローク動作のフィニッシュと
蹴り下げ動作の終わりが揃う「FK」の 3 パターンの
タイミングでの一かき一けりをランダムに 3 回ずつ
計 9 回行わせた。浮き上がり後も 15m を通過するま
で最大努力で泳ぐように指示した。
3.分析方法
対象者の 11 点に LED マーカーを貼り付け、台上
動作の撮影にカメラを 1 台,水中動作の撮影にカメ
ラ 3 台を用い,壁から 15m までの撮影を行った。撮
影した映像から 2 次元 DLT 法を用いて 2 次元実座標
を算出した。本研究の分析項目である 10m、14m 通
過時間、前半動作完了時速度,後半動作完了時速度,
引きつけ時速度は大転子のマーキングを用いて算出
した。蹴り下げ幅、蹴り下げ動作所要時間、バタフ
ライキック所要時間は足先のマーキングを用いて算
出した。
【結果・考察】
表 1.変数の結果
Variables
unit
10m通過時間
14m通過時間
浮き上がり距離
跳びだし水平速度
前半動作完了時速度
後半動作完了時速度
引きつけ時速度
蹴り下げ幅
蹴り下げ動作所要時間
バタフライキック所要時間
sec
sec
m
m/s
m/s
m/s
m/s
m
sec
sec
Mean
4.38
7.62
12.4
4.47
2.09
1.37
0.25
0.57
0.24
0.52
SK
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
SD
0.32
0.37
0.50
0.27
0.08
0.08
0.10
0.04
0.02
0.09
Mean
4.47
7.70
12.0
4.43
2.18
1.38
0.25
0.52
0.22
0.52
MK
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
SD
0.24
0.36
0.50
0.28
0.11
0.10
0.10
0.06
0.03
0.06
Mean
4.46
7.73
12.1
4.45
2.07
1.35
0.23
0.49
0.21
0.47
FK
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
SD
0.34
0.33
0.60 a,b
0.33
0.12
0.08
0.10
0.05 a,b
0.02 a,b
0.05
a:SK,MK間に有意差な差があった場合 p<0.05
b:SK,FK間に有意差な差があった場合 p<0.05
c:MK,FK間に有意差な差があった場合 p<0.05
10 m、14 m 通過時間に関して、試技間で差は見ら
れなかった。林ら(2015)は SWUM を用いた場合、
ストローク動作開始の 0.4~0.6 秒前に蹴り上げ動作
を開始することが最適だと報告しているが、本研究
では林ら(2015)の結果を支持しないものとなった。
これは、バタフライキックのタイミングの違いによ
って、ストローク動作、バタフライキック動作に違
いが生じてしまうためだと考えられる。SWUM では
動作を統一することができるが、本実験ではバタフ
ライキックのタイミングを変えると、同じ動作がで
きなくなった。そのため、試技間で動作が変わって
しまい通過時間に差が見られなかったと考えられる。
実際に、蹴り下げ幅を比較すると SK は MK、FK に
比べ大きな蹴り下げ動作が行われていることが示さ
れた。SK はストローク動作と蹴り下げ動作が独立し
ており、ストリームライン姿勢の上肢に動きがない
状態でバタフライキックを打つことが出来るため大
きな蹴り下げ動作になったと考えられる。MK、FK
はストローク動作と蹴り下げ動作が連動して行われ
るため、SK とはバタフライキック動作に違いが生じ、
小さな蹴り下げ動作になったのだと考えられる。
本研究の結果では、効果的なキックのタイミング
を明らかにすることができなかった。これはキック
のタイミングにより一かき一けり動作が変化するた
めだと考えられる。
【参考文献】
林勇樹・本間正信・羅志偉(2015)
:SWUM によ
るひとかきひとけり中のドルフィンキックタイミン
グの最適化.日本水泳・水中運動学会 2015 年次大会
論文集 P 40-45
競泳インターバルトレーニングにおける高強度運動と低強度運動の
順番の違いが生理応答に及ぼす影響
後藤 紗葉(201211855,水泳競技コーチング論)
指導教員:仙石 泰雄,椿本 昇三
キーワード:酸素摂取量,有酸素性代謝,エネルギー供給量
【背景】
対象者の主観的な運動強度を調査した.
有酸素能力を高めるトレーニングとして競泳では, 【結果と考察】
インターバルトレーニングが主体となっている.実
酸素摂取量の結果は,100-80 条件では 2.92±0.07
際のトレーニング現場でのインターバルトレーニン
l/min,80-100 条件では 2.86±0.21 l/min であった.心
グは,負荷を調整するために反復回数を増減させて
拍数の結果は,100-80 条件では 133±6 bpm,80-100
構成される.運動強度を高くして反復回数を増やし
条件では 129±5 bpm であり,試技全体では条件間に
た場合,疲労により運動強度を維持することが困難
大きな差はなかった.各セットでの生理応答を比較
.
となるため,反復回数を少なくして,休息時間を挟
すると,100%VO2max 時は条件間で差がないにも関
.
み,数セットを組み合わせて行なわれることが多い.
わらず,80%VO2max 時は 100-80 条件の方が酸素摂
.
自転車エルゴメーターを用いて,減量を目的に運動
取量及び心拍数が高値を示した.100%V
O2max 時は
を行なう場合,先に高強度運動をした方が脂質をよ
両条件とも同等の酸素を摂取して運動をしていたこ
り燃焼しやすく,減量効果が期待できる可能性があ
.
とに対し,80%VO2max 時は 100-80 条件においてよ
ると報告されている(清水ら 2015)
.しかしながら,
り多くの酸素を摂取して運動をしていたことが示さ
競泳のトレーニングにおける高強度運動と低強度運
れた.心拍数については,80-100 条件ではセット間
動の順番の違いに着目して検証された研究はいまだ
の休息で安静時に近い状態にまで戻ったところから
ない.運動の順番の違いによる生理応答への影響を
2 セット目を開始しているといるのに対し,100-80
検証することで,より効果的なトレーニングメニュ
条件ではセット間の休息で下がりきらず,2 セット
ーの作成に貢献できると考えられる.そこで,本研
目を開始していることが示された.このことから,
究では競泳インターバルトレーニングにおいて,高
同じ強度の運動でも先に高強度運動を行なうことで
強度運動と低強度運動の順番の違いが生理応答に及
生理的負荷が高くなることが推察された.その要因
ぼす影響を検証することを目的とした.
としては,疲労によって運動を遂行するためにより
【方法】
多くのエネルギーを必要としたことが考えられる.
1.対象者及び実験試技
また,先行研究(Chuang et al., 2002)より,乳酸の生
本実験は男子大学競泳選手 4 名を対象とし,実験
成に伴って,増加した水素イオンを除去するために
用回流水槽にてクロール泳を用いて実施した.試技
組織レベルでボーア効果(ヘモグロビンから酸素が
は,100m×6 回を想定したインターバル泳を 2 セット
.
解離しやすくなること)が起こったことも考えられ
行なった.1 セット目は最大酸素摂取量(VO2max)
る.
の 100%,2 セット目は 80%で行なう 100-80 条件と
【結論】
1 セット目は 80%,2 セット目は 100%で行なう
インターバルトレーニングにおいて高強度―低強
80-100 条件の 2 条件を実施した.実験で用いる泳速
度と低強度―高強度のように異なる運動強度の順番
度は事前に最大酸素摂取量測定を行ない決定した.
の違いによって,低強度運動での生理応答に影響を
2.測定項目
及ぼすことが示唆された.
シュノーケル型呼気ガス分析器(Meta Swim:
【文献】
Cortex 社製)を用いて,試技中の酸素摂取量を測定
・Chuang et al,Muscle deoxygenation as related to work
した.また,安静時,試技直後,3 分後に簡易血中
rate,Medicine & Science in sports & Exercise,2002
乳酸測定器(Lactate pro: Arkray 社製)を用いて血中
・清水
崇弘ら,高強度運動と低強度運動の順番の違
乳酸濃度を測定した.試技中は HR モニターを用い
いが代謝に及ぼす単発効果,第 32 回産業医科大学学
て心拍数を測定した.また,試技後に RPE を用いて
会総会学術講演・展示抄録集,43,2015
大腿の骨格筋冷却を伴う持久的トレーニングの効果について
坂上 輝将(201211859,水泳競技コーチング方法論)
指導教員:高木 英樹,仙石 泰雄
度測定・Vo2max 測定・MRI 撮影による外側広筋の機
能断面積の比較を行った.
【結果と考察】
ウィンゲートテストの冷却群においてピークパワ
ー・平均パワー・ピーク回転数の増加,ピーク到達
時間の短縮という解糖系代謝能力の向上がみられた.
また,血中乳酸値の結果から,冷却群において 1 週
目では血中乳酸値が 4mmol/l を超える場面があり,
解糖系代謝が動員されていることが示唆された.
本研究の実験試技は,LT 強度の有酸素運動であり
パワーを発揮する筋線維のタイプは遅筋線維であっ
た.しかし,筋が冷却されることにより遅筋線維の
単位当たりの出力が低下する.その出力の低下を補
うために有酸素運動を行っているにも関わらず速筋
線維が動員される.その状態で 3 週間のトレーニン
グを行ったことにより速筋線維が鍛えられ,それに
よって解糖系代謝能力が向上した可能性が考えられ
る.これらの結果から,骨格筋冷却をおこなうこと
によって有酸素運動時に解糖系代謝能力が向上する
可能性が示唆された.
ピークパワー
700
680
平均パワー
冷却群
非冷却群
640
パワー(W)
パワー(W)
660
620
600
580
560
540
Pre
Post
540
530
520
510
500
490
480
470
460
450
440
430
150
冷却群
非冷却群
Pre
Post
ピーク到達時間
ピーク回転数
155
6.6
冷却群
非冷却群
6.4
冷却群
非冷却群
6.2
時間 (sec)
145
回転数(RPM)
キーワード 解糖系代謝能力,LT 強度
【目的】
近年,アイシングやクーリングが注目されてきて
いるが,これは障害予防や暑熱負担軽減を目的とし
て行われている.筋は冷却されると血管が収縮し,
それにより筋に運搬される酸素の量が低下し,酸素
不足を起こす.この現象が有酸素運動を継続してい
る状態で起きると,酸素不足のため有酸素性代謝能
力が落ちるが,それを補うために解糖系代謝が動員
される.つまり,有酸素運動をしているときに意図
的に筋を冷却すれば有酸素運動をしつつ,解糖系代
謝能力を向上することができるのではないかと考え
られる.若林(2015)は,骨格筋冷却による筋代謝制
限下で行う運動トレーニングの開発を目的とした実
験を行った.その結果,冷却により筋代謝が変わる
ことが明らかにされた.しかし,実際にトレーニン
グを行っておらず.トレーニング介入により,有酸
素運動をしつつ,解糖系代謝能力が向上するか否か
検証する必要がある.
そこで本研究では,骨格筋を意図的に冷却するこ
とによってトレーニングによる効果がどのように変
化するのかを明らかにすることを目的とした.
【方法】
1.対象者
男子大学院生(年齢 22,24 歳,身長 176cm,168cm,
体重 60kg,58kg)2 名
2.試技
自転車エルゴメーターの上で 3 分間安静を取った
後冷却群は水温 12℃の冷水に大腿部全部が完全に浸
かった状態で 30 分間冷水浴を行った.冷水浴終了後
自転車エルゴメーターに移動し,大腿を水循環式冷
却パットにより冷却した状態で LT 強度で 60 分間運
動を行った.非冷却群は,冷却パットを巻かない状
態で LT 強度で 60 分間運動を行った.冷却群・非冷
却群ともに週に 4 回,3 週間トレーニング介入を行
い,週に一度測定を行った.実験中は測定項目とし
て,筋酸素動態,筋温・皮膚温,血中乳酸値, 酸素
摂取量,心拍数,深部体温を測定した。
3.評価項目
実験期間の前後でトレーニングによる変化を見る
ために評価項目として,ウィンゲートテスト・LT 強
140
135
130
6
5.8
5.6
5.4
125
5.2
120
5
115
Pre
Post
Pre
図 1.ウィンゲートテストの各項目の結果
図 2.冷却群の血中乳酸値の変化
Post
クロールのターンにおけるタッピング方法
~支援者の視点から~
中山 美月(201211925、アダプテッド体育・スポーツ学)
指導教員:齊藤 まゆみ、澤江 幸則
キーワード:中途失明、水泳、タッピング
【目的】
安全
が増えるにつれて見られなくなった。ストロークに合
視覚に障害があると身体的にスポーツを行うこと わせてのタッピングの場合では壁への衝突が見られ、
が可能であっても、動きが慎重になりスポーツ実施 リカバリー中ではない方の手でターンしている場面が
が難しくなる。水泳であればタッピングを用いるこ みられた。泳速度が上がる程、壁への衝突が多い傾向
とで壁への衝突を防ぎ安全確保が可能である。しか にあったが自己評価は高い点数が見られた。全試技後
しそのことが知られておらず、適切な支援が受けら に行ったアンケートでは、距離でのタッピングを希望
れていないことや、支援者もその方法が分からない した人は 7 人中 5 人、ストロークに合わせたタッピン
という現状がある。そこで本研究は、後天的な視覚 グを希望した人は 7 人中 2 人であった。また、自由記
に障害のある人が水泳を行う際に、安心して泳ぐため 述ではタッピングされてから壁まで距離がある方が壁
のタッピング方法について、支援者の視点から明らか に衝突することが少なく安心出来るという意見が得ら
にすることを目的とした。
れた。実験 2 の結果からストロークに合わせたタッピ
【方法】
ングを希望したすべての被験者が反復練習を得たこと
水泳経験のある T 大学の学生 7 名を対象とした。実 で、距離でのタッピング希望になった。また、タッパ
験 1 ではタッピングのタイミングを壁から 2mの地点 ーへのアンケートでは、ストロークに合わせてタッピ
(以下、距離)とストロークの 2 種類設定し、いずれ ングすることが難しいと感じ、泳速度が上がる程難し
が泳者にとって安心感が高いか、支援者にとって導入 さを感じるという意見が得られた。
しやすいかを検証した。被験者は視覚的情報を遮断し 【考察】
た状態でターン前後 15mを泳ぐ試技を行った。種目は
距離でのタッピングにおいて、自己評価は低い傾向
クロールに限定し、タッピングの合図を基にノーマル にあったが、希望する人が多いという矛盾が見られた
ターンを行うよう指示をした。全試技をプールサイド 2 のは、被験者 7 人は視覚情報を遮断したまま泳ぐとい
階にビデオカメラを設置し記録した。また、被験者に う経験が無かったためと考えられる。また、はじめは
は 1 試技が終了するごとにターン全体、準備局面、ロ 自己評価が低い傾向であったが、試技を重ねることに
ーリング局面、蹴り出し、グライドの 5 項目について 4 より自己評価が向上したことから、短時間であっても
段階で自己評価を行ってもらった。全試技終了後、被 慣れることが可能であると考えられる。ストロークと
験者全員に距離のタッピングとストロークに合わせた 距離を比較すると、合図からターンまでに時間的な余
タッピングのどちらが良いと感じたか、それぞれのタ 裕があるのは距離でのタッピングであり、
壁まで 2mあ
ッピングの試技中に心理的、技術的な面について感じ ることで泳速度を調節することが可能であると思われ
たことを自由記述でアンケート用紙に記入してもらっ る。また、試技回数を重ねることにより自己評価の得
た。次に、実験 1 の結果を基にタッピングのタイミン 点が向上したことや希望するタッピングのタイミング
グを距離に限定し、3 名を抽出して実験 2 を行った。実 が変化したことから距離でのタッピングがストローク
験 1 同様にターン前後 15mを視覚情報を遮断した状態 に比べ安心して自分のタイミングでターンが行えると
で泳ぐ試技を行い、アンケートを実施した。試技中の 推測される。また、タッパーが泳者のストロークに合
様子はプールサイド 2 階から記録した。また、両実験 わせてタッピングするためには高い技術が必要であり、
において支援者(タッパー)にもアンケートを実施し 高い技術を必要としない距離でのタイミングでタッピ
た。
ングすることが導入の段階では望ましいと推測される。
【結果】
【結論】
実験 1 の結果から、距離でのタッピングは 1 試技目
後天的な視覚に障害のある人が水泳を行う際に支援
から 3 試技目にかけて自己評価の得点が向上し、泳ぎ 者は導入の段階では距離でのタッピングを行うことに
については壁を探るような動きが見られたが、試技数 より安心して水泳を行うことが可能である。
ターン後の異なる水中ドルフィンキックの姿勢がターンパフォーマンスへ及ぼす影響
奈良享祐(201211930, 水泳競技方法論)
指導教員:仙石泰雄, 椿本昇三
キーワード: クロール泳, フリップターン, 2 次元動作分析
【目的】
局面に分けた.各局面時間, 各局面速度, 壁から5
m, 10 m, 15 m の通過時間, 壁より 5 m 手前を通過
2015 年世界選手権では, ライアン・ロクテ選手
してからターン後に 5 m 通過するまでの Round
が個人メドレーの平泳ぎからクロール泳のターン
Trip Time (以下, 5 m RTT と略す) を測定した.
局面において, 仰臥位姿勢でのドルフィンキック
【結果】
を用いていた. Pereira et al.(2015) は, クロール
表1に, 本研究で分析した変数の結果を示した.
泳のターン様式の違いにおいて, ターン局面の泳
表1.変数の分析結果
記録の違いはないと報告している. しかしながら,
この先行研究ではドルフィンキックの局面も含め
て分析していない. そこで本研究では, クロール
泳のターン後において異なる姿勢でドルフィンキ
ック行うことが, ターン局面の泳記録に及ぼす影
響を明らかにすることとした.
【方法】
1. 対象
男子大学競泳選手 14 名 (自由形選手 7 名, 背泳
ぎ・個人メドレー選手 7 名) とした.
2. 試技
実験試技は, クロール泳を用いたターン試技と
した. 壁より 15 m の位置から泳ぎ始め, ターン後,
8 回の全力ドルフィンキック泳から浮き上り, ス
イムへと移行した. ターン局面ならびにドルフィ
ンキック局面において以下の2条件を2回ずつ行っ
た.
下向きターン様式:可能な限り下向きで壁を
蹴り, 下向きドルフィンキックを 8 回行い, 浮き
上がる
上向きターン様式:上向きで壁を蹴り, 上向きドル
フィンキックを 8 回行い,浮き上がる
3. 実験設定
4 台のカメラを用いて, プール側方から 0 m-15
m の範囲が映るよう設置した. 身体マーキングは,
頭頂, 手首, 足先に行った. 頭頂, 足先には無線
自発光マーカー(煌, Nobby-tech 社製)を使用し,
手首には黒と白のビニールテープを使用した.記
録された映像から 2 次元 DLT 法を用いて, 2 次元
座標を算出した.
4. 分析項目
ターンの局面分けは, Rolling 局面, Pushing局面,
Glide 局面, Dolphin Kick 局面, Transition 局面の 5
変数
単位
下向きターン様式
5m通過時間
sec
1.80±0.07
10m通過時間
sec
4.84±0.17
15m通過時間
sec
7.73±0.28
5mRTT
sec
4.85±0.16
Rolling局面時間
sec
1.18±0.19
Pushing局面時間
sec
0.27±0.05
Glide局面時間
sec
0.53±0.16
Dolphin Kick局面時間 sec
3.52±0.32
Transition局面時間
sec
0.67±0.21
Glide局面速度
m/s
2.40±0.13
Dolphin Kick局面速度 m/s
1.72±0.08
Transition局面速度
m/s
1.67±0.16
平均値±標準偏差
*:下向きターン様式と比べて有意な差
上向きターン様式
1.83±0.08
4.96±0.22*
8.03±0.34*
4.83±0.14
1.13±0.11
0.27±0.06
0.54±0.14
3.51±0.30
1.72±0.43*
2.27±0.11
1.70±0.08
1.50±0.14*
【考察・結論】
10 m, 15 m 通過時間において,上向きターン様式は
下向きターン様式に比べ, 有意に遅い値を示した(p
< .05). Transition 局面は, 下向きターン様式に比べ,
上向きターン様式の所要時間および泳速度は有意に
遅い値を示した(p < .05). Transition 局面において, 上
向きターン様式は, 下向きターン様式と違い, 姿勢
変換をしなければならない. 試技映像より, 上向き
から下向きへと姿勢変化する際に, 上向きターン様
式が泳者のストリームライン姿勢が崩れる様子が観
察された. また, 完全に浮き上っていない状態でス
トロークを開始し始めている対象者もいた. その為
に, 大きく水の抵抗を受け, 減速したと考えられる.
以上より, 上向きターン試技のようなターン様式は,
Transition 局面での減速が大きく, 上向きターン様式
は, 泳記録を落とす可能性がある.
【文献】
Suzana Matheus Pereira, Caroline Ruschel, Marcel Hubert,
Leandro Machado,Helio Roesler, Ricardo Jorge
Fernandes, and João Paulo Vilas-Boas(2015)Kinematic,
kinetic and EMG analysis of four front crawl flip turn
techniques. Journal of Sports Sciences November 2015;33
(19) pp2006-2015
Backstroke start device を用いた背泳ぎスタートのレッジ位置および
姿勢変化によるパフォーマンスへの影響
林 世志輝(201211957、水泳競技方法論)
指導教員:本間 三和子、仙石 泰雄
キーワード: レッジ位置、姿勢変化、Backstroke Start Device
【 目的 】
た。撮影した映像から、5・10m 通過時間、跳び出し
競泳の背泳ぎは、2014 年の競泳競技規則改正によ
角度、飛距離、跳び出し水平速度を算出した。
り、Backstroke start device( 以下、BSD とする )が導
【 結果 】
入されることとなった。BSD は、9 段階でレッジ位
表 1.項目の測定結果
置を調節することが可能であり、BSD を用いてスタ
前傾 0
前傾 4
後傾 0
後傾 4
項目
単位
ートを行う事で、水の抵抗による減速を抑えた入水
Mean ± SD Mean ± SD Mean ± SD Mean ± SD
5m通過時間
sec 1.82 ± 0.07 1.78 ± 0.07 1.82 ± 0.09 1.80 ± 0.06
が可能であると報告されている( 池田ら、2014 )。 し
かしながら、BSD を使用した研究はいまだに十分と
10m通過時間
sec 4.71 ± 0.14 4.63 ± 0.17 4.71 ± 0.19 4.62 ± 0.20 b*
は言えない。またスタート時の構えに明確な指標が
m 2.48 ± 0.17 2.51 ± 0.17 2.42 ± 0.18 2.48 ± 0.17 a.b*
飛距離
なくスタートの構えが異なる選手もいることから、
m/s 3.82 ± 0.07 3.86 ± 0.10 3.81 ± 0.17 3.82 ± 0.12
跳び出し水平速度
a:前傾4と後傾0の間に有意差あり( p<0.05 )
スタート姿勢の違いが及ぼす影響を明らかにする必
b:後傾0と後傾4の間に有意差あり( p<0.05 )
要がある。そこで本研究では、Backstroke Start Device
を用いたレッジ位置の変化及び姿勢変化がスタート
パフォーマンスに与える影響を明らかにすることを
目的とする。
【 方法 】
1.対象者
対象者は、背泳ぎを専門としている男子競泳選手
4 名と個人メドレーを専門としている男子競泳選手
1 名の計 5 名であった。競技レベルは、全国大会出
場レベルであった。
2.実験試技
試技内容は、
BSD の位置が水面で、
前傾姿勢を
【前
傾0 】
、
BSD の位置が水面で、
後傾姿勢を
【 後傾 0 】
、
BSD の位置が水上で前傾姿勢を【 前傾 4 】
、BSD
の位置が水上で、後傾姿勢を【 後傾 4 】と定義し
た。各レッジ位置で試技を 2 回ずつ、計 8 回のスタ
ートを全力で実施させた。また スタート後、10m 通
過するまでバサロキックを行うよう指示した。前傾
姿勢の試技は頭部を壁に引き寄せた構えを指示し,
後傾姿勢の試技は頭部が壁から離れて背中を反った
姿勢で構えるように指示をした.レッジ位置は、水
面を 0 とし、
水上に設置できる最大位置を 4 とした。
3.データ収集
身体重心を算出するために、対象者には、体の 13
点に無線自発光マーカーをビニールテープで固定し
た。3 台の高速度カメラと 2 台のビデオカメラによ
って記録された映像からビデオ解析システム( Frame
DiasⅤ DKH 社製 )を用いて 2 次元実座標を算出し
10m 通過時間に関して、4 つの試技を比較したと
ころ、後傾 4 は後傾 0 と比べて有意に短い値がみら
れた。飛距離に関して、4 つの試技を比較したとこ
ろ、前傾 4 は後傾 0 と比較して有意に長い値がみら
れた。
【 考察 】
10m 通過時間について、レッジ位置が高い試技で
10m 通過時間が短くなっていることから、レッジ位
置 4 でスタートを行う事で通過時間が短縮する可能
性が示された。飛距離について、前傾 0 はレッジ位
置が低いにもかかわらず、レッジ位置が高い後傾 4
の試技と飛距離が変わらないことから前傾姿勢は飛
距離に影響を与える可能性がある。しかしながら、
跳び出し水平速度について、試技間で有意差がみら
れなかった。本研究の結果では、BSD を使用した姿
勢変化によるスタートシグナルから跳び出しまでの
スタートパフォーマンスへの影響はほとんどないと
考えられる。一方、表 1 からレッジ位置に関して、0
位置より 4 位置で有意差が示された項目もあったこ
とからレッジ位置が高い試技で、効率の良いスター
トが行える可能性が考えられる。
【 文献 】
1) 池田祐介,市川浩,奈良梨央,馬場康博,下山好
充( 2014 )Backstroke Start Device を用いた背泳ぎスタ
ートの動作とパフォーマンスに関する研究.日本水
泳・水中運動学会 2014 年次大会 pp.82~83
冷水浴による筋温低下がその後の運動に及ぼす影響
~代謝応答に着目して~
大澤 瑞樹
体育学専攻
指導教員 椿本 昇三 研究指導教員 仙石 泰雄
Effect of low muscle temperature caused by cold water immersion on subsequent exercise
~focus on metabolic modality~
Mizuki OSAWA
The purpose of this study was to examine the effect of low muscle temperature on
subsequent exercise. For this purpose, subjects completed two experimental bouts. One of
the bouts was composed cold water immersion ( CWI ) at 12℃ for 30 minutes with their
femurs fully immersed, and then they had done cycling exercise for 60 minutes at their
lactate threshold ( cooling condition ). The other was composed only cycling exercise for 60
minutes at lactate threshold ( non-cooling condition ). CWI reduced the muscle temperature
of vastus lateralis 33.58 ± 0.63℃ to 22.67 ± 1.21℃. The results
. of the research were as
follows ; ( 1 ) the factor of causing the large time constants of VO2 kinetics is the delay of the
adjustments of bloodflow and O2 supply; ( 2 )low muscle temperature induced raise of blood
lactate concentration. They suggested that low muscle temperature induced vasoconstriction
which reduced bloodflow and O2 supply to vastus lateralis, and that low muscle temperature
induced contractile force of muscle lowering, which made much number of muscle fibers
contract to keep their work at lactate threshold.
【緒言】
近年,冷水浴はリカバリー手法の一つとして着
目されている.冷水浴の主な生理学的効果として,
血管を収縮させ,末梢の血液を中心部へ運搬する
ことにより浮腫の形成を抑え,結果として毛細血
管の圧迫を減少すること,筋温を低下させること
で筋の代謝を抑制させること 10),筋への血流量を
抑制し炎症反応の抑制,遅延を引き起こすこと 4)
が挙げられ,これらの効果によって運動パフォー
マンスの低下を抑制する可能性が考えられる.し
かしながら,冷水浴後のパフォーマンスに関して,
否定的な結果を報告する研究者も存在する.その
要因として,冷水浴条件におけるリカバリー介入
直後のドロップジャンプ高の低下が,パッシブリ
カバリーと比較して大きかったことから,筋温の
低下が要因である可能性が示唆されている 3).
これまでの先行研究において,筋温の低下は最
大等尺性収縮力の減少を引き起こすことや,サイ
クリング運動時におけるピークトルクの減少を
引き起こすことが報告されている 11).筋温の低下
が引き起こす生理応答として,筋電図の観点から
研究が行われており,水温の異なる環境の中,同
じ速度で鯉を泳がせたところ,筋温の違いによっ
て動員する筋線維数に変化が及ぼされることが
明らかになった 8).さらに,代謝応答に対する筋
温の低下の影響として,下肢を冷水に浸水させる
ことで外側広筋の筋温を 30 度まで低下させ,中
強度自転車運動を行ったところ,酸素摂取動態に
おける時定数が増大することが報告されている
9)
.さらに,酸素摂取量が心拍出量と動静脈酸素
較差によって規定されることに着目し,筋温を
30 度に低下させた状態での運動開始時における
心拍出量の変化を観察が観察された結果,心拍出
量には変化が見られなかったことから、運動開始
時における動静脈酸素較差が減少し,時定数が増
大したのではないかと推察された 9).筋温が低下
することによって、ヘモグロビンと酸素の結びつ
きが強くなるボーア効果が起こると考えられ,結
果として筋における酸素の取り込みが減少する
可能性が考えられる.しかしながら,これまで実
際に筋温が低下した状態での運動時における筋
の酸素利用応答に関して調査した研究は見当た
らない.
そこで,本研究では,冷水浴を用いて筋温を低
下させ,その後に運動を行った際の酸素摂取量の
測定と,筋酸素動態を同時に測定することによっ
て,筋温低下時における筋の酸素利用応答の特徴
を明らかにすることを目的とした.
【方法】
1.対象者
特に運動習慣の無い非鍛錬者から大学の運動
部に所属している鍛錬者まで運動習慣が異なる
健康な成人男性 8 名が本研究に参加した.
2.実験手順
対象者は,先行研究に準じた手法を用いて事前
に自転車エルゴメーターによる最大テスト及び
最大下テストを行い,LT 強度に相当する強度を
決定した 7).
本試技として冷却条件と非冷却条件の 2 条件
を用意した.冷却条件はエルゴメーター上で 3 分
間の安静値を測定した後,大きめの浴槽を用いて
12℃の水に 30 分間,座位にて大腿部が完全に浸
水するよう入水した.浸水終了後,10 分程度の
測定準備及び運動準備時間を設け,再びエルゴメ
ーター上で 3 分間の安静値の測定を行った.なお,
運動中の筋温の上昇を抑制するために冷却パッ
ドを大腿部に巻き,5℃の水を常時循環させた状
態で 60 分間の LT 強度,60rpm での自転車運動を
行った.非冷却条件においては,測定機器を装着
し,3 分間の安静値の測定を行った後,60 分間の
LT 強度,60rpm での自転車運動を行った.この
際,冷却パッドは巻いていない.
3. 分析項目
1) 筋温・皮膚温
筋温・皮膚温の変化は,モニターに映し出され
たデータを 1 分毎に記録した.なお,安静開始時
より測定を開始し,安静開始 3 分後に得られた値
を安静値として採用した.
2) 酸素摂取動態及び心拍数動態
酸素摂取動態は,先行研究を参考に本試技にお
いて呼気ガス分析器 ( METALYZER,Cortex 社
製 ) を用いて得られた 5 秒毎のデータを,3 点移
動平均を用いて平滑化し,一次の指数関数式
( 1 ) に当てはめることで分析した 6).また,運動
開始直後の心拍出量や肺血流量の急激な増加を
.
反映する VO2 の急激な増加分の影響を除外する
為,運動開始直後の 20 秒間のデータは除いて酸
素摂取動態を分析した 6).その後,動態に関わる
3 つの変数 ( Amplitude,Time-Delay,τ ) を算出
する為,非線形二乗法を用いて補正した値に曲線
を当てはめた.また,筋温の低下時の時定数は,
Ishii らの方法と同様に運動開始 5 分後までのデ
ータを用いて求めた 5).
なお,安静開始後 2~3 分に得られた値の平均値
を安静値として採用した.心拍数動態に関しても
同様の手順で分析した.
3) 筋酸素動態
本研究では,近赤外組織血液酸素モニターのプ
ローブ間距離を 20 mm と 40 mm に設定して測定
を行った.製造者のマニュアルに従い,式 ( 2 )
を用いて,皮膚表面から深層域までのデータから
表層域の影響を取り除くことにより,深層域の骨
格筋組織酸素動態を評価した.
.
.
VO2( t ) = VO2b + A * ( 1-e-( t-TD/τ ) )
【結果】
本実験における右脚外側広筋筋温は,冷却条
件において 60 分間の運動を通して,有意に低い
値を示した( 図 1 ).
(1)
.
ここで,VO2 ( t ) は運動開始からの時間におけ
.
.
る VO2 であり,本研究における VO2b は運動開始
.
前の安静値,A は VO2b と定常値 ( 運動開始 4
分から 5 分までの値の平均値 ) との振幅,τ は定
.
常状態の VO2 を 100 %としたときに,その約 63 %
に変化するまでに要する時間を表す時定数,TD
は実際の運動開始からの時間遅れを示している.
DET2-1 = { ( DET2 * 40 ) - ( DET1 * 20 ) } / ( 40 20 )
(2)
ここで,DET2-1 は皮膚表面から 1 cm - 2 cm の組
織酸素動態,DET1,2 はそれぞれ皮膚表面から
約 1 cm,2 cm 深度までの組織血液酸素動態 ( 酸
素化ヘモグロビンまたは脱酸素化ヘモグロビ
ン ) の測定値を表している.なお,安静開始後 2
~3 分に得られた値の平均値を安静値として採用
した.なお,個人ごとに安静値が異なることから,
相対値を算出するため,以下の式を用いて算出し
た.
変 化 率 = ( 実 測 値 ) / ( 安 静 値 )*100-100
(3)
4) 各測定項目における変数の経時変化
.
酸素摂取量 ( VO2 ),心拍数 ( HR ),酸素化ヘモ
グ ロ ビ ン ( HbO2 ) , 脱 酸 素 化 ヘ モ グ ロ ビ ン
( HHb ),組織酸素飽和度 ( StO2 )の経時変化を観
察する為,運動開始 1 - 2 分,3 - 4 分,4 - 5 分,5
- 6 分,7 - 8 分,9 - 10 分,19 - 20 分,29 - 30 分,
39 - 40 分,49 - 50 分,59 - 60 分の 10 時点におけ
る平均値を算出し,条件間で比較した.
筋温の変化は,モニターに映し出されたデータ
を 1 分毎に記録し,2 分,4 分,6 分,8 分,10
分,20 分,30 分,40 分,50 分,60 分のデータ
を条件間で比較した.
血中乳酸濃度は,2 分,4 分,6 分,8 分,10
分,20 分,30 分,40 分,50 分,60 分の各測定
時間において条件間で比較した.
図2
外側広筋筋温の経時変化
外側広筋筋温(℃)
40
*
2. 運動中における測定結果
1) 酸素摂取量の経時変化
酸素摂取量に関して,60 分間の運動を通して,
有意な差は認められなかった.
2) 筋酸素動態の経時変化
ΔStO2 は運動開始後,20 分の間冷却条件におい
て有意に低い値を示した( 図 3 ).
36
32
28
24
冷却条件
観察された“オーバーシュート反応”
非冷却条件
20
0
20
時間(min)
40
ΔStO2の経時変化
60
時間(min)
* p < 0.05
0
-10 0
1. 運動開始時における測定結果
1) 酸素摂取動態及び心拍数動態の測定結果
運動開始後における酸素摂取動態の変化を表
1 に示す.時定数を示す τ のみ冷却条件におい
て有意に高い値を示した.心拍数動態の測定結
果に関して,安静値及び定常値に関して,冷却
条件において有意に低下していたものの,動態
に関しては条件間に有意な差は認められなかっ
た.
表 1 自転車運動時に酸素摂取動態の測定結果
冷却条件
非冷却条件
平均 標準偏差 平均 標準偏差
Parameters
Amplitude(l/min)
1.27
0.20
1.39
0.31
Time Delay(s)
8.81
9.22
14.06
4.84
Time Constant(s)
35.42
12.94
23.17
*
8.53
2) 筋酸素動態の測定結果
運動開始後における筋酸素動態に関して,冷
却 条 件 に お い て の み 脱 酸 素 化 ヘ モグ ロ ビン
( HHb ) の“オーバーシュート反応”が認められ
た( 図 3 ).さらに,運動開始後における HHb
の最高
値に関して,冷却条件において有意に高い値を
示した(14.8 ± 2.4 vs 12.5 k/mm3 ± 3.7 k/mm3 ).
運動開始後5分間のΔHHb
120
100
ΔHHb(%)
80
60
40
20
-20
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
220
240
260
280
300
0
-40
時間(sec)
冷却条件
非冷却条件
ΔStO2(%)
筋温の経時変化の測定結果
20
40
60
-20
-30
-40
*
-50
* ** *
冷却条件
非冷却条件
*
-60
図3
* p < 0.05
ΔStO2 の経時変化の測定結果
3) 血中乳酸濃度
血中乳酸濃度の測定結果に関して,運動開始 4
分から 20 分の間,冷却条件において有意に高い
値を示した( 図 4 ).
血中乳酸濃度の測定結果
血中乳酸濃度(mmol/l)
図1
冷却条件
6
5
4
3
2
1
0
**
**
0
図4
非冷却条件
*
20
40
60
* p < 0.05
時間(min)
血中乳酸濃度の測定結果
【考察】
本研究において,冷却条件における筋温は運動
試技を通して非冷却条件と比較し,有意に低い値
を示していた.しかしながら,酸素摂取量に関し
て,冷却条件と非冷却条件の間に,有意な差が見
られなかったことから本研究において,寒冷誘発
性の代謝亢進は起きていなかったこと,運動中の
エネルギー消費量に差がなかったことが考えら
れる.
運動開始時において,酸素摂取動態における時
定数が増大した.先行研究において,同時に心拍
出量を測定し,心拍出量に変化がなかったことか
ら,筋における酸素利用の減少が時定数の増大を
もたらしたのではないかと推察された 9).そこで
本研究において,筋の酸素動態を測定したところ,
筋温の低下は運動開始時に HHb が瞬時的に定常
値を上回る“オーバーシュート反応”を引き起こ
すことが明らかになった.過去の研究において,
“オーバーシュート反応”は酸素の需要と供給の
バランスの乱れから生じることが報告されてい
る 1).本研究において,運動開始直後に急激な
HHb の増大が観察されたことから,筋での酸素
取り込みに遅れが生じていなかったと考えられ
る.冷水浴による筋温の低下は,血流量を減少さ
せることがこれまでに報告されていることから
4)
,運動開始時において,筋が定常に至るために
必要な酸素を送り込むことが出来なかったこと
によって,時定数の増大を生じさせた可能性が考
えられる.この結果は,先行研究で推察されてい
た筋での酸素利用が減少するというよりもむし
ろ,寒冷刺激によって血流の供給が遅延すること
で,酸素摂取動態における時定数が増大していた
可能性が考えられる.
.
運動中の経時変化に関して,VO2 に関して条件
間に有意な差が認められなかった.従って,本研
究における酸素需要量は条件間において差がな
かったことが推察される.その反面,ΔStO2 は運
動開始後 20 分間冷却条件において有意に低い値
を示した.このことから,運動開始後 20 分間は,
筋への酸素供給量が減少していたことが示され
る.加えて,運動中,血中乳酸濃度は 4 分から
20 分の間冷却条件において有意に高い値を示し
ていた.これは本研究では,LT 強度の運動を行
なった際に,非冷却条件においては乳酸の生成と
代謝の割合に均衡が保たれる程度の解糖系の動
員が行われていたものが,冷却条件において,筋
温が低下したことで筋線維当たりの出力が低下
し,より多くの速筋線維を動員させ解糖系による
エネルギー供給を増加させることで運動を維持
し,結果として乳酸の生成量が代謝できる量を上
回り,血中乳酸濃度が高まったと考えられる.
【まとめ】
本研究は,筋温を低下させた状態での自転車運
動が筋の代謝に及ぼす影響を明らかにすること
を目的とした最初の研究である.本研究の結果,
以下のことが明らかとなった.
( 1 ) これまで,筋温が低下した際に観察される
運動開始時の酸素摂取動態の時定数の増大は,筋
での酸素利用が減少することによって引き起こ
されると考えられていたが,実際は活動筋への酸
素供給が遅れることに起因する.
( 2 ) LT 強度の運動を実施する際,筋温の低下は
解糖系を介したエネルギー供給量を増加させる.
【参考文献】
1) Bauer,A.T.,Levi M.,Reasch B.E.M.,
and
Regensteiner . Skeletal
Muscle
Deoxygenation After the Onset of Moderate
Exercise Suggests Slowed Microvascular Blood
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Care,30:2880–2885,2007
2) Bowen,S.T.,Rossiter,B.H.,Benson,
P.A.,Amano.T.,Kondo.N., Komalchuk,
M.J.,and Koga S. Slowed oxygen uptake
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peak and reduced spatial distribution of absolute
skeletal muscle deoxygenation. Experimental
Physiolosy,98( 11 ):1585-1596,2013
3)Gillian,E.,White,S.G.,Rhind,G.D.
and Wells . The effect of various cold-water
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inflammatory response and functional recovery
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4) Gregson,W.,Black,M.A.,Jones,H.,
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rest. The American Journal of Sports Medicine,
39:1316-1323,2011
5) Ishii,M.,Ferretti,G.,and Cerretelli,P. Effects
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6) 門田 理代子 クロール泳におけるプル・キ
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7) 黒川 心 負荷設定が Wingate テストに及ぼ
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8) Rome,L.C. Influence of temperature on muscle
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9) Shiojiri,T.,Shibasaki,M.,Aoki,K.,Kondo,
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temperature on the oxygen uptake kinetics at the
start of exercise.Acta Physiologica Scandinavica,
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10) Yanagisawa,O.,Kudo,H.,Takahashi,N.,
and Yoshioka,H. Magnetic resonance imaging
evaluation of cooling on blood flow and oedema
in skeletal muscles after exercise. European
Journal of Applied Physiology,91( 5 ):737-740,
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11) Wakabayashi,H.,Oksa,J.,Tipton.J.M.
Exercise performance in acute and chronic cold
exposure. The Journal of Physical Fitness and
Sports Medicine,4 ( 2 ):177-185,2015
水球競技選手における巻き足動作時の
足部流体力発揮に関する研究
川合 英介
体育学専攻
指導教員 高木 英樹
The study of fluid forces acting on a foot during eggbeater kick of water polo players
Eisuke KAWAI
The purpose of this study was to estimate fluid forces acting on a foot during eggbeater kick
of water polo players by the pressure-distribution-measuring method, and to clarify the
relationship between fluid forces and eggbeater kick motions. Six male water polo players
performed in following two conditions eggbeater kick, i.e. Normal condition and Added load
condition. Eight pressure sensors ware attached to a dominant foot to measure pressure
distribution on a foot. Fluid forces acting on a foot were estimated by measured pressures,
and each directions fluid force vectors were calculated. Moreover, eggbeater kick motions
were recorded by three video cameras, and analyzed by 3D motion analysis. In the result, it
was clarified that eggbeater kick mainly exerted propulsive forces in the out-kick phase and
in-kick phase. Additionally, it was suggested that kick velocity and angle of attack may have
relate to the exertion of propulsive forces.
【緒言】
水球は,7 名で構成された 2 チームがプールに
設営されたコートの中でゴールにボールを入れ
合い,点数を競う競技である.競技の規則や特性
上,選手は水中で常に身体を浮揚させてプレーを
行う必要があり,そのための技術の 1 つとして巻
き足が挙げられる.
巻き足とは,膝関節を中心に左右の下腿を交互
に回旋させ,主に足部で推進力を発揮する立ち泳
ぎの技術である 1),5).この技術は,他の立ち泳ぎ
の技術と比較して安定した推進力を発揮できる
という特徴から,主に身体を継続的に浮揚させた
り,相手選手からの外的負荷 (アタック等のコン
タクトプレー) に耐えたりする場面でよく用い
られている.また巻き足は,シュートやブロック
などの上肢動作を伴うパフォーマンスにも貢献
する非常に重要な技術であり,実際の水球の試合
では,巻き足が関与しているプレー時間の割合が
総試合時間の約 50 %に及ぶと報告されている 4).
以上のことから,巻き足は水球のプレーを行う
上で必要不可欠な技術として位置付けられてお
り,実際のコーチング現場においても,その指導
に多くの時間が費やされている.しかしながら,
巻き足の技術を客観的に解明しようとした研究
は数少なく,その多くが画像分析を用いたキネマ
ティック分析によるものであり,技術改善の指針
となる流体力学的データは乏しい.水中での動作
である巻き足は,ある分量の水の塊に運動量を与
えることで推進しており,その際,身体には水か
らの様々な流体力が作用する.そのため,巻き足
動作時の泳者に作用する流体力を推定すること
は,巻き足の技術を分析・評価する上で非常に重
要であると考えられる.
巻き足のように身体部位の移動方向や速度が
時々刻々と変化する非定常状態における流体力
の推定方法として,近年では圧力分布計測法がよ
く用いられている.これは,泳者の身体部位表面
に小型の圧力センサを装着し,計測した部位の圧
力分布から流体力を推定する方法である.これま
でに,この方法を用いた足部流体力の推定は,平
泳ぎのキック動作において行われており,流体力
の作用方向 (推進方向成分) や大きさ等の分析
が技術の評価に有効であると報告されている 7).
巻き足においても,この方法を用いた流体力学的
な研究 2),8)がわずかに試みられているが,いずれ
の研究も流体力の作用方向や動作との関連を明
らかにし,技術を分析・評価するまでには至って
いない.
そこで本研究では,圧力分布計測法を用いて水
球競技選手における巻き足動作時の足部流体力
を推定し,推定した流体力と動作との関連につい
て明らかにすることを目的とした.
【方法】
1. 対象者
本研究の対象者は,大学のトップレベルのチー
ムに所属する男子水球選手 6 名 (年齢:19.8±1.7
歳,身長:175±3.9 cm,体重:77.7±7.1 kg) で
あった.
2. 試技
対象者は,両腕を胸の前で組んだ状態での巻き
足を 2 つの条件 (Normal 条件:通常の巻き足,
Added load 条件:重りによる外的負荷を加えた状
態での巻き足) で行った.試技時間は,身体高が
安定してから 5 秒間とした.また,対象者には,
試技中最大吸気の状態を保持し,プールサイドか
ら突き出したパイプ (ジャッキに固定され,高さ
の調節が可能) に取り付けられた発泡スチロー
ル体に常に頭頂をつけ,胸骨上縁が水面の高さと
なる位置で身体を支持するよう指示した.
3. 実験設定
圧力分布の計測は,対象者の利き足の足部に 4
対の小型圧力センサ (PS-05KC,共和電業) を装
着して行い,サンプリング周波数 200 Hz にてデ
ータを PC に記録した.センサの足背面の装着箇
所は,先行研究 7),8)を参考に足部中足骨第 1 中足
骨頭,第 3 中足骨頭,第 5 中足骨頭,中根中足関
節 (第 3 楔状骨付近)とし,足底面の装着箇所は
足背面に対応させた.画像分析のための映像は,
プールの底や壁に 3 台のビデオカメラ (水中・水
上一体撮影無線式ビデオカメラシステム,日本事
務光機;水中モニターシステム 2,YAMAHA;
TK-C1318,Victor) を設置し,シャッタースピー
ド 1/500 sec,サンプリング周波数 60 Hz にて撮
影した.マーキングは,画像分析の際の視認性を
高めるために LED マーカー (無線自発光マーカ
ー煌,Nobby-tech) とビニールテープを用いて身
体 9 箇所 (右大転子,左大転子,利き足側の膝関
節内側・外側,足関節内側・外側,第 1 趾,第 5
趾,踵) に行った.
4. データ分析
巻き足動作時に発揮した足部流体力は,対応す
るセンサが計測した足底面と足背面の圧力値の
差にセンサを装着した箇所のそれぞれの投影面
積を乗じ,それらを足し合わせることによって算
出した.また,各身体部位の実座標値は,画像分
析ソフト (Frame-DIASⅤ,DKH) を用いて手動デ
ジタイズを行い,3 次元 DLT 法にて算出した.
本研究において,推定した流体力は,足部に対し
て垂直に作用するため,画像分析の結果から算出
した足部の法線ベクトルと流体力の作用する方
向は一致すると考えることができる.そのため,
法線ベクトルの方向から流体力の作用する方向
を決定し,流体力を各方向成分 (左右,前後,推
進 [鉛直] 方向) に分解した.さらに,得られた
各身体部位の実座標値から,キック速度や迎角
(足底面の傾き),キックレンジ (横幅 [水平方向],
縦幅 [縦幅]) などといった巻き足動作の各種キ
ネマティクス的パラメーターを算出した.
5. 巻き足動作の局面分け
本研究では,膝関節角度と足関節の変位から巻
き足動作をアウトキック局面,インキック局面,
アップキック局面の 3 つに局面分けした (図 1).
Z
X
Xmax
Start/finish
Out kick phase
Up kick phase
Zi
In kick phase
図 1 巻き足動作の局面構造
また,分析は,試技中の動作の安定した 3 周期を
対象とした.
6. 統計処理
Shapiro-Wilk 検定は,データの正規性を確認す
るために行い,対応のある t 検定及び Wilcoxon
の符号付順位検定は,条件間の変数の差を比較す
るために行った.統計的有意水準は,危険率 5 %
未満とした.
【結果】
1. 流体力の推進方向成分
Fprop (発揮した足部流体力の推進方向成分=推
進力) の最大値は,両条件を通してアウトキック
局面で最も高い値が示され (Normal 条件:164.2
±22.8 N,Added load 条件:251.0±22.8 N),Fprop
の最小値及び平均値はインキック局面で最も高
い値が示された (最小値:Normal 条件:-14.5±
6.1 N,Added load 条件:-24.0±6.0 N.平均値:
Normal 条件:91.6±19.0 N,Added load 条件:137.5
±20.9 N).また,両条件間で,アウトキック局面
及びインキック局面における Fprop のいくつかの
値 (インキック局面の最小値以外) には有意な
差が認められたが (p<0.05),アップキック局面
においては全ての値で有意な差が認められなか
った.典型例として,Normal 条件における対象
者 F の 3 周期の Fprop の経時的変化を示す (図 2).
Fprop は,アウトキック局面の終盤からインキック
局面の序盤にかけてピークを迎え,アップキック
局面の終盤からアウトキック局面の序盤にかけ
て値がマイナスになる一峰性の変化を示した.こ
の変化は,Added load 条件においても同様であっ
た.
2. キネマティクス的パラメーター
Normal 条件におけるキック速度 (平均値) は,
1.8±0.2 m/sec であり,キック局面ごとに見ると
アウトキック局面が 2.1±0.3 m/sec,インキック
局面が 1.6±0.2 m/sec,アップキック局面が 1.6±
0.1 m/sec であった.また,Added load 条件におけ
るキック速度は,2.2±0.3 m/sec であり,キック
【考察】
1. 各動作局面で発揮される推進力
対象者 F を例に各動作局面での Fprop の変化を
見ていくと,まずアウトキック局面では,キック
の開始点 (膝関節が最大屈曲した状態) から値
が徐々に増加していき,終盤において特に大きな
増加を示した.アウトキック局面の終盤は,足部
を下方 (水底) へと蹴り下す動作を行っており,
この動作が Fprop の大きな増加につながっていた
と推察される.また,アウトキック局面は,3 局
面の中で最も大きな Fprop の値を示したことから,
巻き足での推進において極めて重要な局面であ
ると考えられる.
次にインキック局面では,Fprop の値は局面開始
から低下していったが,平均値で見ると 3 局面の
中で最も高い値を示した.松井ほか 2)の研究では,
この局面において足部を底屈させた状態で身体
の内側へ「はらう」ようなかき込み動作を行うこ
とで推進力を発生させていると示唆している.本
研究においても,画像分析の結果,足部を底屈さ
せて身体の内側へ「はらう」ようなかき込み動作
が観察されたことから,この動作を行うことによ
ってアウトキック局面で発揮した Fprop の低下を
和らげていたと考えられる.
最後にアップキック局面では,Fprop の値は緩や
かに低下していき,3 局面の中で最も低い平均値
を示した.指導書や先行研究 2),3)では,この局面
Out In
Up
200
150
Force (N)
100
50
0
-50
-100
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8 1.0 1.2
Time (sec)
1.4
1.6
1.8
図 2 Fprop の経時的変化 (Normal 条件)
Out In
Up
Velocity (m/sec)
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8 1.0 1.2
Time (sec)
1.4
1.6
1.8
図 3 キック速度の経時的変化 (Normal 条
件)
Out In
Up
60
Angle of Attack (deg)
局面ごとに見るとアウトキック局面が 2.6±0.4
m/sec,インキック局面が 2.0±0.4 m/sec,アップ
キック局面が 2.0±0.3 m/sec であった.これらの
値は,両条件間で有意な差が認められた (p<
0.05).典型例として,Normal 条件における対象
者 F の 3 周期のキック速度の経時的変化を示す
(図 3).キック速度は,多少の変動はあるものの,
アウトキック局面とアップキック局面でそれぞ
れピークを迎える二峰性の変化を示し,これは
Added load 条件においても同様であった.
Normal 条件の迎角の最大値は 40.1±4.8 deg,
最小値は -26.2±12.7 deg,平均値は 14.0±4.4 deg
であった.また,Added load 条件の迎角の最大値
は 41.1±3.8 deg,最小値は -26.4±10.9 deg,平均
値は 12.9±4.4 deg であった.これらの値は,両
条件間で有意な差が認められなかった.典型例と
して,Normal 条件における対象者 F の 3 周期の
迎角の経時的変化を示す (図 4).迎角は,3 周期
の中で異なる変化を示す周期も観察されたが,概
ね一峰性の変化を示し,これは Added load 条件
においても同様であった.
Normal 条件のキックレンジは,横幅が 0.22±
0.01 m,縦幅が 0.38±0.04 m であった.また,
Added load 条件のキックレンジは,横幅が 0.21
±0.02 m,縦幅が 0.42±0.05 m であり,縦幅にお
いて両条件間で有意な差が認められた (p<0.05).
40
20
0
-20
-40
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8 1.0 1.2
Time (sec)
1.4
1.6
1.8
図 4 迎角の経時的変化 (Normal 条件) か
は次のキックのための準備局面であるとされ,
き込み動作で内側へと移動した足部を,底屈させ
た状態を維持したまま,水を「切る」ようにして
臀部近くまで引き上げると述べられている.Fprop
の平均値が低値を示したのは,この水を「切る」
ような動作によって推進方向への流体力が作用
しなかったためであると考えられ,実際,本研究
における画像分析でもこの動作が観察された.ま
た,Fprop の値は,局面の終盤でわずかにマイナス
を示したが,これは引き上げにおいて底屈させて
いた足部を,次のアウトキック局面のために背屈
させる際に,足背面で水を押しているためである
と考えられる.この足部の切り替え時の Fprop の
マイナスを少なくするためには,引き上げの際と
同様に,水を横に「切る」ようなスムーズな切り
替えを行うことが重要であると示唆される.
2. 推進力とキック速度及び迎角との関連
キック速度の最も大きなピークは,アウトキッ
ク局面の蹴り下し動作の途中で確認され,その直
後に Fprop の値がピークに達していた.Sanders5)
は,巻き足の 3 次元分析を行い,巻き足での高さ
の維持に関係する要因を検証したところ,足部の
速度が最も強い関係性を示したことを報告して
いる.本研究において,Fprop の値は,アウトキッ
ク局面でのキック速度の増加に対応するような
形で増加していった.そして,キック速度がピー
クに達した直後に Fprop の値もピークを迎えたこ
とから,アウトキック局面でのキック速度が身体
高を維持するための推進力発揮に大きく貢献し
ていた可能性が示唆される.
また,迎角の最大値は,アウトキック局面で観
察され,その直後のインキック局面への移行時に
おいて約 35 ~ 40 deg の値を示した際に Fprop の
値がピークに達していた.指導書や先行研究 1),
3)
において,巻き足は,スカーリング動作と同様
に揚力と抗力の両方を推進力として発生させて
おり,上方への持続的な推進にはベルヌーイの定
理に説明される揚力の貢献が特に大きいと述べ
られている.そして,この揚力を最大限に発生さ
せるためには,足部の底屈・背屈等を的確に用い
て,迎角を適切に保つことが重要であると指摘さ
れている.高木ほか 6)は,スカーリング動作にお
いて効率よく揚力を発生させるためには,迎角を
45 deg 以下に適切に保つことが重要であると報
告している.巻き足動作がスカーリング動作と同
様の原理で揚力を発生させているとすると,本研
究の対象者は適切な迎角を保って巻き足を行っ
ていたと考えられ,効率的に揚力を発生させて推
進力を高めていたと推察される.
3. 外的負荷増加の影響
本研究において,Added load 条件は,巻き足が
相手選手からの外的負荷に耐える場面でよく用
いられることや,現場での巻き足のトレーニング
と評価に重りが最も活用されているという点を
考慮し,Normal 条件と比較を行うために設定し
た.分析の結果,Fprop,キック速度,キックレン
ジ (縦幅) は,Added load 条件の方が有意に高い
値を示したが (p<0.05),迎角,キックレンジ (横
幅) においては両条件間で有意な差が認められ
なかった.
Sanders5)は,巻き足動作での高さの維持に足部
の速度が最も関与していることを報告している.
さらに,足部で発揮した力を保持するためには,
できる限り速度の変化を抑え,サイクル全体を通
して速度を高めることが重要であると指摘して
いる.これらのことから,本研究における外的負
荷を加えられた際の推進力増加には,キック速度
の増加が関与している可能性が示唆される.
また,松井 2)ほかは,巻き足動作中に付加され
る外的負荷が増加すると,鉛直方向への蹴り下し
動作が大きくなること,そして,それによって推
進力の中の抗力に依存する割合が増大すること
を示唆している.本研究において,Normal 条件
と Added load 条件との間で迎角とキックレンジ
(横幅) に差は見られなかったものの,キックレ
ンジ (縦幅) は有意に大きくなっていたため,先
行研究 2)と同様に,鉛直方向への蹴り下し動作が
大きくなり,推進力の中の抗力の割合が増大して
いた可能性が示唆される.
【結論】
巻き足は,アウトキック局面終盤からインキッ
ク局面序盤において最も推進力を発揮し,主にこ
の 2 局面で推進していた.また,推進力発揮には,
キック速度の増加と適切な迎角の保持が関与し
ている可能性が示唆された.さらに,泳者は,加
えられた外的負荷に対して,キック速度を上げる
とともに,鉛直方向への蹴り下し動作を大きくす
ることによって対応していた.
【参考・引用文献】
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学会 2014 年次大会論文集, 114-117.
飛込競技におけるノースプラッシュ入水に関する研究
―上半身のボディ・アライメントに着目してー
Research of the Rip Entry in Competitive Diving
-Focused on upper body alignment高橋亜紀(201321475,水泳競技コーチング論)
指導教員:高木英樹,椿本昇三
飛込競技とは,高さ 10 mの固定台,または 3 mの飛板から演技を行い,審判員が全体の印象を採点した点数
に,その演技の難易度をかけて算出された得点の合計を争う競技である.採点における全体の印象の中で,入水
局面の比重が大きく,ノースプラッシュ入水(水しぶきの少ない入水)で演技を終了することが国際競技会で高
得点を獲得には必須となっている.しかしながらノースプラッシュ入水のメカニズムに関しては,ほとんど研究
がなされておらず,選手やコーチの経験知に頼っているのが現状である.本研究では形態学的な視点から,選手
の上半身のボディ・アライメントを計測し,高得点を得た選手と,そうでない選手の形態学的相違を測定し分析
した.その結果,男女とも前入水において審判員が提示した得点と肩関節の可動域・腕の長さを示す値・頭の幅・
手のひらの長さに関して相関傾向が認められ,先行研究を支持する結果となった.しかしながら,各測定項目を
身長比で割った「身長比」というものを定義した場合,相関関係を示したのは前入水における男女頭幅と後入水
における女子指極だけであったことより,ノースプラッシュ入水に関しては上半身のアライメント以外の要因が
関連していることが示唆された.さらに今後の課題として,前入水と後入水の測定条件や測定試技内容について
見直す必要性が明らかになった.以上の課題があるものの,本研究によりノースプラッシュ入水と形態的特性と
の関連について初めて客観的なデータが示され,日本の飛込み界にとってはタレント発掘の観点から貴重な知見
を得たと言える.
キーワード:飛込,ノースプラッシュ入水,ボディ・アライメント
1. はじめに
飛込み競技は採点競技でありその採点法
は , 開 始 の 姿 勢 , (start position) 助 走
( approach ) 踏 切 ( take-off ) 空 中 演 技
(flight)入水の 4 局面に分け,審判員は 7
人から 11 人で公正され全体の印象を各自の
判断で 0 点より 10 点までの幅で採点し,上
下二人ないし一人をカットし残りの審判員
の点数の平均の採点にあらかじめ決められ
た選手が選んだその技の難易率をかけたも
のが得点となり,その得点の合計を競う競技
である(日本水泳連盟,2015).近年,入水
局面におけるスプラッシュ量の少ない入水,
ノースプラッシュ入水(リップエントリー)
が採点の印象に大きく影響を与えている.し
かしこれまでにノースプラッシュ入水を行
うために必要な体型に関する資質や技術的
要素はほとんど明らかにされておらず,コー
チの経験値に基づく指導が行われてきた実
態がある(Ronald, 2003).そこで本研究で
はノースプラッシ入水に適した体型がある
のか否かについて,主にジュニア期の選手を
対象として,検証することを目的とした.本
研究の成果として,今後のタレント発掘やコ
ーチングの内容が反映されることが期待さ
れる.
2. 方法
2.1 対象者
対象者は今年度全国大会出場者 132 名の
うち全体の 1/3 にあたる 45 名とし、内訳は
男性 23 名(14.4±1.2 歳,競技年数 6.6±2.9
年,身長 161.5±7.9 cm,体重 52.2±7.9 kg),
女性 22 名(13.9±2.1 歳,競技年数 6.3±2.1
年,身長 148.9±10.7 cm,体重 42.2±9.4 kg)
であった.
2.2 ボディ・アライメントの定義と測定項目
図1
本研究で定義した上半身のアライメント
表1
計測項目
表1の項目を測定したデータから得られ
た、その選手個人が持つ上半身の形態的特徴
(図1)を本研究における上半身のボディ・
アライメントと定義し、データの一部は身長
比に換算した。また肩関節可動域に関しては、
医学的な評価の仕方ではなく、真上に真っ直
ぐあげた状態を0度とした。
測定に際しては PT の指導の元,計測技術
を習得した計測者がマルチン式生体計測器
具およびゴニオメータ角度計を使用した.
2.3 測定試技
5 m からの固定台より前入水および後入水
を 5 本ずつ行った(図2,図3). A 級審判
員 3 名が入水時のスプラッシュについて採
点し、上下各 1 名の点数をカットしたもので
一番良いもの(チャンピオンデータ)を被験
者の得点とした.
図2
前入水試技
図3
後入水試技
2.4 分析方法
各測定項目について、測定値、及び身長比で
標準化した各変数と入水得点との間における
ピアソンの相関係数を求め、両者の相関につい
て項目別・男女別にそれぞれ解析した.
3. 結果
前入水に関して肩関節可動域と入水得点と
の間に正の相関が認められた.図 4 は,その中
で最も相関が得られた男子前入水における右
肩関節可動域の結果を示している.(r=0.443
p<0.05)
(肩関節の可動域の 0 度とは、本研究では医学的
評価ではなく、両腕を真上にあげた状態を 0 度と
した)
図 4 肩関節可動域(右) 男子測定値 前入水
なお肩関節可動域については,男女混合で左
右共通においても正の相関関係が認められた.
次に男女とも前入水に関して手長の測定値
と入水得点の間には正の相関関係が認められ
た.(図 5:r=0.406 p<0.01)
図 5 手長 男女混合測定値 前入水
男女混合の前入水に関して,前腕長・上腕
長・指極と入水得点の間にはともに正の相関が
認められた.(図 6:r=0.417,p<0.01)
図 6 は上腕長測定値と得点との相関を表し
たものである.
図6
上腕長
男女混合測定値
前入水
なお前腕長(r=0.36 p<0.05)・指極(r=0.39
p<0.01)においても同じような正の相関が認め
られた。
次に,身長比でデータを処理した場合につい
て考察をする.
男女混合の頭幅において,負の相関関係が見
られた.(図 7:r=0.-37 p<0.05)
図 7 頭幅 男女混合身長比 前入水
身長比における女子の指極(図 7:r=0.445
p<0.0)
・肩峰幅(r=0.452 p<0.05)と入水得点にお
いては,正の相関関係が認められた.
図 8 指極 女子身長比 後入水
なお男子においては,後入水の得点と各測定項
目との相関が認められたものはなかった.
4. 考察
両肩関節の可動域が広いと前ノースプラッシ
ュ入水時の負担が軽減されるとの報告があり
(Narita et al, 2014),今回の結果によってこ
うした要素が審判員の得点にも影響すること
が示唆された.
また手長が長いと入水時における手部面積が
大きくなり,入水時のスプラッシュの高さが低
くなることがコンピューターシミュレーショ
ン実験により報告されており(2010 Jing Guang
Qian et al.),今回の測定結果はそれを支持す
る結果となった.(図 9、表 2)
図 9 コンピュータシミュレーション実験
(2010 Jing Guang Qian et al.)
表2 物体先端の角度と水しぶきの高さ
(2010 Jing Guang Qian et al.)
前腕長・上腕長・指極はともに腕の長さを
示す値であり,この値がそれぞれすべて入水得
点と正の相関を示している.吉田ら(1983,
1985),倉澤(2010)により,腕が長い方がより
抵抗が少なく流線型に近い体勢をつくること
が可能なことが報告されており,本研究の結果
はそれらと矛盾しないものであった.しかしな
がら,いずれの相関分析結果においても弱い相
関しか認められておらず,また,身長比でデー
タを割った「身長比」という観点から考察する
と,男女の頭幅,女子の後入水の指極以外相関
傾向が確認できなかった,このことより,ノー
スプラッシュ入水に関しては上半身のアライ
メント以外の要因が関連していることが示唆
された.
5. 結論と今後の展望
本実験の目的はノースプラッシュ入水に適
した体型があるか否かの検証である.その結果,
以下のような結論が得られた.
1.腕の長い選手ほどノースプラッシュ入
水に有利である.
2.頭の小さい選手ほどノースプラッシュ
入水に有利である.
3.肩関節可動域が大きい選手ほどノース
プラッシュ入水に有利である.
4.掌の長さが大きい選手ほどノースプラ
ッシュ入水に有利である.
以上の点について相関関係が認められたも
のの,いずれも弱い相関傾向にとどまりノース
プラッシュ入水においては上半身のアライメ
ントに多少の依存はあるものの,ほかにもっと
大きな依存要因が存在する可能性が示唆され
る結果となった.今後の課題として,前入水と
後入水の測定条件や測定試技内容について見
直す必要性や継続的な形態測定の必要性が考
えられる.
6. 引用文献
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圧力分布計測を用いた平泳ぎキック動作中の
足部流体力推定法の構築
角川
隆明
体育科学専攻
指導教員 高木英樹 副指導教員 藤井範久,小池関也
Use of pressure distribution analysis to estimate fluid forces around a foot during breaststroke kicking
Takaaki TSUNOKAWA
【緒言】
平泳ぎは,上肢動作よりもキック動作によって
得られる推進力が大きく,泳者の身体が最も加速
する局面はキック動作によって水を蹴り出す局
面であることが報告されている.そのため,キッ
ク動作の改善は平泳ぎの泳パフォーマンス向上
にとって最重要課題とされており,水泳指導書に
動作改善の要点が記述されている.しかしながら,
先行研究や指導書では画像分析を用いたキネマ
ティック分析による報告がなされているに過ぎ
ず,キック動作改善の指針となるデータは乏しい.
平泳ぎに限らず,水泳は水に対して運動量を与
えることで推進力を得る身体運動である.そのた
め,高い泳速度を達成するには水にうまく力を伝
え,推進に用いる技術が重要となる (宮下, 1970).
これらのことから,水泳に関する研究では様々な
方法によって泳者の身体に働く流体力を定量化
し,泳技術を検討する試みがなされている
(Schleihauf et al., 1983; Hollander et al., 1986;
Kolmogorov & Duplishcheva, 1992; Takagi et al.,
1999; Xin-Feng et al., 2007; Kudo et al., 2008;).その
ような中で,非定常状態での動作であることを考
慮した方法として,泳者の身体表面の圧力分布計
測により流体力を推定する試みがなされている.
泳者が水中で身体を動かしたとき,流体力として
身体表面に摩擦抵抗と圧力抵抗が作用する.よっ
て,流体中の身体に生じる力を正確に見積もるた
めには全身体表面の摩擦抵抗と圧力抵抗を計測
すれば良いことになる.しかしながら,実際には
摩擦抵抗は圧力抵抗と比較して小さいため,摩擦
抵抗は取り扱わずに圧力抵抗に焦点を当て,圧力
分布を直接計測する方法によって流体力の定量
化が試みられている.Kudo et al. (2008) は,圧力
分布計測を用いた泳者手部での流体力推定法を
考案し,ロードセルを組み込んだ手部模型を用い
て精度の検証を行った.その結果,圧力分布計測
による推定値の誤差は最大で 20 %程度であり,
準定常解析法などと比較して誤差が小さいと報
告している.しかしながら,手部以外の部位に働
く流体力の推定を試みた研究は見当たらず,その
方法論の確立が望まれる.
さらに,近年では PIV を用いて泳者の身体周り
に生じる水の流れを可視化する研究が進められ,
身体周りに発生する非定常な流れが推進力に関
与していることが明らかにされている.しかしな
がら,現時点の PIV を用いた研究では 0.5 m ×
0.5 m 程度の限られた二次元平面における流れ場
しか分析することはできず,ロボットのような高
い動作の再現性が望めないヒトを対象として,1
ストローク全般に渡る身体周りの流れに関する
研究は行われていない.それに対し,身体周りの
圧力分布は水の流れや渦の状態を反映して変動
するため,PIV では分析が困難とされる広範囲で
かつ三次元的動作である平泳ぎのキック動作が
対象であっても,圧力分布の変動から非定常な流
れの様相を推察することができる.これらのこと
から,泳者の足部周りの圧力分布を明らかにする
ことができれば,足部に働く流体力を定量的に評
価できるようになるだけでなく,平泳ぎキック動
作を改善させるために有用な知見を得られると
考えられる.
そこで本研究では,平泳ぎにおいて重要とされ
るキック動作によって生じる流体力を評価する
ため,以下の 2 点を解決することを目的とした.
1) 圧力分布計測を用いた平泳ぎキック動作中の
足部に働く流体力推定法の妥当性を検証し,推定
した流体力と泳パフォーマンスの関係を明らか
にすること.
2) 平泳ぎキック動作中の足部周りの圧力分布と
流体力の関係を明らかにし,流体力が増大する際
の圧力分布の特徴を明らかにすること.
【研究課題の設定】
本研究では,前述の目的を達成するために以下
の研究課題を設定した.
1. 研究課題 1
研究課題 1 では,ロボットや実際の泳者を対象
とした検証実験により,圧力分布計測を用いた平
泳ぎキック動作中の足部に働く流体力推定法の
構築を試みた.
1) 研究課題 1-1
研究課題 1-1 では,泳動作の再現が可能なロボ
ットを用い,足部表面の圧力分布から推定した平
泳ぎキック動作中に働く流体力の妥当性を検証
した.
2) 研究課題 1-2
研究課題 2-2 では,実際の泳者を対象とし,平
泳ぎの泳パフォーマンスと足部の圧力分布から
推定した流体力との関係を調査した.
2. 研究課題 2
研究課題 2 では,平泳ぎキック動作中の足部表
面の圧力分布を調査し,足部に働く流体力と非定
常流の関連を明らかにすることを試みた.
【研究課題 1-1】
研究課題 1-1 では,泳動作の再現が可能なロボ
ットを用い,足部表面の圧力分布から推定した平
泳ぎキック動作中に働く流体力の妥当性を検証
した.
1. 方法
1) 実験設定
研究課題 1-1 では,Nakashima & Takahashi
(2012) によってデザインされた泳動作の再現が
可能なロボット(三井造船昭島研究所)に足部模
型を取り付けて実験用回流水槽(五十嵐工業,縦
5.0 m,幅 2.0 m,水深 1.2 m,水温 25.6 度)に設
置し,流速を 0.2 m∙s−1 に設定した状態で平泳ぎキ
ック動作を再現させた際の足部模型表面の圧力
分布を計測した.実験に用いたロボットは人間の
左脚を模擬して作られ,胴体,臀部,大腿,下腿,
足部から構成された.図 1 に実験に用いたロボッ
トの概要,図 2 にロボットに取り付けた足部模型
を示す.ロボットの胴体部には 3 個のモーター
(AC サーボモーター,定格出力 50 W)が取り付
けられており,臀部における A 軸まわりのひね
り (i),大腿部における B 軸まわりの回転 (ii),
長軸まわりのひねり (iii)を行った.大腿部には 1
個のモーター(AC サーボモーター,定格出力 20
W)が取り付けられており,膝関節の屈曲,伸展
(iv) が行われた.平泳ぎキック動作はこれら 4 自
由度によって再現された.これらのモーターを駆
動させるための指令角度は水泳人体シミュレー
ションソフトウェア (Swumsuit; Nakashima,
2005) を使用して作成し,ロボットの各関節には
ポテンショメータを取り付け,動作中の角度の計
測を行った.関節角度の計測と制御はともに 200
Hz で行い,平泳ぎキック動作はコンピュータ制
御により設定した.
本研究では,関節角度を変化させた 2 種類の平
泳ぎキック動作 (Standard, Large) をロボットに
行わせた.Standard での平泳ぎキック動作 1 周期
中の指令角度は,女子日本代表選手 1 名の平泳ぎ
B-axis
Thigh
Loadcell
ii
i
A-axis
Shank
iii
iv
Hip
Trunk
Foot
(a) Schematic view
(b) Photograph 1
(c) Photograph 2
図 1 ロボットの概要
図 2 ロボットに取り付けた足部模型
の画像分析データに基づいて作成し,Large は指
令角度を大きくしたものとした.さらに,各試技
の動作の速度を,ロボットが行える最高速度であ
る 6.4 s·cycle−1 と,その 80 % の動作速度である
8.0 s·cycle−1 の 2 段階に設定した.
2) 足部模型に働く流体力の推定
ロボット胴体上部にはロードセルを取り付け,
ロボット全体に働く推進方向の並進力を計測し
た.さらに,事前にロボットに足部模型を取り付
けない状態でキック動作を再現して並進力を計
測しておき,足部模型を取り付けない状態での並
進力と,足部模型の質量と加速度から算出した足
部模型に働く慣性力とを足部模型を取り付けた
状態での並進力から差し引き,足部模型に働く流
体力を算出した.本研究では,ロードセルによっ
て計測した足部模型に働く流体力を Floadcell とし
た.
また,足部模型には足部 6 点を基点として規定
される 4 平面の足背側と足底側に 1 つずつ,計 4
対 8 個の圧力センサ (PS05–KC,共和電業) を装
着した.圧力センサの装着ポイントは,第 1 中足
骨頭,第 3 中足骨頭,第 5 中足骨頭,中足趾節関
節頭とした.図 3 に足部を規定する 4 平面と圧力
センサの装着ポイントを示す.圧力センサが出力
した信号はセンサインターフェース (PCD330B–
F,共和電業) を経由し,サンプリング周波数 200
Hz で PC に記録した.キック動作によって生じ
る動圧は,足底側の圧力値から足背側の圧力値を
差し引くことで算出し,算出した圧
表 1 各変数の平均値と標準偏差
6.4 s·cycle−1
V ariable
Maximum (N)
Impulse (N·s)
力差は各平面を代表する圧力差とした.圧力差を
算出する際は,足部の形状や傾きを考慮するため,
対をなす圧力センサ間の角度を計測し,足底面に
対して垂直となる成分を求めた.算出した圧力差
に各平面の面積を乗じることで各平面に働く流
体力を算出し,4 平面に働く流体力を全て足し合
わせることで足部全体に働く流体力を算出した.
本研究では,圧力分布から推定した足部模型に働
く流体力を Fpressure とし,Floadcell と比較することで
流体力推定法の妥当性を検証した.
2. 結果
表 1 は各動作において計測された Fpressure と
Floadcell に関する各変数の平均値と標準偏差を示
している.Fpressure と Floadcell を比較すると,いずれ
の変数も Floadcell が大きな値を示した.さらに,表
2 は Fpressure と Floadcell の間のピアソンの積率相関係
数 r を示しており,Fpressure と Floadcell に関する各変
数の間に高い相関関係が認められた.図 4 は 6.4
s·cycle−1 の Large 試技における 1 周期中の Fpressure
と Floadcell の変動を示しており,ピーク値を示すタ
イミングや値の増減はよく一致していた.
3. 考察
Fpressure と Floadcell との間に有意な関連が認めら
れ,ピーク値を示すタイミングや値の増減といっ
た周期中の流体力の変動は一致していた.よって,
周期中の力の変動やキック動作によって発揮さ
れる推進力を定量的に観察することが可能であ
り,従来用いられてきた Active Drag を平均値と
して計測する方法では明らかにすることができ
なかった情報を選手や指導者に提供できると考
えられる.
Fpressure と Floadcell を比較すると,Fpressure が低い値
を示し,圧力分布計測を用いた方法では流体力を
過小評価していると考えられる.本研究では,足
部模型側面の圧力分布を計測していないが,足部
模型の矢状面への投影面積は 122.75 cm2,水平面
への投影面積は 133.20 cm2 であることから足部
側面の影響は大きい.今後,本研究で得られた結
果を踏まえ,さらなる研究を進めることでより精
度の高い流体力の推定法を構築することができ
ると考えられる.
Standard (n = 3)
Large (n = 3)
Standard (n = 3)
F pressure
13.69±0.59
11.97±0.94
7.47±1.05
6.20±0.55
F loadcell
24.82±1.28
12.82±0.41
14.19±0.10
8.50±0.11
F pressure
−21.4±1.36
−28.85±1.26
−22.19±0.61
−35.56±2.34
F loadcell
−0.06±1.27
−3.95±1.46
−5.20±0.96
−7.49±1.15
Impulse at
propulsive
F pressure
7.21±1.03
−4.51±0.28
3.02±0.81
−1.61±0.53
phase (N·s)
F loadcell
28.07±0.23
13.82±0.40
22.15±1.02
10.71±0.16
表 2 各変数間の相関係数
F loadcell
Maximum
(N)
Impulse
(N·s)
Impulse at propulsive
phase (N·s)
Maximum F pressure (N)
0.77**
0.86**
0.54
Impulse of F pressure (N·s)
0.79**
0.73**
0.91**
Impulse of F pressure
at propulsive phase (N·s)
0.82**
0.62*
0.92**
* : P < 0.05 ** : P < 0.01
Fpressure
20.0
Force ( N )
図 3 足部を規定する平面と圧力センサ装着ポイント
8.0 s·cycle−1
Large (n = 3)
Floadcell
10.0
0.0
Large
6.4 s·cycle−1
-10.0
-20.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
Time ( s )
図 4 1 周期中の Fpressure と Floadcell の変動
【研究課題 1-2】
研究課題 1-2 では,実際の泳者を対象とし,平
泳ぎの泳パフォーマンスと足部の圧力分布から
推定した足部流体力との関係を明らかにするこ
とを目的とした.
1. 方法
1) 対象者
男子シニア競泳選手 11 名が本研究に参加した.
対象者の競技レベルは,平泳ぎもしくは個人メド
レーにて日本選手権の出場資格を有する選手で
あり,上位入賞経験のある選手 6 名も含まれた.
対象者には実験の趣旨とその危険性を事前に説
明し,書面にて参加の同意を得た.本研究は筑波
大学体育系研究倫理委員会の承認を得て実施さ
れた.
2) 実験設定
実験は,側面に観察用窓を有する T 大学実験用
回流水槽 (五十嵐工業,縦 5.0 m,幅 2.0 m,水
深 1.2 m,水温 27.0 度)にて行った.泳者の腰部
に伸縮度の小さなポリエチレン製のロープの一
端を装着し,他端をロードセル (LT-100KF,共
和電業) に接続し,キック動作によってロープ
に生じる張力を計測した.試技では,上肢動作の
影響を除外するため,対象者にはビート板を持た
せた状態でキック動作を 10 秒間全力で行うよう
指示した.さらに,研究課題 1-2 では,研究課題
1-1 と同様の箇所に圧力センサを装着し,同様の
方法を用いて圧力分布から足部に働く流体力を
推定した.ロードセルと圧力センサが出力した信
号はセンサインターフェース(PCD-330B-F,共
和電業) を経由し,サンプリング周波数 200Hz
で PC に記録した.また,泳者の斜め後方に 2 台
の水中カメラ,右側面の観察用水中窓に 1 台のビ
デオカメラを設置し,露光時間 1/1000 秒,サン
プリング周波数 60Hz で泳者の下肢動作を撮影し
た.撮影範囲は泳者の推進方向 1.2 m,鉛直方向
1.0 m,左右方向 1.0 m とし,下肢動作全体が撮
影画角に入るように設定した.動作分析をする際
の視認性を高めるため,対象者の右足部の 6 箇所
にビニルテープと油性マーカーを用いてマーキ
ングを行った.撮影した画像から,画像分析ソフ
ト(Frame DIAS II version 3, DKH)を用いて右足
部 6 点のマーキングポイントを手動でデジタイ
ズし,三次元 DLT 法を用いて固定座標系におけ
る各マーキングポイントの三次元実座標値を得
た.本研究では,足部を構成する各平面に対して
垂直に作用する圧力を計測したため,推定した流
体力は足部を構成する各平面に対して垂直に作
用することになる.そのため,画像分析によって
算出した各平面の法線ベクトルと流体力の方向
は一致すると仮定し,法線ベクトルの方向から足
部に働く流体力を各作用方向成分に分解した.
研究課題 1-2 では,対象者の 100 m 平泳ぎ自己
最高記録時の泳速度を v100,ロードセルを用い
て計測したロープに働く張力の平均値を Ftethered,
圧力分布から推定した流体力の合力を Ffoot,推進
方向成分を Fpropulsion とした.
2. 結果
表 3 に流体力に関する各変数と Ftethered,v100
の結果,および各変数間の相関係数を示す.相関
分析の結果,Ftethered と v100 の間に有意な相関関
係は認められなかったが,Ftethered と流体力に関す
る各変数間と,v100 と流体力に関する各変数間
に有意な相関関係が認められた.Ftethered に関して
は Fpropulsion の平均値との間で最も高い負の相関関
係 (r = −0.78, p < 0.01) が認められ,v100 に関し
ては Fpropulsion の力積との間で最も高い負の相関関
係 (r = −0.76, p < 0.01) が認められた.また,流
体力に関する各変数と Ftethered や v100 との間で唯
一 Ffoot のピークと Ftethered の平均値との間に有意
な相関関係は認められなかった.
表 3 流体力に関する各変数と相関係数
correlation coefficient ( r )
Mean
( n=11 )
SD
v100 ( m·s−1 )
1.58
0.03
Mean of F tethered ( N )
203.3
62.7
Mean of F foot ( N )
vs Mean of
F tethe
0.57
0.57
46.4
20.4
0.75**
−30.3
15.3
−0.78**
45.1
15.8
0.63*
Impulse of F propulsion ( Ns )
−29.4
12.0
−0.70*
Peak of F foot ( N )
209.8
69.9
0.57
−159.5
66.1
−0.68*
Mean of F propulsion ( N )
Impulse of F foot ( Ns )
Peak of F propulsion ( N )
vs v100
0.73*
−0.74**
0.74**
−0.76**
0.75**
−0.75**
**: p <0.01, *: p <0.05
3. 考察
Ffoot と Fpropulsion に関する各変数と,Ftethered や
v100 との間に高い相関関係が認められたことか
ら,実際の泳者を対象とした場合でも,足部表面
の圧力分布から平泳ぎキック動作中に働く流体
力を妥当に推定できることが確認された.しかし
ながら,流体力に関する各変数のうち Ffoot のピー
クと Ftethered の平均値との間に有意な相関関係は
認められなかった.Ffoot は足部に働く流体力の合
力であり,力の作用方向を考慮していないため,
Ffoot のピークは足部に瞬間的に働く流体力の大
きさを表す変数である.それに対し,Ftethered は泳
者が推進方向へ発揮した力を表す変数であり,
Ftethered を大きくするにはより大きな流体力をよ
り長い期間推進方向へ作用させることが求めら
れる.そのため,Ffoot のピークでは流体力の作用
方向や作用する期間の長さを評価することがで
きず,Ftethered との間に有意な相関関係が認められ
なかったと考えられる.
【研究課題 2】
研究課題 2 では,泳技能の異なる泳者を対象と
して平泳ぎキック動作中の足部周りの圧力分布
を計測し,足部周りの圧力分布の特徴を調査した.
1. 方法
1) 対象者
大学水泳部に所属する男子競泳選手 8 名が本
研究に参加した.対象者の競技レベルは,平泳ぎ
もしくは個人メドレーにて日本選手権の出場資
格を有する選手であり,日本選手権で上位入賞経
験のある選手 6 名も含まれていた.対象者には実
験の趣旨とその危険性を事前に説明し,書面にて
参加の同意を得た.本研究は筑波大学体育系研究
倫理委員会の承認を得て実施された.
2. 結果
足底と足背の圧力値のどちら側が流体力増大
に大きな影響を与えているか検討するため,各計
測ポイントの足底と足背の圧力の絶対値を対応
のない t 検定を用いて比較した.図 6 に各計測ポ
イントにおける圧力値の絶対値のピーク値と平
均値を示す.その結果,圧力値のピーク値につい
ては 4 箇所全てにおいて足背の圧力値の絶対値
が足底の圧力値の絶対値と比較して大きな値を
示した (p < 0.01).さらに,圧力値の平均値につ
いては,第 5 趾周辺である p3 と d3 を除き,足背
p1 p2 p3
d2 d1
d3
p4
d4
図 5 圧力センサの装着ポイント
30
**
Pressure (kN/m2)
25
**
**
20
**
15
足底ピーク値
足背ピーク値
10
*: p < 0.05
**: p < 0.01
5
0
p1 d1
5
**
4
Pressure (kN/m2)
2) 実験設定
実験は,側面に観察用窓を有する T 大学実験
用回流水槽 (五十嵐工業,長さ 5.0 m,幅 2.0m,
水深 1.2 m,水温 26.0 度) にて行った.対象者に
は,下肢動作のみを評価するためにビート板を持
たせ,対象者別に設定された泳速度で 10 秒間で
きる限り同じ場所に留まるように平泳ぎのキッ
ク動作を行なうよう指示した.回流水槽の流速は,
実験に先立って行われた 50 m 平泳ぎキック泳の
泳タイムから決定した.タイム計測は 50 m 室内
プール (最浅部水深 1.3 m,最深部水深 3.8 m,水
温 28.5 度) にて行い,対象者はビート板を持った
状態でプッシュオフスタートからの 50 m 平泳ぎ
キック全力泳を行った.タイム計測は 3 名の検者
がストップウォッチを用いて手動で行い,3 名の
計測結果の平均値を泳タイムとした.計測された
泳タイムから,50 m 平泳ぎキック泳の平均泳速
度を算出し,算出された平均泳速度を回流水槽の
流速とした.
回流水槽で行った試技では,研究課題 1 におい
て妥当性を検証した足部の流体力推定法と同様
に,足部 6 点を基点として規定される 4 平面の足
背側と足底側に 1 つずつ,計 4 対 8 個の圧力セン
サ (PS05–KC,共和電業) を装着した.圧力セン
サの装着ポイントは,それぞれ足底側を p1,p2,
p3,p4,足背側を d1,d2,d3,d4 とした.本研
究で計測した圧力値は,大気圧を 0 としたため,
足部表面の圧力値が大気圧を下回るときに負の
値を記録することとなる.図 5 に圧力センサの装
着ポイントを示す.圧力センサが出力した信号は
センサインターフェース (PCD330B–F,共和電
業) を経由し,サンプリング周波数 200 Hz で PC
に記録した.
足底と足背のどちらが流体力に大きな影響を
与えているかを検討するため,対にして計測した
足底側の圧力値と足背側の圧力値の差を対応の
ない t 検定を用いて比較した.なお,足底の圧力
値がより高い値,足背の圧力値がより低い値とな
るときに足底と足背の圧力差が増大するため,各
計測ポイントにおける圧力の絶対値を用いて比
較した.
p2 d2
p3 d3
p4 d4
*
**
3
足底平均値
2
足背平均値
*: p < 0.05
**: p < 0.01
1
0
p1 d1
p2 d2
p3 d3
p4 d4
図 6 各ポイントにおける圧力値の絶対値
の圧力値の絶対値が足底の圧力値の絶対値と比
較して大きな値を示した.
3. 考察
平泳ぎのキック動作の場合,足底の圧力値が高
まるか,足背の圧力値が低下することで圧力差が
増大し,足部に働く流体力が増大する.本研究に
おいて,足底と足背の圧力値の絶対値を比較する
と,どの計測ポイントにおいても足背の絶対値が
足底の絶対値と比較して有意に大きな値を示し
た.この結果は,キック動作に伴い足底で水を押
したとき,押されて移動した水の塊の運動量(水
の塊の質量 × 速度)の反作用としての力が足底
に働き,これが推進力となるという従来の解釈で
は説明できない.なぜなら,反作用により足底の
圧力が上昇することは必然だが,足背側の圧力が
大きく低下する理由が説明できないからである.
PIV を用いた研究では,手部周りに生じる渦を伴
った非定常な流れは,手部の手背側に生じること
が確認されており(Takagi et al., 2013),手背側に
生じる非定常な流れが手部での流体力発揮に関
与していることが明らかとなった.本研究では,
平泳ぎキックの動作においても手部と同様に足
背側の圧力値が低下することが初めて確認され,
キック動作による流体力発揮に関与しているこ
とが推察された.PIV による流れの可視化は実施
していないため,どのような機序によって足背側
の圧力値が低下したかを明らかにすることはで
きないが,大きな流体力を発揮した対象者の動作
では足背側での圧力の低下を推進にうまく利用
していたと推察される.
【まとめ】
本研究では,平泳ぎにおいて重要とされるキッ
ク動作によって生じる流体力を評価するため,1)
圧力分布計測を用いた平泳ぎキック動作中の足
部に働く流体力推定法の妥当性を検証し,推定し
た流体力と泳パフォーマンスの関係を明らかに
すること 2) 平泳ぎキック動作中の足部周りの圧
力分布と流体力の関係を明らかにし,流体力が増
大する際の圧力分布の特徴を明らかにすること
の 2 点を解決することを目的とした.
研究課題 1 では,ロボットや実際の泳者を対象
とした検証実験を実施した.ロボットを用いた検
証実験では,足部模型に働く流体力をロードセル
によって計測し,模型表面の圧力分布から推定し
た流体力との比較を実施した.その結果,ロード
セルによって計測された流体力と圧力分布から
推定した流体力との間に有意な相関関係が認め
られ,流体力の変動は一致していた.しかしなが
ら,圧力分布から推定した流体力はロードセルに
よって計測された流体力と比較して低い値を示
し,流体力を過小評価していることが明らかとな
った.実際の泳者を対象とした検証実験では,試
技中に泳者が推進する際に身体に働く張力や,競
技会での自己最高記録時の泳速度と足部に働く
流体力との関係を調査した.その結果,推定した
流体力と張力や泳速度との間に有意な相関関係
が認められた.また,推定した流体力の合力と比
較して推進方向成分の方が高い相関関係を示し
た.これらのことから,本分析方法によって推定
した流体力の妥当性が確認され,泳動作の評価に
応用できることが確認された.
研究課題 2 では,足部に働く流体力の変動と足
部表面の圧力分布の変動の関係を分析した.その
結果,平泳ぎのキック動作によって水を蹴り出す
と,足底の圧力が高まるだけでなく,足背の圧力
が著しく低下して流体力が増大する現象が確認
された.流体中の物体表面の圧力は物体表面に速
い流れが生じると低下するため,平泳ぎのキック
動作では足背側に非定常な速い流れが生じ,流体
力の増大に関与していることが示唆された.
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